以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
1.本実施形態の手法
まず本実施形態の手法について説明する。従来、WIM(Weigh-In-Motion)によって、構造物を移動する移動体の重量を推定する手法が広く知られている。以下、本明細書では、構造物が橋梁であり、移動体が車両である例について説明する。ただし、構造物は移動体の重量によって変位(狭義には撓みの変位)を生じるものであれば橋梁には限定されない。また、移動体についても構造物に対して荷重をかけながら、当該構造物上を移動するものであれば車両には限定されない。
WIMでは、車両の移動による橋梁の変位と、基準車両(広義には基準移動体)が橋梁上を移動したときの、橋梁の各地点の変位を示す影響線データとに基づいて、車両の重量を算出する。
図1は、影響線データの例を説明する図である。図1の横軸は、橋梁の長さを示している。図1の縦軸は、橋梁の垂直方向の変位を示している。図1に示す波形が、橋梁の影響線データを示している。図1の波形は、例えば、1t車等、あらかじめ重量が分かっている基準車両が橋梁上を通過したときの、橋梁の任意の点(例えば、橋梁の支間中央部)における撓みの変位を示している。影響線データは、例えば、計測システムを動作させる前に、あらかじめ作成、記憶されている。
図2は、影響線データに基づくWIMの手法、及び演算結果を説明する図である。図2の横軸は時間を表し、縦軸は橋梁の垂直方向の変位を表す。重量の推定対象となる車両が橋梁を移動した場合、橋梁に設置されたセンサー出力に基づいて、橋梁の所与の点での変位の時系列的な変化が求められる。図2の波形A1が、車両の通過による橋梁の撓みの変位を表す。
WIMでは、あらかじめ求めておいた影響線データを、走行車両の軸数に応じて配置する。ここでは図3に示したように4軸の車両を想定しているため、影響線データはA21〜A24に示した4つが配置される。なお、影響線データの配置の際には、車両の各車軸の、橋梁への進入時刻、及び退出時刻を用いて、図1に示した影響線データの横軸の長さを、時間軸に変換する。
図2の例では、車両の1軸目の車軸が、時刻「ti1」で橋梁の進入し、時刻「to1」で橋梁から退出した。よって、1軸目に対応する影響線データA21は、「ti1」及び「to1」が端点となるように配置される。2〜4軸目の車軸についても同様であり、各車軸の進入時刻「ti2」〜「ti4」、及び退出時刻「to2」〜「to4」に基づいて、影響線データA22〜A24を配置する。
影響線データは、所定重量(例えば上述したように1t)の車両が移動した際の変位を表す。そのため、車両の各車軸の重量をWj(ここではjは1〜4の整数)とした場合、各車軸による橋梁の変位は、影響線データのWj倍となる。即ち、1軸目の車軸による変位は、A21をW1倍したA31により表される。同様に、2軸目の車軸による変位はA22をW2倍したA32であり、3軸目の車軸による変位は、A23をW3倍したA33であり、4軸目の車軸による変位は、A24をW4倍したA34である。
図3に示した4軸車全体による変位Uは、A31〜A34の合計であり、下式(1)により表される。
U=W1*A21+W2*A22+W3*A23+W4*A24 …(1)
図2の例では、波形A4が、上式(1)により求められる変位Uを表す。WIMでは、影響線データを用いて求められた変位U(A4)と、センサーを用いて測定された変位(A1)との誤差が小さくなるように、各車軸の軸重W1〜W4が推定される。具体的には、最小二乗法等の数学的手法を用いて、W1〜W4を決定すればよい。
そして、各軸重の総和であるW1+W2+W3+W4が、図3に示した4軸車の車両重量として求められる。
上述したように、WIMでは最小二乗法等の数学的手法により各車軸の軸重を推定する。そのため、車軸の軸重として現実に即さない値が求められてしまう場合がある。
図4は、影響線データに基づくWIMの手法、及び演算結果を説明する他の図である。B1は図2のA1と同様に、計測された橋梁の変位を表す波形である。B21〜B24は各車軸に対応する影響線であり、B31〜B34は車軸の軸重W1〜W4を考慮した車軸ごとの変位であり、B4がB31〜B34を合計した波形(変位U)である。
図4に示したように、B1とB4の誤差が小さく、この場合のW1〜W4が最小二乗法により求められた各車軸の軸重となる。ただし、図4の例ではW2及びW3がマイナスの値になっている。当然、軸重がマイナスとなることは現実的にはあり得ないが、WIMでは軸重を数学的手法により推定するため、このような結果が頻繁に発生する。
図4のようなケースでも、W1及びW4として、実際の軸重よりも大きな値が推定されており、各軸重の総和(W1+W2+W3+W4)の精度は充分高いことがわかっている。つまりWIMでは、車両総重量の推定精度はよいが、各軸重の推定精度が悪い、と言うことができる。
ここで、WIMにより軸重Wjが求められた車軸が、全て1台の車両のものであれば、車両重量の推定において大きな問題は生じない。例えば図3に示したように4軸の車両を対象としてW1〜W4を推定した場合、車両重量はW1〜W4の総和であるため、上述したように高精度での推定が可能である。
しかしWIMの対象の橋梁上に、複数の車両が同時に存在する場合がある。具体的には、1台目の車両が橋梁へ進入した後、当該1台目の車両が橋梁から退出する前に、2台目の車両が橋梁に進入することがある。これは、同一のレーンを短い車間距離で走行している(連行)場合もあれば、異なるレーンを走行している(併走)場合もある。
この場合、橋梁の変位は、当該橋梁上に存在する全ての車両の重量、位置に応じて決定される。そのため、いずれか1台に着目し、他の車両を無視してしまえば、車両重量の推定精度が低下してしまう。
これに対して、複数台の車両をまとめてWIMの対象とすることが考えられる。例えば、2軸の車両が2台同時に橋梁を移動した場合に、それらを4軸の車両として考えてWIMを行う。このようにすれば、図3の4軸車の場合と同様の処理により、4つの車軸のそれぞれの軸重を推定できる。
ただし、2台の2軸車を4軸車として見立てて、4つの軸重W1〜W4を求めた場合、各軸重の総和(W1+W2+W3+W4)は高い精度で求めることができるが、当該総和は2台の車両重量の合計である。そのため、このままでは、1台当たりの車両重量を特定できない。
1軸目及び2軸目の車軸が1台目の2軸車に対応し、3軸目及び4軸目の車軸が2台目の2軸車に対応する場合、1台目の車両重量をW1+W2により求め、2台目の車両重量をW3+W4により求める、といった手法も考えられる。しかし図4を用いて上述したように、W1〜W4のそれぞれの値の推定精度は低く、W1+W2、及びW3+W4はそれぞれの2軸車の実際の車両重量との誤差が大きいおそれがある。
即ち、従来のWIMでは、複数車両の同時走行(連行、併走)が行われた場合、各車両の車両重量を高い精度で推定することができないという課題があった。
