JP2023001435A - ニッケル粉末の製造方法 - Google Patents

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【課題】粗大粒子が少ないニッケル粉末を得ることができる、ニッケル粉末の製造方法を提供する。【解決手段】水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、ヒドラジン、水酸化アルカリおよび水を含む反応液中において、前記ヒドラジンによる還元反応で前記水溶性ニッケル塩を晶析させて得られるニッケル晶析粉のスラリーを湿式解砕し、粗大粒子を低減したニッケル粉スラリーを得る湿式解砕工程と、前記湿式解砕工程後、前記ニッケル粉スラリーに酸を投入して当該ニッケル粉スラリーのpHを2~7の値に調整し、前記ニッケル粉スラリー中の水酸化ニッケルを溶解する酸洗浄工程と、前記酸洗浄工程後のニッケル粉スラリーの溶媒を水溶性有機溶剤に置換する溶媒置換工程と、前記溶媒置換工程後のニッケル粉スラリーを固液分離してニッケル粉ケーキを得る固液分離工程と、前記固液分離工程後の前記ニッケル粉ケーキを乾燥してニッケル粉末を得る乾燥工程を含む、ニッケル粉末の製造方法。【選択図】図3

Description

本発明は、積層セラミック部品の電極材として用いられる、安価で高性能なニッケル粉末の製造方法に関するものであり、特に湿式法により得られる安価で高性能なニッケル粉末の製造方法に関する。
従来、導電性粉末、樹脂および有機溶剤を主成分とする導電性ペーストは、電気回路の配線基板を構成する導電層、電極層、層間接続材や、電子部品の電極層などの形成に使用されている。これらの配線基板や電子部品の小型化および高密度化に伴って、導電層および電極層の幅や厚みが縮小される傾向にある。このため、これらを形成する材料として用いられる導電性ペーストの材料である導電性粉末についても、その小径化が要求されている。粉体には、通常、特定の大きさの粒径を超える粗大粒子が存在するが、導電性粉末の小径化に伴って、導電性粉末中に粗大粒子が存在することによる導電性粉末の特性に対する悪影響が問題となっている。そのため、導電性粉末には、粗大粒子が含まれないこと、あるいは粗大粒子が非常に少ないことという特性が求められている。
この粉体中における粗大粒子の存在による問題は、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の内部電極用導電性ペーストの分野で、特に問題となっている。積層セラミックコンデンサは、例えば誘電体グリーンシート上に、導電性粉末として主にニッケル粉末を分散させた導電性ペーストをスクリーン印刷することにより内部電極を形成し、この内部電極が印刷された複数のグリーンシートを、内部電極が交互に重なるように積層して圧着することにより積層体を得て、この積層体を、所定の大きさに切断し、脱バインダ処理を行った後、1300℃まで高温焼成してセラミック焼結体を得て、最後に、このセラミック焼結体に外部電極を取り付ける工程により、作製されている。
積層セラミックコンデンサの小型化および大容量化に伴い、内部電極や誘電体はともに薄層化が進められている。これに伴って、内部電極ペーストに使用されるニッケル粉末の粒径も微細化が進行し、平均粒径0.4μm以下のニッケル粉末が必要とされ、特に平均粒径0.3μm以下のニッケル粉末の使用が主流となっている。また、内部電極の膜厚にもよるが、導電性粉末において、通常、粉体全体の数平均粒径の3倍~5倍程度以上の粒径を基準粒径として、この基準粒径よりも大きな粒子が粗大粒子とみなされる。ここで、導電性粉末が主として一次粒子で構成されている場合、粗大粒子には、一次粒子径が基準以上の大きな粒子だけでなく、一次粒子が強固に連結ないしは凝集して容易に解砕できない状態である二次粒子で、基準の粒径以上の粒径を有する粒子も含まれる。
ニッケル粉末の製造方法には、大別すると、気相法と湿式法がある。気相法としては、例えば、特許文献1に記載されている塩化ニッケル蒸気を水素により還元してニッケル粉末(気相ニッケル粉末)を作製する方法や、特許文献2に記載されているニッケル金属をプラズマ中で蒸気化してニッケル粉末(気相ニッケル粉末)を作製する方法がある。また、湿式法としては、例えば、特許文献3に記載されている、ニッケル塩溶液に還元剤を添加してニッケル粉末(以下、湿式法で得たニッケル粉末を「湿式ニッケル粉末」とする場合がある)を作製する方法がある。
気相法は、1000℃程度以上の高温プロセスのため結晶性に優れる高特性のニッケル粉末を得るためには有効な手段ではあるが、得られるニッケル粉末の粒径分布が広くなるという問題がある。上述の通り、内部電極の薄層化においては、粗大粒子を含まず、比較的粒径分布の狭い平均粒径0.4μm以下のニッケル粉末が必要とされるため、気相法でこのようなニッケル粉末を得るためには、高価な分級装置の導入による分級処理が必須となる。
なお、分級処理では、0.6μm~2μm程度の任意の値の分級点を目途に、分級点よりも大きな粗大粒子の除去が可能であるが、分級点よりも小さな粒子の一部も同時に除去されてしまうため、製品実収が大幅に低下するという問題もある。したがって、気相法では、上述の高額な設備導入も含めて、製品のコストアップが避けられない。
さらに、気相法では、平均粒径が0.2μm以下、特に、0.1μm以下のニッケル粉末を用いる場合に、分級処理による粗大粒子の除去自体が困難になるため、今後の内部電極の一層の薄層化に対応できない。
一方で、湿式法は、気相法と比較して、得られるニッケル粉末の粒径分布が狭いという利点がある。特に、特許文献3に記載されているニッケル塩と銅塩を含む溶液に還元剤としてヒドラジンを含む溶液を添加してニッケル粉末を作製する方法では、ニッケルよりも貴な金属の金属塩(銅塩)が核剤となり、この核剤の共存下でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン(Ni2+)、またはニッケル錯イオン)がヒドラジンで還元される。そのため、核発生数を制御することで粒径を制御することができ、かつ核の発生とニッケル粒子の成長が均一となるため、気相法より狭い粒径分布で微細なニッケル粉末を得られることが知られている。
ところで、上記湿式法で得られるニッケル粉末を積層セラミックコンデンサに適用する場合には、前述した内部電極層と誘電体層からなる積層体における電極間ショート(短絡)を防止するため、ニッケル粉末と樹脂を主成分とするニッケルペースト乾燥膜(ニッケルペーストを印刷・乾燥させて得られる乾燥膜)には高い平坦性が求められる。特に、近年の積層セラミックコンデンサの高容量化に伴う内部電極層の薄膜化(0.5μm~1.0μm程度)に対応するためには、平均粒径0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下の微細なニッケル粉末が用いられ、また、そのニッケル粉末中に含まれる内部電極層の膜厚と同程度のサイズ(例えば、0.8μm~1.2μm)の粗大粒子は極限まで低減することが要求されている。
そこで、特許文献4には、湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法として、ヒドラジンの還元力を高めるために強アルカリ性反応液中で還元反応を行う晶析工程において、反応液中に特定のアミン化合物やスルフィド化合物を極微量添加して、ヒドラジンの自己分解反応を著しく抑制するとともに、ニッケル粒子同士が連結して生じる粗大粒子を形成しにくくして、粗大粒子の含有量が非常に少ない高性能なニッケル粉末を安価に得る方法が示されている。
ニッケル粉末中の粗大粒子を低減するための手段としては、気相ニッケル粉では上述の分級処理による粗大粒子の除去が挙げられるが、特許文献5に記載されるように、分級処理を行うニッケル粉スラリー中においてグルタミン酸などを用いて気相ニッケル粉末の凝集体形成を抑制する手法なども用いられている。一方で、湿式ニッケル粉末では、粗大粒子を低減するための手段として解砕処理などが提案されている。たとえば、特許文献6には、特定の解砕処理により、特定の粒度分布を有し、かつ、特定の範囲の平均一次粒子径を有する湿式ニッケル粉末およびその製造方法が開示されている。
しかしながら、上記分級処理や解砕処理は、平均粒径が0.2μm以下、特に、0.1μm以下のニッケル粉末を対象とした場合に、粗大粒子の除去または解砕自体がますます困難になってくる。特に、0.15μm以下のニッケル粉末に乾式解砕を施す場合、個々のニッケル粒子の質量減少による運動エネルギー低下に起因して、解砕力不足となるおそれや、比表面積増加に伴う解砕新生面での酸化熱増大に起因する発熱・発火の危険性がある。そのため、分級処理や解砕処理によって、今後の内部電極の薄層化へ対応することの難度が一層高まっている。
一方、分散性に優れたニッケル粉末の製造方法として、たとえば、特許文献7には水熱合成法を用いた方法が報告されている。この提案された方法によれば、水熱反応後の結果物を、脱イオン水およびエタノールを用いて洗浄することが開示されているが、得られるニッケル粉末は、その凝集度合いをSEM観察のみで判断しており、粗大粒子の含有量に関して定量評価を行っていない。そのため、粗大粒子の発生を抑制する観点から、水熱合成法が有効であるか、明らかとなっていない。
また、特許文献8には、湿式法による晶析後に、デカンテーションによって反応後液を水で希釈除去し、さらに同様に水を水溶性有機溶媒で希釈除去する方法が報告されている。この提案された方法によれば、得られるニッケル粉末は酸素含有量が少ないこと、および凝集が抑制されていることが記載されているものの、粗大粒子に関する評価はSEM観察のみであり、定量化した結果は報告されていない。そのため、粗大粒子の発生を抑制する観点から、この方法が有効であるか、明らかとなっていない。
