JP6648565B2 - 分離材 - Google Patents

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本発明は、分離材、カラム、及びイオン交換用担体に関する。
従来、タンパク質に代表される生体高分子を分離精製する場合、一般的には合成高分子を母体とする多孔質粒子、親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とする粒子が用いられている。
多孔質の合成高分子を母体とするイオン交換体の場合、塩濃度による体積変化が小さく、カラムに充填しクロマトグラフィーで用いたときの通液時の耐圧性が良いといった利点がある。しかし、このイオン交換体は、タンパク質等の分離において、疎水的相互作用に基づく不可逆吸着等の非特異吸着が起きて、ピークの非対称化が発生する、あるいは、該疎水的相互作用でイオン交換体に吸着されたタンパク質が吸着されたまま回収できないという問題点を有していた。
一方、デキストラン、アガロース等の多糖に代表される親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とするイオン交換体の場合、タンパク質の非特異吸着が殆どないという利点がある。ところが、このイオン交換体は、水溶液中で著しく膨潤するため、溶液のイオン強度による体積変化及び、遊離酸形と負荷形との体積変化が大きく、機械的強度も十分ではないという欠点を有する。特に、架橋ゲルをクロマトグラフィーで使用する場合、通液時の圧力損失が大きく、通液によりゲルが圧密化するといった欠点がある。
親水性天然高分子の架橋ゲルが持つ欠点を克服するため、これをいわば“骨格”となる剛直な物質と組み合わせる試みがこれまでになされている。例えば米国特許第4965289号は、多孔性高分子の細孔内に天然高分子ゲル等のゲルを保持した複合体を、ペプチド合成の分野で用いており、それにより反応性物質の負荷係数を高め、高収率の合成ができることを発明の効果としてあげている。しかもこの米国特許では硬質な合成高分子物質でゲルを包囲するため、カラムベッドの形態で使用しても、容積変化がなく、カラムを通過するフロースルーの圧力が変化しないという効果を上げている。しかし、この複合体の実施例に示された多孔性高分子は、その細孔容積が75%以上となっており、いわゆる“骨格”に相当する部分が少なく、強度が弱いという欠点を有している。また、この複合体は粉砕されたもので真球状ではないため、クロマトグラフィーで使用した場合、流体力学的にみて、効率的に不利である。具体例では細孔内のゲルとして合成高分子が記載されているのみである。
米国特許第4335017号及び米国特許第4336161号は、セライト等の無機多孔質体にデキストラン、セルロースといった多糖などのキセロゲルを保持させ、このゲルには収着性能を付加するためにジエチルアミノメチル(DEAE)基等を付与した粒子を、ヘモグロビンの除去に使用している。その効果として、カラムでの通液性の良さがあげられているが、セライト等の無機物質は、一般にアルカリに不安定であるため使用条件が限定される。具体例として記載されているセライトは、不定形で、カラムに充填して使用する場合には圧力損失が大きいために、クロマトグラフィーの操作上不利である。
米国特許第3966489号は、いわゆるマクロネットワーク構造のコポリマーの細孔を、モノマーから合成した架橋共重合体のゲルで埋めたハイブリッドコポリマーのイオン交換体を挙げている。架橋共重合体ゲルの架橋度が低いと、圧力損失、体積変化等の問題があるが、架橋共重体がハイブリッドコポリマーであることで通液特性が改善され、圧力損失が少なくなること、また、イオン交換容量が向上し、リーク挙動が改善されることが挙げられている。しかし、ハイブリッドコポリマーを形成する前のコポリマーは、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体であり、疎水性が高く、タンパク質等の生体高分子の分離に使用した場合、非特異吸着が起きるという欠点を有する。
有機合成ポリマ基体の細孔内に巨大網目構造を有する親水性天然高分子の架橋ゲルを充填した複合化充填剤が提案されている(特開平1−254247号公報、米国特許第5114577号公報参照)。この充填剤において提案されている架橋ゲルは、イオン交換基がなく、分子篩効果を利用したゲルバーミエイションクロマトグラフィーに使用される。そのため、タンパク質の分離の場合等は分子量の殆ど等しいものの分離は不十分であった。
特開2009−244067号公報ではメタクリル酸グリシジルとアクリル架橋モノマーにより構成される多孔質粒子が合成されている。しかし、粒子に官能基を付与するためにメタクリル酸グリシジル等を使用した場合、架強度が低下することにより耐圧性が低下する。また、アクリルモノマーのみで粒子が構成されているため耐アルカリ性に課題があった。
米国特許第4965289号明細書 米国特許第4335017号明細書 米国特許第4336161号明細書 米国特許第3966489号明細書 特開平1−254247号公報 米国特許第5114577号明細書 特開2009−244067号公報
本発明は、タンパク質等の生体高分子の非特異吸着が充分に抑制され、且つ、カラムに充填してクロマトグラフィーで用いた場合にも、優れた通液性及び高い吸着量を示す分離材及び該分離材を備えるカラム、並びにイオン交換用担体を提供することを目的としている。
本発明の一側面は、芳香族基と前記芳香族基に結合した2以上のビニル基とを有する架橋性モノマーに由来する構造単位を含有する架橋ポリマーを含む多孔質ポリマー粒子と、前記多孔質ポリマー粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を備える分離材を提供する。前記被覆層が、水酸基を有する高分子と、前記水酸基を有する高分子に結合した、N−ビニルピロリドンに由来する構造単位及び水酸基を有するモノマーに由来する構造単位を含有する共重合体であるグラフト鎖と、を含む。
