以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨は限定されない。
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。
以下、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上3以下のアルキル基、炭素原子数2以上5以下のアルキル基、炭素原子数2以上3以下のアルキル基、炭素原子数4以上10以下のアルキル基、炭素原子数4以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基、炭素原子数6以上14以下のアリール基、炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基、炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル環、及び炭素原子数5以上7以下のアルキル環は、何ら規定していなければ、それぞれ次の意味である。
炭素原子数1以上6以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、又はヘキシル基が挙げられる。
炭素原子数1以上4以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上4以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基が挙げられる。
炭素原子数1以上3以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上3以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、又はイソプロピル基が挙げられる。
炭素原子数2以上5以下のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状で非置換である。炭素原子数2以上5以下のアルキル基としては、例えば、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、又はネオペンチル基が挙げられる。
炭素原子数2以上3以下のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状で非置換である。炭素原子数2以上3以下のアルキル基としては、例えば、エチル基、n−プロピル基、又はイソプロピル基が挙げられる。
炭素原子数4以上10以下のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状で非置換である。炭素原子数4以上10以下のアルキル基としては、例えば、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、又はデシル基が挙げられる。
炭素原子数4以上6以下のアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状で非置換である。炭素原子数4以上6以下のアルキル基としては、例えば、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、又はヘキシル基が挙げられる。
炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、又はtert−ブトキシ基が挙げられる。
炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、又はイソプロポキシ基が挙げられる。
炭素原子数6以上14以下のアリール基は、非置換である。炭素原子数6以上14以下のアリール基は、例えば、炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族単環炭化水素基、炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族縮合二環炭化水素基又は炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族縮合三環炭化水素基である。炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、又はフェナントリル基が挙げられる。
炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基は、非置換である。炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、又はシクロデシル基が挙げられる。
炭素原子数3以上8以下のアルキル環は、無置換である。炭素原子数3以上8以下のアルキル環としては、例えば、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、又はシクロオクタン環が挙げられる。
炭素原子数5以上7以下のアルキル環は、無置換である。炭素原子数5以上7以下のアルキル環としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、又はシクロヘプタン環が挙げられる。
<第一実施形態:電子写真感光体>
第一実施形態は電子写真感光体(以下、感光体と記載することがある)に関する。以下、図1を参照して、第一実施形態の感光体について説明する。図1は、第一実施形態に係る感光体の構造を示す概略断面図である。
図1(a)に示すように、感光体1は、導電性基体2と感光層3とを備える。感光層3は、単層型感光層である。感光層3は、導電性基体2上に直接又は間接に設けられる。例えば、図1(a)に示すように、導電性基体2上に感光層3を直接設けてもよい。図1(b)に示すように、感光体1は、更に中間層を備えてもよく、中間層4は導電性基体2と感光層3との間に設けられてもよい。また、図1(a)及び図1(b)に示すように、感光層3が最外層として露出してもよい。感光体1は更に保護層5を備えてもよい。図1(c)に示すように、感光層3上に保護層5が備えられてもよい。
感光層の厚さは、感光層として充分に作用できる限り、特に限定されない。感光層の厚さは、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
感光層は、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤と、バインダー樹脂とを含む。正孔輸送剤は、一般式(1)で表されるトリフェニルアミン誘導体(以下、トリフェニルアミン誘導体(1)と記載することがある)を含む。電子輸送剤は、一般式(2)で表されるキノン誘導体(以下、キノン誘導体(2)と記載することがある)を含む。第一実施形態に係る感光体は、帯電安定性及び感度特性に優れる。その理由は、以下のように推測される。
トリフェニルアミン誘導体(1)は、窒素原子に1つのフェニル基及び2つのジフェニルアルケニル部分が結合した構造を有する。トリフェニルアミン誘導体(1)のπ共役系は空間的広がりが比較的大きいため、トリフェニルアミン誘導体(1)の分子内におけるキャリア(正孔)の移動距離が大きくなる傾向にある。すなわち、キャリア(正孔)の分子内移動距離が大きくなる傾向にある。また、感光層中の複数のトリフェニルアミン誘導体(1)は互いのπ共役系が重なり易くなり、複数のトリフェニルアミン誘導体(1)の分子間におけるキャリア(正孔)の移動距離が減少する傾向にある。すなわち、キャリア(正孔)の分子間移動距離が減少する傾向にある。一方、トリフェニルアミン誘導体(1)は分子内に窒素原子を1個有するため、分子内に窒素原子を2個有する化合物(例えば、ジアミン化合物)に比べ、分子内に電荷の偏りが少ない傾向にある。よって、トリフェニルアミン誘導体(1)は、感光体のキャリア(正孔)の受容性(注入性)及び輸送性を向上させると考えられる。
キノン誘導体(2)は、空間的広がりが比較的大きなπ共役系を有する。このため、キノン誘導体(2)はキャリア(電子)の受容性に優れ、キノン誘導体(2)の分子内におけるキャリア(電子)の移動距離が大きくなる傾向にある。すなわち、キャリア(電子)の分子内移動距離が大きくなる傾向にある。また、感光層中の複数のキノン誘導体(2)は互いのπ共役系が重なり易くなり、複数のキノン誘導体(2)の分子間におけるキャリア(電子)の移動距離が減少する傾向にある。すなわち、キャリア(電子)の分子間移動距離が減少する傾向にある。よって、キノン誘導体(2)は、感光体のキャリア(電子)の受容性(注入性)及び輸送性を向上させると考えられる。
キノン誘導体(2)では、R11、R12、及びR13のうちの少なくとも1つは、炭素原子数4以上10以下のアルキル基、又は炭素原子数6以上14以下のアリール基を有する炭素原子数2以上5以下のアルキル基を表す。R14、R15、及びR16のうちの少なくとも1つは、炭素原子数4以上10以下のアルキル基、又は炭素原子数6以上14以下のアリール基を有する炭素原子数2以上5以下のアルキル基を表す。このようにキノン誘導体(2)は、置換基として炭素原子数4以上10以下のアルキル基、又は炭素原子数6以上14以下のアリール基を有する炭素原子数2以上5以下のアルキル基を有する。キノン誘導体(2)は、このような長鎖アルキル基又はアラルキル基を有するため、バインダー樹脂との相溶性に優れ、感光層中での分散性に優れる。以上から、第一実施形態に係る感光体は、感度特性に優れると考えられる。
第一実施形態に係る感光体では、感光層がトリフェニルアミン誘導体(1)とキノン誘導体(2)とを含み、トリフェニルアミン誘導体(1)及びキノン誘導体(2)は上述のようキャリアの輸送性及び受容性に優れるため、感光層内に残留電荷が生じにくい。よって、第一実施形態に係る感光体は、帯電安定性優れ、転写メモリーの発生を抑制すると考えられる。
