JP6512135B2 - 希土類元素を含む鉄系合金微粉末の製造方法 - Google Patents

希土類元素を含む鉄系合金微粉末の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、安定的に高い保磁力を有し、優れた耐候性を示す、希土類元素を含む鉄系合金微粉末の製造方法に関する。
希土類−鉄−窒素系ボンド磁石は磁気特性の優れた磁石として知られている。この希土類−鉄−窒素系ボンド磁石は、希土類酸化物、鉄、カルシウムを混合して還元拡散処理を行うことにより作製した希土類元素を含む鉄系合金粉末を窒化処理して得られる希土類元素を含む鉄系合金微粉末を磁石粉末とし、樹脂バインダーに磁石粉末を混合・混錬して製造する。
現在、このボンド磁石は、一般電化製品から、通信機器、音響機器、医療機器、一般産業機器に至る幅広い分野に利用されているが、用いられる機器等の使用環境がさらに厳しくなり、ボンド磁石の高い磁気特性とともに、より高い耐候性が要求されている。
これらの要求に対応するために、希土類−鉄−窒素系ボンド磁石の耐候性を改善する様々な解決法が提案されてきた。
例えば、特許文献1には、磁石粉末を有機溶媒中で粉砕する際にリン酸を添加して磁石粉を粉砕する方法が提案されている。この磁石粉末を用いてボンド磁石を作製すると、温度80℃・相対湿度90%の環境下で30時間保持し、その前後で減磁率の低下はないが、これを1000時間保持すると、減磁率の低下が認められるという問題がある。
また、特許文献2には、平均粒径3μmの磁石粉末にエチルシリケートを添加して処理する方法が提案されているが、未処理の磁石粉末を大気中に暴露することで初期の磁気特性が低下するおそれがある。また、磁石粉末は平均粒径3μmと微細であるため凝集によりエチルシリケートが磁石粒子の表面を確実に被覆できず、表面処理されてない磁石粉末ができてしまい、磁石特性が低下するおそれもある。
特開2002−124406号公報 特開2000−309802号公報
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点に鑑み、ボンド磁石の高い磁気特性とともに、優れた耐候性を有する希土類元素を含む鉄系合金微粉末の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、希土類−鉄−窒素系ボンド磁石の原料である希土類元素を含む鉄系合金の粗粉末を、有機溶剤中にて湿式微粉砕処理し、得られたスラリーを固液分離して、微粉末を得て、その後微粉末を熱処理して希土類元素を含む鉄系合金微粉末を製造する工程において、該微粉砕処理工程を経て得られた合金微粉末を含むスラリーを固液分離し、分離された合金微粉末を150℃以上の温度で加熱乾燥させる時に、特定量のジメチルシリコーンオイルを添加して乾燥させることで、最終的に得られる希土類−鉄−窒素系ボンド磁石は高い磁気特性を有するとともに、優れた耐候性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第1の発明は、有機溶剤を含む溶媒中で希土類元素を含む鉄系合金粉末を粉砕する際に、該粉砕時にリン酸化合物を添加し、表面がリン酸塩皮膜で被覆された微粉末を得る第1の工程と、得られた微粉末を所定の温度で加熱処理を施す第2の工程と、を有し、第2の工程では、得られた微粉末に対し、ジメチルシリコーンオイルを0.01質量%以上0.5質量%以下の量を添加して150℃以上の温度で加熱処理工程を行うことを特徴とする希土類元素を含む鉄系合金微粉末の製造方法である。また、希土類元素を含む鉄系合金は、Sm−Fe−N系合金粉であることが好ましい。
本発明によれば、高い磁気特性を保持し、かつ優れた耐候性を有する希土類−鉄−窒素系ボンド磁石を得ることができる。発明によって得られる希土類元素を含む鉄系合金微粉末は、例えば、一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器等に至る幅広い分野において極めて有用であるため、その工業的意義は非常に大きい。
