次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本開示の動力伝達装置20を示す概略構成図である。同図に示す動力伝達装置20は、前輪駆動車両に搭載される図示しないエンジンのクランクシャフトに接続されると共にエンジンからの動力を図示しない左右の駆動輪DW(前輪)に伝達可能なものである。図示するように、動力伝達装置20は、トランスミッションケース22や、発進装置(流体伝動装置)23、オイルポンプ24、トランスミッションケース22内に収容される自動変速機25、ギヤ機構(ギヤ列)40、デファレンシャルギヤ(差動機構)50等を含む。
トランスミッションケース22は、ハウジング221や、当該ハウジング221に締結(固定)されるトランスアクスルケース222に加えて、ハウジング221とトランスアクスルケース222との間に位置するように当該トランスアクスルケース222に締結(固定)されるフロントサポート223、およびトランスアクスルケース222に締結(固定)されるセンターサポート224を含む。本実施形態において、ハウジング221、トランスアクスルケース222、およびセンターサポート224は、例えばアルミニウム合金により形成され、フロントサポート223は、鋼材(鉄合金)またはアルミニウム合金により形成される。
発進装置23は、図示しないドライブプレート等を介してエンジンのクランクシャフトおよび/または電気モータのロータに連結されるフロントカバーや、当該フロントカバーに密に固定されるポンプシェルを有する入力側のポンプインペラ23p、自動変速機25の入力軸26に連結される出力側のタービンランナ23t、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23tの内側に配置されてタービンランナ23tからポンプインペラ23pへの作動油の流れを整流するステータ23s、図示しないステータシャフトより支持されると共にステータ23sの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ23o等を含む。ポンプインペラ23p、タービンランナ23tおよびステータ23sは、トルク増幅作用を有するトルクコンバータを構成する。
更に、発進装置23は、フロントカバーと自動変速機25の入力軸26とを互いに接続すると共に両者の接続を解除するロックアップクラッチ23cと、フロントカバーと自動変速機25の入力軸26との間で振動を減衰するダンパ装置23dとを含む。本実施形態において、ロックアップクラッチ23cは、複数の摩擦係合プレート(摩擦プレートおよびセパレータプレート)を有する多板摩擦式油圧クラッチとして構成される。ただし、ロックアップクラッチ23cは、単板摩擦式油圧クラッチであってもよい。また、発進装置23は、ステータ23sを有さない流体継手を含むものであってもよい。
オイルポンプ24は、巻掛け伝動機構240を介して発進装置23のポンプインペラ23pに連結される外歯ギヤ(インナーロータ)241、当該外歯ギヤに噛合する内歯ギヤ(アウターロータ)242、外歯ギヤ241および内歯ギヤ242を収容する図示しないギヤ室を画成するポンプボディおよびポンプカバー(何れも図示省略)等を有するギヤポンプとして構成され、自動変速機25の入力軸26とは別軸上に配置される。オイルポンプ24は、巻掛け伝動機構240を介してエンジンからの動力により駆動され、トランスアクスルケース222の底部に設けられた作動油貯留室65(図3参照)に貯留されている作動油(ATF)を吸引して図示しない油圧制御装置へと圧送する。巻掛け伝動機構240は、発進装置23のポンプインペラ23pと一体に回転するドライブスプロケットや、オイルポンプ24の外歯ギヤと一体に回転するドリブンスプロケット、ドライブスプロケットおよびドリブンスプロケットに巻掛けられるチェーンを含む。
自動変速機25は、8段変速式の変速機として構成されており、図1に示すように、ダブルピニオン式の第1遊星歯車機構30と、ラビニヨ式の第2遊星歯車機構35と、入力側から出力側までの動力伝達経路を変更するための4つのクラッチC1,C2,C3およびC4、2つのブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1とを含む。