以上の課題に対して、本実施形態に係る計測装置1は図5に示したように、構造物(橋梁5)が第1〜第N(Nは2以上の整数)の移動体(車両6)の移動に起因して強制振動する強制振動区間の前の時刻であって、第1〜第Nの移動体が構造物上を移動していないときの第1の時刻と、強制振動区間の後の時刻であって、第1〜第Nの移動体が構造物上を移動していないときの第2の時刻と、を構造物に設置されたセンサー部2からの検出情報に基づいて判定する移動体判定部210と、センサー部2からの検出情報に基づいて、構造物が撓む変位を算出する変位算出部220と、算出された変位と、基準移動体(基準車両)が構造物上を移動したときの構造物の各地点の変位を示す影響線データ又は影響面データと、に基づいて、第1〜第Nの移動体の総重量情報を求め、求めた総重量情報を第1〜第Nの移動体の各車軸に対応するセンサー部からの検出情報に基づいて分配処理することで、第1〜第Nの移動体のうちの少なくとも1つの移動体の重量を算出する重量算出部250と、を含む。
ここで強制振動区間とは、移動体の移動により構造物の変位が生じる時間(期間)である。影響線データについては上述したように、基準移動体が移動したときの構造物の変位を表すデータである。本実施形態では、図23、図24を用いて後述するように、複数の影響線データをまとめて影響面データを求めてもよい。以下では、まず影響線データを用いる実施形態を説明し、変形例として影響面データを用いる手法を説明する。
第1の時刻では第1〜第Nの移動体のいずれの移動体も橋梁に進入していないと判定される。また第2の時刻では、第1〜第Nの移動体の全移動体が橋梁からの退出を完了していると判定される。つまり、第1の時刻から第2の時刻までの期間、或いはそれに相当する期間を対象とすることで、第1〜第Nの移動体を対象としたWIMが可能になる。なお後述するように、センサー部2として加速度センサーを用いて橋梁の変位を求める場合、第1の時刻及び第2の時刻を用いることで、境界条件を適切に求めることも可能になる。
WIMを行うことで、第1〜第Nの移動体の総重量情報を求めることができる。ここでの総重量情報とは、第1〜第Nの移動体の移動体重量の総和(総重量)そのものであってもよいし、総重量に対応する他の情報(例えば所定の演算をすることで総重量を特定可能な情報)であってもよい。上述したように、総重量情報は、対象の移動体が複数であったとしても高い精度で推定できる。
さらに本実施形態では、総重量情報を第1〜第Nの移動体の各車軸に対応するセンサー部2からの検出情報に基づいて分配処理する。このようにすれば、最小二乗法等の数学的手法により求められる各軸重(図2等の例であればW1〜W4)とは異なる観点の情報に基づいて、総重量情報を車両(車軸)ごとに分配できる。そのため、複数の移動体を対象とした場合に、各移動体の重量を精度よく求めることが可能になる。
以下、本実施形態に係る計測装置1、及び計測装置1を含む計測システム10の構成例を説明し、その後に計測装置1の各部で実行される処理の詳細について説明する。
2.システム構成例
図6は、本実施形態に係る計測システム10を説明する図である。計測システム10は、計測装置1と、センサー部2と、を有している。計測装置1とセンサー部2に含まれる各センサーは、例えば、携帯電話の無線ネットワーク及びインターネット等の通信ネットワーク4を介して、通信を行うことができる。
センサー部2は、構造物の一端側及び他端側の少なくとも一方側に設けられる第1のセンサー21と、構造物の中央部に設けられる第2のセンサー22と、を含んでもよい。以下では、センサー部2に含まれる各センサーが加速度センサーである例について説明するが、変形例として後述するように、各センサーを歪みセンサー等の他のセンサーに置き換えることが可能である。また、センサー部2は、第1のセンサー21及び第2のセンサー22以外のセンサーを含んでもよい。
図6には、橋梁5と、車両6とが示してある。図6の例では、第1のセンサー21は、橋梁5の一端側に設けられるセンサー21aと、橋梁5の他端側に設けられるセンサー21bを含む。
第1のセンサー21(21a、21b)は、車両6の橋梁5への進入の際に生じる橋梁5の加速度及び車両6の橋梁5からの退出の際に生じる橋梁5の加速度を検出する。
以下では、説明を簡単にするため、車両6は、図6の橋梁5のセンサー21aが設置された側から進入し、センサー21bが設置された側から退出するとする。即ち、第1のセンサー21aは、車両6の橋梁5への進入を検知する加速度センサーとし、第1のセンサー21bは、車両6の橋梁5からの退出を検知する加速度センサーとして説明する。
また、第1のセンサー21は、構造物への移動体の進入、及び退出を判定できればよく、設置位置は構造物の端部に限定されない。例えば、第1のセンサー21に含まれる各センサーは、構造物の端部から数メートル離れた位置に設置されてもよい。
また、橋梁5の床版や主桁等は、橋梁5を移動(通過)する車両6の荷重によって、垂直方向下方に撓む。センサー部2のうちの第2のセンサー22は、橋梁5の中央部に設置され、橋梁5上を通過する車両6の荷重による、橋梁5の撓み(例えば、床版や主桁の撓み)の加速度を検出する。
計測装置1は、以下で詳述するが、センサー部2(21a,21b,22)から出力される加速度データ(以下では、単に加速度と称すことがある)に基づいて、車両6の通過による橋梁5の撓みの速度及び変位を算出する。計測装置1は、算出した変位から、橋梁5上を通過する車両6の重量を算出する。
図7、図8は、第1のセンサー21a,21b、及び第2のセンサー22の橋梁5への設置例を説明する図である。なお、図7は、橋梁5をその上方から見た図である。図7に示すG1〜G4は、主桁の位置を示し、S1〜S7は、橋軸直角方向部材の位置を示している。図8には、図7のS4における橋梁5の断面が示してある。
第1のセンサー21a,21bは、車両6の橋梁5への進入及び退出によって生じる、橋梁5の加速度を検知できるように、橋梁5の移動方向規制手段(例えば、車線や縁石、欄干等)の規制方向の両端部に設置するのが望ましい。その位置としては、例えば、橋床下部、主桁に設置することができるが、以下の説明では、主桁に設置された場合を説明する。
また本実施形態の手法では、橋梁5が複数のレーンを有する場合を想定し、車両6が移動したレーンを判定するために、第1のセンサー21a,21bを利用する。そのため、第1のセンサー21a,21bは、移動レーンに応じて検出信号に差が出るように設置することが望ましい。
以上を考慮し、図7では、第1のセンサー21が、センサー21a−1〜21a−4、及び21b−1〜21b−4を含み、センサー21a−1〜21a−4は、それぞれ主桁G1〜G4の一端側に設置され、センサー21b−1〜21b−4は、それぞれ主桁G1〜G4の他端側に設置される例を示している。
また第2のセンサー22は、橋梁5の車両6の荷重による撓みの加速度を明瞭に検知できるように、車両6の移動方向規制手段の規制方向の中央部であって、且つ移動方向規制手段の幅方向の中央部に設置される。例えば、第2のセンサー22は、図7、図8に示すように、G3,S4の位置の主桁に設置される。
なお、センサー部2に含まれる各センサーの数、及び設置位置は、図6〜図8に示した例には限定されず種々の変形実施が可能である。例えば、いずれかのセンサーを省略してもよいし、他のセンサーを追加してもよい。具体的には、第1のセンサー21のうち、21aと21bの一方を省略してもよいし、第2のセンサー22を主桁ごとに複数設置してもよい。
