JP2023107374A - 歯科用硬化性組成物 - Google Patents

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宏伸 秋積
Hironobu Akitsumi
宏 森▲崎▼
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Abstract

【課題】稠度の経時変化が小さく、且つ、得られる硬化体の機械的強度に優れた歯科用硬化性組成物を提供する。【解決手段】本発明の歯科用硬化性組成物は、重合性単量体成分(A)と、球状の有機無機複合フィラー(B)と、平均一次粒子径が100~500nmの球状無機フィラー(C)と、重合開始剤(D)とを含有し、有機無機複合フィラー(B)は、有機樹脂マトリックス(b1)と、平均一次粒子径が100~500nmの球状無機フィラー(b2)とを含み、球状無機フィラー(C)は、表面が疎水性の疎水性球状無機フィラー(C1)と、表面が親水性の親水性球状無機フィラー(C2)とを含み、疎水性球状無機フィラー(C1)と親水性球状無機フィラー(C2)との合計の含有量に対する親水性球状無機フィラー(C2)の含有量の割合が、質量基準で0.1~0.5である。【選択図】なし

Description

本発明は、歯科用硬化性組成物に関する。
歯科用硬化性組成物は、一般に、重合性単量体(モノマー)、フィラー、及び重合開始剤を主成分とするペースト状組成物であり、使用するフィラーの種類、形状、粒子径、充填量等は、歯科用硬化性組成物の操作性や、硬化させて得られる硬化体の審美性、機械的強度等に影響を与える。
例えば、歯科用硬化性組成物に粒子径が大きな無機フィラーを配合した場合には、硬化体の機械的強度が高くなる反面、硬化体の表面滑沢性及び耐摩耗性が低下し、天然歯と同様の艶のある仕上がり面が得難くなる。他方、歯科用硬化性組成物に平均粒子径が1μm以下の微細な無機フィラーを配合した場合には、硬化体の表面滑沢性及び耐摩耗性を向上させることができるものの、微細な無機フィラーは比表面積が大きいため、歯科用硬化性組成物の粘度が大きく増加してしまう。歯牙の治療に際しては、歯科医が、歯科用硬化性組成物を口腔内での使用に適した稠度に調整する必要があり、稠度を低下させるために微細な無機フィラーの配合量を少なくした場合には、治療時の操作性の低下、歯科用硬化性組成物が硬化する際の重合収縮率の増加、さらには得られる硬化体の機械的強度の低下等を招くことがある。
このようなトレードオフの関係を回避するために、有機無機複合フィラーの使用が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。有機無機複合フィラーは、微細な無機フィラーを有機樹脂中に含有する複合フィラーであり、これを用いることにより、微細な無機フィラーを用いる場合の優れた表面滑沢性及び耐摩耗性を維持することができ、さらに重合収縮率を少なくすることも可能となる。なお、有機無機複合フィラーの配合量が多くなりすぎる場合には、ペーストの状態においてバサツキが生じてペーストの操作性が低下してしまうが、微細な無機フィラーと併用することにより、操作性の低下を防止し、優れた操作性の歯科用硬化性組成物とすることができる(例えば、特許文献2参照)。
上記の有機無機複合フィラーの製造方法としては、球状無機フィラーが凝集してなる無機凝集粒子を、重合性単量体、重合開始剤、及び有機溶媒を含む組成物に浸漬した後、有機溶媒を除去し、重合性単量体を加熱、光照射等の方法で硬化させる方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。この製造方法によれば、球状の有機無機複合フィラーを得ることができる。
特開2000-80013号公報 国際公開第2015/125470号 国際公開第2011/115007号
本発明者が、歯科用硬化性組成物に含有されるフィラーについて鋭意検討したところ、球状の有機無機複合フィラーと球状無機フィラーとを併用すると、組成物の稠度が経時的に変化し、また、硬化させて得られる硬化体の機械的強度が低下する傾向にあることが判明した。
そこで、本発明は、稠度の経時変化が小さく、且つ、得られる硬化体の機械的強度に優れた歯科用硬化性組成物を提供することを課題とする。
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 重合性単量体成分(A)と、球状有機無機複合フィラー(B)と、平均一次粒子径が100~500nmの球状無機フィラー(C)と、重合開始剤(D)とを含有し、
前記有機無機複合フィラー(B)は、有機樹脂マトリックス(b1)と、平均一次粒子径が100~500nmの球状無機フィラー(b2)とを含み、
前記球状無機フィラー(C)は、表面が疎水性の疎水性球状無機フィラー(C1)と、表面が親水性の親水性球状無機フィラー(C2)とを含み、
前記疎水性球状無機フィラー(C1)と前記親水性球状無機フィラー(C2)との合計の含有量に対する前記親水性球状無機フィラー(C2)の含有量の割合が、質量基準で0.1~0.5である、歯科用硬化性組成物。
<2> 無水トルエン中で測定した前記疎水性球状無機フィラー(C1)のメチルレッド添加前後におけるΔaの変化量Δa が10未満である、<1>に記載の歯科用硬化性組成物。
<3> 前記疎水性球状無機フィラー(C1)が、疎水化処理剤で表面処理された球状無機フィラーであり、前記親水性球状無機フィラー(C2)が、表面処理されていない球状無機フィラーである、<1>又は<2>に記載の歯科用硬化性組成物。
<4> 前記球状無機フィラー(b2)及び前記球状無機フィラー(C)のそれぞれの平均一次粒子径が230~500nmであり、且つ、前記球状無機フィラー(b2)及び前記球状無機フィラー(C)のそれぞれを構成する粒子のうち90%以上の数の粒子が平均一次粒子径の前後5%の範囲の一次粒子径を有し、
前記重合性単量体成分(A)、前記球状無機フィラー(b2)、及び前記球状無機フィラー(C)が、下記式(1)~(4):
nP<nFb2 (1)
(式(1)中、nPは、前記重合性単量体成分(A)の重合体の25℃における波長589nmの光に対する屈折率を表し、nFb2は、前記球状無機フィラー(b2)の25℃における波長589nmの光に対する屈折率を表す。)
nMb1<nFb2 (2)
(式(2)中、nMb1は、前記有機樹脂マトリックス(b1)の25℃における波長589nmの光に対する屈折率を表し、nFb2は、前記式(1)と同義である。)
nP<nF (3)
(式(3)中、nFは、前記球状無機フィラー(C)の25℃における波長589nmの光に対する屈折率を表し、nPは、前記式(1)と同義である。)
nMb1<nF (4)
(式(4)中、nMb1は、前記式(2)と同義であり、nFは、前記式(3)と同義である。)
を満足する、<1>~<3>のいずれか1項に記載の歯科用硬化性組成物。
<5> 前記有機無機複合フィラー(B)が細孔を有し、窒素吸着法で測定した、細孔径が1~500nmの範囲にある細孔の総細孔容積が0.01~0.30cm/gである、<1>~<4>のいずれか1項に記載の歯科用硬化性組成物。
本発明によれば、稠度の経時変化が小さく、且つ、得られる硬化体の機械的強度に優れた歯科用硬化性組成物を提供することができる。
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について詳細に説明する。
本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は、「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。
また、本明細書において、「(メタ)アクリル」との用語は、「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は、「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
本実施形態に係る歯科用硬化性組成物は、重合性単量体成分(A)と、球状の有機無機複合フィラー(B)と、平均一次粒子径が100~500nmの球状無機フィラー(C)と、重合開始剤(D)とを含有し、有機無機複合フィラー(B)は、有機樹脂マトリックス(b1)と、平均一次粒子径が100~500nmの球状無機フィラー(b2)とを含み、球状無機フィラー(C)は、表面が疎水性の疎水性球状無機フィラー(C1)と、表面が親水性の親水性球状無機フィラー(C2)とを含み、疎水性球状無機フィラー(C1)と親水性球状無機フィラー(C2)との合計の含有量に対する親水性球状無機フィラー(C2)の含有量の割合が、質量基準で0.1~0.5である。