第1遊星歯車機構30は、外歯歯車であるサンギヤ(固定要素)31と、このサンギヤ31と同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ32と、互いに噛合すると共に一方がサンギヤ31に、他方がリングギヤ32に噛合する2つのピニオンギヤ33a,33bの組を自転自在(回転自在)かつ公転自在に複数保持するプラネタリキャリヤ34とを有する。図示するように、第1遊星歯車機構30のサンギヤ31は、フロントサポート223を介してトランスミッションケース22に対して回転不能に連結(固定)されており、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34は、入力軸26に一体回転可能に接続されている。また、第1遊星歯車機構30は、いわゆる減速ギヤとして構成されており、入力要素であるプラネタリキャリヤ34に伝達された動力を減速して出力要素であるリングギヤ32から出力する。
第2遊星歯車機構35は、外歯歯車である第1サンギヤ36aおよび第2サンギヤ36bと、第1および第2サンギヤ36a,36bと同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ37と、第1サンギヤ36aに噛合する複数のショートピニオンギヤ38aと、第2サンギヤ36bおよび複数のショートピニオンギヤ38aに噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のロングピニオンギヤ38bと、複数のショートピニオンギヤ38aおよび複数のロングピニオンギヤ38bを自転自在(回転自在)かつ公転自在に保持するプラネタリキャリヤ39とを有する。第2遊星歯車機構35のリングギヤ37は、自動変速機25の出力部材として機能し、入力軸26からリングギヤ37に伝達された動力は、ギヤ機構40、デファレンシャルギヤ50およびドライブシャフト57を介して左右の駆動輪DWに伝達される。また、プラネタリキャリヤ39は、ワンウェイクラッチF1を介してトランスミッションケース22により支持され、当該プラネタリキャリヤ39の回転方向は、ワンウェイクラッチF1により一方向に制限される。
クラッチC1は、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第1サンギヤ36aとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。クラッチC2は、入力軸26と第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39とを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。クラッチC3は、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。クラッチC4は、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを互いに接続すると共に両者の接続を解除するものである。本実施形態では、クラッチC1,C2,C3およびC4として、ピストン、複数の摩擦係合プレート(摩擦プレートおよびセパレータプレート)、それぞれ作動油が供給される係合油室および遠心油圧キャンセル室等により構成される油圧サーボを有する多板摩擦式油圧クラッチが採用される。
ブレーキB1は、第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bをトランスミッションケース22に回転不能に固定(接続)すると共に第2サンギヤ36bのトランスミッションケース22に対する固定を解除するものである。ブレーキB2は、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39をトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共にプラネタリキャリヤ39のトランスミッションケース22に対する固定を解除するものである。本実施形態では、ブレーキB1およびB2として、ピストン、複数の摩擦係合プレート(摩擦プレートおよびセパレータプレート)、作動油が供給される係合油室等により構成される油圧サーボを有する多板摩擦式油圧ブレーキが採用される。
