JP7352306B2 - 潜熱蓄熱体マイクロカプセルおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
ガリウムまたはガリウム合金からなるコアと、
コアを覆い、ガリウム酸化物からなるシェルと、を備えた潜熱蓄熱体マイクロカプセルである。
ガリウムまたはガリウム合金からなるコアと、
コアを覆い、ガリウム水和物からなるシェルと、を備えた潜熱蓄熱体マイクロカプセルである。
潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法であって、
液体状態のガリウムまたはガリウムの合金を粒子にする粒子化工程と、
粒子を蒸留水中で加熱して、粒子の表面にガリウム水和物を形成する水処理工程と、
ガリウム水和物を酸化して、ガリウム酸化物からなるシェルを形成する酸化処理工程と、を含むことを特徴とする潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法である。
潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法であって、
液体状態のガリウムまたはガリウムの合金を粒子にする粒子化工程と、
粒子を冷却して固体状態にする冷却工程と、
粒子を所定のpHの水溶液中に浸漬してガリウム水和物からなるシェルを形成するpH処理工程と、を含むことを特徴とする潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法である。
図1は、本発明の実施の形態にかかる潜熱蓄熱体マイクロカプセル(以下において、単に「マイクロカプセル」ともいう。)を説明する模式図である。本発明の実施の形態では、PCM(Phase Change Material:相変化物質)であるガリウムを潜熱蓄熱体として用いる。ガリウムの融点は約29.8℃であり、融点近傍で固体から液体に融解する際に蓄熱し、逆に液体から固体に凝固する際に放熱する。
潜熱蓄熱体マイクロカプセルのコアがガリウム(Ga)からなり、シェルがガリウムの酸化物からなる場合、ガリウムの酸化物(Ga2O3)は、β-Ga2O3、またはβ-Ga2O3とα-Ga2O3の混合物からなる。
潜熱蓄熱体マイクロカプセルのコアがガリウム(Ga)からなり、シェルがガリウムの水和物からなる場合、ガリウムの水和物は、例えばGaOOHからなる。
ガリウムは液体から固体に凝固する際に3.2%体積が膨張する。このため、液体のガリウムを固体のシェルで覆ったマイクロカプセルでは、ガリウムの凝固時にガリウムが体積膨張しマイクロカプセルが破損するという問題があった。
:ガリウム/ガリウム酸化物マイクロカプセルの製造方法
(1-1)製造方法
図3は、液体状態のガリウムをシェルで覆う潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法を説明する図である。製造方法は、図3に示す[1]~[3]の3つの工程を含む。
薄膜旋回型ミキサーを準備し、反応容器内にガリウム1.0gと蒸留水10mlを入れる。蒸留水の温度は、ガリウムの融点(約29.8℃)以上の温度であり、ここでは40℃に保持する。ガリウムの融点は約29.8℃なので、この状態でガリウムは液体である。
液体のガリウム粒子が分散した蒸留水に、さらに蒸留水を加えて合計100mlにする。蒸留水の温度を100℃に保持して、ホットスターラーで3時間、攪拌する。これによりガリウム粒子の表面が薄いガリウム水和物、例えばGaOOHにより覆われる。
ガリウム粒子を蒸留水から出し、酸化処理を行う。酸素雰囲気で、300℃~700℃の範囲内の温度、例えば600℃で、3時間保持する。この工程で、脱水反応により、GaOOH膜は固体のガリウム酸化物膜に変化する。また、コアであるGaの体積膨張に伴い、ガリウム酸化物の膜に亀裂が生じると同時に、その亀裂近傍に存在する液体Gaが瞬時に雰囲気中の酸素と反応し、ガリウム酸化物を形成する。この液体Gaの酸化によって生じたガリウム酸化物が、GaOOH膜由来のガリウム酸化物膜に発生した亀裂部分を覆い、一体化することで、ガリウム粒子の表面は固体のガリウム酸化物で覆われる。
本発明の実施の形態にかかる製造方法で作製した潜熱蓄熱体マイクロカプセルについて、
・粒子表面・断面観察(SEM-EDS)
