JP5924192B2 - リグノセルロース含有バイオマスの酵素糖化処理方法 - Google Patents
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Description
植物系バイオマス中の多糖類から発酵基質となる単糖や小糖類を製造する方法は2つに大別できる。一つは鉱酸を用いて加水分解する酸糖化法であり、もう一つは酵素やその酵素を生産する微生物を用いて加水分解する酵素糖化法である。
そこで、酵素の回収率の改善を目的として界面活性剤を添加して処理する方法(特許文献1参照)などが提案されている。しかし、界面活性剤処理法でも、酵素の回収率が十分であるとはいえず、また、薬品添加による酵素の失活や、処理工程付加に伴うコストアップ及び後の発酵段階における微生物への悪影響などが懸念されることなどから実用的ではない。
で100%であり、酵素の残存率は24時間で95%以上であるとされている。また、酵素が残渣に吸着されて失われること、残渣の酵素の吸着機能はpHを5〜7に高めることで低下可能な場合があること、温度を5℃に下げることで低減できるという報告もあることが記載されている。
(4)酵素糖化反応に適した前処理が施されているリグノセルロース系原料を、該原料(乾燥重量)1gに対して、リグニン分解酵素生産微生物を含まないリグニン分解酵素をリグニン分解酵素活性で0.5〜300u(単位)添加して処理し、該リグニン分解酵素で処理したリグノセルロース系原料を酵素糖化処理工程で酵素糖化処理し、酵素糖化処理後の処理懸濁液から糖類含有液と糖化酵素含有液を分離して回収し、回収した糖化酵素含有液中の糖化酵素を前記酵素糖化処理工程用の酵素として循環することを特徴とするリグノセルロース系原料の酵素糖化処理による糖類の製造方法。
本発明の方法で原料として使用するリグノセルロース系原料としては、木質系として、製紙用樹木、林地残材、間伐材等のチップ又は樹皮、切り株から発生した萌芽、製材工場等から発生する鋸屑又はおがくず、街路樹の剪定枝葉、建築廃材等が挙げられ、草本系としてケナフ、稲藁、麦わら、バガスなどの農産廃棄物、草本系エネルギー作物のエリアンサス、ミスカンサスやネピアグラス等が挙げられる。なお、本発明におけるリグノセルロース系原料としては、木材由来の紙、古紙、パルプ、パルプスラッジ等も利用可能である。
本発明では、前記リグノセルロース原料に機械的処理を施す。機械的処理としては、破砕、裁断、磨砕等の任意の機械的手段が挙げられ、リグノセルロースを次工程の化学的処理工程で糖化され易い状態にすることである。使用する機械装置については特に限定されないが、例えば、一軸破砕機、二軸破砕機、ハンマークラッシャー、レファイナー、ニーダー、ボールミル等を用いることができる。
原料を洗浄する方法としては、例えば、原料に洗浄水を供給して原料に混合されている異物を除く方法、あるいは、原料を水中に浸漬し異物を沈降させて取り除く方法等が挙げられる。また、メタルトラップ等の洗浄装置を用いて異物を原料から分離する方法が挙げられる。
原料に異物が含まれていると、破砕や磨砕等の機械的処理に要する消費電力が増加したり、機械的処理で用いるレファイナーのディスク(プレート)等の装置の部品を破損させる可能性がある。また、異物が原因となって配管が詰まる等の製造工程内でトラブルを起こす等の問題が発生するため、洗浄工程を導入することが望ましい。
前記、機械的処理を施したリグノセルロース原料を次に化学的処理する。化学的処理としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムから選ばれる1種以上のアルカリ薬品、又は、亜硫酸ナトリウムと前記アルカリ薬品の中から選ばれる1種以上のアルカリ薬品を含有する溶液に浸漬する化学的処理を含む前処理である。また、オゾン、二酸化塩素などの酸化剤による化学的処理も可能である。
化学的処理は、前記機械的処理と組み合わせてそれらの前処理の後処理として行うことが好適である。
