以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるアルミニウム空気電池の構成を示す構成図である。このアルミニウム空気電池は、よく知られたアルミニウム空気電池と同様に、正極でありガス拡散型の空気極101と、アルミニウムを含んで構成された負極102と、空気極101と負極102とに挾まれて配置された電解質103とを備える。空気極101の一方は大気に曝され、他方の面は電解質103と接する。また、負極102の、少なくとも空気極101の側の面は電解質103と接する。また、この例では、電解質103は、水溶液であり、負極102はこの水溶液中に浸漬されている。
上述した基本的な構成に加え、本発明の実施の形態では、電解質103が、以下の化学式で示されるサレンを配位子とした金属錯体(金属サレン錯体)が分散または溶解することで含まれている水溶液から構成されているところに大きな特徴がある。化学式において、Mが金属である。
金属サレン錯体の金属は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ru、またはRhのいずれかである。また、電解質103は、1種類の金属サレン錯体が含まれている水溶液から構成してもよく、また、複数種類の金属サレン錯体が含まれている水溶液から構成してもよい。
また、電解質103中の金属サレン錯体は、電解質103の重量を基準に、0.001重量%以上の濃度で添加され、好ましくは飽和濃度で存在するとよい。例えば、電解質103は、金属サレン錯体の飽和水溶液から構成されていればよい。なお、飽和濃度については、吸光度測定により求められる。電解質103中での金属サレン錯体濃度が高いほど優れた電池性能が得られるため、本発明では、金属サレン錯体は添加する電解質103に飽和濃度で添加されている(含まれている)ことが望ましい。
なお、電解質103を構成する水溶液は、例えば、酢酸(CH3COOH)、塩化水素(HCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)などの水溶液、あるいはこれらの中から二種類以上を混合した水溶液であればよい。本発明では、混合する場合の混合割合は、特に限定されない。
なお、アルミニウム空気電池の電解質は、一般に、電解液または固体電解質の場合がある。電解液とは、電解質が液体形態である場合をいう。また、固体電解質とは、電解質がゲル形態または固体形態である場合をいう。
次に、正極である空気極101について説明する。空気極101は、よく知られているように、導電性材料から構成され、また、必要に応じて触媒,結着剤などを添加して用いる。
空気極101を構成する導電性材料は、カーボンであることが好ましい。例えば、導電性材料は、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック類、活性炭類、グラファイト類、カーボンファイバー類、カーボンシート、カーボンクロスなどから構成すれば良い。これらのカーボンは、例えば市販品として入手可能であり、また合成することが可能である。
また、空気極101には、触媒が添加されているとよい。空気極101に添加する触媒は、酸化マンガン(MnO2)、ルテニウム酸化物(RuO2)などの酸素還元(放電)および酸素発生(充電)の両反応に対して高活性な、公知の酸化物触媒であれば特に限定されない。例えば、MnO2、Mn3O4、MnO、FeO2、Fe3O4、FeO、CoO、Co3O4、NiO、NiO2、V2O5、WO3などの単独酸化物、La0.6Sr0.4MnO3、La0.6Sr0.4FeO3、La0.6Sr0.4CoO、La0.6Sr0.4CoO3、Pr0.6Ca0.4MnO3、LaNiO3、La0.6Sr0.4Mn0.4Fe0.6O3などのペロブスカイト型構造を有する複合酸化物を用いることができる。これらの触媒は、固相法や液相法などの公知のプロセスを用いて合成することができる。
また、空気極101に添加される触媒として、中心金属にMn、V、Fe、Co、Ni、Wなどの遷移金属を少なくとも一種含むポルフィリンやフタロシアニンなどの大環状金属錯体も用いることができる。これらの金属錯体は、カーボンと混合後、不活性ガス雰囲気中で熱処理を行い活性化させてもよい。
空気極101に添加される触媒としては、上記の化合物系に限らず、Pd、Pt、Auなどの貴金属、およびMn、Co、Niなどの遷移金属の単体金属を用いてもよい。例えば、これらの金属をカーボン上に高分散担持させることにより高い活性を発現することができる。
