JP6492724B2 - リグノセルロース含有バイオマスの破砕方法 - Google Patents

リグノセルロース含有バイオマスの破砕方法 Download PDF

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Description

本発明は、糖化または糖化発酵の原料となるリグノセルロース系原料の効率的な破砕方法を提供する。
糖化に適した処理を施したリグノセルロース原料から糖を製造する技術は、この糖を微生物の発酵基質として用いることによりガソリンの代替燃料となるアルコールや、プラスチック原料となるコハク酸や乳酸などの化成品原料を製造することができることから、循環型社会の形成に有益な技術である。
植物系バイオマス中の多糖類から発酵基質となる単糖や小糖類を製造する方法は2つに大別できる。一つは鉱酸を用いて加水分解する酸糖化法であり、もう一つは酵素やその酵素を生産する微生物を用いて加水分解する酵素糖化法である。
前記酸糖化法あるいは酵素糖化法により製造された糖類を原料として発酵微生物を用いて発酵を行いエタノールを製造する方法の開発が行われている。また、糖化と発酵を1つの培養槽で同時に行う併行糖化発酵も報告されている。
糖化あるいは糖化発酵を効率的に行うためには、用いるリグノセルロース原料を糖化されやすい状態にすることが望ましい。その解決手段として、リグノセルロース原料を糖化する前に、リグノセルロース原料に機械的処理、化学的処理等の前処理を施し、糖の生産効率を向上させる方法が検討されている。機械的処理方法としては、例えば、リグノセルロースを一軸破砕機などの破砕機で破砕し糖の生産性を向上させる方法が報告されている(特許文献1)。しかし、連続的に糖類を製造する工程で、破砕処理を連続的に行う場合、破砕機へ原料の投入量を増やすと破砕機が目詰りを起こし、破砕したリグノセルロース原料を連続的に次工程へ移送することが困難となるという課題がある。もし、現状で投入可能な投入量よりもさらに投入量を増やすことが可能となれば、さらに効率的な糖類の生産が可能となる。
特開2011−55732
本発明の課題は、糖化または糖化発酵の原料となるリグノセルロース系原料の効率的な破砕方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、リグノセルロース系原料を破砕する破砕機で破砕する際に破砕機の原料排出口が接続している管路に流体を供給することにより破砕機の破砕に要するエネルギーを低減できることを見出し、下記発明を完成した。
(1)リグノセルロース系原料を破砕機で破砕する際に破砕機の原料排出口が接続している管路に流体を供給することを特徴とするリグノセルロース系原料の破砕方法。
(2)前記破砕機が一軸破砕機であることを特徴とする(1)に記載のリグノセルロース系原料の破砕方法。
(3)リグノセルロース原料(乾燥重量)1kgに対して1分間に供給する流体の量が、50〜10000mlであることを特徴とする(1)または(2)に記載のリグノセルロース系原料の破砕方法。
(4)流体が糖化発酵工程または発酵工程から排出される排気であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のリグノセルロース系原料の破砕方法。
(5)排気が、微生物の発酵により排出された排気であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のリグノセルロース系原料の破砕方法。
本発明により、本発明により、糖化又は糖化発酵で用いる原料の破砕に用いる破砕処理装置の消費電力を低減することができるため、エタノールや有機酸等の製造コストを低減することが可能となる。
本発明のリグノセルロース原料の破砕に用いる一軸破砕機へのエアーの供給方法示す図である。 本発明のリグノセルロース原料の破砕に用いる一軸破砕機への糖化発酵槽から排出された排気の供給方法示す図である。
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
<リグノセルロース系原料>
