JP7336649B2 - ニッケル粉スラリーの製造方法 - Google Patents
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Description
1.ニッケル粉スラリーの製造方法
1-1.晶析工程
1-1-1.晶析工程で用いる薬剤
1-1-2.晶析反応の手順(晶析手順)
1-1-3.晶析反応(還元反応、ヒドラジン自己分解反応)
1-1-4.晶析条件(反応開始温度)
1-2.洗浄・ろ過工程
1-3.乾燥工程
1-4.溶媒添加工程
2.(ニッケル粉スラリーに含まれる)微細なニッケル粉末
本発明に係る微細なニッケル粉末を含むニッケル粉スラリーの製造方法に先立って、まずは、湿式法による通常サイズ(数平均粒径0.2μm程度以上)のニッケル粉末の製造方法について説明する。図1には、湿式法によるニッケル粉末の製造方法における一般的な製造工程の一例を示す模式図を示す。湿式法によるニッケル粉末の製造方法は、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、還元剤としてのヒドラジン、pH調整剤としての水酸化アルカリと水を含む反応液中においてヒドラジンによる還元反応でニッケル晶析粉を得る晶析工程、ニッケル晶析粉を含む反応液中のニッケル晶析粉を洗浄し固液分離してニッケル晶析粉含水物を得る洗浄・ろ過工程、ニッケル晶析粉含水物を乾燥させてニッケル粉末を得る乾燥工程の各工程を主体とし、必要に応じて行う解砕工程を後処理工程として付加したものである。
晶析工程は、湿式法による晶析反応により微細なニッケル晶析粉を含む反応液を得る工程である。晶析工程では、あらかじめスルフィド化合物が配合された、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、および水酸化アルカリと水とを混合した反応液中でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン、またはニッケル錯イオン)をヒドラジンで還元すると同時に、極微量の特定のスルフィド化合物の作用で核発生やより等方的な核成長を大幅に促進したり、粗大粒子(連結粒子)の形成を抑制することで、例えば、数平均粒径0.02μm程度~0.15μm程度まで微細化され、球状性が改善されて充填性が向上したニッケル晶析粉を得ている。
本実施形態の晶析工程では、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、還元剤、水酸化アルカリ、スルフィド化合物などの各種薬剤と水を含む反応液が用いられている。溶媒としての水は、得られるニッケル粉末中の不純物量を低減させる観点から、超純水(導電率:≦0.06 μS/cm(マイクロジーメンス・パー・センチメートル)、純水(導電率:≦1μS/cm)という高純度のものがよく、中でも安価で入手が容易な純水を用いることが好ましい。以下、上記各種薬剤について、それぞれ詳述する。
本実施形態に用いるニッケル塩は、水に易溶であるニッケル塩であれば、特に限定されるものではなく、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケルから選ばれる1種以上を用いることができる。これらのニッケル塩の中では、塩化ニッケル、硫酸ニッケルあるいはこれらの混合物がより好ましい。
ニッケルよりも貴な金属をニッケル塩溶液に含有させることで、ニッケルを還元析出させる際に、ニッケルよりも貴な金属が先に還元されて初期核となる核剤として作用しており、核発生促進剤である特定のスルフィド化合物の効果で、この初期核が多く生じ、その後に粒子成長することで微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を作製することができる。
ニッケルよりも貴な金属の金属塩としては、水溶性の銅塩や、金塩、銀塩、プラチナ塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩などの水溶性の貴金属塩が挙げられる。例えば、水溶性の銅塩としては硫酸銅を、水溶性の銀塩としては硝酸銀を、水溶性のパラジウム塩としては塩化パラジウム(II)ナトリウム、塩化パラジウム(II)アンモニウム、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)などを用いることができるが、これらには限定されない。