空気極101では、電解質/電極触媒/ガス(酸素)の三相部分(三相界面)において電極反応が進行する。空気極101中に電解質103が浸透し、ここに大気中の酸素ガスが供給されることで、電解質−電極触媒−ガス(酸素)が共存する三相部位が形成される。電極触媒が高活性であれば、酸素還元(放電)および酸素発生(充電)が円滑に進行し、電池性能が大きく向上することになる。
空気極101での放電反応は次のように表すことができる。
4Al3++3O2+6H2O+3e-→4Al(OH)3・・・(1)
上式中のアルミニウムイオン(Al3+)は、負極102から電気化学的酸化により電解質103中に溶解し、電解質103中を空気極101の表面まで移動してきたものである。また、酸素(O2)は、大気(空気)中から空気極101の内部に取り込まれたものである。なお、負極102から溶解する材料(Al3+)、空気極101で析出する材料[Al(OH)3]、および空気(O2)を図1の構成要素と共に示した。
空気極101の電極触媒として用いることができる酸化物、特に酸化マンガン(MnO2)、酸化ルテニウム(RuO2)などは、マンガンおよびルテニウムが、+4、+3などの価数を有するイオンで存在しうる。また、これらの酸化物を合成する際の条件によっては、酸化マンガン、酸化ルテニウム等の酸化物内に酸素を取り込むことができる空孔(本明細書では酸素空孔とも称する)が存在し、活性サイトとして機能すると考えられる。このため、このような酸化物触媒は、正極活物質である酸素との相互作用が強く、多くの酸素種を酸化物表面上に吸着でき、または酸素空孔内に酸素種を吸蔵することができる。
このように、酸化物表面上に吸着された、または酸素空孔内に吸蔵された酸素種は、上記式(1)の酸素源(活性な中間反応体)として酸素還元反応に使用され、上記反応が容易に進むようになる。このように、酸化マンガン、酸化ルテニウムなどの酸化物は、電極触媒として有効に機能する。
アルミニウム空気電池では、電池の効率を上げるために、電極反応を引き起こす反応部位[電解質/電極触媒/空気(酸素)の三相部分]がより多く存在することが望ましい。このような観点から、上述の三相部位が電極触媒表面に多量に存在することが重要であり、使用する触媒は比表面積が高い方が好ましい。例えば、焼成後の空気極101における比表面積は、10m2/g以上であることが好適である。
次に、空気極101に添加可能な結着剤(バインダー)について説明する。結着剤は、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリブタジエンゴムなどを例として挙げることができる。これらの結着剤は、粉末としてまたは分散液として用いることができる。
ここで、空気極101の作製について、簡単に説明する。まず、触媒である酸化物粉末、カーボン粉末およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)のようなバインダー粉末を所定量混合し、この混合物をチタンメッシュなどの支持体上に圧着することにより、空気極101を成形することができる。
また、前述の混合物を有機溶剤等の溶媒中に分散してスラリー状にし、金属メッシュまたはカーボンクロスやカーボンシート上に塗布して乾燥することによって、空気極101を形成することができる。また、電極の強度を高め電解質の漏洩を防止するために、冷間プレスだけでなく、ホットプレスを適用することによっても、より安定性に優れた空気極101を作製することができる。
空気極101中での触媒含有量は、空気極101の重量を基準に、例えば0を越え、100重量%以下であることが望ましい。空気極101における他の成分の割合は、従来のアルミニウム空気電池と同様である。
次に、負極102について説明する。負極102は、負極活物質を含んで構成されている。負極活物質は、アルミニウム空気電池の負極材料として用いることができる材料であれば特に制限されない。例えば負極活物質は、金属アルミニウムである。また、負極活物質は、アルミニウム含有物質として、アルミニウムイオンを放出および吸蔵することができる物質であるアルミニウムと、シリコンまたはインジウム、ガリウムなどとの合金であってもよい。
負極102は、公知の方法で作製することができる。例えば、アルミニウム金属を負極102とする場合には、複数枚の金属アルミニウム箔を重ねて所定の形状に成形することで、負極102を作製すればよい。
