以下に、本願発明を具体化した実施形態を、八条植え式の乗用型田植機1(以下、単に田植機1という)に適用した場合の図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、走行機体2の進行方向に向かって左側を単に左側と称し、同じく進行方向に向かって右側を単に右側と称する。
まず、図1〜図5を参照しながら、田植機1の概要について説明する。実施形態の田植機1は、走行部としての左右一対の前車輪3及び同じく左右一対の後車輪4によって支持された走行機体2を備えている。走行機体2の前部にはエンジン5が搭載されている。エンジン5からの動力を後方のミッションケース6に伝達して、前車輪3及び後車輪4を駆動させることにより、走行機体2が前後進走行するように構成されている。ミッションケース6の左右側方にフロントアクスルケース7を突出させ、フロントアクスルケース7から左右外向きに延びる前車軸36に前車輪3が舵取り可能に取り付けられている。ミッションケース6の後方に筒状フレーム8を突出させ、筒状フレーム8の後端側にリヤアクスルケース9を固設し、リヤアクスルケース9から左右外向きに延びる後車軸37に後車輪4が取り付けられている。
図1及び図2に示されるように、走行機体2の前部及び中央部の上面側には、オペレータ搭乗用の作業ステップ(車体カバー)10が設けられている。作業ステップ10の前部の上方にはフロントボンネット11が配置され、フロントボンネット11の内部にエンジン5を設置している。作業ステップ10の上面のうちフロントボンネット11の後部側方に、足踏み操作用の走行変速ペダル12が配置されている。詳細は省略するが、実施形態の田植機1は、走行変速ペダル12の踏み込み量に応じた変速電動モータの駆動にて、ミッションケース6の油圧無段変速機40から出力される変速動力を調節するように構成されている。
また、フロントボンネット11の後部上面側にある運転操作部13には、操縦ハンドル14と走行主変速レバー15と昇降操作具としての作業レバー16とが設けられている(図5参照)。作業ステップ10の上面のうちフロントボンネット11の後方には、シートフレーム17を介して操縦座席18が配置されている。なお、フロントボンネット11の左右側方には、作業ステップ10を挟んで左右の予備苗載台24が設けられている。
走行機体2の後端部にリンクフレーム19が立設されている。リンクフレーム19には、ロワーリンク20及びトップリンク21からなる昇降リンク機構22を介して、8条植え用の苗植付装置23が昇降可能に連結されている。この場合、苗植付装置23の前面側に、ローリング支点軸(図示省略)を介してヒッチブラケット38を設けている。昇降リンク機構22の後部側にヒッチブラケット38を連結することによって、走行機体2の後方に苗植付装置23を昇降動可能に配置している。筒状フレーム8の上面後部に、油圧式の昇降シリンダ39のシリンダ基端側を上下回動可能に支持させる。昇降シリンダ39のロッド先端側はロワーリンク20に連結している。昇降シリンダ39の伸縮動にて昇降リンク機構22を上下回動させる結果、苗植付装置23が昇降動する。なお、苗植付装置23は上記ローリング支点軸回りに回動して左右方向の傾斜姿勢を変更可能に構成している。
オペレータは、作業ステップ10の側方にある乗降ステップ25から作業ステップ10上に搭乗し、運転操作にて圃場内を移動しながら、苗植付装置23を駆動させて圃場に苗を植え付ける苗植え作業(田植え作業)を実行する。なお、苗植え作業中において、苗植付装置23には、予備苗載台24上の苗マットをオペレータが随時補給する。
図1及び図2に示すように、苗植付装置23は、エンジン5からミッションケース6を経由した動力が伝達される植付入力ケース26と、植付入力ケース26に連結する八条用四組(二条で一組)の植付伝動ケース27と、各植付伝動ケース27の後端側に設けられた苗植機構28と、八条植え用の苗載台29と、各植付伝動ケース27の下面側に配置された田面均平用のフロート32とを備えている。苗植機構28には、一条分二本の植付爪30を有する植付伝動ケース27が設けられている。植付伝動ケース27に二条分の植付伝動ケース27が配置されている。植付伝動ケース27の一回転によって、二本の植付爪30が各々一株ずつの苗を切り取ってつかみ、フロート32にて整地された田面に植え付ける。苗植付装置23の前面側には、圃場面を均す(整地する)整地ロータ85を昇降動可能に設けている。
詳細は後述するが、エンジン5からミッションケース6を経由した動力は、前車輪3及び後車輪4に伝達されるだけでなく、苗植付装置23の植付入力ケース26にも伝達される。この場合、ミッションケース6から苗植付装置23に向かう動力は、リヤアクスルケース9の右側上部に設けられた株間変速ケース75に一旦伝達され、株間変速ケース75から植付入力ケース26に動力伝達される。当該伝達された動力にて、各苗植機構28や苗載台29が駆動する。株間変速ケース75には、植え付けられる苗の株間を例えば疎植、標準植又は密植等に切り換える株間変速機構76と、苗植付装置23への動力伝達を継断する植付クラッチ77とが内蔵されている(図6参照)。
なお、苗植付装置23の左右外側にはサイドマーカ33を備えている。サイドマーカ33は、筋引き用のマーカ輪体34と、マーカ輪体34を回転可能に軸支するマーカアーム35とを有している。各マーカアーム35の基端側が苗植付装置23の左右外側に左右回動可能に軸支されている。サイドマーカ33は、運転操作部13にある作業レバー16の操作に基づき、次工程での基準となる軌跡を田面に着地して形成する作業姿勢と、マーカ輪体34を上昇させて田面から離間させた非作業姿勢とに回動可能に構成されている。
