本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る区画貫通構造100を示す概略断面図である。
本実施形態に係る区画貫通構造100は、建物の床101に形成される区画貫通孔16に、配管5または配線(以下、配管5等)が通されるものである。建物は、複数の階層を有するものであり、各階層の床101が、コンクリートからなる壁体によって構成されている。各階層の床101(壁体)には、筒状のスリーブ10を用いて区画貫通孔16が形成されており、これら区画貫通孔16に配管5等が通されている。
図1に示す区画貫通構造100では、中間層や最下層の床101において、区画貫通孔16における配管5等の通過位置や、区画貫通孔16の径(スリーブ10の内径)が、設計と異なる誤差が生じている。つまり、最上層の床101では、設計寸法のスリーブ10Aが適切な位置に設置された結果、設計通りに区画貫通孔16が形成されて、区画貫通孔16の中心に配管5等が通されている。これに対し中間層の床101では、設計寸法のスリーブ10Aを用いて区画貫通孔16が形成されているものの、区画貫通孔16の形成位置(スリーブ10Aの設置位置)が設計位置よりも左側にずれていたことで、配管5等が区画貫通孔16の右寄りの位置を通過している。さらに最下層の床101では、当初形成した区画貫通孔に配管5等を通せなかったことで、当初の区画貫通孔を構成していたスリーブ10Aを撤去し、より大きなスリーブ10Bを用いて区画貫通孔を拡大させる作業が行われており、この結果、区画貫通孔16の径(スリーブ10Bの内径)が設計寸法よりも大きく、配管5等が区画貫通孔16の左寄りの位置を通過している。そして図1に示す区画貫通構造100では、全ての階層における区画貫通孔16の出口と配管5等との間の隙間を埋めるべく、各区画貫通孔16を構成するスリーブ10の上端にキャップ30が設置されている。これらキャップ30は、同一の寸法を有するものである。
まず、区画貫通孔16を構成するスリーブ10の構造について説明する。なお最上層・中間層に設置されるスリーブ10A(設計寸法のスリーブ10A)と、最下層に設置されるスリーブ10B(設計寸法よりも大きなスリーブ10B)とは、径が異なること以外は、同様の構造を有する。このため以下では、最上層に設置されるスリーブ10Aを後述の図2に示して、スリーブ10の構造を説明する。
図2は、最上層に設置されるスリーブ10A及びキャップ30や、配管5を示す斜視図である。図2では、最上層の床101(壁体)を構築すべく、型枠2や鉄筋Rを組み立てた状態が示されている(つまり図2では、最上層の床101(壁体)を構築する以前の状態が示されている)。
スリーブ10は、ボイドとも称されるものであって、円筒状のスリーブ本体12を備えている。スリーブ本体12の開口19は、区画貫通孔16(図1参照)として機能するものであり、開口19の大きさ(スリーブ本体12の内径)は、配管5等の外径よりも大きく、配管5等を開口19に挿通することができる。
スリーブ本体12の下端13bには、1つまたは複数の取付部24が設けられている。取付部24はスリーブ本体12と一体成形されている。図2の例では、4つの取付部24がスリーブ本体12の下端13bに設けられており、これら4つの取付部24は、スリーブ10の軸A周りに約90°の角度で離間している。各取付部24は、床下地1に対してスリーブ10を固定するための孔26を有している。通常、有底矩形の型枠2は、コンクリート3(後述の図5(b))を収容するためのものであり、型枠2内にはコンクリート3の補強用の鉄筋Rが収容される。コンクリート3および鉄筋Rは、床下地1を構成する。
孔26にはスリーブ10を型枠2、鉄筋R、またはコンクリート3等に固定するために針金等の金属線、ボルト、ビス、釘等の固定用部材が通され得る。本実施形態では、スリーブ10は、金属線等を取付部24の孔26に通し、該金属線の両端を鉄筋Rに結び付けることにより、鉄筋Rに対して固定される 。なお、任意選択で、固定用部材をスリーブ10から取り外せるように、孔26に固定用部材を外しやすくするためのグリースを付けておいたり、取付部24に作業者が手で力を加えると取付部24の部分が折れて取り外せるようになっていてもよい 。
またスリーブ10は、スリーブ本体12の外側面から突出して延びるリブを備える。図2の例では、このリブとして、スリーブ10の軸Aに対して略平行に延びる複数のリブ12a(図2では3つ)と、スリーブ10の軸Aを中心とした環状を呈する複数のリブ12b(図2では3つ)とがあり、これらリブ12a,12bはスリーブ本体12と一体成形されている。リブ12a,12bは、スリーブ10の周囲にコンクリートを流し込んだときに、コンクリートから受ける力に対してスリーブ10が耐えられるようスリーブ10を補強する役割を果たす。
図3は、図2に示すスリーブ10Aを底面から見た略斜視図である。図3を参照すると、本実施形態のスリーブ10では、複数のリブ12bのうち、最下部のリブ12bは、スリーブ本体12の下端13bよりもわずかに高い位置(例えば3mm〜20mm)に設けられており、最下部のリブ12bの下面よりも下方のスリーブ本体12の部分と、最下部のリブ12bと、(さらにはスリーブ本体12の下端13bから突出する取付部24と)の間には空間12cが形成される。
以上の構成を有するスリーブ10は、熱膨張性の耐火樹脂材料から形成される。耐火樹脂材料は、樹脂成分に熱膨張性層状無機物と無機充填材とを含む樹脂組成物である。スリーブ10は、樹脂組成物の各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、遊星式撹拌機等公知の装置を用いて混練し、公知の成形方法で成形することにより得ることができる。
本実施形態では、スリーブ10のスリーブ本体12、リブ12a,12b、ならびに取付部24が同じ熱膨張性の耐火樹脂材料から一体成形されている。
樹脂成分としては、公知の樹脂成分を広く使用でき、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム物質、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1−)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の合成樹脂が挙げられる。
ゴム物質としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
これらの合成樹脂および/またはゴム物質は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
これらの合成樹脂および/またはゴム物質の中でも、柔軟でゴム的性質を有しているものが好ましい。この様な性質を有する樹脂成分は無機充填材を高充填することが可能であり、得られる樹脂組成物が柔軟で扱い易いものとなる。より柔軟で扱い易い樹脂組成物を得るためには、ブチル等の非加硫ゴムおよびポリエチレン系樹脂が好適に用いられる。代わりに、樹脂自体の難燃性を上げて防火性能を向上させるという観点からは、エポキシ樹脂が好ましい。
熱膨張性層状無機物は加熱時に膨張するものである。かかる熱膨張性層状無機物に特に限定はなく、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛等を挙げることができる。熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。
