以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の歯科用ミルブランクは、イッテルビウム化合物(A)およびイッテルビウム化合物(A)以外の無機充填材(B)を含む無機充填材凝集体と重合体とを含む。そして、イッテルビウム化合物(A)は無機充填材凝集体中で凝集二次粒子(A’)を形成しており、イッテルビウム化合物(A)の平均一次粒子径をaμm、凝集二次粒子(A’)の平均粒子径をa’μmとしたときに、以下の式(I)および(II)を満たす。
0.08 ≦ a ≦ 0.7 (I)
1 ≦ a’ ≦ 50 (II)
歯科用ミルブランクが上記構成を備えることにより、X線造影性、透明性、研磨性、滑沢耐久性および機械的強度に優れる歯科用いるブランクとなる。
本発明を何ら限定するものではないが、上記効果が奏される理由としては、以下のようなことが考えられる。すなわち、上記構成とすることによりイッテルビウム化合物(A)がそれ以外の無機充填材(B)の間に均一に分散された無機充填材凝集体を形成しやすく、透明性や曲げ強さ等の機械的強度が向上し、また、イッテルビウム化合物(A)が特定の平均一次粒子径を有することにより、イッテルビウム化合物が本来有するX線造影性に加えて、研磨性および滑沢耐久性も向上するものと考えられる。
〔イッテルビウム化合物(A)〕
本発明の歯科用ミルブランクを構成する無機充填材凝集体は、イッテルビウム化合物(A)を含み、当該イッテルビウム化合物(A)は当該無機充填材凝集体中で凝集二次粒子(A’)を形成している。当該凝集二次粒子(A’)において、イッテルビウム化合物(A)同志は、典型的には分子間力によって凝集しており、互いに化学結合で結合していないものとすることができる。
イッテルビウム化合物(A)の種類に特に制限はなく、イッテルビウムを含む各種化合物を用いることができ、例えば、酸化物;塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物等のハロゲン化物;硝酸塩、炭酸塩、リン酸塩、カルボン酸塩(酢酸塩等)等の塩などを用いることができる。またイッテルビウム化合物(A)は水和物であってもよい。これらの中でも、色調が良好であり、安全性も高いことなどから、ハロゲン化物、酸化物が好ましく、フッ化イッテルビウム、酸化イッテルビウムがより好ましく、フッ化イッテルビウムがさらに好ましい。
イッテルビウム化合物(A)の形状に特に制限はなく、例えば、破砕状、板状、鱗片状、繊維状(短繊維、長繊維等)、針状、ウィスカー、球状など、各種形状のものを用いることができる。イッテルビウム化合物(A)は、異なる形状のものが組み合わさったものであってもよい。なお、イッテルビウム化合物(A)は、上記形状を有するように何らかの処理(例えば、粉砕処理など)を行ったものであってもよい。
本発明の歯科用ミルブランクでは、イッテルビウム化合物(A)の平均一次粒子径をaμm、凝集二次粒子(A’)の平均粒子径をa’μmとしたときに、以下の式(I)および(II)を満たす。
0.08 ≦ a ≦ 0.7 (I)
1 ≦ a’ ≦ 50 (II)
イッテルビウム化合物(A)の平均一次粒子径(a)は、0.08~0.7μmの範囲内にある。当該平均一次粒子径を有するイッテルビウム化合物(A)を用いることで、分散させやすく、また分散後に再凝集しにくくてイッテルビウム化合物(A)がより均一に分散した無機充填材凝集体ひいてはそれを含む透明性や機械的強度に優れた歯科用ミルブランクが得られる。このような観点から、イッテルビウム化合物(A)の平均一次粒子径(a)は、0.09μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、また、0.5μm以下であることが好ましく、0.4μm以下であることがより好ましく、0.3μm以下であることがさらに好ましく、0.2μm以下であることが特に好ましい。平均一次粒子径(a)があまりに大きいと得られる歯科用ミルブランクの研磨性や滑沢耐久性が低下する。これらの平均一次粒子径(a)を有するイッテルビウム化合物(A)としては、市販されているものをそのまま用いてもよいし、市販されているものをボールミル等で適宜粉砕してから用いてもよい。
イッテルビウム化合物(A)および後述する無機充填材(B)の平均一次粒子径は電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、例えば、粒子の走査型電子顕微鏡(SEM;例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU3500」等)画像を撮り、そのSEM画像の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製「Macview」等)を用いて測定することにより平均一次粒子径を求めることができる。このとき、粒子の粒子径は、その粒子の面積と同一の面積をもつ円の直径である円相当径として求められ、粒子の数とその粒子径より平均一次粒子径が算出される。
また本発明において、凝集二次粒子(A’)の平均粒子径(a’)は、1~50μmの範囲内にある。凝集二次粒子(A’)が当該平均粒子径を有することで、透明性、研磨性、滑沢耐久性および機械的強度に優れた歯科用ミルブランクが得られる。このような観点から、凝集二次粒子(A’)の平均粒子径(a’)は、2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、また、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。
平均粒子径(a’)は、電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、例えば、歯科用ミルブランクの断面の走査型電子顕微鏡(SEM;例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU3500」等)画像を撮り、そのSEM画像の単位視野内に観察される凝集二次粒子(A’)(200個以上)の粒子径を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製「Macview」等)を用いて測定することにより平均粒子径(a’)を求めることができる。このとき、凝集二次粒子(A’)の粒子径は、その凝集二次粒子(A’)の面積と同一の面積をもつ円の直径である円相当径として求められ、凝集二次粒子(A’)の数とその粒子径より平均粒子径(a’)が算出される。平均粒子径(a’)は、より具体的には実施例において後述する方法により求めることができる。
〔無機充填材(B)〕
本発明の歯科用ミルブランクを構成する無機充填材凝集体は、上記したイッテルビウム化合物(A)以外の無機充填材(B)をさらに含む。無機充填材(B)としては、歯科用コンポジットレジンの充填材として用いられている公知の無機粒子を用いることができる。当該無機粒子としては、例えば、各種ガラス類(例えば、二酸化ケイ素(石英、石英ガラス、シリカゲル等)、ケイ素を主成分とし各種重金属とともにホウ素および/またはアルミニウムを含有するものなど)、アルミナ、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、シリカ、フッ化カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、二酸化チタン(チタニア)、ヒドロキシアパタイトなどが挙げられる。また、無機充填材(B)は、前記無機粒子に重合性単量体を添加し重合硬化させた後に粉砕するなどして得られる有機無機複合粒子(有機無機複合フィラー)であってもよい。なお、無機充填材(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、無機充填材(B)はガラス類であることが好ましい。
本発明の歯科用ミルブランクは、イッテルビウム化合物(A)を含むことによりX線造影性に優れるが、X線造影性付与のために一般的に用いられるジルコニウム、バリウム、チタン、ランタン、ストロンチウム等の重金属元素を含む無機充填材(酸化物など)を無機充填材(B)として用いてもよい。
このようなX線造影性を付与することのできる無機充填材としては、例えば、バリウムボロシリケートガラス(例えば、Esstech社製の「E3000」やショット社製の「8235」、「GM27884」、「GM39923」等)、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス(例えば、Esstech社製の「E4000」やショット社製の「G018-093」、「GM32087」等)、ランタンガラス(例えば、ショット社製の「GM31684」等)、フルオロアルミノシリケートガラス(例えば、ショット社製の「G018-091」、「G018-117」等)、ジルコニアを含有するガラス(例えば、ショット社製の「G018-310」、「G018-159」等)、ストロンチウムを含有するガラス(例えば、ショット社製の「G018-163」、「G018-093」、「GM32087」等)、酸化亜鉛を含有するガラス(例えば、ショット社製の「G018-161」等)、カルシウムを含有するガラス(例えば、ショット社製の「G018-309」等)などが挙げられる。
無機充填材(B)の形状に特に制限はなく、例えば、破砕状、板状、鱗片状、繊維状(短繊維、長繊維等)、針状、ウィスカー、球状など、各種形状のものを用いることができる。無機充填材(B)は、本発明の要件を満たす限り上記の形状の一次粒子が凝集した形態のものであってもよく、異なる形状のものが組み合わさったものであってもよい。なお、無機充填材(B)は、上記形状を有するように何らかの処理(例えば、粉砕処理など)を行ったものであってもよい。
無機充填材(B)の平均一次粒子径は、それをbμmとしたときに、以下の式(III)を満たすことが好ましい。
0.005 ≦ b ≦ 5 (III)
すなわち、無機充填材(B)の平均一次粒子径(b)は、0.005~5μmの範囲内にあることが好ましい。当該平均一次粒子径を有する無機充填材(B)を用いることで、透明性、研磨性、滑沢耐久性および機械的強度により優れた歯科用ミルブランクが得られる。このような観点から、無機充填材(B)の平均一次粒子径(b)は、0.01μm以上であることがより好ましく、0.02μm以上であることがさらに好ましく、0.03μm以上であることが特に好ましく、また、2.5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましく、1μm以下であることが特に好ましく、0.5μm以下であることが最も好ましい。
本発明の歯科用ミルブランク(歯科用ミルブランク全体)において、[イッテルビウム化合物(A)の含有量]/[無機充填材(B)の含有量](質量/質量)は1/99~50/50の範囲内であることが好ましい。これにより本発明の効果がより顕著に奏される。[イッテルビウム化合物(A)の含有量]/[無機充填材(B)]の含有量(質量/質量)は、2/98以上であることがより好ましく、4/96以上であることがさらに好ましく、7/93以上、さらには10/90以上であってもよく、また、40/60以下であることがより好ましく、30/70以下であることがさらに好ましく、20/80以下であることが特に好ましい。
〔表面処理〕
イッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)のうちの少なくとも一方、好ましくは両方は、予め表面処理が施されたものであることが好ましい。表面処理が施されたイッテルビウム化合物(A)および/または無機充填材(B)を用いることで、得られる歯科用ミルブランクの機械的強度をより向上させることができる。また、無機充填材凝集体をプレス成形してなる無機充填材成形体と、後述の重合性単量体含有組成物とを接触させて、イッテルビウム化合物(A)および/または無機充填材(B)の隙間に重合性単量体含有組成物を浸入させる際などにおいて、イッテルビウム化合物(A)および/または無機充填材(B)の表面と重合性単量体含有組成物とのなじみが良くなり、重合性単量体含有組成物が浸入しやすくなるという利点もある。
なお、イッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)の両方が表面処理が施されたものである場合、表面処理されたイッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)を別々に調製してもよいし、イッテルビウム化合物(A)と無機充填材(B)との混合物に表面処理を施すことにより調製してもよい。またイッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)は、個々の個々の一次粒子に対して表面処理されていてもよいし、凝集体(凝集二次粒子(A’)等)に対して表面処理されていてもよい。
表面処理に使用される表面処理剤としては、公知の表面処理剤を用いることができ、例えば、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物や、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する有機化合物(酸性基を有する有機化合物)などを用いることができ、このうち、有機ケイ素化合物、リン酸基を有する有機化合物が好ましい。表面処理剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。表面処理剤を2種以上併用する場合は、それによる表面処理層は、2種以上の表面処理剤の混合物の表面処理層であってもよいし、表面処理層が複数積層した複層構造の表面処理層であってもよい。表面処理方法としては、特に制限なく公知の方法を用いることができる。