・シェルの同定(XRD)
・潜熱量・融点測定(DSC)
・繰り返し蓄放熱試験
を行って、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの評価を行った。
図4は、上述の[3]酸化処理工程の酸化温度を、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃にした場合の、表面のSEM-EDS写真である。他の酸化処理条件は同じである。
図5は、シェルを形成するガリウム酸化物をXRD(X線回折法)で調べた結果である。化成処理後の試料と、酸素雰囲気で、600℃で3時間、酸化処理を行った試料とを用いた。化成処理後の試料では、Ga(○)と共にGaOOH(□)が検出された。一方、酸化処理後の試料では、GaOOH(□)に代わってβ-Ga2O3(△)が検出された。
図6は、潜熱量・融点の示差走査熱量測定(DSC)結果である。左図が蓄熱(昇温)時、右図が放熱(冷却)時であり、それぞれ、横軸が温度、縦軸が熱流を表す。図6中、Lは潜熱、Tmは融点である。化成処理条件、酸化処理条件は、図5と同じである。
図7は、化成処理後、酸化処理後の試料について、繰り返し蓄放熱試験を行った前後の、SEM-EDS写真である。図7の上段は化成処理後、図7の下段は酸化処理後であり、それぞれ蓄放熱試験の前後のSEM写真を示す。化成処理、酸化処理の条件は、図5の試料と同じである。繰り返し蓄放熱は、-80℃から50℃の温度範囲で、蓄放熱、即ち固相-液相間の相変態を10回行った。
Gaコアをβ-Ga2O3シェルで覆ったマイクロカプセルについて、[2]化成処理(水処理)条件を変えて、シェルの膜厚の調整を行った。図9は、[1]ガリウム粒子作製条件、[3]酸化処理条件を固定し、[2]化成処理(水処理)条件を変化させたマイクロカプセルの製造方法を示す。以下の評価は[1]ガリウム粒子作製工程、[2]化成処理(水処理)工程を行い、[3]酸化処理工程を行う前の試料について行った。いわば、β-Ga2O3シェルの前駆体の状態でシェルの評価を行った。
・粒子表面観察(SEM-EDS)
・シェルの同定(XRD)
・潜熱量・融点測定(DSC)
・繰り返し蓄放熱試験
を行って、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの評価を行った。
図10は、水処理温度を60℃、70℃、80℃、100℃、水処理時間を3時間とした場合の、80℃および100℃で化成処理(水処理)後のマイクロカプセルのSEM写真である。上段は表面写真、下段は断面写真である。水処理温度を80℃、100℃とした場合、Gaコアの表面にシェル(GaOOH結晶)が形成されていることが分かる。シェルの膜厚は、80℃より100℃の方が厚くなっている。一方、化成処理温度を60℃、70℃とした試料では、表面に析出物は形成されなかった。
図11は、水処理温度を、Gaコアの表面にシェルが析出した80℃、100℃とし、水処理時間を3時間とした場合の、シェルのXRD分析結果である。水処理前のGa粒子では見られなかったGaOOHに起因するピークが、80℃、100℃で水処理をした試料で認められ、シェルとしてGaOOHが析出していることが分かる。特に、100℃で水処理をした試料で、より大きなピークが見られた。このGaOOHが、後の酸化処理でβ-Ga2O3になると考えられる。
図12は、図11と同じ試料について潜熱量を測定した結果であり、図12において、横軸は温度、縦軸は熱流を表す。Ga粒子では潜熱が82J/gであるが、80℃、100℃の試料では、それぞれ潜熱が56J/g、46J/gとなっている。Gaのコアを、GaOOHのシェルで覆ったことで、潜熱が小さくなったものと考えられる。特に、100℃の試料は、80℃の試料よりシェルの膜厚が大きいと考えられる。また、80℃、100℃の試料では、融点の低下(過冷却)が見られる。
・粒子表面観察(SEM-EDS)
・シェルの同定(XRD)
・潜熱量・融点測定(DSC)
・繰り返し蓄放熱試験
を行い、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの評価を行った。