なお、上記のシリコンまたはインジウム、ガリウム等の合金を負極102として用いる場合、負極102を作製する時にリチウムを含まないシリコンまたはインジウム、ガリウム等などを用いることもできる。しかし、この場合には、アルミニウム空気電池の作製に先立って、化学的手法または電気化学的手法(例えば、電気化学セルを組んで、アルミニウムとシリコンまたはインジウム、ガリウムなどとの合金化を行う方法)によって、シリコンまたはインジウム、ガリウムなどが、アルミニウムを含む状態にあるように処理しておく必要がある。
ここで、金属アルミニウムから構成した負極102における放電時の反応は、以下のように表すことができる。
Al→Al3++3e-・・・(2)
なお、アルミニウム空気電池は、上記構成に加え、セパレータ、電池ケース、金属メッシュ(例えばチタンメッシュ)などの構造部材、また、アルミニウム空気電池に要求される要素を含むことができる。これらは、従来公知のものを使用することができる。
例えば、アルミニウム空気電池は、図2に示すように構成することができる。このアルミニウム空気電池は、空気極201,負極202,電解質203,セパレータ204,空気極支持体205、空気極固定用リング206,負極固定用リング207,負極固定用座金208,負極支持体209,固定ねじ210,Oリング211,空気極端子221,負極端子222を備える。
空気極201,負極202,電解質203,セパレータ204は、円筒形状の空気極支持体205に収容されている。空気極支持体205は、円筒内中央部に仕切り251があり、仕切り251により空気極201が配置される第1領域205aと、負極202およびセパレータ204が配置される第2領域205bとに区画されている。また、仕切り251は中央部が開口しており、開口部により第1領域205aと第2領域205bが連通している。
液状の電解質203は、仕切り251の開口に配置され、空気極201および塩橋となるセパレータ204に挟まれている。セパレータ204には電解質203が含浸している。なお、セパレータ204の周囲にも電解質203は配置されている。電解質203は、金属サレン錯体が含まれたNaOH水溶液である。
また、空気極201は、ポリテトラフルオロエチレン (PTFE)より構成された空気極固定用リング206と仕切り251とに挟まれて、空気極支持体205の円筒内の第1領域205aに固定されている。空気極固定用リング206の開口内において、空気極101と空気との接触する電極の有効面積は、2cm2とされている。一方、セパレータ204は、PTFEより構成された負極固定用リング207と仕切り251とに挟まれて、空気極支持体205の円筒内の第2領域205bに固定されている。このようにして、液状の電解質203が、仕切り251の開口において空気極201とセパレータ204との間に封入されている。
また、負極202は、負極固定用リング207の内部で、負極固定用座金208が積層され、この上に金属から構成された負極支持体209が被せられている。負極202は、複数枚の金属アルミニウム箔が同心円上に重ねられて構成され、負極固定用座金208に圧着されている。負極202は、有効面積が2cm2とされている。負極支持体209は、固定ねじ210により空気極支持体205に固定されている。また、空気極支持体205と負極支持体209との間には、Oリング211が配置されている。
固定ねじ210により空気極支持体205の側に押しつけられている負極支持体209により、負極固定用座金208を介し、負極202がセパレータ204の方向に押圧され、セパレータ204に圧接されている。これら構成としたアルミニウム空気電池は、露点が−60℃以下の乾燥空気中で作製した。
なお、空気極支持体205は、金属から構成されているが、図示していないが、PTFEに被覆され、電解質203,セパレータ204などと絶縁分離されている。なお、空気極201と空気極支持体205が接触する部分は、電気的接触をとるためにPTFEによる被覆を施さない。また、金属から構成された固定ねじ210も、図示していないが、PTFEに被覆され、空気極支持体205と負極支持体209とが、電気的に分離された状態としている。
以下、実施例を用いて詳細に説明する。
[セル作製]
以下の各実施例では、図2を用いて説明した円柱形のアルミニウム空気電池セルを作製した。
まず、空気極用の触媒として公知であるルテニウム酸化物(RuO2)を用い、アルミニウム空気電池セルを以下の手順で作製した。ルテニウム酸化物(RuO2)は市販試薬(Aldrich社製)を用いた。