有機ケイ素化合物としては、例えば、R1
nSiX4-nで表される化合物などが挙げられる(式中、R1は炭素数1~12の置換または非置換の炭化水素基であり、Xは炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~5のアシロキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子または水素原子を示し、nは0~3の整数であり、但し、R1およびXが複数存在する場合は、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい)。
R1が表す上記炭化水素基としては、例えば、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数6~10のアリール基などが挙げられ、炭素数1~12のアルキル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましい。
炭素数1~12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基などが挙げられる。
炭素数2~12のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、1-メチルエテニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、1-ヘプテニル基、1-オクテニル基、1-ノネニル基、1-デセニル基、1-ウンデセニル基、1-ドデセニル基などが挙げられる。
炭素数6~10のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
上記炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基、グリシドキシ基、炭素数3~6のエポキシシクロアルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、炭素数1~4のアミノアルキル基、フェニルアミノ基、ハロゲン原子などが挙げられる。さらに、これらの置換基のアミノ基が炭素数1~4のアミノアルキル基で置換されていてもよい。置換基の数は、1~10個が好ましく、1~6個がより好ましく、1~3個がさらに好ましい。
Xが表す上記炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基などが挙げられる。
Xが表す上記炭素数1~5のアシロキシ基としては、例えば、アセトキシ基、エチルカルボニルオキシ基、プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基などが挙げられる。
有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル(3,3,3-トリフルオロプロピル)ジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等〕などが挙げられる。なお、本発明において「(メタ)アクリロイル」との表記は、メタクリロイルとアクリロイルの両者を包含する意味で用いられる。
これらの中でも、イッテルビウム化合物(A)や無機充填材(B)と重合性単量体との化学結合性を高めて得られる歯科用ミルブランクの機械的強度をより向上させることができることなどから、重合性単量体と共重合し得る官能基を有する有機ケイ素化合物が好ましく、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
有機チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn-ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネートなどが挙げられる。
有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn-ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテートなどが挙げられる。
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物等など挙げられる。
リン酸基を有する有機化合物としては、例えば、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシ-(1-ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート、およびこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
また、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の、上記以外の酸性基を有する有機化合物としては、例えば、国際公開第2012/042911号などに記載のものを用いることができる。
表面処理剤の使用量は特に限定されず、例えば、表面処理前のイッテルビウム化合物(A)および/または無機充填材(B)100質量部に対して、0.1~50質量部であることが好ましい。
〔無機充填材凝集体〕
本発明の歯科用ミルブランクは、上記したイッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)を含む無機充填材凝集体を含む。当該無機充填材凝集体において、イッテルビウム化合物(A)と無機充填材(B)とは、典型的には分子間力によって凝集しており、互いに化学結合で結合していないものとすることができる。
無機充填材凝集体は、その平均粒子径をxμmとしたときに、以下の式(IV)を満たすことが好ましい。
50 ≦ x ≦ 100 (IV)
すなわち、無機充填材凝集体の平均粒子径(x)は、50~100μmの範囲内にあることが好ましい。無機充填材凝集体が当該平均粒子径を有することで、透明性、研磨性、滑沢耐久性および機械的強度により優れた歯科用ミルブランクが得られる。このような観点から、無機充填材凝集体の平均粒子径(x)は、60μm以上であることがより好ましく、70μm以上であることがさらに好ましく、また、95μm以下であることがより好ましく、90μm以下であることがさらに好ましく、85μm以下であることが特に好ましく、80μm以下であってもよい。
平均粒子径(x)は、電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、例えば、歯科用ミルブランクの断面の走査型電子顕微鏡(SEM;例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU3500」等)画像を撮り、そのSEM画像の単位視野内に観察される無機充填材凝集体(200個以上)の粒子径を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製「Macview」等)を用いて測定することにより平均粒子径(x)を求めることができる。このとき、無機充填材凝集体の粒子径は、その無機充填材凝集体の面積と同一の面積をもつ円の直径である円相当径として求められ、無機充填材凝集体の数とその粒子径より平均粒子径(x)が算出される。平均粒子径(x)は、より具体的には実施例において後述する方法により求めることができる。
本発明の歯科用ミルブランクは、1種類の無機充填材凝集体を単独で含んでいてもよいし、2種以上の無機充填材凝集体を含んでいてもよい。2種以上の無機充填材凝集体を含む歯科用ミルブランクは、2種以上の無機充填材凝集体を適宜混合して用いることにより得ることができる。当該混合方法としては、例えば、篩掛け、ロッキングミキサーによる混合、ブレンダーによる混合などが挙げられる。
・無機充填材凝集体の製造方法
無機充填材凝集体の製造方法に特に制限はないが、より簡便に目的とする無機充填材凝集体が得られることなどから、イッテルビウム化合物(A)、無機充填材(B)および液体媒体を含む分散液を噴霧乾燥することにより製造することが好ましい。本発明は、イッテルビウム化合物(A)、無機充填材(B)および液体媒体を含む分散液を噴霧乾燥して無機充填材凝集体を得る工程を含む歯科用ミルブランクの製造方法を包含する。
上記液体媒体の種類に特に制限はなく、水、有機溶剤などを用いることができる。有機溶剤は少量の水を含んでいてもよい。当該有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;エーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトンなどの極性溶媒を好ましく使用することができる。
噴霧乾燥に供される上記分散液における液体媒体の含有量に特に制限はなく、噴霧乾燥を行うことのできる範囲内とすることができ、具体的には、イッテルビウム化合物(A)と無機充填材(B)との合計100質量部に対して、液体媒体を200~1000質量部の範囲内で含むことが好ましく、300~800質量部の範囲内で含むことがより好ましい。
イッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)を液体媒体中に分散させるための方法に特に制限はなく、例えば、ホモジナイザー(投げ込み型ホモジナイザー等)、超音波洗浄機、メカニカルスターラーなどを用いることができる。なお噴霧乾燥に供される分散液は、イッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)を共存させた状態で液体媒体中に分散することにより調製してもよいし、それぞれを別個に液体媒体中に分散させ、これらを混合することにより調製してもよい。
上記分散を行う際の温度は、液体媒体が揮発または凝固しない範囲内とすればよく、具体的には、10~60℃の範囲内であることが好ましく、20~50℃の範囲内であることがより好ましい。
噴霧乾燥に供される分散液において、イッテルビウム化合物(A)が所望の平均粒子径を有する凝集二次粒子(A’)を形成していると、より簡便に目的の無機充填材凝集体を得ることができるため好ましい。このような、イッテルビウム化合物(A)が所望の平均粒子径を有する凝集二次粒子(A’)を形成している分散液の調製方法に特に制限はなく、例えば、液体媒体に分散する前のイッテルビウム化合物(A)として所望の平均粒子径を有する凝集二次粒子(A’)を形成しているものを用いてこれを液体媒体中に分散することにより調製してもよいし、あるいは、液体媒体に分散する前のイッテルビウム化合物(A)として凝集体を形成しているものを用いてこれを液体媒体中に分散した後に、無機充填材(B)の存在下または非存在下で分散処理を施すことにより調製してもよい。後者の場合の分散処理としては、例えば、超音波分散などを採用することができる。
また、上記のように表面処理が施されたイッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)を含む歯科用ミルブランクを得る場合などにおいて、噴霧乾燥に供される上記分散液は、目的とする歯科用ミルブランクをより簡便に得ることができることなどから、イッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)が液体媒体中に分散した分散液(D)と、表面処理剤を加水分解助剤の存在下で加水分解してなる溶液(S)とを混合してなる混合液であることが好ましい。
分散液(D)の調製に使用される液体媒体としては、噴霧乾燥に供される分散液に含まれる液体媒体の説明において上記したものを用いることができる。また、溶液(S)の調製に使用される表面処理剤としては、歯科用ミルブランクを構成するイッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)に対する表面処理の説明において上記したものを用いることができる。
溶液(S)の調製に使用される加水分解助剤としては、溶液(S)の調製において表面処理剤を加水分解する際のpH値を3.5~5.5の範囲内(好ましくは3.5~4.0の範囲内)にすることのできるものを好ましく用いることができる。当該加水分解助剤の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸;酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸等のカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、後の噴霧乾燥において残留しにくいことなどからカルボン酸が好ましく、酢酸がより好ましい。溶液(S)の調製において表面処理剤を加水分解する際のpH値を上記範囲内とすることにより、イッテルビウム化合物(A)や無機充填材(B)に対する表面処理をより効率的に行うことができ、特に表面処理剤として上記したような有機ケイ素化合物を用いる場合に、シラノール基(Si-OH)同士が徐々に縮合してシロキサン結合(Si-O-Si)を形成し反応性が低下するのを抑制することができる。
溶液(S)の調製にあたっては、表面処理剤を加水分解助剤の存在下で加水分解する。当該加水分解の方法に特に制限はなく、例えば、表面処理剤、加水分解助剤および水を混合することにより行うことができる。この際、必要に応じて水以外の液体媒体を共存させてもよい。当該液体媒体としては、例えば、噴霧乾燥に供される分散液に含まれる液体媒体の説明において上記したものなどを用いることができる。
