以下、図面を参照して、本発明に係るバルブタイミング制御装置の一実施の形態について説明する。バルブタイミング制御装置は、自動車の燃費向上や二酸化炭素の排出量を低減するために、エンジン(内燃機関)の回転数や負荷に適した燃焼状態となるよう、燃焼室給気量を制御するために、エンジンバルブの開閉タイミングを自在に可変する装置である。
−第1の実施の形態−
図1はバルブタイミング制御装置の縦断面模式図であり、図2はバルブタイミング制御装置の分解斜視図である。図2では、カムシャフト2、タイミングチェーン42、およびチェーンカバー40の図示は省略している。なお、説明の便宜上、図示するようにバルブタイミング制御装置の前後方向を規定する。
図1および図2に示すように、バルブタイミング制御装置は、エンジン(内燃機関)のクランクシャフトによって回転駆動する駆動回転体であるタイミングスプロケット1と、シリンダヘッド上に軸受(不図示)を介して回転自在に支持され、タイミングスプロケット1から伝達された回転力によって回転するカムシャフト2と、タイミングスプロケット1の前方位置に配置されて、チェーンカバー40にボルト47によって取り付け固定されたカバー部材3と、タイミングスプロケット1とカムシャフト2の間に配置されて、機関運転状態に応じてタイミングスプロケット1とカムシャフト2の相対回転位相を変更する可変機構である位相変更機構4と、を備えている。
タイミングスプロケット1は、全体が鉄系金属によって一体に形成され、内周面が段差形状の円環状のスプロケット本体1aと、該スプロケット本体1aの外周に一体に設けられて、巻回されたタイミングチェーン42を介してクランクシャフトからの回転力を受けるギア部1bと、から構成されている。タイミングスプロケット1は、スプロケット本体1aの内周側に形成された円形溝1cとカムシャフト2の前端部に一体に設けられた肉厚なフランジ部2aの外周との間に介装された第3ボールベアリング43によってカムシャフト2に回転自在に支持されている。
スプロケット本体1aの前端部外周縁には、環状突起1dが一体に形成されている。スプロケット本体1aの前端部には、環状突起1dの前端側に同軸に位置決めされ、内周に波形状の内歯19aが形成された環状部材19が配置されている。環状部材19の前端側には、後述する電動モータ12のハウジング5の一部を構成する大径円環状の雌ねじ形成部6(外周突起部)が配置されている。
スプロケット本体1aと環状部材19の外周部には、ボルト挿通孔1e,19bが周方向のほぼ等間隔位置に6つ貫通形成されている。雌ねじ形成部6には、各ボルト挿通孔1e,19bと対応した位置に6つの雌ねじ孔6aが形成されている。タイミングスプロケット1、環状部材19、および雌ねじ形成部6は、ボルト挿通孔1e,19bおよび雌ねじ孔6aにボルト7が挿通され、ボルト7により共締め固定されている。
スプロケット本体1aおよび環状部材19は、後述する減速機構のケーシングとして構成されている。スプロケット本体1aの環状突起1d、環状部材19および雌ねじ形成部6は、それぞれの外径がほぼ同一に設定されている。スプロケット本体1aの内周面の一部には、扇状の係合部であるストッパ凸部1fが周方向に沿って所定長さ範囲まで形成されている。
ハウジング5は、鉄系金属材をプレス成形によって有底筒状に形成された筒状部であるハウジング本体5aと、該ハウジング本体5aの前端開口を封止する封止プレート11と、を備えている。
ハウジング本体5aは、後端側に円板状の底部5bを有している。底部5bのほぼ中央には、後述の偏心軸部30を挿通する大径な軸部挿通孔5cが形成されている。軸部挿通孔5cの孔縁には、カムシャフト2の軸方向へ突出した円筒状の延出部5d(内周突起部)が一体に設けられている。底部5bの前端面外周側には、雌ねじ形成部6が溶接によって一体的に固定されている。
カムシャフト2は、外周に吸気弁(不図示)を開作動させる一気筒当たり2つの駆動カムを有している。カムシャフト2の前端部には、複数の転動体であるころ(以下、ローラ34と記す)を保持する転がり軸受用保持器(以下、単に保持器94と記す)がカムボルト10によって軸方向から結合されている。
図3は、図1のIII−III線断面図である。図3に示すように、カムシャフト2のフランジ部2aには、スプロケット本体1aのストッパ凸部1fが係入する係止部であるストッパ凹溝2bが円周方向に沿って形成されている。このストッパ凹溝2bは、円周方向へ所定長さの円弧状に形成されて、この長さ範囲で回動したストッパ凸部1fの両端縁が周方向の対向面2c,2dにそれぞれ当接することによって、タイミングスプロケット1に対するカムシャフト2の最大進角側あるいは最大遅角側の相対回転位置を規制するようになっている。このストッパ凸部1fとストッパ凹溝2bによってストッパ機構が構成されている。
図1に示すように、カムボルト10は、頭部10aの軸部10b側の端縁にフランジ状の座面部10cが一体に形成されている。軸部10bの外周には、カムシャフト2の端部から内部軸方向に形成された雌ねじ部に螺着する雄ねじ部が形成されている。
保持器94は、従動部9と保持筒41とが、鉄系金属材によって一体に形成されている。従動部9は、後端側に形成された円板部9aと、前端側に一体に形成された円筒状の円筒部9bとから構成されている。円板部9aは、後端面の径方向のほぼ中央位置にカムシャフト2のフランジ部2aとほぼ同外径の環状の段差突起9cが一体に設けられ、この段差突起9cの外周面とフランジ部2aの外周面が対峙しながら第3ボールベアリング43の内輪43aの内周に挿通配置されている。これによって、組付時におけるカムシャフト2と従動部9との芯だし作業が容易になる。なお、第3ボールベアリング43の外輪43bは、スプロケット本体1aの円形溝1cの内周面に圧入固定されている。
図1および図2に示すように、保持筒41は、円筒状であり、円板部9aの外周部から円筒部9bと同方向へ突出している。保持筒41には、複数の保持孔41bが保持筒41の周方向に沿ってほぼ等間隔の位置に穿設されている。各保持孔41bは、ほぼ長方形状の開口であり、複数のローラ34を転動自在に保持する。
図1に示すように、保持筒41は、先端部41cが雌ねじ形成部6と延出部5dとの間に形成された円環状の凹部である空間部44を介してハウジング5の底部5b方向へ延出している。円筒部9bは、中央にカムボルト10の軸部10bが挿通される挿通孔9dが貫通形成されている。円筒部9bの外周側には、ニードルベアリング28が設けられている。
図1および図2に示すように、カバー部材3は、比較的に肉厚な合成樹脂材によって一体に形成され、カップ状に膨出したカバー本体3aと、該カバー本体3aの後端部外周に一体に有する円環状のブラケット3bと、から構成されている。カバー本体3aは、位相変更機構4の前端側、つまりハウジング本体5aの封止プレート11を含めた前端側外周を、所定隙間をもって覆うように配置されている。一方、ブラケット3bには、外周に一体に形成された6つのボス部にそれぞれボルト挿通孔3cが貫通形成されている。
