JP7292578B2 - ニッケル粉末の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、積層セラミック部品の電極材として用いられる高性能なニッケル粉末とその製造方法に関し、特に湿式法により得られる安価で高性能なニッケル粉末とその製造方法に関する。
ニッケル粉末は、電子回路のコンデンサの材料として、特に、積層セラミックコンデンサ(MLCC:MultiLayer Ceramic Capacitor)や多層セラミック基板等の積層セラミック部品の内部電極等を構成する厚膜導電体の材料として利用されている。
近年、積層セラミックコンデンサの大容量化が進み、積層セラミックコンデンサの内部電極の形成に用いられる内部電極ペーストの使用量も大幅に増加している。このため、厚膜導電体を構成する内部電極ペースト用の金属粉末として、高価な貴金属の使用に代替して、主としてニッケル等の安価な卑金属が使用されている。
積層セラミックコンデンサを製造する工程では、ニッケル粉末、エチルセルロース等のバインダー樹脂およびターピネオール等の有機溶剤を混練した内部電極ペーストを、誘電体グリーンシート上にスクリーン印刷する。そして、内部電極ペーストが印刷され、乾燥された誘電体グリーンシートは、内部電極ペースト印刷層と誘電体グリーンシートとが交互に重なるように積層され、さらに圧着されて積層体が得られる。
この積層体を、所定の大きさにカットし、次に、バインダー樹脂を加熱処理により除去し(脱バインダー処理)、さらに、脱バインダー処理後の積層体を1300℃程度の高温で焼成することにより、セラミック成形体が得られる。
そして、得られたセラミック成形体に外部電極が取り付けられ、積層セラミックコンデンサが得られる。内部電極となる内部電極ペースト中の金属粉末として、ニッケル等の卑金属が使用されていることから、積層体の脱バインダー処理は、これらの卑金属が酸化しないように、不活性雰囲気等の酸素濃度がきわめて低い雰囲気下にて行われる。
積層セラミックコンデンサの小型化および大容量化に伴い、内部電極や誘電体はともに薄層化が進められている。これに伴って、内部電極ペーストに使用されるニッケル粉末の粒径も微細化が進行し、平均粒径0.4μm以下のニッケル粉末が必要とされ、特に平均粒径0.3μm以下のニッケル粉末の使用が主流となっている。
ニッケル粉末の製造方法には、大別すると、気相法と湿式法がある。気相法としては、例えば、特許文献1に記載されている塩化ニッケル蒸気を水素により還元してニッケル粉末を作製する方法や、特許文献2に記載されているニッケル金属をプラズマ中で蒸気化してニッケル粉末を作製する方法がある。また、湿式法としては、例えば、特許文献3に記載されている、ニッケル塩溶液に還元剤を添加してニッケル粉末を作製する方法がある。
気相法は、1000℃程度以上の高温プロセスのため、結晶性に優れる高特性のニッケル粉末を得るためには有効な手段ではあるが、得られるニッケル粉末の粒径分布が広くなるという問題がある。上述の通り、内部電極の薄層化においては、粗大粒子を含まず、比較的粒径分布の狭い平均粒径0.4μm以下のニッケル粉末が必要とされる。そのため、気相法でこのようなニッケル粉末を得るためには、高価な分級装置の導入によるニッケル粉末の分級処理が必須となる。
なお、分級処理では、粒径が0.6μm~2μm程度の任意の値の分級点を目途に、分級点よりも大きな粗大粒子の除去が可能であるが、分級点よりも小さな粒子の一部も同時に除去されてしまうため、製品実収が大幅に低下するという問題もある。したがって、気相法では、上述の高額な設備導入も含めて、製品のコストアップが避けられない。
さらに、気相法では、平均粒径が0.2μm以下、特に、平均粒径が0.1μm以下のニッケル粉末を用いる場合に、分級処理による粗大粒子の除去自体が困難になるため、今後の内部電極の一層の薄層化に対応できない。
一方で、湿式法は、気相法と比較して、得られるニッケル粉末の粒径分布が狭いという利点がある。特に、特許文献3に記載されている、ニッケル塩として銅塩を含む溶液に還元剤としてヒドラジンを含む溶液を添加して得られる反応液中で還元反応を行う晶析により、ニッケル粉末を作製する方法では、ニッケルよりも貴な金属の塩(核剤)との共存下でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン(Ni2+)、またはニッケル錯イオン)がヒドラジンで還元されるため、核発生数が制御され(すなわち、粒径が制御され)、かつ核発生と粒子成長が均一となって、より狭い粒径分布で微細なニッケル粉末(以後、反応液中に生じるニッケル粉末をニッケル晶析粉と呼ぶことがある)が得られることが知られている。参考までに、図1に湿式法によるニッケル粉末の代表的な製造工程を示す。
ところで、上記のような気相法や湿式法で作製されたニッケル粉末は、その粒子表面には酸化膜による被覆層がほとんど存在していない。そのため、粒子表面は非常に活性な状態にあり、空気中の酸素に接触すると急激な酸化が起こり、異常発熱による発火の危険性がある。これを抑えるため、通常は大気中に取り出す前にニッケル粒子の表面に何らかの保護酸化被膜を形成する処理が行われる。例えば、特許文献4では、低酸素濃度の不活性ガス雰囲気下で酸化する「徐酸化」処理により、ニッケル粉末の粒子表面に安定な酸化被膜を形成する技術が示されている。
特開平4-365806号公報 特表2002-530521号公報 特開2002-53904号公報 特開2014-189884号公報
上記の徐酸化処理を行うことで形成された酸化被膜は、主に金属ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケルを含んでいる。従来の徐酸化処理では、徐酸化中のニッケル粉末の急激な温度上昇及び発火を防止するために、酸素を微量含む不活性ガス雰囲気中で、常温~50℃程度の温度域で処理される。この条件で徐酸化処理を行った場合、ニッケル粒子の表面には水酸化ニッケルの含有比率が高い酸化被膜が形成されやすい。酸化被膜中の水酸化ニッケルの含有比率が高いと、例えばニッケル粉末を用いた積層セラミックコンデンサの製造過程における脱バインダー処理時の加熱により、水酸化ニッケルが分解し、ガス(水蒸気等)の発生量が多くなることから、ガスによる積層構造のデラミネーション(層間剥離)を引き起こすおそれがある。
そこで本発明では、酸化被膜の表面組成において水酸化ニッケルの含有比率が低いニッケル粉末を製造することのできる、ニッケル粉末の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、湿式法によるニッケル粉末の製造方法において、ニッケル晶析粉の洗浄・ろ過処理および乾燥処理を行った後に徐酸化工程を行うこととし、この工程の徐酸化処理において、所定供給速度の酸素を含むガスを流動させた雰囲気中で、高温で徐酸化することにより、酸化被膜の表面組成において水酸化ニッケル含有比率が低いニッケル粉末が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成したものである。
上記課題を解決するために、本発明のニッケル粉末の製造方法は、水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリおよび水を混合した強アルカリ性反応液中において、還元反応を行ってニッケル晶析粉を含む反応終液である強アルカリ性のニッケル粉スラリーを得る晶析工程と、前記ニッケル粉スラリー中のニッケル晶析粉を反応液から洗浄しながらろ別してニッケル粉ケーキを得る洗浄・ろ過工程と、前記ニッケル粉ケーキを真空乾燥して真空雰囲気中に未酸化ニッケル晶析粉を得る乾燥工程と、真空雰囲気中の前記未酸化ニッケル晶析粉に酸素を供給して、当該未酸化ニッケル晶析粉の表面に酸化被膜を形成する徐酸化工程と、を含み、前記徐酸化工程において、真空雰囲気中の前記未酸化ニッケル晶析粉を130℃~200℃に加熱した状態で、真空雰囲気中に酸素を含むガスを未酸化ニッケル晶析粉1g当りの酸素の供給速度が4×10-5L/分~5×10-2L/分となる範囲で供給する。
前記水溶性ニッケル塩が、塩化ニッケル(NiCl)、硫酸ニッケル(NiSO)、硝酸ニッケル(Ni(NO)から選ばれる1種以上であってもよい。
前記ニッケルよりも貴な金属の塩が、銅塩、金塩、銀塩、白金塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩から選ばれる1種以上であってもよい。
前記還元剤が、ヒドラジン(N)であってもよい。
前記水酸化アルカリが、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)から選ばれる1種以上であってもよい。
本発明に係るニッケル粉末の製造方法によれば、湿式法によるニッケル粉末の製造方法の一工程として徐酸化工程を採用し、この工程において、酸素を含むガスを流動させた雰囲気中で、高温で徐酸化を行うことにより、ニッケル粉末の粒子表面に水酸化ニッケル含有比率が低い酸化被膜を形成することができる。そして、この製造方法により得られたニッケル粉末であれば、例えば積層セラミックコンデンサの製造時の脱バインダー処理において、加熱による水酸化ニッケルの分解に伴うガスの発生を抑えられ、ガスによる積層構造のデラミネーションを防止することができる。
湿式法によるニッケル粉末の製造方法における代表的な製造工程を示す模式図である。 本発明のニッケル粉末の製造方法における製造工程の一例を示す模式図である。 実施例1のニッケル粉末の3万倍における走査型顕微鏡写真(SEM像)である。
以下、本発明に係るニッケル粉末の製造方法およびこの製造方法により得られるニッケル粉末について、図1、図2を参照しながら下記の順序で説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
