以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[第1実施形態]
(マニピュレータシステムの構成)
図1は、第1実施形態によるマニピュレータシステムの構成を概略的に示す図である。マニピュレータシステム10は、顕微鏡観察下で微小な対象物である試料(細胞、卵、精子等)に人工操作を実施するためのシステムである。図1において、マニピュレータシステム10は、顕微鏡ユニット12と、マニピュレータ14と、マニピュレータ16と、を備えており、顕微鏡ユニット12の両側にマニピュレータ14、16が分かれて配置されている。また、マニピュレータシステム10は、顕微鏡ユニット12及び一対のマニピュレータ14、16を制御するコントローラ43を備えている。
顕微鏡ユニット12は、撮像素子としてのカメラ18、顕微鏡20、試料台を備え、試料台の上にシャーレ22が配置されている。顕微鏡ユニット12は、このシャーレ22の直上に顕微鏡20が配置される構造となっている。すなわち、顕微鏡20は、倒立顕微鏡で構成されている。なお、顕微鏡20とカメラ18とは一体構造となっており、図示は省略したが、シャーレ22に向けて光を照射する光源を備えている。
シャーレ22内には例えば試料(図示せず)を含む溶液が収容される。この状態で、シャーレ22内の試料に顕微鏡20から光が照射され、シャーレ22内の試料(例えば、細胞や卵)で反射した光が顕微鏡20に入射すると、細胞や卵に関する光学像は、顕微鏡20で拡大されたあとカメラ18で撮像されるようになっており、カメラ18の撮像による画像を基に試料を観察することができる。
(マニピュレータの構成)
図1に示すように、一方側(図示左側)のマニピュレータ14は、X軸‐Y軸‐Z軸の直交3軸構成のマニピュレータとして、ピペット24、X‐Y軸テーブル26、Z軸テーブル28、X‐Y軸テーブル26を駆動する駆動装置30、Z軸テーブル28を駆動する駆動装置32を備えて構成されている。ピペット24の先端には、毛細管チップであるキャピラリ25が取り付けられている。
ピペット24は、Z軸テーブル28に連結され、Z軸テーブル28は、X‐Y軸テーブル26上に上下動自在に配置され、駆動装置30、32はコントローラ43に接続されている。
X‐Y軸テーブル26は、駆動装置30の駆動により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル28は、駆動装置32の駆動により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。Z軸テーブル28に連結されたピペット24は、X‐Y軸テーブル26とZ軸テーブル28の移動にしたがって3次元空間を移動領域として移動し、シャーレ22内の試料(細胞など)をキャピラリ25を介する等して保持するように構成されている。すなわち、マニピュレータ16は微小対象物の保持に用いられるホールド用マニピュレータである。
他方側(図示右側)のマニピュレータ16は、直交3軸構成のマニピュレータとして、ピペット(インジェクションピペット)保持部材34と、X‐Y軸テーブル36と、Z軸テーブル38と、X‐Y軸テーブル36を駆動する駆動装置40と、Z軸テーブル38を駆動する駆動装置42とを備えている。ピペット保持部材34は、Z軸テーブル38に連結され、Z軸テーブル38は、X‐Y軸テーブル36上に上下動自在に配置され、駆動装置40、42は、コントローラ43に接続されている。ピペット保持部材34の先端にはガラス製のキャピラリ35が取り付けられている。
X‐Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル38は、駆動装置42の駆動により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。Z軸テーブル38に連結されたピペット保持部材34は、X‐Y軸テーブル36とZ軸テーブル38の移動にしたがって3次元空間を移動領域として移動し、シャーレ22内の試料にキャピラリ35等を介して人工操作を行うように構成されている。すなわち、マニピュレータ16は、微小対象物の操作(穿孔、インジェクション、サンプリング等)に用いられるインジェクション用マニピュレータである。
このように、マニピュレータ14、16はほぼ同一構成であり、以下、ピペット保持部材34が連結されたマニピュレータ16を例に挙げて説明する。
X‐Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動(モータ)により、X軸またはY軸に沿って移動するように構成され、Z軸テーブル38は、駆動装置42の駆動(モータ)により、Z軸に沿って(鉛直軸方向に沿って)移動するように構成されている。また、Z軸テーブル38は、シャーレ22内の細胞や卵を挿入対象とするキャピラリ35を保持するためのピペット保持部材34を連結している。
すなわち、シャーレ22内の細胞などを含む3次元空間を移動領域として、X‐Y軸テーブル36とZ軸テーブル38とは、駆動装置40、42の駆動により移動する。そして、X‐Y軸テーブル36とZ軸テーブル38とは、例えば、ピペット保持部材34の先端側からシャーレ22内の試料に対して、キャピラリ35を挿入するための挿入位置までピペット保持部材34を粗動する。X‐Y軸テーブル36とZ軸テーブル38とは、このような粗動機構(3次元軸移動テーブル)として構成されている。
また、Z軸テーブル38とピペット保持部材34との連結部は、ナノポジショナとしての機能を備えている。ナノポジショナは、ピペット保持部材34をその設置している方向(長手方向)へ自在に移動可能に支持するとともに、さらに、ピペット保持部材34をその長手方向(軸線方向)に沿って微動駆動するように構成されている。
具体的には、Z軸テーブル38とピペット保持部材34との連結部には、ナノポジショナとして、微動機構44を備えている。次に、図2を参照し、この微動機構44について説明する。
(微動機構の構成)
図2は、図1のマニピュレータシステムに使用可能な微動機構(圧電アクチュエータ)の断面図である。図2に示すように、微動機構44は、ピペット保持部材34を備える圧電アクチュエータ44aからなる。圧電アクチュエータ44aはその本体を構成するハウジング48を備えており、内周が筒状に形成されたハウジング48内には、外周にねじ加工を施されたピペット保持部材34が挿通されている。ピペット保持部材34は、その先端側(図2の左側、以下同様)にはキャピラリ35が取り付け固定され、その後端側(図2の右側、以下同様)には卵や細胞等へのインジェクション(注入)のための溶液(培養液等)を送る不図示のチューブが接続されている。また、このチューブの他端には、流量調整用のポンプが接続されている。
ピペット保持部材34は、転がり軸受80、82を介してハウジング48に支持されている。転がり軸受80、82は、それぞれ内輪80a、82aと、外輪80b、82bと、内輪80a、82aと外輪80b、82bとの間に挿入されたボール80c、82cとを備える。転がり軸受80、82は、各内輪80a、82aが中空部材84を介してピペット保持部材34の外周面に嵌合され、各外輪80b、82bがハウジング48の内周面に嵌合され、ピペット保持部材34を回転自在に支持するようになっている。
内輪80a、82aは、中空部材84を介してピペット保持部材34に嵌合している。これにより、内輪80a、82aにねじ加工を施したピペット保持部材34の外周面と嵌合することができる。また、転がり軸受80、82のピペット保持部材34への取り付けが簡単になる。
また、中空部材84は、その軸方向略中央部に径方向外方に突出する内輪間座としてのフランジ部84aが設けられ、該フランジ部84aの軸方向両側に転がり軸受80、82の内輪80a、82aが配置される。このとき、中空部材84とフランジ部84aとは一体となっている。その後、内輪80aの先端側、及び内輪82aの後端側からロックナット86、86をピペット保持部材34に螺合し、転がり軸受80、82の軸方向位置を固定する。なお、中空部材84の軸方向寸法は、転がり軸受80、82の内輪80a、82aの軸方向寸法と、中空部材84のフランジ部84aの軸方向寸法との合計より小さい。このため、内輪80aの軸方向先端側及び内輪82aの軸方向後端側は中空部材84よりも軸方向に突出する。この結果、内輪80a、82aが直接ロックナット86、86により軸方向に固定されるので、内輪80a、82aの軸方向移動を規制できる。
なお、第1実施形態では、中空部材84を設けることで、使用するピペット保持部材34と転がり軸受80、82の内径が同一径でなくともよい。一方で、同一径の場合は、中空部材84を省いた構成であってもよい。また、中空部材84とフランジ部84aとは一体に構成したが、別体にしてもよい。さらに、一体となった中空部材84とフランジ部84aとを内輪間座として取り扱ってもよい。
