JP2018178256A - ニッケル粉末の製造方法 - Google Patents

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潤志 石井
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宏幸 田中
慎悟 村上
Shingo Murakami
慎悟 村上
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Yuki Kumagai
友希 熊谷
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Masaya Yukinobu
雅也 行延
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吉章 松村
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Abstract

【課題】湿式法を用いた場合であっても、安価で、かつニッケル粒子を連結抑制し、高性能なニッケル粉末を得ると同時に、硫黄コート処理も実現できることができるニッケル粉末の製造方法を提供することを目的とする。【解決手段】少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、およびスルフィド化合物と水とを混合した反応液中において、還元反応によりニッケル晶析粉を得る晶析工程を有するニッケル粉末の製造方法であって、前記晶析工程で混合させる前記還元剤はヒドラジン(N2H4)であり、前記スルフィド化合物は、分子内にスルフィド基(−S−)を1個以上含有しており、前記反応液中のニッケルのモル数に対する前記スルフィド化合物のモル数の割合が0.005モル%〜3モル%の範囲であり、前記ニッケル晶析粉は、前記スルフィド化合物由来の硫黄で表面修飾されることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、積層セラミック部品の電極材として用いられる安価で高性能なニッケル粉末の製造方法、特に湿式法により得られる安価で高性能なニッケル粉末の製造方法に関する。
ニッケル粉末は、電子回路のコンデンサの材料として、特に、積層セラミックコンデンサ(MLCC:multilayer ceramic capacitor)や多層セラミック基板などの積層セラミック部品の内部電極などを構成する厚膜導電体の材料として利用されている。
近年、積層セラミックコンデンサの大容量化が進み、積層セラミックコンデンサの内部電極の形成に用いられる内部電極ペーストの使用量も大幅に増加している。このため、厚膜導電体を構成する内部電極ペースト用の金属粉末として、高価な貴金属の使用に代替して、主としてニッケルなどの安価な卑金属が使用されている。
積層セラミックコンデンサを製造する工程では、ニッケル粉末、エチルセルロースなどのバインダ樹脂、ターピネオールなどの有機溶剤を混練した内部電極ペーストを、誘電体グリーンシート上にスクリーン印刷する。内部電極ペーストが印刷・乾燥された誘電体グリーンシートは、内部電極ペースト印刷層と誘電体グリーンシートとが交互に重なるように積層され圧着されて積層体が得られる。
この積層体を、所定の大きさにカットし、次に、バインダ樹脂を加熱処理により除去し(脱バインダ処理)、さらに、この積層体を1300℃程度の高温で焼成することにより、セラミック成形体が得られる。
そして、得られたセラミック成形体に外部電極が取り付けられ、積層セラミックコンデンサが得られる。内部電極となる内部電極ペースト中の金属粉末としてニッケルなどの卑金属が使用されていることから、積層体の脱バインダ処理は、これらの卑金属が酸化しないように、不活性雰囲気などの酸素濃度がきわめて低い雰囲気下にて行われる。
積層セラミックコンデンサの小型化および大容量化に伴い、内部電極や誘電体はともに薄層化が進められている。これに伴って、内部電極ペーストに使用されるニッケル粉末の粒径も微細化が進行し、平均粒径0.5μm以下のニッケル粉末が必要とされ、特に平均粒径0.3μm以下のニッケル粉末の使用が主流となっている。
ニッケル粉末の製造方法には、大別すると、気相法と湿式法がある。気相法としては、例えば、特許文献1に記載されている塩化ニッケル蒸気を水素により還元してニッケル粉末を作製する方法や、特許文献2に記載されているニッケル金属をプラズマ中で蒸気化してニッケル粉末を作製する方法がある。また、湿式法としては、例えば、特許文献3に記載されている、ニッケル塩溶液に還元剤を添加してニッケル粉末を作製する方法がある。
気相法は、1000℃程度以上の高温プロセスのため結晶性に優れる高特性のニッケル粉末を得るためには有効な手段ではあるが、得られるニッケル粉末の粒径分布が広くなるという問題がある。上述の通り、内部電極の薄層化においては、粗大粒子を含まず、比較的粒径分布の狭い平均粒径0.5μm以下のニッケル粉末が必要とされるため、気相法でこのようなニッケル粉末を得るためには、高価な分級装置の導入による分級処理が必須となる。
なお、分級処理では、0.6μm〜2μm程度の任意の値の分級点を目途に、分級点よりも大きな粗大粒子の除去が可能であるが、分級点よりも小さな粒子の一部も同時に除去されてしまうため、製品実収が大幅に低下するという問題もある。したがって、気相法では、上述の高額な設備導入も含めて、製品のコストアップが避けられない。
さらに、気相法では、平均粒径が0.2μm以下、特に、0.1μm以下のニッケル粉末を用いる場合に、分級処理による粗大粒子の除去自体が困難になるため、今後の内部電極の一層の薄層化に対応できない。
一方で、湿式法は、気相法と比較して、得られるニッケル粉末の粒径分布が狭いという利点がある。特に、特許文献3に記載されているニッケル塩に銅塩を含む溶液に還元剤としてヒドラジンを含む溶液を添加してニッケル粉末を作製する方法では、ニッケルよりも貴な金属の金属塩(核剤)との共存下でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン(Ni2+)、またはニッケル錯イオン)がヒドラジンで還元されるため、核発生数が制御され(すなわち、粒径が制御され)、かつ核発生と粒子成長が均一となって、より狭い粒径分布で微細なニッケル粉末が得られることが知られている。
ところで、上記気相法や湿式法で得られるニッケル粉末を積層セラミックコンデンサに適用する場合には、ニッケル粉末と樹脂を主成分とするニッケルペースト乾燥膜での樹脂分解抑制(ニッケル粉末の活性表面による樹脂分解触媒作用)のため、あるいは、ニッケル粉末の焼結温度を誘電体の焼結温度に近づけるために、従来からニッケル粉末に硫黄(S)が添加されている。
ここで、特許文献4〜7によれば、湿式法のニッケル粉(湿式粉)では、一般に、晶析工程においてニッケル塩や還元剤を含む反応液中で還元反応を行い、ニッケル晶析粉を得ているが、そのニッケル晶析粉を含む溶液(ニッケルスラリー)に硫化物やメルカプト化合物等の硫黄含有化合物を硫黄コート剤として添加し、上記ニッケル晶析粉の粒子表面に硫黄成分を結合(硫黄コート)させる方法が知られている。
例えば、特許文献7では、湿式法によるニッケル粉末の製造方法における晶析工程で得られるニッケル晶析粉を含む反応液や、その希釈・洗浄液にメルカプト化合物やジスルフィド化合物などの硫黄化合物(硫黄コート剤)を添加し、硫黄成分でニッケル晶析粉表面を修飾してニッケル粉末(ニッケル晶析粉)に表面処理(硫黄コート処理)を施す方法が知られている。
特開平4−365806号公報 特表2002−530521号公報 特開2002−53904号公報 国際公開第2007/007518号 特開2008−95145号公報 特開2010−43339号公報 特開2011−252194号公報
しかしながら、上記のような湿式法の晶析工程で硫黄化合物(硫黄コート剤)を用いてニッケル粉末(ニッケル晶析粉)に表面処理(硫黄コート処理)を施す方法では、硫黄コート処理ためだけの余分な工程が必要なため、生産性・効率性やコスト面で好ましいとは言えなかった。
そこで、本発明では、湿式法において、晶析工程に配合する微量の添加剤により、ニッケル粒子を連結抑制し、高性能なニッケル粉末(ニッケル晶析粉)を得ると同時に、上記添加剤の働きで硫黄コート処理も同時に実現できる、より簡便かつ安価な湿式法によるニッケル粉末の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、湿式法によるニッケル粉末の製造方法における晶析工程、すなわち、反応液中で初期の核発生から粒子成長までの一連の還元反応(晶析反応)を行い、ニッケル晶析粉を得る工程において、極微量の特定のスルフィド化合物が、還元剤としてのヒドラジンの自己分解抑制剤や晶析中にニッケル粒子(ニッケル晶析粉)同士が連結して生じる粗大粒子を形成しにくくする連結抑制剤として作用することを見出した。加えて、上記特定のスルフィド化合物は、上記還元反応(晶析反応)の終了後には、スルフィド化合物分子内の硫黄成分でニッケル晶析粉を表面修飾(硫黄コート)できないが、上記還元反応(晶析反応)中には、スルフィド化合物がニッケル晶析粉の高い触媒活性によりその表面で分解して分子内の硫黄成分でニッケル晶析粉を表面修飾(硫黄コート)できること、すなわち、晶析と同時に硫黄コート処理ができることも見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明の一態様は、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、およびスルフィド化合物と水とを混合した反応液中において、還元反応によりニッケル晶析粉を得る晶析工程を有するニッケル粉末の製造方法であって、前記晶析工程で混合させる前記還元剤はヒドラジン(N)であり、前記スルフィド化合物は、分子内にスルフィド基(−S−)を1個以上含有しており、前記反応液中のニッケルのモル数に対する前記スルフィド化合物のモル数の割合が0.005モル%〜3モル%の範囲であり、前記ニッケル晶析粉は、前記スルフィド化合物由来の硫黄で表面修飾されることを特徴とする。
このとき、本発明の一態様では、前記スルフィド化合物が、分子内にさらにカルボキシ基(−COOH)、水酸基(−OH)、アミノ基(第1級:−NH、第2級:−NH−、第3級:−N<)、チアゾール環(CNS)から選ばれる構造を少なくとも1個以上含有するカルボキシ基含有スルフィド化合物、水酸基含有スルフィド化合物、アミノ基含有スルフィド化合物、チアゾール環含有スルフィド化合物のいずれかとすることができる。
