以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲の記載内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが必須構成要件であるとは限らない。
1.計測装置
図1に本実施形態の計測装置30の構成例を示す。また図2は、センサー配置やセンサーによる衝撃加速度の検出についての説明図である。本実施形態の計測装置30は、データ取得部40と処理部50を含む。また計測装置30は、記憶部32、操作部34、出力部36を含むことができる。また本実施形態の計測システム90は、計測装置30と、構造物に設けられたセンサー1、2、3、4、5、6を含む。構造物は、例えば移動体である車両20が通過する橋梁10又は橋床12である。橋床12は床板であり、橋脚14、16により支持されている。車両20は4つの車軸21、22、23、24を有しており、例えばトラックなどの自動車である。
図1に示すように車両20は橋床12の上面側を移動する。そして橋床12の下面側又は橋脚14、16のいずれかにセンサー1、2、3、4、5、6が設けられる。具体的には図2では、橋床12の端部の下面にセンサー1、2、3が設けられ、橋脚16の上部の側面にセンサー4、5、6が設けられている。或いは橋脚14、16の上部の橋床接続部にセンサー1、2、3、4、5、6を設けてもよい。或いは橋脚14、16の側面にセンサー1、2、3、4、5、6を設けてもよく、橋床12の端部の下面にセンサー1、2、3、4、5、6を設けてもよい。このようなセンサー1、2、3、4、5、6の設置位置は、橋床12に侵入する車両20による衝撃加速度を効率よく検出可能な位置である。本実施形態ではセンサー1~6は、構造物における車両20の通過エリアに設けられており、計測装置30は、移動体である車両20が当該通過エリアを通過するタイミングを検出する。
またセンサー1、4は、車両20の第1の車線に対応するG1のラインに沿って配置され、センサー3、6は、車両20の第2の車線に対応するG3のラインに沿って配置される。そしてセンサー2、5は第1の車線と第2の車線の間のG2のラインに沿って配置される。これらのセンサー1~6は例えば加速度センサーである。加速度センサーは、例えば互いに直交する3軸の各軸方向に生じる加速度を計測できる3軸加速度センサーである。例えば加速度センサーにより実現されるセンサー1~6は、x軸、y軸、z軸の3つの検出軸のうちの1軸が、橋床12に垂直な方向に沿うように設置され、これにより橋床12に垂直な方向での衝撃加速度を検出できるようになる。別の言い方をすれば、重力加速度の方向である鉛直方向での衝撃加速度を検出できる。
具体的には図2のB1に示すように、車両20の車軸21がDR1の方向で橋床12に進入している。この橋床12への進入時において、隣接する橋床や路面との継ぎ目の不連続な形状に車軸21が衝突する際に、衝撃加速度が発生する。即ち車両20の移動により、図2のDR2の方向の衝撃が構造物である橋床12に与えられ、センサー1~6はこのDR2の方向での衝撃の加速度を検出する。これにより車両20の車軸検出が可能になる。
なお本実施形態では、構造物が橋梁10や橋床12であり、移動体が自動車などの車両20である場合を主に例にとり説明する。但し、構造物は、移動体の重量によって変位を生じるものであればよく、橋梁10や橋床12には限定されない。また移動体についても、構造物に対して荷重をかけながら当該構造物上を移動するものであればよく、自動車などの車両20には限定されない。またセンサー1~6は、移動体の移動により構造物に与えられる衝撃を検出できるセンサーであればよく、加速度センサーには限定されない。例えば、センサーは圧力センサー、振動センサー、歪センサーであってもよい。また本実施形態では図2に示すように2車線の走行路を持つ構造物に対して各走行車線とセンターラインの進入と退出の位置に、6つのセンサー1~6が設けられた場合を主に例に取り説明するが、センサーの個数はこれに限定されるものではなく、任意の個数である。
計測装置30のデータ取得部40は、センサー1~6からの時系列のデータ列を取得する。具体的にはセンサー1~6で検出された加速度のデータ列を取得する。データ取得部40は例えば通信インターフェース42により実現できる。通信インターフェース42は、例えば所定の通信規格にしたがってセンサー1~6との間で通信を行う。通信インターフェース42は、通信用の回路装置などのハードウェアーや通信用のプログラムなどにより実現できる。例えば通信インターフェース42は、無線又は有線による通信によりセンサー1~6からデータ列を取得する。具体的には通信インターフェース42は、携帯電話の無線ネットワークやインターネット等の通信ネットワークを介して、センサー1~6が出力した加速度等のデータ列を取得する。このようにデータ取得部40は、通信インターフェース42による無線又は有線の通信により加速度等のデータ列を取得する。また通信インターフェース42は、USBのインターフェースや、SDメモリーカードなどのインターフェースであってもよい。例えばセンサー1~6が検出した加速度等のデータ列を収集し、収集したデータ列を、USBメモリーやSDメモリーカードなどの携帯型メモリーに書き込む。そして通信インターフェース42が、携帯型メモリーから収集したデータ列を読み出すことで、加速度等のデータ列を取得する。データ取得部40のデータ列の取得は、このような携帯型メモリーを介したデータ列の取得であってもよい。
記憶部32は、処理部50の処理に必要な各種のデータやプログラムを記憶する。処理部50は、記憶部32に記憶されたデータやプログラムに基づいて各種の処理を行う。記憶部32は、例えばRAM等の半導体メモリーやハードディスクドライブなどにより実現できる。
操作部34は、ユーザーが操作情報を入力するためのものである。計測装置30は、操作部34により入力された操作情報に基づいて種々の計測処理を行う。出力部36は、計測装置30の計測結果を出力する。出力部36は、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置により実現できる。
処理部50は各種の処理を行うプロセッサーである。例えば処理部50が行う各処理は、プログラム等の情報に基づき動作するプロセッサーと、プログラム等の情報を記憶するメモリーにより実現できる。プロセッサーは、例えば各部の機能が個別のハードウェアーで実現されてもよいし、或いは各部の機能が一体のハードウェアーで実現されてもよい。例えば、プロセッサーはハードウェアーを含み、そのハードウェアーは、デジタル信号を処理する回路やアナログ信号を処理する回路を含むことができる。例えば、プロセッサーは、回路基板に実装された1又は複数のICである回路装置により構成することもできる。プロセッサーは、例えばCPU(Central Processing Unit)であってもよい。但し、プロセッサーはCPUに限定されるものではなく、DSP(Digital Signal Processor)等の各種のプロセッサーを用いることが可能である。またプロセッサーはASICによるハードウェアー回路であってもよい。
処理部50は信号処理部60と移動体処理部70を含む。信号処理部60は各種のデジタル信号処理を実行するものであり、フィルター処理部62、強調処理部64を含む。フィルター処理部62は、後述する加速度等のデータ列に対するバンドパスフィルター処理などのフィルター処理を行う。このフィルター処理は例えばFIR(Finite Impulse Response)のデジタルフィルターにより実現できる。
