JP6526630B2 - 潜熱蓄熱体、潜熱蓄熱体の製造方法、および、熱交換材料 - Google Patents

潜熱蓄熱体、潜熱蓄熱体の製造方法、および、熱交換材料 Download PDF

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Description

本発明は蓄熱技術に関し、より詳細には、比較的高温でも利用可能で、蓄熱密度と熱伝導性に優れた、潜熱蓄熱体およびその製造方法に関する。
熱を貯蔵する方法として、温度変化を利用する顕熱蓄熱(例えば、特許文献1:特開平6−50681号公報)と、物質の相変化を利用する潜熱蓄熱(例えば、特許文献2:特開平10−238979号公報)が知られている。
このうち、顕熱蓄熱技術は、高温での蓄熱が可能である反面、物質の温度変化による顕熱のみを利用するものであるため、蓄熱密度が低いという問題があった。斯かる問題を解決する方法として提案されたのが、溶融塩等の潜熱を利用して蓄熱する潜熱蓄熱技術である。
潜熱蓄熱技術で用いられる蓄熱体として種々の態様のものが提案されており、例えば、特許文献3(特開平11−23172号公報)には、一層、二層または三層の金属被膜を潜熱蓄熱材の表面に被成したことを特徴とする潜熱蓄熱カプセルや、潜熱蓄熱材に電解めっき法によって金属被膜を被覆することを特徴とする潜熱蓄熱カプセルの製造方法等の発明が開示されている。
また、特許文献4(特開2012−140600号公報)には、塩水和物及び糖アルコールから選択された少なくとも1種の水溶性潜熱蓄熱材と、水溶性単官能単量体及び水溶性多官能単量体の水溶性単量体混合物より得られた重合体とを含むコアが、疎水性樹脂から形成されているシェルで被覆されている蓄熱マイクロカプセルの発明が開示されている。
さらに、特許文献5(特開2012−111825号公報)には、蓄熱性を有する物質からなる内部蓄熱体と、この内部蓄熱体を内包し相対密度が75%以上のセラミックスからなる外殻とを備えた蓄熱体の発明が開示されている。
特開平6−50681号公報 特開平10−238979号公報 特開平11−23172号公報 特開2012−140600号公報 特開2012−111825号公報
しかし、特許文献3に開示の潜熱蓄熱カプセルは、コアとなる潜熱蓄熱材とその表面の被覆膜が何れも金属であるため、使用環境によっては、蓄熱サイクルの過程でコア表面と被膜との界面で化学反応を起こし、合金化を生じる等により強度劣化を起こす恐れがある。
また、特許文献4に開示の蓄熱マイクロカプセルでは、潜熱蓄熱材は水溶性のものに限られ、例えば150℃以上といった高温下での使用には適さないという問題がある。
さらに、特許文献5に開示の蓄熱体は、蓄熱体の外殻と、外殻の内部形状に対応した内部蓄熱体を別々に作製した上で、2つに分割した外殻の内部に内部蓄熱体を配置し、外殻の接合面を接合して製造されるものであるため、製造工程が複雑な上に、そのサイズは自ずと大きなものとならざるを得ないという問題がある。
本発明はこのような従来の潜熱蓄熱方法の問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、蓄熱サイクルの過程でも安定で、例えば150℃以上といった比較的高温でも利用可能な、蓄熱密度と熱伝導性に優れた潜熱蓄熱体を提供することにある。
課題を解決しようとする手段
上記課題を解決するために、本発明に係る潜熱蓄熱体は、潜熱蓄熱材料から成るコア粒子の表面が該コア粒子の組成元素の酸化被膜で被覆されており、前記コア粒子は、金属若しくは合金の潜熱蓄熱材料から成ることを特徴とする。
ある態様では、前記コア粒子を成す合金は、下記のA群から選択される少なくとも1種の合金成分Aと下記のB群から選択される少なくとも1種の合金成分Bとの合金(A−B合金)であり、前記合金成分Aの酸化物生成の自由エネルギ(ΔG )と前記合金成分Bの酸化物生成の自由エネルギ(ΔG )がΔG ≧ΔG の関係を満足する。
群A:Ca、Si、Bi、Mg、Sb、In、Sn、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Ag、Au、Pb
群B:Al、Cr、Mn、Si、Mg、Co、Ni
好ましくは、前記コア粒子を成す金属若しくは合金は、Al若しくはAl−Si合金であり、前記Al−Si合金は、融解時体積膨張率が負であるSiの含有比の調整により融解時の体積膨張率を低く制御可能である。
また、好ましくは、前記酸化被膜がα−Alである。
また、好ましくは、表面に機械的強度の強化のための金属被膜を備えている。
さらに、好ましくは、前記潜熱蓄熱材料が固相状態にあるときに、前記コア粒子と前記酸化被膜との間にバッファとしての空隙を有している。
本発明に係る潜熱蓄熱体の製造方法は、金属若しくは合金の潜熱蓄熱材料から成るコア粒子の表面を化成被膜処理して一次被膜を形成する第1のステップと、前記一次被膜を熱処理して前記コア粒子の表面に二次被膜としての酸化被膜を形成する第2のステップとを備えている。
例えば、前記第1のステップの化成被膜処理は、ゾル・ゲル法、陽極酸化処理、アルカリ−クロム塩酸法、ベーマイト法、クロム塩酸法、リン酸−クロム塩酸法、リン酸亜鉛法、ノンクロメート化成被膜処理法の何れかである。
