JP6729719B2 - ニッケル粉末の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、積層セラミック部品の電極材として用いられる安価で高性能なニッケル粉末の製造方法、特に湿式法により得られる安価で高性能なニッケル粉末の製造方法に関する。本出願は、日本国において2016年12月5日に出願された日本特許出願番号特願2016−235664、2017年1月18日に出願された日本特許出願番号特願2017−006362及び2017年3月23日に出願された日本特許出願番号特願2017−056799を基礎として優先権を主張するものであり、これらの出願を参照することにより、本出願に援用される。
ニッケル粉末は、電子回路のコンデンサの材料として、特に、積層セラミックコンデンサ(MLCC:multilayer ceramic capacitor)や多層セラミック基板などの積層セラミック部品の内部電極などを構成する厚膜導電体の材料として利用されている。
近年、積層セラミックコンデンサの大容量化が進み、積層セラミックコンデンサの内部電極の形成に用いられる内部電極ペーストの使用量も大幅に増加している。このため、厚膜導電体を構成する内部電極ペースト用の金属粉末として、高価な貴金属の使用に代替して、主としてニッケルなどの安価な卑金属が使用されている。
積層セラミックコンデンサの小型化および大容量化に伴い、内部電極や誘電体はともに薄層化が進められている。これに伴って、内部電極ペーストに使用されるニッケル粉末の粒径も微細化が進行し、平均粒径0.5μm以下のニッケル粉末が必要とされ、特に平均粒径0.3μm以下のニッケル粉末の使用が主流となっている。
ニッケル粉末の製造方法には、大別すると、気相法と湿式法がある。例えば特許文献1や特許文献2に気相法が、例えば特許文献3から5に湿式法が提案されている。
特開平4−365806号公報 特表2002−530521号公報 特開2004−332055号公報 特開2008−127680号公報 特開昭49−70862号公報
しかし、気相法には得られるニッケル粉末の粒径分布が広くなるという問題がある。また、ニッケル粉末の分級処理には、高価な分級装置が必要であり、また製品実収が大幅に低下するため製品のコストアップが避けられないという問題がある。また、分級処理は今後の内部電極の一層の薄層化に対応できないという問題がある。
一方で、湿式法は、気相法と比較して、得られるニッケル粉末の粒径分布が狭いという利点がある。しかし、特許文献3の湿式法には平均粒径が0.1μm未満のニッケル粉末を得るために適した還元反応の条件範囲が狭いという問題がある。また、特許文献4の湿式法では、ニッケルなどの金属化合物とヒドラジンなどの還元剤とを液相中で反応させる際に添加剤であるメルカプトカルボン酸等を存在させることで、微細な金属コロイド粒子を得ている。しかしながら、メルカプトカルボン酸等の主目的は金属粒子の保護剤としての分散安定性であることから、ニッケル粉末の表面にメルカプトカルボン酸等を多量に結合もしくは吸着させる必要があり、メルカプトカルボン酸等に起因する炭素や硫黄が不純物としてニッケル粉末に多く含量されるという問題があった。また、同様に、特許文献5の湿式法でも、硫黄化合物の添加量が多いために還元晶析時に液中にある硫黄成分を巻き込んで得られたニッケル粉末に硫黄が不純物として多く含有されるという問題があった。
そこで本発明では、湿式法において、微細なニッケル粉末が得られ、かつ還元反応であるニッケル粉末の晶析に用いられる薬剤(添加剤)による塩素、ナトリウム、硫黄などの不純物含有も低減されるニッケル粉末の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、湿式法によるニッケル粉末の製造方法における晶析工程、すなわち水溶性ニッケル塩、還元剤としてのヒドラジン、pH調整剤としての水酸化アルカリ、必要に応じてニッケルよりも貴な金属の金属塩、と水を含む反応液中で還元反応を行う工程において、あらかじめ反応液に、つまり還元反応開始前に特定の硫黄含有化合物を極微量かつ適量配合させることで、微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成したものである。
本発明の一態様は、あらかじめ硫黄含有化合物が配合された、少なくとも水溶性ニッケル塩、還元剤、および水酸化アルカリ、必要に応じてニッケルよりも貴な金属の金属塩、と水とを混合した反応液中において、還元反応によりニッケル晶析粉を得る晶析工程を有するニッケル粉末の製造方法であって、前記還元剤はヒドラジン(N)であり、前記硫黄含有化合物は、少なくとも分子内に−SHで表される含硫黄官能基構造、−S−S−で表される含硫黄官能基構造、−O−S(=S)(=O)−O−で表される含硫黄官能基構造のいずれかを有する化合物であり、前記反応液中の、前記硫黄含有化合物とニッケルの物質量の割合((前記硫黄含有化合物のモル数/ニッケルのモル数)×10)をA[モルppm]、前記硫黄含有化合物の前記含硫黄官能基の有効倍率をB[倍](−SH:1、−S−S−:2、−O−S(=S)(=O)−O−:1)、前記ニッケルよりも貴な金属の金属塩とニッケルの物質量の割合((前記ニッケルよりも貴な金属の金属塩のモル数/ニッケルのモル数)×10)をC[モルppm]とした時、数式1を満たすことを特徴とする。
0.1≦A×B≦0.75C+30(0≦C≦100)・・・(数式1)
このようにすれば、硫黄含有化合物が過剰に存在することによる初期核の粒成長速度の著しい低下及び晶析反応時間の大幅な延長を効果的に防ぎながら、微細なニッケル粉末を得ることができる。さらに、ニッケル粉末に含まれる塩素、ナトリウム、硫黄などの不純物含有も低減されるため、積層セラミックコンデンサの製造時に悪影響を与えることのない内部電極に好適な高性能なニッケル粉末を安価に製造することができる。
また、本発明の一態様では、前記ニッケルよりも貴な金属の金属塩は、パラジウム塩であることを特徴としてもよい。
このようにすれば、得られるニッケル粉末の粒径をより微細に制御することができる。
また、本発明の一態様では、前記硫黄含有化合物が、チオグリコール酸(HOOCCHSH)、チオリンゴ酸(HOOCCH(SH)CHCOOH)、硫化水素ナトリウム(NaSH)から選ばれる1種類以上であることを特徴としてもよい。
これらの化合物が−SHで表される含硫黄官能基構造を有する化合物として好適である。
また、本発明の一態様では、前記硫黄含有化合物が、ジチオグリコール酸(HOOCCHSSCHCOOH)、ジメチルジスルフィド(CHSSCH)から選ばれる1種類以上であることを特徴としてもよい。
これらの化合物が−S−S−で表される含硫黄官能基構造を有する化合物として好適である。
また、本発明の一態様では、前記硫黄含有化合物が、チオ硫酸(H)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、チオ硫酸カリウム(K)から選ばれる1種類以上であることを特徴としてもよい。
これらの化合物が−O−S(=S)(=O)−O−で表される含硫黄官能基構造を有する化合物として好適である。
また、本発明の一態様では、ニッケル粉末の平均粒径が0.02μm〜0.2μmであることを特徴としてもよい。
このようにすれば、近年の積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応することができる。
また、本発明の一態様では、前記水溶性ニッケル塩は、塩化ニッケル(NiCl)、硫酸ニッケル(NiSO)、硝酸ニッケル(Ni(NO)から選ばれる1種以上であることを特徴としてもよい。
このようにすれば、微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得ることができる。
また、本発明の一態様では、前記水酸化アルカリが、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)から選ばれる1種以上であることを特徴としてもよい。
入手の容易さ等からこれらの水酸化アルカリが好ましい。
また、本発明の一態様では、前記反応液中にアミン化合物を含み、該アミン化合物は、分子内に第1級アミノ基(−NH)または第2級アミノ基(−NH−)から選ばれる官能基のいずれかを合わせて2個以上含有し、前記反応液中の前記アミン化合物とニッケルの物質量の割合(前記アミン化合物のモル数/ニッケルのモル数×100)が、0.01モル%〜5モル%の範囲であることを特徴としてもよい。
このようにすれば、ヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としてのアミン化合物の効果を奏することができるため、硫黄含有化合物やニッケルよりも貴な金属の金属塩の作用との相乗効果により、微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を安定的に晶析させることができる。
