JP2004001017A - 鋼の連続鋳造用モールドパウダー - Google Patents

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尾本 智昭
Takayuki Suzuki
鈴木 貴之
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Abstract

【課題】本発明の目的は、鋳片冷却の緩冷却化を達成することによって、中炭素鋼のような割れ感受性の高い鋼種の鋳片割れを抑制する鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供することにある。
【解決手段】本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、CaO/SiO質量比が1.8〜4.0の範囲内にあり、MgOが1.0質量%未満、NaOが4.5質量%未満であることを特徴とする。

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼の連続鋳造用モールドパウダーに関し、更に詳細には、割れ感受性の高い鋼種、特に、中炭素鋼の鋳造に適した鋼の連続鋳造用モールドパウダーに関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼の連続鋳造においては、主に▲1▼鋳型内の溶鋼表面の被覆保温及び酸化防止;▲2▼溶鋼中より浮上する非金属介在物の吸収及び溶鋼の清浄化;▲3▼鋳型−初期凝固シェル間の潤滑性保持;▲4▼凝固シェル抜熱のコントロールと均一化の目的で、粉末状あるいは顆粒状のモールドパウダーが鋳型内の溶鋼湯面に添加されている。
【0003】
一般にモールドパウダーは、主にCaO−SiO−Alの酸化物を基材とし、これに粘度、凝固温度、塩基度(CaO/SiO比)等の物性を調整する目的で、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を酸化物、炭酸塩または弗化物の形態で適量含み、また、溶融調整目的でCを適量含有する組成を有している