また、ワンウェイクラッチF1は、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39に連結(固定)されるインナーレースや、アウターレース、複数のスプラグ、複数のスプリング(板バネ)、保持器等を含む。ワンウェイクラッチF1は、インナーレースに対してアウターレースが一方向に回転した際に各スプラグを介してトルクを伝達すると共に、インナーレースに対してアウターレースが他方向に回転した際に両者を相対回転させる。ただし、ワンウェイクラッチF1は、ローラ式といったようなスプラグ式以外の構成を有するものであってもよい。
これらのクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2は、油圧制御装置による作動油の給排を受けて動作する。図2に、自動変速機25の各変速段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1の作動状態との関係を表した作動表を示す。自動変速機25は、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2を図2の作動表に示す状態とすることで前進第1速〜第8速の変速段と後進第1速および第2速の変速段とを提供する。なお、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2の少なくとも何れかは、ドグクラッチといった噛み合い係合要素とされてもよい。
ギヤ機構40は、自動変速機25の第2遊星歯車機構35のリングギヤ37に連結されるカウンタドライブギヤ41と、自動変速機25の入力軸26と平行に延在するカウンタシャフト42に固定されると共にカウンタドライブギヤ41に噛合するカウンタドリブンギヤ43と、カウンタシャフト42に形成(あるいは固定)されたドライブピニオンギヤ(ファイナルドライブギヤ)44と、ドライブピニオンギヤ44に噛合すると共にデファレンシャルギヤ50に連結されたデフリングギヤ45とを有する。図1に示すように、ギヤ機構40のカウンタドライブギヤ41は、第1および第2遊星歯車機構30,35の間に位置するように複数のボルトを介してトランスアクスルケース222に固定されるセンターサポート224により軸受を介して回転自在に支持される。また、デフリングギヤ45は、はすば歯車であり、動力伝達装置20が車両に搭載された際に、ドライブピニオンギヤ44よりも下方に配置される。
デファレンシャルギヤ50は、図3に示すように、一対(2個)のピニオンギヤ51と、それぞれドライブシャフト57に固定されると共に一対のピニオンギヤ51に直角に噛合する一対(2個)のサイドギヤ52と、一対のピニオンギヤ51を支持するピニオンシャフト53と、一対のピニオンギヤ51および一対のサイドギヤ52を収容すると共に上記デフリングギヤ45が連結(固定)されるデフケース54とを有する。本実施形態において、各ピニオンギヤ51および各サイドギヤ52は、すぐばかさ歯車である。また、各ピニオンギヤ51とデフケース54との間には、ピニオンワッシャ55が配置され、各サイドギヤ52とデフケース54との間には、サイドワッシャ56が配置される。デフケース54は、ケース本体54aと当該ケース本体54aに締結されるカバー54bとを有し、ハウジング221により保持される軸受91とトランスアクスルケース222により保持される軸受92とによりドライブシャフト57と同軸かつ回転自在に支持される。
図3は、動力伝達装置20を示す要部拡大断面図である。同図に示すように、ハウジング221およびトランスアクスルケース222を含むトランスミッションケース22の内部は、樹脂製のリザーバプレート(区画部材)70により、デフリングギヤ45およびデファレンシャルギヤ50が配置されるデフ室60と、作動油を貯留する作動油貯留室65とに区画される。リザーバプレート70は、トランスミッションケース22に対して固定されるものであり、図4および図5に示すように、覆い部71と、覆い部71からリザーバプレート70の径方向における外側に延出されたフランジ部72と、フランジ部72の上側外周縁部から延出されたデフリング覆い部73とを含む。これらの覆い部71、フランジ部72およびデフリング覆い部73は、樹脂により一体に成形される。なお、以下の説明において、「上」および「下」は、それぞれ動力伝達装置20が車両に搭載された状態での鉛直方向における「上」または「下」を示す。
