JP7350248B2 - 有機無機複合フィラーの製造方法、および歯科用硬化性組成物の製造方法 - Google Patents

有機無機複合フィラーの製造方法、および歯科用硬化性組成物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、新規な有機無機複合フィラーの製造方法に関する。詳しくは、重合性単量体と組み合わせて使用することにより、得られた硬化体が優れた機械的特性を発揮できる、新規な有機無機複合フィラーの製造方法に関する。

無機粒子は、ベース樹脂と混合して得られる物品、あるいはベース樹脂を形成する重合性単量体と混合した硬化性組成物からなる物品等において、それら物品の機械的強度を高める働きをする。そして、混合する相手方、すなわち、該ベース樹脂、あるいは該重合性単量体における分散性向上のため、様々な検討が行われている。
このような機械的強度が要求される物品として、歯科用材料がある。その中でも、歯科用複合修復材においては、特に高い機械的強度が求められている。歯科用複合修復材料は、歯科用硬化性組成物の代表的存在である。例えば、歯科医院においては、歯科用複合修復材料は、修復すべき歯牙の窩洞に充填され、歯牙の形に成形された後、専用の光照射器を用いて活性光が照射されて重合硬化させられる。これにより、損傷を受けている歯牙が修復される。
歯科技工所内においては、歯科用複合修復材料は、石膏模型上で修復すべき歯牙の形に築盛された後、光照射により重合硬化させられ、これは歯科医院において歯科用接着剤を用いて歯質に接着させられる。これにより、損傷を受けている歯牙が修復される。
歯科用複合修復材料は、天然歯牙と同等の色調が付与可能である点や、操作性が良い点で優れている。その結果、歯科用複合修復材料は近年急速に普及しており、現在は前歯の治療の大部分において適用されるに至っている。さらに、歯科用複合修復材料は、機械的強度がかなり高い歯科用複合修復材料も開発されており、強い咬合圧が付加される臼歯部の修復にも、歯科用複合修復材料は適用され始めている。
以上の通り、歯科用修復材料は、歯と同等の機械的強度が求められており、様々な検討かなされている。歯科用複合修復材料は、一般に、重合性単量体(モノマー)、フィラー、及び重合開始剤を主成分として構成される。歯科用複合修復材料は、使用するフィラーの種類、形状、粒子径、及び充填量等が選定されて構成される。これらが適切に選定されることにより、ペースト状の歯科用複合修復材料の操作性、及び硬化体の審美性、機械的強度等の諸性状が最適に調整されている。
重合性単量体、およびフィラーを含む歯科用硬化性組成物において、無機粒子の表面に、重合性単量体を硬化して得られる有機樹脂層(重合硬化物層)を被覆した有機無機複合フィラーを使用することが数多く検討されている。その理由としては、以下の通りである。つまり、該重合硬化物層を表面に有する有機無機複合フィラーは、重合性単量体との親和性が良好である。その結果、該硬化体の機械的強度を向上できることが理由である(例えば、特許文献1、2、および3参照)。これら特許文献によれば、この有機無機複合フィラーを用いることにより、微細無機粒子を用いる場合の優れた表面滑沢性や耐磨耗性を維持しながら、優れた操作性のペースト状複合修復材料を得ることができ、更に硬化体の重合収縮も少ないことが分かる。
この有機無機複合フィラーは、前記の通り、微細な無機粒子の表面を重合硬化物層で被覆したものである。そして、該有機無機複合フィラーは、前記微細な無機粒子と比較して、表面積が小さい。そのため、増粘作用を発現させることなく、この有機無機複合フィラーの十分量を配合して、ペースト状の複合修復材料を製造することもできる。
上記有機無機複合フィラーの製造方法としては、微細無機粒子と重合性単量体とを予め混練した硬化性組成物を重合させて硬化体を得、次いで前記硬化体を粉砕する方法が一般的である(特許文献1参照)。また、微細無機粒子と重合性単量体とを混合する際に、有機溶媒を使用することも示されている。有機溶剤を使用することにより、無機粒子中に重合性単量体を多く導入することができる(特許文献2参照)。そして、該有機溶媒を留去した後、重合性単量体を硬化して重合硬化物層を形成することにより、該重合硬化物層から形成された細孔を有する有機無機複合フィラーを製造することができる(特許文献3参照)。通常、これら微細無機粒子の表面を被覆した重合性単量体は、充分に重合が進行する(未重合物が残存しない)条件にて重合硬化を行うことが一般的である。
特開2000-80013号公報 特開2008-37952号公報 国際公開第WO2011/115007号パンフレット
上記従来の方法で得られる、有機無機複合フィラーを配合する歯科用複合修復材料の機械的強度は、相当に高い。しかしながら、近年、材料の高強度化が多くの用途で求められており、有機無機複合フィラーを配合した樹脂において、該有機無機複合フィラーの改良に伴う強度改善も必要とされている。特に、歯科材料においては、高強度の材料にはフィラーが含まれる場合が多く、従来技術よりも、より一層高強度の材料にすることができる有機無機複合フィラーの開発が望まれていた。
したがって、本発明の目的は、強度向上の目的で使用できる有機無機複合フィラーにおいて、より一層、高強度の材質とすることができる新規な有機無機複合フィラーを提供することにある。
本発明者等は、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。その結果、有機無機複合フィラーにおいて、無機粒子を被覆する重合硬化物層に一定量の未重合物を残存させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)無機粒子:100質量部及び重合性単量体が重合してなる重合硬化物層:1~40質量部を含有し、前記無機粒子の表面が前記重合硬化物層で被覆されてなる有機無機複合フィラーであって、前記重合硬化物層が、前記重合性単量体の未重合物を0.1質量%以上5.0質量%以下含む、有機無機複合フィラーを製造する方法であって、
平均粒子径10~1000nmの球状又は略球状のシリカ系複合酸化物粒子からなる無機一次粒子が凝集した凝集粒子からなる前記無機粒子を準備する工程、
有機溶媒:100質量部、ラジカル重合性基を有し、当該有機溶媒に可溶な(メタ)アクリル系重合性単量体からなる前記重合性単量体:3~70質量部、及び重合開始剤:有効量、を含む重合性単量体溶液を準備する工程、
前記凝集粒子からなる前記無機粒子を前記重合性単量体溶液に浸漬した後に、前記有機溶媒を除去して、前記無機粒子100質量部に対して1~40質量部の前記重合性単量体を前記無機粒子の表面に付着させる重合性単量体付着工程、及び
前記重合性単量体付着工程で前記無機粒子の表面に付着した前記重合性単量体を重合させて前記無機粒子の表面を前記重合性単量体が重合してなる重合硬化物層で被覆する重合工程を含み、
前記重合硬化物層全体の質量を基準とする前記重合性単量体の未重合物の濃度(質量%)を未重合単量体含有率と定義したときに、
前記重合工程において、重合時間以外の条件を予め定めた一定の条件として重合時間のみを変えて重合を行った場合における重合時間と前記未重合単量体有率との関係、又は前記重合工程において、重合温度以外の条件を予め定めた一定の条件として重合温度のみを変えて重合を行った場合における重合温度と前記未重合単量体含有率との関係を予め別途確認し、確認された何れか一方の関係に基づいて、前記重合工程で得られる重合硬化物層中に含まれる前記重合性単量体の未重合物のが、前記未重合単量体有率で表して、0.1質量%以上5.0質量%以下の範囲となる条件を決定し、決定された条件で前記重合性単量体付着工程及び/又は前記重合工程を行うことを特徴とする有機無機複合フィラーの製造方法である。


本発明は、以下の態様をとることができる。
(2)前記凝集粒子として水銀圧入法で測定する細孔容積が0.015~0.35cm /gの凝集間隙が形成された凝集粒子を準備し、前記重合工程において、前記凝集粒子における各無機一次粒子の少なくとも一部の表面を被覆して各無機一次粒子を相互に結合する重合硬化物層を形成すると共に、該重合硬化物層間に水銀圧入法で測定した細孔容積(ここで、細孔とは細孔径が1~500nmの範囲の孔をいう)が0.01~0.30cm /gである凝集隙間を形成する、前記(1)の有機無機複合フィラーの製造方法

(3)前記(1)又は(2)の有機無機複合フィラーの製造方法により有機無機複合フィラーを得る工程、及び前記工程で得られた有機無機複合フィラー:100質量部と、(メタ)アクリル系重合性単量体:10~100質量部を混合する工程を含んでなることを特徴とする歯科用硬化性組成物の製造方法。

これに対して、本発明の有機無機複合フィラーの製造方法で得られる有機無機複合フィラー(以下、「本発明の有機無機複合フィラー」ともいう。)は、表面に存在する重合硬化物層中に特定量の未重合物を残存させることを特徴としている。そして、あくまでも推定であるが、無機粒子を被覆する重合硬化物層中に含有される未重合物と、硬化性組成物の重合性単量体とが密になじみ、該硬化性組成物を硬化することにより、有機無機複合フィラーが重合性単量体からなる有機樹脂成分(該硬化性組成物における重合性単量体が重合硬化してなる有機樹脂成分)と強く結合することができると考えられる。その結果、本発明の有機無機複合フィラー、およびさらに重合性単量体を含む硬化性組成物を硬化して得られる硬化体は、機械的強度が向上するものと推察される。

そのため、本発明の有機無機複合フィラーは、歯科用材料だけでなく、様々な分野における充填剤として使用可能である。
図1は、本発明の好適な有機無機複合フィラーの代表的な態様を示す断面概略図である。
本発明は、本発明の有機無機複合フィラー、すなわち無機粒子の表面を、重合性単量体が重合してなる重合硬化物層で被覆した有機無機複合フィラーであって、該重合硬化物層が、該重合性単量体の未重合物を0.1質量%以上5.0質量%以下含むことを特徴とする有機無機複合フィラー、を製造する方法である。そこで、本発明の製造方法の目的物となる有機無機複合フィラーについて説明した上で本発明の製造方法について説明する。

<有機無機複合フィラー>
本発明の有機無機複合フィラーは、無機粒子の表面が重合硬化物層で被覆されており、該重合硬化物層中に、未重合物を特定量含むことを特徴とする。該重合硬化物層は、未重合物を特定量含んでいれば、その製造方法は特に制限されるものではない。例えば、予め重合性単量体を重合硬化して得られる重合硬化物に未重合物を加え、得られた混合物を無機粒子表面に被覆する方法を採用することができる。また、無機粒子の表面に、重合硬化物層を形成できる重合性単量体を被覆(吸着)させた後、該重合性単量体の重合率を制御することにより、得られる重合硬化物層中に特定量の未重合物を含有させることもできる。中でも、操作性、得られる有機無機複合フィラーの効果を考慮すると、重合性単量体を使用して重合率を制御する方法を採用することが好ましい。
<無機粒子;有機無機複合フィラーを構成する無機粒子>
