JP5052621B2 - 1液型歯面被覆材 - Google Patents
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Description
(1)リン酸、クエン酸、マレイン酸等の酸の水溶液(エッチング処理剤)を歯質表面
に塗布して、硬い歯質(主にエナメル質)をエッチングする、
(2)エッチング処理後、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)等の両親媒性モノ
マー及び有機溶媒などを主成分とする液(浸透促進剤、プライマーとも呼ばれ
る)を塗布して、歯質(象牙質)の中へ浸透促進剤を浸透させる、
を施すことが知られている。
即ち、多価イオン溶出性フィラーを、酸性基含有重合性単量体及び他の成分と混合してワンパッケージの状態で保存するとゲル化が生じやすい。このために、上記光硬化性組成物では、酸性基含有重合性単量体を含む液と該多価イオン溶出性フィラーを含む液との2液に分割し、ツーパッケージの形態で保存しておかなければならなかった。このようなツーパッケージの形態では、歯科医師が臨床に使用する直前にその場でかかる2液を混合して使用しなければならず、歯科医師等にとって極めて煩雑な作業であり、また混合操作や混合時間など、混合条件には操作者によりある程度のばらつきは避けられず、習熟度を要する等の問題を引き起こしていた。
(A)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含む重合性単量体成分;
(B)多価金属イオン;
(C)揮発性の水溶性有機溶媒;
(D)水;
(E)有効量の光重合開始剤;
を含有しており、
前記多価金属イオン(B)は、前記重合性単量体成分(A)1g当り1.0〜7.0meqとなるような量で存在し、
前記水溶性有機溶媒(C)は、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り30〜150質量部の範囲で且つ下記式(1):
α≧20・X …(1)
式中、αは、前記水溶性有機溶媒(C)の前記重合性単量体成分(A)100質量
部当りの配合量であり、
Xは、前記多価金属イオンの量であって、前記重合性単量体成分(A)1g当
りの量(meq)を示す数である、
で表される条件を満足するような量で配合され、
前記水(D)は、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り3〜30質量部の量で配合されていることを特徴とする1液型歯面被覆材が提供される。
(1)前記多価金属イオン(B)は、多価金属イオン溶出性フィラーからの溶出により存在していること、
(2)さらに着色剤(F)を含有していること、
請求項1に記載の1液型歯面被覆材。
(3)前記重合性単量体成分(A)中の酸性基含有重合性単量体が、リン酸基を含有する重合性単量体であること、
(4)前記多価金属イオン溶出性フィラーは、該フィラー0.1gを10重量%マレイン酸水溶液10mlに加えて23℃で24時間保持したときの多価金属イオン溶出量が、5.0〜500meq/g−フィラーを示すものであること、
が好適である。
即ち、本発明の歯面被覆材は、酸性基含有重合性単量体を含有しており、優れたプライマー機能を示し、しかも保存安定性が良好であり、ゲル化が有効に抑制されている。従って、象牙細管の奥深くまで浸透する。しかも、エアブローによって有機溶剤が除去され、多価金属イオン濃度が高められイオン架橋が十分に形成され、粘度が急激に増大した状態で光が照射されて重合硬化が行われる。この結果、このような増粘が重合効率を大幅に高めることとなり、象牙細管の深部においても非常に強固に固化した硬化物が形成され、優れた象牙細管封鎖性が得られるものと考えられる。
本発明において、重合性単量体成分(A)(以下、単に「単量体成分」と呼ぶ)は、重合硬化して歯面に対する接着性を付与するために使用される成分であるが、歯質に対するエッチング処理能(歯質脱灰性)や象牙質に対する浸透性を発現させるため、少なくとも重合性単量体成分(A)中の5質量%以上は、酸性基含有重合体(A1)であることが必要である。即ち、酸性基含有重合体(A1)の量が少ない場合には、この歯面被覆材は、歯質に対して十分なエッチング処理能を示さないため、歯質に対して十分な接着強度を確保するためには歯質の前処理が必要となってしまうからである。
本発明において、酸性基含有重合性単量体(A1)は、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を持つ化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。