また、本発明の一態様では、前記アミン化合物がアルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかであることを特徴としてもよい。
このようにすれば、晶析工程における反応液にアミン化合物を溶解させることができる。
また、本発明の一態様では、前記アルキレンアミンが、エチレンジアミン(HNCNH)、ジエチレントリアミン(HNCNHCNH)、トリエチレンテトラミン(HN(CNH)NH)、テトラエチレンペンタミン(HN(CNH)NH)、ペンタエチレンヘキサミン(HN(CNH)NH)から選ばれる1種以上、アルキレンアミン誘導体が、トリス(2−アミノエチル)アミン(N(CNH)、(2−アミノエチル)アミノエタノール(HNCNHCOH)、エチレンジアミン−N,N’−二酢酸(HOOCCHNHCNHCHCOOH)から選ばれる1種以上であることを特徴としてもよい。
これらのアルキレンアミン、アルキレンアミン誘導体は水溶性であり好ましい。
また、本発明の一態様では、前記晶析工程において、前記反応液の反応開始温度が、40℃〜90℃であることを特徴としてもよい。
このようにすれば、ヒドラジン消費量を抑制しながら、高い生産性を維持しつつ、高性能のニッケル晶析粉を安価に製造することができる。
本発明に係るニッケル粉末の製造方法は、還元剤としてヒドラジンを用いた湿式法によるニッケル粉末の製造方法でありながら、微細なニッケル粉末を得ることができる。さらにニッケル粉末の晶析に用いられる薬剤によりニッケル粉末の塩素、ナトリウム、硫黄などの不純物含有も低減されるため、積層セラミックコンデンサの製造時に悪影響を与えることのない内部電極に好適な高性能なニッケル粉末を安価に製造することができる。
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における製造工程の一例を示す模式図である。 本発明における硫黄含有化合物とニッケルの物質量の割合(硫黄含有化合物の配合割合)(A)と含硫黄官能基の有効倍率(B)の積(A×B)[モルppm×倍]と、ニッケルよりも貴な金属の金属塩とニッケルの物質量の割合(ニッケルよりも貴な金属の金属塩の配合割合)(C)[モルppm]においての適正領域(数式1:0.1≦A×B≦0.75C+30(0≦C≦100))、及び、各実施例と各比較例の上記適性領域への該当・不該当を示す図である。 本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における晶析工程の、実施形態に係る晶析手順の一例を示す模式図である。 本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における晶析工程の、実施形態に係る晶析手順の別の一例を示す模式図である。
以下、本発明に係るニッケル粉末の製造方法について以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
1.ニッケル粉末の製造方法
1−1.晶析工程
1−1−1.晶析工程で用いる薬剤
1−1−2.晶析手順
1−1−3.還元反応
1−1−4.反応開始温度
1−1−5.ニッケル晶析粉の回収
1−2.解砕工程(後処理工程)
2.ニッケル粉末
<1.ニッケル粉末の製造方法>
まず、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法について説明する。図1には、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における製造工程の一例を示す模式図を示す。本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法は、少なくとも水溶性ニッケル塩、還元剤としてのヒドラジン、pH調整剤としての水酸化アルカリ、必要に応じてニッケルよりも貴な金属の金属塩、と水を含む反応液中において、ヒドラジンによる還元反応でニッケル晶析粉を得る晶析工程を主体とし、あらかじめ反応液中に言い換えれば還元反応開始前に、特定の硫黄含有化合物を極微量かつ適量配合し、微細なニッケル粉末を晶析させている。また、必要に応じて行う解砕工程を後処理工程として付加したものである。
ここで、上述したようにニッケル粉末は積層セラミックコンデンサの厚膜導電体を構成する内部電極ペースト用の金属粉末として使用され、高価な貴金属の使用に代替する安価な卑金属として使用されている。
積層セラミックコンデンサを製造する工程では、ニッケル粉末、エチルセルロースなどのバインダ樹脂、ターピネオールなどの有機溶剤を混練した内部電極ペーストを、誘電体グリーンシート上にスクリーン印刷する。内部電極ペーストが印刷・乾燥された誘電体グリーンシートは、内部電極ペースト印刷層と誘電体グリーンシートとが交互に重なるように積層され圧着されて積層体が得られる。
この積層体を、所定の大きさにカットし、次に、バインダ樹脂を加熱処理により除去し(脱バインダ処理)、さらに、この積層体を1300℃程度の高温で焼成することにより、セラミック成形体が得られる。
そして、得られたセラミック成形体に外部電極が取り付けられ、積層セラミックコンデンサが得られる。内部電極となる内部電極ペースト中の金属粉末としてニッケルなどの卑金属が使用されていることから、積層体の脱バインダ処理は、これらの卑金属が酸化しないように、不活性雰囲気などの酸素濃度がきわめて低い雰囲気下にて行われる。
積層セラミックコンデンサの小型化および大容量化に伴い、内部電極や誘電体はともに薄層化が進められている。これに伴って、内部電極ペーストに使用されるニッケル粉末の粒径も微細化が進行し、平均粒径0.5μm以下のニッケル粉末が必要とされ、特に平均粒径0.3μm以下のニッケル粉末の使用が主流となっている。
上述したように、ニッケル粉末の製造方法には大別すると気相法と湿式法がある。気相法としては、例えば、特許文献1に記載されている塩化ニッケル蒸気を水素により還元してニッケル粉末を作製する方法や、特許文献2に記載されているニッケル金属をプラズマ中で蒸気化してニッケル粉末を作製する方法がある。また、湿式法としては、例えば、特許文献3に記載されている、ニッケル塩溶液に還元剤を添加してニッケル粉末を作製する方法がある。
気相法は、1000℃程度以上の高温プロセスのため結晶性に優れる高特性のニッケル粉末を得るためには有効な手段ではあるが、得られるニッケル粉末の粒径分布が広くなるという問題がある。上述の通り、内部電極の薄層化においては、粗大粒子を含まず、比較的粒径分布の狭い平均粒径0.5μm以下のニッケル粉末が必要とされるため、気相法でこのようなニッケル粉末を得るためには、高価な分級装置の導入による分級処理が必須となる。
なお、分級処理では、0.6μm〜2μm程度の任意の値の分級点を目途に、分級点よりも大きな粗大粒子の除去が可能であるが、分級点よりも小さな粒子の一部も同時に除去されてしまうため、製品実収が大幅に低下するという問題もある。したがって、気相法では、上述の高額な設備導入も含めて、製品のコストアップが避けられない。
さらに、気相法では、平均粒径が0.2μm以下、特に、0.1μm以下のニッケル粉末を用いる場合に、分級処理による粗大粒子の除去自体が困難になるため、今後の内部電極の一層の薄層化に対応できない。
一方で、湿式法は、気相法と比較して、得られるニッケル粉末の粒径分布が狭いという利点がある。特に、特許文献3に記載されているニッケル塩にパラジウムを含む溶液に還元剤としてヒドラジンを含む溶液を添加してニッケル粉末を作製する方法では、ニッケルよりも貴な金属の金属塩(核剤)との共存下でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン(Ni2+)、またはニッケル錯イオン)がヒドラジンで還元されるため、核発生数が制御され(すなわち、粒径が制御され)、かつ核発生と粒子成長が均一となって、微細なニッケル粉末が得られることが知られている。しかしながら、この方法では、平均粒径が0.1μm未満のニッケル粉末を得るためには適した還元反応の条件範囲が狭いとの制約があった。
別の微細なニッケル粉末を湿式法で製造する方法として、特許文献4には、ニッケルなどの10族元素や銀などの11族元素の金属化合物とヒドラジンなどの還元剤とを液相中で反応させる際に、メルカプトカルボン酸(メルカプトプロピオン酸 、メルカプト酢酸 、チオジプロピオン酸 、メルカプトコハク酸、ジメルカプトコハク酸 、チオジグリコール酸 、システインなど)を存在させて金属粒子を得る方法が、還元反応の際にメルカプトカルボン酸の作用で、特に微細な金属コロイド粒子が得られるため好ましい方法であることが開示されている。実施例1には硝酸銀50gに3−メルカプトプロピオン酸1.6g(銀1モルに対し5.1モル%)を添加して還元することで平均粒径が約10nm(0.01μm)の銀コロイド粒子を得ている。しかしながら、メルカプトカルボン酸等の主目的は金属粒子の保護剤としての分散安定性であることから、ニッケル粉末の表面にメルカプトカルボン酸等を多量に結合もしくは吸着させる必要があり、メルカプトカルボン酸等に起因する炭素や硫黄が多く含量されるという問題があった。