本発明において、有機無機複合フィラーを形成する無機粒子の材質は、特に制限がなく、従来から一般的にフィラーとして使用されているものは、何れも用いることができる。具体的には、周期律第I、II、III、IV族、遷移金属から選ばれる金属の単体;これらの金属の酸化物や複合酸化物;これら金属のフッ化物、炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、水酸化物、塩化物、亜硫酸塩、燐酸塩等からなる金属塩;これらの金属塩の複合物等が挙げられる。好適には、非晶質シリカ、石英、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウム等の金属酸化物;シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニア等のシリカ系複合酸化物、ホウ珪酸ガラス、アルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等のガラス;フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム等の金属フッ化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の無機炭酸塩;硫酸マグネシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩等が挙げられる。
前記材質からなる無機粒子は、シランカップリング剤等の疎水化剤を用いて表面改質(表面処理)が行われていてもよい。疎水化剤としては従来公知のものが何ら制限なく使用される。好適な疎水化剤を例示すれば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル-トリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、κ-メタクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピル-トリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピル-トリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピル-トリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤などが挙げられる。
無機粒子の疎水化に用いる疎水化剤の使用量に特に制限はなく、得られる有機無機複合フィラーの機械的物性等を予め実験で確認したうえで、最適値を決定すれば良い。好適な疎水化剤の使用量を例示すれば、無機粒子100質量部に対して、上記疎水化剤1~30質量部である。
表面処理方法は特に限定されるものではなく、公知の方法が制限なく採用される。代表的な処理方法を例示すれば、無機粒子と疎水化剤とを、適当な溶媒中でボールミル等を用いて分散混合し、エバポレーターや風乾で溶媒を乾燥した後、50~150℃に加熱する方法がある。更に、無機粒子及び疎水化剤をアルコール等の溶剤中で数時間程度加熱還留する方法がある。更に、粒子表面に疎水化剤をグラフト重合させる方法等がある。
また、無機粒子は、平均粒子径、材質、形状が異なる、複数の無機粒子の混合物であっても良い。
前記無機粒子は、公知の如何なる方法により製造される無機粒子であっても良い。例えば、無機酸化物粒子や複合酸化物粒子等であれば、湿式法、乾式法、ゾルゲル法のいずれの方法で製造されたものであっても良い。形状が球状で、単分散性に優れる微細粒子を工業的に製造する上で有利である点、さらには屈折率の調整や、X線造影性を付与することが容易である点を考慮すると、無機粒子はゾルゲル法によって製造することが好ましい。
ゾルゲル法により球状のシリカ系複合酸化物粒子を製造する方法は、例えば特開昭58-110414号公報、特開昭58-151321号公報、特開昭58-156524号公報、特開昭58-156526号公報等に記載されており、公知である。この方法においては、先ず加水分解可能な有機ケイ素化合物、あるいはこれに更に加水分解可能な他の金属の有機化合物を加えた混合溶液を用意する。次に、これらの有機化合物は溶解するが、生成物である無機酸化物は実質的に溶解しないアルカリ性溶媒中に前記混合溶液を添加し、加水分解を行う。加水分解により、無機酸化物が析出するので、該析出物を濾別した後、析出物を乾燥する。この様な方法で得られる無機粒子は、表面安定性を付与するために、乾燥後500~1000℃の温度で焼成されても良い。焼成に際しては、無機粒子の一部が凝集する場合がある。この場合は、ジェットミル、振動ボールミル等を用いて凝集粒子を解きほぐし、更に粒度を所定範囲に調整してから、使用することが好ましい。この様に処理することにより、歯科用複合修復材料として使用する際の研磨性等が向上する。
本発明においては、以上のような無機粒子の表面に、重合硬化物層を形成する。そして、該重合硬化物層が、特定量の未重合物を含むことを特徴とする。
<有機無機複合フィラー;未重合物>
本発明の有機無機複合フィラーは、無機粒子(無機粒子)の表面が重合硬化物層により被覆されている。そして、該重合硬化物層に、未重合物が全重合硬化物層に対して0.1質量%以上5.0質量%以下含まれなければならない。前記のように、この未重合物は硬化性組成物に配合される重合性単量体と有機無機複合フィラー間のなじみを密にする。すなわち、有機無機複合フィラーと硬化性組成物間の結合が強固なものとなり、本発明の有機無機複合フィラーを配合した硬化性組成物の硬化体は、高い機械的強度を有するものになる。未重合物の量が0.1質量%未満となる場合には、有機無機複合フィラーと、重合性単量体からなる有機樹脂成分との結合強化はわずかであり、得られる硬化体の機械的強度は低下する。一方、未重合物の量が5質量%を超えると、有機無機複合フィラー自体が脆くなり、得られる硬化体の機械的強度が低下する。また、重合硬化物層による無機粒子の被覆が困難となり、有機無機複合フィラー自体の生産性が低下する。有機無機複合フィラー自体の生産性、得られる硬化体の機械的強度をより一層向上できるという点から、未重合物の量は、好ましくは0.2~4.0質量%である。
この未重合物は、無機粒子の表面を被覆する重合硬化物層中に含まれ、該重合硬化物層を形成する重合性単量体(重合硬化して重合硬化物層となる)の未重合物である。この未重合物の量は、以下のようにして測定できる。具体的には、有機無機複合フィラーの重合硬化物層を形成する重合性単量体を溶解できる有機溶媒に、該有機無機複合フィラーを分散させる。そして、該有機溶媒中に抽出された未重合物を高速液体クロマトグラフィーで分析する。高速液体クロマトグラフィーを用いて、予め、重合性単量体の検量線(質量とピーク面積との関係を求めておく)を作成しておけば、抽出された未重合物の実量が確認できる。また、重合硬化物層の全量は、製造時に使用した重合性単量体の全量と同じとなる。ただし、該重合性単量体の全量が不明な場合には、未重合物を抽出後の有機無機複合フィラー、又は未重合物を抽出していない有機無機複合フィラーの示唆熱-熱量同時測定を行い、質量減少量を確認すればよい。未重合物を抽出した有機無機複合フィラーの場合における質量減少量と、未重合物の量との合計量が、全重合硬化物層の量と同等となる。また、未重合物を抽出していない有機無機複合フィラーの質量減少量は、全重合硬化物層の量と同等となる。なお、本発明においては、実施例に示した方法で未重合物の量を求めた。
<重合硬化物層を形成する重合性単量体;有機無機複合フィラー>
本発明の有機無機複合フィラーにおいて、重合硬化物層は、該有機無機複合フィラーを使用する用途、および混合する重合性単量体に応じて、その種類(分子構造)を適宜決定すればよい。そのため、該重合硬化物層を形成する重合性単量体も、目的に応じて適宜選択すればよい。中でも、重合硬化物層を形成する重合性単量体は、有機溶媒に可溶なものを使用することが好ましい。
重合硬化物層を形成する重合性単量体としては、重合性基としてラジカル重合性基を有するものが好ましい。重合性基を1つ、あるいは2つ以上有する重合性単量体を使用することができる。そして、中でも、A;重合性基を1つ有する単官能性ビニルモノマー、B;重合性基を2つ有する二官能性ビニルモノマー、C;重合性基を3つ有する三官能性ビニルモノマー、およびD;重合性基を4つ有する四官能性ビニルモノマーから選ばれる重合性単量体を使用することが好ましい。
<A; 単官能性ビニルモノマー (重合硬化物層を形成する重合性単量体)>
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;あるいはアクリル酸、メタクリル酸、p-メタクリロイルオキシ安息香酸、N-2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル-N-フェニルグリシン、4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、及びその無水物、6-メタクリロイルオキシヘキサメチレンマロン酸、10-メタクリロイルオキシデカメチレンマロン酸、2-メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、10-メタクリロイルオキシデカメチレンジハイドロジェンフォスフェート、2-ヒドロキシエチルハイドロジェンフェニルフォスフォネート等。
<B; 二官能性ビニルモノマー(重合硬化物層を形成する重合性単量体)>
<B-1 芳香族化合物系のモノマー>
2,2-ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2(4-メタクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;
2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート、あるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等の-OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
<B-2 脂肪族化合物系のモノマー>
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;
2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等の-OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)等のジイソシアネート化合物との付加反応によって得られるジアダクト;
無水アクリル酸、無水メタクリル酸、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エチル、ジ(2-メタクリロイルオキシプロピル)フォスフェート等。
<C; 三官能性ビニルモノマー(重合硬化物層を形成する重合性単量体)>
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。
<D;四官能性ビニルモノマー(重合硬化物層を形成する重合性単量体)>
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート;
ジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネート等のジイソシアネート化合物と、グリシドールジメタクリレートとの付加反応によって得られるジアダクト等。
