以下では、図面を参照して本発明の一実施形態に係る「クッション品」および「クッション品の製造方法」をより詳細に説明する。図面における各種の要素は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
[本発明のクッション品]
本発明のクッション品は、クッション詰物と、その詰物を収めるための外装体とから少なくとも構成されたクッション品である。図1および図2に示すように、本発明のクッション品100は、クッション詰物10として複数の小片体15を含んでおり、その複数の小片体15が外装体50の内部に収められている。
複数の小片体15の各々は、立体網状繊材集合物から成るものである。具体的には、複数の小片体15の各々は、複数の繊材が互いに局所的に接合した立体網状繊材集合物から構成されている。つまり、小片体15の構成自体が、中実形態を有するのでなく、複雑に絡み合う“繊材”に起因して立体的な隙間が多く形成された嵩高い形態を有している。
ここで、本明細書にいう「立体網状繊材集合物」とは、複数の繊材がランダムな方向に湾曲して互いに局所的に接合することで立体的に集合した構造体であって、全体として三次元的に網状を成す構造体である。「繊材」とは、全体が細長い形状を有するものの、布繊維よりも一般に太く、かつ、立体網状繊材集合物においてランダムに曲がりくねった形態を有する樹脂製の細長部材のことを意味している。更には、ここでいう「互いに局所的に接合する」とは、繊材全体が接続された形態にあるのではなく、繊材同士が“点接続”するように(好ましくは互いに異なる方向に向いた状態で“点接続”するように)引っ付いた形態を実質的に意味している。更には、本明細書にいう「複数の繊材」とは、例えば幅寸法1000mm、厚み寸法30mmの立体網状繊材集合物(即ち、後述する“小片体を得るための切断”に付す前の状態)を想定した場合、その中に50〜3000本程度の本数の繊材が存在することを意味している。
立体網状繊材集合物の繊材の繊度は、150dtex以上、好ましくは300dtex以上、より好ましくは1000dtex以上であり、また、100000dtex以下、好ましくは80000dtex以下、より好ましくは60000dtex以下、さらに好ましくは10000dtex以下である。例示すると繊度は150〜100000dtex、例えば300〜60000dtex、好ましくは1000〜10000dtexである。繊度が上記範囲内であると、立体網状繊材集合物がより好ましい弾性および/または通気性を呈することになり、結果としてクッション詰物として好適な小片体がもたらされ得る。
立体網状繊材集合物の見掛け密度は、好ましくは0.020g/cm3〜0.300g/cm3、より好ましくは0.025g/cm3〜0.200g/cm3、さらに好ましくは0.030g/cm3〜0.150g/cm3、さらにより好ましくは0.035g/cm3〜0.100g/cm3、特に好ましくは0.040g/cm3〜0.080g/cm3である。見掛け密度が上記範囲内であると、立体網状繊材集合物がより好ましい弾性および/または通気性を呈することになり、結果としてクッション詰物として好適な小片体がもたらされ得る。
繊材の断面の構造・形状は特に限定されず、例えば中実構造、中空構造、円形断面および/または異形断面であってよい。また、2種以上の樹脂から繊材が構成されていてもよく、その場合の繊材の断面構造が芯鞘構造、偏心芯鞘構造、サイドバイサイド構造、分割構造および/または海島構造などであってもよい。
本発明のクッション品100は、上述した如くの立体網状繊材集合物を、その単一体として用いるのではなく、小片状に複数に分けられた複数集合体として用いる。つまり、図1および図2に示すように、クッション詰物10としては、「繊材同士が互いに局所的に接合した立体網状繊材集合物の小片体15」を複数含んでいる。
本明細書において用いる「小片体」とは、広義には、クッション品のサイズと比べて小さい形態(好ましくは相当に小さい形態)を有する個片状部材のことを意味しており、狭義には、クッション外装体内に複数個詰めることができる程度の特に小さい形態の部材を意味している。ここでいう「複数」とは、2個などの少数を意味しているというよりもむしろ、少なくとも4個(好ましくは6個以上、より好ましくは10個以上)の“多数”を実質的に意味している。