溶液(S)の調製において、表面処理剤を加水分解する際の温度に特に制限はなく、例えば10~60℃の範囲内(好ましくは20~50℃の範囲内)の温度を採用することができる。
上記した分散液(D)と溶液(S)とを混合して噴霧乾燥に供される分散液(混合液)とする際の混合方法に特に制限はなく、公知の混合方法を採用することができる。その際の混合温度にも特に制限はなく、例えば10~35℃の範囲内の温度を採用することができる。
上記のようにして得られたイッテルビウム化合物(A)、無機充填材(B)および液体媒体を含む分散液を噴霧乾燥することによって、目的とする無機充填材凝集体を得ることができる。噴霧乾燥の温度は、150~300℃の範囲内であることが好ましく、170~250℃の範囲内であることがより好ましい。
噴霧乾燥の方法としては、例えば、細孔を有するノズルから噴霧する方法、高速回転体上に上記分散液を滴下して噴霧乾燥するアドマイザー方式などが挙げられる。噴霧乾燥装置としては、例えば、スプレードライヤーなどを用いることができる。
噴霧乾燥により得られた無機充填材凝集体は、そのまま歯科用ミルブランクの製造に使用することもできるが、噴霧乾燥後にさらなる乾燥を行うことが好ましい。乾燥温度としては、80~120℃の範囲内であることが好ましく、90~100℃の範囲内であることがより好ましい。
上記のようにして最終的に得られる無機充填材凝集体の平均粒子径は、目的とする歯科用ミルブランクをより効率的に得ることができることなどから、50μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましく、70μm以上であることがさらに好ましく、また、100μm以下であることが好ましく、95μm以下であることがより好ましく、90μm以下であることがさらに好ましく、85μm以下であることが特に好ましく、80μm以下であってもよい。
〔他の無機充填材〕
本発明の歯科用ミルブランクは、無機充填材凝集体の他に無機充填材をさらに含んでいてもよい。このような無機充填材としては、無機充填材(B)の説明において上記したようなものを用いることができる。本発明の歯科用ミルブランクが含む全ての無機充填材における無機充填材凝集体を構成しているイッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)の合計の割合は、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上、98質量%以上、さらには100質量%であってもよい。
本発明の歯科用ミルブランクにおける、イッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)を含めた全ての無機充填材の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、、65質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、75質量%以上であることが特に好ましく、80質量%以上、さらには85質量%以上であってもよく、また、96質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、93質量%以下であることがさらに好ましく、90質量%以下であることが特に好ましい。これにより、機械的強度および審美性により優れた歯科用ミルブランクとなる。
上記無機充填材の含有量は、歯科用ミルブランクを灰化することにより求めることができる。無機充填材および重合体を含む歯科用ミルブランクを灰化すると、通常は、重合体等の有機成分が焼く却される。したがって、灰化後の灰化物の質量を灰化前の質量で除すことにより歯科用ミルブランクにおける無機充填材の含有量を求めることができる。当該灰化は、例えば、歯科用ミルブランクを坩堝に入れて電気炉等を用いて575℃で所定時間(例えば2時間)加熱することにより行うことができる。なお無機充填材として表面処理が施されたものを用いた場合は、上記条件で灰化すると表面処理剤に由来する成分は、通常、有機成分として焼却される。
〔重合体〕
本発明の歯科用ミルブランクを構成する重合体に特に制限はなく、重合性単量体が重合してなるものを用いることができ、重合性単量体を含む重合性単量体含有組成物中の重合性単量体が重合硬化したものであることが好ましい。
・重合性単量体
重合体を形成する重合性単量体(重合体に含まれる構造単位を形成する重合性単量体)としては、歯科用コンポジットレジン等に使用される公知の重合性単量体を用いることができ、一般には、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。ラジカル重合性単量体の具体例としては、例えば、α-シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボン酸のエステル;(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリルアミド誘導体;ビニルエステル類;ビニルエーテル類;モノ-N-ビニル誘導体;スチレン誘導体などが挙げられる。これらの中でも、カルボン酸のエステル、(メタ)アクリルアミド誘導体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド誘導体がより好ましく、(メタ)アクリル酸エステルがさらに好ましい。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」との表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられる。(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリルアミド誘導体の例を以下に示す。
(i)一官能性の(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリルアミド誘導体
例えば、メチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロリド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロリド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロリド、10-メルカプトデシル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、4-[2-((メタ)アクリロイルオキシ)エトキシカルボニル]フタル酸無水物などが挙げられる。
(ii)二官能性の(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリルアミド誘導体
例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-〔3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-〔3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン(通称Bis-GMA)、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(通称UDMA)、2,2,3,3,4,4-ヘキサフルオロ-1,5-ペンチルジ(メタ)アクリレート、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2-ジハイドロジェンホスフェートなどが挙げられる。
(iii)三官能性以上の(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリルアミド誘導体
例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタン、N,N’,N’’,N’’’-テトラ(メタ)アクリロイルトリエチレンテトラミンなどが挙げられる。
なお、重合性単量体としては、前記ラジカル重合性単量体の他に、オキシラン化合物、オキセタン化合物等のカチオン重合性単量体を使用することもできる。
重合性単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、重合性単量体は液体状であることが好ましいが、常温で液体状である必要は必ずしもなく、さらに、固体状の重合性単量体であっても、その他の液体状の重合性単量体と混合溶解して使用することもできる。
重合性単量体の粘度(25℃)は、10Pa・s以下であることが好ましく、5Pa・s以下であることがより好ましく、2Pa・s以下であることがさらに好ましい。一方、2種以上の重合性単量体を混合して用いる場合、または溶剤に希釈して用いる場合は、個々の重合性単量体の粘度が上記範囲内にある必要はなく、使用される状態(混合・希釈された状態)において、その粘度が上記範囲内にあることが好ましい。
・重合開始剤
重合性単量体を重合して重合体を得るにあたっては、重合を容易にするために重合開始剤を用いることができ、特に重合性単量体含有組成物中の重合性単量体を重合硬化させることにより重合体を得る場合には、当該重合性単量体含有組成物がさらに重合開始剤を含むことが好ましい。重合開始剤としては、一般工業界で使用されている重合開始剤を用いることができ、特に歯科用途に用いられる重合開始剤を好ましく用いることができる。重合開始剤としては、例えば、加熱重合開始剤、光重合開始剤および化学重合開始剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
(i)加熱重合開始剤
加熱重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物類、アゾ化合物類などが挙げられる。
前記有機過酸化物類としては、例えば、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。
前記ケトンペルオキシドとしては、例えば、メチルエチルケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシドなどが挙げられる。
前記ヒドロペルオキシドとしては、例えば、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシドなどが挙げられる。
前記ジアシルペルオキシドとしては、例えば、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシドなどが挙げられる。
前記ジアルキルペルオキシドとしては、例えば、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシンなどが挙げられる。
前記ペルオキシケタールとしては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)オクタン、4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレリン酸n-ブチルエステルなどが挙げられる。
前記ペルオキシエステルとしては、例えば、α-クミルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、2,2,4-トリメチルペンチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルペルオキシイソフタレート、ジ-t-ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシマレエートなどが挙げられる。
前記ペルオキシジカーボネートとしては、例えば、ジ-3-メトキシペルオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルペルオキシジカーボネート、ジアリルペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。
これらの有機過酸化物類の中でも、安全性、保存安定性およびラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルペルオキシドが好ましく、その中でもベンゾイルペルオキシドがより好ましい。
前記アゾ化合物類としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(イソブチレート)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリドなどが挙げられる。
(ii)光重合開始剤
光重合開始剤としては、歯科用硬化性組成物に広く使用されているものを好ましく使用することができ、例えば、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、クマリン類などが挙げられる。
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、およびこれらの塩(例えば2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのナトリウム塩)などが挙げられる。
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、ビスアシルホスフィンオキシド類としては、例えば、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,3,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、およびこれらの塩などが挙げられる。