図1に、従来の湿式ニッケル粉末の製造過程を示すが、固液分離工程や乾燥工程において、例えば、固液分離工程で得られるニッケル粉ケーキ(ニッケル晶析粉+付着液)がそのハンドリング中に空気と触れる時間が長くなると、図2に示すように、ニッケル粒子が酸化して水酸化ニッケルが生成して複数のニッケル粒子を包み込んだ1μm程度以上のサイズの粗大粒子(以後、この粗大粒子を「水酸化ニッケル含有粗大粒子」とする場合がある)を形成する場合が多くなる。また、ニッケル粉ケーキの乾燥が進むと付着液(水が主成分)の高い表面張力に起因してニッケル粒子同士が互いに強く引付けあって強い凝集(乾燥凝集)を生じる場合が多くなる。これらの場合、水酸化ニッケル含有粗大粒子や乾燥凝集によって、湿式ニッケル粉末中の粗大粒子が単に多くなるのみならず、湿式ニッケル粉末を用いて導電性ペーストを製造する際に、ニッケル粒子の分散性が低下するという問題も生じてしまう。
特許文献9には、湿式法による晶析後に固液分離を実施したうえで、水溶性有機溶剤で再度スラリー化したのちに固液分離・乾燥を施すことによってニッケル粉末を得る方法が報告されている。この提案された方法によれば、水酸化ニッケル含有粗大粒子の生成やニッケル粒子の乾燥凝集を抑えることが可能である。また、得られたニッケル粉末は、必要に応じてスパイラルジェット解砕処理やカウンタージェットミル解砕処理などの乾式解砕方法や、高圧流体衝突解砕処理などの湿式解砕方法、その他の汎用解砕方法が適用可能な旨が記載されている。しかし、実施例においては乾式解砕方法を用いた場合しか記載がなく、前述のとおり、平均粒径0.15μm以下のニッケル粉末に対して乾式解砕方法の適用は難しいため、湿式による処理が好ましいが、湿式解砕方法を適用した場合に、解砕後のニッケル乾燥粉末を得る具体的方法については言及されていない。
特開平4-365806号公報 特表2002-530521号公報 特開2002-53904号公報 WO2017/069067号 特開2006-219688号公報 特開2001-247903号公報 特許第5421339号公報 特許第6065699号公報 特開2019-44268号公報
本発明は、水溶液系の湿式法を用いてニッケル粉末を製造する場合において、粗大粒子が少ないニッケル粉末を得るためのニッケル粉末の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明のニッケル粉末の製造方法は、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、ヒドラジン、水酸化アルカリおよび水を含む反応液中において、前記ヒドラジンによる還元反応で前記水溶性ニッケル塩を晶析させて得られるニッケル晶析粉のスラリーを湿式解砕し、粗大粒子を低減したニッケル粉スラリーを得る湿式解砕工程と、前記湿式解砕工程後、前記ニッケル粉スラリーに酸を投入して当該ニッケル粉スラリーのpHを2~7の値に調整し、前記ニッケル粉スラリー中の水酸化ニッケルを溶解する酸洗浄工程と、前記酸洗浄工程後のニッケル粉スラリーの溶媒を水溶性有機溶剤に置換する溶媒置換工程と、前記溶媒置換工程後のニッケル粉スラリーを固液分離してニッケル粉ケーキを得る固液分離工程と、前記固液分離工程後の前記ニッケル粉ケーキを乾燥してニッケル粉末を得る乾燥工程を含む。
以上説明したように、本発明によれば、水溶液系の湿式法を用いてニッケル粉末を製造する場合において、粗大粒子が少ないニッケル粉末を得ることができるニッケル粉末の製造方法を提供することができる。
従来の湿式ニッケル粉末の製造工程の一例を示す模式図である。 従来の湿式ニッケル粉末中にみられる水酸化ニッケル含有粗大粒子を示す模式図である。 本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における製造工程の一例を示す模式図である。 実施例1~8、比較例、および参考例に示す製造方法により得たニッケル粉末の粗大粒子の含有量を評価するために用いた、吸引ろ過装置の概略図である。
以下、本発明に係るニッケル粉末の製造方法について図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
ニッケル粉末の製造方法
1.晶析工程
1-1.晶析工程で用いる薬剤
1-2.晶析反応の手順(晶析手順)
1-3.晶析反応(還元反応、ヒドラジン自己分解反応)
1-4.晶析条件(反応開始温度)
2.湿式解砕工程
3.酸洗浄工程
4.溶媒置換工程
5.固液分離工程
6.乾燥工程
<ニッケル粉末の製造方法>
まず、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法について説明する。図3には、本発明の一実施形態に係る湿式ニッケル粉末の製造方法における製造工程の一例である模式図を示す。本発明の一実施形態に係る湿式ニッケル粉末の製造方法は、晶析工程と、湿式解砕工程と、酸洗浄工程と、溶媒置換工程と、固液分離工程と、乾燥工程を含む。
なお、所望により、ニッケル晶析粉を含む反応液や、洗浄液に硫黄化合物を添加して、硫黄成分でニッケル晶析粉の表面を修飾する表面処理(硫黄コート処理)を施して、湿式ニッケル粉末(ニッケル晶析粉)を得てもよい。このように湿式ニッケル粉末を表面処理することにより、ニッケルが有機物を分解する活性を弱めることが可能であり、例えば導電性ペースト中にて湿式ニッケル粉末と共存する樹脂の劣化を抑制することができる。なお、本発明において、「粉末」および「粉」は、粒子が多数集合して集合体となっている状態であり、晶析したニッケル粒子がスラリー状に分散しているものや、乾燥させて固体の集合体となったものはニッケル粉末やニッケル粉に該当する。例えば、「ニッケル晶析粉」は晶析工程で還元された状態のニッケル粉である。
(1.晶析工程)
晶析工程では、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、および水を混合した反応液中でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン、またはニッケル錯イオン)を、例えばヒドラジン等の還元剤を用いた還元反応により還元することができる。本発明では、ヒドラジンを用いる場合には、この反応液に、必要に応じてアミン化合物や硫黄含有化合物を混合させ、アミン化合物や硫黄含有化合物の存在下で、還元剤としてのヒドラジンの分解抑制をしながら、ニッケル塩を還元することもできる。
(1-1.晶析工程で用いる薬剤)
本発明の晶析工程では、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、必要に応じて、アミン化合物や硫黄含有化合物などの各種薬剤と水を含む反応液が用いられている。溶媒としての水は、得られるニッケル粉末中の不純物量を低減させる観点から、超純水(導電率:≦0.06 μS/cm(マイクロジーメンス・パー・センチメートル)、純水(導電率:≦1μS/cm)という高純度のものがよく、中でも安価で入手が容易な純水を用いることが好ましい。以下、上記各種薬剤について、それぞれ詳述する。
(a)水溶性ニッケル塩
水溶性ニッケル塩は、水に易溶であるニッケル塩であれば、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケルから選ばれる1種以上を用いることができる。これらのニッケル塩の中では、塩化ニッケル、硫酸ニッケルあるいはこれらの混合物を用いることが、より好ましい。
(b)ニッケルよりも貴な金属の金属塩
ニッケルよりも貴な金属の塩は、ニッケルよりもイオン化傾向が低いことにより、ニッケルを還元析出させる際にニッケルよりも先に還元される。したがって、ニッケルよりも貴な金属の塩は、ニッケル塩溶液に含有させると、ニッケルを還元析出させる際に、ニッケルよりも貴な金属が先に還元されて初期核となる核剤として作用するため、この初期核が粒子成長して得られるニッケル晶析粉(ニッケル粉末)において粒径制御や微細化を容易に行なうことができるようになる。
ニッケルよりも貴な金属の金属塩としては、水溶性でニッケルよりもイオン化傾向が低い金属の金属塩であればよく、例えば水溶性の銅塩や、金塩、銀塩、プラチナ塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩などの水溶性の貴金属塩が挙げられる。例えば、水溶性の銅塩としては硫酸銅を、水溶性の銀塩としては硝酸銀を、水溶性のパラジウム塩としては塩化パラジウム(II)ナトリウム、塩化パラジウム(II)アンモニウム、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)などを用いることができるが、これらには限定されない。
ニッケルよりも貴な金属の金属塩としては、特に上述したパラジウム塩を用いると、粒度分布は幾分広くなるものの、得られるニッケル粉末の粒径をより微細に制御することが可能となるため好ましい。パラジウム塩を用いた場合の、パラジウム塩とニッケルの割合[モルppm](パラジウム塩のモル数/ニッケルのモル数×10)は、湿式ニッケル粉末の目的とする数平均粒径によって適宜選択することができる。例えば、湿式ニッケル粉末の数平均粒径を0.05μm~0.5μmに設定するのであれば、パラジウム塩とニッケルの割合を0.2モルppm~100モルppmの範囲内、好ましくは0.5モルppm~80モルppmの範囲内とすることが好ましい。この割合が0.2モルppm未満だと、製造された湿式ニッケル粉末の数平均粒径が0.4μmを超えてしまう場合がある。一方で、この割合が100モルppmを超えると、高価なパラジウム塩を多く使用することとなり、湿式ニッケル粉末を製造するためのコスト増につながるおそれがある。
(c)還元剤
本発明の晶析工程に用いる還元剤は、特に限定されるものではないが、例えばヒドラジン(N、分子量:32.05)が挙げられる。なお、ヒドラジンには、無水のヒドラジンの他にヒドラジン水和物である抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)があるが、どちらを用いてもかまわない。ヒドラジンの還元反応は、後述する式(2)に示す通りであるが、特にアルカリ性で還元力が高いこと、還元反応の副生成物が窒素ガスと水であるために、還元反応による不純物成分が反応液中に生じないこと、ヒドラジン中の不純物がそもそも少ないこと、および入手が容易なこと、という特徴を有している。そのため、ヒドラジンは還元剤に好適であり、例えば、市販されている工業グレードの60質量%抱水ヒドラジンを用いることができる。
