JP7352306B2 - 潜熱蓄熱体マイクロカプセルおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、潜熱蓄熱体マイクロカプセルおよびその製造方法に関し、特に、ガリウムまたはガリウム合金からなるコアをガリウム酸化物またはガリウム水酸化物からなるシェルで覆った潜熱蓄熱体マイクロカプセルおよびその製造方法に関する。
近年、リチウムイオン電池の開発が進み、電池の高出力化、高容量化が急速に進んだが、電池特性の最適化、長寿命化、及び安全性の更なる向上には、高度な電池の熱管理が必要となる。例えば、電池の充放電時に、電池セルの発熱によりセル温度が上昇し、電池性能の劣化や熱暴走を招く恐れがあるため、電池の充放電時にセル温度を最適な温度(~50℃程度)に維持することが必要となる。
また、電気自動車の航続距離は改善されているが、一方で、夏期間の冷房や、冬期間の暖房のための電力消費による、航続距離の減少が問題となっている。自動車内で発生する熱を、ヒートポンプを介して吸収し、冷房や暖房に効率的に使用することができれば、航続距離の減少は防げるが、エンジンという大きな熱源を持つ内燃機関自動車と異なり、電気自動車は熱発生プロセスや熱発生量が少ないため、より効果的に熱を集める高度な熱マネージメント技術が必要となる。
これに対して、PCM(Phase Change Material:相変化物質)はリチウムイオン電池からの発熱を吸収し、モジュール内を一定温度に維持する熱バッファとして利用できる可能性がある。また、PCMを各熱発生箇所に配置することで、複数の箇所で断続的に発生する熱を回収し、一定温度の熱源として利用できる可能性もある。このため、ノルマルパラフィンのような有機化合物を金属製のシームレスカプセルで包んだ潜熱蓄熱体の使用が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2016-215745号公報
しかしながら、一般的にPCMの熱伝導率は低く、例えば上述の潜熱蓄熱体では熱伝導率が約0.21W/m・Kと非常に低く、熱を迅速に吸収できないという問題があった。また、電気自動車の内部で蓄熱材を配置できる空間は極めて限られるため、フレキシブルに形状が変えられる潜熱蓄熱体の開発が必要であった。
そこで本発明は、従来のPCMより熱伝導率が高く、かつフレキシブルに形状を変えることができる潜熱蓄積体マイクロカプセルおよびその製造方法の提供を目的とする。
本発明の1つの形態は、
ガリウムまたはガリウム合金からなるコアと、
コアを覆い、ガリウム酸化物からなるシェルと、を備えた潜熱蓄熱体マイクロカプセルである。
本発明の他の形態は、
ガリウムまたはガリウム合金からなるコアと、
コアを覆い、ガリウム水和物からなるシェルと、を備えた潜熱蓄熱体マイクロカプセルである。
本発明の他の形態は、
潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法であって、
液体状態のガリウムまたはガリウムの合金を粒子にする粒子化工程と、
粒子を蒸留水中で加熱して、粒子の表面にガリウム水和物を形成する水処理工程と、
ガリウム水和物を酸化して、ガリウム酸化物からなるシェルを形成する酸化処理工程と、を含むことを特徴とする潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法である。
本発明の他の形態は、
潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法であって、
液体状態のガリウムまたはガリウムの合金を粒子にする粒子化工程と、
粒子を冷却して固体状態にする冷却工程と、
粒子を所定のpHの水溶液中に浸漬してガリウム水和物からなるシェルを形成するpH処理工程と、を含むことを特徴とする潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法である。
本発明の形態にかかる潜熱蓄熱体マイクロカプセルでは、熱伝導率および蓄熱密度が高く、かつ形状がフレキシブルな蓄熱材の提供が可能となる。
また、本発明の形態にかかる潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法では、熱伝導率および蓄熱密度が高く、かつ熱耐久性の高い潜熱蓄熱体マイクロカプセルの提供が可能となる。