1.ニッケル粉末
2.湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法
2-1.晶析工程
2-1-1.晶析工程で用いる薬剤
2-1-2.晶析手順
2-1-3.還元反応
2-1-4.反応開始温度
2-2.洗浄・ろ過工程
2-3.乾燥工程
2-4.徐酸化工程
2-5.解砕工程(後処理工程)
<1.ニッケル粉末>
本発明のニッケル粉末は、数平均粒径が0.03μm~0.4μmであり、水酸化ニッケルを主成分とする平均粒径0.8μmを超える粗大粒子の含有量が非常に少なく、ニッケルペーストを乾燥させた乾燥膜において高い平坦性を実現できる。そのため、内部電極層と誘電体層からなる積層体における電極間ショート(短絡)を効果的に防止することが可能となり、積層セラミックコンデンサの内部電極の用途に好適である。
本発明のニッケル粉末は、略球状の粒子形状を有し、その平均粒径は、近年の積層セラミックコンデンサの内部電極の薄層化に対応するという観点から0.03μm~0.4μmである。略球状の形状には、真球のみならず、所定の断面が短径と長径との比(短径/長径)が0.8~1.0となる楕円形状となる楕円体等も含む。なお、本発明の平均粒径は、ニッケル粉末の走査型顕微鏡写真(SEM像)から求めた数平均の粒径である。
通常、ニッケル粉末には、僅かな不純物が含有されている場合がある。例えば、湿式法により得られたニッケル粉末には、ニッケル粒子の表面酸化が起因である酸素、ニッケル原料である塩化ニッケルが起因と考えられる塩素、水酸化ナトリウムが起因であるナトリウム等のアルカリ金属が微量含まれている場合がある。また、気相法により得られたニッケル粉末も、ニッケル粒子の表面酸化が起因である酸素を含有する場合があり、塩化ニッケルの蒸気を水素還元して作製する方法によって得られたニッケル粉末の場合は、微量の塩素が含有される場合がある。これらの不純物は、積層セラミックコンデンサの製造時において内部電極の欠陥発生の原因となる可能性があるため、可能な限り低減することが好ましい。例えば、塩素およびアルカリ金属については、ニッケル粉末中に0.01質量%以下の含有量であることが好ましい。
本発明のニッケル粉末のように、積層セラミックコンデンサの内部電極に適用可能なニッケル粉末は、その触媒活性を抑制するため、通常、微量の硫黄を含有している場合がある。これは、ニッケル粒子の表面は触媒活性が高く、例えば硫黄等を含有させずにそのまま使用すると、積層セラミックコンデンサ製造時の脱バインダー処理において、内部電極ペーストに含まれるエチルセルロース樹脂等のバインダー樹脂の熱分解を促進し、低温からバインダー樹脂が分解されて、積層体としての強度が大幅に低下すると同時に、分解ガスが多量に発生して積層体にクラックが発生しやすくなる場合があるためである。
上記のようにニッケル粉末に硫黄を含有させるには、ニッケル粒子の表面に硫黄を付着させる表面処理を行い、ニッケル粒子表面全体が、薄く、かつ均一に硫黄で修飾(コーティング)していることが、上記バインダー樹脂の分解抑制効果の発現や不純物としての硫黄の積層セラミックコンデンサ特性への影響低減の観点からすると、最も好ましい。ただし、上記バインダー樹脂の分解抑制の効果が発揮できれば、ニッケル粒子の表面全体を修飾(コーティング)せずとも、表面の一部を修飾(コーティング)している修飾(コーティング)状態であってもよい。本発明では、このようなニッケル粒子の全体の修飾(コーティング)、および一部の修飾(コーティング)を包括する概念として、“表面処理”を用いている。
ニッケル粉末に対する硫黄含有量は、0.5質量%を超えると硫黄に起因する内部電極欠陥が発生することがあり、好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下がよい。硫黄含有量の下限は特に限定されることはなく、含有量の分析で用いられる分析機器、例えば燃焼法による硫黄分析装置やICP分析装置による測定により、検出限界以下との結果の含有量でもよい。
<2.湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法>
次に、本発明の一実施形態に係る湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法について説明する。本発明の一実施形態に係る湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法は、すくなくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤(例えばヒドラジン)、pH調整剤としての水酸化アルカリと水を混合して得た強アルカリ性反応液中において、ヒドラジン等による還元反応でニッケルを晶析させてニッケル晶析粉を含む反応終液である強アルカリ性のニッケル粉スラリーを得る晶析工程、該ニッケル粉スラリーを洗浄しながらニッケル晶析粉を分離してニッケル粉ケーキを得る洗浄・ろ過工程、該ニッケル粉ケーキを乾燥してニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得る乾燥工程、該ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)の粒子表面部を、酸素を含むガスを流動させた雰囲気中で酸化する徐酸化工程を含む。また、必要に応じて、反応液中に、アミン化合物や硫黄含有化合物を配合し、これらをヒドラジンの自己分解抑制剤(アミン化合物、硫黄含有化合物)および還元反応促進剤(錯化剤)(アミン化合物)として作用させてもよい。
なお、所望により、ニッケル晶析粉を含む反応終液である強アルカリ性のニッケル粉スラリーや、その希釈液や洗浄液に極微量の硫黄化合物を添加して、ニッケル粉末中の含有量として0.5質量%以下となるように、硫黄成分でニッケル粒子の表面を修飾する表面処理(硫黄コート処理)を施こしてもよい。また、得られたニッケル粉末に、例えば不活性雰囲気や還元性雰囲気中で200℃~300℃程度の熱処理を施してニッケル粉末を得ることもできる。この硫黄コート処理や熱処理は、前述の積層セラミックコンデンサ製造時の内部電極での脱バインダー挙動やニッケル粉末の焼結挙動を制御できるため、適正範囲内で用いれば非常に有効である。
さらに、必要に応じて、ニッケル晶析粉に解砕処理を施す解砕工程(後処理工程)を追加して、晶析工程におけるニッケル粒子の生成過程で生じたニッケル粒子の連結による粗大粒子等の低減を図ったニッケル粉末を得ることが好ましい。
このような晶析工程、洗浄・ろ過工程、乾燥工程、徐酸化工程および必要に応じて解砕工程を行うことで、略球状の粒子形状を有し、その数平均粒径が0.03μm~0.4μmであり、表面を被覆する酸化被膜の表面組成において、水酸化ニッケルが35at%以下であるニッケル粉末を得ることができる。
(2-1.晶析工程)
晶析工程では、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、および水を混合した反応液中でニッケル塩(正確には、ニッケルイオン、またはニッケル錯イオン)を、例えばヒドラジン等の還元剤を用いた還元反応により還元することができる。本発明では、ヒドラジンを用いる場合には、この反応液に、必要に応じてアミン化合物や硫黄含有化合物を混合させ、アミン化合物や硫黄含有化合物の存在下で、還元剤としてのヒドラジンを分解抑制しながら、ニッケル塩を還元することもできる。
(2-1-1.晶析工程で用いる薬剤)
本発明の晶析工程では、ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリ、必要に応じてアミン化合物や硫黄含有化合物等の各種薬剤と水を含む反応液が用いられている。溶媒としての水は、得られるニッケル粉末中の不純物量を低減させる観点から、超純水(導電率:≦0.06μS/cm(マイクロジーメンス・パー・センチメートル)、または純水(導電率:≦1μS/cm)のように、高純度のものが良く、中でも安価で入手が容易な純水を用いることが好ましい。以下、上記各種薬剤について、それぞれ詳述する。
(a)ニッケル塩
本発明に用いるニッケル塩は、水に易溶であるニッケル塩であれば、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ニッケル(NiCl)、硫酸ニッケル(NiSO)、硝酸ニッケル(Ni(NO)から選ばれる1種以上を用いることができる。これらのニッケル塩の中では、塩化ニッケル、硫酸ニッケルあるいはこれらの混合物を用いることがより好ましい。
(b)ニッケルよりも貴な金属の塩
ニッケルよりも貴な金属の塩は、ニッケルよりもイオン化傾向が低いことにより、ニッケルを還元析出させる際にニッケルよりも先に還元される。したがって、ニッケルよりも貴な金属の塩は、ニッケル塩溶液に含有させると、ニッケルを還元析出させる際に、ニッケルよりも貴な金属が先に還元されて初期核となる核剤として作用する。そのため、この初期核が粒子成長して得られるニッケル晶析粉(ニッケル粉末)において、ニッケル粉末の粒径制御や微細化を容易に行なうことができるようになる。
ニッケルよりも貴な金属の塩としては、水溶性でニッケルよりもイオン化傾向が低い金属の金属塩であればよく、例えば、水溶性の銅塩や、金塩、銀塩、白金塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩等の水溶性の貴金属塩から選ばれる1種以上が挙げられる。例えば、水溶性の銅塩としては硫酸銅を、水溶性の銀塩としては硝酸銀を、水溶性のパラジウム塩としては塩化パラジウム(II)ナトリウム、塩化パラジウム(II)アンモニウム、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)等を用いることができるが、これらには限定されない。