芳香族基と前記芳香族基に結合した2以上のビニル基とを有する架橋性モノマー(典型的にはスチレン系モノマー)によって形成された多孔質ポリマー粒子は、高い弾性率を有することができるため、カラム充填時、粒子取り扱い時の粒子破壊を抑制することができる。多孔質ポリマー粒子に水酸基を有する高分子を吸着させ、そこにN−ビニルピロリドンに由来する構造単位及び水酸基を有するモノマーに由来する構造単位を含有する共重合体をグラフト鎖として導入することにより、非特異吸着の抑制、動的吸着量を大幅に向上することが可能である。
本発明の一側面に係る分離材は、良好な通液性、及び低減された非特異吸着に加えて、十分に高い吸着量を示すことができる。本発明のいくつかの側面は、タンパク質等の生体高分子の分離に対する優れた分離能を保持しながら、疎水的相互作用による非特異吸着が十分に少なく、かつ、静電的相互作用、又はアフィニティ精製等により生体高分子を分離精製するための分離材を提供することができる。
更に、いくつかの形態に係る分離材は、カラムクロマトグラフィーの充填剤として使用されたときに、使用する溶出液の性質に依らず、カラム内での体積変化が殆どないという、操作性における優れた効果を発揮し得る。
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
一実施形態に係る分離材は、多孔質ポリマー粒子と、多孔質ポリマー粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有する。本明細書において、「多孔質ポリマー粒子の表面」は、多孔質ポリマー粒子の外側の表面のみでなく、多孔質ポリマー粒子の内部における細孔の表面も含む。
(多孔質ポリマー粒子)
一実施形態に係る多孔質ポリマー粒子は、芳香族基と前記芳香族基に結合した2以上のビニル基とを有する架橋性モノマーに由来する構造単位を含有する架橋ポリマーを含むものである。多孔質ポリマー粒子は、例えば、架橋性モノマー、多孔化剤及び水性媒体を含む反応液中での懸濁重合等により合成することができる。架橋性モノマーとしては、特に限定されないが、スチレン系モノマー等のビニルモノマーを使用することができる。
架橋性モノマー(又は多官能性モノマー)としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフェナントレン等のジビニル化合物(スチレン系モノマー)が挙げられる。これらの架橋性モノマーは、1種単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。耐久性、耐酸、アルカリ性の観点よりジビニルベンゼンを使用することが好ましい。
単官能性モノマーを架橋性モノマーとともに重合してもよい。単官能性モノマーとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等のスチレン及びその誘導体が挙げられる。これらは1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。耐酸、耐アルカリ性を有するスチレンが好ましい。カルボキシル基、アミノ基、水酸基、アルデヒド基等の官能基を有するスチレン誘導体も使用することができる。
多孔化剤としては、重合時に相分離を促し、粒子の多孔質化を促進する有機溶媒が用いられる。多孔化剤の例としては、脂肪族或いは芳香族の炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類が挙げられる。具体的には、多孔化剤は、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、オクタン、酢酸ブチル、フタル酸ジブチル、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、1−ヘキサノール、2−オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノールから選ぶことができる。これらは1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
多孔化剤の量は架橋性モノマー及びその他のモノマーの合計量に対して0〜300質量%であってもよい。多孔化剤の量で粒子の空孔率をコントロールできる。さらに多孔化剤の種類によって、孔の大きさや形状をコントロールすることができる。
溶媒として使用する水を多孔化剤とする場合は、モノマーに油溶性界面活性剤を溶解させることで、水を吸収し、粒子を多孔質化させることが可能である。
多孔質化に使用される油溶性界面活性剤としては分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸及び鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のソルビタンモノエステル、例えば、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノミリステート及びヤシ脂肪酸から誘導されるソルビタンモノエステル;分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸または鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のジグリセロールモノエステル、例えば、ジグリセロールモノオレエート(例えば、C18:1脂肪酸のジグリセロールモノエステル)、ジグリセロールモノミリステート、ジグリセロールモノイソステアレート及びヤシ脂肪酸のジグリセロールモノエステル;分岐C16〜C24アルコール(例えば、ゲルベアルコール)、鎖状不飽和C16〜C22アルコール及び鎖状飽和C12〜C14アルコール(例えば、ヤシ脂肪アルコール)のジグリセロールモノ脂肪族エーテル、及びこれらの乳化剤の混合物が挙げられる。好ましい乳化剤としては、ソルビタンモノラウレート(例えば、SPAN(登録商標)20、好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、最も好ましくは約70%を超えるソルビタンモノラウレート)、ソルビタンモノオレエート(例えば、SPAN(登録商標)、好ましくは純度約40%、より好ましくは約50%、最も好ましくは約70%を超えるソルビタンモノオレエート)、ジグリセロールモノオレエート(例えば、純度約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、最も好ましくは約70%を超えるジグリセロールモノオレエート)、ジグリセロールモノイソステアレート(例えば、好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、最も好ましくは約70%を超えるジグリセロールモノイソステアレート)、ジグリセロールモノミリステート(好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、最も好ましくは約70%を超えるソルビタンモノミリステート)、ジグリセロールのココイル(例えば、ラウリル及びミリストイル)エーテル、及びこれらの混合物が挙げられる。