図1に示すように、カバー部材3は、ブラケット3bがボルト挿通孔3cを挿通した複数のボルト47によってチェーンカバー40に固定されている。カバー本体3aの前端部の内周面には、内外2重のスリップリング48が各内端面を露出した状態で埋設固定されている。カバー部材3の上端部には、内部にスリップリング48と導電部材を介して接続されたコネクタ端子49aが固定されたコネクタ部49が設けられている。なお、コネクタ端子49aには、コントロールユニット21を介してバッテリー電源(不図示)から通電され、あるいは通電が遮断されるようになっている。
カバー本体3aの後端部側の内周面とハウジング5の外周面との間には、シール部材である大径オイルシール50が介装されている。大径オイルシール50は、横断面がほぼコ字形状に形成されて、合成ゴムの基材の内部に芯金が埋設されている大径オイルシール50の外周側の円環状基部50aは、カバー本体3aの内周面に設けられた円環部3dに嵌着固定されている。円環状基部50aの内周側には、ハウジング本体5aの外周面にバックアップスプリングのばね力を介して弾接する合成ゴム製の環状シール部50bが一体に形成されている。
位相変更機構4は、カムシャフト2のほぼ同軸上の前端側に配置されたアクチュエータである電動モータ12と、該電動モータ12の回転速度を減速してカムシャフト2に伝達する減速機構と、から構成されている。
電動モータ12は、ブラシ付きのDCモータである。電動モータ12は、タイミングスプロケット1と一体に回転するヨークであるハウジング5と、該ハウジング5の内部に回転自在に設けられた出力軸であるモータ軸13と、ハウジング5の内周面に固定された半円弧状の一対の永久磁石14,15と、封止プレート11の内底面側に固定された固定子16と、を備えている。
図1および図2に示すように、モータ軸13は、筒状に形成されてアーマチュアとして機能し、軸方向のほぼ中央位置の外周に、複数の極を持つ鉄心ロータ17が固定されている。鉄心ロータ17の外周には、電磁コイル18が巻回されている。モータ軸13の前端小径部の外周には、コミュテータ20が圧入固定されている。コミュテータ20には、鉄心ロータ17の極数と同数に分割された各セグメントに電磁コイル18が電気的に接続されている。
固定子16は、封止プレート11の内底壁に4本のビス22aによって固定された円板状の樹脂ホルダー22と、該樹脂ホルダー22と封止プレート11を軸方向に貫通配置されて、各先端面が一対のスリップリング48に摺接して給電される周方向内外2つの第1ブラシ23と、樹脂ホルダー22の内周側に内方へ進退自在に保持されて、円弧状の先端部がコミュテータ20の外周面に摺接する第2ブラシ24と、を備えている。図1に示すように、樹脂ホルダー22と封止プレート11との中央位置には、モータ軸13の一端部などが挿通される軸挿通孔29が貫通形成されている。
第1ブラシ23は、ピッグテールハーネスによって接続されていると共に、弾接した捩りばねのばね力によってスリップリング48に向けて付勢されている。第2ブラシ24は、ピッグテールハーネスによって接続されていると共に、弾接した捩りばねのばね力によってコミュテータ20に向けて付勢されている。
モータ軸13は、カムボルト10の頭部10a側の軸部10bの外周面に、第2ボールベアリング35と該第2ボールベアリング35の軸方向の側部に配置されたニードルベアリング28とによって回転自在に支持されている。モータ軸13のカムシャフト2側の後端部には、減速機構の一部を構成する円筒状の偏心軸部30が一体に設けられている。
ニードルベアリング28は、偏心軸部30の内周面に圧入された円筒状のリテーナ28aと、該リテーナ28aの内部に回転自在に保持された複数の転動体であるニードルローラ28bとから構成されている。ニードルローラ28bは、従動部9の円筒部9bの外周面を転動している。
第2ボールベアリング35は、内輪35aが従動部9の円筒部9bの前端縁とカムボルト10の座面部10cとの間に挟持状態に固定されている一方、外輪35bがモータ軸13の内周に形成された段差部と抜け止めリングであるスナップリング36との間で軸方向に位置決め支持されている。
モータ軸13(偏心軸部30)の外周面とハウジング5の延出部5dの内周面との間には、減速機構の内部から電動モータ12内への潤滑油のリークを阻止する小径オイルシール32が設けられている。小径オイルシール32は、内周部がモータ軸13の外周面に弾接していることによって、該モータ軸13の回転に対して摩擦抵抗を付与するようになっている。
コントロールユニット21は、図示しないクランク角センサやエアーフローメータ、水温センサ、アクセル開度センサなど各種のセンサ類からの情報信号に基づいて現在の機関運転状態を検出して、機関制御を行う。コントロールユニット21は、電磁コイル18に通電してモータ軸13の回転制御を行い、減速機構を介してカムシャフト2のタイミングスプロケット1に対する相対回転位相を制御するようになっている。
図1および図2に示すように、減速機構は、偏心回転運動を行う偏心軸部30と、該偏心軸部30の外周に設けられた軸受である第1ボールベアリング33と、該第1ボールベアリング33の外周に設けられたローラ34と、該ローラ34を転動方向に保持しつつ径方向の移動を許容する保持器94と、から主として構成されている。
偏心軸部30は、外周面に形成されたカム面の軸心X2がモータ軸13の軸心X1から径方向へ僅かに偏心している。なお、第1ボールベアリング33とローラ34などが遊星噛み合い部として構成されている。第1ボールベアリング33は、大径の円環状に形成されて、ニードルベアリング28の径方向位置で全体がほぼオーバラップする状態に配置されている。第1ボールベアリング33は、内輪33aが偏心軸部30の外周面に圧入固定され、外輪33bの外周面にはローラ34が常時当接している。
外輪33bの外周側には円環状の隙間Cが形成されて、隙間Cによって第1ボールベアリング33全体が偏心軸部30の偏心回転に伴って径方向へ移動可能、つまり偏心動可能になっている。各ローラ34は、第1ボールベアリング33の偏心動に伴って径方向へ移動しつつ環状部材19の内歯19aに嵌入すると共に、保持器94の保持孔41bの両側縁によって周方向にガイドされつつ径方向に揺動運動させるようになっている。
図4は、図1のIV−IV線で切断した保持器94の保持筒41の断面図である。図4に示すように、保持孔41bの寸法(保持孔の短辺の長さ、すなわち周方向の長さ)M、隣り合う保持孔41bの間隔(隣り合う保持孔の縁部間の距離)W、保持孔41bの打ち抜き寸法(打ち抜き部の板厚)Tの関係は、次式(1),(2)のように表される。
T≧0.5M ・・・(1)
W≦2.0M ・・・(2)
これらの寸法関係は、保持器94の剛性等を考慮し、適宜決定される。電動モータ12の回転力をカムシャフト2に伝達させる制御応答性を向上させ、減速機構の作動中における打音の発生を抑制するために、保持孔41bをストレートに形成し、ローラ34とローラ保持孔寸法Mとのクリアランスを小さく設定することが望ましい。