以上の(A)~(D)の重合性単用体は、単独で使用しても、異種を混合して使用してもよい。
<重合硬化物層を形成する重合性単量体の組み合わせ;組成物(重合性単量体溶液)>
上記モノマーの中でも、得られる重合体の機械的強度や生体安全性等が良好であることから、(メタ)アクリル系重合性単量体が好ましい。また、重合性の高さや硬化体の機械的物性が特に高くなる等の理由から、二官能以上、より好適には二官能~四官能の重合性単量体が好ましい。中でも、(B)二官能ビニルモノマー 100質量部に対して、(C)三官能ビニルモノマーを0~50質量部、(D)四官能ビニルモノマーを0~25質量部含む重合性単量体の組成物を使用することが好ましい。
重合硬化物層を形成する際において、無機粒子の表面に、重合性単量体を被覆(吸着)する方法を採用する場合、被覆に使用する該重合性単量体を含む組成物(又は、下記に詳述する重合性単量体溶液)は、重合開始剤を含むことが好ましい。重合開始剤は、特に制限されるものではなく、下記の<有機無機複合フィラーの製造方法>で例示した開始剤を使用することができる。さらに、該組成物(又は、下記に詳述する重合性単量体溶液)は、重合率を制御する目的で重合禁止剤を含むこともできる。重合禁止剤は公知の物質を使用できる。
<有機無機複合フィラーの平均粒径>
本発明において、有機無機複合フィラーの平均粒子径(粒度)は、1~100μmが好ましく、3~100μmがより好ましく、5~70μmがさらに好ましい。平均粒子径が1μm未満の場合は、歯科用硬化性組成物中に充填できるフィラーの充填率が低下する傾向にある。その結果、硬化物の機械的強度の低下や、歯科用硬化性組成物の粘着性が高くなり、歯牙治療の際の操作性が悪くなる傾向にある。一方、平均粒子径が100μmを越える場合は、歯科用硬化性組成物の流動性が低下する傾向にある。その結果、歯牙治療の際の操作性が悪くなる傾向にある。
なお、有機無機複合フィラーの平均粒径を1~100μmに調整するためには、使用する無機粒子の平均粒子径、該無機粒子の表面を被覆する重合性単量体(重合硬化物層)の量を調整してやればよい。特に、最終的に得られる有機無機複合フィラーの平均粒径が1~100μmを満足するように、無機粒子の平均粒子径を適宜選択することが好ましい。
なお、有機無機複合フィラーの平均粒子径は、レーザー回折―散乱法による粒度分布を基にして求めるメディアン径を示す。測定に供するサンプルは、0.1gの有機無機複合フィラーをエタノール10mlに均一に分散させて調製したものである。
<有機無機複合フィラーにおける重合硬化物層の量>
本発明において、重合硬化物層の量、すなわち、無機粒子の表面を被覆する重合硬化物層の全量(全重合硬化物層の量)は、重合性単量体と組み合わせた硬化性組成物から得られる硬化体がより優れた効果を発揮するためには、無機粒子100質量部に対して、1~40質量部であり、5~25質量部が好ましい。
なお、当然のことではあるが、前記全重合硬化物層の量は、未重合物の量を含むものである。
以上、有機無機複合フィラーについて説明したが、本発明の有機無機複合フィラーは、特に次の形状を有することが好ましい。この好適な有機無機複合フィラーについて説明する。
<好適な有機無機複合フィラー>
本発明の有機無機複合フィラーは、適当な細孔容積を有していることで更に硬化性組成物の強度が向上する。
即ち、
前記有機無機複合フィラー中の無機粒子が、平均粒子径10~1000nmの無機一次粒子が凝集してなる凝集粒子であって、
前記重合硬化物層が、各無機一次粒子の少なくとも一部の表面を被覆してなると共に、各無機一次粒子を相互に結合する層となり、
各無機一次粒子の少なくとも一部の表面を被覆する前記重合硬化物層の間に形成され、水銀圧入法で測定した細孔容積(ここで、細孔とは細孔径が1~500nmの範囲の孔をいう)が0.01~30cm/gである凝集隙間を有する前記の有機無機複合フィラーとなることが好ましい。
以上のような細孔を有する有機無機複合フィラーとすることにより、得られる硬化体の更なる機械的強度の向上をもたらすことができる。つまり、前記重合硬化物層の間に形成された細孔に、硬化性組成物の重合性単量体が毛細管現象により浸入して硬化することにより、アンカー効果が生じるものと考えられる。そして、有機無機複合フィラーは、該重合性単量体からなる有機樹脂成分と高い嵌合力で保持されるため、得られる硬化体の機械的強度がより一層向上するものと推察される。
前記好適な有機無機複合フィラーのこの様な特徴的細孔構造を、図1の粒子断面を示す概略図を用いて説明する。有機無機複合フィラー1は、平均粒子径10~1000nmの複数の無機一次粒子2の凝集体を有する。この複数の無機一次粒子2は、それぞれ少なくとも一部が重合硬化物層3により表面が覆われていると共に、これらの重合硬化物層3は互いに溶けあって一体化した状態で固化することにより、互いに強固に結合されている。そして、本発明においては、該重合硬化物層3が0.1質量%以上5質量%以下の未重合物を含むものである。
<好適な有機無機複合フィラーにおける細孔>
好適な有機無機複合フィラーにおいて、重合硬化物層3は、複数の無機一次粒子2が凝集して形成される間隙の全空間を埋めておらず、凝集間隙4が残存している。この凝集間隙4で形成される全ての細孔の中で、下記水銀圧入法による孔径1~500nmの範囲の細孔の容積の合計は、0.01~0.30cm/gで、好ましくは0.03~0.20cm/gである。
好適な有機無機複合フィラーにおいて、細孔径が500nm越える大きな細孔を有する場合には、このような大きな細孔径の細孔に対しては毛細管現象が十分作用し難い傾向にある。この場合は、硬化性組成物に含まれる重合性単量体が細孔内に十分に浸入できない傾向にあり、その結果アンカー効果が十分に作用しない傾向にある。或いは、細孔が巨大な場合には、重合性単量体が内部に充填されたとしても、空隙が残存し、その結果アンカー効果が十分に作用し難い傾向にある。好適な有機無機複合フィラーに、このような大きな細孔が存在すること自体は許容する。しかしながら、本発明においては、巨大細孔は、上記細孔容積を求める際の測定対象の細孔には含めないものとする。
一方、孔径が1nmより小さい細孔は、水銀圧入法による細孔容積の測定が困難になる傾向がある。更に、重合硬化物層を形成する際に、小さい細孔径の細孔は閉塞されるので、細孔として存在し難く、仮に存在してもアンカー効果が十分に発揮されない傾向にあると考えられる。従って、本発明においては、上記細孔径の範囲以外の細孔径の細孔は、上記細孔容積の測定対象の細孔に含めない。
該有機無機複合フィラーの細孔容積は、水銀圧入法により測定した値である。水銀圧入法による細孔容積の測定は、以下に記載するとおりである。先ず、有機無機複合フィラーの所定量を測定セルに入れる。次いで、水銀ポロシメータを用いて、有機無機複合フィラーの凝集間隙に形成される各細孔径に相当する圧における水銀注入量を測定する。その後、各細孔における水銀注入量を積算することにより、細孔容積が求まる。なお、細孔容積を測定する際の測定対象細孔の細孔径は、前記のように、1~500nmの範囲にある。
以上のような理由から、該有機無機複合フィラーの凝集間隙からなる細孔の平均孔径は、3~300nmが好ましく、10~200nmがより好ましい。この平均細孔径の範囲の場合、上記細孔容積を有する凝集間隙を容易に形成できる。なお、凝集間隙からなる細孔の平均孔径は、水銀圧入法で測定した孔径1~500nmの範囲の細孔の細孔容積分布をもとにして求めるメディアン細孔直径を示す。
また、細孔径が1~500nmの範囲の孔における細孔容積の合計が0.01cm/g未満の場合には、好適な有機無機複合フィラー、および重合性単量体を含む硬化性組成物において、該重合性単量体が細孔内へ浸入する量が少なくなる傾向にある。その結果、十分なアンカー効果が発揮されない傾向にあり、得られる硬化体の機械的強度は小さくなる傾向にある。
一方、細孔容積の合計が0.30cm/gを超える場合、有機無機複合フィラー自体が脆くなる傾向にあり、またその製造も難しくなる傾向にある。従って、好適な有機無機複合フィラーの生産性、および発揮される効果をより高度なものとする観点から、該有機無機複合フィラーの細孔容積の合計は、0.03~0.20cm/gが特に好ましい。
<好適な有機無機複合フィラーのその他の特性>
本発明において、好適な有機無機複合フィラーの平均粒子径(粒度)は、1~100μmが好ましく、3~100μmがより好ましく、5~70μmがさらに好ましい。また、好適な有機無機複合フィラーにおいて、全重合硬化物層の量は、重合性単量体と組み合わせた硬化性組成物から得られる硬化体がより優れた効果を発揮するためには、無機粒子(無機一次粒子が凝集してなる凝集粒子)100質量部に対して、1~40質量部であり、5~25質量部が好ましい。これらの理由は、上記 <有機無機複合フィラーの平均粒径>、<有機無機複合フィラーにおける重合硬化物層の量>で説明したのと同じ理由である。そして、当然のことながら<有機無機複合フィラー;未重合物>で説明したのと同じ理由で、該重合硬化物層は、重合性単量体の未重合物を0.1質量%以上5.0質量%以下含まなければならず、未重合物を0.2質量%以上4.0質量%以下含むことが好ましい。
なお、好適な有機無機複合フィラーにおいて、重合硬化物層を形成する重合性単量体は、<重合硬化物層を形成する重合性単量体;有機無機複合フィラー>、および <重合硬化物層を形成する重合性単量体の組み合わせ;組成物(重合性単量体溶液)>で説明した理由と同じ理由で、同じ重合性単量体を使用することが好ましい。
また、以上の通り、特段の断りがいない場合には、当然のことながら、好適な有機無機複合フィラーは、前記<有機無機複合フィラー>で説明したのと同じ理由で、同じもの、または同じ条件を採用できる。
<好適な有機無機複合フィラー;無機一次粒子>
好適な有機無機複合フィラーを形成するための無機粒子は、平均粒子径10~1000nmの無機一次粒子が凝集してなる凝集粒子である。無機一次粒子の平均粒子径が10nm未満の場合、前記細孔容積を有する細孔の形成が困難になる傾向にある。更に、好適な有機無機複合フィラーを製造するに際し、細孔の開口部が重合硬化物層で閉孔され易くなる傾向にある。その結果、得られるフィラーに空気泡が内包され易くなる傾向にあり、有機無機複合フィラーに空気泡を内包する場合、この有機無機複合フィラーを配合する硬化性組成物の硬化体は、その透明性が低下する傾向にある。
一方、無機一次粒子の平均粒子径が1000nmを超える場合、これを歯科用複合修復材料等に用いると、得られる硬化体の研磨性が低下する傾向にあり、滑沢な表面の硬化体が得難くなる傾向にある。
以上のような理由から、好適な有機無機複合フィラーを形成するための無機粒子は、平均粒子径40~800nmの無機一次粒子が凝集してなる凝集粒子が好ましく、平均粒子径50~600nmの無機一次粒子が凝集してなる凝集粒子がより好ましい。
また、無機一次粒子の形状は、特に限定されず、球形状、略球形状あるいは不定形粒子を用いることができる。耐摩耗性、表面滑沢性に優れ、かつ有機無機複合フィラーが均一な細孔を有し、細孔の開口部が重合硬化物層で閉孔されて空気泡が内包され難い点から、無機一次粒子の形状は、球形または略球形が好ましい。なお、略球形とは、平均均斉度が0.6以上のものをいう。平均均斉度は0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることが特に好ましい。
