本発明の空気電池電極用複合多孔質体1は、図1の断面模式図から把握されるように、複合多孔質体10から形成され、空気電池100(図6参照)の電極に用いられる部材である。特に、正極側の部材として用いられる。複合多孔質体10は第1多孔質部11及び第2多孔質部21により形成される。空気電池電極用複合多孔質体1は、空気電池100を構成する部材のひとつであるとともに、空気電池を複数組み合わせた組電池160(図7参照)としての使用が想定される。このような積層化が前提とされる都合上、複合多孔質体10はシート状であることが望ましい。そのため、第1多孔質部11及び第2多孔質部21もともにシート状物である。こうすると組電池160の体積圧縮に有効となる。
空気電池電極用複合多孔質体1(複合多孔質体10)において、第1多孔質部11は撥水層等称される部材である。後述するように、第1多孔質部11に触媒部110が備えられる。そして、第2多孔質部21は補強層等と称され、第1多孔質部11と一体化される。第2多孔質部21はガス流路部130と接続される。ここで言う撥水層とは、層表面にて液滴を形成する性質を備えているのではなく、空気電池内の電解質液側へガスが過剰に吹き込まなくする性質及び電解質液が漏出しない性質を備えていることを意味する。空気電池の詳細については、後出の図6にて詳述する。
複合多孔質体10の第1多孔質部11では、第1樹脂基材部13の内部に第1多孔質状連通空隙部12が形成される。さらに、第1樹脂基材部13の内部に、互いの形態や形状が異なる第1炭素材料31及び第2炭素材料32が備えられる。複合多孔質体10の第2多孔質部21でも同様に、第2樹脂基材部23の内部に第2多孔質状連通空隙部22が形成される。さらに、第2樹脂基材部23の内部にも第1炭素材料31及び第2炭素材料32が備えられる。図示の例の第2樹脂基材部23の内部には、第1炭素材料31及び第2炭素材料32のいずれとも形態や形状が異なる第3炭素材料33も備えられている。
第1樹脂基材部13及び第2樹脂基材部23は主に熱可塑性樹脂から選択される。樹脂材料は耐食性を備え、複合多孔質体10に柔軟性を付与する点で好例である。特に、空気電池、組電池の組み立て作業時の空気電池電極用複合多孔質体1の損傷が回避される。さらに、熱可塑性樹脂とすることにより、加熱溶融されて流動性が高まる。このことから、混入される第1炭素材料31、第2炭素材料32、第3炭素材料33、後出の第1被除去粒状物41、第2被除去粒状物42の均一な分散が可能となる。また、成形、加工も容易となる。
熱可塑性樹脂として、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、エチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダム共重合体、あるいは前記組成のブロック共重合体等が挙げられる。さらに前記したこれら重合体の混合物等のポリオレフィン系樹脂、石油樹脂及びテルペン樹脂等の炭化水素系樹脂である。加えて、フッ素樹脂等の耐食性に優れた樹脂も選択される。
第1樹脂基材部13及び第2樹脂基材部23を構成する樹脂の選択は、通常同一である。あるいは、近似した性質の樹脂種から選択される。複合多孔質体10の第1多孔質部11及び第2多孔質部21を一体として形成する場合、または、それぞれを予め形成して事後的に積層する場合、双方の樹脂の相溶性の観点が考慮される。加えて、第1多孔質部11及び第2多孔質部21の接合強度も要求されるためである。
複合多孔質体10の第1多孔質部11及び第2多孔質部21に共通して混入される第1炭素材料31は粒状黒鉛(球状黒鉛)(Spherical graphite)または炭素繊維(Carbon fiber)である。例えば、粒状黒鉛(球状黒鉛)の粒径(直径)は約10ないし30μmである。図示の第1炭素材料31は粒状黒鉛である。図示の便宜上第1多孔質部11と第2多孔質部21では、第1炭素材料31について厚さとの関係から異なる粒径の粒状黒鉛を使用した。むろん、双方とも同一粒径の粒状黒鉛としても良い。
また、第1多孔質部11及び第2多孔質部21に共通して混入される第2炭素材料32はカーボンナノチューブ(Carbon nanotube)であり、大きさは直径10nm以上、150nm前後以下である。第1炭素材料31及び第2炭素材料32と区別して示す第3炭素材料33は、第1炭素材料の残りの炭素繊維である。炭素繊維の断面直径は約5ないし15μmである。繊維長は概ね50ないし200μmである。炭素繊維は適度に裁断され他後に樹脂基材部に混入される。従って、複合多孔質体10の第1多孔質部11及び第2多孔質部21は、樹脂材料から形成されているにもかかわらず、炭素材料に起因して導電性を有している。