外装体50は、クッション詰物10、すなわち、複数の小片体15を包み込むことができる包込部材である。外装体自体は、“布材”などの材質から構成されていることが好ましい。布材は、特に繊維布であることが好ましい。つまり、外装体50は、繊維から構成された包込部材であってよい。ここでいう「繊維」は、化学繊維、天然繊維またはそれらの混合繊維であってよい。
化学繊維は、合成繊維、半合成繊維、再生繊維および/または無機繊維であってよい。
合成繊維としては、脂肪族ポリアミド系繊維(例えば、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維)、芳香族ポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール系繊維(例えば、ビニロン繊維)、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエステル系繊維(例えば、ポリエステル繊維、PET繊維、PBT繊維、ポリアリレート繊維)、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリウレタン系繊維、フェノール系繊維およびポリフルオロエチレン系繊維などを挙げることができる。半合成繊維としては、セルロース系繊維および蛋白質系繊維などを挙げることができる。再生繊維としては、レーヨン繊維、キュプラ繊維およびリヨセル繊維などを挙げることができる。そして、無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維および金属繊維などを挙げることができる。
天然繊維は、植物繊維、動物繊維またはそれらの混合繊維であってよい。植物繊維としては、綿および麻(例えば、アマ、ラミー)などを挙げることができる。動物繊維としては、毛(例えば、羊毛、アンゴラ、カシミヤ、モヘヤ)、絹および羽毛(例えば、ダウン、フェザー)などを挙げることができる。
繊維布に用いられる繊維自体は、短繊維であっても長繊維であってもよく、さらには中空繊維であってもよい。また、繊維布に用いられる繊維は、糸形態であってよく、例えば繊維を撚り合わせた撚糸の形態であってもよい。繊維またはそれから得られる繊維糸・撚糸などはそれ自体が弾性特性を有していてよい。
繊維布の構造・構成に関していえば、繊維布が、繊維織物、繊維編物および不織布のいずれであってもよい。つまり、繊維布が、糸を編み込んだ(例えばいわゆるタテ糸とヨコ糸とを交差させるように織り込んだ)“織物”の形態を有していてよく、あるいは、糸が屈曲するように編み込まれた“網物”の形態を有していてもよい。さらには繊維布は、織ったり編んだりされていない“不織布”の形態(例えば、ニードルパンチ布またはスパンボンド布の形態)を有していてもよい。
ある好適な態様として、繊維布は繊維編物であり、例えばいわゆる“ラッセル”と称される布地である。かかる場合、外装体50の布地は、シングルラッセルまたはダブルラッセルのいずれであってもよい。
なお、外装体50は、クッション詰物の出し入れに供するポート部分を有して成ることが好ましい。例えば、ポート部分にはファスナーが備えられてよい。あくまでも例示にすぎないが、金属ファスナー、樹脂ファスナーの他、面ファスナーなどが外装体のポート部分に縫着されていてよい。かかるポート部分を介して外装体50の内部にクッション詰物10を好適に詰めることができる。