内歯19aとローラ34の位置を正確に合わせる必要があるため、全ての保持孔41bは、保持器94の中心軸線方向の位置が揃っていることが好ましい。本実施の形態では、後述する保持器94の製造方法により、各保持孔41bが保持器94の中心軸に向かって精度よく延在するとともに、ローラ34と保持孔41bとのクリアランスを小さく設定することができる。
減速機構の内部には、潤滑油供給装置によって潤滑油が供給されるようになっている。潤滑油供給装置は、シリンダヘッドの軸受の内部に形成されて、メインオイルギャラリーから潤滑油が供給される油供給通路(不図示)を有している。図1に示すように、潤滑油供給装置は、カムシャフト2の内部軸方向に形成されて、油供給通路にグルーブ溝を介して連通した油供給孔(不図示)と、従動部9の内部軸方向に貫通形成されて、一端が該油供給孔に開口し、他端がニードルベアリング28と第1ボールベアリング33の付近に開口した小径なオイル供給孔45を有している。潤滑油供給装置は、同じく従動部9に貫通形成された大径な3つのオイル排出孔(不図示)を有している。
この潤滑油供給装置によって、空間部44に潤滑油が供給されて滞留し、ここから第1ボールベアリング33や各ローラ34などの可動部へ十分に潤滑油が供給されるようになっている。なお、空間部44内に滞留した潤滑油は、小径オイルシール32によってハウジング5内にはリークしないようになっている。
モータ軸13の前端内部には、図1に示すように、カムボルト10側の空間部を閉止する断面ほぼコ字形状の第1キャップ51が圧入固定されている。カバー本体3aのほぼ中央に形成された作業用の貫通孔3eの孔縁には、該貫通孔3eを閉止する断面ほぼコ字形状の第2キャップ52が圧入固定されている。
以下、本実施形態の動作について説明する。機関のクランクシャフト(不図示)が回転駆動するとタイミングチェーン42を介してタイミングスプロケット1が回転して、その回転力が環状部材19と雌ねじ形成部6を介してハウジング5に伝わり、電動モータ12が同期回転する。一方、環状部材19の回転力が、ローラ34から保持器94を経由してカムシャフト2に伝達される。これによって、カムシャフト2のカム(不図示)が吸気弁(不図示)を開閉作動させる。
機関始動後の所定の機関運転時には、コントロールユニット21からスリップリング48などを介して電動モータ12の電磁コイル18に通電される。これによって、モータ軸13が回転駆動され、この回転力が減速機構を介してカムシャフト2に減速された回転力が伝達される。
すなわち、モータ軸13の回転に伴い偏心軸部30が偏心回転すると、各ローラ34がモータ軸13の1回転毎に保持器94の各保持孔41bで径方向へガイドされながら環状部材19の一の内歯19aを乗り越えて隣接する他の内歯19aに転動しながら移動し、これを順次繰り返しながら円周方向へ転接する。この各ローラ34の転接によってモータ軸13の回転が減速されつつ従動部9に回転力が伝達される。このときの減速比は、ローラ34の個数などによって任意に設定することが可能である。
これにより、カムシャフト2がタイミングスプロケット1に対して正逆相対回転して相対回転位相が変換されて、吸気弁の開閉タイミングを進角側あるいは遅角側に変換制御するのである。
図3に示すように、タイミングスプロケット1に対するカムシャフト2の正逆相対回転の最大位置規制(角度位置規制)は、ストッパ凸部1fの各側面がストッパ凹溝2bの各対向面2c,2dのいずれか一方に当接することによって行われる。
すなわち、図1に示す従動部9が、偏心軸部30の偏心回動に伴ってタイミングスプロケット1の回転方向と同方向に回転することによって、ストッパ凸部1fの一側面がストッパ凹溝2bの一方側の対向面2cに当接してそれ以上の同方向の回転が規制される。これにより、カムシャフト2は、タイミングスプロケット1に対する相対回転位相が進角側へ最大に変更される。一方、従動部9が、タイミングスプロケット1の回転方向と逆方向に回転することによって、ストッパ凸部1fの他側面がストッパ凹溝2bの他方側の対向面2dに当接してそれ以上の同方向の回転が規制される。これにより、カムシャフト2は、タイミングスプロケット1に対する相対回転位相が遅角側へ最大に変更される。この結果、吸気弁の開閉タイミングが進角側あるいは遅角側へ最大に変換されて、機関の燃費や出力の向上が図れる。
本実施の形態に係るバルブタイミング制御装置の保持器94の製造装置100および保持器94の中間品であるワーク410について説明する。図5(a)は製造装置100の正面断面模式図であり、図5(b)は図5(a)のB部拡大模式図である。図5(c)は第1打ち抜き装置101のパンチ60Fの平面模式図であり、図5(d)は第2打ち抜き装置102のパンチ60Sの平面模式図である。図6は製造装置100の平面模式図である。なお、以下では、図示するように、X軸、Y軸およびZ軸を定義し、X軸に平行な方向をX方向、Y軸に平行な方向をY方向、Z軸に平行な方向をZ方向として説明する。X軸、Y軸およびZ軸は、それぞれ直交する。後述するように、X方向は、第1の打ち抜き装置101および第2の打ち抜き装置102が移動する方向である。Y方向は、ワーク保持装置108が移動する方向である。Z方向は、プレス機の押圧部65の移動方向、すなわち打ち抜き方向である。
図5に示すように、ワーク410は、保持器94の中間品であり、円板状の底部419と、底部419の外周部から立ち上がる円筒状の筒部411を有する有底円筒状とされている。なお、本明細書における円筒状とは、図示するように、半径よりも高さ(軸方向長さ)が短い場合も含む。底部419は保持器94の円板部9aに相当する部分であり、筒部411は保持器94の保持筒41に相当する部分である。ワーク410は、炭素量が0.2%以下の低炭素鋼からなり、焼き入れ後のビッカース硬さがHv653以上である。
ワーク410の底部419の中央には、筒部411と同方向へ突出した取付部415が設けられている。取付部415は、円筒状であり、保持器94の従動部9における円筒部9bに相当する部分である。
図5および図6に示すように、製造装置100は、ワーク保持装置108と、第1の打ち抜き装置101と、第2の打ち抜き装置102と、テーブル105とを備えている。テーブル105は、床上に水平に載置されている。テーブル105の内部には、ワーク保持装置108をY方向に移動させるY方向移動機構55と、第1の打ち抜き装置101および第2の打ち抜き装置102をX方向に移動させるX方向移動機構54が設けられている。
ワーク保持装置108は、チャック157、チャックユニット152、チャック支持装置159を備えている。チャック157は、円柱状の軸部157aと、軸部157aの一端に設けられた把持部157bを備えている。軸部157aはチャックユニット152の貫通孔に挿着され、チャック157がチャックユニット152により回動可能に保持される。
