JP2023079721A - ニッケル粉末の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が少ないニッケル粉末の製造方法、特に、ニッケル粉末をより簡便かつ容易に作製できる湿式法によるニッケル粉末の製造方法を提供する。【解決手段】水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリおよび水を混合した反応液中において、還元反応を行い、ニッケル晶析粉を含む反応終液としてニッケル粉スラリーを得る晶析工程と、前記ニッケル粉スラリー中のニッケル晶析粉を、洗浄およびろ別してニッケル粉ケーキを得る洗浄・ろ過工程と、前記ニッケル粉ケーキを乾燥してニッケル粉末を得る乾燥工程と、を有し、前記洗浄・ろ過工程でろ別後から前記乾燥工程で乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの含水率を30~60質量%の範囲に保持する、ニッケル粉末の製造方法。【選択図】図1

Description

本発明は、積層セラミック部品の電極材として用いられる高性能なニッケル粉末の製造方法に関し、特に湿式法により得られる安価で高性能なニッケル粉末とその製造方法に関する。
ニッケル粉末は、電子回路のコンデンサの材料として、特に、積層セラミックコンデンサ(MLCC:multilayer ceramic capacitor)や多層セラミック基板等の積層セラミック部品の内部電極等を構成する厚膜導電体の材料として利用されている。
近年、積層セラミックコンデンサの大容量化が進み、積層セラミックコンデンサの内部電極の形成に用いられる内部電極ペーストの使用量も大幅に増加している。このため、厚膜導電体を構成する内部電極ペースト用の金属粉末として、高価な貴金属の使用に代替して、主としてニッケル等の安価な卑金属が使用されている。
積層セラミックコンデンサを製造する工程では、ニッケル粉末、エチルセルロース等のバインダー樹脂およびターピネオール等の有機溶剤を混練した内部電極ペーストを、誘電体グリーンシート上にスクリーン印刷する。そして、内部電極ペーストが印刷され、乾燥された誘電体グリーンシートは、内部電極ペースト印刷層と誘電体グリーンシートとが交互に重なるように積層され、さらに圧着されて積層体が得られる。
この積層体を、所定の大きさにカットし、次に、バインダー樹脂を加熱処理により除去し(脱バインダー処理)、さらに、脱バインダー処理後の積層体を1300℃程度の高温で焼成することにより、セラミック成形体が得られる。
そして、得られたセラミック成形体に外部電極が取り付けられ、積層セラミックコンデンサが得られる。内部電極となる内部電極ペースト中の金属粉末として、ニッケル等の卑金属が使用されていることから、積層体の脱バインダー処理は、これらの卑金属が酸化しないように、不活性雰囲気等の酸素濃度がきわめて低い雰囲気下にて行われる。
積層セラミックコンデンサの小型化および大容量化に伴い、内部電極や誘電体はともに薄層化が進められている。これに伴って、内部電極ペーストに使用されるニッケル粉末の粒径も微細化が進行し、平均粒径0.4μm以下のニッケル粉末が必要とされ、特に平均粒径0.3μm以下のニッケル粉末の使用が主流となっている。
ニッケル粉末の製造方法には、大別すると、気相法と湿式法がある。気相法としては、例えば、特許文献1に記載されている塩化ニッケル蒸気を水素により還元してニッケル粉末を作製する方法や、特許文献2に記載されているニッケル金属をプラズマ中で蒸気化してニッケル粉末を作製する方法がある。また、湿式法としては、例えば、特許文献3に記載されている、ニッケル塩溶液に還元剤を添加してニッケル粉末を作製する方法がある。
気相法は、1000℃程度以上の高温プロセスのため、結晶性に優れる高特性のニッケル粉末を得るためには有効な手段ではあるが、得られるニッケル粉末の粒径分布が広くなるという問題がある。上述の通り、内部電極の薄層化においては、粗大粒子を含まず、比較的粒径分布の狭い平均粒径0.4μm以下のニッケル粉末が必要とされる。そのため、気相法でこのようなニッケル粉末を得るためには、高価な分級装置の導入によるニッケル粉末の分級処理が必須となる。
なお、分級処理では、粒径が0.6μm~2μm程度の任意の値の分級点を目途に、分級点よりも大きな粗大粒子の除去が可能であるが、分級点よりも小さな粒子の一部も同時に除去されてしまうため、製品実収が大幅に低下するという問題もある。したがって、気相法では、上述の高額な設備導入も含めて、製品のコストアップが避けられない。
さらに、気相法では、平均粒径が0.2μm以下、特に、平均粒径が0.1μm以下のニッケル粉末を用いる場合に、分級処理による粗大粒子の除去自体が困難になるため、今後の内部電極の一層の薄層化に対応できない。
一方で、湿式法は、気相法と比較して、得られるニッケル粉末の粒径分布が狭いという利点がある。特に、特許文献3に記載されている、ニッケル塩として銅塩を含む溶液に還元剤としてヒドラジンを含む溶液を添加して得られる反応液中で還元反応を行う晶析により、ニッケル粉末を作製する方法では、ニッケルよりも貴な金属の塩(核剤)との共存下でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン(Ni2+)、またはニッケル錯イオン)がヒドラジンで還元されるため、核発生数が制御され(すなわち、粒径が制御され)、かつ核発生と粒子成長が均一となって、より狭い粒径分布で微細なニッケル粉末(以後、反応液中に生じるニッケル粉末をニッケル晶析粉と呼ぶことがある)が得られることが知られている。参考までに、図1に湿式法によるニッケル粉末の代表的な製造工程を示す。
ところで、上記湿式法で得られるニッケル粉末を積層セラミックコンデンサに適用する場合には、前述した内部電極層と誘電体層からなる積層体における電極間ショート(短絡)を防止するため、ニッケル粉末と樹脂を主成分とするニッケルペースト乾燥膜(ニッケルペーストを印刷・乾燥させて得られる乾燥膜)には高い平坦性が求められる。特に、近年の積層セラミックコンデンサの高容量化に伴う内部電極層の薄層化(膜厚が0.5μm~1.0μm程度)に対応するためには、平均粒径0.3μm以下、好ましくは平均粒径0.2μm以下の微細なニッケル粉末が用いられ、また、そのニッケル粉末中に含まれる内部電極層の膜厚と同程度のサイズ(例えば、0.8μm~1.2μm)の粗大粒子は極限まで低減することが要求されている。
そこで、特許文献4には、湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法として、ヒドラジンの還元力を高めるために強アルカリ性反応液中で還元反応を行う晶析工程において、反応液中に特定のアミン化合物やスルフィド化合物を極微量添加して、ヒドラジンの自己分解反応を著しく抑制するとともに、ニッケル粒子同士が連結して生じる粗大粒子を形成しにくくして、粗大粒子の含有量が非常に少ない高性能なニッケル粉末を安価に得る方法が示されている。
特開平4-365806号公報 特表2002-530521号公報 特開2002-53904号公報 WO2017/069067号
上記のような湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法においては、還元剤としてヒドラジンがよく用いられるため、特許文献4等からも明らかなように、反応液は強アルカリ性となることが一般的である。前述した図1に示すとおり、晶析工程では、ヒドラジンの還元反応により、この強アルカリ性反応液中にニッケル晶析粉が生成したニッケル粉スラリーが得られ、このニッケル粉スラリーからニッケル晶析粉を純水で洗浄しながらろ別回収してニッケル粉ケーキを得る洗浄・ろ過工程、このニッケル粉ケーキを乾燥(真空乾燥等)して乾燥したニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得る乾燥工程、が晶析工程に引続いて実施される。
上記洗浄・ろ過工程は通常大気中で実施されるため、得られるニッケル粉ケーキは洗浄・ろ過工程の間や乾燥工程の乾燥が行なわれるまでの間に、多かれ少なかれ大気にいくらかは暴露されてニッケル晶析粉の酸化が生じることは避けがたい。特に、量産規模で晶析反応を行う場合には、実験室レベルの少量の取扱いと異なり、ニッケル粉ケーキのハンドリングに時間を要するため、上記大気暴露によるニッケル晶析粉の酸化が進みやすい。
上述した強アルカリ性のニッケル粉スラリーから洗浄・ろ過工程を経て得られたニッケル粉ケーキにおいて、上記ニッケル晶析粉の酸化が生じた場合には、ニッケル晶析粉1(粒径0.4μm以下)同士が酸化で生じた水酸化ニッケル2で強固に固められた水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子10(図2参照)が発生することもあった。この粗大粒子10は、多くの場合、粒径が0.8μm以上となって積層セラミックコンデンサ等の不具合の原因となり得るため、その効果的な抑制対策が求められていた。
そこで、本発明では、水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が少ないニッケル粉末の製造方法、特に、上記ニッケル粉末をより簡便かつ容易に作製できる湿式法によるニッケル粉末の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、積層セラミックコンデンサ等に用いられる、湿式法によるニッケル粉末の製造方法において、晶析の反応終液である強アルカリ性のニッケル粉スラリーからニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を洗浄・ろ過してニッケル粉ケーキとして回収する洗浄・ろ過工程の過程で、ニッケル粉ケーキに含まれる水(含水率)を所定範囲内に制御することで、上記水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の生成を効果的に抑制できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成したものである。