以下、本発明にかかる希土類元素を含む鉄系合金微粉末、その製造方法について詳しく説明する。
≪1.希土類元素を含む鉄系合金微粉末≫
本実施の形態に係る希土類元素を含む鉄系合金微粉末は、希土類−遷移金属−窒素系磁性粉末(以下、「合金粉末」ともいう)の粉砕物であって、その表面がリン酸塩皮膜で被覆されており、特定の元素組成を持つものである。
(1)合金粉末
リン酸塩皮膜で被覆される前の合金粉末は、Th2Zn17型、Th2Ni17型、又はTbCu7型結晶構造を持つ。これらは、菱面体晶系、六方晶系の結晶構造を持つ金属間化合物であり、Th2Zn17型の合金粉末としては、例えば、Sm2Fe17N3合金、Nd2Fe17N3等が挙げられる。また、Th2Ni17型の合金粉末としては、例えば、Gd2Fe17N3等が挙げられる。
希土類元素(R)としては、Sm、Nd、Pr、Y、La、Ce、Gd等が挙げられ、これらは単独でも、混合物でもよいが、その中でもSmが特に有効である。また、遷移金属元素(T)としては、鉄(Fe)が必須成分であり、この一部がCoで置換されたものであってもよい。具体的に、Feの20質量%以下の割合をCoで置換することにより、微粉末のキュリー温度や耐食性を向上させることができる。なお、以下では、Feが遷移金属として必須成分であることを踏まえ、「希土類−鉄−窒素系合金粉末」と表記する。
合金粉末には、C、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、又はAuを含有することができる。これらの中には、遷移金属以外の元素も含まれているが、本実施の形態に係る希土類元素を含む鉄系合金微粉末では、それら全てを遷移金属元素(T)に準じて扱うものとする。合金粉末において、これら成分を3質量%以下、好ましくは0.05〜0.5質量%の割合で添加することにより、この合金粉末の粉砕物である微粉末を用いて作製したボンド磁石の耐候性や耐熱性をさらに高めることができる。
これらの合金粉末は、例えば、還元拡散法や液体急冷法、HDDR(Hydrogenation Decomposition Desorption Recombination)法によって得られた希土類−鉄系合金粉末を、窒化熱処理することによって製造することができる。
(2)希土類元素を含む鉄系合金微粉末
本実施の形態に係る希土類元素を含む鉄系合金微粉末(以下、単に「鉄系合金微粉末」又は「合金微粉末」ともいう)は、上述した希土類−鉄−窒素系合金粉末を粉砕し、その表面にリン酸塩皮膜を形成したものであって、このリン酸塩皮膜を含んだ磁性粉末全体を構成する各成分が特定の組成を有している。
(平均粒径)
鉄系合金微粉末の平均粒径としては、平均粒径が1〜5μm、好ましくは2〜4μmである。平均粒径が1μm未満では製造コストが高くなり、5μmを超えると磁気特性が低下するので好ましくない。
(鉄系合金微粉末の組成)
希土類元素を含む鉄系合金微粉末の構成成分としては、合金粉末の成分である希土類元素(R)と、鉄を含む遷移金属元素(T)と、窒素(N)と、リン酸塩皮膜の成分であるリン(P)と、酸素(O)とを含む。そして、この鉄系合金微粉末では、製造過程において不可避的に混入する不純物として水素(H)があり、上述した元素の他に水素を含む。なお、上述したように、合金粉末の成分としてCo等の添加元素、リン酸塩皮膜の成分としてZn、Cu、Mn等の遷移金属元素(T)がさらに含まれていてもよい。
これら各成分は、例えば、鉄系合金微粉末中に、Rが20質量%〜25質量%、Nが2.1質量%〜3.95.7質量%、Pが0.1質量%〜2.0質量%、Oが0.3質量%〜6.0質量%、残部がTという元素組成を有している。そして、本実施の形態に係る希土類元素を含む鉄系合金微粉末においては、上述したように不可避的不純物として水素の含有量が0.2質量%以下に低減されていることを特徴としている。