ニッケルよりも貴な金属の塩としては、特に上述したパラジウム塩を用いると、粒度分布は幾分広くなるものの、得られるニッケル粉末の粒径をより微細に制御することが可能となるため好ましい。パラジウム塩を用いた場合の、パラジウム塩とニッケルの割合[モルppm](パラジウム塩のモル数/ニッケルのモル数×10)は、ニッケル粉末の目的とする数平均粒径によって適宜選択することができる。例えば、ニッケル粉末の平均粒径を0.03μm~0.4μmに設定するのであれば、パラジウム塩とニッケルの割合を0.2モルppm~100モルppmの範囲内、好ましくは0.5モルppm~25モルppmの範囲内とすることがよい。上記割合が0.2モルppm未満だと、得られるニッケル粉末の平均粒径が0.4μmを超えてしまう場合がある。一方で、この割合が100モルppmを超えると、高価なパラジウム塩を多く使用することとなり、ニッケル粉末のコスト増につながるおそれがある。
(c)還元剤
本発明の晶析工程に用いる還元剤は、特に限定されるものではないが、例えばヒドラジン(N、分子量:32.05)が挙げられる。なお、ヒドラジンには、無水のヒドラジンの他にヒドラジン水和物である抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)があるが、どちらを用いてもかまわない。ヒドラジンの還元反応は、後述する式(2)に示す通りであるが、特にアルカリ性で還元力が高いこと、還元反応の副生成物が窒素ガスと水であるために、還元反応による不純物成分が反応液中に生じないこと、ヒドラジン中の不純物がそもそも少ないこと、および入手が容易なこと、という特徴を有している。そのため、ヒドラジンは還元剤に好適であり、例えば、市販されている工業グレードの60質量%抱水ヒドラジンを用いることができる。
(d)水酸化アルカリ
ヒドラジンの還元力は、後述する式(2)に示すように、反応液のアルカリ性が強い程大きくなるため、本発明では、晶析工程において、水酸化アルカリはアルカリ性を高めるpH調整剤として用いることができる。水酸化アルカリとしては、特に限定されるものではないが、入手の容易さや価格の面から、アルカリ金属水酸化物を用いることが好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)から選ばれる1種以上を用いることがより好ましい。
水酸化アルカリの配合量は、還元剤としてのヒドラジンの還元力が十分高まるように、反応液のpHが、反応温度において、9.5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは10.5以上となるように決定するとよい。反応液のpHは、例えば、25℃と70℃程度を比較すると、高温の70℃の方が幾分小さくなる。
(e)アミン化合物
アミン化合物は、前述のようにヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、さらにはニッケル粒子同士の連結抑制剤の作用を有しているため、必要に応じて反応液に添加するとよい。上記アミン化合物としては、分子内に第1級アミノ基(-NH)または第2級アミノ基(-NH-)から選ばれる官能基のいずれかを合わせて2個以上含有する化合物であって、例えば、アルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体の少なくともいずれかを用いることができる。一例としては、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合した下記式Aの構造を少なくとも有しているアミン化合物を用いることが好ましい。
Figure 0007292578000001
より具体的には、アルキレンアミンとして、エチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH)、ジエチレントリアミン(略称:DETA)(HNCNHCNH)、トリエチレンテトラミン(略称:TETA)(HN(CNH)NH)、テトラエチレンペンタミン(略称:TEPA)(HN(CNH)NH)、ペンタエチレンヘキサミン(略称:PEHA)(HN(CNH)NH)、プロピレンジアミン(別名称:1,2-ジアミノプロパン、1,2-プロパンジアミン)(略称:PDA)(CHCH(NH)CHNH)から選ばれる1種以上を用いることができる。また、アルキレンアミン誘導体として、トリス(2-アミノエチル)アミン(略称:TETA)(N(CNH)、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン(別名称:2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール(略称:AEEA)(HNCNHCOH)、N-(2-アミノエチル)プロパノールアミン(別名称:2-(2-アミノエチルアミノ)プロパノール)(略称:AEPA)(HNCNHCOH)、L(またはD、またはDL)-2,3-ジアミノプロピオン酸(別名称:3-アミノ-L(またはD、またはDL)-アラニン)(略称:DAPA)(HNCHCH(NH)COOH)、エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(別名称:エチレン-N,N’-ジグリシン)(略称:EDDA)(HOOCCHNHCNHCHCOOH)、N,N’-ジアセチルエチレンジアミン(別名称:N,N’-エチレンビスアセトアミド)(略称:DAEDA)(CHCONHCNHCOCH)、N,N’-ジメチルエチレンジアミン(別名称:1,2-ビス(メチルアミノ)エタン)(略称:DMEDA)(CHNHCNHCH)、N,N’-ジエチルエチレンジアミン(別名称:1,2-ビス(エチルアミノ)エタン)(略称:DEEDA)(CNHCNHC)、N,N’-ジイソプロピルエチレンジアミン(略称:DIPEDA)(CH(CH)CHNHCNHCH(CH)CH)、1,2-シクロヘキサンジアミン(別名称:1,2-ジアミノシクロヘキサン)(略称:CHDA)(HNC10NH)から選ばれる1種以上を用いることができる。これらのアルキレンアミン、アルキレンアミン誘導体は水溶性であり、中でもエチレンジアミン、ジエチレントリアミンは、入手が容易で安価のため好ましい。
上記アミン化合物の還元反応促進剤としての作用は、反応液中のニッケルイオン(Ni2+)を錯化してニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きによると考えられる。また、ヒドラジンの自己分解抑制剤や、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用については、アミン化合物分子内の第1級アミノ基(-NH)や第2級アミノ基(-NH-)と、反応液中のニッケル晶析粉の表面との相互作用により、作用が発現しているものと推測される。
なお、アミン化合物であるアルキレンアミンまたはアルキレンアミン誘導体が、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合した上記式Aの構造を有するのが好ましい。このことは、ヒドラジン分子の分解を抑制する効果が大きくなるからである。例えば、ニッケル晶析粉に強く吸着するアミノ基の窒素原子が炭素数3以上の炭素鎖を介して結合していると、炭素鎖が長くなることでアミン化合物分子の炭素鎖部分の運動の自由度(分子の柔軟性)が大きくなると考えられる。その結果として、ニッケル晶析粉へのヒドラジン分子の接触を効果的に妨害できなくなり、ニッケルの触媒活性により自己分解するヒドラジン分子が多くなり、ヒドラジンの自己分解の抑制効果を低下させるものと考えられる。
実際に、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数2の炭素鎖を介して結合したエチンジアミン(HNCNH)やプロピレンジアミン(別名称:1,2-ジアミノプロパン、1,2-プロパンジアミン)(CHCH(NH)CHNH)と比べると、分子内のアミノ基の窒素原子が炭素数3の炭素鎖を介して結合したトリメチレンジアミン(別名称:1,3-ジアミノプロパン、1,3-プロパンジアミン)(HNCNH)は、ヒドラジンの自己分解抑制作用が劣っていることが確認されている。
ここで、反応液中の上記アミン化合物とニッケルの割合[モル%]((アミン化合物のモル数/ニッケルのモル数)×100)は、0.01モル%~5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%~2モル%の範囲がよい。上記割合が0.01モル%未満だと、上記アミン化合物が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制剤、還元反応促進剤、またはニッケル粒子同士の連結抑制剤としての各作用が得られなくなる場合がある。一方で、上記割合が5モル%を超えると、アミン化合物がニッケル錯イオンを形成する錯化剤としての働きが強くなりすぎる結果、ニッケル晶析粉の粒子成長に異常をきたす場合があり、ニッケル粉末の粒状性や球状性が失われていびつな形状となったり、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子が多く形成される等、ニッケル粉末の特性の劣化が生じるおそれがある。
(f)硫黄含有化合物(ヒドラジンの自己分解抑制補助剤)