図3及び図4に示すように、走行機体2は前後に延びる左右一対の機体フレーム50を備えている。各機体フレーム50は前部フレーム51と後部フレーム52とに二分割されている。前部フレーム51の後端部と後部フレーム52の前端部とが左右横長の中間連結フレーム53に溶接固定されている。左右一対の前部フレーム51の前端部は前フレーム54に溶接固定されている。左右一対の後部フレーム52の後端側は後フレーム55に溶接固定されている。前フレーム54、左右両前部フレーム51及び中間連結フレーム53は平面視四角枠状に構成されている。同様に、中間連結フレーム53、左右両後部フレーム52及び後フレーム55も平面視四角枠状に構成されている。
図4に示すように、左右両前部フレーム51の前寄り部位は、前後二本のベースフレーム56によって連結されている。当該各ベースフレーム56の中間部は、左右両前部フレーム51よりも低く位置するようにU字形に折り曲げられた形状に形成されている。各ベースフレーム56の左右端部は、対応する前部フレーム51に溶接固定されている。略平板状のエンジン台57及び複数の防振ゴム(図示省略)を介して、前後両ベースフレーム56にエンジン5が搭載され防振支持されている。後側のベースフレーム56は、後中継ブラケット60を介してミッションケース6の前部に連結されている。
図4から分かるように、左右両前部フレーム51の後寄り部位は、ミッションケース6の左右両側に突出したフロントアクスルケース7に連結されている。中間連結フレーム53の中央側には、側面視で後斜め下向きに延びるU字状フレーム61の左右両端部が溶接固定されている。U字状フレーム61の中間部がミッションケース6とリヤアクスルケース9とをつなぐ筒状フレーム8の中途部に連結されている(図3及び図4参照)。後フレーム55の中間部には、左右二本の縦フレーム62の上端側が溶接固定されている。左右両縦フレーム62の下端側には左右横長のリヤアクスル支持フレーム63の中間部が溶接固定されている。リヤアクスル支持フレーム63の左右両端部がリヤアクスルケース9に連結されている。なお、左側の前部フレーム51に外向き突設されたステップ支持台64の下方に、エンジン5の排気音を低減させるマフラー65が配置されている。
図3及び図4に示すように、エンジン5の後方に配置されたミッションケース6の前部には、パワーステアリングユニット66が設けられている。詳細は省略するが、パワーステアリングユニット66の上面に立設されるハンドルポストの内部にハンドル軸が回動可能に配置される。ハンドル軸の上端側に操縦ハンドル14が固定されている。パワーステアリングユニット66の下面側には操舵出力軸(図示省略)が下向きに突出している。当該操舵出力軸には、左右の前車輪3を操舵する操舵杆68(図4参照)がそれぞれ連結されている。
実施形態のエンジン5は、出力軸70(クランク軸)を左右方向に向けて前後両ベースフレーム56の中間部上に配置されている。エンジン5及びエンジン台57の左右幅は左右両前部フレーム51間の内法寸法よりも小さく、エンジン5の下部側及びエンジン台57は、前後両ベースフレーム56の中間部上に配置された状態で、左右両前部フレーム51よりも下側に露出している。この場合、エンジン5の出力軸70(軸線)は、側面視で左右両前部フレーム51と重なる位置にある。エンジン5の左右一側面(実施形態では左側面)には、エンジン5の排気系に連通する排気管69が配置されている。排気管69の基端側がエンジン5の各気筒に接続され、排気管69の先端側がマフラー65の排気入口側に接続されている。
図5に示す運転操作部13において、走行主変速レバー15は、操縦ハンドル14を挟んだ左右一方側(実施形態では左側に位置している。運転操作部13に形成したガイド溝83に沿って走行主変速レバー15を操作することによって、田植機1の走行モードを前進、中立、後進、苗継及び移動の各モードに切り換えるように構成している。作業レバー16は、操縦ハンドル14を挟んだ左右他方側(実施形態では右側)に位置している。作業レバー16は、苗植付装置23の昇降操作、植付クラッチ77の継断操作及び左右サイドマーカ33の選択操作という複数の操作を単独で担うものであり、十字方向に操作可能に構成している。
この場合、作業レバー16を一回前傾操作すると苗植付装置23が下降し、もう一回前傾操作すると植付クラッチ77が入り作動する(動力接続状態になる)。逆に、作業レバー16を一回後傾操作すると植付クラッチ77が切り作動し(動力遮断状態になり)、もう一回後傾操作すると苗植付装置23が上昇する。苗植付装置23の昇降動作を取り止める場合は、作業レバー16を逆方向に傾動操作する。例えば苗植付装置23の下降動を途中で停止させる場合は作業レバー16を後傾操作すればよい。作業レバー16を一回左へ傾動操作すると左側のサイドマーカ33が作業姿勢となり、もう一回左へ傾動操作すると左側のサイドマーカ33が非作業姿勢に戻る。作業レバー16を一回右へ傾動操作すると右側のサイドマーカ33が作業姿勢となり、もう一回右へ傾動操作すると右側のサイドマーカ33が非作業姿勢に戻る。