なお、無機一次粒子の粒子径は、走査型又は透過型の電子顕微鏡を用いて測定される。具体的には、有機無機複合フィラーの撮影像を画像解析することにより、無機粒子の円相当径(対象粒子の面積と同じ面積を持つ円の直径)を求める。電子顕微鏡による撮影像としては、明暗が明瞭で、粒子の輪郭を判別できるものを使用する。
画像解析は、少なくとも粒子の面積、粒子の最大長、最小幅の計測が可能な、画像解析ソフトウエアを用いて行う。無作為に選択した100この無機粒子について上記の方法で粒子径(円相当径)、粒子の最大量、最小幅を求め、無機粒子の平均粒子径、平均均斉度を下記式によって算出する。
Figure 0007350248000001
Figure 0007350248000002
上記式において、粒子の数を(n)、i番目の粒子の最大長を長径(Li)、この長径に直交する方向の径を最小幅(Bi)と定義する。なお、以上の方法により無機一次粒子の平均粒子径、および平均均斉度を求める方法は、特許文献3に記載の方法を使用できる。
好適な有機無機複合フィラーを形成する無機粒子(凝集粒子)は、(無機粒子;有機無機複合フィラーを構成する無機粒子)で説明した材質と同じものを使用できる。中でも、好適な有機無機複合フィラーおいて、金属酸化物、及びシリカ系複合酸化物は、緻密な材質にするため、高温で焼成された無機粒子を使用することが好ましい。また、焼成効果を向上させるために、金属酸化物、及びシリカ系複合酸化物には、ナトリウム等の少量の周期律表第I族金属の酸化物を含有させることが好ましい。中でも、シリカ系複合酸化物粒子は、屈折率の調整が容易である。更に粒子表面にシラノール基を多量に有するため、シランカップリング剤等の疎水化剤を用いて表面改質(表面処理)が行い易いため、特に好ましい。疎水化剤、及び表面処理する方法は、<無機粒子;有機無機複合フィラーを構成する無機粒子>で説明したものと同じ疎水化剤、および同じ方法が採用できる。
また、前記シリカ系複合酸化物粒子としては、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニア等の粒子は、強いX線造影性を有しているので、歯科用材料として使用する際に特に好適である。更には、より耐摩耗性に優れた硬化体が得られるという点で、シリカ-ジルコニア粒子が好ましい。
また、前記無機粒子(凝集粒子)は、水銀圧入法で測定した細孔容積(ここで、細孔とは細孔径が1~500nmの範囲の孔をいう)が0.015~0.35cm/gの凝集粒子であることが、好適な有機無機複合フィラーを容易に製造できる点で好ましい。
以上のような、平均粒子径10~1000nmの無機一次粒子が凝集してなる凝集粒子を無機粒子として使用することにより、好適な有機無機複合フィラーを製造できる。次に、有機無機複合フィラーの製造方法について説明する。
<有機無機複合フィラーの製造方法>
以下、未重合物を含有する本発明の有機無機複合フィラーの製造方法について説明する

すなわち、本発明の製造方法は、平均粒子径10~1000nmの球状又は略球状のシリカ系複合酸化物粒子からなる無機一次粒子が凝集した凝集粒子を準備する工程;有機溶媒:100質量部、ラジカル重合性基を有し、当該有機溶媒に可溶な(メタ)アクリル系重合性単量体:3~70質量部、及び重合開始剤:有効量、を含む重合性単量体溶液を準備する工程;前記凝集粒子を前記重合性単量体溶液に浸漬した後、前記有機溶媒を除去して、前記無機粒子100質量部に対して1~40質量部の前記重合性単量体を前記無機粒子の表面に付着させる重合性単量体付着工程;及び前記重合性単量体付着工程で前記無機粒子の表面に付着した前記重合性単量体を重合させて前記無機粒子の表面を前記重合性単量体が重合してなる重合硬化物層で被覆する重合工程を含む。

<有機無機複合フィラーの製造方法;重合性単量体を含む重合性単量体溶液>
般的に重合性単量体は粘度が高く、単体では粒子表面を均一に被覆することが困難である。そのため、本発明では、重合性単量体を有機溶媒で溶解させた重合性単量体溶液を用いて無機粒子表面を被覆す

重合性単量体溶液中の重合性単量体濃度は、機粒子表面を均一に被覆可能である必要がある。すなわち、無機粒子に浸漬した重合性単量体溶液に含まれる有機溶媒は、重合性単量体の重合硬化前に除去される。この溶媒除去の際、重合性単量体溶液の濃度が適切でない場合無機粒子表面の重合性単量体相が不均一になる可能性がある。そのため、合性単量体溶液濃度を機溶媒100質量部に対して重合性単量体3~70質量部とする

<有機無機複合フィラーの製造方法;重合性単量体溶液の有機溶媒>
重合性単量体溶液に含有される有機溶媒としては、公知の溶媒が制限なく使用できる。例えば、パークロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系有機溶媒が挙げられる。更には、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン等の炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等のアルコール化合物;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、t-ブチルメチルエーテル等のエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン化合物;ぎ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル化合物などの非ハロゲン系有機溶媒があげられる。これら溶媒の中でも、溶媒除去工程の短時
間化を可能とする高い揮発性を有していること、入手がしやすく安価なこと、製造の際に人体へ安全性が高いこと、などの観点から、メタノール、エタノール、アセトン、ジクロロメタンなどがより好ましい。
<有機無機複合フィラーの製造方法; 重合性単量体溶液の配合/重合開始剤>
また、上記重合性単量体溶液には有効量の重合開始剤を含んでもよい。重合性単量体溶液に含有させる重合開始剤は、光重合開始剤、化学重合開始剤、熱重合開始剤のいずれであっても良い。光や熱などの外部から与えるエネルギーで重合のタイミングを任意に選択でき、製造操作が簡便である点から、光重合開始剤または熱重合開始剤が好ましい。遮光下や赤色光下などの作業環境の制約無しに使用できる点で、熱重合開始剤がより好ましい。
熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p-フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。前記した熱重合開始剤の中でも、操作上の安全性が高く、有機無機複合フィラーへの着色の影響が少ないアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が好適に使用される。
これら重合開始剤は単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の添加は必須ではない。添加する場合、配合量は重合を進行させるのに十分な有効量であれば良い。一般的には、重合性単量体(重合性単量体の全量)100質量部に対して0.01~30質量部であり、より好ましくは0.1~5質量部である。
<有機無機複合フィラーの製造方法 重合性単量体溶液の配合/重合性単量体、その他の配合剤>
本発明の有機無機複合フィラーを製造するに際し、重合硬化物層を形成する重合性単量体は、<重合硬化物層を形成する重合性単量体;有機無機複合フィラー>、および <重合硬化物層を形成する重合性単量体の組み合わせ;組成物(重合性単量体溶液)>で説明したのと同じ理由で、同じ重合性単量体を使用することが好ましい。また、重合性単量体の量は、無機粒子100質量部に対して、1~40質量部であり、5~25質量部が好ましい。これらの理由は、上記<有機無機複合フィラー>で説明したのと同じ理由である。
さらに、重合性単量体溶液には、有機無機複合フィラーに種々の機能を付与するため、紫外線吸収剤、顔料、染料、重合禁止剤、蛍光剤等の添加剤を配合させても良い。
<有機無機複合フィラーの製造方法 無機粒子を重合性単量体溶液に浸漬させる方法>
重合性単量体溶液中に無機粒子を浸漬する方法は、特に制限されるものではないが、通常は常温常圧下で実施するのが好ましい。無機粒子と重合性単量体溶液との混合割合は、無機粒子100質量部に対して、重合性単量体溶液30~500質量部、より好ましくは50~200質量部が好ましい。混合後は、静置する場合は、30分以上放置することが好ましく、1時間以上放置することがより好ましい。被覆時間を短縮するために、混合物を、振とう攪拌、遠心攪拌、加圧、減圧、加熱しても良い。なお、使用する無機粒子は、当然ことながら、<無機粒子;有機無機複合フィラーを構成する無機粒子>で説明したものが使用できる。
<有機無機複合フィラーの製造方法 有機溶媒の除去方法>
重合性単量体溶液に無機粒子を浸漬した後、重合性単量体を重合硬化させる前に、重合性単量体溶液から有機溶媒を除去する。有機溶媒の除去においては、無機粒子を浸漬した有機溶媒の実質的全量(通常、95質量%以上)を除去する。視覚的には、互いに粘着する凝固物が無くなり、流動状態の粉体が得られるまで除去を行えば良い。
有機溶媒の除去操作は、公知の如何なる乾燥方法により実施してもよい。例えば、対流伝熱乾燥、輻射伝熱乾燥、伝導伝熱乾燥、内部発熱乾燥などの加熱系乾燥や、真空乾燥、真空凍結乾燥、遠心乾燥、吸収剤による乾燥、吸引乾燥、加圧乾燥、超音波乾燥、などの非加熱系乾燥などが挙げられる。これらの内、加熱系乾燥や真空乾燥、真空凍結乾燥等が好ましい。
真空乾燥を実施する場合、減圧度は、有機溶媒の沸点や揮発性を考慮して適宜選択すればよい。一般的には、減圧度は、100ヘクトパスカル以下、好ましくは0.01~50ヘクトパスカル、最も好ましくは0.1~10ヘクトパスカルである。
加熱系乾燥を実施する場合、加熱温度は、有機溶媒の沸点に応じて適宜選択すれば良い。有機溶液中に、重合開始剤として熱重合開始剤を含有させている場合は、その重合開始温度以下で操作する必要がある。
乾燥方法は、上記各方法を組み合わせても良い。乾燥時間を短縮する為に、真空乾燥と伝導伝熱乾燥などの加熱系乾燥を組み合わせることが特に好ましい。有機溶媒の除去操作は、有機無機複合フィラーの特徴を損なわない範囲で、攪拌下で行っても良い。
<有機無機複合フィラーの製造方法 重合硬化物層の形成方法;重合条件、その他の処理>
有機溶媒を除去した後、重合性単量体を重合硬化させる。採用する重合硬化方法は、用いる重合性単量体や重合開始剤によって異なるため、適宜最適の方法を選択すればよい。熱重合開始剤を用いる場合には、加熱によって重合を行わせ、光重合開始剤を用いる場合は対応する波長の光を照射することによって重合を行なわせる。
熱重合を行う場合、重合温度は用いる重合開始剤によって異なるため、適宜最適な温度を選択すればよい。一般的には、重合温度は、30~170℃、好ましくは50~150℃である。
