本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
図1は、実施形態に係るマニピュレ−ションシステムの構成を模式的に示す図である。マニピュレーションシステム10は、顕微鏡観察下で微小対象物である試料を操作するためのシステムである。図1において、マニピュレーションシステム10は、顕微鏡ユニット12と、第1マニピュレータ14と、第2マニピュレータ16と、マニピュレーションシステム10を制御するコントローラ43とを備えている。顕微鏡ユニット12の両側に第1マニピュレータ14と第2マニピュレータ16とが分かれて配置されている。
顕微鏡ユニット12は、撮像素子を含むカメラ18と、顕微鏡20と、試料ステージ22とを備えている。試料ステージ22は、シャーレなどの試料保持部材11を支持可能であり、試料保持部材11の直上に顕微鏡20が配置される。顕微鏡ユニット12は、顕微鏡20とカメラ18とが一体構造となっており、試料保持部材11に向けて光を照射する光源(図示は省略している)を備えている。なお、カメラ18は、顕微鏡20と別体に設けてもよい。
試料保持部材11には、試料を含む溶液が収容される。試料保持部材11の試料に光が照射され、試料保持部材11の試料で反射した光が顕微鏡20に入射すると、試料に関する光学像は、顕微鏡20で拡大された後カメラ18で撮像される。カメラ18で撮像された画像を基に試料の観察が可能となっている。
図1に示すように、第1マニピュレータ14は、第1ピペット保持部材24と、X−Y軸テーブル26と、Z軸テーブル28と、X−Y軸テーブル26を駆動する駆動装置30と、Z軸テーブル28を駆動する駆動装置32とを備える。第1マニピュレータ14は、X軸−Y軸−Z軸の3軸構成のマニピュレータである。なお、本実施形態において、水平面内の一方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と交差する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと交差する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
X−Y軸テーブル26は、駆動装置30の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル28は、X−Y軸テーブル26上に上下移動可能に配置され、駆動装置32の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置30、32は、コントローラ43に接続されている。
第1ピペット保持部材24は、Z軸テーブル28に連結され、先端に毛細管チップである第1ピペット25が取り付けられている。第1ピペット保持部材24は、X−Y軸テーブル26とZ軸テーブル28の移動に従って3次元空間を移動領域として移動し、試料保持部材11に収容された試料を、第1ピペット25を介して保持することができる。すなわち、第1マニピュレータ14は、微小対象物の保持に用いられる保持用マニピュレータであり、第1ピペット25は、微小対象物の保持手段として用いられるホールディングピペットである。
図1に示す第2マニピュレータ16は、第2ピペット保持部材34と、X−Y軸テーブル36と、Z軸テーブル38と、X−Y軸テーブル36を駆動する駆動装置40と、Z軸テーブル38を駆動する駆動装置42とを備える。第2マニピュレータ16は、X軸−Y軸−Z軸の3軸構成のマニピュレータである。
X−Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル38は、X−Y軸テーブル36上に上下移動可能に配置され、駆動装置42の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置40、42は、コントローラ43に接続されている。
第2ピペット保持部材34は、Z軸テーブル38に連結され、先端にガラス製の第2ピペット35が取り付けられている。第2ピペット保持部材34は、X−Y軸テーブル36とZ軸テーブル38の移動に従って3次元空間を移動領域として移動し、試料保持部材11に収容された試料を人工操作することが可能である。すなわち、第2マニピュレータ16は、微小対象物の操作(DNA溶液の注入操作や穿孔操作など)に用いられる操作用マニピュレータであり、第2ピペット35は、微小対象物のインジェクション操作手段として用いられるインジェクションピペットである。
X−Y軸テーブル36とZ軸テーブル38は、第2ピペット保持部材34を、試料保持部材11に収容された試料などの操作位置まで粗動駆動する粗動機構(3次元移動テーブル)として構成されている。また、Z軸テーブル38と第2ピペット保持部材34との連結部には、ナノポジショナとして微動機構44が備えられている。微動機構44は、第2ピペット保持部材34をその長手方向(軸方向)に移動可能に支持するとともに、第2ピペット保持部材34をその長手方向(軸方向)に沿って微動駆動するように構成される。
図2は、微動機構の一例を示す断面図である。図2に示すように微動機構44は、第2ピペット保持部材34を駆動対象とする圧電アクチュエータ44aを備える。圧電アクチュエータ44aは、筒状のハウジング87と、ハウジング87の内部に設けられた転がり軸受80、82と、圧電素子92とを含む。ハウジング87の軸方向に第2ピペット保持部材34が挿通される。転がり軸受80、82は、第2ピペット保持部材34を回転可能に支持する。圧電素子92は、印加される電圧に応じて第2ピペット保持部材34の長手方向に沿って伸縮する。第2ピペット保持部材34の先端側(図2左側)には第2ピペット35(図1参照)が取り付けられ固定される。