次に、図6を参照しながら、田植機1の駆動系統について説明する。エンジン5の出力軸70はエンジン5の左右両側面から外向きに突出している。出力軸70のうちエンジン5左側面から突出した突端部にエンジン出力プーリ72を設け、ミッションケース6から左外側に突出したミッション入力軸71にミッション入力プーリ73を設け、両プーリ72,73に伝達ベルトを巻き掛けている。両プーリ72,73及び伝達ベルトを介して、エンジン5からミッションケース6に動力伝達する。
ミッションケース6内には、油圧ポンプ40a及び油圧モータ40bからなる油圧無段変速機40、遊星歯車装置41、油圧無段変速機40及び遊星歯車装置41を経由した変速動力を複数段に変速する歯車式副変速機構42、遊星歯車装置41から歯車式副変速機構42への動力伝達を継断する主クラッチ43、並びに、歯車式副変速機構42からの出力を制動させる走行ブレーキ44等を備えている。ミッション入力軸71からの動力で油圧ポンプ40aを駆動させ、油圧ポンプ40aから油圧モータ40bに作動油を供給し、油圧モータ40bから変速動力が出力される。油圧モータ40bの変速動力は、遊星歯車装置41及び主クラッチ43を介して歯車式副変速機構42に伝達される。そして、歯車式副変速機構42から、前後車輪3,4と苗植付装置23との二方向に分岐して動力伝達される。
前後車輪3,4に向かう分岐動力の一部は、歯車式副変速機構42から差動歯車機構45を介して、フロントアクスルケース7の前車軸36に伝達され、左右前車輪3を回転駆動させる。前後車輪3,4に向かう分岐動力の残りは、歯車式副変速機構42から、自在継手軸46、リヤアクスルケース9内のリヤ駆動軸47、左右一対の摩擦クラッチ48及び歯車式減速機構49を介して、リヤアクスルケース9の後車軸37に伝達され、左右後車輪4を回転駆動させる。走行ブレーキ44を作動させた場合は、歯車式副変速機構42からの出力がなくなるので、前後車輪3,4共にブレーキがかかる。また、田植機1を旋回させる場合は、リヤアクスルケース9内の旋回内側の摩擦クラッチ48を切り作動させて旋回内側の後車輪4を自由回転させ、動力伝達される旋回外側の後車輪4の回転駆動によって旋回する。
リヤアクスルケース9内には、整地ロータ85への動力継断用の整地ロータクラッチを有するロータ駆動ユニット86を備えている。歯車式副変速機構42から自在継手軸46に伝達された動力はロータ駆動ユニット86にも分岐して伝達され、ロータ駆動ユニット86から自在継手軸87を介して整地ロータ85に動力伝達される。整地ロータ85の回転駆動によって圃場面が均される。
苗植付装置23に向かう分岐動力は、自在継手軸付きのPTO伝動軸機構74を介して株間変速ケース75に伝達される。株間変速ケース75内には、植え付けられる苗の株間を例えば疎植、標準植又は密植等に切り換える株間変速機構76と、苗植付装置23への動力伝達を継断する植付クラッチ77とを備えている。株間変速ケース75に伝達された動力は、株間変速機構76、植付クラッチ77及び自在継手軸78を介して植付入力ケース26に伝達される。
植付入力ケース26内には、苗載台29を横送り移動させる苗台横送り機構79と、苗載台29上の苗マットを縦送り搬送させる苗縦送り機構80と、植付入力ケース26から各植付伝動ケース27に動力伝達する植付出力軸81とを備えている。植付入力ケース26に伝達された動力によって、苗台横送り機構79及び苗縦送り機構80が駆動し、苗載台29を連続的に往復で横送り移動させ、苗載台29が往復移動端(往復移動の折返し点)に到達したときに苗載台29上の苗マットを間欠的に縦送り搬送する。植付入力ケース26から植付出力軸81を経由した動力は各植付伝動ケース27に伝達され、各植付伝動ケース27の植付伝動ケース27並びに植付爪30を回転駆動させる。なお、施肥装置を設ける場合は株間変速ケース75から施肥装置に動力伝達される。
次に、図7を参照しながら、田植機1の油圧回路構造について説明する。田植機1の油圧回路90には、油圧無段変速機40の構成要素である油圧ポンプ40a及び油圧モータ40bと、チャージポンプ91及び作業ポンプ92とを備える。油圧ポンプ40a、チャージポンプ91及び作業ポンプ92がエンジン5の動力によって駆動する。油圧ポンプ40aと油圧モータ40bとは、閉ループ油路93を介してそれぞれの吸入側及び吐出側に接続している。チャージポンプ91を閉ループ油路93に接続している。走行変速ペダル12の踏み込み量に応じた変速電動モータの駆動によって、油圧ポンプ40aの斜板角度を調節し、油圧モータ40bを正転又は逆転駆動させるように構成している。
作業ポンプ91は、操縦ハンドル14の操作を補助するパワーステアリングユニット66に接続している。パワーステアリングユニット66は、操向油圧切換弁94及び操向油圧モータ95を備えている。操縦ハンドル14の操作によって操向油圧切換弁94を切換作動させて操向油圧モータ95を駆動させ、操縦ハンドル14の操作を補助する。その結果、左右前車輪3を小さい操作力で簡単に操舵できる。
パワーステアリングユニット66はフローデバイダ96に接続している。フローデバイダ96は第一油路97と第二油路98とに分岐している。第一油路97は、昇降シリンダ39に作動油を供給する昇降切換弁99に接続している。昇降切換弁99は、昇降シリンダ39に作動油を供給する供給位置99aと、昇降シリンダ39から作動油を排出する排出位置99bとの二位置に切換可能な四ポート二位置切換形の機械式切換弁である。作業レバー16の操作で昇降切換弁99を切換作動させて昇降シリンダ39を伸縮動させることによって、昇降リンク機構22を介して苗植付装置23が昇降動する。なお、フローデバイダ96や昇降切換弁99は、ミッションケース6後部に設けたバルブユニット89内に収容している。