上記課題を解決するために、本発明のニッケル粉末の製造方法は、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリおよび水を混合した反応液中において、還元反応を行い、ニッケル晶析粉を含む反応終液としてニッケル粉スラリーを得る晶析工程と、前記ニッケル粉スラリー中のニッケル晶析粉を、洗浄およびろ別してニッケル粉ケーキを得る洗浄・ろ過工程と、前記ニッケル粉ケーキを乾燥してニッケル粉末を得る乾燥工程と、を有し、前記洗浄・ろ過工程でろ別後から前記乾燥工程で乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの含水率を30~60質量%の範囲に保持する、ニッケル粉末の製造方法である。
前記洗浄・ろ過工程でろ別後から前記乾燥工程で乾燥を開始するまでの間、前記ニッケル粉ケーキの温度を0℃~35℃の範囲に保持してもよい。
前記洗浄・ろ過工程で、前記ニッケル晶析粉の洗浄に用いる純水の温度が0℃~35℃であってもよい。
前記ニッケル粉末は、数平均粒径が0.03μm~0.4μmであり、粒径が0.8μmを超える、水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が200質量ppm以下であり、粒径が1.2μmを超える、水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が100質量ppm以下であってもよい。
水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が少ないニッケル粉末の製造方法、特に、上記ニッケル粉末をより簡便かつ容易に作製できる湿式法によるニッケル粉末の製造方法を提供することができる。
湿式法によるニッケル粉末の製造方法における代表的な製造工程を示す模式図である。 湿式法によるニッケル粉末中にみられる水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子を示す模式図である。
以下、本実施形態に係るニッケル粉末の製造方法の一例について説明する。本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
1.ニッケル粉末
2.湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法
2-1.晶析工程
2-1-1.晶析工程で用いる薬剤
2-1-2.晶析手順
2-1-3.還元反応
2-1-4.反応開始温度
2-2.洗浄・ろ過工程
2-2-1.洗浄・ろ過の方法と手順
2-3.乾燥工程
2-4.解砕工程(後処理工程)
<1.ニッケル粉末>
本発明のニッケル粉末の製造方法によって得られるニッケル粉末は、粒径0.8μmを超える水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が非常に少なく、ニッケルペースト乾燥膜における高い平坦性を実現できるため、内部電極層と誘電体層からなる積層体における電極間ショート(短絡)を効果的に防止することが可能となり、積層セラミックコンデンサの内部電極の用途に好適である。
ニッケル粉末は、略球状の粒子形状を有し、その平均粒径は、近年の積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応するという観点から0.03μm~0.4μmである。略球状の形状には、真球のみならず、所定の断面が短径と長径との比(短径/長径)が0.8~1.0となる楕円形状となる楕円体等も含む。
なお、本実施形態の平均粒径は、ニッケル粉末の走査電子顕微鏡写真(SEM像)から求めた数平均の粒径である。また、後述する本実施形態の湿式法で製造されたニッケル粉末であれば、分級処理を施さなくても十分に狭い粒度分布を有している。すなわち、この場合には、粒径の標準偏差をその平均粒径で除した値であるCV値は0.2以下となり、粒径が揃ったニッケル粉末となる。
ここで、水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子は、後述する洗浄・ろ過工程から乾燥工程に至る過程で、ニッケル晶析粉の表面に生成した水酸化ニッケルによって、ニッケル晶析粉を巻き込んで強固に結合した固形物である。これらは、後述する解砕処理を施したとしても、容易に解きほぐされることはない。なお、水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子は、解砕処理されたニッケル粉末を例えばメンブレンフィルタ等のフィルタ等により粗大粒子を分離し、その粗大粒子をEDS(エネルギー分散型X線分析)やXPS(X線光電子分光法)等による分析と走査電子顕微鏡(SEM)等による形状観察により特定することができる。
本発明のニッケル粉末は、粒径が0.8μmを超える水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が200質量ppm以下と、さらには100質量ppm以下とすることができ、粒径が1.2μmを超える水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が100質量ppm以下とすることができ、さらには50質量ppm以下とすることができる。
もちろん粗大粒子の影響はニッケル粉末が用いられる積層セラミックコンデンサの内部電極層の膜厚により左右されるが、近年の薄層化された内部電極層では、粒径が0.8μmを超える水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が200質量ppmを超えたり、粒径が1.2μmを超える水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が100質量ppmを超えると、電極間ショートの発生が顕著となることがある。水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が少ないほど良好であるのは言うまでもなく、粒径が0.8μmを超える水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が100質量ppm以下であったり、粒径が1.2μmを超える水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が50質量ppm以下とすれば、電極間ショートの発生率を十分に低減することができる。なお、水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の粒径は、SEM像から求めた短軸径とすればよい。
なお、水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子は、解砕処理されたニッケル粉末を例えばメンブレンフィルタ等のフィルタ等により粗大粒子を分離し、その粗大粒子をEDS(エネルギー分散型X線分析)やXPS(X線光電子分光法)等による分析と走査電子顕微鏡(SEM)等による形状観察により特定することができる。
通常、ニッケル粉末には、僅かな不純物が含有されている場合がある。例えば、湿式法により得られたニッケル粉末には、ニッケル粒子の表面酸化が起因である酸素、ニッケル原料である塩化ニッケルが起因と考えられる塩素、水酸化ナトリウムが起因であるナトリウム等のアルカリ金属が微量含まれている場合がある。また、気相法により得られたニッケル粉末も、ニッケル粒子の表面酸化が起因である酸素や、塩化ニッケルの蒸気を水素還元して作製する方法によって得られたニッケル粉末の場合は微量の塩素が含有される場合がある。これらの不純物は、積層セラミックコンデンサの製造時において内部電極の欠陥発生の原因となる可能性があるため、可能な限り低減することが好ましく、例えば、塩素、アルカリ金属については、ニッケル粉末中に0.01質量%以下の含有量であることが好ましい。
本実施形態のニッケル粉末のように、積層セラミックコンデンサの内部電極に適用可能なニッケル粉末は、その触媒活性を抑制するため、通常、微量の硫黄を含有している場合がある。これは、ニッケル粒子の表面は触媒活性が高く、例えば硫黄等を含有させずにそのまま使用すると、積層セラミックコンデンサ製造時の脱バインダー処理において、内部電極ペーストに含まれるエチルセルロース樹脂等のバインダー樹脂の熱分解を促進し、低温からバインダー樹脂が分解されて、積層体としての強度が大幅に低下すると同時に、分解ガスが多量に発生して積層体にクラックが発生しやすくなる場合があるためである。
上記のようにニッケル粉末に硫黄を含有させるには、ニッケル粒子の表面に硫黄を付着させる表面処理を行い、ニッケル粒子表面全体が、薄く、かつ均一に硫黄で修飾(コーティング)していることが、上記バインダー樹脂の分解抑制効果の発現や不純物としての硫黄の積層セラミックコンデンサ特性への影響低減の観点からすると、最も好ましい。ただし、上記バインダー樹脂の分解抑制の効果が発揮できれば、ニッケル粒子の表面全体を修飾(コーティング)せずとも、表面の一部を修飾(コーティング)している修飾(コーティング)状態であってもよい。本実施形態では、このようなニッケル粒子の全体の修飾(コーティング)、および一部の修飾(コーティング)を包括する概念として、“表面処理”を用いている。なお、本実施形態の湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法では、晶析の反応終液には過剰量の水酸化アルカリが含まれ強アルカリ性を示すため、上記のような硫黄による表面処理によって、液のpHが僅かに低下する場合があったとしても、ニッケル粉スラリーやその希釈液のpHが7.0~pH9.0となることはなく、この表面処理は本実施形態でいう中和には該当しない。
ニッケル粉末に対する硫黄含有量は、0.5質量%を超えると硫黄に起因する内部電極欠陥が発生することがあり、好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下がよい。硫黄含有量の下限は特に限定されることはなく、含有量の分析で用いられる分析機器、例えば燃焼法による硫黄分析装置やICP分析装置により検出限界以下の測定結果となるような極微量の含有量でもよい。
<2.湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法>
