JP6528928B2 - リグノセルロース系原料からのエタノール製造方法 - Google Patents
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Description
リグノセルロース系原料に含まれる多糖類から発酵基質となる単糖や小糖類を製造する方法として酵素やその酵素を生産する微生物を用いて加水分解する酵素糖化法がある。酵素分解により、バイオマスに含まれるセルロースやヘミセルロースが分解されて、グルコース、ガラクトース、マンノース等の六炭糖やキシロース、アラビノース等の五炭糖が生成される。
リグノセルロース系原料からエタノールを製造する方法において、リグノセルロース系原料を糖化発酵し、前記糖化発酵後の処理液の少なくとも1部をSS分離装置で処理し、SS分離装置へ供給される処理液に含まれるSS濃度を0.1〜10.0質量%に維持することを特徴とするリグノセルロース系原料からのエタノールの製造方法。
本発明の方法で原料として使用するリグノセルロース系原料としては、木質系として、製紙用樹木、林地残材、間伐材等のチップ又は樹皮、木本性植物の切株から発生した萌芽、製材工場等から発生する鋸屑又はおがくず、街路樹の剪定枝葉、建築廃材等が挙げられ、草本系としてケナフ、稲藁、麦わら、コーンコブ、バガス等の農産廃棄物、油用作物やゴム等の工芸作物の残渣及び廃棄物(例えば、EFB: Empty Fruit Bunch)、草本系エネルギー作物のエリアンサス、ミスカンサスやネピアグラス等が挙げられる。
また、バイオマスとしては、木材由来の紙、古紙、パルプ、パルプスラッジ、スラッジ、下水汚泥等、食品廃棄物、等を原料として利用することができる。これらのバイオマスは、単独、あるいは複数を組み合わせて使用することができる。また、バイオマスは、乾燥固形物であっても、水分を含んだ固形物であっても、スラリーであっても用いることができる。
本発明では、前記リグノセルロース原料に機械的処理を施すことができる。機械的処理としては、切断、裁断、破砕、磨砕等の任意の機械的手段が挙げられ、リグノセルロースを次工程の化学的処理工程で糖化され易い状態にすることである。使用する機械装置については特に限定されないが、例えば、切出し装置、一軸破砕機、二軸破砕機、ハンマークラッシャー、レファイナー、ニーダー、ボールミル等を用いることができる。
原料を洗浄する方法としては、例えば、原料に水を噴射して原料に混合されている異物を除く方法、あるいは、原料を水中に浸漬し異物を沈降させて取り除く方法等が挙げられる。また、メタルトラップ、洗浄ドレーナー等の装置を用いて、異物を原料から分離する方法が挙げられる。
原料に異物が含まれていると、リファイナーのディスク(プレート)等の機械的処理で用いる装置の部品を破損させる可能性があるし、配管が詰まる等の製造工程内でトラブルを起こす等の問題が発生するため、異物除去工程を導入することが望ましい。
前記、機械的処理を施したリグノセルロース原料を次に化学的処理することが望ましい。化学的処理としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上のアルカリ薬品、又は、亜硫酸ナトリウムと前記アルカリ薬品の中から選ばれる1種以上のアルカリ薬品を含有する溶液に浸漬する化学的処理を含む前処理である。また、オゾン、二酸化塩素などの酸化剤による化学的処理も可能である。
化学的処理は、前記機械的処理と組み合わせてそれらの前処理の後処理として行うことが好適である。