把持部157bは、基部157cと、基部157cから+Y方向に突出する複数の爪157dが設けられている。爪157dは、取付部415の開口部に挿入され、取付部415を内側から把持する、すなわちチャックする。なお、本実施の形態では、ワーク410の円筒状の取付部415の内周部をチャックしている例について示しているが、円板状の底部419の外周部をチャックしてもよい。
ワーク410が、チャック157に取り付けられた状態では、ワーク410の筒部411の中心軸と、チャック157の回転中心軸CL1とが一致する。チャックユニット152には、後述する支持部159bの円形凹部に嵌合する円形凸部が下方に向けて突設されている。チャックユニット152は、チャック157の回転中心軸(回動軸とも記す)CL1を中心とした回動角度を割り出し、所定の回動角度でチャック157を回動させる角度割り出し装置を備えている。
チャック支持装置159は、コイルばね159cを介してチャックユニット152を支持する支持部159bと、支持部159bから下方に突設される固定部159aと、を備えている。支持部159bには、上部に開口を有する円形凹部が設けられ、コイルばね159cが支持部159bの円形凹部に配設されている。支持部159bの円形凹部には、上述のチャックユニット152の円形凸部がZ方向に摺動自在に嵌入される。チャックユニット152の円形凸部と、支持部159bの円形凹部とが嵌合することで、チャックユニット152のX方向およびY方向への移動が規制される。コイルばね159cは、下端が支持部159bの円形凹部の底面に固着され、上端がチャックユニット152の円形凸部に固着されている。このように、チャックユニット152、チャック157およびワーク410は、コイルばね159cを介して支持部159b上に、Z方向に移動可能となるように設置される。
固定部159aは、テーブル105に設けられたY方向に延びる溝に配置されたガイドレール(不図示)に配置されている。Y方向に延びる溝内には、Y方向移動機構55が配設され、固定部159aはY方向移動機構55の可動部に固定されている。Y方向移動機構55は、Y方向アクチュエータを駆動させることで、ワーク保持装置108をY方向に移動させることができる。
第1の打ち抜き装置101および第2の打ち抜き装置102は、後述するパンチ60F,60Sの切り刃部60aおよびダイ62F,62Sのダイ孔62aのサイズが異なる点を除いて同一の構成であるので、以下では、第1の打ち抜き装置101を代表して説明し、第2の打ち抜き装置102についての説明は省略する。なお、第1の打ち抜き装置101のパンチ60Fと、第2の打ち抜き装置102のパンチ60Sについては、特に区別する必要のない場合には、総称してパンチ60として説明する。また、第1の打ち抜き装置101のダイ62Fと、第2の打ち抜き装置102のダイ62Sについては、特に区別する必要のない場合には、総称してダイ62として説明する。
第1の打ち抜き装置101は、パンチ60と、パンチ60を保持するパンチホルダ64と、パンチ60の中心軸CL2方向に対向配置されるダイ62と、ダイ62を保持するダイホルダ66と、ツール支持装置150と、を備えている。パンチ60の切り刃部60aは、矩形柱形状である。図5(c)に示すように、第1の打ち抜き装置101のパンチ60Fの切り刃部60aは、短辺の寸法がxp1、長辺の寸法がyp1とされている。図5(d)に示すように、第2の打ち抜き装置102のパンチ60Sの切り刃部60aは、短辺の寸法がxp2、長辺の寸法がyp2とされている。xp1とxp2の大小関係は、xp1<xp2であり、yp1とyp2の大小関係は、yp1<yp2である。すなわち、第2の打ち抜き装置102のパンチ60Sの切り刃部60aのサイズは、第1の打ち抜き装置101のパンチ60Fの切り刃部60aのサイズよりも一回り大きい。
パンチホルダ64は、パンチ60の中心軸が打ち抜き方向であるZ方向と平行となるように、パンチ60を保持している。パンチホルダ64は、プレス機の押圧部65によって押圧される面を有している。プレス機の押圧部65は、Z方向に往復移動可能とされている。
ダイ62は、厚肉円板状であり、ダイ62の中心軸方向一端部(+Y方向の端部)がダイホルダ66に固着され、中心軸方向他端部(−Y方向の端部62e)が、ワーク410の底部に当接される。ダイ62の中心軸上には、ワーク410の取付部415が配置される円形凹部が形成されている。なお、ダイ62は、軸方向高さの短い有底円筒状ともいえる。
ツール支持装置150は、ダイホルダ66を固定支持する支持部150bと、支持部150bから下方に突設された固定部150aを備えている。固定部150aは、テーブル105に設けられたX方向に延びる溝に配置されたガイドレール(不図示)に配置されている。X方向に延びる溝内には、X方向移動機構54が配設され、固定部150aはX方向移動機構54の可動部に固定されている。X方向移動機構54は、X方向アクチュエータを駆動させることで、第1の打ち抜き装置101をX方向に移動させることができる。なお、第2の打ち抜き装置102も同様の構成であり、第1の打ち抜き装置101がX方向に移動する際、第2の打ち抜き装置102も一体的にX方向に移動する。
ダイホルダ66の側部には、ダイ62が固着されている。ダイ62の中心軸は、チャック157の回転中心軸CL1と一致するように配置される。ダイ62の頂部(上端部)には、パンチ60が挿通されるダイ孔62aが設けられている。ダイ孔62aは、ダイ62の切り刃部を構成するものであり、パンチ60の切り刃部60aのサイズに対応している。
ダイホルダ66には、Z方向に延びる円柱状のガイドポスト68が設置されている。ダイホルダ66の上端面から上方に突出するガイドポスト68の突出部にはコイルばね67が嵌装され、コイルばね67を介してパンチホルダ64がダイホルダ66に支持されている。なお、パンチホルダ64には円形の貫通孔が設けられており、この貫通孔にガイドポスト68がZ方向に摺動自在に挿通されている。ガイドポスト68とパンチホルダ64の貫通孔とが嵌合されることで、パンチホルダ64のX方向およびY方向の移動が規制される。このように、パンチホルダ64およびパンチ60は、コイルばね67を介してダイホルダ66上に、Z方向に移動可能となるように設置される。
パンチ60は、パンチホルダ64に固着され、パンチホルダ64と一体的にZ方向に移動する。ダイ孔62aとパンチ60の切り刃部60aとは対向配置されている。パンチ60とダイ孔62aとは、ダイ孔62aの中心軸と、パンチ60の中心軸CL2が一致するように、それぞれの位置が設定されている。パンチ60の中心軸CL2は、Y方向に延在するダイ62の中心軸上に位置し、Z軸と平行になるように、すなわち第1中心軸CLと直交するように設定される。