原料(乾燥重量)1gに対して、リグニン分解酵素の酵素活性で0.5〜300u(単位)添加しリグニン分解酵素で原料を処理するとリグニンがスルホン化されて電荷を持つことにより、後の糖化又は糖化発酵工程で用いるセルラーゼの原料への吸着が抑制される。糖化又は糖化発酵工程で原料へのセルラーゼの吸着が抑制されるため、結果としてエタノール製造工程内において、酵素(セルラーゼ)回収率が高まりセルラーゼを含有する反応液を工程内で循環させることにより長期間、セルラーゼを再利用することができる。
殺菌処理は、酸やアルカリなど、菌の生育困難なpHに原料を晒す方法でも良いが、高温下で処理する方法でも良く、両方を組み合わせても良い。酸、アルカリ処理後の原料については、中性付近、もしくは、糖化及び/又は糖化発酵工程に適したpHに調整した後に原料として使用することが好ましい。また、高温殺菌した場合も、室温もしくは糖化発酵工程に適した温度まで降温させてから原料として使用することが好ましい。このように、温度やpHを調整してから原料を送り出すことで、好適pH、好適温度外に酵素が晒されて、失活することを防ぐことができる。
図1に示すように、リグニン分解酵素処理されたリグノセルロース系原料は、適量の水と酵素と混合されて原料懸濁液とされ、糖化工程へ供給される。リグノセルロース系原料は酵素(セルラーゼ、ヘミセルラーゼ)により糖化(セルロース→グルコース、ヘミセルロース→グルコース、キシロース)される。
図2に示すように、酵素糖化反応に適した前処理が施されたリグノセルロース系原料は、適量の水と酵素と混合されて原料懸濁液とされ、さらに酵母等の微生物と混合されて併行糖化発酵工程へ供給される。リグノセルロース系原料は酵素により糖化され、生成された糖が酵母によりエタノールに発酵される。
各セルロース分解酵素は、夫々の活性を有する酵素を適宜の量で添加しても良いが、市販されているセルラーゼ製剤は、上記の各種のセルラーゼ活性を有すると同時に、ヘミセルラーゼ活性も有しているものが多いので市販のセルラーゼ製剤を用いれば良い。
原料固形分100質量部に対するセルラーゼ製剤の使用量は、0.5〜100質量部が好ましく、1〜50質量部が特に好ましい。
微生物は固定化しておいても良い。微生物を固定化しておくと、次工程で微生物を分離して再回収するという工程を省くことができるため、少なくとも回収工程に要する負担を軽減することができ、微生物のロスが軽減できるというメリットがある。また、凝集性の
回収された固形分(残渣)は糖化工程または併行糖化発酵工程へ移送し糖化発酵の原料として用いることもできる。
固液分離工程で分離された液体分(濾液)は蒸留工程へ移送される。
蒸留工程では、減圧蒸留装置により発酵生成物としてエタノールが蒸留分離される。減圧下では低い温度で発酵生成物を分離できるため、酵素の失活を防ぐことができる。減圧蒸留装置としては、ロータリーエバポレーター、フラッシュエバポレーターなどを用いることができる。
蒸留温度は25〜60℃が好ましい。25℃未満であると、生成物の蒸留に時間がかかって生産性が低下する。また、60℃より高いと、酵素が熱変性して失活してしまい、新たに追加する酵素量が増加するため経済性が悪くなる。
蒸留後の蒸留残渣留分中に残る発酵生成物濃度は0.1質量%以下であることが好ましい。このような濃度にすることによって、後段の固液分離工程において固形物とともに排出される発酵生成物量を低減することができ、収率を向上させることができる。
蒸留残液は、遠心分離工程へ移送され残留している残渣を遠心分離によって除去した後、液体留分は併行糖化発酵工程に循環されるか又は二次併行糖化発酵工程(前記、一次併行糖化発酵工程とは異なる第2の併行糖化発酵工程)へ移送される。二次併行糖化発酵工程では、新しいリグノセルロース原料を添加して糖化発酵させることもできるし、キシロース等の五炭糖の発酵を目的とした発酵を行うことができる。遠心分離後の液体留分には酵素が含まれており、併行糖化発酵工程または二次併行糖化発酵工程で再利用される。一方、遠心分離後の残渣には、酵素、リグニン、酵母が含まれている。リグニンは、燃焼原料として回収しエネルギーとして利用することもできるし、リグニンを回収し有効利用することもできる。また、酵母を残渣から分離して、糖化発酵工程で再利用することもできる。
[リグニン分解酵素の調製]
