JP6926573B2 - 分離材及びカラム - Google Patents

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本発明は、分離材及びカラムに関する。
従来、タンパク質に代表される生体高分子を分離精製する場合、一般的には、多孔質型の合成高分子を母体とするイオン交換体、親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とするイオン交換体等が用いられている。多孔質型の合成高分子を母体とするイオン交換体の場合、塩濃度による体積変化が小さいため、カラムに充填してクロマトグラフィーで用いる場合、通液時の耐圧性に優れる傾向がある。しかし、このイオン交換体を、タンパク質等の分離に用いると、疎水的相互作用に基づく不可逆吸着等の非特異吸着が起こるため、ピークの非対称化が発生する、又は該疎水的相互作用でイオン交換体に吸着されたタンパク質が吸着されたまま回収できないという問題点があった。
一方、デキストラン、アガロース等の多糖に代表される親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とするイオン交換体の場合、タンパク質の非特異吸着がほとんどないという利点がある。ところが、このイオン交換体は、水溶液中で著しく膨潤し、溶液のイオン強度による体積変化、及び遊離酸形と負荷形との体積変化が大きく、機械的強度も十分ではないという欠点を有する。特に、架橋ゲルをクロマトグラフィーで使用する場合、通液時の圧力損失が大きく、通液によりゲルが圧密化するといった欠点がある。
親水性天然高分子の架橋ゲルが持つ欠点を克服するため、多孔性高分子の細孔内に天然高分子ゲル等のゲルを保持した複合体が、ペプチド合成の分野で知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、このような複合体を用いることにより、反応性物質の負荷係数を高め、高収率の合成ができること、硬質な合成高分子物質でゲルを包囲するため、カラムベッドの形態で使用しても、容積変化がなく、カラムを通過するフロースルーの圧力が変化しないことが記載されている。
セライト等の無機多孔質体に、デキストラン、セルロースといった多糖等のキセロゲルを保持させた分離材が知られている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。このゲルには吸着性能を付加するために、ジエチルアミノメチル(DEAE)基等が付与されており、当該ゲルはヘモグロビンの除去に用いられる。その効果として、上記文献にはカラムでの通液性の良さが挙げられている。
マクロネットワーク構造のコポリマの細孔を、モノマから合成した架橋共重合体ゲルで埋めたハイブリッドコポリマのイオン交換体が知られている(例えば、特許文献4参照)。架橋共重合体ゲルは、架橋度が低い場合、圧力損失、体積変化等に問題があるが、ハイブリッドコポリマにすることで通液特性が改善され、圧力損失が少なく、イオン交換容量が向上し、リーク挙動が改善される。
有機合成ポリマ基体の細孔内に巨大網目構造を有する親水性天然高分子の架橋ゲルを充填した複合化充填材が提案されている(例えば、特許文献5、特許文献6参照)。
メタクリル酸グリシジルとアクリル架橋モノマとの共重合により形成される多孔質粒子が合成されている(例えば、特許文献7参照)。
米国特許第4965289号明細書 米国特許第4335017号明細書 米国特許第4336161号明細書 米国特許第3966489号明細書 特開平1−254247号公報 米国特許第5114577号明細書 特開2009−244067号公報 特開昭60−169427号公報
従来の分離材をタンパク質の精製等に使用した場合、分離材に吸着されたタンパク質の一部が脱離回収できない問題がある。
また、従来の分離材は、耐アルカリ性を十分なレベルで兼ね備えるものではない。
そこで、本発明は、タンパク質の脱離率に優れ、かつ耐アルカリ性に優れる分離材を提供することを目的とする。
本発明は、下記[1]〜[11]に記載の分離材又はカラムを提供する。
[1]多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する、水酸基を有する高分子を含む被覆層とを備え、タンパク質吸着後に波長430〜440nmの範囲に蛍光ピークを有しない分離材。
[2]上記水酸基を有する高分子が還元処理されている、[1]記載の分離材。
[3]上記水酸基を有する高分子が架橋している、[1]又は[2]に記載の分離材。
[4]上記水酸基を有する高分子が、還元処理された多糖類又はその変性体を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の分離材。
[5]上記多孔質ポリマ粒子が、スチレン系モノマに由来するモノマ単位を含有するポリマを含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の分離材。
[6]分離材の平均粒径が10〜500μmであり、かつ分離材の細孔径分布におけるモード径が0.05〜0.6μmである、[1]〜[5]のいずれかに記載の分離材。
[7]分離材の空隙率が40〜70体積%である、[1]〜[6]のいずれかに記載の分離材。
[8]分離材の比表面積が30m/g以上である、[1]〜[7]のいずれかに記載の分離材。
[9]分離材の粒径の変動係数が5〜15%である、[1]〜[8]のいずれかに記載の分離材。
[10]上記分離材が充填されたカラムに、該カラム内の圧力が0.3MPaとなるように水を通液させたときに、水の通液速度が500cm/h以上である、[1]〜[9]のいずれかに記載の分離材。
[11][1]〜[10]のいずれかに記載の分離材を備えるカラム。
本発明によれば、タンパク質の脱離率に優れ、かつ耐アルカリ性に優れる分離材を提供することができる。
実施例1における分離材の蛍光スペクトルを示すグラフである。 比較例1における分離材の蛍光スペクトルを示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
<分離材>
本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備える。なお、本明細中、「多孔質ポリマ粒子の表面」とは、多孔質ポリマ粒子の外側の表面のみでなく、多孔質ポリマ粒子の内部における細孔の表面を含むものとする。また、本明細書中(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレート等の類似の表現においても同様である。