また、本発明の一態様では、前記カルボキシ基含有スルフィド化合物または前記水酸基含有スルフィド化合物が、メチオニン(CHSCCH(NH)COOH)、エチオニン(CSCCH(NH)COOH)、N−アセチル−メチオニン(CHSCCH(NH(COCH))COOH)、ランチオニン(HOOCCH(NH)CHSCHCH(NH)COOH)、チオジプロピオン酸(HOOCCSCCOOH)、チオジグリコール酸(HOOCCHSCHCOOH)、メチオノール(CHSCOH)、チオジグリコール(HOCSCOH)、チオモルホリン(CNS)、チアゾール(CNS)、ベンゾチアゾール(CNS)から選ばれる1種以上とすることができる。
また、本発明の一態様では、前記反応液にアミン化合物が添加され、前記アミン化合物は、分子内に第1級アミノ基(−NH)を2個以上含有するか、あるいは、第1級アミノ基(−NH)を1個かつ第2級アミノ基(−NH−)を1個以上含有するか、あるいは、分子内に第2級アミノ基(−NH−)を2個以上含有し、前記反応液中のニッケルのモル数に対する前記アミン化合物のモル数の割合が0.01モル%〜5モル%の範囲とすることができる。
また、本発明の一態様では、前記晶析工程では、前記スルフィド、さらに必要に応じてアミン化合物を添加し、少なくとも前記水溶性ニッケル塩を水に溶解させたニッケル塩溶液と、前記ニッケルよりも貴な金属の塩を水に溶解させた溶液と、前記還元剤を水に溶解させた溶液と、および前記水酸化アルカリを水に溶解させた溶液を添加混合して行うこととすることができる。
また、本発明の一態様では、前記晶析工程では、少なくとも前記水溶性ニッケル塩を水に溶解させたニッケル塩溶液と、前記ニッケルよりも貴な金属の塩を水に溶解させた溶液と、前記還元剤を水に溶解させた溶液と、および前記水酸化アルカリを水に溶解させた溶液を添加混合し、前記スルフィド、さらに必要に応じてアミン化合物を添加混合して行うこととすることができる。
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法は、還元剤としてヒドラジンを用いた湿式法によるニッケル粉末の製造方法であって、湿式法の一工程である晶析工程において、ニッケル粉末(ニッケル晶析粉)の高性能化のために晶析工程の反応液に配合する微量の添加剤の働きで、晶析と同時に硫黄コート処理が可能となるため、積層セラミックコンデンサの内部電極に好適な高性能なニッケル粉末を安価に製造することができる。
図1は、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における製造工程の一例を示す模式図である。 図2は、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における晶析工程の、第1の実施形態に係る晶析手順を示す模式図である。 図3は、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における晶析工程の、第2の実施形態に係る晶析手順を示す模式図である。
以下、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法について図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
1.ニッケル粉末の製造方法
1−1.晶析工程
1−1−1.晶析工程で用いる薬剤
1−1−2.晶析反応の手順(晶析手順)
1−1−3.晶析反応(還元反応、ヒドラジン自己分解反応)
1−1−4.晶析条件(反応開始温度)
1−1−5.ニッケル晶析粉の回収
1−2.解砕工程(後処理工程)
2.ニッケル粉末
<1.ニッケル粉末の製造方法>
まず、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法について説明する。図1に、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における製造工程の一例を示す模式図を示す。本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法は、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、還元剤としてのヒドラジン、pH調整剤としての水酸化アルカリと水を含む反応液中において、ヒドラジンによる還元反応でニッケル晶析粉を得る晶析工程を主体とし、反応液中に、分子内にスルフィド基(−S−)を1個以上含有するスルフィド化合物を配合し、必要に応じてさらにアミン化合物を添加してヒドラジンの自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)として作用させている。また、必要に応じて行う解砕工程を後処理工程として付加したものである。
還元反応で生成したニッケル晶析粉は、晶析過程における上記スルフィド化合物の表面処理(硫黄コート処理)の機能により、硫黄成分で表面修飾されるが、公知の手順を用いて反応液から分離すればよく、例えば、洗浄、固液分離、乾燥の手順を経ることにより、表面処理(硫黄コート処理)されたニッケル粉末が得られる。
ところで、特許文献7で示される通り、スルフィド化合物はニッケル粉に対して硫黄コート剤として機能しないことが分かっているが、上述した晶析過程でスルフィド化合物を適用するとニッケル晶析粉に表面処理(硫黄コート処理)が可能である。そのメカニズムは、必ずしも明らかではないが、例えば、晶析過程のニッケル晶析粉は、常に新たに還元析出した活性なニッケル表面を有しているため、ニッケル晶析粉に吸着したスルフィド化合物分子が上記活性な表面で分解されて硫黄(S)成分が吸着から化学結合に変化しニッケル晶析粉表面を修飾(硫黄コート)する、というものである。なお、化学結合した硫黄成分は僅かにニッケル晶析粉の内部(結晶粒界部分)に取り込まれるものの、大部分は粒成長するニッケル晶析粉の表面に移行していると推測している。
また、得られたニッケル粉末(ニッケル晶析粉)に、例えば不活性雰囲気や還元性雰囲気中で200℃〜300℃程度の熱処理を施してニッケル粉末を得ることもできる。上記熱処理は、前述の積層セラミックコンデンサ製造時の内部電極での脱バインダ挙動やニッケル粉末の焼結挙動を制御できるため、適正範囲内で用いれば非常に有効である。
さらに、必要に応じて、晶析工程で得られたニッケル粉末(ニッケル晶析粉)に解砕処理を施す解砕工程(後処理工程)を追加して、晶析工程のニッケル粒子生成過程で生じたニッケル粒子の連結による粗大粒子などの低減を図ったニッケル粉末を得ることが好ましい。
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、スルフィド化合物を所定の割合で添加することにより、ニッケル晶析粉は、前記スルフィド化合物由来の硫黄で表面修飾され、晶析と同時に硫黄コート処理が可能となるため、積層セラミックコンデンサの内部電極に好適な高性能なニッケル粉末を安価に製造することができる。以下、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法の詳細について晶析工程、解砕工程の順に説明する。
(1−1.晶析工程)
晶析工程では、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、および水を混合した反応液中でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン、またはニッケル錯イオン)をヒドラジンで還元する。本発明では、この反応液にスルフィド化合物を混合させることで、スルフィド化合物の存在下でニッケル塩をヒドラジンで還元することを特徴とする。また、反応液には必要に応じてアミン化合物も添加してもよい。
(1−1−1.晶析工程で用いる薬剤)
本発明の一実施形態に係る晶析工程では、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、還元剤、水酸化アルカリ、スルフィド化合物などの各種薬剤と水を含む反応液が用いられている。溶媒としての水は、得られるニッケル粉末中の不純物量を低減させる観点から、超純水(導電率:≦0.06 μS/cm(マイクロジーメンス・パー・センチメートル)、純水(導電率:≦1μS/cm)という高純度のものがよく、中でも安価で入手が容易な純水を用いることが好ましい。以下、上記各種薬剤について、それぞれ詳述する。
(a)ニッケル塩
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法に用いるニッケル塩は、水に易溶であるニッケル塩であれば、特に限定されるものではなく、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケルから選ばれる1種以上を用いることができる。これらのニッケル塩の中では、塩化ニッケル、硫酸ニッケルあるいはこれらの混合物がより好ましい。
(b)ニッケルよりも貴な金属の金属塩
ニッケルよりも貴な金属をニッケル塩溶液に含有させることで、ニッケルを還元析出させる際に、ニッケルよりも貴な金属が先に還元されて初期核となる核剤として作用しており、この初期核が粒子成長することで微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を作製することができる。
ニッケルよりも貴な金属の金属塩としては、水溶性の銅塩や、金塩、銀塩、プラチナ塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩などの水溶性の貴金属塩が挙げられる。例えば、水溶性の銅塩としては硫酸銅を、水溶性の銀塩としては硝酸銀を、水溶性のパラジウム塩としては塩化パラジウム(II)ナトリウム、塩化パラジウム(II)アンモニウム、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)などを用いることができるが、これらには限定されない。
ニッケルよりも貴な金属の金属塩としては、特に上述したパラジウム塩を用いると、粒度分布は幾分広くなるものの、得られるニッケル粉末の粒径をより微細に制御することが可能となるため好ましい。パラジウム塩を用いた場合の、パラジウム塩とニッケルの割合[モルppm](パラジウム塩のモル数/ニッケルのモル数×10)は、ニッケル粉末の目的とする平均粒径にもよるが、例えば平均粒径0.05μm〜0.5μmであれば、0.2モルppm〜100モルppmの範囲内、好ましくは0.5モルppm〜25モルppmの範囲内がよい。上記割合が0.2モルppm未満だと、平均粒径が0.5μmを超えてしまい、一方で、100モルppmを超えると、高価なパラジウム塩を多く使用することとなり、ニッケル粉末のコスト増につながる。
(c)還元剤