第2ピペット保持部材34は、転がり軸受80、82を介してハウジング87に支持される。転がり軸受80は、内輪80aと、外輪80bと、内輪80aと外輪80bとの間に設けられたボール80cとを備える。転がり軸受82は、内輪82aと、外輪82bと、内輪82aと外輪82bとの間に設けられたボール82cとを備える。各外輪80b、82bがハウジング87の内周面に固定され、各内輪80a、82aが中空部材84を介して第2ピペット保持部材34の外周面に固定される。このように、転がり軸受80、82は、第2ピペット保持部材34を回転自在に支持するようになっている。
中空部材84の軸方向の略中央部には、径方向外方に突出するフランジ部84aが設けられている。内輪間座としての該フランジ部84aを挟んで転がり軸受80の内輪80aと、転がり軸受82の内輪82aとが配置される。転がり軸受80はフランジ部84aに対して第2ピペット保持部材34の軸方向の先端側に配置され、転がり軸受82はフランジ部84aに対して後端側に配置される。このとき、中空部材84とフランジ部84aとは一体になっている。第2ピペット保持部材34の外周面にねじ加工が施されており、内輪80aの先端側、及び内輪82aの後端側からロックナット86、86が第2ピペット保持部材34に螺合されて、転がり軸受80、82の軸方向の位置が固定される。なお、中空部材84の軸方向寸法は、転がり軸受80、82の内輪80a、82aの軸方向寸法と、中空部材84のフランジ部84aの軸方向寸法との合計より小さい。このため、内輪80aの軸方向先端側及び内輪82aの軸方向後端側は中空部材84よりも軸方向に突出する。この結果、内輪80a、82aが直接ロックナット86、86により軸方向に固定されるので、内輪80a、82aの軸方向移動が規制される。
なお、本実施形態では、中空部材84を設けることで、使用する第2ピペット保持部材34と転がり軸受80、82の内径とが同一径でなくともよい。一方で、同一径の場合は、中空部材84を省いた構成であってもよい。また、中空部材84とフランジ部84aとは一体に構成したが、別体にしてもよい。さらに、一体となった中空部材84とフランジ部84aとを内輪間座として取り扱ってもよい。
さらに、円環状のスペーサ90は、転がり軸受80、82と同軸に外輪82bの軸方向後端側に配置される。スペーサ90の軸方向後端側には、円環状の圧電素子92がスペーサ90と略同軸に配置され、さらにその軸方向後端側にはハウジング87の蓋88が配置される。蓋88は、圧電素子92を軸方向に固定するためのもので、第2ピペット保持部材34が挿通する孔部を有する。この蓋88は、ハウジング87の側面に不図示のボルトにより締結されている。なお、蓋88は、ハウジング87の軸方向後端側の内周面及び蓋88の外周面にねじ加工を施して、両者を螺合することにより固定しても良いが、圧電素子92にねじりモーメントが生じる可能性がある。このため、蓋88はボルト等により締結固定されることが好ましい。なお、圧電素子92は、棒状または角柱状としてスペーサ90の周方向に略等配となるように並べても良く、第2ピペット保持部材34を挿通する孔部を有した角筒としても良い。
圧電素子92はスペーサ90を介して転がり軸受82と接している。圧電素子92は、リード線(図示せず)を介して制御回路としてのコントローラ43に接続されている。圧電素子92は、コントローラ43からの印加電圧に応答して第2ピペット保持部材34の軸方向に沿って伸縮し、第2ピペット保持部材34をその軸方向に沿って微動させるようになっている。第2ピペット保持部材34が軸方向に沿って微動すると、この微動が第2ピペット35(図1参照)に伝達され、第2ピペット35の位置が微調整されることになる。また、圧電素子92により第2ピペット保持部材34が軸方向に振動すると、第2ピペット35も軸方向に振動する。
このような構成によれば、第2ピペット35と圧電素子92とが同軸上に配置されるので、圧電素子92の駆動時に、余分な振動、即ち第2ピペット保持部材34の軸方向以外の方向に生じる振動を軽減することができる。ここで、「同軸上」とは、円環状の圧電素子92の中心軸と第2ピペット35の中心軸とが一致する場合のみを示すのではなく、中心軸が互いに平行な場合や、第2ピペット35の中心軸が円環状の圧電素子92の中心を通る場合を含む。また、図2の圧電アクチュエータ44aは、第2マニピュレータ16及び第2ピペット保持部材34に直接固定されるため、第2マニピュレータ16、第2ピペット保持部材34への固定のための部品が不要となる。このため、部品数低減による組立性の向上とコスト低減を実現できる。さらに、微動機構44は、圧電アクチュエータ44aと第2ピペット保持部材34を直接固定するため、圧電素子92と第2ピペット35との距離を短くすることが可能となる。この結果、微小対象物への操作(DNA溶液や細胞の注入操作や穿孔操作など)の際には、より正確な操作が可能となり、圧電素子92による穿孔作用の向上を実現できる。
なお、上述の微動機構44は、微小対象物の操作用の第2マニピュレータ16に設けられるとしているが、もちろん微小対象物の保持用の第1マニピュレータ14にも設けてもよく、省略することも可能である。
次に、コントローラ43によるマニピュレーションシステム10の制御について図3を参照して説明する。図3は、マニピュレーションシステムの制御ブロック図である。
コントローラ43は、演算手段としてのCPU(中央演算処理装置)及び記憶手段としてのハードディスク、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のハードウェア資源を備える。コントローラ43は、記憶部46Bに格納された所定のプログラムに基づいて各種の演算を行い、演算結果に従って制御部46Aが各種の制御を行うように駆動信号を出力する。
