JP6871521B2 - モールドパウダー及び中炭素綱の製造方法 - Google Patents

モールドパウダー及び中炭素綱の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、モールドパウダー及びカーボン濃度が0.08〜0.25質量%の中炭素綱の製造方法に関する。
鋼の連続鋳造とは、溶鋼を連続鋳造機のモールドに流し込んで冷却、固化しながら、固化した凝固シェルをモールドの下方向から引き抜くことを連続的に行うことにより、鋼を連続的に鋳造することをいう。モールド内の溶鋼の表面には、粉末状又は顆粒状のモールドパウダーが添加される。モールドパウダーは溶鋼の熱によって溶融し(以下、モールドパウダーが溶融している状態のものを「パウダースラグ」又は「スラグ」とよぶ。)、スラグは凝固シェルとモールドの間に流入し、フィルム(スラグフィルム)に変化する。スラグが凝固シェルとモールドの間に流入する駆動力は、モールドのオシレーション(振動)、凝固シェルの引き抜きによる引き込み及びスラグの自重である。モールドパウダーの主な役割は(1)溶鋼表面の保温及び酸化防止、(2)溶鋼から浮上する非金属介在物の吸収及び溶鋼の清浄化、(3)凝固シェルとモールドの間の潤滑の保持、(4)凝固シェルからモールドへの抜熱の抑制及び均一化等である。
ところで、カーボン濃度が0.08〜0.25質量%の炭素鋼(以下、「中炭素鋼」とよぶ。「亜包晶鋼」とよぶこともある。)は凝固時に相変態を伴うため収縮量が大きい(特許文献1〜2、非特許文献1参照)。このため、中炭素鋼の連続鋳造では凝固シェルにたわみや凝固遅れが生じて応力が集中し、鋳片表面に割れが生じやすい。さらに、中炭素鋼は凝固収縮によりモールド下部で凝固シェルとモールドの間隙が大きくなり、エアギャップが形成されやすい。このため凝固シェルには局所的にスラグに濡れない部分が生じたり、付着するスラグが薄くなるといったスラグの被覆ムラが生じやすい。スラグの被覆ムラが生じると抜熱が不均一になり、鋳片表面に割れが生じやすい。このように、中炭素鋼は、歩留まり悪化やそれを防ぐための鋳造速度の規制等により生産性が低下しやすい。
対策として、モールドパウダーの結晶化温度を高め、凝固シェルとモールドの間に流入するスラグフィルムの中に伝熱抵抗となる結晶層を厚く析出させ、鋼の凝固速度を遅くする手法、いわゆる緩冷却が指向されてきた。
特開2018−153813号公報 WO2017/078178号
村上洋 他3名,「連続鋳造モールド内における亜包晶炭素鋼の不均一凝固の制御」,鉄と鋼,日本鉄鋼協会,Vol.78,No.1,p.105-112,1992
しかし、緩冷却は凝固シェルとモールドの間の潤滑や凝固シェルの十分な厚みを阻害する面も指摘されている。さらに、スラグフィルム中に析出して緩冷却に寄与する結晶種はカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)が一般的であるが、モールドパウダー組成の最適化によるカスピダイン析出の促進は改善の余地がほぼない。したがって、緩冷却とは異なる手法や特性に着目した鋳片割れ抑制技術が強く望まれている。
本発明のいくつかの態様は上記実状を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、カーボン濃度が0.08〜0.25質量%の中炭素鋼の連続鋳造において、鋳片表面の割れの抑制と、凝固シェルとモールドの間の潤滑とをより高度に両立することができるモールドパウダーを提供すること、及び、それを用いる連続鋳造を有する中炭素鋼の製造方法を提供することにある。
なお、モールドパウダーは溶鋼温度まで加熱すると分解、酸化等の化学反応が生じるため、化学組成は加熱前後で変動する。そこで、本明細書は、モールドパウダーの化学組成を、FとC以外の成分については酸化物換算での質量%で表し、Fについては単体換算での質量%で表し、Cについては炭素原料として添加されるものは単体換算での質量%で表し、炭素原料として添加されるもの以外のC(炭酸カルシウムのC等)は消失するもの(0質量%)とする。
(1)本発明の一の態様は、SiOとCaOを主成分として含み、CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)が1.1以上2.5以下であり、KOの含有量は1.0〜10.0質量%であり、NaOとLiOの含有量の合計は1.0〜18.0質量%であり、F、MgO、Al及びトータルカーボンの含有量はそれぞれ3.0〜15.0質量%、0.5〜3.0質量%、0.5〜10.0質量%及び1.0〜20.0質量%であり、1300℃における粘度が0.04〜0.7Pa・sであり、結晶化温度が1080〜1280℃であり、初晶種がカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)であることを特徴とするモールドパウダーに関する。