さらに、転がり軸受80、82と同軸に配置され、ハウジング48の内周面に正の隙間を持って嵌合する円環状のスペーサ90が、外輪82bの軸方向後端側に配置される。スペーサ90の軸方向後端側には、円環状の圧電素子92がスペーサ90と略同軸に配置され、さらにその軸方向後端側にはハウジング48の蓋88が配置される。蓋88は、圧電素子92を軸方向に固定するためのもので、ピペット保持部材34が挿通する孔部を有する。この蓋88は、ハウジング48の側面に不図示のボルトにより締結されている。なお、蓋88は、ハウジング48軸方向後端側の内周面及び蓋88の外周面にねじ加工を施して、両者を螺合することにより固定しても良いが、圧電素子92にねじりモーメントが生じる可能性がある。このため、蓋88はボルト等により締結固定されることが好ましい。
転がり軸受80、82、圧電素子92は、スペーサ90の長さを調節し、蓋88をしめることにより、予圧が付与される。具体的には、スペーサ90の長さを調整し、蓋88を閉めると、その位置に応じた締結力が転がり軸受82の外輪82bと転がり軸受80の外輪80bに、軸方向に沿った押圧力として予圧が付与されるとともに、同時に圧電素子92にも予圧が付与される。これにより、転がり軸受80、82及び圧電素子92に所定の予圧が付与され、転がり軸受80、82の外輪80b、82b間に軸方向間の距離としての間隙94が形成される。
このように、高剛性のばね要素である転がり軸受80、82で予圧を負荷できるため、圧電素子92への予圧調整を容易に行うことができるとともに、高い応答性を達成できる。
また、圧電素子92はスペーサ90を介して転がり軸受82と接しているので、外輪82bと同じ径の圧電素子や、所定の予圧を付与可能な寸法の圧電素子といった、特別な形状の圧電素子を用いる必要がない。すなわち、図2の例では円環状とした圧電素子92を、棒状または角柱状としてスペーサ90の周方向に略等配となるように並べても良く、ピペット保持部材34を挿通する孔部を有した角筒としても良い。また、スペーサ90の形状を高精度とすれば、ハウジング48の内周面は転がり軸受80、82と嵌合する程度の精度で形成されているので、圧電素子92の個体差がある場合にも、転がり軸受82を均等に押圧することが可能となる。なお、以下で「圧電素子が(略)同軸である」とは、単に円環状の圧電素子がある軸と中心軸を共有する場合のみを示すのではなく、圧電素子がある軸を中心とした円周上に等配に並んでいる場合や、ある軸が角筒の圧電素子の中心を通る場合を含む。
圧電素子92は、リード線(図示せず)を介して制御回路としてのコントローラ43に接続されており、コントローラ43からの電圧に応じてピペット保持部材34の長手方向(軸方向)に沿って伸縮する圧電アクチュエータの一要素として構成されている。すなわち、圧電素子92は、コントローラ43からの印加電圧に応答して、ピペット保持部材34の軸方向に沿って伸縮し、ピペット保持部材34をその軸方向に沿って微動させるようになっている。ピペット保持部材34が軸方向に沿って微動すると、この微動がキャピラリ35に伝達され、キャピラリ35の位置が微調整されることになる。
圧電素子92に印加する電圧の電圧波形としては、正弦波、矩形波、三角波などを用いることができる。また圧電素子92に電圧を印加する方法としては、操作者がコントローラ43に接続されたボタン(例えば後述するジョイスティック47(図5)のボタン43B)等を押している間、信号波形を連続して出力して駆動してもよいし、バースト波形を使用してもよい。
第1実施形態においては、転がり軸受80、82のうち転がり軸受80の内輪80aと外輪80bの変位量であって、圧電素子92の伸縮量(変位量)の半分がキャピラリ35の変位量に設定されているため、圧電素子92には微動変位量の2倍の変位を与えるための制御電圧と初期設定電圧とを加算した微動用電圧を印加することになる。
例えば、圧電素子92に2xの伸びが生じたときには、この伸びによる押圧力は微動制御を行う前の予圧荷重に加えて転がり軸受82の外輪82bを押圧し、転がり軸受80の外輪80bを軸方向に移動させ、転がり軸受80、82の各外輪80b、82b間の間隙94が2x分更に狭くなって圧電素子92の軸方向の伸びを吸収する。
この間隙94の変位は、弾性変形に伴って転がり軸受80、82がそれぞれ軸方向にxずつ変位し、転がり軸受80の外輪80bが軸方向に合わせて2x変位することにより生じる。
逆に、圧電素子92が2x縮むと、押圧力が減少し、転がり軸受80、82の弾性変形がそれぞれxずつ減少し、間隙94が広がる方向に、転がり軸受80の外輪80bが軸方向に合わせて2x変位することになり、圧電素子92の縮む分を吸収する。
このように、間隙94の変位xを転がり軸受80、82がxずつ分けて吸収するので、転がり軸受80、82を互いに押圧する力がバランスしたときに、転がり軸受80、82の内輪80a、80bがピペット保持部材34と共に軸方向にx変位する。例えば、卵に穿孔して精子を注入するインジェクション動作時には、圧電素子92の伸縮量2xの半分がキャピラリ35の微動変位量となってキャピラリ35が挿入位置に位置決めされる。キャピラリ35が挿入位置に位置決めされたあと、圧電素子92にインジェクション用電圧を印加すると、キャピラリ35がインジェクション動作を行うことになる。
上述の構成によれば、キャピラリ35と圧電素子92とが同軸上に配置されるので、圧電素子92の駆動時に、余分な振動、即ちピペット保持部材34の軸方向以外の方向に生じる振動を軽減することができる。また、図2の圧電アクチュエータ44aは、マニピュレータ16及びピペット保持部材34に直接固定されるため、マニピュレータ16、ピペット保持部材34への固定のための部品が不要となる。このため、部品数低減による組立性の向上とコスト低減を実現できる。さらに、圧電アクチュエータ44aとピペット保持部材を直接固定するため、圧電素子92とキャピラリ35との距離を短くすることが可能となる。この結果、インジェクション動作時には、より正確な穿孔動作が可能となり、圧電素子92による穿孔作用の向上を実現できる。
なお、上述の微動機構44は、細胞操作用のマニピュレータ16に設けられるとしているが、もちろん細胞保持用のマニピュレータ14にも設けても良く、省略することも可能である。
(マニピュレータシステムの制御)
次に、上記のマニピュレータシステム10のコントローラ43による制御について図3〜図5を参照して説明する。図3は、図1のコントローラによる制御系要部を示すブロック図である。図4は、図3の表示部に表示される画面例を示す図である。図5は、図1、図3に示すジョイスティックの具体例を示す斜視図である。
図1、図3のコントローラ43は、演算手段としてのCPU(中央演算処理装置)及び記憶手段としてのハードディスク、RAM、ROMなどのハードウエア資源を備え、所定のプログラムに基づいて各種の演算を行い、演算結果に従って各種の制御を行うように駆動指令を出力する。すなわち、コントローラ43は、マニピュレータ14の駆動装置30、32、マニピュレータ16の駆動装置40、42、微動機構44の圧電素子92等を制御し、必要に応じて設けられたドライバやアンプ等を介してそれぞれに駆動指令を出力する。例えば、圧電素子92は、コントローラ43により制御される信号発生器95から信号を発生させアンプ96で増幅された電圧信号により駆動される。
また、コントローラ43には、情報入力手段としてキーボードの他にジョイスティック47、マウス43A、ボタン43B(図1)が接続されており、さらに、CRTや液晶パネルからなる表示部45が接続され、表示部45にはカメラ18で取得した顕微鏡画像や各種制御用画面等が表示されるようになっている。
また、コントローラ43は、マニピュレータ14、16を所定のシーケンスで自動的に駆動するようになっている。かかるシーケンス駆動は、所定のプログラムによるCPUの演算結果に基づいてコントローラ43が順次、それぞれに駆動指令を出力することで行われる。
図1のマニピュレータシステム10の操作のため、図1、図3、図5のように、コントローラ43に接続されたジョイスティック47を主に用いることができ、マニピュレータ14、16に対し1つずつ用意する。ジョイスティック47は、図5のように、複数のボタン47a〜47gとハンドル47hとを有する。ハンドル47hは、右方向R、左方向Lに傾斜させる(倒す)ことで図1の駆動装置30、40を駆動しマニピュレータ14、16をX軸方向、Y軸方向に駆動でき、回転させる(ひねる)ことで駆動装置32、42を駆動しZ軸方向に駆動できる。また、各ボタン47a〜47gに各機能の操作を割り当てることができ、例えば、ボタン47に図2の圧電アクチュエータ44a(微動機構44)の圧電素子92の操作を割り当てる。
上記構成において、インジェクション用マニピュレータ16を駆動するに際しては、ジョイスティック47のハンドル47hを操作して、X‐Y軸テーブル36とZ軸テーブル38を粗動駆動し、ピペット保持部材34をシャーレ22内の細胞に近づけて位置決めした後、微動機構44を用いてピペット保持部材34を微動駆動することができる。
具体的には、ピペット保持部材34にガラス製のキャピラリ35を装着するに際しては、顕微鏡作業箇所に配置されたシャーレ22からピペット保持部材34を退避させる状態になるように、マニピュレータ14、16を駆動する。これにより、ピペット保持部材34にキャピラリ35を装着する際、十分な作業スペースが得られる。