≪2.希土類元素を含む鉄系合金微粉末の製造方法≫
次に、上述した希土類元素を含む鉄系合金微粉末の製造方法について説明する。
本実施の形態に係る希土類元素を含む鉄系合金微粉末の製造方法は、先ず、原料とする合金粉末をリン酸化合物の存在下にて粉砕し、粉砕により生じた合金微粉末の表面にリン酸塩による皮膜を形成する第1の工程、粉砕して得られた合金微粉末を乾燥、加熱して表面のリン酸塩による皮膜を定着させる第2の工程と、を有する。
(1)第1の工程
第1の工程では、原料である合金粉末を、リン酸化合物を添加した有機溶媒中で粉砕するとともに、粉砕により生じた微粉末の表面にリン酸塩皮膜を被覆する。原料の希土類−鉄−窒素系合金粗粉末を所望の粒径にするために、有機溶剤中で粉砕する。原料となる希土類−鉄−窒素系合金粗粉末は、希土類元素と鉄を主成分として含む磁石粉末(以下、単に磁石粉末ともいう)であれば特に制限は無い。
また、希土類元素を含む鉄系合金粉末の製造方法には鋳造法や還元拡散法などがあるが、本発明においては、特に還元拡散法で得られたSm−Fe−N系の合金粉末が適している。
還元拡散法によりSm−Fe−N系の合金粉末を製造するには、まず原料である希土類および鉄に還元剤としてカルシウムを加えてから、不活性ガス雰囲気中において、例えば、900〜1180℃で3〜5時間還元拡散処理を行い、得られた還元拡散物を、不活性ガス雰囲気中で500℃以下に冷却した後、不活性ガスの少なくとも一部を排出してから水素含むガスを供給して該還元拡散物に水素を吸収させ崩壊させる。さらに、この水素を吸収して崩壊した反応生成物を水中に投入した後、酢酸などを加え、撹拌しながら酸化カルシウムを除き、真空中において50〜200℃で数時間乾燥させて希土類を含む鉄系合金粉末とする。
次に、この希土類を含む鉄系合金粉末を、例えば、120〜480℃で加熱処理し、さらにアンモニアガス:3〜5L/min、水素ガス:3〜5L/minの条件で280〜400分間アンモニアと水素を含有する混合ガス中で昇温し、350〜500℃で窒化処理することにより、希土類−鉄−窒素系合金粗粉末とすることができる。
この合金粗粉末を微粉砕するための粉砕装置としては、固体を取り扱う各種の化学工業において広く使用され、種々の材料を所望の程度に粉砕できるものであれば、特に限定されない。その中でも、磁石粉末の組成や粒子径を均一にしやすい点で、媒体攪拌ミルが好適である。
また、本発明においては、上記希土類−鉄−窒素系合金粗粉末の微粉砕処理でリン酸を含む有機溶剤中において微粉砕処理を行う。
粉砕に用いる有機溶剤としては、特に制限はなく、2−プロパノール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類、それらの混合物等が使用できるが、安全性などの観点から特にエタノール、2−プロパノールが好ましい。
リン酸の添加量は、粉砕後の磁石粉末の粒径、表面積等に関係するので一概には言えないが、通常は、粉砕する磁石粉に対して0.1mol/kg〜0.5mol/kgであり、より好ましくは0.15mol/kg〜0.4mol/kgであり、さらに好ましくは0.2 mol/kg〜0.35mol/kgとすることが好ましい。0.1mol/kg未満であると磁石粉末の表面処理が十分に行なわれないために耐候性が改善されず、また大気中で乾燥させると酸化・発熱して磁気特性が極端に低下する。0.5mol/kgを超えると磁気特性の低下が起きる。また、耐候性の向上も見られない。
リン酸の添加方法は、特に限定されず、例えば、媒体撹拌ミル等で粉砕するに際し、溶剤の有機溶剤にリン酸を添加する。リン酸は、最終的に所望の濃度になれば良く、粉砕開始前に一度に添加しても粉砕中に徐々に添加しても良いが、粉砕で生じた新生面が直ちに処理されるように、常に溶液中にリン酸を存在させなければならない。好ましくは、粉砕末期に所望のリン酸濃度となるように粉砕溶剤の有機溶剤にリン酸を添加して粉砕する。粉砕装置には不活性ガスを供給して磁石粉末が酸化されにくい雰囲気とすることが望ましい。