また、キノン誘導体(2)は上述のように感光層中での分散性に優れることで、微視的な不均一性により生じるキャリアトラップも減少させより転写メモリーの抑制に寄与すると考えられる。
次に、感光体の要素について説明する。以下、導電性基体、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂について説明する。感光層は、添加剤を更に含有してもよい。更に、添加剤、中間層、及び感光体の製造方法について説明する。
[1.導電性基体]
導電性基体は、感光体の導電性基体として用いることができる限り、特に限定されない。導電性基体は、少なくとも表面部が導電性を有する材料で形成されていればよい。導電性基体の一例としては、導電性を有する材料で形成される導電性基体が挙げられる。導電性基体の別の例としては、導電性を有する材料で被覆される導電性基体が挙げられる。導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、又はインジウムが挙げられる。これらの導電性を有する材料を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2以上の組合せとしては、例えば、合金(より具体的には、アルミニウム合金、ステンレス鋼、又は真鍮等)が挙げられる。これらの導電性を有する材料の中でも、感光層から導電性基体への電荷の移動が良好であることから、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
導電性基体の形状は、画像形成装置の構造に合わせて適宜選択される。導電性基体の形状としては、例えば、シート状又はドラム状が挙げられる。また、導電性基体の厚さは、導電性基体の形状に応じて適宜選択される。
[2.電荷発生剤]
電荷発生剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、無機光導電材料(より具体的には、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、又はアモルファスシリコン等)の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、又はキナクリドン系顔料が挙げられる。電荷発生剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
フタロシアニン系顔料としては、例えば、無金属フタロシアニン又は金属フタロシアニンが挙げられる。無金属フタロシアニンの結晶としては、例えば、無金属フタロシアニンのX型結晶(以下、X型無金属フタロシアニンと記載することがある)が挙げられる。無金属フタロシアニンは、例えば、化学式(CG−1)で表される。
金属フタロシアニンとしては、例えば、化学式(CG−2)で表されるチタニルフタロシアニン、又は酸化チタン以外の金属が配位したフタロシアニン(より具体的には、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン等)が挙げられる。フタロシアニン系顔料は、結晶であってもよく、非結晶であってもよい。
チタニルフタロシアニンの結晶としては、例えば、チタニルフタロシアニンのα型結晶、β型結晶、又はY型結晶が挙げられる。以下、チタニルフタロシアニンのα型結晶、β型結晶、及びY型結晶を、各々、α型チタニルフタロシアニン、β型チタニルフタロシアニン、及びY型チタニルフタロシアニンと記載することがある。
所望の領域に吸収波長を有する電荷発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上の電荷発生剤を組み合わせて用いてもよい。更に、例えば、デジタル光学式の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体を用いることが好ましい。デジタル光学式の画像形成装置としては、例えば、半導体レーザーのような光源を使用したレーザービームプリンター、又はファクシミリが挙げられる。
正孔輸送剤がトリフェニルアミン誘導体(1)を含み、かつ電子輸送剤がキノン誘導体(2)を含む場合、感光層は、電荷発生剤としてX型無金属フタロシアニン又はY型チタニルフタロシアニンを含むことが好ましい。更に、感光体の帯電安定性及び感度特性を更に向上させる観点から、感光層はY型チタニルフタロシアニンを含むことが好ましい。また、転写メモリーを抑制する観点から、感光層はX型無金属フタロシアニンを含むことが好ましい。
Y型チタニルフタロシアニン結晶は、CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、例えば、ブラッグ角(2θ±0.2°)の27.2°に主ピークを有する。CuKα特性X線回折スペクトルにおける主ピークとは、ブラッグ角(2θ±0.2°)が3°以上40°以下である範囲において、1番目又は2番目に大きな強度を有するピークである。
(CuKα特性X線回折スペクトルの測定方法)
CuKα特性X線回折スペクトルの測定方法の一例について説明する。試料(チタニルフタロシアニン)をX線回折装置(例えば、株式会社リガク製「RINT(登録商標)1100」)のサンプルホルダーに充填して、X線管球Cu、管電圧40kV、管電流30mA、かつCuKα特性X線の波長1.542Åの条件で、X線回折スペクトルを測定する。測定範囲(2θ)は、例えば3°以上40°以下(スタート角3°、ストップ角40°)であり、走査速度は、例えば10°/分である。得られたX線回折スペクトルから主ピークを決定し、主ピークのブラッグ角を読み取る。
Y型チタニルフタロシアニン結晶は、特性(a)又は特性(b)を有することが好ましい。
特性(a):示差走査熱量分析において、吸着水の気化に伴うピーク以外は、50℃以上400℃以下の範囲内にピークを有しないこと。
特性(b):示差走査熱量分析において、吸着水の気化に伴うピーク以外は、50℃以上270℃未満の範囲内にピークを有さず、かつ、270℃以上400℃以下の範囲内に1つのピークを有すること。
(示差熱量分析スペクトルの測定方法)
示差熱量分析スペクトルの測定方法を説明する。サンプルパンに結晶粉末の評価用試料を載せて、示差走査熱量計(株式会社リガク製「TAS−200型 DSC8230D」)を用いて示差走査熱量分析スペクトルを測定する。測定範囲は、40℃以上400℃以下であり、昇温速度は、20℃/分である。
(Y型チタニルフタロシアニン結晶の調製方法)
Y型チタニルフタロシアニン結晶の調製方法は、例えば、合成工程と、顔料化前処理工程と、顔料化工程とを含む。このY型チタニルフタロシアン結晶は、CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、例えば、ブラッグ角(2θ±0.2°)の27.2°に主ピークを有する。
(合成工程)
合成工程では、チタニルフタロシアニンを合成する。チタニルフタロシアニンの合成方法としては、例えば、反応式(R−A)で表される反応又は反応式(R−B)で表される反応(以下、反応(R−A)及び(R−B)と記載することがある)が挙げられる。反応(R−A)では、フタロニトリル(21a)と、チタンアルコキシド(21b)とを反応させ、チタニルフタロシアニン(CG−2)を合成する。
1,3−ジイミノイソインドリン(21c)と、チタンアルコキシド(21b)とを反応させ、チタニルフタロシアニン(CG−2)を合成する。
(顔料化前処理工程)
顔料化前処理工程では、攪拌処理及び静置処理を実行してチタニルフタロシアニン(CG−2)を安定化させる。攪拌処理では、チタニルフタロシアニン(CG−2)を水溶性有機溶媒中に加え、溶液を調製する。溶液を加熱した状態で一定時間、溶液を攪拌する。加熱温度は、70℃以上200℃以下であることが好ましい。攪拌時間は、1時間以上3時間以下であることが好ましい。静置処理では、低温で一定時間、溶液を静置して安定化させる。低温とは、攪拌処理での温度よりも低い温度を示す。低温は、10℃以上50℃以下であることが好ましく、室温(例えば、23℃)がより好ましい。静置時間は、5時間以上10時間以下であることが好ましい。水溶性有機溶媒を除去することで、チタニルフタロシアニン(CG−2)の粗結晶を得る。
水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、プロピオン酸、酢酸、N−メチルピロリドン、又はエチレングリコールが挙げられる。これらの水溶性有機溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
(顔料化工程)
顔料化工程では、チタニルフタロシアニンを顔料化する。顔料化工程の一例を説明する。チタニルフタロシアニン(CG−2)の粗結晶を溶媒に溶解させ、チタニルフタロシアニン溶液を調製する。この溶液を貧溶媒中に滴下して再結晶させる。次いで、例えば、順に、ろ過、水洗、ミリング処理、ろ過、乾燥等の処理を経て顔料化する。その結果、Y型チタニルフタロシアニン結晶が得られる。
粗結晶を溶解する溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、臭化エチル、臭化ブチル、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリブロモ酢酸、又は硫酸が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
再結晶のための貧溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、又はジオキサンが挙げられる。これらの貧溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせで使用することができる。
