(第1実施形態)
<画像形成装置>
以下、まず本発明の第1実施形態に係る定着装置を備える画像形成装置Aの全体構成を画像形成時の動作とともに図面を参照しながら説明する。なお、部材の種類、形状、配置、個数等は以下の実施形態にものに限定されず、その構成要素を同等の作用効果を奏するものに適宜置換する等、発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
図1に示す様に、画像形成装置Aは記録材としてのシートPにトナー像を転写する画像形成部と、画像形成部へシートPを供給するシート給送部と、シートPにトナー像を定着する定着部と、を備える。
画像形成部は、感光体ドラム1、帯電ローラ2、レーザスキャナユニット3、現像装置4、転写ローラ5などを備える。
画像形成に際しては、図4に示すCPU80が画像形成ジョブ信号を受信すると、シート積載部9に積載収納されたシートPが給送ローラ6によりレジストローラ7に送られる。その後、画像形成部とタイミング補正を行った上で、レジストローラ7によりシートPが画像形成部に送り出される。
一方、画像形成部においては、帯電ローラ2に帯電バイアスが印加されることにより、帯電ローラ2と接触する感光体ドラム1の表面が帯電させられる。そして、レーザスキャナユニット3が、内部に備える光源(不図示)からレーザ光Lを出射し、レーザ光を感光体ドラム1に照射する。これにより、感光体ドラム1の電位が部分的に低下して画像情報に応じた静電潜像が感光体ドラム1の表面上に形成される。
その後、現像装置4が備える現像スリーブ4aに現像バイアスが印加されることにより、現像スリーブ4aから感光体ドラム1表面に形成された静電潜像にトナーを付着させてトナー像(現像剤像)が形成される。感光体ドラム1表面に形成されたトナー像は、感光体ドラム1と転写ローラ5との間に形成された転写ニップ部に送り込まれる。トナー像が転写ニップ部に到着すると、転写ローラ5にトナーと逆極性の転写バイアスが印加されてトナー像がシートPに転写される。
その後、トナー像が転写されたシートPは定着装置11に送られ、定着装置11により加熱・加圧されて定着動作が行われ、シートP上(記録材上)のトナー像がシートPに永久定着される。その後、シートPは排出ローラ13によって搬送されて排出トレイ15に排出される。
<定着装置>
次に、定着装置11の構成について説明する。
図2は、定着装置11の断面概略図である。図2に示す様に、定着装置11は、シートPに担持されたトナー画像を加熱し、トナーを溶融させてシートPにトナー画像を定着させる加熱ユニット14を有する。また、加熱ユニット14が備えるフィルム22を加圧し、フィルム22とともにシートPを挟持搬送する加圧ローラ24(加圧手段)を有する。
加圧ローラ24は、回転軸である芯金24aと、芯金24aの周囲に設けられた弾性体層24bと、弾性体層24bの周囲に設けられた最外層の離型層24cから構成される。芯金24aは、両端部が回転可能に支持されており、端部側に配置されたギア(不図示)が定着モータ86(図4参照)から駆動力を受けて回転し、加圧ローラ24が回転する。また加圧ローラ24は、芯金24aの両端部は、不図示の加圧ばねにより120Nの力でフィルム22側に加圧されている。これにより加圧ローラ24はフィルム22を加圧する。
なお、本実施形態では、芯金24aはアルミニウム、弾性体層24bはシリコンゴム、離型層24cはPFAチューブを材料として用いた。また加圧ローラの外径は30mm、離型層の厚みは50μm、ゴムの長手方向全長は330mmとした。
加熱ユニット14は、フィルム22、フィルム22を保持するガイド部材21、U字ステー31、フィルム22を加熱するヒータ23、サーミスタ25(温度検出手段)、非接触温度計89(図4参照)などを備える。
フィルム22(回転ユニット)は無端円筒状の耐熱性を持つフィルム状の部材であって、液晶ポリマーで形成された縦断面桶型形状のガイド部材21に外嵌され、回転する加圧ローラ20の摩擦力により従動回転する。つまり本実施形態では、加圧ローラ24に駆動を伝達して回転させる定着モータ86は、フィルム22を回転させる駆動手段である。
またフィルム22の内周長は、ガイド部材21の外周長よりも3mm程度大きくなっており、フィルム22は周長に余裕を持ってガイド部材21に外嵌される。またフィルム22の内周面とガイド部材21の外周面の間には潤滑剤(不図示)が塗布され、これによりガイド部材21とフィルム22の内周面とが接触回転するときの摺動抵抗を低下させている。
またフィルム22は、基材となる基層、基層の表面を覆う表層、表層と基層を接着させる接着層の3層から構成される。基層は膜厚40μmのステンレス製フィルムであり、その外周面にPFAがコーティングされている。またフィルム22の外径は30mmであり、加圧ローラ24の回転軸方向である長手方向の全長は340mmとして、A3サイズの通紙に対応可能な寸法に設定されている。
なお、フィルム22は熱容量を小さくして立ち上げ時間を早めるために、膜厚は100μm以下であることが好ましい。また基層はステンレス製の他に、ニッケル等の金属製、或いはポリイミド等の樹脂製のものを使用することができる。また表層にはトナーとの離型性を確保するためにPFAではなくPTFE等の他のフッ素系樹脂を使用してもよい。また前述したフィルム22の凹み跡は、樹脂性フィルムでも発生するものの、金属製フィルムの場合により顕著に発生しやすい。これは、金属のように可撓性が比較的に小さいものは一度局所的に変形をすると永久に凹み跡が残ってしまうためである。
U字ステー31は、長手方向に伸びた細長いU字状の金属であり、ガイド部材21の上側に配置されている。このU字ステー31は、ガイド部材21に均一に圧を加え、加圧ローラ24によるガイド部材21の加圧に対して強度を持たせている。また長手方向の熱伝導性を良化させて長手方向の温度ムラを改善させている。このような機能から、材料としては強度が高く、熱伝導性の優れた金属が一般的に用いられる。本実施形態では、材料として亜鉛メッキ鋼板を用いている。
ヒータ23は、定着ニップ部内においてフィルム22の内側でフィルム22の内周面と接触(対向)して配置され、フィルム22を内周面側から加熱する。ヒータ23は、窒化アルミニウム製のヒータ基板27の溝部に嵌め入れて断熱保持され、通電により発熱するセラミックス製の発熱抵抗体26(加熱源)を備える。また絶縁性を確保するために発熱抵抗体26をガラスコート28で覆っている。またヒータ基板27のフィルム22との接触面側には、フィルム22との摺動性を確保するためにポリイミドコーティング30を10μm印刷している。さらに、フィルム22とポリイミドコーティング30との間に潤滑剤を塗布してフィルム22回転時の摺動性をさらに高めている。ヒータ基板27は、ガイド部材21の加圧ローラ24側の面に長手方向に沿って形成された凹字形状の溝に嵌められて保持され、これによりヒータ23をヒータ基板27を介してガイド部材21に固定している。