キャピラリ35をピペット保持部材34に装着した後は、ジョイスティック47の操作等に基づくコントローラ43からの指令により、マニピュレータ14を駆動し、キャピラリ35が装着されたピペット保持部材34を顕微鏡作業箇所であるシャーレ22に向けて移動させる。
キャピラリ35を顕微鏡作業箇所に移動させる際、1回目(初めての)の操作の場合、図4の切り替えボタン45cを操作し、画像表示部45aに表示される画像の顕微鏡視野倍率を低倍にし、マニピュレータ16の駆動装置40、42や微動機構44を駆動することで、顕微鏡20の視野内にキャピラリ35が確認でき次第、駆動装置40、42や微動機構44の駆動を停止する。
このあと、コントローラ43の画像処理を利用し、駆動装置40、42や微動機構44を駆動することで、顕微鏡20の視野内において、キャピラリ35を最適位置へ移動し、駆動装置40、42や微動機構44の駆動を停止する。このとき、1回目の操作の際に駆動した各テーブル36、38や微動機構44による移動量をコントローラ43に記憶させる。なお、上記キャピラリの最適位置への移動は、駆動装置40、42によるXYZの駆動系(X‐Y軸テーブル36、Z軸テーブル38)及び微動機構44の両方または一方を適宜用いる。
次に、マニピュレータ16を操作し、シャーレ22の交換あるいはキャピラリ35の交換が必要になった場合、駆動装置40、42や微動機構44を駆動し、顕微鏡作業箇所からキャピラリ35を退避させるための操作を行う。このときジョイスティック47の操作により、キャピラリ35をセッティングした位置まで駆動する。なお、ボタン43Bを用いて任意の位置まで退避するようにしてもよい。
一方、再度、顕微鏡作業箇所へキャピラリ35を移動する場合、1回目にセッティングした際の位置をコントローラ43が記憶しているため、マニピュレータ16で、容易にキャピラリ35の位置を調整することが可能になる。
キャピラリ35として、その形状が均一なものを使用する場合は、第1実施形態に係るマニピュレータ16を用いることで、従来のものよりも効率を向上させることができる。また、キャピラリ35の形状にばらつきがある場合でもピペット保持部材34を圧電アクチュエータ44aの駆動によって直線往復運動させることができるため、キャピラリ35の位置を微細に調整することができる。
また、キャピラリ35が細胞の挿入位置に位置決めされたときには、ジョイスティック47を操作して圧電素子92にインジェクション用の電圧を印加し、微動機構44を微動駆動することで、ピペット保持部材34によるインジェクション動作を行うことができる。この際、高剛性のばね要素である転がり軸受80、82で圧電素子92に予圧を負荷しているため、高い応答性を達成できる。
なお、上述のインジェクション用のキャピラリ35をインジェクション操作前に最適位置へ移動させてセッティングする際の動作について図6、図7に図示した。図6は、図1のインジェクション用のキャピラリの操作中におけるシャーレの底面に対する相対位置(a)〜(d)を概略的に示す図である。図7は、図6(c)のようにキャピラリがシャーレの底面に接触したときの圧電素子の電圧値の変化を示す図である。
[第2実施形態]
次に、図9及び図10を参照して、第2実施形態に係るマニピュレータシステム120について説明する。なお、第2実施形態では、第1実施形態と重複する記載を避けるべく、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。第2実施形態は、その微動機構144(圧電アクチュエータ144a)が、第1実施形態の微動機構44(圧電アクチュエータ44a)と一部異なる構成となっている。図9は、第2実施形態によるマニピュレータシステムに使用可能な微動機構(圧電アクチュエータ)の断面図である。
第2実施形態の微動機構144では、ピペット保持部材134の外周に中空部材135を設け、中空部材135を圧電アクチュエータ144aと一体にしたので、ピペット保持部材134と圧電アクチュエータ144aとを別体に分離して扱うことが可能である。図9において、図2と同等の部分は同一符号を付し、その詳細説明は省略する。
ピペット保持部材134は、その先端側(図9の左側、以下同様)にキャピラリ35が取り付け固定される。また、その後端側(図9の右側、以下同様)には卵や細胞等へのインジェクションのための溶液を送る不図示のチューブが接続されるためのノズルが、螺合等により固定されている。このチューブの他端には、流量調整用のポンプが接続されている。次に、ピペット保持部材134に取り付けられる圧電アクチュエータ144aについて説明する。
圧電アクチュエータ144aの中心軸を為す中空部材135の外周面には、転がり軸受80、82が嵌合される。この転がり軸受80の内輪80aは、中空部材135の外周面に形成された突き当り面135bに当接することにより位置決めされている。転がり軸受80、82の内輪80a、82aの間には、内輪間座184が備えられる。内輪間座184は中空部材135の外周面に嵌合している。転がり軸受80、82(内輪80a、82a)は、内輪82aの後端側から中空部材135にロックナット86を螺合することにより、軸方向に固定される。
圧電アクチュエータ144aのその他の部分は、図2と同様である。すなわち、転がり軸受80、82には、図2と同様に、その外輪80b、82bの外周面にハウジング48が嵌合される。外輪82bの軸方向後端側にスペーサ90、圧電素子92の順にハウジング48の内周面に配置され、蓋88を締めることによりこれらが固定される。このようにして、中空部材135と一体となった圧電アクチュエータ144aが構成される。
圧電アクチュエータ144aにピペット保持部材134を固定するため、中空部材135を、ピペット保持部材134の外周面に嵌合固定する。ピペット保持部材134の外周面は一部拡径し段差部134aが設けられている。中空部材135はこの段差部134aに対応する段差部135aを内径側に備え、両者を対向させることにより、軸方向に位置決めされる。軸方向に位置決めされた中空部材135は、止めねじ(不図示)によりピペット保持部材134に固定される。より詳細には、中空部材135の軸方向先端部(図9左側)のうち、ハウジング48から軸方向に突出した突出部135cには、径方向に貫通するねじ孔(不図示)が複数設けられている。この複数のねじ孔に複数の止めねじ(不図示)を螺合させ、ピペット保持部材134に接触させる。これにより、ピペット保持部材134は固定される。
微動機構144をこのような構成にすることにより、ピペット保持部材134と圧電アクチュエータ144aとを別体にすることが可能となる。この結果、微動機構144のメンテナンス性を向上することができる。また、中空部材135を止めねじで固定したので、中空部材135とピペット保持部材134との同軸度や相対位置を微調整することが可能となる。このような止めねじを中空部材135の突出部135cに設けたので、止めねじの取付、取外しが容易となるため、微動機構144のメンテナンス性を更に向上することができる。
また、図2の微動機構44の場合、ピペット保持部材34の先端から後端まで、広範囲のねじ加工を施す必要があるため、ピペット保持部材34が変形する可能性がある。これに対し、図3の微動機構144では、ピペット保持部材134にねじ加工をする必要はない。このため、ピペット保持部材134と中空部材135の加工による変形を抑制することが可能となる。
なお、上述の例では、中空部材135とピペット保持部材134とを止めねじにより固定するとしたが、これに限定されず、接着固定、圧入固定、螺合固定を用いても良い。また、上述の例では、段差部134a、135aにより軸方向の位置決めをするとしたが、これに限定されず、段差部134a、135aを設けずに、止めねじのみで軸方向位置を決めても良く、マーカーにより、大体の位置を示す構成としても良い。さらに、上述の例では、圧電アクチュエータ144aを組み立てた後、圧電アクチュエータ144aの一部をなす中空部材135とピペット保持部材134とを嵌合固定することとしたが、これに限定されない。すなわち、ピペット保持部材134に中空部材135を嵌合固定した後に、圧電アクチュエータ144aの他の構成要素を組み付けても良く、上述の効果は組立て手順によらない。しかしながら、組立て性を考慮した場合には、圧電アクチュエータ144aを組み立てた後、中空部材135とピペット保持部材134とを固定することが好ましい。
その他の構成及び作用効果は、図2の微動機構44と同様である。
次に、図10を参照し、図2及び図9に示す第1実施形態及び第2実施形態の微動機構44,144の先端にキャピラリ35を固定する方法について説明する。図10は、キャピラリの固定方法を示す断面図である。
図10に示す通り、ピペット保持部材34(134、以下同じ)の先端に、キャピラリ35を挿入するための拡径部34aが形成される。拡径部34aの内径は、キャピラリ35の外径よりも大きく設定されている。ピペット保持部材34の先端部の外周には、断面矢印状かつ内径側が円筒型に中空となっている保持部材136が嵌合している。キャピラリ35の後端側は、保持部材136とピペット保持部材34の拡径部34aに内包される。