本発明の実施の形態にかかる潜熱蓄熱体マイクロカプセルを説明する模式図である。 混合物シェル中のβ-Gaの重量割合と重量ベース蓄熱量との関係である。 液体状態のガリウムをシェルで覆う潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法を説明する図である。 酸化処理工程の酸化温度を変えた場合の表面のSEM写真である。 シェルを形成するガリウム酸化物をXRDで調べた結果である。 潜熱量・融点の示差走査熱量の測定結果である。 化成処理後、酸化処理後の試料について、繰り返し蓄放熱試験を行った前後のSEM写真である。 酸化処理後の試料について、相変態回数(サイクル)と正規化された潜熱、相変態温度との関係、および繰り返し蓄放熱試験後の試料の表面SEM写真である。 液体状態のガリウムをシェルで覆う潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法を説明する図である。 80℃、100℃で化成処理した後の潜熱蓄熱体マイクロカプセルのSEM写真である。 水処理温度を80℃、100℃、水処理時間を3時間とした場合のシェルのXRD分析結果である。 図11と同じ試料について潜熱量を測定した結果である。 水処理時間15分間、3時間、5時間とした場合の水処理後の潜熱蓄熱体マイクロカプセルのSEM写真である。 水処理時間が5時間、処理温度が100℃の場合の潜熱蓄熱体マイクロカプセルのSEM写真である。 水処理温度を100℃とし、水処理時間を変化させた場合のシェルのXRD分析結果である。 図15と同じ試料について潜熱量を測定した結果である。 GaOOHシェルの熱耐久性試験の結果である。 水処理工程後、酸化処理工程後の断面をSEM-EDS結果である。 固体状態のガリウムをシェルで覆う潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法を説明する図である。 pH処理条件を変えた場合の潜熱蓄熱体マイクロカプセルの表面のSEM写真である。 pH11で処理時間5時間の潜熱蓄熱体マイクロカプセルの断面SEM写真である。 図20の6つの試料についてX線回折を行った結果である。 酸化処理時間と、酸化処理中の重量変化との関係である。 図20の6つの試料についての、潜熱の示差走査熱量の測定結果である。 pH11で処理時間5時間の試料に繰り返し蓄放熱試験を行った前後のSEM写真である。 pHが7-11の溶液中で5時間攪拌した後の潜熱蓄熱体マイクロカプセルの表面のSEM写真である。 図26の6つの試料についてX線回折を行った結果である。 図26の6つの試料についての潜熱の示差走査熱量の測定結果である。 pH9、11の溶液中で処理した潜熱蓄熱体マイクロカプセルおよびGaの溶融・凝固の示差走査熱量の測定結果である。 pH9、11の溶液中で処理した潜熱蓄熱体マイクロカプセルの繰り返し試験前後の表面SEM写真である。
1.潜熱蓄熱体マイクロカプセル
図1は、本発明の実施の形態にかかる潜熱蓄熱体マイクロカプセル(以下において、単に「マイクロカプセル」ともいう。)を説明する模式図である。本発明の実施の形態では、PCM(Phase Change Material:相変化物質)であるガリウムを潜熱蓄熱体として用いる。ガリウムの融点は約29.8℃であり、融点近傍で固体から液体に融解する際に蓄熱し、逆に液体から固体に凝固する際に放熱する。
このため、ガリウムを、潜熱蓄熱体として使用する温度範囲では溶融しないマイクロカプセルに封止することで、潜熱蓄熱体を常に固体として使用することができる。また、直径が数十μmのマイクロカプセルとすることで、伝熱面積が大きくなり、熱応答性が向上する。
蓄熱材を、直径が数十μmの潜熱蓄熱体マイクロカプセルの集合体から形成することで、大きさや形状を任意に変えることができる。このため、蓄熱材を配置できる空間が極めて限られる電気自動車等の内部にも配置が可能となる。
図1の右図に示すように、潜熱蓄熱体マイクロカプセルは、ガリウム(Ga)からなるコアと、ガリウム酸化物またはガリウム水和物(GaまたはGaOOH)からなるシェル(カプセル)からなる。
(1)ガリウム/ガリウム酸化物マイクロカプセル
潜熱蓄熱体マイクロカプセルのコアがガリウム(Ga)からなり、シェルがガリウムの酸化物からなる場合、ガリウムの酸化物(Ga)は、β-Ga3、またはβ-Gaとα-Gaの混合物からなる。
図2は、潜熱蓄熱体マイクロカプセルのうち混合物シェルの占める体積割合が0.1の場合の、混合物シェル全体に対するβ-Gaの重量割合((β-Ga)/(α-Ga+β-Ga))と、重量ベース蓄熱量との関係を示す。図2からわかるように、β-Gaの割合が増加するほどマイクロカプセルの重量ベース蓄熱量は増加する。このように、シェル中のβ-Gaの割合が高い方が好ましく、例えば、重量割合が0.7以上で1以下の範囲であることが好ましい。
シェルがすべてβ-Gaからなるマイクロカプセルでは、シェルの体積割合が0.1の時、蓄熱密度は約426MJ/mとなる。これは、特許文献1に記載されたコアをパラフィン系有機化合物としたマイクロカプセルの蓄熱密度(約180MJ/m)に比較して約2.4倍の大きさとなる。
マイクロカプセルはほぼ球体であり、直径は、20μm以上で60μm以下、好適には30μm以上で40μm以下である。また、ガリウム酸化物からなるシェルの膜厚は、例えば0.5μm以上で1.0μm以下であることが好ましい。マイクロカプセルの半径r1とシェルの膜厚r2との比(r2/r1)は0.025以上で0.07以下であることが好ましい。
