JP6437591B1 - ポリエチレンパウダー及びその成形物 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、成形品の物性および外観に影響すること無く、安定的な搬送が可能なポリエチレンパウダー、およびそのポリエチレンパウダーを用いて得られる成形物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のポリエチレンパウダーは、エチレンの単独重合体、又はエチレンと炭素数が3以上15以下のα−オレフィンとの共重合体であるポリエチレンパウダーであって、粘度平均分子量が10万以上1,000万以下であり、密度が920kg/m以上960kg/m以下であり、空気通気量2mm/sの時の流動エネルギーが、無通気時の流動エネルギーの50%以下であることを特徴とする。また、本発明の成形物は、前記ポリエチレンパウダーを用いて得られることを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポリエチレンパウダー及びその成形物に関する。
ポリエチレンは、フィルム、シート、微多孔膜、繊維、発泡体、パイプ等の多種多様な用途に用いられている。特に、超高分子量のポリエチレンは、強度や化学的安定性が高く、かつ長期信頼性に優れること等の特性を有するので、鉛蓄電池やリチウムイオン電池に代表される二次電池のセパレーター用微多孔膜及び高強度繊維等の高度な性能が求められる製品の原料として用いられている。
特表2013−51972号公報 特開2000−313715号公報 特許第2674953号明細書
ここで、ポリエチレンは、その加工時の形態が主にペレット状であるが、超高分子量ポリエチレンは、その分子量が高くペレット化が容易ではないので、一般的に、ポリエチレン重合後の形態であるパウダー状(粉末状)で取り扱われることが多い。このパウダー状のポリエチレンは、ペレット状の製品と異なりその取扱いに難があることがあり、ペレット状のポリエチレンとは異なる対応が求められる。
例えば、パウダー状のポリエチレン(以下、ポリエチレンパウダーとも称す)は、工場内で各種装置から排出、移動する際、配管内に空気や窒素を送風することにより空気や窒素と同伴させて搬送されることが多い。しかし、ポリエチレンパウダーは、ペレットと異なりパウダー同士が凝集しやすく付着力が強いことから、配管内で壁面に付着したり、屈曲部や隙間に残留等することがある。またポリエチレンパウダー同士の凝集によるポリマー塊が発生したり、残留したパウダーが酸化等により劣化・変色する問題が生じる虞がある。これらの変性物(異物)がポリエチレンパウダーに混入すると、上述のように、超高分子量のポリエチレンパウダーは高性能で高品質な製品に用い得るので、当該ポリエチレンパウダーを使用した製品(例えば微多孔膜、フィルム、繊維等の成形品)の物性および外観に大きな影響を及ぼす問題がある。
ポリエチレンパウダーの配管内への付着を抑制するために、例えば、金属石鹸の添加による帯電防止や、ポリエチレンパウダー製造工程ないし貯蔵工程におけるパウダー流動環境場にポリアルキレンオキサイドアルキルエーテルを供給すること等で、搬送するポリエチレンパウダーの流動性を向上させる方法が施されることが多い(例えば、特許文献1〜3参照)。しかし、かかる方法では、上記添加剤等の添加によるコストの発生だけでなく、金属石鹸などの添加剤中の異物のコンタミが上記のようにポリエチレンパウダーを使用した製品に影響を及ぼす問題も生じ得る。
また一方で、ポリエチレンパウダーを加工する際には押出機や混合器等が用いられており、ポリエチレンパウダーのこれら装置への搬送は、例えばスクリューを用いて行われることが多い。スクリュー等を用いたポリエチレンパウダーの搬送においては、規定量を十分に連続的に安定的に搬送することが極めて重要となる。しかしながら、上述のようにパウダーの壁面(配管内の壁面等)への付着を抑えるために金属石鹸等を過度に添加すると、スクリュー表面への適度な密着が妨げられ、スクリューが滑りやすくなり、スクリューによるパウダー組織への動力が効果的に伝わりにくくなるため、パウダーの適切な搬送が妨げられることがあった。かかる場合には、規定量を精密に搬送することができず、例えばプレス成型品においては成形品中にボイドが発生したり、微多孔膜等でも膜厚が変動したりする問題が生じる虞がある。そのため、種々物性が均一な製品を安定的に生産することができない課題があった。
したがって、空気搬送時には異物を生じさせずに搬送可能であり、かつ、加工時の装置への搬送時には精密に搬送可能であり、ポリエチレンパウダーを製造・加工する過程で採用され得る、空気搬送やスクリューを用いた搬送などのいずれの搬送方法を用いた場合でも良好に搬送することができるポリエチレンパウダーが望まれていた。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、成形品の物性および外観に影響すること無く、安定的な搬送が可能なポリエチレンパウダー、及びそのポリエチレンパウダーを用いて得られる成形物を提供することを目的とする。
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意研究を重ねた結果、所定のポリエチレンパウダーであれば上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)
エチレンの単独重合体、又はエチレンと炭素数が3以上15以下のα−オレフィンとの共重合体であるポリエチレンパウダーであって、
粘度平均分子量が10万以上1,000万以下であり、
密度が920kg/m以上960kg/m以下であり、
空気通気量2mm/sの時の流動エネルギーが、無通気時の流動エネルギーの50%以下であり、
平均粒径が50μm以上300μm以下であり、
粒子径300μmを超える粒子の含有量が、0.5質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする、ポリエチレンパウダー。

圧縮度が5.0%以上15.0%以下である、上記(1)に記載のポリエチレンパウダー。

無通気時の流動エネルギーが50mJ以上250mJ以下である、上記(1)又は(2)に記載のポリエチレンパウダー。

空気通気量4mm/sの時の流動エネルギーが、無通気時の流動エネルギーの20%以下である、上記(1)〜()のいずれか1項に記載のポリエチレンパウダー。

(1)〜()のいずれか1項に記載のポリエチレンパウダーを用いて得られる成形物。
本発明によれば、成形品の物性および外観に影響すること無く、安定的な搬送が可能なポリエチレンパウダーを提供することができる。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく。その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
[ポリエチレンパウダー]
本実施形態に係るポリエチレンパウダーは、エチレンの単独重合体、又はエチレンと炭素数が3〜15のα−オレフィンとの共重合体であり、粘度平均分子量が10万以上1,000万以下であり、密度が920kg/m以上960kg/m以下であり、空気通気量2mm/sの時の流動エネルギーが、無通気時の流動エネルギーの50%以下である。
本実施形態で用いるポリエチレンとしては、特に限定されないが、具体的には、エチレン単独重合体、及びエチレンと、エチレンと共重合可能なオレフィンとの共重合体が挙げられる。
エチレンと共重合可能なオレフィンとしては、特に限定されないが、具体的には、炭素数3〜15のα−オレフィン、炭素数3〜15の環状オレフィン、式CH=CHR(ここで、Rは炭素数6〜12のアリール基である。)で表される化合物、及び炭素数3〜15の直鎖状、分岐状又は環状のジエンからなる群より選ばれる少なくとも1種のオレフィンが挙げられる。上記α−オレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン等が挙げられる。
[粘度平均分子量]
本実施形態に係るポリエチレンパウダーの粘度平均分子量(Mv)は、10万以上であり、30万以上が好ましい。また、該ポリエチレンパウダーの粘度平均分子量(Mv)は、1,000万以下であり、950万以下が好ましい。粘度平均分子量(Mv)が10万以上であることにより、成形物の耐摩耗性や強度等がより向上する。また、粘度平均分子量(Mv)が1,000万以下であることにより、成形加工性がより向上する傾向にある。