一般に、球状の有機無機複合フィラーと球状無機フィラーとを併用した場合、組成物の稠度が経時的に変化し、また、硬化させて得られる硬化体の機械的強度が低下する傾向にある。この点、本実施形態に係る歯科用硬化性組成物では、疎水性球状無機フィラー(C1)と親水性球状無機フィラー(C2)とを併用しているため、稠度の経時変化が小さく、且つ、得られる硬化体の機械的強度に優れる。
なお、フィラーが「球状」であるとは、走査型電子顕微鏡で粒子の写真を撮り、その単位視野内にあるそれぞれの粒子(30個以上)について最大径を測定し、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で除して平均均斉度を求めたとき、平均均斉度が0.6以上であることを意味する。つまり、球状の有機無機複合フィラー及び球状無機フィラーの平均均斉度は、いずれも0.6以上である。これらフィラーの平均均斉度は、0.7以上あることが好ましく、0.8以上であることがより好ましい。また、これらフィラーは真球状であってもよい。そのため、これらフィラーの平均均斉度の上限値は1.0である。なお、有機無機複合フィラーの製造方法に起因し、有機無機複合フィラーの平均均斉度は、球状無機フィラーの平均均斉度よりも低くなる傾向にある。ただし、本発明は、このような組み合わせ(平均均斉度の低い有機無機複合フィラーと平均均斉度の高い無機フィラーとの組み合わせ)に限定されるものではない。
以下、本実施形態に係る歯科用硬化性組成物に含有される各成分について詳細に説明する。
<重合性単量体成分(A)>
重合性単量体成分(A)としては、従来の歯科用硬化性組成物において使用されるラジカル重合性単量体、カチオン重合性単量体等の重合性単量体を特に制限なく使用できる。中でも、汎用されている(メタ)アクリル化合物、具体的には酸性基含有(メタ)アクリル化合物、水酸基含有(メタ)アクリル化合物、酸性基及び水酸基を有しない単官能又は多官能の(メタ)アクリル化合物等を使用することが好ましい。
酸性基含有(メタ)アクリル化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸等が挙げられる。水酸基含有(メタ)アクリル化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス〔4-(4-メタクリロイルオキシ)-3-ヒドロキシブトキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-メタクリロイルオキシ)-3-ヒドロキシブトキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-メタクリロイルオキシ)-3-ヒドロキシブトキシフェニル〕プロパン等が挙げられる。酸性基及び水酸基を有しない単官能又は多官能の(メタ)アクリル化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン等が挙げられる。
これらの重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用してもよい。硬化前のペースト状態で適度な付形性を持たせつつバサツキを抑えるという観点から、酸性基及び水酸基を有しない多官能の(メタ)アクリル化合物を、必要に応じて酸性基及び水酸基を有しない単官能の(メタ)アクリル化合物、水酸基含有(メタ)アクリル化合物等と混合して使用することが好ましい。
<有機無機複合フィラー(B)>
有機無機複合フィラー(B)は、有機樹脂マトリックス(b1)と、球状無機フィラー(b2)とを含む。
有機樹脂マトリックス(b1)としては、重合性単量体成分(A)として記載したものと同じ重合性単量体を用いて得られる単独重合体又は共重合体を特に制限なく採用可能である。
有機樹脂マトリックス(b1)は、重合性単量体成分(A)の重合体と同じであっても異なっていてもよいが、透明性の観点から、有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1と重合性単量体成分(A)の重合体の屈折率nPとの屈折率差は、0.005以下であることが好ましい。また、屈折率差によって光の拡散性を付与でき、歯牙との色調適合性を向上できるという観点から、屈折率差は、0.001~0.005の範囲がより好ましい。
なお、重合性単量体成分(A)の重合体や有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率は、25℃にてアッベ屈折率計を用いてナトリウムD線(波長589nm)に対する屈折率を測定することにより求めることができる。以下、本明細書において「屈折率」と記載する場合は、25℃における波長589nmの光に対する屈折率を意味するものとする。
球状無機フィラー(b2)としては、従来の歯科用硬化性組成物において使用される球状無機フィラーを特に制限なく使用できる。具体的には、非晶質シリカ、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子(シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア等)、石英、アルミナ、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ランタンガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、フッ化イッテルビウム、ジルコニア、チタニア、コロイダルシリカ等の無機粉体が挙げられる。
これらの中でも、屈折率の調整が容易であることから、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子が好ましい。
シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子とは、シリカとチタン族元素(周期律表第4族元素)酸化物との複合酸化物であり、シリカ・チタニア、シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア・ジルコニア等が挙げられる。このうち、フィラーの屈折率の調整が可能であるほか、高いX線不透過性も付与できることから、シリカ・ジルコニアが好ましい。その複合比は特に制限されないが、十分なX線不透過性を付与すること、及び屈折率を後述する好適な範囲に調整する観点から、シリカの含有率が70~95モル%であり、チタン族元素酸化物の含有率が5~30モル%であるものが好ましい。シリカ・チタン族酸化物系複合酸化物粒子の屈折率は、シリカ分の含有量に応じて1.45~1.58程度の範囲となる。
なお、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子には、少量であれば、シリカ及びチタン族元素酸化物以外の金属酸化物の複合も許容される。具体的には、酸化ナトリウム、酸化リチウム等のアルカリ金属酸化物を10モル%以内で含有させてもよい。
シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子の製造方法は特に限定されないが、例えば、加水分解可能な有機ケイ素化合物と加水分解可能な有機チタン族金属化合物とを含んだ混合溶液を、アルカリ性溶媒中に添加し、加水分解を行って反応生成物を析出させる、いわゆるゾルゲル法が好適に採用される。
これらのシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子は、シランカップリング剤により表面処理されていてもよい。シランカップリング剤による表面処理により、有機無機複合フィラーとしたときに有機樹脂マトリックス(b1)との界面強度に優れたものになる。代表的なシランカップリング剤としては、γ-メタクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等の有機ケイ素化合物が挙げられる。これらシランカップリング剤の表面処理量に特に制限はなく、得られる歯科用硬化性組成物の硬化体の機械的物性等を予め実験で確認した上で最適値を決定すればよいが、好適な範囲を例示すれば、球状無機フィラー(b2)100質量部に対して0.1~15質量部の範囲である。