制御部46Aは、顕微鏡ユニット12の焦点合わせ機構81、第1マニピュレータ14の駆動装置30、駆動装置32、吸引ポンプ29、第2マニピュレータ16の駆動装置40、駆動装置42、圧電素子92、注入ポンプ39を制御し、必要に応じて設けられたドライバやアンプ等を介してそれぞれに駆動信号を出力する。制御部46Aは、駆動装置30、32、40、42にそれぞれ駆動信号Vxy、Vz(図1参照)を供給する。駆動装置30、32、40、42は、駆動信号Vxy、Vzに基づいてX−Y−Z軸方向に駆動する。制御部46Aは、微動機構44にナノポジショナ制御信号VN(図1参照)を供給して、微動機構44の制御を行ってもよい。
コントローラ43は、情報入力手段としてジョイスティック47と、キーボードやタッチパネル等の入力部49とが接続されている。また、コントローラ43は、液晶パネル等の表示部45が接続される。表示部45にはカメラ18で取得した顕微鏡画像や各種制御用画面が表示されるようになっている。なお、入力部49としてタッチパネルが用いられる場合には、表示部45の表示画面にタッチパネルを重ねて用い、操作者が表示部45の表示画像を確認しつつ入力操作を行うようにしてもよい。
ジョイスティック47は公知のものを用いることができる。ジョイスティック47は、基台と、基台から直立するハンドル部とを備えており、ハンドル部を傾斜させるように操作することで駆動装置30、40のX−Y駆動を行うことができ、ハンドル部をねじることで駆動装置32、42のZ駆動を行うことができる。ジョイスティック47は、吸引ポンプ29、圧電素子92、注入ポンプ39の各駆動を操作するためのボタンを備えていてもよい。
図3に示すように、コントローラ43は、さらに画像入力部43A、画像処理部43B、画像出力部43C及び位置検出部43Dを備えている。顕微鏡20を通してカメラ18で撮像した画像信号Vpix(図1参照)が画像入力部43Aに入力される。画像処理部43Bは、画像入力部43Aから画像信号を受け取って、画像処理を行う。画像出力部43Cは、画像処理部43Bで画像処理された画像情報を表示部45へ出力する。位置検出部43Cは、カメラ18で撮像された微小対象物である細胞等の位置や、第2ピペット35によるインジェクション操作を行う操作対象である細胞の核等の位置を、画像処理後の画像情報に基づいて検出することができる。位置検出部43Cは、画像情報に基づいてカメラ18の撮像領域内における細胞等の有無を検出することができる。また、位置検出部43Cは、第1ピペット25及び第2ピペット35の位置を検出してもよい。画像入力部43A、画像処理部43B、画像出力部43C及び位置検出部43Dは、制御部46Aにより制御される。
画像処理部43Bは、例えば細胞の位置や細胞の核の位置を検出するために、画像入力部43Aから受け取った画像信号について二値化処理とフィルタ処理を実行する。画像処理部43Bは、画像信号をグレースケール化して、あらかじめ設定された所定の閾値に基づいて、このグレースケール画像をモノクロ画像に変換する。そして、画像処理部43Bは、二値化処理とフィルタ処理により得られたモノクロ画像に基づいてエッジ抽出処理やパターンマッチングを行う。その処理結果に基づいて位置検出部43Dは、細胞の位置や細胞の核の位置を検出することができる。
制御部46Aは、位置検出部43Cからの位置情報、及び細胞等の有無の情報に基づいて、第1マニピュレータ14及び第2マニピュレータ16を制御する。本実施形態において、制御部46Aは、第1マニピュレータ14及び第2マニピュレータ16を所定のシーケンスで自動的に駆動する。かかるシーケンス駆動は、記憶部46Bにあらかじめ保存された所定のプログラムによるCPUの演算結果に基づいて、制御部46Aが順次それぞれに駆動信号を出力することで行われる。
次にマニピュレーションシステム10の駆動方法について説明する。図4は、実施形態のマニピュレーションシステムの動作の一例を示すフローチャート図である。本実施形態のマニピュレーションシステム10は、試料保持部材11に載置された複数の細胞に対して、1つの細胞ごとに操作を行い、複数の細胞について操作を繰り返し実行する。コントローラ43は、複数の細胞に対する操作を自動で実行する。
操作者は、まず、操作を行う細胞の個数、すなわちマニピュレーションシステム10が複数回操作を実行した後、操作を終了する回数である操作終了回数Neを、入力部49(図3参照)を介してコントローラの制御部46Aに入力する(ステップST10)。制御部46Aは、実行した操作回数のカウンタ値である操作実行回数NをN=0として記憶部46Bに記憶させる(ステップST11)。
次に、制御部46Aは、第1領域で操作対象の細胞を第1ピペット25の先端に保持する操作を自動で行う(ステップST20)。図5から図7を参照して、マニピュレーションシステムによる細胞保持操作について説明する。図5は、マニピュレーションシステムによる細胞の保持操作の一例を示すフローチャート図である。図6は試料ステージの初期領域、第1領域、第2領域及び第3領域の関係を説明するための模式平面図である。図7は、マニピュレーションシステムによる細胞の保持操作の一例を示す説明図である。
操作者は、シャーレ等の試料保持部材11を用意し、操作対象の細胞を試料保持部材11の所定の位置に載置する。そして、操作者は、操作対象の細胞が載置された試料保持部材11を、図6に示す試料ステージ22の第1領域AS1aに載置する(図5、ステップST20−1)。なお、マニピュレーションシステム10による操作を開始した初期状態において、試料ステージ22は、顕微鏡20の観察視野と重なる位置が、図6に示す初期領域AS0となっている。
図6に示すように、第1領域AS1aは、操作対象の細胞を載置する領域であり、初期領域AS0と異なる位置に設定されている。第1領域AS1aは、保持操作を行う対象となる細胞を載置する領域としてあらかじめ設定された位置情報であり、記憶部46Bに記憶されている。また、初期領域AS0及び第1領域AS1aと離れた位置に第2領域AS2と第3領域AS3とが設定されている。後述するように、第2領域AS2は、細胞の核が検出されず操作を行っていない未操作の細胞を載置するための領域であり、第3領域AS3は、インジェクション操作終了後の細胞を載置するための領域である。第2領域AS2及び第3領域AS3は、あらかじめ設定された位置情報であり、記憶部46Bに記憶されている。