Oは同じアルカリ金属酸化物であるLiO、NaOと同様に粘度、結晶化温度、表面張力を低下させる効果を有するが、粘度、結晶化温度の低下効果は最も小さく、表面張力の低下効果は最も大きい。即ち、KOは粘度、結晶化温度を大きく変化させずに表面張力を大きく低下させる。モールドパウダーが上記要件を全て満たすことにより、特に、KOの含有量が1.0〜10.0質量%であることにより、スラグの粘度、結晶化温度は大きく変化させずに、表面張力を大きく低下させる。スラグの粘度、結晶化温度は大きく変化しないため、緩冷却を高い水準で維持できるとともに、スラグの被覆ムラを減少させることができる。したがって、凝固シェルからモールドへの均一抜熱が保持され、鋳片表面の割れを抑制することができる。さらに、表面張力は大きく低下するため、スラグは凝固シェルによく濡れ、凝固シェルとモールドの間に流入し易くなると考えられる。このため、凝固シェルとモールドの間の潤滑を保持することができる。このように、鋳片表面の割れの抑制と、凝固シェルとモールドの間の潤滑とを高度に両立することができる。
(2)本発明の一の態様では、1300℃における表面張力が190〜300mN/mであることが好ましい。凝固シェルとモールドの間の潤滑をより向上することができるとともに、モールド下部での被覆ムラがより減少し、凝固シェルからモールドへの抜熱がより均一になるため、鋳片表面の割れをより低減することができるからである。
(3)本発明の他の態様は、中炭素鋼を連続鋳造する工程を有し、中炭素綱はカーボン濃度が0.08〜0.25質量%であり、前記工程において、本発明の一の態様のモールドパウダーを用いることを特徴とする中炭素鋼の製造方法に関する。
本発明の一の態様のモールドパウダーを用いることにより、収縮量が大きい中炭素鋼の連続鋳造であっても鋳片表面の割れの抑制と、凝固シェルとモールドの間の潤滑とを高度に両立することができるため、良好な表面品質を有する中炭素鋼の鋳片を安定的に製造することができる。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
(1)モールドパウダー
本実施形態のモールドパウダーは、SiOとCaOを主成分として含み、CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)が1.1以上2.5以下であり、KOの含有量は1.0〜10.0質量%であり、NaOとLiOの含有量の合計は1.0〜18.0質量%であり、F、MgO、Al及びトータルカーボンの含有量はそれぞれ3.0〜15.0質量%、0.5〜3.0質量%、0.5〜10.0質量%及び1.0〜20.0質量%であり、1300℃における粘度が0.04〜0.7Pa・sであり、結晶化温度が1080〜1280℃であり、初晶種がカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)である。
[質量比(CaO/SiO)]
モールドパウダーはSiOとCaOを主成分として含有する。CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は好ましくは1.1以上2.5以下であり、より好ましくは1.2以上2.1以下である。質量比(CaO/SiO)が1.1未満だとスラグフィルム中の結晶量が少なく、十分な緩冷却効果が得られない。一方、質量比(CaO/SiO)が2.5を超えるとスラグの粘度が大きく低下し、スラグの液滴が離脱して溶鋼中に巻き込まれ、鋳片の欠陥になりやすい。さらに、カスピダインが減少し、カスピダイン以外の結晶が増加するため、十分な緩冷却効果が得られない。
[KO]