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法に用いる還元剤は、特に限定されるものではないが、例えばヒドラジン(N、分子量:32.05)が挙げられる。なお、ヒドラジンには、無水のヒドラジンの他にヒドラジン水和物である抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)があるが、どちらを用いてもかまわない。ヒドラジンは、その還元反応は後述する式(2)に示す通りであるが、(特にアルカリ性で)還元力が高いこと、還元反応の副生成物が反応液中に生じないこと(窒素ガスと水)、不純物が少ないこと、および入手が容易なこと、という特徴を有しているため還元剤に好適であり、例えば、市販されている工業グレードの60質量%抱水ヒドラジンを用いることができる。
(d)水酸化アルカリ
ヒドラジンの還元力は、反応液のアルカリ性が強い程大きくなるため(後述する式(2)参照)、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、アルカリ性を高めるpH調整剤として水酸化アルカリを用いる。水酸化アルカリは特に限定されるものではないが、入手の容易さや価格の面から、アルカリ金属水酸化物を用いることが好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる1種以上とすることがより好ましい。
水酸化アルカリの配合量は、還元剤としてのヒドラジンの還元力が十分高まるように、反応液のpHが、反応温度において、9.5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは10.5以上となるようにするとよい。(液のpHは、例えば、25℃と70℃程度では、高温の70℃の方が小さくなる。)
(e)スルフィド化合物(ヒドラジンの自己分解抑制補助剤および表面処理剤)
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法に用いるスルフィド化合物は、上記アミン化合物と異なり、単独で用いた場合にはヒドラジンの自己分解抑制作用はそれ程大きくないが、上記アミン化合物と併用すると、ヒドラジンの自己分解抑制作用を大幅に強めることができるヒドラジンの自己分解抑制補助剤の作用を有しているため、必要に応じて、反応液に添加すると良い。上記スルフィド化合物としては、分子内にスルフィド基(−S−)を1個以上含有する化合物である。なお、上記スルフィド化合物は、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤の作用に加えて、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用も有しており、上記アミン化合物と併用すると、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子の生成量をより効果的に低減できる。
スルフィド化合物は、分子内にさらにカルボキシ基(−COOH)、水酸基(−OH)、アミノ基(第1級:−NH、第2級:−NH−、第3級:−N<)から選ばれる構造を少なくとも1個以上含有するカルボキシ基含有スルフィド化合物、水酸基含有スルフィド化合物、アミノ基含有スルフィド化合物のいずれかであることが好適であり、チアゾール環(CNS)を少なくとも1個以上含有するチアゾール環含有スルフィド化合物も水溶性は高くないが適用可能であり、より具体的には、下記(化1)〜(化11)に一例を示すが、L(または、D、DL)−メチオニン(CHSCCH(NH)COOH)、L(または、D、DL)−エチオニン(CSCCH(NH)COOH)、N−アセチル−L(または、D、DL)−メチオニン(CHSCCH(NH(COCH))COOH)、ランチオニン(HOOCCH(NH)CHSCHCH(NH)COOH)、チオジプロピオン酸(別名称:3,3’−チオジプロピオン酸)(HOOCCSCCOOH)、チオジグリコール酸(別名称:2,2’−チオジグリコール酸、2,2’−チオ二酢酸、2,2’−チオビス酢酸、メルカプト二酢酸)(HOOCCHSCHCOOH)、メチオノール(CHSCOH)、チオジグリコール(別名称:2,2’−チオジエタノール)(HOCSCOH)、チオモルホリン(CNS)、チアゾール(CNS)、ベンゾチアゾール(CNS)から選ばれる1種以上である。これらのカルボキシ基含有スルフィド化合物または水酸基含有スルフィド化合物は水溶性であり、中でもメチオニンやチオジグリコール酸は、ヒドラジンの自己分解抑制補助作用に優れ、かつ入手が容易で安価のため好ましい。
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上記スルフィド化合物のヒドラジンの自己分解抑制補助剤、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用については、その詳細な作用メカニズムは、未だ明らかにはなっていないが、以下のように推測できる。すなわち、スルフィド化合物は、分子内のスルフィド基(−S−)がニッケル粒子のニッケル表面に分子間力により吸着するが、それ単独では、前述したアミン化合物分子のようにニッケル晶析粉を覆って保護する作用が大きくならない。一方で、アミン化合物とスルフィド化合物を併用すると、アミン化合物分子がニッケル晶析粉の表面に強く吸着して覆い保護する際に、アミン化合物分子同士では完全に覆いきれない微小な領域が生じる可能性が高いが、その部分をスルフィド化合物分子が吸着により補助的に覆うことで、反応液中のヒドラジン分子とニッケル晶析粉との接触がより効果的に妨げられ、さらにはニッケル晶析粉同士の合体もより強力に防止できて、上記作用が発現しているというものである。
ここで、反応液中のニッケルのモル数に対する上記スルフィド化合物のモル数の割合[モル%](スルフィド化合物のモル数/ニッケルのモル数×100)は0.01モル%〜5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%〜2モル%、より好ましくは0.05モル%〜1モル%の範囲がよい。上記割合が0.01モル%未満だと、上記スルフィド化合物が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤やニッケル粒子同士の連結抑制剤の各作用が得られなくなる。一方で、上記割合が5モル%を超えても上記各作用の向上は見られないため、単にスルフィド化合物の使用量が増加するだけであり、薬剤コストが上昇すると同時に、反応液に有機成分の配合量が増大して晶析工程の反応廃液の化学的酸素要求量(COD)が上昇するため廃液処理コスト増大を生じる。
(f)アミン化合物
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法に用いるアミン化合物は、前述のようにヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、さらにはニッケル粒子同士の連結抑制剤の作用を有しているため、必要に応じて、反応液に添加すると良い。
上記アミン化合物としては、分子内に第1級アミノ基(−NH)を2個以上含有するか、あるいは、分子内に第1級アミノ基(−NH)を1個、かつ第2級アミノ基(−NH−)を1個以上含有するか、あるいは、分子内に第2級アミノ基(−NH−)を2個以上含有する化合物である。
アミン化合物は、アルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかであって、分子内のアミノ基(第1級:−NH、第2級:−NH−、第3級:−N<)の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合した下記式Aの構造を少なくとも有していることが好ましい。
Figure 2018178256
より具体的には、アルキレンアミンとして、エチレンジアミン(HNCNH)、ジエチレントリアミン(HNCNHCNH)、トリエチレンテトラミン(HN(CNH)NH)、テトラエチレンペンタミン(HN(CNH)NH)、ペンタエチレンヘキサミン(HN(CNH)NH)、プロピレンジアミン(CHCH(NH)CHNH)から選ばれる1種以上、アルキレンアミン誘導体として、トリス(2−アミノエチル)アミン(N(CNH)、N−(2−アミノエチル)アミノエタノール(HNCNHCOH)、N−(2−アミノエチル)プロパノールアミン(HNCNHCOH)、L(または、D、DL)−2,3−ジアミノプロピオン酸(HNCHCH(NH)COOH)、エチレンジアミン−N,N’−二酢酸(HOOCCHNHCNHCHCOOH)、N,N’−ジアセチルエチレンジアミン(CHCONHCNHCOCH)、1,2−シクロヘキサンジアミン(HNC10NH)から選ばれる1種以上である。これらのアルキレンアミン、アルキレンアミン誘導体は水溶性であり、中でもエチレンジアミン、ジエチレントリアミンは、入手が容易で安価のため好ましい。
上記アミン化合物の還元反応促進剤としての作用は、反応液中のニッケルイオン(Ni2+)を錯化してニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きによると考えられるが、ヒドラジンの自己分解抑制剤、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用については、その詳細な作用メカニズムは、未だ明らかにはなっていない。ただし、次のような推測が可能である。すなわち、アミン化合物分子内のアミノ基の内、特に第1級アミノ基(−NH)や第2級アミノ基(−NH−)が、反応液中のニッケル晶析粉の表面に強く吸着し、アミン化合物分子がニッケル晶析粉を覆って保護することで、反応液中のヒドラジン分子とニッケル晶析粉との過剰な接触を妨げたり、ニッケル晶析粉同士の合体を防止して、上記ヒドラジンの自己分解抑制やニッケル粒子同士の連結抑制の各作用を発現しているというものである。
なお、アミン化合物であるアルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体が、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合した下記式Aの構造を有するのが好ましいが、その理由としては、ニッケル晶析粉に強く吸着するアミノ基の窒素原子が炭素数3以上の炭素鎖を介して結合していると、炭素鎖が長くなることでアミン化合物分子の炭素鎖部分の運動の自由度(分子の柔軟性)が大きくなって、ニッケル晶析粉へのヒドラジン分子の接触を効果的に妨害できなくなってくるためと考えられる。
Figure 2018178256
実際に、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合したエチンジアミン(HNCNH)やプロピレンジアミン(別名称:1,2−ジアミノプロパン、1,2−プロパンジアミン)(CHCH(NH)CHNH)と比べると、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数3の炭素鎖を介して結合したトリメチレンジアミン(別名称:1,3−ジアミノプロパン、1,3−プロパンジアミン)(HNCNH)は、ヒドラジンの自己分解抑制作用が劣っていることが確認されている。