球状無機フィラー(b2)の平均一次粒子径は、100~500nmであり、230~500nmであることが好ましい。
なお、球状無機フィラー(b2)の「平均一次粒子径」は、走査型電子顕微鏡により粒子の写真を撮影し、その写真の単位視野内に観察される粒子の30個以上を選択し、それぞれの粒子径(最大径)を求めた平均値をいう。以下、本明細書において「平均一次粒子径」と記載する場合は、同様の方法で測定した平均一次粒子径を意味するものとする。
有機無機複合フィラー(B)中の球状無機フィラー(b2)の充填率は、30~95質量%であることが好ましく、40~90質量%であることがより好ましい。
有機無機複合フィラー(B)の製造方法は特に限定されず、例えば、国際公開第2011/115007号又は国際公開第2013/039169号に記載された製造方法を採用することができる。この製造方法では、球状無機フィラー(b2)が凝集してなる無機凝集粒子を、重合性単量体、重合開始剤、及び有機溶媒を含む組成物に浸漬した後、有機溶媒を除去し、重合性単量体を加熱、光照射等の方法で重合硬化させる。国際公開第2011/115007号又は国際公開第2013/039169号に記載された製造方法によれば、無機一次粒子が凝集した無機凝集粒子の各無機一次粒子の表面を覆うとともに、各無機一次粒子を相互に結合する有機樹脂相を有し、各無機一次粒子の表面を覆う有機樹脂相の間に凝集間隙が形成されている有機無機複合フィラーが得られる。
重合開始剤としては、公知の重合開始剤が特に制限なく用いられるが、より黄色度の低い硬化体を得ることができることから、熱重合開始剤を用いるのが好ましく、構造中に芳香族環を有していない化合物からなる熱重合開始剤を用いるのがより好ましい。
上記の製造方法で製造された有機無機複合フィラーは、表面に細孔を有するものとなる。このように表面に細孔を有する有機無機複合フィラーを用いることで、重合性単量体成分(A)が細孔内に浸透して硬化するアンカー効果により、硬化体の機械的強度をより高めることが可能となる。
有機無機複合フィラーが細孔を有する場合、窒素吸着法で測定した、細孔径が1~500nmの範囲にある細孔の総細孔容積は、0.01~0.30cm/gであることが好ましく、0.01~0.20cm/gであることがより好ましい。また、平均細孔径は、3~300nmであることが好ましく、10~200μmであることがより好ましい。
なお、総細孔容積は、窒素吸着による等温吸着曲線からBJH法により細孔径分布を測定することによって求めることができる。また、平均細孔径は、窒素吸着による等温吸着曲線からBJH法により細孔径分布を測定することによって求めた細孔容積と、BET法により算出された比表面積とから算出することができる。
有機無機複合フィラー(B)の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、歯科用硬化性組成物の操作性及び得られる硬化体の機械的強度を良好にする観点から、2~100μmであることが好ましく、5~50μmであることがより好ましく、5~30μmであることがさらに好ましい。
有機無機複合フィラー(B)は、その効果を阻害しない範囲で、公知の添加剤を含有していてもよい。添加剤として具体的には、顔料、重合禁止剤、蛍光増白剤等が挙げられる。これらの添加剤はそれぞれ、通常、有機無機複合フィラー100質量部に対して、0.0001~5質量部の割合で使用される。
また、有機無機複合フィラー(B)は、洗浄又はシランカップリング剤等による表面処理がなされていてもよい。
有機無機複合フィラー(B)の含有量は、重合性単量体成分(A)100質量部に対して、50~1000質量部であることが好ましい。歯科用硬化性組成物の操作性及び得られる硬化体の機械的強度を良好にするためには、有機無機複合フィラー(B)の含有量は、重合性単量体成分(A)100質量部に対して、70~600質量部であることがより好ましく、100~400質量部であることがさらに好ましい。
<球状無機フィラー(C)>
球状無機フィラー(C)は、表面が疎水性の疎水性球状無機フィラー(C1)と、表面が親水性の親水性球状無機フィラー(C2)とを含む。
本明細書において、球状無機フィラーの表面が疎水性であるか親水性であるかは、無水トルエン中における、メチルレッド滴下前後のΔaの変化量Δa (以下、「MR呈色値」ともいう。)により分類するものとする。すなわち、球状無機フィラーの表面に親水性である酸点が少なく、MR呈色値が10未満である場合には、その球状無機フィラーは疎水性球状無機フィラー(C1)であるとする。一方、球状無機フィラーの表面に親水性である酸点が多く、MR呈色値が10以上である場合には、その球状無機フィラーは親水性球状無機フィラー(C2)であるとする。疎水性球状無機フィラー(C1)のMR呈色値は、0.5~9であることが好ましく、1~8であることがより好ましい。また、親水性球状無機フィラー(C2)のMR呈色値は、10~40であることが好ましく、10~30であることがより好ましい。
なお、球状無機フィラーのMR呈色値は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
[疎水性球状無機フィラー(C1)]
疎水性球状無機フィラー(C1)としては、例えば、表面が疎水化処理剤で処理された球状無機フィラーを使用することができる。ここで、「疎水化処理剤で処理された」とは、表面処理前の球状無機フィラー(以下、「被処理球状無機フィラー」ともいう。)の表面に疎水化処理剤が化学的又は物理的に作用して固定化(化学結合による固定化のほか、付着又は吸着による固定化も含む)されることにより、当該表面が改質された状態となっていることを意味する。
以下、疎水化処理剤、被処理球状無機フィラー、及び表面処理方法について詳細に説明する。
(疎水化処理剤)
疎水化処理剤としては、被処理球状無機フィラーの表面に存在する官能基と反応して当該表面に疎水性を付与できるものであれば特に限定されないが、反応性の高さの観点から、シランカップリング剤及び/又はチタネート系カップリング剤が好適に使用される。
好適に使用される疎水化処理剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル-トリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、κ-メタクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピル-トリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピル-トリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピル-トリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
疎水化処理剤の好適な使用量(表面処理量)は、使用する被処理球状無機フィラーの総表面積に応じて適宜決定すればよいが、通常は、被処理球状無機フィラー100質量部に対して1~30質量部である。
(被処理球状無機フィラー)
被処理球状無機フィラーとしては、有機無機複合フィラー(B)を構成する球状無機フィラー(b2)として使用されるものが制限なく使用できる。具体的には、非晶質シリカ、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子(シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア等)、石英、アルミナ、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ランタンガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、フッ化イッテルビウム、ジルコニア、チタニア、コロイダルシリカ等の無機粉体が挙げられる。これらの中でも、屈折率の調整が容易であることから、球状無機フィラー(b2)と同様に、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子が好ましい。
被処理球状無機フィラーの平均一次粒子径は、100~500nmであり、230~500nmであることが好ましい。