覆い部71は、デファレンシャルギヤ50のデフケース54の外周面の一部に沿って延在するように形成され、デフケース54(ケース本体54a)の当該一部を覆う。フランジ部72は、覆い部71のトランスアクスルケース222側(図3における左側)の端部から径方向外側に延出されると共に、当該端部に沿って円弧状(略C字状)に延在する。フランジ部72の概ね下側半分には、凹円柱面状に形成されたトランスアクスルケース222の内底面に沿って延在するように下側外周縁部72aが形成されており、当該下側外周縁部72aにはシール溝(図3参照)が形成されている。また、覆い部71およびフランジ部72には、両者に跨がると共にデファレンシャルギヤ50のピニオンシャフト53の上方で開口するように開口部70oが形成されている。更に、覆い部71およびフランジ部72の上側の一部は、カウンタシャフト42を回転自在に支持する軸受と干渉しないように切り欠かれており、これにより、リザーバプレート70には切欠部70sが形成される。
デフリング覆い部73は、デフリングギヤ45の外周面の概ね4分の1程度を上方から覆うように、フランジ部72の上側外周縁部から覆い部71とは反対側に軸方向(デフリングギヤ45の軸方向)に延出される。デフリング覆い部73は、リザーバプレート70の最下点よりも、動力伝達装置20が搭載される車両の前進走行時におけるデフリングギヤ45の回転方向における下流側に形成される。デフリング覆い部73およびフランジ部72には、図4および図5に示すように、両者に跨がる開口部73oが形成されている。また、デフリング覆い部73の外周面およびフランジ部72の外面には、開口部73oの上側縁部に沿って径方向外側および軸方向に突出する上側突出部73aと、開口部73oよりも下方でデフリング覆い部73の下側縁部に沿って径方向外側および軸方向に突出する下側突出部73bとが一体成形されている。
更に、リザーバプレート70は、フランジ部72の下側外周縁部72aから径方向外側に延出された第1固定部74aと、デフリング覆い部73から間隔をおいて径方向外側に延出された第2および第3固定部74b,74cを有する。第1および第2固定部74a,74bは、それぞれボルト等を介してトランスミッションケース22のトランスアクスルケース222に固定される。また、第3固定部74cは、覆い部71とは反対側に軸方向に突出する図示しない嵌合部を有し、当該嵌合部は、トランスアクスルケース222に形成された図示しない孔部に嵌合される。更に、本実施形態のリザーバプレート70は、図4に示すように、当該リザーバプレート70の作動油貯留室65と対向する側面、すなわちフランジ部72の下部に固定された複数の磁石(永久磁石)Mを含む。
加えて、リザーバプレート70は、覆い部71、フランジ部72およびデフリング覆い部73と一体に成形された潤滑冷却媒体供給部75を有する。潤滑冷却媒体供給部75は、ドライブピニオンギヤ44とデフリングギヤ45との噛合部に潤滑冷却媒体としての作動油を供給するためのものであり、フランジ部72(リザーバプレート70)の上側外周縁部から第3固定部74cに沿って軸方向(デフリングギヤ45の軸方向)に延出されている。なお、潤滑冷却媒体供給部75の全体または少なくとも一部は、覆い部71、フランジ部72およびデフリング覆い部73と別体に成形された後にフランジ部72等に固定されてもよい。
図4、図5および図6に示すように、潤滑冷却媒体供給部75は、上方から飛散してくる作動油を受容する作動油受容部76と、作動油受容部76とフランジ部72との間に設けられたスロープ部77と、第3固定部74cに沿って延びる作動油受容部76およびスロープ部77の端部から径方向外側に延出された薄板状の遮蔽部78と、複数の突条79a,79b,79cおよび79dとを有する。