【0004】
溶鋼表面に添加されたモールドパウダーは、溶融してスラグ状になり、鋳型と凝固シェル間に均一に流入して潤滑作用を及ぼすことで、安定した連続鋳造を行うことができる。
【0005】
一方、中炭素鋼と呼ばれる炭素含有量が0.08〜0.18%の鋼や包晶組成鋼の鋳造では、鋳片に割れが発生し易く、直送圧延を行う上で大きな問題となっている。この割れ発生を防止するためには鋳片冷却を均一化、及び緩冷却化することが有効である。そこで、鋳型−凝固シェル間に流入する溶融モールドパウダーの凝固温度もしくは結晶化温度を高く設定することにより、溶融モールドパウダーより結晶を晶出させ、この結晶による抜熱抵抗により鋳片を緩冷却化して鋳片割れを防止することが一般的である。
【0006】
モールドパウダーの凝固温度もしくは結晶化温度の評価方法としては、一般に▲1▼溶融モールドパウダーの粘度、温度のいわゆるアレニウスプロットより得られた関係において、粘度が著しく上昇し、粘度と温度の関係が直線関係より外れる温度、▲2▼冷却時の温度測定によって結晶化発熱により温度降下が停滞する点における温度、または▲3▼示差熱分析法による発熱ピークの発生する温度を測定することによって評価される。
【0007】
また、従来は結晶晶出を促進させるために、CaO/SiO比で表される塩基度を高くし、FもしくはCaFのコントロールにより、凝固温度もしくは結晶化温度を高く設定してスラグフィルム中より結晶を晶出させて鋳片割れを防止している。例えば特開平5−269560号公報では、CaO、Al及びSiOを主成分とする鋼の連続鋳造用鋳型添加剤であって、CaO/SiO重量(質量)比が1.1〜1.8で、CaO/F重量(質量)比が9〜40であることを特徴とする鋼の連続鋳造用鋳型添加剤が開示されている。
【0008】
また、特許第3119999号には、CaO/SiO2が0.6〜1.8の範囲内にあり、2〜10wt.%(質量%)のフッ素、および、Alを含有する珪酸カルシウムの製造用原料と、アルカリ金属・アルカリ土類金属の炭酸塩とを、1200〜1700℃の範囲内の温度で溶融し、炭酸ガスを分解除去した後、急冷し水砕しそして粉砕することによって調製されたモールドパウダー主原料が、70〜95wt.%(質量%)の割合で配合され、そして、炭素分以外の原料中から混入する炭酸等のイグニッションロスの量が7wt.%(質量%)以下に限定されていることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダーが開示されている。
【0009】
更に、特開平11−320058号公報には、CaO、SiOおよびフッ素化合物を基本成分とし、下記(X)式で表されるCaO’の重量%(質量%)と、SiOの重量%(質量%)との比CaO’/SiOが0.9〜2.8であり、下記(Y)式で表されるCaF含有率が、下記条件(A)または条件(B)のいずれかを満足し、さらにNaOを0〜25重量%(質量%)、Cを0〜10重量%(質量%)含有することを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダ;(A)CaO’/SiOが0.9以上、1.9以下のときCaF含有率が15〜60重量%(質量%)(B)CaO’/SiOが1.9を超えて2.8以下のときCaF含有率が5〜60重量%(質量%)ここで、CaO’=T.CaO−F×(56/38)・・・(X) CaF=F×(78/38)・・・(Y) T.CaO:パウダ中の全Ca含有率のCaO換算[重量%(質量%)]が開示されている。
【0010】
また、特許第3179358号には、中炭素鋼の連続鋳造に用いられる連続鋳造用モールドパウダーであって、塩基度(CaO*/SiO2)が1.6〜2.5の範囲にあり、周期律表1A族に属する元素の酸化物を2種類以上、以下の(1)式の範囲内で含有し、かつFを5〜15重量%(質量%)の範囲で含有し、鋳型側に固着した際にその固着層が周期律表1A族に属する元素の酸化物を含む結晶を有することを特徴とする連続鋳造用モールドパウダー;0.13<(1A族酸化物の合計のモル数)/(Caのモル数)<0.6・・・(1) ただし、塩基度のCaO*はパウダー中のCaのモル数からCaOに換算した値であるが開示されている。
【0011】
更に、特開2000−158105号公報には、CaO、SiOおよびフッ素化合物を基本成分とし、下記(A)式で表される(CaO)h[重量%(質量%)]と、SiO含有率[重量%(質量%)]との比(CaO)h/SiOが、0.9〜1.9であり、さらに下記(B)式で表されるCaFを15〜60重量%(質量%)含み、かつNaOを0〜15重量%(質量%)、MgOを1〜20重量%含有することを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダ:ここで、(CaO)h=T.CaO−F×(56/38)(A);CaF=F×(78/38)(B);T.CaO:パウダ中の全Ca含有率のCaO換算量[重量%(質量%)]、F:パウダ中の全F含有率[重量%(質量%)]が開示されている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
以上の従来技術におけるモールドパウダーは、塩基度を高くし、かつFもしくはCaFのコントロールにより凝固温度、結晶化温度を調整して結晶の晶出を促進させている。しかし、最近では、生産性向上のために、鋳造速度の昇速を行うことが重要となってきているが、このような厳しい条件において、従来技術による凝固温度、結晶化温度を高めたモールドパウダーを用いて鋳造される鋳片には表面割れ欠陥が発生する。
【0013】
これに対して、モールドパウダーの塩基度を高くし、更に、F、CaF等を調整することによって、凝固温度、結晶化温度を更に上げ、モールドパウダーの結晶性を向上させることは可能であるが、凝固温度、結晶化温度を余り高くすると、溶鋼からの受熱による滓化が進行しづらく、スラグベアと呼ばれる凝固物の発生を助長する。スラグベアが肥大化すると、鋳型−凝固シェル間への溶融モールドパウダーの流入路が閉塞され、鋳型−凝固シェル間への溶融モールドパウダーの供給が困難となることから、拘束性ブレークアウト等の重大事故の発生が懸念される。従って、従来技術によりモールドパウダーを高凝固温度、高結晶化温度にしても限界がある。
【0014】
従って、本発明の目的は、上記事情を考慮し、更なる鋳片冷却の緩冷却化を達成することによって、中炭素鋼のような割れ感受性の高い鋼種の鋳片割れを抑制する鋼の連続鋳造用モールドパウダーを提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、溶融モールドパウダーから晶出する結晶の晶出速度を速くすることによって、結晶晶出を促進させ、鋳片抜熱をより緩冷却化することにより、中炭素鋼のような割れ感受性の高い鋼種の鋳造に際しても、ブレークアウト等の操業トラブルが発生せず、鋳片割れのない健全な品質の鋳片が得られ、且つ鋳造速度を昇速化することができることを見出した。
【0016】
即ち、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、CaO/SiO質量比が1.8〜4.0の範囲内にあり、MgOが1.0質量%未満、NaOが4.5質量%未満であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、Cが2質量%以上であることを特徴とする。