好ましくは、前記第2のステップの熱処理を、前記潜熱蓄熱材料の融点以上の温度で実行する。
例えば、前記潜熱蓄熱材料はAlまたはAl−Si合金から成り、前記第1のステップの化成被膜処理はベーマイト法で行う。
ある態様では、前記潜熱蓄熱材料はAlまたはAl−Si合金から成り、前記第1のステップの化成被膜処理において、下記の反応式に従い前記一次被膜を形成する。
2Al+4HO→Al・HO+3H
また、ある態様では、前記潜熱蓄熱材料はAlまたはAl−Si合金から成り、前記第2のステップの熱処理において、下記の2式の少なくとも一方の反応式に従い前記化成被膜をAlとする。
Al・HO→Al+HO↑
2Al+1.5O→Al
好ましくは、前記潜熱蓄熱材料はAlまたはAl−Si合金から成り、前記第2のステップの熱処理をα−Al被膜が生成する温度で実行し、前記化成被膜及び該熱処理時の酸化により新たに形成される酸化被膜をα−Alとする。
また、好ましくは、前記潜熱蓄熱材料はAlまたはAl−Si合金から成り、前記第1のステップの化成被膜処理に供する前記Al−Si合金のAl濃度を、前記第2のステップ完了後のAl−Si合金のAl濃度よりも高く設定する。
また、好ましくは、前記潜熱蓄熱材料はAlまたはAl−Si合金から成り、前記第1のステップは、前記化成被膜処理に先立ち、前記コア粒子の表面のAl濃度を、バルクのAl濃度よりも高めておくサブステップを備えている。
さらに、好ましくは、前記酸化被膜の表面に化学的処理若しくは物理的処理を行い、機械的強度の強化のための金属被膜を形成する第3のステップを備えている。
本発明に係る熱交換材料は、上述の潜熱蓄熱体が、耐熱性母材中に分散して坦持されている。また、本発明に係る触媒機能性潜熱蓄熱体では、上述の潜熱蓄熱体の表面に触媒材料を担持または析出させている。
本発明に係る潜熱蓄熱体は、潜熱蓄熱材料から成るコア粒子の表面が該コア粒子の組成元素の酸化被膜で被覆されている。そして、このコア粒子は、金属若しくは合金の潜熱蓄熱材料から成る。
このため、コア粒子とこれを収容するシェルに相当する酸化被膜を別々に作製した上でシェルの内部にコア粒子を収容するという工程が不要となることに加え、体積の最も大きい液相状態でカプセル化が進行する。そのため、溶解した潜熱蓄熱材料の成分は酸化被膜で覆われた空間内部に留まり、酸化被膜が損傷を受けることがない。
さらに、上記酸化被膜は化学的に安定なものとすることができるため、蓄熱サイクルの過程でも安定で、比較的高温でも利用可能な、蓄熱密度と熱伝導性に優れた潜熱蓄熱体を提供することが可能となる
本発明に係る潜熱蓄熱体に構造を概念的に説明するための断面図である。 コア粒子が固相状態にある場合の潜熱蓄熱体の断面概略図(A)、および、コア粒子が液相状態にある場合の潜熱蓄熱体の断面概略図(B)である。 本発明の潜熱蓄熱体の製造方法のプロセス例を説明するための図である。 実施例における、潜熱蓄熱体の製造方法のプロセスを説明するための図である。 実施例における、コア粒子乃至潜熱蓄熱体の形状および表面状態をSEMにより観察した結果で、Al−25wt%Siの合金から成るコア粒子のSEM像(A)、コア粒子の表面に酸化アルミニウムの一次被膜が形成された状態のSEM像(B)、および、コア粒子の表面に二次被膜としてのα−Al膜が形成された潜熱蓄熱体のSEM像である。 酸化処理温度と「カプセル化」の酸化温度依存性を確認した実験結果を説明するためのSEM像である。 1130℃で酸化処理してマイクロカプセル化した潜熱蓄熱体(図7(A))をFIB加工により断面を観察したSEM像(図7(B))である。 実施例における、Al−25wt%Siの合金から成るコア粒子(A)、ベーマイト処理後の粒子(B)、および、酸化処理後の粒子(C)からのX線回折チャートである。 実施例における、酸化処理後の粒子の断面のSEM像(A)、ならびに、この断面の酸素の元素マッピング(B)の図である。 実施例における、未処理のコア粒子、ベーマイト処理後の粒子、および、酸化処理後の粒子の粒度分布を測定した結果を纏めた図である。 実施例における、未処理のコア粒子、酸化処理直後の粒子、および、融解凝固を10回繰り返した後の粒子のそれぞれの、示差走査熱量測定により得られたDSC曲線である。 実施例で得られた潜熱蓄熱体の、融解凝固を10回繰り返した後の粒子のSEM像である。 Si含有量が異なるAl−Siの合金から成るコア粒子を用いて上述のカプセル化を行った潜熱蓄熱体の例で、図13(A)はAl−12wt%Siの合金から成るコア粒子、図13(B)はAl−17wt%Siの合金から成るコア粒子、図13(C)はAl−25wt%Siの合金から成るコア粒子をカプセル化した潜熱蓄熱体のSEM像である。 平均直径が20μm程度のAl−25wt%Siの合金から成るコア粒子を用いて得られた潜熱蓄熱体のSEM像(図14(A))、および、平均直径が10μm程度のAl−25wt%Siの合金から成るコア粒子を用いて得られた潜熱蓄熱体をFIB加工して断面を観察したSEM像(図14(B))の例である。 1150℃での酸化処理直後の粒子、酸素雰囲気下で融解凝固を100回繰り返した後の粒子、酸素雰囲気下で融解凝固を300回繰り返した後の粒子のそれぞれの、示差走査熱量測定により得られたDSC曲線である。 l−Si合金から成るコア粒子の表面にAlの酸化被膜を形成し、更に、Ni膜を被覆させた潜熱蓄熱体のSEM像である。