(d)水酸化アルカリ
ヒドラジンの還元力は、反応液のアルカリ性が強い程大きくなるため(後述する式(2)参照)、晶析工程において、アルカリ性を高めるpH調整剤として水酸化アルカリを用いることができる。水酸化アルカリとしては、特に限定されるものではないが、入手の容易さや価格の面から、アルカリ金属水酸化物を用いることが好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる1種以上を用いることがより好ましい。
水酸化アルカリの配合量は、還元剤としてのヒドラジンの還元力が十分高まるように、反応液のpHが、反応温度において、9.5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは10.5以上となるように決定するとよい。反応液のpHは、例えば、25℃と70℃程度を比較すると、高温の70℃の方が小さくなる。
(e)アミン化合物
本発明のアミン化合物は、前述のようにヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、さらにはニッケル粒子同士の連結抑制剤の作用を有しているため、必要に応じて、反応液に含まれてもよい。上記アミン化合物としては、分子内に第1級アミノ基(-NH)または第2級アミノ基(-NH-)をから選ばれる官能基のいずれかを合わせて2個以上含有する化合物であって、例えば、アルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかを用いることができる。一例としては、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合した下記式Aの構造を少なくとも有しているアミン化合物を用いることが好ましい。
Figure 2023001435000002
より具体的には、アルキレンアミンとしては、エチレンジアミン(HNCNH)、ジエチレントリアミン(HNCNHCNH)、トリエチレンテトラミン(HN(CNH)NH)、テトラエチレンペンタミン(HN(CNH)NH)、ペンタエチレンヘキサミン(HN(CNH)NH)、プロピレンジアミン(別名称:1,2-ジアミノプロパン、1,2-プロパンジアミン)(CHCH(NH)CHNH)から選ばれる1種以上を用いることができる。また、アルキレンアミン誘導体としては、トリス(2-アミノエチル)アミン(N(CNH)、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン(別名称:2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール(HNCNHCOH)、N-(2-アミノエチル)プロパノールアミン(別名称:2-(2-アミノエチルアミノ)プロパノール)(HNCNHCOH)、L(または、D、DL)-2,3-ジアミノプロピオン酸(別名称:3-アミノ-L(または、D、DL)-アラニン)(HNCHCH(NH)COOH)、エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(別名称:エチレン-N,N’-ジグリシン)(HOOCCHNHCNHCHCOOH)、N,N’-ジアセチルエチレンジアミン(別名称:N,N’-エチレンビスアセトアミド)(CHCONHCNHCOCH)、1,2-シクロヘキサンジアミン(別名称:1,2-ジアミノシクロヘキサン)(HNC10NH)、N,N’-ジメチルエチレンジアミン(CHNHCNHCH)、N,N’-ジエチルエチレンジアミン(CNHCNHC)、N,N’-ジイソプロピルエチレンジアミン(CH(CH)CHNHCNHCH(CH)CH)から選ばれる1種以上を用いることができる。これらのアルキレンアミン、アルキレンアミン誘導体は水溶性であり、中でもエチレンジアミン、ジエチレントリアミンは、ヒドラジンの自己分解抑制作用が比較的強く、入手が容易で安価のため好ましい。
上記アミン化合物の還元反応促進剤としての作用は、反応液中のニッケルイオン(Ni2+)を錯化してニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きによると考えられる。また、ヒドラジンの自己分解抑制剤や、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用については、アミン化合物分子内の第1級アミノ基(-NH)や第2級アミノ基(-NH-)と、ヒドラジンやニッケル晶析粉の表面との相互作用により、発現しているものと推測される。
なお、アミン化合物であるアルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体が、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合した上記式Aの構造を有するのが好ましい。ヒドラジン分子の分解を抑制する効果が大きくなるからである。例えば、ニッケル晶析粉に強く吸着するアミノ基の窒素原子が炭素数3以上の炭素鎖を介して結合していると、炭素鎖が長くなることでアミン化合物分子の炭素鎖部分の運動の自由度(分子の柔軟性)が大きくなると考えられる。その結果として、ニッケル晶析粉へのヒドラジン分子の接触を効果的に妨害できなくなって、ニッケルの触媒活性により自己分解するヒドラジン分子が多くなり、ヒドラジンの自己分解の抑制効果を低下させるものと考えられる。
実際に、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合したエチレンジアミン(HNCNH)やプロピレンジアミン(別名称:1,2-ジアミノプロパン、1,2-プロパンジアミン)(CHCH(NH)CHNH)と比べると、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数3の炭素鎖を介して結合したトリメチレンジアミン(別名称:1,3-ジアミノプロパン、1,3-プロパンジアミン)(HNCNH)は、ヒドラジンの自己分解抑制作用が劣っていることが確認されている。
ここで、反応液中の上記アミン化合物とニッケルの割合[モル%]((アミン化合物のモル数/ニッケルのモル数)×100)は、0.01モル%~5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%~2モル%の範囲がよい。上記割合が0.01モル%未満の場合、上記アミン化合物の量が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、またはニッケル粒子同士の連結抑制剤としての各作用を得ることができない場合がある。一方で、上記割合が5モル%を超えると、アミン化合物がニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きが強くなりすぎる結果、ニッケル晶析粉の粒子の成長に異常をきたす場合があり、ニッケル粉末の粒状性や球状性が失われていびつな形状となったり、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子が多く形成されるなど、ニッケル粉末の特性の劣化が生じるおそれがある。
(f)硫黄含有化合物(ヒドラジンの自己分解抑制補助剤)
反応液は、硫黄含有化合物を含んでもよい。本発明に用いる硫黄含有化合物は、ニッケルめっきの光沢剤やめっき浴の安定剤に適用される化合物であって、上記アミン化合物と異なり、単独で用いた場合にはヒドラジンの自己分解抑制作用はそれ程大きくない。ただし、ニッケル粒子表面と吸着などの相互作用を有しており、上記アミン化合物と併用すると、ヒドラジンの自己分解抑制作用を大幅に強めることができるヒドラジンの自己分解抑制補助剤の作用を有している。そのため、必要に応じて、反応液に添加するとよい。そして上記硫黄含有化合物は、分子内に、スルフィド基(-S-)、スルホニル基(-S(=O)-)、スルホン酸基(-S(=O)-O-)、チオケトン基(-C(=S)-)のいずれかを少なくとも1個以上含有する化合物である。さらに、上記硫黄含有化合物は、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤の作用に加えて、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用も有しており、上記アミン化合物と併用すると、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子の生成量をより効果的に低減することもできる。
硫黄含有化合物としては、例えば、分子内に、スルフィド基(-S-)を有するスルフィド化合物においては、水溶性が高い方が望ましく、したがって、分子内にさらにカルボキシ基(-COOH)、水酸基(-OH)、アミノ基(第1級:-NH、第2級:-NH-、第3級:-N<)のいずれかを少なくとも1個以上含有するカルボキシ基含有スルフィド化合物、水酸基含有スルフィド化合物、アミノ基含有スルフィド化合物のいずれかであることが好適であり、チアゾール環(CNS)を少なくとも1個以上含有するチアゾール環含有スルフィド化合物も水溶性は高くないが適用可能である。より具体的には、L(または、D、DL)-メチオニン(CHSCCH(NH)COOH)、L(または、D、DL)-エチオニン(CSCCH(NH)COOH)、N-アセチル-L(または、D、DL)-メチオニン(CHSCCH(NH(COCH))COOH)、ランチオニン(別名称:3,3’-チオジアラニン)(HOOCCH(NH)CHSCHCH(NH)COOH)、チオジプロピオン酸(別名称:3,3’-チオジプロピオン酸)(HOOCCSCCOOH)、チオジグリコール酸(別名称:2,2’-チオジグリコール酸、2,2’-チオ二酢酸、2,2’-チオビス酢酸、メルカプト二酢酸)(HOOCCHSCHCOOH)、メチオノール(別名称:3-メチルチオ-1-プロパノール)(CHSCOH)、チオジグリコール(別名称:2,2’-チオジエタノール)(HOCSCOH)、チオモルホリン(CNS)、チアゾール(CNS)、ベンゾチアゾール(CNS)から選ばれる1種以上が好適である。これらの中でもメチオニンやチオジグリコール酸は、ヒドラジンの自己分解抑制補助作用に優れ、かつ入手が容易で安価のため好ましい。なお、「L(または、D、DL)-メチオニン」は、「L-メチオニン、D-メチオニンまたはDL-メチオニン」の意味であり、L(または、D、DL)の表記がある他の化合物においても同様である。