またヒータ基板27のガイド部材21との対向面側には、ヒータ23の温度を計測するサーミスタ25(第1温度検出手段)が配置されている。サーミスタ25は、支持体(不図示)上に断熱層を設け、その断熱層の上にチップサーミスタの素子を固定させて、その素子をヒータ基板27に所定の加圧力で加圧して支持体をヒータ基板27に当接させている。
ここで前述した通り、ヒータ23はフィルム22と接触しており、フィルム22のヒータ23との接触領域の温度は、ヒータ23の温度とほぼ同視することができる。つまりサーミスタ25は、フィルム22のヒータ23との接触領域の温度を計測して検出する第1検出手段、ヒータ温度センサである。本実施形態では、フィルム22のヒータ23との接触領域は、定着ニップ部の内側にあり、当該接触領域の温度と定着ニップ部の温度はほぼ一致するため、この接触領域の温度を以下ではニップ内温度と称する。
また非接触温度計89は、フィルム22のヒータ23と接触していない領域の温度を測定する。つまり非接触温度計89は、フィルム22のヒータ23との非接触領域の温度を測定する非接触領域温度センサである。具体的には、定着ニップ部からフィルム22の曲率に沿ってτ°(本実施形態では30°)傾いた位置(図2のS点)のフィルム22のシート接触面側の温度を測定する。本実施形態では、フィルム22のヒータ23との非接触領域は、定着ニップ部の外側であるため、この非接触領域の温度を以下ではニップ外温度と称する。またニップ内温度とニップ外温度との温度差を、ニップ内外温度差と称する。
図3は、ヒータ基板27のガイド部材21との対向面側(図3(a))とフィルム22接触面側(図3(b))の構成を示す図である。図3に示す様に、ヒータ基板27のガイド部材21との対向面側には、発熱抵抗体26が2つ並列して配置されている。また発熱抵抗体26に給電を行うための給電部33(33a、33b)が配置されている。
またヒータ基板27のガイド部材21との対向面側には、サーミスタ25が長手方向に3ヶ所設置されている。このうち、長手方向の最も中央付近のメインサーミスタ25aは、シートPの搬送方向と直交するシート幅方向において、全てのシートPが必ず通過する最小幅サイズのシートPの通過領域に配置されている。また第1サブサーミスタ25bは、シート幅方向においてA4サイズのシートPをR方向で通過させたときに非通過域にあたる領域に配置され、第2サブサーミスタ25cはB5サイズのシートPをR方向で通過させたときに非通過域にあたる領域に配置されている。
そしてシートPの通過域の温度をメインサーミスタ25aにより検出し、A4RやB5R等の小サイズシート通過時の非通過域の温度をサブサーミスタ25b、25cにより検出する。これにより小サイズ連続通紙時の非通過域の異常昇温が発生しないようにしている。
またヒータ基板27上には、長手方向中央部に対してメインサーミスタ25aと対称の位置にサーモスイッチ32(図5参照)が配置されている。サーモスイッチ32は、サーミスタ25の故障や、制御部の故障によってヒータ23が過度に加熱されたときに安全装置として働くスイッチであり、内部にバイメタルが組み込まれている。このバイメタルが所定の温度に到達すると、バイメタルが変形し、発熱抵抗体26への通電が遮断される。
<制御部>
次に、画像形成装置Aを制御部の構成を、特に定着装置11の制御に関わる部分を中心に説明する。
図4は、画像形成装置Aの制御部の一部の構成を示すブロック図である。図4に示す様に、制御部は、CPU80(制御手段、設定手段)、RAM81、ROM82を備える。またCPU80には、ヒータ23、操作部83、環境センサ88(環境検出手段)、非接触温度計89、定着モータ86等が接続されている。
ROM82には、温度制御プログラムや供電力制御プログラム等の各種のプログラムや、定着温度情報などが記憶されている。また、CPU80はROM82に記憶されたプログラムに基づいて各種の演算処理を行う。またRAM81は、CPU80の演算処理における作業領域として利用される。
操作部83は、ユーザ等により入力される外部からの操作指示をCPU80に出力する。定着モータ86は、CPU80の制御に従って加圧ロ−ラ24を回転駆動させる。
環境センサ88は、画像形成装置本体に配置され、画像形成装置Aの雰囲気温度(機内温度)を検出してCPU80に出力する。また非接触温度計89はフィルム22のニップ外温度を検出してCPU80に出力する。またサーミスタ25はヒータ23の温度、及びヒータ23の温度を通じてフィルム22のニップ内温度を検出してCPU80に出力する。CPU80は、これらの温度情報等に基づいて、後述する通り、ヒータ23の温度や定着モータ86の駆動を制御する。
次に、画像形成時のヒータ23の通電制御について説明する。
図5は、ヒータの通電制御経路を示す図である。図5に示す様に、CPU80が画像形成ジョブの信号を受信すると、CPU80がトライアック42をオンし、これにより交流電源43からサーモスイッチ32を介して給電部33aから発熱抵抗体26、給電部33bと通電される。
この通電により発熱抵抗体26全域が発熱して昇温する。その昇温に応じて加熱されるヒータ基板27の温度をサーミスタ25の出力をA/D変換して取り込んで検出し、目標温度にヒータ基板27の温度、つまりヒータ23の温度が到達するまで通電を続ける。
すなわちヒータ23が目標温度に到達すると、サーミスタ25からの出力信号に基づいて、トライアック42によりヒータ23に通電する電力を位相制御あるいは波数制御等により制御して、ヒータ23の温度制御を行う。具体的には、CPU80はサーミスタ25の検出温度が設定温度より低い場合には発熱抵抗体26を昇温させ、設定温度より高い場合には発熱抵抗体26を降温させるようにトライアック42を制御してヒータ23を設定温度に保つ。画像形成動作が終了すると、トライアック42はオフにされてヒータ23への通電が終了する。
<フィルム凹み跡発生実験>
次に、フィルム22の凹み跡の発生実験の結果について説明する。
前述した通り、フィルム22の凹み跡は、フィルム22の回転方向(周方向)の温度差によってフィルム22に熱応力が発生してひずみが生じ、そこでフィルム22に駆動力が加わることで発生する。本実験では、フィルム22と加圧ローラ24を停止させた状態でフィルム22のニップ内外温度差を80℃〜100℃の間で変化させた時の定着ニップ部におけるフィルム22のひずみ量を測定する。その後、加圧ローラ24の駆動をかけてフィルム22を回転させてフィルム22の凹み跡の発生の有無を確認した。
