JP6926620B2 - ニッケル粉末の製造方法 - Google Patents

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本発明は、積層セラミック部品の電極材として用いられる安価で高性能なニッケル粉末の製造方法、特に湿式法により得られる安価で高性能なニッケル粉末の製造方法に関する。
ニッケル粉末は、電子回路のコンデンサの材料として、特に、積層セラミックコンデンサ(MLCC:multilayer ceramic capacitor)や多層セラミック基板などの積層セラミック部品の内部電極などを構成する厚膜導電体の材料として利用されている。
近年、積層セラミックコンデンサの大容量化が進み、積層セラミックコンデンサの内部電極の形成に用いられる内部電極ペーストの使用量も大幅に増加している。このため、厚膜導電体を構成する内部電極ペースト用の金属粉末として、高価な貴金属の使用に代替して、主としてニッケルなどの安価な卑金属が使用されている。
積層セラミックコンデンサを製造する工程では、ニッケル粉末、エチルセルロースなどのバインダ樹脂、ターピネオールなどの有機溶剤を混練した内部電極ペーストを、誘電体グリーンシート上にスクリーン印刷する。内部電極ペーストが印刷・乾燥された誘電体グリーンシートは、内部電極ペースト印刷層と誘電体グリーンシートとが交互に重なるように積層され圧着されて積層体が得られる。
この積層体を、所定の大きさにカットし、次に、バインダ樹脂を加熱処理により除去し(脱バインダ処理)、さらに、この積層体を1300℃程度の高温で焼成することにより、セラミック成形体が得られる。
そして、得られたセラミック成形体に外部電極が取り付けられ、積層セラミックコンデンサが得られる。内部電極となる内部電極ペースト中の金属粉末としてニッケルなどの卑金属が使用されていることから、積層体の脱バインダ処理は、これらの卑金属が酸化しないように、不活性雰囲気などの酸素濃度がきわめて低い雰囲気下にて行われる。
積層セラミックコンデンサの小型化および大容量化に伴い、内部電極や誘電体はともに薄層化が進められている。これに伴って、内部電極ペーストに使用されるニッケル粉末の粒径も微細化が進行し、平均粒径0.5μm以下のニッケル粉末が必要とされ、特に平均粒径0.3μm以下のニッケル粉末の使用が主流となっている。
内部電極の薄層化により、使用されるニッケル粉末の粒径が微細化されるとともに、ニッケル粉末に含まれる粗大粒子の低減も求められている。粗大粒子には、粒径が著しく大きな一次粒子の場合もあるが、複数の粒子が結合した連結粒子も含まれる。この連結粒子の結合を解きほぐす方法として、解砕処理を施すこともある。
ニッケル粉末の解砕方法には、大別すると、乾式解砕と湿式解砕がある。乾式解砕として、例えば特許文献1には高圧ガス噴射用ノズルとノズルの中途に接続した供給通路からノズル内部に被破砕物を導入して、これを衝突板に向けて噴射し、解砕する機構が記載されている。
乾式解砕は粒子径が(0.2μmを超える)大きなニッケル粉末の解砕には有効な手段であるが、ニッケル粉末の粒子径が小さく(重量が軽く)なるにつれ、運動エネルギーが小さくなるため、衝突時の解砕力が弱くなってしまうという問題がある。また、0.2μm以下のニッケル粉末では、粉じん爆発や発火の危険性が増加するため、安全に解砕するためには不活性ガスを使用する必要があり製造コストが増加してしまうという問題がある。
一方、湿式解砕として例えば、特許文献2には原料スラリーをシリンダー状のタンクに充填し、ピストン部材を移動させてスラリーを加圧して排出し、衝突チャンバーにて解砕する機構が記載されている。
湿式解砕は、スラリーを直接加圧することができるため、ニッケル粉末の粒子径が小さくなっても衝突エネルギーを減少させずに、解砕が可能である。また、ニッケル粉末を水または有機溶媒等でスラリー状態にして解砕を行うため、空気と直接触れる可能性が低く、発火の危険性が少ない。
特開昭58−143853号公報 特開2007−144250号公報
しかしながら、ピストンでスラリーを直接加圧する方式では、ニッケル粉末の小径化・分散性向上に伴い、ピストン摺動部やパッキンなどの隙間にニッケルが入り込み、摺動部を摩耗させたりして装置の密閉性が損なわれ、解砕能力の低下を発生させるという問題がある。
そこで本発明では、微細なニッケル粉末を得る場合においても、粗大粒子(連結粒子)が少ないニッケル粉末を得ることができるニッケル粉末の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、微細ニッケル粉末の製造方法における解砕工程、すなわちニッケル粒子の粗大粒子(連結粒子)の調製・解砕を行う工程において、特定のスラリー濃度のニッケル粉スラリーを特定の解砕機構を有する解砕装置を用いて解砕することで、発火の危険性が無い方法で、分散した微細ニッケル粉末が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明の一態様は、平均粒径が0.02μm〜0.20μmのニッケル晶析粉を用いたニッケル粉末の製造方法であって、前記ニッケル晶析粉を用い、ニッケル粉スラリーを作製し、前記ニッケル粉スラリー濃度を調製する調製工程と、前記調製工程で調製された前記ニッケル粉スラリーを噴霧によって液滴状にして前記ニッケル粉スラリーを解砕する解砕工程とを有し、前記調製工程における前記ニッケル粉スラリー濃度は、5〜40重量%であり、前記解砕工程では、高圧ガスで加速させた前記ニッケル粉スラリーを衝突板に衝突させ、もしくは前記ニッケル粉スラリー同士を衝突させて前記ニッケル粉スラリーを解砕し、前記ニッケル晶析粉は、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、およびアミン化合物と、水と、を混合した反応液中において、還元反応を行う晶析工程により得られ、前記晶析工程で混合させる前記還元剤はヒドラジン(N)であり、前記アミン化合物は、ヒドラジンの自己分解抑制剤であって、分子内に第1級アミノ基(−NH)または第2級アミノ基(−NH−)を合わせて2個以上含有しており、前記反応液中のニッケルのモル数に対する前記アミン化合物のモル数の割合が0.01モル%〜5モル%の範囲であることを特徴とする。
また、本発明の一態様では、前記アミン化合物がアルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかとすることができる。
さらに、このとき、本発明の一態様では、前記アルキレンアミンが、エチレンジアミン(HNCNH)、ジエチレントリアミン(HNCNHCNH)、トリエチレンテトラミン(HN(CNH)NH)、テトラエチレンペンタミン(HN(CNH)NH)、ペンタエチレンヘキサミン(HN(CNH)NH)、プロピレンジアミン(CHCH(NH)CHNH)から選ばれる1種以上、アルキレンアミン誘導体が、トリス(2−アミノエチル)アミン(N(CNH)、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン(HNCNHCOH)、N−(2−アミノエチル)プロパノールアミン(HNCNHCOH)、2,3−ジアミノプロピオン酸(HNCHCH(NH)COOH)、エチレンジアミン−N,N’−二酢酸(HOOCCHNHCNHCHCOOH)、1,2−シクロヘキサンジアミン(HNC10NH)から選ばれる1種以上とすることができる。