被処理球状無機フィラーとしては、球状無機フィラー(b2)と実質的に同一の平均一次粒子径及び屈折率を有する球状無機フィラーを用いることが好ましい。なお、本明細書において、「実質的に同一の平均一次粒子径及び屈折率を有する」とは、平均一次粒子径に関しては、その差が10nm以内、より好ましくは5nm以内であり、屈折率に関しては、その差が0.01以内、より好ましくは0.005以内である。
(表面処理方法)
被処理球状無機フィラーの表面処理方法は特に限定されないが、操作が簡便で、表面改質効果も高いという理由から、被処理球状無機フィラー及び水を含有する第1分散液を準備する工程(以下、「第1分散液準備工程」ともいう。)と、加水分解性基を有する疎水化処理剤及び水を含有し、疎水化処理剤の少なくとも一部が加水分解した状態で溶解又は分散してなる第2分散液を準備する工程(以下、「第2分散液準備工程」ともいう。)と、第1分散液及び第2分散液を混合した後、得られた混合液を噴霧乾燥する工程(以下、「混合・噴霧乾燥工程」ともいう。)とを含んでなる方法を採用することが好ましい。
第1分散液準備工程では、被処理球状無機フィラーを含有する第1分散液を調製する。第1分散液の調製方法は特に限定されず、例えば、ビーズミル等の混合装置を用いて、水系媒体に被処理球状無機フィラーを分散させることにより調製できる。分散媒としては水が用いられるが、必要に応じて、エタノール、イソプロピルアルコール、クロロホルム、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒を添加してもよい。分散媒の使用量は、通常、被処理球状無機フィラー100質量部に対して100~400質量部である。
第2分散液準備工程では、加水分解性基を有する疎水化処理剤を使用する。加水分解性基としては、Si原子やTi原子等に結合したアルコキシ基(-OR:Rは非置換又は置換のアルキル基)が好適であり、疎水化処理剤としては、このような加水分解性基を有するシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤を特に制限なく使用できる。これらの疎水化処理剤は、水(必要に応じて酢酸等の加水分解触媒を加えていてもよい)と混合することにより自然に加水分解が生じ、Si-OH基やTi-OH基が形成される。分散媒としては水が用いられるが、必要に応じて、エタノール、イソプロピルアルコール、クロロホルム、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒を添加してもよい。分散媒の使用量は、通常、混合される第1分散液中の被処理球状無機フィラー100質量部に対して100~400質量部である。
混合・噴霧乾燥工程では、第1分散液と第2分散液とを、撹拌機を用いる等の方法により均一になるまで混合した後、得られた混合液を噴霧乾燥する。このとき、噴霧乾燥時において粒子が凝集してできる凝集粒子の内部にマクロ空隙が形成され難いという理由から、混合液中における被処理球状無機フィラーが5~50質量%、好ましくは20~45質量%となるように、第1分散液中の被処理球状無機フィラーの濃度、及び/又は第2分散液の量を調整することが好ましい。
噴霧乾燥法としては、高速の気流を用いて、上記の混合液を細かい液滴にして噴霧し、乾燥させる方法;1000~50000rpmの回転速度で回転する円盤状の回転体上に上記の混合液を滴下し、遠心力によってこれを霧状に弾き飛ばして乾燥させる方法;等を採用できる。乾燥過程における不可避的な粒子の凝集により、得られる粒子は凝集粒子となるが、粒度の揃った凝集粒子が得られるという理由から、噴霧状にされた上記の混合液を、直ちに高温の空気や不活性気体等によって乾燥させることが好ましい。乾燥に使用する気体の温度は、60~300℃が好ましく、80~250℃がより好ましい。
なお、噴霧乾燥により得られる凝集粒子には、僅かであるが分散媒の水に添加した溶媒が残留することがある。このため、噴霧乾燥の後に、さらに真空乾燥を行うことが好ましい。真空乾燥は、0.01~100hPaの減圧下、20~150℃で1~48時間行うのが一般的である。
得られる凝集粒子は、必要に応じて粉砕して使用される。粉砕手段としては、振動ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いることができる。また、粒径又は粒度の調整には、篩、エアー分級機、水簸分級機等を用いることができる。
疎水性球状無機フィラー(C1)の平均一次粒子径は、100~500nmであり、230~500nmであることが好ましい。なお、上述した被処理球状無機フィラーの表面が疎水化処理剤で処理された場合であっても、表面処理後の球状無機フィラーの平均一次粒子径は、表面処理前の被処理球状無機フィラーの平均一次粒子径とほぼ同じである。
[親水性球状無機フィラー(C2)]
親水性球状無機フィラー(C2)としては、例えば、表面処理されていない球状無機フィラーを使用することができる。
表面処理されていない球状無機フィラーとしては、有機無機複合フィラー(B)を構成する球状無機フィラー(b2)として使用されるものが制限なく使用できる。具体的には、非晶質シリカ、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子(シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア等)、石英、アルミナ、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ランタンガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、フッ化イッテルビウム、ジルコニア、チタニア、コロイダルシリカ等の無機粉体が挙げられる。これらの中でも、屈折率の調整が容易であることから、球状無機フィラー(b2)と同様に、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子が好ましい。
表面処理されていない球状無機フィラーとしては、球状無機フィラー(b2)と実質的に同一の平均一次粒子径及び屈折率を有する球状無機フィラーを用いることが好ましい。
親水性球状無機フィラー(C2)の平均一次粒子径は、100~500nmであり、230~500nmであることが好ましい。
球状無機フィラー(C)の含有量は、重合性単量体成分(A)100質量部に対して、10~1000質量部であることが好ましい。歯科用硬化性組成物の操作性及び得られる硬化体の機械的強度を良好にするためには、球状無機フィラー(C)の含有量は、重合性単量体成分(A)100質量部に対して、30~600質量部であることがより好ましく、50~400質量部であることがさらに好ましい。
また、疎水性球状無機フィラー(C1)と親水性球状無機フィラー(C2)との合計量に対する親水性球状無機フィラー(C2)の含有量の質量基準での比(C2/(C1+C2))は、0.1~0.5であり、0.1~0.3であることが好ましい。
また、有機無機複合フィラー(B)及び球状無機フィラー(C)の合計量に対する球状無機フィラー(C)の含有量の質量基準での比(C/(B+C))は、歯科用硬化性組成物の操作性の観点から、0.1~0.9であることが好ましく、0.1~0.8であることがより好ましく、0.1~0.5であることがさらに好ましい。
<重合性単量体成分(A)、有機無機複合フィラー(B)、及び球状無機フィラー(C)の好ましい態様>
本実施形態に係る歯科用硬化性組成物の硬化体に光の干渉による着色光を発現させ、天然歯に近い修復を可能とするためには、球状無機フィラー(b2)及び球状無機フィラー(C)のそれぞれの平均一次粒子径が230~500nmであり、且つ、球状無機フィラー(b2)及び球状無機フィラー(C)のそれぞれを構成する粒子のうち90%以上の数の粒子が平均一次粒子径の前後5%の範囲の一次粒子径を有し、重合性単量体成分(A)、球状無機フィラー(b2)、及び球状無機フィラー(C)が、下記式(1)~(4)の条件を満足することが好ましい。
nP<nFb2 (1)
(式(1)中、nPは、重合性単量体成分(A)の重合体の屈折率を表し、nFb2は、球状無機フィラー(b2)の屈折率を表す。)
nMb1<nFb2 (2)
(式(2)中、nMb1は、有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率を表し、nFb2は、上記式(1)と同義である。)
nP<nF (3)
(式(3)中、nFは、球状無機フィラー(C)の屈折率を表し、nPは、上記式(1)と同義である。)
nMb1<nF (4)
