以下、スリーブに具現化した本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本実施形態に係るスリーブ1は、建築物の床または壁に区画貫通孔を形成するために使用される。上記の「建築物」は、例えば、一戸建住宅、集合住宅、高層住宅、高層ビル、商業施設、公共施設等の建材、客船、輸送船、連絡船等の船舶、車両等の構造物であるが、本発明のスリーブが適用可能な建造物は、上記の例に限定されない。
スリーブ1は、ボイドとも称されるものであって、図1、図2、及び図3に示すように、第1筒体10と、第2筒体20と、非膨張性材30(図2)と、固定枠40とを備えている。スリーブ1は、その外側周囲にコンクリート5(図2)が打設されるものであり、第1筒体10の内部10aと第2筒体20の内部20aとが連なることで中空部6が構成される。この中空部6は、床または壁の区画貫通孔7として機能するものであり、火災の際には、第2筒体20の熱膨張が、スリーブ1の軸方向9(図1,図5)に対して垂直な方向に生じることで、区画貫通孔7(中空部6)が閉塞される(図7)。
第1筒体10は、略円筒状の本体部11と、本体部11と段差部15を介して連続する略円筒状の拡径部16とを備えている(図1〜図3)。本実施形態では、本体部11、段差部15、及び拡径部16は同じ非熱膨張性の材料から連続的に形成されており、第1筒体10は上端12から下端18まで連続している。上記の非熱膨張性の材料は、例えば、鋼、銅、ステンレス等の金属や、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル等の非熱膨張性の耐火樹脂材料である。
図1、図2、及び図4に示すように、第2筒体20は、第1筒体10の拡径部16内に嵌合可能な熱膨張性の略円筒状の本体部21と、本体部21の周囲に装着された環状部材26および環状突部28とを備える。環状部材26は、本体部21の側面の一端(図では下端23)から突出し、環状突部28は、本体部21の側面の中間部から突出する。
本体部21は、熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されている。耐火樹脂材料は、樹脂成分に熱膨張性層状無機物を含む樹脂組成物である。本体部21を含む第2筒体20の耐火樹脂材料からなる部材は、樹脂組成物の各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、遊星式撹拌機等公知の装置を用いて混練し、公知の成形方法で成形することにより得ることができる。
樹脂成分としては、公知の樹脂成分を広く使用でき、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム物質、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1−)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の合成樹脂が挙げられる。
ゴム物質としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
これらの合成樹脂および/またはゴム物質は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
これらの合成樹脂および/またはゴム物質の中でも、耐寒性、耐熱性、耐油性等の特性を柔軟に調整できる性質を有しているものが好ましい。より柔軟特性で扱い易い樹脂組成物を得るためには、塩ビ系樹脂に可塑剤を加えたものが好適に用いられる。代わりに、樹脂自体の難燃性を上げて防火性能を向上させるという観点からは、エポキシ樹脂が好ましい。
熱膨張性層状無機物は加熱時に膨張するものである。かかる熱膨張性層状無機物に特に限定はなく、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛等を挙げることができる。熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等でさらに中和してもよい。熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP−EG」、ADT社製「ADT−351」「ADT−501」、GRAFTECH社製「GRAFGUARD」等が挙げられる。