ここで、初期領域AS0のステージ座標を(SX0、SY0)とする。また第1領域AS1aのステージ座標を(SX1、SX2)とする。各領域は矩形状の領域となっており、ステージ座標は、対向する2辺の中点同士を結ぶ線の交点の座標としてもよい。なお、各領域の座標は、これに限られず、各領域の角部としてもよい。
制御部46Aは、試料ステージ22を駆動させ、第1領域AS1aを顕微鏡20の観察視野と重なる位置に移動させる。これにより、図7のステップST20−1に示すように、第1領域AS1aに配置された細胞100は、第1ピペット25及び第2ピペット35の近傍に配置される。ここで細胞100は卵細胞であり、図7に示すように、第1ピペット25と第2ピペット35とは、間隔を有して対向して配置されている。ここで、初期状態における第2ピペット35の先端は、座標(IX0、IY0)に位置する。
次に、制御部46Aは第2ピペット35を移動させる(図5、ステップST20−2)。図7のステップST20−2に示すように、第2ピペット35は、先端の位置が座標(IX0、IY0)から座標(IX1、IY1)に位置するように移動する。座標(IX1、IY1)は、あらかじめ設定された位置情報であり、第1ピペット25と第2ピペット35の先端とのX方向の距離d1は卵細胞の平均的な直径の1倍程度、第1ピペット25の開口25aの中心位置と第2ピペット35の先端とのY方向の距離d2が卵細胞の平均的な半径の1倍程度となる。
制御部46Aは、吸引ポンプ29(図3参照)を駆動させ、第1ピペット25の吸引を実行させる(図5、ステップST20−3)。これにより、第1ピペット25の内部が陰圧となり、第1ピペット25の開口25aに向かって試料保持部材11の培養液の流れが発生する。細胞100は、培養液とともに吸引されて、第1ピペット25と第2ピペット35との間を通って、図7のステップST20−3に示すように、第1ピペット25の開口25aに保持される。
このとき、第1ピペット25の先端が座標(IX1、IY1)に位置しているため、複数の細胞が付着した状態で吸引された場合であっても、最初の1個の細胞100が第1ピペット25と第2ピペット35との間を通過する際に、他の細胞が第1ピペット25又は第2ピペット35に接触して切り離される。後述するインジェクション操作では、細胞100に対する第2ピペット35の位置の調整を、1個ずつ行う必要があるため、一度に多数の細胞100を保持した状態でインジェクション操作を行うことが困難な場合がある。本実施形態では、細胞100の保持操作において、第1ピペット25と第2ピペット35との間隔を調整することで、1個の細胞100が第1ピペット25に保持される。
次に、画像処理部43Bは、顕微鏡20を通してカメラ18が撮像した撮像データの画像処理を行い、位置検出部43Dは、細胞100が第1ピペット25に保持されたかを判断する(図5、図7、ステップST20−4)。ここで、画像処理を行う画像処理領域AIを、細胞100の直径程度を1辺とする矩形状の領域として、図7に示すように第1ピペット25の開口25a近傍に配置することで、画像処理部43Bが画像処理を行う画像データ量を低減することができる。
ここで細胞が画像検出されず保持できていないと判断された場合(図5、ステップST20−5、No)、試料ステージ22を別の第1領域AS1bに移動して(図5、ステップST20−6)、再度ステップST20−2からステップST20−4を繰り返す。図6に示すように、第1領域AS1bは、第1領域AS1aのY方向側に隣接しており、第1領域AS1aと同じ面積を有する。第1領域AS1aの位置は座標(SX1、SY1)であり、第1領域AS1bの位置は座標(SX1、SY2)である。第1領域AS1bのX方向の位置は第1領域AS1aと同じとなっている。
図6に示すように、第1領域AS1aの周囲に、第1領域AS1c、AS1d、AS1eが設定されている。第1領域AS1cは、第1領域AS1aに対して第1領域AS1bの反対側に配置される。第1領域AS1dは、第1領域AS1aのX方向側に隣接している。第1領域AS1eは、第1領域AS1aに対して第1領域AS1dの反対側に配置される。第1領域AS1cの位置は座標(SX1、SY3)であり、第1領域AS1dの位は座標(SX2、SY1)であり、第1領域AS1eの位置は座標(SX3、SY1)である。第1領域AS1b−AS1eは、あらかじめ設定された位置情報であり、記憶部46Bに記憶されている。
第1領域AS1bにおいても細胞100が保持できていないと判断された場合、試料ステージ22を第1領域AS1c、AS1d、AS1eに順次移動させて、各領域においてステップST20−2からステップST20−4を実行する。いずれの領域でも細胞が保持されない場合、操作者は、試料保持部材11の細胞100を載置し直して操作を再度実行する。
図6では、第1領域AS1aに加えて4つの第1領域AS1b、AS1c、AS1d、AS1eが設定されているが、これに限定されない。図8は、試料ステージの第1領域の変形例を示す模式平面図である。試料ステージ22は、さらに第1領域AS1f、AS1g、AS1h、AS1iが設定されている。第1領域AS1fの位置は座標(SX3、SY2)であり、第1領域AS1gの位は座標(SX3、SY3)であり、第1領域AS1hの位置は座標(SX2、SY2)であり、第1領域AS1iの位置は座標(SX2、SY3)である。制御部46Aは、試料ステージ22を第1領域AS1f、AS1g、AS1h、AS1iに順次移動させて、ステップST20−2からステップST20−4を繰り返す。