本発明では、前記化学処理により得られたリグノセルロース原料をレファイナーのディスク(プレート)のクリアランスを0.1〜2.0mmの範囲で磨砕することが好ましく0.1〜1.0mmの範囲がさらに好ましい。使用するレファイナーとしては、シングルディスクレファイナー、ダブルディスクレファイナー等を使用することができ相対するディスクのクリアランスを0.1〜2.0mmの範囲に設定できるレファイナーであれば特に制限なく使用することができる。ディスクのクリアランスが2.0mmを超えると糖化または併行糖化発酵で得られる糖収率が添加するため好ましくない。一方、ディスクのクリアランスが0.1mmより低いとレファイナーで磨砕処理した後の加水分解物(固形分)の収率が低下するため好ましくない。また、ディスクのクリアランスが0.1mmより低いとレファイナーの運転に要する電気消費量が増大するため好ましくない。
殺菌処理は、酸やアルカリなど、菌の生育困難なpHに原料を晒す方法でも良いが、高温下で処理する方法でも良く、両方を組み合わせても良い。酸、アルカリ処理後の原料については、中性付近、もしくは、糖化及び/又は糖化発酵工程に適したpHに調整した後に原料として使用することが好ましい。また、高温殺菌した場合も、室温もしくは糖化発酵工程に適した温度まで降温させてから原料として使用することが好ましい。このように、温度やpHを調整してから原料を送り出すことで、好適pH、好適温度外に酵素が晒されて、失活することを防ぐことができる。
糖化と発酵を異なる培養槽で行う場合、酵素糖化反応に適した前処理が施されたリグノセルロース系原料は、適量の水と酵素と混合されて原料懸濁液とされ、糖化工程へ供給される。リグノセルロース系原料は酵素(セルラーゼ、ヘミセルラーゼ)により糖化(セルロース→グルコース、ヘミセルロース→グルコース、キシロース)される。
糖化と発酵を同じ培養槽で行う場合、酵素糖化反応に適した前処理が施されたリグノセルロース系原料は、適量の水と酵素と混合されて原料懸濁液とされ、さらに酵母等の微生物と混合されて併行糖化発酵工程へ供給される。リグノセルロース系原料は酵素により糖化され、生成された糖類が酵母によりエタノールに発酵される。
各セルロース分解酵素は、夫々の活性を有する酵素を適宜の量で添加しても良いが、市販されているセルラーゼ製剤は、上記の各種のセルラーゼ活性を有すると同時に、ヘミセルラーゼ活性も有しているものが多いので市販のセルラーゼ製剤を用いれば良い。
原料固形分100質量部に対するセルラーゼ製剤の使用量は、0.5〜100質量部が好ましく、1〜50質量部が特に好ましい。
糖化と発酵を異なる培養槽で行う場合は、前記糖化後の処理液は、発酵工程へ移送し発酵微生物を用いて発酵を行う。一方、糖化と発酵を同じ培養槽で行う場合は、酵素と発酵微生物を同じ培養槽に添加し併行糖化発酵を行う。
回収された固形分(残渣)は糖化発酵工程へ移送し糖化発酵の原料として用いることもできる。
蒸留温度は25〜60℃が好ましい。25℃未満であると、生成物の蒸留に時間がかかって生産性が低下するため好ましくない。一方、60℃より高いと、酵素が熱変性するため、エタノールの生産効率が低下するため好ましくない。
蒸留後の蒸留残渣留分中に残存する発酵生成物濃度は0.1質量%以下であることが好ましい。0.1質量%以下にすることによって、工程外へ排出される発酵生成物量を低減することができ、エタノール生産効率を向上させることができる。
ろ過膜を用いる場合、0.001〜100μmの孔径を有するろ過膜で処理する。ろ過膜の孔径は、0.01〜50μmが好ましく、0.01〜10μmがさらに好ましく、0.01〜0.3μmが特に好ましい。ろ過膜の孔径が100μmを超えるとSSの除去効果が低減するため好ましくない。一方、ろ過膜の孔径が、0.001μmより小さいと、濾過流束(単位時間あたり単位濾過面積あたりの濾過水流量)が低減するため望ましくない。前記孔径を有するろ過膜で処理することにより、糖化発酵処理液に含まれるSSを糖化発酵処理液から効率的に除去することができる。SSを除去することにより、エタノール製造設備で発生する配管の目詰まりを低減することができるため、エタノール製造設備の長期的な連続運転が可能となり、効率的にエタノールを生産することが可能となる。