本実施形態の晶析工程では、還元剤としてヒドラジン(N2H4、分子量:32.05)を用いる。なお、ヒドラジンには、無水のヒドラジンの他にヒドラジン水和物である抱水ヒドラジン(N2H4・H2O、分子量:50.06)があるが、どちらを用いてもかまわない。ヒドラジンは、その還元反応は後述する式(2)に示す通りであるが、(特にアルカリ性で)還元力が高いこと、還元反応の副生成物が反応液中に生じないこと(窒素ガスと水)、不純物が少ないこと、および入手が容易なこと、という特徴を有しているため還元剤に好適であり、例えば、市販されている工業グレードの60質量%抱水ヒドラジンを用いることができる。
ヒドラジンの還元力は、反応液のアルカリ性が強い程大きくなるため(後述する式(2)参照)、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、水酸化アルカリをアルカリ性を高めるpH調整剤として用いる。水酸化アルカリは特に限定されるものではないが、入手の容易さや価格の面から、アルカリ金属水酸化物を用いることが好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる1種以上とすることがより好ましい。
晶析工程の反応液中には、必要に応じて、錯化剤(または錯化剤水溶液)をニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液の少なくともいずれかに少量配合してもよいし、晶析反応の時に添加することや滴下することにより、投入することもできる。錯化剤は、適切なものを適正量用いれば、還元反応促進剤として働いて晶析時間の制御が可能なったり、ニッケル晶析粉の粒状性(球状性)や粒子表面平滑性を改善できたり、粗大粒子低減が可能になる場合がある。
晶析工程の反応液中には、あらかじめ分子内にスルフィド基(-S-)を1個以上含有するスルフィド化合物(またはスルフィド化合物水溶液)をニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液の少なくともいずれかに少量配合しておく。スルフィド化合物は、適切なものを適正量用いれば、核発生促進剤として働いてニッケル粉末の微細化が容易となったり、ニッケル粉末の表面を平滑化したり、前記アルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体との併用によりヒドラジンの自己分解のより一層の抑制や粗大粒子のより一層の低減が可能になる。
晶析工程の反応液中には、アルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体、スルフィド化合物による上述の錯化剤、ヒドラジンの自己分解抑制剤、ニッケル粒子同士の連結抑制剤、核発生促進剤等の各作用を阻害せず、薬剤コスト増が問題とならない範囲内であれば、上述のニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、還元剤(ヒドラジン)、水酸化アルカリ、スルフィド化合物に加え、分散剤、消泡剤などの各種添加剤を少量含有させてもよい。分散剤は、適切なものを適正量用いれば、ニッケル晶析粉の粒状性(球状性)や粒子表面平滑性を改善できたり、粗大粒子低減が可能になる場合がある。また、消泡剤も、適切なものを適正量用いれば、晶析反応で生じる窒素ガス(後述の式(2)~式(4)参照)に起因する晶析工程での発泡を抑制することが可能となる。前述の錯化剤と分散剤の境界線は曖昧であるが、分散剤としては、公知の物質を用いることができ、例えば、アラニン(CH3CH(COOH)NH2)、グリシン(H2NCH2COOH)、トリエタノールアミン(N(C2H4OH)3)、ジエタノールアミン(別名:イミノジエタノール)(NH(C2H4OH)2)などが挙げられる。
図3及び図4は、いずれも本発明の一実施形態に係るニッケル粉スラリーの製造方法において、ニッケル晶析粉を得るための晶析工程、洗浄・ろ過工程、乾燥工程を示す図であるが、それぞれの晶析工程での晶析手順は異なっており、晶析手順は以下の第1の実施形態、第2の実施形態に大別される。