このような単量体(A1)が分子中に有している酸性基としては次に示すようなものを挙げることができる。
単量体(A1)と併用され得る酸性基を含有していない重合性単量体(A2)は、酸性基を含有しておらず且つ分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基を有しているという条件を満足している限り、公知の化合物を何等制限無く使用できる。かかる重合性単量体が有している重合性不飽和基としては、前述した単量体(A1)で例示したものと同様のものを挙げることができるが、特にアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基が好ましい。
メチル(メタ)アクリレート、
エチル(メタ)アクリレート、
グリシジル(メタ)アクリレート、
2−シアノメチル(メタ)アクリレート、
ベンジル(メタ)アクリレート、
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、
アリル(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、
グリシジル(メタ)アクリレート、
3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、
グリセリルモノ(メタ)アクリレート、
2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート等。
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、
2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェ
ニル}プロパン、
1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、
1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、
ウレタン(メタ)アクリレート、
エポキシ(メタ)アクリレート等。
本発明の歯面被覆材は、成分(B)として多価金属イオンを含有していることが重要である。即ち、多価金属イオンは、酸性基含有重合性単量体(A1)(或いはその重合物)にイオン架橋を導入するものであり、このようなイオン架橋と重合硬化との相乗効果により、硬化膜の歯質(エナメル質及び象牙質)に対する高い接着強度が得られるばかりか、耐水性や耐摩耗性などの膜特性を確保し、長期間にわたって高い接着強度が確保されるばかりか、優れた耐久性、表面の滑沢性(審美性)も長期間維持され、さらには、象牙細管封鎖性も高められる。
アルミニウムトリイソプロポキシド
マグネシウムヒドロキシド
カルシウムヒドロキシド
バリウムヒドロキシド
ランタントリイソプロポキシド
スカンジウムトリイソプロポキシド
イッテルビウムトリイソプロポキシド
クロミウムトリイソプロポキシド
チタニウムテトライソプロポキシド
ジルコニウムテトライソプロポキシド
鉄(III)エトキシド
銅(II)エトキシド
亜鉛ビス(2−メトキシエトキシド)
多価金属の水溶性塩:
サリチル酸アルミニウム
塩化アルミニウム
多価金属の水溶性水酸化物:
水酸化アルミニウム
水酸化カルシウム
水酸化ランタン
水酸化マグネシウム
水酸化バリウム
多価金属の水溶性酸化物:
酸化アルミニウム
多価金属の錯塩:
バナジウム(III)テトラキスアセチルアセトナト
マンガン(III)テトラキスアセチルアセトナト
コバルト(III)テトラキスアセチルアセトナト
ニッケル(II)テトラキスアセチルアセトナト
珪素;10〜33%、特に15〜25%
アルミニウム;4〜30%、特に7〜20%
アルカリ土類金属;5〜36%、特に8〜28%
アルカリ金属;0〜10%、特に0〜10%
リン;0.2〜16%、特に0.5〜8%
フッ素;2〜40%、特に4〜40%
酸素;残量
本発明においては、上述した量で存在する多価金属イオン(B)に由来するゲル化を防止し、保存安定性を向上させるために、揮発性の水溶性有機溶媒(C)を使用する。即ち、この水溶性有機溶媒(C)によって、溶出する多価金属イオンを特定の濃度に希釈することにより、歯面被覆材を、全ての成分が配合された1液状態(即ち、ワンパッケージの形態)で保存することが可能となるのである。
α≧20・X …(I)
式中、αは、前記水溶性有機溶媒(C)の前記重合性単量体成分(A)100質量
部当りの配合量であり、
Xは、前記多価金属イオンの量であって、前記重合性単量体成分(A)1g当
りの量(meq)を示す数である、