細胞が画像検出されて保持できていると判断された場合(図5、ステップST20−5、Yes)、制御部46Aは、第1ピペット25が細胞100を保持した状態で試料ステージ22を駆動させ、初期領域AS0が顕微鏡20の観察視野と重なる位置になるように試料ステージ22を移動する(図5及び図7、ステップST20−7)。
なお、細胞が保持された後、保持された細胞100に他の細胞が付着している可能性がある。図9は、保持対象の細胞に付着した細胞を分離する操作を説明するための説明図である。図9のステップST20−8に示すように、保持された細胞100に細胞101が付着している場合、試料ステージ22を初期領域AS0に移動させる前に、制御部46Aは、第2ピペット35を駆動させて、第1ピペット25に近づく方向に移動させる。第2ピペット35は、図7に示す座標(IX1、IY1)から図9に示す座標(IX2、IY1)に移動する。このとき、細胞100と細胞101との間に第2ピペット35が配置される。
その後、図9のステップST20−9に示すように、制御部46Aは、第2ピペット35を細胞100から離れる方向に移動させる。第2ピペット35は、座標(IX2、IY1)から座標(IX2、IY1)に移動する。これにより、細胞100から付着していた細胞101を分離することができる。
次に、制御部46Aは、細胞100の操作対象位置である核100Aを画像処理により検出する(図4、ステップST30)。ここで、操作対象位置は、細胞100の内部にある特定の領域であり、第2ピペット35によりDNA溶液等を注入する位置である。図10から図13を参照して、マニピュレーションシステム10による細胞100の核検出操作について説明する。図10は、マニピュレーションシステムによる細胞の核の位置の検出操作の一例を示す模式図である。第2ピペット35の先端は座標(IX0、IZ0)に位置しており、制御部46Aは、顕微鏡20の焦点位置SF0の高さを第2ピペット35の高さ位置と一致させてカメラ18により撮像する。
図11は、画像処理により検出された細胞及び核の模式図である。卵細胞は半透明なので、図11左図に示すように、焦点が合っている高さ(焦点位置SF0)で、細胞100をスライスしたような画像データが得られる。この画像データについて、画像処理部43Bが画像処理を行う。画像処理部43Bは上述した二値化処理とフィルタ処理を実行する。これにより、図11右図に示すように、画像処理部43Bは、核100Aと対応する位置の色が周囲と異なるモノクロ画像を出力し、エッジ抽出処理やパターンマッチングを行う。位置検出部43Dは、核100Aと対応する同等の大きさで、円形に近く、かつ周囲と色が異なる領域を検出することで、細胞100の核100Aの位置を検出することができる。このとき、画像処理を行う領域を、例えば図7のステップST20−3に示す画像処理領域AIと同様の領域に限定して、画像処理を高速化することができる。検出された核100Aの位置は(EX0、EY0)として記憶部46Bに記憶される。
なお、画像処理により、2以上の核100Aが検出された場合、位置検出部43Dは、検出した複数の核のうち、画像処理領域AIの中心に近い方に位置する核100Aを検出対象として位置情報を出力する。
位置検出部43Dにより、焦点位置SF0において細胞100の核100Aが検出されない場合、焦点位置を初期状態の焦点位置SF0から高さ距離h1ずつ移動させて、焦点位置SF1、SF2、SF3、SF4でそれぞれカメラ18により撮像する。このとき、顕微鏡20の対物レンズ(図示しない)の高さ位置を変えることで焦点位置を変化させることができる。
焦点位置SF1、SF2、SF3、SF4で撮像された画像データについて、画像処理部43Bはそれぞれ画像処理を実行し、位置検出部43Dは、細胞100の核100Aの位置を検出する。核100Aが検出された焦点位置の高さが、核100Aの高さ位置として検出される。焦点位置SF1、SF2、SF3、SF4の順番は特に限定されないが、例えば、焦点位置SF0からZ方向(顕微鏡20の対物レンズが細胞100から離れる方向)に高さ距離h1ずつ移動させて焦点位置SF1、SF2で核100Aの検出を実行する。この過程で核100Aが検出されない場合、焦点位置SF0に戻り、Z方向の反対方向(顕微鏡20の対物レンズが細胞100に近づく方向)に高さ距離h1ずつ移動させて焦点位置SF3、SF4で核100Aの検出を実行する。
なお、顕微鏡20の焦点を焦点位置SF1、SF2、SF3、SF4に変化させるごとに、第2ピペット35の高さも焦点位置SF1、SF2、SF3、SF4と同じ高さに移動させることが好ましい。例えば焦点位置SF1に変化した場合、第2ピペット35の高さ位置(Z座標)がIZ0+h1となるように移動させる。この方法により、核100Aを検出した後に第2ピペット35の高さ方向の位置調整が不要となる。例えば、卵細胞は通常の細胞に比べて球体に近く厚みを有するので、インジェクション操作を行う核100Aの位置を検出することが困難な場合がある。上述した画像処理及び第2ピペット35の移動操作により、核100Aの位置を容易に検出するとともに、第2ピペット35の位置調整を容易に行うことができる。
図10に示した方法で核100Aが検出されない場合、以下に示す方法で核100Aを検出してもよい。図12は、マニピュレーションシステムによる核の位置の検出操作の他の例を示すフローチャート図である。図13は、マニピュレーションシステムによる核の位置の検出操作の他の例を説明するための説明図である。
制御部46Aは、試料ステージ22を駆動させ初期領域AS0に移動させる(図12、図13、ステップST30−1)。この際、第2ピペット35及び顕微鏡20の焦点位置も初期状態の位置に戻す。次に、制御部46Aは、第2ピペット35を移動させる(図12、図13、ステップST30−2)。これにより、第2ピペット35の先端が座標(IX3、IY3)に位置する。座標(IX3、IY3)は、細胞100の中心100Cを通るY軸に平行な直線と、中心100Cと第2ピペット35の先端とを結ぶ直線とのなす角度θが45°以下となる領域に位置する。