以下に、図面を参照して、本発明に係る潜熱蓄熱体およびその製造方法について説明する。
[基本構造]
図1は、本発明に係る潜熱蓄熱体100の構造を概念的に説明するための断面図である。図中、符号10で示したものは、潜熱蓄熱材料から成る半径がRのコア粒子であり、このコア粒子10の表面は、該コア粒子10を組成する少なくとも1種の合金成分(組成元素)の酸化被膜20で被覆されている。
本発明において、このコア粒子10には、金属若しくは合金の潜熱蓄熱材料が選択される。ここで、コア粒子10が合金の場合、当該合金は、下記のA群から選択される少なくとも1種の合金成分Aと下記のB群から選択される少なくとも1種の合金成分Bとの合金(A−B合金)であり、かつ、合金成分Aの酸化物生成の標準自由エネルギ(ΔG )と合金成分Bの酸化物生成の標準自由エネルギ(ΔG )がΔG ≧ΔG の関係を満足する。
ここで、合金成分Aは、主に蓄熱材として機能する。また、合金成分Bは、主に酸化物相を形成するために機能する。
群A:Ca、Si、Bi、Mg、Sb、In、Sn、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Pd、Ag、Au、Pb
群B:Al、Cr、Mn、Si、Mg、Co、Ni
上記標準自由エネルギの関係がΔG <ΔG にある合金成分A,Bを選択した場合、この合金から成るコア粒子の表面に合金成分Bを含む酸化物被膜が形成される過程で、当該酸化物は合金成分Aと反応して被膜が破れてしまうだけでなく、その組成も所望のものが得られない。
しかし、ΔG >ΔG の関係にある合金成分A,Bを選択しておけば、合金成分Bを含む酸化物被膜は熱力学的に合金成分Aと反応し難く、酸化被膜20をコア粒子10のカプセルとして機能させることができる。
また、ΔG =ΔG の関係にある合金成分A,Bを選択した場合、溶融した合金成分A(又は合金成分B)が外気中の酸素と反応して酸化物相A(又は酸化物相B)を形成するため、蓄熱材料は一部消費されるものの、カプセルは破壊されることがない。また、酸化物相がある程度の厚みになると、酸化物相中を酸素イオン又は合金イオンが拡散する速度は極めて遅くなるため、蓄熱材料の消費は極めて僅かになる。
コア粒子10は、周囲から熱を吸収した場合に固相から液相へと相変態し、吸収した熱を潜熱として蓄え、これとは逆に、周囲に潜熱を放出した場合に液相から固相へと相変態する。一般的に固相時の体積Vと液相時の体積VがV≦Vの関係にあり、固相状態のみで酸化被膜を形成させると、固相から液相に相変態した際のコア粒子10の膨張により、コア粒子10の表面を被覆している酸化被膜20が損傷を受け、溶解した潜熱蓄熱材料の成分が漏れ出てしまう。
これに対して、本発明においては、第一ステップにおいて、コア粒子の表面に潜熱蓄熱材料の融点以下で化成被膜処理をすることでカプセル(酸化被膜)の前駆体を形成させる。このため、第二ステップにおける酸化被膜形成がコア粒子の融点以上の温度で行われたとしても球形のカプセル形状は保持され、その結果、潜熱蓄熱材料成分が外部に漏出することがない。
さらに、第二ステップとして、潜熱蓄熱材の体積が膨張した液体状態で潜熱蓄熱材料をカプセル化(酸化被膜処理)することで、固相から液相への相変態の際の体積膨張分を吸収する空間バッファも獲得できる。そのため、融解した潜熱蓄熱材料の成分は酸化被膜20で覆われた空間内部に留まり、酸化被膜20が損傷を受けることがない。化成被膜処理によって得られた前駆体は極めて緻密な酸化物前駆体相を形成するため、熱処理/酸化処理により得られる酸化物相は極めて緻密で、潜熱蓄熱材を包むためのカプセルとして極めて有利になる。
図2は、コア粒子10が固相状態にある場合の潜熱蓄熱体100の断面概略図(A)、および、コア粒子10が液相状態にある場合の潜熱蓄熱体100の断面概略図(B)である。
コア粒子10が固相状態にある場合、コア粒子10の表面は酸化被膜20で被覆され、その内部には空間バッファ(空隙部)が存在する一方、コア粒子10が液相状態にある場合、潜熱蓄熱材料は固相時の体積Vと液相時の体積VがV≦Vの関係を有するため、固相から液相に相変態した時のコア粒子10の体積膨張により、固相時に存在した空間バッファが満たされる。よって、溶解した潜熱蓄熱材料の成分は酸化被膜20で覆われた空間内部に留まる。
なお、潜熱蓄熱材料の固相時の体積Vと液相時の体積Vの差が大きいほど、潜熱蓄熱材料が固相状態にある際に生じることとなる酸化被膜20で覆われた空間内部の空隙部が大きくなる。そして、このような空隙部の存在により、酸化被膜20の内表面において、コア粒子と触れている部分と触れていない部分との間で生じる歪み等が大きくなり、繰り返し使用するうちに酸化被膜20が損傷を受けてしまう恐れがある。
そこで、潜熱蓄熱材料としては、固相から液相に相変態する際の体積膨張率を低く制御した材料を選択することが好ましい。