本発明のクッション品は、従前のクッション品と比べて特異なクッション特性を有している。例えば、使用時の形態保持性の点でより優れたクッション特性を呈し得る。クッションを所定形態に変形させた場合、その所定形態またはその近似形態を比較的長く維持し易い。あくまでも例示にすぎないが、使用用途に合わせて図3(A)から3(B)へと一旦変形させると、その変形後の形態またはそれが少し戻った形態などを比較的長く維持され易い。特定の理論に拘束されるわけではないが、これはクッション詰物として立体網状繊材集合物の小片体が複数用いられていることに起因している。つまり、“立体網状繊材集合物の複数の小片体”ゆえ、小片体間に存在する隙間などによって形状変形が促進されると共に、小片体同士が互いに係り合うことになるので、クッション品全体として変形可能となりつつも、その変形後のクッション形態が好適に保持される。また、小片体自体は、あくまでも立体網状繊材集合物から成るのでクッション品が反発力を呈し、そのような小片体が複数個で存在するので、全体として、より好適な反発性がクッション品にもたらされる(これは特にクッション品全体を変形する前に限らず、クッション品全体の変更後においてももたらされ得る)。更にいえば、このようなクッション品は、小片体自体に隙間(小隙間)が存在することに加えて、小片体間にも隙間(大隙間)が存在するので、より優れたクッション通気性を呈し得る。
ある好適な態様では、小片体15の各々が略立方体または略直方体の形状を有している。つまり、クッション詰物10として用いられる小片体15の形状が“略立方体”(図1(A)および2(A))または“略直方体”(図1(B)および2(B))となっている。ここでいう「略立方体」とは、立方体に準じる形状である。例えば、“略立方体”は、面と面とがなす角度が直角からややずれている形状、または丸みを帯びている形状や、各辺が略平行であるような形状を含む。「略直方体」についても同様で直方体に準じる形状である。例えば、“略直方体”は、面と面とがなす角度が直角からややずれている形状、または丸みを帯びている形状や、各辺が略平行であるような形状を含む。
小片体15の各々が“略立方体”または“略直方体”の形状を有する場合、クッション詰物10として複数個のキューブ形態またはそれに近い形態の立体網状繊材集合物が外装体に収められていることになる。好ましくは、このような複数個の小片体15はランダムに外装体50に収められている。あくまでも例示にすぎないが、外装体50の内容積を「V外装体」とし、クッション詰物10として用いる小片体15の体積(1個分)を「v小片体」とすると、0.00001×V外装体≦v小片体≦0.25×V外装体であってよく、例えば0.0001×V外装体≦v小片体≦0.1×V外装体、特に0.0001×V外装体≦v小片体≦0.01×V外装体、0.0005×V外装体≦v小片体≦0.01×V外装体、あるいは0.001×V外装体≦v小片体≦0.01×V外装体などであってよい。ちなみに、ここでいう「V外装体」は、外装体50の内側に形成された収容空間部の体積であって、特に収容空間部を最大限に大きく見積もった場合の体積を実質的に意味している。一方、「v小片体」は、小片体15の見掛け体積(小片体の空隙部を含めた体積)であり、小片体15が全体的に成す形状自体の体積を実質的に意味している(つまり、例えば立方体状の小片体であれば、かかる“立方体”の体積に相当する)。
クッション詰物10として用いる複数個の小片体15は、図1(A)・1(B)および図2(A)・図2(B)に示す如く、その全てが略立方体または略直方体の形状を有していてよく(図1および図2では、略立方体形状の小片体が“15a”で示されており、略直方体形状の小片体が“15b”で示されている)、あるいは、図1(C)および図2(C)に示す如く「略立方体形状の小片体(15a)」と「略直方体形状の小片体(15b)」とが混在していてもよい。更にいえば、クッション詰物として用いる小片体の各々が他の形状を有していてもよく、例えば、略球形状、略卵形状・略ラグビーボール形状、略錐形状(円錐、三角錐、四角錐およびその近似形状など)、略錐台形状(円錐台、三角錐台、四角錐台およびその近似形状など)ならびにそれらを組合せた形状などであってもよい。