Oの含有量は1.0〜10.0質量%であり、好ましくは1.5〜6.0質量%である。KOは同じアルカリ金属酸化物であるLiO、NaOと同様に粘度、結晶化温度、表面張力を低下させる効果を有するが、粘度、結晶化温度の低下効果は最も小さく、表面張力の低下効果は最も大きい。即ち、KOは粘度、結晶化温度を大きく変化させずに表面張力だけを大きく低下させる。したがって、KOの含有量が上記の範囲であれば、表面張力の低下によってスラグの凝固シェルとモールドの間への流入を促進し、凝固シェルとモールドの間の潤滑を保持することができる。さらに、スラグの粘度、結晶化温度は大きく変化しないため、緩冷却を高い水準で維持でき、鋳片表面の割れを抑制することができる。KOの含有量が1質量%未満だと表面張力の低下効果が得られず、スラグの流入を促進できないため、凝固シェルとモールドの間の潤滑を保持できず、歩留まりが悪化しやすい。一方、KOの含有量が10.0質量%を超えるとスラグの粘度が大きく低下し、スラグの巻き込み欠陥になりやすい。さらに、カスピダインが減少するため、十分な緩冷却効果が得られない。
[NaO+LiO]
NaOとLiOの含有量の合計は1.0〜18.0質量%であり、好ましくは3.0〜14.0質量%である。NaOやLiOはスラグの表面張力を低下させる効果を有するが、その効果はKOより小さい。スラグの表面張力を十分低下させるためにNaOやLiOを過剰に添加すると、スラグの結晶化が阻害され、十分な緩冷却効果が得られなかったり、スラグの粘度が大きく低下し、スラグの巻き込み欠陥になりやすい。NaOとLiOの含有量の合計が1.0質量%未満だとスラグの凝固温度が高くなり、凝固シェルとモールドの間の潤滑を損ねる。一方、NaOとLiOの含有量の合計が18.0質量%を超えるとスラグの粘度が大きく低下し、スラグの巻き込み欠陥や浸漬ノズルの溶損が増大する。
[F]
Fの含有量は3.0〜15.0質量%であり、好ましくは5.0〜14.0質量%である。Fの含有量が3.0質量%未満だと緩冷却効果を与えるスラグフィルム中のカスピダインの析出が不足し、カスピダイン以外の結晶が増大する。一方、Fの含有量が15.0質量%を超えるとスラグの粘度が大きく低下し、スラグの巻き込み欠陥や浸漬ノズルの溶損が増大する。
[MgO]
MgOの含有量は0.5〜3.0質量%であり、好ましくは0.8〜2.5質量%である。MgO含有量が3.0質量%を超えるとカスピダインの析出が著しく低下し、緩冷却効果が得られない。
[Al
Alの含有量は0.5〜10.0質量%であり、好ましくは1.0〜6.0質量%である。Alの含有量が10.0質量%を超えるとカスピダインが析出し難くなり、高融点結晶であるゲーレナイトの析出が増大し、溶融性状の不良や不均一抜熱が生じる。
[トータルカーボン]
トータルカーボンの含有量は1.0〜20.0質量%であり、より好ましくは2.0〜12.0質量%である。トータルカーボンの含有量が1.0質量%未満だと滓化速度が過剰に大きくなり、モールド内のスラグの溶融層が過剰に厚くなるため、スラグベアが生成したり、スラグが湯面センサーに付着し、破損することもある。一方、トータルカーボンの含有量が20質量%を超えると滓化速度が小さくなり、スラグの溶融層の厚みが不足し、溶鋼表面の保温不足、凝固シェルとモールドの間の潤滑不足、溶鋼への未溶融モールドパウダーの巻き込み等の操業異常が生じる。
[粘度]
1300℃におけるスラグの粘度は0.04〜0.7Pa・sであり、好ましくは0.04〜0.50Pa・sである。1300℃におけるスラグの粘度が0.04Pa・s未満だとスラグの巻き込み欠陥が増大し、1.0Pa・sを超えるとスラグの流入が減少し、潤滑不足となる。
[結晶化温度]
モールドパウダーの結晶化温度は1080〜1280℃であり、好ましくは1100〜1220℃である。スラグの結晶化温度が1080℃未満だと凝固シェルの緩冷却効果が不十分で鋳片表面に割れが生じやすくなる。一方、スラグの結晶化温度が1280℃を超えると結晶層が過剰に厚くなるため、スラグの流入が減少し、凝固シェルが破断し、ブレークアウトが生じやすくなる。
[初晶種]
初晶種はカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)であることが必要である。カスピダイン以外の結晶が初晶種であると、緩冷却効果が得られない。
[表面張力]
1300℃におけるスラグの表面張力は190〜300mN/mであり、好ましくは210〜280mN/mである。スラグの表面張力が300mN/mを超えるとスラグの凝固シェルとモールドの間への流入が少なく、潤滑不足や不均一抜熱、緩冷却不足等が生じる。さらに、結晶化が促進されず緩冷却が不足し、鋳片割れが生じやすい。表面張力は低いほど好ましいが、190mN/m未満だと、粘度、結晶化温度等、他の特性が中炭素鋼を鋳造するのに不適となる。
[モールドパウダーの原料]