さらに、特許文献5では、塩化ニッケル(NiCl)とNaOHの中和物である水酸化ニッケル(Ni(OH))を液相中で水素ガス還元によりニッケル粉末を得る際に、硫化水素、アルカリ硫化物、アルカリ土類硫化物などの硫化物を上記水酸化ニッケル1モルに対し2〜50mgの硫黄濃度で存在させて上記還元を行うと、粒径が約0.03μmまでの極めて微細な球形の均質ニッケル粉末が得られることが開示されている。例2では、硫黄成分(NaS)を加えなかった場合の粒径が約0.3μmだったのに対し、ニッケル0.5モルに4mgの硫黄濃度(NaSとして配合)を加えた場合(ニッケル1モルに対し0.025モル%の硫黄濃度)の例1では、平均粒径が約0.04μmの球形の均質なニッケル粉末が得られている。
このように上記例示された硫黄化合物を添加することで微細なニッケル粉末を得ることができるが、硫黄化合物の添加量が多いために、還元晶析時に液中にある硫黄成分を巻き込んで得られたニッケル粉末に硫黄が多く含有されるという問題があった。
このような実情に鑑み、発明者らは鋭意検討を重ねた結果、湿式法によるニッケル粉末の製造方法における晶析工程、すなわち水溶性ニッケル塩、還元剤としてのヒドラジン、pH調整剤としての水酸化アルカリ、必要に応じてニッケルよりも貴な金属の金属塩、と水を含む反応液中で還元反応を行う工程において、あらかじめ反応液に、つまり還元反応開始前に特定の硫黄含有化合物を極微量かつ適量配合させることで、微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法において、還元反応で生成したニッケル晶析粉は、公知の手順を用いて反応液から分離すればよく、例えば、洗浄、固液分離、乾燥の手順を経ることにより、ニッケル粉末が得られる。なお、所望により、ニッケル晶析粉を含む反応液や、洗浄液にメルカプト化合物やジスルフィド化合物などの硫黄化合物を添加して、硫黄成分でニッケル晶析粉表面を修飾する表面処理(硫黄コート処理)を施し、ニッケル粒子の触媒活性を低下させたニッケル粉末(ニッケル晶析粉)を得てもよい。また、得られたニッケル粉末(ニッケル晶析粉)に、例えば不活性雰囲気や還元性雰囲気中で200℃〜300℃程度の熱処理を施してニッケル粉末を得ることもできる。これらの硫黄コート処理や熱処理は、前述の積層セラミックコンデンサ製造時の内部電極での脱バインダ挙動やニッケル粉末の焼結挙動を制御できるため、適正範囲内で用いれば非常に有効である。さらに、必要に応じて、晶析工程で得られたニッケル粉末(ニッケル晶析粉)に解砕処理を施す解砕工程(後処理工程)を追加して、晶析工程のニッケル粒子生成過程で生じたニッケル粒子の連結による粗大粒子などの低減を図ったニッケル粉末を得ることが好ましい。
以下、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における晶析工程について詳細に説明する。
(1−1.晶析工程)
晶析工程では、少なくとも水溶性ニッケル塩、還元剤、水酸化アルカリ、必要に応じてニッケルよりも貴な金属の金属塩、および水を混合した反応液中でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン、またはニッケル錯イオン)をヒドラジンで還元する。本発明では、この反応液にあらかじめ特定の硫黄含有化合物を極微量かつ適量配合させることで、この化合物の存在下でニッケル塩をヒドラジンで還元することを特徴とする。
(1−1−1.晶析工程で用いる薬剤)
本発明の晶析工程では、あらかじめ特定の硫黄含有化合物が配合され、ニッケル塩、還元剤、水酸化アルカリ、必要に応じて添加するニッケルよりも貴な金属の金属塩などの各種薬剤と水を含む反応液が用いられている。溶媒としての水は、得られるニッケル粉末中の不純物量を低減させる観点から、超純水(導電率:≦0.06 μS/cm(マイクロジーメンス・パー・センチメートル)、純水(導電率:≦1μS/cm)という高純度のものがよく、中でも安価で入手が容易な純水を用いることが好ましい。以下、上記各種薬剤について、それぞれ詳述する。
(a)ニッケル塩
本発明に用いるニッケル塩は、水に易溶である水溶性ニッケル塩であれば、特に限定されるものではなく、塩化ニッケル(NiCl)、硫酸ニッケル(NiSO)、硝酸ニッケル(Ni(NO)から選ばれる1種以上を用いることができる。これらのニッケル塩の中では、価格、取扱い安さ、入手性の観点から、塩化ニッケル、硫酸ニッケルあるいはこれらの混合物がより好ましい。
(b)還元剤
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、還元剤としてヒドラジン(N、分子量:32.05)を用いる。なお、ヒドラジンには、無水のヒドラジンの他にヒドラジン水和物である抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)があるが、どちらを用いてもかまわない。ヒドラジンは、その還元反応は後述する反応式(2)に示す通りであるが、特にアルカリ性で還元力が高いこと、還元反応の副生成物が窒素ガスと水で、不純物成分が反応液中に生じないこと、ヒドラジン中の不純物が少ないこと、および入手が容易なこと、という特徴を有しているため還元剤に好適であり、例えば、市販されている工業グレードの60質量%抱水ヒドラジンを用いることができる。
(c)水酸化アルカリ
ヒドラジンの還元力は、反応液のアルカリ性が強い程大きくなるため(後述する反応式(2)参照)、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、水酸化アルカリを、アルカリ性を高めるpH調整剤として用いる。水酸化アルカリは特に限定されるものではないが、入手の容易さや価格の面から、アルカリ金属水酸化物を用いることが好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)から選ばれる1種以上とすることがより好ましい。
水酸化アルカリの配合量は、還元剤としてのヒドラジンの還元力が十分高まるように、反応液のpHが、反応温度において、9.5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは10.5以上となるようにするとよい。
(d)硫黄含有化合物
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、以下で説明する特定の硫黄含有化合物の極微量かつ適量を反応液にあらかじめ配合させる。用いられる硫黄含有化合物は、少なくとも分子内に−SHで表される含硫黄官能基構造、−S−S−で表される含硫黄官能基構造、−O−S(=S)(=O)−O−で表される含硫黄官能基構造のいずれかを有する化合物であり、有機化合物、無機化合物のどちらでもよい。なお−S−S−には(化1)に示すように、単純な−S−S−の含硫黄官能基構造だけでなく、Sの両側に他の元素が結合する含硫黄官能基構造も含まれる。
Figure 0006729719
−SHで表される含硫黄官能基構造を有する有機化合物としては、チオグリコール酸(メルカプト酢酸)(HOOCCHSH)、チオリンゴ酸(メルカプトこはく酸)(HOOCCH(SH)CHCOOH)、メルカプトプロピオン酸(HOOCCSH)などを用いることができる。無機化合物では硫化水素ナトリウム(NaSH)などを用いることができる。より好ましくは、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、硫化水素ナトリウムから選ばれる1種以上を用いるのがよい。
−S−S−で表される含硫黄官能基構造を有する有機化合物としては、ジスルフィド基(−S−S−)を有するジチオグリコール酸(ジチオ二酢酸)(HOOCCHSSCHCOOH)、ジメチルジスルフィド(CHSSCH)、2,2’−ジピリジルジスルフィド((CN)SS(CN))などを用いることができる。より好ましくは、ジチオグリコール酸、ジメチルジスルフィドから選ばれる1種以上を用いる。
−O−S(=S)(=O)−O−で表される含硫黄官能基構造を有する有機化合物としては、チオ硫酸(H)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、チオ硫酸カリウム(K)、チオ硫酸銅(CuS)、チオ硫酸ニッケル(NiS)、チオ硫酸パラジウム(PdS)などを用いることができる。より好ましくは、チオ硫酸、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウムから選ばれる1種以上を用いるのがよい。
これらの硫黄含有化合物は、ニッケルを還元析出させる初期段階で析出した初期核のニッケル粒子表面に、例えばNi−S−の結合を形成して、初期核の核成長速度を低下させるので、還元反応の過飽和度が高めに維持されて例えば数分間という長時間にわたり初期核発生が継続して起きるため、微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)が得られると考えられる。