強調処理部64は、衝撃加速度を強調する処理を行う。例えば強調処理部64は、移動体の移動に起因して構造物に与えられた衝撃の波形を、構造物の振動や環境音響などのノイズ信号から分離するための強調処理を実行する。具体的には強調処理部64は、フィルター処理部62によるバンドパスフィルター処理などのフィルター処理後のデータ列に対して強調処理を行う。例えば強調処理部64は、統計処理によって、衝撃加速度と、ノイズであるその他の加速度信号とのS/N比を向上させて、衝撃加速度を検出しやすくする処理を行う。例えば強調処理部64は、後述するように加速度等のデータ列に基づく共分散を求めることで、衝撃加速度の強調処理を実現する。
移動体処理部70は、車両等の移動体についての各種の処理を実行するものであり、タイミング検出部72、強度演算部74を含む。タイミング検出部72は、移動体の移動により構造物に与えられた衝撃のタイミングを検出する処理を行う。例えばタイミング検出部72は、強調処理部64による強調処理後の信号に基づいて、移動体の通過タイミングを検出する。例えばセンサー1~6が構造物における移動体の通過エリアに設けられる場合に、タイミング検出部72は、移動体が通過エリアを通過するタイミングを検出する。具体的にはタイミング検出部72は、強調処理が行われた衝撃加速度の信号のピークを検出することで、衝撃が発生した時間に対応する衝撃タイミングを検出する。
強度演算部74は、移動体の移動により構造物に与えられた衝撃の強度を求める演算処理を行う。例えば強度演算部74は、衝撃加速度の波形の振幅を検出したり、衝撃のエネルギーを算出することで、衝撃の強度を求める。具体的には強度演算部74は、移動体の移動による構造物への衝撃のタイミングでの衝撃の強度を求める。例えば衝撃加速度のピーク区間での衝撃加速度の振幅やエネルギーなどを、衝撃の強度として求める。
例えば移動体の移動に起因して発生する衝撃は、移動体の車軸の衝撃加速度である。移動体処理部70は、衝撃のタイミングである衝撃加速度の発生時刻と、衝撃加速度の強度情報を、出力する。例えばセンサー1~6等の加速度センサーの設置位置は、構造物の走行方向での両端部である。例えば加速度センサーは、構造物の進入側の端部と退出側の端部に設置される。そしてバンドパスフィルター処理により、衝撃加速度のパワースペクトル帯域が抽出される。例えば本実施形態では、複数の加速度センサーが、構造物の幅員方向に設置される。強調処理部64は、幅員方向に配置される複数の加速度センサーからの衝撃応答加速度の共分散を算出する。タイミング検出部72は、共分散のピーク時刻を移動体の移動タイミングとして検出する。例えば共分散のピーク時刻を、移動体の通過エリアの通過タイミングとして判定する。そして強度演算部74は、共分散のピーク幅に対応する時刻の衝撃加速度から強度を算出する。
或いは強調処理部64は、構造物の一方の端部に設置される加速度センサーの衝撃応答加速度の自己共分散を求める。タイミング検出部72は、自己共分散のピーク時刻を移動体の移動タイミングとして検出する。例えば共分散のピーク時刻を、構造物の一方の端部に設定された通過エリアの通過タイミングとして判定する。そして強度演算部74は、自己共分散のピーク幅に対応する時刻の衝撃加速度から強度を算出する。
或いは強調処理部64は、一方の端部に設置される加速度センサーの衝撃応答加速度の同一区間での自己共分散を求める。同一区間は同一のデータ域である。即ち強調処理部64は、加速度センサーが出力する同一データ列の間の自己共分散を求める。タイミング検出部72は、自己共分散のピーク時刻を移動体の移動タイミングとして判定する。そして強度演算部74は、自己共分散のピークを衝撃加速度の強度として求める。
或いは強調処理部64は、一方の端部に設置される加速度センサーにより検出された衝撃の振幅波形の2乗の包絡線を求める。タイミング検出部72は、振幅波形の2乗の包絡線のピーク時刻を移動体の移動タイミングとして判定する。そして強度演算部74は、振幅波形の2乗の包絡線のピークを衝撃加速度の強度として求める。なお強調処理部64は、強調処理後のピーク波形が単峰形状となるように、統計処理が行われるデータ区間長を調整する。そしてピーク波形が単峰形状になる最も小さい区間長に、データ区間長を調整する。
図3は本実施形態の処理について説明するフローチャートである。まずデータ取得部40が、センサー1~6により時系列に得られた、構造物への衝撃を表すデータ列を取得する(ステップS1)。取得されるデータ列は、移動体の移動により構造物に与えられた衝撃を表すデータの列であり、例えば衝撃加速度のデータ列である。例えばセンサー1~6が加速度センサーである場合に、データ取得部40は、センサー1~6が時系列に出力する加速度のデータ列を取得する。例えばデータ取得部40は、通信インターフェース42を介してデータ列を取得する。そして処理部50は、取得されたデータ列に対してバンドパスフィルター処理を行う(ステップS2)。具体的にはフィルター処理部62がFIRのバンドパスフィルター処理を実行する。そして処理部50は、バンドパスフィルター処理後のデータ列に基づく共分散を求める(ステップS3)。この共分散は、例えば加速度のデータ列と速度のデータ列というように異なる種類のデータ列間の共分散であってもよいし、加速度のデータ列同士の共分散というような自己共分散であってもよい。また自己共分散は同一区間のデータ列の共分散であってもよい。例えば同一区間の同一の加速度のデータ列間の自己共分散であってもよい。或いは、衝撃の振幅波形の2乗の包絡線を自己共分散として求めてもよい。
次に処理部50は、求められた共分散に基づいて、移動体の移動により構造物に与えられた衝撃のタイミングを検出する(ステップS4)。これにより、センサー設置エリアである通過エリアを移動体が通過したタイミングを検出できる。そして処理部50は、共分散に基づいて衝撃の強度を求める(ステップS5)。例えば通常の共分散の場合には、処理部50は、共分散のピーク幅に対応する時刻の衝撃加速度から衝撃の強度を求める。異なる区間のデータ列の自己共分散の場合には、自己共分散のピーク幅に対応する時刻の衝撃加速度から衝撃の強度を求める。同一区間のデータ列の自己共分散の場合には、自己共分散のピークの振幅から衝撃の強度を求める。
なおWIMでは構造物を移動する移動体の重量を求めるが、移動体の重量を求める手法としては、例えば前述の特許文献1に開示される手法等の種々の手法を採用できる。例えば構造物の進入端の第1の通過エリアと退出端の第2の通過エリアに加速度センサーを設置する。そして移動体が第1の通過エリアを通過する第1の通過タイミングと第2の通過エリアをする第2の通過タイミングを、図3で説明した処理により検出する。具体的には第1、第2の通過エリアでの移動体の各車軸の通過タイミングを検出する。通過タイミングは通過時刻である。移動体の車軸検出を行うことで、例えば第1の通過エリアを通過した移動体と第2の通過エリアを通過した移動体が同一の移動体であることを特定することも可能になる。そして第1の通過タイミングと第2の通過タイミングの間での構造物の鉛直方向での撓み量である変位を求めることで、移動体の重量を算出する。例えば構造物の進入端である第1の通過エリアと退出端である第2の通過エリアの間に、加速度センサー又は歪みセンサーなどの変位計測用のセンサーを設け、この変位計測用のセンサーを用いて構造物の鉛直方向での撓み量である変位を求める。例えば第1の通過エリアと第2の通過エリアの中央付近に変位計測用のセンサーを設けてもよいし、第1の通過エリアと第2の通過エリアの間に複数個の変位計測用のセンサーを設けてもよい。
このような構造物を移動する移動体の重量を正確に求めるためには、移動体の通過エリアでの通過タイミングを、正確且つ漏れなく検出することが望まれる。本実施形態ではこの通過タイミングの検出に、統計値である共分散を用いる。例えば統計値である共分散を利用して、車軸応答の強調処理を行う。また加速度センサーからのデータ列に対してバンドパスフィルター処理を行い、バンドパスフィルター処理後のデータ列に対して共分散を用いた強調処理を行う。このような強調処理を行うことで、移動体の移動に起因して構造物に与えられた衝撃加速度を、構造物の振動や環境音響などのノイズ信号から分離する。これにより、移動体の通過タイミングを正確且つ漏れなく検出できるようになる。