図9は、加速度センサーの3軸合成加速度を説明する図である。加速度センサーは、互いに直交する3軸の各軸方向に生じる加速度を計測できる加速度センサーである。
加速度センサーは、3つの検出軸(x軸、y軸、z軸)のうち、1軸(例えばx軸)を垂直方向に合わせて設置される。これにより、加速度センサーは、橋梁5の垂直方向の撓みの加速度を検出できる。
加速度センサーを橋梁5に設置する場合、設置個所が傾いている場合もある。計測装置1は、加速度センサーの3つの検出軸の1軸が、垂直方向に合わせて設置されなくても、x軸、y軸、z軸の加速度を合成した3軸合成加速度によって、加速度センサーの傾斜による測定誤差の補正を行うことができる。
計測装置1の機能ブロック構成例は、図5に示した通りである。図5に示すように、計測装置1は、制御部110と、通信部120と、記憶部130と、出力部140と、操作部150と、を有している。
制御部110は、以下で詳述するが、橋梁5に設置されたセンサー部2(21a,21b,22)から出力される検出信号(加速度)に基づいて、橋梁5を通過する車両6の重量を算出する。
通信部120は、通信ネットワーク4を介して、センサー部2から、検出信号(加速度)を受信する。センサー部2から出力される加速度は、例えば、デジタル信号である。通信部120は、センサー部2から受信した加速度を制御部110に出力する。
記憶部130は、制御部110が計算処理や制御処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部130は、制御部110が所定のアプリケーション機能を実現するためのプログラムやデータ等を記憶している。各種のプログラムやデータ等は、あらかじめ不揮発性の記録媒体に記憶されていてもよいし、制御部110が通信ネットワーク4を介してサーバーから受信して記憶部130に記憶させてもよい。記憶部130は、例えば、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の各種IC(Integrated Circuit)メモリーやハードディスク、メモリーカードなどの記録媒体等により構成される。
出力部140は、制御部110の制御結果等を表示装置に出力する。
操作部150は、ユーザーからの操作データを取得し、制御部110に送信する処理を行う。
制御部110は、移動体判定部210と、変位算出部220と、レーン判定部230と、重量算出部250と、を有している。変位算出部220は、境界条件特定部221と、積分部222と、補正部223と、を有している。制御部110の各部は、例えば、記憶部130に記憶されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)によって、その機能が実現される。なお、制御部110の各部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのカスタムIC(Integrated Circuit)でその機能を実現してもよいし、CPUとASICとによって、その機能を実現してもよい。
移動体判定部210には、通信部120によって受信された、第1のセンサー21a,21bの加速度が入力される。移動体判定部210は、入力される第1のセンサー21a,21bの加速度に基づいて、橋梁5が車両6の移動に起因して強制振動する強制振動区間前の時刻であって、車両6が橋梁5上を移動していないときの第1の時刻と、強制振動区間後の時刻であって、車両6が橋梁5上を移動していないときの第2の時刻とを判定する。
変位算出部220には、通信部120によって受信された、第2のセンサー22の加速度が入力される。変位算出部220は、第2のセンサー22に基づいて、構造体(橋梁5)の変位を算出する。
レーン判定部230には、第1のセンサー21(21a,21bの少なくとも一方)の加速度が入力される。移動体判定部210は、入力される加速度に基づいて、第1〜第Nの移動体の各移動体が移動するレーンを判定する。なお、図15を用いて後述するように、レーン判定部230での判定では、センサー21aとセンサー21bのいずれか一方からの加速度のみを用いればよいが、両方を用いることも妨げられない。
重量算出部250には、第1のセンサー21(21a,21bの少なくとも一方)の加速度が入力される。重量算出部250は、入力される加速度に基づいて、総重量情報の分配処理を行う。具体的には、重量算出部250は、第1のセンサー21の加速度に基づいて、分配処理のための分配比率情報を求める。そして重量算出部250は、WIMにより求めた第1〜第Nの移動体の総重量情報を、分配比率情報を用いて各移動体(各車軸)に分配することで、各移動体の重量を求める。
また、本実施形態の手法は、計測装置1に適用するものには限定されない。本実施形態の手法は、例えばセンサー部2と、上記計測装置1を含む計測システム10に適用することも可能である。
3.処理の詳細
次に、制御部110の各部の処理について詳細に説明する。まず図10のフローチャートを用いて処理全体の流れを説明し、その後、各ステップについて詳細に説明する。
3.1 処理フロー
図10は、本実施形態における移動体(車両)の重量を推定する処理を説明するフローチャートである。この処理が開始されると、まず移動体判定部210は、第1のセンサー21a(21b)から出力される加速度から、車両6の車軸通過による加速度成分が明瞭に出現するようフィルター処理を行う(ステップS101)。例えば、移動体判定部210は、25Hz以上の周波数成分の加速度を通過させるHPF(High Pass Filter)の機能を有している。HPFは、例えば、FIR(Finite Impulse Response)フィルターやFFT(Fast Fourier Transform)によって構成される。その他に、明瞭度を向上させる目的で、微分フィルター、例えば二近傍ラプラシアンフィルタ等の強調フィルター処理を行っても良い。
移動体判定部210は、フィルター処理後の加速度に基づいて、第1の時刻及び第2の時刻を判定する(ステップS102)。
またレーン判定部230は、フィルター処理後の加速度に基づいて、第1〜第Nの車両の各車両が移動したレーンを判定する(ステップS103)。図11等を用いて後述するように、橋梁5が第1〜第2のレーンL1〜L2を有する場合、レーン判定部230は、各車両がL1〜L2のいずれのレーンを移動したかを判定し、判定結果を出力する。
さらにステップS103でのレーン判定結果に基づいて、第1〜第Nの車両の各車軸の軸通過強度を算出する(ステップS104)。軸通過強度とは、各車両の車軸が橋梁5に進入した(或いは橋梁5から退出した)際の衝撃の強さを表す情報であり、狭義には加速度の大きさである。ステップS104の処理は、制御部110のうち、移動体判定部210で行われてもよいし、重量算出部250で行われてもよいし、不図示の軸通過強度算出部で行われてもよい。
また移動体判定部210は、フィルター処理後の加速度に基づいて、各車両の橋梁5への進入時刻及び退出時刻を求める(ステップS105)。
以上のステップS101〜S105の処理は、第1のセンサー21a,21bに基づいて行われる処理である。