次に、本実施形態の一実施形態に係る湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法について説明する。本実施形態の一実施形態に係る湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法は、すくなくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤(例えばヒドラジン)、pH調整剤としての水酸化アルカリと水を混合して得た強アルカリ性反応液中において、ヒドラジン等による還元反応でニッケルを晶析させてニッケル晶析粉を含む反応終液である強アルカリ性のニッケル粉スラリーを得る晶析工程、該ニッケル粉スラリーを洗浄しながらニッケル晶析粉を分離してニッケル粉ケーキを得る洗浄・ろ過工程、該ニッケル粉ケーキを乾燥してニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得る乾燥工程を含む。また、必要に応じて、反応液中に、アミン化合物や硫黄含有化合物を配合し、ヒドラジンの自己分解抑制剤(アミン化合物、硫黄含有化合物)および還元反応促進剤(錯化剤)(アミン化合物)として作用させてもよい。また、必要に応じて行う解砕工程を後処理工程として付加してもよい。
なお、所望により、ニッケル晶析粉を含む反応終液である強アルカリ性のニッケル粉スラリーや、その希釈液や洗浄液に極微量の硫黄化合物を添加して、ニッケル粉末中の含有量として0.5質量%以下となるように、硫黄成分でニッケル粒子の表面を修飾する表面処理(硫黄コート処理)を施こしてもよい。また、得られたニッケル粉末に、例えば不活性雰囲気や還元性雰囲気中で200℃~300℃程度の熱処理を施してニッケル粉末を得ることもできる。この硫黄コート処理や熱処理は、前述の積層セラミックコンデンサ製造時の内部電極での脱バインダー挙動やニッケル粉末の焼結挙動を制御できるため、適正範囲内で用いれば非常に有効である。
さらに、必要に応じて、ニッケル晶析粉に解砕処理を施す解砕工程(後処理工程)を追加して、晶析工程におけるニッケル粒子の生成過程で生じたニッケル粒子の連結による粗大粒子等の低減を図ったニッケル粉末を得ることが好ましい。
このような晶析工程、洗浄・ろ過工程、乾燥工程、および必要に応じて解砕工程を行うことで、略球状の粒子形状を有し、その平均粒径が0.03μm~0.4μmのニッケル粉末を得ることができる。
(2-1.晶析工程)
晶析工程では、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、および水を混合した反応液中でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン、またはニッケル錯イオン)を、例えばヒドラジン等の還元剤を用いた還元反応により還元することができる。本実施形態では、ヒドラジンを用いる場合には、この反応液に、必要に応じてアミン化合物や硫黄含有化合物を混合させ、アミン化合物や硫黄含有化合物の存在下で、還元剤としてのヒドラジンの分解抑制をしながら、ニッケル塩を還元することもできる。
(2-1-1.晶析工程で用いる薬剤)
本実施形態の晶析工程では、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、必要に応じて、アミン化合物や硫黄含有化合物等の各種薬剤と水を含む反応液が用いられている。溶媒としての水は、得られるニッケル粉末中の不純物量を低減させる観点から、超純水(導電率:≦0.06μS/cm(マイクロジーメンス・パー・センチメートル))や、純水(導電率:≦1μS/cm)という高純度のものがよく、中でも安価で入手が容易な純水を用いることが好ましい。以下、上記各種薬剤について、それぞれ詳述する。
(a)ニッケル塩
本実施形態に用いるニッケル塩は、水に易溶であるニッケル塩であれば、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケルから選ばれる1種以上を用いることができる。これらのニッケル塩の中では、塩化ニッケル、硫酸ニッケルあるいはこれらの混合物を用いることがより好ましい。
(b)ニッケルよりも貴な金属の塩
ニッケルよりも貴な金属の塩は、ニッケルよりもイオン化傾向が低いことにより、ニッケルを還元析出させる際にニッケルよりも先に還元される。したがって、ニッケルよりも貴な金属の塩は、ニッケル塩溶液に含有させると、ニッケルを還元析出させる際に、ニッケルよりも貴な金属が先に還元されて初期核となる核剤として作用する。そのため、この初期核が粒子成長して得られるニッケル晶析粉(ニッケル粉末)において、ニッケル粉末の粒径制御や微細化を容易に行なうことができるようになる。
ニッケルよりも貴な金属の塩としては、水溶性でニッケルよりもイオン化傾向が低い金属の金属塩であればよく、例えば、水溶性の銅塩や、金塩、銀塩、プラチナ塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩等の水溶性の貴金属塩が挙げられる。例えば、水溶性の銅塩としては硫酸銅を、水溶性の銀塩としては硝酸銀を、水溶性のパラジウム塩としては塩化パラジウム(II)ナトリウム、塩化パラジウム(II)アンモニウム、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)等を用いることができるが、これらには限定されない。
ニッケルよりも貴な金属の塩としては、特に上述したパラジウム塩を用いると、粒度分布は幾分広くなるものの、得られるニッケル粉末の粒径をより微細に制御することが可能となるため好ましい。パラジウム塩を用いた場合の、パラジウム塩とニッケルの割合[モルppm](パラジウム塩のモル数/ニッケルのモル数×106)は、ニッケル粉末の目的とする数平均粒径によって適宜選択することができる。例えば、ニッケル粉末の平均粒径を0.03μm~0.4μmに設定するのであれば、パラジウム塩とニッケルの割合を0.2モルppm~100モルppmの範囲内、好ましくは0.5モルppm~25モルppmの範囲内とすることがよい。上記割合が0.2モルppm未満だと、得られるニッケル粉末の平均粒径が0.4μmを超えてしまう場合がある。一方で、この割合が100モルppmを超えると、高価なパラジウム塩を多く使用することとなり、ニッケル粉末のコスト増につながるおそれがある。
(c)還元剤
本実施形態の晶析工程に用いる還元剤は、特に限定されるものではないが、例えばヒドラジン(N、分子量:32.05)が挙げられる。なお、ヒドラジンには、無水のヒドラジンの他にヒドラジン水和物である抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)があるが、どちらを用いてもかまわない。ヒドラジンの還元反応は、後述する式(2)に示す通りであるが、特にアルカリ性で還元力が高いこと、還元反応の副生成物が窒素ガスと水であるために、還元反応による不純物成分が反応液中に生じないこと、ヒドラジン中の不純物がそもそも少ないこと、および入手が容易なこと、という特徴を有している。そのため、ヒドラジンは還元剤に好適であり、例えば、市販されている工業グレードの60質量%抱水ヒドラジンを用いることができる。
(d)水酸化アルカリ
ヒドラジンの還元力は、後述する式(2)に示すように、反応液のアルカリ性が強い程大きくなるため、本実施形態では、晶析工程において、水酸化アルカリを、アルカリ性を高めるpH調整剤として用いることができる。水酸化アルカリとしては、特に限定されるものではないが、入手の容易さや価格の面から、アルカリ金属水酸化物を用いることが好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)から選ばれる1種以上を用いることがより好ましい。
水酸化アルカリの配合量は、還元剤としてのヒドラジンの還元力が十分高まるように、反応液のpHが、反応温度において、9.5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは10.5以上となるように決定するとよい。反応液のpHは、例えば、25℃と70℃程度を比較すると、高温の70℃の方が幾分小さくなる。
(e)アミン化合物
アミン化合物は、前述のようにヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、さらにはニッケル粒子同士の連結抑制剤の作用を有しているため、必要に応じて、反応液に添加するとよい。上記アミン化合物としては、分子内に第1級アミノ基(-NH)または第2級アミノ基(-NH-)から選ばれる官能基のいずれかを合わせて2個以上含有する化合物であって、例えば、アルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかを用いることができる。一例としては、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合した下記式Aの構造を少なくとも有しているアミン化合物を用いることが好ましい。
Figure 2023079721000002
より具体的には、アルキレンアミンとして、エチレンジアミン(HNCNH)、ジエチレントリアミン(HNCNHCNH)、トリエチレンテトラミン(HN(CNH)NH)、テトラエチレンペンタミン(HN(CNH)NH)、ペンタエチレンヘキサミン(HN(CNH)NH)、プロピレンジアミン(CHCH(NH)CHNH)から選ばれる1種以上を用いることができる。また、アルキレンアミン誘導体として、トリス(2-アミノエチル)アミン(N(CNH)、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン(HNCNHCOH)、N-(2-アミノエチル)プロパノールアミン(HNCNHCOH)、2,3-ジアミノプロピオン酸(HNCHCH(NH)COOH)、1,2-シクロヘキサンジアミン(HNC10NH)、エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(別名称:エチレン-N,N’-ジグリシン、HOOCCHNHCNHCHCOOH)、N,N’-ジアセチルエチレンジアミン(CHCONHCNHCOCH)、N,N’-ジメチルエチレンジアミン(CHNHCNHCH)、N,N’-ジエチルエチレンジアミン(CNHCNHC)、N,N’-ジイソプロピルエチレンジアミン(CH(CH)CHNHCNHCH(CH)CH)、1,2-シクロヘキサンジアミン(HNC10NH)から選ばれる1種以上を用いることができる。これらのアルキレンアミン、アルキレンアミン誘導体は水溶性であり、中でもエチレンジアミン、ジエチレントリアミンは、入手が容易で安価のため好ましい。