マイクロカプセルを、直径が20μm~60μm程度の球体とすることで、伝熱面積(マイクロカプセルの表面積)を大きくすることができる。また、コアの熱伝導率は、約40W/mKである。これは、特許文献1に記載されたコアをパラフィン系有機化合物としたマイクロカプセルのコアの熱伝導率(約0.21W/mK)と比較して約200倍の大きさとなる。
また、マイクロカプセルの密度は5910kg/mとなる。これは、特許文献1に記載されたコアをパラフィン系有機化合物としたマイクロカプセルの密度(約900kg/m)に比較して6倍以上の大きさとなる。
本発明の実施の形態にかかるマイクロカプセルでは、ガリウムが融点以下で固体となった状態で、シェルの内部の空間の体積は、ガリウムの体積と同じかより大きくなるように形成される。これにより、マイクロカプセルを蓄熱に用いた場合に、相変態でガリウムの体積が増加しても、コアが破損することがなく、信頼性の高いマイクロカプセルを形成することができる。
なお、コアの金属は、純ガリウム以外に、Ga-In、Ga-Sn、Ga-Zn等のガリウム合金であっても構わない。InやSn、Zn等を添加することにより、コアの融点を変えることができる。
また、マイクロカプセルにおいて、ガリウムやガリウム合金からなるコアと、ガリウム酸化物からなるシェルとの境界に、GaやGa合金と、Gaとの双方を含む領域を含んでも構わない。
(2)ガリウム/ガリウム水和物マイクロカプセル
潜熱蓄熱体マイクロカプセルのコアがガリウム(Ga)からなり、シェルがガリウムの水和物からなる場合、ガリウムの水和物は、例えばGaOOHからなる。
マイクロカプセルはほぼ球体であり、直径は、20μm以上で60μm以下、好適には30μm以上で40μm以下である。また、ガリウム水和物からなるシェルの膜厚は、例えば0.5μm以上で1.0μm以下であることが好ましい。マイクロカプセルの半径r1とシェルの膜厚r2との比(r2/r1)は、0.025以上で0.07以下であることが好ましい。
本発明の実施の形態にかかるマイクロカプセルでは、ガリウムが融点以下で固体となった状態で、シェルの内部の空間の体積は、ガリウムの体積と同じかより大きくなるように形成される。これにより、マイクロカプセルを蓄熱に用いた場合に、相変態でガリウムの体積が増加しても、コアが破損することがなく、信頼性の高いマイクロカプセルを形成することができる。
なお、コアの金属は、純ガリウム以外に、Ga-In、Ga-Sn、Ga-Zn等のガリウム合金であっても構わない。InやSn、Zn等を添加することにより、コアの融点を変えることができる。
また、マイクロカプセルにおいて、ガリウムやガリウム合金からなるコアと、ガリウム酸化物からなるシェルとの境界に、GaやGa合金と、Gaとの双方を含む領域を含んでも構わない。
2.潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法
ガリウムは液体から固体に凝固する際に3.2%体積が膨張する。このため、液体のガリウムを固体のシェルで覆ったマイクロカプセルでは、ガリウムの凝固時にガリウムが体積膨張しマイクロカプセルが破損するという問題があった。
本発明の実施の形態では、上述のように、コアのガリウムが融点以下で固体となった状態で、シェルの内部の空間の体積は、ガリウムの体積と同じかより大きくなるように作製される。このようなマイクロカプセルの作製には、(1)液体状態のガリウムをシェルで覆う場合は、ガリウムを融点から加熱して、予め3.2%以上体積膨張させた状態(体積が約1.03倍以上)で、シェルで覆う製造方法、または(2)ガリウムを融点以下に冷却し、固体状態にしてシェルで覆う製造方法が用いられる。
以下において、本発明の実施の形態にかかる潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法について、(1)液体状態のガリウムをシェルで覆う製造方法、(2)固体状態のガリウムをシェルで覆う製造方法、の順に説明する。なお、(1)の方法は、ガリウム/ガリウム酸化物マイクロカプセルの製造方法に、(2)の方法は、ガリウム/ガリウム水和物マイクロカプセルの製造方法に、それぞれ対応する。
(1)液体状態のガリウムをシェルで覆う製造方法
:ガリウム/ガリウム酸化物マイクロカプセルの製造方法
(1-1)製造方法
図3は、液体状態のガリウムをシェルで覆う潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法を説明する図である。製造方法は、図3に示す[1]~[3]の3つの工程を含む。
[1]ガリウム粒子作製工程
薄膜旋回型ミキサーを準備し、反応容器内にガリウム1.0gと蒸留水10mlを入れる。蒸留水の温度は、ガリウムの融点(約29.8℃)以上の温度であり、ここでは40℃に保持する。ガリウムの融点は約29.8℃なので、この状態でガリウムは液体である。
続いて、回転数16000rpmで30分間、ローターを回転させて、ガリウムを入れた蒸留水を攪拌する。これにより、直径が約30μmの、液体のガリウム粒子が蒸留水中に分散する。
[2]化成処理(水処理)工程