晶析工程では、反応液中において、水酸化アルカリとニッケルよりも貴な金属の金属塩の共存下でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン、またはニッケル錯イオン)をヒドラジンで還元し、初期核を発生させ、次いで粒成長させることニッケル晶析粉を得る。なお、ニッケルよりも貴な金属の金属塩と極微量の特定のスルフィド化合物を併用すると、スルフィド化合物の作用で核発生を促進できるため、貴金属化合物を主成分とする高価な核剤を多量に用いずとも、例えば、数平均粒径0.02μm程度~0.15μm程度の微細で、かつ連結粒子の少ないニッケル晶析粉を得ることができる。スルフィド化合物の添加は、ニッケル晶析粉の球状性の改善・充填性の向上にも役立つことが分かっている。
Ni2++2e-→Ni↓ (2電子反応) ・・・(1)
N2H4→N2↑+4H++4e- (4電子反応) ・・・(2)
2NiCl2+N2H4+4NaOH→2Ni(OH)2+N2H4+4NaCl
→2Ni↓+N2↑+4NaCl+4H2O
・・・(3)
3N2H4→N2↑+4NH3 ・・・(4)
晶析工程の晶析条件として、少なくとも、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、ヒドラジン、水酸化アルカリ、スルフィド化合物、必要に応じてアルキレンアミンなどの錯化剤を含む反応液が調合された時点、すなわち、還元反応が開始する時点の反応液の温度(反応開始温度)が、40℃~90℃とすることが好ましく、50℃~80℃とすることがより好ましく、60℃~70℃とすることがさらに好ましい。なお、ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液などの個々の溶液の温度は、それらを混合して得られる反応液の温度(反応開始温度)が上記温度範囲になれば特に制約はなく自由に設定することができる。反応開始温度は、高いほど還元反応は促進され、かつニッケル晶析粉は高結晶化する傾向にあるが、一方で、ヒドラジンの自己分解反応がそれ以上に促進される側面があるため、ヒドラジンの消費量が増加するとともに、反応液の発泡が激しくなる傾向がある。したがって、反応開始温度が高すぎると、ヒドラジンの消費量が大幅に増加したり、多量の発泡で晶析反応を継続できなくなる場合がある。一方で、反応開始温度が低くなり過ぎると、ニッケル晶析粉の結晶性が著しく低下したり、還元反応が遅くなって晶析工程の時間が大幅に延長して生産性が低下する傾向がある。以上の理由から、上記温度範囲にすることで、ヒドラジン消費量を抑制しながら、高い生産性を維持しつつ、高性能で微細なニッケル晶析粉を安価に製造することができる。
洗浄・ろ過工程は、晶析反応で得られた微細なニッケル晶析粉を含む反応液を洗浄処理に供した後、ろ過処理によりニッケル晶析粉含水物を得る工程である。ヒドラジンによる還元反応で反応液中に生成した微細なニッケル晶析粉は、洗浄処理が施され、ろ過(固液分離)処理により反応液から分離され、ケーキ状のニッケル晶析粉含水物とされる。また前述の通り、洗浄処理の前後もしくは洗浄処理の途中で必要に応じて、メルカプト化合物やジスルフィド化合物などの硫黄化合物で硫黄コート処理を施される。
乾燥工程は、晶析反応により得られた微細なニッケル晶析粉を、ガス供給口及びガス排出口を備えた乾燥容器を用いて、真空下または不活性ガス雰囲気下で乾燥して、微細なニッケル粉末を得る工程である。洗浄・ろ過工程で得られたケーキ状のニッケル晶析粉含水物は、乾燥処理により微細なニッケル粉末とする。この乾燥処理において、微細なニッケル晶析粉はその数平均粒径が0.15μm程度以下であるため、酸素に触れると酸化・発熱が急速に進行して局所的な高温化が起こり発火に繋がる恐れがある。従って、乾燥工程においては、微細なニッケル晶析粉が酸素に触れないように乾燥処理する必要があり、真空下または窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で微細なニッケル晶析粉を乾燥する。乾燥工程において、数平均粒径0.15μm程度以下の微細なニッケル粉末が酸化して発熱することを抑制することができれば、乾燥容器中に酸素が存在していてもよい。具体的には、乾燥工程における、乾燥容器中の酸素分圧が、好ましくは2kPa以下、さらに好ましくは0.2kPa以下であることが望ましい。