光重合を行う場合、用いる光源は重合開始剤の種類に応じて異なるため、適宜最適な光源を選択すればよい。光源としては、一般的にはハロゲンランプ、LED、キセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク灯、タングステンランプ、ヘリウムカドミウムレーザー、アルゴンレーザー等の可視光線の光源や、低圧水銀灯、キセノンアーク灯、ジュウテリウムアーク灯、水銀キセノンアーク灯、タングステンハロゲン白熱灯、UV-LED、キセノンプラズマ放電管等の紫外線の光源等を挙げることができる。
本発明の製造方法では、前記重合工程において、無機粒子に被覆された重合性単量体の重合率を調整して、未重合物の量を0.1質量%以上5質量%以下とする。未重合物の含有量の調整方法としては、重合温度の調整、重合時間の調整、重合禁止剤の添加、酸素存在下での重合等が考えられるが、本発明の製造方法では、重合温度の調整又は重合時間の調整により行う。具体的には、前記重合硬化物層全体の質量を基準とする未重合の前記重合性単量体の濃度(質量%)を未重合単量体含有率と定義したときに、前記重合工程において、重合時間以外の条件を予め定めた一定の条件として重合時間のみを変えて重合を行った場合における重合時間と前記未重合単量体有率との関係、又は前記重合工程において、重合温度以外の条件を予め定めた一定の条件として重合温度のみを変えて重合を行った場合における重合温度と前記未重合単量体含有率との関係を予め別途確認し、確認された何れか一方の関係に基づいて、前記重合工程で得られる重合硬化物層中に含まれる未重合の前記重合性単量体の量が、前記未重合単量体有率で表して、0.1質量%以上5.0質量%以下の範囲となる条件を決定し、決定された条件に従って前記重合を行う。
このとき上記関係を予め別途確認するに際しては、実際に使用する装置において予備実験を行って、確認することが好ましい。
これらの中でも、最も簡便に未重合物含有量を調整する方法としては、重合時間の調整が挙げられる。ここでの重合時間とは、重合性単量体が所定の温度に到達あるいは照射光に晒されてからの時間を指す。ただし、この重合時間の調整は、使用する装置の規模、その他の重合条件等の影響を受けるため、上記したように、使用する装置において予備実験を行い、重合時間に対する重合率を予め確認することが好ましい。
以上の方法により、未重合性単量体を特定の量含有する有機無機複合フィラーを効率的に製造することができる。
以上のようにして、本発明の有機無機複合フィラーを製造することができる。得られた有機無機複合フィラーは、表面処理が施されていても良い。表面処理が施されることにより、この有機無機複合フィラーが配合された歯科用硬化性組成物の硬化体に、より高い機械的強度が与えられる。表面処理剤や表面処理方法は、前述の無機一次粒子の表面処理と同様である。
次に、好適な有機無機複合フィラーの製造方法を説明する。
<好適な有機無機複フィラーの製造方法>
以下、凝集間隙を有する本発明の好適な有機無機複合フィラーの製造方法について説明する。好適な有機無機複合フィラーの製造方法は、基本的に前記<有機無機複合フィラーの製造方法>で説明した条件が採用できる。すなわち、特段の断りがない場合には、前記<有機無機複合フィラーの製造方法>、<有機無機複合フィラーの製造方法;重合性単量体を含む重合性単量体溶液>、<有機無機複合フィラーの製造方法;重合性単量体溶液の有機溶媒>、<有機無機複合フィラーの製造方法; 重合性単量体溶液の配合/重合開始剤>、<有機無機複合フィラーの製造方法 重合性単量体溶液の配合/重合性単量体、その他の配合剤>、<有機無機複合フィラーの製造方法 無機粒子を重合性単量体溶液に浸漬させる方法>、<有機無機複合フィラーの製造方法 有機溶媒の除去方法> <有機無機複合フィラーの製造方法 重合硬化物層の形成方法;重合条件、その他の処理>で説明した理由と同じ理由で、同じもの、同じ条件を採用することができる。
好適な有機無機複合フィラーは、具体的には、以下に記載する方法により製造することが好ましい。この方法においては、<好適な有機無機複合フィラー;無機一次粒子>で説明した平均粒子径10~1000nmの無機一次粒子が凝集した凝集粒子を出発原料として用いることが好ましい。
そして、
(i)平均粒子径10~1000nmの無機一次粒子が凝集してなる凝集粒子である無機粒子を、有機溶媒100質量部に対して重合性単量体を3~70質量部含む重合性単量体溶液に浸漬した後、
(ii)浸漬した無機粒子から該有機溶媒を除去した後、
(iii)該無機粒子に含浸させた該重合性単量体を重合性させることにより、
製造する方法を採用することが好ましい。
<好適な有機無機複フィラーの製造方法 凝集粒子の準備>
出発原料である平均粒子径10~1000nmの無機一次粒子の複数が凝集してなる凝集粒子は、以下の方法で準備することが好ましい。なお、該凝集粒子は、<好適な有機無機複合フィラー;無機一次粒子>で説明した無機一次粒子が凝集したものを使用できる。
無機一次粒子は、例えば、湿式法で製造する場合、激しく凝集する凝集粒子として得られる。乾式法で製造する場合でも、緩やかに凝集する凝集粒子として得られる。ゾルゲル法で製造する場合においても、乾燥工程や焼成工程で無機一次粒子は凝集しているのが普通である。
本発明においては、このようにして得られる無機凝集粒子を、必要により粉砕して用いても良い。しかし、粉砕する場合は、得られる無機凝集粒子の粒度の制御が難しく、その結果、幅広い粒度分布の無機凝集粒子が得られる点に、粉砕における不適さがある。この不適さを避けるため、噴霧乾燥法により造粒して得られる無機凝集粒子を出発原料として用いて、有機無機複合フィラーを製造することが好ましい。
ここで、噴霧乾燥法は、無機一次粒子を水などの揮発性の液状媒体に分散させたスラリーを、例えば高速気流などを用いて微細な霧状液滴に調製し、この霧状液滴を高温の気体と接触させることで液状媒体を揮発させ、液滴内に分散する多数の無機一次粒子を実質的に一個の凝集粒子に集めて無機凝集粒子を作る方法をいう。噴霧形式や噴霧条件に依存して凝集粒子の粒径や粒度分布が制御される。
噴霧乾燥法による造粒方法は、前記有機無機複合フィラーの粒度として所望される1~100μmの平均粒子径の無機凝集粒子を、粒度分布が狭い状態で得ることができるので、有利な方法である。更に、この無機凝集粒子には、水銀圧入法で測定する細孔容積が0.015~0.35cm/g、より好適には0.15~0.30cm/gの凝集間隙が自然に形成される。前記凝集状態の無機凝集粒子を用いて有機無機複合フィラーを製造する場合、通常、得られる有機無機複合フィラーの内部には、0.01~0.30cm/g、より好適には0.03~0.20cm/gの細孔容積の凝集間隙が形成される。従って、上記製造方法により製造される無機凝集粒子を出発原料として使用する場合、本発明の好適な有機無機複合フィラーが効率的に得られる。
なお、無機凝集粒子の細孔容積は、一般に、無機凝集粒子を構成する無機一次粒子の粒度の幅が狭い場合は大きくなり、一方、無機一次粒子の粒度の幅が広い場合には小さくなる。更に、平均粒子径が異なる無機一次粒子を複数種類組合せることにより、無機凝集粒子の細孔容積をより小さくすることができる。また更に、無機一次粒子の複数種類を最密充填状態になるような割合で組合せることにより、無機凝集粒子の細孔容積をさらに小さくすることができる。
好適に用いられる噴霧乾燥法を具体的に説明する。この方法としては、無機粒子を、水などの適当な溶媒等に分散するスラリーを調製し、このスラリーを高速の気流によって細かく噴霧し、乾燥させる方法がある。更に、スラリーを円盤状の回転体上に滴下し、スラリーを遠心力によって霧状に弾き飛ばして乾燥させる方法がある。溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、クロロホルム、ジメチルホルムアミド等が例示される。
スラリー中の無機粒子の濃度は、高速気流や円盤状回転体により噴霧化可能である限り制限はないが、一般的には5~50質量%、好ましくは10~45質量%である。また、円盤状回転体の回転速度は一般的に1000~50000rpmである。液滴の径は、無機一次粒子径を勘案し、前記所望の平均粒子径の無機凝集粒子が得られるように調製する。
噴霧されたスラリーを、高温の空気や不活性気体などによって直ちに乾燥すれば、粒度の揃った無機凝集粒子が得られる。乾燥に使用する気体の温度は、60~300℃が一般的であり、好ましくは80~250℃である。
なお、上記噴霧乾燥により得られる無機凝集粒子には、僅かであるがスラリーを調製するために用いる溶媒が残留することがある。このため、噴霧乾燥の後に、得られる無機凝集粒子を真空乾燥することが好ましい。真空乾燥の時間は一般には1~48時間であり、温度は20~150℃であり、減圧度は0.01~100ヘクトパスカル以下が一般的である。
噴霧乾燥して得られる無機凝集粒子の形状は、通常、球状、略球状、ドーナツ状、または粒子の表面にくぼみが形成されたディンプル状である。無機凝集粒子は、一般的に、これらの形状の無機凝集粒子の複数が混在する状態で得られる。よって、混在する無機凝集粒子を使用して製造する有機無機複合フィラーも、対応する形状の有機無機複合フィラーになるのが一般的である。
上記球状、略球状等の無機凝集粒子は、中空構造のものも生成し易い。中空構造の有機無機複合フィラーを含有する硬化性組成物の硬化体は、機械的強度が多少低くなる傾向がある。しかし、硬化性組成物の製造時において、中空部に多量の重合性単量体が選択的に浸入して充満させることができるので、その光拡散性を変化させることが可能になる。この効果は、歯科用途において有利に利用できる。
一般に、噴霧乾燥に用いるスラリー濃度を高めにし、噴霧したスラリー液滴を比較的短時間の内に熱風乾燥させる場合、球状や略球状の無機凝集粒子が多く生成し、その中に含まれる上記中空構造の無機凝集粒子の割合は減少する傾向がある。一方、スラリー濃度を低くするほど、ドーナツ状やディンプル状の無機凝集粒子の生成割合が増加し、球状や略球状の無機凝集粒子においては、上記中空構造の無機凝集粒子の含有割合は増加する傾向がある。なお、このような噴霧乾燥の条件は、特許文献3に記載の方法を採用できる。
平均粒子径が10~1000nmである無機一次粒子を、噴霧乾燥法により造粒することにより、0.015~0.35cm/g、より好適には0.15~0.30cm/gの細孔容積を有する、凝集間隙が形成された無機凝集粒子を製造できる。この無機凝集粒子において、表面近傍で凝集している無機一次粒子は、通常、六方最密充填構造に近い配列をしている。平均粒子径10~1000nmの無機一次粒子が、六方最密充填構造に近い状態で無機凝集粒子表面に沿って配列することにより、隣接する無機一次粒子との間に形成される凝集間隙からなる、細孔が形成される。この細孔の平均孔径は、通常、5~330nm、より一般的には20~300nmである。この凝集粒子(無機粒子)を使用することにより、容易に好適な有機無機複合フィラーを製造することができる。
なお、無機凝集粒子に形成される細孔容積や平均細孔径は、前述の好適な有機無機複合フィラーと同様の測定方法により求められる。
好適な有機無機複合フィラーの製造に使用する無機凝集粒子は、重合性単量体に対する濡れ性を向上させるために、疎水化剤により表面処理することが好ましい。疎水化剤としては、<無機粒子;有機無機複合フィラーを構成する無機粒子>で説明したシランカップリング剤等が使用できる。
