以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。
以下、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上3以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基、炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル環、及び炭素原子数5以上7以下のシクロアルキル環は、何ら規定していなければ、各々次の意味である。
炭素原子数1以上4以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上4以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、又はt−ブチル基が挙げられる。
炭素原子数1以上3以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上3以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、又はイソプロピル基が挙げられる。
炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、又はt−ブトキシ基が挙げられる。
炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、又はイソプロポキシ基が挙げられる。
炭素原子数3以上8以下のアルキル環は、無置換である。炭素原子数3以上10以下のアルキル環としては、例えば、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、又はシクロオクタン環が挙げられる。
炭素原子数5以上7以下のアルキル環は、無置換である。炭素原子数5以上7以下のアルキル環としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、又はシクロヘプタン環が挙げられる。
<第一実施形態:電子写真感光体>
第一実施形態は電子写真感光体(以下、感光体と記載することがある)に関する。以下、図1を参照して、第一実施形態の感光体について説明する。図1は、第一実施形態に係る感光体の構造を示す概略断面図である。
図1(a)に示すように、感光体1は、例えば、導電性基体2と感光層3とを備える。感光層3は、導電性基体2上に直接又は間接に設けられる。例えば、図1(a)に示すように、導電性基体2上に感光層3を直接設けてもよい。図1(b)に示すように、感光体1は、更に中間層を備えてもよく、中間層4は導電性基体2と感光層3との間に設けられてもよい。また、図1(a)及び図1(b)に示すように、感光層3が最外層として露出してもよい。感光体1は更に保護層を備えてもよい。図1(c)に示すように、感光層3上に保護層5が備えられてもよい。以上、図1を参照して、感光体1の構造について説明した。
感光層の厚さは、感光層として充分に作用できる限り、特に限定されない。感光層の厚さは、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
感光層は、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を少なくとも含有する。正孔輸送剤は、一般式(1)で表されるトリフェニルアミン誘導体(以下、トリフェニルアミン誘導体(1)と記載することがある)を含む。電子輸送剤は、一般式(2)で表されるキノン誘導体(以下、キノン誘導体(2)と記載することがある)を含む。第一実施形態に係る感光体は、電気特性に優れ、転写メモリーの発生を抑制する。その理由は、以下のように推測される。
便宜上、まず、転写メモリーについて説明する。電子写真方式の画像形成では、例えば、以下の1)〜4)の工程を含む画像形成プロセスが実施される。
1)像担持体(感光体に相当)の表面を帯電する帯電工程、
2)帯電された像担持体の表面を露光して、像担持体の表面に静電潜像を形成する露光工程、
3)静電潜像をトナー像として現像する現像工程、及び
4)形成されたトナー像を、像担持体から転写体へ転写する転写
このような画像形成プロセスでは、像担持体を回転させて使用するため、転写工程に起因する転写メモリーが発生する場合がある。具体的には、以下の通りである。帯電工程において、像担持体の表面は、一様に一定の正極性の電位まで帯電される。続いて、露光工程及び現像工程を経て、転写工程において、帯電とは逆極性(負極性)の転写バイアスが、転写体を介して像担持体に印加される。具体的には、印加された逆極性の転写バイアスの影響により、像担持体表面の非露光領域(非画像領域)の電位が大きく低下し、低下した状態が保持されることがある。この電位低下の影響を受け、非露光領域は、感光体が画像を形成した周を基準として次の周の帯電工程において、所望の正極性の電位まで帯電され難くなる。一方、転写バイアスが印加された状態であっても、露光領域にトナーが付着しているため感光体表面に転写バイアスが直接印加され難いことから、露光領域(画像領域)の電位は低下し難い。このため、露光領域は、次の周の帯電工程において、所望の正極性の電位まで帯電され易い。その結果、露光領域と非露光領域とで帯電電位が異なり、像担持体の表面を一様に一定の正極性の電位まで帯電させることが困難となる場合がある。このように、感光体の前周の作像工程(画像形成プロセス)における転写バイアスによって電位低下の影響を受け、非露光領域の帯電能が低下する場合がある。このような帯電電位に電位差が生じる現象を、転写メモリーという。