上記アミン化合物の還元反応促進剤としての作用は、反応液中のニッケルイオン(Ni2+)を錯化してニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きによると考えられる。また、ヒドラジンの自己分解抑制剤や、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用については、アミン化合物分子内の第1級アミノ基(-NH)や第2級アミノ基(-NH-)と、反応液中のニッケル晶析粉の表面との相互作用により、作用が発現しているものと推測される。
なお、アミン化合物であるアルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体が、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合した上記式Aの構造を有するのが好ましい。ヒドラジン分子の分解を抑制する効果が大きくなるからである。例えば、ニッケル晶析粉に強く吸着するアミノ基の窒素原子が炭素数3以上の炭素鎖を介して結合していると、炭素鎖が長くなることでアミン化合物分子の炭素鎖部分の運動の自由度(分子の柔軟性)が大きくなると考えられる。その結果として、ニッケル晶析粉へのヒドラジン分子の接触を効果的に妨害できなくなって、ニッケルの触媒活性により自己分解するヒドラジン分子が多くなり、ヒドラジンの自己分解の抑制効果を低下させるものと考えられる。
実際に、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合したエチンジアミン(HNCNH)やプロピレンジアミン(別名称:1,2-ジアミノプロパン、1,2-プロパンジアミン)(CHCH(NH)CHNH)と比べると、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数3の炭素鎖を介して結合したトリメチレンジアミン(別名称:1,3-ジアミノプロパン、1,3-プロパンジアミン)(HNCNH)は、ヒドラジンの自己分解抑制作用が劣っていることが確認されている。
ここで、反応液中の上記アミン化合物とニッケルの割合[モル%]((アミン化合物のモル数/ニッケルのモル数)×100)は、0.01モル%~5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%~2モル%の範囲がよい。上記割合が0.01モル%未満だと、上記アミン化合物が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、またはニッケル粒子同士の連結抑制剤としての各作用が得られなくなる場合がある。一方で、上記割合が5モル%を超えると、アミン化合物がニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きが強くなりすぎる結果、ニッケル晶析粉の粒子成長に異常をきたす場合があり、ニッケル粉末の粒状性や球状性が失われていびつな形状となったり、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子が多く形成される等、ニッケル粉末の特性の劣化が生じるおそれがある。
(f)硫黄含有化合物(ヒドラジンの自己分解抑制補助剤)
硫黄含有化合物は、ニッケルめっきの光沢剤やめっき浴の安定剤に適用される化合物であって、上記アミン化合物と異なり、単独で用いた場合にはヒドラジンの自己分解抑制作用はそれ程大きくない。ただし、ニッケル粒子表面と吸着等の相互作用を有しており、上記アミン化合物と併用すると、ヒドラジンの自己分解抑制作用を大幅に強めることができるヒドラジンの自己分解抑制補助剤の作用を有している。そのため、必要に応じて、反応液に添加するとよい。そして上記硫黄含有化合物は、分子内に、スルフィド基(-S-)、スルホニル基(-S(=O)2-)、スルホン酸基(-S(=O)2-O-)、チオケトン基(-C(=S)-)のいずれかを少なくとも1個以上含有する化合物である。さらに、上記硫黄含有化合物は、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤の作用に加えて、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用も有しており、上記アミン化合物と併用すると、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子の生成量をより効果的に低減することもできる。
硫黄含有化合物としては、例えば、分子内に、スルフィド基(-S-)を有するスルフィド化合物においては、水溶性が高い方が望ましく、したがって、分子内にさらにカルボキシ基(-COOH)、水酸基(-OH)、アミノ基(第1級:-NH、第2級:-NH-、第3級:-N<)のいずれかを少なくとも1個以上含有するカルボキシ基含有スルフィド化合物、水酸基含有スルフィド化合物、アミノ基含有スルフィド化合物のいずれかであることが好適であり、また、チアゾール環(CNS)を少なくとも1個以上含有するチアゾール環含有スルフィド化合物も水溶性は高くないが適用可能である。より具体的には、L(またはD、またはDL)-メチオニン(CHSCCH(NH)COOH)、L(またはD、またはDL)-エチオニン(CSCCH(NH)COOH)、N-アセチル-L(またはD、またはDL)-メチオニン(CHSCCH(NH(COCH))COOH)、ランチオニン(別名称:3,3’-チオジアラニン)(HOOCCH(NH)CHSCHCH(NH)COOH)、チオジプロピオン酸(別名称:3,3’-チオジプロピオン酸)(HOOCCSCCOOH)、チオジグリコール酸(別名称:2,2’-チオジグリコール酸、2,2’-チオ二酢酸、2,2’-チオビス酢酸、メルカプト二酢酸)(HOOCCHSCHCOOH)、メチオノール(別名称:3-メチルチオ-1-プロパノール)(CHSCOH)、チオジグリコール(別名称:2,2’-チオジエタノール)(HOCSCOH)、チオモルホリン(CNS)、チアゾール(CNS)、ベンゾチアゾール(CNS)から選ばれる1種以上が好適である。これらの中でもメチオニンやチオジグリコール酸は、ヒドラジンの自己分解抑制補助作用に優れ、かつ入手が容易で安価のため好ましい。
スルフィド化合物以外の硫黄含有化合物としては、より具体的には、サッカリン(別名称:o-安息香酸スルフィミド、o-スルホベンズイミド)(CNOS)、ドデシル硫酸ナトリウム(C1225OS(O)ONa)、ドデシルベンゼンスルホン酸(C1225S(O)OH)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(C1225S(O)ONa)、スルホこはく酸ビス(2-エチルヘキシル)ナトリウム(別名称:スルホこはく酸ジ2-エチルヘキシルナトリウム、スルホこはく酸ジオクチルナトリウム)(NaOS(O)CH(COOCHCH(C)C)CH(COOCHCH(C)C)、チオ尿素(HNC(S)NH)から選ばれる1種以上が好適である。これらの硫黄含有化合物は水溶性であり、中でもサッカリンやチオ尿素は、ヒドラジンの自己分解抑制補助作用に優れ、かつ入手が容易で安価のため好ましい。
上記硫黄含有化合物によるヒドラジンの自己分解抑制補助剤や、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用については、以下のように推測できる。すなわち、硫黄含有化合物は、分子内のスルフィド基(-S-)、スルホニル基(-S(=O)-)、スルホン酸基(-S(=O)-O-)、チオケトン基(-C(=S)-)がニッケル粒子のニッケル表面に分子間力により吸着するが、それ単独では、前述したアミン化合物分子のようにニッケル晶析粉を覆って保護する作用が大きくならない。一方で、アミン化合物と硫黄含有化合物を併用すると、アミン化合物分子がニッケル晶析粉の表面に強く吸着して覆い保護する際に、アミン化合物分子同士では完全に覆いきれない微小な領域が生じる可能性が高いが、その部分を硫黄含有化合物分子が吸着により補助的に覆うことで、反応液中のヒドラジン分子とニッケル晶析粉との接触がより効果的に妨げられ、さらにはニッケル晶析粉同士の合体もより強力に防止できて、上記作用が発現しているというものである。
ここで、反応液中の上記硫黄含有化合物とニッケルの割合[モル%]((硫黄含有化合物のモル数/ニッケルのモル数)×100)は、0.01モル%~5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%~2モル%、より好ましくは0.05モル%~1モル%の範囲がよい。上記割合が0.01モル%未満だと、上記硫黄含有化合物が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤やニッケル粒子同士の連結抑制剤の各作用が得られなくなるおそれがある。一方で、上記割合が5モル%を超えても上記各作用の向上は見られないため、単に硫黄含有化合物の使用量が増加するだけであり、薬剤コストが上昇すると同時に、反応液に有機成分の配合量が増大して晶析工程の反応廃液の化学的酸素要求量(COD)が上昇するため廃液処理コスト増大を生じる。
(g)その他の含有物
晶析工程の反応液中には、上述のニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤(例えばヒドラジン)、水酸化アルカリ、アミン化合物に加え、分散剤、錯化剤、消泡剤等の各種添加剤を少量含有させてもよい。例えば、分散剤や錯化剤は、適切なものを適正量用いれば、ニッケル晶析粉の粒状性(球状性)や表面平滑性を改善できたり、粗大粒子を低減することが可能になる場合がある。また、消泡剤も、適切なものを適正量用いれば、晶析反応で生じる窒素ガス(後述の式(2)~式(4)参照)に起因する晶析工程での発泡を抑制することで、例えば水溶液が容器からあふれてしまうことを防止することが可能となる。分散剤としては、公知の物質を用いることができ、例えば、アラニン(CHCH(COOH)NH)、グリシン(HNCHCOOH)、トリエタノールアミン(N(COH))、ジエタノールアミン(別名:イミノジエタノール)(NH(COH))等が挙げられる。また、錯化剤としては、公知の物質を用いることができ、ヒドロキシカルボン酸、カルボン酸(少なくとも一つのカルボキシル基を含む有機酸)、ヒドロキシカルボン酸塩やヒドロキシカルボン酸誘導体、カルボン酸塩やカルボン酸誘導体、具体的には、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、蟻酸、酢酸、ピルビン酸、およびそれらの塩や誘導体等が挙げられる。さらに、消泡剤としては、アルカリ性条件下において破泡性に優れたものであれば、特に限定されず、オイル型や溶剤型のシリコーン系またはノンシリコーン系の消泡剤を用いることができる。
