JP7293591B2 - ニッケル粉末およびニッケル粉末の製造方法 - Google Patents

ニッケル粉末およびニッケル粉末の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、積層セラミック部品の電極材として用いられるニッケル粉末およびニッケル粉末の製造方法に関する。
ニッケル粉末は、電子回路のコンデンサの材料として、特に、積層セラミックコンデンサ(MLCC:MultiLayer Ceramic Capacitor)や多層セラミック基板などの積層セラミック部品の内部電極などを構成する厚膜導電体の材料として利用されている。
近年、積層セラミックコンデンサの大容量化が進み、積層セラミックコンデンサの内部電極の形成に用いられる内部電極ペーストの使用量も大幅に増加している。このため、厚膜導電体を構成する内部電極ペースト用の金属粉末として、高価な貴金属の使用に代替して、主としてニッケルなどの安価な卑金属が使用されている。
積層セラミックコンデンサを製造する工程では、例えばニッケル粉末、エチルセルロースなどのバインダ樹脂、ターピネオールなどの有機溶剤を混練した内部電極ペーストを、誘電体グリーンシート上にスクリーン印刷する。内部電極ペーストが印刷および乾燥された誘電体グリーンシートは、内部電極ペースト印刷層と誘電体グリーンシートとが交互に重なるように積層され圧着されて、積層体が得られる。
この積層体を、所定の大きさにカットし、次に、バインダ樹脂を加熱処理により除去し(脱バインダ処理)、さらに、この積層体を1300℃程度の高温で焼成することにより、セラミック成形体が得られる。
そして、得られたセラミック成形体に外部電極が取り付けられ、積層セラミックコンデンサが得られる。内部電極となる内部電極ペースト中の金属粉末として、ニッケルなどの卑金属が使用されていることから、積層体の脱バインダ処理は、これらの卑金属が酸化しないように、不活性雰囲気などの酸素濃度がきわめて低い雰囲気下にて行われる。
積層セラミックコンデンサの小型化および大容量化に伴い、内部電極や誘電体はともに薄層化が進められている。これに伴って、内部電極ペーストに使用されるニッケル粉末の粒径も微細化が進行し、平均粒径0.5μm以下のニッケル粉末が必要とされ、特に平均粒径0.3μm以下のニッケル粉末の使用が主流となっている。
ニッケル粉末の製造方法には、大別すると、気相法と湿式法がある。気相法としては、例えば、特許文献1に記載されている塩化ニッケル蒸気を水素により還元してニッケル粉末を作製する方法や、特許文献2に記載されているニッケル金属をプラズマ中で蒸気化してニッケル粉末を作製する方法がある。また、湿式法としては、例えば、特許文献3、特許文献4に記載されている、ニッケル塩溶液に還元剤を添加してニッケル粉末を作製する方法がある。
気相法は、1000℃程度以上の高温プロセスのため、結晶性に優れる高特性のニッケル粉末を得るためには有効な手段ではあるが、得られるニッケル粉末の粒度分布が広くなるという問題がある。上述の通り、内部電極の薄層化においては、粗大粒子を含まず、比較的粒度分布の狭い平均粒径0.5μm以下のニッケル粉末が必要とされる。そのため、気相法でこのようなニッケル粉末を得るためには、高価な分級装置を導入してニッケル粉末を分級する分級処理が、追加で必須となる。
なお、分級処理では、0.6μm~2μm程度の任意の値の分級点を目途に、分級点よりも大きな粗大粒子の除去が可能であるが、製品実収が大幅に低下するという問題もある。したがって、気相法では、上述の高額な分級装置等の設備導入も含めて、製品のコストアップが避けられない。
さらに、気相法では、平均粒径が0.2μm以下、特に、平均粒径が0.1μm以下のニッケル粉末を用いる場合に、分級処理による粗大粒子の除去自体が困難になるため、今後の内部電極の一層の薄層化に対応できない。
一方で、湿式法は、気相法と比較して、得られるニッケル粉末の粒度分布が狭いという利点がある。特に、特許文献3に記載されているニッケル塩にパラジウムを含む溶液に還元剤としてヒドラジンを含む溶液を添加してニッケル粉末を作製する方法では、ニッケルよりも貴な金属の塩(核剤)との共存下でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン(Ni2+)、またはニッケル錯イオン)がヒドラジンで還元されるため、核発生数が制御され(すなわち、粒径が制御され)、かつ核発生と粒子成長が均一となって、微細なニッケル粉末が得られることが知られている。
特開平4-365806号公報 特表2002-530521号公報 特開2004-332055号公報 国際公開第2017/069067号
しかしながら、特許文献3では、平均粒径0.15μm以下のニッケル粉末を得るためには、パラジウムの添加量が2000ppm以上必要となるため、製品コストが高くなる。また、特許文献4では、パラジウムの添加量が100ppmで平均粒径0.16μmのニッケル粉末を得ることができるが、特許文献4に記載されている方法では、微細化に伴い粒度分布が悪化するという問題があった。
このように上記例示の技術によっても、微細なニッケル粉末を得ることができるが、微細化に伴い粒度分布が広くなるという問題があった。
また、上記のような湿式法によって、ニッケル塩を含む溶液に還元剤としてヒドラジンを含む溶液を添加してニッケル粉末を作製する方法では、ヒドラジンを含む溶液の添加方法によって核発生数や核発生タイミングが変動するため、微細化に伴って粒度分布が広くなる傾向があった。
そこで、本発明では、製造バッチサイズに依らず、平均粒径が一定で粒度分布が狭いニッケル粉末を安定して製造することができる、湿式法によるニッケル粉末の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、湿式法によるニッケル粉末の製造方法における晶析工程、すなわち水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤としてのヒドラジン、pH調整剤としての水酸化アルカリ、水、必要に応じてアミン化合物、を含む反応液中で還元反応を行う工程において、ニッケルよりも貴な金属による核の発生以前または核発生開始から短時間で、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、ヒドラジンおよび水酸化アルカリが均一になるように混合すれば、反応液中で発生した核が分散した状態でニッケル粒子の粒成長が進むため、平均粒径の小さい微細粉であっても粒度分布が狭いニッケル晶析粉末(ニッケル粉末)が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成したものである。