ある好適な態様では、クッション詰物の少なくとも一部として、互いに部分的に係合する小片体を含んでいる(例えば図1および図2にて参照番号「10’」で示された部分を参照)。つまり、複数の小片体15のうち少なくとも幾つかは、小片体同士が互いに部分的に係合している又は係合できるようになっている。前者の場合、クッション品の使用前にて(即ち、クッション品に押圧力などの外力が特に働いていない状態において)、小片体同士が互いに既に部分的に係合した状態にあることを意味しており、後者の場合、クッション品の使用時において(即ち、クッション品に押圧力などの外力が加えられた際)、小片体同士が互いに部分的に係合することを意味している。本明細書にいう「係合する」とは、小片体同士が部分的に重なるように接している状態又はそのように接することが可能な状態を意味しており、好ましくは一方の小片体が他方の小片体の内部へと部分的に入り込んでいる又はそのように入り込むことができることを意味している。
本発明のクッション品では、そのように“互いに部分的に係合する小片体”ゆえに、従前のクッション品と比べて特異な形態保持性がより呈され易くなっている。より具体的には、「ビーズなどの如く外力に応じて外装体内で詰め物が流動する」といったことはなく、“係合”(例えば“互いの絡み合い”/“互いの引っ掛り”)に起因してクッション詰物同士が互いに保持し合う関係となっており、変形後のクッション形態の長期保持がより促進され得る。
より好適な態様でいえば、本発明のクッション品において小片体同士は互いに絡み合うように係合する。つまり、本発明のクッション品の“係合”としては、繊材に起因して小片同士が互いに絡み合うことが好ましい。より具体的にいえば、一方の小片体の繊材の一部が他方の小片体の内部へと入り込むように絡み合っている又はそのように絡み合うことが可能となっている。小片体の繊材自体は、ランダムな方向に湾曲した形態を有しているので、他方の小片体の内部へと入り込むことによって“絡み合い”がもたらされ得る。
より好適な態様では、クッション品の外側からの押圧によって“係合”が促進される。つまり、図4(A)および4(B)に示すように、クッション品の使用時において小片体同士の部分的な係合が促進される。より具体的には、使用前にて小片体同士が互いに係合していない場合(図4(A))、クッションの外側からの押圧によって小片体同士の部分的な係合がなされる一方、使用前にて小片体同士が既に互いに係合している場合(図4(B))、クッションの外側からの押圧によって小片体同士の部分的な係合の程度が更に大きくなる(例えば、小片体同士の重なり部分が増したり、あるいは、一方の小片体の繊材の一部が他方の小片体の内部へとより深く入り込むようになる)。本発明では、立体網状繊材集合物に起因して小片体自体が比較的大きな空隙を有するので、そのように外側からの押圧によって小片体同士の係合が好適に促進されることになる。
ある好適な態様では、クッション詰物として、ビーズ体、ウレタンフォーム体および綿体から成る群から選択される少なくとも1種を更に含んで成る。つまり、図5に示すように、立体網状繊材集合物から成る小片体15以外にも、ビーズ体17、ウレタンフォーム体18、綿体19またはそれらの2種もしくは3種を更にクッション詰物10として含んでいてもよい。より具体的には、「立体網状繊材集合物の小片体15」と「ビーズ体17」との組合せ、「立体網状繊材集合物の小片体15」と「ウレタンフォーム体18」との組合せ、「立体網状繊材集合物の小片体15」と「綿体19」との組合せ、「立体網状繊材集合物の小片体15」と「ビーズ体17」と「ウレタンフォーム体18」との組合せ、「立体網状繊材集合物の小片体15」と「ビーズ体17」と「綿体19」との組合せ、「立体網状繊材集合物の小片体15」と「ウレタンフォーム体18」と「綿体19」との組合せ、あるいは、「立体網状繊材集合物の小片体15」と「ビーズ体17」と「ウレタンフォーム体18」と「綿体19」との組合せがクッション詰物10として含まれていてもよい。
“ビーズ体17”が用いられる場合、微小形態のビーズ体を複数個用いることが好ましい。ビーズ体の材質は、クッション用ビーズとして常套的に用いられているものであれば、特に制限はない。あくまでも例示にすぎないが、各種樹脂から成るビーズであってよく、例えばいわゆる“発泡ビーズ”であってもよい。特に制限するわけではないが、ビーズ体17の各サイズは、立体網状繊材集合物の小片体15の各サイズよりも小さくてよい。