スルフィド化合物以外の硫黄含有化合物としては、より具体的には、サッカリン(別名称:o-安息香酸スルフィミド、o-スルホベンズイミド)(CNOS)、ドデシル硫酸ナトリウム(C1225OS(O)ONa)、ドデシルベンゼンスルホン酸(C1225S(O)OH)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(C1225S(O)ONa)、スルホこはく酸ビス(2-エチルヘキシル)ナトリウム(別名称:スルホこはく酸ジ2-エチルヘキシルナトリウム、スルホこはく酸ジオクチルナトリウム)(NaOS(O)CH(COOCHCH(C)C)CH(COOCHCH(C)C)、チオ尿素(HNC(S)NH)から選ばれる1種以上である。これらの硫黄含有化合物は水溶性であり、中でもサッカリンやチオ尿素は、ヒドラジンの自己分解抑制補助作用に優れ、かつ入手が容易で安価のため好ましい。
上記硫黄含有化合物によるヒドラジンの自己分解抑制補助剤や、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用については、以下のように推測できる。すなわち、硫黄含有化合物は、分子内のスルフィド基(-S-)、スルホニル基(-S(=O)-)、スルホン酸基(-S(=O)-O-)、チオケトン基(-C(=S)-)がニッケル粒子のニッケル表面に分子間力により吸着するが、それ単独では、前述したアミン化合物分子のようにニッケル晶析粉を覆って保護する作用が大きくならない。一方で、アミン化合物と硫黄含有化合物を併用すると、アミン化合物分子がニッケル晶析粉の表面に強く吸着して覆い保護する際に、アミン化合物分子同士では完全に覆いきれない微小な領域が生じる可能性が高いが、その部分を硫黄含有化合物分子が吸着により補助的に覆うことで、反応液中のヒドラジン分子とニッケル晶析粉との接触がより効果的に妨げられ、さらにはニッケル晶析粉同志の合体もより強力に防止できて、上記作用が発現しているというものである。
ここで、反応液中の上記硫黄含有化合物とニッケルの割合[モル%]((硫黄含有化合物のモル数/ニッケルのモル数)×100)は、0.01モル%~5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%~2モル%、より好ましくは0.05モル%~1モル%の範囲がよい。上記割合が0.01モル%未満だと、上記硫黄含有化合物が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤やニッケル粒子同士の連結抑制剤の各作用が得られなくなるおそれがある。一方で、上記割合が5モル%を超えても上記各作用の向上は見られないため、単に硫黄含有化合物の使用量が増加するだけであり、薬剤コストが上昇すると同時に、反応液に有機成分の配合量が増大して晶析工程の反応廃液の化学的酸素要求量(COD)が上昇するため廃液処理コスト増大を生じる。
(f)その他の含有物
晶析工程の反応液中には、上記に加え、分散剤、錯化剤、消泡剤などの各種添加剤を含有させてもよい。例えば、分散剤や錯化剤は、適切なものを適正量用いれば、ニッケル晶析粉の粒状性(球状性)やニッケル晶析粉の粒子表面平滑性を改善することや、粗大粒子を低減することが可能になる場合がある。また、消泡剤も、適切なものを適正量用いれば、晶析反応で生じる窒素ガス(後述の式(2)~式(4)参照)に起因する晶析工程での発泡を抑制することで、例えば反応液が容器からあふれてしまうことを防止することが可能となる。分散剤としては、公知の物質を用いることができ、例えば、アラニン(CHCH(COOH)NH)、グリシン(HNCHCOOH)、トリエタノールアミン(N(COH))、ジエタノールアミン(別名:イミノジエタノール)(NH(COH))などが挙げられる。また、錯化剤としては、公知の物質を用いることができ、ヒドロキシカルボン酸、カルボン酸(少なくとも一つのカルボキシル基を含む有機酸)、ヒドロキシカルボン酸塩やヒドロキシカルボン酸誘導体、カルボン酸塩やカルボン酸誘導体、具体的には、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、蟻酸、酢酸、ピルビン酸、およびそれらの塩や誘導体などが挙げられる。さらに、消泡剤としては、アルカリ性条件下において破泡性に優れたものであれば、特に限定されず、オイル型や溶剤型のシリコーン系またはノンシリコーン系の消泡剤を用いることができる。
(1-2.晶析反応の手順(晶析手順))
晶析工程では、少なくとも水溶性ニッケル塩とニッケルよりも貴な金属の塩を水に溶解させたニッケル塩溶液と、還元剤(例えばヒドラジン)を水に溶解させた還元剤溶液と、および水酸化アルカリを水に溶解させた水酸化アルカリ溶液を用意し、これらを添加混合させて反応液を調合する。そして、還元反応により、この反応液中でニッケル粒子を晶析させてニッケル晶析粉を得る晶析反応を行う。なお、必要に応じて添加するアミン化合物や硫黄含有化合物は、反応液を調合する前に上記いずれかの溶液またはそれらを混合させた液に添加混合させるか、反応液を調合してから反応液に添加混合させることができる。なお、室温環境下では、反応液が調合された時点で還元反応が開始される。
ここで、具体的な晶析手順としては、被還元物であるニッケル塩とニッケルよりも貴な金属の塩を含むニッケル塩溶液に、還元剤溶液と水酸化アルカリ溶液をあらかじめ混合して得られる還元剤(例えばヒドラジン)と水酸化アルカリを含む還元剤・水酸化アルカリ溶液を添加混合して反応液を調合する手順と、上記ニッケル塩溶液に還元剤溶液(例えばヒドラジン溶液)を添加混合して得られるニッケル塩・還元剤溶液に、水酸化アルカリ溶液を添加混合して反応液を調合する手順の2種類が挙げられる。前者は、水酸化アルカリによりアルカリ性が高く還元力を高めた還元剤(例えばヒドラジン)を被還元物を含むニッケル塩溶液に添加混合するのに対し、後者は還元剤(例えばヒドラジン)を被還元物を含むニッケル塩溶液にあらかじめ混合させておいてから、水酸化アルカリによりpHを調整(上昇)して還元力を高める違いがある。
前者の場合(ニッケル塩溶液と、還元剤・水酸化アルカリ溶液を添加混合する場合)は、反応液が調合された時点、すなわち還元反応が開始する時点での温度(以降、反応開始温度とすることもある)にもよるが、ニッケル塩溶液(ニッケル塩とニッケルより貴な金属の塩を含む溶液)と水酸化アルカリによりアルカリ性を高くして還元力を高めた還元剤・水酸化アルカリ溶液の添加混合に要する時間(以降、原料混合時間とすることもある)が長くなると、添加混合の途中の段階から、ニッケル塩溶液と還元剤・水酸化アルカリ溶液の添加混合領域の局所においてアルカリ性が上昇してヒドラジンの還元力が高まり、核剤であるニッケルよりも貴な金属の塩に起因した核発生が生じてしまう。したがって、原料混合時間の終盤になるほど、添加された核剤の核発生作用が弱まるという核発生の原料混合時間依存性が大きくなってしまい、ニッケル晶析粉を微細化したり、狭い粒度分布を得ることが困難になるという傾向がある。この傾向は、弱酸性のニッケル塩溶液にアルカリ性の還元剤・水酸化アルカリ溶液を添加混合する場合により顕著である。上記傾向は、原料の混合時間が短いほど抑制できるため、短時間の混合が望ましいが、量産設備面の制約などを考慮すると、原料の混合時間は、好ましくは10秒~180秒、より好ましくは20秒~120秒、さらに好ましくは30秒~80秒がよい。
一方、後者の場合(ニッケル塩溶液と還元剤溶液を添加混合させたニッケル塩・還元剤溶液に、水酸化アルカリ溶液を添加混合する場合)は、ニッケル塩とニッケルよりも貴な金属の塩と還元剤を含むニッケル塩・還元剤溶液中では還元剤のヒドラジンが予め添加混合されて均一濃度となっている。そのため、水酸化アルカリ溶液を添加混合する際に生じる核発生の、水酸化アルカリの原料混合時間依存性は、前者の場合ほど大きくならず、ニッケル晶析粉を微細化したり、狭い粒度分布を得ることが容易となるという特徴がある。ただし、前者の場合と同様の理由で、水酸化アルカリ溶液の混合時間は短時間であるが望ましく、量産設備面の制約などを考慮すると、かかる混合時間は、好ましくは10秒~180秒、より好ましくは20秒~120秒、さらに好ましくは30秒~80秒がよい。
本発明のアミン化合物や硫黄含有化合物の添加混合についても、上述の通り、反応液が調合される前に反応液にあらかじめ配合しておく手順と、反応液が調合されて還元反応開始以降に添加混合される手順の2種類が挙げられる。
前者の場合(反応液が調合される前に反応液にあらかじめ配合する場合)は、反応液に予めアミン化合物や硫黄含有化合物を配合しておくため、ニッケルよりも貴な金属の塩(核剤)に起因した核発生の開始時点から、アミン化合物や硫黄含有化合物の各種作用が発現するという利点がある。一方で、アミン化合物や硫黄含有化合物の有する吸着などのニッケル粒子表面との相互作用が核発生に関与して、得られるニッケル晶析粉の粒径や粒度分布に影響を及ぼす可能性がある。
逆に後者の場合(反応液が調合されて還元反応開始以降に添加混合する場合)は、核剤に起因した核発生が生じる晶析工程の極初期段階を経た後に、アミン化合物や硫黄含有化合物を反応液に添加混合する。そのため、上記説明したアミン化合物や硫黄含有化合物の作用が幾分遅れるものの、アミン化合物や硫黄含有化合物の核発生への関与がなくなるため、得られるニッケル晶析粉の粒径や粒度分布がアミン化合物や硫黄含有化合物によって影響を受けにくくなり、それらを制御しやすくなる利点がある。ここで、この手順でのアミン化合物や硫黄含有化合物の反応液への添加混合における混合時間は、数秒以内に一気に添加してもよいし、数分間~30分間程度にわたり分割添加や滴下添加してもよい。なお、上述のように、アミン化合物には、還元反応促進剤(錯化剤)としての作用がある。そのため、ゆっくり添加する方が結晶成長をゆっくりと進行させてニッケル晶析粉が高結晶性となるが、ヒドラジンの自己分解抑制も徐々に作用することとなり、ヒドラジン消費量の低減効果は減少するため、上記混合時間は、これら両者のバランスをみながら適宜決定すればよい。なお、前者の手順におけるアミン化合物や硫黄含有化合物の添加混合タイミングについては、目的に応じ総合的に判断して適宜選択することができる。