保持部材136の内周面は、先端側の小径部136aと後端側の大径部136bとからなる。小径部136aはキャピラリ35の外径よりも僅かに大きい内径を有する。この小径部136aは、キャピラリ35を固定する際、径方向において、キャピラリ35を固定する大まかな位置にキャピラリ35を案内する。大径部136bはピペット保持部材34の外周面より僅かに大きい内径を有する。大径部136bの内周面は、二組の支持部材130を介して、キャピラリ35を支持している。この支持部材130は、二つのOリング138と、これを挟む二つのワッシャ137で構成される。この支持部材130を、キャピラリ35の外周面(大径部136bの内周面)上の軸方向に離れた二箇所に配置し、その間にスペーサ141を配置している。保持部材136の外周面のうち先端側は、後端側から先端側へ徐々に縮径するテーパ形状となっている。これにより、例えば、圧電アクチュエータ44a(144a)作動時、シャーレ22にと保持部材136とが接触し難くなる。また、保持部材136の外周面のうち後端側には雄ねじ加工がされている。
保持部材136の後端側には、円筒状のナット部材139が取り付けられている。ナット部材139の先端側内周面には雌ねじ加工がされており、保持部材136の雄ねじと螺合するようになっている。また、ナット部材139の後端側には縮径部139aが設けられる。この縮径部139aの内径は、ピペット保持部材34よりわずかに大きくなっている。ピペット保持部材34には、周方向溝が設けられ、この周方向溝に止め輪140が嵌め込まれている。縮径部139aの先端側端面は、この止め輪140と当接して抜け止めされている。この止め輪140の別例としてピペット保持部材34と一体の凸条が挙げられる。この場合、圧電アクチュエータ44a(144a)にピペット保持部材34を組み付ける前に、ナット部材139をピペット保持部材34の後端側から挿入しておく。
このような保持部材136、ナット部材139により、キャピラリ35は支持固定される。キャピラリ35の取り付け手順は次の通りである。まず、支持部材130とスペーサ141を組み付けた保持部材136にキャピラリ35を挿通する。この状態で、キャピラリ35は二組の支持部材130を構成するOリング138のみにより径方向に支持されている。一方で、ピペット保持部材34にナット部材139を取り付けた後、ピペット保持部材34に止め輪140を取り付ける。その後、保持部材136の後端側の支持部材130とピペット保持部材34の先端部とを接触させる。この状態で、ナット部材139と保持部材136とを螺合させる。これにより、保持部材136の螺合部において径方向に収縮する力が作用し、後端側の支持部材130のOリング138が径方向に潰れるように変形する。これにより、キャピラリ35は軸方向および径方向に固定され、キャピラリ35の支持固定が完了する。また、保持部材136とナット部材139との螺合により、ピペット保持部材34とキャピラリ35との接続部における気密性を確保することができる。このため、ピペット保持部材34と連結された前述の流量調整用ポンプで、キャピラリ35内の液体の流量調整を行うことが可能となる。
従来、Oリングを用いた支持部材一つのみでキャピラリを支持する構成が用いられている(例えば、「エッペンドルフ マイクロインジェクター FemtoJet(登録商標)express使用説明書」)。このような構成では、キャピラリを一箇所でのみ支持しているため、例えば、卵細胞への穿孔の際、圧電アクチュエータの駆動によりキャピラリに予期せぬ振動が発生し、細胞を傷つけたり、効率が下がる可能性がある。これに対し、図10に示した構成によれば、Oリング138を備える支持部材130が二つ用いられ、キャピラリ35が二点で支持されているので、圧電アクチュエータ44a、144aの駆動中にキャピラリ35が動くことが抑制される。この結果、細胞操作の際のキャピラリ35の低振動化を実現でき、穿孔性能・効率を従来と比較して向上することができる。
なお、上述した構成では、支持部材130を二つ用いることとしたが、これに限定されず、三つ以上用いても良い。さらに、一つの支持部材130を構成するOリング138の数は二つに限定されず、一つでもそれ以上でも良く、ワッシャ137を省略しても良い。また、支持部材130の構成部材もワッシャ137とOリング138に限定されず、キャピラリ35を支持できる構成であれば適用することができる。
[第3実施形態]
次に、図11及び図12を参照して、第3実施形態に係るマニピュレータシステム200について説明する。なお、第3実施形態では、第2実施形態と重複する記載を避けるべく、第2実施形態と異なる部分についてのみ説明する。第2実施形態では、止めねじによりピペット保持部材134を中空部材135に固定したが、第3実施形態では、止めねじに代わる他の固定部材を用いて、ピペット保持部材234を中空部材235に固定している。図11は、第3実施形態によるマニピュレータシステムに使用可能な微動機構(圧電アクチュエータ)の斜視図である。図12は、第3実施形態によるマニピュレータシステムに使用可能な微動機構(圧電アクチュエータ)の断面図である。
第3実施形態の微動機構244では、ピペット保持部材234の外周に中空部材235を設け、中空部材235を圧電アクチュエータ244aと一体にしたので、ピペット保持部材234と圧電アクチュエータ244aとを別体にすることが可能である。図12において、図9と同等の部分は同一符号を付し、その詳細説明は省略する。
ピペット保持部材234は、その先端側(図12の左側、以下同様)にキャピラリ35が取り付け固定される。また、その後端側(図12の右側、以下同様)には卵や細胞等へのインジェクションのための溶液を送る不図示のチューブが接続されるためのノズルが、螺合等により固定されている。このチューブの他端には、流量調整用のポンプが接続されている。次に、ピペット保持部材234に取り付けられる圧電アクチュエータ244aについて説明する。
圧電アクチュエータ244aの中心軸を為す中空部材235の外周面には、転がり軸受80、82が嵌合される。中空部材235は、その内輪80aの先端側(図12の左側、以下同様)に、径方向外方に突出する突出部235aを有しており、突出部235aには、ロックナット236が突き当たる突き当り面235bが形成されている。転がり軸受80の内輪80aは、中空部材235の外周面に設けられたロックナット236に当接することにより位置決めされている。
転がり軸受80、82の内輪80a、82aの間には、内輪間座184が備えられる。内輪間座184は中空部材235の外周面に嵌合している。転がり軸受80、82(内輪80a、82a)は、内輪82aの後端側から中空部材235にロックナット237を螺合することにより、軸方向に固定される。
圧電アクチュエータ144aのその他の部分は、図9と同様である。すなわち、転がり軸受80、82には、図9と同様に、その外輪80b、82bの外周面にハウジング48が嵌合される。外輪82bの軸方向後端側にスペーサ90、圧電素子92の順にハウジング48の内周面に配置され、蓋88を締めることによりこれらが固定される。このようにして、中空部材235と一体となった圧電アクチュエータ144aが構成される。
圧電アクチュエータ244aにピペット保持部材234を固定するため、中空部材235の先端側には、固定部材としてのクランピング240が設けられている。中空部材234とクランピング240とは一体に設けられている。クランピング240は、両端面が所定の隙間を空けて対向する断面C型形状となっている。クランピング240は、締結ねじ241を有しており、締結ねじ241が締められ、両端面が近づく方向に移動することで、ピペット保持部材234が挿通される内周面を狭める。一方、クランピング240は、締結ねじ241が緩められ、両端面が遠くなる方向に移動することで、ピペット保持部材234が挿通される内周面を広める。これにより、中空部材235に挿通されたピペット保持部材234は、中空部材235に連なるクランピング240の締結ねじ241が締められることで、クランピング240の内周面に保持され、クランピング240を介して中空部材235に固定される。
微動機構244をこのような構成にすることにより、ピペット保持部材234と圧電アクチュエータ244aとを別体にすることが可能となる。この結果、微動機構244のメンテナンス性を向上することができる。また、中空部材235に対しピペット保持部材234をクランピング240で固定したので、中空部材235とピペット保持部材234との同軸度や相対位置を微調整することが可能となる。また、圧電アクチュエータ244aを、ピペット保持部材234の軸方向において所定の位置に固定することが可能となる。このため、キャピラリ35と圧電素子92とが近接するように、圧電アクチュエータ244aをピペット保持部材234に固定することができる。このように、キャピラリ35と圧電素子92と近接させることで、圧電素子92による穿孔作用をより向上させることが可能となる。
また、第3実施形態の微動機構244でも、ピペット保持部材234にねじ加工をする必要がないため、ピペット保持部材234と中空部材235の加工による変形を抑制することが可能となる。その他の構成及び作用効果は、図9の微動機構144と同様である。