粘度平均分子量(Mv)を上記範囲に制御する方法としては、超高分子量ポリエチレンを重合する際の反応器の重合温度を変化させることが挙げられる。粘度平均分子量(Mv)は、重合温度を高温にするほど低くなる傾向にあり、重合温度を低温にするほど高くなる傾向にある。また、粘度平均分子量(Mv)を上記範囲にする別の方法としては、超高分子量ポリエチレンを重合する際に使用する助触媒としての有機金属化合物種を変更することが挙げられる。また、超高分子量ポリエチレンを重合する際に連鎖移動剤を添加してもよい。このように連鎖移動剤を添加することで、同一重合温度でも生成する超高分子量ポリエチレンの粘度平均分子量が低くなる傾向にある。
[密度]
本実施形態に係るポリエチレンパウダーの密度は、920kg/m以上960kg/m以下であり、好ましくは925kg/m以上955kg/m以下であり、更に好ましくは930kg/m以上950kg/m以下である。ポリエチレンパウダーの密度が925kg/m以上955kg/m以下であることにより、ポリエチレンパウダーの堆積時の圧力や搬送時の衝撃等でパウダー形状が変化し難い傾向にあり、そのパウダー特性も維持することができる。ポリエチレンパウダーの密度は、ポリエチレン中のα−オレフィンの量や分子量を調整することにより調整することができる。なお、密度は実施例に記載の方法により測定することができる。
[流動エネルギー]
本実施形態に係るポリエチレンパウダーの空気通気量2mm/sの時の流動エネルギーは、無通気時の流動エネルギーの50%以下であり、好ましくは46%以下であり、更に好ましくは42%以下である。
また、空気通気量4mm/sの時の流動エネルギーが、無通気時の流動エネルギーの20%以下が好ましく、より好ましくは18%以下であり、更に好ましくは16%以下である。さらに、無通気時の流動エネルギーが50mJ以上250mJ以下であり、好ましくは70mJ以上230mJ以下であり、更に好ましくは100mJ以上200mJ以下である。
ここで、本実施形態において流動エネルギーとは、所定の容器(底が多孔板)にポリエチレンパウダーを充填した後、容器の底(パウダー層の下方)から空気を送り込みながら(通気させながら)、或いは送り込まずに、ブレードを所定の速度で回転させながらポリエチレンパウダー中を上方から下方へ移動させるときに生じる回転トルクと垂直荷重を測定し、その積分値より導き出されるエネルギー量である(具体的な測定方法は後述する)。即ち、流動エネルギーとは、所定の条件下で、ブレードがパウダー中を押しのけながら進んでいく時のエネルギー量である。
そして、本発明においては、先述の本発明の課題を解決するために、ポリエチレンパウダーの空気の抱き込みやすさ及び付着性を評価することが肝要である。具体的には、従来、安息角や差角測定等にて静止したポリエチレンパウダーを用いて評価されてきたが、例えばポリエチレンパウダーの搬送時等においてポリエチレンパウダーは流動していることから、本発明者は、流動した時のポリエチレンパウダーの挙動を評価することに着目した。そして、本発明者は、無通気時と、比較的少ない通気量である2mm/s通気時の流動エネルギーの比が、パウダーの空気の抱き込みやすさ、及びパウダーの付着性等、を評価するための一指標とすることができることを見出した。具体的には、無通気時流動エネルギーに対する通気時流動エネルギーの比の変化量が大きい程、比較的少ない通気量で通気することで、静置された状態のポリエチレンパウダーがパウダー全体としての固定状態が保持できなくなり、パウダーの流動化が起こりやすく(通気状態にした時の流動性が高い)、パウダーが空気を抱き込みやすく、さらに、パウダーの付着力が弱いことを意味することが判明した。本発明者は、上記の知見に基づき、当該流動エネルギーの比を規定することにより、本発明の課題を解決し得ることを見出し本発明に至った。
即ち、空気通気量2mm/sの時の流動エネルギーが、無通気時の流動エネルギーの50%以下である本実施形態のポリエチレンパウダーは、比較的少ない空気通気量で無通気時の流動エネルギーより大きく低下するものであるので、通気時に、堆積したポリエチレンパウダー内に気体を抱き込みやすく、また、付着性が抑えられるので、配管内で壁面付着や屈曲部への残留を抑制することができる。また付着・残留等が抑制されるので、残留したパウダー同士の凝集や酸化等による劣化が起こらないため、当該ポリエチレンパウダーを用いた成形体の外観等に影響を及ぼさない。また、このポリエチレンパウダーは、無通気時において相対的に流動エネルギーが高いので、無通気時にはパウダー組織が固定状態を維持しやすく、パウダーが付着性を有し、例えばスクリューを用いて搬送する際には、スクリューによる動力が効果的にパウダー組織へ伝わりやすく、規定量を精密に搬送することができる。それゆえに、製品、例えば成形品中にボイド等の欠点が生じることを抑制することができる。したがって、ポリエチレンパウダーを製造・加工する過程で採用され得る、空気搬送やスクリューを用いた搬送などいずれの搬送方法を用いた場合でも良好に搬送することができる。
なお、同様な観点から、空気通気量2mm/sの時の流動エネルギーは、無通気時の流動エネルギーの46%以下であることが好ましく、さらに好ましくは42%以下である。
また、本実施形態のポリエチレンパウダーは空気通気量4mm/sの時の流動エネルギーが、無通気時の流動エネルギーの20%以下が好ましく、より好ましくは18%以下であり、更に好ましくは16%以下である。これにより、配管内で壁面付着や屈曲部への残留をより効果的に抑制し、また、例えばスクリュー等を用いて搬送する際に、規定量をより精密に搬送することができる。
さらに、本実施形態のポリエチレンパウダーは無通気時の流動エネルギーが50mJ以上250mJ以下であることが好ましく、より好ましくは70mJ以上230mJ以下であり、更に好ましくは100mJ以上200mJ以下である。これにより、例えばスクリューを用いて搬送する際に、規定量を十分に精密に搬送することができる。
なお、本実施形態において、空気通気時の流動エネルギーとして、空気通気量2mm/sの流動エネルギーを用いたのは、当該流動エネルギーが例えば配管内等で気流が滞留しやすい位置の気流の指標として好適であり、また、パウダーの空気を通気した際の反応性(速やかに空気を抱き込んだ状態になるか否か)が明確であるためである。また、本実施形態において、ポリエチレンパウダーの空気通気量4mm/sの時の流動エネルギーが、無通気時の流動エネルギーの所定の範囲であることが好ましいが、空気通気量4mm/sの流動エネルギーを用いたのは、4mm/sを超えるとパウダーの流動状態に変化が見られにくくなるためである。
ここで、流動エネルギーは次の方法により測定することができる。測定は、粉体流動性分析装置「パウダーレオメーターFT4」(スペクトリス株式会社製)を使用する。そして、専用のスプリット容器にポリエチレンパウダーを53g充填した後、当該容器の下方から空気を通気させずに、ブレードを、ブレードの先端の速度が100mm/sとなる回転速度(以下、ブレードの回転速度は、ブレードの先端の速度を意味する)で回転させながら、ポリエチレンパウダー中を上方から下方へ30mm/sの速度移動させ、そのときの回転トルクと垂直荷重を測定し、その積分値をエネルギー量とする。また、このエネルギー量を、本発明でいうところの無通気時の流動エネルギーとする。無通気時流動エネルギー測定後、40mm/sの回転速度で逆回転しながらブレードを30mm/sの速度で上昇させて元の位置まで戻す。その後、容器の下方(パウダー層の下部)から線速2mm/sで空気を送り込み、ブレードを100mm/sの回転速度で回転させながら、パウダー中を上方から下方へ30mm/sの速度で移動させ、その際に要したエネルギーを測定し、これを本発明で言うところの空気通気量2mm/sの時の流動エネルギーとする。次いで、40mm/sの回転速度で逆回転しながらブレードを30mm/sの速度で上昇させて、元の位置まで戻す。これらと同様な操作を、送り込む空気を線速4mm/sにして行い、その際に要したエネルギーを測定する。これを、本発明でいうところの空気通気量4mm/sの時の流動エネルギーとする。