昇降切換弁99から昇降シリンダ39に至るシリンダ油路100中に電磁開閉弁101を設けている。電磁開閉弁101は、昇降シリンダ39に対して作動油を給排する開位置101aと、昇降シリンダ39に対する作動油の給排を停止する閉位置101bとの二位置に切換可能な電磁制御弁である。従って、電磁ソレノイド102を励磁して電磁開閉弁101を開位置101aにすると、昇降シリンダ39は伸縮動可能になり、苗植付装置23が昇降動可能になる。電磁ソレノイド102を非励磁にして戻しバネ103によって電磁開閉弁101を閉位置101bにすると、昇降シリンダ39は伸縮動不能に保持され、苗植付装置23が任意の高さ位置で昇降停止する。
なお、シリンダ油路100のうち電磁開閉弁101と昇降シリンダ39との間には、アキュムレータ油路104を介してアキュムレータ105を接続している。昇降シリンダ39内の急激な作動油圧変動の際は、アキュムレータ105によって作動油圧変動を吸収し、昇降切換弁99及び電磁開閉弁101の組合せによって、昇降シリンダ39をスムーズに伸縮動させ、苗植付装置23を軽快に昇降動させる。
フローデバイダ96の第二油路98は、苗植付装置23の左右傾斜姿勢を制御するローリング制御ユニット106に接続している。ローリング制御ユニット106には、ローリングシリンダ108に作動油を供給する電磁制御弁107を内蔵している。電磁制御弁107の切換作動によって、ローリング制御ユニット106に一体的に設けたローリングシリンダ108を作動させる結果、苗植付装置23が水平姿勢に保持される。なお、田植機1の油圧回路90は、リリーフ弁や流量調整弁、チェック弁、オイルフィルタ等も備えている。
次に、図8から図11を参照して、苗植付装置23の構成について説明する。苗植付装置23は、八条用四組の植付伝動ケース27の前端間を連結する、左右方向に延設された植付フレーム111を備えている。植付フレーム111の中央部に植付入力ケース26が取り付けられている。植付入力ケース26は、苗載台29の左右方向の横送りを行う苗台横送り機構79の横送り軸と、苗載台29上の苗の縦送りを行う苗縦送り機構80の縦送り駆動軸80aと、苗植機構28の植付出力軸81を回転させる。
植付伝動ケース27の前端部下側に植深さ調節軸121が回動自在に枢支されている。植深さ調節軸121に、各フロート32a,32b後端部上面に配置されたブラケット113a,113bが植深さ調節リンク114a,114bを介して連結されている。また、植深さ調節軸121に、基準植付深さの調節を行う植深さ調節部材122の基端部が固着されている。植深さ調節部材122は、後述する植深さ調節アクチュエータ機構によって植深さ調節軸121を回動支点として回動されて位置調節される。植深さ調節部材122が位置調節されることにより、植深さ調節軸121及び植深さ調節リンク114a,114bを介してブラケット113a,113bの高さ位置、ひいてはフロート32a,32bが所望の植深さ設定高さに配置される。これにより、圃場に所望の植付深さで苗が植え付けられる。センターフロート32aの前端部に昇降センサ115のセンシングアームが取り付けられている。昇降センサ115はフロート傾斜角度(植付深さ)の変化を検出する。なお、サイドフロート32bの前端部に、サイドフロート32b前端部の上下移動範囲を規制するフロート融通機構116が取り付けられている。
また、苗植付装置23には、図12に示されるように、苗載台29下端の苗取出板131を上下動させて苗取量を調節する苗取調節具132が設けられている。苗取調節具132は、植付伝動ケース27にボルト締結されたガイド部材133に上下動自在に支持されたガイドロッド134上部に固着されている。左右方向に延設された苗取調節軸136に苗取調節カム135の基端部が固着されている。苗取調節カム135の先端部は苗取調節具132に挿入されている。また、苗取調節軸136に苗取調節部材137の基端部が固着されている。後述する苗取調節アクチュエータ機構によって苗取調節部材137が位置調節されることによって、苗取調節軸136及び苗取調節カム135を介して苗取出板131、苗取調節具132及びガイドロッド134が上下移動されて、植付爪30が取り出す1株分の苗量の調節が行われる。苗取調節軸136は、植付伝動ケース27上部に固設する各軸受板に回動自在に支持される。
次に、ローリング制御装置109について説明する。図8に示されるように、ヒッチブラケット38下端部は、植付フレーム111略中央に固設された支点部材141にローリング支点軸142を介して回動自在に連結されている。ヒッチブラケット38上端側に設けられた取付座143に油圧ローリングシリンダ108が取り付けられている。シリンダ108のピストンロッド145先端は、左右方向に延伸されたローリングアーム146に取り付けられた固定ブラケット147に連結されている。ローリングアーム146の両端は、植付フレーム111両端部にそれぞれ立設された苗載台サイドフレーム157,157の途中部に固定されている。シリンダ108に、複動型のシリンダ108を往復駆動するローリング制御ユニット106が一体的に設けられている。取付座143上面に固設された受板148と、苗載台29裏側面の上部ガイドレール151にガイドレール151中央を挟んで設けられた一対のバネフックとの間に、ローリング補正バネ149が張設されている。振子型ローリングセンサ(図示は省略)が苗植付装置23の傾斜を検出するとき、シリンダ108のピストンロッド145を進退制御してローリング支点軸142回りに苗植付装置23を左右に揺動させて苗植付装置23の水平保持を図るように構成されている。