液体のガリウム粒子が分散した蒸留水に、さらに蒸留水を加えて合計100mlにする。蒸留水の温度を100℃に保持して、ホットスターラーで3時間、攪拌する。これによりガリウム粒子の表面が薄いガリウム水和物、例えばGaOOHにより覆われる。
[3]酸化処理工程
ガリウム粒子を蒸留水から出し、酸化処理を行う。酸素雰囲気で、300℃~700℃の範囲内の温度、例えば600℃で、3時間保持する。この工程で、脱水反応により、GaOOH膜は固体のガリウム酸化物膜に変化する。また、コアであるGaの体積膨張に伴い、ガリウム酸化物の膜に亀裂が生じると同時に、その亀裂近傍に存在する液体Gaが瞬時に雰囲気中の酸素と反応し、ガリウム酸化物を形成する。この液体Gaの酸化によって生じたガリウム酸化物が、GaOOH膜由来のガリウム酸化物膜に発生した亀裂部分を覆い、一体化することで、ガリウム粒子の表面は固体のガリウム酸化物で覆われる。
上述のように、ガリウムは、融点が約29.8℃で、液体から固体に凝固する際に3.2%体積膨張する。このため、液体のガリウムを固体のガリウム酸化物で覆ったマイクロカプセルでは、ガリウムの凝固時にガリウムが体積膨張しマイクロカプセルが破損するという問題があった。そこで、この酸化処理工程では、液体のガリウムの体積を予め3.2%膨張させた状態で表面を酸化し、固体のガリウム酸化物でガリウムを覆う。
具体的には、約280℃に加熱することで、液体のガリウムは約3.2%体積膨張する。ここでは600℃に加熱して、ガリウムの表面にガリウム酸化物のシェルを形成する。
以上の工程で、液体のガリウム(Ga)からなるコアを、固体のガリウム酸化物(Ga)からなるシェルで覆った潜熱蓄熱体マイクロカプセルが完成する。
(1-2)ガリウム/ガリウム酸化物マイクロカプセルの評価
本発明の実施の形態にかかる製造方法で作製した潜熱蓄熱体マイクロカプセルについて、
・粒子表面・断面観察(SEM-EDS)
・シェルの同定(XRD)
・潜熱量・融点測定(DSC)
・繰り返し蓄放熱試験
を行って、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの評価を行った。
粒子表面・断面観察(SEM-EDS)
図4は、上述の[3]酸化処理工程の酸化温度を、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃にした場合の、表面のSEM-EDS写真である。他の酸化処理条件は同じである。
図4のSEM写真において、球状に写っているのが、表面がガリウム酸化物で覆われたマイクロカプセルである。酸化温度が300℃、400℃、500℃の場合、表面のガリウム酸化物に亀裂が入り(例えば、300℃の写真の中央のマイクロカプセル)、マイクロカプセル内部のガリウムが露出している。一方、600℃、700℃ではこのような亀裂は見られない。亀裂が入っても、露出したガリウムが再酸化され、自己修復したためと考えられる。
このように、酸化処理温度として、600℃および700℃を用いた場合に、コアのガリウムが3.2%以上膨張した状態で、ガリウム酸化物のシェルでコアを覆うことができ、ガリウムのカプセル化に成功している。
シェルの同定(XRD)
図5は、シェルを形成するガリウム酸化物をXRD(X線回折法)で調べた結果である。化成処理後の試料と、酸素雰囲気で、600℃で3時間、酸化処理を行った試料とを用いた。化成処理後の試料では、Ga(○)と共にGaOOH(□)が検出された。一方、酸化処理後の試料では、GaOOH(□)に代わってβ-Ga(△)が検出された。
図5から、化成処理後には、Gaコアの表面がGaOOHのシェルで覆われたマイクロカプセルが形成されており、一方、酸化処理後には、Gaコアの表面がβ-Gaのシェルで覆われたマイクロカプセルが形成されていることが分かる。
潜熱量・融点測定(DSC)
図6は、潜熱量・融点の示差走査熱量測定(DSC)結果である。左図が蓄熱(昇温)時、右図が放熱(冷却)時であり、それぞれ、横軸が温度、縦軸が熱流を表す。図6中、Lは潜熱、Tmは融点である。化成処理条件、酸化処理条件は、図5と同じである。
図6の左図では、潜熱は、純Gaでは92J/g、化成処理後は47.3(25+22.3)J/g、酸化処理後は51J/gとなっている。また、右図では、潜熱は、純Gaでは97J/g、化成処理後は46J/g、酸化処理後は46J/gとなっている。このように、化成処理後、酸化処理後において、純Gaの約50%の潜熱量を保持できることが分かる。
一方、化成処理後、酸化処理後の試料で、純Gaに比較して融点の低下(過冷却)が認められた。
繰り返し蓄放熱試験
図7は、化成処理後、酸化処理後の試料について、繰り返し蓄放熱試験を行った前後の、SEM-EDS写真である。図7の上段は化成処理後、図7の下段は酸化処理後であり、それぞれ蓄放熱試験の前後のSEM写真を示す。化成処理、酸化処理の条件は、図5の試料と同じである。繰り返し蓄放熱は、-80℃から50℃の温度範囲で、蓄放熱、即ち固相-液相間の相変態を10回行った。