(2-1-2.晶析手順)
晶析工程では、少なくとも水溶性ニッケル塩とニッケルよりも貴な金属の塩を水に溶解させたニッケル塩溶液と、還元剤(例えばヒドラジン)を水に溶解させた還元剤溶液と、水酸化アルカリを水に溶解させた水酸化アルカリ溶液を用意し、これらを添加混合させて反応液を調合する。そして、還元反応により、この反応液中でニッケル粒子を晶析させてニッケル晶析粉を得る晶析反応を行う。なお、必要に応じて添加するアミン化合物や硫黄含有化合物は、反応液を調合する前に上記いずれかの溶液またはそれらを混合させた液に添加混合させるか、反応液を調合してから反応液に添加混合させることができる。なお、室温環境下では、反応液が調合された時点で還元反応が開始される。
ここで、具体的な晶析手順としては、被還元物であるニッケル塩とニッケルよりも貴な金属の塩を含むニッケル塩溶液に、還元剤溶液と水酸化アルカリ溶液をあらかじめ混合して得られる還元剤(例えばヒドラジン)と水酸化アルカリを含む還元剤・水酸化アルカリ溶液を添加混合して反応液を調合する手順と、上記ニッケル塩溶液に還元剤溶液(例えばヒドラジン溶液)を添加混合して得られるニッケル塩・還元剤溶液に、水酸化アルカリ溶液を添加混合して反応液を調合する手順の2種類が挙げられる。前者は、水酸化アルカリによりアルカリ性が高く還元力を高めた還元剤(例えばヒドラジン)を、被還元物を含むニッケル塩溶液に添加混合するのに対し、後者は還元剤(例えばヒドラジン)を、被還元物を含むニッケル塩溶液にあらかじめ混合させておいてから、水酸化アルカリによりpHを調整(上昇)して還元力を高める違いがある。
前者の場合(ニッケル塩溶液と、還元剤・水酸化アルカリ溶液を添加混合する場合)は、反応液が調合された時点、すなわち還元反応が開始する時点での温度(以降、反応開始温度とすることもある)にもよるが、ニッケル塩溶液(ニッケル塩とニッケルより貴な金属の塩を含む溶液)と水酸化アルカリによりアルカリ性を高くして還元力を高めた還元剤・水酸化アルカリ溶液の添加混合に要する時間(以降、原料混合時間とすることもある)が長くなると、添加混合の途中の段階から、ニッケル塩溶液と還元剤・水酸化アルカリ溶液の添加混合領域の局所においてアルカリ性が上昇してヒドラジンの還元力が高まり、核剤であるニッケルよりも貴な金属の塩に起因した核発生が生じてしまう。したがって、原料混合時間の終盤になるほど、添加された核剤の核発生作用が弱まるという核発生の原料混合時間依存性が大きくなってしまい、ニッケル晶析粉を微細化したり、狭い粒度分布を得ることが困難になるという傾向がある。この傾向は、弱酸性のニッケル塩溶液にアルカリ性の還元剤・水酸化アルカリ溶液を添加混合する場合により顕著である。上記傾向は、原料の混合時間が短いほど抑制できるため、短時間の混合が望ましいが、量産設備面の制約等を考慮すると、原料の混合時間は、好ましくは10秒~180秒、より好ましくは20秒~120秒、さらに好ましくは30秒~80秒とすることがよい。
一方、後者の場合(ニッケル塩溶液と還元剤溶液を添加混合させたニッケル塩・還元剤溶液に、水酸化アルカリ溶液を添加混合する場合)は、ニッケル塩とニッケルよりも貴な金属の塩と還元剤を含むニッケル塩・還元剤溶液中では、還元剤のヒドラジンが予め添加混合されて均一濃度となっている。そのため、水酸化アルカリ溶液を添加混合する際に生じる核発生の、水酸化アルカリの原料混合時間依存性は、前者の場合ほど大きくならず、ニッケル晶析粉を微細化したり、狭い粒度分布を得ることが容易となるという特徴がある。ただし、前者の場合と同様の理由で、水酸化アルカリ溶液の混合時間は短時間であるが望ましく、量産設備面の制約等を考慮すると、かかる混合時間は、好ましくは10秒~180秒、より好ましくは20秒~120秒、さらに好ましくは30秒~80秒がよい。
本実施形態のアミン化合物や硫黄含有化合物の添加混合についても、上述の通り、反応液が調合される前に反応液にあらかじめ配合しておく手順と、反応液が調合されて還元反応開始以降に添加混合される手順の2種類が挙げられる。
前者の場合(反応液が調合される前に反応液にあらかじめアミン化合物や硫黄含有化合物を配合する場合)は、反応液に予めアミン化合物や硫黄含有化合物を配合しておくため、ニッケルよりも貴な金属の塩(核剤)に起因した核発生の開始時点から、アミン化合物や硫黄含有化合物の各種作用が発現するという利点がある。一方で、アミン化合物や硫黄含有化合物の有する吸着等のニッケル粒子表面との相互作用が核発生に関与して、得られるニッケル晶析粉の粒径や粒度分布に影響を及ぼす可能性がある。
逆に後者の場合(反応液が調合されて還元反応開始以降にアミン化合物や硫黄含有化合物を添加混合する場合)は、核剤に起因した核発生が生じる晶析工程の極初期段階を経た後に、アミン化合物や硫黄含有化合物を反応液に添加混合する。そのため、上記説明したアミン化合物や硫黄含有化合物の作用が幾分遅れるものの、アミン化合物や硫黄含有化合物の核発生への関与がなくなるため、得られるニッケル晶析粉の粒径や粒度分布がアミン化合物や硫黄含有化合物によって影響を受けにくくなり、それらを制御しやすくなる利点がある。ここで、この手順でのアミン化合物や硫黄含有化合物の反応液への添加混合における混合時間は、数秒以内に一気に添加してもよいし、数分間~30分間程度にわたり分割添加や滴下添加してもよい。なお、上述のように、アミン化合物には、還元反応促進剤(錯化剤)としての作用がある。そのため、ゆっくり添加する方が結晶成長をゆっくりと進行させてニッケル晶析粉が高結晶性となるが、ヒドラジンの自己分解抑制も徐々に作用することとなり、ヒドラジン消費量の低減効果は減少するため、上記混合時間は、これら両者のバランスをみながら適宜決定すればよい。なお、前者の手順におけるアミン化合物や硫黄含有化合物の添加混合のタイミングについては、目的に応じ総合的に判断して適宜選択することができる。
ニッケル塩溶液と還元剤・水酸化アルカリ溶液の添加混合や、ニッケル塩溶液と還元剤溶液の添加混合や、ニッケル塩・還元剤溶液への水酸化アルカリ溶液の添加混合は、溶液を撹拌しながら混合する撹拌混合が好ましい。撹拌混合性がよいと、核発生の場所によるが核が不均一に発生する頻度が低下し、かつ、前述したような核発生の原料混合時間依存性や水酸化アルカリ混合時間依存性が低下するため、ニッケル晶析粉を微細化したり、狭い粒度分布を得ることが容易となる。撹拌混合の方法は、公知の方法を用いればよく、撹拌混合性の制御や設備コストの面から撹拌羽根を用いることが好ましい。
(2-1-3.還元反応)
晶析工程では、反応液中において、水酸化アルカリとニッケルよりも貴な金属の塩の共存下でニッケル塩をヒドラジンで還元することにより、ニッケル晶析粉を得ている。また、必要に応じて、極微量の特定のアミン化合物や硫黄含有化合物の作用で、ヒドラジンの自己分解を大幅に抑制して、還元反応させることができる。
まず、晶析工程における還元反応について説明する。ニッケルイオン(Ni2+)が晶析してニッケル(Ni)となる場合の反応は、下記の式(1)の2電子反応である。また、ヒドラジン(N)の反応は、下記の式(2)の4電子反応である。例えば、上述のように、ニッケル塩として塩化ニッケル(NiCl)、水酸化アルカリとして水酸化ナトリウム(NaOH)を用いた場合には、還元反応全体は下記の式(3)のように、塩化ニッケルと水酸化ナトリウムの中和反応で生じた水酸化ニッケル(Ni(OH))がヒドラジンで還元される反応で表され、化学量論的には(理論値としては)、ニッケル(Ni)1モルに対し、ヒドラジン(N)0.5モルが必要である。
ここで、式(2)のヒドラジンの還元反応から、ヒドラジンはアルカリ性が強い程、その還元力が大きくなることが分かる。水酸化アルカリは、反応液のアルカリ性を高めるpH調整剤として用いており、ヒドラジンの還元反応を促進する働きを担っている。
[化2]
Ni2++2e→Ni↓ (2電子反応) ・・・(1)

→N↑+4H+4e (4電子反応) ・・・(2)

2NiCl+N+4NaOH
→2Ni(OH)+N+4NaCl
→2Ni↓+N↑+4NaCl+4HO ・・・(3)
上述の通り、従来の晶析工程では、ニッケル晶析粉の活性な表面が触媒となって、下記の式(4)で示されるヒドラジンの自己分解反応が促進され、還元剤としてのヒドラジンが還元以外に大量に消費される場合があった。そのため、反応開始温度等の晶析条件にもよるが、例えば、ニッケル1モルに対しヒドラジン2モル程度と前述の還元に必要な理論値の4倍程度が一般的に用いられていた。さらに、式(4)に示すように、ヒドラジンの自己分解では多量のアンモニアが副生して、反応液中にアンモニアが高濃度で含有されて含窒素廃液を生じることとなる。このように、高価な薬剤であるヒドラジンの過剰量の使用や、含窒素廃液の処理コストの発生が、湿式法によるニッケル粉末(湿式ニッケル粉末)の製造コストを増加させる要因となっている。
[化3]
3N→N↑+4NH ・・・(4)
そこで、本実施形態のニッケル粉末の製造方法では、極微量の特定のアミン化合物や硫黄含有化合物を反応液に加えて、ヒドラジンの自己分解反応を著しく抑制し、薬剤として高価なヒドラジンの使用量を大幅に削減することが好ましい。上記特定のアミン化合物が、ヒドラジンの自己分解を抑制することができるのは、(I)上記特定のアミン化合物や硫黄含有化合物の分子が、反応液中のニッケル晶析粉の表面に吸着し、ニッケル晶析粉の活性な表面とヒドラジン分子との接触を物理的に妨害している、(II)特定のアミン化合物や硫黄含有化合物の分子がニッケル晶析粉の表面に作用し、表面の触媒活性を不活性化している、等が考えられる。