本発明では、このような潜熱蓄熱材料として、融解時の体積膨張率が負の金属、若しくは、融解時の体積膨張率が正の金属と融解時の体積膨張率が負の金属から成る合金を選択することが好ましい。融解時の体積膨張率が負の金属としては、SiやBiを例示することができる。また、融解時の体積膨張率が正の金属としては、In,Sn、Sb,Mg,Al,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Pd,Ag,Au,Pbを例示することができる。融解時の体積膨張率が正の金属と融解時の体積膨張率が負の金属の合金組成を適正に設定すれば、融解時の体積膨張率を0%に制御することも可能である。
例えば、潜熱蓄熱材料を、融解時の体積膨張率が正の金属であるAl、Cr、Niと、融解時の体積膨張率が負の金属であるSiからなる群に含まれる金属元素のうちの少なくとも1種を含む合金とする。
斯かる合金のうち、好ましい材料として、融解時の体積膨張率が正の金属であるAlと融解時の体積膨張率が負の金属であるSiの合金を例示することができる。その場合のSiの含有比は、25wt%以下であることが好ましく、より好ましくはSiの含有比が12wt%以上で25wt%以下である。特に、Al−Si合金のSiの含有比が25wt%である場合には、当該Al−Si合金の融解時の体積膨張率を0%に制御することが可能である。
このような酸化被膜20は、コア粒子10となる潜熱蓄熱材料の成分である金属の酸化物とすることができ、或いは、後述する化成被膜処理に用いる薬液等の成分を含む酸化物などとすることもできる。例えば、コア粒子10となる潜熱蓄熱材料がAl−Si合金である場合、その成分であるAlの酸化物を酸化被膜20とする。この場合、α−Alは化学的に安定であり、酸化被膜20として好適である。
[製造方法]
本発明において、上述の潜熱蓄熱体は、予め、コア粒子10の表面を化成被膜処理して一次被膜を形成し、この一次被膜を熱処理してコア粒子10の表面に二次被膜としての酸化被膜を形成することで製造される。
図3は、本発明の潜熱蓄熱体の製造方法のプロセス例を説明するための図である。この例では、コア粒子10を成す潜熱蓄熱材料を、Xwt%のAlとYwt%のSiの合金としている。
先ず、Xwt%Al−Ywt%Siの合金から成るコア粒子10を準備する(A)。このコア粒子10を化成被膜処理して、その表面に一次被膜を形成する(B)。
この化成被膜処理において、下記の反応式の如く、コア粒子10の表面のAl成分が水分と反応して、酸化アルミニウムの水和物(Al・HO)が形成され、これが一次被膜21となる。なお、余剰の水素はガスとなる。
2Al+4HO→Al・HO+3H
化成被膜処理によりAlが酸化された分だけ、一次被膜21形成後のコア粒子10の表面近傍領域の組成は、当初の組成(Xwt%Al−Ywt%Si)よりも僅かにAlが欠乏した状態となる([X−Z]wt%Al−[Y+Z]wt%Si)。
この化成被膜処理はコア粒子10を成す潜熱蓄熱材料に応じて適宜選択すればよく、ゾル・ゲル法、アルカリ−クロム塩酸法、ベーマイト法、クロム塩酸法、リン酸−クロム塩酸法、リン酸亜鉛法、ノンクロメート化成被膜処理法などを例示することができるが、これらに限られるものではない。
潜熱蓄熱材料がAl−Si合金から成る場合には、化学的にアルミニウム表面に酸化被膜を生成させる手法のひとつであるベーマイト法、すなわち、高温の蒸留水中又は弱アルカリ水溶液中でアルミニウムの表面に被膜を形成する方法が効果的である。ベーマイト処理はアルミニウムを含む合金表面におおむね均一にAl・HO被膜を形成させることが知られており、緻密な酸化被膜を得ることを目的とした時に最適なプロセスである。また、この時の処理温度はおおむね、該当する潜熱蓄熱材を構成する元素の融点より低い温度で実施することが知られている。
上記第1のステップに続き、一次被膜21を熱処理してコア粒子10の表面に二次被膜20としての酸化被膜を形成する(C)。
この熱処理において、下記の反応式の如く、一次被膜21である酸化アルミニウムの水和物(Al・HO)から水分が解離して結晶質の酸化アルミニウム(Al)となり、同時に、コア粒子10の表面のAl成分も酸素と反応して結晶質の酸化アルミニウム(Al)となる。これにより、コア粒子10が固相状態にある場合はもとより、コア粒子10が液相状態にある場合においても、溶解した潜熱蓄熱材料の成分を内部に留め置く酸化被膜20が得られる。
Al・HO→Al+HO↑
2Al+1.5O→Al
この熱処理においても、上述の化成被膜処理と同様に、Alが酸化された分だけ、二次被膜20形成後のコア粒子10の表面近傍領域の組成は、一次被膜21形成後の組成([X−Z]wt%Al−[Y+Z]wt%Si)よりもAlが欠乏した状態となる([X−Z´]wt%Al−[Y+Z´]wt%Si)。
上述のように、第1ステップとしての化成被膜処理および第2ステップとしての熱処理によりAlが酸化される分だけ、コア粒子10の表面近傍領域のAl組成は、当初の組成(Xwt%Al−Ywt%Si)よりも欠乏した状態となる。従って、最終的に得られる潜熱蓄熱体のコア粒子10の表面近傍領域の組成を、バルクの組成(Xwt%Al−Ywt%Si)に等しくしたい場合には、コア粒子10の表面に予めAlを薄く蒸着しておくなどの方法により、上記酸化により欠乏することとなる分だけ表面をAlリッチな状態としておくことが好ましい。