なお、ニップ内温度については定着ニップ部のシート搬送方向の略中央部のシートPとの接触面側の温度を測定し、ニップ外温度について上述した非接触温度計が配置された位置(図2のS点)のフィルム22のシートPとの接触面側の温度を測定した。ひずみ量に関しては、加熱前後のフィルム22形状の変化量(図22に示す矢印hの長さ)を測定した。
図6に実験結果を示す。図6に示す様に、今回の実験では、フィルム22のニップ内外の温度差が95℃以上になると、ひずみ量が50μm以上になり、その後にフィルム22を回転させることでフィルム22に凹み跡が生じることが検証できた。そこで以下では、フィルム22の変形(凹み跡の発生)を抑制するため、フィルム22のニップ内外温度差が95℃未満になるように、後述する制御を行う。
<立ち上げ制御>
まず、画像形成ジョブ信号を受信してヒータ23を設定温度に立ち上げるときの立ち上げ制御について図7に示すフローチャートを用いて説明する。なお、本実施形態では、ヒータ23のポリイミドコーティング30とフィルム22との間に塗布された潤滑剤が溶け始めて潤滑性を確保できる温度は80℃である。
図7に示す様に、まず画像形成のジョブ信号を受信すると(S1)、フィルム22が停止した状態でヒータ23への通電を開始する(S2)。次に、メインサーミスタ25aで検出したヒータ23の温度が85℃に到達すると(S3)、定着モータ86の駆動を開始し(S4)、加圧ローラ24を回転させてフィルム22を回転させる。つまりCPU80は、メインサーミスタ25aによるヒータ23の温度の検出結果を取得し、ヒータ23の温度が85℃に到達したときに定着モータ86の駆動を開始させる。その後、ヒータ23が設定温度に到達すると、定着ニップ部にシートPを通過させて定着動作を行う(S5)。
図8は、25℃の環境下において上記立ち上げ制御を実行したときのフィルムのニップ内温度とニップ外温度の推移を示すグラフである。図8に示す様に、画像形成ジョブの信号を受けるとフィルム22が停止加熱されてフィルム22のニップ内温度が上昇する。このとき、フィルム22は非回転状態のためニップ外温度は雰囲気温度のまま上昇しない。
次に、ヒータが85℃まで昇温すると、定着モータ56の駆動が開始されてフィルム22が回転する。これによりフィルム22のニップ外温度が上昇する。なお、ここではサーミスタの検出温度が210℃になると定着動作を行う制御とし、このときニップ内温度は200℃付近となっている。
このような制御により、例えば0℃環境のような低温環境であっても、フィルム22のニップ内外温度差は85−0=85℃となり、ニップ内外温度差を95℃以内に抑えることができる。つまり立ち上げ制御において、フィルム22のニップ内外温度差が所定の値以下のときにフィルム22の回転を開始させることで、フィルム22の回転時においてフィルム22の回転方向の温度差を所定の値以下に抑制することができる。このため、フィルム22の凹み跡の発生を抑制しつつ、潤滑剤を溶かして駆動開始時のフィルム22とヒータ23の間の摩擦を軽減させることができる。
なお、本実施形態では、メインサーミスタ25aの検出温度が85℃のときに定着モータ86の駆動を開始する制御としたが、本発明はこれに限られない。すなわち、フィルム22とヒータ23との間に塗布された潤滑剤の潤滑性を確保しつつ、フィルム22の回転時にフィルムの凹み跡の発生を防止可能な温度領域でフィルム22を回転させる制御とすれば、上記同様の効果を得ることができる。
<後回転制御>
次に、定着動作後に行われる後回転制御について説明する。
定着動作の終了後、すぐに加圧ローラ24とフィルム22の回転を停止させると、両者がともに高温になっているため、定着ニップ部において両者が貼り付くおそれがある。両者が貼り付いた状態で再度回転が開始されると、フィルム22表層のフッ素コートやフッ素チューブ等が剥がれてしまい、加圧ローラ24やフィルム22にトナーが付着して画像汚れが発生してしまう。
また、定着動作時にシートPとの摩擦によって加圧ローラが帯電するチャージアップが発生する事がある。加圧ローラ24がトナーと同極性にチャージアップする場合、トナーがフィルム22側に付着して次にトナー像を定着されるシートPが汚れてしまう。
そこで定着動作後に加圧ローラ24とフィルム22を回転させて両者を冷却するとともに加圧ローラ24を除電するための後回転制御を実施する。
まず従来の後回転制御について説明する。従来は、定着動作の終了後にヒータ23への通電をオフし、回転制御のみを行ってフィルム22と加圧ローラ24を冷却していた。また回転制御を行う時間は、定着に係るシートPの坪量が大きい場合は20秒間、坪量が小さい場合は2.5秒間としていた。これは坪量が大きいほどシートPの電気抵抗が大きくなるため、加圧ローラ24がシートPとの摩擦によってチャージアップし易くなるためである。そこでシートPの坪量が大きい場合は後回転時間を長くすることでシートPよりも導電性のあるフィルム22を加圧ローラ24に長時間接触させて十分な除電を行う。
次に、本実施形態の後回転制御について図9に示すフローチャートを用いて説明する。
図9に示す様に、まず定着動作の終了後(S21)、定着に係るシートPの坪量、すなわちトナー像が定着されたシートPの坪量が所定以上か否かを判定する(S22)。本実施形態では、シートPの坪量が90g/m2以上か否かを判定する。なお、シートPの坪量はユーザが操作部83(図4参照)上で設定したシートPの種類を基に読み取る。
ここでシートPの坪量が90g/m2未満の場合、ヒータの通電をオフし(S23)、2.5秒間加圧ローラ24とフィルム22を回転させ(S24)、その後に定着モータ86の駆動をオフし(S28)、後回転制御を終了する。
一方、シートPの坪量が90g/m2以上の場合、加圧ローラ24を除電するため、従来同様に加圧ローラ24とフィルム22を20秒間回転させる。このとき、前半10秒間はヒータ23の通電オンを継続した状態で加圧ローラ24とフィルム22を回転させる(S25)。なお、このときのヒータ23の温度は、定着動作時の温調温度に制御する。
その後、ヒータ23の通電をオフし(S26)、加圧ローラ24とフィルム22を10秒間回転させる(S27)。その後、定着モータ86の駆動をオフし(S28)、後回転制御を終了する。
図10は、後回転制御を行った後、前述した吐き出し制御を行ったときのフィルム22のニップ内外温度の推移を示すグラフである。ここで、図10(a)は従来の後回転制御を行ったときの温度推移を示し、図10(b)は本実施形態の後回転制御を行ったときの温度推移を示す。なお、この温度推移は0℃の低温環境下において、定着動作時にヒータ温調を210℃温調で坪量100g/m2のシートPを5枚定着動作後の温度推移である。またこのグラフにおいて、0秒時点は定着動作終了後の後回転制御開始時点である。