この方法によれば、磁石粉末の粉砕によって凝集粒子に新生面が生じても瞬時に溶剤中のリン酸と反応し、有機溶剤中に実質的に酸素が含まれないことと相俟って、粒子表面に安定なリン酸皮膜が形成される。また、その後、粉砕された磁石粉末がその磁力などによって凝集しても、接触面はすでに安定化されており、解砕により腐食が生じることはない。
粉砕時間は、装置の大きさ、処理すべき磁石粉末の粒径や処理量などによって異なり、一概に規定できないが、所定のリン酸濃度の粉砕溶剤内では0.1〜3時間、好ましくは0.1〜2時間とする。
これにより、粉砕後の磁石粉末は、平均粒径1〜5μm、好ましくは2〜4μmになるとともに、その表面が充分な厚さのリン酸皮膜で均一に被覆され、安定化される。本発明においては、優れた磁気特性を引き出すために微粉化された磁石粉末自体がリン酸皮膜で均一に被覆され、安定化されることが肝要である。
ここで、均一に被覆されるとは、通常は磁石粉末表面の80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上がリン酸皮膜で覆われることをいう。磁石粉末表面を保護するために必要なリン酸皮膜の厚さは、通常、平均で5〜100nmである。リン酸皮膜の平均厚さが5nm未満であると十分な耐候性が得られず、また、100nmを超えると磁気特性が低下すると共にボンド磁石を作製する際の混練性や成形性が低下する。
これに対して、リン酸を用いないと、粉砕された希土類−鉄−窒素系合金粉末を表面処理できず、得られる粉末の粒径が不揃いになったり、あるいは粉末表面に欠陥が生じたりして、高品質の磁石粉末を製造することができない。
また、磁石合金粗粉の粉砕終了後にリン酸等の処理剤を添加しても、粉砕後の磁石粉末は、磁力などによって互いに凝集しているため、磁石粉末の接触面には被膜処理が行われない。こうして得られた磁石粉末は、リン酸皮膜の形成が不十分であるため、ボンド磁石時に樹脂バインダーと混練されると、凝集していた磁石粉末が混練による剪断力で一部解砕され、皮膜のない活性な粉末表面が露出する。このため、斯かる磁石粉末を成形して得られたボンド磁石は、実用上重要な湿度環境下で容易に腐食が生じ、磁気特性が低下する。特に、サマリウム−鉄−窒素系合金のような核発生型の保磁力発現機構を示す磁石粉末では、一部にこのような領域が生じると著しく保磁力が低下してしまう。
第1の工程の最後に、合金粉末を含むスラリーを固液分離する。こうして微粉砕された磁石粉末とリン酸及び有機溶剤を含むスラリーは、次いで大部分の液体を除去するために固液分離装置に供給される。このスラリーは、固液分離装置内で処理されて、例えば含液率が5〜30質量%の希土類−鉄系磁石合金粉末ケーキとなる。
固液分離装置としては、ヌッチェ式ろ過機や遠心ろ過機等のフィルター式ろ過機、デカンタ型遠心分離機を使用できるが、フィルター式ろ過機では、ろ過性に対する粉体性状の影響が大きく、装置パラメータとして含液率を制御しにくい場合がある。また、希土類−鉄系合金粉末スラリーは、ろ過性が非常に悪いためにフィルターによるろ過に多大な時間がかかり、低含液率とすることが困難なことが多い。これらの事情を考慮して固液分離装置を選択する必要がある。
ここで、得られる合金粉末ケーキの含液率は、5〜30質量%、好ましくは、10〜30質量%に調整することが望ましい。含液率が30質量%を超えると、次の工程で加熱処理する時に磁石粉末が凝集して塊状になってしまい、別途それらを解砕する処理が必要となる。加えて、加熱処理において処理時間が長くなり、生産効率が低下するので好ましくない。また、含液率が5質量%未満であると、大気中で発火したり、酸化し発熱したりして磁気特性が低下することがある。
(2)第2の工程
第2の工程では、第1の工程にて得られた、表面にリン酸塩皮膜が形成された合金微粉末を含むスラリーに対して、ジメチルシリコーンオイルを添加し、所定の温度条件で加熱処理する。この第2の工程での加熱処理により、表面に被覆されたリン酸塩皮膜が安定化して、ボンド磁石等に用いられる、希土類元素を含む鉄系合金微粉末が得られる。