図7から分かるように、化成処理後の試料(GaコアとGaOOHシェル)では、試験後に一部のシェルで破損が認められた。一方、酸化処理後(Gaコアとβ-Gaシェル)の試料では、一部に粒子で凝集が見られるものの、シェルの破損はなく、良好なマイクロカプセルとなっていることが確認できた。
図8は、酸化処理後(酸化温度:600℃)の試料について、繰り返し蓄放熱試験として固相-液相間の相変態を10回(溶融および凝固の組み合わせを10回)繰り返した場合の、相変態回数(サイクル)と正規化された潜熱、相変態温度との関係、および繰り返し蓄放熱試験後の試料の表面SEM写真である。横軸は相変態回数(サイクル)、縦軸は正規化された潜熱および相変態温度である。正規化は、初期値を1とした場合の値(1回目の相変態の値で除した値)で表す。
図8から分かるように、固相-液相間の相変態を10回繰り返しても、溶融僭越、凝固潜熱、溶融温度、凝固温度は殆ど変わらず、初期値に対して±0.0001の範囲内の変化となった。即ち、相変態を繰り返しても蓄放熱特性は安定していることがわかる。
また、図8のSEM写真を見ると、一部の試料でGaコアの漏れ出しや凝集が見られるものの、殆どの粒子が球形状を維持しており、これにより蓄放熱特性も安定しているものと考えられる。
以上のように、[1]ガリウム粒子作製工程、[2]化成処理(水処理)工程、[3]酸化処理工程を行うことにより、Gaを3.2%体積膨張させた状態でβ-Gaシェルで覆ったマイクロカプセルが得られた。マイクロカプセルでは、純Gaの約50%の潜熱量が得られた。また繰り返し蓄放熱試験の結果、シェルの破損は殆ど無く、安定した蓄放熱特性が得られることが分かった。
(1-3)シェルの膜厚の調整
Gaコアをβ-Gaシェルで覆ったマイクロカプセルについて、[2]化成処理(水処理)条件を変えて、シェルの膜厚の調整を行った。図9は、[1]ガリウム粒子作製条件、[3]酸化処理条件を固定し、[2]化成処理(水処理)条件を変化させたマイクロカプセルの製造方法を示す。以下の評価は[1]ガリウム粒子作製工程、[2]化成処理(水処理)工程を行い、[3]酸化処理工程を行う前の試料について行った。いわば、β-Gaシェルの前駆体の状態でシェルの評価を行った。
[1]ガリウム粒子作製条件は、蒸留水の温度を35℃とした以外は、図1と同じである。また、[2]化成処理(水処理)は、温度を60℃~100℃の範囲内で選択し、処理時間も5分間~5時間の範囲内で選択した。
作製したマイクロカプセルについて、
・粒子表面観察(SEM-EDS)
・シェルの同定(XRD)
・潜熱量・融点測定(DSC)
・繰り返し蓄放熱試験
を行って、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの評価を行った。
粒子表面観察(SEM-EDS)
図10は、水処理温度を60℃、70℃、80℃、100℃、水処理時間を3時間とした場合の、80℃および100℃で化成処理(水処理)後のマイクロカプセルのSEM写真である。上段は表面写真、下段は断面写真である。水処理温度を80℃、100℃とした場合、Gaコアの表面にシェル(GaOOH結晶)が形成されていることが分かる。シェルの膜厚は、80℃より100℃の方が厚くなっている。一方、化成処理温度を60℃、70℃とした試料では、表面に析出物は形成されなかった。
シェルの同定(XRD)
図11は、水処理温度を、Gaコアの表面にシェルが析出した80℃、100℃とし、水処理時間を3時間とした場合の、シェルのXRD分析結果である。水処理前のGa粒子では見られなかったGaOOHに起因するピークが、80℃、100℃で水処理をした試料で認められ、シェルとしてGaOOHが析出していることが分かる。特に、100℃で水処理をした試料で、より大きなピークが見られた。このGaOOHが、後の酸化処理でβ-Gaになると考えられる。
潜熱量・融点測定(DSC)
図12は、図11と同じ試料について潜熱量を測定した結果であり、図12において、横軸は温度、縦軸は熱流を表す。Ga粒子では潜熱が82J/gであるが、80℃、100℃の試料では、それぞれ潜熱が56J/g、46J/gとなっている。Gaのコアを、GaOOHのシェルで覆ったことで、潜熱が小さくなったものと考えられる。特に、100℃の試料は、80℃の試料よりシェルの膜厚が大きいと考えられる。また、80℃、100℃の試料では、融点の低下(過冷却)が見られる。
次に、図10~図12の結果から、膜厚が最も厚くなった水処理温度100℃を用い、化成処理時間を5分間、15分間、3時間、5時間とした試料について、
・粒子表面観察(SEM-EDS)
・シェルの同定(XRD)
・潜熱量・融点測定(DSC)
・繰り返し蓄放熱試験
を行い、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの評価を行った。
粒子表面観察(SEM-EDS)
図13は、水処理時間15分間、3時間、5時間とした場合の、水処理後のマイクロカプセルのSEM写真である。上段は表面写真、下段は断面写真である。水処理温度は100℃である。水処理時間が15分間以上でGaコアの表面にシェル(GaOOH結晶)が形成されていることが分かる。シェルの膜厚は、水処理時間が長くなるほど厚くなっている。なお、水処理時間が5分間の試料では、表面に析出物は形成されなかった。