なお、ポリエチレンパウダーの空気通気量2mm/s時の流動エネルギーを、無通気時の流動エネルギーの50%以下に制御する方法としては、ポリエチレン重合時に、溶媒、触媒、及び、フィルターを装着したエチレン導入管よりフィードされ細泡状となったエチレンガス等を連続的に重合系に供給し、生成したポリエチレンと共に溶媒等と連続的に排出する連続式重合にすること、或いは、触媒溶液を15±5℃に冷却した状態で重合系内に導入すること、或いは、ジャケットと、気化した溶媒等を冷却するコンデンサーとを併用して重合反応熱を除去する等が挙げられる。これらの方法により、ポリエチレンパウダーの粒子特性が、限定されるものではないが例えば、下記で説明する平均粒径、粒子径300μmを超える粒子(ポリエチレンパウダー)の含有量、圧縮度等が調整され、本実施形態の所定の流動エネルギーを有するポリエチレンパウダーを効果的に得ることができる。なお、上記フィルターは焼結フィルターが好ましく、より好ましくは目開き0.1μm以上75μm以下の焼結フィルターである。
[平均粒径]
本実施形態に係るポリエチレンパウダーの平均粒子径は、50μm以上であることが好ましく、より好ましくは55μm以上であり、さらに好ましくは60μm以上である。また、当該平均粒子径は、300μm以下であることが好ましく、より好ましくは200μm以下であり、さらに好ましくは150μm以下である。平均粒子径が上記範囲であることにより、本実施形態の所定の流動エネルギーの関係を、より好適に満たしやすくなるためである。具体的には、平均粒子径が50μm以上であることにより、気流や振動で飛散するパウダーの割合を低くすることができる。一方、平均粒子径が300μm以下であることにより、ポリエチレンパウダーの流動性を充分に高くすることができ、それにより例えばホッパー等への投入やホッパーからの計量等のハンドリング性がより良好となる傾向にある。また、無通気時の流動エネルギーをある程度高くすることが可能であり、例えば微多孔膜の加工時等において、生産性及び/又は延伸性等の加工適用性により優れる傾向にある。ポリエチレンの平均粒子径の制御は、使用する触媒の粒子径によって制御することができ、単位触媒量あたりのポリエチレンの生産性により制御することも可能である。なお、ポリエチレンの平均粒子径は後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
[粒子径300μmを超える粒子(ポリエチレンパウダー)の含有量]
本実施形態に係るポリエチレンパウダーにおいて、当該パウダー中の粒子径300μmを超えるポリエチレンパウダーの含有量は、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。また、当該含有量は、5.0質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましい。通常、このような大粒子はパウダーが気体を含んだときに偏在しやすい傾向があるので均一性の観点から除去されるものであるが、本実施形態におけるポリエチレンパウダーでは大粒子成分がある程度含まれることが好ましい。粒子径300μmを超えるポリエチレンパウダーの含有量が上記範囲であることにより、本実施形態の上記の流動エネルギーの関係を、より好適に満たしやすくなるためである。また、前記含有量が5.0質量%以下であることにより、無通気時の流動エネルギーが高くなりすぎず、ある程度低く保つことが可能で、静置時に流動性が良く扱いやすいだけでなく、さらに、前記含有量が0.5質量%以上であることにより、パウダーの流動化(通気状態としたとき)を起こりやすくするとともに気体を含んだ時にパウダー全体の流動化を起こしやすくし、付着力を抑制することができる。
このような粒子径300μmを超えるポリエチレンパウダーの含有量は、ポリエチレン重合時に、溶媒、触媒、及び、フィルターを装着したエチレン導入管よりフィードされ細泡状となったエチレンガス等を連続的に重合系に供給することで、粒子径300μmを超えるポリエチレンの含有量を制御できる。また、ポリエチレンを重合する際の条件により制御することが可能であり、たとえば重合圧力を下げたり、反応器の滞留時間を短くしたりすることで粒子径300μmを超えるポリエチレンパウダーの含有量を制御することができる。更に、触媒溶液を15±5℃に冷却した状態で重合系内に導入することでも300μmを超える粒子の含有量を制御することができる。なお、粒子径300μmを超えるポリエチレンパウダーの含有量の測定は後述する実施例に記載の方法により行うことができる。
[圧縮度]
本実施形態に係るポリエチレンパウダーは、圧縮度が、5.0%以上であることが好ましく、6.0%以上であることがより好ましい。また、当該圧縮度が、15.0%以下であることが好ましく、13.0%以下であることがより好ましい。当該圧縮度が上記範囲であることにより、本実施形態の上記の流動エネルギーの関係を、より好適に満たしやすくなるためである。また、ポリエチレンパウダーの圧縮度が5.0%以上であることにより、無通気時の流動エネルギーをある程度大きくすることができるとともに、通気時のパウダーの流動化を起こり易くすることができる。また、ポリエチレンパウダーの圧縮度が15.0%以下であることにより、無通気時の流動エネルギーが高くなりすぎずある程度低く保つことができる。また、気体を含んだ時にパウダー全体の流動性が急激に高まる状態を抑制することができる。また、パウダーの飛散を抑制できる。
圧縮度は、ポリエチレン重合時に、溶媒、触媒、及び、フィルターを装着したエチレン導入管よりフィードされ細泡状となったエチレンガス等を連続的に重合系に供給することで、ポリエチレンパウダーの圧縮度を制御できる。また、ポリエチレンを重合する際の条件により制御することが可能であり、たとえば重合圧力を下げたり、反応器内でのポリエチレン重合物の滞留時間を短くしたりすることでポリエチレンパウダーの圧縮度を制御することができる。更に、触媒溶液を15±5℃に冷却した状態で重合系内に導入することでもポリエチレンパウダーの圧縮度を制御することができる。なお、圧縮度の測定は後述する実施例に記載の方法により行うことができる。
[ポリエチレンの重合方法]
本実施形態に係るポリエチレンの製造に使用される触媒成分としては特に限定されないが、一般的なチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒を用いて製造することが可能である。
チーグラー・ナッタ触媒としては、固体触媒成分[A]及び有機金属化合物成分[B]からなる触媒であって、固体触媒成分[A]が、下記式1で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物(A−1)と、下記式2で表されるチタン化合物(A−2)とを反応させることにより製造されるオレフィン重合用触媒であるものが好ましい。
(A−1):(Mα(Mg)β(R)a(R(Y ・・・式1
(式中、Mは周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R及びRは炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、Yはアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R、R、−SR(ここで、R、R及びRは炭素数1以上20以下の炭化水素基を表す。cが2の場合には、Yはそれぞれ異なっていてもよい。)、β−ケト酸残基のいずれかであり、α、β、a、b及びcは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0≦c、0<a+b、0≦c/(α+β)≦2、nα+2β=a+b+c(ここで、nはMの原子価を表す。))
(A−2):Ti(OR (4−d) ・・・式2
(式中、dは0以上4以下の実数であり、Rは炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
なお、(A−1)と(A−2)の反応に使用する不活性炭化水素溶媒としては、特に限定されないが、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;及びシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
まず、(A−1)について説明する。(A−1)は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジヒドロカルビルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体のすべてを包含するものである。記号α、β、a、b、cの関係式nα+2β=a+b+cは金属原子の原子価と置換基との化学量論性を示している。