図示の例の複合多孔質体10では、第1多孔質部11及び第2多孔質部21に第1炭素材料31としての粒状黒鉛、第2炭素材料32としてのカーボンナノチューブが配合されている。そうすると、粒状黒鉛同士の接触により導電性は高められる。粒状黒鉛同士の間隔を埋める第1樹脂基材部13及び第2樹脂基材部23は本来絶縁体である。しかし、絶縁体の部位についてもカーボンナノチューブが配合される。このことから、導電度は幾分高まる。つまり、カーボンナノチューブは離れて存在する粒状黒鉛同士を橋渡す役目であると考えられる。従って、複合多孔質体10全体としてみると、第1炭素材料31(粒状黒鉛)のみでは得ることのできない導電性を発揮可能となる。
図示の複合多孔質体10では、第3炭素材料33として第1炭素材料の残りの炭素繊維が第2多孔質部21の第2樹脂基材部23に配合されている。第2多孔質部21は補強層であり、第1多孔質部11と比較して層は厚い。その分、絶縁体である樹脂の影響から導電性は低下しやすい。そこで、さらに第2多孔質部21の第2樹脂基材部23に炭素繊維が配合されていることによって、離れて存在する粒状黒鉛同士は炭素繊維により接続されやすくなり、導電性は確保される。
図示の例の複合多孔質体10の第1多孔質部11及び第2多孔質部21のように、敢えて異なる形態の炭素材料をそれぞれの樹脂基材部内に配合する理由は、前述の導電性確保に加えて以下のとおりと考えられる。第2炭素材料32(カーボンナノチューブ)のみを第1樹脂基材部13及び第2樹脂基材部23内へ配合(混入)する場合、カーボンナノチューブ自体の表面積は大きくなる。このため各基材樹脂との混練時に粘度は上昇しやすくなる。従って、所望の多孔質部の導電性を得ることを目的として、第2炭素材料32(カーボンナノチューブ)の配合量を増加することは困難である。
第1炭素材料(例えば粒状黒鉛)のみを樹脂基材部内に配合する場合、第2炭素材料32(カーボンナノチューブ)よりは重量当たりの配合量を増やすことは可能である。しかしながら、導電性連通多孔質フィルムを薄く仕上げた場合、第1炭素材料31のみの配合とすると、第1炭素材料31が多孔質部に形成された空洞部の中に独立して存在している。このことから、樹脂部分の量にむらが生じ折り曲げに対して脆弱となりやすい。
また、第1炭素材料31(例えば炭素繊維を選択)のみを樹脂基材部内に配合する場合、炭素繊維は多孔質部内に存在するため、薄くしても曲げへの耐性は向上する。しかし、炭素繊維同士の絡まり合いは弱いため互いの間隔が広くなり、導電性に乏しい領域が表面にも現れる。すなわち、導電性の向上は制約される。
第1多孔質部11の第1多孔質状連通空隙部12は互いの空洞部14同士でランダムに接触しており、第1多孔質部11は第1樹脂基材部13を骨格とした海綿状の形態である。そのため、シート状物の第1多孔質部11の両面の間で空気(酸素)の流通は確保される。同様に、第2多孔質部21の第2多孔質状連通空隙部22も互いの空洞部24同士でランダムに接触しており、第2多孔質部21も第2樹脂基材部23を骨格とした海綿状の形態である。そのため、シート状物の第2多孔質部21の両面の間でも空気(酸素)の流通は確保される。そこで、空気電池電極用複合多孔質体1(複合多孔質体10)においてもその第2面29から第1面19への空気の流通が確保される。
第1多孔質部11の第1多孔質状連通空隙部12を構成する各空洞部14の空洞径D1(図2参照)は、1ないし15μmである。第1多孔質状連通空隙部12は、第1樹脂基材部13の内部に混入された第1被除去粒状物41の事後的な除去により形成される(図3,4参照)。第2多孔質部21の第2多孔質状連通空隙部22を構成する各空洞部24の空洞径D2(図2参照)は、15ないし100μmである。空洞部24の空洞径D2は、空洞部14の空洞径D1よりも大きな径であり、互いに重複しない径の大きさである。第2多孔質状連通空隙部22は、第2樹脂基材部23の内部に混入された第2被除去粒状物42の事後的な除去により形成される(図3,5参照)。
このように、第1多孔質状連通空隙部の各空洞径は第2多孔質状連通空隙部の各空洞径よりも小さいため、第1多孔質部側では電解質液等の表面張力の影響が第2多孔質部側よりも強く生じる。そのため、第1多孔質部側では通気性の維持とともにより大きな撥水効果が生じる。