上記表面処理は、無機一次粒子に行っても良いし、無機凝集粒子に行っても良い。前記噴霧乾燥により無機凝集粒子製造する場合は、この処理時に、同時に表面処理を行うことが効率的である。
<好適な有機無機複合フィラーの製造方法;製造条件>
上記のようにして製造される無機凝集粒子は、次に、有機溶媒100質量部に対して重合性単量体3~70質量部と有効量の重合開始剤とを含む重合性単量体溶液に浸漬される。その結果、無機凝集粒子の凝集間隙を通して、毛細管現象により、無機凝集粒子の内部に重合性単量体溶液が浸入する。この場合、重合性単量体は有機溶媒により希釈されているので、毛細管現象による液の浸入性は高い。その結果、凝集間隙の深部まで重合性単量体溶液が充填される。
重合性単量体溶液において、有機溶媒に対する重合性単量体の含有量は、上記範囲内に制御することが好ましい。この範囲内に重合性単量体の含有量を制御することにより、得られる有機無機複合フィラーの凝集間隙によって形成される細孔容積を前記特定範囲内に制御できる。すなわち、無機凝集粒子の凝集間隙に浸入した重合性単量体溶液に含まれる有機溶媒は、重合性単量体の重合硬化前に除去される。この溶媒の除去により生じる体積減少量に相当する体積量の細孔が、無機一次粒子の凝集間隙に形成される。上記理由により、有機無機複合フィラーの細孔容積を前記値の範囲(0.01~0.30cm/g)とするためには、重合性単量体溶液に含まれる重合性単量体の濃度を上記含有量にする必要がある。
重合性単量体の含有量が前記範囲外である場合には、細孔内に充填される重合性単量体量に過不足が生じる。また、重合性単量体の含有量が多すぎる場合には、フィラー中に空気泡が形成される場合がある。更には、余剰の重合性単量体が無機凝集粒子の外周に付着し、これが無機凝集粒子同士を結合させて塊状物を生成させる不都合等も生じやすい。これら不都合を勘案すると、重合性単量体溶液における重合性単量体の含有量は、有機溶媒100質量部に対して10~50質量部がより好ましい。
その他の条件は、前記の通り、<有機無機複合フィラーの製造方法>で説明した理由と同じ理由で、同じもの、同じ条件を採用することができる。
以上の方法により、内部に細孔を有する有機無機複合フィラーを効率的に製造することができる。なお、重合性単量体溶液の濃度等に応じて、これらの操作を複数回繰り返して実施しても良い。これらの操作を複数回繰り返すことにより、無機一次粒子の表面を覆う有機樹脂の量を増加させて、細孔容積の形成量を調整することができる。
<有機無機複合フィラーを含む硬化性組成物、およびその用途>
本発明の有機無機複合フィラーは、通常のフィラー用途に制限なく使用できる。中でも、重合性単量体と組み合わせた硬化性組成物とすることにより、様々な用途に使用することができる。特に、該硬化性組成物は、歯科用材料として好適に使用できる。
<歯科用硬化性組成物>
既に説明した通り、本発明の有機無機複合フィラーは、歯科用硬化性組成物に配合される歯科用フィラーとして、特に有用である。歯科用硬化性組成物には、有機無機複合フィラーに加えて、重合性単量体と重合開始剤とが配合される。
重合性単量体としては、該用途に使用される公知のものが制限なく使用できる。通常は、前記した有機無機複合フィラーの製造用に例示した重合性単量体と同じ範疇から採択すれば良い。重合性単量体の配合量は、有機無機複合フィラー100質量部に対して10~100質量部で、20~90質量部が好ましい。重合性単量体としては、<重合硬化物層を形成する重合性単量体;有機無機複合フィラー>で説明したものと同様のものを何ら制限なく使用できる。
重合開始剤としては、公知のものが制限なく使用できる。例えば、 <有機無機複合フィラーの製造方法; 重合性単量体溶液の配合/重合開始剤>で説明した熱重合開始剤を使用できる。また、一般に、歯科用硬化性組成物の硬化(重合)手段としては、その使用時の操作の簡便さから、光重合法が採用されることが多い。上記理由により、本発明の歯科用硬化性組成物においても、重合開始剤として光重合開始剤を用いることが好ましい。
好ましい光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルケタール類、ベンゾフェノン類、α-ジケトン類、チオキサンソン化合物、ビスアシルホスフィンオキサイド類等が挙げられる。なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加される。還元剤としては、芳香族アミン、脂肪族アミン、アルデヒド類、含イオウ化合物などが例示される。さらに、必要に応じてトリハロメチルトリアジン化合物、アリールヨードニウム塩等を添加することも出来る。
重合開始剤は、上記重合性単量体100質量部に対して0.01~10質量部の範囲で配合させるのが一般的である。
歯科用硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の無機粒子添加することもできる。他の無機粒子は、該用途に使用される公知のフィラーが制限なく使用できる。例えば、他の無機粒子としては、前記無機一次粒子と同様の材質の無機粒子を挙げることができる。
さらに、本発明の歯科用硬化性組成物においては、その効果を著しく阻害しない範囲で、公知の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、重合禁止剤、顔料、紫外線吸収剤、蛍光剤等が挙げられる。
本発明において、歯科用硬化性組成物は、一般に、前記各必須成分及び必要に応じて添加する各任意成分の所定量を十分に混練してペーストを得、さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去することによって製造できる。歯科用硬化性組成物の用途は特に限定されないが、特に好適な用途は、歯科用充填修復材料や歯科用間接修復材料などの、歯科用複合修復材料である。
なお、本発明の有機無機複合フィラーを歯科用硬化性組成物のフィラーとして用いる場合は、重合性単量体は、その重合体の屈折率と、無機粒子の屈折率との差が0.1以下になるように、選択することが好ましい。このように単量体を選択することにより、得られる有機無機複合フィラーに十分な透明性を付与できる。更に、得られる有機無機複合フィラーを歯科用硬化性組成物に用いる際に、該有機無機複合フィラーと歯科用硬化性組成物を構成する重合性単量体の重合体との屈折率の差を0.1以下になるように選択することが好ましい。この様に単量体を選択することにより、透明性のある歯科用硬化性組成物の硬化体が得られる。
次に、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれら実施例によって何等限定されるものではない。以下の実施例及び比較例に用いた重合性単量体、無機粒子、重合開始剤等の化合物の略称を以下に示す。
重合性単量体
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート。
・UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2-4-
トリメチルヘキサン。
・BisGMA:2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
・NBM80:BisGMA/3G=60/40の混合物
無機粒子(凝集粒子)
・F-1:一次粒子の平均粒子径200nmの、ゾルゲル法で製造した球状(平均均斉度0.95、)のシリカ-ジルコニア。
・F-2:F-1の凝集粒子(平均均斉度0.95、細孔容積0.28cm/g)。実施例4に製造方法を記載。
重合開始剤
・AIBN:アゾビスイソブチロニトリル。
・CQ:カンファーキノン。
・DMBE:N,N-ジメチル-p-安息香酸エチル。
無機粒子の平均粒子径、及び平均均斉度、無機粒子・有機無機複合フィラーの特性(平均粒子径、細孔容積、平均孔径)、有機無機複合フィラー中の重合硬化物層の量、未重合物量、および得られた硬化体の曲げ強さ(機械的強度)の測定は以下の方法に従って測定した。
(1)有機無機複合フィラーを構成する無機粒子の平均粒子径、及び平均均斉度
走査型電子顕微鏡(XL-30S FEG,フィリップス(PHILIPS)社製)を用い、有機無機複合フィラーの写真を5000~100000倍で撮影した。画像解析ソフトウエア(IP-1000PC、旭化成エンジニアリング社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、単位視野内における粒子の円相当径(粒子径)、最大長、最小幅、粒子数を求めた。観察対象の粒子数は100個以上であった。下記式により粒子の平均体積径を求め、これを平均粒子径とした。
Figure 0007350248000003
また、単位視野内に観察される一次粒子の数(n)、一次粒子の最大長を長径(Li)、この長径に直交する方向の径を最小幅(Bi)、としてn、Li、Biを求めた。次式により無機一次粒子の平均均斉度を算出した。
Figure 0007350248000004
(2)無機粒子の平均粒子径(粒度)
0.1gの無機凝集粒子をエタノール10mlに分散させ、手を用いて十分振とうした。レーザー回折-散乱法による粒度分布計(「LS230」、ベックマンコールター製)を用い、光学モデル「フラウンフォーファー」(Fraunhofer)を適用して、体積統計のメディアン径を求めた。
(3)有機無機複合フィラーの平均粒子径(粒度)
有機無機複合フィラーをエタノールに分散させる際、超音波を20分間照射した以外は(2)無機凝集粒子の場合と同様に操作して、粒度を求めた。
(4)無機凝集粒子及び有機無機複合フィラーにおける、凝集間隙の細孔容積および該細孔の平均孔径
水銀ポロシメータ〔「ポアマスター」(PoreMaster)、クワンタクローマ(Quantachrome)社製〕を用い、細孔容積分布を測定した。0.2gの無機凝集粒子または有機無機複合フィラーを測定セルに入れて、測定した。細孔容積分布孔径1~500nmの範囲の細孔の容積を積算し、細孔容積とした。更に、この範囲の細孔を対象にして、細孔容積分布から求めたメディアン細孔直径を凝集間隙の平均孔径とした。
(5)有機無機複合フィラー中の重合硬化物層量(全重合硬化物層の全量)
示差熱-熱重量同時測定装置「TG/DTA6300」(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、以下の手順で、全重合硬化物層の量を測定した。0.03gの有機無機複合フィラーをアルミパンに入れて試料とした。昇温速度を5℃/min、上限温度500℃、上限温度係留時間30分のスケジュールで加熱を行って、質量減少量を測定した。得られた質量減少量を用いて、無機粒子と重合硬化物層の比率を求め、無機粒子100質量部に対する重合硬化物層(質量部)を算出した。また示差熱-熱重量同時測定のリファレンスには、0.03gの酸化アルミニウムを用いた。
(6)有機無機複合フィラー中の未重合物の量