まず、第1の工程でえられた合金粉末ケーキを加熱処理装置に移送し、ジメチルシリコーンオイルを添加する。ジメチルシリコーンオイルの添加量は、合金粉末に対しに対し、ジメチルシリコーンオイルを0.01質量%以上0.5質量%以下の量を添加する。より好ましくは0.05質量%以上0.3質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以上0.2質量%以下とすることが好ましい。ジメチルシリコーンオイルの添加量が0.01質量%未満であると磁石粉末の表面処理が十分に行なわれないために耐候性が改善されず、0.5質量%を超えると磁気特性の低下が起きる。また、耐候性の向上も見られない。添加方法は、ジメチルシリコーンオイルを磁石粉末に均一に被覆するために粉砕時に使用した同等の有樹溶媒で10〜20倍程度に薄めて添加して撹拌を行う。引き続き、特定の排気速度で排気しながら、真空に保持して、特定の温度範囲で加熱処理する。この加熱処理には、ミキサー型乾燥機、処理物静置型の箱型乾燥機などを用いることができる。
本発明においては、上記のようにして磁石粉末に真空中又は不活性ガス中、150℃以上の温度範囲で加熱処理を施すことが好ましく、150〜220℃、特に160〜180℃の温度範囲で加熱処理を施すことが好ましい。150℃未満で加熱処理を施すと、磁石粉末の乾燥が十分進まずに磁石粉末に取り込まれた水素が十分に抜けないため磁気特性が低下し、また、220℃を超える温度で加熱処理を施すと、磁石粉末が熱的なダメージを受けるためか、やはり磁気特性が低下するという問題がある。
ここで、処理槽内を1.33×10Pa以下、好ましくは6.66×10Pa以下の真空度に保持することが望ましい。真空度がこれよりも小さいと、磁気特性が低下する場合がある。これは、真空度が小さい場合には加熱処理時間を長くしなければならないので、磁石粉末表面の酸化が進行する影響が大きくなるためと考えられる。
また、加熱処理時間は、装置の大きさ、処理すべき磁石粉末の粒径や処理量などによって異なり、一概に規定できないが、なるべく短いほうが望ましい。例えば容積100リットルの攪拌型乾燥機にて磁石粉末50kgを処理する場合は2時間以内、特に90分間以内とする。加熱処理時間が長くなるほど磁気特性が低下する。ただし、10分よりも短いと安定なリン酸皮膜が形成されない場合がある。
≪3.ボンド磁石用組成物≫
ボンド磁石用組成物は、上記のようにして得られた希土類−鉄系合金微粉末を樹脂バインダーと混合して得られる希土類−鉄系ボンド磁石用組成物である。
樹脂バインダーは、特に限定されることはなく、各種熱可塑性樹脂単体または混合物、あるいは各種熱硬化性樹脂単体あるいは混合物であり、それぞれの物性、性状等も所望の特性が得られる範囲でよく特に限定されることはない。
熱可塑性樹脂は、磁石粉末のバインダーとして働くものであれば、特に制限なく、従来公知のものを使用できる。その具体例としては、6ナイロン、6−6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、6−12ナイロン、芳香族系ナイロン、これらの分子を一部変性した変性ナイロン等のポリアミド樹脂、直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂、架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂、セミ架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、メタクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリルエーテルアリルスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、酢酸セルロース樹脂、前出各樹脂系エラストマー等が挙げられ、これらの単重合体や他種モノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、他の物質での末端基変性品等が挙げられる。