硫黄含有化合物は、ニッケルめっきの光沢剤やめっき浴の安定剤に適用される化合物であって、上記アミン化合物と異なり、単独で用いた場合にはヒドラジンの自己分解抑制作用はそれ程大きくない。ただし、ニッケル粒子表面と吸着等の相互作用を有しており、上記アミン化合物と併用すると、ヒドラジンの自己分解抑制作用を大幅に強めることができるヒドラジンの自己分解抑制補助剤の作用を有している。そのため、必要に応じて、反応液に添加するとよい。そして上記硫黄含有化合物は、分子内に、スルフィド基(-S-)、スルホニル基(-S(=O)-)、スルホン酸基(-S(=O)-OH)、チオケトン基(-C(=S)-)のいずれかを少なくとも1個以上含有する化合物である。さらに、上記硫黄含有化合物は、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤の作用に加えて、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用も有しており、上記アミン化合物と併用すると、ニッケル粒子同士が互いに連結した粗大粒子の生成量をより効果的に低減することもできる。
硫黄含有化合物としては、例えば、分子内に、スルフィド基(-S-)を有するスルフィド化合物においては、水溶性が高い方が望ましく、したがって、分子内にさらにカルボキシ基(-COOH)、水酸基(-OH)、アミノ基(第1級:-NH、第2級:-NH-、第3級:-N<)のいずれかを少なくとも1個以上含有するカルボキシ基含有スルフィド化合物、水酸基含有スルフィド化合物、アミノ基含有スルフィド化合物のいずれかであることが好適であり、また、チアゾール環(CNS)を少なくとも1個以上含有するチアゾール環含有スルフィド化合物も水溶性は高くないが適用可能である。より具体的には、L(またはD、またはDL)-メチオニン(CHSCCH(NH)COOH)、L(またはD、またはDL)-エチオニン(CSCCH(NH)COOH)、N-アセチル-L(またはD、またはDL)-メチオニン(CHSCCH(NH(COCH))COOH)、ランチオニン(別名称:3,3’-チオジアラニン)(HOOCCH(NH)CHSCHCH(NH)COOH)、チオジプロピオン酸(別名称:3,3’-チオジプロピオン酸)(HOOCCSCCOOH)、チオジグリコール酸(別名称:2,2’-チオジグリコール酸、2,2’-チオ二酢酸、2,2’-チオビス酢酸、メルカプト二酢酸)(HOOCCHSCHCOOH)、メチオノール(別名称:3-メチルチオ-1-プロパノール)(CHSCOH)、チオジグリコール(別名称:2,2’-チオジエタノール)(HOCSCOH)、チオモルホリン(CNS)、チアゾール(CNS)、ベンゾチアゾール(CNS)から選ばれる1種以上が好適である。これらの中でもメチオニンやチオジグリコール酸は、ヒドラジンの自己分解抑制補助作用に優れ、かつ入手が容易で安価のため好ましい。
スルフィド化合物以外の硫黄含有化合物としては、より具体的には、サッカリン(別名称:o-安息香酸スルフィミド、o-スルホベンズイミド)(CNOS)、ドデシル硫酸ナトリウム(C1225OS(O)ONa)、ドデシルベンゼンスルホン酸(C1225S(O)OH)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(C1225S(O)ONa)、スルホこはく酸ビス(2-エチルヘキシル)ナトリウム(別名称:スルホこはく酸ジ2-エチルヘキシルナトリウム、スルホこはく酸ジオクチルナトリウム)(NaOS(O)CH(COOCHCH(C)C)CH(COOCHCH(C)C)、チオ尿素(HNC(S)NH)から選ばれる1種以上が好適である。これらの硫黄含有化合物は水溶性であり、中でもサッカリンやチオ尿素は、ヒドラジンの自己分解抑制補助作用に優れ、かつ入手が容易で安価であるため好ましい。
上記硫黄含有化合物によるヒドラジンの自己分解抑制補助剤や、ニッケル粒子同士の連結抑制剤としての作用については、以下のように推測できる。すなわち、硫黄含有化合物は、分子内のスルフィド基(-S-)、スルホニル基(-S(=O)-)、スルホン酸基(-S(=O)-OH)、チオケトン基(-C(=S)-)がニッケル粒子のニッケル表面に分子間力により吸着するが、それ単独では、前述したアミン化合物分子のようにニッケル晶析粉を覆って保護する作用が大きくならない。一方で、アミン化合物と硫黄含有化合物を併用すると、アミン化合物分子がニッケル晶析粉の表面に強く吸着して覆い保護する際に、アミン化合物分子同士では完全に覆いきれない微小な領域が生じる可能性が高いが、その部分を硫黄含有化合物分子が吸着により補助的に覆うことで、反応液中のヒドラジン分子とニッケル晶析粉との接触がより効果的に妨げられ、さらにはニッケル晶析粉同士の合体もより強力に防止できて、上記作用が発現しているというものである。
ここで、反応液中の上記硫黄含有化合物とニッケルの割合[モル%]((硫黄含有化合物のモル数/ニッケルのモル数)×100)は、0.01モル%~5モル%の範囲、好ましくは0.03モル%~2モル%、より好ましくは0.05モル%~1モル%の範囲がよい。上記割合が0.01モル%未満だと、上記硫黄含有化合物が少なすぎて、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤やニッケル粒子同士の連結抑制剤の各作用が得られなくなるおそれがある。一方で、上記割合が5モル%を超えても上記各作用の向上は見られないため、単に硫黄含有化合物の使用量が増加するだけであり、薬剤コストが上昇すると同時に、反応液に有機成分の配合量が増大して晶析工程の反応廃液の化学的酸素要求量(COD)が上昇するため,廃液処理コストが増大する。
(g)その他の含有物
晶析工程の反応液中には、上述のニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤(例えばヒドラジン)、水酸化アルカリ、アミン化合物に加え、分散剤、錯化剤、消泡剤等の各種添加剤を少量含有させてもよい。例えば、分散剤や錯化剤は、適切なものを適正量用いれば、ニッケル晶析粉の粒状性(球状性)や表面平滑性を改善することができる他、粗大粒子を低減することができる場合がある。また、消泡剤も、適切なものを適正量用いれば、晶析反応で生じる窒素ガス(後述の式(2)~式(4)参照)に起因する晶析工程での発泡を抑制することで、例えば水溶液が容器からあふれてしまうことを防止することができる。分散剤としては、公知の物質を用いることができ、例えば、アラニン(CHCH(COOH)NH)、グリシン(HNCHCOOH)、トリエタノールアミン(N(COH))、ジエタノールアミン(別名:イミノジエタノール)(NH(COH))等が挙げられる。また、錯化剤としては、公知の物質を用いることができ、ヒドロキシカルボン酸、カルボン酸(少なくとも一つのカルボキシ基を含む有機酸)、ヒドロキシカルボン酸塩やヒドロキシカルボン酸誘導体、カルボン酸塩やカルボン酸誘導体、具体的には、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、蟻酸、酢酸、ピルビン酸、およびそれらの塩や誘導体等が挙げられる。さらに、消泡剤としては、アルカリ性条件下において破泡性に優れたものであれば、特に限定されず、オイル型や溶剤型のシリコーン系またはノンシリコーン系の消泡剤を用いることができる。
(2-1-2.晶析手順)
晶析工程では、少なくとも水溶性ニッケル塩とニッケルよりも貴な金属の塩を水に溶解させたニッケル塩溶液と、還元剤(例えばヒドラジン)を水に溶解させた還元剤溶液と、水酸化アルカリを水に溶解させた水酸化アルカリ溶液を用意し、これらを添加混合させて反応液を調合する。そして、還元反応により、この反応液中でニッケル粒子を晶析させてニッケル晶析粉を得る晶析反応を行う。なお、必要に応じて添加するアミン化合物や硫黄含有化合物は、反応液を調合する前に上記いずれかの溶液またはそれらを混合させた液に添加混合させるか、反応液を調合してから反応液に添加混合させることができる。なお、室温環境下では、反応液が調合された時点で還元反応が開始される。
ここで、具体的な晶析手順としては、被還元物であるニッケル塩とニッケルよりも貴な金属の塩を含むニッケル塩溶液に、還元剤溶液(例えばヒドラジン)と水酸化アルカリ溶液をあらかじめ混合して得られる還元剤・水酸化アルカリ溶液を添加混合して反応液を調合する手順と、上記ニッケル塩溶液に還元剤溶液(例えばヒドラジン溶液)を添加混合して得られるニッケル塩・還元剤溶液に、水酸化アルカリ溶液を添加混合して反応液を調合する手順の2種類が挙げられる。前者は、水酸化アルカリによりアルカリ性が高く還元力を高めた還元剤(例えばヒドラジン)を、被還元物を含むニッケル塩溶液に添加混合するのに対し、後者は還元剤(例えばヒドラジン)を、被還元物を含むニッケル塩溶液にあらかじめ混合させておいてから、水酸化アルカリによりpHを調整(上昇)して還元力を高める違いがある。
前者の場合(ニッケル塩溶液と、還元剤・水酸化アルカリ溶液を添加混合する場合)は、反応液が調合された時点、すなわち還元反応が開始する時点での温度(以降、反応開始温度とすることもある)にもよるが、ニッケル塩溶液(ニッケル塩とニッケルより貴な金属の塩を含む溶液)と、水酸化アルカリによりアルカリ性を高くして還元力を高めた還元剤・水酸化アルカリ溶液との添加混合に要する時間(以降、原料混合時間とすることもある)が長くなると、添加混合の途中の段階から、ニッケル塩溶液と還元剤・水酸化アルカリ溶液の添加混合領域の局所においてアルカリ性が上昇してヒドラジンの還元力が高まり、核剤であるニッケルよりも貴な金属の塩に起因した核発生が生じてしまう。したがって、原料混合時間の終盤になるほど、添加された核剤の核発生作用が弱くなり、核発生の原料混合時間依存性が大きくなってしまい、ニッケル晶析粉を微細化し、狭い粒度分布を得ることが困難になる傾向がある。この傾向は、弱酸性のニッケル塩溶液にアルカリ性の還元剤・水酸化アルカリ溶液を添加混合する場合に、より顕著である。上記傾向は、原料の混合時間が短いほど抑制できるため、短時間での混合が望ましいが、量産設備面の制約等を考慮すると、原料の混合時間は、好ましくは10秒を超えて180秒以内、より好ましくは10秒を超えて120秒以内、さらに好ましくは10秒を超えて80秒以内がよい。