また、変位算出部220は、第2のセンサー22からの加速度に基づいて、橋梁5の変位を算出する(ステップS106)。具体的な算出手法は後述するが、数値積分の境界条件を設定するために、ステップS102で求めた第1の時刻及び第2の時刻を用いるとよい。
重量算出部250は、あらかじめ求められている影響線データと、ステップS106で求められた変位量と、に基づいてWIMを行って、総重量情報を求める(ステップS107)。なおステップS107の処理では、影響線データを配置するために、ステップS105で求められた進入時刻、退出時刻の情報を用いるとよい。また、ステップS103で求められたレーン判定結果に基づいて、複数の影響線データのうちのいずれを用いるかを決定してもよい。
さらに重量算出部250は、ステップS107で求められた総重量情報の分配処理を行う(ステップS108)。分配処理には、ステップS104で求めた軸通過強度を用いる。分配処理により、各車軸の軸重が精度よく求められる。
更に重量算出部250は、車軸と車両との対応関係に基づいて、各車両の車両重量を算出する(ステップS109)。
3.2 移動体判定
図11〜図14は、第1〜第M(Mは2以上の整数)のレーンを有する橋梁5を、第1〜第Nの車両が同時に移動する場合の例である。ここでは、M=2,N=2の例を考えている。ただし、M及びNの値や、各車両が移動するレーンについては、種々の変形実施が可能である。例えば、レーン数の3以上への拡張や、車両の3台以上への拡張が容易なことは、当業者であれば容易に理解できるであろう。図11に示すように、まず第1のレーンL1に、第1の車両M1が進入する。M1は2軸の車両である。図12に示すように、第1の車両M1が橋梁5を退出する前に、第2のレーンL2に第2の車両M2が進入する。M2は3軸の車両である。
従来手法のように、1台の車両を対象としてWIMを行うのであれば、図11のタイミングを始点とし、図13に示した第1の車両M1が退出したタイミングを終点としてWIMを行えばよい。ただし、この期間ではM2も橋梁5に進入済みであるため、第2のセンサー22はこれらの車両による変位も検出してしまい、M1の車両重量の推定精度は低い。
その点、本実施形態では、図14に示したように橋梁5を移動する車両がなくなるタイミングを処理に用いる。図14では、第2の車両M2が橋梁5から退出し、且つ新たな車両(例えば第3の車両M3)の進入もない。つまり、図11よりも前を第1の時刻、図14よりも後を第2の時刻とすればよい。このようにすれば、同時に通過する複数台の車両をまとめて処理対象とすることが可能になる。
図15は、図11〜図14に示したように、第1〜第2の車両M1〜M2が橋梁5に進入した際の、第1のセンサー21a−1〜21a−4の検出信号(加速度信号)の例である。F1〜F4のそれぞれが、第1のセンサー21a−1〜21a−4の検出信号の波形である。なお図15の波形は、図10のステップS101を用いて上述したように、ピークを明瞭化するフィルター処理後の波形を示している。
波形におけるピークP11,P12は、車両M1の車軸の通過を示している。車両M1は、2つのピークP11,P12を有しているので2軸車である。ピークP11は、車両M1の前輪の車軸の通過を示し、ピークP12は、車両M1の後輪の車軸の通過を示している。同様に、ピークP21,P22,P23は車両M2の車軸の通過を示している。
移動体判定部210は、車軸通過による加速度成分が明瞭に出現するようフィルター処理した加速度に対し絶対値処理を行い、絶対値処理した波形に対して移動平均処理を行う。移動体判定部210は、移動平均処理した加速度に基づいて、橋梁5が車両6の移動に起因して強制振動する強制振動区間の前の時刻であって、車両6が橋梁5上を移動していないときの第1の時刻と、強制振動区間の後の時刻であって、車両6が橋梁5上を移動していないときの第2の時刻とを判定する。
例えば、移動体判定部210は、移動平均後の波形の値が、所定の閾値Th1を超える値から、閾値Th1以下となったときの時刻を第1の時刻と判定し、次に波形の値が、所定の閾値Th1を超える値から、閾値Th1以下となった時刻を第2の時刻とを判定する。移動平均が閾値以下になった場合とは、所与の車両の進入後、ある程度の期間継続して次の車両の進入がないことを表すため、移動平均に基づいて、橋梁5上の車両の有無を判定可能である。
図15のように、進入を検知する第1のセンサー21aとして、4つのセンサー21a−1〜21a−4がある場合、上記判定はいずれか1つの加速度信号を用いてもよいし、2以上の加速度信号を組み合わせて判定してもよい。
また、上記の例では、移動体判定部210は、車両6の進入を検知する第1のセンサー21aの加速度から、第1の時刻及び第2の時刻を判定したが、車両6の退出を検知する第1のセンサー21bの加速度から、第1の時刻及び第2の時刻を判定してもよい。
また、移動体判定部210は、第1のセンサー21aの加速度から判定した判定結果と、第1のセンサー21bの加速度から判定した判定結果との「AND」をとってもよい。例えば、移動体判定部210は、第1のセンサー21aの加速度から判定した判定結果が、橋梁5上に車両6がいないという判定結果であり、かつ、第1のセンサー21bの加速度から判定した判定結果が、橋梁5上に車両6がいないという判定結果の場合に、橋梁5上に車両6が存在しないと判定する。
或いは、移動体判定部210は、カウンターにより第1の時刻及び第2の時刻を判定してもよい。例えばカウンターは、進入側の第1のセンサー21aによりピークが検出された場合にカウントアップし、退出側の第1のセンサー21bによりピークが検出された場合にカウントダウンする。この場合、橋梁上に車両がない状態では、カウンター値は初期値(例えば0)となる。よって移動体判定部210は、カウンター値が非0から0になったタイミングを第1の時刻とし、第1の時刻の後にカウンター値が非0から0になったタイミングを第2の時刻としてもよい。この他、第1のセンサー21a、21bにより第1の時刻及び第2時刻を求める手法は種々の変形実施が可能である。
以上により、図10のステップS102の処理が実行される。
また、移動体判定部210では、車両M1〜M2の車軸(5つの車軸)のそれぞれについて、橋梁5への進入時刻及び退出時刻を求める。具体的には、ピークP11,P12,P21,P22,P23、のタイミングを求めればよい。なお、第1のセンサー21a、21bの設置位置が橋梁5の端点でない場合、車両の実際の進入、退出のタイミングと、加速度信号にピークが現れるタイミングとにずれが生じる場合がある。よって移動体判定部210は、加速度信号のピークタイミングに対して、第1のセンサー21a,21bの設置位置に応じた補正を行って、進入時刻及び退出時刻を求めてもよい。
以上により、移動体判定部210は、第1〜第Nの移動体の車軸ごとにおける構造物への進入時刻及び構造物からの退出時刻を判定する。これにより、図10のステップS105の処理が実行され、ステップS107の総重量情報の算出(影響線データの配置)等が可能になる。また、進入時刻や退出時刻の時間差に基づいて、車軸の間隔を推定することや、車軸の間隔に基づいて車種を特定すること等も可能になる。
3.3 レーン判定