本実施形態のモールドパウダーの原料はCaO−SiO基材原料、シリカ原料、KO原料、フラックス原料、炭素原料、及び/又はその他の原料で構成される。CaO−SiO基材原料としては、例えば、合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト、リンスラグ、高炉スラグ、ダイカルシウムシリケート、炭酸カルシウム、石灰石、生石灰、ポルトランドセメント等のセメント類等が挙げられる。シリカ原料としては、例えば、パーライト、フライアッシュ、珪砂、長石、珪石、珪藻土、ガラス粉、シリカフューム、シリカフラワー等が挙げられる。KO原料としては、例えば、炭酸カリウム、硝酸カリウム、カリウム長石、炭酸水素カリウム、カリウム氷晶石、フッ化カリウム、又はこれらを含む合成原料等が挙げられる。フラックス原料は、軟化点、粘度及び/又は結晶化温度を調整する役割を有し、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、氷晶石、蛍石、フッ化マグネシウム等の弗化物、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、ホウ酸、ホウ砂、コレマナイト等が挙げられる。炭素原料は、溶融速度を調整する役割を有し、例えば、コークス、グラファイト、カーボンブラック等が挙げられる。その他の原料としては、マグネシア、アルミナ等が挙げられる。モールドパウダーの形態は特に限定されず、例えば、粉末、押し出し成形顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒等が挙げられる。
(2)中炭素鋼の製造方法
本実施形態の中炭素鋼の製造方法は、中炭素鋼を連続鋳造する工程を有し、中炭素綱はカーボン濃度が0.08〜0.25質量%であり、前記工程において本実施形態のモールドパウダーを用いる。
本実施形態のモールドパウダーを用いることにより、収縮量が大きい中炭素鋼の連続鋳造であっても鋳片表面の割れの抑制と、凝固シェルとモールドの間の潤滑とを高度に両立することができるため、良好な表面品質を有する中炭素鋼の鋳片を安定的に製造することができる。
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
[実験方法]
モールドパウダーを用いて中炭素鋼の連続鋳造を行った。表1に、モールドパウダーの組成を示す。実施例1〜10は本発明の実施例であり、比較例1〜9は本発明の比較例である。
Figure 0006871521
実施例1〜10は、CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)が1.1以上2.5以下であり、KOの含有量は1.0〜10.0質量%であり、NaOとLiOの含有量の合計は1.0〜18.0質量%であり、F、MgO、Al及びトータルカーボンの含有量はそれぞれ3.0〜15.0質量%、0.5〜3.0質量%、0.5〜10.0質量%及び1.0〜20.0質量%である。一方、比較例1〜4はKOの含有量が1.0質量%を満たさない。また、比較例1は質量比(CaO/SiO)が1.1を満たさず、比較例2は質量比(CaO/SiO)が2.5を超える。比較例5〜8はそれぞれF、MgO、Al及びKOの含有量がそれぞれ15.0質量%、3.0質量%、10.0質量%及び10.0質量%を超える。比較例9はFの含有量が3.0質量%を満たさない。
表2に、連続鋳造の鋳造条件、即ち、モールドサイズ、鋳造速度及び中炭素鋼のカーボン濃度を示す。
Figure 0006871521
実施例と比較例の鋳造条件は同様とした。
[評価方法]
モールドパウダー(スラグ)及び連続鋳造の結果について、以下の項目の評価を行った。
<粘度>
モールドパウダー(スラグ)の粘度を、球引き上げ法により測定した。即ち、1300℃のスラグ中に直径10mmの白金球を吊り下げ、0.85cm/sの速さで白金球を引き上げたときの荷重から粘度を求めた。
<結晶化温度>
モールドパウダーの結晶化温度を、示差熱法により測定した。即ち、約150gのモールドパウダーを昇温して溶融した後、4℃/minで降温させながらモールドパウダー(スラグ)の温度を測定し、発熱を開始したときの温度を結晶化温度とした。
<初晶種>
モールドパウダー(スラグ)の初晶種を、X線回折法により同定した。
<表面張力>
モールドパウダー(スラグ)の表面張力を、リング法により測定した。即ち、1300℃のスラグ中に直径10mmの白金リングを浸漬し、0.85cm/sの速さで白金リングを引き上げ、白金リングがスラグ液面から離れて液滴が切断する瞬間に示す最大荷重から表面張力を求めた。
<表面割れ種類>
鋳片表面割れ種類を、鋳片表面の目視観察により調査した。
<割れ評価>