第1樹脂基材部13からの第1被除去粒状物41の事後的な除去、及び第2樹脂基材部23からの第2被除去粒状物42の事後的な除去のための簡便な方法は、水への溶解である。例えば、第1被除去粒状物41及び第2被除去粒状物42を含んだ第1樹脂基材部13及び第2樹脂基材部23は含水される。この場合、第1被除去粒状物41及び第2被除去粒状物42は水溶性粒子から選択される。具体的に、糖類の結晶、つまり、グルコースの結晶、氷砂糖、角砂糖(糖の凝固物)等である。塩類の結晶の場合、塩化ナトリウムの結晶、みょうばんの結晶、硝酸カリウムの結晶等である。他に、所定の粒子径に粉砕、分級された石灰岩や炭酸カルシウム結晶も挙げることができる。そこで、水への溶解に際しては、希塩酸を用いた溶解も加えられる。
前出の水溶性粒子では取り扱い時の摩耗や形状にばらつきが生じる場合もある。第1多孔質状連通空隙部12の空洞部14及び第2多孔質状連通空隙部22の空洞部24のそれぞれの大きさや形状は、なるべく均一であるほど良い。また、各空洞部は丸みを帯びた形状であることが望まれる。この要求を満たすため、被除去粒子はデンプン粒子から選択される。デンプン粒子は植物が産生する糖鎖化合物の結晶であり、デンプン粒子の形態や粒径は植物種により異なり約1〜100μmの粒径である。植物の種類によるものの比較的粒径は揃っており、被除去粒状物を均質化する上で好都合である。そのため、安定した形態の第1多孔質状連通空隙部12及び第2多孔質状連通空隙部22を得ることが容易となる。この点を生かして、第1被除去粒状物41と第2被除去粒状物42は、互いに粒径の異なるデンプン粒子である。
例えば、コーンスターチ、緑豆、タピオカデンプン等は平均粒径10ないし15μm程度である。この範囲の粒径のデンプン粒子は第1多孔質状連通空隙部12を形成するための第1被除去粒状物41に適している。次に、馬鈴薯デンプン等の粒子は平均粒径約20ないし40μmの楕円形である。この範囲の粒径のデンプン粒子は第2多孔質状連通空隙部22を形成するための第2被除去粒状物42に適している。デンプン粒子の種類、配合量は、第1多孔質部11及び第2多孔質部21の厚さ、混入される炭素粒子の大きさや量等を考慮して規定される。なお、デンプン粒子は1種類のみ、あるいは複数種類のデンプン粒子を混合して用いることもできる。
ただし、それぞれのデンプン粒子は、そのまま水や湯に浸漬したのでは完全に除去されにくい。そこで、第1樹脂基材部13及び第2樹脂基材部23から容易に除去するために、水や湯に酵素が加えられる。第1被除去粒状物41及び第2被除去粒状物42のデンプン粒子は酵素により分解されて除去される。すなわち、被除去粒状物と酵素との対応は両者間の基質特異性に依存する。そのことから、酵素にはα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、加えてプルラナーゼ等が選択される。
図1に示す複合多孔質体10は、第1多孔質部11と第2多孔質部21の両方を当初から一体の樹脂成形により形成され、空気電池電極用複合多孔質体1となる。あるいは、図2のように、第1多孔質部11と第2多孔質部21は、はじめにそれぞれ別々のシート状物として形成される。そして、第1多孔質部11と第2多孔質部21は事後的に貼り合わされる。双方とも樹脂基材部同士の融着により一体化は可能である。図2の事後的な貼り合わせの製造方法を採用する利点は、第1多孔質部と第2多孔質部を別々に製造し、必要な時に事後的なシート状物の貼り合わせによって空気電池電極用複合多孔質体を作製することができる。従って、個々の多孔質部の構造は単純であるため生産効率が良く、作り置きが可能である。そのため、空気電池用途以外に第1または第2多孔質部を転用しようとする場合に、柔軟な加工態様に対応できる。
続いて、図3ないし図5の概略工程図を用い、空気電池電極用複合多孔質体1の製造方法を説明する。なお、共通の名称及び符号は前述と同一物を示す。はじめに、第1樹脂基材部13となる樹脂に、第1被除去粒状物41、第1炭素材料31(粒状黒鉛)及び第2炭素材料32(カーボンナノチューブ)がそれぞれ所定量ずつ投入さる。基材樹脂は、その溶融温度まで加熱されて流動化する。そして、それぞれは、溶融状態の第1樹脂基材部13中で均一に拡散するまで十分に混練され、第1樹脂混練物となる。
これと同様に、第2樹脂基材部23となる樹脂に、第2被除去粒状物42、第1炭素材料31(粒状黒鉛)及び第2炭素材料32(カーボンナノチューブ)、加えて、第3炭素材料33(炭素繊維)がそれぞれ所定量ずつ投入さる。基材樹脂は、その溶融温度まで加熱されて流動化する。そして、それぞれは、溶融状態の第2樹脂基材部23中で均一に拡散するまで十分に混練され、第2樹脂混練物となる。
混練では、加熱溶融可能な公知のブレンダーやニーダー等が用いられる。第1樹脂基材部13及び第2樹脂基材部23に使用する樹脂は、加熱溶融の容易さから前出の熱可塑性樹脂から選択される。好ましくは、耐食性や柔軟性の点からポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂から選択される。加えて、双方の樹脂種は、相溶性及び密着強度の観点から同一の樹脂種とすることが望ましい。