これら熱可塑性樹脂の溶融粘度や分子量は、得られるボンド磁石に所望の機械的強度が得られる範囲で低い方が望ましい。また、熱可塑性樹脂の形状は、パウダー状、ビーズ状、ペレット状等、特に限定されないが、磁石粉末と均一に混合される点で、パウダー状が望ましい。
熱可塑性樹脂の配合量は、磁石粉末100質量部に対して、通常5〜50質量部、好ましくは5〜30質量部、より好ましくは5〜15質量部である。熱可塑性樹脂の配合量が5質量部未満であると、組成物の混練抵抗(トルク)が大きくなり、流動性が低下して磁石の成形が困難となり、一方、50質量部を超えると、所望の磁気特性が得られない。本発明の目的を損なわない範囲で、ボンド磁石用組成物の加熱流動性等を向上させるために、各種カップリング剤、滑剤や種々の安定剤等を配合することができる。
一方、熱硬化性樹脂としては、例えば、ラジカル重合反応性を有する不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂及びポリエステル(メタ)アクリレート樹脂などの樹脂が挙げられる。このほかに、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール、フェノール樹脂を使用できる。これらの中でも、不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂が好ましい。また、重合度や分子量に制約されないが、150℃以下の温度では液状であり、25℃における粘度が5000mPa・s以下である樹脂が成形性の面から好適である。
磁石合金粉末と樹脂バインダー等を混合、混練するには各種ミキサー、ニーダー、押出機を用いることができる。
≪4.ボンド磁石≫
本実施の形態に係るボンド磁石は、上記の希土類−鉄−窒素系ボンド磁石用組成物を射出成形法、押出成形法、又は熱間圧縮成形法のいずれかにより成形してなるものである。これらの中では、特に射出成形法、熱間圧縮成形法が好ましい。なお、射出成形法には、射出圧縮成形法、射出プレス成形法、トランスファー成形法等の各種成形法が含まれる。また、成形時に磁場を印加することで異方性のボンド磁石を製造することができる。
上記のボンド磁石用組成物が熱可塑性樹脂を樹脂バインダーとする場合、樹脂の溶融温度で加熱溶融した後、所望の形状を有する磁石に成形する。射出成形法では、熱可塑性樹脂と磁石合金粉末を含む組成物を250℃以上の温度で溶融し、金型のキャビティー内に供給し、その後、冷却して成形体を取り出す。この場合、樹脂バインダーとしては、前記のとおり、例えば、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、液晶樹脂、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂が使用可能である。また、熱硬化性樹脂と磁石合金粉末を含む組成物を用いる場合は、流動性のある状態で組成物を金型のキャビティー内に供給し、その後、樹脂の熱硬化温度以上に加熱し、得られた成形体を常温で取り出す。
射出成形法においては、一般に、表面被膜を付与しない希土類−鉄−窒素系磁石粉末を使用した場合、磁石合金粉末と特定の樹脂バインダーとを混練して射出成形する際に混練トルクが高くなり、成形が困難となることがあるが、本発明の希土類−鉄−窒素系磁石粉末を使用した場合は、問題なく成形することができる。そして、本発明においては、優れた磁気特性を引き出すために微粉化された磁石粉末自体がクロムを含むリン酸皮膜で均一に被覆され、安定化されているためである。