トリフェニルアミン誘導体(1)は、窒素原子に1つのフェニル基及び2つのジフェニルアルケニル部分が結合した構造を有する。トリフェニルアミン誘導体(1)のπ共役系は空間的広がりが比較的大きいため、トリフェニルアミン誘導体(1)の分子内におけるキャリア(正孔)の移動距離が大きくなる傾向にある。すなわち、キャリア(正孔)の移動距離が大きくなる傾向にある。また、感光層中の複数のトリフェニルアミン誘導体(1)は互いのπ共役系が重なり易くなり、複数のトリフェニルアミン誘導体(1)の分子間におけるキャリア(正孔)の移動距離が減少する傾向にある。すなわち、キャリア(正孔)の分子間移動距離が減少する傾向にある。一方、トリフェニルアミン誘導体(1)は分子内に窒素原子を1個有するため、分子内に窒素原子を2個有する化合物(例えば、ジアミン化合物)に比べ、分子内に電荷の偏りが少ない傾向にある。よって、トリフェニルアミン誘導体(1)は、感光体のキャリア(正孔)の受容性(注入性)及び輸送性を向上させると考えられる。
キノン誘導体(2)は、空間的広がりが比較的大きなπ共役系を有する。このため、キノン誘導体(2)はキャリア(電子)の受容性に優れ、キノン誘導体(2)の分子内におけるキャリア(電子)の移動距離が大きくなる傾向にある。すなわち、キャリア(電子)の分子内移動距離が大きくなる傾向にある。また、感光層中の複数のキノン誘導体(2)は互いのπ共役系が重なり易くなり、複数のキノン誘導体(2)の分子間におけるキャリア(電子)の移動距離が減少する傾向にある。すなわち、キャリア(電子)の分子間移動距離が減少する傾向にある。よって、キノン誘導体(2)は、感光体のキャリア(電子)の受容性(注入性)及び輸送性を向上させると考えられる。よって、第一実施形態に係る感光体は、感度特性に優れ、転写メモリーの発生を抑制することができると考えられる。
次に、感光体の要素について説明する。以下、導電性基体、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂について説明する。感光層は、添加剤を更に含有してもよい。更に、添加剤、中間層、及び感光体の製造方法について説明する。
[1.導電性基体]
導電性基体は、感光体の導電性基体として用いることができる限り、特に限定されない。導電性基体は、少なくとも表面部が導電性を有する材料で形成されていればよい。導電性基体の一例としては、導電性を有する材料で形成される導電性基体が挙げられる。導電性基体の別の例としては、導電性を有する材料で被覆される導電性基体が挙げられる。導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、又はインジウムが挙げられる。これらの導電性を有する材料を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2以上の組合せとしては、例えば、合金(より具体的には、アルミニウム合金、ステンレス鋼、又は真鍮等)が挙げられる。これらの導電性を有する材料の中でも、感光層から導電性基体への電荷の移動が良好であることから、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
導電性基体の形状は、画像形成装置の構造に合わせて適宜選択される。導電性基体の形状としては、例えば、シート状又はドラム状が挙げられる。また、導電性基体の厚さは、導電性基体の形状に応じて適宜選択される。
[2.電荷発生剤]
電荷発生剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、無機光導電材料(より具体的には、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、又はアモルファスシリコン等)の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、又はキナクリドン系顔料が挙げられる。電荷発生剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
フタロシアニン系顔料としては、例えば、無金属フタロシアニン又は金属フタロシアニンが挙げられる。無金属フタロシアニンの結晶としては、例えば、無金属フタロシアニンのX型結晶(以下、X型無金属フタロシアニンと記載することがある)が挙げられる。無金属フタロシアニンは、例えば、化学式(CG−1)で表される。
金属フタロシアニンとしては、例えば、化学式(CG−2)で表されるチタニルフタロシアニン、又は酸化チタン以外の金属が配位したフタロシアニン(より具体的には、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン等)が挙げられる。フタロシアニン系顔料は、結晶であってもよく、非結晶であってもよい。
チタニルフタロシアニンの結晶としては、例えば、チタニルフタロシアニンのα型結晶、β型結晶、又はY型結晶が挙げられる。以下、チタニルフタロシアニンのα型結晶、β型結晶、及びY型結晶を、各々、α型チタニルフタロシアニン、β型チタニルフタロシアニン、及びY型チタニルフタロシアニンと記載することがある。波長領域700nm以上で高い量子収率を有することから、チタニルフタロシアニンのなかでもY型チタニルフタロシアニンが好ましい。
所望の領域に吸収波長を有する電荷発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上の電荷発生剤を組み合わせて用いてもよい。更に、例えば、デジタル光学式の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体を用いることが好ましい。デジタル光学式の画像形成装置としては、例えば、半導体レーザーのような光源を使用したレーザービームプリンター、又はファクシミリが挙げられる。
短波長レーザー光源を用いた画像形成装置に感光体を適用する場合には、電荷発生剤として、アンサンスロン系顔料、又はペリレン系顔料が好適に用いられる。短波長レーザー光の波長は、例えば、350nm以上550nm以下である。
電荷発生剤の含有量は、感光層においてバインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
[3.正孔輸送剤]