上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等でさらに中和してもよい。熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。粒度が200メッシュより数値が大きいと、黒鉛の膨張度が膨張断熱層が得るのに十分であり、また粒度が20メッシュより小さいと、樹脂に配合する際の分散性が良く、物性が良好である。熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP−EG」、GRAFTECH社製「GRAFGUARD」等が挙げられる。
無機充填剤は、膨張断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制するとともに、骨材的に働いて膨張断熱層の強度を向上させる。無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩等が挙げられる。
また、無機充填剤としては、これらの他に、硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いることができるし、2種以上を併用することもできる。
無機充填剤の粒径としては、0.5〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。無機充填剤は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため、粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm以上であると、分散性が良好である。添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、粒径の大きいものが好ましいが、100μm以下の粒径が成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性の点で望ましい。
無機充填剤のうち、水酸化アルミニウムの具体例としては、粒径18μmの「ハイジライトH−31」(昭和電工社製)、粒径25μmの「B325」(ALCOA社製)、炭酸カルシウムでは、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(備北粉化工業社製)、粒径8μmの「BF300」(備北粉化工業社製)等が挙げられる。
さらに、熱膨張性耐火材を構成する樹脂組成物は、膨張断熱層の強度を増加させ防火性能を向上させるために、前記の各成分に加えて、さらにリン化合物を含んでもよい。リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム;下記化学式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、防火性能の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム、および、下記化学式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、コスト等の点においてポリリン酸アンモニウムがより好ましい。
化学式(1)中、R1およびR3は、水素、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または、炭素数6〜16のアリール基を表す。R2は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、または、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。ポリリン酸アンモニウムとしては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取り扱い性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。市販品としては、例えば、クラリアント社製「AP422」、「AP462」、Budenheim Iberica社製「FR CROS 484」、「FR CROS 487」等が挙げられる。
化学式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、n−プロピルホスホン酸、n−ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。中でも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。前記のリン化合物は、単独で用いることもできるし、2種以上を併用することもできる。
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂成分100重量部に対し、前記熱膨張性層状無機物を10〜350重量部および前記無機充填材を30〜400重量部の範囲で含むものが好ましい。
また、前記熱膨張性層状無機物および前記無機充填材の合計は、樹脂成分100重量部に対し、50〜600重量部の範囲が好ましい。
かかる樹脂組成物は加熱によって膨張し耐火断熱層を形成する。この配合によれば、前記熱膨張性耐火材は火災等の加熱によって膨張し、必要な体積膨張率を得ることができ、膨張後は所定の断熱性能を有すると共に所定の強度を有する残渣を形成することもでき、安定した防火性能を達成することができる。
前記樹脂組成物における熱膨張性層状無機物および無機充填材の合計量は、50重量部以上では燃焼後の残渣量を満足して十分な耐火性能が得られ、600重量部以下であると機械的物性が維持される。
さらに本発明に使用する前記樹脂組成物は、それぞれ本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂、成型補助材等の添加剤、ポリブテン、石油樹脂等の粘着付与剤を含むことができる。
熱膨張性耐火材は市販品として入手可能であり、例えば、住友スリーエム社製のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーミキュライトとを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料社のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛とを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)、積水化学工業社製フィブロック等の熱膨張性耐火材等も挙げられる。
前記熱膨張性耐火材は、火災時などの高温にさらされた際にその膨張層により断熱し、かつその膨張層の強度があるものであれば特に限定されない。50kW/m2の加熱条件下で30分間加熱した後の体積膨張率が3〜50倍のものであれば好ましい。前記体積膨張率が3倍以上であると、膨張体積が前記樹脂成分の焼失部分を十分に埋めることができ、また50倍以下であると、膨張層の強度が維持され、火炎の貫通を防止する効果が保たれる。
次に、本実施形態のキャップ30について説明する。