作動油受容部76は、遮蔽部78と、当該遮蔽部78と対向する壁部76aと、側壁部76bとにより画成される凹部である。本実施形態において、作動油受容部76の底面76cは、フランジ部72に向かうにつれて下方に傾斜するように形成されている。また、スロープ部77は、図6に示すように、ドライブピニオンギヤ44やデフリングギヤ45と同程度の幅を有し、ドライブピニオンギヤ44の側方かつデフリングギヤ45の上方に位置するように作動油受容部76とフランジ部72との間に形成される。スロープ部77の遮蔽部78側の半部77a(その表面)は、図5からわかるように、作動油受容部76の底面76cと滑らかに連続すると共に当該作動油受容部76からフランジ部72に向かうにつれて下方に傾斜するように形成されている。更に、本実施形態では、半部77aの傾斜角度が作動油受容部76の底面76cの傾斜角度と同一に定められている。また、スロープ部77のドライブピニオンギヤ44側の半部(端部)77b(その表面)は、作動油受容部76からフランジ部72に向かうにつれて下方に傾斜すると共にドライブピニオンギヤ44に接近するにつれて下方に傾斜するように形成されている。遮蔽部78は、図5および図6に示すように、作動油受容部76およびスロープ部77の背後で上方に延在しており、対向する壁部76aよりも上方に突出する。
複数の突条79a〜79dは、図5および図6に示すように、スロープ部77すなわち半部77aおよび77bの表面に軸方向(デフリングギヤ45の軸方向)に間隔をおいて配設される。各突条79a〜79dは、作動油受容部76とフランジ部72との間で、スロープ部77の表面から上方に突出すると共に当該軸方向と直交する方向に沿って延在する。また、本実施形態において、作動油受容部76に最も近接する突条79aと当該作動油受容部76とのデフリングギヤ45の軸方向における間隔d(図7参照)は、互いに隣り合う突条79a,79b同士の間隔、互いに隣り合う突条79b,79c同士の間隔、および互いに隣り合う突条79c,79d同士の間隔よりも短く定められている。更に、本実施形態において、各突条79a〜79dのスロープ部77の表面からの高さは、互いに同一に定められている。これにより、デフリングギヤ45の中心軸(図5における一点鎖線参照)から各突条79a〜79dの頂部までの長さは、フランジ部72から作動油受容部76に向かうにつれて大きくなる。すなわち、デフリングギヤ45の中心軸から各突条79a〜79dの頂部までの長さをLa,Lb,Lc,Ldとすると、La>Lb>Lc>Ldが成立する。
上述のように構成されるリザーバプレート70の第1、第2および第3固定部74a,74b,74cがトランスミッションケース22に対して固定された際、リザーバプレート70の覆い部71は、デフケース54の一部を覆う。また、フランジ部72の下側外周縁部72aは、トランスアクスルケース222の内底面と僅かな隙間を介して対向し、下側外周縁部72aのシール溝とトランスアクスルケース222の内底面との間には、図3に示すように、シール部材80が配置される。更に、デフリング覆い部73は、デフリングギヤ45の外周面の概ね4分の1程度を上方から覆う。そして、トランスミッションケース22内には、図3に示すように、リザーバプレート70の図中左側にデフ室60が画成されると共に、リザーバプレート70の図中右側に作動油貯留室65が画成される。リザーバプレート70のフランジ部72は、デフリングギヤ45の作動油貯留室65側の端面の少なくとも一部に沿って延在し、当該フランジ部72の下部は、作動油貯留室65と対向する。
作動油貯留室65には、オイルポンプ24により吸入される作動油が貯留される。更に、作動油貯留室65には、自動変速機25等の各種潤滑・冷却対象やドライブシャフト57の軸受91等を通過した作動油が上方から流れ込む。作動油貯留室65内に流入する作動油に混入した微小な金属片といった異物は、当該作動油貯留室65内で、リザーバプレート70に取り付けられた複数の磁石Mの磁力により吸引され、当該磁石Mに付着する。
また、ドライブシャフト57の軸受92には、トランスアクスルケース222に形成された図示しない油路等を介して、上方から潤滑・冷却媒体としての作動油が供給される。更に、デファレンシャルギヤ50のピニオンシャフト53の周辺には、トランスミッションケース22内に配置された図示しない冷却管から第3固定部74cに形成された油路に供給された潤滑・冷却媒体としての作動油が当該第3固定部74cの油路からリザーバプレート70の開口部70oを介して滴下される。そして、軸受92やデファレンシャルギヤ50等を通過した作動油は、デフ室60の下部に滞留する。