で表される条件を満足するような量で配合されていることが必要である。即ち、水溶性有機溶媒(C)の配合量が30質量部未満では、この歯面被覆材の歯質への浸透性が低下し、十分な接着力が得られなくなり、その配合量が150質量部を越えると、過度のエアブローをしなければ有機溶媒が歯面に残留するようになり十分な接着力が得られなくなるばかりか、接着成分の濃度が希薄となっている為、エアブロー処理後に歯質表面に残る有効成分(硬化成分)が不足しがちとなり、接着強度や耐水性が低下する。
α≧25・X …(II)
式中、α及びXは、式(I)で示した通りである、
を満足しているのがよい。
本発明において、成分(D)の水は、各種成分を均一に分散させるための溶媒としての機能を有すると同時に、歯質の脱灰や、酸性基含有重合性単量体(A1)と多価金属イオン(B)とのイオン架橋の促進の為に必要である。この水は、貯蔵安定性及び医療用成分に有害な不純物を実質的に含まない蒸留水や脱イオン水が好適に使用される。
本発明の歯面被覆材に配合させる光重合開始剤(E)としては、そのもの自身が光照射によって分解しラジカル種を生成する化合物や、このような化合物に重合促進剤を加えた混合物が使用される。
カンファーキノン
ベンジル
α−ナフチル
アセトナフテン
ナフトキノン
1,4−フェナントレンキノン
3,4−フェナントレンキノン
9,10−フェナントレンキノン
チオキサントン類;
2,4−ジエチルチオキサントン
α−アミノアセトフェノン類;
2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1
2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1
2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−
プロパノン−1
2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−
プロパノン−1
2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−
ペンタノン−1
2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−
ペンタノン
アシルフォスフィンオキシド誘導体;
2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド
ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド
N,N−ジメチルアニリン
N,N−ジエチルアニリン
N,N−ジ−n−ブチルアニリン
N,N−ジベンジルアニリン
N,N−ジメチル−p−トルイジン
N,N−ジエチル−p−トルイジン
N,N−ジメチル−m−トルイジン
p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン
m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン
p−ジメチルアミノベンズアルデヒド
p−ジメチルアミノアセトフェノン
p−ジメチルアミノ安息香酸
p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル
N,N−ジメチルアンスラニックアシッドメチルエステル
N,N−ジヒドロキシエチルアニリン
N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン
p−ジメチルアミノフェネチルアルコール
p−ジメチルアミノスチルベン
N,N−ジメチル−3,5−キシリジン
4−ジメチルアミノピリジン
N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン
N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン
トリブチルアミン
トリプロピルアミン
トリエチルアミン
N−メチルジエタノールアミン
N−エチルジエタノールアミン
N,N−ジメチルヘキシルアミン
N,N−ジメチルドデシルアミン
N,N−ジメチルステアリルアミン
N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート
2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール
バルビツール酸類;
5−ブチルバルビツール酸
1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸
メルカプト化合物;
ドデシルメルカプタン
ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)