なお、上記Ni−S−の結合は、基本的には、ニッケル粒子表面と−SHとの結合により生じるが、−S−S−、−O−S(=S)(=O)−O−においても、それら官能基内の切断等(−S−S− → −SH+HS−、−O−S(=S)(=O)−O− → HS−S(=O)−O−)により−SHが生じて、同様にNi−S−の結合を形成できるものと考えられる。なお、スルフィド基(−S−)は、ジスルフィド基(−S−S−)と異なり、上記のような官能基内の切断が生じにくいので、仮に本発明における極微量を配合したとしても、Ni−S−の結合を効果的に形成できず、ニッケル粒子を微細化する効果は得られない。
上述のように、硫黄含有化合物に含まれる含硫黄官能基の種類によって、形成できるNi−S−結合の数が異なっており、その形成能力を含硫黄官能基の有効倍率(B)[倍]とするならば、有効倍率(B)は−SHでは1、−S−S−では2、−O−S(=S)(=O)−O−では1と考えることができる。
反応液中の上記硫黄含有化合物の添加量については、上記含硫黄官能基の有効倍率(B)を考慮する必要があり、硫黄含有化合物とニッケルの物質量の割合(硫黄含有化合物のモル数/ニッケルのモル数×10)をA[モルppm]とすると、後述するニッケルよりも貴な金属の金属塩(核剤)を用いない場合は、硫黄含有化合物とニッケルの物質量の割合(A)と含硫黄官能基の有効倍率(B)の積(A×B)が、0.1モルppm〜30モルppmの範囲(後述の数式1で、C=0に該当)、好ましくは0.5モルppm〜20モルppmの範囲と極微量でよい。上記A×Bが0.1モルppm未満だと、硫黄含有化合物が少なすぎて、微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)が得られなくなる。一方で、ニッケルよりも貴な金属の金属塩(核剤)を用いない場合は、上記A×Bが30モルppmを超えると、ニッケル還元の初期段階の初期核表面への硫黄化合物の結合量が多くなり過ぎて表面を覆い、粒成長速度が著しく低下し、晶析反応時間が大幅に延長するため、好ましくない。
また硫黄含有化合物のニッケルに対する物質量の割合(A)は上記のとおり極めて小さいため、反応液への硫黄含有化合物の添加混合によるニッケル晶析粉(ニッケル粉末)への硫黄混入量は無視できる程度に小さい(硫黄含有量は0.01質量%未満)。
(e)ニッケルよりも貴な金属の金属塩
上述の硫黄含有化合物とともにニッケルよりも貴な金属を反応液に含有させることで、ニッケルを還元析出させる際に、ニッケルよりも貴な金属が先に還元されて初期核となる核剤として作用しており、この初期核から粒子成長することでさらに微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を作製することができる。
ニッケルよりも貴な金属の金属塩としては、水溶性の銅塩や、金塩、銀塩、プラチナ塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩などの水溶性の貴金属塩が挙げられる。例えば、水溶性の銅塩としては硫酸銅を、水溶性の銀塩としては硝酸銀を、水溶性のパラジウム塩としては塩化パラジウム(II)ナトリウム、塩化パラジウム(II)アンモニウム、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)などを用いることができるが、これらには限定されない。
ニッケルよりも貴な金属の金属塩としては、特に上述したパラジウム塩を用いると得られるニッケル粉末の粒径をより微細に制御することが可能となるため好ましい。
ここで、ニッケルよりも貴な金属の金属塩とニッケルの物質量の割合((ニッケルよりも貴な金属の金属塩のモル数/ニッケルのモル数)×10)をC[モルppm]とすると、パラジウム塩を用いた場合は、パラジウム塩の配合量(C)(ニッケルよりも貴な金属の金属塩のニッケルに対する物質量の割合)は、目的とするニッケル粉末の平均粒径にもよるが、例えばニッケル晶析粉(ニッケル粉末)の平均粒径が0.1μm未満であれば、0.2モルppm〜100モルppmの範囲内、好ましくは0.5モルppm〜60モルppmの範囲内がよい。上記割合が0.2モルppm未満だと、硫黄含有化合物を配合してニッケル晶析粉(ニッケル粉末)の微細化を進めたとしても、0.1μm未満の粒径に安定して制御とすることがかなり困難となり、一方で、100モルppmを超えると、高価なパラジウム塩を多く使用することとなり、ニッケル粉末のコスト増につながる。
ここで、上記硫黄含有化合物と上記ニッケルの物質量の割合(A)[モルppm]、含硫黄官能基の有効倍率(B)[倍]、ニッケルよりも貴な金属の金属塩とニッケルの物質量の割合(C)[モルppm]における関係は、ニッケルよりも貴な金属の金属塩(例えばパラジウム塩)の反応液中への配合の有無を含めて、数式1(図2参照)を満たすのが好ましく、数式2を満たすのがより好ましい。
0.1≦A×B≦0.75C+30(0≦C≦100)・・・(数式1)
0.1≦A×B≦0.75C+20(0≦C≦100)・・・(数式2)
硫黄含有化合物は、上記説明した通り初期核となるニッケル粒子表面に結合して成長速度を低下させるが、同様にニッケルよりも先に還元され初期核となるパラジウム粒子にも結合して成長速度を低下させるので、硫黄含有化合物が過剰に存在すると初期核の粒成長速度が著しく低下し、晶析反応時間が大幅に延長するため、好ましくない。従って、還元反応中の過飽和度の低下抑制による微細化促進と現実的な粒成長速度の維持の観点から、上記数式1を満たすのが好ましく、数式2を満たすのがより好ましいということになる。
(f)アミン化合物
アミン化合物は、ヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、さらにはニッケル粒子同士の連結抑制剤の作用を有しており、分子内に第1級アミノ基(−NH)または第2級アミノ基(−NH−)から選ばれる官能基のいずれかを合わせて2個以上含有する化合物である。特にこのアミン化合物が持つ還元反応促進剤としての作用は、反応液に予めアミン化合物を配合した場合には、上記硫黄含有化合物やニッケルよりも貴な金属の金属塩の作用との相乗効果により、微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を安定的に晶析させることができる。
アミン化合物は、アルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかである。より具体的には、アルキレンアミンとして、エチレンジアミン(HNCNH)、ジエチレントリアミン(HNCNHCNH)、トリエチレンテトラミン(HN(CNH)NH)、テトラエチレンペンタミン(HN(CNH)NH)、ペンタエチレンヘキサミン(HN(CNH)NH)から選ばれる1種以上、アルキレンアミン誘導体として、トリス(2−アミノエチル)アミン(N(CNH)、(2−アミノエチル)アミノエタノール(HNCNHCOH)、エチレンジアミン−N,N’−二酢酸(別名称:エチレン−N,N’−ジグリシン、HOOCCHNHCNHCHCOOH)から選ばれる1種以上である。これらのアルキレンアミン、アルキレンアミン誘導体は水溶性であり、中でもエチレンジアミン、ジエチレントリアミンは、入手が容易で安価のため好ましい。
上記アミン化合物の還元反応促進剤としての作用は、反応液中のニッケルイオン(Ni2+)を錯化してニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きによると考えられるが、ヒドラジンの自己分解抑制剤、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用については、その詳細な作用メカニズムは、未だ明らかにはなっていない。アミン化合物分子内の第1級アミノ基(−NH)や第2級アミノ基(−NH−)と、反応液中のニッケル晶析粉の表面との何らかの相互作用により、上記作用が発現しているものと推測される。
ここで、反応液中の上記アミン化合物とニッケルの物質量の割合[モル%](アミン化合物のモル数/ニッケルのモル数×100)は0.01モル%〜5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%〜2モル%の範囲がよい。上記割合が0.01モル%未満だと、上記アミン化合物が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、ニッケル粒子同士の連結抑制剤の各作用が得られなくなる。一方で、上記割合が5モル%を超えると、ニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きが強くなりすぎる結果、粒子成長に異常をきたしてニッケル粉末の粒状性・球状性が失われていびつな形状となったり、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子が多く形成されるなどのニッケル粉末の特性劣化を生じる。