次に、制御部46Aは、吸引ポンプ29を停止し、第1ピペット25による吸引を停止させる(図12、図13、ステップST30−3)。制御部46Aは、第1ピペット25の内部がわずかに陽圧になるように駆動してもよい。これにより、細胞100は第1ピペット25から離れる方向にわずかに移動する。細胞100が移動する際に、第2ピペット35の先端と接触することにより、細胞100が回転する(図12、図13、ステップST30−4)。この操作により細胞100をXY平面内で回転させることが可能となる。このような操作によれば、細胞100の移動に伴って回転するため、第2ピペット35を操作して細胞100を回転させる場合と比較して、細胞100の損傷を抑制することができる。
所定の時間、細胞100の回転操作を行った後、制御部46Aは、吸引ポンプ29の吸引を再開し、第1ピペット25の内部を陰圧にして吸引する(図12、図13、ステップST30−5)。これにより第1ピペット25に細胞100が保持される。その後、第2ピペット35を初期状態の位置(座標(IX0、IY0))に移動させ、再び画像処理を実行する(図12、図13、ステップST30−6)。核100Aが検出された場合(図12、ステップST30−7、Yes)、細胞100へのインジェクション操作を実行する(図4、ステップST50)。核100Aが検出されない場合(図12、ステップST30−7、No)、再度回転操作を繰り返して核100Aの検出操作を実行してもよい。
上述の画像処理及び回転操作を行っても、核100Aが検出されない場合(図4、ステップST31、No)、操作対象の細胞100が核100Aを形成しておらず正常な操作対象ではない可能性がある。制御部46Aは、核100Aが検出されず操作を行っていない未操作の細胞100を第2領域AS2(図6参照)に載置する(図4、ステップST40)。第2領域AS2は、各種操作を行う初期領域AS0、第1領域AS1a−AS1iと離れた領域である。第2領域AS2は、例えば座標(SX5、SY5)に位置しており、あらかじめ設定された領域である。
次に図14から図16を参照して、マニピュレーションシステム10による未操作細胞100aの処理方法について説明する。図14は、未操作の細胞の移動操作の一例を示すフローチャート図である。図15は、未操作の細胞の移動操作の一例を説明するための説明図である。図16は、未操作の細胞の配置の一例を示す模式平面図である。
まず、第1ピペット25が未操作細胞100aを保持した状態で、試料ステージ22を駆動させ、第2領域AS2に移動させる(図14、図15、ステップST40−1)。これにより、第2領域AS2が顕微鏡20の観察視野と重なる位置となる。次に、第2ピペット35をX方向及びY方向に移動させる(図14、図15、ステップST40−2)。第2ピペット35の先端は座標(IX4、IY4)に位置する。第2ピペット35のX方向の位置は、未操作細胞100aの中心位置の近傍であり、第2ピペット35のY方向の位置は、未操作細胞100aから離れた位置になっている。
制御部46Aは、吸引ポンプ29を停止させ、第1ピペット25の吸引を停止する(図14、図15、ステップST40−3)。これにより、第1ピペット25の内部が陽圧となり、未操作細胞100aの保持状態が緩み、未操作細胞100aは第1ピペット25から離れる方向にわずかに移動する。制御部46Aは、第2ピペット35をY方向に移動させて、第2ピペット35は座標(IX5、IY5)に位置する。第2ピペット35の移動に伴って未操作細胞100aが所定の位置に載置される(図14、図15、ステップST40−4)。その後、制御部46Aは、試料ステージ22を駆動させて、初期領域AS0に移動し(図14、図15、ステップST40−5)、図4に示すステップST70に進み、他の細胞の操作を行う。このように未操作細胞100aが第2領域AS2に載置されるので、核100Aの検出操作を行っていない細胞100や、インジェクション操作を実行した細胞100との分別を確実に行うことができる。
なお、核100Aが検出されない細胞100が複数ある場合、図16に示すように、未操作細胞100a、100b、100cは、Y方向に所定の間隔SY6を設けて載置される。1個目の未操作細胞100aが座標(SX5、SY5)に載置されると、2個目の未操作細胞100bは座標(SX5、SY5+SY6)に載置され、3個目の未操作細胞100cは座標(SX5、SY5+SY6+SY6)に載置される。この結果、複数の未操作細胞100a−100cが、操作を行った順番に従って第2領域AS2に整列されるので、一連の操作の終了後に未操作細胞100a−100cの問題の検証を容易に行うことができる。また、一連の操作の終了後に、未操作細胞について再度、上述した核100Aの検出操作を行ってもよい。
次に、図4に戻って、上述した画像処理及び回転操作により、細胞100の核100Aが検出された場合(図4、ステップST31、Yes)、細胞100へのインジェクション操作を実行する(図4、ステップST50)。
図17は、マニピュレーションシステムによる細胞に対するインジェクション操作の一例を示すフローチャート図である。図18は、マニピュレーションシステムによる細胞に対するインジェクション操作を説明するための説明図である。
制御部46Aは、画像処理により得られた核100Aの位置情報に基づいて、第2ピペット35の移動経路を算出する(図17、図18、ステップST50−1)。このとき、第2ピペット35は初期状態の座標(IX0、IY0)に位置しており、制御部46Aは、第2ピペット35の位置情報と、記憶部46Bに記憶された核100Aの座標(EX0、EY0)の位置情報に基づいてインジェクションするための指令位置を算出する。