このように、デフ室60内では、その下部すなわちデフリングギヤ45の下部周辺に作動油が滞留するが、デフリングギヤ45の下部周辺に滞留した作動油は、動力伝達装置20を搭載した車両が前進走行する際に、デフリングギヤ45により掻き上げられる。ここで、本実施形態において、はすば歯車であるデフリングギヤ45のねじれ方向は、図6に示すように、車両が前進走行する際にデフリングギヤ45の各歯がデフ室60内の作動油をリザーバプレート70のフランジ部72側に向けて掻き上げるように定められている。従って、デフリングギヤ45により掻き上げられた作動油の多くは、デフリング覆い部73の開口部73oを介してデフ室60の外部へと排出される。開口部73oからデフ室60の外部へと排出された作動油は、開口部73oの上側の縁部に沿って延びる上側突出部73aに当たってリザーバプレート70の下方側へと導かれる。更に、リザーバプレート70の下方側へと導かれた作動油は、開口部73oや覆い部71を伝って作動油貯留室65へと戻る。これにより、デフ室60内に作動油が必要以上に滞留するのを抑制し、デフリングギヤ45に作用する作動油の撹拌抵抗を良好に低減することが可能となる。
更に、デフ室60内において、リザーバプレート70の潤滑冷却媒体供給部75の作動油受容部76は、ドライブピニオンギヤ44に対して自動変速機25の入力軸26とは反対側(図6における上側)に配置される。更に、潤滑冷却媒体供給部75のスロープ部77は、ドライブピニオンギヤ44の側方かつデフリングギヤ45の上方に位置する(図6参照)。これにより、ドライブピニオンギヤ44の近傍で入力軸26の周りに配置されるクラッチC1やクラッチC3等の潤滑・冷却に用いられた後に、当該クラッチC1,C3の構成部材の回転に伴ってドライブピニオンギヤ44に向けて入力軸26周辺から飛散してくる作動油を作動油受容部76やスロープ部77によって受容することができる。すなわち、潤滑冷却媒体供給部75の周辺に飛散してきた作動油の一部は、当該作動油受容部76上に直接落下し、作動油の一部は、遮蔽部78に衝突した後、作動油受容部76上に落下する。また、潤滑冷却媒体供給部75の周辺に飛散してきた作動油の一部は、当該スロープ部77上に直接落下し、作動油の一部は、遮蔽部78に衝突した後、スロープ部77上に落下する。
上述のように、作動油受容部76の底面76cやスロープ部77は、フランジ部72に向かうにつれて下方に傾斜するように形成されている。従って、作動油受容部76内の作動油は、スロープ部77側に流出し、当該スロープ部77の傾斜に沿って移動する。また、スロープ部77の表面上の作動油はフランジ部72側に移動する。そして、これらの作動油の一部は、スロープ部77の突条79a,79b,79cまたは79dに当たる。何れかの突条79a,79b,79cまたは79dに当たった作動油は、突条79a,79b,79cまたは79dの壁面を伝って当該突条79a,79b,79cまたは79dとスロープ部77の表面との境界付近に達し、当該境界に沿ってドライブピニオンギヤ44とデフリングギヤ45との噛合部E(図6参照)へと流入する。従って、動力伝達装置20では、作動油受容部76とフランジ部72との間における突条79a〜79dの位置を調整することで、ドライブピニオンギヤ44とデフリングギヤ45との噛合部Eにおける狙いの位置に作動油を充分に供給することが可能となる。
すなわち、動力伝達装置20において、デフリングギヤ45のねじれ方向は、車両が前進走行する際に図6において太線矢印で示す方向に回転するデフリングギヤ45の各歯がデフ室60内の作動油をリザーバプレート70のフランジ部72側に向けて掻き上げるように定められており、それぞれ図6において太線矢印で示す方向に回転するドライブピニオンギヤ44およびデフリングギヤ45の噛み合い開始部(ドライブピニオンギヤ44およびデフリングギヤ45の回転に伴って両者の対応する歯同士が最初に噛み合う位置)側の端部は、図6に示すように、作動油受容部76側に位置することになる。そして、最も作動油受容部76寄りの突条79aは、ドライブピニオンギヤ44およびデフリングギヤ45の作動油受容部76側の端部上に位置するようにスロープ部77に設けられている。