上記課題を解決するために、本発明のニッケル粉末の製造方法は、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、ヒドラジンおよび水酸化アルカリを10秒以内に混合して混合物を得る混合工程と、前記混合物中の前記水溶性ニッケル塩を還元させてニッケル晶析粉末を得る晶析工程と、を含み、前記混合工程は、水溶性ニッケル塩およびニッケルよりも貴な金属の金属塩を含む溶液Aに、ヒドラジンおよび水酸化アルカリを含む溶液Bを混合する段階、または、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩およびヒドラジンを含む溶液Cに、水酸化アルカリを含む溶液Dを混合する段階を含み、前記混合工程により得た前記混合物の温度は、10℃~30℃である。
前記溶液AまたはBのいずれかはアミン化合物を含んでもよく、前記溶液CまたはDのいずれかはアミン化合物を含んでもよい。
前記混合工程後、前記混合物とアミン化合物を混合するアミン化合物混合工程を含んでもよい。
また、上記課題を解決するために、本発明のニッケル粉末は、個数平均粒径が0.02μm~0.4μmであり、下記式(1)により得られるCV値(個数)が14%以下である。
[数1]
CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100 ・・・(1)
本発明のニッケル粉末は、下記式2により得られるCV値(体積)が16%以下であってもよい。
[数2]
CV値(体積)(%)=標準偏差÷体積平均粒径×100 ・・・(2)
本発明のニッケル粉末は、個数基準の粒度分布において、粒子径の最小値が0.09155μmであり、粒子径の最大値が0.259μmであってもよい。
本発明のニッケル粉末は、個数基準の粒度分布において、0.1295μmの粒子が最も多く、かつ0.1295μmの粒子の頻度が40%以上であってもよい。
本発明に係るニッケル粉末の製造方法によれば、還元剤としてヒドラジンを用いた湿式法によるニッケル粉末の製造方法でありながら、核発生前または核発生開始から短時間で所定の原料を均一に混合することで、製造バッチサイズに依らず、微細かつ粒度分布が狭いニッケル粉末を得ることができる。
実施例1にて得られたニッケル粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により倍率20000倍で観察したときの写真図(SEM図)である。 比較例1にて得られたニッケル粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により倍率20000倍で観察したときの写真図(SEM図)である。 実施例1にて得られたニッケル粉末の粒度分布を示すグラフである。 比較例1にて得られたニッケル粉末の粒度分布を示すグラフである。 比較例2にて得られたニッケル粉末の粒度分布を示すグラフである。
以下、本発明に係るニッケル粉末の製造方法およびニッケル粉末について、図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
1.ニッケル粉末の製造方法
1-1.混合工程
1-1-1.混合する薬剤
1-2.晶析工程
1-2-1.還元反応
1-2-2.混合物の温度
1-2-3.ニッケル晶析粉末の回収
1-3.解砕工程
2.ニッケル粉末
<1.ニッケル粉末の製造方法>
まず、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法について説明する。本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法は、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、還元剤としてのヒドラジン、pH調整剤としての水酸化アルカリ、水、必要に応じてアミン化合物、を含む反応液中において、ヒドラジンによる還元反応でニッケル晶析粉末を得る晶析工程を主体とし、特に、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、ヒドラジンおよび水酸化アルカリを10秒以内に混合して混合物を得る混合工程を含むことで、微細なニッケル粉末を晶析させている。また、必要に応じて行う解砕工程を後処理工程として付加したものである。なお、本発明において、「粉末」および「粉」は、粒子が多数集合して集合体となっている状態であり、晶析したニッケル粒子がスラリー状に分散しているものや、乾燥させて固体の集合体となったものはニッケル粉末やニッケル粉に該当する。例えば、「ニッケル晶析粉」は晶析工程で還元された状態のニッケル粉である。
[1-1.混合工程]
混合工程は、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、ヒドラジンおよび水酸化アルカリを10秒以内に混合して混合物を得る工程である。すなわち、これらの各種薬剤の混合時間を10秒以内とする。ここで、溶媒としての水は、得られるニッケル粉末中の不純物量を低減させる観点から、超純水(導電率:≦0.06 μS/cm)や純水(導電率:≦1μS/cm)といった高純度のものがよく、中でも安価で入手が容易な純水を用いることが好ましい。なお、還元反応は反応液が調合された時点で開始される。以下、上記各種薬剤について、それぞれ詳述する。
(1-1-1.混合する薬剤)
(a)水溶性ニッケル塩
本発明に用いる水溶性ニッケル塩は、水に易溶である水溶性ニッケル塩であれば、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケルから選ばれる1種以上を用いることができる。これらのニッケル塩の中では、塩化ニッケル、硫酸ニッケルあるいはこれらの混合物を用いることが、より好ましい。
(b)ニッケルよりも貴な金属の塩
ニッケルよりも貴な金属の金属塩は、ニッケルよりもイオン化傾向が低いことにより、ニッケルを還元析出させる際にニッケルよりも先に還元されるため、ニッケル粒子が晶析するための初期核となる核剤として作用することができる。この初期核から粒子成長することで、さらに微細なニッケル晶析粉末(ニッケル粉末)を作製することができる。
ニッケルよりも貴な金属の塩としては、水溶性でニッケルよりもイオン化傾向が低い金属の金属塩であればよく、例えば水溶性の銅塩や、金塩、銀塩、プラチナ塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩などの水溶性の貴金属塩が挙げられる。例えば、水溶性の銅塩としては硫酸銅を、水溶性の銀塩としては硝酸銀を、水溶性のパラジウム塩としては塩化パラジウム(II)ナトリウム、塩化パラジウム(II)アンモニウム、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)などを用いることができるが、これらには限定されない。