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂成分100重量部に対し、前記熱膨張性層状無機物を10〜350重量部の範囲で含むことが好ましい。
熱膨張性耐火材を構成する樹脂組成物は、さらに無機充填剤を含んでもよい。無機充填剤は、膨張断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制するとともに、骨材的に働いて膨張断熱層の強度を向上させる。無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩等が挙げられる。また、無機充填剤としては、これらの他に、硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いることができるし、2種以上を併用することもできる。
無機充填剤のうち、水酸化アルミニウムの具体例としては、粒径18μmの「ハイジライトH−31」(昭和電工社製)、粒径25μmの「B325」(ALCOA社製)、炭酸カルシウムでは、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(備北粉化工業社製)、粒径8μmの「BF300」(備北粉化工業社製)等が挙げられる。
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂成分100重量部に対し、無機充填材を30〜400重量部の範囲で含むものが好ましい。
また、前記熱膨張性層状無機物および前記無機充填材の合計は、樹脂成分100重量部に対し、50〜600重量部の範囲が好ましい。
さらに、熱膨張性耐火材を構成する樹脂組成物は、膨張断熱層の強度を増加させ防火性能を向上させるために、前記の各成分に加えて、さらにリン化合物を含んでもよい。リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム;下記化学式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、防火性能の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム、および、下記化学式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、コスト等の点においてポリリン酸アンモニウムがより好ましい。
化学式(1)中、R1およびR3は、水素、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または、炭素数6〜16のアリール基を表す。R2は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、または、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。ポリリン酸アンモニウムとしては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取り扱い性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。市販品としては、例えば、クラリアント社製「AP422」、「AP462」、Budenheim Iberica社製「FR CROS 484」、「FR CROS 487」等が挙げられる。
化学式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、n−プロピルホスホン酸、n−ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。中でも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。前記のリン化合物は、単独で用いることもできるし、2種以上を併用することもできる。
かかる樹脂組成物は加熱によって膨張し耐火断熱層を形成する。この配合によれば、前記熱膨張性耐火材は火災等の加熱によって膨張し、必要な体積膨張率を得ることができ、膨張後は所定の断熱性能を有すると共に燃焼残渣を形成することもでき、安定した耐火性能を達成することができる。
さらに前記樹脂組成物は、それぞれ本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂、成型補助材等の添加剤、ポリブテン、石油樹脂等の粘着付与剤を含むことができる。