例えば図4は移動体の進入時の衝撃加速度の波形の例を示す図である。横軸のtは時間を表し、縦軸のMagは加速度の大きさを表す。移動体は、図1に示すような4個の車軸21、22、23、24を有するトラック等の車両20である。これらの4個の車軸21、22、23、24に対応して、衝撃加速度の波形には4個のピークが発生している。この4個のピークが、通過エリアでの車軸21、22、23、24の通過タイミングに相当する。しかしながら図4では、構造物の振動やクラクション等の環境音響などのノイズが原因で、S/N比が低くなっており、これらの4個のピークが、車軸21、22、23、24による衝撃応答であるのか否かが明瞭になっていない。このため、車軸による衝撃応答の加速度である衝撃加速度を、より明瞭に観測するための信号処理が必要になる。例えば橋梁10では固有共振周波数などが原因で、衝撃加速度が観測しにくくなるため、車軸による衝撃加速度の波形を検知するために、衝撃加速度とそれ以外のノイズとのS/N比を向上させる必要がある。
図5はバンドパスフィルター処理後の衝撃加速度の波形を示す図である。例えば後述の図24に示すような周波数特性のバンドパスフィルター処理を、加速度センサーからのデータ列に対して行うことで、図4の衝撃加速度の波形が図5に示すような波形になる。即ち所定の周波数帯域(例えば40Hz~100Hz)の信号を通過させるバンドパスフィルター処理を行うことで、図5に示すように車軸による衝撃応答のピークがより明瞭になり、衝撃加速度とそれ以外のノイズとのS/N比を向上できる。
そして本実施形態では、バンドパスフィルター処理後のデータ列に対して、共分散を用いた強調処理を行う。即ち本実施形態では、衝撃加速度の波形を強調する手法として統計的な手法を用いる。統計的な手法を用いることができる理由は、車軸の衝撃応答の検出は、車軸の通過タイミングの検知が目的であるため、信号の物理量に基づく必要がないからである。
図6は衝撃加速度の共分散の波形を示す図である。ここでは共分散として、後述するような同一区間のデータ列の自己共分散を用いている。図6に示すように、共分散を求めることで、4個の車軸に対応する4つのピークが明瞭に検出されるようになる。これにより4個の車軸の通過エリアでの通過タイミングを、正確且つ漏れなく検出することが可能になる。
例えば図7は、2近傍ラプラシアンフィルター処理を行った場合の衝撃加速度の波形を示す図である。例えば従来技術の手法では、加速度のデータ列に対してハイパスフィルター処理を行うことで、衝撃加速度とノイズとのS/N比を改善し、2近傍ラプラシアンフィルターによって、比較的小さな振幅の衝撃応答と大きな振幅の衝撃応答の振幅差を縮小し、しきい値を用いた車軸検出を行いやすくしている。しかしながら、図7に示すように、2近傍ラプラシアンフィルターを用いる手法では、車軸による衝撃応答のピークの検出が不十分である。これに対して共分散を用いる本実施形態の手法によれば、図6に示すように、車軸による衝撃応答のピークを明瞭に検出できるようになり、車軸の通過タイミングを正確且つ漏れなく検出することが可能になる。
以上のように本実施形態の計測装置30は、図1に示すようにデータ取得部40と処理部50を含む。データ取得部40は、構造物に設けられた第1のセンサーにより時系列に得られたデータ列であって、移動体の移動により構造物に与えられた衝撃を表すデータ列を、取得する。例えば移動体は車両20であり、第1のセンサーはセンサー1等である。例えば移動体の移動により移動体の車軸等が構造物に衝突することで、構造物に衝撃が与えられる。この衝撃による構造物の振動等が衝撃加速度として第1のセンサーにより検出されて、構造物の衝撃を表すデータ列として第1のセンサーから出力される。そして処理部50は、第1のセンサーからのデータ列に基づく共分散を求め、共分散に基づいて、移動体の移動により構造物に与えられた衝撃のタイミングを検出する。例えば第1のセンサーが設けられた通過エリアを移動体が通過するタイミングを検出する。このように共分散を用いることで、図6に示すように衝撃波形のピークをその他のノイズから明瞭に区別して検出できるようになる。そして衝撃波形のピークは、移動体の移動により構造物に与えられる衝撃のタイミングに対応する。従って本実施形態によれば、移動体の移動により構造物に与えられる衝撃のタイミングを正確且つ漏れなく検出することが可能になる。
例えば図7の2近傍ラプラシアンフィルターは、衝撃加速度波形の周波数特性を変化させて波形を変化させるだけであり、衝撃のピークを漏れなく適切に抽出することが難しい。これに対して共分散では、衝撃のピークのように直線的に変化する区間においては大きな値になり、ノイズのように細かく変化する区間ではその変化量が平均化されて小さな値になる。従って図6に示すように衝撃のピークを明瞭に抽出することが可能になり、図7に比べて衝撃のピークの適切な強調処理を実現できる。
またデータ列間の相関を数値化する統計値としては、例えばピアソンの相関係数などがあるが、ピアソンの相関係数では、係数の値が0~1に規格化されてしまう。このため衝撃のピークを強調する処理としては好ましくない。この点、共分散は、ピアソンの相関係数のような規格化が行われず、データ列間の相関が高いほど、即ち衝撃波形の相関性が高いほど、値が大きくなる。従って、共分散を用いる強調処理は、ピアソンの相関係数などの規格化が行われる相関の統計処理に比べて、衝撃のピークを適切に強調できるという利点がある。
また本実施形態では処理部50は、データ列に対してバンドパスフィルター処理を行い、バンドパスフィルター処理後のデータ列に基づく共分散を求める。例えば後述の図24に示すような周波数特性のバンドパスフィルター処理をデータ列に対して行うことで、図5に示すように衝撃波形のピークがより明瞭になり、S/N比を向上できる。そして、このようなバンドパスフィルター処理後のデータ列に基づき共分散を求めることで、図6に示すような明瞭なピーク検出が可能になり、衝撃タイミングの正確且つ漏れのない検出が可能になる。
この場合のバンドパスフィルター処理としては、後述の図23で説明するように、衝撃の応答周波数特性の利得が1より大きくなる周波数帯域を通過させる処理であることが望ましい。このようにすれば、衝撃波形の振動周波数に対応する周波数帯域の信号をバンドパスフィルター処理により通過させて、共分散に基づく強調処理を行うことが可能になり、強調処理の前処理として適したフィルター処理を実現できるようになる。
また本実施形態では、第1のセンサーは構造物における移動体の通過エリアに設けられる。そして処理部50は、移動体の移動により構造物に与えられる衝撃のタイミングを検出することで、移動体が通過エリアを通過するタイミングを検出する。例えば処理部50は、衝撃が発生したタイミングである衝撃の発生時刻を検出することで、移動体が通過エリアを通過したタイミングである移動体の通過時刻を検出する。このようにすれば、移動体がどのタイミングで通過エリアを通過したのかを特定できるようになり、この通過タイミングを利用した種々の処理を実現できるようになる。例えば通過エリアとして、構造物の進入端に第1の通過エリアを設け、構造物の退出端に第2の通過エリアを設けることで、構造物への移動体の進入タイミングと、構造物からの移動体の退出タイミングを検出できる。これにより、構造物上を移動する移動体の重量を推定するWIMの処理などを実現できるようになる。