ニッケルよりも貴な金属の塩としては、特に上述したパラジウム塩を用いると、粒度分布は幾分広くなるものの、得られるニッケル粉末の粒径をより微細に制御することが可能となるため好ましい。パラジウム塩を用いた場合の、パラジウム塩とニッケルの割合[モルppm](パラジウム塩のモル数/ニッケルのモル数×10)は、ニッケル粉末の目的とする数平均粒径によって適宜選択することができる。例えば、ニッケル粉末の数平均粒径を0.1μm以下に設定するのであれば、パラジウム塩とニッケルの割合を0.2モルppm~100モルppmの範囲内、好ましくは0.5モルppm~60モルppmの範囲内とすることが好ましい。この割合が0.2モルppm未満だと、ニッケル晶析粉末(ニッケル粉末)を十分に微細化することが困難となるおそれがある。一方で、この割合が100モルppmを超えると、高価なパラジウム塩を多く使用することとなり、ニッケル粉末を製造するためのコストの増加につながるおそれがある。
(c)ヒドラジン
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、還元剤としてヒドラジン(N、分子量:32.05)を用いる。なお、ヒドラジンには、無水のヒドラジンの他にヒドラジン水和物である抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)があるが、どちらを用いてもかまわない。ヒドラジンの還元反応は、後述する式(2)に示す通りであるが、特にアルカリ性で還元力が高いこと、還元反応の副生成物が窒素ガスと水であるために反応による不純物が反応液中に生じないこと、ヒドラジン中の不純物がそもそも少ないこと、および入手が容易なこと、という特徴を有しているため、還元剤に好適である。例えば、市販されている工業グレードの60質量%抱水ヒドラジンを用いることができる。
(d)水酸化アルカリ
ヒドラジンの還元力は、反応液のアルカリ性が強い程大きくなるため(後述する式(2)参照)、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、水酸化アルカリを、アルカリ性を高めるpH調整剤として用いる。水酸化アルカリとしては、特に限定されるものではないが、入手の容易さや価格の面から、アルカリ金属水酸化物を用いることが好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる1種以上を用いることがより好ましい。
水酸化アルカリの配合量は、還元剤としてのヒドラジンの還元力が十分高まるように、反応液のpHが、反応温度において、9.5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは10.5以上となるように決定するとよい。
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法において、混合工程は、水溶性ニッケル塩およびニッケルよりも貴な金属の金属塩を含む溶液Aに、ヒドラジンおよび水酸化アルカリを含む溶液Bを混合する段階(「前者の段階」とする)、または、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩およびヒドラジンを含む溶液Cに、水酸化アルカリを含む溶液Dを混合する段階(「後者の段階」とする)を含む。水溶性ニッケル塩、ヒドラジンおよび水酸化アルカリが存在すると、温度やpHの影響はあるものの、還元によりニッケルの晶析が始まるおそれがある。そのため、溶液AとB、または溶液CとDに分けておき、晶析に好ましい条件で一気に混合させることで、微細かつ粒度分布が狭いニッケル粉末を得ることができる。
〈前者の段階〉
前者の段階では、水酸化アルカリによりアルカリ性が高く還元力を高めたヒドラジンを含む溶液Bを、水溶性ニッケル塩およびニッケルよりも貴な金属の金属塩といった被還元物を含む溶液Aに添加混合する。
前者の段階の場合は、溶液Aと溶液Bが混合された時点、すなわち還元反応が開始する時点での温度(以降、「反応開始温度」と称することもある。)にもよるが、ニッケル塩を含む水溶液(溶液A)と水酸化アルカリによりアルカリ性を高めた還元剤水溶液(溶液B)の混合に要する時間が長くなると、混合中から、溶液Aと溶液Bの混合領域の局所において部分的にアルカリ性が上昇してヒドラジンの還元力が高まり、核の発生に時間差が生じて、ニッケル晶析粉末の微細化や狭い粒度分布を得にくくなるという傾向がある。この傾向は、弱酸性の溶液Aにアルカリ性の溶液Bを混合する場合に、より顕著である。この傾向は、溶液Aと溶液Bの混合時間が短いほど抑制でき、微細化した狭い粒度分布のニッケル晶析粉末を得られるため、混合時間は短時間であることが望ましい。ニッケル粉末の量産設備面の制約などを考慮すると、溶液Aと溶液Bとの混合時間を10秒以内とすることで、微細化した狭い粒度分布のニッケル晶析粉末を得られる。より好ましくは、5秒以内に混合するのがよい。ここで、混合時間は溶液Aに溶液Bが接触した瞬間を開始とし、溶液Aに溶液Bが入り終えた瞬間を終了とする。
溶液Aに溶液Bを混合する際は、溶液Aを撹拌しながら混合する撹拌混合が好ましい。撹拌混合性が良いと、核発生の場所によるが溶液AとBとの不均一性が低下し、かつ、前述したような核発生の混合時間への依存性が低下するため、微細化した狭い粒度分布のニッケル晶析粉末を得やすくなる。撹拌混合の方法は、公知の方法を用いればよく、撹拌混合性の制御や設備コストの面から、例えば撹拌羽根を用いることが好ましい。
〈後者の段階〉
後者の段階は、還元剤であるヒドラジンを、水溶性ニッケル塩およびニッケルよりも貴な金属の金属塩といった被還元物と予め混合させておいて溶液Cとし、溶液Cへ水酸化アルカリを含む溶液Dを混合する段階である。還元剤と被還元物が共存する環境下のpHを、水酸化アルカリにより調整して還元力を高めることで晶析させるという点で、前者の段階との違いがある。
後者の段階の場合は、ヒドラジンを、水溶性ニッケル塩およびニッケルよりも貴な金属の金属塩があらかじめ均一濃度となっているため、水酸化アルカリを混合する際に生じる核発生の時間差は、前者の段階の場合ほど大きくならず、ニッケル晶析粉末の微細化や狭い粒度分布がより得られやすいという特徴がある。ただし、核発生の若干の時間差は生じ得るため、溶液Cと溶液Dとの混合時間は短時間が望ましい。ニッケル粉末の量産設備面の制約などを考慮すると、溶液Cと溶液Dとの混合時間を10秒以内とすることで、微細化した狭い粒度分布のニッケル晶析粉末を得られる。より好ましくは、5秒以内に混合するのがよい。ここで、混合時間は溶液Cに溶液Dが接触した瞬間を開始とし、溶液Cに溶液Dが入り終えた瞬間を終了とする。