式1において、R及びR表される炭素数2以上20以下の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、例えば、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。このなかでも、好ましくはアルキル基である。α>0の場合、金属原子Mとしては、周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子が使用でき、例えば、亜鉛、ホウ素、アルミニウム等が挙げられる。このなかでも、アルミニウム、亜鉛が好ましい。
金属原子Mに対するマグネシウムの比β/αには特に限定されないが、0.1以上30以下であることが好ましく、0.5以上10以下であることがより好ましい。また、α=0である所定の有機マグネシウム化合物を用いる場合、例えば、Rが1−メチルプロピル等の場合には不活性炭化水素溶媒に可溶であり、このような化合物も本実施形態に好ましい結果を与える。式1において、α=0の場合のR、Rは次に示す3つの群(1)、群(2)、群(3)のいずれか1つを満たすものであることが推奨される。
群(1):R、Rの少なくとも一方が炭素原子数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基であること、好ましくはR、Rがともに炭素原子数4以上6以下のアルキル基であり、少なくとも一方が二級又は三級のアルキル基であること。
群(2):RとRとが炭素原子数の互いに相異なるアルキル基であること、好ましくはR2が炭素原子数2又は3のアルキル基であり、Rが炭素原子数4以上のアルキル基であること。
群(3):R、Rの少なくとも一方が炭素原子数6以上の炭化水素基であること、好ましくはR、Rに含まれる炭素原子数を加算すると12以上になるアルキル基であること。
以下これらの基を具体的に示す。群(1)において炭素原子数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基としては、具体的には、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、2−メチルブチル、2−エチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2−メチル−2−エチルプロピル基等が挙げられる。このなかでも1−メチルプロピル基が特に好ましい。
また、群(2)において炭素原子数2又は3のアルキル基としては、具体的には、エチル、1−メチルエチル、プロピル基等が挙げられる。このなかでもエチル基が特に好ましい。また炭素原子数4以上のアルキル基としては、特に限定されないが、具体的には、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、ヘキシル基が特に好ましい。
さらに、群(3)において炭素原子数6以上の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、2−ナフチル基等が挙げられる。炭化水素基の中ではアルキル基が好ましく、アルキル基の中でもヘキシル、オクチル基が特に好ましい。
一般に、アルキル基に含まれる炭素原子数が増えると不活性炭化水素溶媒に溶けやすくなる傾向にあり、また溶液の粘度が高くなる傾向にある。そのため適度な長鎖のアルキル基を用いることが取り扱い上好ましい。なお、上記有機マグネシウム化合物は不活性炭化水素溶媒で希釈して使用することができるが、該溶液中に微量のエーテル、エステル、アミン等のルイス塩基性化合物が含有され、又は残存していても差し支えなく使用できる。
次にYについて説明する。式1においてYはアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R,R、−SR(ここで、R、R及びRはそれぞれ独立
に炭素数2以上20以下の炭化水素基を表す。)、β−ケト酸残基のいずれかである。
式1においてR、R及びRで表される炭化水素基としては、炭素原子数1以上12以下のアルキル基又はアリール基が好ましく、3以上10以下のアルキル基又はアリール基が特に好ましい。特に限定されないが、例えば、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、1−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2−エチルペンチル、2−エチルヘキシル、2−エチル−4−メチルペンチル、2−プロピルヘプチル、2−エチル−5−メチルオクチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、1−メチルプロピル、2−メチルペンチル及び2−エチルヘキシル基が特に好ましい。
また、式1においてYはアルコキシ基又はシロキシ基であることが好ましい。アルコキシ基としては、特に限定されないが、具体的には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、1−メチルエトキシ、ブトキシ、1−メチルプロポキシ、1,1−ジメチルエトキシ、ペントキシ、ヘキソキシ、2−メチルペントキシ、2−エチルブトキシ、2−エチルペントキシ、2−エチルヘキソキシ、2−エチル−4−メチルペントキシ、2−プロピルヘプトキシ、2−エチル−5−メチルオクトキシ、オクトキシ、フェノキシ、ナフトキシ基であることが好ましい。このなかでも、ブトキシ、1−メチルプロポキシ、2−メチルペントキシ及び2−エチルヘキソキシ基であることがより好ましい。シロキシ基としては、特に限定されないが、具体的には、ヒドロジメチルシロキシ、エチルヒドロメチルシロキシ、ジエチルヒドロシロキシ、トリメチルシロキシ、エチルジメチルシロキシ、ジエチルメチルシロキシ、トリエチルシロキシ基等が好ましい。このなかでも、ヒドロジメチルシロキシ、エチルヒドロメチルシロキシ、ジエチルヒドロシロキシ、トリメチルシロキシ基がより好ましい。
本実施形態において(A−1)の合成方法には特に制限はなく、式RMgX、及び式RMg(Rは前述の意味であり、Xはハロゲンである。)からなる群に属する有機マグネシウム化合物と、式M 及びM (n−1)H(M、及びRは前述の意味であり、nはMの原子価を表す。)からなる群に属する有機金属化合物とを不活性炭化水素溶媒中、25℃以上150℃以下で反応させ、必要な場合には続いて式Y−H(Yは前述の意味である。)で表される化合物を反応させる、又はYで表される官能基を有する有機マグネシウム化合物及び/又は有機アルミニウム化合物を反応させることにより合成することが可能である。このうち、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物と式Y−Hで表される化合物とを反応させる場合、反応の順序については特に制限はなく、有機マグネシウム化合物中に式Y−Hで表される化合物を加えていく方法、式Y−Hで表される化合物中に有機マグネシウム化合物を加えていく方法、又は両者を同時に加えていく方法のいずれの方法も用いることができる。
本実施形態において、(A−1)における全金属原子に対するYのモル組成比c/(α+β)は0≦c/(α+β)≦2であり、0≦c/(α+β)<1であることが好ましい。全金属原子に対するYのモル組成比が2以下であることにより、(A−2)に対する(A−1)の反応性が向上する傾向にある。
次に、(A−2)について説明する。(A−2)は式2で表されるチタン化合物である。
(A−2):Ti(OR (4−d) ・・・式2
(式中、dは0以上4以下の実数であり、Rは炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
上記式2において、dは0以上1以下であることが好ましく、0であることがさらに好ましい。また、式2においてRで表される炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、アリル基等の脂肪族炭化水素基;シクロヘキシル、2−メチルシクロヘキシル、シクロペンチル基等の脂環式炭化水素基;フェニル、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。このなかでも、脂肪族炭化水素基が好ましい。Xで表されるハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。このなかでも、塩素が好ましい。本実施形態において、(A−2)は四塩化チタンであることが最も好ましい。本実施形態においては上記から選ばれた化合物を2種以上混合して使用することが可能である。