(多孔質ポリマ粒子)
本実施形態の多孔質ポリマ粒子は、1種以上のモノマに由来するモノマ単位を含有するポリマを含む多孔質粒子である。多孔質ポリマ粒子は、例えば、多孔質化剤を含むモノマを重合させて得られる粒子である。多孔質ポリマ粒子は、例えば、従来の懸濁重合、乳化重合等によって合成することができる。モノマとしては、特に限定されないが、例えば、スチレン系モノマを使用することができる。すなわち、多孔質ポリマ粒子としては、スチレン系モノマに由来するモノマ単位を含有してもよい。具体的なモノマとしては、以下のような多官能性モノマ、単官能性モノマ等が挙げられる。
スチレン系の多官能性モノマとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフェナントレン等のジビニル化合物が挙げられる。これらの多官能性モノマは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記のなかでも耐久性、耐酸性、耐アルカリ性の観点より、ジビニルベンゼンを使用することが好ましい。
スチレン系の単官能性モノマとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等の、スチレン及びその誘導体が挙げられる。これらの単官能性モノマは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記の中でも耐酸性、耐アルカリ性に優れるという観点からスチレンを使用することが好ましい。また、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、アルデヒド基等の官能基を有するスチレン誘導体も使用することができる。
多孔質化剤としては、重合時に相分離を促し、粒子の多孔質化を促進する有機溶媒である脂肪族又は芳香族の炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類が挙げられる。具体的には、例えば、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、シクロヘキサン、オクタン、酢酸ブチル、フタル酸ジブチル、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、1−ヘキサノール、2−オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール等が挙げられる。これらの多孔質化剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記多孔質化剤は、モノマ全質量に対して0〜200質量%使用できる。多孔質化剤の量によって、多孔質ポリマ粒子の空隙率をコントロールできる。さらに、多孔質化剤の種類によって、多孔質ポリマ粒子の細孔の大きさ及び形状をコントロールすることができる。
重合反応の溶媒として使用する水を多孔質化剤とすることもできる。水を多孔質化剤とする場合は、モノマに油溶性界面活性剤を溶解させ、モノマの液滴が水を吸収することによって、粒子を多孔質化することが可能となる。
多孔質化に使用される油溶性界面活性剤としては、例えば、分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のソルビタンモノエステル(例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノミリステート又はヤシ脂肪酸から誘導されるソルビタンモノエステル;分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のジグリセロールモノエステル(例えば、C18:1(炭素数18個、二重結合数1個)脂肪酸のジグリセロールモノエステル等のジグリセロールモノオレエート)、ジグリセロールモノミリステート、ジグリセロールモノイソステアレート又はヤシ脂肪酸のジグリセロールモノエステル;分岐C16〜C24アルコール(例えば、ゲルベアルコール)、鎖状不飽和C16〜C22アルコール又は鎖状飽和C12〜C14アルコール(例えば、ヤシ脂肪アルコール)のジグリセロールモノ脂肪族エーテル;及びこれらの混合物が挙げられる。
これらの油溶性界面活性剤のうち、ソルビタンモノラウレート(例えば、SPAN(スパン、登録商標)20、好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるソルビタンモノラウレート);ソルビタンモノオレエート(例えば、SPAN(スパン、登録商標)80、好ましくは純度約40%、より好ましくは純度約50%、最も好ましくは純度約70%を超えるソルビタンモノオレエート);ジグリセロールモノオレエート(例えば、純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるジグリセロールモノオレエート);ジグリセロールモノイソステアレート(例えば、好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるジグリセロールモノイソステアレート);ジグリセロールモノミリステート(好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるソルビタンモノミリステート);ジグリセロールのココイル(例えば、ラウリル基、ミリストイル基等)エーテル;及びこれらの混合物が好ましい。
これらの油溶性界面活性剤は、モノマ全質量に対して、5〜80質量%の範囲で用いることが好ましい。油溶性界面活性剤の含有量が5質量%以上であると、水滴の安定性が充分となることから、大きな単一孔を形成しにくくなる。また、油溶性界面活性剤の含有量が80質量%以下であると、重合後に多孔質ポリマ粒子が形状をより保持しやすくなる。
重合反応に用いられる水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体等が挙げられる。水性媒体には、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性イオン系の界面活性剤のうち、いずれも用いることができる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、アルケルニルコハク酸塩(ジカリウム塩)、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩などが挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールエステル類、ポリエチレングリコールソルビタンエステル類、ポリアルキレングリコールアルキルアミン又はアミド類等の炭化水素系ノニオン界面活性剤、シリコンのポリエチレンオキサイド付加物類、ポリプロピレンオキサイド付加物類等のポリエーテル変性シリコン系ノニオン界面活性剤、パーフルオロアルキルグリコール類等のフッ素系ノニオン界面活性剤などが挙げられる。