なお、第3実施形態では、クランピング240として、断面C型形状のクランピングを用いたが、この構成に限らず、例えば、図13及び図14に示す変形例に係るクランピングを用いてもよい。ここで、図13及び図14を参照して、変形例に係るクランピング250について説明する。図13は、第3実施形態の変形例に係る微動機構(圧電アクチュエータ)の斜視図である。図14は、第3実施形態の変形例に係る微動機構(圧電アクチュエータ)の断面図である。
中空部材235の先端側に設けられる、固定部材としてのクランピング250は、円環形状を2分割したカップリング型のクランピングである。つまり、クランピング250は、一方の分割部材250aと、他方の分割部材250bと、これら分割部材250a、250bを締結する2つの締結ねじ251とを有する。一方の分割部材250aは、中空部材234と一体に設けられ、他方の分割部材250bは、一方の分割部材250aに対して離接方向に移動自在に設けられている。一方の分割部材250aと他方の分割部材250bとの間には、ピペット保持部材234が配置される。クランピング250は、2つの締結ねじ251が締められると、一方の分割部材250aに対して他方の分割部材250bが近づく方向に移動することで、ピペット保持部材234を挟む。一方、クランピング250は、2つの締結ねじ251が緩められると、一方の分割部材250aに対して他方の分割部材250bを開放する方向に移動することで、ピペット保持部材234を開放する。これにより、中空部材235に挿通されたピペット保持部材234は、中空部材235に連なるクランピング250の締結ねじ251が締められることで、クランピング250に保持され、クランピング250を介して中空部材235に固定される。
このようなクランピング250であっても、上記のように、ピペット保持部材234と圧電アクチュエータ244aとを別体にすることが可能となる。この結果、微動機構244のメンテナンス性を向上することができる。また、中空部材235に対しピペット保持部材234をクランピング250で固定したので、中空部材235とピペット保持部材234との同軸度や相対位置を微調整することが可能となる。また、圧電アクチュエータ244aを、ピペット保持部材234の軸方向において所定の位置に固定することが可能となる。このため、キャピラリ35と圧電素子92とが近接するように、圧電アクチュエータ244aをピペット保持部材234に固定することができる。このように、キャピラリ35と圧電素子92と近接させることで、圧電素子92による穿孔作用をより向上させることが可能となる。
[第4実施形態]
次に、図15から図21を参照して、第4実施形態に係るマニピュレータシステム300について説明する。第4実施形態では、第1実施形態から第3実施形態に係るマニピュレータシステム1、120、200におけるマニピュレータの動作を詳細に説明する。なお、第4実施形態では、第1実施形態に適用して説明すると共に、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。図15は、第4実施形態によるマニピュレータシステムの構成を概略的に示す図である。
第4実施形態のマニピュレータシステム300は、上記の一対のマニピュレータ14、16と、試料ステージ321と、顕微鏡ユニット325と、光源部326と、これらを制御するコントローラ343を備える。
顕微鏡ユニット325は、対物レンズ322a等から構成されて顕微鏡機能を有する顕微鏡322と、撮像素子としてのカメラ323と、自動による合焦動作が可能な焦点合わせ機構324とを備える。顕微鏡322は、対物レンズ322aが観察対象物である試料を収容するシャーレ22の下方に位置する倒立型顕微鏡で構成されている。焦点合わせ機構324は、自動で合焦動作を行うように構成してもよく、あらかじめ、あるいは作業中に記憶させた焦点位置情報に基づいて合焦動作を行えるようにしておいても良い。
試料ステージ321は、ガラス材料等の透光性材料からなるシャーレ22などが載置されるとともに、XY軸の平面方向に電動で駆動可能なようにX‐Y軸テーブルから構成され、駆動装置321a(図17)の駆動によりX軸、駆動装置321b(図17)の駆動によりY軸に沿ってそれぞれ移動可能になっている。
また、光源部326は、試料ステージ321上のシャーレ22の直上に位置するように配置され、シャーレ22内の試料に向けて光を照射する。
試料ステージ321上のシャーレ22内の試料に光源部326から光が照射され、シャーレ22内の試料を透過した光が顕微鏡322に入射すると、微小対象物に関する光学像が顕微鏡322で所定倍率に拡大されてカメラ323で撮像され、カメラ323の撮像による画像を基に試料を観察することができる。このとき、試料ステージ321をXY軸の平面方向に駆動することで、シャーレ22内の試料または微小対象物を観察に適した位置にセットすることができる。
(マニピュレータの構成)
図16は、図15のマニピュレータの構成を概略的に示す図である。
図16に示すように、マニピュレータ14は、第1実施形態と略同様の構成であるため、一部説明を省略する。なお、ピペット24のキャピラリ25と反対側の端部には、シリンジポンプ329(図17)とピペット24とを連結する不図示のチューブ等が取り付けられている。
ピペット24は、Z軸テーブル28に連結され、Z軸テーブル28は、X‐Y軸テーブル26上に上下動自在に配置され、駆動装置30、32はコントローラ(パーソナルコンピュータ(図4におけるPC))343に接続されている。ピペット24は、X‐Y軸テーブル26とZ軸テーブル28の移動にしたがって3次元空間を移動領域として移動し、シャーレ22内の微小対象物(細胞、卵、精子等)を保持するように構成されている。
マニピュレータ16も、第1実施形態と略同様の構成であるため、一部説明を省略する。なお、ピペット保持部材34のキャピラリ35と反対側の端部には、注入ポンプ339(図17)とピペット34とを連結する不図示のチューブ等が取り付けられている。
ピペット保持部材34は、Z軸テーブル38に連結され、Z軸テーブル38は、X‐Y軸テーブル36上に上下動自在に配置され、駆動装置40、42は、コントローラ43に接続されている。ピペット保持部材34は、X‐Y軸テーブル36とZ軸テーブル38の移動にしたがって3次元空間を移動領域として移動し、注入ポンプ339や圧電素子92を操作する等してキャピラリ35を操作することにより、シャーレ22内の試料または試料中の微小対象物(細胞、卵、精子等)に人工操作を行うように構成されている。
このように、ホールド用マニピュレータ14とインジェクション用マニピュレータ16とはほぼ同一構成となっている。なお、マニピュレータ14、16の微動機構44、144、244等の詳細な構成は、第1実施形態から第3実施形態に示す構成となっている。
(マニピュレータシステムの制御)
次に、上記のマニピュレータシステム300におけるコントローラ(パーソナルコンピュータ(PC))343による制御について図17を参照して説明する。図17は、図16のコントローラによる制御系要部を示すブロック図である。
図17のコントローラ343は、演算手段としてのCPU(中央演算処理装置)及び記憶手段としてのハードディスク、RAM、ROMなどのハードウエア資源を備え、所定のプログラムに基づいて各種の演算を行い、演算結果に従って制御部346が各種の制御を行うように駆動指令を出力する。すなわち、制御部346は、図15の顕微鏡ユニット325の焦点合わせ機構324、マニピュレータ14の駆動装置30、32、シリンジポンプ329、及び、マニピュレータ16の駆動装置40、42、注入ポンプ339、微動機構44の圧電素子92を制御し、必要に応じて設けられたドライバやアンプ等を介してそれぞれに駆動指令を出力する。
また、コントローラ343には、情報入力手段としてキーボードの他にジョイスティック347、マウス349、ボタン(不図示)、タブレット(不図示)等が接続されており、さらに、CRTや液晶パネルからなる表示部345が接続され、表示部345にはカメラ323で取得した顕微鏡画像や各種制御用画面が表示されるようになっている。
また、制御部346は、マニピュレータ14、16を所定のシーケンスで自動的に駆動するようになっている。かかるシーケンス駆動は、所定のプログラムによるCPUの演算結果に基づいて制御部346が順次、それぞれに駆動指令を出力することで行われ、例えば、シャーレ22内で複数の卵を操作する場合、マニピュレータ14、16が操作済みの卵と操作前の卵との区別のための操作を行うようになっている。
また、コントローラ343は、顕微鏡322を通してカメラ323で撮像した顕微鏡視野の画像信号が入力する画像入力部382と、画像入力部382からの画像信号の画像処理を行う画像処理部383と、画像処理前後の画像情報が表示部345へと出力する画像出力部384と、カメラ123で撮像された操作対象物の卵の核等の位置やキャピラリ25、35との位置等を画像処理後の画像情報に基づいて検出するための位置検出部385と、を備え、各部382〜385が制御部346により制御されるようになっている。