本発明の歯面被覆材には、硬化後の被覆層の審美性を高めることを目的で着色剤(F)を添加することが可能である。着色剤を配合することにより、得られる硬化膜の色調を調整することができる。このような着色剤としては、それ自体公知の染料或いは顔料を使用することができる。
本発明の歯面被覆材においては、上述した各種成分以外にも、それ自体公知の各種配合剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
シランカップリング剤;
メチルトリメトキシシラン
メチルトリエトキシシラン
メチルトリクロロシラン
ジメチルジクロロシラン
トリメチルクロロシラン
ビニルトリメトキシシラン
ビニルトリエトキシシラン
ビニルトリクロロシラン
ビニルトリアセトキシシラン
ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン
γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン
γ−クロロプロピルトリメトキシシラン
γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン
β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン
ヘキサメチルジシラザン
PM:
2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
MDP:
10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
[酸性基を含有しない重合性単量体(A2)]
D26E:
2,2−ビス(4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル)プロパン
BisGMA:
2,2‘−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
3G:
トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:
2−ヒドロキシエチルメタクリレート
多価金属イオン溶出性フィラー
F−1:製造例1で得た多価金属イオン溶出性フィラー
平均粒径;0.5μm、
24時間溶出イオン量;10 meq/g−フィラー
F−2:製造例2で得た多価金属イオン溶出性フィラー
平均粒径:0.5μm
24時間溶出イオン量;25 meq/g−フィラー
F−3:製造例3で得た多価金属イオン溶出性フィラー
平均粒径;0.5μm
24時間溶出イオン量;50 meq/g−フィラー
多価金属化合物
Al(O−iPr)3: アルミニウムトリイソプロポキシド
La(O−iPr)3: ランタニウムトリイソプロポキシド
Ti(O−iPr)4: チタニウムテトライソプロポキシト゛
La(OH)3 : 水酸化ランタン
Et−OH:エチルアルコール
IPA:イソプロピルアルコール
CQ:カンファーキノン
DMBE:N,N−ジメチル−p−アミノ安息香酸エチル
TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド
FCB:フタロシアニンブルー
TW:チタンホワイト
Si−Ti:
γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで疎水化処理した球状シリカ−チタニア
Si−1:
メチルトリクロロシラン処理した非晶質シリカ(粒径0.02μm)
Si−2:
球状シリカ−ジルコニア(粒径0.4μm)と球状シリカ−チタニア(粒径0.08μm)との質量比70:30の混合物
(球状シリカ−ジルコニア及び球状シリカ−チタニアの何れもγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにより疎水化処理)
試験片の作製:
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、注水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次に、削り出されて露出した平面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥して歯のモデルを作製した。
上記モデルの平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで直径8mmの大きさの孔の開いたパラフィンワックス(厚さ0.5mm、)を、両面テープの孔とワックスの孔とが同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。