なお、従来から湿式法での晶析工程では、還元反応時間(晶析反応時間)を実用的な範囲にまで短縮するために、酒石酸やクエン酸等のニッケルイオン(Ni2+)と錯イオンを形成してイオン状ニッケル濃度を高める錯化剤を還元反応促進剤として用いるのが一般的である。しかしながら、これら酒石酸やクエン酸等の錯化剤は、上記特定のアミン化合物や硫黄含有化合物のようなヒドラジンの自己分解抑制剤の作用、あるいは晶析中にニッケル粒子同士が連結して生じる粗大粒子を形成しにくくする連結抑制剤としての作用は有していない。
一方で、上記特定のアミン化合物は、酒石酸やクエン酸等と同様に錯化剤としても働き、ヒドラジンの自己分解抑制剤、連結抑制剤、および還元反応促進剤の作用を兼ね備える利点を有している。
(2-1-4.反応開始温度)
晶析工程の晶析反応は、例えば、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩を含む溶液(ニッケル塩溶液)に、還元剤(例えばヒドラジン)と水酸化アルカリを含む溶液(還元剤・水酸化アルカリ溶液)を添加混合させた反応液において開始する。この場合において、晶析反応の反応開始温度が、40℃~95℃とすることが好ましく、50℃~80℃とすることがより好ましく、60℃~70℃とすることがさらに好ましい。なお、上記ニッケル塩溶液と還元剤・水酸化アルカリ溶液のそれぞれ温度は、それらを予備混合して得られる混合液の温度、すなわち反応開始温度が上記温度範囲になれば特に制約はなく、自由に設定することができる。
反応開始温度は、高いほど還元反応は促進され、かつニッケル晶析粉は高結晶化する傾向にあるが、一方で、ヒドラジンの自己分解反応がそれ以上に促進される側面があるため、ヒドラジンの消費量が増加するとともに、反応液の発泡が激しくなる傾向がある。したがって、反応開始温度が高すぎると、ヒドラジンの消費量が大幅に増加したり、多量の発泡で晶析反応を継続できなくなる場合がある。一方で、反応開始温度が低くなり過ぎると、ニッケル晶析粉の結晶性が著しく低下したり、還元反応が遅くなって晶析工程の時間が大幅に延長してニッケル粉末の生産性が低下する傾向がある。以上の理由から、上記温度範囲にすることで、ヒドラジンの消費量を抑制しながら、高い生産性を維持しつつ、高性能のニッケル粉末を安価に製造することができる。
(2-2.洗浄・ろ過工程)
上記のような湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法においては、還元剤としてヒドラジンがよく用いられるため、特許文献4等からも明らかなように、反応液は強アルカリ性(例えばpH14程度)となることが一般的である。図1に示すとおり、晶析工程では、ヒドラジンの還元反応により、この強アルカリ性反応液中にニッケル晶析粉が生成したニッケル粉スラリーが得られ、このニッケル粉スラリーからニッケル晶析粉を純水で洗浄しながらろ別回収してニッケル粉ケーキを得る洗浄・ろ過工程、このニッケル粉ケーキを乾燥(真空乾燥等)してニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得る乾燥工程、が晶析工程に引続いて実施される。
上記洗浄・ろ過工程は通常大気中で実施されるため、得られるニッケル粉ケーキは洗浄・ろ過工程の間や乾燥工程の乾燥が行なわれるまでの間に、多かれ少なかれ大気にいくらかは暴露されてニッケル晶析粉の酸化が生じることは避けがたく、特に、量産規模で晶析反応を行う場合には、実験室レベルの少量の取扱いと異なり、ニッケル粉ケーキのハンドリングに時間を要するため、上記大気暴露によるニッケル晶析粉の酸化が進みやすい。
強アルカリ性のニッケル粉スラリー(例えばpH14程度)から純水で洗浄しながらろ別回収する洗浄・ろ過工程を経て得られたニッケル粉ケーキでは、強アルカリ性を示す水酸化アルカリの洗浄除去が図られてはいるものの、微量の水酸化アルカリは残存して弱アルカリ性の付着液(例えばpH11程度)としてニッケル粉ケーキに留まる場合がある。そのため、この状態で上記ニッケル晶析粉の酸化が生じた場合には、酸化で生じたニッケルイオン(Ni2+)が式(5)により水酸化ニッケル(Ni(OH))を形成されやすくなる。水酸化ニッケルの形成量が多い箇所では、結果的にニッケル晶析粉1(粒径0.4μm以下)同士が水酸化ニッケル2で強固に固められた粗大粒子10(水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子)(多くの場合、粒径0.8μm以上、図2参照)を生じるという事態が発生しやすくなる。
[化4]
Ni2++2OH-→Ni(OH) ・・・(5)
そこで、本実施形態では、洗浄・ろ過工程でろ別後から前記乾燥工程で乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの含水率を30~60質量%の範囲に保持する。ニッケル粉ケーキの含水率が30~60質量%の範囲でろ過するならば、水酸化ニッケル(Ni(OH))を形成し難くすることができる。ニッケル粉ケーキの含水率が30~60質量%の範囲であれば、水酸化ニッケル(Ni(OH))を形成し難くできるのは、ケーキに含まれるニッケル粉の空気への接触が防げることからニッケル粉の酸化を防ぎ、水酸化ニッケル(Ni(OH))が成長し難いためである。洗浄・ろ過工程でろ別後から前記乾燥工程で乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの含水率を35~60質量%の範囲に保持することがより好ましい。
また、洗浄・ろ過工程でニッケル晶析粉の洗浄に用いる純水の温度が0℃~35℃であることが好ましく、より望ましくは、純水の温度が5℃~35℃の範囲である。例えば室温の純水を用いて、ニッケル晶析粉を含有する液の導電率が30μS/cm~1000μS/cm、好ましくは30μS/cm~500μS/cm、さらに好ましくは30μS/cm~100μS/cmとなるようにニッケル晶析粉を純水で洗浄する段階(洗浄段階)を行い、その後、ニッケル晶析粉を液よりろ別して付着液を含むニッケル粉ケーキを得る(ろ別段階)。これらの段階を経ることで、晶析工程で用いた薬剤起因による不純物(Na、Cl等)の残留量を著しく低下させると同時に、ニッケル粉ケーキの付着液のアルカリ性を弱めて水酸化ニッケル(Ni(OH))を形成しにくくし、上述のような水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の生成を大幅に抑制している。
また、洗浄・ろ過工程でろ別後から後述する乾燥工程でニッケル粉末の乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの温度は0℃~35℃とすることが望ましい。より望ましくは、ニッケル粉ケーキの温度を5℃~35℃の範囲に保持する。ろ別後から乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの温度を0~35℃の範囲に保持することにより、ニッケル粉ケーキの温度が低いことでニッケル粉末の酸化が進行し難く、結果的に水酸化ニッケル(Ni(OH))が成長し難いためである。ニッケル粉ケーキの温度が0℃未満の場合、ニッケル粉ケーキが凍結して扱いが難しくなるおそれがある。また、ニッケル粉ケーキの温度が35℃を超える場合、ニッケル粉末中の粗大粒子が増加する。
特に、例えば晶析反応の反応開始温度を、40℃~95℃としてニッケル晶析粉を含有する液を得た後、0℃~35℃の純水、望ましくは室温(20℃~30℃)の純水を用いて、ニッケル晶析粉を含有する液の導電率が30μS/cm~1000μS/cmまで洗浄しても、ニッケル粉ケーキの含水率が30質量%以上60質量%以下の範囲でろ過するならば、水酸化ニッケル(Ni(OH))を形成し難くすることができる。
なお、本実施形態では洗浄・ろ過工程の洗浄過程の前に、強アルカリ性のニッケル粉スラリーまたはその希釈液を無機酸や有機酸によりpH7.0~pH9.0となるように中和する段階(中和段階)を行うことができる。中和段階を経たのちに0℃以上35℃以下の純水を用いてニッケル晶析粉を含有する液の導電率が30μS/cm~1000μS/cmとなるまで洗浄することもできる。
中和段階において、ニッケル粉スラリーまたはその希釈液を、無機酸や有機酸を用いて中和処理した時のpHは7.0~9.0とするのが好ましい。中和処理でpHを7.0未満、つまり過剰に無機酸や有機酸を添加した場合には、水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の発生が多くなることがある。強アルカリの状態であるニッケル粉スラリーまたはその希釈液を中和してpHを下げるにつれて、水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の発生は抑制されるが、中和処理によりpHを9.0以下にすれば、十分にニッケル粉末中の水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量を低減することができる。
ニッケル粉スラリーまたはその希釈液の中和に用いる薬剤は、無機酸または有機酸から選ばれる1種類以上とすればよく、水に易溶であるものであれば、特に限定されることはない。具体的には、無機酸としては、塩酸(HCl)、硝酸(HNO)、硫酸(HSO)、炭酸(HCO)等を用いることができ、有機酸としては、酢酸(CHCOOH)、クエン酸(C(OH)(CHCOOH)COOH)、アスコルビン酸(C)等を用いることができる。これらの無機酸や有機酸はそのまま中和に用いてもよいが、取扱いの容易さを考慮すると水溶液の形で用いるのがより好ましい。例えば、炭酸を用いる場合は、炭酸ガス(CO2)を液(ニッケル粉スラリーまたはその希釈液)中に吹き込んで、液中で炭酸として中和の作用をさせてもよい。また、クエン酸等のニッケルと錯イオンを形成する有機酸を用いれば、ニッケル晶析粉の酸化を防止する効果も期待できる。
ニッケル粉スラリーが、例えばpH14程度の強アルカリ性の場合には、純水でそのまま洗浄して洗浄液の導電率を100μS/cm程度まで低下したとしても、その洗浄液のpHは11程度の強アルカリ性を維持し得るが、本実施形態の無機酸や有機酸による中和を行う方法では、洗浄液の導電率を同様の100μS/cm程度まで低下した場合に、その洗浄液のpHは高くても9以下程度まで低下させることが可能である。