画像処理部383は、例えば、検出対象物の位置を検出するためにエッジ抽出処理やパターンマッチングを行い、その処理結果に基づいて位置検出部385が微小対象物やキャピラリ25、35の位置を検出し、それらの検出位置、あるいはそれらの検出位置情報と、あらかじめ設定もしくは作業中に設定された位置情報に基づいてキャピラリ25、35等の駆動が制御される。
また、表示部345には、カメラ323で撮像したキャピラリ25、35の画像を含めた微小対象物の顕微鏡画像や演算結果に関する情報などが表示される。
コントローラ343は、コントローラ343に接続されたジョイスティック347等を操作することにより、試料ステージ321の駆動装置321a、321bの駆動を制御し、試料ステージ321をXY軸方向に移動させる。また、コントローラ343は、コントローラ343に接続されたジョイスティック347等を操作することにより、試料ステージ321を制御し、マニピュレータ14、16をそれぞれ駆動してキャピラリ25、35を所定位置にセットしたとき、その操作の際に駆動した各駆動装置321a、321b、30、32、49、42及び圧電アクチュエータ44a、144a、244a(圧電素子92)の駆動量を記憶する。または試料ステージ321、マニピュレータ14、16のX、Y、Z各軸の移動量を記憶する。このとき、駆動量、移動量あるいは移動した位置を所定の基準位置からのX、Y座標として記憶しておいてもよい。例えば、コントローラ343がキャピラリ25、35の第2の位置を記憶することで、キャピラリ25、35が第2の位置から離れた第1の位置または第3の位置に移動した後、ジョイスティック347などの操作指示によって第2の位置に復帰できる。
なお、キャピラリ25、35の各位置とは、シャーレ22内の特定位置に対する相対位置であり、試料ステージ321はその上に載るシャーレ22をXY軸の平面方向に移動させることでキャピラリ25、35を各位置間で相対的に移動させる。
また、試料ステージ321は、図17の破線のように、そのX‐Y軸テーブルのX軸方向及びY軸方向の各位置を検出するエンコーダ等から構成された位置センサ321cを備えてもよい。位置センサ321cにより上記キャピラリ25、35の各位置を検出して得られたXY座標情報をコントローラ343が記憶し、かかるXY座標情報に基づいてコントローラ343の制御により試料ステージ321がキャピラリ25、35を第1位置、第2位置、第3位置へと移動させる。
第4実施形態のマニピュレータシステム300は、カメラ323による画像をコントローラ343の表示部345で確認しながら顕微鏡322に装着されたマニピュレータ14、16及び試料ステージ321をジョイスティック347などの操作により駆動する。
マニピュレータシステム300により、インジェクション操作を行う際、シャーレ22を試料ステージ321上にセットした状態で、試料ステージ321を駆動し、他の培地の位置情報をコントローラ343に記憶する操作を行う。この位置記憶操作はインジェクション操作中にも行うことが可能で、記憶位置はその都度変更することが可能である。
(ジョイスティックの構成及び操作例)
次に、図17のコントローラに接続される操作手段としてのジョイスティック347及びその操作例について図18を参照して説明する。図18は、図17に示すジョイスティックの具体例を示す斜視図である。なお、図18のジョイスティック347は、マニピュレータシステム300の構成に対応しており、図5のジョイスティック47と一部構成が異なっている。
図15、17の顕微鏡ユニット325、マニピュレータ14、16の各動作は、ジョイスティック347の操作による入力情報に基づいて図17の制御部346により制御される。第4実施形態では、ジョイスティック347はホールド用マニピュレータ14及びインジェクション用マニピュレータ16に対しそれぞれ1つずつ用意されいる例を説明するが、1つのジョイスティックで顕微鏡ユニット325、マニピュレータ14、16の操作を行っても良いし、3本以上のジョイスティックで操作をするもの、あるいはコントローラ343と接続されたマウス349、キーボード、タブレット等(以下、ジョイスティック347を含めたこれらを操作部と呼ぶ)を併用するものであっても良い。
図18のように、ジョイステイッック347は、基台から直立し操作者により掴まれて右側R、左側Lに傾斜するように、また、ねじるように操作可能な本体部(ハンドル)347eと、その上部に並んで配置された第1、第2及び第3押しボタンスイッチ347a、347b、347cと、さらにその上部に配置された4方向や8方向等の多方向ハットスイッチ347dと、押しボタンスイッチ347a〜347cの反対側に配置されたトリガスイッチ347gと、レバー347hとを備えている。
図18のジョイスティック347の押しボタンスイッチ347a〜347c、多方向ハットスイッチ347d、本体部347e、トリガスイッチ347g、レバー347hには、それぞれ、顕微鏡ユニット325の焦点合わせ機構324、各マニピュレータ14、16のX-Y軸テーブル26、36、Z軸テーブル28、38の駆動装置30、32、40、42、シリンジポンプ329、注入ポンプ339の押し子(不図示、以下インジェクタと呼ぶ)、圧電素子92、試料ステージ321の駆動装置321a、321bの各駆動の操作機能が割り当てられている。例えば、トリガスイッチ347gを引きながら本体部347eを右側R、左側Lに傾斜させることでマニピュレータ14、16のXY駆動を行うことができ、本体部347eをねじることでZ駆動を行うことができるようにする。
また、ホールディング用マニピュレータ14に関しては、多方向ハットスイッチ347dの上方向、下方向ボタンを押すと、焦点合わせ機構324が駆動し、顕微鏡322の焦点合わせができ、右方向、左方向ボタンを押すと、卵等の操作対象物に対するXY平面回転、YZ平面回転を行うことができ、また、押しボタンスイッチ347b、347cはシリンジポンプ329の駆動調整のためのものであり、押しボタンスイッチ347b、347cの1つを押すと、シリンジポンプ329によるホールディングキャピラリ25の吸引圧(陰圧)を調節できる。また、例えば、押しボタンスイッチ347aを用いて、マニピュレータ14、16に対し自動でシーケンス駆動を行わせることができる。また、コントローラ343は、顕微鏡322の焦点合わせに関連する各部位の位置情報を移動量あるいは座標等として記憶しておくこともできる。
また、インジェクション用マニピュレータ16に関しては、多方向ハットスイッチ347dを用いてモータ駆動によるXY平面における微動を制御でき、押しボタンスイッチ347b、347cはそれぞれ注入ポンプ339の吸引、吐出動作(押し子(インジェクタ)を入れる、抜く)に対応しており、押しボタンスイッチ347aはインジェクタの往復運動の入切のためのものである。
レバー347hは、図の方向A、その反対の方向Bへと回動し、方向Aに回動した上端位置、方向Bに回動した下端位置、それらの中間位置に切り換え可能である。レバー347hの切り換えスイッチは、インジェクタの往復運動の振幅に対応している。なお、レバー347hの切り換えは3段階に限らず、2段階や4段階以上、無段階としても良い。
図18のジョイスティック347における上記押しボタンスイッチ等の操作により、マニピュレータ14が駆動され、そのキャピラリ25がシャーレ22上の微小対象物(卵等)を保持し、また、その保持の吸引圧(陰圧)が制御される。
また、ジョイスティック347における上記押しボタンスイッチ等の操作により、マニピュレータ16の圧電アクチュエータ44a、144a、244aが駆動され、そのキャピラリ35の先端がインジェクション方向に直線的に変位し、微小対象物(卵等)に挿入されたキャピラリ35から所定の溶液(精子を含む懸濁培養液等)がインジェクタの駆動により微小対象物(卵等)に対しインジェクションされる。さらに必要であれば、そのキャピラリ35の駆動の間または駆動の後に、穿孔用電圧が圧電素子92に印加され、圧電素子92が駆動され、キャピラリ35が微小対象物に接近または当接した位置で微小量の移動を行うことで卵に対する穿孔動作を行い、挿入されたキャピラリ35から前記所定の溶液がインジェクタの駆動により微小対象物に注入(インジェクション)される。その後、キャピラリ35を微小対象物内の位置から抜くように駆動する。また、キャピラリ35内に詰まりが生じた場合、または詰まりが生じる懸念のある場合には、押しボタンスイッチ347aを押すことにより、インジェクタを往復運動させ、キャピラリ35内の溶液を周期的に吸引・吐出させることができる。
(マニピュレータの動作)
次に、図19、図20を参照して上述のマニピュレータシステム300の動作の一例について説明する。図19は、マニピュレータに装着された各キャピラリと微小な操作対象物(卵、精子)との各位置関係(a)〜(h)を示す図である。図19は、ホールド用のキャピラリ25が保持した卵Dにインジェクション用のキャピラリ35が接近した状態(a)、キャピラリ35が卵Dの透明帯Tを穿孔した状態(b)、透明帯穿孔後キャピラリ35を卵Dから抜いた状態(c)、精子サンプリングモードに変更した状態(d)、キャピラリ35を操作し、精子Uをサンプリングしている状態(e)、精子Uのサンプリングを完了した状態(f)を示す。また、試料ステージ321を駆動していない図19(e)、(f)に対し、図19(g)、(h)はそれぞれ、精子Uのサンプリングの際に試料ステージ321を駆動した場合における、精子Uをサンプリングしやすい位置に移動した状態(g)及びその移動後サンプリングを完了した状態(h)を示している。