図1に示すように、キャップ30は、各階層の区画貫通孔16を構成するスリーブ10(スリーブ本体12)の上端に設置されるものである。図2に示すように、キャップ30は、環状を呈して、配管5等に対応する断面の開口31を有しており、この開口31に配管5等が通される。
図2に示すように、キャップ30には、切れ目33が形成される。切れ目33は、キャップ30の外面から開口31に至るように形成されて、キャップ30を分断するものである。この切れ目33は、配管5等が既に区画貫通孔16に通されている状態でも、開口31に配管5等を通すことを可能とすべく形成される。すなわち、切れ目33を介して相対するキャップ30の両端部を把持して、キャップ30を、拡径して、配管5等の周囲に巻き付ければ、配管5等が区画貫通孔16に通されている状態でも、開口31に配管5等を通すことができる。 本実施形態では、切れ目33の互いに対向する接触面が屈曲しているため、切れ目33を合わせたときの係合力が強化され、キャップ30をスリーブ10に装着した後で、外力によりキャップ30がスリーブ10から外れるのを防ぐことができる。
開口31や切れ目33は、配管5等が区画貫通孔16に通された後に形成される。すなわち建物の施工現場には、開口31や切れ目33が形成されていない図4に示すキャップ形成用部材90が搬入される。そして施工現場で、スリーブ10を用いて区画貫通孔16が形成されて、区画貫通孔16に配管5等が通された後に、図4に示すキャップ形成用部材90に開口31や切れ目33が形成されることで、キャップ30が得られる。開口31の形成位置や径は、区画貫通孔16における配管5等の通過位置や、配管5等の径に基づき、設定される。
上述のキャップ30(キャップ形成用部材90)は、金属から形成されてもよいし、非耐火性または耐火性の樹脂組成物の成形体であってもよい。また例えば、キャップ30(キャップ形成用部材90)は可塑剤を含むかまたは含まない塩化ビニル樹脂か、またはゴム等の樹脂組成物から形成され得る。また 、美観を与えるようにキャップ30(キャップ形成用部材90)にはコーティング等の仕上層がさらに施されてもよい。例えばキャップ30(キャップ形成用部材90)は、スリーブ10を構成する耐火性樹脂組成物と同一のまたは異なる、ブチルゴム等の樹脂成分を含む耐火性樹脂組成物から形成される。また特定の実施形態では、キャップ30(キャップ形成用部材90)はスリーブ10とは異なる組成の樹脂組成物の成形体であり、スリーブ10とは視覚的に区別できるよう(例えば赤、黄、橙、青、緑などの色の着色等により)構成される。また、夜間でも視覚的に区別できるようにキャップ30(キャップ形成用部材90)は蛍光色の着色が施されたものであってもよい。なお、区画貫通孔16(スリーブ10)の内面と配管5等の外面との間を確実に被覆するために、キャップ30(キャップ形成用部材90)は、ゴム等の伸展性を有する材料から形成されることが好ましい。
次に、図5(a)〜図5(c)を参照しながら、上述したスリーブ10やキャップ30を用いて、本実施形態の区画貫通構造100を構築する施工方法を説明する。
まず図5(a)に示すように、スリーブ10を床下地1に固定する。スリーブ10の床下地1への固定は、例えばボルト28をスリーブ10の下端13bの取付部24の孔26を通って床下地1の中までねじ込むことによりなされる。型枠2の底部のスリーブ10に対応する位置には、配管5等を挿通するための穴を空けておく。
次に図5(b)に示すように、コンクリート3を床下地1へ流し込む。この際には、コンクリート3の厚みすなわち高さHは、スリーブ本体12の下端13bからスリーブ10本体の上端13aまでの距離に等しくされる。このようにして、スリーブ10の内側の開口19を残し、スリーブ10の外側周囲にコンクリート3が打設され、床101(図1参照)をなす壁体が形成される。スリーブ10の内側の開口19は区画貫通孔16として機能する。ここで、スリーブ本体12に設けられた最下部のリブ12bは、スリーブ本体12の下端13bよりもわずかに高い位置に設けられているため、スリーブ10の周囲にコンクリート3を打設した時、最下部のリブ12bの下面よりも下方のスリーブ本体12の部分と、最下部のリブ12bと、(さらにはスリーブ本体12の下端13bから突出する取付部24と)により形成された空間12c(図3参照)にコンクリート3が進入し、スリーブ10はコンクリート3中に、より堅固に固定される。なおコンクリート3をスリーブ10(スリーブ本体12)の高さよりも低い高さに敷設することで、スリーブ10(スリーブ本体12)の上端部が視認できるようにしてもよい 。
次に図5(c)に示すように、区画貫通孔16に配管5又は配線を通す。配管5には、水道管、冷媒管、熱媒管、ガス管、吸排気管等の各種配管が含まれる。配線には、電力用ケーブル、通信用ケーブル等の各種ケーブルが含まれる。なお、区画貫通孔16に通される配管5又は配線は、1本であっても複数本であってもよい。
次に、図4に示すキャップ形成用部材90に開口31が形成される。この際、開口31の径は、区画貫通孔16に通される配管5等の径に基づき調整され、開口31の形成位置は、区画貫通孔16における配管5等の通過位置に基づき調整される。例えば図5(c)のように、区画貫通孔16の中心位置に配管5等が通されている場合には、キャップ形成用部材90の中心位置に開口31が形成される。そしてこの後、切れ目33をキャップ形成用部材90に形成することで、図2に示すキャップ30が得られる。
次に図5(d)に示すように、キャップ30の開口31に配管5等が通されて、キャップ30で区画貫通孔16を塞ぐように、キャップ30を区画貫通孔16の上端(スリーブ本体12の上端13a)に設置する。
図1に示す区画貫通構造100は、図5に示す作業が階層毎に行われることで構築されたものである。すなわち図5(a)〜図5(c)に示す作業が最上層・中間層・最下層毎に行われることで、複数の区画貫通孔16(最上層・中間層・最下層の区画貫通孔16)に配管5が通される。そして各階層の区画貫通孔16毎にキャップ形成用部材90が準備されるとともに、各キャップ形成用部材90に開口31や切り目33が形成されることで、区画貫通孔16毎にキャップ30が得られる。この際には、各キャップ形成用部材90に形成される開口31の位置や径が、各区画貫通孔16における配管5等の通過位置や、各区画貫通孔16に通される配管5等の径に基づき、設定される。そして図5(d)に示す作業が階層毎(最上層・中間層・最下層毎)に行われることで、配管5等が各キャップ30の開口31に通されるように、各キャップ30が区画貫通孔16(スリーブ10)の上端に設置される。
階下から火災が発生した場合には、図6に示すように、スリーブ10が火災の熱で膨張することで、スリーブ10と配管5等との間の隙間が埋まる。これにより、スリーブ10の開口(区画貫通孔16)を介して、火災が上階に伝搬することが防止される。
そして本実施形態では、図1に示すように、区画貫通孔16における配管5等の通過位置や、区画貫通孔16の径が設計と異なる事態が生じても、キャップ30によって区画貫通孔16と配管5等との間を被覆できるように、キャップ形成用部材90(キャップ30)の外径寸法が、区画貫通孔16(スリーブ10の開口19)の外形寸法よりも大きく設定されている。具体的には、キャップ形成用部材90(キャップ30)は、区画貫通孔16(スリーブ10の開口19)の外形の設計寸法を2倍以上に相似拡大させた外形寸法を有している。