また、強アルカリ性のニッケル粉スラリー(例えばpH14程度)に対して直接無機酸や有機酸を混合添加することもできるが、その場合には中和に多量の無機酸や有機酸が必要となってコスト面や作業性面で不利となるおそれがある。そのため、好ましくは、一旦デカンテーション等の手法でニッケル粉スラリーの上澄み液を除去し、ニッケル粉スラリー中のアルカリ成分量を低減させてから無機酸や有機酸およびそれらの水溶液を混合添加して中和するのがよい。
(2-2-1.洗浄・ろ過の方法と手順)
本実施形態では、晶析工程で得られる強アルカリ性のニッケル粉スラリー(例えばpH14程度)に対して、汎用の洗浄手法を用いてニッケル晶析粉を洗浄する過程で、強アルカリ性のニッケル粉スラリーまたはその希釈液を例えば0℃~35℃の純水を用いて、最終的にニッケル晶析粉は、付着液を含み含水率が30質量%以上60質量%以下のニッケル粉ケーキとして汎用の固液分離装置を用いてろ別回収されている。
上記汎用の洗浄手法は、具体的には、デカンテーションと純水希釈の繰返し、固液分離装置によるニッケル晶析粉の濃縮(スラリー高濃度化やケーキ化)と純水レパルプ(純水を加えての再スラリー化)の繰返し、固液分離装置中のニッケル晶析粉の濃縮物(ケーキ)への純水の通水洗浄、等が挙げられるがこれらに限定されない。また、汎用の固液分離装置は、具体的には、デンバーろ過器、フィルタープレス、遠心分離機、デカンター、等が挙げられるがこれらに限定されない。
上記洗浄に用いる純水は、一般的に導電率1μS/cm以下の高純度のものがよい。純水に代えて蒸留水や超純水(導電率:≦0.06μS/cm)を用いることもできるが、安価で入手が容易な純水を用いることが好ましい。
ニッケル粉スラリーに対する洗浄手順としては、強アルカリ性のニッケル粉スラリー(例えばpH14程度)に対して直接純水を混合添加することもできるが、その場合には多量の純水が必要となって作業性面で不利となるおそれがある。そのため、好ましくは、一旦デカンテーション等の手法でニッケル粉スラリーの上澄み液を除去し、ニッケル粉スラリー中のアルカリ成分量を低減させてから純水を添加するのがよい。
(2-3.乾燥工程)
洗浄・ろ過工程で得られた中和された付着液を含むニッケル粉ケーキは、大気乾燥機、熱風乾燥機、不活性ガス雰囲気乾燥機および真空乾燥機等の汎用の乾燥装置を用いて50~300℃、好ましくは、80~150℃で乾燥し、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得ることができる。必要に応じて、ニッケル粉ケーキ中の付着水をエタノール等の低温揮発性の有機溶剤に置換した後、上記不活性ガス雰囲気乾燥機や真空乾燥機で乾燥して、水の大きな表面張力に起因して乾燥中に生じるニッケル粒子間の乾燥凝集を弱めることも可能である。
なお、不活性ガス雰囲気乾燥機、真空乾燥機等の乾燥装置を用いて、ニッケル粉ケーキを不活性雰囲気、還元性雰囲気、真空雰囲気中で200℃~300℃程度で乾燥した場合は、単なる乾燥に加え、熱処理を施したニッケル粉末を得ることが可能である。
(2-4.解砕工程(後処理工程))
晶析工程、洗浄・ろ過工程、乾燥工程を経て得られたニッケル晶析粉(ニッケル粉末)は、前述の通り、必要に応じてアミン化合物や硫黄含有化合物が添加された場合には、それらがニッケルの晶析中においてニッケル粒子の連結抑制剤として作用する。そのため、ニッケル粒子が還元析出の過程で互いに連結して形成される粗大粒子(以降、「水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子」と区別するために、「連結粗大粒子」とすることもある。)の含有割合はそもそもそれ程大きくない。ただし、晶析手順や晶析条件によっては、連結粗大粒子の含有割合が幾分大きくなって問題になる場合もある。この場合には、晶析工程に引き続いて解砕工程を設け、ニッケル粒子が連結した連結粗大粒子をその連結部で分断して連結粗大粒子の低減を図ることができる。解砕処理工程では、スパイラルジェット解砕処理、カウンタージェットミル解砕処理等の乾式解砕方法や、高圧流体衝突解砕処理等の湿式解砕方法、その他の汎用の解砕方法を適用することが可能である。
なお、前述したニッケル晶析粉(粒径0.4μm以下)同士が水酸化ニッケルで強固に固められた水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子は、上記の汎用の各種解砕方法を用いても容易に解砕できないため、水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の効果的な抑制対策は非常に重要であり、本実施形態はそういう観点からしても極めて有用なものである。
以下、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、ニッケル粉末の特性として、平均粒径、粗大粒子の含有量を、以下の通り評価している。
(平均粒径)
本発明で得られるニッケル粉末は略球状の粒子形状を有しているが、その平均粒径は、ニッケル粉末の走査電子顕微鏡(SEM、JEOL Ltd.製、JSM-7100F)を用いた観察像(SEM像)の画像解析の結果から求めた粒径を基にした数平均の粒径である。
(粗大粒子の含有量)
以下に示す方法により得られた実施例1、2、比較例1のニッケル粉末0.05gを0.1質量%ヘキサメタリン酸化物ナトリウム水溶液100mL中に超音波分散させて得られたニッケル粉末分散液を、メンブレンフィルタ(孔径0.8μm、孔径1.2μm)でろ過して、フィルタ上に孔径よりも大きなサイズ(0.8μm、1.2μm)の粗大粒子を補足し、その粗大粒子量を、粗大粒子の全量を酸溶解した溶液のICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により算出し、上記ニッケル粉末中に含まれる粗大粒子の含有量(粒径0.8μmを超える場合、および、粒径1.2μmを超える場合)を求めた。
なお、原理的には上記粗大粒子の含有量には、(1)単独で粒径が0.8μmや1.2μmを超える粗大なニッケル粒子、(2)粒径0.4μm以下のニッケル粒子(ニッケル晶析粉)同士が晶析過程(還元析出の過程)においてニッケル粒子表面で連結して0.8μmや1.2μmを超えるサイズとなった連結粗大粒子、(3)粒径0.4μm以下のニッケル粒子(ニッケル晶析粉)が酸化で生じた水酸化ニッケルで強固に固められて0.8μmや1.2μmを超えるサイズとなった水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子(図2参照)、の全ての場合((1)~(3))の粗大粒子が含まれることになる。
しかしながら、本発明においては、前述のとおり、粒径分布が狭いという特徴の湿式ニッケル粉末を用いているため、単独で粒径が0.8μmや1.2μmを超える粗大なニッケル粒子は生成せず、上記(1)の場合は考えなくてもよい。さらに、粒径0.4μm以下のニッケル粒子(ニッケル晶析粉)が晶析過程(還元析出の過程)でニッケル粒子表面で連結して生成する連結粗大粒子は、適正な晶析条件を採用すればそもそもその含有量はそれ程多くなく、また、ニッケル粒子同士の連結強度もそれ程強くはない。そこで、前述したように、晶析の後に解砕処理を施せば、連結粗大粒子の含有割合が幾分大きくなった場合であっても、連結粗大粒子をその連結部で分断して連結粗大粒子を0.8μm以下のサイズとすることができるため、上記(2)の場合も考えなくてもよい。したがって、粗大粒子としては(3)の場合だけとなり、本発明での粒径0.8μm(または、粒径1.2μm)を超える粗大粒子の含有量は、粒径0.8μm(または、粒径1.2μm)を超える水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量と考えても良い。0.8μmや1.2μmを超えるサイズの水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子は、ニッケル晶析粉の表面に生成した水酸化ニッケルによって、複数のニッケル粒子(ニッケル晶析粉)を巻き込んで強固に結合した粗大粒子のため、上記解砕処理を施したとしても、解きほぐされることはなく、そのままのサイズの粗大粒子としてニッケル粉末中に残存するからである。
(水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子)
上記のようにメンブレンフィルタ上に補足された0.8μmや1.2μmを超えるサイズの粗大粒子は、図2に示すように、水酸化ニッケルからなるマトリックス中に巻き込まれた複数のニッケル粒子(ニッケル晶析粉)が水酸化ニッケルマトリックスを介して強固に結合した構造を有している。なお、上記マトリックス(図2の符号2)が水酸化ニッケル(Ni(OH))を主成分とすることは、メンブレンフィルタ上に補足された0.8μmや1.2μmを超えるサイズの粗大粒子において、(a)マトリックス部分の走査電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)による測定でニッケルと酸素のモル比がNi:O=1:2程度の箇所が多く観察されること、(b)メンブレンフィルタ上から回収した0.8μmや1.2μmを超えるサイズの粗大粒子のX線光電子分光法(XPS)による測定結果では水酸化ニッケル(Ni(OH))が主成分として検出されること、により確認されている。
(実施例1)
[ニッケル塩およびニッケルよりも貴な金属の塩の溶液の調製]
ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405g、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤としての硫黄含有化合物として、分子内にスルフィド基(-S-)を1個含有するL-メチオニン(CHSCCH(NH)COOH、分子量:149.21)1.271g、ニッケルよりも貴な金属の塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)0.134mgを、純水1880mLに溶解して、主成分としてニッケル塩と、硫黄含有化合物と、ニッケルより貴な金属の金属塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩溶液を調製した。ここで、ニッケル塩溶液において、スルフィド化合物であるL-メチオニンはニッケルに対し0.5モル%(モル比で0.005)と微量で、パラジウムはニッケルに対し0.28モルppm(0.50質量ppm)である。