第1樹脂混練物及び第2樹脂混練物の調製後、両樹脂混練物は例えばTダイ等の口金から所定の厚さにより吐出され、シート状(フィルム状)の成形物に成形される。樹脂基材部に各種の炭素材料が混入されるため、樹脂混練物自体の粘度が高くなりやすい。そのことから、フィルム状にする成形方法として、押出成形、プレス成形、冷間静水圧プレス(CIP)、テープキャスティング法等の適宜樹脂加工分野の公知成形手法が採用される。図3のように、当初から積層構造として複合多孔質体を形成する場合には、第1樹脂混練物及び第2樹脂混練物は同時に吐出される。その結果、図3(a)のとおり、第1多孔質部及び第2多孔質部において、第1被除去粒状物41及び第2被除去粒状物42が埋入(埋没)している積層体が生じる。
複合多孔質体10(図1参照)は、空気電池電極用複合多孔質体1として空気電池100の電極に用いられる。そこで、構造強度とともに電池容積の圧縮も求められる。具体的に、複合多孔質体10は200μmないし300μmの厚さである。この場合、第1樹脂混練物と第2樹脂混練物の積層物を成形するに際し、圧延が加えられる。例えば、当該積層物は複数のカレンダーロールの間に通され、順次圧延が繰り返されて所望の厚さに成形される(図3(a)参照)。
そして、第1樹脂混練物と第2樹脂混練物の積層物内に埋没している第1被除去粒状物41及び第2被除去粒状物42が除去され、積層物の内部から消失することによって第1多孔質部11及び第2多孔質部21が積層した複合多孔質体10が生じる。その後、複合多孔質体10の洗浄、乾燥、裁断等を経て完成する(図3(b),(c)参照)。
第1被除去粒状物41及び第2被除去粒状物42が糖類や塩類の結晶である場合、散水や浸漬により被除去粒状物は溶解されて除去される。特に図3の例示においては、第1被除去粒状物41は平均粒径10ないし15μm程度のデンプン粒子であり、第2被除去粒状物42は平均粒径15ないし100μm程度のデンプン粒子である。そこで、これらのデンプン粒子の除去についてさらに述べる。
図3(a)は第1樹脂混練物15及び第2樹脂混練物25からなる積層物45である。同図では、第1被除去粒状物41及び第2被除去粒状物42のデンプン粒子43,44が存在している。積層物45は、前出のアミラーゼ等のデンプンを分解する酵素を含む水浴中に浸漬される。水浴では酵素反応に適した温度域に加温されている。このため、図3(b)のように、酵素の作用によりいずれのデンプン粒子も分解されて次第に縮小する。そして、図3(c)のとおり、基質であるデンプンは完全に分解され被除去粒状物のデンプン粒子43,44は消失する。
この結果、当初デンプン粒子43が存在していた場所は第1多孔質状連通空隙部12となり、デンプン粒子44が存在していた場所は第2多孔質状連通空隙部22となる。こうして、第1多孔質部11と第2多孔質部21との積層により形成された複合多孔質体10は完成する。なお、複合多孔質体10には適宜洗浄、乾燥、裁断等も行われる。
第1多孔質部11内及び第2多孔質部21内のそれぞれの空洞部の相互接触を促し、最終的に第1多孔質状連通空隙部12及び第2多孔質状連通空隙部22を形成する必要がある。このため、第1及び第2被除去粒状物をデンプン粒子とした場合、デンプン粒子は樹脂基材部重量の約30重量%ないし60重量%を占める程度添加される。
図4及び図5は予め第1多孔質部11及び第2多孔質部21を作成し、事後双方を熱融着等により接合して積層し、複合多孔質体10を形成する例である。図4は第1多孔質部11の形成過程であり、図5は第2多孔質部21の形成過程である。図4及び図5に開示の例において、使用原料、作成手順等は図3における説明と同様であるため、詳細は省略する。相違点として、第1樹脂混練物15及び第2樹脂混練物25からなる積層物45(図3参照)を形成することなく、第1樹脂混練物15のままでの第1被除去粒状物41の除去及び第2樹脂混練物25のままでの第2被除去粒状物42の除去である。
ここまでの説明及び図1ないし5に開示の構造から理解されるように、第1多孔質部及び第2多孔質部を有する複合多孔質体は樹脂基材部から形成されている。そして同時に、その内部には導電性を高めるための炭素材料も配合されている。従って、複合多孔質体全体の導電性は確保される。この導電性については、単位面積当たりの厚さ方向(肉厚方向)の貫通抵抗として評価することができる。そこで、後記の実施例のとおり、100mΩ・cm2以下とすることが望ましく、さらには、50mΩ・cm2以下、より望ましくは30mΩ・cm2以下である。貫通抵抗を低減すると、空気電池内のプロトンの移動が円滑となり、より大きな発電量を得ることができる。