これらの乳化剤はモノマーに対して5〜80質量%の範囲で使用する事が好ましい。5質量%以下の場合、水滴の安定性が損なわれることから、大きな単一孔を形成し易くなる。80質量%以上とした場合、重合後に粒子形状を保つことが困難となる。
水性媒体としては、水、又は、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体が挙げられる。水性媒体には、界面活性剤が含まれている。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性イオン系の界面活性剤のうち、いずれも用いることができる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、アルケルニルコハク酸塩(ジカリウム塩)、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールエステル類、ポリエチレングリコールソルビタンエステル類、ポリアルキレングリコールアルキルアミン又はアミド類等の炭化水素系ノニオン界面活性剤、シリコンのポリエチレンオキサイド付加物類、ポリプロピレンオキサイド付加物類等のポリエーテル変性シリコン系ノニオン界面活性剤、パーフルオロアルキルグリコール類等のフッ素系ノニオン界面活性剤が挙げられる。
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の炭化水素界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤及び亜リン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
界面活性剤は、1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。上記界面活性剤の中でも、モノマーの重合時の分散安定性の観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
必要に応じて添加される重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられる。重合開始剤は、モノマー100質量部に対して、0.1〜7.0質量部の範囲で使用するとよい。
重合温度は、モノマー及び重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、25〜110℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
重合工程において、粒子の分散安定性を向上させるために、乳化液に分散安定剤を添加してもよい。
分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等)、ポリビニルピロリドンが挙げられ、トリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物も併用することができる。これらのうち、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンが好ましい。分散安定剤の添加量は、モノマー100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
水中でモノマーが単独に乳化重合した粒子の発生を抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を用いてもよい。
多孔質ポリマー粒子の平均粒径は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは100μm以下である。また、多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上であり、更に好ましくは50μm以上である。平均粒径が小さくなると、カラム充填後のカラム圧が増加する可能性がある。
多孔質ポリマー粒子の粒径の変動係数(C.V.)は、通液性の観点からは、5〜15%であることが好ましく、5〜10%であることがさらに好ましい。粒径の変動係数を低減する方法としてマイクロプロセスサーバー(日立製作所製)等の乳化装置により単分散化する方法がある。
多孔質ポリマー粒子の平均粒径及び粒径の変動係数は、以下の測定法により求めることができる。
1)粒子を、水(界面活性剤等の分散剤を含む)に分散させ、1質量%の粒子を含む分散液を調製する。
2)粒度分布計(シスメックスフロー、シスメックス製)を用いて、分散液中の粒子約1万個の画像により平均粒径と粒径の変動係数を測定する。
多孔質ポリマー粒子又は分離材の全体積(細孔容積を含む)に対する細孔容積の割合(空隙率)は、30%以上70%以下であってもよい。多孔質ポリマーの大部分の細孔の直径は、0.1μm以上0.5μm以下、すなわちマクロポアーであってもよい。言い換えると、多孔質ポリマー粒子の細孔径分布におけるモード径は、0.1〜0.5μmであってもよい。さらに好ましくは、細孔容積が40%以上70%以下で、細孔径分布におけるモード径が0.05μm以上0.3μm未満である。細孔径分布におけるモード径が0.1μm以上であると物質が細孔に入りやすい傾向にある。また、細孔径分布におけるモード径が0.5以下であると十分な比表面積が得られる傾向にある。これらは前出の多孔化剤により調整可能である。