プレス機の押圧部65が下方(−Z方向)に移動し、押圧部65によりパンチホルダ64が下方(−Z方向)に加圧されると、パンチホルダ64がコイルばね67の弾性力に抗して押し下げられる。これにより、パンチ60の切り刃部60aの先端部60cが、ダイ孔62aに挿入される。したがって、ダイ62とパンチ60の間にワーク410の加工対象部位を配置することで、加工対象部位の打ち抜き加工が可能となる。
以下、本実施の形態に係るバルブタイミング制御装置の保持器94の製造方法について説明する。図7は、バルブタイミング制御装置の保持器94を製造する工程を説明するためのフローチャートである。保持器94の製造方法は、図7に示すように、準備工程S100と、取り付け工程S110と、第1位置決め工程S120と、下孔形成工程S130と、第2位置決め工程S150と、保持孔形成工程S160と、取り外し工程S180と、を含む。
−準備工程−
準備工程S100では、保持器94の製造装置100と、ワーク410を準備する。準備工程S100が完了すると、取り付け工程S110へ進む。
−取り付け工程−
取り付け工程S110では、ワーク410をチャック157に取り付ける(チャッキング)。ワーク410の底部419は、チャック157の把持部157bの基部157cに当接させておく。取り付け工程S110が完了すると、第1位置決め工程S120へ進む。
−第1位置決め工程−
第1位置決め工程S120では、ワーク保持装置108および第1の打ち抜き装置101の位置決めを行い、ワーク410の加工対象部位をパンチ60とダイ62の間に配置させる。第1位置決め工程S120では、図6に示すように、まず、第1の打ち抜き装置101をX方向移動機構54によりX方向に移動させて、第1の打ち抜き装置101をチャック157の回動軸方向に対向配置させ、第1の打ち抜き装置101のダイ62の中心軸をチャック157の回転中心軸CL1に一致させる。
次に、ワーク保持装置108をY方向移動機構55により第1の打ち抜き装置101に向けて移動させて、図5に示すように、ダイ62の−Y方向端部62eをワーク410の底部419に突き当てる。これにより、ワーク410の底部419が、チャック157の基部157cと、ダイ62の−Y方向端部62eとにより挟持される。
図8は、打ち抜き加工工程を説明する模式図である。第1位置決め工程S120によりワーク保持装置108および第1の打ち抜き装置101の位置決めがなされると、図8(a)に示すように、ワーク410の筒部411の加工軸線PAと、パンチ60の中心軸CL2とが一致する。また、ワーク410とダイ62の受け面(頂面)との間には、隙間Sが形成されている。なお、本明細書において、加工軸線PAとは、加工対象領域(孔加工領域)の仮想的な中心軸線のことをいう。
−下孔形成工程−
図7に示すように、第1位置決め工程S120が完了すると下孔形成工程S130へ進む。下孔形成工程S130は、ダイ孔62a(ダイ62の切り刃部)とパンチ60の切り刃部60aにより、筒部411を外径側から内径側に打ち抜いて筒部411に下孔H1を形成する打ち抜き加工工程S134と、ワーク410を回動させる回動工程S138と、を交互に繰り返すことで、ワーク410の筒部411に複数の下孔H1を形成する工程である。
−打ち抜き加工工程−
打ち抜き加工工程S134では、ワーク410の底部419をチャック157の回転中心軸CL1に平行な方向(+Y方向)に押圧し、底部419をダイ62の−Y方向端部62eに接触させた状態で、ダイ孔62aとパンチ60の切り刃部60aにより筒部411に下孔H1を形成する。すなわち、打ち抜き加工工程S134では、ワーク410の底部419をチャック157の基部157cとダイ62の−Y方向端部62eとで挟持した状態で、打ち抜き加工を行って下孔H1を形成する。
図8を参照して、打ち抜かれる過程について詳しく説明する。図8(a)に示す状態から、プレス機の押圧部65(図5(a)参照)によりパンチホルダ64を押し下げ、パンチ60の切り刃部60aの先端部60cを筒部411に接触させる。さらにパンチホルダ64を押し下げると、ワーク410を介してチャックユニット152(図5(a)参照)に押圧力が伝達され、チャックユニット152がコイルばね159c(図5(a)参照)の弾性力に抗して下方(−Z方向)に移動する。
パンチ60の先端部60cとワーク410の筒部411とが接触してから図8(b)の状態になるまでの−Z方向の移動量は、隙間Sに相当する。これにより、筒部411の内周面と、ダイ62の外周面(受け面)とが接触する。すなわち、隙間Sがゼロになる。
図8(b)に示す状態から、プレス機の押圧部65(図5(a)参照)により、所定の荷重で、さらにパンチ60の切り刃部60aを下方に押圧し、図8(c)に示すように、切り刃部60aとダイ孔62aとにより、筒部411を打ち抜く。プレス機の押圧部65(図5(a)参照)が上昇すると、パンチホルダ64がコイルばね67(図5(a)参照)により押し上げられて、加工前の位置に戻る。また、チャックユニット152は、コイルばね159c(図5(a)参照)により押し上げられて、加工前の位置に戻る。以上の動作により、図8(d)に示すように、保持孔41bの形成位置に、保持孔41bよりも一回り小さいサイズの下孔H1が形成される。
−回動工程−
回動工程S138では、チャックユニット152の角度割り出し装置により、チャック157にワーク410を保持させた状態で、所定角度だけチャック157を回動させる。回動角度θ[deg]は、保持孔41bの個数をN[個]としたとき、360[deg]/Nとなる。チャックユニット152が回動角度θ[deg]だけ回動すると、次に加工対象となる部位の加工軸線PAが、パンチ60の中心軸CL1に一致する。
下孔形成工程S130は、打ち抜き加工工程S134と回動工程S138を1サイクルとして、このサイクルをN回繰り返し行うことで、N個の下孔H1が形成される。
図9は、下孔H1が形成されたワーク410の筒部411の断面模式図である。なお、図9では、便宜上、後述の保持孔形成工程で形成される保持孔41bを破線で示している。図9に示すように、各下孔H1は、筒部411の外径側の周方向寸法M1が、筒部411の内径側の周方向寸法M2よりも長い。また、下孔H1の両側面は、保持孔中心軸(加工軸線PA)に対して非対称であり、一の側面の保持孔中心軸(加工軸線PA)に対する傾き角が、他の側面の保持孔中心軸(加工軸線PA)に対する傾き角よりも大きくなっている。なお、図9において、下孔H1の側面の傾き角は、誇張して実際よりも大きく記している。下孔H1がテーパ形状となる理由について、図10を参照して説明する。
図10は、2つ目の下孔H1を形成する際の打ち抜き加工の途中の状態を模式的に示す図である。図10に示すように、2つ目の下孔H1(以下、第2下孔H12と記す)を形成するために打ち抜き加工を行うと、パンチ60の切り刃部60aとダイ孔62aとの間の材料は、トレスカの条件により、主にダイ孔62aに向かって移動するが、材料の一部は隣の下孔H1(以下、第1下孔H11と記す)に向かって塑性流動する。その結果、第1下孔H11における第2下孔H12側の内周部が、第1下孔H11の内側に向かって膨出することになる。