正孔輸送剤は、トリフェニルアミン誘導体(1)を含む。トリフェニルアミン誘導体は、一般式(1)で表される。
一般式(1)中、R1、R2、及びR3は、各々独立に、炭素原子数1以上4以下のアルキル基又は炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を表す。k、p、及びqは、各々独立に、0以上5以下の整数を表す。m1及びm2は、各々独立に、1以上3以下の整数を表す。kが2以上の整数を表す場合、複数のR1は互いに同一であっても異なってもよい。kが2以上の整数を表す場合、複数のR1は互いに結合して形成された炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル環を表してもよい。pが2以上の整数を表す場合、複数のR2は互いに同一であっても異なってもよい。qが2以上の整数を表す場合、複数のR3は互いに同一であっても異なってもよい。
一般式(1)中、R1が表す炭素原子数1以上4以下のアルキル基は、メチル基、エチル基、又はn−ブチル基を表すことが好ましい。kは1以上3以下の整数を表すことが好ましく、0以上2以下の整数を表すことがより好ましい。kが2以上の整数を表す場合、複数のR1は互いに同一であっても異なってもよい。kが2以上の整数を表す場合、複数のR1は互いに結合して形成された炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル環を表してもよい。炭素原子数3以上8以下のシクロアルキル環としては、炭素原子数5以上7以下のシクロアルカン環が好ましく、シクロヘキサン環がより好ましい。
一般式(1)中、R1が表す炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基としては、メトキシ基が好ましい。
一般式(1)中、R2及びR3の表す炭素原子数1以上4以下のアルキル基は、メチル基が好ましい。
一般式(1)中、R1の置換位置としては、例えば、窒素原子に対してフェニル基のオルト位、メタ位、又はパラ位が挙げられる。kが1を表す場合、R1の置換位置は窒素原子に対してフェニル基のオルト位又はパラ位が好ましい。kが2を表し、2つのR1が互いに結合してシクロアルカン環を形成しない場合、R1の置換位置は窒素原子に対してフェニル基のオルト位が好ましい。kが3を表し、3つのR1のうち2つのR1が互いに結合してシクロアルカン環を形成しない場合、R1の置換位置は窒素原子に対してベンゼン環のオルト位及びパラ位が好ましい。
一般式(1)中、p及びqは各々独立に、0又は1を表すことが好ましく、p及びqはともに0又は1を表すことがより好ましい。pが1を表す場合、R2の置換位置は窒素原子に対してフェニル基のパラ位が好ましい。qが1を表す場合、R3の置換位置は窒素原子に対してフェニル基のパラ位が好ましい。
一般式(1)中、m1及びm2は、各々独立に、1又は2を表すことが好ましく、m1及びm2は何れも1又は2を表すことが好ましい。
一般式(1)中、R1は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基又は炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基を表し、R2及びR3は何れも炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表し、kは1以上3以下の整数を表し、p及びqは各々独立に0又は1を表すことが好ましい。kが2以上の整数を表す場合、複数のR1が互いに結合して形成される炭素原子数5以上7以下のシクロアルカン環を表してもよい。
一般式(1)中、R1は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基又は炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基を表し、R2及びR3は何れも炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表し、kは1以上3以下の整数を表し、p及びqは各々独立に0又は1を表し、m1及びm2は各々独立に1又は2を表すことがより好ましい。
トリフェニルアミン誘導体(1)の具体例としては、化学式(HT−1)〜(HT−18)で表されるトリフェニルアミン誘導体(以下、それぞれトリフェニルアミン誘導体(HT−1)〜(HT−18)と記載することがある)が挙げられる。
これらのトリフェニルアミン誘導体のうち、トリフェニルアミン誘導体(HT−1)〜(HT−13)が好ましく、トリフェニルアミン誘導体(HT−1)〜(HT−4)又は(HT−9)〜(HT−13)がより好ましく、トリフェニルアミン誘導体(HT−3)、(HT−10)、(HT−12)、又は(HT−13)が更に好ましく、トリフェニルアミン誘導体(HT−10)、(HT−12)、又は(HT−13)が特に好ましい。感光体の帯電安定性及び感度特性を向上させる観点から、トリフェニルアミン誘導体(HT−12)又は(HT−13)が好ましい。
正孔輸送剤は、トリフェニルアミン誘導体(1)に加えて、トリフェニルアミン誘導体(1)以外の別の正孔輸送剤を組み合わせて用いてもよい。別の正孔輸送剤は、公知の正孔輸送剤から適宜選択される。
別の正孔輸送剤としては、例えば、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなスチリル系化合物;ポリビニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物;有機ポリシラン化合物;1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物;ヒドラゾン系化合物;トリフェニルアミン誘導体(1)以外のトリフェニルアミン系化合物;オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、又はトリアゾール系化合物のような含窒素環式化合物;インドール系化合物、又はチアジアゾール化合物のような含窒素縮合多環式化合物が挙げられる。なお、正孔輸送剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正孔輸送剤の含有量は、感光層においてバインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