本発明の方法で原料として使用するリグノセルロース系原料としては、木質系として、製紙用樹木、林地残材、間伐材等のチップ又は樹皮、木本性植物の切株から発生した萌芽、製材工場等から発生する鋸屑又はおがくず、街路樹の剪定枝葉、建築廃材等が挙げられ、草本系としてケナフ、稲藁、麦わら、コーンコブ、バガス等の農産廃棄物、油用作物やゴム等の工芸作物の残渣及び廃棄物(例えば、EFB: Empty Fruit Bunch)、草本系エネルギー作物のエリアンサス、ミスカンサスやネピアグラス等が挙げられる。
また、バイオマスとしては、木材由来の紙、古紙、パルプ、パルプスラッジ、スラッジ、下水汚泥等、食品廃棄物、等を原料として利用することができる。これらのバイオマスは、単独、あるいは複数を組み合わせて使用することができる。また、バイオマスは、乾燥固形物であっても、水分を含んだ固形物であっても、スラリーであっても用いることができる。
前記木質系のリグノセルロース系原料としては、ユーカリ(Eucalyptus)属植物、ヤナギ(Salix)属植物、ポプラ属植物、アカシア(Acacia)属植物、スギ(Cryptomeria)属植物等が利用できるが、ユーカリ属植物、アカシア属、ヤナギ属植物が原料として大量に採取し易いため好ましい。木本性植物由来のリグノセルロース系原料の中では、林地残材(樹皮、枝葉を含む)、樹皮が好ましい。例えば、製紙原料用として一般に用いられるユーカリ(Eucalyptus)属又はアカシア(Acacia)属等の樹種の樹皮は、製紙原料用の製材工場やチップ工場等から安定して大量に入手可能であるため、特に好適に用いられる。
<破砕処理>
前記リグノセルロース原料に機械的処理として破砕処理を施す。破砕処理装置(破砕機)としては特に限定されないが、例えば、一軸破砕機、二軸破砕機等を用いることができる。破砕処理を施すことによりリグノセルロースを次工程の化学的処理工程で糖化され易い状態にすることができる。
破砕処理装置として、一軸破砕機を用いた具体例を図1に示す。ホッパーHに投入された原料は、ホッパー下部の回転しているローターRと接触し破砕される。破砕されたリグノセルロース原料は、ローターRの下部に接続されているダクトより排出される。
本発明では、破砕処理装置で破砕する際に破砕処理装置の原料排出口が接続している管路(ダクト)に流体を供給する。破砕部に流体供給する方法は、破砕された原料を支障なく次工程へ移送できる方法であれば特に限定なく用いることができる。流体としては、空気(エアー)、二酸化炭素、糖化発酵または発酵で発生した排気など特に制限なく用いることができる。また、ローターRに流体を供給しても良い。一軸破砕機の場合、ロータRの下部(排出口側)に流体を供給すると破砕されたリグノセルロース原料の移送が容易となるため好ましい。
リグノセルロース原料(乾燥重量)1kgに対して1分間に供給する流体の量は、50〜10000mlが好ましく、100〜5000mlがさらに好ましく、200〜3000mlが特に好ましい。50ml以下では、効果が得られにくく、10000mlを超えると効果が向上せず、コストが上昇するため好ましくない。
本発明では、糖化発酵工程(または発酵工程)で、糖化発酵(または発酵)で排出された排気(例えば、発酵微生物が生産する排気)を破砕処理装置の原料排出口が接続している管路(ダクト)、または破砕部に供給することができる。糖化発酵工程(または発酵工程)では、発酵に用いる微生物の増殖を高めるために、例えば、空気等を糖化発酵槽(または発酵槽)に供給する。微生物が生産する排気(例えば、二酸化炭素を含む排気)を破砕機へ供給する流体として利用することができる。通常は、糖化発酵槽(または発酵槽)から工程外へ排出される排気を破砕機で用いる流体として再利用することにより、エタノール生産コストを低減することが可能となる。リグノセルロース原料(乾燥重量)1kgに対して1分間に供給する排気の量は、50〜10000mlが好ましく、100〜5000mlがさらに好ましく、200〜3000mlが特に好ましい。50ml以下では、効果が得られにくく、10000mlを超えると効果が向上せず、コストが上昇するため好ましくない。
前記機械的処理の前工程又は後工程として、異物(石、ゴミ、金属、プラステック等のリグノセルロース以外の異物)を除去するための洗浄などによる異物除去工程を導入することもできる。