また本実施形態では処理部50は、共分散に基づいて移動体の車軸検出を行う。例えば処理部50は、車軸検出として、移動体の車軸が構造物に与える衝撃のタイミングを検出する。或いは処理部50は、車軸検出として、移動体の車軸のパターンの検出を行ってもよい。例えば構造物の進入端と退出端において移動体の車軸のパターンの検出を行うことで、進入端に進入した移動体と退出端から退出した移動体が同一の移動体か否かを検出してもよい。このように共分散に基づいて移動体の車軸検出を行うことで、正確且つ漏れない車軸検出が可能になる。例えば、移動体の車軸が構造物に与える衝撃のタイミングを正確且つ漏れなく検出できるようになり、構造物上を移動する移動体の重量等をより正確に求めることが可能になる。また車軸のパターンの検出もより正確に行うことが可能になる。
2.共分散、自己共分散
本実施形態では衝撃加速度の強調処理として共分散を用いている。以下では、この共分散の処理について詳細に説明する。図8は、共分散を用いる本実施形態の手法の説明図である。共分散は、2つのデータの関係を示す値であり、例えば2つのデータの相関を表す指標値である。図8に示すように、共分散としては、狭義の意味での共分散、自己共分散、同一データ列の自己共分散、振幅波形の2乗の包絡線に対応する共分散を用いることができる。
図8に示すように本実施形態では、共分散として、例えば狭義の共分散を求める。狭義の共分散は、例えば異なるセンサーからのデータ列の間の共分散や、異なる物理量を表すデータ列の間の共分散である。具体的には狭義の共分散は、図8に示すように、異なる位置に設けられた複数のセンサーからの加速度のデータ列の共分散や、センサーからの加速度のデータ列と、当該加速度のデータ列から求められた速度のデータ列の共分散などである。
例えば図1のデータ取得部40は、構造物に設けられた第1のセンサーにより時系列に得られたデータ列と、構造物において第1のセンサーが設けられた位置とは異なる位置に設けられた第2のセンサーにより時系列に得られた第2のデータ列を取得する。一例としては、第1のセンサーは図2のセンサー1であり、第2のセンサーはセンサー2又はセンサー3である。或いは第1のセンサーはセンサー4であり、第2のセンサーはセンサー5又はセンサー6である。センサー1とセンサー2又はセンサー3は構造物において異なる位置に設けられている。そしてセンサー1、2、3は、例えば進入端の第1の通過エリアに設けられており、センサー1、2、3からのデータ列に基づいて、移動体による第1の通過エリアの通過タイミングである進入タイミングを検出できる。センサー4とセンサー5又はセンサー6は構造物において異なる位置に設けられている。そしてセンサー4、5、6は、例えば退出端の第2の通過エリアに設けられており、センサー4、5、6からのデータ列に基づいて、移動体による第2の通過エリアの通過タイミングである退出タイミングを検出できる。
そして狭義の共分散では、第1のセンサーからの加速度のデータ列と第2のセンサーからの加速度のデータ列との共分散を求める。或いは第1のセンサーからの加速度のデータ列と、当該加速度のデータ列を例えば積分することで得られる速度のデータ列との共分散を求める。或いは第2のセンサーからの加速度のデータ列と、当該加速度のデータ列を例えば積分することで得られる速度のデータ列との共分散を求める。
また本実施形態では図8に示すように、共分散として、自己共分散を求める。自己共分散は、異なる区間でのデータ列の共分散である。自己共分散は、共分散の1つであり、例えば時間をずらしたデータ列間の共分散である。具体的には図8に示すように、自己共分散は、同じセンサーからの異なる区間での加速度のデータ列の共分散である。例えば図2のセンサー1の第1の区間での加速度のデータ列と、第2の区間での加速度のデータ列の共分散を、自己共分散として求める。同様にセンサー2、3、4、5、6の各々の第1の区間での加速度のデータ列と、第2の区間での加速度のデータ列の共分散を、自己共分散として求める。第1の区間と第2の区間は時間的にずれた時間区間である。
また本実施形態では図8に示すように、共分散として、同一データ列の自己共分散を求める。同一データ列の自己共分散は、同一区間のデータ列の共分散である。即ち、通常の自己共分散は、異なる区間のデータ列の共分散を意味するが、本実施形態では、自己共分散として、同一区間のデータ列の共分散を求める。具体的には図8に示すように、同じセンサーからの同一区間での加速度のデータ列の共分散を、同一データ列の自己共分散として求める。
また図8では、共分散として、振幅波形の2乗の包絡線を求めている。具体的には図8に示すように、センサーからの加速度のデータ列により表される衝撃の振幅波形の2乗の包絡線を求める。この振幅波形の2乗の包絡線は、同一データ列の自己共分散である同一区間での自己共分散に相当する。
以上のように本実施形態では処理部50は、共分散として、データ列の自己共分散を求め、求められた自己共分散に基づいて、移動体の移動による構造物への衝撃のタイミングを検出する。例えば第1のセンサーからのデータ列に基づく自己共分散を求めることで、図6に示すように衝撃のピークを検出することができ、衝撃のピークを検出することで衝撃が発生した時刻である衝撃のタイミングを検出できるようになる。具体的には処理部50は、図8に示すように、同じ第1のセンサーからの異なる区間でのデータ列の共分散を、自己共分散として求め、求められた自己共分散に基づいて、構造物への衝撃のタイミングを検出する。例えば第1のセンサーからの第1の区間でのデータ列と、第1のセンサーからの第2の区間でのデータ列との共分散を求めることで、自己共分散を求める。このようにすれば第1のセンサーからのデータ列に基づき簡素な処理で共分散を求めることが可能になり、処理の簡素化や処理負荷の軽減化を図れる。
また本実施形態では処理部50は、共分散として、同一区間でのデータ列の自己共分散を求める。そして求められた自己共分散に基づいて、移動体の移動による構造物への衝撃のタイミングを検出する。具体的には処理部50は、図8に示すように、同じ第1のセンサーからの同一区間でのデータ列の共分散を、自己共分散として求め、求められた自己共分散に基づいて、構造物への衝撃のタイミングを検出する。即ち、狭義の意味での自己共分散は、異なる区間でのデータ列の共分散であるが、本実施形態では、自己共分散として、同一区間でのデータ列の共分散を求める。つまり同一データ列の共分散を、自己共分散として求める。このようにすれば、同一区間での同一データ列を用いて自己共分散を求めることができるため、共分散を求める際に必要なデータ量を削減できる。また同一区間でのデータ列の自己共分散を求める手法では、例えば自己共分散の開平(ルート)を取ることで衝撃の強度を求めることができるという利点もある。
また本実施形態では処理部50は、衝撃の振幅波形の2乗の包絡線を、自己共分散として求めてもよい。具体的には処理部50は、図8に示すように、第1のセンサーからのデータ列により求められる衝撃の振幅波形の2乗の包絡線を、自己共分散として求める。振幅波形の2乗の包絡線は、同一区間でのデータ列の自己共分散と等価である。従って、振幅波形の2乗の包絡線を求めることで、同一区間でのデータ列の自己共分散と同様の値を求めることが可能になる。
また本実施形態ではデータ取得部40は、構造物において第1のセンサーが設けられた位置とは異なる位置に設けられた第2のセンサーにより時系列に得られた第2のデータ列を取得する。即ち移動体の移動による構造物の衝撃を表す第2のデータ列を取得する。そいて処理部50は、第1のセンサーからのデータ列である第1のデータ列と第2のデータ列の共分散を求める。