(式(4)中、nMb1は、上記式(2)と同義であり、nFは、上記式(3)と同義である。)
干渉による着色光を発現させ、天然歯に近い修復を可能とするためには、球状無機フィラー(b2)及び球状無機フィラー(C)のそれぞれの平均一次粒子径が230~500nmであり、且つ、球状無機フィラー(b2)及び球状無機フィラー(C)のそれぞれを構成する粒子のうち90%以上の数の粒子が平均一次粒子径の前後5%の範囲の一次粒子径を有することが重要である。つまり、球状無機フィラー(b2)及び球状無機フィラー(C)は、いずれも複数の一次粒子から構成されており、該複数の一次粒子の平均粒子径の前後5%の範囲に、全体の一次粒子のうち90%以上の数の一次粒子が存在している。干渉による着色光の発現は、ブラッグ条件に則って回折干渉が起こり、特定波長の光が強調されることによるものである。上記粒子径の粒子を配合すると、その粒子径に従って、その硬化体は黄色~赤色系の着色光を発現するようになる。エナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞に対して歯質との優れた色調適合性を得る観点から、着色光の波長は、550~770nmであることが好ましい。
上記のとおり、歯科用硬化性組成物の硬化体は、球状無機フィラー(b2)及び球状無機フィラー(C)の粒子径に応じて様々な着色光を発現する。したがって、所望の着色光が得られるように、球状無機フィラー(b2)及び球状無機フィラー(C)の平均一次粒子径を230~500nmの範囲から決定すればよい。平均一次粒子径が230~260nmの範囲の球状無機フィラーを用いた場合、得られる着色光は黄色系であり、シェードガイド「VITAPAN Classical」におけるB系(赤黄色)の範疇にある歯牙の修復に有用で、特にエナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞の修復に有用である。平均一次粒子径が260~350nmの範囲の球状無機フィラーを用いた場合、得られる着色光は赤色系であり、シェードガイド「VITAPAN Classical」におけるA系(赤茶色)の範疇にある歯牙の修復に有用で、特にエナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞の修復に有用である。象牙質の色相はこのような赤色系のものが多いため、平均一次粒子径が260~350nmの範囲の球状無機フィラーを用いる態様において、多様な色調の修復歯牙に対して幅広く適合性が良くなり最も好ましい。なお、平均一次粒子径が230nm未満の球状無機フィラーを用いた場合、得られる着色光は青色系であり、エナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞に対しては歯質との色調適合性が不良となりやすいが、エナメル質の修復には有用であり、特に切端部の修復に有用である。
天然歯に近い修復が可能な色調適合性を実現するためには、上記式(1)及び(2)の条件を満足することが重要である。すなわち、球状無機フィラー(b2)の屈折率nFb2は、重合性単量体成分(A)の重合体の屈折率nP及び有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb2よりも高い状態にあるということである。
天然歯に近い修復が可能な色調適合性を実現するため、球状無機フィラー(b2)の屈折率nFb2と重合性単量体成分(A)の重合体の屈折率nPとの屈折率差、及び球状無機フィラー(b2)の屈折率nFb2と有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1との屈折率差は、0.001以上とすることが好ましく、0.002以上とすることがより好ましい。
また、歯科用硬化性組成物の硬化体が適度な透明性を有する場合に、干渉による着色光が鮮明に発現し、色調適合性が向上することから、球状無機フィラー(b2)の屈折率nFb2と重合性単量体成分(A)の重合体の屈折率nPとの屈折率差、及び球状無機フィラー(b2)の屈折率nFb2と有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1との屈折率差は、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下とし、透明性をできるだけ損なわないようにするのがよい。
また、天然歯に近い修復が可能な色調適合性を実現するためには、上記式(3)及び(4)の条件を満足することも重要である。すなわち、球状無機フィラー(C)の屈折率nFは、重合性単量体成分(A)の重合体の屈折率nP及び有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1よりも高い状態にあるということである。
天然歯に近い修復が可能な色調適合性を実現するため、球状無機フィラー(C)の屈折率nFと重合性単量体成分(A)の重合体の屈折率nPとの屈折率差、及び球状無機フィラー(C)の屈折率nFと有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1との屈折率差は、0.001以上とすることが好ましく、0.002以上とすることがより好ましい。
また、歯科用硬化性組成物の硬化体の透明性が高い場合に、より鮮明に着色光が発現し、良好な色調適合性を示すことから、球状無機フィラー(C)の屈折率nFと重合性単量体成分(A)の重合体の屈折率nPとの屈折率差、及び球状無機フィラー(C)の屈折率nFと有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率nMb1との屈折率差は、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.05以下とし、透明性をできるだけ損なわないようにするのがよい。
なお、重合性単量体成分(A)としては、歯科用硬化性組成物の硬化体の物性(機械的特性及び歯質に対する接着性)調整のため、一般に、複数種の重合性単量体が使用されるが、その際、重合性単量体成分(A)の屈折率が1.38~1.55の範囲となるように、重合性単量体の種類及び量を設定することが、球状無機フィラー(b2)及び球状無機フィラー(C)との屈折率差の観点から望ましい。すなわち、球状無機フィラー(b2)及び球状無機フィラー(C)として屈折率の調整が容易なシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物を用いる場合、その屈折率nFb2はシリカ分の含有量に応じて1.45~1.58程度の範囲となるが、重合性単量体成分(A)の屈折率を1.38~1.55の範囲に設定することにより、重合性単量体成分(A)から得られる重合体の屈折率nPを、おおよそ1.40~1.57の範囲に設定でき、上記式(1)及び(3)を満足させることが容易である。なお、重合性単量体成分(A)として複数種の重合性単量体を用いる場合、複数種の重合性単量体を混合した混合物の屈折率が上記範囲に入っていればよく、個々の重合性単量体は必ずしも上記範囲に入っていなくてもよい。
<重合開始剤(D)>
重合開始剤としては、公知の重合開始剤を特に制限なく使用することができる。中でも、口腔内で硬化させることが多い歯科の直接充填修復用途では、光重合開始剤又は化学重合開始剤が好ましく、混合操作の必要がなく簡便な点から、光重合開始剤がより好ましい。
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類;ベンゾフェノン、4,4'-ジメチルベンゾフェノン、4-メタクリロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;ジアセチル、2,3-ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10-フェナントラキノン、9,10-アントラキノン等のα-ジケトン類;2,4-ジエトキシチオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物;ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のビスアシルホスフィンオキサイド類;などが挙げられる。