多孔質ポリマー粒子の比表面積は、30m/g以上であることが好ましく、35m/g以上であることがより好ましく、40m/g以上であることが更に好ましい。比表面積が小さいと分離する物質の吸着量が相対的に少なくなる傾向がある。
多孔質ポリマー粒子の、細孔径分布におけるモード径(又は平均細孔径)、比表面積、空隙率は水銀圧入測定装置(オートポア:島津製作所製)にて測定した値である。これらは以下のようにして測定できる。約0.05gの試料を、標準5cc粉体用セル(ステム容積0.4cc)に採り、初期圧21kPa(約3psia、細孔直径約60μm 相当)の条件で測定する。水銀パラメータは、装置デフォルトの水銀接触角130degrees 、水銀表面張力485dynes/cm、に設定した。細孔径0.05〜5μmの範囲に限定してそれぞれの値を算出した。
(水酸基を有する高分子による被覆層の形成)
被覆層は、多孔質ポリマー粒子の表面の少なくとも一部を被覆する。被覆層は、水酸基を有する高分子を含有する。
多孔質ポリマー粒子の細孔内を含む表面に、水酸基を有する高分子を吸着し、その後、これを架橋することにより、多孔質ポリマー粒子の表面を被覆できる。多孔質ポリマー粒子が薄膜で被覆されることにより、カラム圧の向上を抑制することができる。水酸基を有する高分子を使用することにより、タンパク質の非特異吸着を抑制することが可能となる上、官能基を導入した際のタンパク質吸着性が向上する傾向にある。
水酸基を有する高分子は、1分子中に2個以上の水酸基を有することが好ましい。水酸基を有する高分子は、例えば、多糖類又はその変性体であることが好ましい。多糖類としては、アガロース、デキストラン、セルロース、ポリビニルアルコール、キトサン等が挙げられる。変性体とは疎水基を導入したものを指す。疎水基を導入することで、界面吸着能を向上させることができる。疎水基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基等が挙げられる。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。疎水基は、水酸基と反応する官能基(例えば、エポキシ基)及び疎水基を有する化合物(例えば、グリシジルフェニルエーテル)を、水酸基を有する高分子と従来公知の方法で反応させることにより、導入することができる。水酸基を有する高分子の重量平均分子量は1万〜20万程度であってもよい。
水酸基を有する高分子を含有する被覆層を形成する方法としては、水酸基を有する高分子の溶液を多孔質ポリマー粒子の表面に吸着させ、未吸着分を除去後、架橋剤により水酸基を有する高分子を架橋させて、これを細孔内に担持させる方法がある。水酸基を有する高分子の溶媒としては、水酸基を有する高分子を溶解することの出来るものであれば、特に限定されるものではないが、通常、水が最も一般的である。溶媒に溶解させる水酸基を有する高分子の濃度は、5〜20(mg/ml)が好ましい。その溶液を、例えば、水酸基を有する高分子の溶液に多孔質ポリマー粒子を加えて一定時間放置する方法により、多孔質体の細孔内に含浸させる。含浸時間は多孔質ポリマー粒子の表面状態によっても変わるが、通常一昼夜含浸すれば高分子濃度が多孔質体の内部で外部濃度と平衡状態となる。その後、水、アルコール等の溶媒で洗浄し、未吸着分の水酸基を有する高分子を除去する。ついで架橋剤を加えて該細孔内に溶液状で保持されている水酸基を有する高分子を架橋させて、水酸基を有する高分子の架橋ゲルを形成させる。架橋ゲルは、3次元架橋網目構造を有する。
架橋剤としては、例えばジビニルスルホン及びエピクロルヒドリン等のエピハロヒドリン、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物、メチレンジイソシアネート、ジイソシアネート化合物やエチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジル化合物等のような水酸基に活性な官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。水酸基を有する高分子としてキトサンのようなアミノ基を有する化合物を使用する場合には、ジクロルオクタンのようなジハライドを架橋剤として使用できる。架橋反応には通常触媒が用いられる。該触媒は架橋剤の種類により異なるが、例えば、架橋剤がエピクロルヒドリン等の場合には水酸化ナトリウム等のアルカリが有効であり、ジアルデヒド化合物の場合には塩酸等の鉱酸が有効である。
架橋反応は、原料の水酸基を有する高分子の溶液を細孔内に含浸させた多孔質体を適当な媒体中に分散及び懸濁させた懸濁液に架橋剤を添加して、行うことができる。その際の架橋剤の添加量は、水酸基を有する高分子として多糖類を使用した場合には、単糖類の1単位を1モルとすると、それに対して0.1〜100倍の範囲内で、目的とする分離材の性能に応じて選定することができる。一般に、架橋剤の添加量を少なくすると多孔質ポリマー粒子からの剥離が進行しやすくなる。また、架橋剤の添加量が過剰で、かつ、水酸基を有する高分子との反応率が高い場合、水酸基を有する高分子の特性が損なわれる可能性がある。架橋反応時の触媒は、架橋剤の種類にもよるが、通常、水酸基を有する水酸基を有する高分子として多糖類を使用する場合、多糖類を形成する単糖類の1単位を1モルとすると、これに対して0.01〜10倍の範囲、さらに好ましくは0.1〜5倍の割合の量で使用される。例えば、反応系の温度を上げ、その温度が反応温度上達すれば架橋反応が生起する。
水酸基を有する高分子溶液等を吸着させた多孔質ポリマー粒子を分散及び懸濁させる媒体は、含浸させた高分子溶液から高分子や架橋剤等を抽出してしまう事なく、かつ、架橋反応に不活性なものである必要がある。その具体例として水、アルコール等が挙げられる。
架橋反応は、通常、5〜90℃の範囲の温度で、1〜10時間かけて行う。好ましくは、30〜90℃がよい。架橋反応終了後、粒子を濾別し、ついで水、メタノール、エタノール等の親水性有機溶媒で洗浄し、未反応の水酸基を有する高分子や懸濁用媒体等を除去すれば、多孔質ポリマー粒子の細孔内に水酸基を有する高分子が吸着された粒子が得られる。吸着される水酸基を有する高分子量は熱分解の重量減少、アンスロン法等で測定することができる。