また、植付入力ケース26には苗台横送り機構79と苗縦送り機構80が接続されている。苗台横送り機構79の送り体79aは苗載台29の裏面下部側に連結されており、上部ガイドレール151及び下部ガイドレール152に沿った左右幅方向に苗載台29を横送り移動させる。このため、苗載台29上の苗マットは連続的に往復で横送り搬送される。両苗載台サイドフレーム157,157の上端部に、左右方向に延設された苗載台横フレーム158の左右端部がそれぞれ固定されている。苗載台横フレーム158に端寄せ検出センサ159が取り付けられている。端寄せ検出センサ159は、苗載台29が左右一方の移動端まで到達したか否かを検出する端寄せ検出手段としての接触式のセンサである。
端寄せ検出センサ159は上向きに延びる感知体159aを有している。感知体159aが上部ガイドレール151に固着されたL字状の当接アーム160に接触して弾性に抗して逃げ回動すると、端寄せ検出センサ159が入り作動して、左右一方の移動端への苗載台29の到達が検出される。苗載台29の左右他方への横送り移動にて当接アーム160が感知体159aから離れると、感知体159aが弾性復原力にて戻り回動し、端寄せ検出センサ67が切り作動する。この実施形態では、端寄せ検出センサ159は苗載台横フレーム158の右寄り部位に配置され、当接アーム160は端寄せ検出センサ159よりも右側方の位置で上部ガイドレール151の右寄り部位に配置されている。端寄せ検出センサ159の感知体159aに当接アーム160が接触した状態では、苗載台29が走行機体2左外側にはみ出すことになる。
一方、苗縦送り機構80の縦送り駆動軸80aには一対の縦送り駆動カム80bが固着されている。苗載台29が往復移動端(往復移動の折返し点)に到達すると、縦送り駆動軸80aによって各縦送り駆動カム80bが回転駆動される。このとき、駆動カム80bは従動カム153に当接され、これによって苗縦送りベルト155が駆動され、苗載台29上の苗マットが間欠的に縦送り搬送される。連動ワイヤ156を介して、苗取調節軸136に固着された苗取連動カム138と縦送りローラ軸154に取り付けられた従動カム153を連結させ、苗取量の変化に対応させて苗縦送り量も変化させて、苗取量に応じた適正な苗縦送りを行う。
次に、図13から図20を参照しながら、植深さ調節アクチュエータ機構と苗取調節アクチュエータ機構を有する調節アクチュエータ機構群の構成について説明する。調節アクチュエータ機構群161は、植深さ調節アクチュエータ機構171と苗取調節アクチュエータ機構181とアクチュエータ機構カバー162を備えている。調節アクチュエータ機構群161はローリング支点軸142よりも左側方位置で植付フレーム111に取り付けられている。調節アクチュエータ機構群161において調節アクチュエータ機構171,181は左右方向に隣り合って配置されている。苗取調節アクチュエータ機構181は、植深さ調節アクチュエータ機構171よりも走行機体2中央側に配置されている。
植深さ調節アクチュエータ機構171と苗取調節アクチュエータ機構181は基本的に同様の構成を有している。調節アクチュエータ機構171,181は、送りねじ172,182と、滑り子173,183(摺動子)と、電動モータ174,184と、送りねじ上部支持部材175,185と、送りねじ下部支持部材176,186を備えている。電動モータ174,184によって送りねじ172,182が回転されることにより、送りねじ172,182上で滑り子173,183が直線運動される。送りねじ上部支持部材175,185は送りねじ172,182の上端側(電動モータ側)を回転自在に支持する。送りねじ下部支持部材176,186は送りねじ172,182の下端部を回転自在に支持する。なお、調節アクチュエータ機構171,181は、電動モータ174,184に替えて、送りねじ172,182を回転させる油圧モータを備えた構成であってもよい。
アクチュエータ機構カバー162は、モータカバー部材163と送りねじカバー部材164とカバーリブ部材165を備えている。送りねじカバー部材164は、前低後高に配置される上面164aと、後下端部が植付フレーム111上面にボルト締結される左側面164bと、後下端部が植付入力ケース26左側面にボルト締結される右側面164cを備えている。上面164aの裏面側に、調節アクチュエータ機構171,181の送りねじ172,182、滑り子173,183、送りねじ上部支持部材175,185及び送りねじ下部支持部材176,186が配置される。上面164a裏面の上端部に送りねじ上部支持部材175,185がボルト締結され、上面164a裏面の下端部に送りねじ下部支持部材176,186がボルト締結されている。上面164aには、送りねじ172に沿って開口された滑り子回転防止溝164dと、送りねじ182に沿って開口された滑り子回転防止溝164eが形成されている。滑り子回転防止溝164d,164eに滑り子173,183の回転防止突起部173a,183aが挿入されている。