ミリング処理は、水洗後の固体を乾燥させずに水が存在した状態で、非水系溶媒中に分散して攪拌する処理である。ミリング処理のための非水系溶媒としては、例えば、ハロゲン系溶媒(より具体的には、クロロベンゼン又はジクロロメタン等)が挙げられる。
顔料化工程の別の例を説明する。チタニルフタロシアニン(CG−2)の粗結晶を、アシッドペースト法によって処理する。具体的には、粗結晶を酸に溶解して酸溶液を調製する。酸溶液を氷冷下の水中に滴下させ、一定時間攪拌する。次いで、室温(例えば、23℃)で静置して再結晶させる。その結果、低結晶性チタニルフタロシアニンが得られる。アシッドペースト法に使用する酸としては、例えば、濃硫酸又はスルホン酸が挙げられる。
低結晶性チタニルフタロシアニンをろ過し、水洗する。次いで、乾燥させずに水が存在した状態で、非水系溶媒中に低結晶性チタニルフタロシアニンを分散させミリング処理を実行する。ミリング処理後にろ別しろ過物(固体)を得る。ろ過物を乾燥させると、Y型チタニルフタロシアニン結晶が得られる。
電荷発生剤の含有量は、感光層においてバインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
[3.正孔輸送剤]
正孔輸送剤は、トリフェニルアミン誘導体(1)を含む。トリフェニルアミン誘導体は、一般式(1)で表される。
一般式(1)中、R1、R2、及びR3は、各々独立に、1若しくは複数の炭素原子数1以上4以下のアルキル基又は炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を表す。k、p、及びqは、各々独立に、0以上5以下の整数を表す。m1及びm2は、各々独立に、1以上3以下の整数を表す。kが2以上の整数を表す場合、複数のR1は互いに同一であっても異なってもよい。kが2以上の整数を表す場合、複数のR1は互いに結合して形成された炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル環を表してもよい。pが2以上の整数を表す場合、複数のR2は互いに同一であっても異なってもよい。qが2以上の整数を表す場合、複数のR3は互いに同一であっても異なってもよい。
一般式(1)中、R1が表す炭素原子数1以上4以下のアルキル基は、メチル基、エチル基、又はn−ブチル基を表すことが好ましい。kは1以上3以下の整数を表すことが好ましく、0以上2以下の整数を表すことがより好ましく、1又は2を表すことが更に好ましい。kが2以上の整数を表す場合、複数のR1は互いに同一であっても異なってもよい。kが2以上の整数を表す場合、複数のR1は互いに結合して形成された炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル環を表してもよい。炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル環としては、炭素原子数5以上7以下のシクロアルカン環が好ましく、シクロヘキサン環がより好ましい。
一般式(1)中、R1が表す炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基としては、メトキシ基が好ましい。
一般式(1)中、R2及びR3の表す炭素原子数1以上4以下のアルキル基は、メチル基が好ましい。
一般式(1)中、R1の置換位置としては、例えば、窒素原子に対してフェニル基のオルト位、メタ位、又はパラ位が挙げられる。kが1を表す場合、R1の置換位置は窒素原子に対してフェニル基のオルト位又はパラ位が好ましい。kが2を表し、2つのR1が互いに結合してシクロアルカン環を形成しない場合、R1の置換位置は窒素原子に対してフェニル基のオルト位が好ましい。kが3を表し、3つのR1のうち2つのR1が互いに結合してシクロアルカン環を形成しない場合、R1の置換位置は窒素原子に対してベンゼン環のオルト位及びパラ位が好ましい。
一般式(1)中、p及びqは各々独立に、0又は1を表すことが好ましく、p及びqは何れも0又は1を表すことがより好ましい。pが1を表す場合、R2の置換位置は窒素原子に対してフェニル基のパラ位が好ましい。qが1を表す場合、R3の置換位置は窒素原子に対してフェニル基のパラ位が好ましい。
一般式(1)中、m1及びm2は、各々独立に、1又は2を表すことが好ましく、m1及びm2は何れも1又は2を表すことが好ましい。
一般式(1)中、R1は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基又は炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基を表し、R2及びR3は何れも炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表し、kは1又は2を表し、p及びqは0又は1を表すことが好ましい。
トリフェニルアミン誘導体(1)の具体例としては、化学式(HT−1)〜(HT−18)で表されるトリフェニルアミン誘導体(以下、それぞれトリフェニルアミン誘導体(HT−1)〜(HT−18)と記載することがある)が挙げられる。
これらのトリフェニルアミン誘導体(HT−1)〜(HT−13)のうち、トリフェニルアミン誘導体(HT−1)〜(HT−4)又は(HT−9)〜(HT−13)が好ましく、トリフェニルアミン誘導体(HT−3)、(HT−10)、又は(HT−12)がより好ましい。感光体の帯電安定性及び感度特性を更に向上させ、かつ転写メモリーの発生を抑制する観点から、トリフェニルアミン誘導体(HT−10)又は(HT−12)が好ましく、トリフェニルアミン誘導体(HT−12)がより好ましい。
正孔輸送剤は、トリフェニルアミン誘導体(1)に加えて、トリフェニルアミン誘導体(1)以外の別の正孔輸送剤を組み合わせて用いてもよい。別の正孔輸送剤は、公知の正孔輸送剤から適宜選択される。
別の正孔輸送剤としては、例えば、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなスチリル系化合物;ポリビニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物;有機ポリシラン化合物;1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物;ヒドラゾン系化合物;トリフェニルアミン誘導体(1)以外のトリフェニルアミン系化合物;オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、又はトリアゾール系化合物のような含窒素環式化合物;インドール系化合物、又はチアジアゾール化合物のような含窒素縮合多環式化合物が挙げられる。なお、正孔輸送剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正孔輸送剤の含有量は、感光層においてバインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
正孔輸送剤中のトリフェニルアミン誘導体(1)の含有率は、正孔輸送剤の合計質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
[4.電子輸送剤]
電子輸送剤は、キノン誘導体(2)を含む。キノン誘導体(2)は、一般式(2)で表される。
一般式(2)中、R11、R12、及びR13のうちの少なくとも1つは、炭素原子数4以上10以下のアルキル基、又は炭素原子数6以上14以下のアリール基を有する炭素原子数2以上5以下のアルキル基を表す。R11、R12、及びR13のうちの残りは、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数6以上14以下のアリール基、又は炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基を表す。R11、R12、及びR13のうちの少なくとも2つは、互いに結合して環を形成してもよい。R14、R15、及びR16のうちの少なくとも1つは、炭素原子数4以上10以下のアルキル基、又は炭素原子数6以上14以下のアリール基を有する炭素原子数2以上5以下のアルキル基を表す。R14、R15、及びR16のうちの残りは、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数6以上14以下のアリール基、又は炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基を表す。R14、R15、及びR16のうちの少なくとも2つは、互いに結合して環を形成してもよい。
一般式(1)中、R11、R12、R13、R14、R15、及びR16で表わされる炭素原子数4以上10以下のアルキル基は、炭素原子数4以上6以下のアルキル基が好ましく、n−ブチル基、n−ヘキシル基、又はイソヘキシル基がより好ましい。R11、R12、及びR13のうちの少なくとも2つは、互いに結合して環を形成してもよい。R14、R15、及びR16のうちの少なくとも2つは、互いに結合して環を形成してもよい。このような環としては、例えば、シクロアルキリデン基又は環状炭化水素基が挙げられる。シクロアルキリデン基としては、例えば、シクロヘキシリデン基が挙げられる。環状炭化水素基としては、例えば、アダマンチル基が挙げられる。
一般式(1)中、R11、R12、R13、R14、R15、及びR16で表わされる炭素原子数6以上14以下のアリール基を有する炭素原子数2以上5以下のアルキル基としては、フェニル基を有する炭素原子数2以上5以下のアルキル基が好ましく、フェニルエチル基がより好ましい。
一般式(1)中、R11、R12、R13、R14、R15、及びR16で表わされる炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、炭素原子数1以上3以下のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