樹脂バインダーは、各構成成分を含めた状態で、磁石粉末100質量部に対して、2〜50質量部の割合で添加されるが、3〜20質量部、さらには10〜15質量部添加することが好ましい。樹脂バインダーの添加量が磁石粉末100質量部に対して2質量部未満の場合は、著しい成形体強度の低下や成形時の流動性の低下を招く。また、50質量部を超えると、所望の磁気特性が得られない。
また、圧縮成形法により成形を行う場合には、溶剤等で液状化した熱硬化性樹脂を本発明の合金微粉末と攪拌しながら混合して得られるボンド磁石用組成物を用いる。樹脂バインダーとしては、例えば、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール、フェノール樹脂等ほか、不飽和ポリエステルやビニルエステルなども使用可能である。樹脂バインダーの使用量は、本発明の希土類−鉄−窒素系合金微粉末に対して、通常、0.5〜15質量%であり、好ましくは、0.7〜10質量%である。樹脂バインダーが多すぎると、得られるボンド磁石の磁気特性が不満足なものとなり、また、少なすぎるとボンド磁石の強度が不満足なものとなる。
以下、本発明の実施例を示して具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
(1)成分
原料として用いる希土類元素を含む鉄系合金粉末として、Sm−Fe−N系合金粉末(住友金属鉱山株式会社製)を用いた。このSm−Fe−N系合金粉末の平均粒径は20μmであり、組成は、Smが23.2〜24.5質量%、Nが3.1〜3.5質量%で、残部はFeであるが、不純物としてCaが0.006質量%〜0.015質量%、水素が0.002質量%〜0.008質量%含まれている。
また、リン酸化合物には、85%オルトリン酸水溶液(商品名:「りん酸」、関東化学株式会社製)を用いた。
(2)試験・評価方法
得られた希土類元素を含む鉄系合金微粉末の試料の評価としては、以下の条件で成型体を作製し、耐候性、および磁気特性を評価した。
[耐候性評価]
直径10mm、長さ7mmの円柱状ボンド磁石成形体を7mm方向に3350kA/mのパルス磁界で着磁し、1時間放置した後のフラックスを挿引磁束計で測定した。次に、この成形体を温度80℃、湿度90%に設定した恒温恒湿槽内に投入し、1000時間経過した後取り出し、1 時間以上空冷して十分室温に戻して後のフラックスを挿引磁束計で測定して、耐湿試験前後のフラックスの差から導き出して減磁率とした。
[磁気特性評価]
直径10mm、長さ7mmの円柱状ボンド磁石成形体を7mm方向に3350kA/mのパルス磁界で着磁後、チオフィー型自記磁束計により、試料の磁気特性を常温で測定した。
(実施例1)
酸化サマリウム粉末1976g、鉄粉4221g、カルシウム801.5gを混合して1150℃で270分間還元拡散処理を行い、さらに水素気流中で室温、20時間保持して還元拡散物を得た。その後、還元拡散物を水中に入れ、酢酸を加えて4質量%酢酸溶液とした後、撹拌しながら酸化カルシウムを除去し、Sm−Fe系合金粉末を得た。
次に、得られたSm−Fe系合金粉末を450℃において、アンモニアガス4.7L/min、水素ガス9.3L/minの混合ガスを用いた条件で350分間窒化処理した。
得られたSm−Fe−N系合金粉末(平均粒径20μm)を、エタノールと磁石粉末に対してリン酸を0.3mol/kg入れてスラリー化し、媒体撹拌ミルを用いて微粉砕を行った。
次に、粉砕後の磁石粉末を含んだスラリーをろ過装置に移送して固液分離し、含液率を15質量%に調整した。その後、脱液された磁石粉末ケーキを乾燥装置に供給し、ジメチルシリコーンオイルを0.1質量%とエタノールを10g添加して撹拌後、1.33×10Pa以下の真空度に保持し、160〜180℃で2時間乾燥させて希土類−鉄−窒素系合金粉末を作製した。
このようにして得られたSm−Fe−N系磁性粉末100質量部、12ナイロン を10質量部混合し、ラボプラストミルを用い、250℃ に加熱しながら、50rpmの回転数で30分間混練することによって、ボンド磁石用組成物を得た。混練後に取り出した組成物は、空冷し、得られた組成物をプラスチック粉砕機により粉砕して成形用ペレットとした。