上記のようにキャップ形成用部材90(キャップ30)の外形寸法が設定されれば、区画貫通孔16の施工に一般的な誤差が生じていたとしても、キャップ30によって区画貫通孔16と配管5等との間の隙間を被覆できる。以下、図7を参照して具体的に説明する。
図7において、A範囲は、区画貫通孔16(スリーブ10の開口19)の設計範囲に該当し、B範囲やC範囲は、誤差をもって形成された区画貫通孔16の範囲に該当し、D範囲は、区画貫通孔16の設計範囲を2倍に相似拡大した範囲に該当する。本発明において、区画貫通孔16の施工に誤差が生じているとは、B範囲のように、施工された区画貫通孔16の径Rが設計値RA(A範囲の径RA)と異なることや、C範囲のように、区画貫通孔16の形成位置が設計位置(A範囲の位置)からずれていることを意味する。本発明者らは、このような施工誤差が生じた場合、一般的には、区画貫通孔16の形成範囲が、上記のD範囲(区画貫通孔16の設計範囲を2倍に相似拡大した範囲)内に収まることを確認している。このため上述したようにキャップ30の外形寸法が、区画貫通孔16の外形の設計寸法の2倍以上に設定されれば、区画貫通孔16の施工に一般的な誤差があったとしても、キャップ30によって区画貫通孔16の全体(B範囲やC範囲の全体)を被覆できる。つまり、図7に示すようにキャップ30の外縁がD範囲の外側に位置する、或いはキャップ30の外縁がD範囲の周上に位置するので、キャップ30の外縁の内側に、区画貫通孔16の全体(B範囲やC範囲の全体)を位置させることができる。このため、配管5等が区画貫通孔16におけるいずれの位置(B範囲やC範囲におけるいずれの位置)を通過していたとしても、キャップ30が、配管5等に対応する開口31を備えるものとして、配管5等が開口31に通されるようキャップ30を区画貫通孔16(スリーブ10)の上端に設置すれば、キャップ30により区画貫通孔16と配管5等との間の隙間を被覆することができる。なお、より大きな施工誤差にも対応可能とすべく、キャップ30(キャップ形成用部材90)をゴム等の伸展性を有する材料から形成することが好ましい。このようにすれば、図8に示すようにキャップ30(キャップ形成用部材90)を伸展させることで、キャップ30で被覆可能な範囲を拡大できるので、D範囲の外側に区画貫通孔16が形成されるような大きな施工誤差が生じた場合でも、キャップ30により区画貫通孔16と配管5等との間の隙間を被覆することができる((図8の破線は、キャップ形成用部材90を伸展させる前の状態を示し、図8の実線は、キャップ形成用部材90を伸展させた後の状態を示す)。
そして図1に示すように建物に複数の階層が形成される場合には、上記の外形寸法を有する複数のキャップ30(外形寸法が区画貫通孔16の外径の設計寸法の2倍以上である複数のキャップ30)を準備すれば、これらキャップ30の外径寸法が一律であったとしても、全ての階層における区画貫通孔16と配管5等との間を被覆できる。したがって、階層毎に寸法の異なるキャップ30を準備する手間を要しないので、全ての階層における区画貫通孔16と配管5等との間を容易に被覆できる。
そして本実施形態では、上述のように全ての階層における区画貫通孔16と配管5等との間の隙間を被覆できることで、区画貫通孔16の各々の中が見えず視覚的な美観が保たれるとともに、下階から上階に伝わる音の大きさを低減でき、区画貫通構造100の耐火性も向上する。
本発明は、上記の実施形態に限定されず、種々変形することが可能である。
例えば、図2に示す切れ目33はキャップ30に形成されなくてもよい。切れ目33を形成せずとも、配管5等を区画貫通孔16に通す前にキャップ30をスリーブ10の一端部に取り付けることはでき、また、配管5等を区画貫通孔16に通した後でも、配管5等の端部をキャップ30の開口部31に通し、配管5等に沿ってキャップ30をスリーブ10の位置まで移動させても取り付けることができる。
また図2に示すキャップ30の代わりに、図9(a)や図9(b)に示すキャップ35,40が使用されてもよい。キャップ35,40は、一対の半割体を組み合わせたものであり、各半割体に形成される凹部によって、配管5等に対応する開口が構成される。
具体的には、図9(a)に示すキャップ35は、一対の半割体36,36と、一対の半割体36,36を第一端部で接続する軸部材37とを有しており、半割体36,36には、それぞれ半円状の凹部39a,39aが形成されている。このキャップ35は、軸部材37を中心に一対の半割体36,36が開閉し、一対の半割体36,36が支持部材37とは反対側の第二端部で一対の嵌合部38を介して接続して閉じたときに、凹部39a,39aによって上記の開口が構成されて、この開口に配管5等を通すことができる。
図9(b)に示すキャップ40は、一対の半割体41および42を有しており、半割体41,42には、それぞれ半円状の凹部45a,45aが形成されている。半割体41および42の各々の両端部には互いに嵌合するための嵌合部43および44が設けられており、嵌合部43および44を介して半割体41および42が接続して閉じたときに、凹部45a,45aによって上記の開口が構成されて、この開口に配管5等を通すことができる。
なお図9に示すキャップ35,40も、図4に示すキャップ形成用部材90を使用して形成され得る。すなわち、区画貫通孔16に配管5等が通された後に、キャップ形成用部材90に開口を形成し、この後、キャップ形成用部材90に切れ目を形成して、キャップ形成用部材90を2つに分断することで、上記のキャップ35,40を構成する半割体36,36,41,42を得ることができる。
また図2に示すキャップ30の代わりに、図10に示すキャップ50が使用されてもよい。図10に示すキャップは、シリコーン等の伸縮性のある材料から製造されるものである。キャップ50は、図10(a)に示す伸張状態において、小径の筒部51が、これと連続して形成される大径の筒部51の一方側に延び出ることで、径が段階的に変化する略円錐状を呈するものである(図10(a)に示す例では、筒部51bが筒部51aの一方側に延び出て、筒部51cが筒部51bの一方側に延び出て、筒部51dが筒部51cの一方側に延び出て、筒部51eが筒部51dの一方側に延び出ることで、キャップ50は、径が5段階に変化する略円錐状を呈している)。そして、キャップ50は、図10(a)に示す伸張状態から、小径の筒部51を、他方側に連続する大径の筒部51の内側に、入れ子状に織り込むことで、図10(b)に示す収縮状態にすることが可能である。
上記のキャップ50では、最も径の大きい筒部51a(伸張状態で他端に位置する筒部51a)が、区画貫通孔16(スリーブ10の開口19)の外形の設計寸法を2倍以上に相似拡大させた外形寸法を有している。さらに最も径の小さい筒部51e(伸張状態で一端に位置する筒部51a)の端面52には、配管5等に対応する断面の開口53が形成される、この開口53は、各筒部51の内側を通過する空洞54と連通するものである。キャップ50は、空洞54や開口53に配管5等が通されるように、区画貫通孔16(スリーブ10)の上端に設置される。