一般式(1)中、R11、R12、R13、R14、R15、及びR16で表わされる炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、フェニル基が好ましい。
一般式(1)中、R11、R12、及びR13のうちの少なくとも1つは、炭素原子数4以上6以下のアルキル基、又はフェニル基を有する炭素原子数2以上5以下のアルキル基を表し、R11、R12、及びR13のうちの残りは、炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表すことが好ましい。R14、R15、及びR16のうちの少なくとも1つは、炭素原子数4以上6以下のアルキル基、又はフェニル基を有する炭素原子数2以上5以下のアルキル基を表し、R14、R15、及びR16のうちの残りは、炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表すことが好ましい。
一般式(1)中、R11、R12、及びR13のうちの2つは、フェニル基を有する炭素原子数2以上3以下のアルキル基及びメチル基を表し、R11、R12、及びR13のうちの残りは、メチル基又は炭素原子数5以上7以下のアルキル基を表し、R11、R12、及びR13のうちの少なくとも2つは、互いに結合して環を形成しないことが好ましい。R14、R15、及びR16のうちの2つは、フェニル基を有する炭素原子数2以上3以下のアルキル基及びメチル基を表し、R14、R15、及びR16のうちの残りは、メチル基又は炭素原子数5以上7以下のアルキル基を表し、R14、R15、及びR16のうちの少なくとも2つは、互いに結合して環を形成しないことが好ましい。
キノン誘導体(2)の具体例としては、化学式(2−1)〜(2−7)で表されるキノン誘導体(以下、キノン誘導体(2−1)〜(2−7)と記載することがある)が挙げられる。
(キノン誘導体(2)の製造方法)
キノン誘導体(2)は、例えば、反応式(R−1)で表す反応(以下、反応(R−1)と記載することがある)、反応式(R−2)で表す反応(以下、反応(R−2)と記載することがある)、及び反応式(R−3)で表す反応(以下、反応(R−3)と記載することがある)に従って又はこれに準ずる方法によって製造される。キノン誘導体(2)の製造方法は、例えば、反応(R−1)と、反応(R−2)と、反応(R−3)とを含む。
反応(R−1)において、R11、R12、及びR13は、それぞれ一般式(1)中のR11、R12、及びR13と同義である。
反応(R−1)では、化学式(A)で表される化合物(1−ナフトール)1当量と、一般式(B)で表される化合物(アルコール誘導体)(以下、アルコール誘導体(B)と記載することがある)1当量とを、溶媒中濃硫酸の存在下で反応させて、中間体である一般式(C)で表される化合物(以下、ナフトール誘導体(C)と記載することがある)1当量を得る。反応(R−1)では、1モルの1−ナフトールに対して、1モル以上2.5モル以下のアルコール誘導体(B)を添加することが好ましい。1モルの1−ナフトールに対して1モル以上のアルコール誘導体(B)を添加すると、ナフトール誘導体(C)の収率を向上させ易い。一方、1モルの1−ナフトールに対して2.5モル以下のアルコール誘導体(B)を添加すると、反応(R−1)後に未反応のアルコール誘導体(B)が残留し難く、キノン誘導体(2)の精製が容易となる。反応(R−1)の反応温度は室温(例えば、25℃)であることが好ましい。反応(R−1)の反応時間は1時間以上10時間以下であることが好ましい。反応(R−1)は、溶媒中で行うことができる。溶媒としては、例えば、有機酸水溶液(例えば、酢酸)が挙げられる。
より具体的には、反応(R−1)では、1−ナフトールとアルコール誘導体(B)とを反応させる。反応後、反応液にイオン交換水を加え、有機層に抽出する。有機層に含まれる有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、又は酢酸エチルが挙げられる。有機層にアルカリ水溶液で加え、有機層を洗浄し中和する。アルカリとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(より具体的には、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等)、又はアルカリ土類金属の水酸化物(より具体的には、水酸化カルシウム等)が挙げられる。
反応(R−2)において、R14、R15、及びR16は、それぞれ一般式(1)中のR14、R15、及びR16と同義である。
反応(R−2)では、化学式(A)で表される化合物(1−ナフトール)1当量と、一般式(D)で表される化合物(アルコール誘導体)(以下、アルコール誘導体(D)と記載することがある)1当量とを、溶媒中濃硫酸の存在下で反応させて、中間体である一般式(E)で表される化合物(以下、ナフトール誘導体(E)と記載することがある)1当量を得る。反応(R−2)は、アルコール誘導体(B)をアルコール誘導体(D)に変更した以外は、反応(R−1)と同様の反応である。
反応(R−3)において、R11、R12、R13、R14、R15、及びR16は、それぞれ一般式(1)中のR11、R12、R13、R14、R15、及びR16と同義である。
反応(R−3)では、1当量のナフトール誘導体(C)及び1当量のナフトール誘導体(E)を酸化剤の存在下で反応して、1当量のキノン誘導体(2)を得る。反応(R−3)では、1モルのナフトール誘導体(C)及び1モルのナフトール誘導体(E)に対して、1モルの酸化剤を添加することが好ましい。酸化剤としては、例えば、クロラニル、過マンガン酸カリウム、又は酸化銀が挙げられる。反応(R−3)の反応温度は室温(例えば、25℃)であることが好ましい。反応(R−3)の反応時間は1時間以上10時間以下であることが好ましい。溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタンが挙げられる。
キノン誘導体(2)の製造では、必要に応じて他の工程(例えば、精製工程)を含んでもよい。このような工程としては、例えば、精製工程が挙げられる。精製工程ので精製方法としては、例えば、公知の方法(より具体的には、ろ過、クロマトグラフィー、又は晶折等)が挙げられる。
感光層は、キノン誘導体(2)に加えて、更に別の電子輸送剤を含有してもよい。別の電子輸送剤としては、例えば、キノン系化合物(キノン誘導体(2)以外のキノン系化合物)、ジイミド系化合物、ヒドラゾン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、又はジブロモ無水マレイン酸が挙げられる。キノン系化合物としては、例えば、ジフェノキノン系化合物、アゾキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、ニトロアントラキノン系化合物、又はジニトロアントラキノン系化合物が挙げられる。これらの電子輸送剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
電子輸送剤の含有量は、感光層においてバインダー樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。
電子輸送剤中のキノン誘導体(2)の含有率は、電子輸送剤の合計質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
[5.バインダー樹脂]
バインダー樹脂は、電荷発生剤等を感光層中に分散させ、固定させる。バインダー樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂(より具体的には、ビスフェノールZ型、ビスフェノールZC型、ビスフェノールC型、又はビスフェノールA型等)、ポリアリレート樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン−アクリロニトリル樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、アクリル酸系樹脂、スチレン−アクリル酸系樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、又はポリエーテル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、又はその他架橋性の熱硬化性樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ−アクリル酸系樹脂、又はウレタン−アクリル酸系樹脂が挙げられる。これらのバインダー樹脂のうち、ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂がより好ましい。ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂は化学式(Resin−1)で表される繰返し単位を有する。以下、化学式(Resin−1)で表される繰返し単位を有するバインダー樹脂を、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(Resin−1)と記載することがある。なお、バインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
バインダー樹脂の粘度平均分子量は、40,000以上であることが好ましく、40,000以上52,500以下であることがより好ましい。バインダー樹脂の粘度平均分子量が40,000以上であると、バインダー樹脂の耐摩耗性を十分に高めることができ、感光層が摩耗し難くなる。また、バインダー樹脂の粘度平均分子量が52,500以下であると、感光層の形成時にバインダー樹脂が溶剤に溶解し易くなり、感光層用塗布液の粘度が高くなり過ぎない。その結果、感光層を形成し易くなる。