これらの(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドのナトリウム塩が好ましい。
前記α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンなどが挙げられる。これらの中でも、カンファーキノンが好ましい。
前記クマリン類としては、例えば、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チエニルクマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-6-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-8-メトキシクマリン、3-ベンゾイルクマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3,5-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3-ベンゾイル-6-ブロモクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3-ベンゾイル-7-ジメチルアミノクマリン、3-ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3-カルボキシクマリン、3-カルボキシ-7-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-6-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-8-メトキシクマリン、3-アセチルベンゾ[f]クマリン、3-ベンゾイル-6-ニトロクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、7-ジメチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-ジエチルアミノ)クマリン、7-メトキシ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-(4-ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3-(4-エトキシシンナモイル)-7-メトキシクマリン、3-(4-ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3-(4-ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3-[(3-ジメチルベンゾチアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3-[(1-メチルナフト[1,2-d]チアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3,3’-カルボニルビス(6-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジメチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾイル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾイル)-7-(ジブチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾイミダゾイル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾイル)-7-(ジオクチルアミノ)クマリン、3-アセチル-7-(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニル-7-ジエチルアミノクマリン-7’-ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10-[3-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1-オキソ-2-プロペニル]-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン、10-(2-ベンゾチアゾイル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オンなどが挙げられる。
これらのクマリン化合物の中でも、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が好ましい。
(iii)化学重合開始剤
化学重合開始剤としては、例えば、レドックス系重合開始剤などが挙げられる。当該レドックス系重合開始剤としては、有機過酸化物-アミン系;有機過酸化物-アミン-スルフィン酸(またはその塩)系などを好ましく用いることができる。レドックス系重合開始剤を使用する場合、酸化剤と還元剤とを別々に包装しておき、使用する直前に両者を混合するのが好ましい。
レドックス系重合開始剤の酸化剤としては、例えば、有機過酸化物類などが挙げられる。当該有機過酸化物としては、公知のものを使用することができ、具体的には、加熱重合開始剤の説明において例示した有機過酸化物類を使用することができる。当該有機過酸化物類としては、安全性、保存安定性およびラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルペルオキシドが好ましく、その中でもベンゾイルペルオキシドがより好ましい。
レドックス系重合開始剤の還元剤としては、通常、芳香環に電子吸引性基を有しない第3級芳香族アミンが用いられる。芳香環に電子吸引性基を有しない第3級芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリンなどが挙げられる。
重合開始剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。例えば、重合開始剤として、加熱重合開始剤と光重合開始剤とを併用してもよく、この場合、ジアシルペルオキシドと(ビス)アシルホスフィンオキシド類とを併用することが好ましい。
重合開始剤の含有量は特に限定されないが、重合性などの観点から、重合性単量体100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。重合開始剤の使用量が上記下限以上であることにより、重合開始剤自体の重合性能が低い場合であっても、重合が十分に進行して得られる歯科用ミルブランクひいてはそれから得られる歯科用補綴物の強度が向上する。一方、重合開始剤の含有量は、重合性単量体100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。重合開始剤の使用量が上記上限以下であることにより、重合開始剤の析出を抑制することができる。
・重合促進剤
重合開始剤を使用するにあたっては、重合促進剤を併用してもよく、特に重合性単量体含有組成物中の重合性単量体を重合硬化させることにより重合体を得る場合には、当該重合性単量体含有組成物が重合開始剤と共にさらに重合促進剤を含んでもよい。重合促進剤を併用することで、重合をより短時間で効率的に行うことができる場合がある。当該重合促進剤としては、一般工業界で使用されている重合促進剤を用いることができ、特に歯科用途に用いられる重合促進剤を好ましく用いることができる。重合促進剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
光重合開始剤に好適な重合促進剤としては、例えば、第3級アミン類、アルデヒド類、チオール基、スルフィン酸およびその塩などが挙げられる。
第3級アミン類としては、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸(2-メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチル、N-メチルジエタノールアミン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレートなどが挙げられる。
アルデヒド類としては、例えば、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどが挙げられる。
チオール類としては、例えば、2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸などが挙げられる。
スルフィン酸およびその塩としては、例えば、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸カリウム、p-トルエンスルフィン酸カルシウム、p-トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウムなどが挙げられる。
また化学重合開始剤に好適な重合促進剤としては、例えば、アミン類、スルフィン酸およびその塩、銅化合物、スズ化合物などが挙げられる。
化学重合開始剤の重合促進剤として用いられるアミン類は、脂肪族アミンおよび芳香環に電子吸引性基を有する芳香族アミンに分けられる。
前記脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、重合性および保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンがより好ましい。
前記芳香環に電子吸引性基を有する芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチル等の第3級芳香族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、優れた硬化性を付与できる観点から、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ安息香酸)n-ブトキシエチルおよび4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
化学重合開始剤の重合促進剤として用いられるスルフィン酸およびその塩としては、例えば、上記した光重合開始剤の重合促進剤として例示したものなどが挙げられ、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが好ましい。
化学重合開始剤の重合促進剤として用いられる銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅などが挙げられる。
化学重合開始剤の重合促進剤として用いられるスズ化合物としては、例えば、ジ-n-ブチル錫ジマレエート、ジ-n-オクチル錫ジマレエート、ジ-n-オクチル錫ジラウレート、ジ-n-ブチル錫ジラウレートなどが挙げられる。これらの中でも、ジ-n-オクチル錫ジラウレート、ジ-n-ブチル錫ジラウレートが好ましい。
重合促進剤の使用量は特に限定されないが、重合性などの観点から、重合性単量体100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることがさらに好ましく、また、10質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。
本発明の歯科用ミルブランクにおける重合体の含有量は、4質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることが特に好ましく、また、50質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることが特に好ましく、20質量%以下、さらには15質量%以下であってもよい。これにより、機械的強度および審美性により優れた歯科用ミルブランクとなる。歯科用ミルブランクにおける重合体の含有量は、全体量(100質量%)から上記した無機充填材の含有量(質量%)を差し引き、歯科用ミルブランクが後述の他の成分を含む場合にはこれらの含有量(質量%)をさらに差し引くことにより求めることができる。
〔他の成分〕
本発明の歯科用ミルブランクは、無機充填材凝集体および重合体以外に、目的に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、顔料、抗菌剤、X線造影剤、増粘剤、蛍光剤などの他の成分をさらに含んでいてもよい。
〔歯科用ミルブランクの製造方法〕
本発明の歯科用ミルブランクの製造方法に特に制限はないが、所望の物性を有する歯科用ミルブランクをより効率的に得ることができることなどから、
(1)無機充填材凝集体をプレス成形してなる無機充填材成形体と重合性単量体含有組成物とを接触させて、重合性単量体を重合硬化させる工程を含む方法(方法1)
(2)無機充填材凝集体と重合性単量体含有組成物とを混合してペーストとし、重合性単量体を重合硬化させる工程を含む方法(方法2)
などにより製造するのが好ましく、方法1がより好ましい。なお、方法1における無機充填材成形体として、プレス成形後に焼結して多孔質体としたものを用いることもできる。
・プレス成形