次に、(A−1)と(A−2)との反応について説明する。該反応は、不活性炭化水素溶媒中で行われることが好ましく、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒中で行われることがさらに好ましい。該反応における(A−1)と(A−2)とのモル比については特に限定されないが、(A−1)に含まれるMg原子に対する(A−2)に含まれるTi原子のモル比(Ti/Mg)が0.1以上10以下であることが好ましく、0.3以上3以下であることがより好ましい。反応温度については、特に限定されないが、−80℃以上150℃以下の範囲で行うことが好ましく、−40℃〜100℃の範囲で行うことがさらに好ましい。(A−1)と(A−2)の添加順序には特に制限はなく、(A−1)に続いて(A−2)を加える、(A−2)に続いて(A−1)を加える、(A−1)と(A−2)とを同時に添加する、のいずれの方法も可能であるが、(A−1)と(A−2)とを同時に添加する方法が好ましい。本実施形態においては、上記反応により得られた固体触媒成分[A]は、不活性炭化水素溶媒を用いたスラリー溶液として使用される。
本実施形態において使用されるチーグラー・ナッタ触媒成分の他の例としては、固体触媒成分[C]及び有機金属化合物成分[B]からなり、固体触媒成分[C]が、式3で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物(C−1)と式4で表される塩素化剤(C−2)との反応により調製された担体(C−3)に、式5で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物(C−4)と式6で表されるチタン化合物(C−5)を担持することにより製造されるオレフィン重合用触媒が好ましい。
(C−1):(Mγ(Mg)δ(R(R(OR10 ・・・式3
(式中、Mは周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R、R及びR10はそれぞれ炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、γ、δ、e、f及びgは次の関係を満たす実数である。0≦γ、0<δ、0≦e、0≦f、0≦g、0<e+f、0≦g/(γ+δ)≦2、kγ+2δ=e+f+g(ここで、kはMの原子価を表す。))
(C−2):HSiCl11 (4−(h+i)) ・・・式4
(式中、R11は炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、hとiは次の関係を満たす実数である。0<h、0<i、0<h+i≦4)
(C−4):(Mα(Mg)β(R(R ・・・式5
(式中、Mは周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R及びRは炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、Yはアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R,R、−SR(ここで、R、R及びRは炭素数1以上20以下の炭化水素基を表す。cが2の場合には、Yはそれぞれ異なっていてもよい。)、β−ケト酸残基のいずれかであり、α、β、a、b及びcは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0≦c、0<a+b、0≦c/(α+β)≦2、nα+2β=a+b+c(ここで、nはMの原子価を表す。))
(C−5):Ti(OR (4−d) ・・・式6
(式中、dは0以上4以下の実数であり、Rは炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
まず、(C−1)について説明する。(C−1)は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジヒドロカルビルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体のすべてを包含するものである。式3の記号γ、δ、e、f及びgの関係式kγ+2δ=e+f+gは金属原子の原子価と置換基との化学量論性を示している。
上記式中、RないしRで表される炭化水素基は、特に限定されないが、具体的には、それぞれアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。このなかでも、好ましくはR及びRは、それぞれアルキル基である。α>0の場合、金属原子Mとしては、周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子が使用でき、例えば、亜鉛、ホウ素、アルミニウム等が挙げられる。このなかでも、アルミニウム、亜鉛が特に好ましい。
金属原子Mに対するマグネシウムの比δ/γには特に限定されないが、0.1以上30以下であることが好ましく、0.5以上10以下であることがさらに好ましい。また、γ=0である所定の有機マグネシウム化合物を用いる場合、例えば、Rが1−メチルプロピル等の場合には不活性炭化水素溶媒に可溶であり、このような化合物も本実施形態に好ましい結果を与える。式3において、γ=0の場合のR、Rは次に示す3つの群(1)、群(2)、群(3)のいずれか1つであることが推奨される。
群(1):R、Rの少なくとも一方が炭素数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基であること、好ましくはR、Rがともに炭素数4以上6以下であり、少なくとも一方が二級又は三級のアルキル基であること。
群(2):RとRとが炭素数の互いに相異なるアルキル基であること、好ましくはRが炭素数2又は3のアルキル基であり、Rが炭素数4以上のアルキル基であること。
群(3):R、Rの少なくとも一方が炭素数6以上の炭化水素基であること、好ましくはR、Rに含まれる炭素数の和が12以上になるアルキル基であること。
以下、これらの基を具体的に示す。群(1)において炭素数4以上6以下である二級又は三級のアルキル基としては、具体的には、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、2−メチルブチル、2−エチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2,2−ジメチルブチル、2−メチル−2−エチルプロピル基等が用いられる。このなかでも、1−メチルプロピル基が特に好ましい。
また、群(2)において炭素数2又は3のアルキル基としてはエチル、1−メチルエチル、プロピル基等が挙げられる。このなかでも、エチル基が特に好ましい。また炭素数4以上のアルキル基としては、特に限定されないが、具体的には、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、ヘキシル基が特に好ましい。
さらに、群(3)において炭素数6以上の炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、2−ナフチル基等が挙げられる。炭化水素基の中ではアルキル基が好ましく、アルキル基の中でもヘキシル、オクチル基が特に好ましい。
一般に、アルキル基に含まれる炭素原子数が増えると不活性炭化水素溶媒に溶けやすくなる傾向にあり、溶液の粘度が高くなる傾向にある。そのため、適度な長鎖のアルキル基を用いることが取り扱い上好ましい。なお、上記有機マグネシウム化合物は不活性炭化水素溶液として使用されるが、該溶液中に微量のエーテル、エステル、アミン等のルイス塩基性化合物が含有され、或いは残存していても差し支えなく使用できる。
次にアルコキシ基(OR10)について説明する。R10で表される炭化水素基としては、炭素原子数1以上12以下のアルキル基又はアリール基が好ましく、3以上10以下のアルキル基又はアリール基が特に好ましい。R10としては、特に限定されないが、具体的には、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、1−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、2−メチルペンチル、2−エチルブチル、2−エチルペンチル、2−エチルヘキシル、2−エチル−4−メチルペンチル、2−プロピルヘプチル、2−エチル−5−メチルオクチル、オクチル、ノニル、デシル、フェニル、ナフチル基等が挙げられる。このなかでも、ブチル、1−メチルプロピル、2−メチルペンチル及び2−エチルヘキシル基が特に好ましい。