制御部46Aは、第2ピペット35のY方向の座標IY6として、核100Aの中心位置のY方向の座標EY0に対して、距離EY1ずれた位置を算出する。つまり、制御部46Aは第2ピペット35の座標IY6としてIY6=EY0−EY1を算出する。また、制御部46Aは、第2ピペット35のX方向の座標IX6として、核100Aの中心位置のX座標EX0よりも距離EX1だけ第1ピペット25側に近づいた位置を算出する。制御部46Aは、座標IX6としてIX6=EX0−EX1を算出する。
制御部46Aは、算出した座標IY6に移動するように駆動信号を出力して、第2ピペット35をY方向に移動させる(図17、図18、ステップST50−2)。図18に示すように、第2ピペット35は、座標(IX0、IY6)に移動する。第2ピペット35のY方向の座標IY6は、核100Aの中心位置のY方向の座標EY0に対して、距離EY1ずれた位置となっている。これにより、インジェクション操作時に第2ピペット35が核100Aを傷つけてしまうことを抑制できる。
次に、制御部46Aは、算出した座標IX6に移動するように駆動信号を出力して、第2ピペット35を核100Aの中心位置よりも第1ピペット25側にずらした位置に移動させる(図17、図18、ステップST50−3)。第2ピペット35は、座標(IX6、IY6)に移動する。これにより細胞100の核膜内に第2ピペット35が差し込まれる。この方法により、第2ピペット35を核膜内に差し込む操作において確実性を向上させることができる。
次に、制御部46Aは、第2ピペット35をX方向に移動させる(図17、図18、ステップST50−4)。第2ピペット35は、第1ピペット25から離れる方向に移動し、座標(IX7、IY6)に位置する。X座標IX7は、核100Aの中心位置のX座標EX0と一致する座標である。これにより、第2ピペット35の先端が核100Aの近傍に位置する。
第2ピペット35を座標(IX7、IY6)の位置で静止し、DNA注入操作を行う(図17、図18、ステップST50−5)。DNA注入操作において、あらかじめ設定された時間の間に注入ポンプ39(図3参照)駆動させて、細胞100に対する注入操作を行う。これに限定されず、例えば、注入操作中に画像処理を行い、核膜の膨らみを検出して、DNAの注入が完了したかどうかを判断して注入操作を行ってもよい。
DNA注入操作の完了後、制御部46Aは、第2ピペット35をX方向に駆動し、細胞100から引き抜いて、初期位置に移動させる(図17、図18、ステップST50−6)。第2ピペット35は、座標(IX0、IY0)に位置する。以上のように、制御部46Aは、細胞100に対するインジェクション操作を自動で実行することができる。なお、第2ピペット35を細胞100に刺す場合の移動速度と、細胞100から抜く場合の移動速度とは、可変とすることが好ましい。
次に制御部46Aは、インジェクション操作後の細胞100を第3領域AS3(図6参照)に移動させる(図4、ステップST60)。図19は、操作後の細胞の移動操作の一例を示すフローチャート図である。図20は、操作後の細胞の移動操作の一例を説明するための説明図である。
制御部46Aは、試料ステージ22を駆動して、第3領域AS3に移動させる(図19、図20、ステップST60−1)。第3領域AS3は、操作後の細胞100を載置するための領域であり、上述した初期領域AS0、第1領域AS1、第2領域AS2とは離れた位置の領域である。第3領域AS3は、例えば座標(SX7、SY7)に位置しており(図6参照)、あらかじめ設定された領域である。
次に、制御部46Aは、第2ピペット35をX方向及びY方向に移動させる(図19、図20、ステップST60−2)。第2ピペット35の先端は座標(IX8、IY7)に位置する。第2ピペット35のX方向の位置は、細胞100の中心位置の近傍であり、第2ピペット35のY方向の位置は、細胞100と離れた位置になっている。
制御部46Aは、吸引ポンプ29を停止させ、第1ピペット25の吸引を停止する(図19、図20、ステップST60−3)。これにより、第1ピペット25の内部が陽圧となり、細胞100の保持状態が緩み、細胞100は第1ピペット25から離れる方向にわずかに移動する。制御部46Aは、第2ピペット35をY方向に移動させて、第2ピペット35は座標(IX8、IY8)に位置する。第2ピペット35の移動に伴って細胞100が所定の位置に載置される(図19、図20、ステップST60−4)。その後、制御部46Aは、試料ステージ22を駆動させて、初期領域AS0に移動し(図19、図20、ステップST60−5)、図4に示すステップST70に進み、他の細胞の操作を行う。このようにインジェクション操作後の細胞100が第3領域AS3に載置されるので、核100Aの検出操作を行っていない細胞100や、核100Aが検出されない細胞100との分別を確実に行うことができる。
その後、制御部46Aは、操作実行回数のカウンタ値Nを1つ増やして、N=N+1として記憶する(図4、ステップST70)。操作実行回数Nが操作終了回数Neよりも小さい場合(図4、ステップST71、No)、ステップST20に戻って別の細胞に対する細胞保持操作、核検出操作、インジェクション操作、細胞載置操作を繰り返し実行する。操作実行回数Nが操作終了回数Ne以上となった場合(図4、ステップST71、Yes)、あらかじめ設定された個数の細胞100に対する操作が終了し、一連の操作を終了する。以上のように、マニピュレーションシステム10は細胞保持操作、核検出操作、インジェクション操作、細胞載置操作を自動で行うので、移動先の試料ステージ22の領域を見失ったり、繰り返し行う第1ピペット25及び第2ピペット35の位置調整操作の際に、第1ピペット25及び第2ピペット35が折損することを抑制することができる。