溶液Cに溶液Dを混合する際は、溶液Cを撹拌しながら混合する撹拌混合が好ましい。撹拌混合性が良いと、核発生の場所によるが溶液CとDとの不均一性が低下し、かつ、前述したような核発生の混合時間への依存性が低下するため、微細化した狭い粒度分布のニッケル晶析粉末を得やすくなる。撹拌混合の方法は、公知の方法を用いればよく、撹拌混合性の制御や設備コストの面から、例えば撹拌羽根を用いることが好ましい。
(e)アミン化合物
アミン化合物は、ヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、さらにはニッケル粒子同士の連結抑制剤の作用を有しており、分子内に第1級アミノ基(-NH)を2個以上含有するか、あるいは、分子内に第1級アミノ基(-NH)を1個、かつ第2級アミノ基(-NH-)を1個以上含有する化合物である。本発明において必須の薬剤ではないものの、これらの作用を得るべく、使用することが好ましい。
アミン化合物としては、アルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかが挙げられる。より具体的には、アルキレンアミンとしては、エチレンジアミン(HNCNH)、ジエチレントリアミン(HNCNHCNH)、トリエチレンテトラミン(HN(CNH)NH)、テトラエチレンペンタミン(HN(CNH)NH)、ペンタエチレンヘキサミン(HN(CNH)NH)から選ばれる1種以上を用いることができる。また、アルキレンアミン誘導体としては、トリス(2-アミノエチル)アミン(N(CNH)、(2-アミノエチル)-2-アミノエタノール(HNCNHCOH)から選ばれる1種以上を用いることができる。これらのアルキレンアミン、アルキレンアミン誘導体は水溶性であり、中でもエチレンジアミン、ジエチレントリアミンは、入手が容易で安価であるため好ましい。
上記アミン化合物の還元反応促進剤としての作用は、反応液中のニッケルイオン(Ni2+)を錯化してニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きによると考えられる。また、ヒドラジンの自己分解抑制剤や、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用については、アミン化合物分子内の第1級アミノ基(-NH)や第2級アミノ基(-NH-)と、ヒドラジンやのニッケル晶析粉末の表面との相互作用により、上記作用が発現しているものと推測される。
ここで、反応液中の上記アミン化合物とニッケルの割合[モル%]((アミン化合物のモル数/ニッケルのモル数)×100)は、0.01モル%~5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%~2モル%の範囲がよい。上記割合が0.01モル%未満の場合、上記アミン化合物の量が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、またはニッケル粒子同士の連結抑制剤としての各作用を得ることができないおそれがある。一方で、上記割合が5モル%を超えると、アミン化合物がニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きが強くなりすぎる結果、ニッケル晶析粉末の粒子の成長に異常をきたすおそれがあり、これによりニッケル粉末の粒状性や球状性が失われていびつな形状となることや、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子が多く形成されることなど、ニッケル粉末の特性の劣化が生じるおそれがある。
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、前記溶液AまたはBのいずれかはアミン化合物を含み、前記溶液CまたはDのいずれかはアミン化合物を含んでもよい。すなわち、還元反応の開始前である混合工程前にアミン化合物を予め溶液AまたはBに配合しておいてもよい。なお、アミン化合物を混合するタイミングについては、目的に応じ総合的に判断して適宜選択することができる。
特に、アミン化合物が持つ還元反応促進剤としての作用は、還元反応の開始前にアミン化合物を予め配合しておくことで、ニッケルよりも貴な金属の塩との相乗効果により、微細なニッケル晶析粉末(ニッケル粉末)を安定的に晶析させることができる。
すなわち、予めアミン化合物を配合しておくことで、還元反応の開始時点からアミン化合物がヒドラジンの自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)として作用するという利点がある。一方で、例えば吸着などのアミン化合物の有するニッケル粒子表面との相互作用が核発生に関与して、得られるニッケル晶析粉末の粒径や粒度分布に影響を及ぼす可能性がある。そのため、アミン化合物の種類や混合量等の諸条件を適宜検討することが重要となる。
また、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、前記混合工程後、前記混合物とアミン化合物を混合するアミン化合物混合工程を含んでもよい。すなわち、混合工程後であって還元反応の開始以降にアミン化合物を混合してもよい。
この場合は、核発生が生じる晶析工程のごく初期段階を経た後に、アミン化合物を反応液に添加混合するため、アミン化合物のヒドラジンの自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)としての作用がやや遅れるものの、アミン化合物の核発生への関与がなくなるため、得られるニッケル晶析粉末の粒径や粒度分布がアミン化合物によって影響を受けにくくなり、それらを制御しやすくなる利点がある。
ここで、アミン化合物混合工程においてアミン化合物を混合物へ混合する混合時間は、数秒以内の一括混合でも良く、また、数分間~30分間程度にわたり分割混合や滴下混合としてもよい。アミン化合物は、還元反応促進剤(錯化剤)としての作用もあるため、ゆっくり添加する方が結晶成長をゆっくりと進行させてニッケル晶析粉末が高結晶性となる。しかし、ヒドラジンの自己分解抑制効果も徐々に作用することとなり、ヒドラジン消費量の低減効果は減少するため、上記混合時間は、これら両者のバランスをみながら適宜決定すればよい。ここで、アミン化合物を混合物へ混合する混合時間は、混合物にアミン化合物が接触した瞬間を開始とし、混合物にアミン化合物が入り終えた瞬間を終了とする。