一方、後者の場合(ニッケル塩溶液と還元剤溶液を添加混合させたニッケル塩・還元剤溶液に、水酸化アルカリ溶液を添加混合する場合)は、ニッケル塩とニッケルよりも貴な金属の塩と還元剤を含むニッケル塩・還元剤溶液中では、還元剤のヒドラジンが予め添加混合されて均一濃度となっている。そのため、水酸化アルカリ溶液を添加混合する際に生じる核発生の、水酸化アルカリの原料混合時間依存性は、前者の場合ほど大きくならず、ニッケル晶析粉を微細化したり、狭い粒度分布を得ることが容易となるという特徴がある。ただし、前者の場合と同様の理由で、水酸化アルカリ溶液の混合時間は短時間であることが望ましく、量産設備面の制約等を考慮すると、かかる混合時間は、好ましくは10秒を超えて180秒以内、より好ましくは10秒を超えて120秒以内、さらに好ましくは10秒を超えて80秒以内がよい。
本発明のアミン化合物や硫黄含有化合物の添加混合についても、上述の通り、反応液が調合される前に反応液にあらかじめ配合しておく手順と、反応液が調合されて還元反応開始以降に添加混合される手順の2種類が挙げられる。
前者の場合(反応液が調合される前に反応液にあらかじめアミン化合物や硫黄含有化合物を配合する場合)は、反応液に予めアミン化合物や硫黄含有化合物を配合しておくため、ニッケルよりも貴な金属の塩(核剤)に起因した核発生の開始時点から、アミン化合物や硫黄含有化合物の各種作用が発現するという利点がある。一方で、アミン化合物や硫黄含有化合物の有する吸着等のニッケル粒子表面との相互作用が核発生に関与して、得られるニッケル晶析粉の粒径や粒度分布に影響を及ぼす可能性がある。
逆に後者の場合(反応液が調合されて還元反応開始以降にアミン化合物や硫黄含有化合物を添加混合する場合)は、核剤に起因した核発生が生じる晶析工程のごく初期段階を経た後に、アミン化合物や硫黄含有化合物を反応液に添加混合する。そのため、上記説明したアミン化合物や硫黄含有化合物の作用が幾分遅れるものの、アミン化合物や硫黄含有化合物の核発生への関与がなくなるため、得られるニッケル晶析粉の粒径や粒度分布がアミン化合物や硫黄含有化合物によって影響を受けにくくなり、それらを制御しやすくなる利点がある。ここで、この手順でのアミン化合物や硫黄含有化合物の反応液への添加混合における混合時間は、数秒以内に一気に添加してもよいし、数分間~30分間程度にわたり分割添加や滴下添加してもよい。なお、上述のように、アミン化合物には、還元反応促進剤(錯化剤)としての作用がある。そのため、ゆっくり添加する方が結晶成長をゆっくりと進行させてニッケル晶析粉が高結晶性となるが、ヒドラジンの自己分解抑制効果も徐々に作用することとなり、ヒドラジン消費量の低減効果は減少するため、上記混合時間は、これら両者のバランスをみながら適宜決定すればよい。なお、前者の手順におけるアミン化合物や硫黄含有化合物の添加混合のタイミングについては、目的に応じ総合的に判断して適宜選択することができる。
ニッケル塩溶液と還元剤・水酸化アルカリ溶液の添加混合や、ニッケル塩溶液と還元剤溶液の添加混合や、ニッケル塩・還元剤溶液への水酸化アルカリ溶液の添加混合は、溶液を撹拌しながら混合する撹拌混合が好ましい。撹拌混合性がよいと、核発生の場所によるが核が不均一に発生する頻度が低下し、かつ、前述したような核発生の原料混合時間依存性や水酸化アルカリ混合時間依存性が低下するため、ニッケル晶析粉を微細化したり、狭い粒度分布を得ることが容易となる。撹拌混合の方法は、公知の方法を用いればよく、撹拌混合性の制御や設備コストの面から撹拌羽根を用いることが好ましい。
(2-1-3.還元反応)
晶析工程では、反応液中において、水酸化アルカリとニッケルよりも貴な金属の塩の共存下でニッケル塩をヒドラジンで還元することにより、ニッケル晶析粉を得ている。また、必要に応じて、ごく微量の特定のアミン化合物や硫黄含有化合物の作用で、ヒドラジンの自己分解を大幅に抑制して、還元反応させることができる。
まず、晶析工程における還元反応について説明する。ニッケルイオン(Ni2+)が晶析してニッケル(Ni)となる反応は、下記の式(1)の2電子反応である。また、ヒドラジン(N)の反応は、下記の式(2)の4電子反応である。例えば、上述のように、ニッケル塩として塩化ニッケル(NiCl)、水酸化アルカリとして水酸化ナトリウム(NaOH)を用いた場合には、還元反応全体は下記の式(3)のように、塩化ニッケルと水酸化ナトリウムの中和反応で生じた水酸化ニッケル(Ni(OH))がヒドラジンで還元される反応で表され、化学量論的には(理論値としては)、ニッケル(Ni)1モルに対し、ヒドラジン(N)0.5モルが必要である。
ここで、式(2)のヒドラジンの還元反応から、ヒドラジンはアルカリ性が強い程、その還元力が大きくなることが分かる。水酸化アルカリは、反応液のアルカリ性を高めるpH調整剤として用いており、ヒドラジンの還元反応を促進する働きを担っている。
[化2]

Ni2++2e→Ni↓ (2電子反応) ・・・(1)

→N↑+4H+4e (4電子反応) ・・・(2)

2NiCl+N+4NaOH
→2Ni(OH)+N+4NaCl
→2Ni↓+N↑+4NaCl+4HO ・・・(3)
上述の通り、従来の晶析工程では、ニッケル晶析粉の活性な表面が触媒となって、下記の式(4)で示されるヒドラジンの自己分解反応が促進され、還元剤としてのヒドラジンが還元以外に大量に消費される場合があった。そのため、反応開始温度等の晶析条件にもよるが、例えば、ニッケル1モルに対しヒドラジン2モル程度と前述の還元に必要な理論値の4倍程度が一般的に用いられていた。さらに、式(4)に示すように、ヒドラジンの自己分解では多量のアンモニアが副生して、反応液中にアンモニアが高濃度で含有されて含窒素廃液を生じることとなる。このように、高価な薬剤であるヒドラジンの過剰量の使用や、含窒素廃液の処理コストの発生が、湿式法によるニッケル粉末(湿式ニッケル粉末)の製造コストを増加させる要因となっている。
[化3]
3N→N↑+4NH ・・・(4)
そこで、本発明のニッケル粉末の製造方法では、ごく微量の特定のアミン化合物や硫黄含有化合物を反応液に加えて、ヒドラジンの自己分解反応を著しく抑制し、薬剤として高価なヒドラジンの使用量を大幅に削減することが好ましい。上記特定のアミン化合物が、ヒドラジンの自己分解を抑制することができるのは、(I)上記特定のアミン化合物や硫黄含有化合物の分子が、反応液中のニッケル晶析粉の表面に吸着し、ニッケル晶析粉の活性な表面とヒドラジン分子との接触を物理的に妨害している、(II)特定のアミン化合物や硫黄含有化合物の分子がニッケル晶析粉の表面に作用し、表面の触媒活性を不活性化している、等が考えられる。
なお、従来から湿式法での晶析工程では、還元反応時間(晶析反応時間)を実用的な範囲にまで短縮するために、酒石酸やクエン酸等のニッケルイオン(Ni2+)と錯イオンを形成してイオン状ニッケル濃度を高める錯化剤を還元反応促進剤として用いるのが一般的である。しかしながら、これら酒石酸やクエン酸等の錯化剤は、上記特定のアミン化合物や硫黄含有化合物のようなヒドラジンの自己分解抑制剤の作用、あるいは晶析中にニッケル粒子同士が連結して生じる粗大粒子を形成しにくくする連結抑制剤としての作用は有していない。
一方で、上記特定のアミン化合物は、酒石酸やクエン酸等と同様に錯化剤としても働き、ヒドラジンの自己分解抑制剤、連結抑制剤、および還元反応促進剤の作用を兼ね備える利点を有している。
(2-1-4.反応開始温度)
晶析工程の晶析反応は、例えば、少なくとも水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩を含む溶液(ニッケル塩溶液)に、還元剤(例えばヒドラジン)と水酸化アルカリを含む溶液(還元剤・水酸化アルカリ溶液)を添加混合させた反応液において開始する。この場合において、晶析反応の反応開始温度が、40℃~95℃とすることが好ましく、50℃~80℃とすることがより好ましく、60℃~70℃とすることがさらに好ましい。なお、上記ニッケル塩溶液と還元剤・水酸化アルカリ溶液のそれぞれの温度は、それらを予備混合して得られる混合液の温度、すなわち反応開始温度が上記温度範囲になれば特に制約はなく、自由に設定することができる。
反応開始温度は、高いほど還元反応は促進され、かつニッケル晶析粉は高結晶化する傾向にあるが、一方で、ヒドラジンの自己分解反応がそれ以上に促進される側面があるため、ヒドラジンの消費量が増加するとともに、反応液の発泡が激しくなる傾向がある。したがって、反応開始温度が高すぎると、ヒドラジンの消費量が大幅に増加したり、多量の発泡で晶析反応を継続できなくなる場合がある。一方で、反応開始温度が低くなり過ぎると、ニッケル晶析粉の結晶性が著しく低下したり、還元反応が遅くなって晶析工程の時間が大幅に延長してニッケル粉末の生産性が低下する傾向がある。以上の理由から、上記温度範囲にすることで、ヒドラジンの消費量を抑制しながら、高い生産性を維持しつつ、粗大粒子の含有量が非常に少ない高性能のニッケル粉末を安価に製造することができる。
(2-2.洗浄・ろ過工程)
上記のような湿式法を用いたニッケル粉末の製造方法においては、還元剤としてヒドラジンがよく用いられるため、反応液は強アルカリ性(例えばpH14程度)となることが一般的である。図1に示すとおり、晶析工程では、ヒドラジンの還元反応により、この強アルカリ性反応液中にニッケル粉末(ニッケル晶析粉)が生成してニッケル粉スラリーが得られ、このニッケル粉スラリーを純水で洗浄しながらろ別回収してニッケル粉ケーキを得る洗浄・ろ過工程が引続いて実施される。