また、本発明の一態様では、前記アミン化合物に加えて、前記ヒドラジンの自己分解抑制補助剤としてのスルフィド化合物が前記反応液中に配合されており、該スルフィド化合物は、分子内にスルフィド基(−S−)を1個以上含有しており、前記反応液中の前記ニッケルのモル数に対する前記スルフィド化合物のモル数の割合が0.01モル%〜5モル%の範囲であってもよい。
また、本発明の一態様では、前記スルフィド化合物が、分子内にさらにカルボキシ基(−COOH)または水酸基(−OH)を少なくとも1個以上含有するカルボキシ基含有スルフィド化合物または水酸基含有スルフィド化合物であってもよい。
また、本発明の一態様では、前記カルボキシ基含有スルフィド化合物または前記水酸基含有スルフィド化合物が、L(または、D、DL)−メチオニン(CHSCCH(NH)COOH)、L(または、D、DL)−エチオニン(CSCCH(NH)COOH)、チオジプロピオン酸(HOOCCSCCOOH)、チオジグリコール酸(HOOCCHSCHCOOH)、チオジグリコール(HOCSCOH)から選ばれる1種以上であってもよい。
また、本発明の一態様では、水溶性ニッケル塩が、塩化ニッケル(NiCl)、硫酸ニッケル(NiSO)、硝酸ニッケル(Ni(NO)から選ばれる1種以上であってもよい。
また、本発明の一態様では、前記ニッケルよりも貴な金属の塩が、銅塩、金塩、銀塩、白金塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩から選ばれる1種以上であってもよい。
また、本発明の一態様では、前記水酸化アルカリが、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)から選ばれる1種以上であってもよい。
また、本発明の一態様では、前記晶析工程において、還元反応を開始させる時点の前記反応液の温度(反応開始温度)が、40℃〜90℃であってもよい。
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法は、凝集力の強い微細なニッケル粉末でありながら、粗大粒子(連結粒子)が少ない微細なニッケル粉末を得ることができる。
図1は、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における製造工程の一例を示す模式図である。 図2は、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における晶析工程の実施形態に係る晶析手順を示す模式図である。 図3は、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における晶析工程の他の実施形態に係る晶析手順を示す模式図である。
以下、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法について図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、以下の製造方法の説明では、代表例として湿式法により、原料ニッケル粉末(ニッケル晶析粉)を還元反応で生成しているが、以下の例に限定されるものではなく、例えば、固体のニッケル塩を還元剤で還元する固相還元法やニッケル塩上記を水素ガスで還元する気相還元法等の乾式還元法により生成した原料ニッケル粉末(ニッケル晶析粉)にも、適用可能である。
1.ニッケル粉末の製造方法
1−1.晶析工程
1−1−1.晶析工程で用いる薬剤
1−1−2.晶析反応の手順(晶析手順)
1−1−3.晶析反応(還元反応、ヒドラジン自己分解反応)
1−1−4.晶析条件(反応開始温度)
1−1−5.ニッケル晶析粉の回収
1−2.調製・解砕工程
1−3.解砕後の処理
2.ニッケル粉末
<1.ニッケル粉末の製造方法>
まず、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法について説明する。図1には、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法における製造工程の一例を示す模式図を示す。本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法は、図1に示すように、少なくとも調製工程S21と、解砕工程S22とを有する。上記の調製工程S21は、平均粒径が0.02μm〜0.20μmの原料ニッケル粉末を用い、ニッケル粉スラリーを作製し、ニッケル粉スラリー濃度を調製する。また、上記解砕工程S22は、調製工程S21で調製された上記ニッケル粉スラリーを噴霧によって液滴状にして上記ニッケル粉スラリーを解砕する。
このとき、上記調製工程S21では、後述する5〜40重量%の濃度に調製する。また、上記の解砕工程S22では、高圧ガスで加速させた上記ニッケル粉スラリーを衝突板に衝突させ、もしくは上記ニッケル粉スラリー同士を衝突させて上記ニッケル粉スラリーを解砕する。
また、原料ニッケル粉末は、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の金属塩、還元剤としてのヒドラジン、pH調整剤としての水酸化アルカリと水を含む反応液中において、ヒドラジンによる還元反応により晶析させる、湿式法により生成されたニッケル晶析粉とするのが好ましい。以下に本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法の詳細について、好ましい方法としての晶析工程S10、および、調製・解砕工程S20、解砕後の処理の順に説明する。なおニッケル粉末の製造方法として以下の説明を行うが、本発明には最終形態がニッケル粉末の場合だけでなくニッケル粉スラリーの場合も含まれ、それらを総称してニッケル粉末の製造方法としている。
(1−1.晶析工程)
晶析工程S10では、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、および水を混合した反応液中でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン、またはニッケル錯イオン)をヒドラジンで還元する。
(1−1−1.晶析工程で用いる薬剤)
本発明の一実施形態に係る晶析工程S10では、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリなどの各種薬剤と水を含む反応液が用いられている。溶媒としての水は、得られるニッケル粉末中の不純物量を低減させる観点から、超純水(導電率:≦0.06 μS/cm(マイクロジーメンス・パー・センチメートル)、純水(導電率:≦1μS/cm)という高純度のものがよく、中でも安価で入手が容易な純水を用いることが好ましい。以下、上記各種薬剤について、それぞれ詳述する。