方法1における無機充填材成形体は、無機充填材凝集体をプレス成形してなる。無機充填材凝集体をプレス成形する方法に特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。プレス成形の具体的な方法としては、例えば、無機充填材凝集体を所望の大きさのプレス用金型(ダイ)に充填し、上パンチと下パンチを用いて一軸プレスにより加圧する方法が挙げられる。
一軸プレスの際のプレス圧は、目的とする無機充填材成形体のサイズ、無機充填材凝集体の種類や粒子径などにより適宜最適な値とすることができ、通常は、10MPa以上とすることができる。プレス圧が高いほど所望とする歯科用ミルブランクが得られやすいと共に得られる無機充填材成形体と重合性単量体含有組成物とを接触させる際の無機充填材成形体の安定性が向上するため好ましいが、無機充填材成形体のサイズ、設備的要因等の生産性、過度の負荷がかかることによる金型との摩擦等に基づく無機充填材成形体におけるクラックや欠けの発生の抑制などの面を考慮すると、プレス圧は通常は200MPa以下とするのがよい。上記のような観点から、プレス圧は、20MPa以上であることが好ましく、25MPa以上であることがより好ましく、また、180MPa以下であることが好ましく、150MPa以下であることがより好ましい。プレス時間は、プレス圧に応じて適宜設定することができるが、通常、1~120分間とすればよい。
また上記プレス成形は、冷間等方圧加圧(CIP)工程によって行ってもよい。この場合、当該CIP工程のみを採用してもよいし、上記した一軸プレスのようなCIP工程による方法以外の方法とCIP工程による方法の両方を採用してもよい。より具体的には、上記の一軸プレスを行うことなくCIP工程によりプレス成形を行ってもよいし、上記の一軸プレスでのプレス成形の後、さらにCIP工程によりプレス成形を行ってもよい。CIP工程によるプレス成形では、通常、一軸プレスよりも高いプレス圧をかけることができ、また、無機充填材成形体に対して3次元方向から均等に圧力をかけることができるため、CIP工程によるプレス成形を行うことで、無機充填材成形体内部の好ましくない微小な空隙や凝集状態のむらを解消することができ、また、無機充填材凝集体の圧縮密度がさらに向上して、無機充填材凝集体の含有量の高い歯科用ミルブランクを得ることができる。なお、一軸プレスを行うことなくCIP工程によりプレス成形を行う場合は、無機充填材凝集体をシリコーンゴムやポリイソプレンゴム等の弾性に富む容器に充填して、これをそのまままたは減圧状態(真空状態含む)にしてからCIP工程に供することができる。また、一軸プレスでのプレス成形の後、さらにCIP工程によりプレス成形を行う場合にも、一軸プレスで得られた成形体をそのまままたは減圧状態(真空状態含む)にしてからCIP工程に供することができる。
CIP工程によりプレス成形する際の圧力も高い方が好ましい。CIP工程は、例えば、神戸製鋼所社が製造する1000MPa程度に加圧可能なCIP装置を用いることができ、より具体的には、WET CIP装置、DRY CIP装置、ピストン式CIP装置などを用いることができる。CIP工程の際の圧力は、一軸プレスの有無に関わらず高い方が所望とする歯科用ミルブランクが得られやすいと共に得られる無機充填材成形体と重合性単量体含有組成物とを接触させる際の無機充填材成形体の安定性が向上するため好ましい。CIP工程の際の圧力は、生産性、製造コスト、過度の負荷がかかることによる金型との摩擦等に基づく無機充填材成形体におけるクラックや欠けの発生の抑制などの面も考慮すると、好ましくは30MPa以上、より好ましくは50MPa以上、さらに好ましくは100MPa以上であり、また、好ましくは300MPa以下、より好ましくは250MPa以下、さらに好ましくは200MPa以下である。CIP工程における加圧時間は、プレス圧に応じて適宜設定することができるが、通常、1~60分間とすればよい。
無機充填材凝集体をプレス成形してなる無機充填材成形体は、単層構造であってもよいし複層構造であってもよい。複層構造としては、例えば、互いに異なる無機充填材凝集体を別々に層状にプレス成形してなるものや、同種の無機充填材凝集体を別々に層状にプレス成形してなるものなどが挙げられ、いずれにおいても、色調、透明性、物性等の異なる層を有する歯科用ミルブランクとすることができる。このような複層構造を有する歯科用ミルブランクは、臨床的に有用な歯科用補綴物を与えることができる。例えば、重合性単量体の重合硬化後の透明度が高くなるように調整した無機充填材凝集体を第一層に配置し、また重合性単量体の重合硬化後に象牙質色調になるように調整した無機充填材凝集体を第二層に配置すると、得られる歯科用ミルブランクを切削加工してクラウンを製造する際に、上層にエナメル質色調を有し下層に象牙質色調を有する、審美性により優れたクラウンを作製することができる。
重合硬化後の色調を所望のものとすることのできる上記無機充填材凝集体の調製方法に特に制限はなく、例えば、顔料(着色粒子等)を無機充填材凝集体に混合分散する方法や無機充填材凝集体の調製時に顔料(着色粒子等)を含有させる方法などが挙げられる。
上記顔料としては、歯科用組成物に用いられる公知の顔料を用いることができる。当該顔料は、無機顔料および有機顔料のうちのいずれでもよい。
無機顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛黄、バリウム黄等のクロム酸塩;紺青等のフェロシアン化物;銀朱、カドミウム黄、硫化亜鉛、アンチモン白、カドミウムレッド等の硫化物;硫酸バリウム、硫酸亜鉛、硫酸ストロンチウム等の硫酸塩;亜鉛華、チタン白、ベンガラ、鉄黒、黄酸化鉄、酸化クロム等の酸化物;水酸化アルミニウム等の水酸化物;ケイ酸カルシウム、群青等のケイ酸塩;カーボンブラック、グラファイト等の炭素などが挙げられる。
有機顔料としては、例えば、ナフトールグリーンB、ナフトールグリーンY等のニトロソ系顔料;ナフトールS、リソールファストイエロー2G等のニトロ系顔料;パーマネントレッド4R、ブリリアントファストスカーレット、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー等の不溶性アゾ系顔料;リソールレッド、レーキレッドC、レーキレッドD等の難溶性アゾ系顔料;ブリリアントカーミン6B、パーマネントレッドF5R、ピグメントスカーレット3B、ボルドー10B等の可溶性アゾ系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、スカイブルー等のフタロシアニン系顔料;ローダミンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、メチルバイオレットレーキ等の塩基性染料系顔料;ピーコックブルーレーキ、エオシンレーキ、キノリンイエローレーキ等の酸性染料系顔料などが挙げられる。
これらの顔料は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよく、目的とする色調に応じて適宜選択することができる。これらの顔料の中でも、耐熱性や耐光性等に優れる無機顔料であるチタン白(局方酸化チタン白等)、ベンガラ、鉄黒、黄酸化鉄が好ましい。
顔料の含有量は、目的とする色調に応じて適宜調整することができ特に限定されないが、顔料が配合される層中での割合として、0.01質量ppm以上であることが好ましく、0.1質量ppm以上であることがより好ましく、また、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
顔料を無機充填材凝集体に均一に混合分散させる方法としては、公知の粉末の混合分散方法を採用することができ、乾式法でも湿式法でもいずれでもよいが、より均一に混合分散させることができることなどから、無機充填材凝集体と顔料とを溶媒の存在下に混合した後に溶剤を除去(留去等)する方法が好ましい。上記混合は公知の方法を採用して行うことができ、例えば、サンドミル、ビーズミル、アトライター、コロイドミル、ボールミル、超音波破砕機、ホモミキサー、ディゾルバー、ホモジナイザー等の分散機を用いて行うことができる。混合条件は使用される無機充填材凝集体や顔料の粒子径および仕込量;溶媒の種類および添加量;分散機の種類などに応じて適宜選択することができ、各成分の分散状況などに応じて分散時間、撹拌具、回転数等の分散条件を適宜選択することができる。上記溶媒としては、水および/または水と相溶する溶剤が好ましく、当該溶剤としては、アルコール類(例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール等)、エーテル類、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)などを用いることができる。
また、重合硬化後の色調を所望のものとするための方法としては、上記のような顔料を無機充填材凝集体に混合分散する方法や、無機充填材凝集体の調製時に顔料(着色粒子等)を含有させる方法以外にも、着色ガラスのように、特定の色を有する無機充填材(B)を用いる方法を採用することもできる。このような特定の色を有する無機充填材(B)としては、例えば、市販のポーセレンパウダー、例えば、VITA社製の「VM」(商品名)や「VM7」(商品名)、クラレノリタケデンタル株式会社製の「ノリタケスーパーポーセレンAAA」(商品名)や「セラビアンZR」(商品名)などが挙げられ、これらは必要に応じて粉砕して粒径を調整してもよい。
重合硬化後の透明性を所望のものとするための方法としては、例えば、無機充填材凝集体の屈折率と粒子径を調節する方法などが挙げられる。一般に無機充填材が分散した樹脂の透明性は、無機充填材と樹脂の屈折率差が小さいほど、また粒子径が可視光線の波長(0.4~0.7μm)から離れるほど、高くなることが知られている。したがって、例えば、透明性の高い層に使用する無機充填材凝集体として含浸させる重合性単量体含有組成物の重合硬化後の屈折率となるべく同じ屈折率を有する無機充填材凝集体を用いる方法などを好ましく採用することができる。なお、無機充填材凝集体の屈折率に合致するように重合性単量体を適宜選択する方法を採用してもよい。
重合硬化後の物性を所望のものとするための方法としては、例えば、エナメル質層に該当する層には滑沢性に優れる無機充填材凝集体を配置し、内層の象牙質層に該当する層には機械的強度に優れる無機充填材凝集体を配置する方法などを採用することができる。このような無機充填材凝集体の組み合わせは、臨床上、口腔内での耐久性に優れる、極めて有用な歯冠補綴物を与えることができる。
複層構造の無機充填材成形体を得る場合におけるプレス成形の方法としては、例えば、以下のような方法を採用することができる。すなわち、下パンチを嵌めた一軸プレス用の金型(ダイ)に、第一の無機充填材凝集体を充填して、上パンチを該金型にセットして当該第一の無機充填材凝集体をプレスする。次いで、上パンチを外し、プレスされた第一の無機充填材凝集体の上に、第二の無機充填材凝集体を充填して、再び上パンチをセットして、当該第二の無機充填材凝集体をプレスする。このような操作を所望の層数に応じて繰り返した後、金型から取り出すことで、複層構造の無機充填材成形体を得ることができる。なお、プレス時のプレス圧は、用いる無機充填材凝集体の種類や量などに応じて、適宜設定することができ、各層におけるプレス圧は互いに同じであっても異なっていてもよい。また、金型に第一の無機充填材凝集体を充填した後、表面を平らにならし、プレスを行わずにその上に第二の無機充填材凝集体を充填して、第一の無機充填材凝集体と第二の無機充填材凝集体とを共にプレスする方法を採用してもよい。
複層構造の無機充填材成形体を得るにあたっては、上記のように、無機充填材凝集体を一度にプレス成形することにより当該成形体を得てもよいし、別途成形した成形体の上に新たに無機充填材凝集体をプレス成形することで当該成形体を得てもよいが、これら以外にも、別々に成形した成形体を積層後、プレス成形することで当該成形体を得てもよい。
プレス成形してなる無機充填材成形体の形状やサイズに特に制限はなく、後述する歯科用ミルブランクの形状やサイズに合わせて適宜調整することができる。
方法1においては、重合性単量体含有組成物中に無機充填材凝集体が極めて密に分散した構造を有する組成物が得られることなどから、焼結して連通した多孔質体としていない無機充填材成形体を用いることが好ましいが、このような焼結して多孔質体としたものを無機充填材成形体として用いることもできる。当該多孔質体は、例えば、上記のようにして無機充填材凝集体ををプレス成形した後に焼結処理を施すことなどによって得ることができる。当該焼結処理によって無機充填材凝集体同士が一部結合して網目構造を有する多孔質体とすることができる。
焼結処理を行う際の温度は、目的とする歯科用ミルブラックが得られやすいことなどから、1000℃以上であることが好ましく、1050℃以上であることがより好ましく、また、1300℃以下であることが好ましく、1200℃以下であることがより好ましい。また、焼結の時間は、目的とする歯科用ミルブラックが得られやすいことなどから、1時間以上であることが好ましく、2時間以上であることがより好ましく、また、8時間以下であることが好ましく、4時間以下であることがより好ましい。
得られた多孔質体における孔の大きさ(直径)は、使用される無機充填材凝集体の平均粒子径、種類および量、焼結条件などによっても異なり特に限定されないが、例えば、1~20μm程度とすることができる。
得られた多孔質体は、後述する重合性単量体含有組成物との接触の前に、当該重合性単量体含有組成物との親和性を高めることなどを目的として、表面処理を施すことが好ましい。当該表面処理は表面処理剤を用いて行うことができ、例えば、多孔質体を、表面処理剤、加水分解助剤、液体媒体および水を含む溶液に浸漬し、その後、取り出して乾燥することにより行うことができる。