膨出部60dの体積Vdは、パンチ60の切り刃部60aにより押しのけられる流出部60fの体積Vfと、ダイ孔62aに流入する流入部60bの体積Vbの差分に相当する(Vd=Vf−Vb)。これにより、図9に示すように、下孔H1が、ワーク410の中心に向かうほど側面間の寸法が小さくなるテーパ形状とされる。なお、このような塑性流動は、上述の式(2)が満たされるときに顕著である。
−第2位置決め工程−
図7に示すように、下孔形成工程S130が完了すると、第2位置決め工程S150に進む。第2位置決め工程S150は、ワーク410をチャック157に保持させた状態で、下孔形成工程S130から保持孔形成工程S160に移行する工程である。第2位置決め工程S150では、ワーク410をチャック157に保持させた状態で、下孔形成工程S130において第1の打ち抜き装置101のパンチ60Fの中心軸CL2が配置された位置に、第2の打ち抜き装置102のパンチ60Sの中心軸CL2を配置させる。
第2位置決め工程S150では、図6に示すように、ワーク保持装置108をY方向移動機構55により第1の打ち抜き装置101から離れるように、すなわち−Y方向に移動させる。その後、第1の打ち抜き装置101および第2の打ち抜き装置102をX方向移動機構54により+X方向に移動させて、第2の打ち抜き装置102をチャック157の回動軸方向に対向配置させ、第2の打ち抜き装置102のダイ62の中心軸をチャック157の回転中心軸CL1に一致させる。これにより、パンチ60Sの中心軸CL2が、チャック157の回転中心軸CL1上に位置する。
ワーク保持装置108をY方向移動機構55により第2の打ち抜き装置102に向けて移動させて、図5に示すように、ダイ62の−Y方向端部62eをワーク410の底部419に突き当てる。これにより、ワーク410の底部419がチャック157の基部157cと、ダイ62の−Y方向端部62eとにより挟持される。
第2位置決め工程S150により位置決めがなされると、ワーク410の筒部411の加工軸線PAと、パンチ60の中心軸CL2とが一致する。また、ワーク410とダイ62の受け面との間には、隙間Sが形成される。
−保持孔形成工程−
図7に示すように、第2位置決め工程S150が完了すると保持孔形成工程S160へ進む。保持孔形成工程S160は、下孔形成工程S130と同様の手順で行われるため、詳細な説明は省略する。なお、保持孔形成工程S160においては、既に下孔H1が形成されている部分を打ち抜くため、上述の打ち抜き加工工程に相当する工程のことをシェービング加工工程と呼ぶ。シェービング加工工程S164では、ダイ孔62a(ダイ62の切り刃部)とパンチ60の切り刃部60aにより、筒部411を外径側から内径側に打ち抜いて、下孔H1の開口縁部をシェービング加工して保持孔41bを形成する工程である。保持孔形成工程S160では、上述の打ち抜き加工工程S134に相当するシェービング加工工程S164と、上述の回動工程S138に相当する回動工程S168と、を交互に繰り返すことで、ワーク410の筒部411に複数の保持孔41bを形成する。
シェービング加工工程S164では、ワーク410の底部419をチャック157の回転中心軸CL1に平行な方向(+Y方向)に押圧し、底部419をダイ62の−Y方向端部62eに接触させた状態で、ダイ孔62aとパンチ60の切り刃部60aにより筒部411に保持孔41bを形成する。すなわち、シェービング加工工程S164では、ワーク410の底部419をチャック157の基部157cとダイ62の−Y方向端部62eとで挟持した状態で、打ち抜き加工を行って保持孔41bを形成する。
シェービング加工工程S164においても図8で示した打ち抜き加工工程S134と同様に、予め筒部411の内周面と、ダイ62の外周面(受け面)とを接触させておくことができる(隙間S=0)。第2の打ち抜き装置102のパンチ60の切り刃部60aのサイズが、下孔H1の開口サイズよりも大きいので、パンチ60によりチャックユニット152を押し下げることができるためである。
シェービング加工工程S164を行うことで、上述した膨出部60dを削り取ることができるので、孔加工精度をさらに向上できる。図11は、シェービング加工の途中の状態を模式的に示す図である。図11に示すように、シェービング加工を行うと、パンチ60の切り刃部60aにより押しのけられた部分(切削部分)は、トレスカの条件により、下孔H1の開口中心部に向かって塑性流動する。これにより、パンチ60の切り刃部60aにより押しのけられた部分が、隣の下孔H1あるいは隣の保持孔41bの方向に塑性流動することを防止できる。その結果、図4に示すように、各保持孔41bをストレート形状に形成することができる。
本実施の形態によれば、打ち抜き加工部となる筒部411の板厚Tは、製品によってばらついていたとしても、保持孔41bの寸法Mの精度のばらつきは抑えることができる。特に、保持孔41bの寸法M、隣り合う保持孔41bの間隔W、保持孔41bの打ち抜き寸法Tの関係が上述した式(1),(2)のように構成された場合に有効である。本実施の形態によれば、従来に比べ、板厚Tの公差を大きく設定できるので、生産コストの低減を図ることができる。
なお、第1の打ち抜き装置101のパンチ60の切り刃部60aの短辺の寸法xp1と、第2の打ち抜き装置102のパンチ60の切り刃部60aの短辺の寸法xp2の寸法差は、0.1mm〜0.6mm程度とすることが望ましい。これにより、ワーク410の掴み変え(取り外し、および取り付け)をしないで下孔形成工程S130と保持孔形成工程S160が行える。その結果、下孔H1と、保持孔41bの同軸ずれを防止できる。本実施の形態によれば、たとえば、寸法xp1と寸法xp2の寸法差が0.1〜0.2mmと小さい場合であっても、保持孔41bを高精度に打ち抜き加工することができる。
−取り外し工程−
保持孔形成工程S160が完了すると、取り外し工程S180へ進む。取り外し工程S180では、ワーク保持装置108をY方向移動機構55により第2の打ち抜き装置102から離れるように、すなわち−Y方向に移動させる。その後、チャック157から複数の保持孔41bが形成されたワーク410、すなわち保持器94を取り外す。完成した保持器94は、バルブタイミング制御装置の一部品として組み込まれ、バルブタイミング制御装置が完成する(図1参照)。
−実験結果−
本発明者らによる実験結果を図12に示す。図12(a)は、比較例に係る製造方法により製造された保持器94の保持孔41bの寸法を示す図である。比較例では、第1の打ち抜き装置101による下孔形成工程S130を省略し、第2の打ち抜き装置102による保持孔形成工程S160のみを行った。つまり、比較例の保持孔形成工程S160におけるシェービング加工工程は、上述した実施の形態の打ち抜き加工工程に相当する。比較例では、保持孔形成工程S160を行う際、下孔H1が形成されていないため、図10で示した現象が起こる。図12(b)は、第1の実施の形態に係る製造方法により製造された保持器94の保持孔41bの寸法を示す図である。