アミン化合物混合工程においてアミン化合物を混合物へ混合する際は、混合物を撹拌しながら混合する撹拌混合が好ましい。撹拌混合性が良いと、混合物とアミン化合物との不均一性が低下し、かつ、前述したような水酸化アルカリの混合時間への依存性が低下するため、微細化した狭い粒度分布のニッケル晶析粉末を得やすくなる。撹拌混合の方法は、公知の方法を用いればよく、撹拌混合性の制御や設備コストの面から、例えば撹拌羽根を用いることが好ましい。
(f)その他の含有物
晶析工程の反応液中には、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、ヒドラジンおよび水酸化アルカリに加え、分散剤、錯化剤、消泡剤などの各種添加剤を含有させてもよい。例えば、分散剤や錯化剤は、適切なものを適正量用いれば、ニッケル晶析粉末の粒状性(球状性)やニッケル晶析粉末の粒子表面平滑性を改善することや、粗大粒子を低減することが可能になる場合がある。また、消泡剤も、適切なものを適正量用いれば、晶析反応で生じる窒素ガス(後述の式(2)~式(4)参照)に起因する晶析工程での発泡を抑制することで、例えば水溶液が容器からあふれてしまうことを防止することが可能となる。分散剤としては、公知の物質を用いることができ、例えば、アラニン(CHCH(COOH)NH)、グリシン(HNCHCOOH)、トリエタノールアミン(N(COH))、ジエタノールアミン(別名:イミノジエタノール)(NH(COH))などが挙げられる。また、錯化剤としては公知の物質を用いることができ、ヒドロキシカルボン酸、カルボン酸(少なくとも一つのカルボキシル基を含む有機酸)、ヒドロキシカルボン酸塩やヒドロキシカルボン酸誘導体、カルボン酸塩やカルボン酸誘導体、具体的には、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、蟻酸、酢酸、ピルビン酸、およびそれらの塩や誘導体などが挙げられる。さらに、消泡剤としては、アルカリ性条件下において破泡性に優れたものであれば、特に限定されず、オイル型や溶剤型のシリコーン系またはノンシリコーン系の消泡剤を用いることができる。また、メチオニンは、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤や連結粗大粒子生成抑制剤としての役割を果たすことができ、加えて、ニッケル粒子の球状化(表面平滑化)に寄与することのできるものである。
[1-2.晶析工程]
晶析工程は、前記混合物中の水溶性ニッケル塩を還元させてニッケル晶析粉末を得る工程である。以下、具体的に説明する。
(1-2-1.還元反応)
前記混合物(すなわち反応液)中において、水酸化アルカリの共存下で水溶性ニッケル塩をヒドラジンで還元することにより、ニッケル晶析粉末を得ている。また、この還元反応と同時に、微量の特定のアミン化合物の作用で、ヒドラジンの自己分解を大幅に抑制することができる。
まず、晶析工程における還元反応について説明する。ニッケルイオンが晶析してニッケル(Ni)となる場合の反応は、下記の式(1)に示す2電子反応である。また、ヒドラジン(N)の反応は、下記の式(2)に示す4電子反応である。例えば、上述のように、ニッケル塩として塩化ニッケル(NiCl)、水酸化アルカリとして水酸化ナトリウム(NaOH)を用いた場合には、還元反応全体は下記の式(3)のように、塩化ニッケルと水酸化ナトリウムの中和反応で生じた水酸化ニッケル(Ni(OH))がヒドラジンで還元される反応で表され、化学量論的には(理論値としては)、ニッケル(Ni)1モルに対し、ヒドラジン(N)0.5モルが必要である。
ここで、式(2)のヒドラジンの還元反応から、ヒドラジンはアルカリ性が強い程、その還元力が大きくなることが分かる。上記水酸化アルカリは、アルカリ性を高めるpH調整剤として用いられており、ヒドラジンの還元反応を促進する働きを担っている。
[化1]
Ni2++2e→Ni↓ (2電子反応) ・・・(1)

→N↑+4H+4e (4電子反応) ・・・(2)

2NiCl+N+4NaOH→2Ni(OH)+N+4NaCl
→2Ni↓+N↑+4NaCl+4HO ・・・(3)
上述の通り、従来の晶析工程では、ニッケル晶析粉末の活性な表面が触媒となって、下記の式(4)で示されるヒドラジンの自己分解反応が促進され、還元剤としてのヒドラジンが還元以外に大量に消費される場合があった。そのため、反応開始温度などの晶析条件にもよるが、例えば、ニッケル1モルに対しヒドラジン2モル程度と、前述の還元に必要な理論値の4倍程度が一般的に用いられていた。さらに、式(4)に示すように、ヒドラジンの自己分解では多量のアンモニアが副生して、反応液中にアンモニアが高濃度で含有されて含窒素廃液を生じることとなる。このように、高価な薬剤であるヒドラジンの過剰量の使用や、含窒素廃液の処理コストの発生が、湿式法によるニッケル粉末(湿式ニッケル粉末)の製造コストを増加させる要因となっている。
[化2]
3N→N↑+4NH ・・・(4)
そこで、本発明のニッケル粉末の製造方法では、特定のアミン化合物を用いて、ヒドラジンの自己分解反応を著しく抑制し、薬剤として高価なヒドラジンの使用量を大幅に削減することが好ましい。アミン化合物がヒドラジンの自己分解を抑制することができるのは、(I)上記特定のアミン化合物の分子が、反応液中のニッケル晶析粉末の表面に吸着し、ニッケル晶析粉末の活性表面とヒドラジン分子との接触を妨害しているためであることや、(II)特定のアミン化合物の分子がニッケル晶析粉末の表面に作用し、表面の触媒活性を不活性化しているためであること、などが考えられる。
なお、従来から湿式法での晶析工程では、還元反応時間(晶析反応時間)を実用的な範囲にまで短縮するために、酒石酸やクエン酸などのニッケルイオン(Ni2+)と錯イオンを形成してイオン状ニッケル濃度を高める錯化剤を還元反応促進剤として用いるのが一般的である。しかしながら、これら酒石酸やクエン酸などの錯化剤は、上記特定のアミン化合物のようなヒドラジンの自己分解抑制剤としての作用、あるいは晶析中にニッケル粒子同士が連結して生じる粗大粒子を形成しにくくする連結抑制剤としての作用は、有していない。
一方で、上記特定のアミン化合物は、酒石酸やクエン酸などと同様に錯化剤としても働き、ヒドラジンの自己分解抑制剤、連結抑制剤、および還元反応促進剤の作用を兼ね備える利点を有している。
(1-2-2.混合物の温度)
混合工程により得た混合物の温度、すなわち、混合工程において、混合物が調合された時点での当該混合物の温度は、10℃~30℃とする。この温度が10℃未満の場合は、それぞれの溶液を冷却するコストや冷却するための時間の負担が大きくなるおそれがある。また、この温度が30℃よりも高いと、混合途中で晶析反応が本格的に始まってしまい、微細化した狭い粒度分布のニッケル晶析粉末を得ることが困難となるおそれがある。この温度が10℃~25℃であれば、微細化した狭い粒度分布のニッケル晶析粉末をより容易に得ることができるため、より好ましい。なお、混合物の温度を10℃~30℃とする場合には、溶液A~Dの個々の溶液の温度は、それらを混合して混合物となったときの温度が上記の温度範囲になれば、特に制約はなく自由に設定することができる。