正孔輸送剤中のトリフェニルアミン誘導体(1)の含有率は、正孔輸送剤の合計質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
[4.電子輸送剤]
電子輸送剤は、キノン誘導体(2)を含む。キノン誘導体(2)は、一般式(2)で表される。
一般式(2)中、R4及びR5は、各々独立に、水素原子又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。
一般式(2)中、R4及びR5が表す炭素原子数1以上4以下のアルキル基は、各々独立にメチル基、イソプロピル基、又はt−ブチル基を表すことが好ましく、何れもメチル基、イソプロピル基、又はt−ブチル基を表すことがより好ましく、何れもt−ブチル基を表すことが更に好ましい。
キノン誘導体(2)の具体例としては、表1に表されるキノン誘導体(2)が挙げられる。
これらのキノン誘導体(2)のうち、化学式(ET−1)、化学式(ET−8)、及び化学式(ET−17)で表されるキノン誘導体(以下、それぞれキノン誘導体(ET−1)、(ET−8)、及び(ET−17)と記載することがある)が好ましく、キノン誘導体(ET−17)がより好ましい。
電子輸送剤は、キノン誘導体(2)に加えて、キノン誘導体(2)以外の別の電子輸送剤を組み合わせて用いてもよい。別の電子輸送剤は、公知の電子輸送剤から適宜選択される。
別の電子輸送剤としては、例えば、キノン誘導体(2)以外のキノン系化合物、ジイミド系化合物、ヒドラゾン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、又はジブロモ無水マレイン酸が挙げられる。キノン誘導体(2)以外のキノン系化合物としては、例えば、ジフェノキノン系化合物、アゾキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、ニトロアントラキノン系化合物、又はジニトロアントラキノン系化合物が挙げられる。これらの電子輸送剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
電子輸送剤の含有量は、感光層においてバインダー樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。
電子輸送剤中のキノン誘導体(2)の含有率は、電子輸送剤の合計質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
[5.バインダー樹脂]
バインダー樹脂は、電荷発生剤等を感光層中に分散させ、固定させる。バインダー樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂(より具体的には、ビスフェノールZ型、ビスフェノールZC型、ビスフェノールC型、又はビスフェノールA型等)、ポリアリレート樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン−アクリロニトリル樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、アクリル酸系樹脂、スチレン−アクリル酸系樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、又はポリエーテル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、又はその他架橋性の熱硬化性樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ−アクリル酸系樹脂、又はウレタン−アクリル酸系樹脂が挙げられる。これらのバインダー樹脂のうち、ポリカーボネート樹脂が好ましく、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂がより好ましい。ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂は化学式(Resin−1)で表される繰返し単位を有する。以下、化学式(Resin−1)で表される繰返し単位を有するバインダー樹脂を、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(Resin−1)と記載することがある。なお、バインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
バインダー樹脂の粘度平均分子量は、40,000以上であることが好ましく、40,000以上52,500以下であることがより好ましい。バインダー樹脂の粘度平均分子量が40,000以上であると、バインダー樹脂の耐摩耗性を十分に高めることができ、感光層が摩耗し難くなる。また、バインダー樹脂の粘度平均分子量が52,500以下であると、感光層の形成時にバインダー樹脂が溶剤に溶解し易くなり、感光層用塗布液の粘度が高くなり過ぎない。その結果、感光層を形成し易くなる。
[6.添加剤]
感光体の電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、感光層は各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、劣化防止剤(より具体的には、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、消光剤、又は紫外線吸収剤等)、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、可塑剤、増感剤、又はレベリング剤が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノン若しくはこれらの誘導体、有機硫黄化合物、又は有機燐化合物が挙げられる。