本実施形態においては、(C−1)の合成方法には特に限定しないが、式RMgX及び式RMg(Rは前述の意味であり、Xはハロゲン原子である。)からなる群に属する有機マグネシウム化合物と、式M 及び式M (k−1)H(M、R及びkは前述の意味)からなる群に属する有機金属化合物とを不活性炭化水素溶媒中、25℃以上150℃以下の温度で反応させ、必要な場合には続いてR(Rは前述の意味である。)で表される炭化水素基を有するアルコール又は不活性炭化水素溶媒に可溶なRで表される炭化水素基を有するアルコキシマグネシウム化合物、及び/又はアルコキシアルミニウム化合物と反応させる方法が好ましい。
このうち、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とアルコールとを反応させる場合、反応の順序については特に制限はなく、有機マグネシウム化合物中にアルコールを加えていく方法、アルコール中に有機マグネシウム化合物を加えていく方法、又は両者を同時に加えていく方法のいずれの方法も用いることができる。本実施形態において不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウム化合物とアルコールとの反応比率については特に限定されないが、反応の結果、得られるアルコキシ基含有有機マグネシウム化合物における、全金属原子に対するアルコキシ基のモル組成比g/(γ+δ)は0≦g/(γ+δ)≦2であり、0≦g/(γ+δ)<1であることが好ましい。
次に、(C−2)について説明する。(C−2)は式4で表される、少なくとも一つはSi−H結合を有する塩化珪素化合物である。
(C−2):HSiCl11 (4−(h+i)) ・・・式4
(式中、R11は炭素数1以上12以下の炭化水素基であり、hとiは次の関係を満たす実数である。0<h、0<i、0<h+i≦4)
式4においてR11で表される炭化水素基は、特に限定されないが、具体的には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、シクロヘキシル、フェニル基等が挙げられる。このなかでも、炭素数1以上10以下のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル基等の炭素数1〜3のアルキル基がさらに好ましい。また、h及びiはh+i≦4の関係を満たす0より大きな数であり、iが2以上3以下であることが好ましい。
これらの化合物としては、特に限定されないが、具体的には、HSiCl、HSiClCH、HSiCl、HSiCl(C)、HSiCl(2−C)、HSiCl(C)、HSiCl(C)、HSiCl(4−Cl−C)、HSiCl(CH=CH)、HSiCl(CH)、HSiCl(1−C10)、HSiCl(CHCH=CH)、HSiCl(CH)、HSiCl(C)、HSiCl(CH、HSiCl(C、HSiCl(CH)(2−C)、HSiCl(CH)(C)、HSiCl(C等が挙げられる。これらの化合物又はこれらの化合物から選ばれた2種類以上の混合物からなる塩化珪素化合物が使用される。この中でも、HSiCl、HSiClCH、HSiCl(CH、HSiCl(C)が好ましく、HSiCl、HSiClCHがより好ましい。
次に(C−1)と(C−2)との反応について説明する。反応に際しては(C−2)を予め、不活性炭化水素溶媒、1,2−ジクロルエタン、o−ジクロルベンゼン、ジクロルメタン等の塩素化炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系媒体;又はこれらの混合媒体、を用いて希釈した後に利用することが好ましい。このなかでも、触媒の性能上、不活性炭化水素溶媒がより好ましい。(C−1)と(C−2)との反応比率には特に限定されないが、(C−1)に含まれるマグネシウム原子1molに対する(C−2)に含まれる珪素原子が0.01mol以上100mol以下であることが好ましく、0.1mol以上10mol以下であることがさらに好ましい。
(C−1)と(C−2)との反応方法については特に制限はなく、(C−1)と(C−2)とを同時に反応器に導入しつつ反応させる同時添加の方法、(C−2)を事前に反応器に仕込んだ後に(C−1)を反応器に導入させる方法、又は(C−1)を事前に反応器に仕込んだ後に(C−2)を反応器に導入させる方法のいずれの方法も使用することができる。このなかでも、(C−2)を事前に反応器に仕込んだ後に(C−1)を反応器に導入させる方法が好ましい。上記反応により得られる担体(C−3)は、ろ過又はデカンテーション法により分離した後、不活性炭化水素溶媒を用いて充分に洗浄し、未反応物又は副生成物等を除去することが好ましい。
(C−1)と(C−2)との反応温度については特に限定されないが、25℃以上150℃以下であることが好ましく、30℃以上120℃以下であることがより好ましく、40℃以上100℃以下であることがさらに好ましい。(C−1)と(C−2)とを同時に反応器に導入しつつ反応させる同時添加の方法においては、あらかじめ反応器の温度を所定温度に調節し、同時添加を行いながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度を所定温度に調節することが好ましい。(C−2)を事前に反応器に仕込んだ後に(C−1)を反応器に導入させる方法においては、該塩化珪素化合物を仕込んだ反応器の温度を所定温度に調節し、該有機マグネシウム化合物を反応器に導入しながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度を所定温度に調節することが好ましい。(C−1)を事前に反応器に仕込んだ後に(C−2)を反応器に導入させる方法においては、(C−1)を仕込んだ反応器の温度を所定温度に調節し、(C−2)を反応器に導入しながら反応器内の温度を所定温度に調節することにより、反応温度を所定温度に調節することが好ましい。
次に、有機マグネシウム化合物(C−4)について説明する。(C−4)としては、前述の式5(C−4)で表されるものが好ましい。
(C−4):(Mα(Mg)β(R(R ・・・式5
(式中、Mは周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R及びRは炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、Yはアルコキシ、シロキシ、アリロキシ、アミノ、アミド、−N=C−R,R、−SR(ここで、R、R及びRは炭素数1以上20以下の炭化水素基を表す。cが2の場合には、Yはそれぞれ異なっていてもよい。)、β−ケト酸残基のいずれかであり、α、β、a、b及びcは次の関係を満たす実数である。0≦α、0<β、0≦a、0≦b、0<a+b、0≦c/(α+β)≦2、nα+2β=a+b+c(ここで、nはMの原子価を表す。))
(C−4)の使用量は、(C−5)に含まれるチタン原子に対する(C−4)に含まれるマグネシウム原子のモル比で0.1以上10以下であることが好ましく、0.5以上5以下であることがより好ましい。
(C−4)と(C−5)との反応の温度については特に限定されないが、−80℃以上150℃以下であることが好ましく、−40℃以上100℃以下の範囲であることがより好ましい。
(C−4)の使用時の濃度については特に限定されないが、(C−4)に含まれるチタン原子基準で0.1mol/L以上2mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上1.5mol/L以下であることがより好ましい。なお、(C−4)の希釈には不活性炭化水素溶媒を用いることが好ましい。
(C−3)に対する(C−4)と(C−5)の添加順序には特に制限はなく、(C−4)に続いて(C−5)を加える、(C−5)に続いて(C−4)を加える、(C−4)と(C−5)とを同時に添加する、のいずれの方法も可能である。このなかでも、(C−4)と(C−5)とを同時に添加する方法が好ましい。(C−4)と(C−5)との反応は不活性炭化水素溶媒中で行われるが、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒を用いることが好ましい。かくして得られた触媒は、不活性炭化水素溶媒を用いたスラリー溶液として使用される。