(g)その他の含有物
晶析工程の反応液中には、ニッケル塩、還元剤(ヒドラジン)、水酸化アルカリ、硫黄含有化合物に加え、上述したようにニッケルよりも貴な金属の金属塩やアミン化合物を含有させてもよく、さらに分散剤、錯化剤、消泡剤などの各種添加剤も少量含有させてもよい。分散剤や錯化剤は、適切なものを適正量用いれば、ニッケル晶析粉の粒状性(球状性)や粒子表面平滑性を改善できたり、粗大粒子低減が可能になる場合がある。また、消泡剤も、適切なものを適正量用いれば、晶析反応で生じる窒素ガス(後述の反応式(2)〜反応式(4)参照)に起因する晶析工程での発泡を抑制することが可能となる。分散剤と錯化剤の境界線は曖昧であるが、分散剤としては、公知の物質を用いることができ、例えば、アラニン(CHCH(COOH)NH)、グリシン(HNCHCOOH)、トリエタノールアミン(N(COH))、ジエタノールアミン(別名:イミノジエタノール)(NH(COH))などが挙げられる。錯化剤としては、公知の物質を用いることができ、ヒドロキシカルボン酸、カルボン酸(少なくとも一つのカルボキシル基を含む有機酸)、ヒドロキシカルボン酸塩やヒドロキシカルボン酸誘導体、カルボン酸塩やカルボン酸誘導体、具体的には、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、蟻酸、酢酸、ピルビン酸、およびそれらの塩や誘導体などが挙げられる。
(1−1−2.晶析手順)
本発明の晶析手順は少なくとも水溶性ニッケル塩を水に溶解させたニッケル塩溶液と、還元剤(ヒドラジン)を水に溶解させた還元剤溶液と、水酸化アルカリを水に溶解させた水酸化アルカリ溶液と、および硫黄含有化合物を水に溶解させた硫黄含有化合物溶液を用意し、これらを添加混合させて硫黄含有化合物を含む反応液を調合し、この反応液中で晶析反応を行うものである。また、ニッケルよりも貴な金属の金属塩をあらかじめニッケル塩溶液に添加混合させておき反応液を調合してもよい。アミン化合物は、反応液を調合する前に上記いずれかの溶液またはそれらを混合させた液に添加混合させるか、反応液を調合してから反応液に添加混合させる。なお、反応液が調合された時点で還元反応が開始される。
ここで、具体的な晶析手順としては、被還元物であるニッケル塩を含むニッケル塩溶液に、あらかじめ還元剤(ヒドラジン)と水酸化アルカリを添加混合させた還元剤・水酸化アルカリ溶液を添加混合して反応液を調合する手順(硫黄含有化合物溶液は上記いずれかの溶液に添加混合:図3参照)と、被還元物であるニッケル塩を含むニッケル塩溶液に還元剤(ヒドラジン)を添加混合させたニッケル塩・還元剤含有溶液に、水酸化アルカリ溶液を添加混合して反応液を調合する手順(硫黄含有化合物溶液は上記いずれかの溶液に添加混合:図4参照)の2種類ある。前者は水酸化アルカリによりアルカリ性が高く還元力を高めた還元剤(ヒドラジン)をニッケル塩溶液に添加混合するのに対し、後者は還元剤(ヒドラジン)をニッケル塩溶液に混合させておいてから、水酸化アルカリによりpHを調整して還元力を高める違いがある。
前者の場合は、反応液が調合された時点、すなわち還元反応が開始する時点での温度(反応開始温度)にもよるが、ニッケル塩溶液と水酸化アルカリによりアルカリ性を高めた還元剤・水酸化アルカリ溶液の添加混合に要する時間が長くなると、添加混合の途中の段階から、ニッケル塩溶液と還元剤・水酸化アルカリ溶液の添加混合領域の局所においてアルカリ性が上昇してヒドラジンの還元力が高まり、核の発生に時間差が生じて、ニッケル晶析粉の微細化や狭い粒度分布を得にくくなるという傾向がある。この傾向は、弱酸性のニッケル塩溶液の中にアルカリ性の還元剤・水酸化アルカリ溶液を添加混合する場合により顕著である。上記傾向は、原料混合時間が短いほど抑制できるため、短時間が望ましいが、量産設備面の制約などを考慮すると、好ましくは10秒〜180秒、より好ましくは20秒〜120秒、さらに好ましくは30秒〜80秒がよい。
一方、後者の場合は、被還元物と還元剤を含むニッケル塩・還元剤含有溶液中では還元剤のヒドラジンが予め添加混合されて均一濃度となっているため、水酸化アルカリ溶液を添加混合する際に生じる核発生の時間差は、前者の場合ほど大きくならず、ニッケル晶析粉の微細化や狭い粒度分布が得やすいという特徴がある。ただし、前者の場合と同様の理由で、水酸化アルカリ混合時間は短時間が望ましく、量産設備面の制約などを考慮すると、好ましくは10秒〜180秒、より好ましくは20秒〜120秒、さらに好ましくは30秒〜80秒がよい。
本発明のアミン化合物の添加混合についても、上述の通り、反応液が調合される前に反応液にあらかじめ配合しておく手順と、反応液が調合されて還元反応開始以降に添加混合される手順の2種類ある(図3、図4参照)。
前者の場合は、反応液に予めアミン化合物を配合しておくため、還元反応の開始時点から、アミン化合物がヒドラジンの自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)として作用するという利点があるが、一方で、例えば吸着などのアミン化合物の有するニッケル粒子表面との相互作用が核発生に関与して、得られるニッケル晶析粉の粒径や粒度分布に影響を及ぼす可能性がある。
逆に後者の場合は、核発生が生じる晶析工程の極初期段階を経た後に、アミン化合物を反応液に添加混合するため、アミン化合物のヒドラジンの自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)としての作用が幾分遅れるものの、アミン化合物の核発生への関与がなくなるため、得られるニッケル晶析粉の粒径や粒度分布がアミン化合物によって影響を受けにくくなり、それらを制御しやすくなる利点がある。ここで、この手順でのアミン化合物の反応液への添加混合における混合時間は、数秒以内の一気添加でも良いし、数分間〜30分間程度にわたり分割添加や滴下添加してもよい。アミン化合物は、還元反応促進剤(錯化剤)としての作用もあるため、ゆっくり添加する方が結晶成長をゆっくりと進行させてニッケル晶析粉が高結晶性となるが、ヒドラジンの自己分解抑制も徐々に作用することとなりヒドラジン消費量の低減効果は減少するため、上記混合時間は、これら両者のバランスをみながら適宜決定すればよい。なお、前者の手順におけるアミン化合物の添加混合タイミングについては、目的に応じ総合的に判断して適宜選択することができる。
ニッケル塩溶液と還元剤・水酸化アルカリ溶液の添加混合や、ニッケル塩・還元剤含有溶液への水酸化アルカリ溶液の添加混合は、溶液を撹拌しながら混合する撹拌混合が好ましい。撹拌混合性が良いと、核発生の場所によるが不均一が低下し、かつ、前述したような核発生の原料混合時間依存性や水酸化アルカリ混合時間依存性が低下するため、ニッケル晶析粉の微細化や狭い粒度分布を得やすくなる。撹拌混合の方法は、公知の方法を用いればよく、撹拌混合性の制御や設備コストの面から撹拌羽根を用いることが好ましい。
(1−1−3.還元反応)
晶析工程では、反応液中において、極微量かつ適量の特定の硫黄含有化合物、及び水酸化アルカリ、必要に応じて添加されるニッケルよりも貴な金属の金属塩(核剤)、の共存下でニッケル塩をヒドラジンで還元ニッケル晶析粉を得ている。また必要に応じて、微量の特定のアミン化合物の作用でヒドラジンの自己分解を大幅に抑制して還元反応させている。
まず、晶析工程における還元反応について説明する。ニッケル(Ni)の反応は下記の反応式(1)の2電子反応、ヒドラジン(N)の反応は下記の反応式(2)の4電子反応であって、例えば、上述のように、ニッケル塩として塩化ニッケル、水酸化アルカリとして水酸化ナトリウムを用いた場合には、還元反応全体は下記の反応式(3)のように、塩化ニッケルと水酸化ナトリウムの中和反応で生じた水酸化ニッケル(Ni(OH))がヒドラジンで還元される反応で表され、化学量論的には、ニッケル(Ni)1モルに対し、ヒドラジン(N)0.5モルが必要である。
ここで、反応式(2)のヒドラジンの還元反応から、ヒドラジンはアルカリ性が強い程、その還元力が大きくなることが分かる。上記水酸化アルカリはアルカリ性を高めるpH調整剤として用いており、ヒドラジンの還元反応を促進する働きを担っている。
Ni2++2e→Ni↓ (2電子反応) ・・・(1)
→N↑+4H+4e (4電子反応) ・・・(2)
2NiCl+N+4NaOH→2Ni(OH)+N+4NaCl→2Ni↓+N↑+4NaCl+4HO ・・・(3)
上述の通り、従来の晶析工程では、ニッケル晶析粉の活性な表面が触媒となって、下記の反応式(4)で示されるヒドラジンの自己分解反応が促進され、還元剤としてのヒドラジンが還元以外に大量に消費されるため、反応開始温度などの晶析条件にもよるが、例えば、ニッケル1モルに対しヒドラジン2モル程度と前述の還元に必要な理論値の4倍程度が一般的に用いられていた。さらに、反応式(4)よりヒドラジンの自己分解では多量のアンモニアが副生して、反応液中に高濃度で含有されて含窒素廃液を生じることとなる。このような高価な薬剤であるヒドラジンの過剰量の使用や、含窒素廃液の処理コスト発生が、湿式法によるニッケル粉末(湿式ニッケル粉末)のコスト増要因となっている。