“ウレタンフォーム体18”が用いられる場合、ウレタンフォーム体の小片体を複数個用いることが好ましい。かかるウレタンフォームの小片体は、“立体網状繊材集合物の小片体15”と同様のサイズ・形状を有するものであってよい。
“綿体19”が用いられる場合、綿体の小片体を複数個用いることが好ましい。かかる小片体は、“立体網状繊材集合物の小片体15”と同様のサイズ・形状を有するものであってよい。また、“綿体”の場合は、小片体の形態に特に限らず、不定形の形態で用いてもよい。“綿体”の具体的な種類は、特に制限があるわけではなく、木綿、真綿、麻綿、羊毛綿、合繊綿などであってよい。
本発明のクッション品は、外装体に加えて内包体を更に有していてよい。より具体的には、図6に示すように、本発明のクッション品100は、クッション詰物10を包み込むための内包体70を外装体50の内側に更に有して成るものであってよい。内包体70は生地材から成るものであってよく、そのような生地材によって、複数の小片体15が包まれていてよい。内包体70の材質は、特に制限されるわけでないが、ガーゼ状のものであってよい。好ましくは、小片体15の繊材が内包体70から突き出ないような厚み(即ち、生地材の厚み)を内包体70が有している。つまり、内包体70の生地厚みは比較的厚くなっていることが好ましく(本発明の如くの小片体が用いられない場合と比べて厚くなっていることが好ましく)、および/または、比較的小さい目合となっていることが好ましい(本発明の如くの小片体が用いられない場合と比べて小さい目合となっていることが好ましい)。
ある態様において、本発明のクッション品は、ワッディング層を更に有するものであってよい。より具体的にいえば、(例えば、外装体および/または内包体がワッディング層を有していてよい。)
本発明のクッション品は、いわゆる“クッション”の範疇に入るものであれば、その全体形態はいずれのものであってよい。例えば、本発明のクッション品は、座布団の形態を有するものに限らず、例えば枕、マットレスなどの種々の具体的製品形態を有していてよく、あるいは、座位保持・姿勢保持などの点で使用者の身体を保持するための形態を有していてもよい。
ある好適な態様では、本発明のクッション品は医療・介護用のクッションである。つまり、本発明のクッション品は医療用および/または介護用のクッションとなっていてよく、それゆえ、好ましくは医療現場または介護現場で用いるクッションに相当する。このようなクッション品は、医療現場または介護現場において、患者・被介護者の身体と接するクッションといえる。例えば、本発明のクッション品は、コルセット用途などに代表される如くの比較的長期に身体に装着されるクッションであったり、あるいは、ベッド(通常のベッドの他、リクライニング・ベッドなどの可変式ベッドを含む)、シート(通常のシートの他、車のシートやリクライニング・チェアなどの可変式シートを含む)または車椅子などと共に用いられるクッションであったりしてよい。あくまでも例示にすぎないが、リクライニング・ベッドやリクライニング・チェアなどにおいて使用される背や足の高さなどのレベルを変えるためのクッション品として、あるいは、床ずれ防止に使用されるクッション品などとして本発明を用いてよい。
好ましくは、本発明のクッション品は使用者の所定座位や所定姿勢を保持するためのクッションとなっている。つまり、本発明のクッション品は好ましくはポジショニング・クッションであり、それゆえ、いわゆる座位保持クッション、姿勢保持クッションなどであってよい(このようなクッションは例えば医療・介護用途では例えば車椅子等と共に好適に用いられたりする)。かかる態様では、特にクッション品が変形自在(好ましくは全体的または部分的に変形自在)になっている(上述した如く変形後の形状は好適に長期維持されやすい)。上述した医療用クッションとしての“コルセット”は、身体の所定部位の好適な保持・固定に供するものであり、ポジショニング・クッションに相当する。その他のポジショニング・クッションとしては、頸椎用カラー、ランバーサポートなどを例示することができる。