原料を洗浄する方法としては、例えば、原料に水を噴射して原料に混合されている異物を除く方法、あるいは、原料を水中に浸漬し異物を沈降させて取り除く方法等が挙げられる。また、メタルトラップ等の装置を用いて、異物を原料から分離する方法が挙げられる。
原料に異物が含まれていると、リファイナーのディスク(プレート)等の機械的処理で用いる装置の部品を破損させる可能性があるし、配管が詰まる等の製造工程内でトラブルを起こす等の問題が発生するため、異物除去工程を導入することが望ましい。
<化学的処理>
前記、機械的処理を施したリグノセルロース原料を次に化学的処理する。化学的処理で用いる化学薬品としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上のアルカリ薬品、又は、亜硫酸ナトリウムと前記アルカリ薬品の中から選ばれる1種以上のアルカリ薬品を含有する溶液に浸漬する化学的処理を含む前処理である。また、オゾン、二酸化塩素などの酸化剤による化学的処理も可能である。
化学的処理は、前記機械的処理と組み合わせてそれらの前処理の後処理として行うことが好適である。
化学的処理で使用する化学薬品の添加量は、状況に応じて任意に調整可能であるが、薬品コスト低下の面から、またセルロースの溶出・過分解による収率低下防止の面から、リグノセルロース系原料の絶乾100質量部に対して70質量部以下であることが望ましい。化学的処理における薬品の水溶液への浸漬時間及び処理温度は、使用する原料や薬品によって任意に設定可能であるが、処理時間20〜120分、処理温度80〜230℃が好ましい。処理条件を厳しくすることで、原料中のセルロースの液側への溶出又は過分解が起こる場合もあるため、処理時間は90分以下、処理温度は200℃以下であることが好ましい。
化学的処理として、リグノセルロース原料(乾燥重量)に対して10〜70質量%の亜硫酸ナトリウム及びpH調整剤として0.1〜20質量%のアルカリを添加することもできる。リグノセルロースに亜硫酸ナトリウムを前記の添加量で単独で添加して加熱処理すると、加水分解中に酢酸等の有機酸が生成するためpHの低下が起こり加水分解液が酸性となる。加水分解液が酸性の条件下で加水分解を継続すると加水分解で生成されたキシロースがフルフラールに変換するという問題が発生する。フルフラールは、エタノール発酵の阻害物質となるため可能な限り生成させないことが望ましい。また、発酵基質であるキシロースの収率が低下するため、結果としてエタノール生産効率が低下する。リグノセルロース原料に前記の添加量で亜硫酸ナトリウム及びpH調整剤としてアルカリを添加して加熱処理することにより、加水分解中のpHが中性〜弱アルカリ性に維持されるため、フルフラールの生成及びキシロースの収率低下を抑制することができる。
前記pH調整剤として用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられるが、これらの薬品に特に限定されない。
前記、リグノセルロース原料(乾燥重量)に対して10〜70質量%の亜硫酸ナトリウム及びpH調整剤として0.1〜20質量%のアルカリを添加して加熱処理を行う場合の加熱処理温度は、80〜200℃が好ましく、120〜180℃がさらに好ましい。また、加熱処理時間は、10〜300分で行うことができるが、30〜120分が好ましい。処理条件を厳しくすることで、原料中のセルロースの液側への溶出又は過分解が起こる場合もあるため、処理温度は、180℃以下、処理時間は120分以下であることが好ましい。
(磨砕処理)
本発明では、前記化学的処理により得られたリグノセルロース原料を磨砕処理することが望ましい。磨砕処理で用いる磨砕処理装置としては、レファイナー、ボールミル等が挙げられる。レファイナーを用いる場合、レファイナーのディスク(プレート)のクリアランスを0.1〜2.0mmの範囲で磨砕することが好ましく、0.1〜1.0mmの範囲で磨砕することがさらに好ましい。使用するレファイナーとしては、シングルディスクレファイナー、ダブルディスクレファイナー等を使用することができ相対するディスクのクリアランスを0.1〜2.0mmの範囲に設定できるレファイナーであれば特に制限なく使用することができる。ディスクのクリアランスが2.0mmを超えると糖化または併行糖化発酵で得られる糖収率が添加するため好ましくない。一方、ディスクのクリアランスが0.1mmより低いとレファイナーで磨砕処理した後の加水分解物(固形分)の収率が低下するため好ましくない。また、ディスクのクリアランスが0.1mmより低いとレファイナーの運転に要する電気消費量が増大するため好ましくない。