[7.中間層]
中間層は、例えば、無機粒子及び樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層の存在により、リーク発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持しつつ、感光体を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、抵抗の上昇を抑制し易くなる。
無機粒子としては、例えば、金属(より具体的には、アルミニウム、鉄、又は銅等)の粒子、金属酸化物(より具体的には、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、又は酸化亜鉛等)の粒子、又は非金属酸化物(より具体的には、シリカ等)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
中間層用樹脂としては、中間層を形成する樹脂として用いられる限り、特に限定されない。
中間層は、感光体の電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤は、感光層の添加剤と同様である。
[8.感光体の製造方法]
次に、図1を参照して、感光体1の製造方法の一例について説明する。感光体1の製造方法は、例えば、感光層形成工程を有する。感光層形成工程では、感光層用塗布液を、導電性基体2上に塗布し、塗布した感光層用塗布液に含まれる溶剤を除去して感光層3を形成する。感光層用塗布液は、電荷発生剤、正孔輸送剤としてのトリフェニルアミン誘導体(1)と、電子輸送剤としてのキノン誘導体(2)と、バインダー樹脂と、溶剤とを少なくとも含む。感光層用塗布液は、電荷発生剤と、正孔輸送剤としてのトリフェニルアミン誘導体(1)と、電子輸送剤としてのキノン誘導体(2)と、バインダー樹脂とを、溶剤に溶解又は分散させることにより調製される。感光層用塗布液には、必要に応じて、電子輸送剤、及び各種添加剤を加えてもよい。
感光層用塗布液に含有される溶剤は、感光層用塗布液に含まれる各成分を溶解又は分散できる限り、特に限定されない。溶剤としては、例えば、アルコール類(より具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、又はブタノール等)、脂肪族炭化水素(より具体的には、n−ヘキサン、オクタン、又はシクロヘキサン等)、芳香族炭化水素(より具体的には、ベンゼン、トルエン、又はキシレン等)、ハロゲン化炭化水素(より具体的には、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、又はクロロベンゼン等)、エーテル類(より具体的には、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、又はジエチレングリコールジメチルエーテル等)、ケトン類(より具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、又はシクロヘキサノン等)、エステル類(より具体的には、酢酸エチル、又は酢酸メチル等)、ジメチルホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの溶剤のうち、感光体1の製造時の作業性を向上させるためには、ハロゲン化炭化水素以外の溶剤が好ましい。
感光層用塗布液は、各成分を混合し、溶剤に分散することにより調製される。混合又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー、又は超音波分散器が用いられる。
感光層用塗布液は、各成分の分散性、又は形成される各々の層の表面平滑性を向上させるために、例えば、界面活性剤又はレベリング剤を含有してもよい。
感光層用塗布液を塗布する方法としては、例えば、導電性基体2上に均一に感光層用塗布液を塗布できる方法である限り、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、又はバーコート法が挙げられる。
感光層用塗布液に含まれる溶剤を除去する方法は、感光層用塗布液中の溶剤を蒸発させ得る方法である限り、特に限定されない。溶剤を除去する方法としては、例えば、加熱、減圧、又は加熱と減圧との併用が挙げられる。より具体的には、高温乾燥機又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理条件は、例えば、40℃以上150℃以下の温度、かつ3分間以上120分間以下の時間である。
なお、感光体1の製造方法は、必要に応じて、中間層4を形成する工程及び/又は保護層5を形成する工程を更に含んでいてもよい。中間層4を形成する工程、及び保護層5を形成する工程では、公知の方法が適宜選択される。
感光体1は、例えば、画像形成装置において像担持体として使用される。第二実施形態で後述する画像形成装置は、像担持体と接触して像担持体に直流電圧を印加する帯電部を備える。
以上、図1を参照して、第一実施形態に係る感光体1を説明した。第一実施形態に係る感光体1によれば、感度特性に優れ、転写メモリーの発生を抑制することができる。
<第二実施形態:画像形成装置>
第二実施形態は画像形成装置に関する。第二実施形態に係る画像形成装置は、像担持体と、帯電部と、露光部と、現像部と、転写部とを備える。帯電部は、像担持体の表面を帯電する。露光部は、帯電された像担持体の表面を露光して、像担持体の表面に静電潜像を形成する。現像部は、静電潜像をトナー像として現像する。転写部は、トナー像を像担持体から転写体へ転写する。像担持体は、第一実施形態に係る電子写真感光体である。帯電部の帯電極性は、正極性である。