また、水溶性ニッケル塩、ヒドラジンおよび水酸化アルカリが存在すると、低い温度であってもニッケル粉末の晶析は開始するものの、還元反応をより活発にしてニッケル粉末を晶析させるべく、本発明の一態様では、混合物の温度をウォーターバス等により40℃~90℃に調製してもよい。混合物の温度は、高いほど還元反応は促進され、かつニッケル晶析粉末は高結晶化(結晶性が高くなり、ニッケル粒子の結晶子径が大きくなる)する傾向にあるが、ヒドラジンの自己分解反応がそれ以上に促進される側面があるため、ヒドラジンの消費量が増加するとともに、反応液の発泡が激しくなり、多量の発泡で晶析反応を継続できなくなる場合がある。その一方で、混合物の温度が低くなり過ぎると、ニッケル晶析粉末の結晶性が著しく低下する他、還元反応が遅くなって晶析工程の時間が大幅に延長して生産性が低下する傾向がある。以上の理由から、晶析工程中は、混合物の温度を40℃~90℃の温度範囲にすることで、ヒドラジンの消費を抑制しながら、高い生産性を維持しつつ、高性能のニッケル晶析粉末を安価に製造することができる。
(1-2-3.ニッケル晶析粉末の回収)
晶析工程における還元反応で生成したニッケル晶析粉末は、公知の手順を用いて反応液から分離すればよく、例えば、洗浄、固液分離、乾燥の手順を経ることにより、ニッケル粉末が得られる。なお、所望により、ニッケル晶析粉末を含む反応液や洗浄液にメルカプト化合物やジスルフィド化合物などの硫黄化合物を添加して、硫黄成分でニッケル晶析粉末の表面を修飾する表面処理(硫黄コート処理)を施したニッケル粉末(ニッケル晶析粉末)を得てもよい。また、得られたニッケル粉末に、例えば不活性雰囲気や還元性雰囲気中で200℃~300℃程度の熱処理を施してニッケル粉末を得ることもできる。これらの硫黄コート処理や熱処理を行うことで、前述の積層セラミックコンデンサ等の製造時の内部電極での脱バインダ挙動やニッケル粉末の焼結挙動を制御できるため、適正範囲内でこれらの処理を用いれば非常に有効である。さらに、必要に応じて、晶析工程で得られたニッケル粉末に解砕処理を施す後述の解砕工程(後処理工程)を追加すれば、晶析工程におけるニッケル粒子の生成過程で生じたニッケル粒子の連結による粗大粒子等の低減を図ったニッケル粉末を得ることができるため、より好ましい。
具体的には、デンバーろ過器、フィルタープレス、遠心分離機、デカンターなどを用いて反応液中からニッケル晶析粉末を固液分離すると共に、純水(導電率:≦1μS/cm)等の高純度の水で十分に洗浄し、大気乾燥機、熱風乾燥機、不活性ガス雰囲気乾燥機、真空乾燥機などの汎用の乾燥装置を用いて50℃~300℃、好ましくは、80℃~150℃で乾燥し、ニッケル晶析粉末(ニッケル粉末)を得ることができる。なお、不活性ガス雰囲気乾燥機、真空乾燥機などの乾燥装置を用いて、不活性雰囲気、還元性雰囲気、真空雰囲気中で200℃~300℃程度で乾燥した場合は、単なる乾燥に加え、熱処理を施したニッケル晶析粉末(ニッケル粉末)を得ることが可能である。熱処理を施すことでニッケル粉末の表面状態(ニッケルメタル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル比率)を変えることができる。具体的には、酸化ニッケル割合の増加および水酸化ニッケル割合の減少が起きる。加えて、熱処理により結晶成長が進むことから、乾燥温度が高温であるほど結晶子径の大きなニッケル粉末が得られる。
(1-3.解砕工程)
晶析工程で得られたニッケル晶析粉末(ニッケル粉末)は、前述の通り、アミン化合物が晶析中においてニッケル粒子の連結抑制剤として作用するため、ニッケル粒子が還元析出の過程で互いに連結して形成される粗大粒子の含有割合は、そもそもそれ程大きくない。ただし、晶析手順や晶析条件によっては、粗大粒子の含有割合が幾分大きくなって問題になる場合もある。そのため、解砕工程を設け、ニッケル粒子が連結した粗大粒子をその連結部で分断して粗大粒子の低減を図ることが好ましい。解砕工程としては、特に限定されないが、スパイラルジェット解砕処理、カウンタージェットミル解砕処理などの乾式解砕方法や、高圧流体衝突解砕処理などの湿式解砕方法、その他の汎用の解砕方法を適用することが可能である。
<2.ニッケル粉末>
本発明のニッケル粉末は、上記の製造方法で安価に製造することができ、高性能であって、積層セラミックコンデンサ等の内部電極の材料として好適である。本発明のニッケル粉末としては、平均粒径(個数平均粒径mn、体積平均粒径mv)、不純物含有量(塩素含有量、アルカリ金属含有量)、変動係数CV(Coefficient of Variation)値、粒度分布について、以下の特性を有する。
(平均粒径)
近年の積層セラミックコンデンサ等の内部電極の薄層化に対応するという観点から、ニッケル粉末の平均粒径は0.02μm~0.15μmであることが好ましい。ただし、積層セラミックコンデンサ等は多品種であり、平均粒径0.15μm超~0.4μm未満程度のニッケル粉末もまだ広く用いられていることを考慮すると、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末も平均粒径を0.02μm~0.4μmに設定する。なお、本発明におけるニッケル粉末は、走査型電子顕微鏡写真(SEM像)から個数平均粒径mnおよび体積平均粒径mvを求めることができるが、上記に示す平均粒径はいずれも個数平均粒径mnによるものである。
(不純物含有量(塩素含有量、アルカリ金属含有量))
湿式法によるニッケル粉末には、薬剤起因の不純物である塩素やアルカリ金属等が含有される場合がある。これらの不純物は、積層セラミックコンデンサ等の製造時において内部電極の欠陥発生の原因となる可能性があるため、可能な限り低減することが好ましい。具体的には、塩素、アルカリ金属ともに、含有量が0.01質量%以下であることが好ましい。なお、不純物含有量の測定については特に限定されるものではなく、公知の分析装置、分析手法を用いて求めれば良い。
(CV値)