上記の模擬窩洞内に、試料の歯面被覆材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。
次に可視光線照射器(パワーライト、トクヤマデンタル社製)にて10秒間光照射し、歯面被覆材を硬化させた。
更にその上に歯科用コンポジットレジン(パルフィークエステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、上記の可視光線照射器を用いて30秒間光照射して、接着試験片を作製した。
接着強度の測定:
上記接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、歯牙とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強度を上記方法で測定し、その平均値を初期接着強度とした。
試料となる歯面被覆材を調製し、次いで37℃のインキュベーター内で1ヶ月間保存した後、この歯面被覆材を用いて、上記した接着強度測定方法と同様の方法を用いて接着強度を測定し、37℃保存前の接着強度と比較した。
硬化体の作製;
ポリテトラフルオロエチレン製型枠に、圧縮空気を吹き付けて揮発性有機溶媒を揮発させた歯面被覆材を充填し、この歯面被覆材の一方の面にポリプロピレンフィルムを圧接し、歯面被覆材の全体に光が当たるように場所を変えながら、30秒×3回、トクソーパワーライトをポリプロピレンに密着させて光照射を行なった。ついで、歯面被覆材の反対の面にも同様にポリプロピレンを圧接し、同様にして30秒×3回光照射して、試験片となる硬化体を得た。
曲げ強度の評価;
上記の硬化体を37℃水中下24時間浸漬した後、#800の耐水研磨紙にて、硬化体を2×2×25mmの角柱状に整え、この試験片を試験機(島津製作所製、オートグラフAG5000D)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ強度を測定した。1試験当り、5本の3点曲げ強度を測定し、その平均値を初期曲げ強度とした。
耐水性の評価;
上記方法により作製した3点曲げ強度測定用の試験片を37℃水中下1ヶ月間放置した後に、同様の方法により3点曲げ強度を測定し、初期曲げ強度と比較して耐水性を評価した。
試験片の作製;
接着強度測定の測定と同様にして歯のモデルを作製した。
次いで、上記モデルの削り出された平面全体に試料の歯面被覆材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。
次に、可視光線照射器(パワーライト、トクヤマデンタル社製)にて10秒間光照射し歯面被覆材を硬化させた。形成された硬化膜表面をさっと拭き取って、硬化膜表面に形成される未重合層を取り除き、試験片を得た。
滑沢維持性の評価;
該硬化膜表面の滑沢性を以下に示す評価基準により評価を行なった。
〇:硬化膜表面に光沢が確認できる。
×:硬化膜表面に光沢がなく、曇ったような表面が確認できる。ひどいものでは、
歯面被覆材が十分硬化しておらず表面がべちゃべちゃした状態のものもある
。
また、各試験片を37℃水中下1ヶ月間放置後に硬化膜表面の滑沢性を評価し、水中放置前の滑沢性と比較した。
圧縮空気を吹き付けて揮発性有機溶媒を揮発させた歯面被覆材を、直径6mmの円柱状の穴を開けたポリテトラフルオロエチレン(厚さ0.5mm)の型に流し込んだ後、該歯面被覆材表面の赤外吸収(IR)スペクトルを赤外分光分析装置(Perkin
Elmer社製「Spectrum One」)を用いて、1回反射(ATR)法により測定した。
次に、上記歯面被覆材の表面に、30秒間、全体に光が当たるように可視光線照射器にて光照射して硬化体を得た。
硬化体表面のIRスペクトルを前記と同様の方法で測定し、硬化前及び硬化後(硬化体)のIRスペクトルから、硬化体表面の重合率を以下の式より算出した。
重合率%=100−(Pcc・Qco/Pco)・100
式中、Pccは、硬化体のC=Cピーク強度であり、
Pcoは、硬化体のC=Oピーク強度であり、
Qcoは、硬化前の被覆材のC=Oピーク強度である。
各成分を混合して試料の歯面被覆材を調製した後、24時間攪拌して歯面た後、100mlのサンプル管に該被覆材0.2gを計り取り、イソプロパノール(IPA)を用いて1%に希釈した。
この希釈液をICP(誘導結合型プラズマ)発光分光分析を用いて、重合性単量体成分(A)1g当りに含まれるAl、La、Caイオン濃度(mmol/g)を測定した。得られた各イオン濃度にそれぞれのイオン価数をかけた値の総和を計算することで、(A)成分1gに対するイオン結合量、即ち多価金属イオン量/meqを求めた。
なお、本実施例及び比較例で使用したフィラーから溶出する多価金属イオンは、上記したAl、La、Caイオン以外のものは検出されなかった。
試験片の作製;