上記洗浄・ろ過工程は通常大気中で実施されるため、得られるニッケル粉ケーキは洗浄・ろ過工程の間や乾燥工程の乾燥が行われるまでの間に、多かれ少なかれ大気にいくらかは暴露されてニッケル晶析粉表面がわずかに酸化し、水酸化ニッケルが生成することは避けられない。しかし、この時の酸化量は通常の取扱いであれば最終的な酸化量の半分以下の割合であり、徐酸化工程を高温化することで、上記の過程で生成した水酸化ニッケルを酸化ニッケルへ分解することができる。
強アルカリ性のニッケル粉スラリー(例えばpH14程度)から純水で洗浄しながらろ別回収する洗浄・ろ過工程を経て得られたニッケル粉ケーキでは、強アルカリ性を示す水酸化アルカリの洗浄除去が図られてはいるものの、微量は水酸化アルカリが残存して弱アルカリ性の付着液(例えばpH11程度)としてニッケル粉ケーキに留まる場合がある。この状態で上記ニッケル晶析粉の酸化が生じた場合には、酸化で生じたニッケルイオン(Ni2+)が式(5)により水酸化ニッケル(Ni(OH))を形成しやすくなり、結果的にニッケル晶析粉(粒径0.4μm以下)同士が水酸化ニッケルで強固に固められた粗大粒子(水酸化ニッケルを主成分とする粗大粒子)(多くの場合、粒径0.8μm以上)を生じるという事態が発生しやすくなる。そのため、水酸化アルカリは極力除去しておくことが好ましい。
[化4]
Ni2++2OH→Ni(OH) ・・・(5)
上記汎用の洗浄手法としては、具体的には、デカンテーションと純水希釈の繰返し、固液分離装置によるニッケル晶析粉の濃縮と純水レパルプ(純水を加えての再スラリー化)の繰返し、固液分離装置中のニッケル晶析粉の濃縮物(ケーキ)への純水の通水洗浄、等が挙げられるがこれらに限定されない。また、汎用の固液分離装置は、具体的には、デンバーろ過器、フィルタープレス、遠心分離機、デカンター等が挙げられるがこれらに限定されない。
上記洗浄に用いる純水は、一般的に導電率1μS/cm以下の高純度のものがよい。純水に代えて蒸留水や超純水(導電率:≦0.06 μS/cm)を用いることもできるが、安価で入手が容易な純水を用いることが好ましい。
(2-3.乾燥工程)
上記ニッケル粉ケーキは、大気乾燥機、熱風乾燥機、不活性ガス雰囲気乾燥機および真空乾燥機等の汎用の乾燥装置を用いて50℃~300℃、好ましくは、80℃~150℃で乾燥し、ニッケル粉末を得ることができる。必要に応じて、ニッケル粉ケーキ中の付着水をエタノール等の低温揮発性の有機溶剤に置換した後、上記不活性ガス雰囲気乾燥機や真空乾燥機で乾燥して、水の大きな表面張力に起因して乾燥中に生じるニッケル粒子間の乾燥凝集を弱めることも可能である。
なお、不活性ガス雰囲気乾燥機、真空乾燥機等の乾燥装置を用いて、ニッケル粉ケーキを不活性雰囲気、還元性雰囲気、真空雰囲気中で200℃~300℃程度で乾燥した場合は、単なる乾燥に加え、熱処理を施したニッケル粉末を得ることが可能である。
(2-4.徐酸化工程)
本工程は、真空雰囲気中の未酸化ニッケル晶析粉(酸化していないニッケル晶析粉)に酸素を供給して、未酸化ニッケル晶析粉の表面に酸化被膜を形成する工程である。乾燥工程後の未酸化ニッケル晶析粉は、その粒子表面に酸化膜による被覆層がほとんど存在していない。そのため、そのままでは酸化に対して活性な状態であり、空気中の酸素に接触すると急激な酸化が起こり、異常発熱による発火のおそれがある。これを防止するために、乾燥工程に続いて、ニッケル晶析粉を大気に触れさせることなく乾燥装置内に酸素を含むガスを供給することでニッケル粒子表面に所定の酸化被膜を形成させることができる。
このとき、酸素を含むガスの供給温度、供給速度、供給時間等の条件を調整することで、ニッケル粒子表面に形成される酸化被膜中の表面組成を変えることができる。酸素を含むガスの供給温度は常温でも問題無いが、例えば、真空雰囲気中の未酸化ニッケル晶析粉を130℃~200℃に加熱した状態で、酸素を含むガスの供給温度を130℃~200℃として供給することで、酸化被膜を制御しつつ形成させることができる。より安定して酸化被膜を形成させる観点から、真空雰囲気中の未酸化ニッケル晶析粉を130℃~180℃に加熱した状態で、酸素を含むガスの供給温度を130℃~180℃として供給することが好ましい。
真空雰囲気中の未酸化ニッケル晶析粉の温度や酸素を含むガスの供給温度は、高温であるほど、ニッケル粒子表面に形成される酸化被膜中の酸化ニッケル含有比率は高く、水酸化ニッケル含有比率およびニッケルメタル含有比率は低くなる。さらには、ニッケル粉内部の結晶成長が進むことで、結晶子径の大きな湿式ニッケル粉末が得られやすい。真空雰囲気中の未酸化ニッケル晶析粉の温度や酸素を含むガスの供給温度が130℃未満である場合、水酸化ニッケル含有比率が高く、酸化ニッケル含有比率が低い酸化被膜が形成されやすい条件となるおそれがある。また、真空雰囲気中の未酸化ニッケル晶析粉の温度や酸素を含むガスの供給温度が200℃を超える場合、徐酸化処理中のニッケル晶析粉の異常発熱により、ニッケル晶析粉が発火する危険性があるため、好ましくない。
酸素を含むガスの供給速度は、構成成分のうち、酸素の供給速度が次のような範囲になるように適宜設定すれば良い。すなわち、酸素の供給速度は、徐酸化工程開始当初の未酸化ニッケル晶析粉1g当り4×10-5L/分~5×10-2L/分、より安定して酸化被膜を形成させる観点から、好ましくは、徐酸化工程開始当初の未酸化ニッケル晶析粉1g当り1×10-3L/分~1×10-2L/分で処理することができる。酸素の供給速度が徐酸化工程開始当初の未酸化ニッケル晶析粉1g当り4×10-5L/分未満である場合、酸化被膜の形成に長い時間を要するため、操作上好ましくない。また、酸素の供給速度が徐酸化工程開始当初の未酸化ニッケル晶析粉1g当り5×10-2L/分を超える場合、急速に酸化が進むことによってニッケル晶析粉が異常発熱し、ニッケル晶析粉が発火する危険性があるため、好ましくない。
なお、酸素を含むガスとしては、ニッケル晶析粉の表面を徐々に酸化させることで、酸化被膜の形成を制御することができれば、特に限定されない。例えば、酸素を混合させたアルゴンや窒素等の不活性ガスや、空気等を用いることができる。
(2-5.解砕工程(後処理工程))
晶析工程、洗浄・ろ過工程、乾燥工程、徐酸化工程を経て得られたニッケル粒子は、前述の通り、必要に応じてアミン化合物や硫黄含有化合物が添加された場合には、それらがニッケルの晶析中においてニッケル粒子の連結抑制剤として作用する。そのため、ニッケル粒子が還元析出の過程で互いに連結して形成される粗大粒子の含有割合はそもそもそれ程大きくない。ただし、晶析手順や晶析条件によっては、連結した粗大粒子の含有割合が幾分大きくなって問題になる場合もある。この場合には、徐酸化工程後に引き続いて解砕工程を設け、ニッケル粒子が連結した粗大粒子をその連結部で分断して連結した粗大粒子の低減を図ることができる。解砕処理工程では、スパイラルジェット解砕処理、カウンタージェットミル解砕処理等の乾式解砕方法や、高圧流体衝突解砕処理等の湿式解砕方法、その他の汎用の解砕方法を適用することが可能である。
以下、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、ニッケル粉末の特性として、平均粒径、酸素含有量および不純物含有量(アルカリ金属含有量)、硫黄含有量を、以下の通り評価している。
(平均粒径)
本発明で得られるニッケル粉末は略球状の粒子形状を有しているが、その平均粒径は、ニッケル粉末の走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL Ltd.製、JSM-7100F)を用いた観察像(SEM像)の画像解析の結果から求めた粒径を基にした数平均の粒径である。
(酸素含有量および不純物含有量(アルカリ金属含有量))
得られたニッケル粉末について、酸素含有量、ニッケル原料である塩化ニッケル起因と考えられる不純物として、水酸化ナトリウム起因である不純物のナトリウムの含有量を測定した。それぞれ、酸素は不活性ガス溶融法による酸素分析装置(LECO Corporation製、TC436)、ナトリウムは原子吸光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、Z-5310)を用いて測定した。
(硫黄含有量)
得られたニッケル粉末について、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤である硫黄含有化合物起因と考えられる硫黄の含有量は、燃焼法による硫黄分析装置(LECO Corporation社製、CS600)を用いて測定した。
(酸化被膜中の表面組成)
得られたニッケル粉末について、酸化被膜中の表面組成(ニッケルメタル、酸化ニッケル、および水酸化ニッケルの比率)は、X線光電分光法(XPS)(アルバック・ファイ社製、Versa ProbeII)を用いて、ニッケルの結合状態を示すNi2pスペクトルからピークフィッティング法による波形分離を行うことで求めた。
(実施例1)
[ニッケル塩およびニッケルよりも貴な金属の塩の溶液の調製]
ニッケル塩として塩化ニッケル6水和物(NiCl・6HO、分子量:237.69)405g、ヒドラジンの自己分解抑制補助剤としての硫黄含有化合物として分子内にスルフィド基(-S-)を1個含有するL-メチオニン(CHSCCH(NH)COOH、分子量:149.21)1.271g、ニッケルよりも貴な金属の塩として塩化パラジウム(II)アンモニウム(別名:テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム)((NHPdCl、分子量:284.31)0.134mgを、純水1880mLに溶解して、主成分としてニッケル塩と、硫黄含有化合物と、ニッケルより貴な金属の塩である核剤とを含有する水溶液であるニッケル塩溶液を調製した。ここで、ニッケル塩溶液において、スルフィド化合物であるL-メチオニンはニッケルに対し0.5モル%(モル比で0.005)と微量で、パラジウムはニッケルに対し0.28モルppm(0.50質量ppm)である。