(グラフト鎖)
被覆層の水酸基を有する高分子に、N−ビニルピロリドンに由来する構造単位及び水酸基を有するモノマーに由来する構造単位を含有する共重合体をグラフト鎖として結合させることにより、タンパク質の動的吸着量を大幅に向上することができる。例えば、N−ビニルピロリドン及び水酸基を有するモノマーを溶液重合等で重合し、得られた共重合体を、多孔質ポリマー粒子に設けられた被覆層にグラフトすることができる。具体的には被覆層を設けた多孔質ポリマー粒子にエポキシ基を導入し、共重合体の水酸基と反応させることにより得られる。粒子表面からの重合によってグラフト鎖を導入することもできる。具体的には、被覆層を設けた多孔質ポリマー粒子表面に開始基を導入し、前記粒子並びにN−ビニルピロリドン及び水酸基を有するモノマーを含む溶液中で前記モノマーを重合することによりグラフト鎖を形成させることができる。水酸基を有する高分子がグラフトされたかどうかは、グラフト反応前後でのXPS、又は熱重量分析で確認することができる。
N−ビニルピロリドンに由来する構造単位及び水酸基を有するモノマーに由来する構造単位を含有する共重合体(N−ビニルピロリドン及び水酸基を有するモノマーをモノマー単位として含有する共重合体)は、N−ビニルピロリドンと水酸基を有するモノマーの存在下で重合を行うことにより得ることができる。
水酸基を有するモノマーの例として、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸 2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、メタクリル酸 2,3−ジヒドロキシプロピル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミドなどが挙げられる。非特異吸着を防止する観点から、水に溶解するモノマーを使用することが好ましい。
N−ビニルピロリドンに由来する構造単位及び水酸基を有するモノマーに由来する構造単位を含有する共重合体の重量平均分子量は、0.5万〜50万であってもよい。本明細書において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって求められる、標準ポリスチレン換算の値を意味する。
N−ビニルピロリドンに由来する構造単位及び水酸基を有するモノマーに由来する構造単位を含有する共重合体中のN−ビニルピロリドンに由来する構造単位の割合が、共重合体中の、モノマーに由来する全構造単位(全モノマー単位、又は、N−ビニルピロリドン及び水酸基を有するモノマーの合計)を基準として、50〜80mol%であってもよい。
(イオン交換基の導入)
グラフト鎖を含む被覆層に、イオン交換基(陽イオン交換基、陰イオン交換基)、リガンド(プロテインA)を、水酸基を介して導入することにより、分離材をイオン交換精製、アフィニティ精製に使用することができる。
イオン交換基を導入するために、ハロゲン化アルキル基を有する化合物(ハロゲン化アルキル基含有化合物ともいう)を用いることができる。その例としては、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸及びこれらのナトリウム塩、ジエチルアミノエチルクロライド等のハロゲン化アルキル基を少なくとも1つ有する1級、2級、及び3級アミン、並びにハロゲン化アルキル基を有する4級アンモニウムの塩酸塩等が挙げられる。ハロゲン化アルキル基含有化合物は臭化物又は塩化物であることが好ましい。ハロゲン化アルキル基含有化合物の種類により付与されたイオン交換基が決定される。ハロゲン化アルキル基含有化合物の使用量は、イオン交換基を付与する分離剤の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。
イオン交換基を導入する反応を促進するために、有機溶媒を用いるのが有効である。有機溶媒としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、イソペンタノール等のアルコール類を用いることができる。通常、分離材を、湿潤状態で濾過等により水切りした後、所定濃度のアルカリ性水溶液に浸漬し、一定時間放置する。通常、水−有機溶媒混合系で、ハロゲン化アルキル基含有化合物を添加し反応させる。この反応は温度40〜90℃で還流下、0.5〜12時間行うのが好ましい。
イオン交換基として、弱塩基性基であるアミノ基を導入する場合、ハロゲン化アルキル基含有化合物のうち、モノ−、ジ−又はトリ−アルキルアミノクロライド、モノ−、ジ−又はトリ−アルカノールアミノクロライド、モノ(又はジ−)アルキル−モノ(又 はジ−)アルカノールアミノクロライド(但し、0内が同時に示されることはない。)等の2級又は3級アミノハロゲナイド等を反応させることにより得られる。
イオン交換基として、強塩基性基の四級アンモニウム基を導入する場合、まず上述の様に3級アミノ基を導入し、該3級アミノ基にエピクロルヒドリンのハロゲン化アルキル基含有化合物を反応させ4級アンモニウム基に変換させる方法が挙げられる。4級アンモニウムクロライド等の4級アミノハロゲナイド等を上述の1〜3級アミノクロライドの様に複合体に反応させてもよい。
イオン交換基として、弱酸性基であるカルボキシル基を導入する場合、ハロゲン化アルキル基含有化合物としてモノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸又はそのナトリウム塩を反応する方法がある。カルボン酸又はそのナトリウム塩の使用量はイオン交換基を導入する粒子の質量に対して0.2%以上であってもよい。
イオン交換基として、強酸性基であるスルホン酸基を導入する場合、複合体に対してエビクロロヒドリン等のグリシジル化合物を反応させ、さらに亜硫酸ナトリウム又は重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩又は重亜硫酸塩の飽和水溶液に該複合体を添加し、30〜90℃で1〜10時間反応させる方法がある。