ルテニウム酸化物(RuO2)粉末、ケッチェンブラック粉末、およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)粉末を、10:72:18の重量比で、ミキサーを用いてN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)に十分混合し、スラリーを作製した。このスラリーを直径17mmのカーボンシートに塗布し、90℃の真空乾燥機に入れ、一晩乾燥させ、ガス拡散型の空気極201を作製した。
次に、アルミニウム空気電池セルを、以下の手順で作製した。作製した空気極201を、空気極支持体205の第1領域205aにおいて、仕切り251に接する状態に配置して空気極固定用リング206で固定した。空気極201と空気極支持体205が接触する部分は、電気的接触をとるためにPTFEによる被覆を施していない。
次に、空気極支持体205の第2領域205bにおいて、仕切り251に接する状態にセパレータ204を配置した。次に、負極固定用リング207に負極202として所定枚数の金属アルミニウム箔(有効面積:2cm2)を同心円上に重ねて圧着した。次に、負極固定用リング207を、空気極支持体205の第2領域205bに配置し、この中央部に、負極202が圧着された負極固定用リング207を勘合した。
次に、空気極201と負極202との間に電解質203を構成する電解液を充填し、この状態で、空気極支持体205の底面にOリング211を配置して負極支持体209を被せ、固定ねじ210で空気極支持体205に固定した。電解液としては、金属サレン錯体が含まれたNaOH水溶液を用いた。この後、空気極端子221を空気極支持体205に接続して固定し、負極端子222を負極支持体209に接続して固定した。
[実施例1]
実施例1では、金属サレン錯体としてコバルトサレン錯体を用いた。実施例1では、コバルトサレン錯体を含むNaOH水溶液から電解質が構成されている。
市販されているコバルトサレン錯体(Aldrich社製)を、水酸化ナトリウム水溶液に混合した。混合する際、超音波洗浄機を用いて最大出力で約2時間の分散を行った。コバルトサレン錯体は、混合重量9.8重量%(飽和濃度)の重量を水酸化ナトリウム水溶液に混合した。なお、飽和濃度は、溶解(分散)し切れない程のコバルトサレン錯体を水酸化ナトリウム水溶液と混合し、上澄み液の吸光度を測定することにより導出した。
コバルトサレン錯体による電解液を用いた実施例1のアルミニウム空気電池について、電流密度10mA/g、50mA/g、100mA/gの各条件で通電した場合の、放電曲線を図3および以下の表1に示す。図3には、後述する比較例1の結果も示している。なお、空気極端子221および負極端子222を測定試験に用いた。
図3に示すように、コバルトサレン錯体による電解液を用いることで、電流密度10mA/cm2時の放電電圧は1.54Vであることが分かる。また、50mA/cm2時の放電電圧は1.44V、100mA/cm2時の放電電圧は1.14Vであった。10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げても、放電電圧の約94%が維持された。コバルトサレン錯体による電解液を電解質として使用したアルミニウム空気電池は、非特許文献1および非特許文献2で報告されたものよりも高電流密度において放電電圧が同程度またはそれ以上、且つ、高電流密度化した際の放電電圧維持率[(50mA/cm2通電時放電電圧/100mA/cm2通電時放電電圧)×100]が高いことが分かった。
このように、コバルトサレン錯体による電解液を電解質として使用したアルミニウム空気電池は、電池性能を向上できることが確認された。
[実施例2]
実施例2でも、金属サレン錯体としてコバルトサレン錯体を用いた。実施例2では、コバルトサレン錯体の混合重量を0.001重量%とし、他の構成は実施例1と同様にした。実施例2では、コバルトサレン錯体が、飽和濃度ではない条件である。
実施例2の測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、混合重量を0.001重量%とした場合でも、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧が約90%の高い維持率を示した。このように、添加濃度0.001重量%と混合重量を変えたコバルトサレン錯体による電解液を電解質として使用した場合においても、アルミニウム空気電池は電池性能を向上できることが確認された。