[6.添加剤]
感光体の電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、感光層は各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、劣化防止剤(より具体的には、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、消光剤、又は紫外線吸収剤等)、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、可塑剤、増感剤、又はレベリング剤が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノン若しくはこれらの誘導体、有機硫黄化合物、又は有機燐化合物が挙げられる。
[7.中間層]
中間層は、例えば、無機粒子及び樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層の存在により、リーク発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持しつつ、感光体を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、抵抗の上昇を抑制し易くなる。
無機粒子としては、例えば、金属(より具体的には、アルミニウム、鉄、又は銅等)の粒子、金属酸化物(より具体的には、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、又は酸化亜鉛等)の粒子、又は非金属酸化物(より具体的には、シリカ等)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
中間層用樹脂としては、中間層を形成する樹脂として用いられる限り、特に限定されない。
中間層は、感光体の電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤は、感光層の添加剤と同様である。
[8.感光体の製造方法]
次に、図1を参照して、感光体1の製造方法の一例について説明する。感光体1の製造方法は、例えば、感光層形成工程を有する。感光層形成工程では、感光層用塗布液(以下、塗布液と記載することがある)を、導電性基体2上に塗布し、塗布した塗布液に含まれる溶剤を除去して感光層3を形成する。塗布液は、電荷発生剤と、正孔輸送剤としてのトリフェニルアミン誘導体(1)と、電子輸送剤としてのキノン誘導体(2)と、バインダー樹脂と、溶剤とを少なくとも含む。塗布液は、電荷発生剤と、正孔輸送剤としてのトリフェニルアミン誘導体(1)と、電子輸送剤としてのキノン誘導体(2)と、バインダー樹脂とを、溶剤に溶解又は分散させることにより調製される。感光層用塗布液には、必要に応じて添加剤を加えてもよい。
塗布液に含有される溶剤は、塗布液に含まれる各成分を溶解又は分散できる限り、特に限定されない。溶剤としては、例えば、アルコール(より具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、又はブタノール等)、脂肪族炭化水素(より具体的には、n−ヘキサン、オクタン、又はシクロヘキサン等)、芳香族炭化水素(より具体的には、ベンゼン、トルエン、又はキシレン等)、ハロゲン化炭化水素(より具体的には、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、又はクロロベンゼン等)、エーテル(より具体的には、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、又はジエチレングリコールジメチルエーテル等)、ケトン(より具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、又はシクロヘキサノン等)、エステル(より具体的には、酢酸エチル、又は酢酸メチル等)、ジメチルホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの溶剤のうち、感光体1の製造時の作業性を向上させるためには、ハロゲン化炭化水素以外の溶剤が好ましい。
塗布液は、各成分を混合し、溶剤に分散することにより調製される。混合又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー、又は超音波分散器が用いられる。
塗布液は、各成分の分散性、又は形成される各々の層の表面平滑性を向上させるために、例えば、界面活性剤又はレベリング剤を含有してもよい。
塗布液を塗布する方法としては、例えば、導電性基体2上に均一に塗布液を塗布できる方法である限り、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、又はバーコート法が挙げられる。
塗布液に含まれる溶剤を除去する方法は、塗布液中の溶剤を蒸発させ得る方法である限り、特に限定されない。溶剤を除去する方法としては、例えば、加熱、減圧、又は加熱と減圧との併用が挙げられる。より具体的には、高温乾燥機又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理条件は、例えば、40℃以上150℃以下の温度、かつ3分間以上120分間以下の時間である。
なお、感光体1の製造方法は、必要に応じて、中間層4を形成する工程及び/又は保護層5を形成する工程を更に含んでいてもよい。中間層4を形成する工程、及び保護層5を形成する工程では、公知の方法が適宜選択される。
感光体1は、例えば、画像形成装置において像担持体として使用される。第二実施形態で後述する画像形成装置は、像担持体と接触して像担持体に直流電圧を印加する帯電部を備える。
<第二実施形態:画像形成装置>
以下、図2を参照して第二実施形態に係る画像形成装置の一態様について説明する。図2は、第二実施形態に係る画像形成装置の一例を示す図である。第二実施形態に係る画像形成装置は、画像形成ユニット40を備える。画像形成ユニット40は、像担持体30と、帯電部42と、露光部44と、現像部46と、転写部48とを備える。像担持体30は、第一実施形態に係る感光体である。帯電部42は、像担持体30の表面を帯電する。帯電部42の帯電極性は、正極性である。露光部44は、帯電された像担持体30の表面を露光して、像担持体30の表面に静電潜像を形成する。現像部46は、静電潜像をトナー像として現像する。転写部48は、トナー像を像担持体30から転写体へ転写する。以上、第二実施形態に係る画像形成装置の概要を記載した。
第二実施形態に係る画像形成装置は、画像不良を抑制することができる。このような画像不良としては、例えば、帯電安定性の低下、感度特性の低下、及び転写メモリーの発生のうち少なくとも一つに起因する画像不良が挙げられる。その理由は、以下のように推測される。第二実施形態に係る画像形成装置100は、像担持体30として第一実施形態に係る感光体を備える。第一実施形態に係る感光体は、帯電安定性及び感度特性に優れる。また、第一実施形態に係る感光体は、転写メモリーの発生を抑制することもできる。よって、第二実施形態に係る画像形成装置100は、画像不良を抑制することができる。
以下、画像形成装置100の各部について詳細に説明する。画像形成装置100は、電子写真方式の画像形成装置である限り、特に限定されない。画像形成装置100は、例えば、モノクロ画像形成装置であってもよいし、カラー画像形成装置であってもよい。画像形成装置100がカラー画像形成装置である場合、画像形成装置100は、例えば、タンデム方式を採用する。以下、タンデム方式の画像形成装置100を例に挙げて説明する。
画像形成装置100は、直接転写方式を採用する。画像形成装置100が直接転写方式を採用する場合、転写体は記録媒体Pである。通常、直接転写方式を採用する画像形成装置では、像担持体が転写バイアスの影響を受けやすいため、通常、転写メモリーが発生し易い。しかし、第二実施形態に係る画像形成装置100は、像担持体30として第一実施形態に係る感光体を備える。第一実施形態に係る感光体は、転写メモリーの発生を抑制することもできる。よって、像担持体30として第一実施形態に係る感光体を備えると、画像形成装置100が直接転写方式を採用する場合であっても、転写メモリーに起因する画像不良の発生を抑制できると考えられる。
画像形成装置100は、画像形成ユニット40a、40b、40c及び40dに加えて、転写ベルト50と、定着部52とを更に備える。以下、区別する必要がない場合には、画像形成ユニット40a、40b、40c及び40dの各々を、画像形成ユニット40と記載する。なお、画像形成装置100がモノクロ画像形成装置である場合には、画像形成装置100は、画像形成ユニット40aを備え、画像形成ユニット40b〜40dは省略される。
画像形成ユニット40は、上述したように、像担持体30と、帯電部42と、露光部44と、現像部46と、転写部48とを備える。画像形成ユニット40の中央位置に、像担持体30が設けられる。像担持体30は、矢符方向(反時計回り)に回転可能に設けられる。像担持体30の周囲には、帯電部42を基準として像担持体30の回転方向の上流側から順に、帯電部42と、露光部44と、現像部46と、転写部48とが設けられる。なお、画像形成ユニット40には、クリーニング部又は除電部(不図示)が更に備えられてもよい。
画像形成ユニット40a〜40dの各々によって、転写ベルト50上の記録媒体Pに、複数色(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの4色)のトナー像が順に重ねられる。