また、第1多孔質部及び第2多孔質部は、ともにシート状物の形態を採用しているため、良好な導電性能とガス(空気)の透過性能を備えることができる。加えて、複合多孔質体を空気電池の電極として空気電池に組み込む際、電極自体の面積を拡張することができる。
図6の主要部断面図は本発明の複合多孔質体10を空気電池電極用複合多孔質体1として組み込んだ空気電池100の例である。空気電池電極用複合多孔質体1(複合多孔質体10)は既に説明のとおり第1多孔質部11及び第2多孔質部21を備えて形成される。そして、空気電池電極用複合多孔質体1の第1面側101に触媒部110が備えられる。また、同空気電池電極用複合多孔質体1の反対側の第2面側102にガス流路部130が備えられる。触媒部110は電解質液120と接している。ガス流路部130の空気電池電極用複合多孔質体1の背面側となる面に負極金属層140が配される。こうして空気電池電極用複合多孔質体1と触媒部110との組み合わせから空気電池電極体150が形成される。符号121は電解質液120を収容する収容部、135はガス流路部の溝部である。従って、当該空気電池100において、正極Peは空気電池電極用複合多孔質体1及び触媒部110であり(空気電池電極体150)、負極Neは負極金属層140である。
空気電池100の外部の空気はガス流路部130に供給される。そして、空気(酸素)はガス流路部130の溝部135から空気電池電極用複合多孔質体1の第2多孔質部21内へ進入する。空気は第2多孔質部21、第1多孔質部11の順にその内部を拡散しながら透過する。そして空気は、触媒部110に到達する。電解質液120は触媒部110側へ浸透している。そこで、触媒部110において透過した酸素と電解質との反応により発電する。このときの正極Peと負極Neの電位差が当該空気電池100の起電力となる。空気電池電極用複合多孔質体1(複合多孔質体10)において、第1多孔質部11は撥水層とも称される。そして、第2多孔質部21は補強層と称される。
なお、図示において、第1多孔質部11(撥水層)の厚さは30ないし70μm、第2多孔質部21(補強層)の厚さは150ないし300μm、触媒部110の厚さは200ないし300μm、ガス流路部130の厚さは500ないし1000μmである。このようにいずれの部材もシート状物である。そこで、これらの各部材は絶縁性樹脂の外枠材(図示せず)等の固定部材により適式に保持される。さらに、外枠材には配線部材(図示せず)が設けられ、空気電池100の正極Pe及び負極Neに接続される。
図7の主要部断面図は、図6の空気電池100を積層した組電池160を示している。空気電池100の層状の構成が連続して複数枚(複数段)重ねられている。そして、図7でも図示を省略しているが、適宜の外枠材と配線部材が備えられる。このように組電池160とすることにより、全体の体積増加は抑制され、個々の空気電池100の接続は直列となり、より、大きな電力量を得ることができる。このようなことから、照明用の電源に加えて、より大きな電力を必要とするモータ用の電源としても有望である。特に、組電池160の体積を抑制しているため、乗用車等の輸送機械に搭載する電源、電池としての利便性が期待される。
空気電池100及び組電池160の概要に続き、各部の詳細について説明する。触媒部110は、バインダーとなる触媒部基材樹脂と、導電性炭素材料及び触媒粒子を備えて形成される。これらの3種類の成分は、加熱されて均一に混練された後、所定形状に成形される。触媒部基材樹脂を含有することから、前述のとおり、樹脂成形の手法が利用される。空気電池電極用複合多孔質体1との面状の接触が考慮され、触媒部110はシート状の所定形状に成形される。このため、触媒部の形成は安価な樹脂を使用でき、しかも既存の樹脂加工技術により簡便に製造することができる。
そして、空気電池電極用複合多孔質体1に対して触媒部110は貼り合わされる。空気電池電極用複合多孔質体1と触媒部110との間での空気漏れが生じると、発電効率が低下する。そこで、接合面の間隙を極力無くす必要から、触媒部110と空気電池電極用複合多孔質体1は加圧されて一体化される。空気電池電極用複合多孔質体1も触媒部110も双方とも基材部分が樹脂であり樹脂弾性を伴う。そこで、適度な加熱と加圧を通じて空気電池電極用複合多孔質体1と触媒部110の一体化は良好となる。また、加圧により触媒部110は空気電池電極用複合多孔質体1の多孔質に食い込むことから、密着もより強固となる。また、接触抵抗を低下することができる。