高速液体クロマトグラフィー(カラム:GL Science社製ODS-II、4.6nmφ×250nm、送液ユニット:島津製作所社製、LC-20AD、デガッサー:島津製作所社製、DGU-20A、検出器:島津製作所社製、SPD-M20A)を用いて、以下の手順で、未重合物の量を測定した。0.1gの有機無機複合フィラーを0.9gのアセトンに分散し、超音波を10分間照射しフィラー分散液とした。この分散液を遠心分離(3000rpm、10分間)し、上澄み液を0.2μmのフィルターで濾過し試料とした。試料を高速液体クロマトグラフィーにより分析し、予め作成しておいた検量線から有機無機複合フィラー中の未重合物の量を測定した。なお、本実施例、比較例においては、前記(5)で求めた全重合硬化物層の量と、無機粒子を被覆する際に使用した重合性単量体の合計量は非常によく一致した。
(7)曲げ強さの測定方法
実施例7~12、および比較例5~8において、各実施例・比較例で製造した有機無機複合フィラー、下記に示す配合比の重合性単量体、光重合開始剤、及び無機充填材を含む重合性単量体組成物を準備して、赤色光下にて乳鉢を用いて均一に攪拌、脱泡して、ペースト状の歯科用硬化性組成物を調製した。
重合性単量体 UDMA 80質量部、3G 20質量部、重合開始剤CQ 0.20質量部、DMBE 0.5質量部、実施例・比較例で製造した有機無機複合フィラー 300質量部、無機充填材F-1 200質量部を含む重合性単量体組成物を準備し、前記方法により、ペースト状の歯科用硬化性組成物を調製した。
次いで、充填器を用いて、この歯科用硬化性組成物のペーストをステンレス製型枠に充填した。ペースト表面にポリプロピレンシートを圧接し、ポリプロピレンシートを通して光照射を行なった。照射は、可視光線照射器パワーライト(トクヤマ社製)を用いた。可視光線照射器の照射窓をポリプロピレンシートに密着させ、硬化体の全体に光が当たるように、場所を変えて一方の面から各20秒間ずつ3回照射した。次いで、反対の面からも同様にして各20秒間ずつ3回光照射し、硬化体を得た。
#800の耐水研磨紙を用いて、硬化体を2×2×25mmの角柱状に整えた。この試料片を試験機(島津製作所製、オートグラフAG5000D)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分の試験条件で、3点曲げ破壊強度を測定した。試験片5個について評価し、その平均値を曲げ強さとした。
(8)透明性の評価
前記(7)の方法で調製したペーストと同じ歯科用硬化性組成物のペーストを、7mmφ×1mmの孔を有する型に充填した。孔の両端のペースト表面にポリエステルフィルムを圧接した。ポリエステルフィルムを通して、可視光線照射器(トクヤマ製、パワーライト)でペーストの両表面を30秒間光照射した。ペーストが硬化した後、型から取り出した。色差計(東京電色製、TC-1800MKII)を用いて、硬化したペーストの三刺激値のY値(背景色黒及び白)を測定した。下記式、
コントラスト比=背景色黒の場合のY値/背景色白の場合のY値に基づいてコントラスト比を計算し、透明性の指標とした。
実施例1
<凝集粒子の準備>
無機粒子F-1の100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミル(三井鉱山(株)製)を用いて、無機粒子を分散させた分散液を得た。
次いで、4g(0.016mol)のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと0.003gの酢酸とを80gの水に加え、1時間30分間撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を前記無機粒子の分散液に添加し、均一に混合した。その後、分散液を軽く混合しながら、高速で回転するディスク上に供給して噴霧乾燥法により乾燥した。
用いた噴霧乾燥機は、回転するディスクを備え、遠心力で噴霧化する噴霧乾燥機(スプレードライヤー「TSR-2W」、坂本技研(株)製)であった。ディスクの回転速度は10000rpm、乾燥雰囲気空気の温度は200℃であった。その後、噴霧乾燥した無機粉体を60℃、18時間真空乾燥し、71gの無機凝集粒子を得た。無機凝集粒子の凝集間隙の細孔容積は0.28cm/g、平均細孔径は50nmであった。また、無機凝集粒子の平均粒子径は、40.0μmであった。
<有機無機複合フィラーの製造>
次いで、重合性単量体としてUDMAを1.78g、重合開始剤としてAIBNを0.005g、さらに有機溶媒柄としてエタノールを5.0g混合した重合性単量体溶液(有機溶媒100質量部に対して重合性単量体35.6質量部を含有)に、上記無機凝集粒子9.4gを浸漬させた。充分撹拌し、この混合物がスラリー状になったことを確認してから1時間静置した。
上記の混合物を、真空乾燥機を用いて、減圧度10ヘクトパスカル加熱条件40℃の条件で1時間乾燥させ、有機溶媒を除去した。有機溶媒を除去すると、凝集性がない、流動性の高い粉体が得られた。
上記の粉体を、減圧度10ヘクトパスカル、140℃の条件で、20分間加熱し、上記粉体中の重合性単量体を重合硬化させ、得られた粉体を、振動ボールミルを用いて粉砕することで、有機無機複合フィラーを8.0g得た。
上記有機無機複合フィラーの平均粒子径は、1.2μmであり、水銀ポロシメータによる測定によれば、細孔は確認できなかった。さらに、有機無機複合フィラー中の全重合硬化物層の量を測定したところ、無機粒子F-1の100質量部に対して全重合硬化物層の量は18.9質量部であった。また、有機無機複合フィラー中の全重合硬化物層に含まれる未重合物の量は、0.2質量%であった。
製造条件を表1にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表2にまとめた。
実施例2
実施例1の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、重合性単量体を重合硬化させる際の温度を130℃に変更した以外は、実施例1と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。
製造条件を表1にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表2にまとめた。
実施例3
実施例1の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、重合性単量体を重合硬化させる際の温度を120℃に変更した以外は、実施例1と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。
製造条件を表1にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表2にまとめた。
実施例4
実施例1の<凝集粒子の準備>において得られた凝集粒子F-1を9.4g、重合性単量体としてUDMAを1.78g、重合開始剤を0.005g、エタノール5.0gを乳鉢にて均一に撹拌しペーストとした。得られたペーストを脱泡し減圧度10ヘクトパスカル、140℃の条件で20分間加熱しペーストの硬化体を得た。この硬化体を振動ボールミルを用いて粉砕することで有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。
製造条件を表1にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表2にまとめた。
実施例5
<凝集粒子(F-2)の準備>
実施例1の<凝集粒子の準備>において、無機粒子F-1の100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミル(三井鉱山(株)製)を用いて、無機粒子を分散させた分散液を得た。
次いで、4g(0.016mol)のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと0.003gの酢酸とを80gの水に加え、1時間30分間撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を前記無機粒子の分散液に添加し、均一に混合した。その後、分散液を軽く混合しながら、噴霧乾燥法により乾燥した。
用いた噴霧乾燥機は、噴霧乾燥機(スプレードライヤー「RL-8」、大川原化工機製)であった。噴霧圧は0.1MPa、乾燥雰囲気空気の温度は200℃であった。その後、噴霧乾燥した無機粉体を60℃、18時間真空乾燥し、71gの無機凝集粒子(F-2)を得た。無機凝集粒子の凝集間隙の細孔容積は0.28cm/g、平均細孔径は200nmであった。また、無機凝集粒子の平均粒子径は、16.0μmであった。
<有機無機複合フィラーの製造方法>
次いで、実施例1の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、重合性単量体としてUDMAを1.78g、重合開始剤としてAIBNを0.005g、さらに有機溶媒としてエタノールを5.0g混合した重合性単量体溶液(有機溶媒100質量部に対して重合性単量体35.6質量部を含有)に、上記<凝集粒子の準備>で準備した無機凝集粒子(F-2)9.4gを浸漬させた。充分撹拌し、この混合物がスラリー状になったことを確認してから1時間静置した。上記の混合物を、真空乾燥機を用いて、減圧度10ヘクトパスカル加熱条件40℃の条件で1時間乾燥させ、有機溶媒を除去した。有機溶媒を除去すると、凝集性がない、流動性の高い粉体が得られた。
上記の粉体を、減圧度10ヘクトパスカル、140℃の条件で、20分間加熱し、上記粉体中の重合性単量体を重合硬化させ、有機無機複合フィラーを9.0g得た。上記有機無機複合フィラーの平均粒子径は、21.0μmであり、凝集間隙の細孔容積は0.06cm/g、平均細孔径は150nmであった。さらに、有機無機複合フィラー中の全重合硬化物層の量を測定したところ、無機粒子F-2の100質量部に対して全重合硬化物層の量は18.9質量部であった。また、有機無機複合フィラー中の全重合性硬化物層に含まれる未重合物は、0.2質量%であった。製造条件を表1にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表2にまとめた。
実施例6
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、重合性単量体を重合硬化させる際の温度を130℃に変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。製造条件を表1にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表2にまとめた。
実施例7
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、重合性単量体を重合硬化させる際の温度を120℃に変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。製造条件を表1にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表2にまとめた。
実施例8
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、用いる重合性単量体UDMAの量を1.50gに変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。製造条件を表1にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表2にまとめた。