当該表面処理剤としては、例えば、歯科用ミルブランクを構成するイッテルビウム化合物(A)および無機充填材(B)に対する表面処理の説明において上記したものなどを用いることができ、有機ケイ素化合物(3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等)が好ましい。当該加水分解助剤としては、例えば、溶液(S)の調製に使用される加水分解助剤の説明において上記したものなどを用いることができる。当該液体媒体としては、例えば、噴霧乾燥に供される分散液に含まれる液体媒体の説明において上記したものなどを用いることができる。多孔質体を浸漬する上記溶液の例としては、例えば、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1質量部、酢酸0.2質量部、エタノール100質量部および水5質量部を混合したものなどが挙げられる。
多孔質体を、表面処理剤、加水分解助剤、液体媒体および水を含む溶液に浸漬する際の浸漬時間に特に制限はなく、例えば、0.5~10時間程度(より具体的には例えば1時間程度)とすることができる。浸漬後の乾燥条件にも特に制限はなく、例えば、90℃程度の温度で、3時間程度乾燥する方法などを採用することができる。当該乾燥は真空条件下にて行ってもよい。
・無機充填材成形体と重合性単量体含有組成物との接触
方法1において、上記の無機充填材成形体と重合性単量体含有組成物とを接触させることで、無機充填材成形体の隙間に重合性単量体含有組成物が浸入し、その結果、重合性単量体含有組成物中に無機充填材凝集体が極めて密に分散した構造を有する組成物が得られる。
一般に、粒子分散型複合材料においては、樹脂中に分散する無機充填材の粒子径が小さいほど、研磨滑沢性に優れ、また、口腔内での光沢を長期間維持することのできる歯冠修復材料となる。一方で、無機充填材の粒子径が小さくなるほど、複合材料中に無機充填材を高密度に充填することが困難になり、硬化物の機械的強度や耐摩耗性が低下する傾向がある。これに対して方法1では、無機充填材凝集体をプレス成形してなる無機充填材成形体と重合性単量体含有組成物とを接触させて、該重合性単量体を重合硬化させる工程を経て歯科用ミルブランクを製造するので高密度充填が可能となって、該歯科用ミルブランクから得られる歯科用補綴物は、光沢に優れ、かつ、強度や耐摩耗性も向上したものとなる。
無機充填材成形体と重合性単量体含有組成物とを接触させる方法に特に制限はなく、無機充填材凝集体の隙間に重合性単量体含有組成物を浸入させることのできる方法を採用することができ、より簡便であることなどから、重合性単量体含有組成物中に無機充填材成形体を浸漬する方法を好ましく採用することができる。当該浸漬によって、毛細管現象により、重合性単量体含有組成物が徐々に無機充填材成形体内部に浸透することができる。このときの周囲の環境が減圧雰囲気下であると、液体状の重合性単量体含有組成物の浸透が促進されるため好ましい。また、減圧にした後に常圧に戻す操作(減圧/常圧の操作)を複数回繰り返すことにより重合性単量体含有組成物の浸透をより一層促進することができ、当該重合性単量体含有組成物を無機充填材成形体内部に完全に浸透させるまでの時間を短縮することができる。上記減圧雰囲気下における減圧度は、重合性単量体含有組成物の粘度や無機充填材凝集体の粒子径などに応じて適宜調整することができるが、10kPa以下であることが好ましく、5kPa以下であることがより好ましく、2kPa以下であることがさらに好ましく、また、0.1Pa以上であることが好ましく、1Pa以上であることがより好ましく、10Pa以上であることがさらに好ましい。また、上記減圧雰囲気は真空(例えば1×10-8~1×10-1Pa程度)であってもよい。上記減圧雰囲気下での浸漬は、例えば、重合性単量体含有組成物の入った真空パック用の袋に無機充填材成形体を入れ、真空パック装置にて減圧するなどして行うことができる。
また、上記のような重合性単量体含有組成物中に無機充填材成形体を浸漬する方法以外の方法として、無機充填材凝集体を金型内でプレス成形した状態で、そのまま、圧力をかけて重合性単量体含有組成物を金型内の無機充填材成形体に送り込む方法を採用してもよい。この方法によれば、重合性単量体の重合硬化も上記金型中でそのまま引き続いて行うことが可能となる。圧力をかけて重合性単量体含有組成物を無機充填材成形体に送り込む際における圧力は、好ましくは2MPa以上、より好ましくは10MPa以上、さらに好ましくは20MPa以上である。
また、無機充填材成形体内部への重合性単量体含有組成物の浸透をより効率的に行うことができ、重合性単量体含有組成物を無機充填材成形体内部に隙間なく浸透させることができることから、上記のように重合性単量体含有組成物中に無機充填材成形体を浸漬するなどして得られる、見かけ上、重合性単量体含有組成物が含浸した無機充填材成形体を、一定時間加圧条件下に置く方法を採用してもよい。当該加圧の方法としては、例えば、CIP装置などを用いることができる。加圧時の圧力は、好ましくは20MPa以上、より好ましくは50MPa以上、さらに好ましくは100MPa以上である。また加圧した後に常圧に戻す操作(加圧/常圧の操作)を複数回繰り返してもよい。
無機充填材成形体と重合性単量体含有組成物とを接触させる際の温度は、無機充填材成形体内部への重合性単量体含有組成物の浸透をより効率的に行うことができることなどから、0℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらに好ましく、30℃以上、40℃以上、さらには50℃以上であってもよく、また、70℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましい。
無機充填材成形体と重合性単量体含有組成物とを接触させる際の接触時間は、無機充填材凝集体の種類、無機充填材成形体のサイズ、重合性単量体の浸透程度、接触方法などによっても異なり、適宜、調整することができる。例えば、重合性単量体含有組成物中に無機充填材成形体を浸漬する方法を採用する場合は、接触時間を通常0.1~240時間とすることができる。特に、減圧雰囲気下で浸漬する場合は、接触時間を0.5~120時間とすることができ、また、常圧での浸漬と減圧雰囲気下での浸漬を組み合わせる場合の減圧雰囲気下(真空パック装置による減圧など)での接触時間は、例えば0.5~20分間(特に1~10分間)とすることができる。一方、無機充填材成形体に対して圧力をかけて重合性単量体含有組成物を無機充填材成形体に送り込む方法を採用する場合は、接触時間を0.2~48時間とすることができる。
・重合性単量体含有組成物
上記の方法1および2などにおいて使用される重合性単量体含有組成物における重合性単量体の含有量は、例えば、50質量%以上とすることができ、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることが特に好ましい。
重合性単量体含有組成物は、上記した重合開始剤をさらに含むことが好ましく、また、上記した重合促進剤をさらに含むことが好ましい。重合性単量体含有組成物における重合開始剤および重合促進剤のそれぞれの含有量は、上記した重合開始剤および重合促進剤の各使用量と同様とすればよい。また、歯科用ミルブランクに上記した他の成分を含ませる場合には、重合性単量体含有組成物にこれらの他の成分を含ませてもよい。
重合性単量体含有組成物の調製方法に特に制限はなく、例えば、重合性単量体に、重合開始剤、重合促進剤、他の成分等の任意成分を配合して混合することにより調製することができる。
通常、重合性単量体含有組成物の粘性が低い方が無機充填材成形体への浸透速度が速い。重合性単量体含有組成物の粘度(25℃)は、10Pa・s以下であることが好ましく、5Pa・s以下であることがより好ましく、2Pa・s以下であることがさらに好ましい。当該粘度は重合性単量体の種類を適宜選択するなどして調整することができるが、重合性単量体の選択は、それを含む重合性単量体含有組成物の粘度を調整する観点以外にも、得られる歯科用ミルブランクの機械的強度や屈折率も加味して行うことが好ましい。重合性単量体含有組成物の粘度は、例えば、溶剤を含有させることによっても減少させることができる。この場合、当該溶剤は、後の減圧操作で留去することができる。また、温度を上げることで重合性単量体含有組成物の粘度を下げて、浸透を速めることもできる。当該温度としては、無機充填材成形体と重合性単量体含有組成物とを接触させる際の温度として上記した範囲内の温度とすればよい。
・ペーストの調製
一方、方法2において、無機充填材凝集体と重合性単量体含有組成物とを混合してペーストとする際の方法に特に制限はなく、例えば、無機充填材凝集体と重合性単量体含有組成物とを混錬することにより行うことができる。当該混練は、例えば多軸混練機(例えば2軸や3軸の混練機等)、遊星混練機などを用いることができる。混合時や混合後のペーストに対して、必要に応じて真空脱泡処理を行うこともできる。
・重合性単量体の重合硬化
方法1において、無機充填材成形体と重合性単量体含有組成物とを接触させて重合性単量体含有組成物が無機充填材成形体内部に浸入した状態(重合性単量体含有組成物が含浸した状態)で当該重合性単量体含有組成物中に含まれる重合性単量体の重合硬化を行うことにより、目的とする歯科用ミルブランクを得ることができる。また方法2において、ペーストに含まれる重合性単量体の重合硬化を行うことにより、目的とする歯科用ミルブランクを得ることができる。後者の場合には、所望の形状を有する歯科用ミルブランクが容易に得られることなどから、金型にペーストを充填し成形体とした上で重合硬化を行うことが好ましい。成形体とする際には必要に応じてプレス処理を施してもよい。
重合硬化の方法に特に制限はなく、使用される重合開始剤の種類などに応じて、加熱重合、光重合、化学重合などの重合方法を適宜採用することができる。加熱重合する場合、加熱温度に特に制限はなく、例えば40~150℃の範囲内とすることができる。また、加熱時間にも特に制限はなく、例えば、1~70時間の範囲内とすることができる。なお、加熱重合は、1段階で行っても多段階で行ってもよく、後者の場合、加熱温度を適宜変更することができる。一方、光重合する場合、用いられる光に特に制限はなく、可視光であっても、紫外線であっても、その他の光であってもよい。光重合の時間にも特に制限はなく、例えば、1~20分間の範囲内とすることができる。重合率を高めて機械的強度のより高い歯科用ミルブランクを得る観点から、加熱重合により重合硬化を行うことが好ましく、光重合を行った後、引き続き加熱重合を行う方法を採用してもよい。
重合硬化の際、重合性単量体含有組成物が含浸した状態の無機充填材成形体、または、無機充填材凝集体と重合性単量体含有組成物とを混合してなるペーストを、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下や減圧状態(真空状態含む)で重合硬化させると、重合率を高めることができ得られる歯科用ミルブランクの機械的強度がより向上する。減圧状態(真空状態含む)で重合硬化する際には、生産性の観点などから、重合性単量体含有組成物が含浸した状態の無機充填材成形体、または、無機充填材凝集体と重合性単量体含有組成物とを混合してなるペーストを真空パック等に詰めた状態で重合硬化を行うのが好ましい。この場合、重合硬化はオートクレーブ等を用いて加圧加熱重合によって行うこともできる。
また重合硬化は、得られる歯科用ミルブランクの機械的強度をより向上させることができることなどから、重合性単量体含有組成物が含浸した状態の無機充填材成形体、または、無機充填材凝集体と重合性単量体含有組成物とを混合してなるペーストを加圧した状態のまま行ってもよい。重合性単量体含有組成物が含浸した状態の無機充填材成形体、または、無機充填材凝集体と重合性単量体含有組成物とを混合してなるペーストを加圧条件下に置くことで、微小な隙間まで重合性単量体含有組成物がより効果的に入り込むことができて微小な気泡の残存を抑制することができ、また、イッテルビウム化合物(A)や無機充填材(B)と重合性単量体との相互作用が高まって得られる歯科用ミルブランクの機械的強度がより向上する。
上記加圧した状態のまま重合硬化を行う場合における圧力は、20MPa以上であることが好ましく、50MPa以上であることがより好ましく、100MPa以上であることがさらに好ましく、200MPa以上であることが特に好ましい。当該圧力は高いほど好ましく、実際に用いる加圧装置の能力なども踏まえて適宜設定することができる。当該加圧装置としては、例えば、オートクレーブ、CIP装置、HIP(熱間等方圧加圧)装置などが挙げられる。例えば、上記したような、神戸製鋼所社が製造する1000MPa程度に加圧可能なCIP装置などを用いることができる。加圧した状態のまま重合硬化を行う際には、加熱により重合硬化を行う加熱重合を採用してもよいし、光重合や化学重合を採用してもよい。
好ましい具体的な加圧重合方法としては、例えば、重合性単量体含有組成物が含浸した状態の無機充填材成形体、または、無機充填材凝集体と重合性単量体含有組成物とを混合してなるペーストを真空パックに入れて密封し、CIP装置等を用いて加圧しながら重合する方法などが挙げられる。このようにすることで得られる歯科用ミルブランクの機械的強度をより向上させることができる。CIP装置を用いて加圧しながら重合する場合には、所定の圧力をかけた後に、CIP装置の処理室を加温すればよい。より具体的には、例えば、CIP装置の処理室で室温下に重合性単量体含有組成物が含浸した状態の無機充填材成形体、または、無機充填材凝集体と重合性単量体含有組成物とを混合してなるペーストに対して所定の圧力をかけた後、30分間から24時間程度の時間をかけて所定の到達温度まで昇温する方法が挙げられる。当該到達温度としては、例えば、80~180℃の範囲内とすることができる。なお、重合時間と到達温度は、使用される重合開始剤の分解温度なども考慮して設定することができる。