図14は、水処理時間が5時間、処理温度が100℃(図13の右端)の場合の、マイクロカプセルのSEM写真である。形状は球形状からやや歪んでいるが、膜厚の大きなシェルが形成されていることが分かる。
シェルの同定(XRD)
図15は、水処理温度を100℃とし、水処理時間を15分間、1時間、3時間、5時間とした場合の、シェルのXRD分析結果である。水処理前のGa粒子では見られなかったGaOOHに起因するピークが、15分間以上水処理をした試料で認められ、シェルとしてGaOOHが析出していることが分かる。
潜熱量・融点測定(DSC)
図16は、図15と同じ試料について潜熱量を測定した結果であり、図16において、横軸は温度、縦軸は熱流を表す。水処理温度は100℃である。Ga粒子では潜熱が82J/gであるが、水処理時間が15分間、1時間、3時間、5時間の試料では、潜熱はそれぞれ、57J/g、36J/g、54J/gとなっている。Gaのコアを、GaOOHのシェルで覆ったことで、潜熱が小さくなったものと考えられる。また、それぞれの試料で、融点の低下(過冷却)が見られる。
以上のように、所定の水処理条件で、Ga粒子の表面にGaOOHシェルが形成され、特に、水処理温度が高いほど、水処理時間が長いほど、シェルの膜厚が厚くなることが分かった。このGaOOHシェルは、[3]酸化工程を経て形成されるβ-Gaシェルの、いわば前駆体と考えられる。
(1-4)GaOOHシェルの熱耐久性試験
図17は、Ga粒子の表面に形成したGaOOHシェルの熱耐久性試験の結果であり、図17において、横軸は加熱時間、縦軸は重量変化率、加熱温度を示す。図17には、温度カーブ(破線)およびTGカーブ(実線)が示されている。
温度を一定の割合で上昇させた場合、試料の温度が約250℃を超えると、TGカーブに示すように、試料の質量が減少する。これは、GaOOHシェルが脱水し、
2GaOOH → Ga+H
の反応が起こったためと考えられる。
(1-5)水処理工程後、酸化処理工程後のSEMおよびEDS
図18は、図9に示す方法で、[2]水処理工程の後、および[3]酸化処理工程の後に、それぞれ試料の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察およびEDS(X線分析)した結果である。
[2]水処理条件は、処理温度100℃、処理時間3時間で、良好なGaOOHシェルが形成された条件である。また、[3]酸化処理条件は、酸素雰囲気中で、処理温度600℃、処理時間3時間とした。
図18において、上段は[2]化成処理(水処理)工程後、下段は[3]酸化処理工程後である。また、左端の2つが断面のSEM写真であり、他の4つがGaおよびOのEDS結果である。SEM写真からわかるように、[2]水処理工程後、[3]酸化処理工程後のいずれにおいても、表面にシェルが形成されている。また、EDSの結果から表面に形成されているのは、GaとOの化合物であることがわかる。[3]酸化処理工程が、GaOOHが分解する温度250℃より高い600℃で行われていることから、[2]水処理工程後のシェルはGaOOH、[3]酸化処理工程後のシェルはβ-Gaと考えられる。
シェルの膜厚は、[2]水処理工程後、[3]酸化処理工程後のいずれも、ほぼ同程度の膜厚で、1~2μmとなっている。このことから、[2]水処理工程の処理条件(温度、時間)を調整し、GaOOHシェルの膜厚を制御することで、[3]酸化処理工程後のGaシェルの膜厚も制御できることが分かる。
(2)固体状態のガリウムをシェルで覆う製造方法
:ガリウム/ガリウム水和物マイクロカプセルの製造方法
(2-1)製造方法
図19は、固体状態のガリウムをシェルで覆う潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法を説明する図である。製造方法は、図19に示す[1]~[3]の3つの工程を含む。
[1]ガリウム粒子作製工程
薄膜旋回型ミキサーを準備し、反応容器内にガリウム1.0gと蒸留水10mlを入れる。蒸留水の温度を35℃に保持する。ガリウムの融点は約29.8℃なので、この状態でガリウムは液体である。
続いて、回転数16000rpmで10分間、ローターを回転させて、ガリウムを入れた蒸留水を攪拌する。これにより、直径が約30μmの、液体のガリウム粒子が蒸留水中に分散する。
[2]ガリウム粒子の冷却工程
液体のガリウム粒子を取り出し、ビーカー等の容器に入れ、液体窒素(沸点:-196℃)で20分間冷却する。これにより、ガリウム粒子は凝固し、固体のガリウム粒子が得られる。
[3]pH処理工程
固体のGa粒子を大きさでふるいわけて、直径が20μm~53μmのGa粒子を選別する。Ga粒子を室温(25℃)の蒸留水に入れて、ポットスターラーで攪拌する。蒸留水は、アンモニア(1.0mol/L)をpH調整剤に使用して、pH11に調整する。pH処理時間(浸漬時間)は、15分間~12時間の間で選択し、例えば3時間とする。これで、固体のガリウム粒子の表面が、固体のガリウム水和物で覆われる。