モータカバー部材163は、電動モータ174,184を覆うように、その前面下端部が送りねじカバー部材164の上面164a上端側にボルト締結されている。カバーリブ部材165は、その前端部が送りねじ下部支持部材176,186固定位置の間で送りねじカバー部材164の上面164aの裏面下端部に溶接固着され、後端部が植付フレーム111前面にボルト締結されている。
図17及び図18を参照しながら、植深さ調節アクチュエータ機構171の動作について説明する。植深さ調節アクチュエータ機構171の滑り子173に、前述の植深さ調節部材122が融通機構を介して連結されている。基端部が植深さ調節軸121に固着された植深さ調節部材122の先端部は、植付フレーム111の上方側で植深さ調節アクチュエータ機構171右方近傍に配置されている。植深さ調節部材122の先端部に前下方へ延伸する棒状部材123の基端部が取り付けられている。棒状部材123の先端部に、植深さ調節アクチュエータ機構171側へ突設されたピン部材124が取り付けられている。一方、滑り子173には、ピン部材124の先端部が係合される溝を有する係合部材173bが取り付けられている。このようにして、植深さ調節アクチュエータ機構171の滑り子173と植深さ調節部材122は連結されている。
植深さ調節アクチュエータ機構171は、運転操作部13に配置された植深さ調節ダイヤル177(図5参照)によって調節される設定植付深さに応じて、電動モータ174の駆動によって送りねじ172を回転させて滑り子173を移動させる。滑り子173の位置は、例えば、送りねじカバー部材164の左側面164bに取り付けられた昇降検出センサとしての植深さセンサ178(ここではポテンショメータ)によって検出される。滑り子173とともに係合部材173bが移動されると、ピン部材124及び棒状部材123を介して植深さ調節部材122が植深さ調節軸121を回動支点として回転されて位置調節される。植深さ調節軸121の回転によって植深さ調節軸121及び前述の植深さ調節リンク114a,114bが回転され、フロート32が、植深さ調節ダイヤル177によって設定された設定植付深さに応じた設定植付深さ位置に配置される。
図19及び図20を参照しながら、苗取調節アクチュエータ機構181の動作について説明する。苗取調節アクチュエータ機構181の滑り子183に、前述の苗取調節部材137が融通機構を介して連結されている。苗取調節部材137に、前方へ延設された連結部材139の基端部が取り付けられている。連結部材139の先端部は、植付フレーム111よりも上方側で苗取調節アクチュエータ機構181左方近傍に配置されている。連結部材139の先端部に連結部材139の長手方向に沿った長穴139aが形成されている。一方、滑り子183には、長穴139aに挿入される係合ピン部材183bがピン支持部材183cを介して設けられている。連結部材139の長穴139aに係合ピン部材183bが挿入されることによって、苗取調節アクチュエータ機構181の滑り子183と苗取調節部材137は連結されている。
苗取調節アクチュエータ機構181は、運転操作部13に配置された苗取量調節ダイヤル187(図5参照)によって調節される設定苗取量に応じて、電動モータ184の駆動によって送りねじ182を回転させて滑り子183を移動させる。滑り子183とともに係合ピン部材183bが移動されると、連結部材139を介して苗取調節部材137が苗取調節軸136を回動支点として回転されて位置調節される。苗取調節部材137の回転によって苗取調節軸136を介して苗取調節カム135が回転され、苗取出板131が、苗取量調節ダイヤル187によって設定された設定苗取量に応じた設定苗取量位置に配置される。なお、滑り子183の位置は、例えば、基端部が苗取調節軸136に固着された検出用棒状部材188の先端部の位置を、植付フレーム111にセンサブラケット189を介して取り付けられた苗取出板センサ190(ここではポテンショメータ)が検出することよって検出される。
以上のように、実施形態の田植機1は、植深さ調節部材122を位置調節する植深さ調節アクチュエータ機構171と、苗取調節部材137を位置調節する苗取調節アクチュエータ機構181を備えているので、オペレータは各調節アクチュエータ機構171,181を作動させることによって苗取調節と植深さ調節を簡便に行うことができる。さらに、植深さ調節アクチュエータ機構171と苗取調節アクチュエータ機構181は隣り合って配置されているので、両調節アクチュエータ機構171,181の維持管理を同時にでき、メンテナンス性が向上する。また、例えばカバー等の調節アクチュエータ機構保護部材を配置する場合に、1つの保護部材で両調節アクチュエータ機構171,181を保護でき、調節アクチュエータ機構171,181ごとに保護部材を配置する場合に比べて、製造コストの低減やメンテナンス性の向上を図ることができる。
また、田植機1において、調節アクチュエータ機構171,181は、送りねじ172,182と、送りねじ172,182の回転によって直線運動される滑り子173,183を備えている。そして、調節アクチュエータ機構171,181は、滑り子173,183を移動させることによって、苗植付装置23に横長に配置された調節軸121,136を回動支点として調節部材122,137を円弧運動させる。これにより、簡単な構成で調節部材122,137を円弧運動させることができる。そして、複雑なリンク機構が不要なので、設置スペースや機能信頼性の観点から有利である。