以上説明したように、本実施形態のマニピュレーションシステム10は、細胞100(微小対象物)が載置される試料ステージ22と、細胞100を保持するための第1ピペット25を備える第1マニピュレータ14と、第1ピペット25に保持された細胞100を操作するための第2ピペット35を備える第2マニピュレータ16と、細胞100を撮像する顕微鏡ユニット12(撮像部)と、試料ステージ22、第1ピペット25、第2ピペット35及び顕微鏡ユニット12を制御する制御部46Aを備え、制御部46Aは、顕微鏡ユニット12の画像データに基づいて細胞100の核100Aの位置(操作対象位置)を検出し、第2ピペット35を核100Aの位置に移動させて、細胞100に対する操作を第2ピペット35に実行させる。
これによれば、制御部46Aが、画像データに基づいて核100Aの位置を検出するため、操作者の熟練度によらず、核100Aの位置を検出することができる。また、核100Aの位置の検出と、細胞100に対する操作が制御部46Aにより自動で行われるため、細胞100の損傷や、第2ピペット35の損傷を抑制して、効率よくかつ好適に細胞100を操作することができる。
本実施形態のマニピュレーションシステム10において、制御部46Aは、細胞100の保持操作を行うために試料ステージ22上にあらかじめ設定された第1領域AS1aにおいて、第1ピペット25を陰圧にして細胞100を第1ピペット25に保持し、顕微鏡ユニット12の画像データに基づいて、細胞100が保持されたことを検出する。これによれば、細胞100を保持する操作が、制御部46Aにより自動で行われるため、効率よくかつ好適に細胞100を操作することができる。
本実施形態のマニピュレーションシステム10において、第1領域AS1a−AS1iは複数箇所設定されており、細胞100の保持が検出されない場合、制御部46Aは、所定の順番で複数の第1領域AS1a−AS1iに試料ステージ22を移動させて、複数の第1領域AS1a−AS1iにおいて第1ピペット25による保持操作を実行させる。これによれば、細胞100を試料ステージ22の上に載置する位置がずれた場合であっても、操作者が細胞100を顕微鏡等で探す等の工数を省いて、効率よく細胞100の保持を自動で行うことが可能である。
本実施形態のマニピュレーションシステム10において、顕微鏡ユニット12は、高さ方向に焦点位置を異ならせて複数回、細胞100を撮像し、制御部46Aは、焦点位置が異なる複数の画像データに基づいて核100Aの位置を検出する。これによれば、精度よく核100Aの位置を検出することができる。
本実施形態のマニピュレーションシステム10において、顕微鏡ユニット12は、細胞100の中心の高さ位置から順次焦点位置を変化させて撮像し、制御部46Aは、顕微鏡ユニット12の焦点位置の高さに一致させるように、第2ピペット35の高さ位置を移動させる。これによれば、第2ピペット35の高さ位置の調整を容易に行うことができるので、核100Aへの操作を確実に行うことができる。
本実施形態のマニピュレーションシステム10において、制御部46Aは、第1ピペット25が細胞100を保持した状態で細胞100の近傍に第2ピペット35を移動させ、第1ピペット25の吸引を停止させる。これによれば、第1ピペット25の吸引が停止することで細胞100がわずかに移動し、第2ピペット35に接触して回転する。このため、核100Aが検出されない場合においても、細胞100を回転操作することで核100Aの位置が変化し、検出が可能となる。また、細胞100の損傷を抑制しつつ回転させることができる。
本実施形態のマニピュレーションシステム10において、制御部46Aは、核100Aの位置が検出されない未操作細胞100aを試料ステージ22上の所定の第2領域AS2に載置する。これによれば、保持操作の対象となる細胞100と、核100Aの位置が検出されない未操作の細胞100aとの混在を防ぐことができるので、連続して複数の細胞100の操作が可能となる。
本実施形態のマニピュレーションシステム10において、制御部46Aは、第2ピペット35により操作が実行された細胞100を第2領域AS2と異なる第3領域AS3に載置する。これによれば、未操作細胞100aと、操作が実行された細胞100との混在を防ぐことができるので、連続して複数の細胞100の操作が可能となる。
本実施形態のマニピュレーションシステムの駆動方法は、細胞100が載置される試料ステージ22と、細胞100を保持するための第1ピペット25を備える第1マニピュレータ14と、第1ピペット25に保持された細胞100を操作するための第2ピペット35を備える第2マニピュレータ16と、細胞100を撮像する顕微鏡ユニット12と、試料ステージ22、第1ピペット25、第2ピペット35及び顕微鏡ユニット12を制御する制御部46Aとを備えるマニピュレーションシステム10の駆動方法であって、第1ピペット25に保持された細胞100の核100Aの位置を、顕微鏡ユニット12の画像データに基づいて制御部46Aが検出するステップと、第2ピペット35を核100Aの位置に移動させ、細胞100に対する操作を実行させるステップと、を含む。
これによれば、制御部46Aが、画像データに基づいて核100Aの位置を検出するため、操作者の熟練度によらず、核100Aの位置を検出することができる。また、核100Aの位置の検出と、細胞100に対する操作が制御部46Aにより自動で行われるため、細胞100の損傷や、第2ピペット35の損傷を抑制して、効率よくかつ好適に細胞100を操作することができる。
本実施形態のマニピュレーションシステム10及びマニピュレーションシステム10の駆動方法は適宜変更してもよい。例えば、第1ピペット25、第2ピペット35等の形状等は、微小対象物の種類や、微小対象物に対する操作に応じて適宜変更することが好ましい。細胞保持操作、核検出操作、インジェクション操作、細胞載置操作の各操作において、適宜手順の一部を省略してもよく、また、手順を置換して実行してもよい。