図12において、横軸は保持孔41bの位置番号を示し、縦軸は保持孔41bの寸法M1,M2を示している。保持孔41bの寸法M1は、筒部411の外周部、すなわち筒部411の外径側(図1に示す環状部材19側)の保持孔41bの短辺の長さであり、保持孔41bの寸法M2は、筒部411の内周部、すなわち筒部411の内径側(図1に示す第1ボールベアリング33側)の保持孔41bの短辺の長さである。寸法M1,M2はノギスにより計測した。
保持孔41bの位置番号は、保持孔41bが形成された順番と一致する。たとえば、一番最初に形成した保持孔41bの位置番号は、「1」である。なお、実験に用いたワーク410の寸法関係は以下に示すとおりである。
・保持孔41bの打ち抜き寸法(打ち抜き部の板厚)Tは、2.5[mm]
・第2打ち抜き装置102のパンチ60の切り刃部60aの短辺の寸法xp2は、3.05[mm]
・隣り合う保持孔41bの間隔Wは、3.2[mm]
・保持孔41bの個数Nは、30[個]
比較例では、外径側の寸法M1が内径側の寸法M2に比べ、0.02mm〜0.03mm程度大きくなっている。これに対して、下孔形成工程S130を経て保持孔形成工程S160を行った第1の実施の形態では、外径側の寸法M1と内径側の寸法M2との差は0.005mm程度に抑えることができた。つまり、本実施の形態では、寸法M1と寸法M2との差を0mm以上0.02mm以下とすることができる。内径側の寸法M2の30箇所の寸法を比較すると、比較例では0.010mm程度のばらつきがあるが、第1の実施の形態では、ばらつきを0.005mm程度に抑えることができた。
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)準備工程S100では、回動可能なチャック157を有するワーク保持装置108、ダイ62Fおよびパンチ60Fを有する第1の打ち抜き装置101ならびにダイ62Sおよびパンチ60Sを有する第2の打ち抜き装置102を準備する。取り付け工程S110では、円筒状の筒部411を有するワーク410をチャック157に取り付ける。下孔形成工程S130は、打ち抜き加工工程S134と、ワーク410を回動させる回動工程S138と、を交互に繰り返すことで、ワーク410の筒部411に複数の下孔H1を形成す。なお、打ち抜き加工工程S134では、ダイ62Fのダイ孔(切り刃部)62aとパンチ60Fの切り刃部60aにより、筒部411を外径側から内径側に打ち抜いて筒部411に下孔H1を形成する。保持孔形成工程S160では、シェービング加工工程S164と、ワーク410を回動させる回動工程S168と、を交互に繰り返すことで、ワーク410の筒部411に複数の保持孔41bを形成する。なお、シェービング加工工程S164では、ダイ62Sのダイ孔(切り刃部)62aとパンチ60Sの切り刃部60aにより、下孔H1をシェービング加工して転動体であるローラ34の保持孔41bを形成する。
これにより、転がり軸受用の保持器94の保持孔41bの加工精度を向上できる。保持孔41bの加工精度の向上により、ローラ34と保持孔41bの短辺方向(周方向)のクリアランスを小さく設定することができる。このため、電動モータ12の回転力をカムシャフト2に伝達させる制御応答性が向上し、減速機構の作動中における打音の発生を抑制することができる。
(2)シェービング加工工程S164を行うことで、加工によって生じる筋目の方向とローラ34が転動する方向を合わせることができるので、保持器94の耐摩耗性を向上でき、耐久性に優れた可変バルブタイミング装置を提供することができる。
(3)打ち抜き加工工程S134では、有底円筒状のワーク410の底部419をチャック157とダイ62Fとで挟持した状態で、ダイ62Fのダイ孔62aとパンチ60Fの切り刃部60aにより、筒部411を外径側から内径側に打ち抜いて筒部411に下孔H1を形成する。同様に、シェービング加工工程S164では、有底円筒状のワーク410の底部419をチャック157とダイ62Sとで挟持した状態で、ダイ62Sのダイ孔62aとパンチ60Sの切り刃部60aにより、下孔H1をシェービング加工してローラ34の保持孔41bを形成する。このように、本実施の形態では、有底筒状のワーク410の底部419をダイ62F,62Sの端面に接触させた状態で打ち抜くようにした。ワーク410の軸方向両端を支持した状態(両持ち支持状態)で、打ち抜き加工を行うことができるので、ワークが撓むおそれのある片持ち支持状態で打ち抜き加工を行う場合に比べて孔加工精度を向上できる。また、全ての保持孔41bの延在方向をワーク410の中心軸、すなわちチャック157の回転中心軸CL2に向けて精度よく揃えることができる。さらに、ダイ62F,62Sの端部62eを圧縮状態にできるため、打ち抜き時にこの部分において割れが発生することを防止できる。これにより、ダイ62F,62Sの端部62eの厚み(図5(b)で示す寸法E)を短くすることができ、保持器94の軸方向寸法を短くできる。
(4)下孔形成工程S130の後、ワーク410をチャック157に保持させた状態で、下孔形成工程S130において第1の打ち抜き装置101のパンチ60Fの中心軸が配置された位置に、第2の打ち抜き装置102のパンチ60Sの中心軸を配置させる第1位置決め工程S120を行うようにした。下孔形成工程S130から保持孔形成工程S160に移行する際に、チャック157からワーク410を着脱する作業を必要としないので、生産効率を向上できる。
(5)チャック157は、コイルばね159cを介して、チャック157の回動軸方向に直交するZ方向に移動可能なようにチャック支持装置159により支持されている。打ち抜き加工工程S134では、筒部411とダイ62Fとの間に隙間Sが形成されている状態から、パンチ60Fを筒部411に押し付けることで筒部411をダイ62Fに接触させた後、ダイ62Fのダイ孔62aとパンチ60Fの切り刃部60aにより、筒部411を外径側から内径側に打ち抜いて筒部411に下孔H1を形成する。シェービング加工工程S164では、筒部411とダイ62Sとの間に隙間Sが形成されている状態から、パンチ60Sを筒部411に押し付けることで筒部411をダイ62Sに接触させた後、ダイ62Sのダイ孔62aとパンチ60Sの切り刃部60aにより、下孔H1をシェービング加工してローラ34の保持孔41bを形成する。
打ち抜き荷重を付与する際に、隙間Sをゼロにできるため、筒部411が撓むことを防止でき、打ち抜き孔の精度を向上できる。また、過大なカエリの発生を防止することもできる。これにより、脱落したカエリが、保持孔41bと保持孔41bの間に挟まりローラ34が損傷することを防止できる。
(6)第1の打ち抜き装置101に設けられた単一のパンチ60Fのみを用いて打ち抜き加工を行うようにしたので、各下孔H1の寸法のばらつきを小さくできる。第2の打ち抜き装置102に設けられた単一のパンチ60Sのみを用いてシェービング加工を行うようにしたので、各保持孔41bの寸法のばらつきを小さくできる。