または、最終的に得たい潜熱蓄熱材の組成(Xwt%Al−Ywt%Si)に対して、あらかじめ合金の組成を調整しておくことが望ましい。例えば、最終製品を得るまでに、初期の組成に対してZ´wt%の組成変動があるとすると、初期の組成が例えば([X+Z]wt%Al−[Y−Z]wt%Si)の合金を使用することが好ましい。
また、上述の第2のステップの熱処理は、潜熱蓄熱材料の融点以上の温度で実行することが好ましい。一般的に固相時の体積Vと液相時の体積VがV≦Vの関係にある。つまり、コア粒子10が固相の状態にある際の体積Vは、液相時の体積Vを超えることはない。従って、コア粒子10の表面に形成された一次被膜を熱処理して酸化被膜20とする第2のステップの温度を潜熱蓄熱材料の融点以上の温度で実行しておけば、この熱処理により形成された酸化被膜20のシェルの内容積は、コア粒子10が取り得る最大体積となり、繰り返し使用してもコア粒子10の膨張に起因しての破損の恐れはない。
特に、潜熱蓄熱材料としてAl−Si合金を選択した場合には、第2のステップの熱処理は880℃以上の温度で実行することが好ましい。また、熱処理温度の上限は1230℃とすることが好ましい。Al−Si合金の融点は、AlとSiの組成比にもよるが600℃前後であり、例えばSiの含有比が25wt%のAl−Si合金の融点は580℃である。従って、第2のステップでの熱処理により形成される酸化被膜20のシェルの内容積をコア粒子10が取り得る最大体積とするだけであれば、例えば700℃の温度で熱処理してコア粒子10の表面に二次被膜20としてのアルミニウム酸化膜を形成すれば十分である。
しかし、熱処理により形成されるアルミニウム酸化膜は、概ね800℃以下の比較的低温ではγ−Alの結晶形をとり、化学的に安定とされるα−Alの結晶形をもつ二次被膜20は概ね880℃以上の比較的高温で得られる。このため、潜熱蓄熱材料としてAl−Si合金を選択した場合には、化学的に安定なα−Alの二次被膜20を得るべく、第2のステップの熱処理を880℃以上の温度とすることが好ましい。これにより、化成被膜及び該熱処理時の酸化により新たに形成される酸化被膜をα−Alとすることができる。
本発明の潜熱蓄熱体を耐熱性母材中含有させる又は多孔質材料中に担持させることで、既存の蓄熱レンガや蓄熱用セラミックスボール、多孔質セラミックスフィルターに替わるバルクの蓄熱材として使用する形態が考えられる。
また、上述の潜熱蓄熱体に、ゾル・ゲル法、CVDや電気めっき、無電解めっきなど化学的手法やPVDなどの物理的処理を施すステップを設け、金属被膜や酸化物被膜の上塗りを行うことで、カプセルの機械的強度の強化が可能である。
さらに、上述の潜熱蓄熱体のカプセル表面に、各種触媒粒子を担持又は析出させることで、触媒機能と蓄熱機能の両方を有する蓄熱体(触媒機能性潜熱蓄熱体)を作製することが可能である。
図4は、本実施例における潜熱蓄熱体の製造方法のプロセスを説明するための図で、図4(A)〜(C)はそれぞれ、図3(A)〜(C)に対応している。本実施例では、コア粒子10を成す潜熱蓄熱材料を、Siの含有比が12〜25wt%のAl−Si合金とし、先ず、Al−12〜25wt%Siの合金から成るコア粒子10を準備する(A)。コア粒子10は、後述の「カプセル化」すべき粒子サイズに応じて適宜設定することとなるが、概ね10μmよりも大きい粒径のものであれば「カプセル化」が可能である。ここでは、平均直径が36μm程度のものを用いている。
このコア粒子10を、蒸留水を入れたビーカ30内に充填し、ホットプレート40で蒸留水を100℃に加熱し、攪拌棒50で攪拌しながら3時間、コア粒子10の表面をベーマイト処理する。この処理により、コア粒子10の表面に、α−Alの前駆体となる酸化アルミニウムの一次被膜が形成される(B)。
次いで、酸化アルミニウムの一次被膜が形成されたコア粒子10を坩堝60内に充填し、この坩堝60を挿入棒70Aの先端に設けられた熱電対70Bの上部に載置し、ヒータ80A、80Bを備えた熱処理炉200内にセットする(C)。
この熱処理炉のガス導入口90Aからは酸素ガスが供給され、排ガスはガス排出口90Bから外部へと導かれる。この酸素雰囲気中で、酸化アルミニウムの一次被膜が形成されたコア粒子10の温度を徐々に上げ、試料が880〜1230℃の所定の温度(例えば930℃)に達した時点から6時間の熱処理(酸化処理)を施し、コア粒子10の表面に二次被膜20としてのα−Al膜を形成する。
図5は、上記の各ステップでの、コア粒子10乃至潜熱蓄熱体100の形状および表面状態をSEMにより観察した一例で、この例のものは、Al−25wt%Siの合金から成るコア粒子10に930℃で酸化処理を施したものである。図5(A)〜(C)のSEM像はそれぞれ、Al−25wt%Siの合金から成るコア粒子10(A)、コア粒子10の表面にα−Alの前駆体となる酸化アルミニウムの一次被膜が形成された状態のもの(B)、および、コア粒子10の表面に二次被膜20としてのα−Al膜が形成された潜熱蓄熱体100のものである。
図5(A)のSEM像から明らかなように、このコア粒子10は比較的滑らかな表面をもち、その形状は略真球である。また、そのサイズを確認したところ、平均直径は約36μmであり、60μmを超える粒子は確認されなかった。