(a)ニッケル塩
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法に用いるニッケル塩は、水に易溶である水溶性ニッケル塩であれば、特に限定されるものではなく、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケルから選ばれる1種以上を用いることができる。これらのニッケル塩の中では、塩化ニッケル、硫酸ニッケルあるいはこれらの混合物がより好ましい。
(b)ニッケルよりも貴な金属の金属塩
ニッケルよりも貴な金属をニッケル塩溶液に含有させることで、ニッケルを還元析出させる際に、ニッケルよりも貴な金属が先に還元されて初期核となる核剤として作用しており、この初期核が粒子成長することで微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を作製することができる。
ニッケルよりも貴な金属の金属塩としては、水溶性の銅塩や、金塩、銀塩、プラチナ塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩などの水溶性の貴金属塩が挙げられる。例えば、水溶性の銅塩としては硫酸銅を、水溶性の銀塩としては硝酸銀を、水溶性のパラジウム塩としては塩化パラジウム(II)ナトリウム、塩化パラジウム(II)アンモニウム、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)などを用いることができるが、これらには限定されない。
ニッケルよりも貴な金属の金属塩としては、特に上述したパラジウム塩を用いると、粒度分布は幾分広くなるものの、得られるニッケル粉末の粒径をより微細に制御することが可能となるため好ましい。パラジウム塩を用いた場合の、パラジウム塩とニッケルの割合[モルppm](パラジウム塩のモル数/ニッケルのモル数×10)は、ニッケル粉末の目的とする平均粒径にもよるが、例えば平均粒径0.05μm〜0.2μmであれば、0.5モルppm〜100モルppmの範囲内、好ましくは1モルppm〜25モルppmの範囲内がよい。上記割合が0.5モルppm未満だと、平均粒径が0.2μmを超えてしまい、一方で、100モルppmを超えると、高価なパラジウム塩を多く使用することとなり、ニッケル粉末のコスト増につながる。
(c)還元剤
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、還元剤としてヒドラジン(N、分子量:32.05)を用いる。なお、ヒドラジンには、無水のヒドラジンの他にヒドラジン水和物である抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)があるが、どちらを用いてもかまわない。ヒドラジンは、その還元反応は後述する式(2)に示す通りであるが、特にアルカリ性で還元力が高いこと、還元反応の副生成物が窒素ガスと水で、不純物成分が反応液中に生じないこと、ヒドラジン中の不純物が少ないこと、および入手が容易なこと、という特徴を有しているため還元剤に好適であり、例えば、市販されている工業グレードの60質量%抱水ヒドラジンを用いることができる。
(d)水酸化アルカリ
ヒドラジンの還元力は、反応液のアルカリ性が強い程大きくなるため(後述する式(2)参照)、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、水酸化アルカリを、アルカリ性を高めるpH調整剤として用いる。水酸化アルカリは特に限定されるものではないが、入手の容易さや価格の面から、アルカリ金属水酸化物を用いることが好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる1種以上とすることがより好ましい。
水酸化アルカリの配合量は、還元剤としてのヒドラジンの還元力が十分高まるように、反応液のpHが、反応温度において、9.5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは10.5以上となるようにするとよい。
(e)アミン化合物(ヒドラジンの自己分解抑制剤)
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法に用いるアミン化合物は、分子内に第1級アミノ基(−NH)または第2級アミノ基(−NH−)を合わせて2個以上含有する化合物である。このようなアミン化合物を反応液に配合させることにより、ヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、さらにはニッケル粒子同士の連結抑制剤の作用を有しており、必要に応じて反応液に配合させるとよい。特にこのアミン化合物が持つ還元反応促進剤としての作用は、反応液に予めアミン化合物を配合した場合には、上記硫黄含有化合物やニッケルよりも貴な金属の金属塩の作用との相乗効果により、微細なニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を安定的に晶析させることができる。
アミン化合物は、アルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかである。より具体的には、アルキレンアミンとして、エチレンジアミン(HNCNH)、ジエチレントリアミン(HNCNHCNH)、トリエチレンテトラミン(HN(CNH)NH)、テトラエチレンペンタミン(HN(CNH)NH)、ペンタエチレンヘキサミン(HN(CNH)NH)、プロピレンジアミン(CHCH(NH)CHNH)から選ばれる1種以上、アルキレンアミン誘導体として、トリス(2−アミノエチル)アミン(N(CNH)、(2−アミノエチル)アミノエタノール(HNCNHCOH)、N−(2−アミノエチル)プロパノールアミン(HNCNHCOH)、L(または、D、DL)−2,3−ジアミノプロピオン酸(HNCHCH(NH)COOH)、エチレンジアミン−N,N’−二酢酸(HOOCCHNHCNHCHCOOH)、1,2−シクロヘキサンジアミン(HNC10NH)から選ばれる1種以上である。これらのアルキレンアミン、アルキレンアミン誘導体は水溶性であり、中でもエチレンジアミン、ジエチレントリアミンは、入手が容易で安価のため好ましい。
上記アミン化合物の還元反応促進剤としての作用は、反応液中のニッケルイオン(Ni2+)を錯化してニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きによると考えられるが、ヒドラジンの自己分解抑制剤、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用については、その詳細な作用メカニズムは、未だ明らかにはなっていない。ただし、次のような推測が可能である。すなわち、アミン化合物分子内のアミノ基の内、特に第1級アミノ基(−NH)や第2級アミノ基(−NH−)が、反応液中のニッケル晶析粉の表面に強く吸着し、アミン化合物分子がニッケル晶析粉を覆って保護することで、反応液中のヒドラジン分子とニッケル晶析粉との過剰な接触を妨げたり、ニッケル晶析粉同士の合体を防止して、上記ヒドラジンの自己分解抑制やニッケル粒子同士の連結抑制の各作用を発現しているというものである。