[実施例3]
実施例3では、金属サレン錯体としてクロムサレン錯体を用いた。実施例3では、クロムサレン錯体を含むNaOH水溶液から電解質が構成されている。
市販されているサレン錯体(Aldrich社製)と、市販されている塩化クロム(III)6水和物(CrCl3・6H2O)(Aldrich社製)をモル比1:1でスクリューキャップ付き試験管に入れた。この試験管に、エタノール5mlを加え、また磁気撹拌子を投入し、60℃の温度条件とし、磁気撹拌子を回転させることで約20分撹拌した。得られた溶液を吸引濾過することにより、クロムサレン錯体粉末を作製した。
以上のようにして作製したクロムサレン錯体を、水酸化ナトリウム水溶液に混合した。混合する際、超音波洗浄機を用いて最大出力で約2時間の分散を行った。実施例1と同様にすることで、クロムサレン錯体は、混合重量7.1重量%(飽和濃度)の重量を水酸化ナトリウム水溶液に混合した。他の条件は、すべて実施例1と同様にして、セルを作製し、電池性能の評価を行った。
クロムサレン錯体による電解液を用いた実施例3のアルミニウム空気電池について、前述同様にして行った測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、電流密度100mA/cm2時の放電電圧は、1.37Vを示し、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧は約96%と高い維持率を示した。このように、クロムサレン錯体による電解液を電解質として使用したアルミニウム空気電池は、電池性能を向上できることが確認された。
[実施例4]
実施例4でも、金属サレン錯体としてクロムサレン錯体を用いた。実施例4では、クロムサレン錯体の混合重量を0.001重量%とし、他の構成は実施例3と同様にした。実施例4では、クロムサレン錯体が、飽和濃度ではない条件である。
実施例4の測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、混合重量を0.001重量%とした場合でも、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧が約80%の高い維持率を示した。このように、添加濃度0.001重量%と混合重量を変えたクロムサレン錯体による電解液を電解質として使用した場合においても、アルミニウム空気電池は電池性能を向上できることが確認された。
[実施例5]
実施例5では、金属サレン錯体として鉄サレン錯体を用いた。実施例5では、鉄サレン錯体を含むNaOH水溶液から電解質が構成されている。
市販されているサレン錯体(Aldrich社製)と、市販されている塩化鉄(III)6水和物(FeCl3・6H2O)(Aldrich社製)をモル比1:1でスクリューキャップ付き試験管に入れた。この試験管に、エタノール5mlを加え、また磁気撹拌子を投入し、60℃の温度条件とし、磁気撹拌子を回転させることで約20分撹拌した。得られた溶液を吸引濾過することにより、鉄サレン錯体粉末を作製した。
以上のようにして作製した鉄サレン錯体を、水酸化ナトリウム水溶液に混合した。混合する際、超音波洗浄機を用いて最大出力で約2時間の分散を行った。実施例1と同様にすることで、鉄サレン錯体は、混合重量10重量%(飽和濃度)の重量を水酸化ナトリウム水溶液に混合した。他の条件は、すべて実施例1と同様にして、セルを作製し、電池性能の評価を行った。
鉄サレン錯体による電解液を用いた実施例5のアルミニウム空気電池について、前述同様にして行った測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、電流密度100mA/cm2時の放電電圧は、1.34Vを示し、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧は約96%と高い維持率を示した。このように、鉄サレン錯体による電解液を電解質として使用したアルミニウム空気電池は、電池性能を向上できることが確認された。
[実施例6]
実施例6でも、金属サレン錯体として鉄サレン錯体を用いた。実施例6では、鉄サレン錯体の混合重量を0.001重量%とし、他の構成は実施例5と同様にした。実施例6では、鉄サレン錯体が、飽和濃度ではない条件である。