図1に示す製造工程で試験を実施した。
[前処理]
ユーカリの全木破砕物を20mmの丸孔スクリーンを取り付けた一軸破砕機(西邦機工社製、SC−15)で破砕し原料として用いた。
上記原料に対して97%亜硫酸ナトリウムを20%及び水酸化ナトリウムを1%の添加率となるように添加しながら、1日当たり1000kg(絶乾重量)の上記原料を連続式加熱器に投入し、170℃で90分間加熱処理した。加熱処理後の原料懸濁液をレファイナー(熊谷理器工業製、KRK高濃度ディスクレファイナー)でディスク(プレート)のクリアランスを1.0mmに設定し磨砕した後、スクリュープレス(富国工業株式会社製SHX−200 x 1500L、スクリーンサイズ1.2mm)で脱水した。脱水した原料を「前処理原料」とした。
予め、液体培地(グルコース20g/L、CSL10g/L、尿素2.2g/L、pH4.5〜5.0、37℃)40LでIsattchenkia orientaris MF-121株 を8時間前々培養した。同様に500Lの培地量で前培養を実施した。
糖化発酵槽BR1にグルコース、CSL、尿素を上記と同組成となるように各々を添加し、最終容量を8.5m3に調整した。酵母菌体を含む前培養液を糖化発酵槽に添加し8時間培養して、酵母数を1x108/mlに増殖させた。その後、市販セルラーゼ500Lを糖化発酵槽に添加した。前処理原料1200kg(乾燥重量)及び水を均等に48時間かけて糖化発酵槽に添加し、糖化発酵槽の最終容量を12m3に調整した。以後、糖化発酵液のpHを4.5〜5.0の範囲に調整し37℃で併行糖化発酵を継続した。前処理原料の糖化発酵槽内での平均滞留時間(原料懸濁液が糖化発酵槽を通過する時間)を48時間とした。すなわち、上記と同様のレートで連続的に前処理原料と水を糖化発酵槽に供給しながら、原料懸濁液を250L/hで排出し、減圧蒸留装置EVへ移送した。尚、連続運転中に系内の糖化発酵液量が増減した場合は、水を添加したり水分蒸発量を調整することによって、糖化発酵槽の容量を12m3に維持した。随時、糖化率を測定しながらエタノール製造を実施し、糖化率の低下を認めた場合は市販セルラーゼを追添した。
前記糖化発酵液を減圧蒸留装置EV(日本化学機械製造、三井造船)に移送して、エタノールを濃縮蒸留及び脱水した。エタノールを除いた後の濃縮液(以下、「蒸留後濃縮液」という。)の一部はセラミックフィルターへ移送した。
併行糖化発酵を開始してから2日後(定常運転になった状態)を「運転開始日」とし、運転開始日から運転した日数を「運転日数」とした。運転日数10日目の糖化発酵液のSS濃度が6%に増加した時点から毎日、減圧蒸留装置EVから分離された蒸留後濃縮液の一部をセラミックフィルター(細孔径0.2μm)で処理し、蒸留後濃縮液に含まれるSS(懸濁物質)を除去し、処理液(以下、「セラミックフィルター処理液」という。)を得た。前記セラミックフィルター処理液を併行糖化発酵槽BR1へ循環させて、糖化発酵液のSS濃度が6質量%付近で安定するようにセラミックフィルター処理を行った。
<エタノール濃度、SS濃の測定>
運転開始日から毎日、糖化発酵槽からサンプリングを実施し、糖化発酵液に含まれるSS濃度を測定した。また、減圧蒸留装置から排出されるエタノール(99.5質量%)量を測定し、エタノール生産量を算出した。
<運転状況の評価>
上記エタノール製造設備でのエタノールの連続運転状況を下記の基準で評価した。
○:配管の詰まりが認められず連続運転が良好であった。