図5(B)のSEM像を見ると、第1のステップの化成被膜処理(ベーマイト処理)後の表面は凹凸を帯び、コア粒子10の表面に一次被膜が形成されていることが確認できる。この表面をEDS分析すると、アルミニウムのピークと酸素のピークが確認できる。つまり、このベーマイト処理により、Al−25wt%Siの合金から成るコア粒子10の表面では、アルミニウムの酸化反応が進行し、酸化アルミニウムの一次被膜が形成されている。しかし、ベーマイト処理後の粒子のサイズに、顕著な変化は認められない。
これに対し、図5(C)のSEM像を見ると、上述の熱処理(酸化処理)後の粒子サイズは、処理前に比べて明らかに大きくなっていることが分かる。これに加え、酸化処理後の表面には、全表面を恰も幾つかの領域に区画されるかのような「境界」が確認できる。この表面をEDX分析すると、アルミニウムのピークと酸素のピークが確認され、アルミニウムの酸化反応がさらに進行し、酸化アルミニウムの二次被膜が形成されていることが分かる。
なお、上述のとおり、Siの含有比が25wt%のAl−Si合金の融点は580℃であり、本実施例で酸化被膜内側へのコア粒子の閉じ込めを行ったAl−12〜25wt%Siの合金の何れについてもその酸化処理は当該融点を超える880〜1230℃の範囲内の温度で実施しているが、当該範囲内の何れの温度条件下で酸化処理した場合でも、酸化処理後の潜熱蓄熱体のSEM像からは、酸化処理工程でコア粒子を成すAl−Si合金が漏れ出た形跡は認められていない。つまり、第2のステップでの熱処理温度がコア粒子を成す材料の融点以上の温度で実行されても、酸化被膜のシェルの内側にコア粒子を閉じ込めること、換言すれば「カプセル化」することが可能である。
図6は、酸化処理温度と「カプセル化」の酸化温度依存性を確認した実験結果を説明するためのSEM像で、(A)〜(E)の酸化時の試料温度はそれぞれ、830℃、980℃、1030℃、1130℃、1230℃である。なお、何れの試料についても、コア粒子はAl−25wt%Siの合金であり、ベーマイト処理は蒸留水中(100℃で3時間)で行い、酸化処理は純酸素雰囲気中で6時間とした。
図6(A)に示した酸化温度830℃のものでは、カプセルとなるべき酸化被膜の「破断」が顕著に観察され、「カプセル化」されていないことが分かる。
これに対し、上記880〜1230℃の範囲内の温度で酸化処理した試料(B)〜(E)では、何れにおいても斯かる酸化被膜の「破断」は観察されず、「カプセル化」されている。
図6(B)に示した酸化温度980℃のものでは、図5(C)に示した酸化温度1030℃のものと略同様の表面状態の酸化被膜による「カプセル化」が実現している。
また、図6(C)に示した酸化温度1030℃のものでは、酸化被膜同士の境界部に針状結晶状のものの発生が認められる。
さらに、図6(D)に示した酸化温度1130℃のものでも十分な「カプセル化」が確認できる。
しかし、1230℃で酸化処理した試料(E)では、酸化被膜の「破断」は観察されないものの「剥離」の発生の兆しが認められる。従って、これよりも高い温度では酸化被膜の剥離が進行して「カプセル化」を阻害する懸念がある。このため、本発明者らは、熱処理温度の上限として1230℃が好ましいと判断した。
図7は、1130℃で酸化処理してマイクロカプセル化した潜熱蓄熱体(図7(A))をFIB加工により断面を観察したSEM像(図7(B))である。図7(B)には、コア粒子と酸化被膜との間に、バッファとしての空隙が明瞭に観察される。なお、このような空隙は、その他の温度で酸化処理した試料でも確認された。
図8は、Al−25wt%Siの合金から成るコア粒子(A)、ベーマイト処理後の粒子(B)、および、930℃での酸化処理後の粒子(C)からのX線回折チャートである。Al−25wt%Siの合金から成るコア粒子からは、当然のことながら、金属Alに対応する回折線と金属Siに対応する回折線が認められる。ベーマイト処理後の粒子からのX線回折チャートにも、金属Alに対応する回折線と金属Siに対応する回折線が認められる一方で、酸化アルミニウムに対応する回折線は認められない。これは、ベーマイト処理後に形成された一次被膜は、その組成は酸化アルミニウムではあるものの、結晶子サイズが極めて小さいか、若しくは、アモルファス状態にあるためであると考えられる。
これに対し、酸化処理後の粒子からは、X線回折チャートである。金属Alに対応する回折線と金属Siに対応する回折線に加え、α−Alに対応する回折線が明瞭に認められる。この事実に加え、2θ=38°近傍のAlの最強線と2θ=28°近傍のSiの最強線の比から、酸化処理により、粒子の組成が、当初のものよりもSiリッチ(Alリーン)になっていることが読み取れる。この例では、粒子の平均組成は、モル比(mol%)でAl:Si:O=56:36:7程度と思われる。つまり、酸化処理によりコア粒子の表面近傍領域のAlが消費され、その分だけSiリッチ(Alリーン)になっている。
図9(A)、(B)はそれぞれ、上述の酸化処理後の粒子の断面のSEM像(A)、ならびに、この断面の酸素の元素マッピング(B)の図である。酸化被膜処理後には約2μm程度の緻密な酸化物相の形成が確認できる。X線解析チャートより、この相はα−Alであり、α−Alによる緻密なカプセル化に成功した。