実施例6の測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、混合重量を0.001重量%とした場合でも、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧が約76%の高い維持率を示した。このように、添加濃度0.001重量%と混合重量を変えた鉄サレン錯体による電解液を電解質として使用した場合においても、アルミニウム空気電池は電池性能を向上できることが確認された。
[実施例7]
実施例7では、金属サレン錯体としてルテニウムサレン錯体を用いた。実施例7では、ルテニウムサレン錯体を含むNaOH水溶液から電解質が構成されている。
市販されているサレン錯体(Aldrich社製)と、市販されている塩化ルテニウム(III)6水和物(RuCl3・6H2O)(Aldrich社製)をモル比1:1でスクリューキャップ付き試験管に入れた。この試験管に、エタノール5mlを加え、また磁気撹拌子を投入し、60℃の温度条件とし、磁気撹拌子を回転させることで約20分撹拌した。得られた溶液を吸引濾過することにより、ルテニウムサレン錯体粉末を作製した。
以上のようにして作製したルテニウムサレン錯体を、水酸化ナトリウム水溶液に混合した。混合する際、超音波洗浄機を用いて最大出力で約2時間の分散を行った。実施例1と同様にすることで、ルテニウムサレン錯体は、混合重量9.7重量%(飽和濃度)の重量を水酸化ナトリウム水溶液に混合した。他の条件は、すべて実施例1と同様にして、セルを作製し、電池性能の評価を行った。
ルテニウムサレン錯体による電解液を用いた実施例7のアルミニウム空気電池について、前述同様にして行った測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、電流密度100mA/cm2時の放電電圧は、1.16Vを示し、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧は約97%と高い維持率を示した。このように、ルテニウムサレン錯体による電解液を電解質として使用したアルミニウム空気電池は、電池性能を向上できることが確認された。
[実施例8]
実施例8でも、金属サレン錯体としてルテニウムサレン錯体を用いた。実施例8では、ルテニウムサレン錯体の混合重量を0.001重量%とし、他の構成は実施例7と同様にした。実施例8では、ルテニウムサレン錯体が、飽和濃度ではない条件である。
実施例8の測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、混合重量を0.001重量%とした場合でも、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧が約95%の高い維持率を示した。このように、添加濃度0.001重量%と混合重量を変えたルテニウムサレン錯体による電解液を電解質として使用した場合においても、アルミニウム空気電池は電池性能を向上できることが確認された。
[実施例9]
実施例9では、金属サレン錯体としてマンガンサレン錯体を用いた。実施例9では、マンガンサレン錯体を含むNaOH水溶液から電解質が構成されている。
市販されているマンガンサレン錯体(Aldrich社製)を、水酸化ナトリウム水溶液に混合した。混合する際、超音波洗浄機を用いて最大出力で約2時間の分散を行った。実施例1と同様にすることで、マンガンサレン錯体は、混合重量9.7重量%(飽和濃度)の重量を水酸化ナトリウム水溶液に混合した。他の条件は、すべて実施例1と同様にして、セルを作製し、電池性能の評価を行った。
マンガンサレン錯体による電解液を用いた実施例9のアルミニウム空気電池について、前述同様にして行った測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、電流密度100mA/cm2時の放電電圧は、0.97Vを示し、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧は約84%と高い維持率を示した。このように、マンガンサレン錯体による電解液を電解質として使用したアルミニウム空気電池は、電池性能を向上できることが確認された。
[実施例10]
実施例10でも、金属サレン錯体としてマンガンサレン錯体を用いた。実施例10では、マンガンサレン錯体の混合重量を0.001重量%とし、他の構成は実施例9と同様にした。実施例10では、マンガンサレン錯体が、飽和濃度ではない条件である。