ここで、反応液中のニッケルのモル数に対する上記アミン化合物のモル数の割合[モル%](アミン化合物のモル数/ニッケルのモル数×100)は0.01モル%〜5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%〜2モル%の範囲がよい。上記割合が0.01モル%未満だと、上記アミン化合物が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、ニッケル粒子同士の連結抑制剤の各作用が得られなくなる。一方で、上記割合が5モル%を超えると、ニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きが強くなりすぎる結果、粒子成長に異常をきたしてニッケル粉末の粒状性・球状性が失われていびつな形状となったり、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子が多く形成されるなどのニッケル粉末の特性劣化を生じる。
(f)スルフィド化合物
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法に用いるスルフィド化合物は、分子内にスルフィド基(−S−)を1個以上含有する化合物である。スルフィド化合物は、上記アミン化合物と異なり、単独で用いた場合にはヒドラジンの自己分解抑制作用はそれ程大きくないが、上記アミン化合物と併用すると、ヒドラジンの自己分解抑制作用を大幅に強めることができるヒドラジンの自己分解抑制補助剤の作用を有し、また、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用も有しており、上記アミン化合物と併用すると、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子の生成量をより効果的に低減できる。さらに、反応液が調合された時点でスルフィド化合物を配合していると、核発生促進作用を有し得られるニッケル晶析粉が微粒化されるため、あらかじめニッケル塩を含む溶液または還元剤を含む溶液に添加混合しておき、反応液が調合された時点で配合されるようにしてもよい。
上記スルフィド化合物は、水溶性が高い方が望ましく、したがって、分子内にさらにカルボキシ基(−COOH)または水酸基(−OH)を少なくとも1個以上含有するカルボキシ基含有スルフィド化合物または水酸基含有スルフィド化合物であって、より具体的には、L(または、D、DL)−メチオニン(CHSCCH(NH)COOH)、L(または、D、DL)−エチオニン(CSCCH(NH)COOH)、チオジプロピオン酸(HOOCCSCCOOH)、チオジグリコール酸(HOOCCHSCHCOOH)、チオジグリコール(HOCSCOH)から選ばれる1種以上である。これらのカルボキシ基含有スルフィド化合物または水酸基含有スルフィド化合物は水溶性であり、中でもメチオニンやチオジグリコール酸は、ヒドラジンの自己分解抑制補助作用に優れ、かつ入手が容易で安価のため好ましい。
上記スルフィド化合物のヒドラジンの自己分解抑制補助剤、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用については、その詳細な作用メカニズムは、未だ明らかにはなっていないが、以下のように推測できる。すなわち、スルフィド化合物は、分子内のスルフィド基(−S−)がニッケル粒子のニッケル表面に分子間力により吸着するが、それ単独では、前述したアミン化合物分子のようにニッケル晶析粉を覆って保護する作用が大きくならない。一方で、アミン化合物とスルフィド化合物を併用すると、アミン化合物分子がニッケル晶析粉の表面に強く吸着して覆い保護する際に、アミン化合物分子同士では完全に覆いきれない微小な領域が生じる可能性が高いが、その部分をスルフィド化合物分子が吸着により補助的に覆うことで、反応液中のヒドラジン分子とニッケル晶析粉との接触がより効果的に妨げられ、さらにはニッケル晶析粉同士の合体もより強力に防止できて、上記作用が発現しているというものである。
ここで、反応液中のニッケルのモル数に対する上記スルフィド化合物のモル数の割合[モル%](スルフィド化合物のモル数/ニッケルのモル数×100)は0.01モル%〜5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%〜2モル%、より好ましくは0.05モル%〜1モル%の範囲がよい。上記割合が0.01モル%未満だと、上記スルフィド化合物が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤やニッケル粒子同士の連結抑制剤の各作用が得られなくなる。一方で、上記割合が5モル%を超えても上記各作用の向上は見られないため、単にスルフィド化合物の使用量が増加するだけであり、薬剤コストが上昇すると同時に、反応液に有機成分の配合量が増大して晶析工程S10の反応廃液の化学的酸素要求量(COD)が上昇するため廃液処理コスト増大を生じる。
(g)その他の含有物
晶析工程S10の反応液中には、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤(ヒドラジン)、水酸化アルカリに加え、上述したようにやアミン化合物やスルフィド化合物を含有させてもよく、さらに分散剤、錯化剤、消泡剤などの各種添加剤も少量含有させてもよい。分散剤や錯化剤は、適切なものを適正量用いれば、ニッケル晶析粉の粒状性(球状性)や粒子表面平滑性を改善できたり、粗大粒子低減が可能になる場合がある。また、消泡剤も、適切なものを適正量用いれば、晶析反応で生じる窒素ガス(後述の式(2)〜式(4)参照)に起因する晶析工程S10での発泡を抑制することが可能となる。分散剤と錯化剤の境界線は曖昧であるが、分散剤としては、公知の物質を用いることができ、例えば、アラニン(CHCH(COOH)NH)、グリシン(HNCHCOOH)、トリエタノールアミン(N(COH))、ジエタノールアミン(NH(COH))などが挙げられる。錯化剤としては、公知の物質を用いることができ、ヒドロキシカルボン酸、カルボン酸(少なくとも一つのカルボキシル基を含む有機酸)、ヒドロキシカルボン酸塩やヒドロキシカルボン酸誘導体、カルボン酸塩やカルボン酸誘導体、具体的には、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、蟻酸、酢酸、ピルビン酸、およびそれらの塩や誘導体などが挙げられる。
(1−1−2.晶析反応の手順(晶析手順))
少なくとも水溶性ニッケル塩を水に溶解させたニッケル塩溶液と、還元剤(ヒドラジン)を水に溶解させた溶液と、および水酸化アルカリを水に溶解させた溶液を水に溶解させた溶液を用意し、これらを添加混合させて反応液を調合し、この反応液中で晶析反応を行うものである。ニッケルよりも貴な金属の塩をあらかじめニッケル塩の溶液に添加混合させておき反応液を調合してもよい。アミン化合物は、反応液を調合する前に上記いずれかの溶液またはそれらを混合させた液に添加混合させるか、反応液を調合してから反応液に添加混合させる。スルフィド化合物は、あらかじめ還元剤溶液とニッケル塩溶液の少なくともいずれかに添加混合させておき反応液を調合してもよいし、反応液を調合してから反応液に添加混合させてもよい。なお、反応液が調合された時点で還元反応が開始される。