橋梁5のレーンL1〜L2と、主桁G1〜G4(第1のセンサー21a,21b)の相対的な位置関係は、例えば図11に示した通りである。この場合、第1のレーンL1を走行する車両6(M1)は、主桁G1との距離が小さく、G2〜G4との距離は相対的に大きい。同様に、第2のレーンL2を走行する車両6(M2)は、主桁G3との距離が小さく、G1,G2,G4との距離は相対的に大きい。
このような相対的な位置関係に起因して、所与の車両が橋梁5の第1のレーンL1に進入(橋梁5のL1から退出)した場合、G1に設けられるセンサー21a−1の加速度の大きさは、G2〜G4に設けられるセンサー21a−2〜21a−4の加速度の大きさに比べて大きくなる。同様に、第2のレーンの進入退出の場合、G3に設けられる21a−3の加速度が相対的に大きくなる。
即ち、レーン判定部230は、進入検知(或いは退出検知)用の複数のセンサーの検出信号の大きさを比較することで、車両の移動したレーンを判定できる。図15の例であれば、車両M1に対応するピークP11及びP12は、G1に設けられるセンサー21a−1での値が相対的に大きいため、車両M1はレーンL1を移動したと判定できる。同様に、車両M2に対応するピークP21,P22及びP23は、G3に設けられるセンサー21a−3での値が相対的に大きいため、車両M2はレーンL2を移動したと判定できる。
以上により、図10のステップS103の処理が実行される。
なお、各レーンと第1のセンサー21a(21b)の相対的な関係は図11に限定されない。具体的には、移動するレーンに応じてセンサーからの検出信号の大きさに差が生じるような相対位置となっていれば、第1のセンサー21a(21b)の設置位置は種々の変形実施が可能である。
3.4 軸通過強度の算出
上述してきたように、本実施形態では最小二乗法で求められる軸重を用いるのではなく、別の情報により総重量情報を分配処理することで軸重及び車両重量を推定する。ここで、分配処理に用いる情報としては、第1のセンサー21a(21b)の検出信号の大きさが考えられる。
第1のセンサー21a(21b)の検出信号の大きさは、進入(退出)時に橋梁5に加えられた衝撃の大きさを表す。当該衝撃の大きさは車軸の重量に比例すると考えられることから、第1のセンサー21a(21b)の検出信号の大きさは、車軸の重量に応じた値になることが期待される。
ただし上述してきたように、第1のセンサー21aに含まれる各センサー21a−1〜21a−4の設置位置には種々の変形実施が可能である。そのため、各レーンと、各レーンに対応する第1のセンサーの相対位置(相対距離)が一致するとは限らない。例えば、L1、L2がそれぞれG1、G3(21a−1、21a−3)に対応する場合において、L1とG1の相対距離、L2とG3の相対距離がそれぞれ異なる場合がある。より具体的には、G1がL1の中央、G3がL2の中央よりやや外れた場合などが想定される。
この場合、所与の重量の車軸がL1を通過したときの21a−1の加速度の大きさと、同じ重量の車軸がL2を通過したときの21a−2の加速度の大きさとが一致しない。衝撃の大きさ(加速度の大きさ)が重量に比例するとの仮定を満たすためには、同じ重量の車軸が通過した場合、各センサーからの加速度の大きさは一致しなければならない。
よって本実施形態では、第1のセンサー21a(21b)の各センサーからの加速度に対して、重み付けを行い、重み付け後の加速度から軸通過強度を求める。
例えばWIMでは影響線データを求めるために、重量が既知である基準車(荷重車、広義には基準移動体)を走行させる。本実施形態では、基準車走行時のデータに基づいて、あらかじめ重み付け情報を求めておく。
図16は、基準車を移動させたときの第1のセンサー21a−1〜21a−3の加速度の波形である。D1は、第1のレーンL1で基準車を移動させたときのセンサー21a−1の波形を表す。D2は、第2のレーンL2で基準車を移動させたときのセンサー21a−3の波形を表す。
同じ基準車を走行させているため、D1〜D2のピーク値は等しくなる必要があるが、図16の例では、D1はD2に対して値が大きい。よって本実施形態では、センサー21a−1の加速度に対して、重みA(<1)による重み付けをして、重み付け後の波形D3から、第1のレーンL1を通過する車軸の軸通過強度を求める。センサー21a−3の加速度に対しては、重み付けを行わずに(重み1による重み付けをして)、第2のレーンL2を通過する車軸の軸通過強度を求める。即ち、図16の例であれば、基準車を走行させた段階で、(A,1)という重み付け情報を求めておき、当該重み付け情報を用いて軸通過強度を演算する。なお、図16ではセンサー21a−3(D2)のピークを基準強度としたが、他のセンサー出力を基準強度としてもよい。
図17は、軸通過強度の算出処理を説明する図である。図17のF1〜F4は、図15と同様のデータである。レーン判定部230の判定により、車両M1は第1のレーンL1を移動したことがわかっている。よって、M1の2つの車軸の軸通過強度の算出には、センサー21a−1の加速度を用いればよい。具体的には、センサー21a−1の出力(F1)に対して、重みAにより重み付けをした結果(F5)のピークの大きさSA11,SA12を、M1の2つの車軸の軸通過強度とする。
同様に、第2のレーンL2を通過した車両M2については、センサー21a−3の出力(F3)に対して、重み1により重み付けをした結果(F3そのまま)のピークSA21,SA22,SA23を、M2の3つの車軸の軸通過強度とする。
以上により、図10のステップS104の処理が実行される。なお、本実施形態では軸通過強度の算出にセンサーの加速度出力を用いたが、加速度に変換する前の原波形を用いても良い。また、車両通過時の鉛直方向の変位計測が可能であれば、変位を用いても良い。例えば、加速度を二階積分することで、変位を算出し、この変位から重み付けすることで車軸の軸通過強度を算出する事もできる。また、加速度に限らず、歪センサー等を用いて、歪量を算出しても良い。
3.5 変位量の算出
図2を用いて上述したように、WIMではセンサー部2(第2のセンサー22)からの検出信号に基づいて検出される、橋梁5の変位を用いる。
この際、上述してきたように、センサー部2は、加速度センサーを含んでもよく、具体的には第2のセンサー22を加速度センサーにより実現してもよい。ただし、加速度センサーの検出信号である加速度から変位を求めるには二階積分を行う必要がある。そのため、数値積分の境界条件を適切に設定しなければ、求められる変位の精度が著しく低下してしまう。
よって本実施形態の変位算出部220は、図5に示したように、構造物に設置された加速度センサーの第1の時刻及び第2の時刻に関連する自由振動周波数成分に基づいて、速度の境界条件及び変位の境界条件を特定する境界条件特定部221と、加速度センサーの出力を積分して、構造物が撓む速度及び変位を算出する積分部222と、速度の境界条件及び変位の境界条件を満たすように速度及び変位を補正する補正部223を含んでもよい。
橋梁5の振動には、車両6の通過等による、外力による振動(強制振動)の他に、橋梁5の基本の振動(自由振動)がある。自由振動による加速度センサーの加速度の周波数(自由振動周波数成分)は、橋梁5の長さや材質、構造等によって変わるが、例えば、2〜10Hzである。