具体的なクッション名称の観点からも例示するとすれば、本発明のクッション品は、コルセット(例えば、腰痛治療などを目的としたコルセットなど)、頸椎用カラー、床ずれ防止クッション、体位変換クッション、まくらパッド、ベッド用アクションパッド、フィットサポート、脇用クッション、ひじ用パッド、ランバーサポートなどとして用いてよい。あくまでも例示にすぎないが、図7では本発明のクッション品を“頸椎用カラー”として用いる態様を例示している。
[本発明の製造]
本発明の製造方法は、上述したクッション品を製造するための方法である。具体的には、クッション詰物とその詰物が収められた外装体とを有して成るクッション品の製造方法であって、
(i)溶融原料をダイから紡糸状に押し出すことによって得られる複数の繊材を液槽中へと降下させ、(ii)複数の繊材が互いに局所的に接合した立体網状繊材集合物を液槽から回収することで立体網状繊材集合物を作製し、
作製した立体網状繊材集合物を個片に切断して、クッション詰物として複数の小片体を得ることを特徴とする。
工程(i)および(ii)では、ダイから得られる複数の溶融状態の繊材を液槽で受けることによって、繊材が冷却されて固化すると共に、複数の繊材が互いに局所的に接合することで立体網状繊材集合物が得られる。より具体的には、ダイから得られる複数の溶融状態の繊材が液槽の槽液体の中へと導入されるところ、その槽液体に接することで繊材が除熱されつつも、繊材がうねるように湾曲するので、複数の繊材同士が互いにランダムに局所的に接合することになる。
本発明の製造方法では、液槽から回収した立体網状繊材集合物を切断に付す。具体的には、立体網状繊材集合物を個片に切断し、それによって、クッション詰物として複数の小片体を得る。換言すれば、本発明の製造方法では、液槽から回収した立体網状繊材集合物を単に切断するのではなく、上述のクッション詰物として好適となるように“個片状”および/または“細切れ状”に裁断している。
本発明の工程(i)および(ii)を詳述する。本発明の製造方法では、溶融原料をダイから紡糸状に押し出すことによって得られる複数の溶融繊材を液槽中へと自然降下させ、次いで、かかる複数の繊材から構成される立体網状繊材集合物を液槽から回収している。より具体的に例示すると、各原料の融点以上の温度に加熱した二軸押出機に原料ペレット(例えば原料樹脂ペレット)を投入して原料ペレットを溶融させる。次いで、得られる溶融原料を二軸押出機からダイへと送り、紡糸を行う。特に、複数の孔を有するダイから連続的に下方向へと溶融原料を押し出すように吐出して紡糸を行う。紡糸により得られた複数の繊材は、液槽で受けられ冷却固化に付される。より具体的には、液槽で受けられた複数の溶融繊材は、液槽の槽液体中で湾曲状態で互いに不規則・無秩序に絡まり合うように融着接合しつつ冷却固化し、それによって、意図する立体網状繊材集合物が得られることになる。
本発明の製造方法で使用されるダイは、例えばTダイであってよい。かかるTダイは、所定間隔で複数の孔を有しており、その複数の孔からそれぞれ溶融原料を押し出すことによって複数の溶融繊材が形成される。また、液槽は、水などの槽液体を貯留する槽であって、ダイから降下する溶融状態の繊材の冷却固化するのに資するだけでなく、繊材同士の融着接合にも資する。
繊材の材質は、好ましくは樹脂材である。すなわち、繊材の元となる原料ペレットおよび溶融原料が樹脂成分を好ましくは含んでいる。かかる樹脂成分は熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、特に制限されるわけではないが、例えば、ポリオレフィン(例えばポリエチレンおよびポリプロピレンなど)、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレートなど)、ポリアミド(例えばナイロン66など)、ポリ塩化ビニルならびにポリスチレンなどから成る群から選択される少なくとも1種である。なお、これらの樹脂を構成単位に含んだコポリマーまたはエラストマーであってもよく、更には、そのような樹脂材、コポリマーおよび/またはエラストマーなどが適宜ブレンドされたアロイ材であってもよい。