図10に示す様に、従来の制御では、後回転制御開始時点でヒータ23への通電が遮断されるため、フィルム22のニップ内温度とニップ外温度はともに低下し、且つ、ニップ内外温度差は小さくなっていく。その後、吐き出し制御時に停止加熱を行うと、フィルム22のニップ内温度が急激に上昇するものの、ニップ外温度は継続して低下していく。このため、吐き出し制御中にニップ内外温度差が大きくなり、その後の吐き出し制御中や吐き出し制御直後に画像形成ジョブが受信されて定着モータ86が駆動されると、フィルム22に凹み跡が発生する。
一方、本実施形態の制御では、後回転制御開始後も前半10秒はヒータへの通電を行いながら回転を行うため、後回転制御終了時のフィルム22のニップ内温度は従来の制御と比較すると高い温度になる。このため、その後に吐き出し制御で停止加熱を行っても、フィルム22のニップ内外温度差は95℃未満となり、このときに定着モータ86が駆動された場合でもフィルム22の凹の跡は抑制される。
このように、後回転制御において直ぐにヒータ23の通電をオフせずに通電を続けることで、後回転制御終了時のフィルム22のニップ内温度を高くすることができ、その後に停止加熱を行ってもニップ内外温度差を小さくすることができる。つまり、フィルム22の非回転時においてフィルム22のニップ内外温度差が小さくなるようにヒータ23の温度を制御することで、その後に定着モータ86がオンされた場合でもフィルム22の凹み跡の発生を抑制することができる。
なお、後半10秒でヒータ23への通電を行わずにフィルム22と加圧ローラ24を冷却するので、フィルム22と加圧ローラ24との張り付きの防止は可能である。またヒータ23への通電を行いながら回転を行ってもフィルム22表面や加圧ローラ24表面の電気抵抗は大きく変化しないため、加圧ローラ24の除電効果は変わらず、加圧ローラ24のチャージアップによるトナー汚れを防止することができる。
<吐き出し制御>
次に、後回転制御の終了後に加圧ローラ24をクリーニングするための吐き出し制御について説明する。
吐き出し制御は、定着モータ86停止状態で、フィルム22がトナーの軟化点以上の温度になるまでヒータ23を昇温させることでフィルム22の加熱を行い、加圧ローラ24上のトナーをフィルム22に転移させて加圧ローラ24をクリーニングする制御である。これにより、次の定着動作時にフィルム22からシートP表面にトナーを少しずつ転移させ、これが繰り返されることで加圧ローラ24上へのトナーの蓄積を防ぎ、シートP裏面の目立ったトナー汚れを抑制する。
まず従来の吐き出し制御について説明する。従来の制御は、後回転制御の終了後に定着モータ86の駆動がオフされると、まずヒータ23への通電を開始する。その後、メインサーミスタ25aが190℃を検出するまで通電を続ける。190℃に到達後、メインサーミスタ25aにより190℃温調でPI制御を行う。そしてヒータ23が190℃を検出してから5秒経過後にヒータ23への通電をオフする。これにより加圧ローラ24上のトナーをフィルム22に転移させる。
次に、本実施形態の吐き出し制御を図11に示すフローチャートを用いて説明する。なお、本実施形態ではトナーの軟化点は160℃を想定する。
図11に示す様に、まず定着モータ86がオフされて後回転制御が終了すると、ヒータ23への通電をオンして吐き出し制御を開始する(S31)。
次に、定着動作時のヒータ23の温調温度が210℃以上(第1温度)の場合、吐き出し制御中のヒータ23の温調温度を190℃(第2温度)に設定する(S32、S33)。一方、定着動作時のヒータ23の温調温度が190℃以上210℃未満(第3温度)の場合には吐き出し制御中の温調温度を180℃(第4温度)に設定する(S34、S35)。またヒータ23の温調温度が190℃未満の場合には吐き出し制御時の温調温度を170℃に設定する(S34、S36)。なお、一般的にヒータ23の温調温度は、坪量が大きいシートPでは定着性を確保するために高めに設定され、小さいシートPではトナーのホットオフセットを防止するために低めに設定される。
次に、上記設定温度に到達してから5秒経過後(S37)、ヒータ23をオフし(S38)、吐き出し制御を終了して定着スタンバイ状態に入る。
図12は、0℃環境下で、定着に係るシートPの坪量と定着動作時のヒータ23の設定温調温度を変化させたときの、定着動作から後回転制御、吐き出し制御までのフィルム22のニップ内温度とニップ外温度の推移を示すグラフである。ここで、図12(a)は定着に係るシートPの坪量が80g/m2、定着動作時のヒータ23の設定温調温度210℃で従来の吐き出し制御と本実施形態の吐き出し制御を行ったときの温度推移である。また図12(b)は定着に係るシートの坪量が60g/m2、定着動作時のヒータ23の設定温調温度190℃で従来の吐き出し制御と本実施形態の吐き出し制御を行ったときの温度推移である。
図12(a)に示す様に、定着に係るシートPの坪量が80g/m2の場合、本実施形態、従来の制御ともに吐き出し制御時の温調温度は190℃となるため、従来の制御と本実施形態の制御とで温度推移は同等となる。具体的には、定着動作が終了して後回転動作中にフィルム22のニップ内外の温度は低下していく。その後、吐き出し制御が始まってフィルム22のニップ内の温度は上昇して190℃に温調制御される。一方、ニップ外の温度は吐き出し制御中も低下し続けるため、吐き出し制御終了時のフィルムニップ内外の温度差は80℃となる。このとき、ニップ内外の温度差は95℃以内であるため、この状態で加圧ローラを駆動させてフィルムを回転させてもフィルム凹み跡は発生しない。
一方、図12(b)に示す様に、定着に係るシートの坪量が60g/m2、定着動作時のヒータの設定温調温度190℃の場合、坪量80g/m2のときよりもヒータの温調温度が低いため、定着動作においてフィルム22に蓄えられる熱量が少ない。このため、後回転制御終了時のフィルムの温度は全体的に低くなる。この場合、従来の制御では、吐き出し制御の開始後にフィルムのニップ内の温度が上昇して190℃に温調制御されると、吐き出し制御終了時のフィルムのニップ内外の温度差は100℃となる。このため、吐き出し制御の終了時にモータの駆動を開始すると、温度差は95℃よりも大きいため、フィルム凹み跡が発生する。
一方、本実施形態の制御では、フィルムのニップ外温度は従来の制御と同等の推移を示すが、吐き出し制御時のヒータの温調温度が定着動作時の温調温度に応じて変化し、180℃となる。このため、吐き出し制御終了時のフィルムニップ内外の温度差は90℃となり、吐き出し制御の終了時にモータへの駆動を開始してもフィルム凹み跡は発生しない。