△:配管の詰まりが発生し、断続的に運転した。
×:配管の詰まりが発生し、運転が不可能になった。
実施例1において、セラミックフィルター処理を行わない試験を比較例1とした。結果を表1に示す。
実施例1において、セラミックフィルター処理を行なわない試験を実施した。その代わりに[エタノール蒸留]において、エタノールを除いた後の濃縮液の容量の10%を工程外へ排出し、排出した容量に相当する水を供給した。随時、糖化率を測定しながらエタノール製造を実施し、糖化率の低下を認めた場合は市販セルラーゼを追添した。それ以外の操作は全て実施例1と同様の方法で試験した。結果を表2に示す。
実施例1において、セラミックフィルター処理を行う直前に水溶性塩として塩化ナトリウム塩を併行糖化発酵槽BR1に添加し、電気伝導度を5〜25mS/cmの範囲内になるよう維持して試験を実施した。併行糖化発酵槽BR1内の培養液を採取し、培養液に含まれる雑菌数を測定した。雑菌の測定については100〔μg/L〕のシクロヘキシミドを含むYM寒天培地に培養液を混合し固形化させて30℃で24時間静置培養を行い出現したコロニー数を計測した。尚、コロニー数の単位をcfu/mlとした。それ以外の操作は全て実施例1と同様の方法で試験した。結果を表3に示す。
2:併行糖化発酵槽排出口
3:液体分移送ライン
4:蒸留後濃縮液移送ライン
BR1:併行糖化発酵槽
EV:減圧蒸留装置
CE:セラミックフィルター
Claims (8)
- リグノセルロース系原料からエタノールを製造する方法において、
リグノセルロース系原料を糖化発酵すること、
糖化発酵後の処理液からエタノールを除去すること、
エタノールを除去した後の濃縮液の少なくとも1部をSS分離装置で処理すること、および
SS分離装置で処理した処理液の少なくとも1部を糖化発酵へ循環させることを含み、
前記糖化発酵後の処理液に含まれるSS濃度を0.1〜6.7質量%に維持することを特徴とするリグノセルロース系原料からのエタノールの製造方法。 - 前記糖化発酵が、糖化と発酵を異なる培養槽で行う逐次糖化発酵、または、糖化と発酵を同じ培養槽で行う併行糖化発酵であることを特徴とする請求項1に記載のリグノセルロース系原料からのエタノールの製造方法。
- 前記SS分離装置がろ過膜であることを特徴とする請求項2に記載のリグノセルロース系原料からのエタノールの製造方法。
- ろ過膜の孔径が0.01〜10μmであることを特徴とする請求項3に記載のリグノセルロース系原料からのエタノールの製造方法。
- 前記ろ過膜がUF膜および/またはMF膜であることを特徴とする請求項4に記載のリグノセルロース系原料からのエタノールの製造方法。
- リグノセルロース系原料からエタノールを製造する方法において、
リグノセルロース系原料を糖化発酵すること、
糖化発酵後の処理液からエタノールを除去すること、
エタノールを除去した後の濃縮液の少なくとも1部をエタノール製造工程の工程外へ排出すること、および
排出した処理液の容量に相当する水または水溶液をエタノール製造工程内へ供給することにより糖化発酵後の処理液に含まれるSS濃度を0.1〜6.7質量%に維持することを含むことを特徴とするリグノセルロース系原料からのエタノールの製造方法。 - 前記糖化発酵後の処理液の少なくとも1部を糖化発酵へ循環させることを特徴とする請求項6に記載のリグノセルロース系原料からのエタノールの製造方法。
- 糖化発酵を行う糖化発酵工程に水溶性塩類を添加し、糖化発酵工程おける原料懸濁液の電気伝導度を5mS/cm〜25mS/cmの範囲に維持することを特徴とする請求項1〜7に記載のリグノセルロース系原料からのエタノールの製造方法。
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