方法2において歯科用ミルブランクを製造する場合も、方法1の場合と同様に、得られる歯科用ミルブランクは単層構造であってもよいし、複層構造であってもよい。複層構造としては、例えば、互いに異なる無機充填材凝集体を含むペーストに由来する層を有するものや、同種の無機充填材凝集体を含むペーストに由来する層を有するものなどが挙げられ、いずれにおいても、方法1の場合と同様に、色調、透明性、物性等の異なる層を有する歯科用ミルブランクとすることができ、臨床的に有用な歯科用補綴物を与えることができる。例えば、重合性単量体の重合硬化後の透明度が高くなるように調整したペーストを第一層を形成するように配置し、また重合性単量体の重合硬化後に象牙質色調になるように調整したペーストを第二層を形成するように配置すると、得られる歯科用ミルブランクを切削加工してクラウンを製造する際に、上層にエナメル質色調を有し下層に象牙質色調を有する、審美性により優れたクラウンを作製することができる。
重合硬化後の色調を所望のものとすることのできる上記ペーストの調製方法に特に制限はなく、例えば、顔料(着色粒子等)をペーストに混合分散する方法やペーストに含まれる無機充填材凝集体の調製時に顔料(着色粒子等)を含有させる方法などが挙げられる。当該顔料としては、例えば、複層構造を有する無機充填材成形体の説明において上記したものなどを用いることができる。また、重合硬化後の色調を所望のものとするための方法としては、上記したような着色ガラスのように、特定の色を有する無機充填材(B)を用いた無機充填材凝集体を含むペーストを用いる方法を採用することもできる。
方法2により複層構造の歯科用ミルブランクを製造する場合の具体的な方法としては、例えば、以下のような方法を採用することができる。すなわち、下パンチを嵌めた一軸プレス用の金型(ダイ)に、第一のペーストを充填して、上パンチを該金型にセットして当該第一のペーストをプレスした後、重合硬化させて第一の層を形成する。次いで、上パンチを外し、形成された第一の層の上に、第二のペーストを充填して、再び上パンチをセットして、当該第二のペーストをプレスした後、重合硬化させて第二の層を形成する。このような操作を所望の層数に応じて繰り返した後、金型から取り出すことで、複層構造の歯科用ミルブランクを得ることができる。なお、プレス時のプレス圧は、用いるペーストの種類や量などに応じて、適宜設定することができ、各層におけるプレス圧は互いに同じであっても異なっていてもよい。また、金型に第一のペーストを充填した後、表面を平らにならし、プレスを行わずにその上に第二のペーストを充填して、第一のペーストと第二のペーストとを共にプレスした後、重合硬化させる方法を採用してもよい。
上記のように重合硬化して得られた硬化物は、そのまま歯科用ミルブランクとして使用してもよいが、重合硬化後に加熱処理を行えば、硬化物内部に生じた応力歪を緩和することができ、得られる歯科用ミルブランクから歯科用補綴物を得る際の切削加工時や歯科用補綴物の臨床使用中における破損を抑制することができる。当該加熱処理の温度としては、例えば、80~150℃の範囲内とすることができる。また、当該加熱処理の時間としては、例えば、10~120分間とすることができる。
また上記のように重合硬化して得られた硬化物には、必要に応じて、所望の大きさへの切断、切削、表面研磨を施して歯科用ミルブランクとしてもよい。
〔歯科用ミルブランク〕
本発明の歯科用ミルブランクは歯科用途に使用され、例えば、切断、カービング、切削等の加工を施すことにより歯科用補綴物を作製する用途に使用することができる。当該歯科用ミルブランクを用いることで、機械的強度および審美性に優れた歯科用補綴物を得ることができる。本発明は、本発明の歯科用ミルブランクを切削加工する工程を含む、歯科用補綴物の製造方法を包含する。当該歯科用補綴物としては、例えば、インレー、アンレー、ベニア、クラウン、ブリッジ等の歯冠修復物;支台歯、歯科用ポスト、義歯、義歯床、インプラント部材(フィクスチャー、アバットメント等)などが挙げられる。歯科用ミルブランクに対する上記加工は、歯科用CAD/CAMシステムを用いて行うことが好ましい。当該歯科用CAD/CAMシステムの例としては、例えば、シロナデンタルシステムズ社製の「CEREC」システム、クラレノリタケデンタル株式会社製の「カタナ」システムなどが挙げられる。
本発明の歯科用ミルブランクの形状に特に制限はなく、目的とする用途等に応じて適宜設定することができ、例えば、三角柱、四角柱、六角柱等の角柱状;円盤状(ディスク状)等の円柱状などとすることができる。
本発明の歯科用ミルブランクのサイズに特に制限はなく、例えば、市販の歯科用CAD/CAMシステムにセットできるサイズとすることができる。具体的なサイズの例としては、一歯欠損ブリッジ等の作製に好適な、40mm×20mm×15mmの角柱状、インレー、アンレー等の作製に好適な、17mm×10mm×10mmの角柱状、フルクラウン等の作製に好適な、14mm×18mm×20mmの角柱状、ロングスパンブリッジ、義歯床等の作製に好適な、直径100mm×厚さ10~28mmの円盤状などが挙げられる。
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
〔製造例1〕
・無機充填材凝集体(1)の製造
フッ化イッテルビウム(ソッキョン社製、「SG-YBF100」、平均一次粒子径0.1μm)15gおよび市販の超微粒子シリカ(日本アエロジル社製、「アエロジル(登録商標)OX50」、平均一次粒子径0.04μm、屈折率1.46、BET比表面積50m2/g)85gを水400mLに入れ、超音波洗浄機にて1時間分散処理を行い分散液(D1)を得た。一方、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、水5gおよび酢酸0.1gを混合し撹拌することにより3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加水分解してなる溶液(S1)を調製した。上記分散液(D1)に上記溶液(S1)を加え、1時間室温で撹拌した。
得られた混合液をスプレードライヤー(大川原化工機製、L8)にて、200℃の条件で噴霧乾燥を行い、さらに90℃で3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材凝集体(1)を得た。
〔製造例2〕
・無機充填材凝集体(2)の製造
フッ化イッテルビウム(ソッキョン社製、「SG-YBF100-702」、平均一次粒子径0.2μm)15gおよび市販の超微粒子シリカ(日本アエロジル社製、「アエロジル(登録商標)OX50」、平均一次粒子径0.04μm、屈折率1.46、BET比表面積50m2/g)85gを水400mLに入れ、超音波洗浄機にて1時間分散処理を行い分散液(D2)を得た。一方、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、水5gおよび酢酸0.1gを混合し撹拌することにより3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加水分解してなる溶液(S2)を調製した。上記分散液(D2)に上記溶液(S2)を加え、1時間室温で撹拌した。
得られた混合液をスプレードライヤー(大川原化工機製、L8)にて、200℃の条件で噴霧乾燥を行い、さらに90℃で3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材凝集体(2)を得た。
〔製造例3〕
・無機充填材凝集体(3)の製造
フッ化イッテルビウム(ソッキョン社製、「SG-YBF100」、平均一次粒子径0.1μm)5gおよび市販のバリウムボロシリケートガラス(ショット社製、「GM27884」NF180グレード、平均一次粒子径0.20μm、屈折率1.53)95gを水400mLに入れ、超音波洗浄機にて1時間分散処理を行い分散液(D3)を得た。一方、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、水5gおよび酢酸0.1gを混合し撹拌することにより3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加水分解してなる溶液(S3)を調製した。上記分散液(D3)に上記溶液(S3)を加え、1時間室温で撹拌した。
得られた混合液をスプレードライヤー(大川原化工機製、L8)にて、200℃の条件で噴霧乾燥を行い、さらに90℃で3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材凝集体(3)を得た。
〔製造例4〕
・無機充填材凝集体(4)の製造
フッ化イッテルビウム(ソッキョン社製、「SG-YBF100」、平均一次粒子径0.1μm)5gおよび市販のバリウムボロシリケートガラス(ショット社製、「GM27884」UF2.0グレード、平均一次粒子径2μm、屈折率1.53)95gを水400mLに入れ、超音波洗浄機にて1時間分散処理を行い分散液(D4)を得た。一方、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、水5gおよび酢酸0.1gを混合し撹拌することにより3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加水分解してなる溶液(S4)を調製した。上記分散液(D4)に上記溶液(S4)を加え、1時間室温で撹拌した。
得られた混合液をスプレードライヤー(大川原化工機製、L8)にて、200℃の条件で噴霧乾燥を行い、さらに90℃で3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材凝集体(4)を得た。
〔製造例5〕
・無機充填材凝集体(5)の製造
酸化イッテルビウム(ソッキョン社製、「SG-YО30SI」、平均一次粒子径0.15μm)15gおよび市販の超微粒子シリカ(日本アエロジル社製、「アエロジル(登録商標)OX50」、平均一次粒子径0.04μm、屈折率1.46、BET比表面積50m2/g)85gを水400mLに入れ、超音波洗浄機にて1時間分散処理を行い分散液(D5)を得た。一方、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、水5gおよび酢酸0.1gを混合し撹拌することにより3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加水分解してなる溶液(S5)を調製した。上記分散液(D5)に上記溶液(S5)を加え、1時間室温で撹拌した。
得られた混合液をスプレードライヤー(大川原化工機製、L8)にて、200℃の条件で噴霧乾燥を行い、さらに90℃で3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材凝集体(5)を得た。
〔製造例6〕
・無機充填材凝集体(6)の製造
フッ化イッテルビウム(ソッキョン社製、「SG-YBF20」、平均一次粒子径20μm)15g、2.0mmのZrボール1000gおよび水400mLをアルミナポッドに入れ、72時間粉砕してスラリーを得た。フッ化イッテルビウムの平均一次粒子径は0.4μmであった。
当該スラリーからZrボールを分離後、そのスラリーに市販の超微粒子シリカ(日本アエロジル社製、「アエロジル(登録商標)OX50」、平均一次粒子径0.04μm、屈折率1.46、BET比表面積50m2/g)85gを加え、超音波洗浄機にて1時間分散処理を行い分散液(D6)を得た。一方、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、水5gおよび酢酸0.1gを混合し撹拌することにより3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加水分解してなる溶液(S6)を調製した。上記分散液(D6)に上記溶液(S6)を加え、1時間室温で撹拌した。
得られた混合液をスプレードライヤー(大川原化工機製、L8)にて、200℃の条件で噴霧乾燥を行い、さらに90℃で3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材凝集体(6)を得た。
〔製造例7〕
・無機充填材凝集体(7)の製造
市販の超微粒子シリカ(日本アエロジル社製、「アエロジル(登録商標)OX50」、平均一次粒子径0.04μm、屈折率1.46、BET比表面積50m2/g)100gを水400mLに入れ、超音波洗浄機にて1時間分散処理を行い分散液(D7)を得た。一方、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、水5gおよび酢酸0.1gを混合し撹拌することにより3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加水分解してなる溶液(S7)を調製した。上記分散液(D7)に上記溶液(S7)を加え、1時間室温で撹拌した。
得られた混合液をスプレードライヤー(大川原化工機製、L8)にて、200℃の条件で噴霧乾燥を行い、さらに90℃で3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材凝集体(7)を得た。