【0018】
更に、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、1300℃での粘度が1.5ポイズ以下であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダーは、4℃/分〜10℃/分の降温速度における結晶晶出温度範囲が25℃以下であることを特徴とする。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の鋼の連続鋳造用モールドパウダー(以下、単に「モールドパウダー」という)は、従来品のように凝固温度、結晶化温度を高めるだけではなく、これらの温度が同一でも、溶融モールドパウダー中より速やかに結晶を晶出させる、即ち、結晶晶出温度範囲を狭くすることによって、鋳片を緩冷却化して鋳片割れを抑制させるものである。
【0021】
ここで、結晶晶出温度範囲の測定は、下記のようにして行った:1400℃の電気炉中で、内径38mmの白金ルツボに溶融させたモールドパウダーを入れ、その中央部へ白金線で吊るした直径10mmの白金球を白金球上端が溶融モールドパウダーの液面上端高さと同位置となるように浸漬する。溶融モールドパウダーの温度を1400℃となるように充分保持した後、電気炉温度を4℃/分〜10℃/分の速度で降温させる。電気炉温度の低下により溶融モールドパウダー中から結晶の晶出が始ると、溶融モールドパウダーは凝固収縮を起こし、溶融モールドパウダー液面にある白金球を下方向に引っ張る力が働く。この温度が結晶化温度である。また、これにより白金球に下方向の荷重が生じるが、この荷重の発生が開始してから、荷重が20gに達するまでの温度差を測定し、これを結晶晶出温度範囲とする。即ち、この結晶晶出温度範囲が小さい程、結晶化速度が速くなり、実鋳造においても、鋳型−鋳片間に流れ込む溶融モールドパウダーが冷却する過程において、速やかに結晶を晶出することを意味する。ここで、の結晶晶出温度範囲は、25℃以下、好ましくは20℃以下の範囲内にあることが好ましい。
【0022】
各種モールドパウダー組成における結晶化速度を測定したところ、CaO/SiO質量比(塩基度)が1.8〜4.0で、MgOが1質量%未満、NaOが4.5質量%未満の組成において、モールドパウダーの結晶化速度が速くなることを見出した。
【0023】
モールドパウダーの凝固温度、結晶化温度を上げるためには、CaO/SiO質量比を高く設定することが有効であるが、CaO/SiO質量比を余り高く設定すると凝固温度、結晶化温度が高くなり過ぎるために、本発明のモールドパウダーにおいては、1.8〜4.0の範囲内が有効であり、より好ましくは1.9〜3.5の範囲内である。
【0024】
更に、本発明のモールドパウダーにおいて、MgO量は、1.0質量%未満、好ましくは0〜0.9質量%の範囲内である。ここで、MgO量が1.0質量%以上となると、モールドパウダーの結晶晶出温度範囲を狭くすることができないために好ましくない。
【0025】
更に、本発明のモールドパウダーにおいて、NaO量は、4.5質量%未満、好ましくは0.3〜4.3質量%の範囲内である。ここで、NaO量が4.5質量%以上となると、モールドパウダーの結晶晶出温度範囲を狭くすることができないために好ましくない。
【0026】
本発明のモールドパウダーは、上記要件を満たす限り、その組成は限定されず、CaO−SiO−Al系酸化物を基材とし、これに粘度、凝固温度、結晶化温度、軟化点等の物性を調整する目的で、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を酸化物、炭酸塩または弗化物等の形態で適量含み、また、溶融調整の目的でCを適量含有する組成とすることができる。
【0027】
また、本発明のモールドパウダーにおいて、C量は、カーボンの酸化発熱効果により、溶鋼の保温に影響を与えることから、2質量%以上、好ましくは2〜10質量%添加することが有効である。
【0028】
また、本発明のモールドパウダーの粘度は、高速鋳造時の潤滑性を考えると、1300℃で1.5ポイズ以下、好ましくは0.1〜1.4ポイズの範囲内が好ましい。ここで、粘度が1.5ポイズを超えると、潤滑不良によるトラブルが懸念されるために好ましくない。
【0029】
更に、モールドパウダーのF量について、特開平11−320058号公報等では、20質量%を超える非常にF量の多いモールドパウダーも提案されているが、20質量%を超えるモールドパウダーによる鋳造では、浸漬ノズルの溶損、連続鋳造機の腐食が著しく進行するために好ましくない。なお、F量は、0.5〜20質量%、好ましくは2〜18質量%の範囲内とすることが良い。
【0030】
なお、モールドパウダーの凝固温度、結晶化温度も高く設定した方が結晶晶出に対して有利であるが、高過ぎるとスラグベアの発生に繋がるため、本発明のモールドパウダーにおいて、凝固温度は、1130〜1300℃、好ましくは1140〜1280℃の範囲内、結晶化温度は、1130〜1300℃、好ましくは1140〜1280℃の範囲内が有利である。
【0031】
なお、本発明のモールドパウダーの形状は特に限定されるものではなく、例えば粉末タイプや、押出顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒顆粒、転動造粒顆粒のような顆粒タイプ等の形状で使用目的に応じて変化させることができる。
【0032】
【実施例】
以下に実施例を記載して本発明のモールドパウダーを更に説明する。
実施例
以下の表1に記載する原料配合割合にて本発明品及び比較品のモールドパウダーを製造した。得られたモールドパウダーの化学組成及び諸特性を表1に併記する。
【0033】
【表1】
Figure 2004001017
【0034】
表1において、結晶晶出温度範囲は、降温速度4℃/分にて測定した値である。また、鋳片表面割れについては、中炭素鋼を鋳造した際に鋳片に20mm以上の長さの割れが発生したものを不良とした。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、モールドパウダーの鋳片冷却の緩冷却化を達成することによって、中炭素鋼のような割れ感受性の高い鋼種の鋳片割れを抑制することができるモールドパウダーを提供することができる。

Claims (4)

  1. CaO/SiO質量比が1.8〜4.0の範囲内にあり、MgOが1.0質量%未満、NaOが4.5質量%未満であることを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
  2. Cが2質量%以上である、請求項1記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
  3. 1300℃での粘度が1.5ポイズ以下である、請求項1または2記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
  4. 4℃/分〜10℃/分の降温速度における結晶晶出温度範囲が25℃以下である、請求項1ないし3のいずれか1項記載の鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
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