レファイナーのディスク(プレート)の材質、ディスクの型、ディスク面の刃の型、ディスク面に対する刃の方向等のディスクの形状については効果が得られる材質、形状であれば、特に制限なく使用することができる。
前記の磨砕処理が施されたリグノセルロース系原料を水溶液と固形分に固液分離し、固形分を糖化または併行糖化発酵の原料として用いることができる。固液分離する方法としては、例えば、スクリュープレス等を用いて水溶液と固形分に分離することができ、水溶液と固形分に分離することができる装置であれば制限なく使用することができる。
前記の固形分離後の原料を用いて糖化または併行糖化発酵を行う前に殺菌処理を行うことが好ましい。リグノセルロース系バイオマス原料中に雑菌が混入していると、酵素による糖化を行う際に雑菌が糖を消費して生成物の収量が低下してしまうという問題が発生する。
殺菌処理は、酸やアルカリなど、菌の生育困難なpHに原料を晒す方法でも良いが、高温下で処理する方法でも良く、両方を組み合わせても良い。酸、アルカリ処理後の原料については、中性付近、もしくは、糖化及び/又は糖化発酵工程に適したpHに調整した後に原料として使用することが好ましい。また、高温殺菌した場合も、室温もしくは糖化発酵工程に適した温度まで降温させてから原料として使用することが好ましい。このように、温度やpHを調整してから原料を送り出すことで、好適pH、好適温度外に酵素が晒されて、失活することを防ぐことができる。
前記前処理が施されているリグノセルロース原料が、糖化工程又は一次併行糖化発酵工程へ供給される。
<糖化工程>
酵素糖化反応に適した前処理が施されたリグノセルロース系原料は、適量の水と酵素と混合されて原料懸濁液とされ、糖化工程へ供給される。リグノセルロース系原料は酵素(セルラーゼ、ヘミセルラーゼ)により糖化(セルロース→グルコース、ヘミセルロース→グルコース、キシロース)される。
<併行糖化発酵工程>
酵素糖化反応に適した前処理が施されたリグノセルロース系原料は、適量の水と酵素と混合されて原料懸濁液とされ、さらに酵母等の微生物と混合されて併行糖化発酵工程へ供給される。リグノセルロース系原料は酵素により糖化され、生成された糖類が発酵微生物(酵母など)によりエタノールに発酵される。
糖化工程又は併行糖化発酵工程で用いるリグノセルロース系原料の懸濁濃度は、1〜30質量%であることが好ましい。1質量%未満であると、最終的に生産物の濃度が低すぎて生産物の濃縮のコストが高くなるという問題が発生する。また、30質量%を超えて高濃度となるにしたがって原料の攪拌が困難になり、生産性が低下するという問題が発生する。
糖化工程又は併行糖化発酵で使用するセルロース分解酵素は、セロビオヒドロラーゼ活性、エンドグルカナーゼ活性、ベータグルコシダーゼ活性を有する、所謂セルラーゼと総称される酵素である。
各セルロース分解酵素は、夫々の活性を有する酵素を適宜の量で添加しても良いが、市販されているセルラーゼ製剤は、上記の各種のセルラーゼ活性を有すると同時に、ヘミセルラーゼ活性も有しているものが多いので市販のセルラーゼ製剤を用いれば良い。
市販のセルラーゼ製剤としては、トリコデルマ(Trichoderma)属、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ファネロケエテ(Phanerochaete)属、トラメテス(Trametes)属、フーミコラ(Humicola)属、バチルス(Bacillus)属などに由来するセルラーゼ製剤がある。このようなセルラーゼ製剤の市販品としては、全て商品名で、例えば、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラーゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)、GC220(ジェネンコア社製)等が挙げられる。