溶媒添加工程は、乾燥容器内において、微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を大気に暴露することなく、微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に溶媒を添加して、ニッケル粉スラリーを得る工程である。乾燥容器内で乾燥処理された微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)は、乾燥容器から取り出すことなく、つまり大気に暴露されることはなく乾燥容器内で溶媒が添加されてニッケル粉スラリーとなる。すなわち、前述した乾燥工程と溶媒添加工程は、微細なニッケル粉末を大気に暴露させずに行うために、連続して行うことが好ましく、また、乾燥工程と溶媒添加工程を連続して行うために、乾燥工程と溶媒添加工程は、同一の乾燥容器を用いて行うことが好ましい。乾燥工程において真空下で乾燥を行った場合には、溶媒を添加する前に、ガス供給口から窒素やアルゴン等の不活性ガスを導入して、乾燥容器内を不活性ガス雰囲気とするのが好ましい。乾燥工程で徐酸化処理を行った場合も、同様に、不活性ガスを導入して乾燥容器内を不活性ガス雰囲気としてもよい。
前述した実施形態のニッケル粉スラリーの製造方法において得られる微細なニッケル粉末(ニッケル晶析粉)は、還元剤としてヒドラジンを用い、かつ特定のスルフィド化合物を適用した水溶液系の湿式法により得られ、安価で、高性能で、かつ微細であって充填性に優れ、積層セラミックコンデンサの内部電極の一層の薄層化に好適である。ニッケル粉スラリーに含まれる微細なニッケル粉末(ニッケル晶析粉)の特性としては、乾燥工程後に乾燥容器から少量サンプリングした微細なニッケル粉末(ニッケル晶析粉)について、以下の、数平均粒径、不純物含有量(塩素含有量、アルカリ金属含有量)、硫黄含有量、粗大粒子の含有量、をそれぞれ求めて評価している。
近年の積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応するという観点からは、ニッケル粉末の数平均粒径は0.02μm程度~0.15μm程度が好ましく、0.02μm~0.1μmとするのがより好ましい。本明細書におけるニッケル粉末の平均粒径は、ニッケル粉末の走査電子顕微鏡写真(SEM像)から求めた数平均の粒径である。
湿式法によるニッケル粉末には、薬剤起因の不純物である塩素やアルカリ金属が含有される。これらの不純物は、積層セラミックコンデンサの製造時において内部電極の欠陥発生の原因となる可能性があるため、可能な限り低減することが好ましい。具体的には、塩素、アルカリ金属ともに、0.01質量%以下であることが好ましい。
積層セラミックコンデンサの内部電極に適用されるニッケル粉末は、硫黄を含有していることが好ましい。ニッケル粉末表面は、内部電極ペーストに含まれるエチルセルロースなどのバインダ樹脂の熱分解を促進する作用があり、積層セラミックコンデンサ製造時の脱バインダ処理において、低温からバインダ樹脂が分解されて分解ガスが多量に発生しクラックが発生することがある。このバインダ樹脂の熱分解を促進する作用は、ニッケル粉末の表面に硫黄を付着させることで大幅に抑制されることが知られている。硫黄含有量は、上記の目的を達成するためには、1質量%以下がよく、これを超えると硫黄に起因した内部電極の欠陥等が生じるため好ましいとはいえない。
本明細書の粗大粒子の含有量は、数平均粒径が0.1μm以上のニッケル粉末については、走査電子顕微鏡写真(SEM像)(倍率10000倍)を20視野で撮影し、その20視野のSEM像において、主にニッケル粒子が連結して形成された粒径0.5μm以上の粗大粒子の含有量(%)、すなわち、粗大粒子の個数/全粒子の個数×100、を計測して求めている。また、数平均粒径が0.1μm未満のニッケル粉末については、走査電子顕微鏡写真(SEM像)(倍率20000倍)を20視野で撮影し、その20視野のSEM像において、主にニッケル粒子が連結して形成された粒径0.3μm以上の粗大粒子の含有量(%)、すなわち、粗大粒子の個数/全粒子の個数×100、を計測して求めている。上記粒径0.5μm以上、あるいは、粒径0.3μm以上の粗大粒子の含有量は、積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応するという観点からすると、1%以下であることが好ましい。
[ニッケル塩溶液の調製]
ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl2・6H2O、分子量:237.69)405g、スルフィド化合物として分子内にスルフィド基(-S-)を1個含有するL-メチオニン(CH3SC2H4CH(NH2)COOH、分子量:149.21)2.542g、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NH4)2PdCl4、分子量:284.31)13.36mgを、純水1880mLに溶解して、主成分としてニッケル塩と、スルフィド化合物と、ニッケルより貴な金属の金属塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩溶液を調製した。ここで、ニッケル塩溶液において、スルフィド化合物であるL-メチオニンはニッケルに対し、モル比で0.01(1.0モル%)と微量で、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し50.0質量ppm(27.6モルppm)である。
還元剤として抱水ヒドラジン(N2H4・H2O、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を276g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。還元剤溶液に含まれるヒドラジンのニッケルに対するモル比は1.94であった。
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)230gを、純水560mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を用意した。水酸化アルカリ溶液に含まれる水酸化ナトリウムのニッケルに対するモル比は3.38であった。
錯化剤として、分子内に第1級アミノ基(-NH2)を2個含有するアルキレンアミンであって、還元反応促進剤および自己分解抑制剤の作用を有する、エチレンジアミン(略称:EDA)(H2NC2H4NH2、分子量:60.1)1.024gを、純水18mLに溶解して、主成分としてのエチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。アミン化合物溶液に含まれるエチレンジアミンはニッケルに対し、モル比で0.01(1.0モル%)と微量であった。
上記各薬剤を用い、図4に示す晶析手順で晶析反応を行い、微細なニッケル晶析粉を得た。すなわち、塩化ニッケル、スルフィド化合物、およびパラジウム塩を純水に溶解したニッケル塩溶液を撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ液温75℃になるように撹拌しながら加熱した後、液温25℃でヒドラジンと水を含む上記還元剤溶液を混合時間20秒で添加混合してニッケル塩・還元剤含有液とした。このニッケル塩・還元剤含有液に液温25℃で水酸化アルカリと水を含む上記水酸化アルカリ溶液を混合時間80秒で添加混合し、液温63℃の反応液(塩化ニッケル+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム+スルフィド化合物)を調合し、還元反応(晶析反応)を開始した(反応開始温度63℃)。反応液の色調は、前述の式(3)で示されるように、反応液調合直後は水酸化ニッケル(Ni(OH)2)の黄緑色であったが、反応開始(反応液調合)から2分程度すると、核剤(パラジウム塩)の働きによる核発生に伴い反応液が変色(黄緑色→暗灰色)した。反応液が黒色に変化した反応開始後3分後から18分後までの15分間にかけて上記アミン化合物溶液を上記反応液に滴下混合し、ヒドラジンの自己分解を抑制しながら還元反応を進めて微細なニッケル晶析粉を反応液中に析出させた。反応開始から30分以内には、式(3)の還元反応は完了し、反応液の上澄み液は透明で、反応液中のニッケル成分はすべて金属ニッケルに還元されていることを確認した。晶析工程で用いた各種薬剤と晶析条件を、表1にまとめて示す。
上記表面処理したニッケル晶析粉含有スラリーに対し、粗洗浄処理としてデカンテーションと純水添加・撹拌を2回行い、次いで、このニッケル晶析粉含有スラリーをニッケル晶析粉濃度が10質量%になるように調整した後、高圧衝突型解砕装置(圧力:200MPa)に10パス通過させて湿式解砕処理を行った。この湿式解砕処理により粗大粒子が低減されたニッケル晶析粉含有スラリーを吸引ろ過してろ過ケーキ状とし、さらに該ろ過ケーキに、導電率が1μS/cmの純水を通水し、ろ液の導電率が10μS/cm以下になるまで通水洗浄し、固液分離してニッケル晶析粉含水物を得た。