熱膨張性の耐火樹脂材料は市販品として入手可能であり、例えば、住友スリーエム社製のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーミキュライトとを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料社のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛とを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)、積水化学工業社製フィブロック等の熱膨張性耐火材等も挙げられる。
前記熱膨張性耐火材は、火災時などの高温にさらされた際にその膨張層により断熱し、かつその膨張層の強度があるものであれば特に限定されない。50kW/m2の加熱条件下で30分間加熱した後の体積膨張率が3〜50倍のものであれば好ましい。前記体積膨張率が3倍以上であると、膨張体積が前記樹脂成分の焼失部分を十分に埋めることができ、また50倍以下であると、膨張層の強度が維持され、火炎の貫通を防止する効果が保たれる。
環状部材26及び環状突部28は、本体部21と同じ熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されてもよいし、鋼等の金属、硬質塩化ビニル等の非熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されてもよい。環状部材26及び環状突部28は、好ましくは金属より形成される。環状部材26は、環状部材26から第2筒体20の軸に対し垂直外方に延びる1つ又は複数の取付部27(図では4つ)を備えている。取付部27はそれぞれスリーブ1の軸2に関して約90°離間した4つの取付部で示され、各取付部27は床下地101に対して第2筒体20を固定するための孔27aを有する。通常有底矩形の型枠102は、コンクリート5(図6(B)参照)を収容するためのものであり、型枠102内にはコンクリート5の補強用の鉄筋Rが収容される。コンクリート5及び鉄筋Rは床下地101を構成し、床下地101は床を構成する。
孔27aには第2筒体20を型枠102、鉄筋R、またはコンクリート5等に固定するために針金等の金属線、ボルト、ビス、釘等の固定用部材を通すことができ、例えば固定用部材である金属線の両端を鉄筋Rに結び付けたり、ボルト、ビス、釘等を孔27aに通してその周囲にコンクリート5を流し込むことにより、第2筒体20が鉄筋Rに対して固定される。
図2や図5に示すように、第2筒体20を第1筒体10に嵌合した状態において、第1筒体10と第2筒体20とは、これら筒体10,20の本体部11,21の軸方向(スリーブ1の軸9の方向)に沿って整列される。また、第2筒体20を第1筒体10に嵌合させた状態では、第1筒体10の拡径部16の内周面17と第2筒体20の本体部21の外周面24とが接し、本体部21の外周面の一部が拡径部16の外側に露出している。
第2筒体20の本体部21を熱膨張性の耐火樹脂材料から形成することにより、第2筒体20とコンクリートの密着性が向上し(火災の発生時には第2筒体20と燃焼残渣のコンクリートとの密着性が向上し)、断熱層が崩壊しにくくなる。また、熱膨張性の耐火樹脂材料の出代が多いとスリーブ1が外部衝撃に対して変形しやすくなるが、第1筒体10を金属等の非熱膨張性材料で形成することにより、外部衝撃に対する強度を増大させることができる。また膨張材使用量を必要最小限に抑えることができ、適正な価格で貫通スリーブを提供できる。このように、非熱膨張性の第1筒体10と、熱膨張性の本体部21を有する第2筒体20とを組み合わせてスリーブ1を構成することで、区画貫通構造に耐火性を付与し、さらには外部衝撃に対する強度とコンクリートに対する密着性とを兼ね備え、適正な価格で提供することができる。
好ましくは、スリーブ1は、第2筒体20を第1筒体10に嵌合した状態で、
0<(第2筒体20の外周面24の露出面積/第1筒体10の外周面13の露出面積)×100≦100 ・・・ 式(1)
を満たす。「露出」とは第1筒体10の軸に対して垂直な側面から作業者が観察したときに見える状態にあることを指し、打設した際にコンクリートと接する部分を意味する。図5において、第1筒体10の露出部はXの長さに及ぶ外周面13の部分、第2筒体20の露出部はYの長さに及ぶ外周面24の部分となる。
式(1)を満たすことで、第1筒体10の外周面13の露出面積が第2筒体20の外周面24の露出面積よりも大きいため、外部衝撃(物理的、化学的)に対する耐性が強くなるという効果を奏する。