さらに、滑り子173,183と調節部材122,137は融通機構によって連結されているので、滑り子173,183の移動による位置変化に対応しつつ、簡単な構造で滑り子173,183と調節部材122,137の連結が実現されている。なお、本願発明において、摺動子(滑り子)と調節部材は融通機構以外の連結機構によって連結されていてもよい。
また、図18に示すように、植深さ調節アクチュエータ機構171の滑り子173の直線運動方向は、植深さ調節部材122(ピン部材124)の円弧運動方向に対する接線方向、例えば植深さ調節部材122の円弧運動軌道上の中央部位置における接線方向と平行に配置されている。これにより、植深さ調節部材122を効率が良い方向で操作でき、植深さ調節部材122に対する操作力を低く抑えることができる。なお、苗取調節アクチュエータ機構181においても同様に、滑り子183の直線運動方向が、苗取調節部材137の円弧運動方向に対する接線方向、例えば苗取調節部材137の円弧運動軌道上の中央部位置における接線方向と平行に配置されているようにしてもよい。また、滑り子173,183と調節部材122,137を連結する融通機構は上記実施形態に示されたものに限定されない。例えば、滑り子173と植深さ調節部材122は、滑り子183と苗取調節部材137を連結する融通機構と同様の構成で連結されていてもよいし、また、滑り子183と苗取調節部材137は、滑り子173と植深さ調節部材122を連結する融通機構と同様の構成で連結されていてもよい。
また、実施形態の田植機1は、調節アクチュエータ機構171,181を覆うアクチュエータ機構カバー162を備えているので、両調節アクチュエータ機構171,181を泥水等から保護できる。ここで、調節アクチュエータ機構171,181は隣り合って配置されており、アクチュエータ機構カバー162は両調節アクチュエータ機構171,181を覆っている。このように共通のカバー162で両調節アクチュエータ機構171,181が覆われている構成は、調節アクチュエータ機構171,181が別々のカバー部材で覆われている構成に比べて、コスト低減やメンテナンス性向上を図ることができる。
また、実施形態の田植機1において、調節アクチュエータ機構171,181は、図2、図8及び図9に示すように、後車輪4の軌跡上から離れた位置に配置されており、また、側方視で後車輪4と苗載台29とフロート32で囲まれる空間内に配置されている。このように、泥水等の飛散や外部からの干渉が少ない位置に調節アクチュエータ機構171,181が配置されており、調節アクチュエータ機構171,181への泥水等の付着低減や外部からの干渉抑制を実現できる。
また、実施形態の田植機1において、調節アクチュエータ機構171,181と、苗台横送り機構79は、図9に示すように、ローリング制御装置109のローリング支点軸142に対して左右に振分け配置されているので、苗植付装置23の左右バランス、ひいては田植機1全体の左右バランスを良好とさせて、安定した走行及び高精度なローリング制御を実現できる。
上述のように、苗取調節アクチュエータ機構181は、苗取量調節ダイヤル187によって調節される設定苗取量(苗取出板131の目標位置)に応じて、電動モータ184の駆動によって送りねじ182を回転させて滑り子183を移動させ、ひいては苗取出板131を昇降させる。また、植深さ調節アクチュエータ機構171は、植深さ調節ダイヤル177によって調節される苗の設定植付深さ(フロート32の目標位置)に応じて、電動モータ174の駆動によって送りねじ172を回転させて滑り子173を移動させ、ひいてはフロート32(32a,32b)を昇降させる。
図21に示すように、苗取調節アクチュエータ機構181の電動モータ184と植深さ調節アクチュエータ機構171の電動モータ174は、苗取調節制御部201と植深さ調節制御部207を備えた制御部200によって駆動制御される。制御部200は、例えば、各種演算処理や制御を実行するCPU(Central Processing Unit)や、制御プログラムや各種データを記憶したROM(Read Only Memory)、制御プログラムや各種データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、入力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータであり、田植機1の全体制御を行う。
制御部200には、調節ダイヤル177,187、植深さセンサ178,苗取出板センサ190、不感帯調節器202,208、端寄せ検出センサ159、調節アクチュエータ機構171,181の電動モータ174,184等が電気的に接続されている。不感帯調節器202,208は後述する制御上の不感帯の幅などを変更する際に使用されるものである。なお、図21は苗取調節制御と植深さ調節制御に関する概略的な機能ブロック図であり、図示は省略されているが制御部200には他にも各種センサや駆動装置等が電気的に接続されている。
図22は、苗取調節における制御上の不感帯の一実施形態を説明するための概念図である。昇降検出センサとしての苗取出板センサ190は、検出用棒状部材188の先端部の位置、ひいては苗取出板131や苗取調節部材137の位置などを検出する。また、苗取調節部材137には連結部材139を介して滑り子183が連結されている。ここでは、便宜上、滑り子183の位置を用いて苗取調節における制御上の不感帯を説明する。なお、図22においては、説明をわかりやすくするために、便宜上、不感帯幅が大きく図示されている。