実施例9
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、用いる重合性単量体UDMAの量を2.06gに変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。製造条件を表1にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表2にまとめた。
実施例10
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、用いる重合性単量体をNBM80に変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。製造条件を表1にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表2にまとめた。
実施例11
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、用いる重合性単量体をBisGMAに変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。製造条件を表1にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表2にまとめた。
実施例12
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、用いる重合性単量体を3Gに変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。製造条件を表1にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表2にまとめた。
Figure 0007350248000005
Figure 0007350248000006
比較例1
実施例1の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、 重合性単量体を重合硬化させる際の温度を180℃に変更した以外は、実施例1と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。製造条件を表3にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表4にまとめた。
比較例2
実施例1の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、重合性単量体を重合硬化させる際の温度を90℃に変更した以外は、実施例1と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。
製造条件を表3にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表4にまとめた。
比較例3
実施例4のペースト硬化時の温度を170℃、あるいは硬化時の時間を60分間に変更した以外は、実施例4と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。製造条件を表3にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表4にまとめた。
比較例4
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、重合性単量体を重合硬化させる際の温度を180℃に変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例5と同様にして各物性を測定した。製造条件を表3にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表4にまとめた。
比較例5
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、重合性単量体を重合硬化させる際の温度を90℃に変更した以外は、実施例4と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例4と同様にして各物性を測定した。製造条件を表3にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表4にまとめた。
比較例6
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、重合性単調体を重合硬化させる際の温度を100℃に、重合時間を60分に変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例5と同様にして各物性を測定した。製造条件を表3にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表4にまとめた。
比較例7
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、用いる重合性単量体UDMAの量を1.50gに、重合性単量体を重合硬化させる際の温度を180℃に変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例5と同様にして各物性を測定した。製造条件を表3にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表4にまとめた。
比較例8
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、用いる重合性単量体UDMAの量を2.06gに、重合性単量体を重合硬化させる際の温度を180℃に変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例5と同様にして各物性を測定した。製造条件を表3にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表4にまとめた。
比較例9
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、用いる重合性単量体をNBM80に、重合性単量体を重合硬化させる際の温度を180℃に変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。製造条件を表3にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表4にまとめた。
比較例10
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、用いる重合性単量体をBisGMAに、重合性単量体を重合硬化させる際の温度を180℃に変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。製造条件を表3にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表4にまとめた。
比較例11
実施例5の<有機無機複合フィラーの製造方法>において、用いる重合性単量体を3Gに、重合性単量体を重合硬化させる際の温度を180℃に変更した以外は、実施例5と同様にして有機無機複合フィラーを得た。この有機無機複合フィラーについて、実施例1と同様にして各物性を測定した。製造条件を表3にまとめ、得られた有機無機複合フィラーの性状を表4にまとめた。
Figure 0007350248000007
Figure 0007350248000008
実施例13~24、比較例12~22
表5及び6に示した各有機無機複合フィラーを使用して、前記(7)の曲げ強度および前記(8)の透明性を測定した。その結果を表5及び6に併せて示した。
Figure 0007350248000009
Figure 0007350248000010

Claims (3)

  1. 無機粒子:100質量部及び重合性単量体が重合してなる重合硬化物層:1~40質量部を含有し、前記無機粒子の表面が前記重合硬化物層で被覆されてなる有機無機複合フィラーであって、前記重合硬化物層が、前記重合性単量体の未重合物を0.1質量%以上5.0質量%以下含む、有機無機複合フィラーを製造する方法であって、
    平均粒子径10~1000nmの球状又は略球状のシリカ系複合酸化物粒子からなる無機一次粒子が凝集した凝集粒子からなる前記無機粒子を準備する工程、
    有機溶媒:100質量部、ラジカル重合性基を有し、当該有機溶媒に可溶な(メタ)アクリル系重合性単量体からなる前記重合性単量体:3~70質量部、及び重合開始剤:有効量、を含む重合性単量体溶液を準備する工程、
    前記凝集粒子からなる前記無機粒子を前記重合性単量体溶液に浸漬した後に、前記有機溶媒を除去して、前記無機粒子100質量部に対して1~40質量部の前記重合性単量体を前記無機粒子の表面に付着させる重合性単量体付着工程、及び
    前記重合性単量体付着工程で前記無機粒子の表面に付着した前記重合性単量体を重合させて前記無機粒子の表面を前記重合性単量体が重合してなる重合硬化物層で被覆する重合工程を含み、
    前記重合硬化物層全体の質量を基準とする前記重合性単量体の未重合物の濃度(質量%)を未重合単量体含有率と定義したときに、
    前記重合工程において、重合時間以外の条件を予め定めた一定の条件として重合時間のみを変えて重合を行った場合における重合時間と前記未重合単量体有率との関係、又は前記重合工程において、重合温度以外の条件を予め定めた一定の条件として重合温度のみを変えて重合を行った場合における重合温度と前記未重合単量体含有率との関係を予め別途確認し、確認された何れか一方の関係に基づいて、前記重合工程で得られる重合硬化物層中に含まれる前記重合性単量体の未重合物のが、前記未重合単量体有率で表して、0.1質量%以上5.0質量%以下の範囲となる条件を決定し、決定された条件で前記重合性単量体付着工程及び/又は前記重合工程を行うことを特徴とする有機無機複合フィラーの製造方法。
  2. 前記凝集粒子として水銀圧入法で測定する細孔容積が0.015~0.35cm/gの凝集間隙が形成された凝集粒子を準備し、
    前記重合工程において、前記凝集粒子における各無機一次粒子の少なくとも一部の表面を被覆して各無機一次粒子を相互に結合する重合硬化物層を形成すると共に、該重合硬化物層間に水銀圧入法で測定した細孔容積(ここで、細孔とは細孔径が1~500nmの範囲の孔をいう)が0.01~0.30cm/gである凝集隙間を形成する、
    請求項1に記載の有機無機複合フィラーの製造方法。
  3. 請求項1又は2に記載の有機無機複合フィラーの製造方法により有機無機複合フィラーを得る工程、及び前記工程で得られた有機無機複合フィラー:100質量部と、(メタ)アクリル系重合性単量体:10~100質量部を混合する工程を含んでなることを特徴とする歯科用硬化性組成物の製造方法。
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