ニッケル塩溶液と還元剤・水酸化アルカリ溶液の添加混合や、ニッケル塩溶液と還元剤溶液の添加混合や、ニッケル塩・還元剤溶液への水酸化アルカリ溶液の添加混合は、溶液を撹拌しながら混合する撹拌混合が好ましい。撹拌混合性がよいと、核発生の場所によるが不均一が低下し、かつ、前述したような核発生の原料混合時間依存性や水酸化アルカリ混合時間依存性が低下するため、ニッケル晶析粉を微細化したり、狭い粒度分布を得ることが容易となる。撹拌混合の方法は、公知の方法を用いればよく、撹拌混合性の制御や設備コストの面から撹拌羽根を用いることが好ましい。
(1-3.晶析反応(還元反応、ヒドラジン自己分解反応))
晶析工程では、反応液中において、水酸化アルカリとニッケルよりも貴な金属の塩の共存下でニッケル塩をヒドラジンで還元することにより、ニッケル晶析粉を得ている。また必要に応じて、極微量の特定のアミン化合物や硫黄含有化合物の作用で、ヒドラジンの自己分解を大幅に抑制して、還元反応させることができる。
まず、晶析工程における還元反応について説明する。ニッケルイオン(Ni2+)が晶析してニッケル(Ni)となる場合の反応は、下記の式(1)の2電子反応である。また、ヒドラジン(N)の反応は、前述の下記の式(2)の4電子反応である。例えば、上述のように、ニッケル塩として塩化ニッケル(NiCl)、水酸化アルカリとして水酸化ナトリウム(NaOH)を用いた場合には、還元反応全体は下記の式(3)のように、塩化ニッケルと水酸化ナトリウムの中和反応で生じた水酸化ニッケル(Ni(OH))がヒドラジンで還元される反応で表され、化学量論的には(理論値としては)、ニッケル(Ni)1モルに対し、ヒドラジン(N)0.5モルが必要である。
ここで、式(2)のヒドラジンの還元反応から、ヒドラジンはアルカリ性が強い程、その還元力が大きくなることが分かる。上記水酸化アルカリはアルカリ性を高めるpH調整剤として用いており、ヒドラジンの還元反応を促進する働きを担っている。
[化2]
Ni2++2e→Ni↓ (2電子反応) ・・・(1)

→N↑+4H+4e (4電子反応) ・・・(2)

2NiCl+N+4NaOH
→2Ni(OH)+N+4NaCl
→2Ni↓+N↑+4NaCl+4HO ・・・(3)
上述の通り、従来の晶析工程では、ニッケル晶析粉の活性な表面が触媒となって、下記の式(4)で示されるヒドラジンの自己分解反応が促進され、還元剤としてのヒドラジンが還元以外に大量に消費される場合があった。そのため、反応開始温度などの晶析条件にもよるが、例えば、ニッケル1モルに対しヒドラジン2モル程度と前述の還元に必要な理論値の4倍程度が一般的に用いられていた。さらに、式(4)に示すように、ヒドラジンの自己分解では多量のアンモニアが副生して、反応液中にアンモニアが高濃度で含有されて含窒素廃液を生じることとなる。このように、高価な薬剤であるヒドラジンの過剰量の使用や、含窒素廃液の処理コストの発生が、湿式法によるニッケル粉末(湿式ニッケル粉末)の製造コストを増加させる要因となっている。
[化3]
3N→N↑+4NH ・・・(4)
本発明のニッケル粉末の製造方法では、極微量の特定のアミン化合物や硫黄含有化合物を反応液に加えて、ヒドラジンの自己分解反応を著しく抑制し、薬剤として高価なヒドラジンの使用量を大幅に削減することが好ましい。上記特定のアミン化合物がヒドラジンの自己分解を抑制することができるのは、(I)上記特定のアミン化合物や硫黄含有化合物の分子が、反応液中のニッケル晶析粉の表面に吸着し、ニッケル晶析粉の活性な表面とヒドラジン分子との接触を物理的に妨害している、(II)特定のアミン化合物や硫黄含有化合物の分子がニッケル晶析粉の表面に作用し、表面の触媒活性を不活性化している、などが考えられる。
なお、従来の湿式法での晶析工程では、還元反応時間(晶析反応時間)を実用的な範囲にまで短縮するために、酒石酸やクエン酸などのニッケルイオン(Ni2+)と錯イオンを形成してイオン状ニッケル濃度を高める錯化剤を還元反応促進剤として用いるのが一般的である。しかしながら、これら酒石酸やクエン酸などの錯化剤は、上記特定のアミン化合物や硫黄含有化合物のようなヒドラジンの自己分解抑制剤の作用は有していない。
一方で、上記特定のアミン化合物は、酒石酸やクエン酸などと同様に錯化剤としても働き、ヒドラジンの自己分解抑制剤と還元反応促進剤の作用を兼ね備える利点を有している。
(1-4.晶析条件(反応開始温度))
晶析工程の晶析反応は、例えば、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩を含む溶液(ニッケル塩溶液)に、還元剤(例えばヒドラジン)と水酸化アルカリを含む溶液(還元剤・水酸化アルカリ溶液)を添加混合させた反応液において開始する。この場合において、晶析反応の反応開始温度が、40℃~95℃とすることが好ましく、50℃~80℃とすることがより好ましく、60℃~70℃とすることがさらに好ましい。なお、上記ニッケル塩溶液と還元剤・水酸化アルカリ溶液のそれぞれ温度は、それらを予備混合して得られる混合液の温度、すなわち反応開始温度が上記温度範囲になれば特に制約はなく、自由に設定することができる。
反応開始温度は、高いほど還元反応は促進され、かつニッケル晶析粉は高結晶化する傾向にあるが、一方で、ヒドラジンの自己分解反応がそれ以上に促進される側面があるため、ヒドラジンの消費量が増加するとともに、反応液の発泡が激しくなる傾向がある。したがって、反応開始温度が高すぎると、ヒドラジンの消費量が大幅に増加したり、多量の発泡で晶析反応を継続できなくなる場合がある。一方で、反応開始温度が低くなり過ぎると、ニッケル晶析粉の結晶性が著しく低下したり、還元反応が遅くなって晶析工程の時間が大幅に延長してニッケル粉末の生産性が低下する傾向がある。以上の理由から、上記温度範囲にすることで、ヒドラジン消費量を抑制しながら、高い生産性を維持しつつ、高性能のニッケル粉末を安価に製造することができる。
なお、晶析工程は、本発明の製造方法において必須の工程ではなく、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、ヒドラジン、水酸化アルカリおよび水を含む反応液中において、ヒドラジンによる還元反応で水溶性ニッケル塩を晶析させて得られるニッケル晶析粉を購入する等により入手してこれをスラリー化したり、晶析工程後のニッケル晶析粉のスラリーを購入する等により入手して、後述する湿式解砕工程を行っても良い。
また、晶析工程により得られたニッケル晶析粉のスラリーや、入手したニッケル晶析粉のスラリーにおいて、ニッケル晶析粉の数平均粒径は、MLCCの材料として用いられることを考慮すると、0.03μm~0.15μmであることが好ましい。
(2.湿式解砕工程)
上述のヒドラジンによる還元反応で反応液中に生成したニッケル晶析粉は、粗大粒子の含有量を少なくおさえられるものの、粗大粒子を極限まで低減したい場合や、晶析手順や晶析条件によっては、晶析中に生じる粒子同士の連結による粗大粒子の含有割合が幾分大きくなって、問題になる場合においては、湿式解砕工程を設け、ニッケル粒子が連結した粗大粒子をその連結部で分断して粗大粒子の低減を図る必要がある。解砕工程としては、前述のとおり、平均粒径0.15μm以下のニッケル粉末に対する乾式解砕方法の適用は難しいため、超高圧に加圧したスラリー上の原料を高速で噴射・衝突させて解砕を行う高圧流体衝突解砕処理や音速を超える気体流に原料スラリーを供給して衝突により解砕を行う超音速液滴衝突分散法などの湿式解砕方法やその他の汎用の解砕方法を適用するとよい。具体的な湿式微粒化装置としては、高圧流体衝突解砕処理に用いるスターバーストや超音速液滴衝突分散法に用いるG-smasherなどが挙げられる。また、湿式解砕工程前のニッケル晶析粉を、前述の通り、必要に応じて、メルカプト化合物やジスルフィド化合物などの硫黄化合物で硫黄コート処理を施した後、純水(導電率:≦1μS/cm)等の高純度の水で十分に洗浄することにより、残存する未反応物や不純物等を除去してもよい。湿式解砕工程に用いるスラリーのニッケル濃度は2質量%以上、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは13質量%以上であることが望ましい。
(3.酸洗浄工程)
湿式解砕工程を経て得られたニッケルスラリーは、解砕処理中に水酸化ニッケルが生成し、成長が進むことで水酸化ニッケル含有粗粒の原因となる。水酸化ニッケル含有粗粒の発生を防ぐために、酸をスラリー中に滴下し続けてpHを中性あるいは弱酸性まで下げ、pHを一定時間保持することで水酸化ニッケルの溶出除去を行う。保持pHはpH2~7、好ましくはpH4~6とし、保持時間は溶出したい水酸化ニッケルの量に合わせて設定すればよく、特に限定しないが、例えば保持時間は5分~90分、好ましくは10分~40分に設定することができる。
酸洗浄に用いる酸は、水溶性のものであれば、特に限定されるものではなく、硫酸、塩酸、および硝酸から選択される無機酸、あるいはアスコルビン酸、クエン酸、酢酸から選択される有機酸を一種以上用いることができる。
本工程は、湿式解砕工程と溶媒置換工程の間に行うことが重要となる。湿式解砕工程による解砕処理中や湿式解砕後に生じた水酸化ニッケルを溶出させて、粗大粒子の発生を抑制するために本工程を行うのであるから、湿式解砕工程後に本工程を行う。また、酸洗浄に用いる酸は水溶性であるため、溶媒置換工程後の溶媒が有機溶剤に置換された後のスラリーに対して酸洗浄を行うことが困難となることから、溶媒置換工程前に本工程を行う。