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の炭化水素界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、亜リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられる。
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記界面活性剤の中でも、モノマ重合時の分散安定性の観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
必要に応じて添加される重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられる。重合開始剤は、モノマ100質量部に対して、0.1〜7.0質量部の範囲で使用することができる。
重合温度は、モノマ及び重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、25〜110℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
多孔質ポリマ粒子の合成において、粒子の分散安定性を向上させるために、高分子分散安定剤を用いてもよい。
高分子分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等)、ポリビニルピロリドンが挙げられ、トリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物も併用することができる。これらのうち、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンが好ましい。高分子分散安定剤の添加量は、モノマ100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましい。
モノマが単独で重合することを抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を用いてもよい。
多孔質ポリマ粒子及び分離材の平均粒径は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは150μm以下、より更に好ましくは100μm以下である。また、多孔質ポリマ粒子及び分離材の平均粒径は、通液性の向上の観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは50μm以上である。
多孔質ポリマ粒子及び分離材の粒径の変動係数(C.V.)は、通液性の向上の観点から、3〜15%であることが好ましく、5〜15%であることがより好ましく、5〜10%であることが更に好ましい。粒径のC.V.を低減する方法としては、マイクロプロセスサーバー(日立製作所社製)等の乳化装置により単分散化することが挙げられる。
多孔質ポリマ粒子又は分離材の平均粒径及び粒径のC.V.(変動係数)は、以下の測定法により求めることができる。
1)粒子を、超音波分散装置を使用して水(界面活性剤等の分散剤を含む)に分散させ、1質量%の多孔質ポリマ粒子を含む分散液を調製する。
2)粒度分布計(シスメックスフロー、シスメックス社製)を用いて、上記分散液中の粒子約1万個の画像により平均粒径及び粒径のC.V.(変動係数)を測定する。
多孔質ポリマ粒子及び分離材の細孔容積(空隙率)は、それぞれ多孔質ポリマ粒子及び分離材の全体積(細孔容積を含む)基準で30体積%以上70体積%以下であることが好ましく、40体積%以上70体積%以下であることがより好ましい。多孔質ポリマ粒子及び分離材は、細孔径が0.1μm以上0.5μm未満である細孔、すなわちマクロポアー(マクロ孔)を有することが好ましい。多孔質ポリマ粒子及び分離材の平均細孔径は、好ましくは0.1μm0.5μm未満であり、より好ましくは0.2μm以上0.5μm未満である。平均細孔径が0.1μm以上であると、細孔内に物質が入りやすくなる傾向にあり、平均細孔径が0.5μm未満であると、比表面積がより充分なものになる。これらは上述の多孔質化剤により調整可能である。
多孔質ポリマ粒子及び分離材の比表面積は、30m/g以上であることが好ましい。より高い実用性の観点から、比表面積は35m/g以上であることがより好ましく、40m/g以上であることが更に好ましい。比表面積が30m/g以上であると、分離する物質の吸着量が大きくなる傾向にある。
本実施形態の分離材の細孔径分布におけるモード径(細孔径分布の最頻値、最大頻度細孔径)は、0.05〜0.6μmであることが好ましい。細孔径分布におけるモード径が0.01μm以上であると、粒子中に液が流れやすくなり、動的吸着容量が多くなる傾向にあり、モード径が0.6μm以下であると、比表面積がより大きくなる傾向にある。
本実施形態の分離材又は多孔質ポリマ粒子の、平均細孔径、細孔径分布におけるモード径、比表面積及び空隙率は、水銀圧入測定装置(オートポア:島津製作所社製)にて測定した値であり、以下のようにして測定する。試料約0.05gを、標準5mL粉体用セル(ステム容積0.4mL)に加え、初期圧21kPa(約3psia、細孔直径約60μm相当)の条件で測定する。水銀パラメータは、装置デフォルトの水銀接触角130 degrees、水銀表面張力485dynes/cmに設定する。また、細孔径0.1〜3μmの範囲に限定してそれぞれの値を算出する。
分離材の、平均細孔径、比表面積等は、多孔質ポリマ粒子の原料、多孔質化剤、水酸基を有する高分子等を適宜選択することによって、調整することができる。
本実施形態の分離材は、分離材がタンパク質を吸着した後に、波長430〜440nmの範囲に蛍光ピークを有しない。本実施形態の分離材は、タンパク質を吸着した後の蛍光ピーク波長が、420nm以上430nm未満であることが好ましい。蛍光ピーク波長は、蛍光光度計によって測定される。具体的には、BSA(Bovine Serum Albumin)等のタンパク質を吸着させた分離材を乾燥させた後、再度水で湿潤させたものを測定試料とし、蛍光光度計を用いて測定する。励起波長は370nmであることが好ましい。