ここで、反応液中のニッケルのモル数に対する上記アミン化合物のモル数の割合[モル%](アミン化合物のモル数/ニッケルのモル数×100)は0.01モル%〜5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%〜2モル%の範囲がよい。上記割合が0.01モル%未満だと、上記アミン化合物が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、ニッケル粒子同士の連結抑制剤の各作用が得られなくなる。一方で、上記割合が5モル%を超えると、ニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きが強くなりすぎる結果、粒子成長に異常をきたしてニッケル粉末の粒状性・球状性が失われていびつな形状となったり、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子が多く形成されるなどのニッケル粉末の特性劣化を生じる。
(g)その他の含有物
晶析工程の反応液中には、上述のニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、還元剤(ヒドラジン)、水酸化アルカリ、アミン化合物に加え、分散剤、錯化剤、消泡剤などの各種添加剤を少量含有させてもよい。分散剤や錯化剤は、適切なものを適正量用いれば、ニッケル晶析粉の粒状性(球状性)や粒子表面平滑性を改善できたり、粗大粒子低減が可能になる場合がある。また、消泡剤も、適切なものを適正量用いれば、晶析反応で生じる窒素ガス(後述の式(2)〜式(4)参照)に起因する晶析工程での発泡を抑制することが可能となる。分散剤と錯化剤の境界線は曖昧であるが、分散剤としては、公知の物質を用いることができ、例えば、アラニン(CHCH(COOH)NH)、グリシン(HNCHCOOH)、トリエタノールアミン(N(COH))、ジエタノールアミン(別名:イミノジエタノール)(NH(COH))などが挙げられる。錯化剤としては、公知の物質を用いることができ、ヒドロキシカルボン酸、カルボン酸(少なくとも一つのカルボキシル基を含む有機酸)、ヒドロキシカルボン酸塩やヒドロキシカルボン酸誘導体、カルボン酸塩やカルボン酸誘導体、具体的には、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、蟻酸、酢酸、ピルビン酸、およびそれらの塩や誘導体などが挙げられる。
(1−1−2.晶析反応の手順(晶析手順))
少なくとも水溶性ニッケル塩を水に溶解させたニッケル塩溶液と、ニッケルよりも貴な金属の塩を水に溶解させた溶液と、還元剤(ヒドラジン)を水に溶解させた溶液と、および水酸化アルカリを水に溶解させた溶液を用意し、これらを混合させた液にスルフィド化合物を添加するか、あるいはこれらの少なくともいずれかにスルフィド化合物を配合した後、これらを添加混合させて反応液を調合し、この反応液中で晶析反応を行うものである。反応液を調合した後、晶析反応の早期、例えば、調合後数分〜10分程度に反応液にスルフィド化合物を添加混合させることもできる。なお、必要に応じて添加するアミン化合物は、反応液を調合する前に上記いずれかの溶液またはそれらを混合させた液に添加混合させるか、反応液を調合してから反応液に添加混合させる。なお、反応液が調合された時点で還元反応が開始される。
ここで、具体的な晶析手順としては、被還元物であるニッケル塩とニッケルよりも貴な金属の塩を含む溶液に、あらかじめ還元剤(ヒドラジン)と水酸化アルカリを添加混合させた溶液を添加混合して反応液を調合する手順と、被還元物(ニッケル塩とニッケルよりも貴な金属の塩)の溶液に還元剤(ヒドラジン)を添加混合させた溶液に、水酸化アルカリの溶液を添加混合して反応液を調合する手順の2種類ある。前者は水酸化アルカリによりアルカリ性が高く還元力を高めた還元剤(ヒドラジン)を被還元物の溶液に添加混合するのに対し、後者は還元剤(ヒドラジン)を被還元物の溶液に混合させておいてから、水酸化アルカリによりpHを調整して還元力を高める違いがある。
前者の場合は、反応液が調合された時点、すなわち還元反応が開始する時点での温度(以降、これを反応開始温度とすることもある)にもよるが、ニッケル塩とニッケルより貴な金属を含む溶液と水酸化アルカリによりアルカリ性を高めた還元剤溶液の添加混合に要する時間(以降、これを原料混合時間とすることもある)が長くなると、添加混合の途中の段階から、ニッケル塩溶液と還元剤溶液の添加混合領域の局所においてアルカリ性が上昇してヒドラジンの還元力が高まり、ニッケルよりも貴な金属の塩(核剤)に起因した核発生が生じてしまう。
よって、原料混合時間の終盤になるほど添加された核剤の核発生作用が弱まるという核発生の原料混合時間依存性が大きくなってしまい、ニッケル晶析粉の微細化や狭い粒度分布を得にくくなるという傾向がある。この傾向は、弱酸性のニッケル塩溶液にアルカリ性の還元剤溶液を添加混合する場合により顕著である。上記傾向は、原料混合時間が短いほど抑制できるため、短時間が望ましいが、量産設備面の制約などを考慮すると、好ましくは10秒〜180秒、より好ましくは20秒〜120秒、さらに好ましくは30秒〜80秒がよい。
一方、後者の場合は、被還元物(ニッケル塩とニッケルよりも貴な金属の塩)と還元剤を含む溶液中では還元剤のヒドラジンが予め添加混合されて均一濃度となっているため、水酸化アルカリ溶液を添加混合する際に生じる核発生の水酸化アルカリの原料混合時間依存性は、前者の場合ほど大きくならず、ニッケル晶析粉の微細化や狭い粒度分布が得やすいという特徴がある。ただし、前者の場合と同様の理由で、水酸化アルカリ混合時間は短時間が望ましく、量産設備面の制約などを考慮すると、好ましくは10秒〜180秒、より好ましくは20秒〜120秒、さらに好ましくは30秒〜80秒がよい。
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法に用いるスルフィド化合物やアミン化合物の添加混合についても、上述の通り、反応液が調合される前に反応液にあらかじめ配合しておく手順と(第1の実施形態)、反応液が調合されて還元反応開始以降に添加混合される手順(第2実施形態)の2種類ある。以下図2及び3を用いて、第1の実施形態及び第2実施形態を説明する。
図2のように第1の実施形態は、晶析工程では、スルフィド、さらに必要に応じてアミン化合物を添加する。そして、上記添加した溶液に、少なくとも前記水溶性ニッケル塩を水に溶解させたニッケル塩溶液と、前記ニッケルよりも貴な金属の塩を水に溶解させた溶液と、前記還元剤を水に溶解させた溶液と、および前記水酸化アルカリを水に溶解させた溶液を添加混合して行う。
すなわち、反応液に予めスルフィド化合物やアミン化合物を配合しておく。そのため、ニッケルよりも貴な金属の塩(核剤)に起因した核発生の開始時点から、スルフィド化合物による表面処理(硫黄コート処理)の機能に加えて、スルフィド化合物やアミン化合物の各種作用(ヒドラジンの自己分解抑制剤、ニッケル粒子同士の連結抑制、還元反応促進剤(錯化剤、アミン化合物))が発現するという利点がある。一方で、スルフィド化合物やアミン化合物の有するニッケル粒子表面との相互作用(例えば、吸着など)が核発生に関与して生じるニッケル晶析粉の粒径や粒度分布に及ぼす影響を十分に考慮しておく必要がある。
一方、図3のように第2の実施形態は、前記晶析工程では、少なくとも前記水溶性ニッケル塩を水に溶解させたニッケル塩溶液と、前記ニッケルよりも貴な金属の塩を水に溶解させた溶液と、前記還元剤を水に溶解させた溶液と、および前記水酸化アルカリを水に溶解させた溶液を添加混合する。そして、上記添加混合した溶液に、スルフィド、さらに必要に応じてアミン化合物を添加混合して行う。
すなわち、ニッケルよりも貴な金属の塩(核剤)に起因した核発生が生じる晶析工程の極初期段階を経た後に、スルフィド化合物やアミン化合物を反応液に添加混合する。そのため、スルフィド化合物による表面処理(硫黄コート処理)の機能を含め、スルフィド化合物やアミン化合物のヒドラジンの自己分解抑制剤、ニッケル粒子同士の連結抑制、還元反応促進剤(錯化剤、アミン化合物)としての作用が幾分遅れるものの、スルフィド化合物やアミン化合物の核発生への関与がなくなるため、得られるニッケル晶析粉の粒径や粒度分布がスルフィド化合物やアミン化合物によって影響を受けにくくなり、それらを制御しやすくなる利点がある。
ここで、第2の実施形態でのスルフィド化合物やアミン化合物の反応液への添加混合における混合時間は、数秒以内の一気添加でも良いし、数分間〜30分間程度にわたり分割添加や滴下添加してもよい。なお、上述のように、アミン化合物には、還元反応促進剤(錯化剤)としての作用があるため、ゆっくり添加する方が結晶成長をゆっくりと進行させてニッケル晶析粉が高結晶性となるが、ヒドラジンの自己分解抑制も徐々に作用することとなりヒドラジン消費量の低減効果は減少するため、上記混合時間は、これら両者のバランスをみながら適宜決定すればよい。なお、第1の実施形態の手順におけるスルフィド化合物やアミン化合物の添加混合タイミングについては、目的に応じ総合的に判断して適宜選択することができる。
ニッケル塩溶液と還元剤溶液の添加混合や、ニッケル塩・還元剤含有液への水酸化アルカリ溶液の添加混合は、溶液を撹拌しながら混合する撹拌混合が好ましい。撹拌混合性が良いと、核発生の場所によるが不均一が低下(均一化)し、かつ、前述したような核発生の原料混合時間依存性や水酸化アルカリ混合時間依存性が低下するため、ニッケル晶析粉の微細化や狭い粒度分布を得やすくなる。撹拌混合の方法は、公知の方法を用いればよく、撹拌混合性の制御や設備コストの面から撹拌羽根を用いることが好ましい。
(1−1−3.晶析反応(還元反応、ヒドラジン自己分解反応))
晶析工程では、反応液中において、スルフィド化合物と水酸化アルカリとニッケルよりも貴な金属の金属塩の共存下でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン、またはニッケル錯イオン)をヒドラジンで還元(必要に応じて、極微量の特定のアミン化合物の作用でヒドラジンの自己分解を大幅に抑制)してニッケル晶析粉を得ている。
まず、晶析工程における還元反応について説明する。ニッケル(Ni)の反応は下記の式(1)の2電子反応、ヒドラジン(N)の反応は下記の式(2)の4電子反応であって、例えば、上述のように、ニッケル塩として塩化ニッケル、水酸化アルカリとして水酸化ナトリウムを用いた場合には、還元反応全体は下記の式(3)のように、塩化ニッケルと水酸化ナトリウムの中和反応で生じた水酸化ニッケル(Ni(OH))がヒドラジンで還元される反応で表され、化学量論的には(理論値としては)、ニッケル(Ni)1モルに対し、ヒドラジン(N)0.5モルが必要である。