光重合開始剤は、しばしば還元剤と併用される。還元剤の例としては、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N-メチルジエタノールアミン等の第3級アミン類;ラウリルアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド等のアルデヒド類;2-メルカプトベンゾオキサゾール、1-デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸等の含硫黄化合物;などが挙げられる。
さらに、光重合開始剤及び還元剤に加えて光酸発生剤を併用する例がしばしば見られる。このような光酸発生剤の例としては、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、ハロメチル置換-S-トリアジン誘導体、ピリジニウム塩系化合物等が挙げられる。
重合開始剤の含有量は、目的に応じて有効量を選択すればよいが、重合性単量体成分(A)100質量部に対して、通常0.01~10質量部、好ましくは0.1~5質量部の割合で使用される。
<その他の成分>
本実施形態に係る歯科用硬化性組成物は、粘度調整等を目的として、光の波長よりも十分に小さく、色調及び透明性に影響を与え難い0.1μm未満の粒径のフィラーを含有していてもよい。ただし、本実施形態に係る歯科用硬化性組成物に含有される全てのフィラーを合わせた充填率は、40~95質量%であることが好ましく、50~90質量%であることがより好ましい。
また、本実施形態に係る歯科用硬化性組成物は、その効果を阻害しない範囲で、重合禁止剤、紫外線吸収剤等の他の添加剤を含有していてもよい。
本実施形態に係る歯科用硬化性組成物は、光硬化性コンポジットレジンに代表される歯科用充填修復材料として特に好適に使用されるが、それに限定されるものではなく、その他の用途にも好適に使用できる。その用途としては、例えば、歯科用セメント、支台築造用の修復材料等が挙げられる。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
実施例及び比較例における各種物性の測定方法は、それぞれ以下のとおりである。
(1)平均一次粒子径
走査型電子顕微鏡(「XL-30S」、フィリップス社製)で粉体の写真を5000~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(「IP-1000PC」、旭化成エンジニアリング(株)製)を用いて撮影した画像の処理を行い、その写真の単位視野内に観察される粒子の数(30個以上)及び粒子径(最大径)を測定し、測定値に基づき下記式により平均一次粒子径を算出した。
Figure 2023107374000001
(2)平均粒径粒子の存在割合
上記(1)で得られた平均一次粒子径から前後5%を超えた粒子数を計測し、写真の単位視野内に観察される粒子の数(30個以上)で除し、得られた値を1から引いて100倍して、平均一次粒子径の前後5%の範囲に存在する粒子の割合(%)を算出し、平均粒径粒子の存在割合とした。
(3)平均均斉度
走査型電子顕微鏡で粉体の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子について、その数(n:30以上)、粒子の最大径である長径(Li)、該長径に直交する方向の径である短径(Bi)を求め、下記式により平均均斉度を算出した。
Figure 2023107374000002
(4)有機無機複合フィラーの平均粒子径(粒度)
0.1gの有機無機複合フィラーをエタノール10mLに分散させ、超音波を20分間照射した。レーザー回折-散乱法による粒度分布計(「LS230」、ベックマンコールター社製)を用い、光学モデル「フラウンフォーファー」(Fraunhofer)を適用して、体積統計のメディアン径を求めた。
(5)MR呈色値の測定
100℃で3時間以上乾燥させた後、五酸化二燐を収容したデシケーター内で保管した球状無機フィラー1gを、内径約16mmのサンプル管に入れ、次いで無水トルエン3gを入れて激しく振盪し、凝集物の無いように分散させた。分散後、サンプル管を静置し、球状無機フィラーを沈降させた。完全に沈降した後、予め白背景にてスタンダードを測定しておいた色差計(「TC-1800MKII」、(有)東京電色製)の測定孔がサンプル管の底の中心に位置するように置き、黒背景にて色差を測定し、このときのa値をambとした。色差測定後、サンプル管に、遮光下で保存した0.004mol/Lのメチルレッド(東京化成工業(株)製)の無水トルエン溶液を1滴(約0.016g)加え、同様に振盪及び静置した後に色差を測定し、このときのa値をamaとした。そして、下記式:
Δam=ama-amb
によりΔamを求め、その値をMR呈色値とした。
(6)屈折率の測定
(6-1)重合性単量体成分(A)の屈折率
用いた重合性単量体(又は重合性単量体の混合物)の屈折率は、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて25℃の恒温室にて測定した(測定波長:589nm)。
(6-2)重合性単量体成分(A)の重合体の屈折率
重合性単量体(又は重合性単量体の混合物)の重合体の屈折率は、窩洞内での重合条件とほぼ同じ条件で重合した重合体を、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて25℃の恒温室にて測定した(測定波長:589nm)。
すなわち、0.2質量%のカンファーキノン、0.3質量%のN,N-ジメチルp-安息香酸エチル、及び0.15質量%のヒドロキノンモノメチルエーテルを混合した均一な重合性単量体(又は重合性単量体の混合物)を、7mmφ×0.5mmの孔を有する型に入れ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。その後、光量500mW/cmのハロゲン型歯科用光照射器(「Demetron LC」、サイブロン社製)を用いて30秒間光照射して硬化させた後、型から取り出して、重合性単量体の重合体を作製した。アッベ屈折率計((株)アタゴ製)に重合体をセットする際に、重合体と測定面を密着させる目的で、試料を溶解せず、且つ、試料よりも屈折率の高い溶媒(ブロモナフタレン)を試料に滴下し、屈折率を測定した。
(6-3)有機樹脂マトリックス(b1)の屈折率
有機樹脂マトリックスの屈折率は、有機無機複合フィラーの製造時の重合条件とほぼ同じ条件で重合した重合体を、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて25℃の恒温室にて測定した(測定波長:589nm)。
すなわち、0.5質量%のアゾビスイソブチロニトリルを混合した均一な重合性単量体(又は重合性単量体の混合物)を、7mmφ×0.5mmの孔を有する型に入れ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。その後、窒素加圧下で1時間加熱して重合硬化させた後、型から取り出して、重合性単量体の重合体(有機樹脂マトリックス)を作製した。アッベ屈折率計((株)アタゴ製)に重合体をセットする際に、重合体と測定面を密着させる目的で、試料を溶解せず、且つ、試料よりも屈折率の高い溶媒(ブロモナフタレン)を試料に滴下し、屈折率を測定した。
(6-4)球状無機フィラー(b2)及び球状無機フィラー(C)の屈折率
球状無機フィラー(b2)及び球状無機フィラー(C)の屈折率は、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて液浸法によって測定した(測定波長:589nm)。
すなわち、25℃の恒温室において、100mLのサンプル瓶中、球状無機フィラー1gを無水トルエン50mL中に分散させた。この分散液をスターラーで撹拌しながら1-ブロモトルエンを少しずつ滴下し、分散液が最も透明になった時点の分散液の屈折率を測定し、得られた値を球状無機フィラーの屈折率とした。
(7)稠度の評価
実施例及び比較例で調製された歯科用硬化性組成物のペースト0.15gをポリプロピレンフィルム上に計り取り、直径10mmの円形に整形した。計量後、試料の上にポリプロピレンフィルムを載せ、354.6gの荷重で30秒間圧接した。圧接後のペーストを硬化させた後、その広がり径を測定し、広がり径の半径(mm)を稠度とした。なお、稠度は、調製初期(調製初日)、調製28日後、調製56日後、調製112日後の歯科用硬化性組成物を用いて評価した。
(8)曲げ強さの測定