なお、開口53は、区画貫通孔16に配管5等が通された後に形成されるものであり、開口53の形成位置は図10に示す端面52に限定されない。すなわち、建物の施工現場には、最大径の筒部51が上記の外形寸法を有し、開口53が形成されていないキャップ形成用部材が搬入される。そして施工現場でスリーブ10を用いて区画貫通孔16が形成されて、当該区画貫通孔16に配管5等が通された後に、上記のキャップ形成用部材に開口53が形成されることで、キャップ50が得られる。開口53の径は、区画貫通孔16に通される配管5等の径に基づき設定され、開口53の形成位置は、区画貫通孔16における配管5等の通過位置に基づき設定される。配管5等の径が筒部51eの径よりも大きく、配管5等が区画貫通孔16の中心を通過しないような場合には、開口53は、複数の筒部51に跨るように形成され得る。そして、開口53と空洞54とに配管5等が通されるように、キャップ50が区画貫通孔16の一端に設置されることで、キャップ50によって区画貫通孔16の内面と配管5等の外面との間を被覆することができる。
以上のキャップ50によれば、配管5等が真っ直ぐ延びていない場合でも、配管5等の延伸方向に追随するようにキャップ50を伸張させれば、区画貫通孔16の内面と配管5等の外面」との間を被覆できる。また図10(b)に示すようにキャップ50を収縮させることで、キャップ50をコンパクトにできるので、搬送時等におけるキャップ50の収容スペースを小さく抑えることができる。
なお、配管5等が既に区画貫通孔16に通されている状態でも、キャップ50の開口53に配管5等を通すために、キャップ50の外面から開口53に至り、キャップ50を分断する切れ目が形成されてもよい。またキャップ50を構成する筒部51の数は、図10に示す5つに限らず、任意の複数に設定され得る。
また図2,図9,図10に示すキャップ30,35,40,50を使用する場合には、キャップ30,35,40,50の内面と配管5等の外面との間を、非耐火性または耐火性のパテや、綿等で充填することで、キャップ30,35,40,50を固定してもよい。このようにすることで、スリーブ10と配管5等との間をより確実に被覆することができる。
またキャップ30,35,40,50を破損から保護すること等のために、オレフィン樹脂または塩ビ樹脂等の樹脂、もしくは塗料等のコーティング材で、キャップ30,35,40,50がコーティングされてもよい 。また、キャップ30,35,40,50と配管5等の接触による摩擦を低減させるためにキャップ30,35,40,50の内面に丸みを持たせるか、潤滑性コーティングを施した滑り面としてもよい 。
またスリーブ10は、図11に示すように変形できる。図11に示すスリーブ10は、中空略円筒状のスリーブ本体12と、スリーブ本体12の上端に設けられた環状のフランジ部14とを備えている。スリーブ本体12は一枚の矩形のシート状部材から形成され、フランジ部14も一枚の環状のシート状部材から形成されている。フランジ部14は、スリーブ本体12からスリーブ10の軸方向Aの外方へ延びている。後述の図11(a)に示すように、フランジ部14の幅Wはスリーブ本体12の厚みTよりも大きい。
図11(a)に戻り、スリーブ本体12の下端には、スリーブ本体12を床下地1(図2参照)に固定するためのスリーブ固定部材としての環状の固定具20が装着される。固定具20は、スリーブ本体12の外径に適合した内径を有する金属製のリング22と、リング22上に離間配置された複数の取付部24(図11(a)では4つ)を有する。各取付部24はボルト28(図12(a)参照)を通すための孔26を有する。
本実施形態では、スリーブ本体12およびフランジ部14は同じ熱膨張性の耐火樹脂材料から一体成形されている。耐火樹脂材料は、樹脂成分に熱膨張性層状無機物と無機充填材とを含む樹脂組成物である。この樹脂組成物の組成については第一実施形態で説明した通りである。
次に、図12(a)〜図12(c)を参照しながら、図11に示すスリーブ10を用いる場合の区画貫通構造100の施工方法について説明する。なお以下では、図2に示すキャップ30をスリーブ10の上端に設置する場合を例に説明するが、図9,図10に示すキャップ35,40,50も、図11に示すスリーブ10の上端に設置可能である。
まず図12(a)に示すように、スリーブ10の下端部に固定具20を装着し、スリーブ10を床下地1に固定する。スリーブ10の床下地1への固定は、例えばボルト28を取付部24の孔26を通って床下地1の中までねじ込むことによりなされる。
次に図12(b)に示すように、コンクリートを床下地1へ流し込む。この際には、コンクリートの厚みすなわち高さHは、スリーブ本体12の下端13bからフランジ部14の下面15までの距離に等しくされる。このようにして、スリーブ10の内側の開口19を残し、スリーブ10の外側周囲にコンクリート3が打設される。スリーブ10の内側の開口部は区画貫通孔16として作用する。
次に図12(c)に示すように、コンクリート3を貫通するように、区画貫通孔16を通って1または複数の配管5等が施される。
次に図4に示すキャップ形成用部材90に開口31(図2参照)が形成される。この際、キャップ形成用部材90に形成される開口31の位置や径は、区画貫通孔16における配管5等の通過位置や、配管5等の径に基づき調整される。そしてこの後、切れ目33をキャップ形成用部材90に形成することで、図2に示すキャップ30が得られる。
次に図12(d)に示すように、キャップ30の開口31に配管5等が通されて、キャップ30で区画貫通孔16を塞ぐように、キャップ30をスリーブ本体12の上端13a(フランジ部14)に設置する。
そして上述の図12の作業が階層毎に行われることで、各階層の区画貫通孔16に配管5等が通された区画貫通構造が構築される。すなわち図12(a)〜図12(c)に示す作業が最上層・中間層・最下層毎に行われることで、複数の区画貫通孔16(最上層・中間層・最下層の区画貫通孔16)に配管5が通される。そして各階層の区画貫通孔16毎にキャップ形成用部材90が準備されるとともに、各キャップ形成用部材90に開口31や切り目33が形成されることで、各階層の区画貫通孔16毎にキャップ30が得られる。この際には、各キャップ形成用部材90に形成される開口31の位置や径が、各区画貫通孔16における配管5等の通過位置や、各区画貫通孔16に通される配管5等の径に基づき、設定される。そして図12(d)に示す作業が階層毎(最上層・中間層・最下層毎)に行われることで、配管5等が各キャップ30の開口31に通されるように、各キャップ30が区画貫通孔16(スリーブ10)の上端に設置される。
階下から火災が発生した場合には、図13に示すように、スリーブ10のスリーブ本体12およびフランジ部14が火災の熱で膨張することで、スリーブ10と配管5等との間の隙間が埋まる。これにより、スリーブ10の開口(区画貫通孔16)を介して、火災が上階に伝搬することが防止される。
なお図11に示すように、スリーブ本体12とフランジ部14には、スリーブ10の長手方向に沿ってスリーブ10の上端から下端までを通る連続する切れ目17が設けられていてもよい。スリーブ10をブチルゴム等の弾性を有する樹脂成分を含む耐火性樹脂組成物から形成し、スリーブ10の長手方向に沿ってスリーブ10の端から端まで延びる切れ目17を設ければ、スリーブ10のコンクリート2からの着脱や、スリーブ10の配管5等からの着脱が容易となる 。例えば、配管5等を先に施工し、その後でスリーブ10を配管5等の周囲に施すことが可能となる。また、図11(a)の切れ目17はスリーブ12の軸方向に沿った直線状態の切れ目が示されているが、図11(b)に示すようにスリーブ12を斜めに走る切れ目(例えばスパイラル状)であってもよい。