ここで、式(2)のヒドラジンの還元反応から、ヒドラジンはアルカリ性が強い程、その還元力が大きくなることが分かる。上記水酸化アルカリはアルカリ性を高めるpH調整剤として用いており、ヒドラジンの還元反応を促進する働きを担っている。
Figure 2018178256
Figure 2018178256
Figure 2018178256
上述の通り、従来の晶析工程では、ニッケル晶析粉の活性な表面が触媒となって、下記の式(4)で示されるヒドラジンの自己分解反応が促進され、還元剤としてのヒドラジンが還元作用以外に大量に消費されるため、晶析条件(反応開示温度など)にもよるが、例えば、ニッケル1モルに対しヒドラジン2モル程度(前述の還元に必要な理論値の4倍程度)が一般的に用いられていた。さらに、ヒドラジンの自己分解では多量のアンモニアが副生して(式(4)参照)、反応液中に高濃度で含有されて含窒素廃液を生じることとなる。このような高価な薬剤であるヒドラジンの過剰量の使用や、含窒素廃液の処理コスト発生が、湿式法によるニッケル粉末(湿式ニッケル粉末)のコスト増要因となっている。
Figure 2018178256
そこで、上記ニッケル粉末の製造方法では、極微量の特定のスルフィド化合物やアミン化合物を反応液に加えて、ヒドラジンの自己分解反応を著しく抑制し、薬剤として高価なヒドラジンの使用量を大幅に削減することが好ましい。この詳細なメカニズムは未だ明らかではないが、(I)上記特定のスルフィド化合物やアミン化合物の分子が、反応液中のニッケル晶析粉の表面に吸着し、ニッケル晶析粉の活性表面とヒドラジン分子との接触を妨害している、(II)特定のスルフィド化合物やアミン化合物の分子がニッケル晶析粉表面に作用し、表面の触媒活性を不活性化している、などが考えられる。
なお、従来から湿式法での晶析工程では、還元反応時間(晶析反応時間)を実用的な範囲にまで短縮するために、酒石酸やクエン酸などのニッケルイオン(Ni2+)と錯イオンを形成してイオン状ニッケル濃度を高める錯化剤を還元反応促進剤として用いるのが一般的であるが、これら酒石酸やクエン酸など錯化剤は、上記特定のスルフィド化合物やアミン化合物のようなヒドラジンの自己分解抑制剤の作用、あるいは晶析中にニッケル粒子同士が連結して生じる粗大粒子を形成しにくくする連結抑制剤としての作用は有していない。
一方で、上記特定のアミン化合物は、酒石酸やクエン酸などと同様に錯化剤としても働き、ヒドラジンの自己分解抑制剤、連結抑制剤、および還元反応促進剤の作用を兼ね備える利点を有している。
(1−1−4.晶析条件(反応開始温度))
晶析工程の晶析条件として、少なくとも、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、ヒドラジン、水酸化アルカリを含む反応液(スルフィド化合物、および必要に応じて添加するアミン化合物は、添加タイミングにより反応液調合時には含まれていない場合もあるが、最終的に反応液に含まれる)が調合された時点、すなわち、還元反応が開始する時点の温度である反応開始温度が、40℃〜90℃とすることが好ましく、50℃〜80℃とすることがより好ましく、60℃〜70℃とすることがさらに好ましい。なお、ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液などの個々の溶液の温度は、それらを混合して得られる反応液の温度(反応開始温度)が上記温度範囲になれば特に制約はなく自由に設定することができる。反応開始温度は、高いほど還元反応は促進され、かつニッケル晶析粉は高結晶化する傾向にあるが、一方で、ヒドラジンの自己分解反応がそれ以上に促進される側面があるため、ヒドラジンの消費量が増加するとともに、反応液の発泡が激しくなる傾向がある。したがって、反応開始温度が高すぎると、ヒドラジンの消費量が大幅に増加したり、多量の発泡で晶析反応を継続できなくなる場合がある。一方で、反応開始温度が低くなり過ぎると、ニッケル晶析粉の結晶性が著しく低下したり、還元反応が遅くなって晶析工程の時間が大幅に延長して生産性が低下する傾向がある。以上の理由から、上記温度範囲にすることで、ヒドラジン消費量を抑制しながら、高い生産性を維持しつつ、高性能のニッケル晶析粉を安価に製造することができる。
(1−1−5.ニッケル晶析粉の回収)
ヒドラジンによる還元反応で反応液中に生成した表面処理(硫黄コート処理)されたニッケル晶析粉は、前述の通り、公知の手順を用いて反応液から分離すればよい。具体的な方法として、デンバーろ過器、フィルタープレス、遠心分離機、デカンターなどを用いて反応液中からニッケル晶析粉を固液分離すると共に、純水(導電率:≦1μS/cm)等の高純度の水で十分に洗浄し、大気乾燥機、熱風乾燥機、不活性ガス雰囲気乾燥機、真空乾燥機などの汎用の乾燥装置を用いて50〜300℃、好ましくは、80〜150℃で乾燥し、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得ることができる。なお、不活性ガス雰囲気乾燥機、真空乾燥機などの乾燥装置を用いて、不活性雰囲気、還元性雰囲気、真空雰囲気中で200℃〜300℃程度で乾燥した場合は、単なる乾燥に加え、熱処理を施したニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得ることが可能である。
(1−2.解砕工程(後処理工程))
晶析工程で得られたニッケル晶析粉(ニッケル粉末)は、前述の通り、スルフィド化合物や必要に応じて添加されたアミン化合物が晶析中においてニッケル粒子の連結抑制剤として作用するため、ニッケル粒子が還元析出の過程で互いに連結して形成される粗大粒子の含有割合はそもそもそれ程大きくない。ただし、晶析手順や晶析条件によっては、粗大粒子の含有割合が幾分大きくなって問題になる場合もあるため、図1に示すように、晶析工程に引き続いて解砕工程を設け、ニッケル粒子が連結した粗大粒子をその連結部で分断して粗大粒子の低減を図ることが好ましい。解砕処理としては、スパイラルジェット解砕処理、カウンタージェットミル解砕処理などの乾式解砕方法や、高圧流体衝突解砕処理などの湿式解砕方法、その他の汎用の解砕方法を適用することが可能である。
<2.ニッケル粉末>
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法で得られるニッケル粉末は、還元剤としてのヒドラジン使用量を大幅に削減した湿式法により得られ、安価で、かつ高性能であって、積層セラミックコンデンサの内部電極に好適である。ニッケル粉末の特性としては、以下の、平均粒径、不純物含有量(塩素含有量、アルカリ金属含有量)、硫黄含有量、結晶子径、粗大粒子の含有量、をそれぞれ求めて評価している。
(平均粒径)
近年の積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応するという観点から、ニッケル粉末の平均粒径は0.5μm以下が好ましい。本明細書中の平均粒径は、ニッケル粉末の走査電子顕微鏡写真(SEM像)から求めた数平均の粒径である。
(不純物含有量(塩素含有量、アルカリ金属含有量))
湿式法によるニッケル粉末には、薬剤起因の不純物である塩素やアルカリ金属が含有される。これらの不純物は、積層セラミックコンデンサの製造時において内部電極の欠陥発生の原因となる可能性があるため、可能な限り低減することが好ましく、具体的には、塩素、アルカリ金属ともに、0.01質量%以下であることが好ましい。
(硫黄含有量)
積層セラミックコンデンサの内部電極に適用されるニッケル粉末は、硫黄を含有していることが好ましい。ニッケル粉末表面は、内部電極ペーストに含まれるエチルセルロースなどのバインダ樹脂の熱分解を促進する作用があり、積層セラミックコンデンサ製造時の脱バインダ処理にて、低温からバインダ樹脂が分解されて分解ガスが多量に発生しクラックが発生することがある。このバインダ樹脂の熱分解を促進する作用は、ニッケル粉末の表面に硫黄を付着させることで大幅に抑制されることが知られている。硫黄含有量は、上記の目的を達成するためには、1質量%以下が好ましい。硫黄含有量が1質量%を超えると、硫黄に起因した内部電極の欠陥等が生じてしまう。
(結晶子径)
結晶子径は、結晶化の程度を示す指標であり、大きいほど結晶性が高いことを表す。前述の通り、気相法によるニッケル粉末は、1000℃程度以上の高温プロセスを経るため結晶子径は80nm以上と結晶性に優れている。湿式法によるニッケル粉末も、その結晶子径は大きい方が好ましく、25nm以上、好ましくは30nm以上が望ましい。結晶子径の測定方法には幾つかの手法があるが、本明細書中での結晶子径はX線回折測定を行いScherrer法により求めている。Scherrer法では、結晶歪の影響を強く受けるため、歪が多く生じる解砕処理工程後のニッケル粉末ではなくて、歪が少ないニッケル晶析粉を測定対象とし、その測定値を結晶子径としている。
(粗大粒子の含有量)
ニッケル粉末の粗大粒子の含有量は、走査電子顕微鏡写真(SEM像)(倍率10000倍)を20視野で撮影し、その20視野のSEM像において、主にニッケル粒子が連結して形成された粒径0.5μm以上の粗大粒子の含有量(%)、すなわち、粗大粒子の個数/全粒子の個数×100、を計測して求めている。粒径0.5μm以上の粗大粒子の含有量は、積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応するという観点からすると、1%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.01%以下であることが望ましい。
以下、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
[ニッケル塩溶液の調製]
ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405g、自己分解抑制補助剤としてのスルフィド化合物として分子内にスルフィド基(−S−)を1個含有するL−メチオニン(CHSCCH(NH)COOH、分子量:149.21)2.542g、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)0.134mgを、純水1880mLに溶解して、主成分としてニッケル塩と、スルフィド化合物と、ニッケルより貴な金属の金属塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩溶液を調製した。ここで、ニッケル塩溶液において、スルフィド化合物であるL−メチオニンはニッケルに対し、モル比で0.01(1.0モル%)と微量で、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し0.5質量ppm(0.28モルppm)である。