(4.溶媒置換工程)
溶媒置換工程は、ニッケル粉スラリーの溶媒を水溶性有機溶剤に置換することで、スラリー中に含まれる水分を水溶性有機溶剤へ置換する工程である。置換方法は、デカンテーションとニッケル粉を水溶性有機溶剤を含む溶媒で希釈することの繰返しや、後工程の固液分離設備を用いるなど、公知の手順で行えばよい。
ニッケル晶析粉を、水分を含んだ状態のニッケル粉ケーキのままで乾燥すると、水分の高い表面張力(約73mN/m;20℃)に起因してニッケル晶析粉が乾燥凝集を起こして粗大粒子が増大し、さらには、ニッケル粉ケーキがそのハンドリング中に空気と触れてニッケル晶析粉が酸化され水酸化ニッケル含有粗大粒子が形成されやすくなって、粗大粒子の増加だけでなく湿式ニッケル粉末の分散性の低下を招くおそれがある。そこで、溶媒置換によってニッケル粉ケーキに含まれる水分を水溶性有機溶剤で希釈し、後工程である固液分離工程により水分を含む水溶性有機溶剤をろ別・除去して、主に水溶性有機溶剤を含むニッケル粉ケーキとすることで、ニッケル粉ケーキから水分をほとんど除去することができる。
これにより、後工程として、主に水溶性有機溶剤を含むニッケル粉ケーキを乾燥させる乾燥工程において、ニッケル粉ケーキがほとんど水分を含まないため、水の高い表面張力に起因する乾燥凝集が抑制され、さらには、ニッケル晶析粉が空気と触れて酸化が進んだ場合でも、水酸化ニッケルが、水溶性有機溶剤液中では水酸化ニッケル粒子が複数のニッケル晶析粉を包み込むように成長しないため、水酸化ニッケル含有粗大粒子も抑制することができるため、粗大粒子の増加や湿式ニッケル粉末の分散性の低下を防止することができる。
このとき、水溶性有機溶剤の使用量を抑えるために、ニッケル粉ケーキを予め純水(導電率:≦1μS/cm)等の高純度の水で洗浄し、固液分離によって一定割合の水分を除去した上で水溶性有機溶剤での置換を行ってもよい。さらに、固液分離と水溶性有機溶剤での置換を複数回繰り返すことにより効率的に水を水溶性有機溶剤で置換できる。
溶媒置換工程に用いる溶媒は、水溶性有機溶剤を70質量%以上、好ましくは90質量%以上含む溶媒であることが望ましい。溶媒中の水溶性有機溶剤の含有量が70質量%以上であることで、溶媒の表面張力を低い水準でおさえられ、水酸化ニッケル含有粗大粒子や乾燥凝集の抑制を効果的に発揮することができる。溶媒中の水溶性有機溶剤の純度が低くなると、水酸化ニッケル含有粗大粒子や乾燥凝集の抑制効果が不十分となるおそれがある。なお、溶媒置換工程に用いる溶媒は、水と水溶性有機溶剤成分から成る溶媒であってもよい。
また、水溶性有機溶剤は沸点が50℃~120℃、好ましくは50℃~100℃、さらに好ましくは50℃~90℃であることが望ましい。沸点が50℃未満だと揮発性が高過ぎて取扱いが難しくなると同時に揮発引火の面で危険性が増すため好ましくなく、120℃を超えると、後工程である乾燥工程にて水溶性有機溶剤を揮発させることが困難となる。水溶性有機溶剤の沸点が高すぎると、乾燥工程に時間がかかり過ぎるため、乾燥効率が大幅に悪化し、コスト面で不利となる。
水溶性有機溶剤に代えて、水溶性でない有機溶剤を用いると水との置換が困難となるため好ましくない。なお、水溶性有機溶剤によっては、水との共沸混合物をつくる場合があるが、このような水と水溶性有機溶剤との共沸混合物をつくる場合は、共沸混合物における水の濃度が30質量%未満、好ましくは20質量%未満、さらに好ましくは10質量%未満のものとすることが望ましい(例えば、水-エタノールの共沸混合物組成での水の濃度は4質量%)。比較的低温で揮発除去が可能な水溶性有機溶剤として、具体的には、水溶性で揮発除去が可能な、アセトン(沸点:56.5℃)や、メタノール(沸点:64.7℃)、エタノール(沸点:78.3℃)、1-プロパノール(別名称:n-プロピルアルコール)(沸点:97.2℃)、および2-プロパノール(別名称:イソプロピルアルコール)(沸点:82.4℃)、1,4-ジオキサン(沸点:102℃)、1,2-ジメトキシエタン(沸点:82℃)、テトラヒドロフラン(沸点:65℃)から選択される1種類以上の有期溶剤、またはそれらを主成分として含有する有機溶剤(例えば、各種変性アルコールなど)を用いることができる。これらの中でも、揮発性や安全性(有害性、引火性)を考慮するとアルコール系有機溶剤が好ましい。また、コスト面も考慮すると、エタノールを主成分とし、メタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、水等を2種類以上含む混合溶剤である変性アルコールが最も好ましい。また、水溶性有機溶剤は、アルコール、ケトンまたはエーテルを主成分とする溶剤であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフランおよび変性アルコールのいずれかを含むことが好ましい。
(5.固液分離工程)
固液分離工程は、公知の手順を用いてニッケルスラリーを溶媒から分離してニッケル粉ケーキとすればよい。具体的な方法として、デンバーろ過器、フィルタープレス、遠心分離機、デカンターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
(6.乾燥工程)
乾燥工程は、固液分離工程後のニッケル粉ケーキを乾燥して湿式ニッケル粉末を得る工程である。具体的には、不活性ガス雰囲気乾燥機、真空乾燥機などの汎用の乾燥装置を用いて、乾燥温度を30℃~300℃、好ましくは50℃~200℃、さらに好ましくは80℃~150℃として所定時間乾燥することで、ニッケル粉ケーキ中の水分が除去されて乾燥したニッケル粉末が得られる。なお、不活性雰囲気、還元性雰囲気、または真空雰囲気中で200℃~300℃程度で乾燥した場合は、単なる乾燥に加え、熱処理を施した湿式ニッケル粉末を得ることが可能である。熱処理を施すことでニッケル粒子表面に形成される酸化被膜中の表面組成(例えば、ニッケルメタル、酸化ニッケル、および水酸化ニッケルの比率)を変えることができる。具体的には、酸化被膜中の酸化ニッケル割合の増加および水酸化ニッケル割合の減少が起きる。加えて、熱処理により結晶成長が進むことから、乾燥温度が高温であるほど結晶子径の大きな湿式ニッケル粉末が得られる。
以下、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において用いた評価項目およびその方法は、以下のとおりである。
(実施例1)
<湿式ニッケル粉末の製造>
[ニッケル塩およびニッケルよりも貴な金属の金属塩の溶液の調製]
塩化ニッケル六水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)を、100gのNi金属が1Lの純水中に存在するように溶解した水溶液(「100g-Ni/L水溶液」とする)と、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)を、1.2gのPd金属が1Lの純水中に存在するように溶解した水溶液(「1.2g-Pd/L水溶液」とする)を調製した。そして、100g-Ni/L水溶液1000mLと1.2g-Pd/L水溶液4.17mL、自己分解抑制補助剤としての硫黄含有化合物として分子内にスルフィド基(-S-)を1個含有するL-メチオニン(CHSCCH(NH)COOH、分子量:149.21)1.27gを、純水881mLに溶解して、主成分としてニッケル塩と、硫黄含有化合物と、ニッケルより貴な金属の金属塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩核剤含有溶液を調製した。ここで、ニッケル塩核剤含有溶液において、スルフィド化合物であるL-メチオニンはニッケルに対してモル比で0.005(0.5モル%)と微量で、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し50質量ppm(27.58モルppm)である。
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を207g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)を純水に溶解し、水酸化ナトリウムを382g/Lの濃度で含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を757mL用意した。
[アミン化合物溶液]
アミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(-NH)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH、分子量:60.1)1.02gを、純水18mLに溶解して、エチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。
なお、上記ニッケル塩核剤含有溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、およびアミン化合物溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[晶析工程]
ニッケル塩核剤含有溶液を撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ、液温が85℃になるように撹拌しながら加熱した後、液温27℃の還元剤溶液を、Ni金属と抱水ヒドラジンとのモル比が1:1.46となるように、混合時間10秒で添加混合してニッケル塩・還元剤含有液とした。このニッケル塩・還元剤含有液に液温27℃の水酸化アルカリ溶液を、Ni金属と水酸化ナトリウムとのモル比が1:3.54となるように、混合時間120秒で添加混合し、液温70℃の反応液(塩化ニッケル+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム)を調合し、還元反応(晶析反応)を開始した(反応開始温度70℃)。反応開始後8分後から28分後までの20分間にかけて上記アミン化合物溶液を、Ni金属とエチレンジアミンとのモル比が1:0.01(1.0モル%)となるように、上記反応液に滴下混合し、ヒドラジンの自己分解を抑制しながら還元反応を進めてニッケル晶析粉を反応液中に析出させた。反応開始から60分以内に還元反応は完了し、反応液の上澄み液は透明であることから、反応液中のニッケル成分はすべて金属ニッケルに還元されて、ニッケル晶析粉となったことを確認した。