原料固形分100質量部に対するセルラーゼ製剤の使用量は、0.5〜100質量部が好ましく、1〜50質量部が特に好ましい。
糖化工程又は併行糖化発酵工程での反応液のpHは3.5〜10.0の範囲に維持することが好ましく、4.0〜7.5の範囲に維持することがより好ましい。
糖化工程または併行糖化発酵工程での反応液の温度は、酵素の至適温度の範囲内であれば特に制限はなく、25〜50℃が好ましく、30〜40℃がさらに好ましい。反応は、連続式が好ましいが、セミバッチ式、バッチ式でも良い。反応時間は、酵素濃度によっても異なるが、バッチ式の場合は10〜240時間、さらに好ましくは15〜160時間である。連続式の場合も、平均滞留時間が、10〜150時間、さらに好ましくは15〜100時間である。
<発酵工程>
糖化工程と発酵工程を別の反応槽で行う場合は、前記糖化工程後の処理液は、発酵工程へ移送し発酵微生物を用いて発酵を行う。
発酵工程、又は併行糖化発酵工程では、糖類(六炭糖、五炭糖)が発酵できる発酵微生物を用いる。発酵微生物としては、サッカロマイセス・セラビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)、キャンディダ・シハタエ(Candida shihatae)、パチソレン・タノフィルス(Pachysolen tannophilus)、イサチェンキア・オリエンタリス(Issatchenkia orientalis)等の酵母やザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)等の細菌が挙げられる。また、遺伝子組換技術を用いて作製した遺伝子組換微生物(酵母、細菌等)を用いることもできる。遺伝子組換微生物としては、六炭糖と五炭糖を同時に発酵できる微生物を特に制限なく用いることができる。
微生物は固定化しておいても良い。微生物を固定化しておくと、次工程で微生物を分離して再回収する工程を省くことができるため、少なくとも回収工程に要する負担を軽減することができ、微生物のロスが軽減できるというメリットがある。また、凝集性のある微生物を選択することにより微生物の回収を容易にすることができる。
<固液分離工程>
前記併行糖化発酵工程又は発酵工程から排出された培養液は、固液分離装置へ移送し液体分(濾液)と固形分(残渣)に分離する。固液分離を行う装置としては、スクリュープレス、スクリーン、フィルタープレス、ベルトプレス、ロータリープレス等を用いることができる。スクリーンとしては、振動装置が付加された振動スクリーンなどを用いることができる。固液分離で用いるメッシュサイズは、1.25〜600メッシュが好ましく、60〜600メッシュがさらに好ましい。
固液分離工程で分離された液体分(濾液)は蒸留工程へ移送される。
<エタノール蒸留工程>
併行糖化発酵工程、又は発酵工程から排出された培養液は、蒸留工程で減圧蒸留装置等のエタノール分離装置により発酵生成物(エタノール等)を蒸留分離することができる。減圧下では低い温度で発酵生成物を分離できるため、酵素の失活を防ぐことができる。減圧蒸留装置としては、ロータリーエバポレーター、フラッシュエバポレーターなどを用いることができる。
蒸留温度は25〜60℃が好ましい。25℃未満であると、生成物の蒸留に時間がかかって生産性が低下する。また、60℃より高いと、酵素が熱変性して失活してしまい、新たに追加する酵素量が増加するため経済性が悪くなる。
蒸留後の蒸留残渣留分中に残る発酵生成物濃度は0.1質量%以下であることが好ましい。このような濃度にすることによって、後段の固液分離工程において固形物とともに排出される発酵生成物量を低減することができ、収率を向上させることができる。
蒸留後の発酵生成物(エタノール等)を分離した後の蒸留残液は、固液分離装置により残渣と液体分に分離することができる。分離された残渣には、酵素、リグニン、発酵微生物が含まれている。残渣に吸着している酵素を遊離させて回収し、再利用することもできる。リグニンは、燃焼原料として回収しエネルギーとして利用することもできるし、リグニンを回収し有効利用することもできる。発酵微生物(酵母など)を残渣から分離して、糖化又は併行糖化発酵工程で再利用することもできる。