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を138g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。還元剤溶液に含まれるヒドラジンのニッケルに対するモル比は0.97であった。
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)276gを、純水672mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を用意した。水酸化アルカリ溶液に含まれる水酸化ナトリウムのニッケルに対するモル比は6.90であった。
[アミン化合物溶液]
自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)としてのアミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(−NH)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH、分子量:60.1)1.024gを、純水19mLに溶解して、主成分としてのエチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。アミン化合物溶液に含まれるエチレンジアミンはニッケルに対し、モル比で0.01(1.0モル%)と微量であった。
なお、上記ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、およびアミン化合物溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[晶析工程]
上記各薬剤を用い、図2に示す晶析手順で晶析反応を行い、ニッケル晶析粉を得た。すなわち、塩化ニッケルとパラジウム塩を純水に溶解したニッケル塩溶液を撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ液温85℃になるように撹拌しながら加熱した後、液温25℃でヒドラジンと水を含む上記還元剤溶液を混合時間20秒で添加混合してニッケル塩・還元剤含有液とした。このニッケル塩・還元剤含有液に液温25℃で水酸化アルカリと水を含む上記水酸化アルカリ溶液を混合時間80秒で添加混合し、液温70℃の反応液(塩化ニッケル+メチオニン+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム)を調合し、還元反応(晶析反応)を開始した(反応開始温度70℃)。反応液の色調は、前述の式(3)で示されるように、反応液調合直後は水酸化ニッケル(Ni(OH)2)の黄緑色であったが、反応開始(反応液調合)から数分すると、核剤(パラジウム塩)の働きによる核発生に伴い反応液が変色(黄緑色→灰色)した。反応液が暗灰色に変化した反応開始後8分後から18分後までの10分間にかけて上記アミン化合物溶液を上記反応液に滴下混合し、ヒドラジンの自己分解を抑制しながら還元反応を進めてニッケル晶析粉を反応液中に析出させた。反応開始から90分以内には、式(3)の還元反応は完了し、反応液の上澄み液は透明で、反応液中のニッケル成分はすべて金属ニッケルに還元されていることを確認した。
ところで、上記反応液の上澄み液中にはヒドラジンが僅かに残存しており、その量を測定したところ、還元剤溶液に配合した60%抱水ヒドラジン138gに対し、晶析反応で消費された60%抱水ヒドラジン量は131gであり、ニッケルに対するモル比は0.92であった。ここで、還元反応に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は、前述の式(3)から0.5と想定されるため、自己分解に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は0.42であったと見積もられる。
ニッケル晶析粉を含む反応液はスラリー状(ニッケル晶析粉含有スラリー)であり、導電率が1 μS/cmの純水を用い、上記ニッケル晶析粉含有スラリーからろ過したろ液の導電率が10 μS/cm以下になるまでろ過洗浄し、固液分離した後、150℃の温度に設定した真空乾燥器中で乾燥して、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。
[解砕処理工程(後処理工程)]
図1に示すように、晶析工程に引き続いて解砕工程を実施し、ニッケル粉末中の主にニッケル粒子が連結して形成された粗大粒子の低減を図った。具体的には、晶析工程で得られた上記ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、乾式解砕方法であるスパイラルジェット解砕処理を施し、湿式法の晶析反応に微量のスルフィド化合物(L−メチオニン)が適用され、晶析と同時に硫黄コート処理された、実施例1に係るニッケル粉末を得た。
(実施例2)
[ニッケル塩溶液の調製]
ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405g、自己分解抑制補助剤としてのスルフィド化合物として分子内にスルフィド基(−S−)を1個含有するL−メチオニン(CHSCCH(NH)COOH、分子量:149.21)1.271g、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)0.134mgを、純水1880mLに溶解して、主成分としてニッケル塩と、スルフィド化合物と、ニッケルより貴な金属の金属塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩溶液を調製した。ここで、ニッケル塩溶液において、スルフィド化合物であるL−メチオニンはニッケルに対し、モル比で0.005(0.5モル%)と微量で、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し0.5質量ppm(0.28モルppm)である。
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を135g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。還元剤溶液に含まれるヒドラジンのニッケルに対するモル比は0.95であった。
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)276gを、純水672mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を用意した。水酸化アルカリ溶液に含まれる水酸化ナトリウムのニッケルに対するモル比は6.90であった。
[アミン化合物溶液]
自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)としてのアミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(−NH)を2個、かつ第2級アミノ基(−NH−)を1個含有するアルキレンアミンであるジエチレントリアミン(略称:DETA)(HNCNHCNH、分子量:103.17)0.088gを、純水20mLに溶解して、主成分としてのジエチレントリアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。アミン化合物溶液に含まれるジエチレントリアミンはニッケルに対し、モル比で0.0005(0.05モル%)と非常に微量であった。
なお、上記ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、およびアミン化合物溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[晶析工程]
上記各薬剤(ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、アミン化合物溶液)を用いた以外は、実施例1と同様に行ない、液温70℃の反応液(塩化ニッケル+メチオニン+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム)を調合し、反応開始温度70℃の晶析反応を行い、洗浄・固液分離・乾燥してニッケル晶析粉を得た。
還元剤溶液に配合した60%抱水ヒドラジン135gに対し、晶析反応で消費された60%抱水ヒドラジン量は131gであり、ニッケルに対するモル比は0.92であった。ここで、還元反応に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は、前述の式(3)から0.5と想定されるため、自己分解に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は0.42であったと見積もられる。
上記ニッケル晶析粉に、実施例1と同様のスパイラルジェット解砕処理を施し、湿式法の晶析反応に微量のスルフィド化合物(L−メチオニン)が適用され、晶析と同時に硫黄コート処理された、実施例2に係るニッケル粉末を得た。
(実施例3)
[ニッケル塩溶液の調製]
ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405g、自己分解抑制補助剤としてのスルフィド化合物として分子内にスルフィド基(−S−)を1個含有するL−メチオニン(CHSCCH(NH)COOH、分子量:149.21)0.763g、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)0.187mgを、純水1880mLに溶解して、主成分としてニッケル塩と、スルフィド化合物と、ニッケルより貴な金属の金属塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩溶液を調製した。ここで、ニッケル塩溶液において、スルフィド化合物であるL−メチオニンはニッケルに対し、モル比で0.003(0.3モル%)と微量で、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し0.7質量ppm(0.39モルppm)である。
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を171g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。還元剤溶液に含まれるヒドラジンのニッケルに対するモル比は1.20であった。