図20は、図19の精子サンプリング完了後の各状態(a)〜(d)を示す図である。 図20は、図19の精子Uのサンプリング完了後、キャピラリ35を透明帯穿孔位置に戻しインジェクションモードに変更した状態(a)、透明帯穿孔位置からキャピラリ35が卵Dの細胞質S内に刺し込まれた状態(b)、精子Uを細胞質S内に注入した状態(c)及び卵Dからキャピラリ35を抜いた状態(d)を示す図である。
まず、図19(a)のように、ホールド側マニピュレータ14をジョイスティック347を用いて操作し、キャピラリ25により陰圧で卵Dを保持する。なお、図19(a)において太線で示す位置が焦点を合わせたZ軸(上下)位置であり、以下の図においても同様である。
次に、図19(b)のように、マニピュレータ16をジョイスティック347を用いて操作し、キャピラリ35をインジェクション位置へ移動し、図2の圧電素子92を駆動して卵Dの透明帯Tを穿孔した後、図19(c)のように、キャピラリ35を卵Dからいったん抜く。このとき、卵Dの透明帯Tには穿孔した穴T1が形成される。
次に、コントローラ343を操作部によりを操作し、図19(d)のように、精子サンプリングモードに変更し、精子サンプリング操作を開始するが、このとき、焦点合わせ機構324の位置、インジェクション側・ホールド側の各マニピュレータ14、16のXYZ軸の位置、試料ステージ321のXY軸の位置をコントローラ343が記憶する。この記憶は、例えば、図18のジョイスティック347の操作により実行される。
その後、図19(d)のように精子Uに顕微鏡322の焦点が合う位置まで自動で焦点合わせ機構324及びマニピュレータ16のZ軸を駆動する。シャーレ22の底面22aから透明帯穿孔位置(穴T1の位置)までの高さはおおよそ一定のため、この位置はコントローラ343により卵Dに焦点が合っている位置から算出した位置を用いることができる。
次に、図19(e)のように、インジェクション側マニピュレータ16のXYZ軸方向移動でキャピラリ35を操作して精子Uをサンプリングする。そして、図19(f)のように、サンプリングする精子Uをキャピラリ35の先端近傍に保持することで、精子のサンプリングが完了する。
また、この精子のサンプリングのとき、図19(g)のように、試料ステージ321を駆動するとともにそれと同期して同じ移動量だけホールド側マニピュレータ14もXY軸方向に移動するように駆動しても良い。この場合、試料ステージ321とマニピュレータ14の移動後、サンプリング操作して精子Uのサンプリングが完了する(図19(h))。
次に、上述のように精子Uをサンプリングしてキャピラリ35内に保持した後、コントローラ343をジョイスティック347により操作し、図20(a)のように、精子インジェクションモードに変更する。そして、コントローラ343を操作し、インジェクション側マニピュレータ16をXYZ軸方向に自動で駆動することで、キャピラリ35が図19(d)で記憶した透明帯穿孔位置へ戻り、同時に焦点合わせ機構324を同じく記憶した位置へ駆動する。
このとき、図19(g)のように試料ステージ321も駆動しているのであれば、ホールド側マニピュレータ14及び試料ステージ321を前に記憶した位置へ移動させる。このように、精子サンプリング操作中に試料ステージ321とホールド側マニピュレータ14のXY軸は同期して同じ移動量で駆動しているため、精子サンプリング後、キャピラリ35が透明帯穿孔位置へ戻った場合、穿孔した穴T1に対しずれてしまうことを防ぐことが可能となる。
次に、図20(b)のように、圧電素子92を駆動しキャピラリ35で穿孔した穴T1から細胞膜を穿孔し、キャピラリ35を細胞質S内に刺し込む。次に、図20(c)のようにキャピラリ35から精子Uを細胞質S内にインジェクション(注入)する。次に、図20(d)のようにキャピラリ35を卵Dから抜く。
この図20(b)の状態から図20(c)の状態にかけて、前述のようにジョイスティック347の押しボタン347aを押すことにより、インジェクタを往復運動させる。これにより、キャピラリ35内の溶液を吸引・吐出させることにより、図20(b)の矢印に示すように、精子Uをキャピラリ内で動かすことができる。この結果、精子Uがキャピラリ内で引っかかることを簡単に防止・解消できる。従来のマニピュレータの場合、押しボタン347b、347cを交互に押す等でしかこのような動作が出来ず、精子Uの引っかかりを防止・解消するためには、操作者の熟練が必要であった。これに対し、インジェクタをボタン一つで往復運動させることができるため、非熟練者であっても、容易に精子Uの引っかかりを防止・解消できる。
また、ジョイスティック347のレバー347hの位置を変えることにより、インジェクタの往復運動のストローク(振幅)を変更できる。一方で、往復運動の時間間隔T(往復周期)は、予め設定しておく。なお、往復運動時のインジェクタの移動速度は、精子Uを卵Dにインジェクション(注入)する場合、すなわち押しボタン347b(または347c)によりインジェクタを吐出操作する場合よりも、インジェクタの移動速度が速くなるように設定することが好ましい。
図21は、ジョイスティックの操作とそれに対するインジェクタ位置変化の関係一例を示す図である。図21(a)はレバー347hの位置(ストローク大小)とボタン347aの入切によるインジェクタ位置情報を示すグラフであり、図21(b)はインジェクタの位置変化に対応した精子Uの位置変化を示す図である。
この例では、まずレバー347hを操作してインジェクタの振幅(ストローク)を小さく設定し、押しボタン347aを押す。これにより、インジェクタは吸引側(図21(a)の下方向)に移動した後、吐出側(図21(a)の上方向)に移動する。ボタン347aを押している限り、この吸引・吐出の動作(インジェクタの往復運動)は継続する。ボタン347aを押す時間が前記予め設定した時間間隔Tより短い場合、インジェクタは吸引動作と吐出動作1度ずつ連続して行うのみである。
図21(a)の押しボタン347aの二度目の操作では、レバー347hを位置を変えて振幅の大きさを大きく設定し、予め設定した時間間隔Tよりも大きく長い時間押しボタン347aを押す。これにより、吸引・吐出の動作が繰り返される。図示の通り、予め設定した時間間隔Tとは、最初の吸引動作(または吐出動作)中のある位置にインジェクタがある時間と、2回目の吸引動作(または吐出動作)中に同じ位置にインジェクタがある時間との差である。このため、インジェクタの往復は連続したものとは限らず、吸引動作、吐出動作を1回ずつした後、次の吸引動作までにインジェクタが停止する場合もある。もちろん、吸引・吐出動作が繰り返し連続して行われるようにしても良い。
図21(a)における押しボタン347aの三度目の操作では、レバー347hの位置を変えて振幅の大きさを小さく設定し、予め設定した時間間隔よりも短い時間押しボタン347aを押す。これにより、吸引・吐出の動作が1度ずつ連続して行われる。
図21(b)は、この三度目の押しボタン347aの操作に対応した、キャピラリ35内の精子Uの位置を示している。図中の丸付き数字の1〜3は、図21(a)の丸付き数字の1〜3に対応している。往復運動中のインジェクタの移動速度は、図21(a)に示すように、吸引時よりも吐出時の方がインジェクタの移動速度が大きくなっている(インジェクタ位置情報のグラフの傾きが大きい)。このため、図21(b)に示す通り、同じ振幅で吸引と吐出を繰り返しても、吐出時の精子の移動量が、吸引時よりも大きくなる。この結果、吸引と吐出を繰り返し、精子の引っかかりを防止しながら、卵Dの細胞質S内にインジェクション(注入)することができる。
インジェクタの動作は、上述のものに限定されない。例えば、図22に示すように、押しボタン47b、47cによる、比較的緩やかな吸引・吐出動作と組み合わせても良い。図22は、ジョイスティックの操作とそれに対するインジェクタの位置変化の一例を示す図である。あるいは、吸引・吐出動作、すなわちインジェクタの往復運動の振幅、時間間隔、インジェクタの移動速度の何れか一つ、またはこれらの組合せをコントローラ343に数値入力するようにしても良く、図21、22の例とは吸引・吐出の動作順を逆にしても良い。さらに、インジェクタの動作全てを予め設定し、押しボタン347aを押すことによりインジェクタが動作するようにしても良く、インジェクタの動作と共に、圧電素子92に印加されるインジェクション電圧の大きさ、印加のタイミング等もインジェクタの動作に関連付けて予め設定を行うようにしても良い。
[第5実施形態]