また好ましくは、スリーブ1は、
10≦(第2筒体の本体部の体積V2)/(第1筒体の体積と第2のスリーブの体積の和V1)×100(%) ≦80 ・・・ 式(2)
を満たす。
(第2筒体の本体部の体積)/(第1筒体の体積と第2のスリーブの体積の和)×100(%)が10(%)以上であると耐火性能が十分となる。(第2筒体の本体部の体積)/(第1筒体の体積と第2のスリーブの体積の和)×100(%)が80(%)以下であると、スリーブの価格が抑えられる。また、火災時の過剰な膨張による、蓋や環状部材の押し上げといった耐火構造の破壊が防止される。
また、第1筒体10の本体部11の内径A(図3(B))は、第2筒体20の本体部21の内径B(図4(B))と等しい。この構成により、第2筒体20の第1筒体10内への移動(図5にて上方向への移動)は段差部15の内周面15aにて規制される。また、第2筒体20を第1筒体10に嵌合した状態で第2筒体20が加熱により膨張したとき、第2筒体20の本体部21の上端22が膨張して段差部15の内周面15aに接することにより第2筒体20の軸方向(上方向)への膨張が規制される。その結果、第2筒体20の露出部における第2筒体20の軸方向に対して垂直な方向、特に軸方向に対して垂直かつ第2筒体20の内方への膨張が促進され、区画貫通孔7をより効果的に閉塞することができる。
本実施形態では、第2筒体20を第1筒体10に嵌合すると、第1筒体10の下端が第2筒体20の環状突部28に接した位置で第2筒体20の第1筒体10への嵌入は停止する。第2筒体20が第2筒体20を第1筒体10に嵌合した状態では、第1筒体10の段差部15の内周面15a(図5)と第2筒体20の本体部21の上端22との間の隙間Lが
0<L≦(第1筒体10の長さ/2) ・・・ 式(3)
である。Lが大きいと、第2筒体20が床上の方向に膨張し、上方への膨張が阻害されるが、上記式(3)を満たすと、第2筒体20の膨張による区画貫通孔7の閉塞効果がより良好に発揮される。
また、第2筒体20の本体部21の外径C(図4(B))は第1筒体10の本体部11の内径A(図3(B))よりも大きい。この構成により、第2筒体20の上端22が第1筒体10の段差部15に当接するため、第2筒体20の第1筒体10内への移動(図5にて上方向への移動)は段差部15にてより確実に規制される。また、第2筒体20を第1筒体10に嵌合した状態で第2筒体20が加熱により膨張したとき、第2筒体20の上端22が膨張して段差部15に当接することにより第2筒体20の上方向への膨張が規制される。その結果、第2筒体20の露出部における第2筒体20の軸方向に対して垂直な方向、特に軸方向に対して垂直かつ第2筒体20の内方への膨張が促進され、区画貫通孔7をより効果的に閉塞することができる。
好ましくは、第2筒体20を第1筒体10に嵌合した状態で、第1筒体10の拡径部16の内周面19と第2筒体20の本体部21の外周面24が接触する。この構成により、火災時の第1筒体10と第2筒体20の密着性が高められ、第1筒体10と第2筒体20の間の火の侵入が抑制され、耐火性が向上する。
また、第1筒体10の拡径部16の内周面19もしくは第2筒体20の本体部21の外周面24の少なくとも一方に環状突部28を形成しておくとより好ましい。その結果、第1筒体10の拡径部16の内周面19と第2筒体20の本体部21の外周面24の接触抵抗が上がり、筒体10,20の一方が他方に対して脱落することが防止される。
そして第2筒体20が第1筒体10に嵌合した状態では、第1筒体10の内部10aと第2筒体20の内部20aとが連なることで中空部6(図2,図5)が構成され、この中空部6は床または壁の区画貫通孔7(図2)として機能する。中空部6(区画貫通孔7)の大きさは配管又は配線8の外径よりも大きく、配管又は配線8を挿通できる寸法である。配管には、水道管、冷媒管、熱媒管、ガス管、吸排気管等の各種配管が含まれる。配線には、電力用ケーブル、通信用ケーブル等の各種ケーブルが含まれる。
図2に示すように、非膨張性材30や固定枠40は、第1筒体10の内周面14と配管又は配線8との間の隙間を塞ぐように第1筒体10の内部10aに配置される。
非膨張性材30は、不燃性又は難燃性の非膨張性物質から形成される。不燃性又は難燃性の非膨張性物質は、例えば、グラスウール、ロックウール、などの無機材料や不燃性ウレタン、PTFE系、ポリ塩化ビニル系、フェノール樹脂系化合物である。