このように定着動作時のヒータの温調温度に基づいて吐き出し制御時のヒータの温調温度を変化させ、吐き出し制御時のフィルムのニップ内外温度の温度差を小さくする。つまり、フィルムの非回転時において、ニップ内外温度差が所定の値以下となるようにヒータの温度を制御する。これにより、その後に画像形成ジョブを受信してモータを駆動させるような場合でも、フィルムの凹み跡の発生を抑制することができる。
なお、本実施形態では加熱ユニットとしてヒータ23を用いる構成について説明したが、これに限定されるものではない。例えば加熱ユニットとしてヒータを用いずに、フィルム22に対向するIHコイルを備え、フィルム自体を発熱させる構成でも良い。
(第2実施形態)
次に、本発明に係る定着装置を備える画像形成装置の第2実施形態について図を用いて説明する。上記第1実施形態と説明の重複する部分については、同一の図面、同一の符号を付して説明を省略する。
第1実施形態では、立ち上げ制御において、メインサーミスタが85℃を検出した時点で定着モータ86を駆動させ、加圧ローラ24やフィルム22の回転を開始させた。しかし、例えば−15℃環境のような超低温環境下において、定着動作が長い間行われない場合には、フィルム22の温度は−15℃環境付近まで低下する。この場合、立ち上げ制御時に85℃で定着モータ86を駆動させる制御では、フィルム22のニップ内外温度差が95℃以上となり、凹み跡を発生させるおそれがある。
そこで本実施形態では、メインサーミスタ25aの検出温度、前回の画像形成ジョブ受信時からの経過時間、不図示の環境センサの検出温度に基づいて、定着モータ86の駆動開始温度を変化させる。以下、本実施形態の立ち上げ制御について図13に示すフローチャートを用いて説明する。
図13に示す様に、まず画像形成ジョブ信号を受信すると(S41)、ヒータ23の通電をオンする(S42)。次に、環境センサ88により雰囲気温度を検出する(S43)。次に、雰囲気温度が所定の温度(本実施形態では0℃)未満か否かを判定する(S44)。
ここで雰囲気温度が0℃より高い場合、超低温環境ではないため、第1実施形態の制御と同様に、85℃を検出した時点で定着モータ86の駆動を開始させる(S45、S50)。
一方、雰囲気温度が0℃未満の場合、前回の画像形成ジョブ信号の受信時から45分以上経過しているか否かを判定する(S46)。ここで45分以上経過している場合、フィルム22の温度も雰囲気温度と同等になっていると考えられるため、環境センサ88の検出温度+85℃をメインサーミスタ25aが検出した時点で定着モータ86の駆動を開始させる(S47、S50)。
一方、45分以上経過していない場合、メインサーミスタ25aの検出温度が0℃未満か否かを判定する(S48)。ここで検出温度が0℃未満の場合、フィルム22の温度もこの検出温度とほぼ同等になっていると考えられるため、検出温度+85℃をメインサーミスタ25aが検出した時点で定着モータ86の駆動を開始させる(S49、S50)。
一方、メインサーミスタ25aの検出温度が0℃以上の場合、85℃をメインサーミスタ25aが検出した時点で定着モータ86の駆動を開始させる(S45、S50)。
図14は、−15℃〜35℃の様々な環境下において、第1実施形態の立ち上げ制御と本実施形態の立ち上げ制御を実施したときの定着モータ86の駆動開始時のフィルム22のニップ内外温度差を測定した結果を示すグラフである。なお、定着装置11は室温に馴染むまで放置している。
図14に示す様に、第1実施形態の制御では、−15℃環境下においても85℃で定着モータ86を駆動させるため、フィルム22のニップ部内外温度差は85−(−15)=100℃となり、凹み跡を発生させるおそれがある。一方、本実施形態の制御では、例えば−15℃環境のような超低温環境下に定着装置11が置かれた場合であっても、定着モータ86は85+(−15)=70℃をメインサーミスタ25aが検出した時点で駆動を開始する。このため、フィルム22のニップ内外温度差は85℃となり、95℃以内に収まる。このように立ち上げ制御時の定着モータ86の駆動開始温度を環境温度に応じて変更する制御とすることで、フィルム22の凹み跡の発生を抑制することができる。
なお、本実施形態ではフィルム22のニップ内外の温度差が所定の範囲以内となったときに定着モータ86の駆動を開始したが、ニップ内外の温度差が所定の範囲を超える状態で定着モータ86の駆動を開始する場合に、徐々に(断続的に)駆動したり、画像形成時よりも緩やかに加速と遅い速度で駆動したりしても良い。
(第3実施形態)
次に、本発明に係る定着装置を備える画像形成装置の第3実施形態について図を用いて説明する。上記第1実施形態、第2実施形態と説明の重複する部分については、同一の図面、同一の符号を付して説明を省略する。
定着装置11において、定着に係るシートPが例えば坪量50g/m2のように薄い場合、シート詰まりやシート巻きつき等を防止するため、半速駆動回転でヒータ23の温調温度を低めにして定着動作を行うのが一般的である。この場合、ヒータ23の温調温度が低めに設定されるため、後回転制御から吐き出し制御までの間にフィルム22の温度が低くなる。
一方、定着に係るシートPの坪量が小さい場合、シートPに奪われる熱量は比較的小さく、シートPへのトナーの定着性は良い傾向にある。このため、加圧ローラ24表面へのトナーの蓄積量は比較的に少ない傾向にあり、吐き出し制御の実行の必要性は少ない。
そこで本実施形態では、定着動作時のヒータ23の温調温度に応じて、吐き出し制御の実行の有無の判定を行う。以下、本実施形態の制御を図15に示すフローチャートを用いて説明する。
図15に示す様に、まず定着モータ86の駆動がオフされて後回転制御が終了すると(S51)、定着動作時のヒータ23の温調温度が所定以上か否かを判定する(S52)。本実施形態では170℃か否かを判定する。なお、この170℃の数値は環境等に応じて適宜変更可能な数値である。
ここで、ヒータ23の温調温度が170℃未満の場合、上述した理由により吐き出し制御の必要性が少ないため、吐き出し制御を行わずに定着スタンバイ状態に入る(S61)。一方、ヒータ23の温調温度が170℃以上の場合、第1実施形態と同様の吐き出し制御を行った上で、定着スタンバイ状態に入る(S53〜S61)。つまりCPU80は、フィルム22の回転状態での加熱温度に応じて、フィルム22の停止後のヒータ23による加熱を制御する。具体的には、フィルム22の回転状態でのヒータ23の温調温度が170℃以上の場合(所定値以上)には、フィルム22の停止後のヒータ23による加熱を行い、170℃未満(所定値未満)の場合にはヒータ23による加熱を行わない。