これにより、ドライブピニオンギヤ44とデフリングギヤ45との噛み合い開始部に潤滑・冷却媒体としての作動油を充分に供給することが可能となる。この結果、ドライブピニオンギヤ44とデフリングギヤ45との噛み合い開始部を良好に潤滑・冷却してピッチングの発生を極めて良好に抑制することができる。ドライブピニオンギヤ44およびデフリングギヤ45の噛み合い開始部側の端部が作動油受容部76側に位置する場合、噛合部Eに供給された作動油は、図6からわかるように、歯筋に沿ってフランジ部72側に流れてしまうので、このように両者の噛み合い開始部に潤滑・冷却媒体としての作動油を直接供給することは、当該噛み合い開始部を良好に潤滑・冷却する上で極めて有用である。
また、リザーバプレート70において、作動油受容部76に最も近接する突条79aと当該作動油受容部76との軸方向における間隔dは、突条79a,79b同士の間隔、突条79b,79c同士の間隔、および突条79c,79d同士の間隔よりも短く定められている。更に、デフリングギヤ45の中心軸から各突条79a〜79dの頂部までの長さは、フランジ部72から作動油受容部76に向かうにつれて大きくなっている。これにより、突条79aをドライブピニオンギヤ44およびデフリングギヤ45の作動油受容部76側の端部上に位置させると共に、突条79aに当たって当該突条79aを伝う作動油の量を増加させて、両者の噛み合い開始部に潤滑・冷却媒体としての作動油をより多く供給することが可能となる。更に、リザーバプレート70において、スロープ部77の軸方向と直交する方向におけるドライブピニオンギヤ44側の半部(端部)77bは、ドライブピニオンギヤ44すなわち噛合部Eに接近するにつれて下方に傾斜するように形成されている。これにより、スロープ部77からドライブピニオンギヤ44とデフリングギヤ45との噛合部Eにスムースに作動油を供給することが可能となる。なお、スロープ部100から噛合部E側に供給されずに、フランジ部72側へと流れた作動油は、フランジ部72や覆い部71を伝って作動油貯留室65へと戻る。
上述のように、動力伝達装置20では、デフリングギヤ45の回転により掻き上げられる作動油以外の作動油、すなわち入力軸26周りから飛散してくる作動油を用いてドライブピニオンギヤ44とデフリングギヤ45との噛合部Eを良好に潤滑・冷却することができる。従って、リザーバプレート70によってデフ室60と作動油貯留室65とを区画してデフ室60内に作動油をできるだけ滞留させないようにすることに起因して、デフリングギヤ45により掻き上げられる作動油の量が比較的少なくなったとしても、ドライブピニオンギヤ44とデフリングギヤ45との噛合部Eを良好に潤滑・冷却することが可能となる。
なお、スロープ部77には、少なくとも1つの突条が設けられればよく、必ずしも複数の突条が設けられる必要はない。また、上記実施形態では、デフリングギヤ45の中心軸から各突条79a〜79dの頂部までの長さがフランジ部72から作動油受容部76に向かうにつれて大きくなっているが、これに限られるものではない。すなわち、デフリングギヤ45の中心軸から作動油受容部76に最も近接する突条79aの頂部までの長さを当該中心軸から残余の突条79b,79c,79dの頂部までの長さ以上に(好ましくは、それよりも大きく)すれば、ドライブピニオンギヤ44とデフリングギヤ45との噛み合い開始部に潤滑・冷却媒体としての作動油をより多く供給することが可能となる。また、作動油受容部76に最も近接する突条79aの高さは、図7において二点鎖線で示すように、残余の突条79b,79c,79dの高さよりも大きく定められてもよい。更に、スロープ部77の軸方向と直交する方向におけるドライブピニオンギヤ44側の半部77bは、図7において二点鎖線で示すように、デフリングギヤ45の軸方向において水平に延在すると共に、ドライブピニオンギヤ44に接近するにつれて下方に傾斜するように形成されてもよい。これにより、スロープ部77からドライブピニオンギヤ44とデフリングギヤ45との噛合部Eの全体に満遍なく作動油を供給することが可能となる。