(7)打ち抜き加工工程S134において、パンチ60Fを、筒部411を外径側から内径側に向かって打ち抜くようにした。また、シェービング加工工程S164において、パンチ60Sを、筒部411を外径側から内径側に向かって打ち抜くことで、下孔H1をシェービング加工するようにした。これにより、汎用のプレス機を採用できるため、製造コストを低減できる。
(8)本実施の形態によれば、筒部411の外周部における保持孔41bの短辺の長さM1と、筒部411の内周部における保持孔41bの短辺の長さM2との差を、0mm以上0.02mm以下とすることができる。
(9)本実施の形態によれば、保持孔41bの長辺の長さが、保持孔41bの短辺の長さの0.5倍以上である場合や、筒部411の周方向に隣り合う保持孔41bの間隔Wが、保持孔41bの短辺の長さM(外径側の寸法M1)の2倍以下である場合において、特に、従来に比べて加工精度の向上効果を高めることができる。
−第2の実施の形態−
図13を参照して第2の実施の形態に係る転がり軸受用保持器の製造方法について説明する。図13は、第2の実施の形態に係るバルブタイミング制御装置の保持器を製造する工程を説明するためのフローチャートである。なお、図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。
第1の実施の形態では、第1の打ち抜き装置101による下孔形成工程S130を行ってから、第2の打ち抜き装置102による保持孔形成工程S160を行った(図7参照)。これに対して、第2の実施の形態では、図13に示すように、下孔形成工程S130を省略した。つまり、第2の実施の形態に係る保持孔形成工程S260では、下孔H1が形成されていない状態で、第2の打ち抜き装置102による打ち抜き加工工程S264と回動工程S168と、を交互に行うことで保持孔41bを形成する。つまり、第2の実施の形態は、第1の実施の形態で説明した比較例に相当する。
ワーク410の筒部411の板厚Tが薄い、あるいは隣り合う保持孔41bの間隔Wが大きい場合、たとえば、上述した式(1)や式(2)が成立しない場合には、第2の実施の形態による製造方法により、制御応答性や打音等の要求仕様を十分に満足できる。
準備工程S100では、回動可能なチャック157、ダイ62およびパンチ60を有する製造装置100を準備する。取り付け工程S110では、底部419および筒部411を有する有底円筒状のワーク410をチャック157に取り付ける。保持孔形成工程S260では、ワーク410の底部419をチャック157とダイ62Sとで挟持した状態で、ダイ62Sのダイ孔62aとパンチ60Sの切り刃部60aにより、筒部411を打ち抜いて筒部411にローラ34の保持孔41bを形成する打ち抜き加工工程S264と、ワーク410を回動させる回動工程S168と、を交互に繰り返すことで、ワーク410の筒部411に複数の保持孔41bを形成する。
このような第2の実施の形態によれば、ワーク410の底部419をチャック157とダイ62Sとで挟持した状態で、ダイ62Sのダイ孔62aとパンチ60Sの切り刃部60aにより、筒部411を外径側から内径側に打ち抜いて筒部411に転動体であるローラ34の保持孔41bを形成するので、第1の実施の形態と同様、従来に比べて保持孔41bの加工精度を向上できる。
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
(変形例1)
上述した実施の形態では、パンチ60をワーク410に押し付けることで、パンチ60とワーク410の動作を連動させて隙間Sをゼロにした例について説明したが、本発明はこれに限定されない。チャックユニット152の上面を押圧する等によりワーク410を下方(−Z方向)に移動させ、隙間Sをゼロにしてから、パンチ60による打ち抜き動作を行ってもよい。
(変形例2)
上述した実施の形態では、パンチ60をワーク410の外径側から内径側に向かって打ち抜くことで下孔H1や保持孔41bを形成する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。ワーク410の内径が大きく、パンチやパンチホルダをワーク410の内径側に配設することができる場合には、内径側から外径側に向かってパンチ60を打ち抜くようにしてもよい。
(変形例3)
上述した実施の形態では、チャックユニット152をZ方向に移動可能に支持する弾性部材としてコイルばね159cを採用する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。同様に、パンチホルダ64をZ方向に移動可能に支持する弾性部材としてコイルばね67を採用する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。それぞれ、コイルばねに代えて、板ばねなど、種々の弾性部材を採用することができる。
(変形例4)
上述した実施の形態では、ダイ62の切り刃部をダイ孔62aにより構成する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。パンチ60の切り刃部60aに対応する溝などの凹部によりダイ62の切り刃部を構成してもよい。
(変形例5)
上述した実施の形態では、保持筒41と従動部9とにより保持器94を構成する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。少なくとも保持孔41bが設けられた保持筒41とダイ62が押し当てられる底部を有する有底円筒状であればよい。なお、上述した実施の形態のように、保持筒41と従動部9を一体に形成することで、クランクシャフトとの芯出しを容易であり、同軸精度も向上できる。
(変形例6)
第1の実施の形態において、ワーク410の底部419をチャック157とダイ62とで挟持した状態で、打ち抜く例について説明したが、本発明はこれに限定されない。第1の実施の形態のように、下孔形成工程S130を行った後、保持孔形成工程S160を行う場合、ワーク410の底部419をチャック157とダイ62とで挟持しない状態で、パンチ60を打ち抜いて、下孔加工およびシェービング加工を行うことでも、従来よりも高精度の保持孔41bを形成できる。この場合、ワーク410に底部419を設けずに、筒部411のみでワーク410を構成することができる。
(変形例7)
上述した実施の形態では、可変バルブタイミング制御装置用の保持器94の製造方法を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、工作機械、高速圧延機、連続鋳造設備、建設機械、製紙機械、ポンプやコンプレッサーなどの産業機械等に適用される転がり軸受け用保持器に本発明を適用できる。
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。