例えば第1のセンサーは図2のセンサー1であり、第2のセンサーはセンサー2又はセンサー3である。或いは第1のセンサーはセンサー4であり、第2のセンサーはセンサー5又はセンサー6である。ここでは第1のセンサーがセンサー1であり、第2のセンサーがセンサー2であるとして説明する。この場合に第1のセンサーであるセンサー1と第2のセンサーであるセンサー2は、移動体の移動方向に直交する方向である幅員方向に並んで配置されている。このような配置にすれば、センサー1からのデータ列に基づき検出される衝撃のタイミングと、センサー2からのデータ列に基づき検出される衝撃のタイミングは同じタイミングになる。そしてデータ取得部40は、センサー1により時系列に得られた第1のデータ列と、センサー2により時系列に得られた第2のデータ列を取得する。第1、第2のデータ列は、センサー1、2が設置される通過エリアを移動体が通過する際に構造物に与えられた衝撃を表すデータ列になる。そして処理部50は、センサー1からの第1のデータ列とセンサー2からの第2のデータ列の共分散を求める。具体的には処理部50は、センサー1、2からの第1、第2のデータ列に対してバンドパスフィルター処理を行い、バンドパスフィルター処理後の第1、第2のデータ列の共分散を求める。このようにすることで、図8の狭義の共分散を求めることができ、求められた共分散に基づいて衝撃のタイミングを検出できるようになる。
また本実施形態ではデータ列は加速度のデータ列であり、処理部50は、加速度のデータ列と、加速度のデータ列から求められた速度のデータ列との共分散を求める。例えばデータ取得部40は、センサー1からの加速度のデータ列を取得する。処理部50は、加速度のデータ列を積分することで速度のデータ列を求める。そして加速度のデータ列と速度のデータ列との共分散を求めて、構造物への衝撃のタイミングを検出する。即ちセンサー1が設置される通過エリアを移動体が移動することで構造物に与えられる衝撃のタイミングを検出する。このようにすれば、1つのセンサーからの加速度のデータ列に基づいて共分散を求めることが可能になる。
次に図8の狭義の共分散の処理について詳細に説明する。図9は、図2のG1のラインの車線を移動体が走行した場合に、G1、G2、G3のラインに対応して設けられたセンサー1、2、3からの加速度のデータ列に基づく衝撃加速度の波形である。図9ではG1のラインの車線を移動体が走行しているため、G1の衝撃加速度の波形とG2の衝撃加速度の波形との間の相関性が高くなる。一方、G3のラインの車線では移動体が走行していないため、G3の衝撃加速度の波形とG2の衝撃加速度の波形との間の相関性は低い。本実施形態は、この衝撃加速度の波形の相関性を表す値を、共分散として求めて、車軸応答のピークである衝撃のピークを検出する。
共分散は2組のデータ列の偏差の積の平均であり、G1-G2の共分散C12は下式(1)のように表すことができ、G3-G2の共分散C32は下式(2)のように表すことができる。ここで、G1-G2の共分散C12は、G1に対応するセンサー1からの加速度のデータ列とG2に対応するセンサー2からの加速度のデータ列の共分散である。G3-G2の共分散C32は、G3に対応するセンサー3からの加速度のデータ列とG2に対応するセンサー2からの加速度のデータ列の共分散である。
上式(1)、(2)において、α1kは、G1に対応して設けられたセンサー1からの加速度のデータ列である。α2kは、G2に対応して設けられたセンサー2からの加速度のデータ列である。α3kは、G3に対応して設けられたセンサー3からの加速度のデータ列である。nは区間長である。<α1k,n>はデータ列α1kの区間長nでの平均である。<α2k,n>はデータ列α2kの区間長nでの平均である。<α3k,n>はデータ列α3kの区間長nでの平均である。
共分散区間を、共分散による位相遅延をなくすために、nを奇の整数とすると共に、n>3とし、共分散は区間中心とすると、共分散C12、C32は下式(3)、(4)のように表すことができる。
上記に説明した共分散の式中において、偏差は平均値に対するばらつきの大きさを示すため、データが、よりばらけるように分布する方が、共分散の値は大きくなる。従って、共分散区間のデータが直線傾向であるほど、共分散の値は大きくなる。衝撃加速度の波形は、ホワイトノイズ及び周期ノイズと衝撃の振幅変動であるため、共分散は、直線的な衝撃振幅の傾向を、より大きな値として示す相関値になる。
図10は、G1のラインの車線を移動体が走行した場合の、G1-G2の共分散C12の波形とG3-G2の共分散C32の波形を示す図である。図10に示すように、G1に対応するセンサー1からの加速度のデータ列とG2に対応するセンサー2からの加速度のデータ列の共分散C12を求めることで、移動体の移動により構造物に与えられた衝撃のタイミングを検出できる。即ちセンサー1、2が設置される通過エリアにおける移動体の通過タイミングを検出できるようになる。
以上に説明した狭義の共分散を用いる手法では、G1、G2の2つのラインの衝撃加速度の波形の間の共分散を用いている。具体的にはセンサー1からの加速度のデータ列とセンサー2からの加速度のデータ列の共分散を用いる。しかしながら、衝撃加速度の波形の直線傾向を評価するのであれば、1つのラインの衝撃加速度の波形の自己共分散を用いてもよいことがわかる。具体的には例えば1つのセンサーからの加速度のデータ列の自己共分散を用いる。このような自己共分散においても、波形の直線部分において分散値が大きくなるため、衝撃のピークの適切な強調処理を実現できる。そして自己共分散を用いることで、必要とするデータ量を小さくできるという利点がある。
なお自己共分散を用いる場合に、対象となるデータ列は加速度のデータ列には限定されない。例えば加速度のデータ列の積分により得られた速度のデータ列についての自己共分散を用いてもよいし、速度のデータ列の積分により得られた変位のデータ列についての自己共分散を用いてもよい。
自己共分散Ckは下式(5)のように表すことができる。下式(5)は例えば、異なる区間でのデータ列の自己共分散である。
上式(5)において、αkは任意のセンサーからのデータ列である。即ち任意の車線のデータ列である。またnは区間長であり、mはデータ区間のオフセットである。異なる区間での自己共分散では例えばm>1になる。オフセットmは任意の値に調整できる。区間長nとオフセットmを調整することで、衝撃加速度の強調が最も良くなる条件での強調処理が可能になる。
更に本実施形態では図8で説明したように、同一区間でのデータ列の自己共分散を用いる。同一区間でのデータ列の自己共分散Ckは下式(6)のように表すことができる。
上式(6)に示す同一区間でのデータ列の自己共分散Ckは、例えば任意のセンサーからの第1の区間でのデータ列と当該センサーからの当該第1の区間でのデータ列との自己共分散である。第1の区間の区間長はnである。同一区間でのデータ列の自己共分散を用いる手法では、1つの区間でのデータ列を取得すれば済むため、異なる区間でのデータ列を取得して自己共分散を求める手法に比べて、処理に必要とされるデータ量を少なくできるという利点がある。なお、前述したように、自己共分散の対象となるデータ列は、加速度のデータ列であってもよいし、速度や変位などのデータ列であってもよい。
また図8で説明したように本実施形態では、振幅波形の2乗の包絡線を、自己共分散として求めてもよい。例えば上式(6)の同一区間でのデータ列の自己共分散Ckは、下式(7)のように表すことができる。
上式(7)の2乗項のカッコの中のαk-<αk,n>は、期待値であるαkから区間の平均値を減算したものであるため、下式(8)に示すように、例えば移動平均のハイパスフィルター処理によってオフセットを取り除いた振幅を示していると考えることができる。
上式(8)においてHPF(αk,n)は、区間長nの区間の移動平均によるハイパスフィルター処理を示している。このハイパスフィルター処理後の振幅の2乗は下式(9)のように表すことができる。
2乗は絶対値の2乗と等価である。従って、結果的に、上式(7)に示す同一区間でのデータ列の自己共分散は、下式(10)、(11)に示すように、ハイパスフィルター処理後の衝撃加速度の波形についての、2乗(絶対値の2乗)の移動平均のローパスフィルター処理による平滑波形と考えることができる。