(被覆層)
本実施形態の被覆層は、水酸基を有する高分子を含む。被覆層は、多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。水酸基を有する高分子で多孔質ポリマ粒子を被覆することにより、カラム圧の上昇を抑制することができるとともに、タンパク質等の生体高分子の非特異吸着を抑制することが可能となる上、タンパク質吸着量を十分高いものとすることができる。さらに、水酸基を有する高分子が架橋されていると、カラム圧の上昇をより抑制することが可能となる。
(水酸基を有する高分子)
水酸基を有する高分子は、1分子中に2個以上の水酸基を有することが好ましく、親水性高分子であることがより好ましい。水酸基を有する高分子としては、例えば、アガロース、デキストラン、セルロース、キトサン、グリコーゲン、ペクチン、コンドロイチン、ヒアルロン酸、デンプン、アルギン酸、フルクタン、ヘパリン、カラギナン、カードラン、キサンタンガム等の多糖類、ポリビニルアルコールなどが挙げられ、これらの化合物に更に還元、変性等の処理がされたものであってもよい。水酸基を有する高分子としては、例えば平均分子量1万以上のものが使用できる。
水酸基を有する高分子は、界面吸着能を向上させる観点から、疎水性基を導入した変性体であることが好ましい。疎水性基としては、例えば炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基等が挙げられる。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。疎水性基は、水酸基と反応する官能基(例えば、エポキシ基)及び疎水性基を有する化合物(例えば、グリシジルフェニルエーテル)を、水酸基を有する高分子と従来公知の方法で反応させることにより、導入することができる。
疎水性基を導入した水酸基を有する高分子の変性体における疎水性基の含有量は、粒子表面に吸着するための疎水的相互作用力の保持と、タンパク質の非特異吸着の抑制とのバランスから、水酸基を構成する高分子中の構成単位1個当たり0.05〜0.3個であることが好ましく、0.1〜0.2個であることがより好ましく、0.12〜0.17個であることが更に好ましい。
本明細書でいう水酸基を有する高分子の構成単位は、実質的にその繰り返しによって水酸基を有する高分子をなす単位のうち、最小の単位としてよく、最小の単位2つ分等の任意の単位としてもよい。水酸基を有する高分子が多糖である場合には、その構成単位は、例えば、当該高分子を構成する単糖、二糖等とすることができ、水酸基を有する高分子が合成高分子である場合には、当該高分子を構成する最小単位であるモノマに由来する構造とすることができる。
水酸基を有する高分子における、疎水性基の含有割合は、例えば、疎水性基導入剤(水酸基と反応する官能基及び疎水性基を有する化合物)の使用量、疎水性基導入時に使用する触媒量、疎水性基導入時の温度等によって調節することができる。
本発明は、上記粒子にタンパク質を吸着させて370nmの蛍光を照射した時、新たに430〜440nmに蛍光ピークを発現しないことを特徴とするものである。カルボニル基とタンパク質由来アミノ基は不可逆的に反応し糖化生成することが知られている。この糖化生成物に350nm〜370nmの蛍光を照射すると、430〜440nmの範囲で蛍光ピークが発現することが知られている。したがって、被覆層に含まれる高分子がカルボニル基を有しないものであることが好ましい。高分子中のカルボニル基含有量が少ないと、タンパク吸着後の脱離率が低下することを抑制することができる。
本実施形態の水酸基を有する高分子は、還元処理されていることが好ましい。多糖類は、通常、末端にアルデヒド基等のカルボニル基を有している。水酸基を有する高分子が、多糖類等の、カルボニル基を有する高分子を原料とするものである場合は特に、還元処理されていることが好ましい。本実施形態の分離材において、水酸基を有する高分子中の、アルデヒド基等のカルボニル基の少なくとも一部が還元処理されることにより、カルボニル基が水酸基に変換され、カルボニル基とタンパク質中のアミノ基等とが反応して変性することを防ぎ、タンパク質の多孔質ポリマ粒子への固着を抑制することができると考えられる。
(分離材の製造方法)
本実施形態の分離材は、例えば、多孔質ポリマ粒子を用意する工程と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部に被覆層を形成する工程とを含む方法により、製造することができる。被覆層を形成する工程は、例えば、多孔質ポリマ粒子の表面に、多糖類又はその変性体を吸着させる工程と、多糖類又はその変性体を還元処理する工程とを含んでいてよい。多孔質ポリマ粒子に吸着させた多糖類又はその変性体は、架橋されてもよい。すなわち、被覆層を形成する工程は、吸着させた多糖類又はその変性体を架橋する工程を更に含んでいてもよい。
多糖類又はその変性体を還元処理する工程(還元処理工程)は、多糖類又はその変性体を多孔質ポリマ粒子の表面に吸着させる前に予め行っておいてもよい。多糖類又はその変性体の架橋を行う場合には、還元処理工程は、架橋前に行ってもよく、架橋時又は架橋後に行ってもよい。還元処理工程は、架橋時又は架橋後に行うことが好ましい。以下、被覆層形成方法の具体例について説明する。
(吸着)
まず、水酸基を有する高分子の溶液を多孔質ポリマ粒子表面に吸着させる。水酸基を有する高分子の溶液の溶媒としては、水酸基を有する高分子を溶解することのできるものであれば、特に限定されないが、水が最も一般的である。溶媒に溶解させる高分子の濃度は、5〜20(mg/mL)が好ましい。
上記溶液を、多孔質ポリマ粒子に含浸させる。含浸方法としては、例えば、水酸基を有する高分子の溶液に多孔質ポリマ粒子を加えて一定時間放置する方法が挙げられる。含浸時間は多孔質体の表面状態によっても変わるが、通常一昼夜含浸すれば高分子濃度が多孔質ポリマ粒子の内部で外部濃度と平衡状態となる。その後、水、アルコール等の溶媒で洗浄し、未吸着分の水酸基を有する高分子を除去する。
(架橋処理)
多孔質ポリマ粒子の表面に吸着した、水酸基を有する高分子は、固定化されていることが好ましい。固定化は、例えば水酸基を有する高分子を架橋することにより、行うことができる。架橋は、例えば、多孔質ポリマ粒子に吸着された多糖類等の水酸基を有する高分子に架橋剤を加えて架橋反応させることによって行うことができる。すなわち、本実施形態の分離材において、水酸基を有する高分子は架橋していてもよい。このとき、架橋して得られた水酸基を有する高分子の架橋体は、水酸基を有する3次元架橋網目構造を有する。