ここで、具体的な晶析手順としては、図2に示すように、被還元物であるニッケル塩を含む溶液に、あらかじめ還元剤(ヒドラジン)と水酸化アルカリを添加混合させた溶液を添加混合して反応液を調合する手順と、図3に示すように、被還元物の溶液に還元剤(ヒドラジン)を添加混合させた溶液に、水酸化アルカリの溶液を添加混合して反応液を調合する手順の2種類ある。図2に示した手順では、は水酸化アルカリによりアルカリ性が高く還元力を高めた還元剤(ヒドラジン)を被還元物の溶液に添加混合するのに対し、図3に示した手順では、還元剤(ヒドラジン)を被還元物の溶液に混合させておいてから、水酸化アルカリによりpHを調整して還元力を高める違いがある。
図2に示した手順では、反応液が調合された時点、すなわち還元反応が開始する時点での温度(以降、反応開始温度とすることもある)にもよるが、ニッケル塩を含む溶液と水酸化アルカリによりアルカリ性を高めた還元剤溶液の添加混合に要する時間が長くなると、添加混合の途中の段階から、ニッケル塩溶液と還元剤溶液の添加混合領域の局所においてアルカリ性が上昇してヒドラジンの還元力が高まり、核の発生に時間差が生じて、ニッケル晶析粉の微細化や狭い粒度分布を得にくくなるという傾向がある。この傾向は、弱酸性のニッケル塩溶液にアルカリ性の還元剤溶液を添加混合する場合により顕著である。上記傾向は、原料混合時間が短いほど抑制できるため、短時間が望ましいが、量産設備面の制約などを考慮すると、好ましくは10秒〜180秒、より好ましくは20秒〜120秒、さらに好ましくは30秒〜80秒がよい。
一方、図3に示した手順では、被還元物と還元剤を含む溶液中では還元剤のヒドラジンが予め添加混合されて均一濃度となっているため、水酸化アルカリ溶液を添加混合する際に生じる核発生の時間差は、図2の場合ほど大きくならず、ニッケル晶析粉の微細化や狭い粒度分布が得やすいという特徴がある。ただし、図2の場合と同様の理由で、水酸化アルカリ混合時間は短時間が望ましく、量産設備面の制約などを考慮すると、好ましくは10秒〜180秒、より好ましくは20秒〜120秒、さらに好ましくは30秒〜80秒がよい。
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法に用いられる、アミン化合物の添加混合についても、上述の通り、図2に示すような反応液が調合される前に反応液にあらかじめ配合しておく手順と、図3に示すような反応液が調合されて還元反応開始以降に添加混合される手順の2種類ある。なお、図2で水酸化アルカリを後から配合してもよいし、図3であらかじめ水酸化アルカリを配合してもよい。
図2に示した手順では、反応液に予めアミン化合物を配合しておくため、還元反応の開始時点から、アミン化合物がヒドラジンの自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)として作用するという利点があるが、一方で、例えば吸着などのアミン化合物の有するニッケル粒子表面との相互作用が核発生に関与して、得られるニッケル晶析粉の粒径や粒度分布に影響を及ぼす可能性がある。
逆に図3に示した手順では、核発生が生じる晶析工程S10の極初期段階を経た後に、アミン化合物を反応液に添加混合するため、アミン化合物のヒドラジンの自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)としての作用が幾分遅れるものの、アミン化合物の核発生への関与がなくなるため、得られるニッケル晶析粉の粒径や粒度分布がアミン化合物によって影響を受けにくくなり、それらを制御しやすくなる利点がある。ここで、この手順でのアミン化合物の反応液への添加混合における混合時間は、数秒以内の一気添加でも良いし、数分間〜30分間程度にわたり分割添加や滴下添加してもよい。アミン化合物は、還元反応促進剤(錯化剤)としての作用もあるため、ゆっくり添加する方が結晶成長をゆっくりと進行させてニッケル晶析粉が高結晶性となるが、ヒドラジンの自己分解抑制も徐々に作用することとなりヒドラジン消費量の低減効果は減少するため、上記混合時間は、これら両者のバランスをみながら適宜決定すればよい。なお、図2に示す順におけるアミン化合物の添加混合タイミングについては、目的に応じ総合的に判断して適宜選択することができる。
(1−1−3.晶析反応)
晶析工程S10では、反応液中において、水酸化アルカリ共存下でニッケル塩をヒドラジンで還元ニッケル晶析粉を得ている。また必要に応じて、微量の特定のアミン化合物の作用でヒドラジンの自己分解を大幅に抑制して還元反応させている。
まず、晶析工程S10における還元反応について説明する。ニッケル(Ni)の反応は下記の式(1)の2電子反応、ヒドラジン(N)の反応は下記の式(2)の4電子反応であって、例えば、上述のように、ニッケル塩として塩化ニッケル、水酸化アルカリとして水酸化ナトリウムを用いた場合には、還元反応全体は下記の式(3)のように、塩化ニッケルと水酸化ナトリウムの中和反応で生じた水酸化ニッケル(Ni(OH))がヒドラジンで還元される反応で表され、化学量論的には、ニッケル(Ni)1モルに対し、ヒドラジン(N)0.5モルが必要である。
ここで、式(2)のヒドラジンの還元反応から、ヒドラジンはアルカリ性が強い程、その還元力が大きくなることが分かる。上記水酸化アルカリはアルカリ性を高めるpH調整剤として用いており、ヒドラジンの還元反応を促進する働きを担っている。
Figure 0006926620
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上述の通り、従来の晶析工程では、ニッケル晶析粉の活性な表面が触媒となって、下記の式(4)で示されるヒドラジンの自己分解反応が促進され、還元剤としてのヒドラジンが還元以外に大量に消費されるため、反応開始温度などの晶析条件にもよるが、例えば、ニッケル1モルに対しヒドラジン2モル程度と前述の還元に必要な理論値の4倍程度が一般的に用いられていた。さらに、式(4)よりヒドラジンの自己分解では多量のアンモニアが副生して、反応液中に高濃度で含有されて含窒素廃液を生じることとなる。このような高価な薬剤であるヒドラジンの過剰量の使用や、含窒素廃液の処理コスト発生が、湿式法によるニッケル粉末(湿式ニッケル粉末)のコスト増要因となっている。
Figure 0006926620
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法では、そこで、上記ニッケル粉末の製造方法では、微量の特定のアミン化合物を反応液に加えて、ヒドラジンの自己分解反応を著しく抑制し、薬剤として高価なヒドラジンの使用量を大幅に削減することが好ましい。この詳細なメカニズムは未だ明らかではないが、(I)上記特定のアミン化合物やスルフィド化合物の分子が、反応液中のニッケル晶析粉の表面に吸着し、ニッケル晶析粉の活性表面とヒドラジン分子との接触を妨害している、(II)特定のアミン化合物やスルフィド化合物の分子がニッケル晶析粉表面に作用し、表面の触媒活性を不活性化している、などが考えられる。