次に(C−5)について説明する。本実施形態において、(C−5)は前述の式6で表されるチタン化合物である。
(C−5):Ti(OR (4−d) ・・・式6
(式中、dは0以上4以下の実数であり、Rは炭素数1以上20以下の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。)
式6においてRで表される炭化水素基としては、特に限定されないが、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、アリル基等の脂肪族炭化水素基;シクロヘキシル、2−メチルシクロヘキシル、シクロペンチル基等の脂環式炭化水素基;フェニル、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。このなかでも、脂肪族炭化水素基が好ましい。Xで表されるハロゲンとしては、特に限定されないが、具体的には、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。このなかでも、塩素が好ましい。上記から選ばれた(C−5)を、1種単独で用いても良いし、2種以上混合して使用することが可能である。
(C−5)の使用量としては特に限定されないが、担体(C−3)に含まれるマグネシウム原子に対するモル比で0.01以上20以下が好ましく、0.05以上10以下が特に好ましい。
(C−5)の反応温度については、特に限定されないが、−80℃以上150℃以下であることが好ましく、−40℃以上100℃以下の範囲であることがさらに好ましい。
本実施形態においては、(C−3)に対する(C−5)の担持方法については特に限定されず、(C−3)に対して過剰な(C−5)を反応させる方法や、第三成分を使用することにより(C−5)を効率的に担持する方法を用いてもよいが、(C−5)と有機マグネシウム化合物(C−4)との反応により担持する方法が好ましい。
次に、本実施形態における有機金属化合物成分[B]について説明する。本実施形態の固体触媒成分は、有機金属化合物成分[B]と組み合わせることにより、高活性な重合用触媒となる。有機金属化合物成分[B]は「助触媒」と呼ばれることもある。有機金属化合物成分[B]としては、周期律表第1族、第2族、第12族及び第13族からなる群に属する金属を含有する化合物であることが好ましく、特に有機アルミニウム化合物及び/又は有機マグネシウム化合物が好ましい。
有機アルミニウム化合物としては、下記式7で表される化合物を単独又は混合して使用することが好ましい。
AlR12 (3−j) ・・・式7
(式中、R12は炭素数1以上20以下の炭化水素基、Zは水素、ハロゲン、アルコキシ、アリロキシ、シロキシ基からなる群に属する基であり、jは2以上3以下の数である。)
上記の式7において、R12で表される炭素数1以上20以下の炭化水素基は、特に限定されないが、具体的には、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素を包含するものであり、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリ(2−メチルプロピル)アルミニウム(又は、トリイソブチルアルミニウム)、トリペンチルアルミニウム、トリ(3−メチルブチル)アルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ビス(2−メチルプロピル)アルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド等のハロゲン化アルミニウム化合物、ジエチルアルミニウムエトキシド、ビス(2−メチルプロピル)アルミニウムブトキシド等のアルコキシアルミニウム化合物、ジメチルヒドロシロキシアルミニウムジメチル、エチルメチルヒドロシロキシアルミニウムジエチル、エチルジメチルシロキシアルミニウムジエチル等のシロキシアルミニウム化合物及びこれらの混合物が好ましい。このなかでも、トリアルキルアルミニウム化合物が特に好ましい。
有機マグネシウム化合物としては、前述の式3で表される不活性炭化水素溶媒に可溶である有機マグネシウム化合物が好ましい。
(Mγ(Mg)δ(R(R(OR10 ・・・式3
(式中、Mは周期律表第12族、第13族及び第14族からなる群に属する金属原子であり、R、R及びR10はそれぞれ炭素数2以上20以下の炭化水素基であり、γ、δ、e、f及びgは次の関係を満たす実数である。0≦γ、0<δ、0≦e、0≦f、0≦g、0<e+f、0≦g/(γ+δ)≦2、kγ+2δ=e+f+g(ここで、kはMの原子価を表す。))
この有機マグネシウム化合物は、不活性炭化水素溶媒に可溶な有機マグネシウムの錯化合物の形として示されているが、ジアルキルマグネシウム化合物及びこの化合物と他の金属化合物との錯体の全てを包含するものである。γ、δ、e、f、g、M、R、R、OR10についてはすでに述べたとおりであるが、この有機マグネシウム化合物は不活性炭化水素溶媒に対する溶解性が高いほうが好ましいため、δ/γは0.5〜10の範囲にあることが好ましく、またMがアルミニウムである化合物がさらに好ましい。
固体触媒成分及び有機金属化合物成分[B]を重合条件下である重合系内に添加する方法については、両者を別々に重合系内に添加してもよいし、あらかじめ両者を反応させた後に重合系内に添加してもよいが、添加する際は重合系内上部から添加することが好ましい。重合系上部から触媒成分を添加することで、53μm以下のポリエチレンパウダーの嵩密度が低くなる傾向にあり、また、本実施形態の上記の流動エネルギーの関係を、より好適に満たしやすくなるためである。また組み合わせる両者の比率には特に限定されないが、固体触媒成分1gに対し有機金属化合物成分[B]は1mmol以上3,000mmol以下であることが好ましい。
(メタロセン触媒)
一方、メタロセン触媒を用いた例としては、一般的な遷移金属化合物が用いられる。例えば、日本国特許4868853号に記載の製造方法が挙げられる。このようなメタロセン触媒は、a)環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物及びb)該遷移金属化合物と反応して触媒活性を発現する錯体を形成可能な活性化剤の2つの触媒成分から構成される。
本実施形態で使用される環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物は、例えば以下の式8で表すことができる。
・・・式8
式8において、Lは、各々独立して、シクロペンタジエニル基、インデニル基、テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基、テトラヒドロフルオレニル基、及びオクタヒドロフルオレニル基からなる群より選ばれるη結合性環状アニオン配位子を表し、該配位子は場合によっては1〜8個の置換基を有し、該置換基は各々独立して炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素数1〜12のハロゲン置換炭化水素基、炭素数1〜12のアミノヒドロカルビル基、炭素数1〜12のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜12のジヒドロカルビルアミノ基、炭素数1〜12のヒドロカルビルフォスフィノ基、シリル基、アミノシリル基、炭素数1〜12のヒドロカルビルオキシシリル基、及びハロシリル基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基である。
式8において、Mは、形式酸化数が+2、+3又は+4の周期表第4族に属する遷移金属群から選ばれる遷移金属であって、少なくとも1つの配位子Lにη結合している遷移金属を表す。
式8において、Wは、50個までの非水素原子を有する2価の置換基であって、LとMとに各々1価ずつの価数で結合し、これによりL及びMと共働してメタロサイクルを形成する2価の置換基を表し、Xは、各々独立して、1価のアニオン性σ結合型配位子、Mと2価で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子、及びLとMとに各々1価ずつの価数で結合する2価のアニオン性σ結合型配位子からなる群より選ばれる、60個までの非水素原子を有するアニオン性σ結合型配位子を表す。
式8において、Xは、各々独立して、40個までの非水素原子を有する中性ルイス塩基配位性化合物を表し、Xは、中性ルイス塩基配位性化合物を表す。