架橋剤としては、例えばエピクロルヒドリン等のエピハロヒドリン、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物、メチレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジル化合物などのような、水酸基に活性な官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。また、水酸基を有する高分子としてキトサンのようなアミノ基を有する化合物を使用する場合には、ジクロロオクタンのようなジハライド化合物も架橋剤として使用できる。
架橋反応には通常、触媒が用いられる。該触媒は架橋剤の種類に合わせて適宜従来公知のものを用いることができるが、例えば、架橋剤がエピクロルヒドリン等の場合には水酸化ナトリウム等のアルカリが有効であり、ジアルデヒド化合物の場合には塩酸等の鉱酸が有効である。
架橋剤による架橋反応は、通常、水酸基を有する高分子の溶液等を細孔内に含浸させた多孔質ポリマ粒子を適当な媒体中に分散、懸濁させた系に架橋剤を添加することによって行われる。架橋剤の添加量は、水酸基を有する高分子として多糖類を使用した場合、単糖類の1単位を1モルとすると、それに対して0.1〜100モル倍の範囲内で、分離材の性能に応じて選定することができる。架橋剤の添加量が0.1モル倍以上であると、被覆層が多孔質ポリマ粒子から剥離しにくくなる傾向にある。また、架橋剤の添加量が100モル倍以下であると、水酸基を有する高分子との反応率が高い場合でも、原料の水酸基を有する高分子の特性が損なわれにくい傾向にある。
触媒の使用量としては、架橋剤の種類により異なるが、通常、水酸基を有する高分子として多糖類を使用する場合に、多糖類を形成する単糖類の1単位を1モルとすると、これに対して0.01〜10モル倍の範囲、好ましくは0.1〜5モル倍で触媒が使用される。
温度等の架橋反応条件を変化させることにより、架橋反応を生起させてもよい。例えば、該架橋反応条件を温度条件とした場合、反応系の温度を上げ、その温度が反応温度に達すれば架橋反応が生起する。
水酸基を有する高分子の溶液等を含浸させた多孔質ポリマ粒子を分散、懸濁させる媒体としては含浸させた高分子溶液から高分子、架橋剤等を抽出してしまうことなく、かつ、架橋反応に不活性なものである必要がある。その具体例としては水、アルコール等が挙げられる。
架橋反応は、通常、5〜90℃の範囲の温度で、1〜10時間かけて行う。好ましくは、30〜90℃の範囲の温度である。
架橋反応終了後、生成した粒子を濾別し、次いで水、メタノール、エタノール等の親水性有機溶媒で洗浄し、未反応の高分子、懸濁用媒体等を除去すれば、多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部が、水酸基を有する高分子を含む被覆層により被覆された分離材が得られる。本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子1g当たり30〜500mgの被覆層を備えると好ましい。被覆層の量は熱分解の重量減少等で測定することができる。
(還元処理)
該高分子がカルボニル基を有する場合は、分離材製造過程において還元処理を行う。還元処理は、例えば、還元剤を用いて行うことができる。還元剤としては、カルボニル基を還元できるものであることが好ましく、アルデヒド基及び/又はケト基を還元できるものであることがより好ましい。還元剤としては、例えば水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化シアノホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、ホウ化水素、シュウ酸、ギ酸、ヒドラジン、二酸化硫黄、過酸化水素、硫化水素、亜硫酸ナトリウム、金属触媒(パラジウム、ニッケル等)などが挙げられる。還元処理により、高分子中のカルボニル基、例えば多糖類又はその変性体における末端アルデヒド基等の、一部又は全部を還元することができる。
還元反応は、通常、分離材を適当な媒体中に分散、懸濁させた系に還元剤を添加することによって行われる。還元剤の添加量は、水酸基を有する高分子として多糖類を使用した場合、単糖類の1単位を1モルとすると、それに対して0.01〜10モル倍の範囲内で、分離材の性能に応じて選定することができる。
還元反応は通常有機溶媒中で行うが、水中で行ってもよい。また、還元剤の種類に応じて0℃〜60℃温度条件下、0.5〜6時間行うことが好ましい。架橋時又は架橋後に還元処理を行う場合、還元反応終了後、粒子をろ別し、未反応の還元剤を水で洗浄する。このとき、更に塩により洗浄処理をしてもよい。
(イオン交換基の導入)
被覆層を備える分離材は、イオン交換基、リガンド(プロテインA)等を表面上の水酸基等を介して導入することによりイオン交換精製、アフィニティ精製等に使用することができる。イオン交換基の導入方法として、例えば、ハロゲン化アルキル化合物を用いる方法が挙げられる。
ハロゲン化アルキル化合物としては、モノハロゲノカルボン酸及びそのナトリウム塩、ハロゲン化アルキル基を少なくとも1つ有する1級、2級又は3級アミン及びその塩酸塩、ハロゲン化アルキル基を有する4級アンモニウムの塩酸塩などが挙げられる。モノハロゲノカルボン酸としては、例えば、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等が挙げられる。ハロゲン化アルキル基を少なくとも1つ有する3級アミンとしては、例えば、ジエチルアミノエチルクロライド等が挙げられる。これらのハロゲン化アルキル化合物は、臭化物又は塩化物であることが好ましい。ハロゲン化アルキル化合物の使用量としては、イオン交換基を付与する分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。
イオン交換基の導入には、反応を促進させるために、有機溶媒を用いることが有効である。有機溶媒としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、イソペンタノール等のアルコール類が挙げられる。