鋳片熱延後に発生した鋳片割れを、割れによる格落ち率により評価した。即ち、格落ち率が2%未満の場合「優:◎」、2〜5%の場合「良:○」、5〜10%の場合「可:△」、10%以上の場合「不可:×」と評価した。
<操業安定性(拘束発生の有無)>
操業安定性(拘束発生の有無)を、連続鋳造の操業に問題がなかった場合「問題なし:○」、潤滑不足による鋳片拘束が発生した場合「問題有り:×」と評価した。
[評価結果]
評価結果を表3に示す。
Figure 0006871521
実施例1〜10はいずれも結晶化温度が1080℃以上、かつ、初晶種がカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)であった。また、表面割れの種類は「なし」か「微細」、割れ評価は「◎」か「○」であった。これは、スラグ中にカスピダインが適切に析出し、凝固シェルの緩冷却効果が十分得られ、鋳片表面に割れが生じにくくなったためと考えられる。
実施例1〜10はいずれも1300℃における粘度及び表面張力がそれぞれ0.04〜0.7Pa・s及び190〜300mN/mであった。また、操業安定性(拘束発生の有無)はいずれも「○」であり、鋳片拘束は認められなかった。これは、スラグが凝固シェルとモールドの間に適度に流入し、潤滑や均一抜熱が安定的に保持されたためと考えられる。
以上より、実施例1〜10はいずれも鋳片表面の割れの抑制と、凝固シェルとモールドの間の潤滑とを高度に両立することができた。
一方、比較例1、4及び7には縦割れ又は横割れが生じた。これは、粘度が0.11〜0.75Pa・sと比較的高く、かつ、表面張力が300mN/m以上と高いため、スラグが凝固シェルとモールドの間に十分に流入せず、緩冷却が不足したためと考えられる。比較例2及び5には浅い凹みが生じた。これは、粘度が0.03Pa・sと比較的低く、かつ、表面張力が240mN/m以上と比較的高く、スラグが過剰に流入したためと考えられる。比較例3には鋳片縦割れと鋳片拘束が生じた。これは、潤滑不足と不均一抜熱が生じたためと考えられる。比較例6には微細割れと鋳片拘束が生じた。これは、粘度が0.11Pa・sと比較的高く、表面張力が355mN/m以上と高く、さらに、結晶化温度が1285℃と高く、初晶種がダイカルシウムシリケートあるため、潤滑が不足し、スラグが凝固シェルとモールドの間に十分に流入せず、緩冷却が不足したためと考えられる。比較例7には縦割れと鋳片拘束が生じた。これは、粘度と表面張力が高いため、結晶析出が不足したとともに、スラグの流れ込みが不足し、潤滑が不足したためと考えられる。比較例8は縦方向の凹みに加えて深いオシレーションマークが形成された。比較例9には縦横割れと鋳片拘束が生じた。これは、Fの含有量が少ないため、カスピダインは析出せず、NiO、CaO、SiOで構成される結晶鉱物が析出し、不均一抜熱と潤滑不足が生じたためと考えられる。
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、本実施形態の製造装置等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。

Claims (3)

  1. SiOとCaOを主成分として含み、
    CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)が1.1以上2.5以下であり、
    Oの含有量は1.0〜10.0質量%であり、
    NaOとLiOの含有量の合計は1.0〜18.0質量%であり、
    F、MgO、Al及びトータルカーボンの含有量はそれぞれ3.0〜4.5又は11.5〜15.0質量%、0.5〜3.0質量%、0.5〜10.0質量%及び1.0〜6.2質量%であり、
    1300℃における粘度が0.04〜0.7Pa・sであり、
    結晶化温度が1080〜1280℃であり、
    初晶種がカスピダイン(Cuspidine:3CaO・2SiO・CaF)であることを特徴とするモールドパウダー。
  2. 請求項1に記載のモールドパウダーにおいて、
    1300℃における表面張力が190〜300mN/mであることを特徴とするモールドパウダー。
  3. 中炭素鋼を連続鋳造する工程を有し、
    前記中炭素綱はカーボン濃度が0.08〜0.25質量%であり、
    前記工程において、請求項1又は2に記載のモールドパウダーを用いることを特徴とする中炭素鋼の製造方法。
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