[還元剤溶液の調製]
還元剤として抱水ヒドラジン(N・HO、分子量:50.06)を純水で1.67倍に希釈した市販の工業グレードの60質量%抱水ヒドラジン(エムジーシー大塚ケミカル株式会社製)を207g秤量し、水酸化アルカリを含まず、主成分としてのヒドラジンを含有する水溶液である還元剤溶液を調製した。還元剤溶液に含まれるヒドラジンは、ニッケル塩溶液中のニッケルに対するモル比が1.46となるように調整した。
[水酸化アルカリ溶液]
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウム(NaOH、分子量:40.0)230gを、純水672mLに溶解して、主成分としての水酸化ナトリウムを含有する水溶液である水酸化アルカリ溶液を用意した。水酸化アルカリ溶液に含まれる水酸化ナトリウムは、ニッケル塩溶液中のニッケルに対するモル比が5.75となるように調整した。
[アミン化合物溶液]
ヒドラジンの自己分解抑制剤および還元反応促進剤(錯化剤)としてのアミン化合物として、分子内に第1級アミノ基(-NH)を2個含有するアルキレンアミンであるエチレンジアミン(略称:EDA)(HNCNH、分子量:60.1)1.024gを、純水19mLに溶解して、主成分としてのエチレンジアミンを含有する水溶液であるアミン化合物溶液を用意した。アミン化合物溶液に含まれるエチレンジアミンは、ニッケル塩溶液中のニッケルに対し1.0モル%(モル比で0.01)と微量であった。
なお、上記ニッケル塩溶液、還元剤溶液、水酸化アルカリ溶液、およびアミン化合物溶液における使用材料には、60質量%抱水ヒドラジンを除き、いずれも和光純薬工業株式会社製の試薬を用いた。
[晶析工程]
塩化ニッケルとパラジウム塩を純水に溶解したニッケル塩溶液を、撹拌羽根付テフロン(登録商標)被覆ステンレス容器内に入れ、液温85℃になるように撹拌しながら加熱した後、液温25℃のヒドラジンと水を含む上記還元剤溶液を混合時間20秒で添加混合してニッケル塩・還元剤含有液とした。このニッケル塩・還元剤含有液に、液温25℃の水酸化アルカリと水を含む上記水酸化アルカリ溶液を混合時間80秒で添加混合し、液温70℃の反応液(塩化ニッケル+パラジウム塩+ヒドラジン+水酸化ナトリウム)を調合し、還元反応(晶析反応)を開始した。反応開始温度は63℃であった。反応開始後、8分後から18分後までの10分間にかけて、上記アミン化合物溶液を上記反応液に滴下混合し、ヒドラジンの自己分解を抑制しながら還元反応を進めて、ニッケル晶析粉を反応液中に晶析させた。反応開始から60分以内には、前述の式(3)の還元反応は完了し、反応液の上澄み液は透明で、反応液中のニッケル成分はすべて金属ニッケルに還元されていることを確認した。
[洗浄・ろ過工程]
晶析工程では、ニッケル晶析粉を含む反応終液として、スラリー状の強アルカリ性(pH:14.1)のニッケル粉スラリーが得られるが、このニッケル粉スラリーにメルカプト酢酸(チオグリコール酸)(HSCHCOOH、分子量:92.12)の水溶液を加えて、ニッケル晶析粉の表面処理(硫黄コート処理)を施した。この後、静置してニッケル晶析粉を沈降させ、上澄み液を反応液の約50質量%程度除去(デカンテーション)した。導電率が1μS/cmの純水を除去した上澄み液と同量程度加えて希釈(pH:13.8)した後、20%HSO水溶液を加えて中和し液のpHを8.0とした。この後、上記純水を用い、表面処理が施されたニッケル晶析粉を含有するスラリーからろ過したろ液の導電率が100μS/cmになるまでブフナー漏斗(ろ紙:5C)を用いて吸引ろ過洗浄し、固液分離してニッケル粉ケーキを得た。
[乾燥工程]
上記ニッケル粉ケーキを、130℃の温度に設定した真空雰囲気の乾燥機中で1時間乾燥して、未酸化ニッケル晶析粉を得た。
[徐酸化工程]
乾燥工程を経て得られた未酸化ニッケル晶析粉を乾燥機から取り出すことなく、真空雰囲気と130℃の温度設定を維持した状態で乾燥機内に130℃の酸素を含むガスを供給して徐酸化させた。すなわち、乾燥工程から連続してそのまま徐酸化工程へ移行させて、ニッケル粒子表面全体に酸化被膜を形成させて、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。このときの酸素の供給速度は、未酸化ニッケル晶析粉1g当り酸素4.2×10-3L/分であり、酸素は1時間供給した。なお、酸素を含むガスとしては、アルゴンと酸素の混合ガスを使用した。
[解砕処理工程(後処理工程)]
晶析工程、洗浄・ろ過工程、乾燥工程、徐酸化工程に引き続いて、解砕工程を実施し、ニッケル粉末中の主にニッケル粒子が連結して形成された粗大粒子の低減を図った。具体的には、徐酸化工程で得られた上記ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、乾式解砕方法であるスパイラルジェット解砕処理を施した。以上の工程により、湿式法を用いて作製された、実施例1に係るニッケル粉末を得た。図3に、SEMによって観察した実施例1のニッケル粒子の写真を示す。この写真に示す通り、実施例1に係るニッケル粉末は、略球状の粒子形状であった。
(ニッケル粉末の物性)
得られたニッケル粉末の数平均粒径は0.2μmであった。ニッケル粉末中の含有量は、酸素が1.0質量%、硫黄が0.21質量%であった。酸化被膜中の表面組成は、ニッケルメタル:酸化ニッケル:水酸化ニッケル=25:46:29であり、酸化ニッケル/水酸化ニッケル=1.59(すなわち、酸化ニッケルと水酸化ニッケルの組成比が1.59:1)であった。
(実施例2)
実施例1と同様に、晶析工程、洗浄・ろ過工程を経て、ニッケル粉ケーキを得た。
[乾燥工程]
上記ニッケル粉ケーキを、150℃の温度に設定した真空雰囲気の乾燥機中で1時間乾燥して、未酸化ニッケル晶析粉を得た。
[徐酸化工程]
乾燥工程を経て得られた未酸化ニッケル晶析粉を、乾燥機から取り出すことなく、真空雰囲気と150℃の温度設定を維持した状態で乾燥機内に150℃の酸素を含むガスを供給して徐酸化させた。すなわち、乾燥工程から連続してそのまま徐酸化工程へ移行させて、ニッケル粒子表面全体に酸化被膜を形成させて、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。このときの酸素の供給速度は、未酸化ニッケル晶析粉1g当り酸素4.2×10-3L/分であり、酸素は1時間供給した。なお、酸素を含むガスとしては、アルゴンと酸素の混合ガスを使用した。
上記のニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、実施例1と同様の解砕処理工程を実施し、スパイラルジェット解砕処理を施した。以上の工程により、湿式法を用いて作製された、実施例2に係る略球状の粒子形状のニッケル粉末を得た。
(ニッケル粉末の物性)
得られたニッケル粉末の数平均粒径は0.2μmであった。ニッケル粉末中の含有量は、酸素が1.1質量%、硫黄が0.20質量%であった。酸化被膜中の表面組成は、ニッケルメタル:酸化ニッケル:水酸化ニッケル=25:63:17であり、酸化ニッケル/水酸化ニッケル=3.71(すなわち、酸化ニッケルと水酸化ニッケルの組成比が3.71:1)であった。
(実施例3)
実施例1と同様に、晶析工程を行い、強アルカリ性(pH:14.1)のニッケル粉スラリーを得た。
[洗浄・ろ過工程]
上記ニッケル粉スラリーに表面処理(硫黄コート処理)を施すことなく、静置してニッケル晶析粉を沈降させ、上澄み液を反応液の約50質量%程度除去(デカンテーション)した。導電率が1μS/cmの純水を除去した上澄み液と同量程度加えて希釈(pH:13.8)した後、20%HSO水溶液を加えて中和し、液のpHを8.0とした。この後、上記純水を用い、表面処理が施されたニッケル晶析粉を含有するスラリーからろ過したろ液の導電率が100μS/cmになるまでブフナー漏斗(ろ紙:5C)を用いて吸引ろ過洗浄し、固液分離してニッケル粉ケーキを得た。
[乾燥工程]
上記ニッケル粉ケーキを、150℃の温度に設定した真空雰囲気の乾燥機中で1時間乾燥して、未酸化ニッケル晶析粉を得た。
[徐酸化工程]
乾燥工程を経て得られた未酸化ニッケル晶析粉を、乾燥機から取り出すことなく、真空雰囲気と150℃の温度設定を維持した状態で乾燥機内に150℃の酸素を含むガスを供給して徐酸化させた。すなわち、乾燥工程から連続してそのまま徐酸化工程へ移行させて、ニッケル粒子表面全体に酸化被膜を形成させて、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。このときの酸素の供給速度は、未酸化ニッケル晶析粉1g当り酸素4.2×10-3L/分であり、酸素は1時間供給した。なお、酸素を含むガスとしては、アルゴンと酸素の混合ガスを使用した。
上記のニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、実施例1と同様の解砕処理工程を実施し、スパイラルジェット解砕処理を施した。以上の工程により、湿式法を用いて作製された、実施例3に係る略球状の粒子形状のニッケル粉末を得た。
(ニッケル粉末の物性)