通常、イオン交換基の導入は、分離材表面の水酸基に行われるので、湿潤状態の粒子を、ろ過等により水切りした後、所定濃度のアルカリ性水溶液に浸漬し、一定時間放置した後、水−有機溶媒混合系で、上記ハロゲン化アルキル化合物を添加して反応させる。この反応は温度40〜90℃で、0.5〜12時間行うことが好ましい。上記の反応で使用されるハロゲン化アルキル化合物の種類により、付与されるイオン交換基が決定される。
イオン交換基として、弱塩基性基であるアミノ基を導入する方法としては、上記ハロゲン化アルキル化合物のうち、アルキル基のうちの少なくとも1つがハロゲン化アルキル基で置換されている、モノ−、ジ−又はトリ−アルキルアミン、モノ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、ジ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−ジ−アルカノールアミン等を反応させる方法、又はアルカノール基のうちの少なくとも1つがハロゲン化アルカノール基で置換されている、モノ−、ジ−又はトリ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、ジ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−ジ−アルカノールアミン等を反応させる方法が挙げられる。これらのハロゲン化アルキル化合物の使用量としては、分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。反応条件は、40〜90℃で、0.5〜12時間であることが好ましい。
イオン交換基として、強塩基性基の4級アンモニウム基を導入する方法としては、まず、3級アミノ基を導入し、該3級アミノ基にエピクロルヒドリン等のハロゲン化アルキル化合物を反応させ、4級アンモニウム基に変換させる方法が挙げられる。また、4級アンモニウムの塩酸塩等を分離材に反応させてもよい。
イオン交換基として、弱酸性基であるカルボキシ基を導入する方法としては、上記ハロゲン化アルキル化合物として、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸又はそのナトリウム塩を反応させる方法が挙げられる。これらハロゲン化アルキル化合物の使用量は、イオン交換基を導入する分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。
イオン交換基として、強酸性基であるスルホン酸基の導入方法としては、分離材に対してエピクロロヒドリン等のグリシジル化合物を反応させ、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩又は重亜硫酸塩の飽和水溶液に分離材を添加する方法が挙げられる。反応条件は、30〜90℃で1〜10時間であることが好ましい。
一方、イオン交換基の導入方法として、アルカリ性雰囲気下で、分離材に1,3−プロパンスルトンを反応させる方法も挙げられる。1,3−プロパンスルトンは、分離材の全質量に対して0.4質量%以上使用することが好ましい。反応条件は、0〜90℃で0.5〜12時間であることが好ましい。
本実施形態の分離材は、タンパク質の静電的相互作用による分離、アフィニティ精製に用いるのに好適である。例えば、タンパク質を含む混合溶液の中に本実施形態の分離材を添加し、静電的相互作用によりタンパク質だけを分離材に吸着させた後、該分離材を溶液からろ別し、塩濃度の高い水溶液中に添加すれば、分離材に吸着しているタンパク質を容易に脱離、回収できる。本実施形態に係る分離材は、タンパク質の脱離性に優れる。また、本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーにおいて、使用することも可能である。本実施形態のカラムは、本実施形態の分離材を備えるものである。
本実施形態の分離材を用いて分離できる生体高分子としては、水溶性物質が好ましい。具体的には、例えば、血清アルブミン、免疫グロブリン等の血液タンパク質、生体中に存在する酵素などのタンパク質、バイオテクノロジーにより生産されるタンパク質生理活性物質、DNA、生理活性をするペプチド等の生体高分子などであり、好ましくは分子量が200万以下、より好ましくは50万以下である。また、公知の方法に従い、タンパク質の等電点、イオン化状態等によって、分離材の性質、条件等を選ぶ必要がある。公知の方法としては、例えば、特許文献8等に記載の方法が挙げられる。
本実施形態の分離材は、タンパク質等の生体高分子の分離において、天然高分子からなる粒子及び合成ポリマからなる粒子のそれぞれの利点を有する。また、タンパク吸着後の粒子に励起光として例えば370nmの蛍光を照射したとき、波長430〜440nmに蛍光ピークが出現しないものに限定することにより、脱離できずに未回収となるタンパク質の量を低減することができる。これにより、タンパク質等の、吸着容量の低下及び回収可能な量の低下を抑制することもできる。また、本実施形態の分離材における多孔質ポリマ粒子は、非特異吸着が小さく、耐久性及び耐アルカリ性に優れる。
本明細書における通液速度とは、φ7.8×300mmのステンレスカラムに分離材を充填し、液を通した際の通液速度を表す。本実施形態の分離材は、カラムに充填した場合、カラム内の圧力が0.3MPaとなるように水を通液させたときに通液速度が500cm/h以上であることが好ましく、800cm/h以上であることがより好ましい。カラムクロマトグラフィーでタンパク質の分離を行う場合、タンパク質溶液等の通液速度としては、一般に400cm/h以下の範囲であるが、本実施形態の分離材を使用した場合は、通常のタンパク質分離用の分離材よりも速い通液速度500cm/h以上で使用することができる。
なお、本実施形態では、イオン交換基を導入する形態の分離材について説明したが、イオン交換基を導入しなくても分離材として用いることができる。このような分離材は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーに利用することができる。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(水酸基を有する高分子への疎水性基の導入)
分子量(Mw)が150,000であるアガロースの水溶液(2質量%)480mLに水酸化ナトリウム0.98g、グリシジルフェニルエーテル4.90gを投入して60℃で6時間反応させ、アガロースにフェニル基を導入した。得られた変性アガロースをイソプロピルアルコールで沈殿させ、洗浄した。変性アガロースの疎水性基含有量を下記方法により算出したところ、0.135個であった。
(水酸基を有する高分子の変性体の疎水性基導入割合評価)