リグノセルロースを前処理した原料、糖化工程、併行糖化発酵工程、または発酵工程後の培養液から固液分離した後の固形分、等の製造工程途中のセルロースを含有する固形分からセルロースナノファイバー(繊維径1〜1000nmの微細繊維)を製造することもできる。セルロースナノファイバーを製造する場合、原料または前記固形分を前処理することが望ましい。前処理としては、オゾン処理、TEMPO酸化処理、酸処理、酵素処理、化学的処理などの方法を使用することができる。化学的処理としては、セルロースにリン酸基、カルボキシル基、スルホン基などの官能基を付加する処理が挙げられる。前記前処理は、セルロースナノファイバーを効率的に製造できる前処理であれば特に限定なく使用することができる。
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではない。
[実施例1]
[前処理]
チップ状のユーカリ・グロブラスの林地残材(樹皮70%、枝葉30%、以下「原料」という。)を20mmの丸孔スクリーンを取り付けた一軸破砕機(西邦機工社製、SC−15)のホッパーに投入し、破砕した。図1に示す破砕ローターRの下部に接続されているダクトDにエアーを原料(乾燥重量)1kgに対して1分間に500mlの流量で供給した。電力積算計を用いて一軸破砕機の運転に要した電力消費量(kWh/t:乾燥重量)を測定した。
[化学的処理]
上記原料1kg(絶乾重量)に対して97%亜硫酸ナトリウム200g及び水酸化ナトリウム10gを添加後、水を添加し水溶液の容量を8Lに調製した。前記原料懸濁液を混合後、120℃で1時間加熱した。加熱処理後の原料懸濁液をレファイナー(熊谷理器工業製、KRK高濃度ディスクレファイナー)でディスク(プレート)のクリアランスを1.0mmに設定し磨砕した。次に60メッシュ(250μm)のスクリーンを用いて磨砕処理後の原料懸濁液を固液分離(脱水)することにより溶液の電気伝導度が30μS/cmになるまで水で洗浄した。固液分離後の固形分を原料として糖化処理を行った。
[糖化処理]
前記磨砕処理した処理物1g(乾燥重量)を、45mlの100mM酢酸緩衝液(pH5.0)に添加後、3mlのセルラーゼ(ジェネンコア協和社製、Multifect CX10L)を添加した。最終容量を50mlに調製し、50℃で18時間の酵素糖化処理を行った。酵素糖化処理後、420メッシュのスクリーンで酵素処理物(固形分)と酵素処理液を分離した。さらに酵素処理物に100mlの水を添加して洗浄し、洗浄水は酵素処理液と混合し、容量を計測した。酵素処理液中に含まれる糖量をフェノール硫酸量により測定し、原料1kgあたりの糖生産量(g)を算出した。
[データ]
前記[前処理]で測定した一軸破砕機の電力消費量、原料1000gあたりの糖生産量(g)、及びダクトの目詰りの評価結果(1:目詰りあり、または、2:目詰りなし)を表1に示す。
[実施例2]
実施例1([前処理])において、エアーの流量を原料(乾燥重量)1kgに対して1分間に1000mlに変更した以外は全て実施例1と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1([前処理])において、エアーの流量を原料(乾燥重量)1kgに対して1分間に2000mlに変更した以外は全て実施例1と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例1([前処理])において、エアーの流量を原料(乾燥重量)1kgに対して1分間に3000mlに変更した以外は全て実施例1と同様の方法で試験した。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1([前処理])において、エアーを供給しない試験を比較例1とした。結果を表1に示す。
表1
Figure 0006492724
表1に示すように、一軸破砕機に接続しているダクトにエアーを供給した試験(実施例1〜4)では、エアーを供給しない試験と比較し、一軸破砕機の運転に要する消費電力が低かった。また、原料1kgから製造された糖量は、全ての試験において同レベルであった。
[実施例5]
[前処理]