またスリーブ本体12とフランジ部14は、異なる熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されてもよいし、またはスリーブ本体12が熱膨張性の耐火樹脂材料から形成され、フランジ部は金属から形成されてもよい。このような場合でも、火災時には少なくともスリーブ本体12が膨張し、スリーブ10を通じた火の延焼は防止される。
またフランジ部14を省略してもよく、この場合に、キャップ30をスリーブ本体12の上に取り付けてもよい。
また固定具20の取付部24の数は4つに限定されず、スリーブ10を床下地1へ固定させるのに十分な任意の数であってもよい。
また固定具20は、金属以外の材料から構成されてもよい。例えば、固定部20は可燃性の樹脂材料から形成されてもよい。別の好ましい実施形態では、固定具20は硬質塩化ビニルを初めとする硬質樹脂から形成される。固定部20を硬質樹脂から構成すると、スリーブ10固定部20が装着されたスリーブ10の下端部には強度が付与され、コンクリート3の打設時の流し込まれたコンクリート3の圧力によるスリーブ10の変形を防止または抑制することができる。
また固定具20を省略してもよい。
また図11に示すスリーブ10にも、図2に示すスリーブ12aおよび/または12b等のスリーブ10の強度を補強するリブを設けてもよい。
またスリーブ10は、図14(a)及び図14(b)に示すようにも変形できる。
図14(a)及び図14(b)に示すスリーブ10では、スリーブ本体12の内周面から内方に突出する1つまたは複数の位置決め部10aが設けられている 。図14(a)に示すように、位置決め部10aはスリーブ10の長手方向に沿って、スリーブ10の長手方向中心の上下の2か所、具体的にはスリーブ10の上端と下端付近の2か所に設けられている。そして図14(b)に示すように端面図で見た場合、位置決め部10a(図では4つ)は、等間隔に離間した状態で配置されている。位置決め部10aと配管5等との間には隙間が存在する。このような構成とすることで、図12(c)に対応する作業で、配管5等をスリーブ10内に配置する場合に、位置決め部10aがスリーブ10内における少ないズレでの配管5等の位置決めを支援する。位置決め部10aの内方への突出が長いと、配管5等はほぼズレたり傾いたりすることなくスリーブ10内の軸中心位置に配置(センタリング)される。
なお位置決め部10aは、図14(c)に示すようにさらに変更してもよい。具体的には、スリーブ10(スリーブ本体12)の長手方向に沿って、位置決め部10aよりも中心側に位置決め部10bを設け、位置決め部10bよりも中心側に位置決め部10cを設け、位置決め部10bの突出する長さは位置決め部10aよりも大きく、位置決め部10cの突出する長さは位置決め部10bよりも大きくする。ただし、配管5等が位置決め部10cと接触して損傷しないよう、配管5等をスリーブ10内に配置したときに、位置決め部10cと配管5等の間には隙間が存在することが好ましい。このような構成とすることで、スリーブ10内に配管5等を配置する場合に、上から配置した場合でも下から配置した場合でも、配管5等はスリーブ10内の軸中心位置に配置されるよう誘導される。位置決め部10a,10bおよび10cのスリーブ10の径方向における位置は整列させることが好ましいが、位置決め部10a,10bおよび10cのスリーブ10の長手方向および径方向における数は限定されない。さらには、位置決め部10a,10bおよび10cのいずれか一つが省略されてもよい。
なお図14では、キャップの図示を省略したが、図14に示すスリーブ10が使用される場合には、スリーブ10の上端をなすフランジ14にキャップ30,35,40,50が設置されることで、配管5等の外面と区画貫通孔16(スリーブ10)の内面との間の隙間が被覆される。
また図15(a)および図15(b)に示すように、スリーブ10は、コンクリート打設時に床下地(鉄筋コンクリートからなる建物の梁または壁)にスリーブ10を固定するための、スリーブ本体12に一体形成されたスリーブ固定部60をさらに備えていてもよい。スリーブ固定部材としてのスリーブ固定部60はスリーブホルダとも称される 。
スリーブ固定部60は合成樹脂からなり、射出成形によってスリーブ本体12と一体に形成されている。好ましい一つの実施形態では、スリーブ固定部60は例えばポリプロピレンをはじめとする熱可塑性樹脂からなり、適度な柔軟性を有する。別の好ましい実施形態では、スリーブ固定部60はスリーブ本体12と同じ熱膨張性の耐火樹脂材料から形成される。この態様によると製造コストを抑制できる。別の好ましい実施形態では、スリーブ固定部60はスリーブ本体12から熱膨張性黒鉛を除いた同じ耐火樹脂材料から形成され、2色形成によりスリーブ本体12と一体的に形成される。この態様によるとスリーブ固定部60の部分の外観が良くなり、強度も向上する。
別の好ましい実施形態では、図16に示すように、スリーブ固定部60はスリーブ本体12とは別体で形成される。スリーブ固定部60は、スリーブ10の外側に装着される寸法の環状(図16では円環状)の部材64を備えている。この態様によるとスリーブ本体12が筒状でよいため、スリーブ本体12を押出成形により製造することができ製造が容易となる。 好ましい一つの実施形態では、スリーブ固定部60は可燃性の樹脂材料からなり、火災等の熱により燃焼する。このため、スリーブ固定部60はコンクリートの敷設後もスリーブ10に装着したままでよい。別の好ましい実施形態では、スリーブ固定部60は硬質塩化ビニルを初めとする硬質樹脂から形成される。スリーブ固定部60を硬質樹脂から構成すると、スリーブ固定部60が装着されたスリーブ10の下端部には強度が付与され、コンクリート3の打設時の流し込まれたコンクリート3の圧力によるスリーブ10の変形を防止または抑制することができる。
図15ならびに図16に示した例において、このスリーブ固定部60の一端には、鉄筋Rが嵌め込まれるように形成されたクリップ部61が設けられている。クリップ部61は、略円筒の周面の一部を開口した略C字状の断面を有し、その内径が、嵌め込まれる鉄筋Rの外径よりもやや小さくなるように形成されている。なお、この実施形態ではクリップ部61の軸線C1はスリーブ10(スリーブ本体12)の軸線C2に対して垂直であるが、クリップ部61の軸線C1はスリーブ10(スリーブ本体12)の軸線C2に対して鋭角(例えば45°)をなしてもよい。クリップ部61の相対する開口端縁部には、鉄筋Rの嵌め込みを容易にするため、互いに拡幅方向に折り返された一対のガイドリップ部62が形成されている。クリップ部61にはアーム部63が連続して形成され、クリップ部61の側方に張り出している。アーム部63の断面は略十字状に形成されて、クリップ部61の剛性を強化する。アーム部63の先端は、スリーブ本体12と接続している。
スリーブ固定部60のスリーブ10の長手方向に沿った位置は特に限定されないが、スリーブ固定部60をクリップ部61を介して鉄筋Rの任意の位置に装着することができる位置とする。スリーブ10の管長が長くなる場合には、スリーブ10の管長方向に離間して取り付けた2個以上のスリーブ固定部60によってスリーブ10を保持することも可能である。追加的にまたは代わりに、スリーブ10の周方向に2個以上のスリーブ固定部60が配置されていてもよい。本発明のスリーブ固定部60は、水平に配筋される鉄筋Rにも、垂直に配筋される鉄筋R(例えば梁のスターラップ)にも装着することができ、また不要な場合にはスリーブ固定部60をスリーブ本体12から切断することもできる。