苗取出板センサ190の検出範囲内には、苗取出板131の目標位置に対応した昇降目標値203に対する制御上の不感帯204が設定される。不感帯204の中央値204cは昇降目標値203に対してずらして設定される。不感帯204の上昇側境界値204u又は下降側境界値204dが昇降目標値203に近く(不感帯204の下降側境界値204d又は上昇側境界値204uが昇降目標値203から遠くなる)なるように、苗取出板センサ190の不感帯204が設定可能になっている。つまり、昇降目標値203を挟んだ両側に割り振られた不感帯204の割り付け幅W204a,W204bをそれぞれ異なる幅に設定可能になっている。
図22の実施形態では、上昇側境界値204uが昇降目標値203に近く下降側境界値204dが昇降目標値203から遠くなるように、不感帯204を設定している。不感帯204の第1割り付け幅W204aは第2割り付け幅204bよりも狭くなっている。不感帯204の中央値204cは第2割り付け幅W204b側に位置している。
上記の設定では、苗取量を減少させる(1株分の苗量を少なくする)べく苗取出板131を上昇させる場合、上昇側境界値204uが昇降目標値203に近いため、苗取出板センサ190ができるだけ昇降目標値203に近いところまで検出できることになる。例えば苗マットを載せた状態の苗取出板131を上昇させるような状態では、荷重の影響で苗取出板131が上昇動し難いのを見越した上で、苗取出板131が目標位置に極力に近づくまで苗取調節アクチュエータ機構181の電動モータ184を駆動させ、目標位置まで苗取出板131を上昇させることができる。
逆に、苗取量を増加させるべく苗取出板131を下降させる場合、下降側境界値204dが昇降目標値203から遠いため、苗取調節アクチュエータ機構181の電動モータ184が目標位置に対して早めに駆動停止するが、例えば苗マットを載せた状態の苗取出板131を下降させるような状態では、荷重の影響で苗取出板131のスムーズに下降するため、下降側境界値204dが昇降目標値203まで遠くても、目標位置まで苗取出板131を下降させることができる。
従って、苗取出板131の上昇時(1株分の苗量を少なくする)及び下降時(1株分の苗量を多くする)の両方において、不感帯204の割り付け幅が上昇側と下降側で均等である場合に比べて、機械的なガタや撓み、制御上のヒステリシスなどによる悪影響を低減でき、従来手動操作時のようなオーバーシュート操作をしなくても、苗取出板131の適切且つ高精度な位置調節、ひいては適切な苗取量の調節が可能となる。
図23は、制御上の不感帯の他の実施形態を説明するための概念図である。図23に示す実施形態では、上昇側境界値204uが昇降目標値203から遠く下降側境界値204dが昇降目標値203に近くなるように、不感帯204を設定している。不感帯204の第1割り付け幅W204aは第2割り付け幅204bよりも広くなっている。不感帯204の中央値204cは第1割り付け幅W204a側に位置している。このように、図22の実施形態とは逆に、昇降目標値203に対して不感帯204を割り付けることも可能である。また、不感帯204の幅(上昇側境界値204uから下降側境界値204dまでの幅)自体を長くしたり短くしたりと変更することも可能である。例えば苗取不感帯調節器202(図21参照)を用いて、不感帯204の幅や、第1及び第2割り付け幅W204a,W204bを変更する構成も可能である。
また、苗取不感帯調節器202(図21参照)を用いて、不感帯204(図22参照)や不感帯205,206の幅や昇降目標値203に対する中央値の位置(割り付け幅)を変更可能にしてもよい。苗取不感帯調節器202は、例えば、苗取量調節ダイヤル187と同様の構造のものであってもよいし、苗取調節制御部201(制御部200)に予め記憶された複数の不感帯情報を選択可能なものであってもよい。オペレータは苗取不感帯調節器202を操作することによって苗取調節制御の不感帯を任意に設定でき、所望の苗取出量(1株分の苗量)を設定しやすくなる。
なお、図22、図23に示された不感帯204は一例であり、割り付け幅W204aと204bの大小関係は図22、図23に示されたものに限定されない。
また、植深さ調節について、苗取調節と同様に、苗の植付深さを調節するフロート32の昇降目標値に対して制御上の不感帯を設け、該不感帯の中央値が昇降目標値(フロート32の目標位置)に対してずらして設定される。この場合、植深さ調節アクチュエータ機構171、植深さ調節ダイヤル177、植深さセンサ178、植深さ調節制御部207、植深さ不感帯調節器208等を用いて、フロート32の目標位置に対して制御上の不感帯が設定される。また、これらの不感帯の変更は植深さ不感帯調節器208を用いて任意に行われてもよい。
また、この実施形態では、被調節体としてのフロート32や苗取出板131の目標位置を設定する位置設定器としてボリューム式の調節ダイヤル177,187が用いられているが、本願発明の田植機において、位置設定器はボリューム式のものに限定されない。該位置設定器は、被調節体の目標位置を設定可能なものであればよく、例えば数値を入力する入力装置など、どのような構成のものであってもよい。また、植深さセンサ178,苗取出板センサ190はポテンショメータに限定されず、被調節体の位置を検出可能なものであれば、どのような昇降検出センサであってもよい。
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。