図13は、水処理時間15分間、3時間、5時間とした場合の、水処理後のマイクロカプセルのSEM写真である。上段は表面写真、下段は断面写真である。水処理温度は100℃である。水処理時間が15分間以上でGaコアの表面にシェル(GaOOH結晶)が形成されていることが分かる。シェルの膜厚は、水処理時間が長くなるほど厚くなっている。なお、水処理時間が5分間の試料では、表面に析出物は形成されなかった。
図15は、水処理温度を100℃とし、水処理時間を15分間、1時間、3時間、5時間とした場合の、シェルのXRD分析結果である。水処理前のGa粒子では見られなかったGaOOHに起因するピークが、15分間以上水処理をした試料で認められ、シェルとしてGaOOHが析出していることが分かる。
図16は、図15と同じ試料について潜熱量を測定した結果であり、図16において、横軸は温度、縦軸は熱流を表す。水処理温度は100℃である。Ga粒子では潜熱が82J/gであるが、水処理時間が15分間、1時間、3時間、5時間の試料では、潜熱はそれぞれ、57J/g、36J/g、54J/gとなっている。Gaのコアを、GaOOHのシェルで覆ったことで、潜熱が小さくなったものと考えられる。また、それぞれの試料で、融点の低下(過冷却)が見られる。
図17は、Ga粒子の表面に形成したGaOOHシェルの熱耐久性試験の結果であり、図17において、横軸は加熱時間、縦軸は重量変化率、加熱温度を示す。図17には、温度カーブ(破線)およびTGカーブ(実線)が示されている。
2GaOOH → Ga2O3+H2O
の反応が起こったためと考えられる。
図18は、図9に示す方法で、[2]水処理工程の後、および[3]酸化処理工程の後に、それぞれ試料の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察およびEDS(X線分析)した結果である。
:ガリウム/ガリウム水和物マイクロカプセルの製造方法
(2-1)製造方法
図19は、固体状態のガリウムをシェルで覆う潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法を説明する図である。製造方法は、図19に示す[1]~[3]の3つの工程を含む。
薄膜旋回型ミキサーを準備し、反応容器内にガリウム1.0gと蒸留水10mlを入れる。蒸留水の温度を35℃に保持する。ガリウムの融点は約29.8℃なので、この状態でガリウムは液体である。
液体のガリウム粒子を取り出し、ビーカー等の容器に入れ、液体窒素(沸点:-196℃)で20分間冷却する。これにより、ガリウム粒子は凝固し、固体のガリウム粒子が得られる。
固体のGa粒子を大きさでふるいわけて、直径が20μm~53μmのGa粒子を選別する。Ga粒子を室温(25℃)の蒸留水に入れて、ポットスターラーで攪拌する。蒸留水は、アンモニア(1.0mol/L)をpH調整剤に使用して、pH11に調整する。pH処理時間(浸漬時間)は、15分間~12時間の間で選択し、例えば3時間とする。これで、固体のガリウム粒子の表面が、固体のガリウム水和物で覆われる。
[3]pH処理工程において、処理時間を調整する。Gaを入れる溶液のpHは11、溶液の温度は室温(25℃)に固定し、ホットスターラーで攪拌する処理時間を15分間、1時間、3時間、5時間、8時間、12時間に設定した。作製した潜熱蓄熱体マイクロカプセルについて、
・粒子表面・断面観察(SEM-EDS)
・シェルの同定(XRD)
・潜熱測定(DSC)
・繰り返し蓄放熱試験
を行って、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの評価を行った。
図20は、15分間、1時間、3時間、5時間、8時間、12時間、pH11の溶液中で攪拌した後に、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの表面のSEM写真である。処理時間が3時間以上になると、マイクロカプセルの表面にハニカム(蜂の巣)構造が見られた。Gaの水和物GaOOHがGa粒子の周囲に形成されていると考えられる。
図22は、マイクロカプセルの表面の物質を同定するために、図20の6つの試料についてX線回折(XRD)を行った結果である。すべての試料において、Ga以外のピークは確認されなかった。図20のハニカム構造から、Gaの水和物は結晶状態ではなくアモルファス状態と考えられ、このためにXRDではGaOOHが検出されなかったと考えられる。
この重量減少は、
2GaOOH → Ga2O3+H2O