実施例及び比較例で調製された歯科用硬化性組成物のペーストについて、充填器を用いてステンレス製型枠に充填し、ポリプロピレンフィルムで圧接した状態で、可視光線照射器(パワーライト、(株)トクヤマ製)を用いて一方の面から30秒×3回、全体に光が当たるように場所を変えてポリプロピレンフィルムに密着させて光照射を行った。次いで、反対の面からも同様にポリプロピレンフィルムに密着させて30秒×3回光照射を行い、硬化体を得た。#1500の耐水研磨紙にて、硬化体を2×2×25mmの角柱状に整え、この試料片を試験機(「オートグラフAG5000D」、(株)島津製作所製)に装着し、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で3点曲げ破壊強度を測定した。そして、以下に示した式により曲げ強度σを求め、試験片5個について評価した平均値を曲げ強さとした。なお、σは曲げ強さ(Pa)、Pは試験片破折時の荷重(N)、Sは支点間距離(m)、Wは試験片の幅(m)、Bは試験片の厚さ(m)をそれぞれ示す。
Figure 2023107374000003
(9)目視による着色光の評価
実施例及び比較例で調製された歯科用硬化性組成物のペーストを7mmφ×1mmの孔を有する型にいれ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。可視光線照射器(パワーライト、(株)トクヤマ製)で両面を30秒間ずつ光照射して硬化させた後、型から取り出して、10mm角程度の黒いテープ(カーボンテープ)の粘着面に載せ、目視にて着色光の色調を確認した。
(10)着色光の波長
実施例及び比較例で調製された歯科用硬化性組成物のペーストを7mmφ×1mmの孔を有する型にいれ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。可視光線照射器(パワーライト、(株)トクヤマ製)で両面を30秒間ずつ光照射し硬化させた後、型から取り出して、色差計(「TC-1800MKII」、(有)東京電色製)を用いて、背景色黒(マンセル表色系による明度が1の下地が背景)及び背景色白(マンセル表色系による明度が9.5の下地が背景)で分光反射率を測定し、背景色黒における反射率の極大点を着色光の波長とした。
(11)色調適合性の評価
右下6番のI級窩洞(直径4mm、深さ2mm)を再現した硬質レジン歯を用いて、欠損部に歯科用硬化性組成物のペーストを充填して硬化、研磨し、色調適合性を目視にて確認した。評価基準を以下に示す。なお、硬質レジン歯としては、シェードガイド「VITAPAN Classical」におけるA系(赤茶色)の範疇の中にある、高彩度の硬質レジン歯(A4相当)及び低彩度の硬質レジン歯(A1相当)、並びにシェードガイド「VITAPAN Classical」におけるB系(赤黄色)の範疇の中にある、高彩度の硬質レジン歯(B4相当)及び低彩度の硬質レジン歯(B1相当)を用いた。
-評価基準-
5:修復物の色調が硬質レジン歯と見分けがつかない。
4:修復物の色調が硬質レジン歯と良く適合している。
3:修復物の色調が硬質レジン歯と類似している。
2:修復物の色調が硬質レジン歯と類似しているが適合性は良好でない。
1:修復物の色調が硬質レジン歯と適合していない。
(12)色調経時変化
実施例及び比較例で調製された歯科用硬化性組成物のペーストを7mmφ×1mmの孔を有する型にいれ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。可視光線照射器(パワーライト、(株)トクヤマ製)で両面を30秒間ずつ光照射して硬化させた後、型から取り出して、水中下37℃にて4か月間保管し、色調を、色差計(「TC-1800MKII」、(有)東京電色製)を用いて測定し、以下に式に従って、保管前後の色調の差をCIELabにおけるΔEで表した。なお、L1は保管後の硬化体の明度指数、a1、b1は保管後の硬化体の色質指数、L2は保管前の硬化体の明度指数、a2、b2は保管前の硬化体の色質指数、ΔEは色調変化量をそれぞれ示す。
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2
ΔL=L1-L2
Δa=a1-a2
Δb=b1-b2
実施例及び比較例で用いた各成分は以下のとおりである。
[重合性単量体]
・UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・bis-GMA:2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン
[重合開始剤]
・CQ:カンファーキノン
・DMBE:N,N-ジメチルp-安息香酸エチル
・AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
[重合禁止剤]
・HQME:ヒドロキノンモノメチルエーテル
[疎水性球状無機フィラー]
・SF-1:ゾルゲル法で製造した球状のシリカ-ジルコニア粒子をγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したもの(平均一次粒子径:150nm、平均均斉度:0.98、平均粒径粒子の存在割合:93%、屈折率:1.515、MR呈色値:6)
・SF-2:ゾルゲル法で製造した球状のシリカ-ジルコニア粒子をγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したもの(平均一次粒子径:260nm、平均均斉度:0.96、平均粒径粒子の存在割合:93%、屈折率:1.515、MR呈色値:6)
・SF-3:ゾルゲル法で製造した球状のシリカ-ジルコニア粒子をγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したもの(平均一次粒子径:400nm、平均均斉度:0.96、平均粒径粒子の存在割合:94%、屈折率:1.515、MR呈色値:6)
・SF-4:ゾルゲル法で製造した球状のシリカ-ジルコニア粒子をγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したもの(平均一次粒子径:260nm、平均均斉度:0.96、平均粒径粒子の存在割合:93%、屈折率:1.522、MR呈色値:7)
・SF-5:ゾルゲル法で製造した球状のシリカ-ジルコニア粒子をγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したもの(平均一次粒子径:260nm、平均均斉度:0.96、平均粒径粒子の存在割合:93%、屈折率:1.542、MR呈色値:8)
・SF-6:ゾルゲル法で製造した球状のシリカ-チタニア粒子をγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したもの(平均一次粒子径:260nm、平均均斉度:0.96、平均粒径粒子の存在割合:91%、屈折率:1.515、MR呈色値:3)
[親水性球状無機フィラー]
・F-1:ゾルゲル法で製造した球状のシリカ-ジルコニア粒子(平均一次粒子径:150nm、平均均斉度:0.98、平均粒径粒子の存在割合:93%、屈折率:1.515、MR呈色値:18)
・F-2:ゾルゲル法で製造した球状のシリカ-ジルコニア粒子(平均一次粒子径:260nm、平均均斉度:0.96、平均粒径粒子の存在割合:93%、屈折率:1.515、MR呈色値:18)
・F-3:ゾルゲル法で製造した球状のシリカ-ジルコニア粒子(平均一次粒子径:400nm、平均均斉度:0.96、平均粒径粒子の存在割合:94%、屈折率:1.515、MR呈色値:18)
・F-4:ゾルゲル法で製造した球状のシリカ-ジルコニア粒子(平均一次粒子径:260nm、平均均斉度:0.96、平均粒径粒子の存在割合:93%、屈折率:1.522、MR呈色値:20)
・F-5:ゾルゲル法で製造した球状のシリカ-ジルコニア粒子(平均一次粒子径:260nm、平均均斉度:0.96、平均粒径粒子の存在割合:93%、屈折率:1.542、MR呈色値:22)
・F-6:ゾルゲル法で製造した球状のシリカ-チタニア粒子(平均一次粒子径:260nm、平均均斉度:0.96、平均粒径粒子の存在割合:91%、屈折率:1.515、MR呈色値:15)
[重合性単量体成分の調製]
表1に示すような重合性単量体を混合し、重合性単量体成分M1、M2、M3を調製した。表1中の括弧内の数値は、各重合性単量体の使用量(単位:質量部)を表す。
Figure 2023107374000004
[球状の有機無機複合フィラーの調製]