3N→N↑+4NH ・・・(4)
そこで、上記ニッケル粉末の製造方法では、微量の特定のアミン化合物を反応液に加えて、ヒドラジンの自己分解反応を著しく抑制し、薬剤として高価なヒドラジンの使用量を大幅に削減することが好ましい。この詳細なメカニズムは未だ明らかではないが、(I)上記特定のアミン化合物の分子が、反応液中のニッケル晶析粉の表面に吸着し、ニッケル晶析粉の活性表面とヒドラジン分子との接触を妨害している、(II)特定のアミン化合物の分子がニッケル晶析粉表面に作用し、表面の触媒活性を不活性化している、などが考えられる。
なお、従来から湿式法での晶析工程では、還元反応時間を実用的な範囲にまで短縮するために、酒石酸やクエン酸などのニッケルイオン(Ni2+)と錯イオンを形成してイオン状ニッケル濃度を高める錯化剤を還元反応促進剤として用いるのが一般的であるが、これら酒石酸やクエン酸など錯化剤は、上記特定のアミン化合物のようなヒドラジンの自己分解抑制剤の作用、あるいは晶析中にニッケル粒子同士が連結して生じる粗大粒子を形成しにくくする連結抑制剤としての作用は有していない。
一方で、上記特定のアミン化合物は、酒石酸やクエン酸などと同様に錯化剤としても働き、ヒドラジンの自己分解抑制剤、連結抑制剤、および還元反応促進剤の作用を兼ね備える利点を有している。
(1−1−4.反応開始温度)
晶析工程の晶析条件として、少なくとも、ニッケル塩、ヒドラジン、水酸化アルカリ、必要に応じてニッケルよりも貴な金属の金属塩やアミン化合物、を含む反応液が調合された時点、すなわち、還元反応が開始する時点の反応液の温度が、40℃〜90℃とすることが好ましく、50℃〜80℃とすることがより好ましく、60℃〜70℃とすることがさらに好ましい。なお、以降この還元反応が開始する時点の反応液の温度を反応開始温度とすることもある。ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液などの個々の溶液の温度は、それらを混合して得られる反応開始温度が上記温度範囲になれば特に制約はなく自由に設定することができる。反応開始温度は、高いほど還元反応は促進され、かつニッケル晶析粉は高結晶化する傾向にあるが、一方で、ヒドラジンの自己分解反応がそれ以上に促進される側面があるため、ヒドラジンの消費量が増加するとともに、反応液の発泡が激しくなる傾向がある。したがって、反応開始温度が高すぎると、ヒドラジンの消費量が大幅に増加したり、多量の発泡で晶析反応を継続できなくなる場合がある。一方で、反応開始温度が低くなり過ぎると、ニッケル晶析粉の結晶性が著しく低下したり、還元反応が遅くなって晶析工程の時間が大幅に延長して生産性が低下する傾向がある。以上の理由から、上記温度範囲にすることで、ヒドラジン消費量を抑制しながら、高い生産性を維持しつつ、高性能のニッケル晶析粉を安価に製造することができる。
(1−1−5.ニッケル晶析粉の回収)
ヒドラジンによる還元反応で反応液中に生成したニッケル晶析粉は、前述の通り、必要に応じて、メルカプト化合物やジスルフィド化合物などの硫黄化合物で硫黄コート処理を施した後、公知の手順を用いて反応液から分離すればよい。具体的な方法として、デンバーろ過器、フィルタープレス、遠心分離機、デカンターなどを用いて反応液中からニッケル晶析粉を固液分離すると共に、純水(導電率:≦1μS/cm)等の高純度の水で十分に洗浄し、大気乾燥機、熱風乾燥機、不活性ガス雰囲気乾燥機、真空乾燥機などの汎用の乾燥装置を用いて50〜300℃、好ましくは、80〜150℃で乾燥し、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得ることができる。なお、不活性ガス雰囲気乾燥機、真空乾燥機などの乾燥装置を用いて、不活性雰囲気、還元性雰囲気、真空雰囲気中で200℃〜300℃程度で乾燥した場合は、単なる乾燥に加え、熱処理を施したニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得ることが可能である。
(1−2.解砕工程(後処理工程))
晶析工程で得られたニッケル晶析粉(ニッケル粉末)は、前述の通り、アミン化合物が晶析中においてニッケル粒子の連結抑制剤として作用するため、ニッケル粒子が還元析出の過程で互いに連結して形成される粗大粒子の含有割合はそもそもそれ程大きくない。ただし、晶析手順や晶析条件によっては、粗大粒子の含有割合が幾分大きくなって問題になる場合もあるため、晶析工程に引き続いて解砕工程を設け、ニッケル粒子が連結した粗大粒子をその連結部で分断して粗大粒子の低減を図ることが好ましい。解砕処理としては、スパイラルジェット解砕処理、カウンタージェットミル解砕処理などの乾式解砕方法や、高圧流体衝突解砕処理などの湿式解砕方法、その他の汎用の解砕方法を適用することが可能である。
<2.ニッケル粉末>
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法で得られるニッケル粉末は、還元剤としてのヒドラジン使用量を大幅に削減した湿式法により得られ、安価で、かつ高性能であって、積層セラミックコンデンサの内部電極に好適である。ニッケル粉末の特性としては、以下の、平均粒径、不純物含有量(塩素含有量、アルカリ金属含有量、硫黄含有量)があり、本発明の一実施形態により得られたニッケル粉末は以下の特性を有する。
(平均粒径)
近年の積層セラミックコンデンサは多品種であり、平均粒径0.2μm超〜0.4μm未満程度のニッケル粉末がまだ広く用いられてはいるが、その内部電極の薄層化に対応するという観点からすると、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末としては、その平均粒径は0.02μm〜0.2μmが好ましく、0.02μm〜0.15μmがより好ましい。本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の平均粒径は、晶析工程で得られたニッケル粉末の走査電子顕微鏡写真(SEM像)から求めた数平均の粒径である。
(不純物含有量(塩素含有量、アルカリ金属含有量、硫黄含有量))
湿式法によるニッケル粉末には、薬剤起因の不純物である塩素やアルカリ金属が含有される。これらの不純物は、積層セラミックコンデンサの製造時において内部電極の欠陥発生の原因となる可能性があるため、可能な限り低減することが好ましく、具体的には、塩素、アルカリ金属ともに、0.01質量%以下であることが好ましい。硫黄については、前述のとおり、意図的に硫黄成分でニッケル晶析粉表面を修飾する硫黄コート処理を行って、積層セラミックコンデンサの内部電極での脱バインダ挙動の改善を図る場合があるが、内部電極の欠陥発生の原因となる可能性も否定できず、上記硫黄コート処理を行わないニッケル晶析粉の段階では可能な限り低減できていること必要であり、0.01質量%以下であることが好ましい。
以下、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
[ニッケル塩溶液の調製]
ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405gを純水1880mLに溶解して、ニッケル塩溶液を調製した。
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を215g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。還元剤溶液に含まれるヒドラジンのニッケルに対するモル比は1.51であった。
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)230gを、純水560mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を用意した。水酸化アルカリ溶液に含まれる水酸化ナトリウムのニッケルに対するモル比は5.75であった。
[硫黄含有化合物希釈溶液]
硫黄含有化合物として、−SH含硫黄官能基構造を持つチオール化合物であるチオグリコール酸(HOOCCHSH、分子量:92.12)0.79mgを純水0.1mLに溶解して、硫黄含有化合物希釈溶液を用意した。チオグリコール酸はニッケル(Ni)に対してモル比で5.0モルppmと極微量であった。
[アミン化合物溶液]
アミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(−NH)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH、分子量:60.1)2.048gを、純水18mLに溶解して、主成分としてのエチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。アミン化合物溶液に含まれるエチレンジアミンはニッケルに対し、モル比で0.02(2.0モル%)と微量であった。