触媒部110の触媒部基材樹脂には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドが挙げられる。このような樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの樹脂の中では、耐熱性及び耐薬品性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)及びエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)が特に好適とされる。
導電性炭素材料には、活性炭、黒鉛(粒状、鱗片状等)、繊維状活性炭、カーボンナノチューブ等が挙げられる。また、触媒粒子としては、公知の空気電池正極用の電極触媒を用いることができる。具体的には、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、タングステン(W)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)等の金属及びその化合物、並びにこれらの合金等が挙げられる。
電解質液120には従来公知の成分が使用される。例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液、もしくは非水溶液を用いることができる。この電解質液は固体状またはゲル状とすることができる。
ガス流路部130は空気の通り道となる溝部135を備える断面視櫛歯状(連続する凹凸状)の形態である。ガス流路部130自体も導電性を備える。ガス流路部130はガス流路部基材樹脂及び導電性炭素材料から形成される。ガス流路部基材樹脂は、前述の補強層21に使用される樹脂と同様の樹脂から選択される。導電性炭素材料も補強層21に使用される導電性炭素材料と同様である。そこで、ガス流路部基材樹脂及び導電性炭素材料も加熱されて均一に混練された後、所定形状として図示の断面視櫛歯形状に成形される。形状形成のための加工には、公知の樹脂加工技術が適用される。好ましくは、金型を用いたプレス加工により微細な溝部とともにガス流路部は形成される。このように、ガス流路部自体も金属材料を使用することなく空気の流通を確保することができる。しかも、金属材料と同じく導電性も備える。従って、ガス流路部は安価に製造可能であり既存の樹脂加工技術により簡便に製造することができる。
負極金属層140は、標準電極電位が水素より卑な金属単体または合金からなる金属材料である。負極金属層140はガス流路部130に密着される。そこで、触媒部110から負極金属層140に至るまでの導電性は確保され電子は移動可能である。標準電極電位が水素より卑な金属単体としては、例えば、リチウム(Li)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、バナジウム(V)などを挙げることができる。また、これらの合金も使用することもできる。
図7の組電池160から理解されるように、1つ目の空気電池100の収容部121の外部123に、2つ目の空気電池100の負極金属層140の外部143が重ねられる。なお、組電池には、必要に応じて電解質液を封止して液漏れを防ぐガスケットや適宜の絶縁部材も備えられる。
[使用原料]
第1樹脂基材部及び第2樹脂基材部の樹脂として、ポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製,FW4B(融点138℃)を使用した。
触媒部基材樹脂として、ポリテトラフルオロエチレンの粉末(ダイキン工業株式会社製,M−12)を使用した。
ガス流路部基材樹脂として、ポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製,FL100A(融点160℃)を使用した。
前記のポリプロピレンについては、そのペレットを凍結粉砕して粉末にして用いた。
第1炭素材料として下記の球状黒鉛を使用した。
日本カーボン株式会社製,ニカビーズP15B−ZG(平均粒子径:15μm,真密度:2.17g/cm3)(以下、「SC」と略記する。)
第1炭素材料の別種(第3炭素材料)として、下記の炭素繊維を使用した。
三菱樹脂株式会社製,ダイアリードK223SE(繊維径:11μm,真密度:2.0g/cm3)(以下、「CF」と略記する。)
第2炭素材料として下記のカーボンナノチューブを使用した。
昭和電工株式会社製,VGCF−X(繊維径:10〜15nm)(以下、「CNT」と略記する。)
比較例にて使用の炭素材料として、ケッチェンブラックEC600JD(ライオン株式会社製)
その他の原料