図18〜図20は、境界条件特定部221の動作例を説明する図である。図18〜図20の横軸は時間を表す。図18の縦軸は加速度を表し、図19の縦軸は速度を表し、図20の縦軸は変位を表す。
境界条件特定部221は、入力された加速度センサー(第2のセンサー22)の加速度から、自由振動周波数成分を抽出する。例えば、境界条件特定部221は、入力された加速度センサーの加速度から、2〜10Hzの周波数成分の加速度を抽出する。
境界条件特定部221は、例えば、FIRやFFTによるBPF(Band Pass Filter)によって、入力された加速度センサーの加速度から、自由振動周波数成分を抽出する。図18の波形は、境界条件特定部221が抽出した、加速度センサーから出力された加速度の自由振動周波数成分を示している。
境界条件特定部221は、加速度センサーから出力された加速度の自由振動周波数成分を抽出すると、抽出した自由振動周波数成分の加速度を数値積分(以下単に積分と称する)する。すなわち、境界条件特定部221は、橋梁5の自由振動による変形(以下では、自由振動による変形を撓みと称すことがある)の速度を算出する。図19の波形は、境界条件特定部221によって算出された、橋梁5の自由振動による速度を示している。
境界条件特定部221は、橋梁5の自由振動による速度を算出すると、算出した速度に対し、積分を行う。すなわち、境界条件特定部221は、橋梁5の自由振動による撓みの変位を算出する。図20の波形は、境界条件特定部221によって算出された、橋梁5の自由振動による変位を示している。
境界条件特定部221は、橋梁5の自由振動による変位を算出すると、移動体判定部210によって判定された第1の時刻及び第2の時刻の近傍の、変位が「0」となっている時刻を特定する。例えば、境界条件特定部221は、第1の時刻から、変位が「0」となっている最も近い時刻を特定する。また、境界条件特定部221は、第2の時刻から、変位が「0」となっている最も近い時刻を特定する。
例えば、図20の時刻「t1」及び「t2」は、移動体判定部210によって判定された第1の時刻及び第2の時刻を示している。図20の「t1’」及び「t2’」は、境界条件特定部221によって特定された、第1の時刻「t1」及び第2の時刻「t2」の近傍の、変位が「0」となっている時刻を示している。
境界条件特定部221は、移動体判定部210によって判定された第1の時刻及び第2の時刻の近傍の、変位が「0」となっている時刻を特定すると、その特定した時刻における速度を取得する。
例えば、境界条件特定部221は、図20に示す時刻「t1’」及び時刻「t2’」における、速度を取得する。境界条件特定部221は、特定した時刻「t1’」及び「t2’」における速度を、速度の境界条件とする。時刻「t1’」における速度を「V1」、時刻「t2’」における速度を「V2」とすると、速度の境界条件は、下記のようになる。
時刻「t1’」における速度Vの境界条件:V=V1
時刻「t2’」における速度Vの境界条件:V=V2
また、境界条件特定部221は、特定した時刻「t1’」及び「t2’」における変位を、変位の境界条件とする。時刻「t1’」及び「t2’」における変位は、「0」であるので、変位の境界条件は、下記のようになる。
時刻「t1’」における変位Uの境界条件:U=0
時刻「t2’」における変位Uの境界条件:U=0
なお、境界条件特定部221は、自由振動による変位の平均値が「0」となるように、自由振動による変位をバイアス補正してもよい。そして、境界条件特定部221は、バイアス補正した自由振動による変位から、移動体判定部210によって判定された第1の時刻及び第2の時刻の近傍の、変位が「0」となっている時刻を特定してもよい。
また、境界条件特定部221は、図9で説明した3軸合成加速度によって、加速度センサーから出力される加速度の補正を行ってもよい。
また、境界条件特定部221は、強制振動区間と、強制振動区間以外の自由振動区間との境界の時刻における速度及び変位を、速度の境界条件及び変位の境界条件としてもよい。例えば、境界条件特定部221は、車両6の橋梁5への進入の時刻における変位及び速度と、車両6の橋梁5からの退出の時刻における変位及び速度とを、速度の境界条件及び変位の境界条件としてもよい。これにより、以下で説明する積分部222は、積分時間を短くする(極力短くする)ことができ、積分精度の低下を抑制することができる。
積分部222には、通信部120によって受信された、加速度センサー(第2のセンサー22)の加速度が入力される。積分部222は、入力された加速度センサーの加速度を数値積分(以下単に積分と称する)して、車両6の通過による橋梁5の撓みの速度及び変位を算出する。
補正部223は、境界条件特定部221によって特定された速度の境界条件及び変位の境界条件を満たすように、積分部222によって算出された速度及び変位を補正する。
なお、積分部222は、入力された加速度センサーの加速度から、DC(Direct Current)成分を除去してもよい。加速度センサーのオフセット分によって、積分結果が発散しないようにするためである。
積分部222は、例えば、FIRやFFTによるBPFによって、入力された加速度センサーの加速度から、DC成分を除去する。BPFの通過帯域は、例えば、加速度センサーの加速度のサンプリング周波数をfsとすると、0.1〜fs/2Hzである。
これにより、計測装置1は、外力が作用する強制振動区間の速度及び変位を適切に計測できる。すなわち、計測装置1は、車両6の通過による橋梁5の撓みの速度及び変位を適切に計測できる。
以上により、図10のステップS106の処理が実行される。
3.6 総重量情報の算出(WIM)
重量算出部250は、WIMによって、第1〜第Nの車両の総重量情報を算出する。例えば、重量算出部250は、補正部223によって境界条件が補正された、積分部222が算出した変位と、基準車両が橋梁5上を移動したときの、橋梁5の各地点の変位を示す影響線データとに基づいて、総重量情報を算出する。
WIMの基本的な手法については、図2を用いて上述したとおりである。即ち、重量算出部250は、影響線データ又は影響面データと、第1〜第Nの移動体の車軸ごとの進入時刻および退出時刻とを用いて、車軸ごとの軸重を算出し、算出した軸重を合計して総重量情報を算出する。このようにすれば、WIMを用いて総重量情報を算出することが可能になる。
ただし、本実施形態では橋梁5が複数のレーン(L1〜L2)を有することを想定している。橋梁5の変位を検出する第2のセンサー22が、図7に示すようにG3,S4の位置に設けられているのであれば、車両6がL1〜L2のいずれを移動したかに応じて、G3,S4の位置への影響は異なると考えられる。
例えば同じ重量の車軸であっても、G3,S4の位置から遠いL1を通過した場合には、変位は相対的に小さくなり、G3,S4の位置に近いL2を通過した場合には、変位は相対的に大きくなる。つまり、第1〜第Nの車両の各車軸に対応させて影響線データを配置する際に、車軸の通過したレーンに応じて、用いる影響線データを決定するとよい。