一般的に包絡線は、オフセットを除去した波形の絶対値に対して、ローパスフィルターを用いて高周波数帯域信号を除去することで求められる。従って、上式(7)の同一区間でのデータ列の自己共分散は、衝撃の振幅波形の2乗の包絡線と考えることができる。このように同一区間でのデータ列の自己共分散は、振幅波形の2乗の包絡線による波形形状の強調フィルターとして考えることができる。即ち車軸による衝撃応答波形の統計的なS/N比の向上は、波形形状の強調の効果と考えることができる。
以上のように本実施形態では処理部50は、衝撃の振幅波形の2乗の包絡線を、自己共分散として求める。具体的には振幅波形の2乗の包絡線を、同一区間でのデータ列の自己共分散として求める。更に具体的には処理部50は、上式(8)に示すように、データ列に対してハイパスフィルター処理を行う。次に上式(9)に示すように、ハイパスフィルター処理後のデータ列を2乗した値を求める。そして上式(10)、(11)に示すように、ハイパスフィルター処理後のデータ列を2乗した値に対してローパスフィルター処理を行うことで、自己共分散を求める。このようにすれば、ハイパスフィルター処理とローパスフィルター処理を用いた簡素な処理で、振幅波形の2乗の包絡線を自己共分散として求めることが可能になる。なお振幅波形の2乗の包絡線を、同一区間のデータ列の自己共分散として求める場合には、ハイパスフィルター処理を行う区間とローパスフィルター処理を行う区間を同じ区間とする境界条件を満たすようにする。
また波形形状の強調を一般的な包絡線の2乗とする場合、ハイパスフィルター処理を行う区間とローパスフィルター処理を行う区間が異なってもよい。
また共分散、自己共分散、同一区間の自己共分散及び2乗の包絡線等の強調処理では、衝撃発生タイミングである衝撃発生時刻と、強調波形のピークタイミングであるピーク時刻が一致しない。そこで本実施形態では処理部50は、共分散による強調波形のピークタイミングが衝撃発生タイミングに一致するように、共分散を求める区間のオフセット調整を行う。例えば強調波形のピーク時刻と衝撃発生時刻が一致するように強調処理の演算区間にオフセットを設ける。
図11は衝撃波形と強調波形の位相の差を示している。E1が衝撃波形でありE2が強調波形である。図11のE1の衝撃波形は後述の図31の衝撃波形の近似モデル波形であり、E2の強調波形は後述の図22の自己共分散波形の近似モデル波形である。E1の衝撃波形の第1の振幅ピークを衝撃発生時刻とし、E2の強調波形のピークを衝撃検出時刻とすると、衝撃発生時刻と衝撃検出時刻の間に時間差tdが生じる。これを補正するために、上述した式(3)、(4)、(5)、(6)のデータ区間の取り方を調整する。
具体的には、平均を加算する区間長をn+1として、i=0或いはl=0に対して負の区間長と正の区間長を異なる長さに調整する。波形の位相を調整するために、下式(12)に示すように、同一区間の自己共分散において、区間i及びlに時間オフセットjを加算する。
同一区間の自己共分散以外の強調処理手法においても同様のオフセット調整を行うことができる。図12のE3、E4、E5は、オフセットjによって強調波形の位相を調整した状態を示している。即ちオフセットjを、j=(n-1)/2、j=0、j=-(n-1)/2とした場合の強調波形の時間位相の変化を示している。
このオフセットjを調整することで、衝撃波形の第1の振幅ピークの衝撃発生時刻に、強調波形のピーク時刻を合わせることが可能になる。即ち図11の時間差tdをゼロにする調整が可能になり、測定精度の向上を図れる。また、一旦調整することで、図3、図13、図19で説明する測定プロセスは都度調整する必要はなく、衝撃発生時刻の測定精度の良好な計測を行うことが可能になる。
また、平均を加算する区間長は偶数であってもよい。区間長が偶数の場合、i=0或いはl=0に対して負の区間長と正の区間長は異なる長さとなるが、時間オフセットjを加算することで強調波形の時間位相の調整が可能となる。
また本実施形態では処理部50は、共分散に基づいて、構造物への衝撃のタイミングにおける衝撃の強度を求める演算処理を行っている。このように衝撃の強度を求めることで、求められた強度を様々な処理に利用できるようになる。この強度の演算処理について図13~図19を用いて説明する。
図13は、共分散及び自己共分散におけるピーク時刻及び強度の判定処理を説明するフローチャートである。処理部50は、図4、図5で説明した衝撃加速度の波形に対して、共分散及び自己共分散を用いた強調処理を行うことで、図14に示すように衝撃加速度のピークが強調された強調波形を求める。そして図15に示すように処理部50は、図14の強調波形のうちの処理対象となるピークを選択する(ステップS11)。そしてピークの時間tpを計測する(ステップS12)。即ちピークの発生時刻である時間tpを計測する。次にピーク振幅がしきい値以上になる時間区間のピーク区間を計測し、ピーク区間の加速度データを抽出する(ステップS13、S14)。例えば図16は、図15のように選択されたピークの波形の拡大図である。そして図17に示すように、このピークの振幅がしきい値以上となるピーク区間に対応するマスクを生成し、生成されたマスクを用いてピーク区間の加速度データを抽出する。そして抽出した加速度データから強度を求める(ステップS15)。例えば衝撃加速度の波形のピークの振幅に対応する強度を求める。そして処理が終了したか否かを判断し(ステップS16)、終了していない場合には、ステップS11に戻り、次の処理対象となるピークを選択する。全てのピークについての処理が終了すると、判定処理を終了する。
図18は、図13のステップS14で抽出された加速度データの波形の拡大図である。例えば図17のマスクを用いて、図5の衝撃加速度の波形から図18のA1に示すような加速度データの波形を抽出する。この加速度データの波形は衝撃波形である。そして例えばA2に示すような波形の振幅を、衝撃の強度として求める。なお強度の計測は、このような振幅の計測に限定されない。例えば波形の半波長を積分したり、1波形の絶対値を積分することなどにより、強度を求めてもよい。
図19は、同一区間の自己共分散及び振幅波形の2乗の包絡線におけるピーク時刻及び強度の判定処理を説明するフローチャートである。図13と同様に処理部50は、強調波形のピークを選択し、ピークの時間を計測する(ステップS21、S22)。そしてピークの振幅を計測し、計測されたピークの振幅を開平する(ステップS23、S24)。即ち、自己共分散又は振幅波形の2乗の包絡線のピークを計測して、計測されたピークのルートを求めることで、強度を求める。そして処理が終了したか否かを判断し(ステップS25)、終了していない場合には、ステップS21に戻り、次の処理対象となるピークを選択する。全てのピークについての処理が終了すると、判定処理を終了する。
図13のように共分散又は異なる区間での自己共分散を求める手法では、衝撃加速度の波形からマスクを用いた抽出処理が必要になる。これに対して、図19のように同一区間での自己共分散又は振幅波形の2乗の包絡線を求める手法では、ピークの振幅を計測し、そのルートを求めることで強度を求めることが可能になる。従って、処理の簡素化や処理負荷の軽減化などを図れる。
3.バンドパスフィルター処理
本実施形態では処理部50は、センサーからのデータ列に対してバンドパスフィルター処理を行い、バンドパスフィルター処理後のデータ列から共分散を求めている。このバンドパスフィルター処理について詳細に説明する。
図20は、観測された衝撃波形の例である。図21には、観測された複数の衝撃波形の平均衝撃波形(avg)と、この平均衝撃波形を近似した近似モデル(model)の波形が示されている。即ち平均衝撃波形から、これを近似した近似モデルの波形を作成する。図22には、平均衝撃波形の自己共分散と近似モデルの波形の自己共分散が示されている。この自己共分散は同一区間でのデータ列の自己共分散である。このように近似モデルは、観測された衝撃波形を近似的に表すモデルになっている。