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、核発生前もしくは核発生開始から短時間で反応液が均一となるように混合することで、微細かつ粒度分布の狭いニッケル粉末を得ることができる。粒度分布の狭さを評価する指標として、下記式(5)、(6)に示す変動係数CV値を求めることができる。CV値は、例えば倍率40000倍の走査型電子顕微鏡写真(SEM像)において、100~200個のニッケル粉末粒子の粒径を計測し、その粒子の個数平均粒径(または体積平均粒径)および標準偏差を求め、式(5)、(6)を計算することにより、変動係数CV値(個数)またはCV値(体積)として求めることができる。本発明におけるニッケル粉末は、近年の積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応するという観点から、できるだけ均一な粒径のものが好まれることを考慮すれば、CV値(個数)として14%以下であることが好ましく、13%以下であることがより好ましい。また、CV値(体積)としては、16%以下であることが好ましい。
[数3]
CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100 ・・・(5)

CV値(体積)(%)=標準偏差÷体積平均粒径×100 ・・・(6)
(粒度分布)
上記したように、ニッケル粉末としては、近年の積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応するという観点から、できるだけ均一な粒径のものが好まれる。この点を考慮すると、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末は、個数基準の粒度分布において、粒子径の最小値が0.09155μmであり、粒子径の最大値が0.259μmであることが好ましい。
また、上記と同様の点を考慮すると、個数基準の粒度分布において、0.1295μmの粒子が最も多く、かつ0.1295μmの粒子の頻度が40%以上であることが好ましい。
以下、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
(ニッケル塩水溶液(溶液A)の調製)
水溶性ニッケル塩として、塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405gと、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として、塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)1.6mgと、メチオニン(CHSCCH(NH)COOH、分子量:149.21)2.54gと、を純水1880mLに溶解して、ニッケル塩水溶液(溶液A)を調製した。ここで、ニッケル塩水溶液において、パラジウム(Pd)はニッケル(Ni)に対し6.0質量ppm(3.3モルppm)とした。
(還元剤水溶液(溶液B)の調製)
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を138gと、水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)230gを、純水560mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ水溶液とを混合して還元剤水溶液(溶液B)を調整した。還元剤水溶液に含まれるヒドラジンのニッケルに対するモル比は0.97であった。水酸化アルカリ水溶液に含まれる水酸化ナトリウムのニッケルに対するモル比は3.38であった。
(アミン化合物溶液)
アミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(-NH)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH、分子量:60.1)2.048gを、純水18mLに溶解して、主成分としてのエチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物水溶液を用意した。アミン化合物水溶液に含まれるエチレンジアミンはニッケルに対し、モル比で0.02(2.0モル%)と微量であった。
なお、上記ニッケル塩水溶液、還元剤水溶液、水酸化アルカリ水溶液、およびアミン化合物水溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
(混合工程および晶析工程)
液温25℃の塩化ニッケルを純水に溶解したニッケル塩水溶液(溶液A)を、撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ撹拌した後、撹拌を継続した状態で液温25℃のヒドラジンと水酸化ナトリウムと純水とを含む上記還元剤水溶液(溶液B)を混合時間10秒で撹拌投入することにより添加混合して反応液(混合物)を得て(混合工程)、還元反応(晶析反応)を開始した。その後、反応槽を80℃のウォーターバスに入れ、撹拌を継続しつつ反応液を昇温させた。反応開始後8分後から18分後までの10分間にかけて、上記アミン化合物水溶液を上記反応液に撹拌投入することにより滴下混合し(アミン化合物混合工程)、ヒドラジンの自己分解を抑制しながら還元反応を進めて、ニッケル晶析粉を反応液中に析出させた。反応開始から90分以内には還元反応は完了し、反応液の上澄み液は透明であることから、反応液中のニッケル成分はすべて金属ニッケルに還元されていることを確認した。
ニッケル晶析粉を含む反応液は晶析したニッケル粒子が分散したスラリー状であり、導電率が1μS/cmの純水を用い、ニッケル晶析粉含有スラリーからろ過したろ液の導電率が10μS/cm以下になるまでろ過洗浄し、固液分離した後、150℃の温度に設定した真空乾燥器中で乾燥して、乾燥状態のニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。
(解砕処理工程)
晶析工程に引き続いて解砕処理工程を実施し、ニッケル粉末中の主にニッケル粒子が連結して形成された粗大粒子の低減を図った。具体的には、晶析工程で得られた上記ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、乾式解砕方法であるスパイラルジェット解砕処理を施し、実施例1のニッケル粉末を得た。
(ニッケル粉末)
このようにして得られたニッケル粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、画像解析ソフト(株式会社マウンテック製Mac-View)により粒度分布を測定することにより平均粒径を求めたところ、個数平均粒径mnは0.13μm、体積平均粒径mvは0.14μmであった(表1)。また、変動係数CV値を求めたところ、CV値(個数)は12.57%、CV値(体積)は15.83%であった(表1)。表2に、実施例1にて得られたニッケル粉末の粒度分布を示す表を、図3に、実施例1にて得られたニッケル粉末の個数基準の粒度分布を示すグラフである。実施例1のニッケル粉末は、個数基準の粒度分布において、粒子径の最小値が0.09155μmであり、粒子径の最大値が0.259μmであった。また、0.1295μmの粒子が最も多く、かつ0.1295μmの粒子の頻度が40%以上であった(図3)。この結果より、平均粒径、変動係数ともに小さく、微細で、かつ粒度分布の小さいニッケル粉末であることがわかった。また、ニッケル粉末中の塩素(Cl)、ナトリウム(Na)、および硫黄(S)の含有量は、塩素が0.002質量%、ナトリウムが0.003質量%、硫黄が0.22質量%といずれの不純物も少量であることがわかった。