第二実施形態に係る画像形成装置は、画像不良を抑制することができる。このような画像不良としては、例えば、感度特性の低下及び転写メモリーの発生に起因する画像不良が挙げられる。その理由は、以下のように推測される。第二実施形態に係る画像形成装置は、像担持体として第一実施形態に係る感光体を備える。第一実施形態に係る感光体は、感度特性に優れ、転写メモリーの発生を抑制することができる。よって、第二実施形態に係る画像形成装置は、画像不良を抑制することができる。
以下、図2を参照して、第二実施形態に係る画像形成装置100について説明する。図2は第二実施形態に係る画像形成装置100の一態様の構成を示す概略図である。
画像形成装置100は、電子写真方式の画像形成装置である限り、特に限定されない。画像形成装置100は、例えば、モノクロ画像形成装置であってもよいし、カラー画像形成装置であってもよい。画像形成装置100がカラー画像形成装置である場合、画像形成装置100は、例えば、タンデム方式を採用する。以下、タンデム方式の画像形成装置100を例に挙げて説明する。
画像形成装置100は、画像形成ユニット40a、40b、40c及び40dと、転写ベルト50と、定着部52とを備える。以下、区別する必要がない場合には、画像形成ユニット40a、40b、40c及び40dの各々を、画像形成ユニット40と記載する。
画像形成ユニット40は、像担持体1と、帯電部42と、露光部44と、現像部46と、転写部48とを備える。画像形成ユニット40の中央位置に、像担持体1が設けられる。像担持体1は、矢符方向(反時計回り)に回転可能に設けられる。像担持体1の周囲には、帯電部42を基準として像担持体1の回転方向の上流側から順に、帯電部42、露光部44、現像部46、及び転写部48が設けられる。なお、画像形成ユニット40には、クリーニング部(不図示)及び除電部(不図示)の一方又は両方が更に備えられてもよい。
帯電部42は、像担持体1の表面を帯電する。帯電部の帯電極性は正極性である。帯電部42は、非接触方式又は接触方式の帯電部である。非接触方式の帯電部42としては、例えば、コロトロン帯電器、又はスコロトロン帯電器が挙げられる。接触方式の帯電部42としては、例えば、帯電ローラー又は帯電ブラシが挙げられる。
露光部44は、帯電された像担持体1の表面を露光する。これにより、像担持体1の表面に静電潜像が形成される。静電潜像は、画像形成装置100に入力された画像データに基づいて形成される。
現像部46は、像担持体1の表面にトナーを供給し、静電潜像をトナー像として現像する。
転写ベルト50は、像担持体1と転写部48との間に記録媒体Pを搬送する。転写ベルト50は、無端状のベルトである。転写ベルト50は、矢符方向(時計回り)に回転可能に設けられる。
転写部48は、現像部46によって現像されたトナー像を、像担持体1の表面から記録媒体Pへ転写する。像担持体1から記録媒体Pにトナー像が転写されるときに、像担持体1は記録媒体Pと接触している。すなわち、画像形成装置100は、いわゆる直接転写方式を採用する。転写部48は、例えば、転写ローラーが挙げられる。
画像形成ユニット40a〜40dの各々によって、転写ベルト50上の記録媒体Pに、複数色(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの4色)のトナー像が順に重ねられる。なお、画像形成装置100がモノクロ画像形成装置である場合には、画像形成装置100は、画像形成ユニット40aを備え、画像形成ユニット40b〜40dは省略される。
定着部52は、転写部48によって記録媒体Pに転写された未定着のトナー像を、加熱及び/又は加圧する。定着部52は、例えば、加熱ローラー及び/又は加圧ローラーである。トナー像を加熱及び/又は加圧することにより、記録媒体Pにトナー像が定着する。その結果、記録媒体Pに画像が形成される。
画像形成装置100は、帯電部42として帯電ローラーを備えることができる。像担持体1の表面を帯電するときに、帯電ローラーは像担持体1の表面と接触する。通常、帯電ローラーを備える画像形成装置では、転写メモリーが発生し易い。しかし、画像形成装置100は、像担持体1として第一実施形態に係る感光体を備える。第一実施形態に係る感光体は、転写メモリーの発生を抑制することができる。よって、第二実施形態に係る画像形成装置は、帯電部42として帯電ローラーを備える場合であっても、転写メモリーの発生に起因する画像不良の発生を抑制することができる。
帯電部42が印加する電圧としては、特に制限されないが、例えば、直流電圧、交流電圧、又は交流電流に直流電流を重畳した重畳電圧が挙げられる。直流電圧のみを印加する帯電部42は、帯電部が交流電圧を印加する場合又は帯電部が直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を印加する場合に比べ、以下に示す優位性がある。帯電部42が直流電圧のみを印加すると、像担持体1に印加される電圧値が一定であるため、像担持体1の表面を一様に一定電位まで帯電させ易い。また、帯電部42が直流電圧のみを印加すると、感光層3の磨耗量が減少する傾向がある。その結果、好適な画像を形成することができる。
通常、直流電圧は、交流電圧に比べ、転写メモリーが発生し易い傾向にある。しかし、第二実施形態に係る画像形成装置100は、像担持体1として第一実施形態に係る感光体を備える。第一実施形態に係る感光体は、転写メモリーの発生を抑制することができる。よって、第二実施形態に係る画像形成装置100は、像保持体と接触して直流電圧を印加する帯電部を備えても、転写メモリーに起因する画像不良の発生を抑制することができる。