図23は、近似モデルに対してFFTを行うことで求められた近似モデルの周波数特性を表すパワースペクトルである。図23に示すように、衝撃波形の近似モデルは、Q値がQ=Q1となり、カットオフ周波数がfcとなるメカニカルフィルターの応答周波数特性を有している。例えばQ1は4程度であり、fcは80MHz程度である。移動体が移動することで構造物に与えられる衝撃の応答周波数特性は、図23に示すようなメカニカルフィルターの応答周波数特性を有している。例えば図18のA1に示す衝撃波形は、このようなメカニカルフィルターの応答周波数特性により発生していると考えられる。従って、このようなメカニカルフィルターによる応答を、低いS/N比で観測するためには、メカニカルフィルターの利得が1を越えるような周波数帯域を通過させるバンドパスフィルター処理を行うことが望ましい。例えば図23のC1がメカニカルフィルターの利得が1となる境界に対応するため、このC1の境界に対応する周波数帯域RFを通過させるバンドパスフィルター処理を行えばよい。周波数帯域RFは一例としては、40Hz~100Hz程度の範囲である。図24はこのようなバンドパスフィルターの周波数特性の例である。
以上のように本実施形態のバンドパスフィルター処理は、衝撃の応答周波数特性の利得が1より大きくなる周波数帯域RFを通過させる処理であることが望ましい。このようなバンドパスフィルター処理を行うことで、衝撃波形を、より高いS/N比で観測することが可能になり、衝撃波形の適切な強調処理を実現できるようになる。
4.区間長の調整
本実施形態では処理部50は、衝撃の波形の1波長を含む区間における共分散を求める。例えば処理部50は、衝撃波形の1波長以上の区間長に設定された同一区間における自己共分散を求める。例えば上式(6)、(7)の同一区間でのデータ列の自己共分散を求める際に、自己共分散を求める区間の区間長を、衝撃波形の1波長以上の長さに設定する。更に望ましくは処理部50は、衝撃波形の2波長よりも短い区間長の区間における共分散を求める。例えば処理部50は、衝撃波形の2波長よりも短い区間長に設定された同一区間におけるデータ列の自己共分散を求める。例えば上式(6)、(7)の同一区間でのデータ列の自己共分散を求める際に、自己共分散を求める区間の区間長を、衝撃波形の1波長以上であって2波長よりも短い長さに設定する。
図25に衝撃波形の例を示す。この衝撃波形は、移動体の移動に起因して構造物に発生する衝撃の波形である。即ち図23で説明した構造物のメカニカルフィルターの応答周波数特性により発生する衝撃波形である。例えば移動体の車軸の衝突により構造物は図23に示すようなメカニカルフィルターの周波数応答をする。例えば車軸の衝突により図23のQ値であるQ=Q1に対応する共振が発生し、この共振による振動が図25に示すような衝撃波形として現れる。即ち図25の衝撃波形は共振の振動周波数の振動波形である。図25においてλが衝撃波形の1波長に対応する。そして1/λが衝撃波形の振動周波数に対応する。本実施形態では、共分散を求める際の区間の区間長を、λ以上になるように設定する。即ち衝撃波形の振動周波数の周期以上の区間長で共分散を求める。また共分散を求める際の区間の区間長を、2×λよりも短くなるように設定する。
図26は、区間長が長かった場合におけるG1、G3のラインでの自己共分散の波形の例である。例えば区間長が2波長以上であり、2×λ以上の長さである場合の自己共分散の波形の例である。G1のラインの自己共分散は、センサー1からのデータ列に対する同一区間の自己共分散であり、G3のラインの自己共分散は、センサー3からのデータ列に対する同一区間の自己共分散である。区間長が長すぎると、よりブロードな波形になってしまい、衝撃の発生タイミングの特定が困難になってしまう。
図27は、区間長が短かった場合におけるG1、G3のラインでの自己共分散の波形の例である。例えば区間長が1波長より短く、λよりも短い場合の自己共分散の波形の例である。区間長が短すぎると、波形がノイジーになり、ピークが分割されてしまう。即ち、本来は1つであるピークが複数のピークに分割されてしまい、自己共分散による強調波形が双峰波形になってしまう。従って、衝撃の発生タイミングの特定が困難になってしまう。
図28は、区間長が適切な場合におけるG1、G3のラインでの自己共分散の波形の例である。例えば区間長が1波長以上であり、2波長よりも短い場合の自己共分散の波形の例である。例えば区間長が、λ以上であり、且つ、2×λよりも短い場合の自己共分散の波形の例である。区間長を適切な長さに設定することで、強調波形であるピーク波形が双峰波形にならず、単峰波形になるため、衝撃の発生タイミングを正確且つ明瞭に特定できるようになる。また図28では、G1のラインに対応する車線を通過した移動体の車軸の個数が3個であり、G3のラインに対応する車線を通過した移動体の車軸の個数が2個であることが判別されており、適正な車軸検出を実現している。
図29は区間長とS/N比の関係を示す図である。例えば区間長と自己共分散の波形のブロード形状の相関を示す図である。図29に示すように波形のブロード傾向は、区間長の逆関数になる。従って、波形が双峰にならない範囲で、最も小さい区間長を選択することが望ましい。
5.単峰波形
本実施形態では処理部50は、共分散による強調波形が単峰波形となる区間長の区間における共分散を求める。具体的には、処理部50は、強調波形が単峰波形となる区間長の区間における振幅波形の2乗の包絡線又は同一区間の自己共分散を求める。
図25において説明したように本実施形態では振動波形の振動周波数の周期以上の区間長の区間で共分散を求める。具体的には振動周波数の周期以上の区間長の区間で、振幅波形の2乗の包絡線又は同一区間の自己共分散を求める。これにより図28に示すように、強調波形であるピーク波形が単峰波形となる共分散の波形を得ることができる。
振幅波形の2乗の包絡線又は同一区間の自己共分散では、衝撃波形は図30のH1に示すハイパスフィルター特性とH2に示すローパスフィルター特性により帯域制限される。これらのフィルター特性は、振幅波形の2乗の包絡線又は同一区間の自己共分散の区間長により決まる。以下では、振幅波形の2乗の包絡線の信号処理過程を例にとり、信号の周波数特性の変化を説明する。
図31のH3は衝撃波形を近似する近似モデルである。図32は近似モデルの波形のパワースペクトルである。この近似モデルの波形に対して、図30のH1に示す周波数特性のハイパスフィルター処理を行うと、図33に示すような波形になる。図34は、ハイパスフィルター処理後の近似モデルの波形のパワースペクトルである。ハイパスフィルター処理後の近似モデルの波形は、振幅波形の2乗の包絡線の説明の際に用いた上述の式(8)に対応する。即ち上述の式(8)では、図30のH1に示すような周波数特性のハイパスフィルター処理を行う。
ハイパスフィルター処理後の近似モデルの波形の振幅を2乗すると、図35に示すような波形になる。図36は、図35の波形のパワースペクトルである。振幅を2乗することで、低周波数帯域に振幅が発生し、衝撃波形の振動周波数は2倍になる。図35の振幅の2乗の波形は上述の式(9)に対応する。
近似モデルの波形の振幅を2乗した図35の波形に対して、図30のH2に示すローパスフィルター処理を行うと、図37に示すような波形になる。図38は、図37の波形のパワースペクトルである。図37の波形は、上述の式(10)、(11)に対応し、衝撃の振幅波形の2乗の包絡線に対応する。即ち上述の式(11)では、図30のH2に示すような周波数特性のローパスフィルター処理を行う。