第1被除去粒状物には、東海澱粉株式会社製,タピオカデンプン(粒径約5〜15μm)(商品名:タピオカV)を使用した。
第2被除去粒状物には、松谷化学株式会社製,馬鈴薯デンプン(粒径約15〜50μm)(商品名:スタビローズ)を使用した。
デンプン粒子を分解除去する酵素として、α−アミラーゼ(天野エンザイム株式会社製,クライスターゼT5)を使用した。
空気電池の触媒部に配合する触媒として、二酸化マンガン粉末(株式会社高純度化学研究所製,粒径10μm)を使用した。
[複合多孔質体の作製]
実施例1ないし3に共通する第1多孔質部及び第2多孔質部について、前掲の原料を次述の配合に基づいて溶融混練してそれぞれのシート状の樹脂混練物を調製した。なお、各実施例、比較例では、押出時の設定を加減することによって、最終的な層の厚さを調整した。
第1多孔質部となる樹脂混練物については、Tダイを装備した二軸混練押出機に、ポリプロピレン20.6重量%、粒状黒鉛13.1重量%(第1炭素材料)、カーボンナノチューブ15.2重量%(第2炭素材料)、及びタピオカデンプン51.1重量%(第1被除去粒状物)を投入し、170℃に加熱して基材樹脂を溶融し、各成分が均一に分散するまで混練し樹脂混練物とした。樹脂混練物を線圧2.5t/cmに設定し130℃に加熱したカレンダーロール機に通して圧延しながらシート状に成形した。このシート状物は撥水層となる。
第2多孔質部となる樹脂混練物についても、Tダイを装備した二軸混練押出機に、ポリプロピレン14.7重量%、粒状黒鉛20.6重量%(第1炭素材料)、カーボンナノチューブ8.1重量%(第2炭素材料)、炭素繊維9.0重量%(他の第1炭素材料)、及び馬鈴薯デンプン47.6重量%(第2被除去粒状物)を投入し、170℃に加熱して基材樹脂を溶融し、各成分が均一に分散するまで混練し樹脂混練物とした。樹脂混練物を線圧2.5t/cmに設定し130℃に加熱したカレンダーロール機に通して圧延しながらシート状に成形した。このシート状物は補強層となる。
第1多孔質部の前段階であるシート状物と、第2多孔質部の前段階であるシート状物とを積層し、160℃、50MPaの条件下にて加熱圧着して一体化シート状物を作成した。一体化シート状物からデンプン粒子を除去するため、α−アミラーゼを1重量%含みpH6.0に調整した90℃の熱水浴中に1時間浸漬した。その後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、実施例または比較例の複合多孔質体を作製した。
比較例1,2については、前述の第1多孔質部を作製せず、同様の手法により第2多孔質部のみの作製とした。比較例1については、第1多孔質部の代わりにポリテトラフルオロエチレンのシート(日本ゴア株式会社製,マイクロフィルトレーション,厚さ100μm)を貼着した。比較例2は第2多孔質部のみの構造体とした。
[触媒部の作製]
実施例1ないし3及び比較例2の複合多孔質体に貼着する触媒部について、次のとおり作製した。前出のケッチェンブラック(ライオン株式会社製)40重量%、ポリテトラフルオロエチレン粉末30重量%、及び二酸化マンガン粉末30重量%をミキサーにより混合した。当該混合粉末をロールプレスによりプレス成形した。そして、前述のとおり実施例または比較例として作製した複合多孔質体に対して重ね合わせた。その後、100℃、5MPaの条件下にて加熱しながら加圧して双方を一体化した。
比較例1の複合多孔質体に貼着する触媒部については、金網(ニッケル200メッシュ)を集電体として用いた。前出のケッチェンブラック(ライオン株式会社製)40重量%、ポリテトラフルオロエチレン粉末30重量%、及び二酸化マンガン粉末30重量%をミキサーにより混合した。当該混合粉末をロールプレスにより前出の金網とプレス成形した。次に、当該成形物にポリテトラフルオロエチレンのシート(日本ゴア株式会社製,マイクロフィルトレーション,厚さ100μm)を貼着した。そして、330℃にて加熱プレスして一体化した。
[ガス流路部の作製]
ガス流路部は図6,7に開示のとおり片面に凹凸を備えた形状である。はじめに、凹部の深さ2mm、幅2mmの連続した型面を備えた金型を用意した。前掲のガス流路部基材樹脂用のポリプロピレン22.1重量%、カーボンナノチューブ24.6重量%、球状黒鉛53.3重量%を170℃に加熱してガス流路部基材樹脂用の樹脂を溶融し、各成分が均一に分散するまで混練し樹脂混練物とした。樹脂混練物を金型上に載せて180℃、20MPaの条件下にて押圧してプレス成形した。常温まで冷却後、出来上がったガス流路部を金型から取り外した。当該ガス流路部の最大厚さは2.5mmであった。