帯電部42は、像担持体30の表面を帯電する。帯電部42は、帯電ローラーである。帯電ローラーは、像担持体30の表面と接触しながら像担持体30の表面を帯電する。帯電部の帯電極性は正極性である。帯電部42は、非接触方式又は接触方式の帯電部である。非接触方式の帯電部42としては、例えば、コロトロン帯電器、又はスコロトロン帯電器が挙げられる。接触方式の帯電部42としては、例えば、帯電ローラー又は帯電ブラシが挙げられる。
帯電部42が印加する電圧としては、特に制限されないが、例えば、直流電圧、交流電圧、又は交流電流に直流電流を重畳した重畳電圧が挙げられる。直流電圧のみを印加する帯電部42は、帯電部が交流電圧を印加する場合又は帯電部が直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を印加する場合に比べ、以下に示す優位性がある。帯電部42が直流電圧のみを印加すると、像担持体30に印加される電圧値が一定であるため、像担持体30の表面を一様に一定電位まで帯電させ易い。また、帯電部42が直流電圧のみを印加すると、感光層の磨耗量が減少する傾向がある。その結果、好適な画像を形成することができる。
帯電部42が印加する電圧が直流電圧である場合、通常、交流電圧に比べ、転写メモリーが発生し易い傾向にある。しかし、第二実施形態に係る画像形成装置100は、像担持体30として第一実施形態に係る感光体を備える。第一実施形態に係る感光体は、転写メモリーの発生を抑制することもできる。よって、第二実施形態に係る画像形成装置100は、像担持体30と接触して直流電圧を印加する帯電部42を備えても、転写メモリーに起因する画像不良の発生を抑制することができる。
露光部44は、帯電された像担持体30の表面を露光する。これにより、像担持体30の表面に静電潜像が形成される。静電潜像は、画像形成装置100に入力された画像データに基づいて形成される。
現像部46は、像担持体30の表面にトナーを供給し、静電潜像をトナー像として現像する。
転写ベルト50は、像担持体30と転写部48との間に記録媒体Pを搬送する。転写ベルト50は、無端状のベルトである。転写ベルト50は、矢符方向(時計回り)に回転可能に設けられる。
転写部48は、現像部46によって現像されたトナー像を、像担持体30の表面から記録媒体Pへ転写する。像担持体30から記録媒体Pにトナー像が転写されるときに、像担持体30は記録媒体Pと接触している。転写部48は、例えば、転写ローラーが挙げられる。
定着部52は、転写部48によって記録媒体Pに転写された未定着のトナー像を、加熱及び/又は加圧する。定着部52は、例えば、加熱ローラー及び/又は加圧ローラーである。トナー像を加熱及び/又は加圧することにより、記録媒体Pにトナー像が定着する。その結果、記録媒体Pに画像が形成される。
画像形成装置100は、帯電部42として帯電ローラーを備えることができる。像担持体30の表面を帯電するときに、帯電ローラーは像担持体30の表面と接触する。通常、帯電ローラーを備える画像形成装置では、転写メモリーが発生し易い。しかし、画像形成装置100は、像担持体30として第一実施形態に係る感光体を備える。第一実施形態に係る感光体は、転写メモリーの発生を抑制することができる。よって、第二実施形態に係る画像形成装置は、帯電部42として帯電ローラーを備える場合であっても、転写メモリーの発生に起因する画像不良の発生を抑制することができる。
<第三実施形態:プロセスカートリッジ>
第三実施形態に係るプロセスカートリッジは、第一実施形態に係る感光体を備える。引き続き、図2を参照して、第三実施形態に係るプロセスカートリッジについて説明する。
プロセスカートリッジは、ユニット化された部分を含む。ユニット化された部分は、像担持体30を含む。ユニット化された部分は、像担持体30に加えて、帯電部42、露光部44、現像部46、及び転写部48からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。プロセスカートリッジは、例えば、画像形成ユニット40a〜40dの各々に相当する。プロセスカートリッジには、除電器(不図示)が更に備えられてもよい。プロセスカートリッジは、画像形成装置100に対して着脱自在に設計される。そのため、プロセスカートリッジは取り扱いが容易であり、像担持体30の感度特性等が劣化した場合に、像担持体30を含めて容易かつ迅速に交換することができる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
<1.感光体の材料>
感光体の単層型感光層を形成するための材料として、以下の電子輸送剤、正孔輸送剤、電荷発生剤、及びバインダー樹脂を準備した。
[1−1.電子輸送剤]
電子輸送剤として、キノン誘導体(2−1)〜(2−7)を準備した。また、電子輸送剤(ET−1)〜(ET−3)も準備した。キノン誘導体(2−1)〜(2−7)は、それぞれ以下の方法で製造した。
[1−1−1.キノン誘導体(2−1)の製造]
反応式(r−1)及び反応式(r−3)で表される反応(以下、それぞれ反応(r−1)及び(r−3)と記載することがある)に従ってキノン誘導体(2−1)を製造した。
反応(r−1)では、ナフトール誘導体(1A)(1−ナフトール)とアルコール誘導体(1B)とを反応させて、中間生成物であるナフトール誘導体(1C)を得た。詳しくは、ナフトール誘導体(1A)1.44g(0.010モル)と、アルコール誘導体(1B)1.64g(0.010モル)と、濃硫酸0.98g(0.010モル)とをフラスコに投入し、酢酸溶液を調製した。フラスコ内容物に濃硫酸0.98g(0.010モル)を滴下し、室温で8時間攪拌した。フラスコ内容物にイオン交換水及びクロロホルムを加え有機層を得た。有機層を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、中和した。続けて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加え、有機層を乾燥させた。乾燥させた有機層を減圧留去し、ナフトール誘導体(1C)を含む粗生成物を得た。
反応(r−3)では、ナフトール誘導体(1C)を酸化反応させて、キノン誘導体(2−1)を得た。詳しくは、ナフトール誘導体(1C)を含む粗生成物と、クロロホルム100mLとをフラスコに投入し、クロロホルム溶液を調製した。フラスコ内容物にクロラニル2.46g(0.010モル)を加え、室温で8時間攪拌した。続けて、フラスコ内容物をろ過し、ろ液を得た。得られたろ液の溶媒を留去し、残渣を得た。展開溶媒としてクロロホルムを用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによりで得られた残渣を精製した。これにより、キノン誘導体(2−1)を得た。キノン誘導体(2−1)の収量は、1.73gであり、ナフトール誘導体(1A)からのキノン誘導体(2−1)の収率は、60モル%であった。
[1−1−2.キノン誘導体(2−2)〜(2−7)の製造]
以下の点を変更した以外は、キノン誘導体(2−1)の製造と同様の方法で、キノン誘導体(2−2)〜(2−7)をそれぞれ製造した。なお、キノン誘導体(2−2)〜(2−7)の製造において各原料は、キノン誘導体(2−1)の製造において対応する原料のモル数と同じモル数で添加した。
表1に反応(r−1)におけるナフトール誘導体(A)、アルコール誘導体(B)、及びナフトール誘導体(C)を示す。表1中、ナフトール誘導体(A)欄の種類1Aは、ナフトール誘導体(1A)を示す。アルコール誘導体(B)欄の種類1B〜7Bは、それぞれアルコール誘導体(1B)〜(7B)を示す。ナフトール誘導体(C)欄の1C〜7Cは、それぞれナフトール誘導体(1C)〜(7C)を示す。
反応(r−1)で使用するアルコール誘導体(1B)をアルコール誘導体(2B)〜(7B)の何れかに変更した。それらの結果、反応(r−1)では、ナフトール誘導体(1C)の代わりに、それぞれナフトール誘導体(2C)〜(7C)を含む粗生成物が得られた。
表1に反応(r−2)におけるナフトール誘導体(C)、及びキノン誘導体(2)を示す。表1中、キノン誘導体(2)欄の種類1−1〜1−7は、それぞれキノン誘導体(2−1)〜(2−7)を示す。反応(r−2)で使用するナフトール誘導体(1C)を含む粗生成物をナフトール誘導体(2C)〜(7C)の何れかを含む粗生成物に変更した。それらの結果、反応(r−2)では、キノン誘導体(2−1)の代わりに、それぞれキノン誘導体(2−2)〜(2−7)が得られた。
表1にキノン誘導体(2)の収量及び収率を示す。なお、表1中、アルコール誘導体(2B)〜(7B)は、それぞれ下記化学式(2B)〜(7B)で表される。また、ナフトール誘導体(2C)〜(7C)は、それぞれ下記化学式(2C)〜(7C)で表される。
次に、プロトン核磁気共鳴分光計(日本分光株式会社製、300MHz)を用いて、製造したキノン誘導体(2−1)〜(2−7)の1H−NMRスペクトルを測定した。溶媒としてCDCl3を用いた。内部標準試料としてテトラメチルシラン(TMS)を用いた。これらのうちキノン誘導体(2−1)及び(2−6)を代表例として挙げる。図3及び図4は、それぞれキノン誘導体(2−1)及び(2−6)の1H−NMRスペクトルを示す。図3及び図4中、縦軸は信号強度(単位:任意単位)を示し、横軸は化学シフト(単位:ppm)を示す。
以下に、キノン誘導体(2−1)及び(2−6)の化学シフト値を示す。
キノン誘導体(2−1):1H−NMR(300MHz,CDCl3) δ=8.32−8.35(m, 2H), 8.02(s, 2H), 7.84−7.88(m, 2H), 7.60−7.67(m, 4H), 7.03−7.18(m, 10H), 2.39−2.45(m, 4H), 2.22−2.29(m, 4H), 1.38(s, 12H).