図39のH4は、図35、図36で説明した振幅を2乗した波形の利得周波数特性である。図39のH5は、図30のH2で説明したローパスフィルターの利得周波数特性である。波形を単峰特性とするためには、図39のH4に示す振幅の2乗波形における2倍の振動周波数(例えば約156Hz)の部分を減衰させる必要がある。即ち図39にH6に示すQ値の部分を、H5のローパスフィルター処理により十分に減衰させる必要がある。図39のH5のローパスフィルターは、振動周波数の周期(例えば約76Hzに対応する周期)と同じ区間長の移動平均ローパスフィルターである。このH5のローパスフィルターの処理を図35に示す振幅の2乗波形に対して行うことで、ローパスフィルター処理後の波形の周波数特性は図38に示すような特性になり、図37に示すように共分散による強調波形を単峰波形にすることが可能になる。
以上のように、共分散による強調波形を単峰波形にするためには、振幅を2乗することで2倍の振動周波数になる図39のH6に示す部分を、ローパスフィルター処理により十分に減衰させる必要がある。従って、振幅波形の2乗の包絡線又は同一区間の自己共分散における区間長を、駆動周波数の周期(波長λ)と同等以上の区間長にすることで、単峰波形を得ることができる。但し、区間長が長くなると、強調波形の頂部が平坦化したりすることで、強調波形に基づき測定する時刻の検知精度が劣化する。従って、単峰波形となる最小の区間長が最適な区間長になる。なお、2倍の振動周波数となるQ値の部分を減衰するように最適化されたローパスフィルターを用いる手法も考えられる。この場合、振幅波形の2乗の包絡線又は同一区間の自己共分散を求めた後に、これらの処理区間と同一又は異なるシェイプのローパスフィルター処理を行うことで、単峰波形を得ることが可能になる。
以上に説明したように本実施形態の計測装置は、構造物に設けられた第1のセンサーにより時系列に得られたデータ列であって、移動体の移動により構造物に与えられた衝撃を表すデータ列を、取得するデータ取得部と、データ列に基づく共分散を求め、共分散に基づいて、移動体の移動により構造物に与えられた衝撃のタイミングを検出する処理部を含む。
本実施形態によれば、第1のセンサーが構造物に設けられ、この第1のセンサーを用いて、移動体の移動により構造物に与えられた衝撃を表す時系列のデータ列が取得される。そして、取得されたデータ列に基づく共分散が求められ、求められた共分散に基づいて、移動体の移動により構造物に与えられた衝撃のタイミングが検出される。このように共分散を用いることで、衝撃波形のピークをその他のノイズから明瞭に区別して検出できるようになる。そして衝撃波形のピークは、移動体の移動により構造物に与えられる衝撃タイミングに対応する。従って本実施形態によれば、移動体の移動により構造物に与えられる衝撃のタイミングを適切に検出することが可能になる。
また本実施形態では、処理部は、共分散として、データ列の自己共分散を求め、自己共分散に基づいて衝撃のタイミングを検出してもよい。
このようにすれば第1のセンサーからのデータ列に基づき簡素な処理で共分散を求めることが可能になる。
また本実施形態では、処理部は、共分散として、同一区間でのデータ列の自己共分散を求めてもよい。
このようにすれば、同一区間での同一データ列を用いて自己共分散を求めることができるため、共分散を求める際に必要なデータ量を削減できるようになる。
また本実施形態では、処理部は、衝撃の振幅波形の2乗の包絡線を、自己共分散として求めてもよい。
このようにすれば、振幅波形の2乗の包絡線を、同一区間のデータ列の自己共分散として求めることが可能になる。
また本実施形態では、処理部は、データ列に対してハイパスフィルター処理を行い、ハイパスフィルター処理後のデータ列を2乗した値を求め、2乗した値に対してローパスフィルター処理を行うことで、自己共分散を求めてもよい。
このようにすればハイパスフィルター処理とローパスフィルター処理を用いた簡素な処理で、振幅波形の2乗の包絡線を自己共分散として求めることが可能になる。
また本実施形態では、データ取得部は、構造物において第1のセンサーが設けられた位置とは異なる位置に設けられた第2のセンサーにより時系列に得られた第2のデータ列であって、移動体の移動による構造物の衝撃を表す第2のデータ列を、取得し、処理部は、データ列である第1のデータ列と第2のデータ列の共分散を求めてもよい。
このようにすれば、第1のセンサーから取得された第1のデータ列と第2のセンサーから取得された第2のデータ列を用いて、共分散を求め、求められた共分散に基づいて衝撃のタイミングを検出できるようになる。
また本実施形態では、データ列は加速度のデータ列であり、処理部は、加速度のデータ列と、加速度のデータ列から求められた速度のデータ列との共分散を求めてもよい。
このようにすれば、1つのセンサーからの加速度のデータ列に基づいて共分散を求めることが可能になる。
また本実施形態では、処理部は、共分散に基づいて、衝撃のタイミングにおける衝撃の強度を求めてもよい。
このように衝撃の強度を求めることで、求められた強度を様々な処理に利用できるようになる。
また本実施形態では、処理部は、データ列に対してバンドパスフィルター処理を行い、バンドパスフィルター処理後のデータ列に基づく共分散を求めてもよい。
このようにバンドパスフィルター処理後のデータ列に基づき共分散を求めることで、明瞭なピーク検出が可能になり、衝撃タイミングの適切な検出が可能になる。
また本実施形態では、バンドパスフィルター処理は、衝撃の応答周波数特性の利得が1より大きくなる周波数帯域を通過させる処理であってもよい。
このようにすれば、衝撃波形の振動周波数に対応する周波数帯域の信号をバンドパスフィルター処理により通過させて、共分散に基づく強調処理を行うことが可能になる。
また本実施形態では、処理部は、衝撃の波形の1波長を含む区間における共分散を求めてもよい。
このようにすれば、強調波形であるピーク波形が双峰波形になってしまうことを抑制でき、衝撃タイミングを、より正確に検出できるようになる。
また本実施形態では、処理部は、衝撃の波形の2波長よりも短い区間長の区間における共分散を求めてもよい。
このようにすれば、強調波形であるピーク波形がブロードな波形になってしまうことを抑制でき、衝撃タイミングの適切な検出が可能になる。
また本実施形態では、処理部は、共分散による強調波形が単峰波形となる区間長の区間における共分散を求めてもよい。
このようにすれば、単峰波形の強調波形により衝撃タイミングを検出できるようになるため、衝撃タイミングを、より正確に検出できるようになる。
また本実施形態では、処理部は、共分散による強調波形のピークタイミングが衝撃発生タイミングに一致するように、共分散を求める区間のオフセット調整を行う。
このようにすることで、強調波形のピークタイミングと衝撃発生タイミングを合わせることが可能になり、測定精度の向上を図れる。
また本実施形態では、第1のセンサーは構造物における移動体の通過エリアに設けられ、処理部は、衝撃のタイミングを検出することで、移動体が通過エリアを通過するタイミングを検出してもよい。
このようにすれば、移動体がどのタイミングで通過エリアを通過したのかを特定できるようになり、この通過タイミングを利用した種々の処理を実現できるようになる。
また本実施形態では、処理部は、共分散に基づいて移動体の車軸検出を行ってもよい。
このように共分散に基づいて移動体の車軸検出を行うことで、正確且つ漏れない車軸検出が可能になる。
また本実施形態は、上記の計測装置と第1のセンサーとを含む計測システムに関係する。
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本開示の範囲に含まれる。また計測装置、計測システムの構成・動作等も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。