具体的には、基準車を移動させて影響線データを記憶しておく際に、第1のレーンL1を移動させた場合の影響線データE1,第2のレーンL2を移動させた場合の影響線データE2を記憶しておく。そして、重量算出部250は、レーン判定部230でのレーン判定結果に基づいて、各車軸の移動したレーンに対応する影響線データを選択、配置する。
図21は、本実施形態の総重量情報の算出処理を説明する図である。ここでは、車両M1〜M2が、それぞれレーンL1〜L2を通過している。よって、重量算出部250は、M1の2つの車軸に対しては影響線データE1を用い、M2の2つの車軸に対しては影響線データE2を用いてWIMを行う。
このようにすれば、橋梁5が複数のレーンを有する場合にも、総重量情報を精度よく求めることが可能になる。なお、影響線データの選択後の手法については、図2等と同様である。上述したように、影響線データの配置には、車軸ごとの進入時刻、退出時刻を用いればよい。また各軸重の推定には、最小二乗法等の数学的手法を用いればよい。重量算出部250は、最小二乗法等で推定された軸重の総和を、総重量情報として求める。
以上により、図10のステップS107の処理が実行される。
3.7 分配処理
また重量算出部250は、総重量情報と、軸通過強度に基づいて、分配処理を行う。図16を用いて上述したように、基準移動体を移動させた際の第1のセンサー21a(21b)の出力に基づき求められた重み付け情報を用いることで、第1〜第Nの車両の各車軸に対応する軸通過強度が求められている。図11〜図14に例示した2車両、5車軸の例であれば、図17を用いて上述したように軸通過強度として(SA11,SA12,SA21,SA22,SA23)という情報が求められる。
重み付けを行うことで、軸通過強度は対応する車軸の軸重に比例した大きさになっていると考えられる。よって、5つの車軸の各軸重が、総重量に対してしめる割合(分配比率情報)は、下式(2)〜(7)により求めることができる。
S_all = SA11 + SA12 + SA21 + SA22 + SA23 …(2)
R11 = SA11/S_all …(3)
R12 = SA12/S_all …(4)
R21 = SA21/S_all …(5)
R22 = SA22/S_all …(6)
R23 = SA23/S_all …(7)
総重量情報により表される総重量をW_allとした場合、重量算出部250は、各車軸の軸重を下式(8)〜(12)により求める。
W11 = W_all * R11 …(8)
W12 = W_all * R12 …(9)
W21 = W_all * R21 …(10)
W22 = W_all * R22 …(11)
W23 = W_all * R23 …(12)
さらに、重量算出部250では、最初の2軸が車両M1の車軸であることがわかっている。よって車両M1の車両重量をW11+W12により求める。同様に、車両M2の車両重量をW21+W22+W23により求める。
以上のように、構造物は、第1〜第M(Mは2以上の整数)のレーンを有し、第1のセンサー21a(21b)は、第1〜第Mのレーンの各レーンに対応して複数設けられる。そして重量算出部250は、基準移動体を移動させた際の第1のセンサー21a(21b)の出力に基づき求められた重み付け情報に基づいて、総重量情報の分配処理を行う。
より具体的には、第i(iは1以上N以下の整数)の移動体が、第k(kは1以上M以下の整数)のレーンを移動した場合に、重量算出部250は、第iの移動体が構造物を移動した際の、第kのレーンに対応して設けられた第1のセンサーの出力に対して、重み付け情報に基づく重み付けをして、分配処理に用いる分配比率情報(上記R11等)を求める。
このようにすれば、総重量情報を適切に各車軸に対して分配できるため、第1〜第Nの移動体の各移動体の重量を精度よく求めることが可能になる。
また、重量算出部250は、レーン判定部230での判定結果に基づいて、総重量情報の分配処理を行う。具体的には、図17を用いて上述したように、レーン判定の結果に応じて、軸通過強度を求める際に用いる第1のセンサー21aを決定する。このようにすれば、レーン判定の結果に基づいて適切に軸通過強度(及び分配比率情報)を決定できるため、第1〜第Nの移動体の各移動体の重量を精度よく求めることが可能になる。
以上により、図10のステップS108、S109の処理が実行される。
3.8 変形例
以下、幾つかの変形例について説明する。
以上ではセンサー部2(第1のセンサー21a,21b、第2のセンサー22)として、加速度センサーを用いる例を説明した。加速度センサーとは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)センサーであってもよいし、水晶加速度センサーであってもよい。
ただし、センサー部2に含まれるセンサーは、加速度センサーに限定されない。センサー部2は、加速度、速度、変位、ひずみといった外力を測定することが可能なセンサーであれば、レーザードップラー振動計やサンプリングモアレ法等による変位・速度計測技術等種々の測定技術を適用する事が可能である。
歪みセンサーや変位計のように、直接的に橋梁5の変位を測定できるセンサーを用いる場合、変位算出部220における境界条件特定処理や、積分処理は不要である。ただし、歪みセンサー等は、橋梁5の部材(金属)に直接設置する必要がある。例えば、センサー設置の際に、塗装を除去する等の工程が必要となる。加速度センサーは磁石等により橋梁5の表面に設置すれば充分であるため、設置の負担という観点からは加速度センサーが有利である。
また、軸通過強度の算出では、ピークの大きさを精度よく検出することが重要となる。よって、第1のセンサー21a、21bとしては、ピークが明確且つ反応が早い(ピークの影響が後に残りにくい)センサーを用いることが望ましく、歪みセンサー等に比べて加速度センサーを用いることが望ましい。ただし、歪みセンサー等により軸通過強度を算出することも可能であり、第1のセンサー21a、21bについても種々のセンサーでの実現が可能である。
また、センサー部2に含まれるセンサーの組み合わせは任意である。よって、第1のセンサー21a,21bを加速度センサーとし、第2のセンサー22を歪みセンサーとするといった種々の実施形態が可能である。
また、図21を用いて上述したように、本実施形態では車両が移動するレーンごとに影響線データを求めておくことが可能である。その場合、WIMで影響線データを配置する際に、各車両がどのレーンを通過したかの判定結果に基づいて、適切な影響線データを選択、配置していた。
ただし影響線データを用いた処理はこれに限定されない。例えば、複数のレーンに対する複数の影響線データに基づいて、平均影響線データを求め、当該平均影響線データに基づいてWIMを実行してもよい。
図22は、本変形例でのWIM(総重量情報を算出処理)を説明する図である。図22に示したように、基準車の走行により、各レーンに対応して2つの影響線データE1〜E2が取得されている。本変形例では、これらの影響線データの平均化処理を行い、平均影響線データE_aveを求める。そして、第1〜第Nの車両の各車軸に対応する影響線データを配置する際には、全車軸に対して平均影響線データE_aveを適用する。