ニッケル晶析粉を含む反応液はスラリー状であり、このニッケル晶析粉含有スラリーにメルカプト酢酸(チオグリコール酸)(HSCHCOOH、分子量:92.12)の水溶液を加えて、ニッケル晶析粉の表面処理(硫黄コート処理)を施した。
[湿式解砕工程]
表面処理後、ニッケル晶析粉含有スラリーに対してデカンテーションと純水(導電率1μS/cm)投入を繰り返してスラリー中の導電率が15μS/cm以下になるまで洗浄し、ニッケル濃度が25質量%のニッケル晶析粉含有スラリーとし湿式解砕を施した。
[酸洗浄工程]
湿式解砕工程後のニッケル晶析粉含有スラリーに、1質量%硫酸水溶液(HSO、分子量:98.08)を滴下して中和し、20分間pHを4~5に維持した。このときのニッケル粉スラリーのニッケル濃度は、5質量%であった。なお、中和の反応式は、Ni(OH)+HSO→NiSO+2HOとなる。
[溶媒置換工程、固液分離工程]
酸洗浄工程後、ヌッチェにろ紙をのせ、そこにニッケル晶析粉含有スラリーを投入してろ過し、その後、導電率が1μS/cmの純水をろ紙上のニッケル晶析粉に投入して、ろ過後のろ液の導電率が30μS/cm以下になるまでろ過洗浄した。その後、純度99.9%以上のエタノール(沸点:78.3℃)をヌッチェに投入して通液し、ニッケルスラリー中の溶媒を水からエタノールへ置換した。なお、溶媒置換後のニッケルスラリーの溶媒に含まれるエタノール濃度は、92.4質量%、残りの7.6質量%は水であった。ここで、エタノール濃度は、固液分離工程の最終ろ液(最後の50mL)を回収し、カールフィッシャー水分率(150℃)を測定し、「100-水分率(%)=ろ液中の溶剤濃度(%)」の計算で得られるろ液中の溶剤濃度を、エタノール濃度とした。他の実施例等でも同様に算出した。溶媒置換後、固形分濃度を40質量%以上となるまでろ過を継続して固液分離し、ニッケル粉ケーキを得た。
[乾燥工程]
前記ニッケル粉ケーキを、120℃の温度に設定した真空乾燥機中で6時間乾燥して湿式ニッケル粉末を得た。
<評価およびその結果>
(数平均粒径)
得られた湿式ニッケル粉末を、走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL Ltd.製、JSM-7100F)で観察し、SEM画像を画像処理することにより全体の形状が確認できる100~200個の粒子の面積を測定し、測定した面積から真円換算によりそれぞれの粒子の直径を算出して、さらに算出した直径の平均値を算出し、これを数平均粒径とした。近年の積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応するという観点から、ニッケル粉末の数平均粒径が0.15μm以下であることを設定目標とした。その結果、表1に示すように各実施例、比較例および参考例における数平均粒径は80nmであった。
(粗大粒子の含有量)
解砕処理された湿式ニッケル粉末については、数平均粒径の約5倍である0.4μmを超える粒径を有する粒子を粗大粒子とした。
まず、粗大粒子の評価においては、ニッケル粒子が分散媒中に分散したスラリーを得るために分散工程を行った。具体的には、ニッケル粉末0.03gと、分散媒として0.1質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液100mlと、を250ml容量のガラスビーカー内で撹拌混合した。次に、上記ビーカーを超音波洗浄機の槽内に設置して、超音波(26KHz、300W)を3分間印加して、湿式ニッケル粉末をヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に分散させた。以上の分散工程によりニッケル粒子が分散媒中に分散したスラリーを得た。
次に、図4に概略図を示した吸引ろ過装置100と同じ構成の吸引ろ過装置を用いて、上記スラリーをろ過工程に供した。解砕処理された湿式ニッケル粉末については、直径90mmで孔径0.4μmの再生セルロース製メンブレンフィルター(富士フイルム社製、MICRO FILTER)を用いた。メンブレンフィルター1をフィルターフォルダ2上に載置して、フィルターフォルダ2に、スラリー投入容器としての吸引カップ3を取り付けて、さらにフィルターフォルダ2をろ液回収容器4に設置し、減圧ポンプ5を稼働した状態で、吸引カップ3に分散媒10aにニッケル粒子10bが分散したスラリー10を注ぎ込み、吸引ろ過を行った。さらに、スラリーが入っていた250ml容量のビーカーに対して、分散媒として用いた50mlの0.1質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を、その壁面を洗い流すようにして吸引カップ3に注ぎ込み、吸引ろ過を行った。以上のろ過工程により、フィルター孔径の0.4μmよりも大きなサイズの粗大粒子が残渣として付着したフィルター1と、分散媒20aとニッケル粒子20bを含むろ液20を得た。
上記残渣を構成するニッケル粒子をフィルター孔径よりも大きなサイズの粗大粒子として高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP法)を用いて算出し、ニッケル粉末中に含まれる粗大粒子の含有量を求めた。具体的には、上記のろ過工程により得られた、残渣が付着したメンブレンフィルターを自然乾燥させた後、王水により煮沸して粗大粒子を溶解させ、その後メンブレンフィルターを除去した王水溶液を試料溶液とした。この試料溶液をICP分光分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製、ICP720)を用いたICP分光分析法に供して、ニッケルの定量を行った。さらに、ニッケルの定量値から、粗大粒子として捕集された残渣のニッケルの総質量を算出して、評価に供した湿式ニッケル粉末(0.03g)に含まれる粗大粒子の含有量を算出した。その結果、評価に供した湿式ニッケル粉末における粗大粒子の含有量は、解砕処理後の0.4μmを超えるサイズで140質量ppmであった。
(水酸化ニッケル含有粗大粒子の評価)
湿式ニッケル粉末中の水酸化ニッケル含有粗大粒子(図2参照)の有無を以下に示す方法で評価した。すなわち、前述した粗大粒子の含有量の測定の過程で得られる、粗大粒子が残渣として付着したメンブレンフィルターについて、倍率10000倍で異なる5視野を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、サイズが0.4μm以上の水酸化ニッケル含有粗大粒子の視野当りの平均個数で評価(1個未満:○、1個以上3個未満:△、3個以上:×)したところ、評価結果は「○」であった。
(実施例2)
酸洗浄工程において、湿式解砕後のニッケル晶析粉含有スラリーに、1%硫酸(HSO、分子量:98.08)を滴下して中和し、20分間pHを3~4に維持した以外は、実施例1と同様の操作を行ってニッケル粉末を製造し、評価した。結果を表1に示す。
(実施例3)
酸洗浄工程において、湿式解砕後のニッケル晶析粉含有スラリーに、1%硫酸(HSO、分子量:98.08)を滴下して中和し、20分間pHを2~3に維持した以外は、実施例1と同様の操作を行ってニッケル粉末を製造し、評価した。結果を表1に示す。
(実施例4)
溶媒置換工程において、溶媒置換後のニッケルスラリーの溶媒に含まれるエタノール濃度を、84.5質量%、残りの15.5質量%は水とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
(実施例5)
溶媒置換工程において、溶媒置換後のニッケルスラリーの溶媒に含まれるエタノール濃度を、72.2質量%、残りの27.8質量%は水とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
(実施例6)
酸洗浄工程において、湿式解砕後のニッケル晶析粉含有スラリーに、1%塩酸(HCl、分子量:36.46)を滴下して中和し、20分間pHを4~5に維持した以外は、実施例1と同様の操作を行ってニッケル粉末を製造し、評価した。結果を表1に示す。
(実施例7)
酸洗浄工程において、湿式解砕後のニッケル晶析粉含有スラリーに、1%硝酸(HNO、分子量:63.01)を滴下して中和し、20分間pHを4~5に維持した以外は、実施例1と同様の操作を行ってニッケル粉末を製造し、評価した。結果を表1に示す。
(実施例8)
酸洗浄工程において、湿式解砕後のニッケル晶析粉含有スラリーに、1%酢酸水溶液(CHCOOH)を滴下して中和し、20分間pHを4~5に維持した以外は、実施例1と同様の操作を行ってニッケル粉末を製造し、評価した。結果を表1に示す。
(実施例9)
酸洗浄工程において、湿式解砕後のニッケル晶析粉含有スラリーに、クエン酸水溶液(C(OH)(CHCOOH)COOH)を滴下して中和し、20分間pHを4~5に維持した以外は、実施例1と同様の操作を行ってニッケル粉末を製造し、評価した。結果を表1に示す。
(実施例10)
酸洗浄工程において、湿式解砕後のニッケル晶析粉含有スラリーに、アスコルビン酸水溶液(C)を滴下して中和し、20分間pHを4~5に維持した以外は、実施例1と同様の操作を行ってニッケル粉末を製造し、評価した。結果を表1に示す。
(参考例)