なお、従来から湿式法での晶析工程では、還元反応時間を実用的な範囲にまで短縮するために、酒石酸やクエン酸などのニッケルイオン(Ni2+)と錯イオンを形成してイオン状ニッケル濃度を高める錯化剤を還元反応促進剤として用いるのが一般的であるが、これら酒石酸やクエン酸など錯化剤は、上記特定のアミン化合物のようなヒドラジンの自己分解抑制剤の作用、あるいは晶析中にニッケル粒子同士が連結して生じる粗大粒子を形成しにくくする連結抑制剤としての作用は有していない。
一方で、上記特定のアミン化合物は、酒石酸やクエン酸などと同様に錯化剤としても働き、ヒドラジンの自己分解抑制剤、連結抑制剤、および還元反応促進剤の作用を兼ね備える利点を有している。
(1−1−4.晶析条件(反応開始温度))
晶析工程S10の晶析条件として、少なくとも、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、ヒドラジン、水酸化アルカリ、必要に応じてアミン化合物を含む反応液(アミン化合物は最終的に反応液に必ず含まれる)が調合された時点、すなわち、反応開始温度が、40℃〜90℃とすることが好ましく、50℃〜80℃とすることがより好ましく、60℃〜70℃とすることがさらに好ましい。ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液などの個々の溶液の温度は、それらを混合して得られる反応開始温度が上記温度範囲になれば特に制約はなく自由に設定することができる。反応開始温度は、高いほど還元反応は促進され、かつニッケル晶析粉は高結晶化する傾向にあるが、一方で、ヒドラジンの自己分解反応がそれ以上に促進される側面があるため、ヒドラジンの消費量が増加するとともに、反応液の発泡が激しくなる傾向がある。したがって、反応開始温度が高すぎると、ヒドラジンの消費量が大幅に増加したり、多量の発泡で晶析反応を継続できなくなる場合がある。一方で、反応開始温度が低くなり過ぎると、ニッケル晶析粉の結晶性が著しく低下したり、還元反応が遅くなって晶析工程S10の時間が大幅に延長して生産性が低下する傾向がある。以上の理由から、上記温度範囲にすることで、ヒドラジン消費量を抑制しながら、高い生産性を維持しつつ、高性能のニッケル晶析粉を安価に製造することができる。
(1−1−5.ニッケル晶析粉の回収)
ヒドラジンによる還元反応で反応液中に生成したニッケル晶析粉は、必要に応じて、メルカプト化合物やジスルフィド化合物などの硫黄化合物で硫黄コート処理を施こした後、公知の手順を用いて反応液から分離すればよい。
硫黄コート処理は、前述の積層セラミックコンデンサ製造時の内部電極での脱バインダ挙動やニッケル粉末の焼結挙動を制御できるため、適正範囲内で用いれば非常に有効である。
ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を反応液から分離する具体的な方法として、デンバーろ過器、フィルタープレス、遠心分離機、デカンターなどを用いて反応液中からニッケル晶析粉を固液分離すると共に、純水(導電率:≦1μS/cm)等の高純度の水で十分に洗浄することでニッケル粉スラリーが得られる。また、洗浄後に脱水を行い、水の代わりに有機溶媒でニッケル粉スラリーを作製しても良い。
(1−2.調製・解砕工程)
晶析工程S10で得られた原料ニッケル粉末(ニッケル晶析粉)は、前述の通り、アミン化合物が晶析中においてニッケル粒子の連結抑制剤として作用するため、ニッケル粒子が還元析出の過程で互いに連結して形成される粗大粒子の含有割合はそもそもそれ程大きくない。しかし、ニッケル粉末の粒子径が小さくなることで、ニッケル粒子同士の凝集力が強くなり、分散状態が十分とは言い難いため、晶析工程S10に引き続いて調製・解砕工程S20を設け、ニッケル粒子が連結した粗大粒子をその連結部で分断して粗大粒子の低減を図る必要がある。特に平均粒径が0.02μm〜0.20μmの原料ニッケル粉末の場合に粗大粒子の低減を図る必要がある。
また、別の方法で生成された原料ニッケル粉末(ニッケル晶析粉)においても、ニッケル粉末の粒子径が小さくなるほど、ニッケル粒子同士の凝集力が強くなるため、粒子同士が結合した連結粒子となりやすくなる。そのため、解砕により、粗大粒子(連結粒子)その連結部で分断して粗大粒子の低減を図る必要がある。この場合も、特に平均粒径が0.02μm〜0.20μmの原料ニッケル粉末の場合に粗大粒子の低減を図る必要がある。
解砕処理を行うに当たり、原料ニッケル粉末(ニッケル晶析粉)をニッケル粉スラリーにする必要がある。ニッケル粉スラリーとするには、溶媒中に公知の方法で原料ニッケル粉末を分散させればよい。溶媒としては、純水などの水やエタノールなどの有機溶媒を用いることができる。またニッケル粉末は積層セラミックコンデンサ内部電極用のペーストとして用いられることが主であるため、そのペースト用の溶媒を用いてもよい。さらにニッケル粉スラリー中のニッケル粉末の分散性を高めるために、分散剤を適宜添加してもよい。
このとき、ニッケル粉スラリー中のニッケル粉末濃度(以降、スラリー濃度とする)は5〜40質量%が好ましく、更には10〜25質量%が好ましい。上記濃度が5質量%未満の場合、ニッケル粉末濃度が薄すぎる為、生産性が低く現実的では無い。一方で上記濃度が40質量%を超えると、ニッケル粉スラリーの粘度が高く、解砕装置へのニッケル粉スラリー送液が困難となる。
解砕処理としては、ニッケル粉スラリーを噴霧によって液滴状にする。そして、高圧ガスで加速させたニッケル粉スラリーを衝突板に衝突させ、もしくはニッケル粉スラリー同士を衝突させ、上記のニッケル粉スラリーを解砕する方式が好ましい。この方式では、非処理物(ここではニッケル粉末)を含む液滴を加速させたニッケル粉スラリーを衝突板に衝突させ、もしくはニッケル粉スラリー(液滴)同士を衝突させるため、非処理物(ニッケル粉末)単独よりも質量が大きく運動エネルギーが高くなるため、衝突による解砕力が高くなり、非処理物が微粒化しても高い解砕能力が維持される特徴がある。また非処理物(ニッケル粉末)の周囲を液体が覆っているため、粉じん爆発や発火の危険性もない。さらにこの方式ではピストンなどの摺動部を有していないので、摺動部の摩耗等による解砕能力の低下も防止される。この方式の装置の具体例としては、G−smasher(リックス株式会社製)等を用いることができる。なお、解砕処理は必要に応じて複数回繰り返してもよい。
(1−3. 解砕後の処理)
調製・解砕工程S20で得られたニッケル粉スラリーは、固液分離してから乾燥処理を行いニッケル粉末とする方法、ニッケル粉スラリーの溶媒を例えば積層セラミックコンデンサ内部電極ペースト用の溶媒に置換してニッケル粉スラリーとする方法、解砕工程で得られたニッケル粉スラリーを最終形態とする方法のいずれでもよい。