なお、平均化処理の具体例も種々考えられる。例えば、各レーンに対応する影響線データE1〜E2を単純平均したものを平均影響線データE_aveとしてもよい。この場合、第1〜第Nの車両が具体的にどのレーンを移動したかを考慮する必要がなく、処理負荷を低くできる。また、平均影響線データE_aveの算出後は、各レーンに対応する影響線データE1〜E2を保持しておく必要がないため、メモリー容量の削減も可能である。
或いは、第1〜第Nの車両のレーン判定結果に基づいて、E1〜E2の加重平均をとって平均影響線データE_aveを求めてもよい。例えば、第1のレーンL1を通過する車両が相対的に多ければ、E1の重みを相対的に大きくする。このようにすれば、実際の車両走行状況に応じた平均影響線データE_aveを求めることが可能になる。
また、以上ではレーン単位で複数の影響線データを保持する手法、或いは平均影響線データを求める手法を説明した。しかしより細かい単位で影響線データを求め、それらを統合することで、影響面データを求めてもよい。
図23は影響面データを求める手法の説明図であり、図24は影響面データの具体例である。図23に示すように、基準車に対してP通りの位置を走行させる。ここでのPはレーン数Mに比べて大きい整数である。これにより、影響線データがP個(e1〜eP)だけ取得される。
そして、図24に示すように、P個の影響線データを用いて、影響面データを作成する。図24のx軸は基準車の走行位置(進行方向)を表し、y軸は基準車の走行位置(桁方向)を表し、z軸は橋梁5の変位を表す。所与のxz平面でのデータが、影響線データとなる。言い換えれば、P個の影響線データe1〜ePをy軸方向に並べることで図24に示した影響面データを取得できる。
影響面データを用いることで、1又は少数(例えばレーン数相当)の影響線データを用いる場合に比べて、車両の移動による橋梁5への影響を精度よく推定できる。即ち、変位算出部220での変位の算出精度を向上させることができ、車両重量の推定精度も向上する。
また、以上では軸通過強度を算出する際に、加速度の値が最大値を用いていた。図17の例であれば、第1のレーンL1を移動する車両M1の2つの車軸の軸通過強度を算出する際には、第1のレーンL1に最も近いセンサー21a−1の出力を用いていた。
ただし、車両が通過する真下に設置されたセンサーに対しては、非常に大きな衝撃が加わるため、強度に誤差が生じるおそれもある。よって図25に示したように、軸通過強度の算出に、車両が通過するレーンに対応するセンサーに隣り合う位置に設置されたセンサーを用いてもよい。図25のF1〜F6は、図17のF1〜F6と同様の信号であるため、同一の符号を付してある。
例えば、第1のレーンL1に対応するセンサーは、主桁G1に設置されるセンサー21a−1であり、隣り合う位置に設置されるセンサーとは、G2に設置されるセンサー21a−2である。よってL1を移動する車両M1の2つの車軸の軸通過強度の算出は、センサー21a−2におけるピークP11,P12を用いる。具体的には、センサー21a−2の出力(F2)に対して、重みBにより重み付けをした結果(F6)のピークSA11,SA12を、M1の2つの車軸の軸通過強度とする。
他のレーンの場合も同様であり、図25の例であれば第2のレーンL2を通過する車両は、G4に設置されるセンサー21a−4を用いる。このようにすれば、誤差による影響を抑止し、精度よく軸通過強度を求めることができる。なお、ここで用いた重み付け情報(B,1)についても、図16を用いて上述した例と同様に、基準車走行時に求めておくことが可能である。
また、本実施形態の計測装置1等は、その処理の一部又は大部分をプログラムにより実現してもよい。この場合には、CPU等のプロセッサーがプログラムを実行することで、本実施形態の計測装置1等が実現される。具体的には、非一時的な情報記憶装置に記憶されたプログラムが読み出され、読み出されたプログラムをCPU等のプロセッサーが実行する。ここで、情報記憶装置(コンピューターにより読み取り可能な装置、媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク(DVD、CD等)、HDD(ハードディスクドライブ)、或いはメモリー(カード型メモリー、ROM等)などにより実現できる。そして、CPU等のプロセッサーは、情報記憶装置に格納されるプログラム(データ)に基づいて本実施形態の種々の処理を行う。即ち、情報記憶装置には、本実施形態の各部としてコンピューター(操作部、処理部、記憶部、出力部を備える装置)を機能させるためのプログラム(各部の処理をコンピューターに実行させるためのプログラム)が記憶される。
また、本実施形態の計測装置1は、プロセッサーとメモリーを含んでもよい。ここでのプロセッサーは、例えば各部の機能が個別のハードウェアで実現されてもよいし、或いは各部の機能が一体のハードウェアで実現されてもよい。例えば、プロセッサーはハードウェアを含み、そのハードウェアは、デジタル信号を処理する回路及びアナログ信号を処理する回路の少なくとも一方を含むことができる。例えば、プロセッサーは、回路基板に実装された1又は複数の回路装置(例えばIC等)や、1又は複数の回路素子(例えば抵抗、キャパシター等)で構成することができる。プロセッサーは、例えばCPU(Central Processing Unit)であってもよい。ただし、プロセッサーはCPUに限定されるものではなく、GPU(Graphics Processing Unit)、或いはDSP(Digital Signal Processor)等、各種のプロセッサーを用いることが可能である。またプロセッサーはASICによるハードウェア回路でもよい。またプロセッサーは、アナログ信号を処理するアンプ回路やフィルター回路等を含んでもよい。メモリーは、SRAM、DRAMなどの半導体メモリーであってもよいし、レジスターであってもよいし、ハードディスク装置等の磁気記憶装置であってもよいし、光学ディスク装置等の光学式記憶装置であってもよい。例えば、メモリーはコンピューターにより読み取り可能な命令を格納しており、当該命令がプロセッサーにより実行されることで、計測装置1の各部の機能が実現されることになる。ここでの命令は、プログラムを構成する命令セットの命令でもよいし、プロセッサーのハードウェア回路に対して動作を指示する命令であってもよい。
以上、本発明を適用した実施形態及びその変形例について説明したが、本発明は、各実施形態やその変形例そのままに限定されるものではなく、実施段階では、発明の要旨を逸脱しない範囲内で構成要素を変形して具体化することができる。また、上記した各実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明を形成することができる。例えば、各実施形態や変形例に記載した全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施の形態や変形例で説明した構成要素を適宜組み合わせてもよい。また、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。このように、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能である。