画像形成装置100は、直接転写方式を採用する。通常、直接転写方式を採用する画像形成装置では、像担持体が転写バイアスの影響を受けやすいため、通常、転写メモリーが発生し易い。しかし、第二実施形態に係る画像形成装置100は、像担持体1として第一実施形態に係る感光体を備える。第一実施形態に係る感光体は、転写メモリーの発生を抑制することができる。よって、像担持体1として第一実施形態に係る感光体1を備えると、画像形成装置100が直接転写方式を採用する場合であっても、転写メモリーに起因する画像不良の発生を抑制できると考えられる。
以上、第二実施形態に係る画像形成装置を説明した。第二実施形態に係る画像形成装置は、像担持体として第一実施形態に係る感光体を備えることで、画像不良の発生を抑制することができる。
<第三実施形態:プロセスカートリッジ>
第三実施形態はプロセスカートリッジに関する。第三実施形態に係るプロセスカートリッジは、第一実施形態に係る感光体を備える。引き続き、図2を参照して、第三実施形態に係るプロセスカートリッジについて説明する。プロセスカートリッジは、ユニット化された像担持体1を備える。プロセスカートリッジは、像担持体1に加えて、帯電部42、露光部44、現像部46、及び転写部48からなる群より選択される少なくとも1つをユニット化した構成が採用される。プロセスカートリッジは、例えば、画像形成ユニット40a〜40dの各々に相当する。プロセスカートリッジには、クリーニング装置(不図示)及び除電器(不図示)の一方又は両方が更に備えられてもよい。プロセスカートリッジは、画像形成装置100に対して着脱自在に設計される。そのため、プロセスカートリッジは取り扱いが容易であり、像担持体1の感度特性等が劣化した場合に、像担持体1を含めて容易かつ迅速に交換することができる。
以上、第三実施形態に係るプロセスカートリッジを説明した。第三実施形態に係るプロセスカートリッジは、像担持体として第一実施形態に係る感光体を備えることで、画像不良の発生を抑制することができる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
<1.感光体の材料>
感光体の感光層を形成するための材料として、以下の電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を準備した。
(1−1.電荷発生剤)
電荷発生剤として、電荷発生剤(CG−1)を準備した。電荷発生剤(CG−1)は、第一実施形態で説明した化学式(CG−1)で表される無金属フタロシアニンであった。また、電荷発生剤(CG−1)の結晶構造はX型であった。
(1−2.正孔輸送剤)
正孔輸送剤として、第一実施形態で説明したトリフェニルアミン誘導体(1)のうち、トリフェニルアミン誘導体(HT−3)、(HT−10)、(HT−12)、及び(HT−13)を準備した。また、正孔輸送剤として化学式(HT−21)で表される化合物(以下、化合物(HT−21)と記載することがある)も準備した。
(1−3.電子輸送剤)
電子輸送剤として、第一実施形態で説明したキノン誘導体(2)のうち、キノン誘導体(ET−1)、(ET−8)、及び(ET−17)を準備した。また、電子輸送剤として、化学式(ET−A)で表される化合物(以下、化合物(ET−A)と記載することがある)を準備した。
(1−4.バインダー樹脂)
バインダー樹脂として、第一実施形態に説明したビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(Resin−1)を準備した。
<2.感光体の製造>
準備した感光体の感光層を形成するための材料を用いて、感光体(A−1)〜(A−12)及び(B−1)〜(B−8)を製造した。
(感光体(A−1)の製造)
容器内に、電荷発生剤(CG−1)5質量部と、正孔輸送剤としてのトリフェニルアミン誘導体(HT−3)50質量部と、電子輸送剤としての化合物(ET−1)35質量部と、バインダー樹脂(Resin−1)100質量部と、溶剤としてのテトラヒドロフラン750質量部とを投入した。容器の内容物を、ボールミルを用いて50時間混合して分散し、感光層用塗布液を調製した。
ディップコート法を用いて、導電性基体上に感光層用塗布液を塗布し、導電性基体上に塗布膜を形成した。続いて、100℃で40分間乾燥させ、塗布膜中からテトラヒドロフランを除去した。これにより、導電性基体上に膜厚35μmの感光層を備える感光体(A−1)を得た。
(感光体(A−2)〜(A−12)及び(B−1)〜(B−8)の製造)
以下の点を変更した以外は、感光体(A−1)の製造と同様の方法で、感光体(A−2)〜(A−12)及び(B−1)〜(B−8)を製造した。感光体(A−1)の製造に用いた正孔輸送剤としてのトリフェニルアミン誘導体(HT−3)及び電子輸送剤としてのキノン誘導体(ET−1)で表される化合物に代えて、各々、表2に示す種類の正孔輸送剤(HTM)及び電子輸送剤(ETM)を用いた。
<3.感光体の評価>
(3−1.帯電安定性評価)
感光体(A−1)〜(A−12)及び(B−1)〜(B−8)の各々に対し、帯電時の表面電位の安定性(帯電安定性)の評価を行った。
感光体を画像形成装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」)に装着した。この画像形成装置は、直流電圧を印加する接触方式の帯電ローラーを帯電部として備えていた。帯電性スリーブは、エピクロルヒドリン樹脂に導電性カーボンを分散させた帯電性ゴムで形成されていた。帯電部の帯電電圧を、+1.4kVに設定した。
帯電部を用いて感光体に、30分間帯電電圧を印加し続けた。感光体への30分間の帯電電圧の印加中に、感光体の表面電位を連続して測定した。帯電電圧の印加を開始した直後の感光体の表面電位は、+570±30Vであった。帯電電圧の印加において測定された感光体の表面電位の最大値をV0(単位:V)とし、最小値をV1(単位:V)とした。なお、測定環境は、温度23℃かつ相対湿度50%RHであった。
測定した感光体の表面電位の最大値V0と最小値V1とから数式「ΔV0=V1−V0」を用いて表面電位の差ΔV0を得た。感光体の表面電位の差ΔV0を表2に示す。なお、感光体の表面電位の差ΔV0の絶対値が小さいほど、帯電時に感光体の表面電位が安定していたことを示す。