例えば、繊材の樹脂成分がαオレフィン(特にポリプロピレン)の場合では、耐薬品性および/または耐熱性の点でより優れた小片体、すなわち、クッション品を得ることができる。また、繊材自体は、単独の種類の樹脂成分からなるものに限られず、2種以上の種類の樹脂成分からなるものであってもよい。また、繊材には種々の添加剤が含まれていてもよい。例えば、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、顔料、光安定剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、発泡剤、着色剤、ブロッキング防止剤、滑剤、帯電防止剤および可塑剤から成る群から選択される少なくとも1種の添加剤が含まれていてよい。更にいえば、繊材には、ガラスフィラー、カーボンフィラーのような無機または有機フィラーが含まれていてもよい。
好ましくは液槽にはコンベア部材が設けられている。コンベア部材は、ダイで形成された溶融繊材を全体的に所定方向へと導く作用を有すると共に、槽液体中における繊材同士の接合を助力し、また、最終的に得られる立体網状繊材集合物の厚みなどの形態を決定付けるように作用し得る。コンベア部材は、ダイの下方に位置付けられるところ、その大部分または全部が槽液体に浸かった状態で使用される。これにより、上流側においてダイから連続的に得られる複数の溶融繊材を液槽で冷却固化させつつ、それらを連続的により下流側へと送ることができる。下流側においては複数の繊材から構成される立体網状繊材集合物を連続的に液槽から取り出して回収する。なお、ダイから降下する溶融繊材が槽液体に先立ってコンベア部材に衝突する場合では、かかる衝突に起因して溶融繊材のランダムな湾曲がより好適に促進されることになる。
液槽にコンベア部材が設けられる場合、コンベア部材としては一対のサブ・コンベア部材を離隔対向するように設けることが好ましい。かかる場合、一対のサブ・コンベア部材に挟持される形態で複数の繊材およびそれから構成される立体網状繊材集合物が下流へと送られることになり、より好適な連続的作製が実現され得る。
なお、液槽から回収した立体網状繊材集合物そのものは、樹脂成分の種類、繊度、繊材径および断面構造等が異なるように複合化されたものであってもよい。
また、液槽から回収した立体網状繊材集合物そのものは、複数の立体網状繊材集合物(サブ立体網状繊材集合物)が層状に積層化されたものであってもよい。例えば、立体網状繊材集合物は、樹脂成分の種類ならびに繊度および見掛け密度等の異なる繊材からなるサブ立体網状繊材集合物を層状に積層した多層構造体となっていてよい。1つ例示すると、3層の積層構造を有する立体網状繊材集合物であってよく、外側の2つの層の繊材の繊度がより小さいものであり、中心の層の繊材がより高い剛性を有するものであってよい。なお、これらの層間の接着方法は特に限定されず、例えば熱融着および接着剤塗布による接合等を利用してよい。
本発明の製造方法では、図8に示すように、一旦作製された立体網状繊材集合物100’を個片に切断し、クッション詰物として複数の小片体15を得る。切断に供する手段は、特に制限されず、例えばカッターなどの機械的切断手段を用いてよい。
あくまでもクッション詰物として複数の小片体を得る操作ゆえ、単に形状を整えるための切断ではなく、多分割のための切断である。つまり、本発明の製造方法でいう「切断」は、2分割などの“小分割”を意味しているというよりもむしろ、図8に示す如く少なくとも4分割(好ましくは6分割以上、より好ましくは10分割以上)の“多分割”の切断を実質的に意味している。別の観点でいうと、クッションの外装体の内容積を「V外装体」とし、クッション詰物の小片体(1個分)の体積を「v小片体」とすると、0.00001×V外装体≦v小片体≦0.25×V外装体であってよく、例えば0.0001×V外装体≦v小片体≦0.1×V外装体、特に0.0001×V外装体≦v小片体≦0.01×V外装体、0.0005×V外装体≦v小片体≦0.01×V外装体、あるいは0.001×V外装体≦v小片体≦0.01×V外装体などとなるように立体網状繊材集合物を細分割処理することが好ましい。