なお、上記ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、硫黄含有化合物希釈溶液、およびアミン化合物溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[晶析工程]
上記各薬剤を用い、図4に示す晶析手順で晶析反応を行い、ニッケル晶析粉を得た。すなわち、塩化ニッケルを純水に溶解したニッケル塩溶液、硫黄含有化合物希釈溶液を撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ液温75℃になるように撹拌しながら加熱した後、液温25℃のヒドラジンと水を含む上記還元剤溶液を混合時間20秒で添加混合してニッケル塩・還元剤含有溶液とした。このニッケル塩・還元剤含有溶液に液温25℃の水酸化アルカリと水を含む上記水酸化アルカリ溶液を混合時間80秒で添加混合し、液温63℃の反応液(塩化ニッケル+ヒドラジン+水酸化ナトリウム+硫黄含有化合物)を調合し、還元反応(晶析反応)を開始した(反応開始温度63℃)。反応開始後8分後から18分後までの10分間にかけて上記アミン化合物溶液を上記反応液に滴下混合し、ヒドラジンの自己分解を抑制しながら還元反応を進めてニッケル晶析粉を反応液中に析出させた。反応開始から90分以内には還元反応は完了し、反応液の上澄み液は透明で、反応液中のニッケル成分はすべて金属ニッケルに還元されていることを確認した。
ニッケル晶析粉を含む反応液はスラリー状であり、導電率が1μS/cmの純水を用い、ニッケル晶析粉含有スラリーからろ過したろ液の導電率が10μS/cm以下になるまでろ過洗浄し、固液分離した後、150℃の温度に設定した真空乾燥器中で乾燥して、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。
[解砕処理工程(後処理工程)]
晶析工程に引き続いて解砕工程を実施し、ニッケル粉末中の主にニッケル粒子が連結して形成された粗大粒子の低減を図った。具体的には、晶析工程で得られた上記ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、乾式解砕方法であるスパイラルジェット解砕処理を施し、実施例1に係るニッケル粉末を得た。
[ニッケル粉末]
このようにして得られたニッケル粉末の平均粒径は0.18μmであった。またニッケル粉末中の塩素(Cl)、ナトリウム(Na)、および硫黄(S)の含有量は、塩素が0.006質量%、ナトリウムが0.0049質量%、硫黄が0.01質量%未満であった。これらの結果を表1にまとめて示す。
(実施例2)
[ニッケル粉末の作製]
実施例1において、硫黄含有化合物としてチオール化合物の代わりに−S−S−の含硫黄官能基構造を持つジスルフィド化合物を用意した。具体的には、硫黄含有化合物として、ジチオグリコール酸(HOOCCHSSCHCOOH、分子量:182.22)1.55mgを、純水0.1mLに溶解して、硫黄含有化合物希釈溶液を用意した。ジチオグリコール酸はニッケルに対して5.0モルppmと極微量とした。
この硫黄含有化合物希釈溶液を、実施例1と同じく、ニッケル塩溶液、硫黄含有化合物希釈溶液を撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ液温75℃になるように撹拌しながら加熱した後、液温25℃のヒドラジンと水を含む上記還元剤溶液を混合時間20秒で添加混合してニッケル塩・還元剤含有溶液とした。以降の操作も実施例1と同様にして、実施例2に係るニッケル粉末を得た。
[ニッケル粉末]
このようにして得られたニッケル粉末の平均粒径は0.10μmであった。またニッケル粉末中の塩素、ナトリウム、および硫黄の含有量は、塩素が0.003質量%、ナトリウムが0.0031質量%、硫黄が0.01質量%未満であった。これらの結果を表1にまとめて示す。
(実施例3)
[ニッケル粉末の作製]
実施例1において、ニッケル塩溶液として塩化ニッケル6水和物に加えてニッケルよりも貴な金属の金属塩を溶解させ、硫黄含有化合物としてチオール化合物の代わりにチオ硫酸塩を用意した。
具体的には、ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405g、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)1.6mgを純水1880mLに溶解して、ニッケル塩溶液を調製した。ここで、ニッケル塩溶液において、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し6.0質量ppm(3.3モルppm)とした。
また硫黄含有化合物希釈溶液としては、チオ硫酸塩であるチオ硫酸ナトリウム(Na、分子量:158.11)1.35mgを、純水0.1mLに溶解して、ジスルフィド希釈溶液を用意した。チオ硫酸ナトリウムはニッケルに対してモル比で5.0モルppmと極微量であった。
実施例1と同じく、これらニッケル塩溶液、硫黄化合物希釈溶液を撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ液温75℃になるように撹拌しながら加熱した後、液温25℃のヒドラジンと水を含む上記還元剤溶液を混合時間20秒で添加混合してニッケル塩・還元剤含有溶液とした。このニッケル塩・還元剤含有溶液に液温25℃の水酸化アルカリと水を含む上記水酸化アルカリ溶液を混合時間80秒で添加混合し、液温63℃の反応液を調合し、還元反応(晶析反応)を開始した(反応開始温度63℃)。この時、反応液は、塩化ニッケル、パラジウム塩、ヒドラジン、水酸化ナトリウム、硫黄含有化合物を含んでいる。以降の操作も実施例1と同様にして、実施例3に係るニッケル粉末を得た。
[ニッケル粉末]
このようにして得られたニッケル粉末の平均粒径は0.08μmであった。またニッケル粉末中の塩素、ナトリウム、および硫黄の含有量は、塩素が0.004質量%、ナトリウムが0.0035質量%、硫黄が0.01質量%未満であった。これらの結果を表1にまとめて示す。
(実施例4)
[ニッケル粉末の作製]
実施例1において、ニッケル塩溶液として塩化ニッケル6水和物に加えてニッケルよりも貴な金属の金属塩を溶解させ、ニッケル塩溶液を調製した。
具体的には、ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405g、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)26.7mgを純水1880mLに溶解して、ニッケル塩溶液を調製した。ここで、ニッケル塩溶液において、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し100.0質量ppm(55モルppm)とした。
また、硫黄化合物希釈溶液としては、チオール化合物であるチオグリコール酸(HOOCCHSH、分子量:92.12)7.1mgを、純水1mLに溶解して、硫黄含有化合物希釈溶液を用意した。チオグリコール酸はニッケル(Ni)に対してモル比で45.0モルppmと極微量であった。
[ニッケル粉末]
このようにして得られたニッケル粉末の平均粒径は0.06μmであった。また、ニッケル粉末中の塩素、ナトリウム、および硫黄の含有量は、塩素が0.008質量%、ナトリウムが0.0026質量%、硫黄が0.01質量%未満であった。これらの結果を表1にまとめて示す。
(実施例5)
[ニッケル粉末の作製]
実施例4において、硫黄化合物希釈溶液であるチオグリコール酸の量を変更してニッケル粉末を作製した。具体的には、チオグリコール酸(HOOCCHSH、分子量:92.12)0.0158mgを、純水0.1mLに溶解して、硫黄含有化合物希釈溶液を用意した。チオグリコール酸はニッケル(Ni)に対してモル比で0.1モルppmと極微量であった。
[ニッケル粉末]
このようにして得られたニッケル粉末の平均粒径は0.16μmであった。また、ニッケル粉末中の塩素、ナトリウム、および硫黄の含有量は、塩素が0.001質量%未満、ナトリウムが0.0024質量%、硫黄が0.01質量%未満であった。これらの結果を表1にまとめて示す。
(比較例1)
[ニッケル粉末の作製]
実施例1において、硫黄含有化合物希釈溶液を用意せず、晶析工程で反応液にチオグリコール酸を添加しなかった以外は同様の条件でニッケル粉末を作成した。
[ニッケル粉末]
このようにして得られたニッケル粉末の平均粒径は0.89μmであった。またニッケル粉末中の塩素、ナトリウム、および硫黄の含有量は、塩素が0.004質量%、ナトリウムが0.0037質量%、硫黄が0.01質量%未満であった。これらの結果を表1にまとめて示す。
(比較例2)
[ニッケル粉末の作製]
実施例3において、硫黄含有化合物希釈溶液を用意せず、晶析工程で反応液にチオ硫酸ナトリウムを添加しなかった以外は同様の条件でニッケル粉末を作成した。
[ニッケル粉末]