上述のように、ガリウムは、融点が約29.8℃で、液体から固体に凝固する際に3.2%体積膨張する。このため、固体状態のGa粒子を、固体のシェルで覆うことにより、Gaの凝固時の体積膨張によるシェルの損傷を防止できる。
以上の工程で、固体のガリウム(Ga)からなるコアを、固体のガリウム水和物(GaOOH)からなるシェルで覆った潜熱蓄熱体マイクロカプセルが完成する。なお、上述のように(図17参照)、250℃以上で、GaOOHは脱水してGaになるため、ガリウム/ガリウム水和物マイクロカプセルの耐熱温度は250℃未満となり、使用環境も約250℃未満に限られる。
(2-2)処理時間の調整
[3]pH処理工程において、処理時間を調整する。Gaを入れる溶液のpHは11、溶液の温度は室温(25℃)に固定し、ホットスターラーで攪拌する処理時間を15分間、1時間、3時間、5時間、8時間、12時間に設定した。作製した潜熱蓄熱体マイクロカプセルについて、
・粒子表面・断面観察(SEM-EDS)
・シェルの同定(XRD)
・潜熱測定(DSC)
・繰り返し蓄放熱試験
を行って、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの評価を行った。
粒子表面観察(SEM-EDS)
図20は、15分間、1時間、3時間、5時間、8時間、12時間、pH11の溶液中で攪拌した後に、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの表面のSEM写真である。処理時間が3時間以上になると、マイクロカプセルの表面にハニカム(蜂の巣)構造が見られた。Gaの水和物GaOOHがGa粒子の周囲に形成されていると考えられる。
図21は、pH11で処理時間が5時間の場合のマイクロカプセルの断面のSEM写真である。Ga粒子の周囲に、膜厚が約0.5μmのシェルが認められる。上述のように、GaOOHからなるシェルと考えられる。
シェルの同定(XRD)
図22は、マイクロカプセルの表面の物質を同定するために、図20の6つの試料についてX線回折(XRD)を行った結果である。すべての試料において、Ga以外のピークは確認されなかった。図20のハニカム構造から、Gaの水和物は結晶状態ではなくアモルファス状態と考えられ、このためにXRDではGaOOHが検出されなかったと考えられる。
次に、マイクロカプセルの表面に形成されているハニカム構造が、GaOOHであることを調べるために、[3]pH処理工程(pH11×5時間)を行った試料に対して酸化処理を行って、重量変化を調べた。酸化処理は、酸素雰囲気(O流量:200ml/分)で30分以上行った。
図23は、酸化処理時間と、酸化処理中の重量変化との関係を示す。横軸は酸化処理時間、縦軸は重量変化率および処理温度である。図22から分かるように、加熱直後から重量減少が始まり、20分経過後に重量はほぼ一定となる。
この重量減少は、
2GaOOH → Ga+H
によるGaOOHからの脱水によるものと考えられ、図20のハニカム構造は、GaOOHであると考えられる。
潜熱測定(DSC)
図24は、図20の6つの試料についての、潜熱の示差走査熱量測定(DSC)結果である。測定は、50℃から-80℃に、冷却速度2°/分で冷却して行った。雰囲気はAr雰囲気とし、Ar流量は50ml/分とした。処理前のGa粒子の潜熱が82J/gであるのに対し、処理時間が12時間の場合も潜熱は85J/gで、試料間で潜熱量に大きな違いは見られなかった。これは、処理時間を長くしても、Ga粒子の周囲に析出するGaOOHの量、即ちGaOOHシェルの膜厚に大きな変化がないためと考えられる。
繰り返し蓄放熱試験
図25は、pH11で処理時間が5時間の試料について、繰り返し蓄放熱試験を行った前後SEM写真を示す。左が耐久性試験前、右が耐久性試験後のSEM写真である。繰り返し蓄放熱は、-80℃から50℃の温度範囲で、蓄放熱、即ち固相-液相間の相変態を10回行った。雰囲気はAr雰囲気で、Ar流量は50ml/分とした。
耐久性試験後のSEM写真から分かるように、シェルの一部に穴や漏出は見られるものの、この条件で形成したマイクロカプセルは、繰り返し試験に対して良好な耐久性を示している。
以上のように、[3]pH処理工程において、pH11で、処理時間を少なくとも5時間とすることで、Ga粒子を覆うように、GaOOHのシェルが形成された潜熱蓄熱体マイクロカプセルが得られる。このマイクロカプセルでは、Ga粒子と変わらない潜熱量が得られ、良好な蓄放熱特性が得られると共に、良好な繰り返し耐久性が得られた。
(2-3)pHの調整
[3]pH処理工程において、pHを調整する。Gaを入れる溶液のpHを、7、8、9、10、11とした。溶液の温度は室温(25℃)に固定し、ホットスターラーで攪拌する処理時間を5時間に設定した。作製した潜熱蓄熱体マイクロカプセルについて、
・粒子表面観察(SEM-EDS)
・シェルの同定(XRD)
・潜熱測定(DSC)