なお、“複数の小片体”は、立体網状繊材集合物の切断から得られるものゆえ、小片体15の各々には切断面が存在し得る。つまり、各小片体15の面の少なくとも1つは切断によって形成された面(すなわち“カット面”)となっている。“カット面”についていえば、それが多いほど、小片体を構成する繊材の先端部がむき出しとなる部分が多いことを意味している。カット面では繊材自体の二分割で繊材の端部化が特に生じやすいからである。繊材先端部のむき出し割合が多くなると(即ち、カット面に起因して繊材の端部が多くなると)、クッション詰物として“互いに係合する小片体”の割合が多くなり得る。つまり、小片体同士の“互いの絡み合い”/“互いの引っ掛り”が特に生じやすくなるので、必要に応じて“カット面”を増やしてよい。
小片体の少なくとも1つの面には、不織布などの布材を設けてもよい。このように布材が設けられた面は、上記カット面とは逆で、小片体同士の“互いの絡み合い”/“互いの引っ掛り”を抑制するように機能し得る。布材によって繊材の先端部がカバーされるからである。したがって、小片体同士の“互いの絡み合い”/“互いの引っ掛り”を調整するために、小片体の面の少なくとも1つに不織布などの布材を設けてもよい。例えば、切断前の立体網状繊材集合物の主面(例示すると、その底側主面および/または上側主面)に布材を広範に貼り付け、その後、切断に付すことによって、少なくとも1つの面に布材が設けられた小片体を複数得ることができる。
また、“複数の小片体”は、立体網状繊材集合物の切断から得られるものであるので、小片体自体の繊度および見掛け密度などの物性は、立体網状繊材集合物と同様であり得る。つまり、小片体15の繊度は、150dtex以上、好ましくは300dtex以上、より好ましくは1000dtex以上であり、100000dtex以下、好ましくは80000dtex以下、より好ましくは60000dtex以下、さらに好ましくは10000dtex以下であり、典型的には繊度は150〜100000dtex、例えば300〜60000dtex、好ましくは1000〜10000dtexである。また、小片体15の見掛け密度は、好ましくは0.020g/cm3〜0.300g/cm3、より好ましくは0.025g/cm3〜0.200g/cm3、さらに好ましくは0.030g/cm3〜0.150g/cm3、さらにより好ましくは0.035g/cm3〜0.100g/cm3、特に好ましくは0.040g/cm3〜0.080g/cm3である。
なお、繊度または繊材太さについていえば、繊材を太くしたり、あるいは、細くしたりすることによって、小片体同士における“互いの絡み合い”/“互いの引っ掛り”の生じ易さおよび/または程度(即ち、絡み合い度合/引っ掛り度合)などを適宜調整することができる。
更になる物性についていえば、立体網状繊材集合物100’またはそれから得られる小片体15の圧縮率も本発明のクッション品として好適なものであることが好ましい。より具体的には、立体網状繊材集合物100’またはそれから得られる小片体15につき、圧縮率が50%の時の圧縮応力と圧縮率が25%の時の圧縮応力との比率(圧縮応力安定性)が、好ましくは1.2〜5.0、より好ましくは1.5〜3.5、さらに好ましくは1.7〜3.0となっている。圧縮応力安定性が上記範囲内であると、“複数の小片体”をクッション詰物として用いたクッション品を圧縮した際に生じる圧力が圧縮率によって大きく変化せず、急激な沈み込みがなく、それゆえ、クッション品の上に座る場合に、硬すぎず、同時に沈み込みすぎないといった良好なクッション性が呈されることになる。
本発明の製造方法における“立体網状繊材集合物”および“小片体”に関連するその他の事項は、上述の[本発明のクッション品]で説明しているので、重複を避けるために説明を省略する。
以上、本発明の実施態様について説明してきたが、本発明の適用範囲における典型例を示したに過ぎない。したがって、本発明は、上記の実施形態に限定されず、種々の変更がなされ得ることは当業者に容易に理解されよう。