固液分離と乾燥処理を行う具体的な方法としては、デンバーろ過器、フィルタープレス、遠心分離機、デカンターなどを用いてニッケル粉スラリーからニッケル粉末を固液分離すると共に、大気乾燥機、熱風乾燥機、不活性ガス雰囲気乾燥機、真空乾燥機などの乾燥装置を用いて、40〜300℃、好ましくは60〜150℃で乾燥し、ニッケル粉末を得ることができる。さらに、得られたニッケル粉末に、例えば不活性雰囲気や還元性雰囲気中で200℃〜300℃程度の熱処理を施してもよい。熱処理は、前述の積層セラミックコンデンサ製造時の内部電極での脱バインダ挙動やニッケル粉末の焼結挙動を制御できるため、適正範囲内で用いれば非常に有効である。
ニッケル粉スラリーの溶媒を置換する方法としては公知の方法を用いればよい。もちろんニッケル粉スラリーを必要に応じて洗浄してから固液分離を行い、別の溶媒に分散させてニッケル粉スラリーとしてもよい。
<2.ニッケル粉末>
本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法で得られるニッケル粉末は、安価で、かつ高性能であって、積層セラミックコンデンサの内部電極に好適である。ニッケル粉末特性としては、以下の、平均粒径、粗大粒子の含有量等があり、本発明により得られたニッケル粉末は以下の特性を有する。
(平均粒径)
近年の積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応するという観点から、ニッケル粉末の平均粒径は0.02μm〜0.20μmが好ましい。本明細書中の平均粒径は、ニッケル粉末の走査電子顕微鏡写真(SEM像)から求めた数平均の粒径である。
(粗大粒子の含有量)
ニッケル粉末に粗大粒子が含まれると、積層セラミックコンデンサの内部電極に用いた時に、内部電極層の連続性が低下したり、隣接する誘電体層を圧迫してショート不良を起こすことがある。よって上述した調製・解砕工程の必要性が高まる。粗大粒子とはこれらの不具合を起こす頻度から、平均粒径の3〜5倍以上の径を持つ粒子とされている。本発明の一実施形態に係る粗大粒子の含有量は、平均粒径が0.1μm以上のニッケル粉末については、例えば倍率1000倍の走査電子顕微鏡写真(SEM像)を20視野で撮影し、その20視野のSEM像において、主にニッケル粒子が連結して形成された粒径0.5μm以上の粗大粒子の含有量(%)、すなわち、粗大粒子の個数/全粒子の個数×100、を計測して求めることができる。
また、平均粒径が0.1μm未満のニッケル粉末については、倍率2000倍の走査電子顕微鏡写真(SEM像)を20視野で撮影し、その20視野のSEM像において、主にニッケル粒子が連結して形成された粒径0.3μm以上の粗大粒子の含有量(%)、すなわち、粗大粒子の個数/全粒子の個数×100、を計測して求めることができる。粒径0.5μm以上、あるいは粒子径0.3μm以上の粗大粒子の含有量は、積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応するという観点からすると、1%以下であることが好ましい。
以下、本発明の一実施形態に係るニッケル粉末の製造方法について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
[ニッケル塩溶液の調製]
ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405g、核発生促進剤としてのスルフィド化合物として分子内にスルフィド基(−S−)を1個含有するL−メチオニン(CHSCCH(NH)COOH、分子量:149.21)2.542g、ニッケルよりも貴な金属の金属塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)13.36mgを純水1880mLに溶解して、ニッケル塩溶液を調製した。L−メチオニンはニッケルに対し、モル比で0.01(1.0モル%)と微量であった。
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を215g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。還元剤溶液に含まれるヒドラジンのニッケルに対するモル比は1.51であった。
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)230gを、純水560mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を用意した。水酸化アルカリ溶液に含まれる水酸化ナトリウムのニッケルに対するモル比は3.38であった。
[アミン化合物溶液]
アミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(−NH)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH、分子量:60.1)2.048gを、純水18mLに溶解して、主成分としてのエチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。アミン化合物溶液に含まれるエチレンジアミンはニッケルに対し、モル比で0.02(2.0モル%)と微量であった。
なお、上記ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、およびアミン化合物溶液における使用材料には、60%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[晶析工程]
塩化ニッケル、スルフィド化合物、およびパラジウム塩を純水に溶解したニッケル塩溶液を撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ液温75℃になるように撹拌しながら加熱した後、液温25℃のヒドラジンと水を含む上記還元剤溶液を混合時間20秒で添加混合してニッケル塩・還元剤含有液とした。このニッケル塩・還元剤含有液に液温25℃の水酸化アルカリと水を含む上記水酸化アルカリ溶液を混合時間80秒で添加混合し、液温63℃の反応液(塩化ニッケル+ヒドラジン+水酸化ナトリウム+硫黄含有化合物 )を調合し、還元反応(晶析反応)を開始した(反応開始温度63℃)。反応開始後8分後から18分後までの10分間にかけて上記アミン化合物溶液を上記反応液に滴下混合し、ヒドラジンの自己分解を抑制しながら還元反応を進めてニッケル晶析粉を反応液中に析出させた。反応開始から90分以内には還元反応は完了し、反応液の上澄み液は透明で、反応液中のニッケル成分はすべて金属ニッケルに還元されていることを確認した。その後、導電率が1μS/cmの純水を用い、ニッケル晶析粉含有スラリーからろ過したろ液の導電率が10μS/cm以下になるまでろ過洗浄し、固液分離し、平均粒径が0.09μmの原料ニッケルを得た。
[調製工程]
上記の得られた平均粒径が0.09μmの原料ニッケルに純水を添加して、ニッケル粉スラリーを作製し、スラリー濃度が10質量%のニッケル粉スラリーを得た。
[解砕工程]