によるGaOOHからの脱水によるものと考えられ、図20のハニカム構造は、GaOOHであると考えられる。
図24は、図20の6つの試料についての、潜熱の示差走査熱量測定(DSC)結果である。測定は、50℃から-80℃に、冷却速度2°/分で冷却して行った。雰囲気はAr雰囲気とし、Ar流量は50ml/分とした。処理前のGa粒子の潜熱が82J/gであるのに対し、処理時間が12時間の場合も潜熱は85J/gで、試料間で潜熱量に大きな違いは見られなかった。これは、処理時間を長くしても、Ga粒子の周囲に析出するGaOOHの量、即ちGaOOHシェルの膜厚に大きな変化がないためと考えられる。
図25は、pH11で処理時間が5時間の試料について、繰り返し蓄放熱試験を行った前後SEM写真を示す。左が耐久性試験前、右が耐久性試験後のSEM写真である。繰り返し蓄放熱は、-80℃から50℃の温度範囲で、蓄放熱、即ち固相-液相間の相変態を10回行った。雰囲気はAr雰囲気で、Ar流量は50ml/分とした。
[3]pH処理工程において、pHを調整する。Gaを入れる溶液のpHを、7、8、9、10、11とした。溶液の温度は室温(25℃)に固定し、ホットスターラーで攪拌する処理時間を5時間に設定した。作製した潜熱蓄熱体マイクロカプセルについて、
・粒子表面観察(SEM-EDS)
・シェルの同定(XRD)
・潜熱測定(DSC)
を行って、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの評価を行った。
図26は、pHが7、8、9、10、11の溶液中で、室温(25℃)で5時間、攪拌した後の、潜熱蓄熱体マイクロカプセルの表面のSEM写真である。処理時間が3時間以上になると、マイクロカプセルの表面にハニカム(蜂の巣)構造が見られた。Gaの水和物GaOOHがGa粒子の周囲に形成されていると考えられる。
図27は、図26の6つの試料についてX線回折(XRD)を行った結果である。pH8、9、10の試料では、GaOOHのピークが観察された。これは、
Ga2++2OH- → GaOOH+1/2H2
により、Gaの周囲にGaの水和物GaOOHが形成されたものである。一方、pH11の試料ではGaOOHのピークは観察されなかった。これは、「(2-2)処理時間の調整」でも述べたように、pH11では、GaOOHがアモルファス状態になるためと考えられる。図27では、pH9でGaOOHのピークが最も大きくなっている。
図28は、図26の6つの試料についての、潜熱の示差走査熱量測定(DSC)結果である。測定は、50℃から-80℃に、冷却速度2°/分で冷却して行った。雰囲気はAr雰囲気とし、Ar流量は50ml/分とした。処理前のGa粒子の潜熱量が82J/gであるのに対し、pH7、8、9、10、11で、潜熱量はそれぞれ97J/g、73J/g、61J/g、81J/g、74J/gとなった。
Claims (4)
- ガリウムからなるコアと、
前記コアを覆い、β-Ga2O3からなるシェルと、の2層からなり、
前記シェルの内部の体積は、液体状態の前記コアの融点温度での体積の1.03倍以上であることを特徴とする潜熱蓄熱体マイクロカプセル。 - 潜熱蓄熱体マイクロカプセルの粒径は、20μm以上で、60μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の潜熱蓄熱体マイクロカプセル。
- 潜熱蓄熱体マイクロカプセルの半径r1とシェルの膜厚r2との比(r2/r1)が、0.025以上で0.07以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の潜熱蓄熱体マイクロカプセル。
- 潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法であって、
液体状態のガリウムを粒子にする粒子化工程と、
前記粒子を蒸留水中で加熱して、前記粒子の表面にガリウム水和物を形成する水処理工程と、
前記ガリウム水和物を酸化して、β-Ga2O3からなるシェルを形成する酸化処理工程と、を含み、
前記酸化処理工程は、600℃以上、700℃以下の温度で行われることを特徴とする潜熱蓄熱体マイクロカプセルの製造方法。
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