(3−2.感度特性及び転写メモリーの評価)
感光体(A−1)〜(A−12)及び(B−1)〜(B−8)の各々に対し、帯電安定性の評価を行った。
感光体を画像形成装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」)に装着した。この画像形成装置は、直流電圧を印加する接触方式の帯電ローラーを帯電部として備えていた。また、この画像形成装置は、中間転写ベルト状に直接トナー像を掲載する直接転写方式を採用していた。帯電性スリーブは、帯電ローラーの表面に備えられ、エピクロルヒドリン樹脂を主たる構成材料とする帯電性ゴムで形成されていた。帯電部の帯電電圧を調整し、非露光時の現像部位置に対応する感光体の帯電電位(白紙部電位Vs)を570V±10Vに設定した。
次いで、バンドパスフィルターを用いて、ハロゲンランプの白色光から単色光を取り出した。取り出した単色光は、波長780nm、半値幅20nm、及び光エネルギー1.16μJ/cm2のレーザー光で露光した時の現像位置に対応する感光体の帯電電位を測定した。測定された露光領域の表面電位を、感度電位VL(単位:V)とした。測定した非露光領域の表面電位を白紙部電位V3(単位:V)とした。なお、感度電位VL及び白紙部電位V3は、転写バイアスをオフにした状態で測定された。次いで、−2kVの転写バイアスを印加し、転写バイアスをオンにした状態で非露光領域(白紙部)の表面電位を測定した。得られた非露光領域(白紙部)の表面電位を、白紙部電位V4とした。得られたV3とV4とから数式「転写メモリー電位ΔVtc=V4−V3」を用いて転写メモリー電位ΔVtc(単位:V)を得た。なお、測定環境は、温度23℃かつ相対湿度50%RHであった。
得られた感度電位VL、及び転写メモリー電位ΔVtcを表2に示す。なお、感度電位VLの値が小さいほど、感光体の感度特性が優れていることを示す。転写メモリー電位ΔVtcの絶対値が小さいほど、転写メモリーの発生が抑制されていることを示す。
表2中、欄「材料」におけるCGM、HTM、及びETMは、各々、電荷発生剤、正孔輸送剤、及び電子輸送剤を示す。
表2に示すように、感光体(A−1)〜(A−12)では、感光層は、正孔輸送剤としてトリフェニルアミン誘導体(HT−3)、(HT−10)、(HT−12)、及び(HT−13)の何れかを含む。トリフェニルアミン誘導体(HT−3)、(HT−10)、(HT−12)、及び(HT−13)は、一般式(1)で表されるトリフェニルアミン誘導体である。また、感光体(A−1)〜(A−12)では、感光層は、電子輸送剤としてキノン誘導体(ET−1)、(ET−8)、及び(ET−17)の何れかを含む。キノン誘導体(ET−1)、(ET−8)、及び(ET−17)は、一般式(2)で表されるキノン誘導体である。
表2に示すように、感光体(A−1)〜(A−12)では、感度電位(VL)は+91V以上+124V以下である。転写メモリー電位の差(ΔVtc)は、−42V以上−36V以下である。
表2に示すように、感光体(B−1)〜(B−8)では、正孔輸送剤としてトリフェニルアミン誘導体(HT−3)、(HT−12)及び(HT−10)、並びに化合物(HT−21)の何れかを含有し、電子輸送剤としてキノン誘導体(ET−1)、(ET−8)、及び(ET−17)並びに化合物(ET−A)の何れかを含む。詳しくは、感光体(B−1)及び(B−6)〜(B−8)では、感光層は正孔輸送剤として化合物(HT−21)を含む。化合物(HT−21)は、一般式(1)で表されるトリフェニルアミン誘導体ではない。感光体(B−1)〜(B−5)では、電子輸送剤として化合物(ET−A)を含む。化合物(ET−A)は、一般式(2)で表されるキノン誘導体ではない。
表2に示すように、感光体(B−1)〜(B−8)では、感度電位(VL)は+142V以上+174V以下である。感光体(B−1)〜(B−8)では、転写メモリー電位の差(ΔVtc)は、−65V以上−45V以下である。
よって、感光体(A−1)〜(A−12)は、感光体(B−1)〜(B−8)に比べ、感度電位VLが小さく転写メモリーの電位の差ΔVtcの絶対値が小さいことが明らかである。以上から、本発明に係る感光体は、感度特性に優れ転写メモリーの発生を抑制することが明らかである。
表2に示すように、感光体(A−12)では、感光層は電子輸送剤としてキノン誘導体(ET−17)を含む。感度電位VLは+91Vであり、表面電位の差ΔV0は−52Vである。
表2に示すように、感光体(A−10)及び(A−11)では、感光層は電子輸送剤としてキノン誘導体(ET−1)又は(ET−8)を含む。感度電位VLはそれぞれ+98V及び+96Vであり、表面電位の差ΔV0はそれぞれ−68V及び−56Vである。
このような感光体(A−10)〜(A−12)の傾向は、感光体(A−1)〜(A−3)、(A−4)〜(A−6)、及び(A−7)〜(A−9)においても確認される。
以上から、キノン誘導体(ET−17)は、キノン誘導体(ET−1)及び(ET−8)に比べ、優れた帯電安定性及び感度特性を有することが明らかである。
表2に示すように、感光体(A−7)〜(A−12)では、正孔輸送剤としてトリフェニルアミン誘導体(HT−12)又は(HT−13)を含む。表面電位の差ΔV0は−68V以上−48V以下であり、感度電位ΔVLが+91V以上+108V以下である。
表2に示すように、感光体(A−1)〜(A−6)では、正孔輸送剤としてトリフェニルアミン誘導体(HT−3)又は(HT−10)を含む。表面電位の差ΔV0は−132V以上−96V以下であり、感度電位ΔVLが+112V以上+124V以下である。
以上から、正孔輸送剤としてのトリフェニルアミン誘導体(HT−12)又は(HT−13)を含む感光体(A−7)〜(A−12)は、正孔輸送剤としてのトリフェニルアミン誘導体(HT−3)又は(HT−10)を含む感光体(A−1)〜(A−6)に比べ、帯電安定性及び感度特性に優れることが明らかである。