スリーブ固定部60を使用した貫通孔の施工方法は、以下の通りである。まず、梁または壁の型枠内に鉄筋を組み上げ、少なくとも一つの鉄筋Rにこのスリーブ10固定具60のクリップ部61を装着し、スリーブ10の位置決めを行う。次いで、この型枠内にコンクリートを打設して、スリーブ固定部60を備えたままスリーブ10をコンクリート内に埋設固定する。コンクリートの硬化を待って脱型すれば、スリーブ10内に貫通孔が形成される。このようにスリーブ固定部60を利用することにより、特に工具を使用する必要もなく、簡単かつ精度良くスリーブ10を位置決めすることができる。
また図17(a)〜図17(d)に示すように、熱膨張性の耐火樹脂材料を含有するスリーブ本体12を備えた スリーブ10に対し、スリーブ10の軸方向に沿って、非熱膨張性材料を含有するスリーブ70がさらに積み重ねられていてもよい。スリーブ70はスリーブ10の上、下、または上下両方のいずれに配置されてもよい。スリーブ70はスリーブ10と同様の構成をとり得るが、スリーブ10のスリーブ本体12が熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されているのに対し、スリーブ70の中空のスリーブ本体72はスリーブ本体12とは異種材料の硬質塩化ビニル、金属を初めとする非熱膨張性材料から形成されている。好ましくは、スリーブ70は硬質塩化ビニル等の非熱膨張性の耐火樹脂材料から形成される。
このタワー型の構成によれば、コンクリートの床の厚みが大きくなった場合でも、スリーブ10で足りない厚みの分をスリーブ70の積み重ねで調節することができる。硬質塩化ビニルから形成されたスリーブ70は熱膨張性材料から形成されたスリーブ10よりも安価であるため、一種類のスリーブ10を用いてスリーブ70で厚みを調節することによりスリーブ構造全体の厚みを調節し、コストを抑制しつつ、150mm,180mm, 210mmのように異なる厚みのコンクリートの打設にスリーブ10を適用することができる。
図17(a)はスリーブ10の下にスリーブ70を積み重ねたスリーブ構造の実施形態である。下半分が非熱膨張性の耐火樹脂材料を含有するスリーブ70であることにより、スリーブ本体12の下側の開口部の強度を高めることができる。スリーブ70は環状の固定具20を備えていてもよい。
図17(b)はスリーブ10の上にスリーブ70を積み重ねたスリーブ構造の実施形態である。上半分が非熱膨張性の耐火樹脂材料を含有するスリーブ70であることにより、スリーブ本体12の上側の開口部の強度を高めることができる。任意選択で、スリーブ10とスリーブ70との間にはスリーブ10およびスリーブ70を固定するための金属などから形成された1または複数の接続具73が架設されていてもよい。非熱膨張性の耐火樹脂材料を含有するスリーブ70の開口部には、開口部の形状を円形に保つ環状補強具79が装着されていてもよい。この実施形態では、環状補強具79はスリーブ10の内周面に嵌合する寸法を有する環状本体79aと、環状本体79aの内部に、環状本体79aの中心を通って径方向外側に延びる4つの部分からなる補強部材79bとを備えている。
なお、環状補強具79は図17(a)のように下半分にあるスリーブ70の開口部が設けられてもよく、この場合は、環状補強具79に取付部24が設けられていてもよい。環状補強具79はスリーブ10に設けてもよい。スリーブ10および/またはスリーブ70の上側の開口部または下側の開口部に環状補強具79を形成することで、開口部の強度を高め、搬送時や施工時の損傷または変形を防ぐことができる。開口部が円形の場合、環状補強具によって開口部が楕円形に変形することを防止できる。 さらに、図17(b)に示すように、スリーブ10の下端部には熱膨張性または非熱膨張性の耐火樹脂材料から形成された固定具20が外挿、装着される。固定具20は図2で説明したのと同様の1または複数(図では4つ)の取付部24を有し、各取付部24にはスリーブ10を型枠2、鉄筋R、またはコンクリート3等に固定するために針金等の金属線、ボルト、ビス、釘等の固定用部材を通すための孔26が設けられている。好ましくは、固定具20全体を硬質塩化ビニル等の硬質樹脂から形成すると、搬送時やコンクリート打設時のスリーブ10の損傷または変形を防ぐことができる。さらには、固定具20を火災による熱により燃焼させることもできる。
接続具73の代わりに、図17(c)に示すように、上側のスリーブ10は、下側のスリーブ70に嵌合するための縮径された嵌挿部74を備えていてもよい。スリーブ10の嵌挿部74の外径は、スリーブ70の本体の内径よりも小さいかまたはほぼ同一である。図17(c)において、スリーブ10とスリーブ70は上下が逆の配置でもよい。代わりに、図17(d)に示すように、下側のスリーブ70は、上側のスリーブ10に嵌合するための縮径された嵌挿部75を備えていてもよい。スリーブ70の嵌挿部75の外径は、スリーブ10の本体の内径よりも小さいかまたはほぼ同一である。図17(d)において、スリーブ10とスリーブ70は上下が逆の配置でもよい。
図18に示すように、スリーブ10は軸方向において上下対称であってもよい。つまり、スリーブ10は上端と下端の同じ位置に同じ数の取付部24を備えている。このような構成にすれば、作業者がスリーブ10の上下を誤って使用することが防止でき、スリーブ10を効率良く施工できる 。
図19に示すように、スリーブ10の本体12には目盛り76が設けられていてもよい。目盛は1mm間隔、1cm間隔等、任意の間隔で付けられていてもよい。目盛り76は本体12に設けられた刻み目、凹み、凸部、マーカー、シール等の任意の表示であってよい。目盛り76の横にはさらに数値が付されていてもよい。また、本体12の代わりに、スリーブ10の縦方向に延びるリブ12aに目盛り76が設けられていてもよい。目盛り76を設けることで、コンクリート3を流し込む高さを確認、調整することができる 。
また図19に示すように、コンクリート3の打設作業前、最中、または後に、スリーブ10の開口19にゴミ等が入るのを防ぐために、開口19を覆う紙製等のカバー材77を被せてもよい 。カバー材77を紙で製造すれば、燃やして破棄することができる。カバー材77は、本実施形態では、スリーブ10の開口部に適合する略円形の形をしているが、矩形、不定形等の任意の形状であってもよい。
スリーブ10の複数の取付部24の代わりに、図20に示すように、固定具として、スリーブ10の一端に設けられた矩形の取付部24としてもよい。このような構成とすることで、作業者には視覚的に取付部24および孔26の確認が容易となり、固定箇所の位置合わせが容易となる 。
図21に示すように、スリーブ10の開口19に、スリーブ本体12の内周面に沿って紙製の芯78をさらに設けてもよい。このように環状、具体的には実施形態では中空円筒形の紙製の芯78を設けることで、コンクリート3の打設時のスリーブ10(特にはスリーブ本体12)の変形を防止することができる。芯78はコンクリート3の打設後に回収してもよいし、そのまま設置しておいて燃焼時に燃やして処分してもよい。また、芯78の高さをスリーブ10の高さよりも大きくすれば、芯78が設置されているかどうかを作業者が確認することができる 。