実施例の一体化シート状物及び比較例のシート状物(デンプン粒子除去前のシート状物)に、前記のガス流路部を重ね合わせた。その後、170℃、5MPaの条件下にて加熱しながら加圧して双方を一体化した。こうして、ガス流路部とシート状物と積層複合体を作製した。
積層複合体からデンプン粒子を除去するため、α−アミラーゼを1重量%含みpH6.0に調整した90℃の熱水浴中に1時間浸漬した。その後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、80℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、実施例または比較例の複合多孔質体とガス流路部を一体化した結合物を作製した。
[〈1〉厚さ]
実施例及び比較例の各層の厚さについては、シチズン時計株式会社製:MEI−10 JIS式紙厚測定機により、各試作例のフィルムを10枚重ねて厚さを測定し、1枚当たりの厚さ(μm)を算出した。
第1多孔質部(撥水層)及び第2多孔質部(補強層)のそれぞれの厚さについては、デンプン粒子を除去する前のシート状物の厚さとして計測した。
複合多孔質体については、第1多孔質部及び第2多孔質部の合計の厚さとした。
複合多孔質体に触媒部を貼着した後の厚さについては、この2つの部位を重ねた状態の厚さとして、計測した。
[〈2〉通気度]
JIS P 8117(2009){紙及び板紙−通気度及び通気抵抗度試験方法(中間領域)−ガーレー法}に準拠し、株式会社東洋精機製,ガーレー式デンソメーターG−B2C型を用いた。そして、空気の透過に要した時間(秒)を計測した。数値が少ないほど通気度は高い。実施例及び比較例については、複合多孔質体のみの通気度、触媒部と複合多孔質体を加熱圧着した後の通気度の両方の測定とした。
[〈3〉貫通抵抗]
株式会社三菱化学アナリテック製,低抵抗率計 ロレスタGP MCP−T610型を使用し、測定対象の実施例及び比較例のフィルムの厚さ方向から、直径30mmの金めっき板により挟み、測定面圧1.0MPaにて0.1A/cm2の電流を流し、このときの貫通抵抗(mΩ・cm2)を測定した。貫通抵抗は積層した部材の厚さ方向(垂直方向)の電気抵抗であり、この数値が少ないほど放電のロスを低減することができる。
[〈4〉出力]
実施例及び比較例の各構成部材について、ガス流路部の外部に金属マグネシウム板を配し、触媒部に接触する電解質液に4M−NaCl水溶液を使用した。そして、空気電池の簡易型としてビーカーセルを組み立てた。各実施例及び比較例について、25℃または60℃の温度下において放電し電力量を測定した。このとき、正極の部材(触媒部)の単位面積当たりの電流密度に対し正極の出力を算出し、100mA放電時の単位面積当たりの出力(mW/cm2)に換算した。
実施例及び比較例について、一連の作製及び測定の結果を表1に示す。表中、上から順に第1多孔質部(撥水層)の厚さ(μm)、複合多孔質体のみの厚さ(μm)、複合多孔質体と触媒部の積層後の厚さ(μm)、複合多孔質体のみの通気度(sec/100mL)、複合多孔質体と触媒部の積層後の通気度(sec/100mL)、複合多孔質体のみの貫通抵抗(mΩ・cm2)、複合多孔質体と触媒部の積層後の貫通抵抗(mΩ・cm2)、25℃における100mA放電時の単位面積当たりの出力(mW/cm2)、60℃における100mA放電時の単位面積当たりの出力(mW/cm2)である。
[結果と考察]
実施例1,2はほぼ同じ厚さの部材による結果である。双方とも同等の貫通抵抗と出力を示した。これに対し、実施例3は、第1多孔質部を実施例1,2よりも厚くした例である。第1多孔質部においては、第1多孔質状連通空隙部の個々の細孔径は細かいため、通気は抑制される。第1多孔質部の厚さが増加したことから、通気度は低下した。ただし、貫通抵抗、出力について、実施例1,2と大きな変化はない。
比較例1については、第1多孔質部(撥水層)に絶縁性のポリテトラフルオロエチレンのシートを用いた例である。同シートは通気性に乏しく通気度の悪化は著しい。また、絶縁性であることから貫通抵抗も測定限界最大となり、「−」とした。従って、空気電池を想定した部材としては、比較例1の構成は不向きである。比較例2については、第1多孔質部(撥水層)自体を省略した例である。通気度は向上したものの、放電できなかった。つまり、電池として全く機能しなかった。
各実施例及び比較例の結果を踏まえると、良好な性能発揮のため、触媒部と一体化する複合多孔質体は、ともに通気性能を有する第1多孔質部(撥水層)及び第2多孔質部(補強層)の積層構造である必要がある。また、通気性能を変化させる要因は第1多孔質部の厚さである。そこで、実際に空気電池を組み立てる場合の最適な空気流通量に対応した設計が可能である。