上記ニッケル晶析粉含水物を、図5に示すような撹拌羽根付ステンレス真空乾燥容器100(プライミクス(株)製微少量混合混錬機;ハイビスミックス2P-03型:特殊形状羽根の2軸撹拌)中に投入し、温水ジャケット加熱の95℃で到達真空度1Paのドライ真空ポンプを用いてガス排出口120から排気して真空下で乾燥(乾燥後は水蒸気が存在しなくなり、真空度は10Pa以下に到達したため、酸素分圧も10Pa以下と考えて良い)した後、微細なニッケル晶析粉に対して酸素(O)量が2.5質量%となるようにガス供給口110から酸素ガス濃度1体積%の窒素ガスを所定量供給して徐酸化処理を行い、撹拌羽根付ステンレス真空乾燥容器100中に微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。
微細なニッケル晶析粉に上記徐酸化処理を施した後、ガス供給口110から窒素ガスを供給し、微細なニッケル晶析粉の大気雰囲気への暴露を防ぎながら、撹拌羽根付ステンレス真空乾燥容器中に溶媒添加口130(ガス供給口内に差込んだ細いチューブで代用)を介して有機溶剤であるターピネオールを添加(微細なニッケル晶析粉:ターピネオール=70:30(質量比))し、湿式法により製造された粗大粒子が低減された微細なニッケル粉末と溶媒を含む、実施例1に係るニッケル粉スラリーを得た。
実施例2では、実施例1において、洗浄・ろ過工程で湿式解砕処理を行わず、粗大粒子が低減されていない微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)とした。すなわち、以下の通りである。
表面処理したニッケル晶析粉含有スラリーに対し、高圧衝突型解砕装置(圧力:200MPa)による湿式解砕処理も行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行い、ニッケル晶析粉含水物を得た。このニッケル晶析粉含水物を、図5に示すような撹拌羽根付ステンレス真空乾燥容器100(プライミクス(株)製微少量混合混錬機;ハイビスミックス2P-03型:特殊形状羽根の2軸撹拌)中に投入し、微細なニッケル晶析粉に対して酸素(O)量が2.5質量%となるように徐酸化処理が施された、粗大粒子が低減されていない微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。以降、実施例1と同様にして、ニッケル粉スラリーを得た。
比較例1では、実施例1において、洗浄・ろ過工程で湿式解砕処理を行わず、粗大粒子が低減されていない微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た後、空気雰囲気において乾式での解砕処理を施した。すなわち、以下の通りである。
表面処理したニッケル晶析粉含有スラリーに対し、粗洗浄処理としてデカンテーションと純水添加・撹拌を行わず、さらに、高圧衝突型解砕装置(圧力:200MPa)による湿式解砕処理も行わなかった以外は、実施例1と同様に行い、微細なニッケル晶析粉に対して酸素(O)量が2.5質量%となるように徐酸化処理が施された、粗大粒子が低減されていない微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。
図1に示すように、上記粗大粒子が低減されていない微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に大気雰囲気中で乾式での解砕処理を実施し、ニッケル粉末中の主にニッケル粒子が連結して形成された粗大粒子の低減を試みた。具体的には、上記ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、0.5MPaの加圧空気を用いた乾式での解砕処理であるスパイラルジェットミル解砕処理を施したところ、急激な酸化・発熱による発火を生じたため、比較例1に係る微細なニッケル粉末は得られなかった。
比較例2では、実施例1において、洗浄・ろ過工程で湿式解砕処理を行わず、粗大粒子が低減されていない微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た後、窒素ガス雰囲気において乾式での解砕処理を施した。すなわち、以下の通りである。
表面処理したニッケル晶析粉含有スラリーに対し、粗洗浄処理としてデカンテーションと純水添加・撹拌を行わず、さらに、高圧衝突型解砕装置(圧力:200MPa)による湿式解砕処理も行わなかった以外は、実施例1と同様に行い、微細なニッケル晶析粉に対して酸素(O)量が2.5質量%となるように徐酸化処理が施された、粗大粒子が低減されていない微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。