引き続いて解砕工程を実施し、ニッケル粉末中の主にニッケル粒子が連結して形成された粗大粒子の低減を図った。具体的には、上記で得られたニッケル粉スラリーに、湿式解砕機であるG−smasher(リックス株式会社)で10回処理を施した。解砕処理後、固液分離し真空乾燥機を用いて乾燥して実施例1に係るニッケル粉末を得た。実施例で得られた粉末の特性を表1に示す。
(比較例1)
実施例1において、解砕処理を行わなかった以外は同様の条件でニッケル粉末を作製した。
(比較例2)
実施例1において、ニッケル晶析粉含有スラリーをろ過洗浄し、固液分離した後、真空乾燥機を用いて乾燥してニッケル粉末とした。得られたニッケル粉末の解砕処理を調製工程を経ずに、窒素雰囲気中のスパイラルジェットミル(乾式解砕装置)で行った。得られた粉末の特性を表1に示す。なお、解砕処理は1回としたが、2回繰り返しても粗大粒子の含有量は変わらないことを確認している。
Figure 0006926620
解砕処理を施していない比較例1に対して、実施例1と、乾式解砕処理を施した比較例2は粗大粒子の含有量が少なくなっていることが分かるが、解砕方式が異なる実施例1と比較例2を比較すると、本発明の一実施形態に関わるニッケル粉末の製造方法により製造されたニッケル粉末の方が粗大粒子の含有量が少なく、優れたニッケル粉末が得られたことが分かる。
以上より、原料ニッケル粉末を用いたニッケル粉末の製造方法ありながら、ニッケル粉スラリー濃度を調製する調製工程と、ニッケル粉スラリーを解砕する解砕工程とを有し、ニッケル粉スラリー濃度を、5〜40重量%とし、高圧ガスで加速させ衝突板もしくはスラリー同士を衝突させて解砕することで凝集力の強い微細なニッケル粉末であっても、粗大粒子(連結粒子)が少ない微細なニッケル粉末を得ることができた。
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、ニッケル粉末の製造方法の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
S10 晶析工程、S20 調製・解砕工程、S21 調製工程、S22 解砕工程

Claims (10)

  1. 平均粒径が0.02μm〜0.20μmのニッケル晶析粉を用いたニッケル粉末の製造方法であって、
    前記ニッケル晶析粉を用い、ニッケル粉スラリーを作製し、前記ニッケル粉スラリー濃度を調製する調製工程と、
    前記調製工程で調製された前記ニッケル粉スラリーを噴霧によって液滴状にして前記ニッケル粉スラリーを解砕する解砕工程とを有し、
    前記調製工程における前記ニッケル粉スラリー濃度は、5〜40重量%であり、
    前記解砕工程では、高圧ガスで加速させた前記ニッケル粉スラリーを衝突板に衝突させ、もしくは前記ニッケル粉スラリーを衝突させて前記ニッケル粉スラリーを解砕し、
    前記ニッケル晶析粉は、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、およびアミン化合物と、水と、を混合した反応液中において、還元反応を行う晶析工程により得られ、
    前記晶析工程で混合させる前記還元剤はヒドラジン(N)であり、
    前記アミン化合物は、ヒドラジンの自己分解抑制剤であって、分子内に第1級アミノ基(−NH)または第2級アミノ基(−NH−)を合わせて2個以上含有しており、
    前記反応液中のニッケルのモル数に対する前記アミン化合物のモル数の割合が0.01モル%〜5モル%の範囲であることを特徴とするニッケル粉末の製造方法。
  2. 前記アミン化合物がアルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
  3. 前記アルキレンアミンが、エチレンジアミン(HNCNH)、ジエチレントリアミン(HNCNHCNH)、トリエチレンテトラミン(HN(CNH)NH)、テトラエチレンペンタミン(HN(CNH)NH)、ペンタエチレンヘキサミン(HN(CNH)NH)、プロピレンジアミン(CHCH(NH)CHNH)から選ばれる1種以上、アルキレンアミン誘導体が、トリス(2−アミノエチル)アミン(N(CNH)、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン(HNCNHCOH)、N−(2−アミノエチル)プロパノールアミン(HNCNHCOH)、2,3−ジアミノプロピオン酸(HNCHCH(NH)COOH)、エチレンジアミン−N,N’−二酢酸(HOOCCHNHCNHCHCOOH)、1,2−シクロヘキサンジアミン(HNC10NH)から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項2に記載のニッケル粉末の製造方法。
  4. 前記アミン化合物に加えて、前記ヒドラジンの自己分解抑制補助剤としてのスルフィド化合物が前記反応液中に配合されており、
    該スルフィド化合物は、分子内にスルフィド基(−S−)を1個以上含有しており、
    前記反応液中の前記ニッケルのモル数に対する前記スルフィド化合物のモル数の割合が0.01モル%〜5モル%の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
  5. 前記スルフィド化合物が、分子内にさらにカルボキシ基(−COOH)または水酸基(−OH)を少なくとも1個以上含有するカルボキシ基含有スルフィド化合物または水酸基含有スルフィド化合物であることを特徴とする請求項4に記載のニッケル粉末の製造方法。
  6. 前記カルボキシ基含有スルフィド化合物または前記水酸基含有スルフィド化合物が、L(または、D、DL)−メチオニン(CHSCCH(NH)COOH)、L(または、D、DL)−エチオニン(CSCCH(NH)COOH)、チオジプロピオン酸(HOOCCSCCOOH)、チオジグリコール酸(HOOCCHSCHCOOH)、チオジグリコール(HOCSCOH)から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項5に記載のニッケル粉末の製造方法。
  7. 前記水溶性ニッケル塩が、塩化ニッケル(NiCl)、硫酸ニッケル(NiSO)、硝酸ニッケル(Ni(NO)から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
  8. 前記ニッケルよりも貴な金属の塩が、銅塩、金塩、銀塩、白金塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
  9. 前記水酸化アルカリが、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
  10. 前記晶析工程において、還元反応を開始させる時点の前記反応液の温度(反応開始温度)が、40℃〜90℃であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のニッケル粉末の製造方法。
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