上記のようにして得られた成形用ペレットを用いて、シリンダー温度:200〜250℃(金型温度:80〜120℃)で、7mm方向に560kA/mの配向磁場をかけながら、φ10×7mmhの形状に射出成形した。
直径10mm、長さ7mmの円柱状ボンド磁石成形体の磁気特性を常温で測定した。耐候性評価の1000時間後の減磁率は−8.9%であり、磁気特性評価の最大エネルギー積は95.5kJ/mであった。
(実施例2)
実施例1において、ジメチルシリコーンオイルの添加量を、0.1質量%を0.05質量%に変化させた以外は、実施例1と同様な方法で、希土類−鉄−窒素系合金粉末を得た。
得られたボンド磁石成型体を実施例1と同様に評価を行った。耐候性評価の1000時間後の減磁率は−9.5%であり、磁気特性評価の最大エネルギー積は96.1kJ/mであった。
(実施例3)
実施例1において、ジメチルシリコーンオイルの添加量を、0.1質量%を0.2質量%に変化させた以外は、実施例1と同様な方法で、希土類−鉄−窒素系合金粉末を得た。
得られたボンド磁石成型体を実施例1と同様に評価を行った。耐候性評価の1000時間後の減磁率は−8.4%であり、磁気特性評価の最大エネルギー積は95.1kJ/mであった。
(比較例1)
実施例1において、ジメチルシリコーンオイルを添加なしとした以外は、実施例1と同様な方法で、希土類−鉄−窒素系合金粉末を得た。
得られたボンド磁石成型体を実施例1と同様に評価を行った。耐候性評価の1000時間後の減磁率は−22.0%であり、磁気特性評価の最大エネルギー積は95.5kJ/mであった。
(比較例2)
実施例1において、ジメチルシリコーンオイルの添加量を、0.1質量%から0.02質量%に変化させた以外は、実施例1と同様な方法で、希土類−鉄−窒素系合金粉末を得た。
得られたボンド磁石成型体を実施例1と同様に評価を行った。耐候性評価の1000時間後の減磁率は−20.2%であり、磁気特性評価の最大エネルギー積は96.2kJ/mであった。
(比較例3)
実施例1において、ジメチルシリコーンオイルの添加量を、0.1質量%から0.6質量%に変化させた以外は、実施例1と同様な方法で、希土類−鉄−窒素系合金粉末を得た。
得られたボンド磁石成型体を実施例1と同様に評価を行った。耐候性評価の1000時間後の減磁率は−8.2%であり、磁気特性評価の最大エネルギー積は90.0kJ/mであった。
実施例1〜3は、ジメチルシリコーンオイルを添加しないで作製された比較例1に対し、1000時間後の減磁率が格段と向上し、耐候性が改善されていることがわかる。
比較例2の結果に示されるように、ジメチルシリコーンオイルの添加量が本発明で規定した範囲をしたまわると耐候性が改善されず、また比較例3の結果に示されるように、ジメチルシリコーンオイルの添加量が本発明で規定した範囲を超えると耐候性は改善されるものの、磁気特性評価の最大エネルギー積が低下してしまうことがわかる。

Claims (2)

  1. 有機溶剤を含む溶媒中で希土類元素を含む鉄系合金粉末を粉砕する際に、該粉砕時にリン酸化合物を添加し、表面がリン酸塩皮膜で被覆された微粉末を得る第1の工程と、
    得られた微粉末を所定の温度で加熱処理を施す第2の工程と、を有し、
    第2の工程では、
    得られた微粉末に対し、ジメチルシリコーンオイルを0.05質量%以上0.3質量%以下の量を添加して150℃以上の温度で加熱処理工程を行うことを特徴とする
    希土類元素を含む鉄系合金微粉末の製造方法。
  2. 前記希土類元素を含む鉄系合金粉末は、Sm−Fe−N系合金粉末であることを特徴とする請求項1に記載の希土類元素を含む鉄系合金微粉末の製造方法。
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