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)230gを、純水560mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を用意した。水酸化アルカリ溶液に含まれる水酸化ナトリウムのニッケルに対するモル比は5.75であった。
[アミン化合物溶液]
自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)としてのアミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(−NH)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH、分子量:60.1)2.048gを、純水19mLに溶解して、主成分としてのエチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。アミン化合物溶液に含まれるエチレンジアミンはニッケルに対し、モル比で0.02(2.0モル%)と微量であった。
なお、上記ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、およびアミン化合物溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[晶析工程]
上記各薬剤(ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、アミン化合物溶液)を用いた以外は、実施例1と同様に行ない、液温70℃の反応液(塩化ニッケル+メチオニン+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム)を調合し、反応開始温度70℃の晶析反応を行い、洗浄・固液分離・乾燥してニッケル晶析粉を得た。
還元剤溶液に配合した60%抱水ヒドラジン171gに対し、晶析反応で消費された60%抱水ヒドラジン量は168gであり、ニッケルに対するモル比は1.18であった。ここで、還元反応に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は、前述の式(3)から0.5と想定されるため、自己分解に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は0.68であったと見積もられる。
上記ニッケル晶析粉に、実施例1と同様のスパイラルジェット解砕処理を施し、湿式法の晶析反応に微量のスルフィド化合物(L−メチオニン)が適用され、晶析と同時に硫黄コート処理された、実施例3に係るニッケル粉末を得た。
(実施例4)
[ニッケル塩溶液の調製]
ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405g、自己分解抑制補助剤としてのスルフィド化合物として分子内にスルフィド基(−S−)を1個含有するチオジグリコール酸(別名称:2、2’−チオジグリコール酸、2、2’−チオ二酢酸)(HOOCCHSCHCOOH、分子量:150.15)0.768g、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)0.027mgを、純水1880mLに溶解して、主成分としてニッケル塩と、スルフィド化合物と、ニッケルより貴な金属の金属塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩溶液を調製した。ここで、ニッケル塩溶液において、スルフィド化合物であるチオジグリコール酸はニッケルに対し、モル比で0.003(0.3モル%)と微量で、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し0.1質量ppm(0.06モルppm)である。
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を138g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。還元剤溶液に含まれるヒドラジンのニッケルに対するモル比は0.97であった。
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)276gを、純水672mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を用意した。水酸化アルカリ溶液に含まれる水酸化ナトリウムのニッケルに対するモル比は6.90であった。
[アミン化合物溶液]
自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)としてのアミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(−NH)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH、分子量:60.1)1.024gを、純水19mLに溶解して、主成分としてのエチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。アミン化合物溶液に含まれるエチレンジアミンはニッケルに対し、モル比で0.01(1.0モル%)と微量であった。
なお、上記ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、およびアミン化合物溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[晶析工程]
上記各薬剤(ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、アミン化合物溶液)を用いた以外は、実施例1と同様に行ない、液温70℃の反応液(塩化ニッケル+チオジグリコール酸+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム)を調合し、反応開始温度70℃の晶析反応を行い、洗浄・固液分離・乾燥してニッケル晶析粉を得た。
還元剤溶液に配合した60%抱水ヒドラジン138gに対し、晶析反応で消費された60%抱水ヒドラジン量は123gであり、ニッケルに対するモル比は0.87であった。ここで、還元反応に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は、前述の式(3)から0.5と想定されるため、自己分解に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は0.37であったと見積もられる。
上記ニッケル晶析粉に、実施例1と同様のスパイラルジェット解砕処理を施し、湿式法の晶析反応に微量のスルフィド化合物(チオジグリコール酸)が適用され、晶析と同時に硫黄コート処理された、実施例4に係るニッケル粉末を得た。
(実施例5)
[ニッケル塩溶液の調製]
ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405g、自己分解抑制補助剤としてのスルフィド化合物として分子内にスルフィド基(−S−)を1個含有するチオジグリコール酸(別名称:2、2’−チオジグリコール酸、2、2’−チオ二酢酸)(HOOCCHSCHCOOH、分子量:150.15)0.256g、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)0.016mgを、純水1880mLに溶解して、主成分としてニッケル塩と、スルフィド化合物と、ニッケルより貴な金属の金属塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩溶液を調製した。ここで、ニッケル塩溶液において、スルフィド化合物であるチオジグリコール酸はニッケルに対し、モル比で0.001(0.1モル%)と微量で、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し0.6質量ppm(0.33モルppm)である。
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を175g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。還元剤溶液に含まれるヒドラジンのニッケルに対するモル比は1.23であった。
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)230gを、純水560mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を用意した。水酸化アルカリ溶液に含まれる水酸化ナトリウムのニッケルに対するモル比は5.75であった。
[アミン化合物溶液]
自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)としてのアミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(−NH)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH、分子量:60.1)2.048gを、純水19mLに溶解して、主成分としてのエチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。アミン化合物溶液に含まれるエチレンジアミンはニッケルに対し、モル比で0.02(2.0モル%)と微量であった。
なお、上記ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、およびアミン化合物溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[晶析工程]
上記各薬剤(ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、アミン化合物溶液)を用いた以外は、実施例1と同様に行ない、液温70℃の反応液(塩化ニッケル+チオジグリコール酸+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム)を調合し、反応開始温度70℃の晶析反応を行い、洗浄・固液分離・乾燥してニッケル晶析粉を得た。
還元剤溶液に配合した60%抱水ヒドラジン175gに対し、晶析反応で消費された60%抱水ヒドラジン量は171gであり、ニッケルに対するモル比は1.20であった。ここで、還元反応に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は、前述の式(3)から0.5と想定されるため、自己分解に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は0.70であったと見積もられる。