図16は、0℃環境、定着に係るシートPを薄紙とし、定着動作時のヒータ23の温調温度160℃で、定着動作から定着スタンバイ状態に入るまでのフィルム22のニップ内温度とニップ外温度の推移を示すグラフである。ここで図16(a)は第1実施形態の制御を行ったときの温度推移を示し、図16(b)は本実施形態の制御を行ったときの温度推移を示す。
まず図16(a)に示す様に、第1実施形態の制御では、定着動作時のヒータ23の温調温度が160℃と低いため、後回転制御後のフィルム22の温度も低くなる。このため、最も低温な170℃の温調温度で吐き出し制御を実行した場合でも、吐き出し制御終了時のフィルム22のニップ内外温度差は120℃と非常に大きくなる。
一方、本実施形態の制御では、170℃以下の温調温度のときは吐き出し制御を実行せずに定着スタンバイ状態に入るため、吐き出し制御時の停止加熱によるフィルム22のニップ内外温度差の拡大がない。従って、定着スタンバイ状態に入ってからもフィルム22のニップ内外温度差は小さいままとなる。よって、その後に画像形成ジョブ信号を受信して定着モータ86が駆動する場合でも、定着モータ86駆動時のフィルム22のニップ内外温度差が95℃未満となるため、フィルム22の凹み跡の発生を抑制することができる。
(第4実施形態)
次に、本発明に係る定着装置を備える画像形成装置の第4実施形態について図を用いて説明する。上記第1〜3実施形態と説明の重複する部分については、同一の図面、同一の符号を付して説明を省略する。
従来、吐き出し制御時に画像形成ジョブ信号を受信した場合、吐き出し制御が中止されて画像形成動作に移行し、定着装置11では定着モータ86が駆動されて加圧ローラ24やフィルム22が回転していた。しかし、吐き出し制御においては停止加熱が行われているため、フィルム22のニップ内外温度差が大きい状態となっており、その状態でフィルム22が回転すると凹み跡が発生するおそれがある。
そこで本実施形態では、吐き出し制御中に画像形成ジョブ信号を受信した場合、フィルム22のニップ内外温度差が所定以下となるまで画像形成動作の開始を待つ構成とした。以下、図17に示すフローチャートを用いて本実施形態の制御を説明する。
図17に示す様に、まず定着動作後に後回転制御が終了すると、フィルム22が非回転状態でヒータ23の通電がオンされ、吐き出し制御が開始される(S71)。次に、吐き出し制御中に画像形成ジョブ信号を受信しない場合、通常通りヒータ23が所定の設定温度に到達後に5秒経過してからヒータ23の通電がオフされ(S72〜S74)、吐き出し制御が終了する。
一方、吐き出し制御中に画像形成ジョブ信号を受信すると、まずメインサーミスタ25aと非接触温度計89によりフィルム22のニップ内温度とニップ外温度を検出し、ニップ内外温度差を算出する(S72、S75、S76、S77)。次に、フィルム22のニップ内外温度差が所定以上か否かを判定する(S78)。本実施形態では、フィルム22のニップ内外温度差が90℃以上か否かを判定する。
ここで、フィルム22のニップ内外温度差が90℃未満のとき、定着モータ86の駆動をオンし(S79)、画像形成動作を実行する(S87)。
一方、フィルム22のニップ内外温度差が90℃以上のとき、直ぐに画像形成動作に移らずにヒータ23の通電をオフして冷却を行う(S80)。その後、上記同様にフィルム22のニップ内外温度差を再度検出し(S82〜S84)、90℃以内になったときにヒータ23の通電をオンし(S85)、定着モータの駆動をオンして(S86)、画像形成動作を実行する(S87)。
このように吐き出し制御中のフィルム22のニップ内外温度差が所定以上の状態でCPU80が定着モータ86を駆動させる信号を受信したとき、ニップ内外温度差が所定未満となるまで待機して冷却してから定着モータ86を駆動させる。つまりCPU80は、停止状態のフィルム22をヒータ23で加熱中にフィルム22を回転動作をさせる信号を受信したとき、ニップ内外温度差が所定の値以下と判定する場合には回転動作を開始させ、所定の値より大きいと判定する場合には回転動作を規制する。これによりフィルム22回転時におけるニップ内外温度差を小さくすることができ、フィルム22の凹の跡の発生を抑制することができる。
(第5実施形態)
次に、本発明に係る画像形成装置Aの第5実施形態について図を用いて説明する。上記第1〜4実施形態と説明の重複する部分については、同一の図面、同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、第4実施形態の吐き出し制御において、フィルム22のニップ外温度を不図示の非接触温度計で計測するのではなく、ニップ内温度の単位時間当たりの変化量をもとに算出する。つまり、第4実施形態で説明したステップS76とステップS83のフィルム22のニップ外温度の検出を後述する制御で行い、その他の制御は第4実施形態の制御と同様の制御を行う。以下、本実施形態のフィルム22のニップ外温度の算出手順を、図18に示すフローチャートと、図19に示すフィルム22のニップ内温度とニップ外温度の推移を示すグラフを用いて説明する。
図18に示す様に、まず画像形成動作の終了後にヒータ23の通電をオフして後回転制御を開始するとき、後回転制御の開始時間をROM82に記録し、またフィルム22のニップ内温度をメインサーミスタ25aにより検出してROM82に記憶する(S91)。次に、定着モータ86の駆動をオフして後回転制御を終了するとき、後回転制御の終了時間をROM82に記録し、またフィルム22のニップ内温度をメインサーミスタ25aにより検出してROM82に記憶する(S92)。
次に、後回転制御中のフィルム22のニップ内温度の変化量と、後回転制御の時間に基づいて、後回転制御における単位時間当たりのニップ内温度の変化量を温度低下率η(図19参照)として算出する(S93)。本実施形態では、後回転制御を2秒間実行し、フィルム22のニップ内温度は190℃から120℃に変化したため、温度変化率η=35となる。
ここで、温度低下率ηと、吐き出し制御における単位時間当たりのフィルム22のニップ外温度の変化量である温度低下率α(図19参照)は、実験で予め温度低下率α=0.286ηの関係があることがわかっている。このため、この式に温度低下率η(=35)を代入し、吐き出し制御におけるニップ外温度の温度低下率α=0.286×35=10を算出する(S94)。
また前述した通り、後回転制御においては、一定時間経過するとフィルム22のニップ内とニップ外温度がほぼ同等になる。本実施形態では、図19に示す様に、後回転制御開始から2秒後(後回転制御終了時)には、フィルム22のニップ内温度とニップ外温度がほぼ同等になった。つまり、ステップS2において検出した後回転制御終了時のフィルム22のニップ内温度は、吐き出し制御開始時のフィルム22のニップ外温度とほぼ同じになる。