培地(グルコース3質量%、ペプトン1質量%、KH2PO4 0.15質量%、MgSO4・7H2O 0.05質量%、塩酸チアミン 0.0002質量%、CuSO4・5H2O 0.0016質量%、pH5.0)5Lを培養槽(10L)内で滅菌した。前記培地にアラゲカワラタケ(コリオラス・ヒルスタス:Coriolus hirsutus IFO4917)を接種し28℃、攪拌速度150rpm、通気量5L/分の条件で8日間培養した。
培養後、培養液を濾布で濾過し除菌し粗酵素液(濾液)を得た。この粗酵素液を10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で緩衝化したDEAEトヨパール(陰イオン交換樹脂)を充填したカラム(直径5cm x 長さ20cm)に通液し、酵素を樹脂に吸着させた。樹脂を10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で洗浄した後、30質量%硫酸アンモニウムを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)をカラムに通液し樹脂に吸着している酵素を溶出させてリグニン分解活性を有する画分(粗酵素液A)を得た。前記粗酵素液Aに硫酸アンモニウムを添加し粗酵素液A含まれる硫酸アンモニウムの最終濃度が50質量%になるように調製後、4℃で2時間放置した。50質量%硫酸アンモニウムを含む粗酵素液Aを遠心分離(10000 rpm、20分)し、沈殿(不純蛋白質)を除去した。前記粗酵素液Aにさらに硫酸アンモニウムを添加し粗酵素液A含まれる硫酸アンモニウムの最終濃度が70質量%になるように調製後、4℃で2時間放置した。70質量%硫酸アンモニウムを含む粗酵素液Aを遠心分離(10000 rpm、20分)し、沈殿(活性画分)を回収した。沈殿を少量の蒸留水に溶解後、蒸留水2Lに対して24時間透析した。透析中、前記蒸留水を5回交換した。透析後、活性画分を限外濾過(Amicon社、PM―10)で濃縮し、リグニン分解酵素溶液を得た。酵素溶液に含まれるリグニン分解酵素の酵素活性を下記の方法で測定した。
<リグニン分解酵素活性の測定>
酵素活性は0.5Mマロン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)50ul、酵素液345ul、10mM過酸化水素5ul、1mM MnSO4100ulを十分混合し、反応の結果生じるMn(III)マロン酸複合体の270nmの吸光度増加を時間を追って記録することにより行い、上記培養上清中にMn(III)マロン酸複合体を酵素活性が、培養開始6日目で6umol/ml/minで認められた。ここで酵素活性単位は1分間にMn(III)マロン酸複合体1umol増加させる活性を1ユニットとした。
チップ状のユーカリ・グロブラスの林地残材(樹皮70%、枝葉30%)を20mmの丸孔スクリーンを取り付けた一軸破砕機(西邦機工社製、SC−15)で破砕し原料として用いた。
上記原料1kg(絶乾重量)に対して97%亜硫酸ナトリウム50g及び水酸化ナトリウム1gを添加後、水を添加し水溶液の容量を10Lに調製した。前記原料懸濁液を混合後、170℃で1時間加熱した。加熱処理後の原料懸濁液をレファイナー(熊谷理器工業製、KRK高濃度ディスクレファイナー)でディスクのクリアランスを1.0mmに設定し磨砕した。次に20メッシュ(847um)のスクリーンを用いて磨砕処理後の原料懸濁液を固液分離(脱水)することにより溶液の電気伝導度が30uS/cmになるまで水で洗浄し、固形分Aを得た。
前記で得られた固形分A(乾燥重量)1gに対して0.1u(0.1単位)のリグニン分解酵素を添加し30℃で1h反応させた。反応後、反応液に含まれる原料(固形分)を水で洗浄後、20メッシュ(847um)のスクリーンを用いて固液分離(脱水)し、固形分Bを得た。
基質原料を最終濃度5質量%、CSL(コーンスティープリカー)を最終濃度1質量%、硫酸アンモニウムを最終濃度0.5質量%、となるように調製した水溶液にセルラーゼ10ml(商品名、GC220:ジェネンコア社製)を添加した。30℃、120rpmの攪拌下で糖化反応を行い、24時間後の反応液1mlを回収し、10,000rpmで5分間遠心分離した上清の酵素活性を測定した。
(ベータ−グルコシダーゼ活性)