湿式ニッケル粉末の製造において、湿式解砕工程までは、実施例1と同様の操作を行い、酸洗浄工程以降は実施せず、湿式解砕工程で得られたニッケル晶析粉含有スラリーを乾燥させず、ニッケル晶析粉を空気に触れさせないようにして、スラリーの状態でニッケル粉末を0.03g含むニッケル晶析粉含有スラリーを0.1質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液100mlに添加してニッケル晶析粉を分散させて、その後は実施例1と同じ操作を行い、水酸化ニッケル含有粗大粒子や乾燥凝集が生じていない場合の湿式ニッケル粉末(ニッケル晶析粉)の粗大粒子の含有量を求め、水酸化ニッケル含有粗大粒子の評価を行った。粗大粒子の含有量は、0.4μmを超えるサイズで40質量ppmであり、水酸化ニッケル含有粗大粒子の評価結果は「○」であった。また、湿式解砕工程で得られたニッケル粉スラリーを、120℃の温度に設定した真空乾燥機中で6時間乾燥して湿式ニッケル粉末を得て、得られた湿式ニッケル粉末を、走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL Ltd.製、JSM-7100F)で観察して数平均粒径を測定したところ、数平均粒径は80nmであった。
(比較例1)
溶媒置換工程において、溶媒置換後のニッケルスラリーの溶媒に含まれるエタノール濃度を、51.0質量%、残りの49.0質量%は水とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示すとおりであり、平均粒径は80nmであり、粗大粒子の含有量は、0.4μmを超えるサイズで2800質量ppmであった。また、水酸化ニッケル含有粗大粒子の評価結果は「×」であった。
(比較例2)
湿式ニッケル粉末の製造において、酸洗浄工程を省略した以外は、実施例1と同様の操作を行ってニッケル粉末を製造し、評価した。その結果は表1に示すとおりであり、平均粒径は80nmであり、粗大粒子の含有量は、0.4μmを超えるサイズで3400質量ppmであった。また、水酸化ニッケル含有粗大粒子の評価結果は「×」であった。
(評価結果)
表1に、実施例1~10、比較例1~2、および参考例における溶媒置換率、粗大粒子の含有量、水酸化ニッケル含有粗粒の評価結果、および得られたニッケル粉末の数平均粒径を示す。なお、溶媒置換率が>90%とした例は、>90%になる条件で溶媒置換したが、溶媒置換率の定量評価を行っていない例である。
Figure 2023001435000003
実施例1~10、比較例1~2、および参考例のいずれにおいても、同じ条件の晶析工程によりニッケル晶析粉を得ており、数平均粒径は同じであった。実施例1~10のように酸洗浄工程および溶媒置換工程を実施して粗粒源となる水酸化ニッケルの溶出除去および水溶性有機溶剤でのニッケル粉スラリーの溶媒の置換処理を施すことで、水酸化ニッケル含有粗大粒子の生成やニッケル粒子の乾燥凝集を抑えることが可能であり、湿式解砕工程直後で水酸化ニッケル含有粗大粒子やニッケル粒子の乾燥凝集が生じていない参考例とほぼ同等レベルの粗大粒子の含有量に維持することができた。すなわち、実施例1~10では、湿式解砕工程で生じた粗大粒子を酸洗浄工程により水酸化ニッケルを溶解させることで消滅させ、溶媒置換工程により溶媒中の水分を除去して有機溶剤に置き換えることで酸洗浄後のニッケル粒子の乾燥凝集を防ぐことができた結果となった。
[まとめ]
本発明に係るニッケル粉末の製造方法は、還元剤としてヒドラジンを用いた湿式法によるニッケル粉末の製造方法であって、湿式法の一工程である湿式解砕工程後に酸洗浄工程および溶媒置換工程による粗粒源となる水酸化ニッケルの溶出除去および水溶性有機溶剤でのニッケル粉スラリーの溶媒の置換処理を行うことで、水酸化ニッケル含有粗大粒子の形成を効果的に防止し、かつ、ニッケル粒子の乾燥凝集により形成する粗大粒子の量および結合強度を抑制するため、分散性に優れた粗大粒子の少ない湿式ニッケル粉末を得ることができる。そのため、積層セラミックコンデンサの内部電極に好適な高性能な湿式ニッケル粉末を安価に製造することができる。
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1 メンブレンフィルター
2 フィルターフォルダ
3 吸引カップ
4 ろ液回収容器
5 減圧ポンプ
10 スラリー
10a 分散媒
10b ニッケル粒子
20 ろ液
20a 分散媒
20b ニッケル粒子
100 吸引ろ過装置

Claims (10)

  1. 水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、ヒドラジン、水酸化アルカリおよび水を含む反応液中において、前記ヒドラジンによる還元反応で前記水溶性ニッケル塩を晶析させて得られるニッケル晶析粉のスラリーを湿式解砕し、粗大粒子を低減したニッケル粉スラリーを得る湿式解砕工程と、
    前記湿式解砕工程後、前記ニッケル粉スラリーに酸を投入して当該ニッケル粉スラリーのpHを2~7の値に調整し、前記ニッケル粉スラリー中の水酸化ニッケルを溶解する酸洗浄工程と、
    前記酸洗浄工程後のニッケル粉スラリーの溶媒を水溶性有機溶剤に置換する溶媒置換工程と、
    前記溶媒置換工程後のニッケル粉スラリーを固液分離してニッケル粉ケーキを得る固液分離工程と、
    前記固液分離工程後の前記ニッケル粉ケーキを乾燥してニッケル粉末を得る乾燥工程を含む、ニッケル粉末の製造方法。
  2. 水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、ヒドラジン、水酸化アルカリおよび水を含む反応液中において、前記ヒドラジンによる還元反応で前記ニッケル晶析粉を得る晶析工程を含む、請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
  3. 前記反応液は、アミン化合物または硫黄含有化合物を含む、請求項2に記載のニッケル粉末の製造方法。
  4. 前記ニッケル晶析粉は、数平均粒径が0.03μm~0.15μmである請求項1~3のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
  5. 前記酸洗浄工程は、前記湿式解砕工程後の前記ニッケル粉スラリーに、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、クエン酸、およびアスコルビン酸から選択される1種以上の酸を滴下して中和し、当該ニッケル粉スラリーのpHを2~6に保持する工程である、請求項1~4のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
  6. 前記溶媒置換工程は、前記水溶性有機溶剤を70質量%以上含む溶媒を用いて、前記ニッケル粉スラリーの溶媒を水溶性有機溶剤に置換する工程である請求項1~5のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
  7. 前記反応液は、アミン化合物を含み、
    前記アミン化合物がアルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかであって、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合した下記式A
    Figure 2023001435000004
    の構造を少なくとも有している請求項1~6のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
  8. 前記アルキレンアミンが、エチレンジアミン(HNCNH)、ジエチレントリアミン(HNCNHCNH)、トリエチレンテトラミン(HN(CNH)NH)、テトラエチレンペンタミン(HN(CNH)NH)、ペンタエチレンヘキサミン(HN(CNH)NH)、およびプロピレンジアミン(CHCH(NH)CHNH)から選ばれる1種以上であり、
    前記アルキレンアミン誘導体が、トリス(2-アミノエチル)アミン(N(CNH)、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン(HNCNHCOH)、N-(2-アミノエチル)プロパノールアミン(HNCNHCOH)、2,3-ジアミノプロピオン酸(HNCHCH(NH)COOH)、1,2-シクロヘキサンジアミン(HNC10NH)、エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(HOOCCHNHCNHCHCOOH)、N,N’-ジアセチルエチレンジアミン(CHCONHCNHCOCH)、N,N’-ジメチルエチレンジアミン(CHNHCNHCH)、N,N’-ジエチルエチレンジアミン(CNHCNHC)、およびN,N’-ジイソプロピルエチレンジアミン(CH(CH)CHNHCNHCH(CH)CH)から選ばれる1種以上である、請求項7に記載のニッケル粉末の製造方法。
  9. 前記硫黄含有化合物が、分子内に、スルフィド基(-S-)、スルホニル基(-S(=O)-)、スルホン酸基(-S(=O)-O-)、およびチオケトン基(-C(=S)-)のいずれかを少なくとも1個以上含有する化合物から選ばれる1種以上である、請求項3に記載のニッケル粉末の製造方法。
  10. 前記硫黄含有化合物が、L(または、D、DL)-メチオニン(CHSCCH(NH)COOH)、L(または、D、DL)-エチオニン(CSCCH(NH)COOH)、N-アセチル-L(または、D、DL)-メチオニン(CHSCCH(NH(COCH))COOH)、ランチオニン(HOOCCH(NH)CHSCHCH(NH)COOH)、チオジプロピオン酸(HOOCCSCCOOH)、チオジグリコール酸(HOOCCHSCHCOOH)、メチオノール(CHSCOH)、チオジグリコール(HOCSCOH)、チオモルホリン(CNS)、チアゾール(CNS)、ベンゾチアゾール(CNS)、サッカリン(CNOS)、ドデシル硫酸ナトリウム(C1225OS(O)ONa)、ドデシルベンゼンスルホン酸(C1225S(O)OH)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(C1225S(O)ONa)、スルホこはく酸ジ2-エチルヘキシルナトリウム(NaOS(O)CH(COOCHCH(C)C)CH(COOCHCH(C)C)、およびチオ尿素(HNC(S)NH)から選ばれる1種以上である、請求項9に記載のニッケル粉末の製造方法。
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