図1に示すように、上記粗大粒子が低減されていない微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に窒素ガス雰囲気中で乾式での解砕処理を実施し、ニッケル粉末中の主にニッケル粒子が連結して形成された粗大粒子の低減を試みた。具体的には、上記ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、0.5MPaの加圧窒素ガスを用いた乾式での解砕処理であるスパイラルジェットミル解砕処理を施し、粗大粒子が低減された微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を窒素ガス雰囲気下に得た。しかしながら、上記粗大粒子が低減された微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を大気雰囲気中に取り出したところ、粉末の一部で急激な酸化・発熱による発火を生じたため、比較例2に係るニッケル粉スラリーは作製できなかった。
以上の評価結果により本発明の例示的態様である実施例1、実施例2のように、水を含む微細なニッケル晶析粉を真空下や不活性雰囲気下で、乾燥容器中で乾燥して、微細なニッケル粉末を得る乾燥工程と、乾燥容器内において、微細なニッケル粉末を大気に暴露することなく、微細なニッケル粉末に溶媒を添加して、ニッケル粉スラリーを得る溶媒添加工程行うことによりニッケル粉スラリーを製造することで、微細なニッケル粉末の急激な酸化・発熱による発火を抑制して、ニッケル粉スラリーを、簡便、かつ安価に得ることができることが確認された。また、実施例1のように、洗浄・ろ過工程の前に湿式解砕処理を行うことにより、微細なニッケル晶析粉の表面酸化を抑制しながらも、粗大粒子が低減された微細なニッケル粉末を含むニッケル粉スラリーを製造することができることが示された。
110 ガス供給口
120 ガス排出口
130 溶媒添加口
140 撹拌羽根
150 容器本体
160 加熱装置(ヒーター、または加温ジャケット)
Claims (7)
- 湿式法による晶析反応により得たニッケル晶析粉を含む反応液中の、前記ニッケル晶析粉を洗浄・ろ過処理して得たニッケル晶析粉含水物を、ガス供給口及びガス排出口を備えた乾燥容器を用いて、真空下または不活性ガス雰囲気下で乾燥して、ニッケル粉末を得る乾燥工程と、
前記乾燥容器内において、前記ニッケル粉末を大気に暴露することなく、前記ニッケル粉末に溶媒を添加して、ニッケル粉スラリーを得る溶媒添加工程と、を含み、
前記ニッケル粉末の数平均粒径が0.02μm~0.1μmであるニッケル粉スラリーの製造方法。 - 前記乾燥工程において、前記ニッケル晶析粉を撹拌しながら乾燥させる、請求項1に記載のニッケル粉スラリーの製造方法。
- 前記乾燥工程と前記溶媒添加工程は、前記ニッケル粉末を大気に暴露させずに行うために、連続して行い、
前記乾燥工程と前記溶媒添加工程を連続して行うために、前記乾燥工程と前記溶媒添加工程は、同一の乾燥容器を用いて行う、請求項1または2に記載のニッケル粉スラリーの製造方法。 - 湿式法による晶析反応により前記ニッケル晶析粉を含む反応液を得る晶析工程と、
前記ニッケル晶析粉を洗浄・ろ過処理して、前記ニッケル晶析粉含水物を得る洗浄・ろ過工程と、
前記洗浄・ろ過工程の前、または前記洗浄・ろ過工程の途中で、前記ニッケル晶析粉に湿式解砕処理を施して、前記ニッケル晶析粉に含まれる連結粒子を低減する、湿式解砕工程と、を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のニッケル粉スラリーの製造方法。 - 前記乾燥工程において、前記ニッケル晶析粉を低酸素濃度のガスと接触させる徐酸化処理を施す、請求項1~4のいずれか1項に記載のニッケル粉スラリーの製造方法。
- 前記溶媒が有機溶剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載のニッケル粉スラリーの製造方法。
- 前記有機溶剤が、ターピネオール、ジヒドロターピネオールから選ばれる1種類以上である、請求項6に記載のニッケル粉スラリーの製造方法。
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