図10は、未処理のコア粒子、ベーマイト処理後の粒子、および、930℃での酸化処理後の粒子の粒度分布を測定した結果を纏めた図である。何れの粒子においても、粒度分布はシャープな正規分布が得られている。先ず、未処理のコア粒子についてみると、平均直径は36.3μmという値が得られている。このコア粒子にベーマイト処理した後の平均粒子径は38.3μmとなっており、この結果から、ベーマイト処理後のコア粒子の表面には、厚みが1μm程度の一次被膜が形成されているものと考えられる。
このベーマイト処理後の粒子を酸化処理すると、アルミニウムの酸化反応がさらに進行してα−Alの二次被膜となり、平均粒子径は40.7μmにまで径拡大している。この結果によれば、未処理のコア粒子の表面には、最終的に約2μmの厚みのα−Alの二次被膜が形成されたことを意味している。化学的に安定なα−Alの二次被膜が2μm程度の厚みでコア粒子の表面を被覆することにより、コア粒子が液相状態にある場合においても、溶解した潜熱蓄熱材料の成分はその内部に留め置くことが可能となる。
図11は、未処理のコア粒子、930℃での酸化処理直後の粒子、および、融解凝固を10回繰り返した後の粒子のそれぞれの、示差走査熱量測定により得られたDSC曲線である。これらの結果から、未処理のコア粒子については融解熱L=432J/gで融点T=577℃、酸化処理直後の粒子については融解熱L=247J/gで融点T=573℃、そして、融解凝固を10回繰り返した後の粒子については融解熱L=245J/gで融点T=573℃、という値が得られる。つまり、本実施例で得られた潜熱蓄熱体は、未処理のコア粒子の潜熱量の約60%を保持していることになる。そして、この潜熱量は、融解凝固を10回繰り返した後においても保持されていることが分かる。
図12は、上述の融解凝固を10回繰り返した後の粒子のSEM像である。当該粒子の形状等は、図5(C)のSEM像に示されたものと概ね同じであり、融解凝固を10回繰り返した後においても、製造後の形状等が維持されていることが分かる。
なお、これまでは、Al−25wt%Siの合金から成るコア粒子を用いた場合についての実験例を示したが、本発明者らは、Al−12〜25wt%Siの合金から成るコア粒子を用いた場合においても実験を行い、同様の結果が得られている。
図13は、Si含有量が異なるAl−Siの合金から成るコア粒子を用いて上述のカプセル化(試料温度930℃で6時間)を行った潜熱蓄熱体の例で、図13(A)はAl−12wt%Siの合金から成るコア粒子、図13(B)はAl−17wt%Siの合金から成るコア粒子、図13(C)はAl−25wt%Siの合金から成るコア粒子をカプセル化した潜熱蓄熱体のSEM像である。
Al−Siの合金のSi含有量の違いにより、カプセル化された潜熱蓄熱体の表面形状異なるものの、何れのものもカプセル化が達成されている。 本発明者らは、原理的には、Si含有量が0wt%であっても(すなわち、Al金属をコア粒子としても)、カプセル化は可能であると考えている。
なお、上記では、平均直径が36μm程度のAl−25wt%Siの合金から成るコア粒子を用いた場合についての実験例を示したが、概ね10μmよりも大きい粒径のものであれば「カプセル化」が可能である。
図14は、平均直径が20μm程度のAl−25wt%Siの合金から成るコア粒子を用いて得られた潜熱蓄熱体のSEM像(図14(A))、および、平均直径が10μm程度のAl−25wt%Siの合金から成るコア粒子を用いて得られた潜熱蓄熱体をFIB加工して断面を観察したSEM像(図14(B))の例である。なお、カプセル化時の試料温度は1130℃で処理時間は6時間である。
図14(A)に示したSEM像から、平均直径が20μm程度のAl−Siの合金から成るコア粒子を用いた場合でも、比較的真球に近い粒子としてカプセル化が実現されていることが分かる。また、図14(B)に示したSEM像から、平均直径が10μm程度のAl−Siの合金から成るコア粒子を用いた場合には真球度は低くなるものの、カプセル化そのものは実現されていることが分かる。
本発明の潜熱蓄熱体は、蓄放熱サイクル時の極めて高い耐久性を示す。
図15は、1150℃での酸化処理直後の粒子、酸素雰囲気下で融解凝固を100回繰り返した後の粒子、酸素雰囲気下で融解凝固を300回繰り返した後の粒子のそれぞれの、示差走査熱量測定により得られたDSC曲線である。なお、この結果は、Al−25wt%Siの合金から成るコア粒子を用いて得た潜熱蓄熱体のものであり、融解凝固サイクルは、500℃での凝固と650℃での融解を、50K/minの条件で繰り返した。これらの結果から、この潜熱蓄熱体は、その蓄熱特性を、融解凝固を300回繰り返した後においても保持していることが分かる。また、SEM観察の結果、300サイクルの融解凝固後も、潜熱蓄熱体は初期の形状を維持していた。なお、上記実験では、酸素雰囲気下で融解凝固を繰り返したが、Ar雰囲気下で行った同様の実験でも、概ね同様の結果が得られている。本発明者らは、酸化処理時の温度を高めに設定することにより、酸化被膜強度が高まり、その結果、融解凝固サイクル特性も高まるものと考えている。
上述のとおり、このような潜熱蓄熱体に、ゾル・ゲル法、CVDや電気めっき、無電解めっきなど化学的手法やPVDなどの物理的処理を施すステップを設け、金属被膜や酸化物被膜の上塗りを行うことで、カプセルの機械的強度の強化が可能である。