このため、吐き出し制御開始時(=後回転制御終了時)からの経過時間に基づいて、フィルム22のニップ外温度を判定する事が出来る。つまり、吐き出し制御開始時からの経過時間をT、吐き出し制御開始時のフィルム22のニップ内温度βとしたとき、次の式1によりフィルム22のニップ外温度θを算出する(S95)。
θ=β−(αT)・・・(式1)
例えば図19に示す様に、吐き出し制御開始時のフィルム22のニップ内温度βが120℃、吐き出し制御開始後4秒後に画像形成ジョブ信号を受信した場合、温度低下率α=10のため、フィルムのニップ内温度θ=120−(4×10)=80℃となる。
このようにフィルム22のニップ外温度を、非接触温度計等の温度センサにより計測するのではなく、フィルム22のニップ内温度を検出する温度センサの検出温度等に基づいて算出することで、部品点数を減らしてコストを削減することができる。
(第6実施形態)
次に、本発明に係る定着装置を備える画像形成装置の第6実施形態について図を用いて説明する。上記第1〜5実施形態と説明の重複する部分については、同一の図面、同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、第4実施形態の吐き出し制御において、フィルム22のニップ外温度を不図示の非接触温度計で計測するのではなく、ニップ内温度の単位時間当たりの変化量をもとに算出する。つまり、第4実施形態で説明したステップS76とステップS83のフィルム22のニップ外温度の検出を後述する制御で行い、その他の制御は第4実施形態の制御と同様の制御を行う。以下、本実施形態のフィルム22のニップ外温度の算出手順を、図20に示すフローチャートと、図21に示すフィルム22のニップ内温度とニップ外温度の推移を示すグラフを用いて説明する。
図20に示す様に、まず後回転制御の終了後、すぐに立ち上げ制御を開始せずに、ヒータ23の通電と定着モータ86の駆動をオフの状態にする冷却期間を設ける。このとき、冷却期間の開始時(ヒータの通電とモータの駆動が両方オフになった時)の時間と、冷却期間開始時のフィルム22のニップ内温度をROM82に記憶する(S101)。なお、ニップ内温度はメインサーミスタ25aにより検出する。
次に、所定時間経過後、ヒータ23の通電をオンし、吐き出し制御を開始する。つまり、吐き出し制御の開始時は、冷却期間終了時と同じ時である。このとき、吐き出し制御の開始時(冷却期間の終了時)における時間とメインサーミスタ25aにより検出したフィルム22のニップ内温度をROM82に記憶する(S102)。
次に、冷却期間におけるフィルム22のニップ内温度の単位時間当たりの変化量を温度変化率εとして算出する(S103)。図21に示す様に、本実施形態では、冷却期間開始時のフィルム22のニップ内温度は120℃であり、冷却期間終了時のニップ内温度は110℃であった。また冷却期間は1秒である。従って、温度変化率εは、(120−110)/1=10である。
ここで前述した通り、後回転制御においては、一定時間経過するとフィルム22のニップ内とニップ外温度がほぼ同等になる。本実施形態では、後回転制御終了時にはフィルム22のニップ内温度とニップ外温度はほぼ同等となっている(図21)。また冷却期間中はヒータ23の通電と定着モータ86の駆動がオフのため、ニップ内温度とニップ外温度はほぼ同じ温度のまま推移する。つまり、ステップS102で検出した吐き出し制御開始時(冷却期間終了時)のフィルム22のニップ内温度は、ニップ外温度とほぼ同等となる。
また吐き出し制御開始時にヒータ23の通電がオンされて停止加熱が行われると、フィルム22のニップ内温度は上昇するものの、ニップ外温度は冷却期間と同様の温度変化率で低下していく。つまり吐き出し制御における単位時間当たりのフィルム22のニップ外温度の変化量である温度低下率Ψと、冷却期間におけるフィルム22のニップ内温度の温度変化率εは同じである(図21)。つまり、温度低下率Ψ=温度低下率εが成立するため、CPU80は温度低下率Ψの値を温度低下率εの値とする(S104)。なお、この結果は実験結果からも判明している。
このため、吐き出し制御開始時(=冷却期間終了時)からの経過時間が決まれば、フィルム22のニップ外温度が決まる。つまり、吐き出し制御開始時からの経過時間をT、吐き出し制御開始時のフィルム22のニップ内温度βとし、次の式2によりフィルム22のニップ外温度γを算出する(S105)。
γ=β−(ΨT)・・・(式2)
例えば図21に示す様に、吐き出し制御開始時のフィルム22のニップ内温度βが110℃、吐き出し制御開始後3秒後に画像形成ジョブ信号を受信した場合、温度低下率Ψ=10のため、フィルムのニップ内温度θ=110−(3×10)=80℃となる。
このようにフィルム22のニップ外温度を、非接触温度計等の温度センサにより計測するのではなく、フィルム22のニップ内温度を検出する温度センサの検出温度等に基づいて算出することで、部品点数を減らしてコストを削減することができる。
(第7実施形態)
次に、本発明に係る定着装置を備える画像形成装置の第7実施形態について図を用いて説明する。上記第1〜6実施形態と説明の重複する部分については、同一の図面、同一の符号を付して説明を省略する。
図22は、定着ニップ部の幅が狭い場合(図22(a))と広い場合(図22(b))のフィルム22の熱膨張による変形を模式的に示した模式図である。図22に示す様に、定着ニップ部の幅が広い場合、狭い場合よりも熱膨張によるフィルム22の伸び量は大きくなり、フィルム22の温度境界面におけるひずみ量も大きくなる。なお、定着ニップ部は定着装置11におけるシート搬送方向だけでなく、加圧ローラ24の回転軸方向にも幅を持つため、フィルム22の変形は両方向に発生する。このようにひずみ量が大きくなるとフィルム22が永久変形しやすくなって凹み跡が発生しやすくなる。このため、フィルム22の凹み跡の発生を抑制するためには、定着ニップ部の幅が広い場合、狭い場合よりも加圧ローラ24駆動時のフィルム22のニップ内外温度差を小さくする必要がある。
そこで本実施形態では、定着ニップ部の幅に応じて、加圧ローラ24駆動時のフィルム22のニップ内外温度差を設定する。これによりフィルム22の凹み跡の発生を抑制することができる。以下、図23に示すフローチャートを用いて本実施形態の制御を説明する。
図23に示す様に、まず定着動作後に後回転制御が終了すると、フィルム22が非回転状態でヒータ23の通電がオンされ、吐き出し制御が開始される(S111)。次に、吐き出し制御中に画像形成ジョブ信号を受信しない場合、通常通りヒータ23が所定の設定温度に到達後に5秒経過してからヒータ23の通電がオフされ(S112〜S114)、吐き出し制御が終了する。