上記ニッケル晶析粉に、実施例1と同様のスパイラルジェット解砕処理を施し、湿式法の晶析反応に微量のスルフィド化合物(チオジグリコール酸)が適用され、晶析と同時に硫黄コート処理された、実施例5に係るニッケル粉末を得た。
(比較例1)
ニッケル粉スラリー(ニッケル晶析粉を含むアルカリ性の反応液)において、ニッケル晶析粉に硫黄コート処理を施さなかった以外は実施例1と同様に行ない、硫黄コート処理されていないニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。そして、上記硫黄コート処理されていないニッケル晶析粉に、実施例1と同様のスパイラルジェット解砕処理を施し、湿式法を用いて作製された、比較例1に係る(硫黄コート処理されていない)ニッケル粉末を得た。すなわち、以下の通りである。
[ニッケル塩溶液の調製]
ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405g、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)2.67mgを、純水1880mLに溶解して、主成分としてニッケル塩とニッケルより貴な金属の金属塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩溶液を調製した。ここで、ニッケル塩溶液において、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し10.0質量ppm(5.5モルppm)である。
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を242g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。還元剤溶液に含まれるヒドラジンのニッケルに対するモル比は1.70であった。
なお、上記ニッケル塩溶液、還元剤溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)230gを、純水560mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を用意した。水酸化アルカリ溶液に含まれる水酸化ナトリウムのニッケルに対するモル比は5.75であった。
[アミン化合物溶液]
自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)としてのアミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(−NH)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH、分子量:60.1)2.048gを、純水18mLに溶解して、主成分としてのエチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。アミン化合物溶液に含まれるエチレンジアミンはニッケルに対し、モル比で0.02(2.0モル%)と微量であった。
なお、上記ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、およびアミン化合物溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[晶析工程]
上記各薬剤(ニッケル塩溶液、還元剤溶液)を用いた以外は、実施例1と同様に行ない、液温70℃の反応液(塩化ニッケル+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム)を調合し、反応開始温度70℃の晶析反応を行い、洗浄・固液分離・乾燥してニッケル晶析粉を得た。
還元剤溶液に配合した60%抱水ヒドラジン242gに対し、晶析反応で消費された60%抱水ヒドラジン量は240gであり、ニッケルに対するモル比は1.69であった。ここで、還元反応に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は、前述の式(3)から0.5と想定されるため、自己分解に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は1.19であったと見積もられる。
上記ニッケル晶析粉に、実施例1と同様のスパイラルジェット解砕処理を施し、湿式法の晶析反応に微量のスルフィド化合物が適用されず、晶析と同時に硫黄コート処理されなかった、比較例1に係るニッケル粉末を得た。
以上の実施例1〜5及び比較例1の晶析工程で用いた各種薬剤と晶析条件を表1に、また、得られたニッケル粉末の特性を表2にまとめて示す。
Figure 2018178256
Figure 2018178256
表2において、実施例1と比較例1を比べると、平均粒径は、実施例1:0.26μm、比較例1:0.30μmとなり、実施例1の方が小さかった。また、平均粒径粗大粒子の含有量は、実施例1:0.01%、比較例1:0.08%となり、実施例1の方が低かった。よって、スルフィド化合物を加えた実施例1では、スルフィド化合物を加えていない比較例1よりも、ニッケル粒子同士が連結して生じる粗大粒子を抑制することができた。
また、実施例1〜5のニッケル粉末中の硫黄の含有量はそれぞれ、0.13質量%、0.10質量%、0.08質量%、0.13質量%、0.06質量%となり、ニッケル晶析粉は、添加されたスルフィド化合物由来の硫黄で修飾されたことが分かった。なお、実施例1〜5のニッケル粉末における硫黄の含有形態は、全硫黄の80モル%以上がニッケル粒子表面を修飾した状態であり、ニッケル粒子内部への取込み割合が低いことが、確認されている。
また、実施例1と比較例1の消費ヒドラジンを比べると、実施例1:0.92、比較例1:1.69となり、スルフィド化合物を加えた実施例1では、スルフィド化合物を加えていない比較例1よりも、ヒドラジンの自己分解をより抑制できた。
さらに実施例1よりもスルフィド化合物の濃度が低い実施例2〜5でも、比較例よりも平均粒径が小さく、粗大粒子の含有量も低かった。よって、スルフィド化合物の添加量が実施例1よりも少ない実施例2〜5においても、ニッケル粒子同士が連結して生じる粗大粒子を抑制することができた。
以上より、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、特定のスルフィド化合物、アミン化合物を極微量用いることで、ニッケル粒子同士が連結して生じる粗大粒子を抑制することができ、さらにヒドラジンの自己分解反応を抑制でき、また硫黄コート処理も同時にすることができた。よって、積層セラミックコンデンサの内部電極に好適な高性能なニッケル粉末を安価に製造することができた。
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、ニッケル粉末の製造方法の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。

Claims (6)

  1. 少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、およびスルフィド化合物と水とを混合した反応液中において、還元反応によりニッケル晶析粉を得る晶析工程を有するニッケル粉末の製造方法であって、
    前記晶析工程で混合させる前記還元剤はヒドラジン(N)であり、
    前記スルフィド化合物は、分子内にスルフィド基(−S−)を1個以上含有しており、
    前記反応液中のニッケルのモル数に対する前記スルフィド化合物のモル数の割合が0.005モル%〜3モル%の範囲であり、
    前記ニッケル晶析粉は、前記スルフィド化合物由来の硫黄で表面修飾されることを特徴とするニッケル粉末の製造方法。
  2. 前記スルフィド化合物が、分子内にさらにカルボキシ基(−COOH)、水酸基(−OH)、アミノ基(第1級:−NH、第2級:−NH−、第3級:−N<)、チアゾール環(CNS)から選ばれる構造を少なくとも1個以上含有するカルボキシ基含有スルフィド化合物、水酸基含有スルフィド化合物、アミノ基含有スルフィド化合物、チアゾール環含有スルフィド化合物のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
  3. 前記カルボキシ基含有スルフィド化合物または前記水酸基含有スルフィド化合物が、メチオニン(CHSCCH(NH)COOH)、エチオニン(CSCCH(NH)COOH)、N−アセチル−メチオニン(CHSCCH(NH(COCH))COOH)、ランチオニン(HOOCCH(NH)CHSCHCH(NH)COOH)、チオジプロピオン酸(HOOCCSCCOOH)、チオジグリコール酸(HOOCCHSCHCOOH)、メチオノール(CHSCOH)、チオジグリコール(HOCSCOH)、チオモルホリン(CNS)、チアゾール(CNS)、ベンゾチアゾール(CNS)から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項2に記載のニッケル粉末の製造方法。
  4. 前記反応液にアミン化合物が添加され、
    前記アミン化合物は、分子内に第1級アミノ基(−NH)を2個以上含有するか、あるいは、第1級アミノ基(−NH)を1個かつ第2級アミノ基(−NH−)を1個以上含有するか、あるいは、分子内に第2級アミノ基(−NH−)を2個以上含有し、
    前記反応液中のニッケルのモル数に対する前記アミン化合物のモル数の割合が0.01モル%〜5モル%の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
  5. 前記晶析工程では、前記スルフィド、さらに必要に応じてアミン化合物を添加し、
    少なくとも前記水溶性ニッケル塩を水に溶解させたニッケル塩溶液と、前記ニッケルよりも貴な金属の塩を水に溶解させた溶液と、前記還元剤を水に溶解させた溶液と、および前記水酸化アルカリを水に溶解させた溶液を添加混合して行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
  6. 前記晶析工程では、少なくとも前記水溶性ニッケル塩を水に溶解させたニッケル塩溶液と、前記ニッケルよりも貴な金属の塩を水に溶解させた溶液と、前記還元剤を水に溶解させた溶液と、および前記水酸化アルカリを水に溶解させた溶液を添加混合し、
    前記スルフィド、さらに必要に応じてアミン化合物を添加混合して行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2021020522A1 (ja) * 2019-07-31 2021-02-04 住友金属鉱山株式会社 ニッケル粉末、ニッケル粉末の製造方法

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