図16は、Al−Si合金から成るコア粒子の表面にAlの酸化被膜を形成し、更に、Ni膜を0.7μm程度の厚みで被覆させた潜熱蓄熱体のSEM像である。
以上説明したように、本発明に係る潜熱蓄熱体は、潜熱蓄熱材料から成るコア粒子の表面が該コア粒子の組成元素の酸化被膜で被覆されている。そして、このコア粒子は、固相時の体積Vと液相時の体積Vが、V≦Vの関係を有する金属若しくは合金の潜熱蓄熱材料から成る。このため、コア粒子とこれを収容するシェルに相当する酸化被膜を別々に作製した上でシェルの内部にコア粒子を収容するという工程が不要となることに加え、固相から液相に相変態した際のコア粒子の膨張がないため、溶解した潜熱蓄熱材料の成分は酸化被膜で覆われた空間内部に留まり、酸化被膜が損傷を受けることがない。さらに、上記酸化被膜は化学的に安定なものとすることができるため、蓄熱サイクルの過程でも安定で、比較的高温でも利用可能な、蓄熱密度と熱伝導性に優れた潜熱蓄熱体を提供することが可能となる。
本発明は、蓄熱サイクルの過程でも安定で、比較的高温でも利用可能な、蓄熱密度と熱伝導性に優れた潜熱蓄熱体を提供する。
10 コア粒子
20 酸化被膜
30 ビーカ
40 ホットプレート
50 攪拌棒
60 坩堝
70A 挿入棒
70B 熱電対
80A ヒータ
80B ヒータ
90A ガス導入口
90B ガス排出口
100 潜熱蓄熱体
200 熱処理炉

Claims (17)

  1. 金属若しくは合金の潜熱蓄熱材料から成るコア粒子の表面が、該コア粒子の組成元素の緻密な第1の酸化被膜と、該緻密な第1の酸化被膜の外表面に設けられた前記コア粒子の組成元素の第2の酸化被膜とからなる二重被膜で被覆されている潜熱蓄熱体マイクロカプセルであって、
    前記コア粒子を成す金属若しくは合金は、Al若しくはAl−Si合金である、潜熱蓄熱体マイクロカプセル。
  2. 前記Al−Si合金は、融解時体積膨張率が負であるSiの含有比の調整により融解時の体積膨張率を低く制御可能である、請求項に記載の潜熱蓄熱体マイクロカプセル。
  3. 前記第1の酸化被膜と前記第2の酸化被膜は何れもα−Alである、請求項又はに記載の潜熱蓄熱体マイクロカプセル。
  4. 請求項の何れか1項に記載の潜熱蓄熱体マイクロカプセルであって、表面に機械的強度の強化のための金属被膜を備えている、潜熱蓄熱体マイクロカプセル。
  5. 前記潜熱蓄熱材料が固相状態にあるときに、前記コア粒子と前記第1の酸化被膜との間にバッファとしての空隙を有している、請求項の何れか1項に記載の潜熱蓄熱体マイクロカプセル。
  6. 金属若しくは合金の潜熱蓄熱材料から成るコア粒子の表面を化成被膜処理して一次被膜を形成する第1のステップと、
    前記一次被膜を熱処理して前記コア粒子の表面に二次被膜としての酸化被膜を形成する第2のステップとを備えており前記潜熱蓄熱材料はAlまたはAl−Si合金から成る、潜熱蓄熱体の製造方法。
  7. 前記第1のステップの化成被膜処理は、ゾル・ゲル法、陽極酸化処理、アルカリ−クロム塩酸法、ベーマイト法、クロム塩酸法、リン酸−クロム塩酸法、リン酸亜鉛法、ノンクロメート化成被膜処理法の何れかである、請求項に記載の潜熱蓄熱体の製造方法。
  8. 前記第2のステップの熱処理を、前記潜熱蓄熱材料の融点以上の温度で実行する、請求項又はに記載の潜熱蓄熱体の製造方法。
  9. 前記第1のステップの化成被膜処理はベーマイト法で行う、請求項又はに記載の潜熱蓄熱体の製造方法。
  10. 前記第1のステップの化成被膜処理において、下記の反応式に従い前記一次被膜を形成する、請求項又はに記載の潜熱蓄熱体の製造方法。
    2Al+4HO→Al・HO+3H
  11. 前記第2のステップの熱処理において、下記の2式の少なくとも一方の反応式に従い前記化成被膜をAlとする、請求項10の何れか1項に記載の潜熱蓄熱体の製造方法。
    Al・HO→Al+HO↑
    2Al+1.5O→Al
  12. 前記第2のステップの熱処理をα−Al被膜が生成する温度で実行し、前記化成被膜及び該熱処理時の酸化により新たに形成される酸化被膜をα−Alとする、請求項11に記載の潜熱蓄熱体の製造方法。
  13. 前記第1のステップの化成被膜処理に供する前記Al−Si合金のAl濃度を、前記第2のステップ完了後のAl−Si合金のAl濃度よりも高く設定する、請求項12の何れか1項に記載の潜熱蓄熱体の製造方法。
  14. 前記第1のステップは、前記化成被膜処理に先立ち、前記コア粒子の表面のAl濃度を、バルクのAl濃度よりも高めておくサブステップを備えている、請求項12の何れか1項に記載の潜熱蓄熱体の製造方法。
  15. 前記酸化被膜の表面に化学的若しくは物理的処理を行い、機械的強度の強化のための金属被膜を形成する第3のステップを備えている、請求項14の何れか1項に記載の潜熱蓄熱体の製造方法。
  16. 請求項に記載の潜熱蓄熱マイクロカプセルが、耐熱性母材中に分散して坦持されている、熱交換材料。
  17. 請求項に記載の潜熱蓄熱マイクロカプセルの表面に触媒材料を担持または析出させた、触媒機能性潜熱蓄熱体。
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