Figure 0007293591000001
Figure 0007293591000002
[比較例1]
(ニッケル粉末の作製)
塩化ニッケル水溶液(溶液A)と還元剤水溶液(溶液B)の混合時間を200秒とした以外は、実施例1と同様の条件で、ニッケル粉末を得た。
(ニッケル粉末)
このようにして得られたニッケル粉末を、実施例1と同様に走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、平均粒径を求めたところ、個数平均粒径mnは0.13μm、体積平均粒径mvは0.15μmであった(表1)。また、変動係数CV値を求めたところ、CV値(個数)は14.63%、CV値(体積)は28.94%であった(表1)。表2に、比較例1にて得られたニッケル粉末の粒度分布を示す表を、図4に、比較例1にて得られたニッケル粉末の個数基準の粒度分布を示すグラフである。これらの結果より、CV値(体積)が大きな値を示したことは、塩化ニッケル水溶液と還元剤水溶液の混合時間が長くなったことでニッケル粒子の核発生のタイミングおよび粒成長の度合いにばらつきが生じ、粒度分布が広くなったためと考えられる。粒度分布が広くなったことは、図4からも明らかであり、また、実施例1の場合よりも粒径の大きいニッケル粉末の頻度が高くなり、実施例1よりも大きい粒子が多く存在することがわかった。また、ニッケル粉末中の塩素(Cl)、ナトリウム(Na)、および硫黄(S)の含有量は、塩素が0.002質量%、ナトリウムが0.003質量%、硫黄が0.23質量%といずれの不純物も少量であることがわかった。
[比較例2]
(ニッケル粉末の作製)
ニッケル塩水溶液(溶液A)の反応開始時の温度を75℃とした以外は、実施例1と同様の条件で、ニッケル粉末を得た。上記条件におけるニッケル塩水溶液(溶液A)と還元剤水溶液(溶液B)の混合後の反応開始温度は66℃であった。
(ニッケル粉末)
このようにして得られたニッケル粉末を、実施例1と同様に走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、平均粒径を求めたところ、個数平均粒径mnは0.16μm、体積平均粒径mvは0.17μmであった(表1)。また、変動係数CV値を求めたところ、CV値(個数)は15.35%、CV値(体積)は17.07%であった(表1)。表2に、比較例2にて得られたニッケル粉末の粒度分布を示す表を、図5に、比較例2にて得られたニッケル粉末の個数基準の粒度分布を示すグラフである。これらの結果より、ニッケル塩水溶液の投入温度を75℃としたことで、反応液の反応開始時の温度が高温になったことにより、反応液中でのニッケル粒子の核発生のタイミングは不均一となり、粒成長の程度にも差が生じ、結果として得られたニッケル粉末の平均粒径は実施例1と比べて大きくなったものと考えられる。なお、図5からも明らかなように、実施例1の場合よりも粒径の大きいニッケル粉末の頻度が高くなり、実施例1よりも大きい粒子が多く存在することがわかった。また、ニッケル粉末中の塩素(Cl)、ナトリウム(Na)、および硫黄(S)の含有量は、塩素が0.001質量%、ナトリウムが0.002質量%、硫黄が0.19質量%といずれの不純物も少量であることがわかった。
実施例の結果から、塩化ニッケル水溶液(溶液A)と還元剤水溶液(溶液B)をそれぞれ温度25℃、混合時間10秒で混合して反応を開始し、晶析させたニッケル粉末は、平均粒径が0.4μm以下で粒度分布を表す変動係数CV値(個数)が15%以下である、微細かつ粒度分布の狭いニッケル粉末であることがわかった。
[まとめ]
以上のように、本発明に係るニッケル粉末の製造方法によれば、核発生前または核発生開始から短時間で所定の原料を均一に混合することで、製造バッチサイズに依らず、微細かつ粒度分布が狭いニッケル粉末を得られることは、明らかである。

Claims (6)

  1. 水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、ヒドラジンおよび水酸化アルカリを10秒以内に混合して混合物を得る混合工程と、
    前記混合物中の前記水溶性ニッケル塩を還元させてニッケル晶析粉末を得る晶析工程と、を含み、
    前記混合工程は、水溶性ニッケル塩およびニッケルよりも貴な金属の金属塩を含む溶液Aに、ヒドラジンおよび水酸化アルカリを含む溶液Bを混合する段階、または、
    水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩およびヒドラジンを含む溶液Cに、水酸化アルカリを含む溶液Dを混合する段階を含み、
    前記混合工程により得た前記混合物の温度は、10℃~25℃である、ニッケル粉末の製造方法。
  2. 前記溶液AまたはBのいずれかはアミン化合物を含み、前記溶液CまたはDのいずれかはアミン化合物を含む、請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
  3. 前記混合工程後、前記混合物とアミン化合物を混合するアミン化合物混合工程を含む、請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
  4. 個数平均粒径が0.02μm~0.15μmであり、下記式(1)により得られるCV値(個数)が14%以下であり、かつ、下記式2により得られるCV値(体積)が16%以下である、ニッケル粉末。
    [数1]
    CV値(個数)(%)=標準偏差÷個数平均粒径×100 ・・・(1)
    [数2]
    CV値(体積)(%)=標準偏差÷体積平均粒径×100 ・・・(2)
  5. 個数基準の粒度分布において、粒子径の最小値が0.09155μmであり、粒子径の最大値が0.259μmである、請求項4に記載のニッケル粉末。
  6. 個数基準の粒度分布において、0.1295μmの粒子が最も多く、かつ0.1295μmの粒子の頻度が40%以上である、請求項4または5に記載のニッケル粉末。
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