このようにして得られたニッケル粉末の平均粒径は0.26μmであった。またニッケル粉末中の塩素、ナトリウム、および硫黄の含有量は、塩素が0.003質量%、ナトリウムが0.0016質量%、硫黄が0.01質量%未満であった。これらの結果を表1にまとめて示す。
(比較例3)
[ニッケル粉末の作製]
実施例4において、硫黄化合物希釈溶液であるチオグリコール酸の量を変更してニッケル粉末を作製した。具体的には、チオグリコール酸(HOOCCHSH、分子量:92.12)13.4mgを、純水1mLに溶解して、硫黄含有化合物希釈溶液を用意した。チオグリコール酸はニッケル(Ni)に対してモル比で85.0モルppmであった。しかしながら、反応液中で還元反応が進行せず、ニッケル粉末を得ることができなかった。この結果を表1に示す。


























Figure 0006729719
反応液へのチオグリコール酸、ジチオグリコール酸の配合量(A)(硫黄含有化合物のニッケルに対する物質量の割合)が、いずれも5.0モルppmで、パラジウム塩(ニッケルよりも貴な金属の金属塩)を添加していない実施例1、及び実施例2は、硫黄含有化合物とニッケルの物質量の割合(A)[モルppm]、含硫黄官能基の有効倍率(B)[倍]、ニッケルよりも貴な金属の金属塩とニッケルの物質量の割合(C)[モルppm]とした場合の数式1(0.1≦A×B≦0.75C+30(0≦C≦100))を満たしており(図2参照)、硫黄含有化合物とニッケルよりも貴な金属の金属塩のいずれも添加しておらず、数式1を満たしていない比較例1(図2参照)と比べると、ニッケル粉末の塩素とナトリウムの含有量は共に0.01質量%以下を維持しつつ平均粒径が大幅に小さくなり、微細なニッケル粉末が得られたことが分かる。
同様に、いずれも反応液へのパラジウムの配合量(C)(ニッケルよりも貴な金属の金属塩のニッケルに対する物質量の割合)は3.3モルppmでありながら、チオ硫酸ナトリウムの配合量(A)(硫黄含有化合物のニッケルに対する物質量の割合)が5.0モルppmであり数式1を満たしている実施例3(図2参照)は、硫黄含有化合物を添加せず数式1を満たしていない比較例2(図2参照)と比べると、ニッケル粉末の塩素とナトリウム、の含有量は共に0.01質量%以下を維持しつつ平均粒径が大幅に小さくなり、微細なニッケル粉末が得られたことが分かる。
いずれも反応液へのパラジウムの配合量(C)(ニッケルよりも貴な金属の金属塩のニッケルに対する物質量の割合)が55モルppmで、かつ、硫黄含有化合物としてチオグリコール酸を添加した実施例4、実施例5、及び比較例3を比較すると、チオジグリコール酸の配合量(A)(硫黄含有化合物のニッケルに対する物質量の割合)が0.1モルppm(実施例5)、45.0モルppm(実施例4)で数式1を満たしている各実施例(図2参照)では、ニッケル粉末の塩素とナトリウムの含有量は共に0.01質量%以下を維持しつつ平均粒径が小さくなり、微細なニッケル粉末が得られたことが分かる。一方、チオジグリコール酸の配合量(A)が85.0モルppmで、数式1を満たさない(A>0.75B+30)比較例3(図2参照)は、反応液中で還元反応が進行せず、ニッケル粉末が得られないことも分かる。
また実施例1〜5において、硫黄含有化合物の配合量(A)(硫黄含有化合物のニッケルに対する物質量の割合)は、最大で45.0モルppmと極めて微量であるため、ニッケル粉末に含有される硫黄量は0.01質量%未満を維持できていることも分かる。
なお、反応液へのパラジウムの配合量(C)(ニッケルよりも貴な金属の金属塩のニッケルに対する物質量の割合)が、それぞれ10ppm、20ppm、40ppm、80ppm、100ppmにおいて、硫黄含有化合物としてチオグリコール酸の配合量(A)(硫黄含有化合物のニッケルに対する物質量の割合)を変量した各種試験を行ったところ、数式1を満たさない場合(A×B>0.75C+30)には反応液中で還元反応が大幅に遅延したり停止したりしたのに対し、数式1を満たした場合(0.1≦A×B≦0.75C+30)には、ニッケル粉末の塩素、ナトリウム、硫黄のいずれの含有量も0.01質量%以下を維持しつつ、平均粒径を0.2μm以下に小さくでき、微細なニッケル粉末が得られることを確認できている。

Claims (12)

  1. あらかじめ硫黄含有化合物が配合された、少なくとも水溶性ニッケル塩、還元剤、および水酸化アルカリ、必要に応じてニッケルよりも貴な金属の金属塩、と水とを混合した反応液中において、還元反応によりニッケル晶析粉を得る晶析工程を有するニッケル粉末の製造方法であって、
    前記還元剤はヒドラジン(N)であり、
    前記硫黄含有化合物は、少なくとも分子内に−SHで表される含硫黄官能基構造、−S−S−で表される含硫黄官能基構造、−O−S(=S)(=O)−O−で表される含硫黄官能基構造のいずれかを有する化合物であり、
    前記反応液中の、前記硫黄含有化合物とニッケルの物質量の割合((前記硫黄含有化合物のモル数/ニッケルのモル数)×10)をA[モルppm]、前記硫黄含有化合物の前記含硫黄官能基の有効倍率をB[倍](−SH:1、−S−S−:2、−O−S(=S)(=O)−O−:1)、前記ニッケルよりも貴な金属の金属塩とニッケルの物質量の割合((前記ニッケルよりも貴な金属の金属塩のモル数/ニッケルのモル数)×10)をC[モルppm]とした時、数式1を満たすことを特徴とするニッケル粉末の製造方法。
    0.1≦A×B≦0.75C+30(0≦C≦100)・・・(数式1)
  2. 前記ニッケルよりも貴な金属の金属塩は、パラジウム塩であることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
  3. 前記硫黄含有化合物が、チオグリコール酸(HOOCCHSH)、チオリンゴ酸(HOOCCH(SH)CHCOOH)、硫化水素ナトリウム(NaSH)から選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
  4. 前記硫黄含有化合物が、ジチオグリコール酸(HOOCCHSSCHCOOH)、ジメチルジスルフィド(CHSSCH)から選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
  5. 前記硫黄含有化合物が、チオ硫酸(H)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、チオ硫酸カリウム(K)から選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
  6. ニッケル粉末の平均粒径が0.02μm〜0.2μmである請求項1〜5のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
  7. 前記水溶性ニッケル塩は、塩化ニッケル(NiCl)、硫酸ニッケル(NiSO)、硝酸ニッケル(Ni(NO)から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法
  8. 前記水酸化アルカリが、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
  9. 前記反応液中にアミン化合物を含み、
    該アミン化合物は、分子内に第1級アミノ基(−NH)または第2級アミノ基(−NH−)から選ばれる官能基のいずれかを合わせて2個以上含有し、
    前記反応液中の前記アミン化合物とニッケルの物質量の割合(前記アミン化合物のモル数/ニッケルのモル数×100)が、0.01モル%〜5モル%の範囲であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
  10. 前記アミン化合物がアルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項9に記載のニッケル粉末の製造方法。
  11. 前記アルキレンアミンが、エチレンジアミン(HNCNH)、ジエチレントリアミン(HNCNHCNH)、トリエチレンテトラミン(HN(CNH)NH)、テトラエチレンペンタミン(HN(CNH)NH)、ペンタエチレンヘキサミン(HN(CNH)NH)から選ばれる1種以上、アルキレンアミン誘導体が、トリス(2−アミノエチル)アミン(N(CNH)、(2−アミノエチル)アミノエタノール(HNCNHCOH)、エチレンジアミン−N,N’−二酢酸(HOOCCHNHCNHCHCOOH)から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項10に記載のニッケル粉末の製造方法。
  12. 前記晶析工程において、前記反応液の反応開始温度が、40℃〜90℃であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
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