次に、図23から図26を参照して、第5実施形態に係るマニュピレータシステム400について説明する。第5実施形態では、第1実施形態から第4実施形態で用いられるインジェクション側マニピュレータ16のキャピラリ35の太さに応じて、圧電素子92に印加する印加電圧を設定している。これは、キャピラリ35の先端側における太さ、または使用される各種試料(例えば、シャーレ22内の培地)等の消耗品の状態に応じて、圧電素子92の駆動条件が同じであっても、穿孔作用が異なる場合があるためである。この場合、わずかな穿孔作用の違いによって、インジェクション動作後における試料に対し影響を及ぼす場合がある。なお、第5実施形態では、第1実施形態に適用して説明すると共に、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。図23から図25は、第5実施形態によるマニピュレータシステムの表示部に表示される画面の一例を示す図である。
第5実施形態の表示部45に表示される画面、すなわちカメラ18で撮像した画面には、インジェクション側マニピュレータ16のキャピラリ35の他、キャピラリ35の太さ(大きさ)を計測するための計測用インジケータ410が表示される。つまり、コントローラ43には、計測用インジケータ410に関する表示情報が記憶されており、コントローラ43は、記憶された表示情報に基づいて、表示部45の画面上に計測用インジケータ410を表示させる。
計測用インジケータ410は、画面上において、長方形状に形成されており、外側の領域となる第2領域E2と、内側の領域となる第1領域E1とを有している。第2領域E2は、長辺方向において第1領域E1と同じ長さとなっており、短辺方向において第1領域E1よりも長くなっている。第1領域E1は、短辺方向において第2領域E2の中央に設けられている。第1領域E1は、短辺方向において第2領域E2よりも短く形成されている。
第1領域E1は、キャピラリ35の太さが標準範囲以下であるか否かを判定するための領域である。つまり、キャピラリ35の太さが、第1領域E1の短辺方向における長さ以下である場合、キャピラリ35は、標準範囲以下であると判定される。第2領域E2は、キャピラリ35の太さが標準範囲以上であるか否かを判定するための領域である。つまり、キャピラリ35の太さが、第2領域E2の短辺方向における長さ以上である場合、キャピラリ3は、標準範囲以上であると判定される。また、キャピラリ35の太さが、第1領域E1の短辺方向における長さよりも大きく、且つ、第2領域E2の短辺方向における長さよりも小さい場合、キャピラリ35は、標準範囲内であると判定される。
なお、計測用インジケータ410は、キャピラリ35の先端の太さを計測可能であれば、上記の構成に限定されない。例えば、計測用インジケータ410は、目盛りを付した物差であってもよい。
上記の計測用インジケータ410には、キャピラリ35が重ね合わされることで、キャピラリ35の太さが計測される。計測用インジケータ410とキャピラリ35とを重ね合わせる場合、計測用インジケータ410の長辺方向と、キャピラリ35の軸方向とが一致するように重ね合わされる。また、計測用インジケータ410の短辺方向の中心と、キャピラリ35の軸中心とが一致するように重ね合わされる。
なお、計測用インジケータ410とキャピラリ35とを重ね合わせる場合には、キャピラリ35をX‐Y軸テーブル36により適宜移動させて、計測用インジケータ410に重ね合わせてもよい。または、計測用インジケータ410とキャピラリ35とを重ね合わせる場合には、コントローラ43により計測用インジケータ410の表示位置を変更することにより、計測用インジケータ410を適宜移動させて、キャピラリ35に重ね合わせてもよい。
コントローラ43は、計測用インジケータ410とキャピラリ35とが重ね合わされ、重ね合わされた画面を画像処理することで、キャピラリ35の太さを判定する。具体的に、図23に示すように、計測用インジケータ410とキャピラリ35とを重ね合わせた結果、キャピラリ35が第1領域E1内に収まる場合、コントローラ43は、キャピラリ35の外径の長さが、第1領域E1の短辺方向における長さ以下であるとして、キャピラリ35が標準範囲以下であると判定する。
また、図24に示すように、計測用インジケータ410とキャピラリ35とを重ね合わせた結果、キャピラリ35が第1領域E1よりも大きく第2領域E2内に収まる場合、コントローラ43は、キャピラリ35の外径の長さが、第1領域E1の短辺方向における長さよりも長く、第2領域E2の短辺方向における長さよりも短いとして、キャピラリ35が標準範囲内であると判定する。
また、図25に示すように、計測用インジケータ410とキャピラリ35とを重ね合わせた結果、キャピラリ35が第2領域E2よりも大きい場合、コントローラ43は、キャピラリ35の外径の長さが、第2領域E2の短辺方向における長さ以上であるとして、キャピラリ35が標準範囲以上であると判定する。
そして、コントローラ43は、計測用インジケータ410を用いて判定されたキャピラリ35の太さに応じて、圧電素子92に印加する印加電圧を適宜設定する。具体的に、コントローラ43は、キャピラリ35が標準範囲内である場合、標準となる印加電圧(以下、標準(印加)電圧という)を、圧電素子92に印加して、微動機構44を駆動する。また、コントローラ43は、キャピラリ35が標準範囲以下である場合、標準印加電圧よりも大きい印加電圧を、圧電素子92に印加して、微動機構44を駆動する。このとき、コントローラ43は、標準印加電圧に、1よりも大きい第1ゲインを乗じることで、標準印加電圧よりも大きな印加電圧とする。さらに、コントローラ43は、キャピラリ35が標準範囲以上である場合、標準印加電圧よりも小さい印加電圧を、圧電素子92に印加して、微動機構44を駆動する。このとき、コントローラ43は、標準印加電圧に、1よりも小さい第2ゲインを乗じることで、標準印加電圧よりも小さな印加電圧とする。
次に、図26を参照して、圧電素子92に印加する印加電圧の設定に関するコントローラ43の制御について説明する。図26は、第5実施形態によるマニピュレータシステム400の制御に関するフローチャートの図である。なお、印加電圧の設定は、卵Dに精子Uをインジェクション(注入)する前に実行される。
先ず、コントローラ43は、計測用インジケータ410とキャピラリ35とが重なり合った表示部45の画面(例えば、図23から図25)を画像処理して、キャピラリ35が標準範囲以下であるか否かを判定する(ステップS1)。コントローラ43は、キャピラリ35が標準範囲以下であると判定する(ステップS1:Yes)と、標準印加電圧に第1ゲインを乗じた印加電圧を設定し(ステップS2)、印加電圧の設定に関する処理を終了する。そして、コントローラ43は、設定した印加電圧を圧電素子92に印加することで、微動機構44を駆動させる。このとき、圧電素子92に印加される印加電圧は、標準印加電圧よりも大きくなることから、圧電素子92は、その伸長が標準印加電圧を印加した場合に比して大きくなる。これにより、コントローラ43は、微動機構44によるキャピラリ35の操作量を大きくすることができる。
コントローラ43は、ステップS1において、キャピラリ35が標準範囲以下でないと判定する(ステップS1:No)と、キャピラリ35が標準範囲以上であるか否かを判定する(ステップS3)。コントローラ43は、キャピラリ35が標準範囲以上であると判定する(ステップS3:Yes)と、標準印加電圧に第2ゲインを乗じた印加電圧を設定し(ステップS4)、印加電圧の設定に関する処理を終了する。このとき、圧電素子92に印加される印加電圧は、標準印加電圧よりも小さくなることから、圧電素子92は、その伸長が標準印加電圧を印加した場合に比して小さくなる。これにより、コントローラ43は、微動機構44によるキャピラリ35の操作量を小さくすることができる。
コントローラ43は、ステップS3において、キャピラリ35が標準範囲以上でないと判定する(ステップS3:No)と、キャピラリ35が標準範囲内であるとして、標準印加電圧を設定する(ステップS5)。このとき、圧電素子92に印加される印加電圧は、標準印加電圧となることから、圧電素子92は、その伸長が予め設定された標準的なものとなり、微動機構44によるキャピラリ35の操作量が標準の操作量となる。
以上、第5実施形態によれば、キャピラリ35の太さに応じて、微動機構44の駆動条件を好適に設定し、微動機構44によるキャピラリ35の操作量を最適なものに変更することができる。このため、マニュピレータシステム400では、卵Dに対する精子Uのインジェクション操作を精度のよいものとすることができる。
なお、第5実施形態では、計測用インジケータ410を用いてキャピラリ35の先端の太さを計測した後、圧電素子92に印加する印加電圧を設定した。しかしながら、予めキャピラリ35の先端の太さが分かっている場合は、計測用インジケータ410によるキャピラリ35の先端の計測を行わずに、圧電素子92に印加する印加電圧を設定してもよい。すなわち、予めキャピラリ35の先端の太さが分かっている場合は、コントローラ43に、キャピラリ35の太さの情報を入力する。そして、コントローラ43は、入力されたキャピラリ35の太さの情報に基づいて、キャピラリ35が標準範囲以上であるか、標準範囲以下であるか、標準範囲内であるか、を判定する。
また、第1実施形態から第5実施形態に係るマニュピレータシステム1、120、200、300、400を相互に組み合わせた構成にしてもよい。