イオン交換基を導入する他の方法としては、例えば、アルカリ性雰囲気下で、分離材に1,3−プロパンスルトンを反応させる方法も挙げられる。1.3−プロパンスルトンの量は、分離材の全質量に対して0.4質量%以上であることが好ましい。反応条件は、例えば、0〜90℃で0.5〜12時間であることが好ましい。
(分離材)
イオン交換基が導入された分離材は、タンパク質を静電的相互作用による分離、アフィニティ精製に用いるのに好適である。例えば、タンパク質を含む混合溶液の中に分離材を添加し、静電的相互作用によりタンパク質だけを分離材に吸着させた後、分離材を溶液から濾別し、塩濃度の高い水溶液中に添加すれば、分離材に吸着しているタンパク質を容易に脱離、回収できる。分離材は、カラムクロマトグラフィーにおけるカラム充填剤としても有用である。カラムクロマトグラフィーに用いられる充填カラムは、カラムと、カラムに充填された分離材(カラム充填剤)とを備えることができる。陽イオン交換基又は陰イオン交換基が導入された分離材を、イオン交換用担体として用いることもできる。
を備えるものである。
一実施形態に係る分離材を用いて分離できる生体高分子としては、水溶性の物質が好ましい。具体的には、血清アルブミン、免疫グロブリン等の血液タンパク質等のタンパク質、生体中に存在する酵素、バイオテクノロジーにより生産されるタンパク質生理活性物質、あるいはDNAや生理活性をするペプチド等の生体高分子であり、分子量が200万以下、さらに好ましくは50万以下のものである。タンパク質の等電点、イオン化状態等によって、イオン交換基の性質及び条件を選ぶことができる。この点に関して、例えば、特開昭60−169427号公報を参照することができる。
被覆層の量が、多孔質ポリマー粒子1gに対して30〜400mgであってもよい。
分離材の粒径は、通常、10〜300μmが好ましい。分取用又は工業用のクロマトグラフィーの充填剤として使用される場合、カラム内圧の極端な増加を避けるために、分離材の粒径が50〜100μmであることが好ましい。
カラムでタンパク質の分離を行う場合、カラムに通液されるタンパク質溶液等の通液速度は、一般に400cm/h以下の範囲である。これに対して、一実施形態に係る分離材は、800cm/h以上の通液速度でも高い吸着容量で使用できる。ここでの通液速度とはφ7.8×300mmのステンレスカラムに充填剤を充填し、液を流した際の通液速度を意味する。
多孔質ポリマー粒子の表面を、水酸基を有する架橋された水酸基を有する高分子を架橋により被覆し、イオン交換基等を導入することにより、タンパク質等の生体高分子の分離において、水酸基を有する高分子、及び多孔質ポリマー粒子の持つそれぞれの利点をあわせ持った特性が示され得る。上述の実施形態に係る多孔質ポリマー粒子は、耐久性、耐アルカリ性が強い。水酸基を有する高分子の架橋体によって被覆層を形成することにより、非特異吸着も起こりにくく、タンパク質の脱吸着がしやすい。イオン交換基を有する分離材は、同一流速下でのタンパク質等の吸着容量(動的吸着容量)が大きい点でも従来のイオン交換樹脂に比べて好ましい性質を有する。
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
1.多孔質ポリマー粒子
(多孔質ポリマー粒子1)
500mLの三口フラスコに、純度96%のジビニルベンゼン(DVB960)16g、乳化剤(商品名:スパン80)6g、及び過酸化ベンゾイル0.64gを、ポリビニルアルコール水溶液(濃度0.5質量%)に加え、マイクロプロセスサーバーを使用して液を乳化し、連続相としてのポリビニルアルコール水溶液中に、ジビニルベンゼン、乳化剤及び過酸化ベンゾイルを含むモノマー相が分散している乳化液を形成させた。得られた乳化液を、フラスコに移し、80℃のウォーターバスで加熱しながら攪拌機を用いて約8時間撹拌した。ジビニルベンゼンの重合により生成した粒子を、ろ過により取り出し、アセトンで洗浄して、多孔質ポリマー粒子1を得た。
(多孔質ポリマー粒子2)
市販のイオン交換クロマトグラフィー担体(Capto DEAE(GEヘルスケア製)を、そのまま多孔質ポリマー粒子2として用いた。
(多孔質ポリマー粒子3)
500mLの三口フラスコに、2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート11.2g、エチレングリコールジメタクリレート4.8g、及び乳化剤(商品名:スパン80)5gを、ポリビニルアルコール水溶液(濃度0.5質量%)に加え、マイクロプロセスサーバーを使用して液を乳化した。得られた乳化液を、フラスコに移し、80℃のウォーターバスで加熱しながら攪拌機を用いて約8時間撹拌した。重合により生成した粒子を、ろ過により取り出し、アセトンで洗浄して、多孔質ポリマー粒子3を得た。
各多孔質ポリマー粒子の粒径をフロー型粒径測定装置で測定し、平均粒径及び粒径の変動係数(C.V.値)を算出した。表1は測定結果を示す。
Figure 0006648565
2.カラム充填剤(分離材)
実施例1
(水酸基を有するポリマーによる被覆層形成)
アガロース水溶液(濃度2質量%)100mLに水酸化ナトリウム4g、及びグリシジルフェニルエーテル0.4gを加え、これらを70℃で12時間反応させて、アガロースにフェニル基を導入した。フェニル基が導入されたアガロース(変性アガロース)を、イソプロピルアルコールで3回再沈殿させ、洗浄した。
濃度20mg/mLの変性アガロース水溶液700mLを調製し、そこに多孔質ポリマ粒子1を10gの濃度で投入し、55℃で24時間攪拌することで、多孔質ポリマ粒子1に変性アガロースを吸着させた。吸着後、変性アガロースが吸着した粒子をろ過によって取り出し、熱水で洗浄した。粒子への変性アガロースの吸着量を、ろ液中の変性アガロースの濃度から算出した。算出された吸着量は、多孔質ポリマー粒子1g当たり、182mgであった。
細孔内部を含む粒子表面に吸着したアガロースを、次のようにして架橋した。10gの粒子を分散させた0.4M水酸化ナトリウム水溶液350gに、エチレングリコールジグリシジルエーテルを10g添加し、12時間、室温にて水溶液を攪拌した。粒子をろ過及び洗浄した後、0.4M水酸化ナトリウム水溶液350gに分散させた。そこにエピクロロヒドリン20gを添加し、水溶液を3時間攪拌して、エポキシ基を導入した。その後、粒子を、加熱した2質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液、及び水で洗浄し、多孔質ポリマー粒子を被覆する被覆層を有する粒子を得た。