乾燥状態の粉末アガロース(変性されていないアガロース)と揮発分0.1重量%未満まで乾燥させた疎水性基導入アガロースをそれぞれ70℃の純水に溶解させ、0.05重量%の水溶液サンプルを調製した。分光光度計により各水溶液の269nmの吸光度を測定して濃度を求めることで、下記式より水酸基を有する高分子の構成単位1個当たりの疎水性基含有量を算出した。
・疎水性基含有量(個)=(CAG/(CHAG+CAG))
・CAG:変性されているデキストラン又はアガロース構成単位の濃度(mmol/l) CAG=A/εGPE×1000
・A:疎水性基導入デキストラン又はアガロースの真の吸光度
A=疎水性基を導入したデキストラン又はアガロースの吸光度−変性されていないデキストラン又はアガロースの吸収
・変性されていないデキストラン又はアガロースの吸収=変性されてないデキストラン又はアガロースの吸光度×(疎水性基を導入したデキストラン又はアガロースのサンプル濃度(mmol/l)/変性されてないデキストラン又はアガロースのサンプル濃度(mmol/l))
・εGPE:グリシジルフェニルエーテルの吸光係数
εGPE=1372(l/(mol・cm))
・CHAG:変性されていないデキストラン又はアガロース構成単位の濃度(mmol/l)
HAG=(変性されてないデキストラン又はアガロース構成単位の濃度(g/l)/デキストラン構成単位(324g/mol)又はアガロース構成単位(306g/mol))×1000
・変性されてないデキストラン又はアガロース構成単位の濃度(g/l)=疎水性基を導入したデキストラン又はアガロースのサンプル濃度(質量%)×10−変性されているデキストラン又はアガロース構成単位の濃度(g/l)
・変性されているデキストラン又はアガロース構成単位の濃度(g/l)=(CAG×変性されているデキストラン又はアガロース構成単位(456g/mol))/1000
また、粒子に吸着した変性アガロース又はデキストランの疎水性基含有量は、粒子0.2gを1M硫酸10ml中にて、70℃、5時間処理し、処理液を分光光度計にて269nmの吸光度を測定して処理液濃度を求めることで、同様に算出できる。
(実施例1)
(多孔質ポリマ粒子の合成)
500mLの三口フラスコに、モノマとして純度96%のジビニルベンゼン(新日鉄住金社製、商品名:DVB960)16g、多孔質体としてヘキサノール16g、ジエチルベンゼン16g、開始剤として過酸化ベンゾイル0.64gをポリビニルアルコール(0.5重量%)分散剤水溶液に加えて混合液を調製した。この混合液を、マイクロプロセスサーバーを使用して乳化後、得られた乳化液をフラスコに移し、80℃のウォーターバスで加熱しながら、攪拌機を用いて約8時間撹拌した。得られた粒子をろ過後、アセトンで洗浄し、平均粒径100μmの多孔質ポリマ粒子を得た。多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、フロー型粒径測定装置(FPIA−3000、シスメックス社製)で測定した。
(水酸基を有する高分子変性体の粒子へのコーティング)
20mg/mLの変性アガロース水溶液70mLに対して、多孔質ポリマ粒子を1gの割合で投入し、55℃で24時間攪拌して、多孔質ポリマ粒子に変性アガロースを吸着させた。吸着後、多孔質ポリマ粒子をろ過し、熱水で洗浄した。
(コーティングした水酸基を有する高分子の架橋)
多孔質ポリマ粒子表面に吸着したアガロースは次のようにして架橋した。変性アガロースが吸着した粒子10gを0.4M水酸化ナトリウム水溶液に分散させ、0.4Mのエピクロロヒドリンを添加し、8時間室温にて攪拌し、アガロースを架橋した。その後、粒子を2重量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液の熱水で洗浄し、更に純水で洗浄した。
(還元処理)
架橋後の粒子について還元処理を行った。水に対して0.2重量%の水素化ホウ素ナトリウムを還元剤として添加して調製した水溶液中で、1時間、室温(23℃)℃で反応を行った。反応終了後、ろ過して得た粒子を1M NaCl Tris−塩酸緩衝液で3時間攪拌洗浄した。その後ろ過し、純水で洗浄した。
(タンパク質の非特異吸着能評価)
得られた分離材0.2gをBSA(Bovine Serum Albumin)濃度24mg/mLのTris−塩酸緩衝液(pH8.0)20mLに投入し、24時間室温で攪拌を行った。その後、遠心分離で上澄みをとった後、分光光度計で上澄み液の280nmの吸光度を分光光度計で測定することによって求めた上澄み液中のBSA濃度より、分離材に吸着したBSA量を算出した。分離材1mLあたりのBSA吸着量(非特異吸着量)が1mg以下を「○」、1mg以上10mg未満を「△」、10mg以上を「×」とした。結果を表1に示す。
(イオン交換基の導入)
分離材(乾燥重量20g)を5Mの水酸化ナトリウム水溶液200mLに投入し、室温で1時間放置した。別途、ジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩の所定量(60g)を溶解した水溶液200mLを添加し、水溶液の温度を70℃まで上げ、撹拌しながら8時間反応させた。反応終了後、ろ過し、水/エタノール(体積比5/1)で3回洗浄し、ジエチルアミノエチル(DEAE)基をイオン交換基として有する分離材(DEAE変性分離材)を得た。
(イオン交換容量の評価)
DEAE変性分離材のイオン交換容量は以下のように測定した。5mL容量の分離材を、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液20mLに1時間浸漬し、室温で攪拌した。その後、洗浄液として用いた水のpHが7以下となるまで洗浄を行った。洗浄した分離材を0.1Nの塩酸20mLに浸漬し、1時間攪拌させた。分離材をろ過で取り除いた後、ろ液の塩酸水溶液を中和滴定することによって、DEAE分離材のイオン交換容量を測定した。結果を表1に示す。
(タンパク質の静的吸着)
タンパク質の静的吸着量は以下のように測定した。0.2gのDEAE変性分離材をTris−塩酸緩衝液(pH8.0)10gに投入し、十分に湿潤させた。その後、BSA(Bovine Serum Albumin)濃度24mg/mLのTris−塩酸緩衝液(pH8.0)を全体容量が20mlとなるように投入した後、24時間室温で攪拌を行った。その後、遠心分離で上澄みをとり、分光光度計でろ液のBSA濃度を測定し、当該濃度に基づいて、粒子に吸着したBSA量(静的吸着量)を算出した。BSAの濃度は分光光度計で280nmの吸光度を測定することにより確認した。