得られたニッケル粉末の数平均粒径は0.2μmであった。ニッケル粉末中の含有量は、酸素が1.2質量%、硫黄が0.10質量%であった。酸化被膜中の表面組成は、ニッケルメタル:酸化ニッケル:水酸化ニッケル=14:75:11であり、酸化ニッケル/水酸化ニッケル=6.82(すなわち、酸化ニッケルと水酸化ニッケルの組成比が6.82:1)であった。
(比較例1)
実施例1と同様に、晶析工程、洗浄・ろ過工程を経て、ニッケル粉ケーキを得た。
[乾燥工程]
上記ニッケル粉ケーキを、130℃の温度に設定した真空雰囲気の乾燥機中で2時間乾燥して、未酸化ニッケル晶析粉を得た。
[徐酸化工程]
乾燥工程を経て得られた未酸化ニッケル晶析粉を、乾燥機から取り出すことなく、温度設定を40℃に変更して真空雰囲気の乾燥機内に40℃の酸素を含むガスを供給して徐酸化させた。すなわち、乾燥工程から連続してそのまま徐酸化工程へ移行させて、ニッケル粒子表面全体に酸化被膜を形成させて、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。このときの酸素の供給速度は、未酸化ニッケル晶析粉1g当り酸素1.3×10-3L/分であり、酸素は1時間供給した。なお、酸素を含むガスとしては、アルゴンと酸素の混合ガスを使用した。
上記のニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、実施例1と同様の解砕処理工程を実施し、スパイラルジェット解砕処理を施した。以上の工程により、湿式法を用いて作製された、比較例1に係る略球状の粒子形状のニッケル粉末を得た。
(ニッケル粉末の物性)
得られたニッケル粉末の数平均粒径は0.2μmであった。ニッケル粉末中の含有量は、酸素が0.8質量%、硫黄が0.21質量%であった。酸化被膜中の表面組成は、ニッケルメタル:酸化ニッケル:水酸化ニッケル=39:12:49であり、酸化ニッケル/水酸化ニッケル=0.24(すなわち、酸化ニッケルと水酸化ニッケルの組成比が0.24:1)であった。
(比較例2)
実施例1と同様に、晶析工程、洗浄・ろ過工程を経て、ニッケル粉ケーキを得た。
[乾燥工程]
上記ニッケル粉ケーキを、150℃の温度に設定した真空雰囲気の乾燥機中で2時間乾燥して、未酸化ニッケル晶析粉を得た。
[徐酸化工程]
乾燥工程を経て得られた未酸化ニッケル晶析粉を、乾燥機から取り出すことなく、温度設定を40℃に変更して真空雰囲気の乾燥機内に40℃の酸素を含むガスを供給して徐酸化させた。すなわち、乾燥工程から連続してそのまま徐酸化工程へ移行させて、ニッケル粒子表面全体に酸化被膜を形成させて、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。このときの酸素の供給速度は、未酸化ニッケル晶析粉1g当り酸素1.3×10-3L/分であり、酸素は1時間供給した。なお、酸素を含むガスとしては、アルゴンと酸素の混合ガスを使用した。
上記のニッケル晶析粉(ニッケル粉末)に、実施例1と同様の解砕処理工程を実施し、スパイラルジェット解砕処理を施した。以上の工程により、湿式法を用いて作製された、比較例2に係る略球状の粒子形状のニッケル粉末を得た。
(ニッケル粉末の物性)
得られたニッケル粉末の数平均粒径は0.2μmであった。ニッケル粉末中の含有量は、酸素が0.7質量%、硫黄が0.20質量%であった。酸化被膜中の表面組成は、ニッケルメタル:酸化ニッケル:水酸化ニッケル=34:23:43であり、酸化ニッケル/水酸化ニッケル=0.53(すなわち、酸化ニッケルと水酸化ニッケルの組成比が0.53:1)であった。
(比較例3)
実施例1と同様に、晶析工程、洗浄・ろ過工程を経て、ニッケル粉ケーキを得た。
[乾燥工程]
上記ニッケル粉ケーキを、150℃の温度に設定した真空雰囲気の乾燥機中で1時間乾燥して、未酸化ニッケル晶析粉を得た。
[徐酸化工程]
乾燥工程を経て得られた未酸化ニッケル晶析粉を、乾燥機から取り出すことなく、真空雰囲気と150℃の温度設定を維持した状態で乾燥機内に150℃の酸素を含むガスを供給して徐酸化させた。すなわち、乾燥工程から連続してそのまま徐酸化工程へ移行させて、ニッケル粒子表面全体に酸化被膜を形成させるための処理を行い、ニッケル晶析粉(ニッケル粉末)を得た。このときの酸素の供給速度は、未酸化ニッケル晶析粉1g当り酸素8.4×10-2L/分であり、酸素は1時間供給した。なお、酸素を含むガスとしては、アルゴンと酸素の混合ガスを使用した。
上記により得られた比較例3のニッケル晶析粉(ニッケル粉末)は、略球状の粒子形状であり、外見に一部急激な酸化により燃焼したとみられる焦げ(酸化物)が確認された。そのため、比較例3については徐酸化工程までは実施したものの、以後の工程は実施しなかった。
(ニッケル粉末の物性)
得られたニッケル粉末の平均粒径は0.2μmであった。なお、酸素、硫黄の含有量や酸化被膜の形成の状態、および酸化被膜中の表面組成は、ニッケル粉末の表面の焦げによって測定できなかった。
実施例1~3および比較例1~比較例3に係るニッケル粉末の評価結果を、表1にまとめて示した。
Figure 0007292578000002
(実施例1~3のニッケル粉末の評価結果)
表1より、実施例1~3のニッケル粉末は、数平均粒径が0.2μmであり、積層セラミックコンデンサの内部電極の用途に好適な粒径であった。次に、表面を被覆する酸化被膜の表面組成において、水酸化ニッケルが35at%以下であったことから、積層セラミックコンデンサの製造過程における脱バインダー処理等の加熱によって発生するガスによる、積層構造のデラミネーションが生じることを防止することができるニッケル粉末であることを確認した。そして、酸化被膜の表面組成において、酸化ニッケルが40at%以上であったことから、ニッケル粉末の粒子表面が不活性な状態となって、粒子表面の急激な酸化を、より効果的に防止することができるニッケル粉末であることを確認した。また、酸化被膜の表面組成において、酸化ニッケルと水酸化ニッケルの組成比が1.5~7.0:1であったことから、積層構造のデラミネーションが生じること、およびニッケル粉末の粒子表面の急激な酸化をより効果的に防止することができるニッケル粉末であることを確認した。さらに、酸素含有量が1.5質量%以下であることから、水酸化ニッケルに起因する粗大粒子の形成を著しく抑制することができるニッケル粉末であることを確認した。
(比較例1~3のニッケル粉末の評価結果)
表1より、比較例1、2のニッケル粉末は、表面を被覆する酸化被膜の表面組成において、水酸化ニッケルが40at%以上であったことから、積層セラミックコンデンサの製造過程における脱バインダー処理等の加熱によって発生するガスによる、積層構造のデラミネーションが生じるおそれのあるニッケル粉末であることを確認した。そして、酸化被膜の表面組成において、酸化ニッケルが25at%以下であったことから、ニッケル粉末の粒子表面が不活性な状態となって、粒子表面の急激な酸化が生じるおそれのあるニッケル粉末であることを確認した。また、酸化被膜の表面組成において、酸化ニッケルと水酸化ニッケルの組成比が0.24~0.53:1であり、水酸化ニッケルの方が多い結果となったことから、積層構造のデラミネーションおよびニッケル粉末の粒子表面の急激な酸化が生じる可能性の高いニッケル粉末であることを確認した。また、比較例3のニッケル粉末は、急激な酸化により燃焼したとみられる焦げが確認されたものであり、積層セラミックコンデンサ等の材料には適さないことを確認した。
[まとめ]
以上のように、本発明のニッケル粉末であれば、例えば積層セラミックコンデンサの製造時の脱バインダー処理において、加熱による水酸化ニッケルの分解に伴うガスの発生を抑えられ、ガスによる積層構造のデラミネーションを防止することができる。そして、本発明のニッケル粉末の製造方法であれば、このようなニッケル粉末を、湿式法によって簡便かつ容易に作成することができる。

Claims (5)

  1. 水溶性ニッケル塩、ニッケルよりも貴な金属の塩、還元剤、水酸化アルカリおよび水を混合した強アルカリ性反応液中において、還元反応を行ってニッケル晶析粉を含む反応終液である強アルカリ性のニッケル粉スラリーを得る晶析工程と、
    前記ニッケル粉スラリー中のニッケル晶析粉を反応液から洗浄しながらろ別してニッケル粉ケーキを得る洗浄・ろ過工程と、
    前記ニッケル粉ケーキを真空乾燥して真空雰囲気中に未酸化ニッケル晶析粉を得る乾燥工程と、
    真空雰囲気中の前記未酸化ニッケル晶析粉に酸素を供給して、当該未酸化ニッケル晶析粉の表面に酸化被膜を形成する徐酸化工程と、を含み、
    前記徐酸化工程において、真空雰囲気中の前記未酸化ニッケル晶析粉を130℃~200℃に加熱した状態で、真空雰囲気中に供給温度が130℃~200℃の酸素を含むガスを未酸化ニッケル晶析粉1g当りの酸素の供給速度が4×10-5L/分~5×10-2L/分となる範囲で供給する、ニッケル粉末の製造方法。
  2. 前記水溶性ニッケル塩が、塩化ニッケル(NiCl)、硫酸ニッケル(NiSO)、硝酸ニッケル(Ni(NO)から選ばれる1種以上である、請求項1に記載のニッケル粉末の製造方法。
  3. 前記ニッケルよりも貴な金属の塩が、銅塩、金塩、銀塩、白金塩、パラジウム塩、ロジウム塩、イリジウム塩から選ばれる1種以上である、請求項1または2に記載のニッケル粉末の製造方法。
  4. 前記還元剤が、ヒドラジン(N)である、請求項1~3のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
  5. 前記水酸化アルカリが、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)から選ばれる1種以上である、請求項1~4のいずれかに記載のニッケル粉末の製造方法。
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