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60質量%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を207g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。還元剤溶液に含まれるヒドラジンは、ニッケル塩溶液中のニッケルに対するモル比が1.46となるように調製した。
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)230gを、純水672mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を用意した。水酸化アルカリ溶液に含まれる水酸化ナトリウムは、ニッケル塩溶液中のニッケルに対するモル比が5.75となるように調製した。
[アミン化合物溶液]
ヒドラジンの自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)としてのアミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(-NH)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH、分子量:60.1)1.024gを、純水19mLに溶解して、主成分としてのエチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。アミン化合物溶液に含まれるエチレンジアミンは、ニッケル塩溶液中のニッケルに対し1.0モル%(モル比で0.01)と微量であった。なお、上記ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、およびアミン化合物溶液における使用材料には、60%質量抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[晶析工程]
塩化ニッケルとパラジウム塩を純水に溶解したニッケル塩溶液を、撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ、液温85℃になるように撹拌しながら加熱した後、液温25℃のヒドラジンと水を含む上記還元剤溶液を混合時間20秒で添加混合してニッケル塩・還元剤含有液とした。このニッケル塩・還元剤含有液に、液温25℃の水酸化アルカリと水を含む上記水酸化アルカリ溶液を混合時間80秒で添加混合し、液温70℃の反応液(塩化ニッケル+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム)を調合し、還元反応(晶析反応)を開始した。反応開始温度は63℃であった。反応開始後、8分後から18分後までの10分間にかけて、上記アミン化合物溶液を上記反応液に滴下混合し、ヒドラジンの自己分解を抑制しながら還元反応を進めて、ニッケル晶析粉を反応液中に晶析させた。反応開始から60分以内には、前述の式(3)の還元反応は完了し、反応液の上澄み液は透明で、反応液中のニッケル成分はすべて金属ニッケルに還元されていることを確認した。
還元剤溶液に配合した60質量%抱水ヒドラジン207gに対し、晶析反応で消費された60%質量抱水ヒドラジン量は171gであり、ニッケルに対するモル比は1.20であった。ここで、還元反応に消費されるヒドラジンのニッケルに対するモル比は、前述の式(3)から0.5と想定されるため、自己分解に消費されたヒドラジンのニッケルに対するモル比は0.70であったと見積もられる。
[洗浄・ろ過工程]
晶析工程では、ニッケル晶析粉を含む反応終液として、スラリー状の強アルカリ性(pH:14.1)のニッケル粉スラリーが得られるが、このニッケル粉スラリーにメルカプト酢酸(チオグリコール酸)(HSCHCOOH、分子量:92.12)の水溶液を加えて、ニッケル晶析粉の表面処理(硫黄コート処理)を施した後、静置してニッケル晶析粉を沈降させ、上澄み液を反応液の約50質量%程度除去(デカンテーション)した。その後のニッケル粉スラリーに対し、導電率が1μS/cmの温度25℃の純水を、除去した上澄み液と同量程度加えて希釈(pH:13.8)した後、上記純水を用い、表面処理が施されたニッケル晶析粉を含有するスラリーからろ過したろ液の導電率が100μS/cmになるまで、ブフナー漏斗(ろ紙:5C)を用いて吸引ろ過洗浄し、固液分離してニッケル粉ケーキを得た。この時、ニッケル粉ケーキの含水率は42質量%であり、洗浄・ろ過工程でろ別後から後述する乾燥工程で乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの含水率を42質量%に保持した。また、洗浄・ろ過工程でろ別後から後述する乾燥工程で乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの温度を30℃に保持した。
[乾燥工程]
上記ニッケル粉ケーキを、150℃の温度に設定した真空乾燥器中で乾燥して、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。
[解砕処理工程(後処理工程)]
晶析工程、洗浄・ろ過工程、乾燥工程に引き続いて解砕工程を実施し、ニッケル粉末中の主にニッケル粒子が連結して形成された粗大粒子の低減を図った。具体的には、晶析工程で得られた上記ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、乾式解砕方法であるスパイラルジェット解砕処理を施した。以上の工程により、湿式法を用いて作製された、実施例1に係るニッケル粉末を得た。
(ニッケル粉末の物性)
表1に、ニッケル粉ケーキの含水率および温度、上記SEM観察の結果から求めた鱗片状Ni(OH)の割合を示す。同様に、後述する実施例2、比較例1における、ニッケル粉ケーキの含水率および温度、上記SEM観察の結果から求めた鱗片状Ni(OH)の割合についても、表1に示す。
(実施例2)
洗浄・ろ過工程において、洗浄・ろ過工程でろ別後から後述する乾燥工程で乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの含水率を53質量%とした以外は、実施例1と同様に行ない、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。そして、上記のニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、実施例1と同様のスパイラルジェット解砕処理を施した。以上の工程により、湿式法を用いて作製された、実施例2に係るニッケル粉末を得た。
(比較例1)
洗浄・ろ過工程において、洗浄・ろ過工程でろ別後から後述する乾燥工程で乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの含水率を27質量%とし、また、洗浄・ろ過工程でろ別後から後述する乾燥工程で乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの温度を25℃に保持した以外は、実施例1と同様に行ない、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。そして、上記のニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、実施例1と同様のスパイラルジェット解砕処理を施した。以上の工程により、湿式法を用いて作製された、比較例1に係るニッケル粉末を得た。
Figure 2023079721000003
比較例1よりもニッケル粉ケーキの温度が低い実施例1、2の方法により得られたニッケル粉末は、比較例1の方法により得られたニッケル粉末と比べて粗大粒子の含有量が低い結果となった。この結果より、ろ別後から乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの含水率を30~60質量%の範囲に保持することにより、ニッケル粉末の酸化が進行し難く、水酸化ニッケル(Ni(OH))が成長し難いことを明らかにすることができた。
1 ニッケル粒子(ニッケル晶析粉)
2 ニッケル晶析粉の酸化で生じた水酸化ニッケル
10 水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子

Claims (4)

  1. 水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリおよび水を混合した反応液中において、還元反応を行い、ニッケル晶析粉を含む反応終液としてニッケル粉スラリーを得る晶析工程と、
    前記ニッケル粉スラリー中のニッケル晶析粉を、洗浄およびろ別してニッケル粉ケーキを得る洗浄・ろ過工程と、
    前記ニッケル粉ケーキを乾燥してニッケル粉末を得る乾燥工程と、を有し、
    前記洗浄・ろ過工程でろ別後から前記乾燥工程で乾燥を開始するまでの間、ニッケル粉ケーキの含水率を30~60質量%の範囲に保持する、ニッケル粉末の製造方法。
  2. 前記洗浄・ろ過工程でろ別後から前記乾燥工程で乾燥を開始するまでの間、前記ニッケル粉ケーキの温度を0℃~35℃の範囲に保持する、請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
  3. 前記洗浄・ろ過工程で、前記ニッケル晶析粉の洗浄に用いる純水の温度が0℃~35℃である、請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
  4. 前記ニッケル粉末は、
    数平均粒径が0.03μm~0.4μmであり、
    粒径が0.8μmを超える、水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が200質量ppm以下であり、
    粒径が1.2μmを超える、水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子の含有量が100質量ppm以下である、請求項1~3のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
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