固定枠40は、第1筒体10の内部10aの上端、すなわち、第2筒体20と反対側における第1筒体10の内部10aの端に、装着される。固定枠40は、中空状を呈しており、その中央の孔41に配管又は配線8が挿通される。固定枠40は、金属から形成されてもよいし、或いは、非耐火性又は耐火性の樹脂組成物から形成されてもよい。好ましくは、固定枠40は、不燃性又は難燃性の非膨張性物質から形成される。不燃性又は難燃性の非膨張性物質は、例えば、鋼、銅、ステンレス等の金属や、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル、ブチルゴム等の非熱膨張性の耐火樹脂材料や、臭素化合物、リン化合物、塩素化合物、アンチモン化合物、金属水酸化物、窒素化合物、ホウ素化合物等の難燃剤を含む非耐火性の樹脂組成物である。固定枠40には、美観を与えるように、コーティング等の仕上層、着色がさらに施されてもよい。
次に、図6を参照しながら、スリーブ1を用いた区画貫通構造の施工方法について説明する。
まず図6(A)に示すように、スリーブ1を床下地101に固定する。床下地101へのスリーブ1の固定は、例えばボルト29を第2筒体20の下端23の取付部27の孔27aを通って床下地101の中までねじ込むことによりなされる。型枠102の底部のスリーブ1に対応する位置には、配管又は配線8(図6(C)参照)を挿通するための穴を空けておく。
次に、図6(B)に示すように、コンクリート5を床下地101へ流し込む。図6(B)の例では、コンクリート5の厚みすなわち高さHは、第1筒体10の上端12から第2筒体20の下端23までの距離に等しい。このようにして、スリーブ1の内側の中空部6を残し、スリーブ1の外側周囲にコンクリート5が打設され、スリーブ1の中空部6は区画貫通孔7として作用する。
次に、図6(C)に示すように、コンクリート5を貫通するように、区画貫通孔7を通って1または複数の配管又は配線8を施すとともに、非膨張性材30を中空部6に配置する(具体的には非膨張性材30を第1筒体10の内部10aに配置する)。なお、スリーブ1とコンクリート5との間の隙間を埋めること等を目的として、スリーブ1の外側周囲に充填材を充填し、この後、スリーブ1内(中空部6)に配管又は配線8を通すようにしてもよい。
次に、図6(D)に示すように、第1筒体10の内部10aの上端に、配管又は配線8の周囲を覆い、かつ区画貫通孔7を塞ぐように、固定枠40を装着する。固定枠40は区画貫通孔7のより多くの隙間を塞いでいることが好ましい。以上により、区画貫通構造50が完成する
区画貫通構造50の階下において図6(D)の矢印の方向から火災が発生した場合には、図7に示すように、第2筒体20の本体部21が熱膨張する。この際には、第1筒体10の内部10aに非膨張性材30が配置されていることや、第2筒体20の上端22が膨張して第1筒体10の段差部15に当接することで、第2筒体20の上方向への膨張が規制される。このため、第2筒体20の軸方向に対して垂直な方向、特に軸方向に対して垂直かつ第2筒体20の内方への第2筒体20の膨張が促進される。したがって、スリーブ1を構成する熱膨張性部分(第2筒体20の本体部21)の耐火樹脂材料を多くすることを要せず、熱膨張性部分(第2筒体20の本体部21)の熱膨張で、区画貫通孔7を確実に閉塞できる。よって、スリーブ1の材料コストを安価に抑えつつ、区画貫通孔7を確実に閉塞できる。
また非膨張部30や固定枠40によってスリーブ1と配管又は配線8との間の隙間が埋められることで、火災の非発生時では、ユーザの心理面に不安を与えることがなく、区画貫通孔7(中空部6)を通じた音漏れや水漏れや煙漏れを防止できる。
また、非膨張部30や固定枠40が第1筒体10の内部10aのみに位置することで、非膨張部30や固定枠40は、第2筒体20と接しないように配置されたものとなる。これにより火災の発生時には、非膨張部30や固定枠40が、第2筒体20の膨張の妨げにならないので、第2筒体20の膨張によって、区画貫通孔7を確実に閉塞できる。また、非膨張部30が第1筒体10の内部10aに配置されることで、火災の発生時に、第2筒体20の上端22が膨張して非膨張部30に当接して、第1筒体10内への第2筒体20の上方膨張、特に段差部15内側への第2筒体20の上方膨張が規制される。その結果、第2筒体20の軸方向に対して垂直な方向、特に軸方向に対して垂直かつ第2筒体20の内方への第2筒体20の膨張が確実に促進され、区画貫通孔7をより効果的に閉塞できる。なお、区画貫通孔7の閉塞をより確実なものとするために、第1筒体10の内部10aの20%〜100%の範囲に非膨張部30を配置することが好ましい。