キノン誘導体(2−6):1H−NMR(300MHz,CDCl3) δ=8.31−8.35(m, 2H), 7.97(s, 2H), 7.83−7.87(m, 2H), 7.62−7.73(m, 4H), 7.03−7.25(m, 10H), 2.48−2.60(m, 4H), 2.17−2.37(m, 4H), 1.86−1.98(m, 2H), 1.56−1.63(m, 2H), 1.19−1.33(m, 22H), 0.81(t, 6H).
1H−NMRスペクトル及び化学シフト値により、キノン誘導体(2−1)及び(2−6)が得られていることを確認した。他のキノン誘導体(2−2)〜(2−5)及び(2−7)も同様にして、1H−NMRスペクトル及び化学シフト値により、それぞれキノン誘導体(2−2)〜(2−5)及び(2−7)が得られていることを確認した。
[1−1−3.電子輸送剤(ET−1)〜(ET−3)の準備]
電子輸送剤として、化学式(ET−1)〜(ET−3)で表される化合物(以下、それぞれ電子輸送剤(ET−1)〜(ET−3)と記載することがある)を準備した。
[1−2.正孔輸送剤]
正孔輸送剤として、第二実施形態で説明したトリフェニルアミン誘導体(HT−3)、(HT−10)、及び(HT−12)を準備した。また、化学式(HT−21)で表される化合物(以下、正孔輸送剤(HT−21)と記載することがある)を準備した。
[1−3.電荷発生剤]
電荷発生剤として、第二実施形態で説明した電荷発生剤(CG−1)及び(CG−2)を準備した。電荷発生剤(CG−1)は、化学式(CG−1)で表される無金属フタロシアニン(X型無金属フタロシアニン)であった。また、電荷発生剤(CG−1)の結晶構造はX型であった。
電荷発生剤(CG−2)は、化学式(CG−2)で表されるチタニルフタロシアニン(Y型チタニルフタロシアニン)であった。また、電荷発生剤(CG−2)の結晶構造はY型であった。
Y型チタニルフタロシアニン結晶は、CuKα特性X線回折スペクトルチャートにおいて、ブラッグ角2θ±0.2°=9.2°、14.5°、18.1°、24.1°、27.2°にピークを有しており、主ピークは27.2°であった。なお、CuKα特性X線回折スペクトルは、第一実施形態で説明した測定装置及び測定条件で測定された。
[1−4.バインダー樹脂]
バインダー樹脂としてZ型ポリカーボネート樹脂(Resin−1)(帝人株式会社製「パンライト(登録商標)TS−2050」、粘度平均分子量50,000)を準備した。
<2.感光体の製造>
感光層を形成するための材料を用いて、感光体(A−1)〜(A−25)及び感光体(B−1)〜(B−17)を製造した。
[2−1.感光体(A−1)の製造]
容器内に、電荷発生剤(CG−1)5質量部、正孔輸送剤としてのトリフェニルアミン誘導体(HT−3)50質量部、電子輸送剤としてのキノン誘導体(2−1)35質量部、バインダー樹脂としてのZ型ポリカーボネート樹脂(Resin−1)100質量部及び溶剤としてのテトラヒドロフラン600質量部を投入した。容器の内容物を、ボールミルを用いて50時間混合して、溶剤に材料を分散させた。これにより、感光層用塗布液を得た。感光層用塗布液を、導電性基体としてのアルミニウム製のドラム状支持体上に、ディップコート法を用いて塗布した。塗布した感光層用塗布液を、100℃で40分間熱風乾燥させた。これにより、導電性基体上に、単層型感光層(膜厚35μm)を形成した。その結果、感光体(A−1)が得られた。
[2−2.感光体(A−2)〜(A−25)及び感光体(B−1)〜(B−19)の製造]
以下の点を変更した以外は、感光体(A−1)の製造と同様の方法で、感光体(A−2)〜(A−25)及び感光体(B−1)〜(B−19)をそれぞれ製造した。感光体(A−1)の製造に用いた電荷発生剤(CG−1)を、表2及び表3に示す種類の電荷発生剤に変更した。感光体(A−1)の製造に用いた正孔輸送剤としてのトリフェニルアミン誘導体(HT−3)を、表2及び表3に示す種類の正孔輸送剤に変更した。感光体(A−1)の製造に用いた電子輸送剤としてのキノン誘導体(2−1)を、表2及び表3に示す種類の電子輸送剤に変更した。なお、表2に感光体(A−1)〜(A−25)の構成を示し、表3に感光体(B−1)〜(B−9)の構成を示す。表2及び表3中、CGM、HTM、及びETMは、それぞれ電荷発生剤、正孔輸送剤、及び電子輸送剤を示す。表2及び表3中、欄「CGM」のx−H2Pc及びY−TiOPcは、それぞれX型無金属フタロシアニン及びY型チタニルフタロシアニンを示す。欄「HTM」のHT−3、HT−10、HT−12、及びHT−21は、それぞれトリフェニルアミン誘導体(HT−3)、(HT−10)、及び(HT−12)、並びに正孔輸送剤(HT−21)を示す。欄「ETM」の2−1〜2−7、及びET−1〜ET−3は、それぞれキノン誘導体(2−1)〜(2−7)及び電子輸送剤(ET−1)〜(ET−3)を示す。
<3.感光体の評価>
(3−1.帯電安定性評価)
感光体(A−1)〜(A−25)及び(B−1)〜(B−19)の各々に対し、帯電時の表面電位の安定性(帯電安定性)の評価を行った。帯電安定性の評価は、常温常湿環境下で行った。常温常湿とは、温度23℃及び湿度50%RH(相対湿度)である。
感光体を画像形成装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」)に装着した。この画像形成装置は、直流電圧を印加する接触方式の帯電ローラーを帯電部として備えていた。帯電性スリーブは、エピクロルヒドリン樹脂に導電性カーボンを分散させた帯電性ゴムで形成されていた。帯電部の帯電電圧を、+1.4kVに設定した。
帯電部を用いて感光体に、30分間帯電電圧を印加し続けた。感光体への30分間の帯電電圧の印加中に、感光体の表面電位を連続して測定した。帯電電圧の印加を開始した直後の感光体の表面電位は、+570±30Vであった。帯電電圧の印加において測定された感光体の表面電位の最大値をV0(単位:V)とし、最小値をV1(単位:V)とした。
測定した感光体の表面電位の最大値V0と最小値V1とから数式「ΔV0=V1−V0」を用いて表面電位の差ΔV0を得た。感光体の表面電位の差ΔV0を表2に示す。なお、感光体の表面電位の差ΔV0の絶対値が小さいほど、帯電時に感光体の表面電位が安定していたことを示す。
(3−2.感度特性及び転写メモリーの評価)
感光体(A−1)〜(A−25)及び(B−1)〜(B−19)の各々に対し、感度特性及び転写メモリーの評価を行った。感度特性及び転写メモリーの評価は、常温常湿環境下で行った。
感光体を画像形成装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」)に装着した。この画像形成装置は、直流電圧を印加する接触方式の帯電ローラーを帯電部として備えていた。また、この画像形成装置は、中間転写ベルト状に直接トナー像を掲載する直接転写方式を採用していた。帯電性スリーブは、帯電ローラーの表面に備えられ、エピクロルヒドリン樹脂を主たる構成材料とする帯電性ゴムで形成されていた。帯電部の帯電電圧を調整し、非露光時の現像部位置に対応する感光体の帯電電位(白紙部電位Vs)を+570V±10Vに設定した。