表2に示す球状無機フィラーを水に入れ、循環型粉砕機SCミルを用いて分散液を得た。一方、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと酢酸とを水に加えて撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記の分散液に添加し、均一に混合した。次いで、分散液を噴霧乾燥法により乾燥し、無機粉体を得た。噴霧乾燥には、ノズル先端でエアーと衝突させることで微粒子化する噴霧乾燥機(スプレードライヤー「NL-5」、大川原化工機(株)製)を用いた。その際、噴霧圧力を0.08MPaとし、乾燥温度を230℃とした。その後、得られた無機粉体を120℃で15時間真空乾燥して無機凝集粒子を得た。
次いで、表2に示す重合性単量体成分、重合開始剤としてのAIBN、及び有機溶媒としてのメタノールを混合した重合性単量体溶液と、無機凝集粒子とを、重合性単量体成分と無機凝集粒子とが所定の比率となるように混合し、この混合物がスラリー状の性状となったことを確認してから1時間静置した。
上記の混合物をロータリーエバポレーターで撹拌しながら、減圧度10hPa、加熱条件40℃(温水バスを使用)の条件で1時間乾燥し、有機溶媒の除去を行った。有機溶媒の除去により、さらさらな粉体が得られた。得られた粉体を、ロータリーエバポレーターで撹拌しながら、減圧度10hPa、加熱条件100℃(オイルバスを使用)の条件下で1時間加熱することにより、粉体中の重合性単量体を重合硬化させ、球状の有機無機複合フィラーを得た。
有機無機複合フィラーの調製に使用した原料、並びに得られた有機無機複合フィラーの総細孔容積(窒素吸着法で測定した、細孔径が1~500nmの範囲にある細孔の総細孔容積)、平均粒子径、及び平均均斉度を表2に示す。なお、表2中の括弧内の数値は、各原料の使用量(単位:質量部)を表す。
Figure 2023107374000005
[実施例1~14]
重合性単量体成分M1、M2、M3に対して、0.3質量%のCQ、1.0質量%のDMBE、0.15質量%のHQMEを加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、乳鉢に有機無機複合フィラー及び球状無機フィラーを計りとり、上記の重合性単量体組成物を赤色光下にて徐々に加えていき、暗所にて十分に混練して均一な硬化性ペーストとした。さらに、このペーストを減圧下で脱泡して気泡を除去し、歯科用硬化性組成物を製造した。得られた歯科用硬化性組成物について、上記の方法に基づいて各物性を評価した。組成及び結果を表3~5に示す。
[比較例1~3]
重合性単量体成分M1に対して、0.3質量%のCQ、1.0質量%のDMBE、0.15質量%のHQMEを加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、乳鉢に有機無機複合フィラー及び球状無機フィラーを計りとり、上記の重合性単量体組成物を赤色光下にて徐々に加えていき、暗所にて十分に混練して均一な硬化性ペーストとした。さらに、このペーストを減圧下で脱泡して気泡を除去し、歯科用硬化性組成物を製造した。得られた歯科用硬化性組成物について、上記の方法に基づいて各物性を評価した。組成及び結果を表3~5に示す。
Figure 2023107374000006
Figure 2023107374000007
Figure 2023107374000008
表4に示すとおり、疎水性球状無機フィラー(C1)と親水性球状無機フィラー(C2)とを含有し、且つ、疎水性球状無機フィラー(C1)と親水性球状無機フィラー(C2)との合計の含有量に対する親水性球状無機フィラー(C2)の含有量の割合が質量基準で0.1~0.5である実施例1~14の歯科用硬化性組成物は、稠度の経時変化が小さく、且つ、得られる硬化体の機械的強度に優れていた。
一方、疎水性球状無機フィラー(C1)と親水性球状無機フィラー(C2)とを含有するものの、疎水性球状無機フィラー(C1)と親水性球状無機フィラー(C2)との合計の含有量に対する親水性球状無機フィラー(C2)の含有量の割合が質量基準で0.6である比較例1の歯科用硬化性組成物は、稠度の経時変化が小さかったものの、得られる硬化体の機械的強度に劣っていた。また、親水性球状無機フィラー(C2)を含有しない比較例2の歯科用硬化性組成物は、得られる硬化体の機械的強度に優れていたものの、稠度の経時変化が大きかった。また、疎水性球状無機フィラー(C1)を含有しない比較例3の歯科用硬化性組成物は、稠度の経時変化が大きく、且つ、得られる硬化体の機械的強度に劣っていた。
また、表5に示すとおり、有機無機複合フィラー中の球状無機フィラー(b2)及び表面処理球状無機フィラー(C)のそれぞれの平均一次粒子径が230~500nmであり、且つ、粒度分布が狭く、重合性単量体成分(A)の重合体、球状無機フィラー(b2)、及び球状無機フィラー(C)の屈折率が所定の関係を満たす実施例4~14の歯科用硬化性組成物は、黒背景下で黄色~赤色系の着色光を示した。実施例4~14の歯科用硬化性組成物によれば、エナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞に対して歯質との優れた色調適合性を得ることができる。

Claims (5)

  1. 重合性単量体成分(A)と、球状の有機無機複合フィラー(B)と、平均一次粒子径が100~500nmの球状無機フィラー(C)と、重合開始剤(D)とを含有し、
    前記有機無機複合フィラー(B)は、有機樹脂マトリックス(b1)と、平均一次粒子径が100~500nmの球状無機フィラー(b2)とを含み、
    前記球状無機フィラー(C)は、表面が疎水性の疎水性球状無機フィラー(C1)と、表面が親水性の親水性球状無機フィラー(C2)とを含み、
    前記疎水性球状無機フィラー(C1)と前記親水性球状無機フィラー(C2)との合計の含有量に対する前記親水性球状無機フィラー(C2)の含有量の割合が、質量基準で0.1~0.5である、歯科用硬化性組成物。
  2. 無水トルエン中で測定した前記疎水性球状無機フィラー(C1)のメチルレッド添加前後におけるΔaの変化量Δa が10未満である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
  3. 前記疎水性球状無機フィラー(C1)が、疎水化処理剤で表面処理された球状無機フィラーであり、前記親水性球状無機フィラー(C2)が、表面処理されていない球状無機フィラーである、請求項1又は2に記載の歯科用硬化性組成物。
  4. 前記球状無機フィラー(b2)及び前記球状無機フィラー(C)のそれぞれの平均一次粒子径が230~500nmであり、且つ、前記球状無機フィラー(b2)及び前記球状無機フィラー(C)のそれぞれを構成する粒子のうち90%以上の数の粒子が平均一次粒子径の前後5%の範囲の一次粒子径を有し、
    前記重合性単量体成分(A)、前記球状無機フィラー(b2)、及び前記球状無機フィラー(C)が、下記式(1)~(4):
    nP<nFb2 (1)
    (式(1)中、nPは、前記重合性単量体成分(A)の重合体の25℃における波長589nmの光に対する屈折率を表し、nFb2は、前記球状無機フィラー(b2)の25℃における波長589nmの光に対する屈折率を表す。)
    nMb1<nFb2 (2)
    (式(2)中、nMb1は、前記有機樹脂マトリックス(b1)の25℃における波長589nmの光に対する屈折率を表し、nFb2は、前記式(1)と同義である。)
    nP<nF (3)
    (式(3)中、nFは、前記球状無機フィラー(C)の25℃における波長589nmの光に対する屈折率を表し、nPは、前記式(1)と同義である。)
    nMb1<nF (4)
    (式(4)中、nMb1は、前記式(2)と同義であり、nFは、前記式(3)と同義である。)
    を満足する、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科用硬化性組成物。
  5. 前記有機無機複合フィラー(B)が細孔を有し、窒素吸着法で測定した、細孔径が1~500nmの範囲にある細孔の総細孔容積が0.01~0.30cm/gである、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科用硬化性組成物。
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