さらに固定枠40が、スリーブ1と配管又は配線8との間の隙間の間を閉塞しているため、区画貫通構造50を上から見たときに、区画貫通孔7の中が見えず、視覚的な美観も保たれる。
なお本発明は上記実施形態に限定されず、以下のように変更可能である。
例えば、環状突部28は省略されてもよい。この場合も、第1筒体10の本体部11の内径Aが第2筒体20の本体部21の内径Bと等しいかそれより小さければ、第2筒体20を第1筒体10に嵌入した際に、第2筒体20の上端22が第1筒体10の段差部15の内周面15aに当接するので、第1筒体10内への第2筒体20の移動を規制できる。
また第1筒体10の本体部11、段差部15、及び拡径部16のうちの少なくとも一つは、熱膨張性の材料から形成されてもよい。特に、第1筒体10の本体部11は、第2筒体20の本体部21よりも加熱時の膨張倍率が低い材料から形成されてもよい。つまり、以下の式(4)に示すように、第1筒体の本体部11と第2筒体20の本体部21の膨張倍率の比が0以上1未満とされてもよい。
0≦(第1筒体の膨張倍率/第2筒体の膨張倍率)<1 ・・・ 式(4)
また、本発明の区画貫通構造では、スリーブ1および固定枠40以外にも、耐火性を向上させるために、任意の公知の耐火性充填材、耐火性樹脂組成物、耐火性シート、または耐火性金属板等がさらに用いられてもよい。
また上記実施形態では、図6(B)でコンクリート5を打設する時にスリーブ1の高さと同程度までコンクリート5を流し込んでいるが、スリーブ1の上端部が視認できるように、スリーブ1の高さが床厚よりも高くなる第1筒体10を使用しても良く、或いは、コンクリート5の高さがスリーブ1の高さよりも低くされてもよい。
また、スリーブ1の高さ調整等を目的として、第1筒体10の内部10a又は/及び第2筒体20の内部20aにさらに別の筒体を嵌合させることで、スリーブ1を、3つ以上の筒体から構成してもよい。
また上記実施形態では、区画貫通孔7の断面が円形である場合を想定し、スリーブ1ならびに固定枠40が断面略円形である環状突部とされる例を示しているが、スリーブ1の形状は区画貫通孔7の形状に適合させればよく、区画貫通孔7が断面略楕円形の場合、スリーブ1および固定枠40は、断面略楕円形の環状突部としてもよいし、区画貫通孔7が断面略矩形の場合、スリーブ1および固定枠40は断面矩形の環状突部となるよう形成してもよい。
また、耐火性能をはじめ、遮音性、漏水等実用耐久性に問題がないことが確認できれば、図2に示す非膨張部30及び固定枠40のいずれか一方を省略して、非膨張部30及び固定枠40の他方のみを、第1筒体10の内周面14と配管又は配線8との間の隙間を塞ぐように第1筒体10の内部10aに配置してもよい。また或いは、非膨張部30及び/又は固定枠40を、第2筒体20の内周面25と配管又は配線8との間の隙間を塞ぐように第2筒体20の内部20aに配置してもよい。また、固定枠40以外の蓋部材、カバー部材、またはキャップを用いてもよい 。
また本発明のスリーブは、図8に示すように変更され得る。図8に示すスリーブ2は、図2に示す非膨張性材30や固定枠40の代わりに、非膨張性を有する筒状の固定枠42を使用するものである(固定枠42は、図2に示す固定枠40よりも、高さが大きなものである)。固定枠42は、図2に示す固定枠40と同様、不燃性或いは難燃性の非膨張性物質から形成されており、第1筒体10の内面と配管又は配線8との間の隙間を塞ぐように、第1筒体10の内部10aに配置されている。図8に示すスリーブ2では、固定枠42が第1筒体10の内部10aに配置されていることや、第2筒体20の上端22が膨張して第1筒体10の段差部15に当接することで、火災の発生時には、第2筒体20の上方向への膨張が規制されて、第2筒体20の軸方向に対して垂直な方向への第2筒体20の膨張が促進される。このため、スリーブ1を構成する熱膨張性部分(第2筒体20の本体部21)の耐火樹脂材料を多くすることを要せず、スリーブ1の材料コストを安価に抑えることができる。また固定枠42がスリーブ2と配管又は配線8との間の隙間を塞ぐことで、火災の非発生時では、ユーザの心理面に不安を与えることがなく、区画貫通孔7を通じた音漏れや水漏れや煙漏れを防止できる。