図22に示すように、スリーブ10(スリーブ本体12)は、分解可能な複数の部品110a〜110dから構成されていてもよい。図22に示された実施形態では部品110a〜110dは同じ形状の4つの部品であり、各部材には接続部材のうちの突出部110eとスロット110fとが設けられ、使用時には、隣り合う部品110a〜dの突出部110eとスロット110fとが嵌合することにより組み立てられる。このような構成とすることで、スリーブ10の運搬または保管中には、スリーブ10は分解した状態で複数の部品10a〜10dにコンパクトに収納できるので場所をとらず、運搬や保管の効率が増大する 。
また図23(a),図23(b)に示すように、スリーブ10は、その軸方向に沿って伸縮可能な蛇腹部分82を備えた構成としてもよい。この例では、スリーブ10のスリーブ本体12が非伸縮性の端部80と、それに隣接する蛇腹部分82とを備え、図23(a)の状態からスリーブ10の端部80に図面左方向に力を加えることで、蛇腹部分82が拡張し、図23(b)の状態へスリーブ10を伸長させることができる。端部80を図面右方向に押し戻せばスリーブ10を収縮することができ、スリーブ10の全長を所望の床の厚みに応じて変更することができる。さらには、図23(c)に示すように蛇腹部分82の一部または全部の周囲に、蛇腹部分82の外形に適合するねじ部83を備えた、樹脂等から形成された成形体84を設ければ、成形体84の周囲にコンクリート3が打設された後でも、成形体84に周囲を覆われた蛇腹部分4は図23(d)に示される状態へとなお伸長可能であり、コンクリート3の打設後でもスリーブ10を伸縮させて、スリーブ10の全長を所望の床の厚みに応じて変更することができる 。
スリーブ10の少なくともスリーブ本体12の外周に、補強用の金属板等をさらに施してもよい。このようにすることで、コンクリート3の打設時のスリーブ10(特にはスリーブ本体12)の変形を防いだり、火災時にスリーブ10が熱膨張してもスリーブ10の強度を補強することができる。
スリーブ10と梁または壁の型枠との密着性を高めるために、スリーブ10の下端部を柔軟性のある材料より構成してもよい。または、スリーブ10と梁または壁の型枠との間に接着剤を用いてもよい 。また、同様の理由からスリーブ10の上端部を柔軟性のある材料より構成してもよい。
スリーブ10の外面を摩耗またはアルカリ溶液等の薬剤から保護するために、オレフィン樹脂または塩ビ樹脂等の樹脂、もしくは塗料等のコーティング材でコーティングしてもよい 。また、スリーブ10の内面を配管5等との接触による破損から保護するために、オレフィン樹脂または塩ビ樹脂等の樹脂、もしくは塗料等のコーティング材でコーティングしてもよい 。
図24に示すように、スリーブ10を補強するためにスリーブ10の外側に、オレフィン樹脂または塩ビ樹脂等の可燃性の樹脂からなる外筒85を設けてもよい 。また、スリーブ10を補強するためにスリーブ10の内側に、オレフィン樹脂または塩ビ樹脂等の樹脂からなる内筒86を設けてもよい 。外筒85および内筒86は一体成型によりスリーブ10に設けてもよいし、別途作成した後、スリーブ10に差し込んでもよい。なお、外筒85および内筒86の両方が設けられていてもよいし、いずれか一方のみ設けられていてもよい。外筒85および内筒86の長さ(高さ)は特に限定されず、スリーブ10の長さの一部であってもよいし、スリーブ10と同じ長さであってもよい。なお、 外筒85および内筒86を構成する素材は非膨張性かつ可燃性の樹脂であることが好ましい。より好ましくは、外筒85および内筒86を構成する素材は硬質塩化ビニルなどの硬質樹脂である。外筒85および内筒86の少なくとも一方を設けることで、スリーブ10の強度が増大し、スリーブ10の搬送時またはコンクリート3の打設時のスリーブ10の変形を防止または抑制することができる。また、外筒85および内筒86を火災等の熱により燃焼する樹脂で構成することにより、火災等の熱により外筒85および/または内筒86は燃焼するためスリーブ10の膨張を妨げない点でも有利である。
図25(a),図25(b)に示すように、熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されたスリーブ10の上下に、オレフィン樹脂または塩ビ樹脂等の樹脂からなるスリーブ87およびスリーブ88を取り付けてもよい。スリーブ87および88を構成する素材は硬質塩化ビニルなどの硬質樹脂が好ましい。スリーブ88の長さは床の厚さに応じて調節できる。スリーブ87および88の形状および寸法は同一であっても異なっていてもよいが、同一とするとスリーブ87および88の製造コストが低減されると共に、スリーブ10ならびにスリーブ87およびスリーブ88からなるスタック構造の製造が容易である。
図25(b)に示すように、スリーブ87の下端部がスリーブ10の上端部に設けられた凹部に嵌合し、スリーブ88の上端部がスリーブ10の下端部に設けられた凹部に嵌合することによりスリーブ87および88がスリーブ10に対して取り付けられているが、代わりに、スリーブ87および88がスリーブ10に対して接着剤などの他の取付手段により取り付けられてもよい。配管5等をスタック構造に通す前に、スリーブ87の上端にはスリーブ87の上端の開口部を覆うように紙製のカバー材77を被せてもよい。上側のスリーブ87を設けることにより、搬送時や施工時のスリーブ10の変形を防ぐことができる。また、紙製のカバー材77により、スリーブ87内へ埃または塵等の侵入を防ぐと共に、スリーブ87の上端の開口部の変形を防ぐことができる。配管5等をスタック構造に通すときには紙製のカバー材77を外し、配管5等のスタック構造への挿通後、キャップ30を上側のスリーブ87の開口部に装着することができる。
また、スリーブ87をスリーブ10とは視覚的に区別できるよう(例えば赤、黄、橙、青、緑などの色または蛍光等により)に構成すれば、防火区画処理を施してあることが確認できる。
また上記の実施形態では、区画貫通孔16の断面が円形である場合を想定し、スリーブ10ならびにキャップ30,35,40,50が断面円形である環状部材である実施形態を示したが、区画貫通孔16の形状に適合させればよく、スリーブ10およびキャップ30,35,40,50は、断面略楕円形の環状部材又は筒状としてもよいし、断面矩形の環状部材又は筒状となるよう形成してもよい。
スリーブ10およびキャップ30,35,40,50以外にも、耐火性を向上させるために、本発明の区画貫通構造100には、任意の公知の耐火性充填材、耐火性樹脂組成物、耐火性シート、または耐火性金属板等をさらに用いてもよい。
スリーブ10および/またはキャップ30,35,40,50を構成する材料には、防カビ性、防虫性、断熱性、耐湿性等をさらに付与するために、公知の防カビ剤、防虫剤、断熱剤、耐湿剤等を配合してもよい 。
また上記の実施形態では、区画貫通孔16を形成する壁体101の数が3つである場合を示したが、壁体101の数は、3に限らず、1つ或いは任意の複数とすることができる。
また本発明のスリーブ10は、床下地のみならず、側壁などの壁下地にも適用可能である。また、本発明のキャップ30,35,40,50も、側壁に形成された区画貫通孔の内面と、これに通される配管または配線の外面との間の隙間を被覆するために、側壁の区画貫通孔の一端に取り付けられ得る。