次いで、バンドパスフィルターを用いて、ハロゲンランプの白色光から単色光を取り出した。取り出した単色光は、波長780nm、半値幅20nm、及び光エネルギー1.16μJ/cm2であった。単色光のレーザー光で露光した時の現像位置に対応する感光体の帯電電位を測定した。測定された露光領域の表面電位を、感度電位VL(単位:V)とした。測定した非露光領域の表面電位を白紙部電位V3(単位:V)とした。なお、感度電位VL及び白紙部電位V3は、転写バイアスをオフにした状態で測定された。次いで、−2kVの転写バイアスを印加し、転写バイアスをオンにした状態で非露光領域(白紙部)の表面電位を測定した。得られた非露光領域(白紙部)の表面電位を、白紙部電位V4とした。得られたV3とV4とから数式「転写メモリー電位ΔVtc=V4−V3」を用いて転写メモリー電位ΔVtc(単位:V)を得た。
得られた感度電位VL、及び転写メモリー電位ΔVtcを表2及び表3に示す。なお、感度電位VLの値が小さいほど、感光体の感度特性が優れていることを示す。転写メモリー電位ΔVtcの絶対値が小さいほど、転写メモリーの発生が抑制されていることを示す。
(3−3.画像評価)
感光体(A−1)〜(A−25)及び(B−1)〜(B−19)の各々に対し、画像評価を行った。
感光体を画像形成装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」)に装着した。この画像形成装置は、直流電圧を印加する接触方式の帯電ローラーを帯電部として備えていた。帯電部として、帯電性スリーブを感光体に接触させて感光体表面を帯電する帯電ローラーを用いた。帯電性スリーブは、エピクロルヒドリン樹脂に導電性カーボンを分散させた帯電性ゴムで形成されていた。帯電部が感光体に印加する帯電電圧を調整することにより、感光体の表面電位を+570±10Vとした。
画像形成装置を用いて、5万枚の用紙に、画像Aを連続して印刷した。画像Aは、印字率5%の文字画像であった。5万枚の用紙への画像Aの印刷は、常温常湿環境下で行った。続いて、画像形成装置を用いて、常温常湿環境下で、画像Bを1枚の用紙に印刷した。画像Bは、ハーフトーン部と白紙部とを含んでいた。画像Bが形成された用紙を、常温常湿環境下の評価用サンプルとした。続いて、画像形成装置を用いて、低温低湿環境(温度10℃かつ湿度20%RH)下で、画像Bを1枚の用紙に印刷した。画像Bが形成された用紙を、低温低湿環境下の評価用サンプルとした。なお、用紙として、京セラドキュメントソリューションズ株式会社が販売する「京セラドキュメントソリューションズブランド紙VM−A4(A4サイズ)」を使用した。
得られた常温常湿環境下及び低温低湿環境下の評価用サンプルを、各々目視で観察した。これにより、ドラム傷に起因する画像不良の有無と、トナーフィルミングに起因する画像不良の有無とを確認した。このように感光体の電気特性は、画像を用いて評価することができる。詳しくは、帯電時の感光体の表面電位が安定し難いほど又は転写メモリーが発生し易いほど、感光体の表面にドラム傷及びトナーフィルミングが生じ易くなる。かかる場合、ドラム傷及びトナーフィルミングに起因する画像不良が発生する。感光体の表面にドラム傷が生じると、評価用サンプルの白紙部とハーフトーン部とに黒筋が現れ易くなる。感光体の表面にトナーフィルミングが生じると、評価用サンプルのハーフトーン部に黒筋が現れ易くなる。
次に、画像形成装置から感光体を取り出した。取り出された感光体の表面を、実体顕微鏡を用いて倍率50倍で観察した。これにより、感光体表面におけるドラム傷の発生の有無、及びトナーフィルミングの発生の有無を観察した。
常温常湿環境下及び低温低湿環境下の評価用サンプルの観察結果と、感光体の表面の観察結果とから、下記の評価基準に基づいて画像評価を行った。画像評価の結果を表2及び表3に示す。
(画像評価の評価基準)
評価A(特に良好):感光体表面にドラム傷及びトナーフィルミングが発生していなかった。更に、ドラム傷及びトナーフィルミングに起因する画像不良も観察されなかった。
評価B(良好):感光体表面にドラム傷又はトナーフィルミングが観察された。しかし、ドラム傷及びトナーフィルミングに起因する画像不良は観察されなかった。
評価C(不良):感光体表面にドラム傷又はトナーフィルミングが観察された。ドラム傷又はトナーフィルミングに起因する画像不良が低温低湿環境下で観察された。ドラム傷又はトナーフィルミングに起因する画像不良が常温常湿環境下では観察されなかった。
評価D(特に不良):感光体表面にドラム傷又はトナーフィルミングが観察された。ドラム傷又はトナーフィルミングに起因する画像不良が低温低湿環境下でも常温常湿環境下でも観察された。
表2に示すように、感光体(A−1)〜(A−25)では、感光層は電荷発生剤と、正孔輸送剤(HT−3)、(HT−10)、及び(HT−12)の何れか1種と、電子輸送剤としてキノン誘導体(2−1)〜(2−7)の何れか1種とを含有する。正孔輸送剤(HT−3)、(HT−10)、及び(HT−12)は、一般式(1)で表されるトリフェニルアミン誘導体である。キノン誘導体(2−1)〜(2−7)は、一般式(2)で表されるキノン誘導体である。
表2に示すように、感光体(A−1)〜(A−25)では、帯電安定性の評価において表面電位の差ΔV0が−83V以上−44V以下であった。感度特性の評価において感度電位VLが+90V以上+120V以下であった。画像評価の結果がすべて評価A(特に良好)であった。
表3に示すように、感光体(B−1)、(B−5)〜(B−12)、及び(B−16)〜(B−17)では、感光層は正孔輸送剤(HT−21)を含んでいた。正孔輸送剤(HT−21)は、一般式(1)で表されるトリフェニルアミン誘導体ではなかった。感光体(B−1)〜(B−4)、及び(B−12)〜(B−15)では、感光層は電子輸送剤(ET−3)を含んでいた。感光体(B−18)〜(B−19)では、感光層はそれぞれ電子輸送剤(ET−1)及び(ET−2)を含んでいた。電子輸送剤(ET−1)〜(ET−3)は、一般式(2)で表されるキノン誘導体ではなかった。
表3に示すように、感光体(B−1)〜(B−19)では、表面電位の差ΔV0が−198V以上−95V以下であった。感度特性の評価において感度電位VLが+140V以上+175V以下であった。画像評価の結果がすべて評価C(不良)であった。
感光体(A−1)〜(A−25)は、感光体(B−1)〜(B−19)に比べ、帯電安定性及び感度特性に優れることが明らかである。また、感光体(A−1)〜(A−25)を備える画像形成装置は、感光体(B−1)〜(B−19)を備える画像形成装置に比べ、画像不良が抑制されることが明らかである。