を行って、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの評価を行った。
粒子表面観察(SEM-EDS)
図26は、pHが7、8、9、10、11の溶液中で、室温(25℃)で5時間、攪拌した後の、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの表面のSEM写真である。処理時間が3時間以上になると、マイクロカプセルの表面にハニカム(蜂の巣)構造が見られた。Gaの水和物GaOOHがGa粒子の周囲に形成されていると考えられる。
シェルの同定(XRD)
図27は、図26の6つの試料についてX線回折(XRD)を行った結果である。pH8、9、10の試料では、GaOOHのピークが観察された。これは、
Ga2++2OH → GaOOH+1/2H
により、Gaの周囲にGaの水和物GaOOHが形成されたものである。一方、pH11の試料ではGaOOHのピークは観察されなかった。これは、「(2-2)処理時間の調整」でも述べたように、pH11では、GaOOHがアモルファス状態になるためと考えられる。図27では、pH9でGaOOHのピークが最も大きくなっている。
潜熱測定(DSC)
図28は、図26の6つの試料についての、潜熱の示差走査熱量測定(DSC)結果である。測定は、50℃から-80℃に、冷却速度2°/分で冷却して行った。雰囲気はAr雰囲気とし、Ar流量は50ml/分とした。処理前のGa粒子の潜熱量が82J/gであるのに対し、pH7、8、9、10、11で、潜熱量はそれぞれ97J/g、73J/g、61J/g、81J/g、74J/gとなった。
pH9で潜熱量が小さくなっているのは、シェルであるGaOOHの膜厚が最も大きいためと考えられる。
図29、pH9、11の溶液中で処理した潜熱蓄熱体マイクロカプセルおよびGaの溶融・凝固の示差走査熱量の測定結果である。横軸が温度、縦軸が熱流であり、MEPCM-9(pH9)、MEPCM-11(pH11)、およびGa粒子の測定結果を示す。凝固時の潜熱は、純Gaでは85J/gであるのに対し、MEPCM-9では61J/g、MEPCM-11では86J/gであった。また溶融時の潜熱は、純Gaでは83J/gであるのに対し、MEPCM-9では59J/g、MEPCM-11では88J/gであった。このように、pH11の溶液中で処理することにより、pH9の溶液中で処理した場合よりも、純Gaに近い潜熱が得られることが分かる。
図30は、MEPCM-9(pH9)、MEPCM-11(pH11)に対して、繰り返し蓄放熱試験(繰り返し回数:10回)を行った前後の試料の表面SEM写真である。MEPCM-9(pH9)では、繰り返し蓄放熱試験後、試料の表面に、Gaコアの漏れ出しによる突起が見られた。一方、MEPCM-11(pH11)では、繰り返し蓄放熱試験の前後を通じて、球状の試料形状が維持されており、突起も観察されなかった。このように、水処理工程の水溶液にpHを最適化(pH11)することにより、繰り返し蓄放熱を行っても試料の形状が維持され、良好な蓄放熱特性が得られることがわかる。
以上のように、[3]pH処理工程のpHや処理時間を調整することで、固体状態のガリウムコアの周囲に、良好なGaOOHシェルが形成でき、良好な蓄放熱特性が得られる。GaOOHは、ハニカム状のアモルファス状態であっても良い。
本発明にかかる潜熱蓄熱体マイクロカプセルは、フレキシブルな形状の蓄熱材として、電気自動車等に使用できる。

Claims (4)

  1. ガリウムからなるコアと、
    前記コアを覆い、β-Gaからなるシェルと、の2層からなり、
    前記シェルの内部の体積は、液体状態の前記コアの融点温度での体積の1.03倍以上であることを特徴とする潜熱蓄熱体マイクロカプセル。
  2. 潜熱蓄熱体マイクロカプセルの粒径は、20μm以上で、60μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の潜熱蓄熱体マイクロカプセル。
  3. 潜熱蓄熱体マイクロカプセルの半径r1とシェルの膜厚r2との比(r2/r1)が、0.025以上で0.07以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の潜熱蓄熱体マイクロカプセル。
  4. 潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法であって、
    液体状態のガリウムを粒子にする粒子化工程と、
    前記粒子を蒸留水中で加熱して、前記粒子の表面にガリウム水和物を形成する水処理工程と、
    前記ガリウム水和物を酸化して、β-Gaからなるシェルを形成する酸化処理工程と、を含み、
    前記酸化処理工程は、600℃以上、700℃以下の温度で行われることを特徴とする潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法。
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