(タンパク質脱離)
上記方法により吸着させたタンパク質を以下の方法によって脱離した。上澄み分取後の、DEAE変性分離材を含む残存溶液にNaClを0.1Mになるように調整して投入し、24時間室温で攪拌を行って、タンパク質を分離材から脱離した。その後、遠心分離で上澄みをとった後、分光光度計で当該上澄み液のBSA濃度を測定し、当該濃度に基づいて、粒子から脱離したBSA量を算出した。BSAの濃度は分光光度計により280nmの吸光度から確認した。吸着したタンパク質全量が脱離した場合を100%として、脱離率を算出した。結果を表1に示す。
(蛍光観察)
タンパクを吸着したDEAE分離材の蛍光測定は次の方法で行った。上術の方法によって得たBSAを静的吸着した分離材を、80℃、5時間乾燥した後、純水に1時間湿潤させ、石英セルに投入した。分離材が十分に沈降した後、蛍光光度計により測定した。この時、励起光として波長370nmの光を照射し、波長300〜600nmの範囲の蛍光観察を行った。スリット幅は励起側、蛍光側のいずれも5nmとし、スキャンスピード240nm/分、ホトマル電圧400Vで測定した。蛍光ピーク波長を表1に示す。また、実施例1及び比較例1の蛍光スペクトルを図1及び図2に示す。なお、蛍光測定では、波長370nm付近にピークを有する極めて強い蛍光が検出されたが、これは励起光に由来するものと考えられたため、当該ピーク以外のピーク波長を蛍光ピーク波長とした。
(耐アルカリ性評価)
まず、分離材のアルカリ処理前の動的吸着容量(動的結合容量)を以下のように測定した。DEAE変性分離材をメタノールと混合して、濃度30質量%のスラリーを調製した。このスラリーをφ7.8×300mmのステンレスカラムに15分かけて充填した。当該カラムに、20mmol/L Tris−塩酸緩衝液(pH8.0)を10カラム容量流した。その後BSA濃度2mg/mLの20mmol/LのTris−塩酸緩衝液を流し、UV吸光度測定によりカラム出口でのBSA濃度を測定した。カラム入口と出口のBSA濃度が一致するまで緩衝液を流し、その後、5カラム容量分の1M NaCl Tris−塩酸緩衝液で希釈した。10% breakthroughにおける動的吸着容量を以下の式を用いて算出した。
10=cF(t10−t)/V
10:10%breakthroughにおける動的吸着容量(mg/mL wet resin)
cf:注入しているBSA濃度
F:流速(mL/min)
:ベッド体積(mL)
10:10%breakthroughにおける時間(min)
:BSA注入開始時間(min)
DEAE分離材を0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で24時間攪拌し、Tris−塩酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した。洗浄した分離材を、カラムに上記と同様の条件で充填した。BSAの10%breakthrough動的吸着容量を、上記と同様の方法で測定し、アルカリ処理前の動的吸着容量と比較した。動的吸着容量の減少が3%以下である場合を「○」、3%超20%未満を「△」、20%以上を「×」とした。結果を表に示す。
(実施例2)
多孔質ポリマ粒子へコーティングする水酸基を有する高分子変性体として、変性アガロースの代わりに以下のとおり疎水性基を導入した変性デキストランを用いた以外は、実施例1と同様の処理を行い、実施例2として評価を行った。
分子量(Mw)が300,000であるデキストラン水溶液(2重量%)480mLに水酸化ナトリウム0.98g、グリシジルフェニルエーテル9.80gを投入して60℃で6時間反応させ、デキストランにフェニル基を導入した。得られた変性デキストランをメタノールで沈殿させ、洗浄した。変性デキストランの疎水性基含有量を下記方法により算出したところ、0.103個であった。
(比較例1)
還元処理を施さない以外は実施例1と同様の処理を行い、比較例1として評価を行った。
(比較例2)
還元処理を施さない以外は実施例2と同様の処理を行い、比較例2として評価を行った。
(比較例3)
市販のアガロース粒子(Capto DEAE、GEヘルスケア社製)を使用して比較例3として評価を行った。
Figure 0006926573
実施例で得られた分離材は、BSA吸着後の蛍光ピーク波長が430〜440nmの範囲になく、BSAの吸着後の脱離率が比較例で得られた分離材と比較して高かった。比較例で得られた分離材は、BSAを吸着すると蛍光ピーク波長が432〜436nmに発現した。タンパク吸着後に430〜440nmの範囲に蛍光ピーク波長を有しない粒子を作製することで、タンパク吸着後の脱離率が向上し、カラム使用時における繰返し性が向上することが示された。

Claims (10)

  1. 多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する、水酸基を有する高分子を含む被覆層とを備え、タンパク質吸着後に波長430〜440nmの範囲に蛍光ピークを有しない分離材。
  2. 前記水酸基を有する高分子が還元処理されている、請求項1記載の分離材。
  3. 前記水酸基を有する高分子が架橋している、請求項1又は2に記載の分離材。
  4. 前記水酸基を有する高分子が、還元処理された多糖類又はその変性体を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分離材。
  5. 前記多孔質ポリマ粒子が、スチレン系モノマに由来するモノマ単位を含有するポリマを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の分離材。
  6. 分離材の平均粒径が10〜500μmであり、かつ分離材の細孔径分布におけるモード径が0.05〜0.6μmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の分離材。
  7. 分離材の空隙率が40〜70体積%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の分離材。
  8. 分離材の比表面積が30m/g以上である、請求項1〜7いずれか一項に記載の分離材。
  9. 分離材の粒径の変動係数が5〜15%である、請求項1〜8いずれか一項に記載の分離材。
  10. 請求項1〜のいずれか一項に記載の分離材を備えるカラム。
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