以上説明したように、本開示の動力伝達装置は、変速機(25)からの動力が伝達されるドライブピニオンギヤ(44)に噛合するデフリングギヤ(45)と、該デフリングギヤ(45)に連結されるデフケース(54)を含むデファレンシャルギヤ(50)と、前記デフリングギヤ(44)および前記デファレンシャルギヤ(55)を収容するケース(22,221,222)と、前記ケース(22,221,222)内を前記デフリングギヤ(45)および前記デファレンシャルギヤ(50)が配置されるデフ室(60)と作動油を貯留する作動油貯留室(65)とに区画する区画部材(70)とを含む動力伝達装置(20)において、前記区画部材(70)が、前記変速機(25)の回転に伴って飛散する作動油を受容する作動油受容部(76)と、前記作動油受容部(76)と前記区画部材(77)の外周縁部(72)との間に、前記作動油受容部(76)から前記外周縁部(72)に向かうにつれて下方に傾斜すると共に前記ドライブピニオンギヤ(44)と前記デフリングギヤ(45)との噛合部(E)側に作動油を導くように設けられたスロープ部(77)と、前記作動油受容部(76)と前記外周縁部(72)との間で、前記スロープ部(77)の表面から上方に突出すると共に前記デフリングギヤ(45)の軸方向と直交する方向に沿って延在する少なくとも1つの突条(79a,79b,79c,79d)とを有するものである。
本開示の動力伝達装置では、変速機の回転に伴って飛散する作動油が区画部材の作動油受容部によって受容され、作動油受容部内の作動油はスロープ部側に流出する。スロープ部側に流出した作動油は、当該スロープ部の傾斜に沿って移動するが、当該作動油の一部は、突条に当たる。突条に当たった作動油は、突条の壁面を伝って当該突条とスロープ部の表面との境界付近に達し、当該境界に沿ってドライブピニオンギヤとデフリングギヤとの噛合部へと流入することになる。従って、本開示の動力伝達装置では、作動油受容部と区画部材の外周縁部との間における突条の位置を調整することで、ドライブピニオンギヤとデフリングギヤとの噛合部における狙いの位置に作動油を充分に供給することが可能となる。
また、前記ドライブピニオンギヤ(44)および前記デフリングギヤ(45)は、噛み合い開始部側の端部が前記作動油受容部(76)側に位置するように配置されるはすば歯車であってもよい。このような動力伝達装置において、突条をドライブピニオンギヤおよびデフリングギヤの作動油受容部側の端部上に位置するようにスロープ部に設けることで、ドライブピニオンギヤとデフリングギヤとの噛み合い開始部に潤滑・冷却媒体としての作動油を充分に供給することができる。これにより、ドライブピニオンギヤとデフリングギヤとの噛み合い開始部を良好に潤滑・冷却してピッチングの発生を極めて良好に抑制することが可能となる。
更に、前記区画部材(70)は、前記突条(79a,79b,79c,79d)を複数有してもよく、前記作動油受容部(76)に最も近接する前記突条(79a)と該作動油受容部(76)との前記軸方向における間隔(d)は、互いに隣り合う前記突条同士の間隔よりも短くてもよい。これにより、ドライブピニオンギヤとデフリングギヤとの噛み合い開始部に潤滑・冷却媒体としての作動油をより多く供給することが可能となる。
また、前記デフリングギヤ(45)の中心軸から前記作動油受容部(76)に最も近接する前記突条(79a)の頂部までの長さは、前記中心軸から残余の前記突条(79b,79c,79d)の頂部までの長さ以上であってもよい。これにより、ドライブピニオンギヤとデフリングギヤとの噛み合い開始部に潤滑・冷却媒体としての作動油をより多く供給することが可能となる。
更に、前記デフリングギヤ(45)の中心軸から前記突条(79a,79b,79c,79d)の頂部までの長さは、前記外周縁部(72)から前記作動油受容部(76)に向かうにつれて大きくなっていてもよい。
また、前記スロープ部(77)の前記軸方向と直交する方向における前記ドライブピニオンギヤ(44)側の端部(77b)は、該ドライブピニオンギヤ(44)に接近するにつれて下方に傾斜するように形成されてもよい。これにより、スロープ部からドライブピニオンギヤとデフリングギヤとの噛合部の全体に満遍なく作動油を供給することが可能となる。
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記発明を実施するための形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。