(N−ビニルピロリドン及び水酸基を有するモノマーの共重合体(VPOH)の合成)
還流冷却管、温度計、チッ素ガス導入管、仕込み管及び撹拌装置を取り付けた500ml容の5つ口フラスコに、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)54g、N−ビニルピロリドン(VP)46g、エタノール100質量部、及びα,α’−アゾビスイソブチロニトリル0.3質量部を入れて、反応液を調製した。反応液を、撹拌しながら窒素ガス気流下にて70〜75℃に加熱することで重合反応を15時間行ない、濃度20質量%の共重合体(VPOH)の溶液を得た。生成した共重合体の重量平均分子量(Mw)は49万であった。
(グラフト鎖の導入)
共重合体(VPOH)の溶液を、濃度10質量%まで水で希釈した。希釈した溶液100mLに、被覆層を有する上述の粒子10gを投入し、溶液を1時間攪拌した。その後1Mの水酸化ナトリウム水溶液100mLを加え、18時間攪拌することで、被覆層中のアガロースを共重合体でグラフトさせた。
以上の操作により、N−ビニルピロリドン及びヒドロキシエチルメタクリレートの共重合体(VPOH)をグラフト鎖として有する分離材を得た。粒子の質量の変化から、多孔質ポリマー粒子1gに対するグラフト鎖の質量の割合(mg/粒子g、グラフト量)を求めた。
実施例2
反応液にtert−ドデカンチオール0.1gを更に加えたこと以外は実施例1と同様にして、N−ビニルピロリドン及びヒドロキシエチルメタクリレートの共重合体(VPOH)を合成した。その重量平均分子量は37万だった。得られたVPOHを用いて、実施例1と同様にしてグラフト鎖を有する分離材を得た。
実施例3
反応液にtert−ドデカンチオール0.4gを更に加えたこと以外は実施例1と同様にして、N−ビニルピロリドン及びヒドロキシエチルメタクリレートの共重合体(VPOH)を合成した。その重量平均分子量は15万だった。得られたVPOHを用いて、実施例1と同様にしてグラフト鎖を有する分離材を得た。
実施例4
反応液にtert−ドデカンチオール0.7gを更に加えたこと以外は実施例1と同様にして、N−ビニルピロリドン及びヒドロキシエチルメタクリレートの共重合体(VPOH)を合成した。その重量平均分子量は8万だった。得られたVPOHを用いて、実施例1と同様にしてグラフト鎖を有する分離材を得た。
実施例5
反応液にtert−ドデカンチオール1gを更に加えたこと以外は実施例1と同様にして、N−ビニルピロリドン及びヒドロキシエチルメタクリレートの共重合体(VPOH)を合成した。その重量平均分子量は2.3万だった。得られたVPOHを用いて、実施例1と同様にしてグラフト鎖を有する分離材を得た。
実施例6
モノマーとしてヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)38.7g、及びN−ビニルピロリドン(VP)61.3gを使用したこと以外は実施例1と同様にして、N−ビニルピロリドン及びヒドロキシエチルメタクリレートの共重合体(VPOH)を合成した。その重量平均分子量は48万だった。得られたVPOHを用いて、実施例1と同様にしてグラフト鎖を有する分離材を得た。
実施例7
モノマーとしてヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)22.6g、及びN−ビニルピロリドン(VP)77.4gを使用したこと以外は実施例1と同様にして、N−ビニルピロリドン及びヒドロキシエチルメタクリレートの共重合体(VPOH)を合成した。その重量平均分子量は49万だった。得られたVPOHを用いて、実施例1と同様にしてグラフト鎖を有する分離材を得た。
実施例8
モノマーとしてグリセリンモノメタクリレート(GMA)59g、N−ビニルピロリドン(VP)41g、及びtert−ドデカンチオール0.7gを使用したこと以外は実施例1と同様にして、N−ビニルピロリドン及びグリセリンモノメタクリレートの共重合体(VPOH)を合成した。その重量平均分子量は8万だった。得られたVPOHを用いて、実施例1と同様にしてグラフト鎖を有する分離材を得た。
実施例9
モノマーとしてポリエチレングリコールアクリレート(AE−200)59g、N−ビニルピロリドン(VP)41g、及びtert−ドデカンチオール0.7gを使用したこと以外は実施例1と同様にして、N−ビニルピロリドン及びポリエチレングリコールアクリレートの共重合体(VPOH)を合成した。その重量平均分子量は9万だった。得られたVPOHを用いて、実施例1と同様にしてグラフト鎖を有する分離材を得た。
比較例1
モノマーとしてN−ビニルピロリドンは使用せずに、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)100gを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ヒドロキシエチルメタクリレートの単独重合体を合成した。その重量平均分子量は8万だった。得られた重合体を用いて、実施例1と同様にしてグラフト鎖を有する粒子を得た。
比較例2
ポリビニルアルコール(PVA、商品名GH−17、日本合成化学製)を準備し、これを用いてグラフト鎖を導入したこと以外は実施例1と同様にして、粒子を得た。
比較例3
多孔質粒子2をそのまま使用した。
比較例4
多孔質粒子3(球状多孔質粒子)4gを、デキストラン(分子量15万)1g、水酸化ナトリウム0.6g、及び水素化ホウ素ナトリウム0.15gを蒸留水に溶解させて調製したデキストラン溶液6gに加えて、多孔質粒子3の細孔内に含浸させた。デキストラン溶液が含浸した多孔質粒子3を、エチルセルローストルエン溶液(濃度1質量%)1Lに加え、攪拌により分散及び懸濁させた。得られた懸濁液に、エピクロルヒドリン5mLを加え、懸濁液を50℃で6時間攪拌して、重合体の細孔内に含浸されているデキストランを架橋反応させた。反応終了後、生成したゲル状物をろ過により懸濁液から分離し、トルエン、エタノール、蒸留水で順次洗浄し、多孔質粒子3を被覆する、架橋されたデキストランを含む被覆層を有する粒子を得た。後述のイオン交換基の導入において、実施例1と同様にアミノ基を導入した。