接着強度の測定と同様にして、象牙質が表面に露出した歯のモデルを作製した。
このモデルの象牙質平面の全面に、試料の歯面被覆材を塗布し、可視光線照射器を用いて10秒間光照射して歯面被覆材の硬化膜を形成した。
このように硬化膜が形成されたモデル表面の半分に、歯科用コンポジットレジン(エステライトLVハイフロー、トクヤマデンタル社製)を塗布し、上記の可視光線照射器を用いて30秒間光照射して、厚みが約100μmのコンポジットレジン層を形成し、これを試験片とした。この試験片の概略断面を図1に示す。
摩耗試験;
次いで、溶媒として水を含む歯磨き剤(ホワイト&ホワイト ライオン社製)を歯科用タービンに装着された歯ブラシ(ロビンソンブラシ)に付け、図1に示すようにして試験片の表面を、該歯ブラシで、荷重400gで10000回、摩耗処理を行った。
摩耗処理後の試験片の処理面の全体にコンポジットレジンを築盛し、硬化させた。
次いで、ダイヤモンドカッターを用い、この試験片を、摩耗処理面に対して垂直に切断し、この切断面を鏡面研磨処理してレーザ顕微鏡で観察した。
この顕微鏡観察により、処理面の半分に形成されているコンポジットレジン層の上面から歯面被覆材の硬化膜の表面までの段差を測定し、この段差の大きさで耐摩耗性(耐久性)を評価した。即ち、この段差が小さいほど、硬化膜の耐摩耗性が高く、耐久性に優れていることを示す。
知覚過敏症モデルの作製;
新鮮牛歯を600♯耐水研磨紙を用いて研磨して象牙質を露出させた。次いで、露出した象牙質表面を、歯科用タービンに装着されたロビンソンブラシと歯磨き剤を用いて3分間、清掃研磨した。このように処理された牛歯を、超音波洗浄器を用いて1時間洗浄し、知覚過敏症モデルを作製した。
この知覚過敏症モデルの象牙質表面の顕微鏡写真を図2に示す。
図2の顕微鏡写真に示されているように、この象牙質表面には、多数の象牙細管が露出しており、その開放率は約80%であった。
封鎖性の評価;
上記で作製された知覚過敏症モデルの象牙質表面に試料の歯面被覆材を塗布し、可視光線照射器を用いて10秒間光照射して歯面被覆材の硬化膜を形成した。
このように硬化膜が形成されたモデルの処理面の全体にコンポジットレジンを築盛し、硬化させた後、ダイヤモンドカッターを用いて象牙質面に対して垂直に切断し、この切断面を鏡面研磨処理した。
次いで、上記のモデルを6Nの塩酸溶液に30秒間浸漬し、さらに1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に10分間浸漬し、象牙質の表面側を溶解させた。乾燥後、切断面をSEM観察し、象牙細管の封鎖性を評価した。即ち、歯面被覆材が象牙細管内に奥深く浸透し、奥深く浸透した部分でも良好に硬化している場合には、象牙質が溶解した面に、樹脂のタグが多く形成されており、このタグの有無により、象牙細管の封鎖性を評価できる。
実施例3については、このSEM写真を図3に示した。また、タグが形成されていた場合には、適当に選んだタグ10本の長さ(象牙質平面からタグの先端までの長さ)を測定し、その平均値を比較した。
製造例1:
フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、その後粉末1gに対して、20gの5.0N塩酸でフィラー表面を40分間処理し、多価金属フィラー(F−1)を得た。
得られたフィラー0.1gを温度23℃、10重量%マレイン酸水溶液10ml中に浸漬した時の24時間後に溶出した多価金属イオンの量を分析した結果、10meq/g−フィラー(24時間溶出イオン量)であった。
フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、その後粉末1gに対して、20gの5.0N塩酸でフィラー表面を20分間処理し、多価金属フィラー(F−2)を得た。この多価金属フィラーの24時間溶出イオン量は25meq/g−フィラーであった。
フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、多価金属フィラー(F−3)を得た。この多価金属フィラーの24時間溶出イオン量は50meq/g−フィラーであった。
下記処方により、各成分を混合し、本発明の歯面被覆材を調製した。
(A1)成分: PM 1.5g
(A2)成分: D26E 5.0g
HEMA 3.5g
(B)成分: F−2 1.0g
(C)成分: アセトン 5.0g
(D)成分: 水 1.5g
(E)成分: CQ 0.1g
DMBE 0.15g
各成分の配合処方を表1或いは表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして歯面被覆材を調製し、その評価を行った。評価結果は、表3及び表4に示した。