実施例10の測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、混合重量を0.001重量%とした場合でも、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧が約84%の高い維持率を示した。このように、添加濃度0.001重量%と混合重量を変えたマンガンサレン錯体による電解液を電解質として使用した場合においても、アルミニウム空気電池は電池性能を向上できることが確認された。
[実施例11]
実施例11では、金属サレン錯体としてバナジウムサレン錯体を用いた。実施例11では、バナジウムサレン錯体を含むNaOH水溶液から電解質が構成されている。
市販されているサレン錯体(Aldrich社製)と、市販されている酸化硫酸バナジウム(IV)水和物(VOSO4・nH2O)(Aldrich社製)をモル比1:1でスクリューキャップ付き試験管に入れた。この試験管に、エタノール5mlを加え、また磁気撹拌子を投入し、60℃の温度条件とし、磁気撹拌子を回転させることで約20分撹拌した。得られた溶液を吸引濾過することにより、バナジウムサレン錯体粉末を作製した。
以上のようにして作製したバナジウムサレン錯体を、水酸化ナトリウム水溶液に混合した。混合する際、超音波洗浄機を用いて最大出力で約2時間の分散を行った。実施例1と同様にすることで、バナジウムサレン錯体は、混合重量4.7重量%(飽和濃度)の重量を水酸化ナトリウム水溶液に混合した。他の条件は、すべて実施例1と同様にして、セルを作製し、電池性能の評価を行った。
バナジウムサレン錯体による電解液を用いた実施例11のアルミニウム空気電池について、前述同様にして行った測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、電流密度100mA/cm2時の放電電圧は、1.11Vを示し、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧は約81%と高い維持率を示した。このように、バナジウムサレン錯体による電解液を電解質として使用したアルミニウム空気電池は、電池性能を向上できることが確認された。
[実施例12]
実施例12でも、金属サレン錯体としてバナジウムサレン錯体を用いた。実施例12では、バナジウムサレン錯体の混合重量を0.001重量%とし、他の構成は実施例11と同様にした。実施例12では、バナジウムサレン錯体が、飽和濃度ではない条件である。
実施例12の測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、混合重量を0.001重量%とした場合でも、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧が約77%の高い維持率を示した。このように、添加濃度0.001重量%と混合重量を変えたバナジウムサレン錯体による電解液を電解質として使用した場合においても、アルミニウム空気電池は電池性能を向上できることが確認された。
[実施例13]
実施例13では、金属サレン錯体としてチタンサレン錯体を用いた。実施例13では、チタンサレン錯体を含むNaOH水溶液から電解質が構成されている。
市販されているサレン錯体(Aldrich社製)と、市販されている硫酸チタン(IV)水和物[Ti(SO4)2・nH2O])(Aldrich社製)をモル比1:1でスクリューキャップ付き試験管に入れた。この試験管に、エタノール5mlを加え、また磁気撹拌子を投入し、60℃の温度条件とし、磁気撹拌子を回転させることで約20分撹拌した。得られた溶液を吸引濾過することにより、チタンサレン錯体粉末を作製した。
以上のようにして作製したチタンサレン錯体を、水酸化ナトリウム水溶液に混合した。混合する際、超音波洗浄機を用いて最大出力で約2時間の分散を行った。実施例1と同様にすることで、チタンサレン錯体は、混合重量6.8重量%(飽和濃度)の重量を水酸化ナトリウム水溶液に混合した。他の条件は、すべて実施例1と同様にして、セルを作製し、電池性能の評価を行った。
チタンサレン錯体による電解液を用いた実施例13のアルミニウム空気電池について、前述同様にして行った測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、電流密度100mA/cm2時の放電電圧は、1.01Vを示し、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧は約79%と高い維持率を示した。このように、チタンサレン錯体による電解液を電解質として使用したアルミニウム空気電池は、電池性能を向上できることが確認された。