ユーカリの全木破砕物を20mmの丸孔スクリーンを取り付けた一軸破砕機(西邦機工社製、SC−15)で破砕し原料として用いた。
上記原料に対して97%亜硫酸ナトリウムを20%及び水酸化ナトリウムを1%の添加率となるように添加しながら、1日当たり1000kg(絶乾重量)の上記原料を連続式加熱器に投入し、170℃で90分間加熱処理した。加熱処理後の原料懸濁液をレファイナー(熊谷理器工業製、KRK高濃度ディスクレファイナー)でディスク(プレート)のクリアランスを1.0mmに設定し磨砕した後、スクリュープレス(富国工業株式会社製SHX−200 x 1500L、スクリーンサイズ1.2mm)で脱水した。脱水した原料を「前処理原料」とした。
[併行糖化発酵]
予め、液体培地(グルコース20g/L、CSL10g/L、尿素2.2g/L、pH4.5〜5.0、37℃)40LでIsattchenkia orientaris MF-121株 を8時間前々培養した。同様に500Lの培地量で前培養を実施した。
糖化発酵槽BR1にグルコース、CSL、尿素を上記と同組成となるように各々を添加し、最終容量を8.5mに調整した。酵母菌体を含む前培養液を糖化発酵槽に添加し8時間培養して、酵母数を1x10/mlに増殖させた。その後、市販セルラーゼ500Lを糖化発酵槽に添加した。前処理原料1200kg(乾燥重量)及び水を均等に48時間かけて糖化発酵槽に添加し、糖化発酵槽の最終容量を12mに調整した。以後、糖化発酵液のpHを4.5〜5.0の範囲に調整し37℃で併行糖化発酵を継続した。前処理原料の糖化発酵槽内での平均滞留時間(原料懸濁液が糖化発酵槽を通過する時間)を48時間とした。すなわち、上記と同様のレートで連続的に前処理原料と水を糖化発酵槽に供給しながら、原料懸濁液を250L/hで排出し、減圧蒸留装置EVへ移送した。尚、連続運転中に系内の糖化発酵液量が増減した場合は、水を添加したり水分蒸発量を調整することによって、糖化発酵槽の容量を12mに維持した。
図2に示すように糖化発酵槽BR1のエアー供給口から糖化発酵槽BR1の内部に発酵微生物の生育を促進するためにエアーを連続的に供給した(エアー供給量:300L/1分間)。一方、糖化発酵槽BR1の排気口から微生物の発酵により生成した排気(以下、「排気」とう。)を一軸破砕機に移送し、実験例1と同様の方法で一軸破砕機の破砕ローターRの下部に接続されているダクトDに糖化発酵槽BR1から排出された排気を原料(乾燥重量)1kgに対して1分間に500mlの流量で供給した。電力積算計を用いて一軸破砕機の運転に要した電力消費量(kWh/t:乾燥重量)を測定した。結果を表2に示す。
表2
Figure 0006492724
表2に示すように、一軸破砕機に接続しているダクトに糖化発酵で排出された排気を供給した試験(実施例5)においても、一軸破砕機の運転に要する消費電力が低く、実験例1〜4と同程度のエタノールを生産できることを確認した。糖化発酵から排出された排気を利用することによりエタノール生産コストの低減が可能となるものと考えられる。
本発明により、糖化又は糖化発酵で用いる原料の破砕に用いる一軸破砕機の消費電力を低減することができるため、エタノールや有機酸等の製造コストを低減することが可能となる。
H:ホッパー
R:ローター
D:ダクト
BR1:糖化発酵槽

Claims (4)

  1. リグノセルロース系原料を、ホッパーに投入された原料をローターで破砕して該ローター下部の原料排出口から排出する破砕機で破砕する際に、破砕機の原料排出口が接続している管路に流体を供給することを含み、前記流体が糖化発酵工程または発酵工程から排出される排気であることを特徴とするリグノセルロース系原料の破砕方法。
  2. 前記破砕機が一軸破砕機であることを特徴とする請求項1に記載のリグノセルロース系原料の破砕方法。
  3. リグノセルロース原料(乾燥重量)1kgに対して1分間に供給する流体の量が、50〜10000mlであることを特徴とする請求項1または2に記載のリグノセルロース系原料の破砕方法。
  4. 排気が、微生物の発酵により排出された排気であることを特徴とする請求項に記載のリグノセルロース系原料の破砕方法。
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