3.評価
(細孔径分布におけるモード径、比表面積及び空隙率)
被覆層形成後の各分離材及び粒子の細孔径分布におけるモード径、比表面積及び空隙率を、水銀圧入測定によって求めた。結果を表3に示す。
(タンパク質の非特異吸着能)
実施例及び比較例の各分離材及び粒子0.5gを、濃度20mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)50mLに投入し、24時間、室温で攪拌を行った。その後、遠心分離で取得した上澄み液をろ過し、ろ液のBSA濃度を分光光度計で測定した。得られたBSA濃度から、充填剤に吸着したBSAの量を算出した。BSAの濃度は分光光度計により280nmの吸光度から確認した。結果を表2に示す。
(イオン交換基の導入)
実施例及び比較例の各分離材及び粒子20gを、ジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩を所定量溶解させた水溶液100mLに分散させ、70℃で10分攪拌した。そこに、70℃に加温した5MのNaOH水溶液100mLを添加し、1時間反応させた。反応終了後、粒子を濾過により取り出し、水/エタノール(体積比8/2)の混合液で2回洗浄して、ジエチルアミノエチル(DEAE)基をイオン交換基として有する分離材(DEAE変性充填剤)及び粒子(DEAE変性粒子)を得た。
(カラム特性評価)
通液性
DEAE変性分離材及び粒子をエタノールに分散して、濃度30質量%のスラリーを調製した。このスラリーをφ7.8×300mmのステンレスカラムに15分かけて充填した。その後、充填剤が充填されたカラム(充填カラム)に流速を変えながら水を流し、線流速とカラム圧との関係を記録し、カラム圧0.3MPaの時点の線流速を測定した。この線流速が1000cm/h以下である場合を×、1000cm/h以上1500cm/h以下である場合を△、1500cm/h以上である場合を○とした。結果を表3に示す。
動的吸着量
20mmol/LのTris−塩酸緩衝液(pH8.0)を充填カラムに10カラム容量流した。その後、濃度2mg/mLでBSAを含む20mmol/LのTris−塩酸緩衝液を充填カラムに流し、UVによりカラム出口でのBSA濃度を測定した。カラム入口と出口のBSA濃度が一致するまで液を流し、その後、5カラム容量分の1M NaCl Tris−塩酸緩衝液で希釈した。10% breakthroughにおける動的吸着量を。以下の式を用いて算出した。結果を表2に示す。
10=cF(t10−t)/V
10:10% breakthroughにおける動的吸着量(mg/mL wet resin)
cf:注入しているBSA濃度
F:流速(mL/min)
:ベッド体積(mL)
10:10%breakthroughにおける時間(min)
:BSA注入開始時間(min)
Figure 0006648565
Figure 0006648565
表2及び表3の結果からも分かる通り、N−ビニルピロリドンと水酸基を有するモノマーとの共重合体をグラフト鎖として導入することにより、動的吸着量を大幅に向上することができ、非特異吸着が殆ど無く、カラム圧0.3MPa時の線流速が良好なカラム充填剤を合成することができた。細孔に多糖類であるデキストランを含浸させた場合、動的吸着量の大幅な向上は見られなかった。これはデキストランによって細孔が埋まり、タンパク質の粒子内への拡散が困難になったためであると推定される。

Claims (10)

  1. 芳香族基と前記芳香族基に結合した2以上のビニル基とを有する架橋性モノマーに由来する構造単位を含有する架橋ポリマーを含む多孔質ポリマー粒子と、
    前記多孔質ポリマー粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、
    を備え、
    前記被覆層が、水酸基を有する高分子と、前記水酸基を有する高分子に結合した、N−ビニルピロリドンに由来する構造単位及び水酸基を有するモノマーに由来する構造単位を含有する共重合体であるグラフト鎖と、を含む、分離材。
  2. 前記多孔質ポリマー粒子の細孔径分布におけるモード径が、0.1〜0.5μmである、請求項1に記載の分離材。
  3. 前記多孔質ポリマー粒子の粒径の変動係数が5〜15%である、請求項1又は2に記載の分離材。
  4. 前記水酸基を有する高分子が、多糖類又はその変性体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分離材。
  5. 前記水酸基を有する高分子が、アガロース又はその変性体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分離材。
  6. 前記共重合体の重量平均分子量が0.5万〜50万である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の分離材。
  7. 前記共重合中のN−ビニルピロリドンに由来する構造単位の割合が、前記共重合体中のモノマーに由来する全構造単位を基準として、50〜80mol%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の分離材。
  8. 前記被覆層の量が、前記多孔質ポリマー粒子1gに対して30〜400mgである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の分離材。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項に記載の分離材を備える、カラム。
  10. 請求項1〜8のいずれか一項に記載の分離材と、前記分離材の被覆層に導入された、陽イオン交換基又は陰イオン交換基と、を備える、イオン交換用担体。
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