[実施例14]
実施例14でも、金属サレン錯体としてチタンサレン錯体を用いた。実施例14では、チタンサレン錯体の混合重量を0.001重量%とし、他の構成は実施例13と同様にした。実施例14では、チタンサレン錯体が、飽和濃度ではない条件である。
実施例14の測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、混合重量を0.001重量%とした場合でも、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧が約80%の高い維持率を示した。このように、添加濃度0.001重量%と混合重量を変えたチタンサレン錯体による電解液を電解質として使用した場合においても、アルミニウム空気電池は電池性能を向上できることが確認された。
[実施例15]
実施例15では、金属サレン錯体としてロジウムサレン錯体を用いた。実施例15では、ロジウムサレン錯体を含むNaOH水溶液から電解質が構成されている。
市販されているサレン錯体(Aldrich社製)と、市販されている塩化ロジウム(III)水和物[RhCl3・nH2O])(Aldrich社製)をモル比1:1でスクリューキャップ付き試験管に入れた。この試験管に、エタノール5mlを加え、また磁気撹拌子を投入し、60℃の温度条件とし、磁気撹拌子を回転させることで約20分撹拌した。得られた溶液を吸引濾過することにより、ロジウムサレン錯体粉末を作製した。
以上のようにして作製したロジウムサレン錯体を、水酸化ナトリウム水溶液に混合した。混合する際、超音波洗浄機を用いて最大出力で約2時間の分散を行った。実施例1と同様にすることで、ロジウムサレン錯体は、混合重量8.1重量%(飽和濃度)の重量を水酸化ナトリウム水溶液に混合した。他の条件は、すべて実施例1と同様にして、セルを作製し、電池性能の評価を行った。
ロジウムサレン錯体による電解液を用いた実施例15のアルミニウム空気電池について、前述同様にして行った測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、電流密度100mA/cm2時の放電電圧は、1.27Vを示し、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧は約97%と高い維持率を示した。このように、ロジウムサレン錯体による電解液を電解質として使用したアルミニウム空気電池は、電池性能を向上できることが確認された。
[実施例16]
実施例16でも、金属サレン錯体としてロジウムサレン錯体を用いた。実施例16では、ロジウムサレン錯体の混合重量を0.001重量%とし、他の構成は実施例13と同様にした。実施例16では、ロジウムサレン錯体が、飽和濃度ではない条件である。
実施例16の測定結果を以下の表1に示す。表1に示すように、混合重量を0.001重量%とした場合でも、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧が約81%の高い維持率を示した。このように、添加濃度0.001重量%と混合重量を変えたロジウムサレン錯体による電解液を電解質として使用した場合においても、アルミニウム空気電池は電池性能を向上できることが確認された。
[比較例1]
電解質として金属サレン錯体を含まないNaOH水溶液を用い、実施例1と同様にアルミニウム空気電池を作製して比較例1とした。比較例1について、前述同様にして行った測定結果を、図3および以下の表1に示す。表1に示すように、電流密度100mA/cm2時の放電電圧は、0.46Vを示し、10mA/cm2から50mA/cm2へ電流密度を上げた際の放電電圧は約66%と、維持率は低い結果となった。
以上に説明したように、本発明によれば、金属サレン錯体を添加した電解質を使用してアルミニウム空気電池を構成したので、公知の材料を用いた場合よりも電流密度特性に優れており、アルミニウム空気電池用電解質添加剤として金属サレン錯体が有効であることが確認された。このように、本発明によれば、電流密度を高くしてもアルミニウム空気電池の放電容量が低下しないようになる。本発明によれば、高出力なアルミニウム空気電池を作製することができ、様々な電子機器や自動車等の駆動源として有効利用することができる。
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。