各成分の配合処方を表5に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして歯面被覆材を調製し、その評価を行った。評価結果は、表6に示した。
また、比較例7の歯面被覆材は、多価金属イオン(B)の量が本発明の規定値より多く、この場合には、歯質脱灰力が低下すると供に、1液で保存可能とする為には(C)揮発性の水溶性有機溶媒の必要量を多くしなければならず、その結果、エアブロー処理後に硬化膜を形成するための有効成分が不足して、歯質に対する接着強度、硬化体の耐水性、硬化体表面の重合率、および硬化体表面の滑沢維持性が大きく低下した。
また、比較例10の歯面被覆材では、(D)水の配合量が、本発明の規定値より多く、エアブロー処理によって(C)揮発性の水溶性有機溶媒を揮発させても水が大量に塗布面に残存し、歯質に対する接着強度、硬化体の耐水性、硬化体表面の重合率、および硬化体表面の滑沢維持性が大きく低下した。
また、比較例13は、(D)揮発性の水溶性有機溶媒の配合量が、本発明の規定値より多く、エアブロー処理後に硬化膜を形成するための有効成分が不足しがちとなり、このため、歯質に対する接着強度、硬化体の耐水性、硬化体表面の重合率、および硬化体表面の滑沢維持性が大きく低下した。
イオン供給源として、多価金属イオン溶出性フィラー以外の多価金属イオン供給源を使用し、各成分の配合処方を表7に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして歯面被覆材を調製し、その評価を行った。評価結果は、表8に示した。
<実施例33〜64>
本発明の歯面被覆材を用いて、磨耗性及び象牙細管封鎖性を評価した。歯面被覆材は表1、表2、および表7に記載したものをそのまま使用した。評価結果を表9、10、11に示した。
表5に記載した歯面被覆材をそのまま用いて、磨耗性及び象牙細管封鎖性を評価した。評価結果を表12に示した。
また、比較例19の歯面被覆材は、多価金属イオン(B)の量が本発明の規定値より多く、この場合には、歯質脱灰力が低下すると供に、1液で保存可能とする為には(C)揮発性の水溶性有機溶媒の必要量を多くしなければならず、その結果、エアブロー処理後に硬化膜を形成するための有効成分が不足して、耐磨耗性及び象牙細管封鎖性が著しく低下している。
また、比較例22の歯面被覆材では、(D)水の配合量が、本発明の規定値より多く、エアブロー処理によって(C)揮発性の水溶性有機溶媒を揮発させても水が大量に塗布面に残存し、硬化膜の耐磨耗性及び象牙細管封鎖性が著しく低下している。
また、比較例25は、(D)揮発性の水溶性有機溶媒の配合量が、本発明の規定値より多く、エアブロー処理後に硬化膜を形成するための有効成分が不足しがちとなり、このため、耐磨耗性及び象牙細管封鎖性が著しく低下している。
Claims (5)
- ワンパッケージで保存され且つ歯の表面に直接外面被覆を形成するために使用される1液型歯面被覆材において、
(A)酸性基含有重合性単量体を5質量%以上含む重合性単量体成分;
(B)多価金属イオン;
(C)揮発性の水溶性有機溶媒;
(D)水;
(E)有効量の光重合開始剤;
を含有しており、
前記多価金属イオン(B)は、前記重合性単量体成分(A)1g当り1.0〜7.0meqとなるような量で存在し、
前記水溶性有機溶媒(C)は、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り30〜150質量部の範囲で且つ下記式(1):
α≧20・X …(1)
式中、αは、前記水溶性有機溶媒(C)の前記重合性単量体成分(A)100質量
部当りの配合量であり、
Xは、前記多価金属イオンの量であって、前記重合性単量体成分(A)1g当
りの量(meq)を示す数である、
で表される条件を満足するような量で配合され、
前記水(D)は、前記重合性単量体成分(A)100質量部当り3〜30質量部の量で配合されていることを特徴とする1液型歯面被覆材。 - 前記多価金属イオン(B)は、多価金属イオン溶出性フィラーからの溶出により存在している請求項1に記載の1液型歯面被覆材。
- さらに着色剤(F)を含有している請求項1に記載の1液型歯面被覆材。
- 前記重合性単量体成分(A)中の酸性基含有重合性単量体が、リン酸基を含有する重合性単量体である請求項1に記載の1液型歯面被覆材。
- 前記多価金属イオン溶出性フィラーは、該フィラー0.1gを10重量%マレイン酸水溶液10mlに加えて23℃で24時間保持したときの多価金属イオン溶出量が、5.0〜500meq/g−フィラーを示すものである請求項2に記載の1液型歯面被覆材。
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