〔製造例8〕
・無機充填材凝集体(8)の製造
フッ化イッテルビウム(ソッキョン社製、「SG-YBF100」、平均一次粒子径0.1μm)15gおよび市販の超微粒子シリカ(日本アエロジル社製、「アエロジル(登録商標)OX50」、平均一次粒子径0.04μm、屈折率1.46、BET比表面積50m2/g)85gをエタノール400mLに入れ、超音波洗浄機にて1時間分散処理を行い分散液(D8)を得た。一方、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、水5gおよび酢酸0.1gを混合し撹拌することにより3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加水分解してなる溶液(S8)を調製した。上記分散液(D8)に上記溶液(S8)を加え、1時間室温で撹拌した。
得られた混合液中の溶媒を減圧留去し、さらに90℃3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材凝集体(8)を得た。
〔製造例9〕
・無機充填材凝集体(9)の製造
フッ化イッテルビウム(ソッキョン社製、「SG-YBF20」、平均一次粒子径20μm)15g、2.0mmのZrボール1000gおよび水400mLをアルミナポッドに入れ、6時間粉砕してスラリーを得た。フッ化イッテルビウムの平均一次粒子径は1μmであった。
当該スラリーからZrボールを分離後、そのスラリーに市販の超微粒子シリカ(日本アエロジル社製、「アエロジル(登録商標)OX50」、平均一次粒子径0.04μm、屈折率1.46、BET比表面積50m2/g)85gを加え、超音波洗浄機にて1時間分散処理を行い分散液(D9)を得た。一方、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、水5gおよび酢酸0.1gを混合し撹拌することにより3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加水分解してなる溶液(S9)を調製した。上記分散液(D9)に上記溶液(S9)を加え、1時間室温で撹拌した。
得られた混合液をスプレードライヤー(大川原化工機製、L8)にて、200℃の条件で噴霧乾燥を行い、さらに90℃で3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材凝集体(9)を得た。
〔製造例10〕
・無機充填材凝集体(10)の製造
フッ化イッテルビウム(ソッキョン社製、「SG-YBF40-4-402」、平均一次粒子径0.04μm)15gおよび市販の超微粒子シリカ(日本アエロジル社製、「アエロジル(登録商標)OX50」、平均一次粒子径0.04μm、屈折率1.46、BET比表面積50m2/g)85gを水400mLに入れ、超音波洗浄機にて1時間分散処理を行い分散液(D10)を得た。一方、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、水5gおよび酢酸0.1gを混合し撹拌することにより3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加水分解してなる溶液(S10)を調製した。上記分散液(D10)に上記溶液(S10)を加え、1時間室温で撹拌した。
得られた混合液をスプレードライヤー(大川原化工機製、L8)にて、200℃の条件で噴霧乾燥を行い、さらに90℃で3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材凝集体(10)を得た。
〔製造例11〕
・無機充填材凝集体(11)の製造
フッ化イッテルビウム(ソッキョン社製、「SG-YBF100」、平均一次粒子径0.1μm)10gおよび市販のバリウムボロシリケートガラス(ショット社製、「8235」K4グレード、平均一次粒子径3μm、屈折率1.55)90gを水400mLに入れ、超音波洗浄機にて1時間分散処理を行い分散液(D11)を得た。一方、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、水5gおよび酢酸0.1gを混合し撹拌することにより3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加水分解してなる溶液(S11)を調製した。上記分散液(D11)に上記溶液(S11)を加え、1時間室温で撹拌した。
得られた混合液をスプレードライヤー(大川原化工機製、L8)にて、200℃の条件で噴霧乾燥を行い、さらに90℃で3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材凝集体(11)を得た。
〔製造例12〕
・無機充填材凝集体(12)の製造
フッ化イッテルビウム(ソッキョン社製、「SG-YBF100」、平均一次粒子径0.1μm)15g、と2.0mmのZrボール1000gおよび水400mLをアルミナポッドに入れ、48時間粉砕してスラリーを得た。フッ化イッテルビウムの凝集状態を変化させることができたが平均一次粒子径は実質的に変わらなかった(0.1μm)。
当該スラリーからZrボールを分離後、そのスラリーに市販の超微粒子シリカ(日本アエロジル社製、「アエロジル(登録商標)OX50」、平均一次粒子径0.04μm、屈折率1.46、BET比表面積50m2/g)85gを加え、超音波洗浄機にて1時間分散処理を行い分散液(D12)を得た。一方、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、水5gおよび酢酸0.1gを混合し撹拌することにより3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを加水分解してなる溶液(S12)を調製した。上記分散液(D12)に上記溶液(S12)を加え、1時間室温で撹拌した。
得られた混合液をスプレードライヤー(大川原化工機製、L8)にて、200℃の条件で噴霧乾燥を行い、さらに90℃で3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材凝集体(12)を得た。
〔製造例13〕
・重合性単量体含有組成物(1)の製造
[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(UDMA)70質量部およびトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)30質量部に、加熱重合開始剤としてベンゾイルペルオキシド(BPO)1質量部を溶解させて、重合性単量体含有組成物(1)を調製した(重合性単量体含有組成物(1)の硬化物の屈折率:1.51)。
〔実施例1〕
(1)前記製造例で得た無機充填材凝集体(1)11.0gを、30.0mm×20.0mmの長方形の穴を持つプレス用金型の下パンチ棒の上に敷いた。タッピングにより粉末をならし、上パンチ棒を上にセットし、テーブルプレス機を用いて一軸プレス(プレス圧:100MPa)を行って無機充填材成形体を得た。
(2)得られた無機充填材成形体を重合性単量体含有組成物(1)に浸漬し、室温で24時間暗所に静置した後、浸漬した状態のまま減圧して脱気(10hPa、10分間)した後、減圧を解除して、重合性単量体含有組成物(1)が含浸した無機充填材成形体(重合性単量体含浸成形体)を得た。当該重合性単量体含浸成形体は、目視上、重合性単量体含有組成物が内部に十分に浸透していて内部に気泡の存在は認められなかった。この重合性単量体含浸成形体を真空パック袋に入れ、真空パック装置にて減圧(10hPa)後、密封した後、50℃の熱風乾燥機に20時間静置し、さらに130で1時間加熱して、目的とする直方体状の歯科用ミルブランクを得た。
〔実施例2~6および比較例1~6〕
実施例1において無機充填材凝集体の種類を表1に記載されたように変更したこと以外は実施例1と同様にして直方体状の歯科用ミルブランクを得た。
(試験例1)
・凝集二次粒子(A’)の平均粒子径(a’)、および、無機充填材凝集体の平均粒子径(x)
製造した歯科用ミルブランクから、ダイヤモンドカッターを用いて、試験片(10mm×10mm×1.3mm)を作製し、平滑面を#1500研磨紙、#2000研磨紙、#3000研磨紙の順に乾燥条件下で研磨して厚みを1.0mmにした。これを走査型電子顕微鏡(SEM;株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU3500」)を用いて撮影し、得られたSEM画像を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製「Macview」)を用いて解析して、イッテルビウム化合物(A)の凝集二次粒子(A’)の平均粒子径(a’)、および、無機充填材凝集体の平均粒子径(x)をそれぞれ求めた。ここで、凝集二次粒子(A’)の粒子径および無機充填材凝集体の粒子径は、それぞれ、その凝集二次粒子(A’)および無機充填材凝集体と同一の面積をもつ円の直径である円相当径とした。結果を表1に示す。
(試験例2)
・X線造影性
製造した歯科用ミルブランクから、ダイヤモンドカッターを用いて、試験片(10mm×10mm×1.3mm)を作製し、平滑面を#1500研磨紙、#2000研磨紙、#3000研磨紙の順に乾燥条件下で研磨して厚みを1.0mmにした。これをデンタルX線装置(株式会社モリタ製、「マックスDC-70」、印加電圧70keV、フィルム距離400mm、スピード0.4秒)を用いて撮影し、現像したフィルムを蛍光投影板に載せ、デンシトメーター(コニカミノルタ製、「PDA-85」)にて光学濃度を測定した。上記撮影時に厚みの異なるアルミステップを配置しておき、そのアルミステップの各厚みと測定した試験片の光学濃度より、アルミニウムの厚みに換算したX線造影性(現像したフィルムにおいて同じ光学濃度となるアルミニウムの厚み;単位mm)を求めた。結果を表1に示す。X線造影性は、1.0mm以上であることが好ましい。
(試験例3)
・透明性
製造した歯科用ミルブランクから、ダイヤモンドカッターを用いて、試験片(10mm×10mm×1.3mm)を作製し、平滑面を#1500研磨紙、#2000研磨紙、#3000研磨紙の順に乾燥条件下で研磨して厚みを1.2mmにした。この研磨面の色度を分光測色計(コニカミノルタ製、「CM-3610d」、D65光源)を用いて測定した。なお透明性は、その測定した際の白バックと黒バックの明度差より算出した。結果を表1に示す。透明性は、20以上であることが好ましく、21以上であることがより好ましく、23以上であることがさらに好ましい。
(試験例4)
・研磨性
製造した歯科用ミルブランクから、ダイヤモンドカッターを用いて、試験片(10mm×10mm×1.3mm)を作製し、600番の耐水研磨紙で研磨し、この研磨面を、シリコンポイント(株式会社松風製、「M2」)を用いて3000rpmで研磨を10秒間行った。この研磨面の光沢を、光沢度計(日本電色工業株式会社製、「VG-2000」)を用いて、鏡を100%としたときの割合として求めた。なお、当該光沢度として60度鏡面光沢(Gs(60°))を測定し、これを研磨性の指標とした。結果を表1に示す。光沢度は、50以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましい。
(試験例5)
・滑沢耐久性
製造した歯科用ミルブランクから、ダイヤモンドカッターを用いて、試験片(10mm×10mm×1.3mm)を作製し、平滑面を#1500研磨紙、#2000研磨紙、#3000研磨紙の順に乾燥条件下で研磨して厚みを1.2mmにした。この研磨面を技工用ポリシングボックス(KAVO社製、「VG-107」)を用いて鏡面研磨し、光沢度計(日本電色工業株式会社製、「VG-2000」)にて光沢度を測定した際に鏡を100%としたときの光沢度が90%以上となるようにした。この試験片について、歯ブラシ磨耗試験(歯ブラシ:「ビトイーンライオン」(硬さ:ふつう;ライオン株式会社製)、歯磨き粉:「デンタークリアMAX」(ライオン株式会社製)、荷重:250g、試験溶液:蒸留水/歯磨き粉=90/10(質量/質量、50mL)、磨耗回数:4万回)を行い、試験後の試験片の光沢度(残存光沢度)を上記光沢度計にて測定した。なお、当該光沢度として60度鏡面光沢(Gs(60°))を測定した。結果を表1に示す。残存光沢度は70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
(試験例6)
・曲げ強さ
製造した歯科用ミルブランクから、ダイヤモンドカッターを用いて、試験片(1.2mm×4mm×14mm)を作製し、37℃の蒸留水中に24時間浸漬した後、万能試験機(株式会社島津製作所製、商品コード「AGI-100」)にセットし、クロスヘッドスピード1mm/分、支点間距離10mmの条件で3点曲げ試験法(JDMAS 245:2017の規定を準用)により曲げ強さを測定した。同様の試験を10個の試験片に対して行い、その平均値を算出して曲げ強さとした。結果を表1に示す。当該曲げ強さは、200MPa以上であることが好ましく、210MPa以上であることがより好ましく、220MPa以上であることがさらに好ましく、230MPa以上であることが特に好ましく、240MPa以上であることが最も好ましい。
実施例1~6の歯科用ミルブランクは、X線造影性、透明性、研磨性、滑沢耐久性および機械的強度に優れていた。これに対して、比較例1~6の歯科用ミルブランクは、これらの物性のうちの少なくともいずれかで、実施例の歯科用ミルブランクよりも劣っていた。