ネータ−グルコシダーゼ活性の測定は、1.25mM 4−Methyl−umberiferyl−glucosideを含む125mM酢酸緩衝液(pH5.0)16ulに、酵素液4ul加え、37℃、10分間反応を行った後、500mM glycine−NaOH緩衝液(pH10.0)100ulを添加して反応を停止させ、350nmの励起光での460nmの蛍光強度を測定することで行った。酵素回収率は以下の計算式から求めた。
酵素回収率(%)=(上清の酵素活性/添加した酵素活性)x 100
実施例1において、固形分A(乾燥重量)1gに対して0.5uのリグニン分解酵素を添加し30℃で1h反応させた。それ以外の操作は全て実施例1と同様の操作で試験した。結果を表1に示す。
実施例1において、固形分A(乾燥重量)1gに対して1uのリグニン分解酵素を添加し30℃で1h反応させた。それ以外の操作は全て実施例1と同様の操作で試験した。結果を表1に示す。
実施例1において、固形分A(乾燥重量)1gに対して2uのリグニン分解酵素を添加し30℃で1h反応させた。それ以外の操作は全て実施例1と同様の操作で試験した。結果を表1に示す。
実施例1において、固形分A(乾燥重量)1gに対して10uのリグニン分解酵素を添加し30℃で1h反応させた。それ以外の操作は全て実施例1と同様の操作で試験した。結果を表1に示す。
実施例1において、固形分A(乾燥重量)1gに対して30uのリグニン分解酵素を添加し30℃で1h反応させた。それ以外の操作は全て実施例1と同様の操作で試験した。結果を表1に示す。
実施例1において、固形分A(乾燥重量)1gに対して50uのリグニン分解酵素を添加し30℃で1h反応させた。それ以外の操作は全て実施例1と同様の操作で試験した。結果を表1に示す。
実施例1において、固形分A(乾燥重量)1gに対して100uのリグニン分解酵素を添加し30℃で1h反応させた。それ以外の操作は全て実施例1と同様の操作で試験した。結果を表1に示す。
実施例1において、固形分A(乾燥重量)1gに対して300uのリグニン分解酵素を添加し30℃で1h反応させた。それ以外の操作は全て実施例1と同様の操作で試験した。結果を表1に示す。
実施例1において、リグニン分解酵素処理を行わない試験を比較例1とした。結果を表1に示す。
Claims (4)
- 酵素糖化反応に適した前処理が施されているリグノセルロース系原料を、該原料(乾燥重量)1gに対して、リグニン分解酵素生産微生物を含まないリグニン分解酵素をリグニン分解酵素活性で0.5〜300u(単位)添加して処理し、該リグニン分解酵素で処理したリグノセルロース系原料を酵素糖化処理工程で酵素糖化処理し、酵素糖化処理後の処理懸濁液から反応生成物と糖化酵素含有液を分離回収し、回収した糖化酵素含有液中の糖化酵素を前記酵素糖化処理工程用の酵素として循環することを特徴とするリグノセルロース系原料の酵素糖化処理方法。
- 前記酵素糖化反応に適した前処理が施されているリグノセルロース系原料が、リグノセルロース原料に対して化学的処理と機械的処理の両方の処理、あるいは化学的処理と機械的処理のうちいずれか1つの処理が施されているリグノセルロース系原料であることを特徴とする請求項1に記載のリグノセルロース系原料の酵素糖化処理方法。
- 前記酵素糖化処理工程が、糖化酵素と糖類を発酵基質とする発酵微生物を併用してリグノセルロース系原料の酵素糖化処理と、生成糖類の発酵微生物による発酵処理とを併行して行って糖類と共に糖類の発酵生成物を生成する併行糖化発酵処理工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリグノセルロース系原料の酵素糖化処理方法。
- 酵素糖化反応に適した前処理が施されているリグノセルロース系原料を、該原料(乾燥重量)1gに対して、リグニン分解酵素生産微生物を含まないリグニン分解酵素をリグニン分解酵素活性で0.5〜300u(単位)添加して処理し、該リグニン分解酵素で処理したリグノセルロース系原料を酵素糖化処理工程で酵素糖化処理し、酵素糖化処理後の処理懸濁液から糖類含有液と糖化酵素含有液を分離して回収し、回収した糖化酵素含有液中の糖化酵素を前記酵素糖化処理工程用の酵素として循環することを特徴とするリグノセルロース系原料の酵素糖化処理による糖類の製造方法。
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