一方、吐き出し制御中に画像形成ジョブ信号を受信すると、まずメインサーミスタ25aと非接触温度計89によりフィルム22のニップ内温度とニップ外温度を検出し、ニップ内外温度差を算出する(S112、S115〜S117)。
次にCPU80は、定着ニップ部の幅情報をROM82から取得する(S118)。定着ニップ部の幅は部材のバラつきにより1台1台異なるため、幅情報は出荷時に予めROM82に記憶させておく。本実施形態では、出荷時のシート搬送方向(フィルム22の回転方向)における定着ニップ部の幅は9.0mmである。
次にCPU80は、シート搬送方向における定着ニップ部の幅Nと加圧ローラ24駆動時のフィルム22のニップ内外温度差に関する閾値ν(所定の温度)とが関連付けされたテーブルμ(図24)を参照して閾値νを設定する(S119)。なお、テーブルμはROM82に予め記憶されている。また図24に示す様に、テーブルμにおいて、閾値νは定着ニップ部の幅が大きい場合、小さい場合よりも小さくなるように設定される。本実施形態ではシート搬送方向における定着ニップ部の幅Nは9.0mmであるため、閾値νは80℃に設定される。
次に、CPU80は、フィルム22のニップ内外温度差が閾値ν以上か否かを判定する(S120)。つまり本実施形態では、フィルム22のニップ内μ外温度差が80℃以上か否かを判定する。
ここで、フィルム22のニップ内外温度差が80℃未満のとき、定着モータ86の駆動をオンし(S127)、画像形成動作を実行する(S129)。
一方、フィルム22のニップ内外温度差が80℃以上のとき、直ぐに画像形成動作に移らずにヒータ23の通電をオフして冷却を行う(S123)。その後、上記同様にフィルム22のニップ内外温度差を再度検出し(S124〜S126)、80℃以内になったときにヒータ23の通電をオンし(S127)、定着モータの駆動をオンして(S128)、画像形成動作を実行する(S129)。
このように加圧ローラ24の駆動時におけるフィルム22のニップ内外温度差を定着ニップ部の幅に応じて設定することで、定着ニップ部の幅が広い定着装置においても、フィルム22の凹み跡の発生を抑制することができる。
なお、本実施形態では定着ニップ部におけるシート搬送方向の幅に基づいて閾値νを設定したものの、本発明はこれに限られず、加圧ローラ24の回転軸方向の幅に基づいて閾値νを設定してもよい。
(第8実施形態)
次に、本発明に係る定着装置を備える画像形成装置の第8実施形態について図を用いて説明する。上記第1〜7実施形態と説明の重複する部分については、同一の図面、同一の符号を付して説明を省略する。
図25は、定着装置11の定着枚数と定着ニップ部の幅との関係を示すグラフである。図25に示す様に、定着ニップ部の幅は、定着枚数が増加するにつれて加圧ローラ24のゴムの軟化劣化等が発生して徐々に広がっていく。なお、線A、線B、線Cは、異なる定着装置11の定着ニップ部の幅の変化を示すものであり、前述した通り定着ニップ部の幅は部材のバラつきにより1台1台異なる。
そこで本実施形態では、定着ニップ部の幅を判定し、判定された定着ニップ部の幅に応じて加圧ローラ24駆動時のフィルム22のニップ内外温度差を設定する。以下、図26に示すフローチャートを用いて本実施形態の制御を説明する。
図26に示す様に、まず定着動作後に後回転制御が終了すると、フィルム22が非回転状態でヒータ23の通電がオンされ、吐き出し制御が開始される(S131)。次に、吐き出し制御中に画像形成ジョブ信号を受信しない場合、通常通りヒータ23が所定の設定温度に到達後に5秒経過してからヒータ23の通電がオフされ(S132〜S134)、吐き出し制御が終了する。
一方、吐き出し制御中に画像形成ジョブ信号を受信すると、まずメインサーミスタ25aと非接触温度計89によりフィルム22のニップ内温度とニップ外温度を検出し、ニップ内外温度差を算出する(S132、S135〜S137)。
次にCPU80は、出荷時における定着ニップ部の幅情報と現在の画像形成枚数を取得する(S138)。なお、定着ニップ部の幅情報は出荷時に予めROM82に記憶させておく。また本実施形態では出荷時のシート搬送方向における定着ニップ部の幅Nは9.5mmである。そしてこれらの情報に基づいて、次に説明する通り、現在の定着ニップ部の幅を判定する(S139)。
本実施形態では、画像形成枚数をnとするとき、定着ニップ部の幅の増加量Δは実験的にΔ=2×10−5×n(mm)であることが確認されている。このため、例えば現在の画像形成枚数が5万枚であることを想定する場合、現在のシート搬送方向における定着ニップ部の幅Nは10.5mmと判定される。つまりCPU80は、定着装置11により定着を行ったシートの累積枚数が多いほど、定着ニップ部の幅が大きいと判定する。
ここで本実施形態では、第7実施形態と同様に、シート搬送方向における定着ニップ部の幅Nと加圧ローラ24駆動時のフィルム22のニップ内外温度差に関する閾値ν(所定の温度)とが関連付けされたテーブルμ(図24)がROM82に予め記憶されている。従って、次にCPU80は、判定された定着ニップ部の幅に基づいて、テーブルμを参照して閾値νを設定する(S140)。本実施形態では、閾値νは70℃に設定される。
次に、フィルム22のニップ内外温度差が閾値ν以上か否かを判定する(S141)。つまり本実施形態では、フィルム22のニップ内外温度差が70℃以上か否かを判定する。
ここで、フィルム22のニップ内外温度差が70℃未満のとき、定着モータ86の駆動をオンし(S142)、画像形成動作を実行する(S150)。
一方、フィルム22のニップ内外温度差が70℃以上のとき、直ぐに画像形成動作に移らずにヒータ23の通電をオフして冷却を行う(S143)。その後、上記同様にフィルム22のニップ内外温度差を再度検出し(S145〜S147)、70℃以内になったときにヒータ23の通電をオンし(S148)、定着モータの駆動をオンして(S149)、画像形成動作を実行する(S150)。
このように加圧ローラ24駆動時におけるフィルム22のニップ内外温度差を、判定された定着ニップ部の幅に応じて設定することで、使用状況によって定着ニップ部の幅が変化した場合であってもフィルム22の凹み跡の発生を抑制することができる。
なお、本実施形態では定着ニップ部におけるシート搬送方向の幅に基づいて閾値νを設定したものの、本発明はこれに限られず、加圧ローラ24の回転軸方向の幅に基づいて閾値νを設定してもよい。
なお、上記第1〜第8実施形態で述べたフィルム22のニップ外温度の検出方法の他には、例えばフィルム22のニップ外温度の温度推移テーブルをROM82に予め記憶させておく構成としても、上記同様の効果を得ることができる。