また本発明のスリーブは、図9に示すようにも変更され得る。図9に示すスリーブ3は、図2に示す非膨張部30や固定枠40の代わりに、固定枠43を使用するものである。固定枠43は、図2に示す固定枠40と同様、不燃性或いは難燃性の非膨張性物質から形成されるものであり、略円筒状の本体部44と、本体部よりも外径が小さい略円筒状の脚部45とを有し、本体部44や脚部45の中央に孔46が貫通形成されている。固定枠43は、孔46に配管又は配線8が通され、且つ、脚部45が中空部6に挿入されるように、スリーブ3の上端に装着されて、脚部45がスリーブ1と配管又は配線8との間の隙間を塞ぐ。図9のスリーブ3では、固定枠43の脚部45が中空部6(区画貫通孔7)に配置されていることや、第2筒体20の上端22が膨張して第1筒体10の段差部15に当接することで、火災の発生時には、第2筒体20の上方向への膨張が規制されて、第2筒体20の軸方向に対して垂直な方向への第2筒体20の膨張が促進される。また火災の非発生時では、脚部45がスリーブ2と配管又は配線8との間の隙間を塞いでいることで、ユーザの心理面に不安を与えることがなく、区画貫通孔7を通じた音漏れや水漏れや煙漏れを防止できる。
なお図8や図9に示すスリーブ2,3では、第2筒体20の膨張で区画貫通孔7を確実に閉塞すべく、固定枠42や、固定枠43の脚部45は、第1筒体10の内部10aの20%〜100%の範囲に配置されることが好ましい。また上述のように固定枠42や、固定枠43の脚部45を第1筒体10の内部10aに配置すれば、固定枠42や固定枠43は、第2筒体20と接しないものとなるため、第2筒体20の膨張の妨げにならない。したがって、第2筒体20の熱膨張で、区画貫通孔7を確実に閉塞できる。
また本発明のスリーブは、図10に示すようにも変更され得る。図10に示すスリーブ4は、図2に示す固定枠40の代わりに、環状の固定枠47を使用するものである。固定枠47、図2に示す固定枠40と同様、不燃性或いは難燃性の非膨張性物質から形成されるものであり、配管又は配線8と、第1筒体10の内周面14との間の隙間を覆うように、第2筒体20の反対側にある第1筒体10の端(すなわち第1筒体10の上端)に接して配置されている。また図10に示すスリーブ4では、図2に示すスリーブ1と同様、非膨張性材30が中空部6(具体的には第1筒体の内部10a)に充填されている。
上記のスリーブ4では、非膨張性材30が中空部6に充填されていることや、第2筒体20の上端22が膨張して段差部15に接することで、火災の発生時に、第2筒体20の上方向への膨張が規制されて、第2筒体20の軸方向に対して垂直な方向への第2筒体20の膨張が促進される。また火災の非発生時では、固定枠47や非膨張性材30が第1筒体10の内面と配管又は配線8との間の隙間を覆うことで、ユーザの心理面に不安を与えることがなく、区画貫通孔7を通じた音漏れや水漏れや煙漏れを防止できる。なお、固定枠47は、第2筒体20の内面と配管又は配線8との間の隙間を覆うように、第1筒体10の反対側にある第2筒体20の端(すなわち第2筒体20の下端)に接して配置されるものであってもよい。また、第1筒体10の端に接する固定枠47と、第2筒体20の端に接する固定枠47とを、それぞれ設けてもよい。
また図2、図8、図9、図10に示すスリーブ1,2,3,4では、必ずしも、第1筒体10の本体部11の内径Aを第2筒体20の本体部21の内径Bに一致させる必要はなく、第1筒体10の本体部11の内径Aが、第2筒体20の本体部21の内径Bの90%以上110%以下の範囲内にあればよい(図11は、図2に示すスリーブ1で、第1筒体10の本体部11の内径Aを、第2筒体20の本体部21の内径Bの90%にする変更を行った例を示している)。以上のように第1筒体10の内径Aを、第2筒体20の内径Bの90%以上110%以下とすれば、内径Aと内径Bとが一致していなくても、内径Aと内径Bとの差が小さいので、第1筒体10によって、上方向への第2筒体20の膨張を規制して、第2筒体20の軸方向に対して垂直な方向への第2筒体20の膨張を促進することができる。
また上記実施形態では、スリーブ1を床上から施工する例を説明したが、本発明のスリーブ1,2,3,4は床下から施工することも可能である。また図2、図8〜図11に示したスリーブ1,2,3,4では、第2筒体20の上側に第1筒体10が配置されているが、これとは逆に、第2筒体20の下側に第1筒体10を配置してもよい。
また本発明のスリーブ1,2,3,4は、床(相対的にコンクリート打設の床材となる階下の床のみならず、天井床も含む)のみならず、側壁などの壁体にも適用可能である。