jは1又は2であり、但し、jが2であるとき、場合によっては2つの配位子Lが、20個までの非水素原子を有する2価の基を介して互いに結合し、該2価の基は炭素数1〜20のヒドロカルバジイル基、炭素数1〜12のハロヒドロカルバジイル基、炭素数1〜12のヒドロカルビレンオキシ基、炭素数1〜12のヒドロカルビレンアミノ基、シランジイル基、ハロシランジイル基、及びシリレンアミノ基からなる群より選ばれる基である。
kは0又は1であり、pは0、1又は2であり、但し、Xが1価のアニオン性σ結合型配位子、又はLとMとに結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはMの形式酸化数より1以上小さい整数であり、またXがMにのみ結合している2価のアニオン性σ結合型配位子である場合、pはMの形式酸化数より(j+1)以上小さい整数であり、qは0、1又は2である。
上記式8の化合物中の配位子Xの例としては、ハライド、炭素数1〜60の炭化水素基、炭素数1〜60のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜60のヒドロカルビルアミド基、炭素数1〜60のヒドロカルビルフォスフィド基、炭素数1〜60のヒドロカルビルスルフィド基、シリル基、これらの複合基等が挙げられる。
上記式8の化合物中の中性ルイス塩基配位性化合物Xの例としては、フォスフィン、エーテル、アミン、炭素数2〜40のオレフィン、炭素数1〜40のジエン、これらの化合物から誘導される2価の基等が挙げられる。
本実施形態において、環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物としては、前記式8(ただし、j=1)で表される遷移金属化合物が好ましい。前記式8(ただし、j=1)で表される化合物の好ましい例としては、下記の式9で表される化合物が挙げられる。
Figure 0006437591
式9において、Mは、チタン、ジルコニウム、ニッケル及びハフニウムからなる群より選ばれる遷移金属であって、形式酸化数が+2、+3又は+4である遷移金属を表し、R13は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、シリル基、ゲルミル基、シアノ基、ハロゲン原子及びこれらの複合基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基を表し、但し、該置換基R13が炭素数1〜8の炭化水素基、シリル基又はゲルミル基であるとき、場合によっては2つの隣接する置換基R13が互いに結合して2価の基を形成し、これにより該2つの隣接する該置換基R13にそれぞれ結合するシクロペンタジエニル環の2つの炭素原子間の結合と共働して環を形成することができる。
式9において、Xは、各々独立して、ハライド、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜18のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜18のヒドロカルビルアミノ基、シリル基、炭素数1〜18のヒドロカルビルアミド基、炭素数1〜18のヒドロカルビルフォスフィド基、炭素数1〜18のヒドロカルビルスルフィド基及びこれらの複合基からなる群より選ばれる、20個までの非水素原子を有する置換基を表し、但し、場合によっては2つの置換基Xが共働して炭素数4〜30の中性共役ジエン又は2価の基を形成することができる。
式9において、Yは、−O−、−S−、−NR−又は−PR−を表し、但し、Rは、水素原子、炭素数1〜12の炭化水素基、炭素数1〜8のヒドロカルビルオキシ基、シリル基、炭素数1〜8のハロゲン化アルキル基、炭素数6〜20のハロゲン化アリール基、又はこれらの複合基を表す。
式9において、ZはSiR 、CR 、SiR SiR 、CR CR*2、CR=CR、CR SiR 又はGeR を表し、但し、Rは上で定義した通りであり、nは1、2又は3である。
本実施形態において用いられる環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物のとしては、以下に示すような化合物が挙げられる。ジルコニウム系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(n−ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(インデニル)ジルコニウムジメチル、ビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、(ペンタメチルシクロペンタジエニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ビス(フルオレニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロ−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(4−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(5−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(6−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(7−メチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(5−メトキシ−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(2,3−ジメチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス(4,7−ジメチル−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、エチレンビス−(4,7−ジメトキシ−1−インデニル)ジルコニウムジメチル、メチレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル−フルオレニル)ジルコニウムジメチル、シリレンビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル等が挙げられる。
チタニウム系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]チタニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−メチルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−フェニルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−ベンジルアミド)(テトラメチル−η−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(η−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]チタニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(η−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−メチルアミド)(η−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]チタニウムジメチル、[(N−メチルアミド)(η−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(η−インデニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル、[(N−ベンジルアミド)(η−インデニル)ジメチルシラン]チタニウムジメチル等が挙げられる。
ニッケル系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、ジブロモビストリフェニルホスフィンニッケル、ジクロロビストリフェニルホスフィンニッケル、ジブロモジアセトニトリルニッケル、ジブロモジベンゾニトリルニッケル、ジブロモ(1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)ニッケル、ジブロモ(1,3−ビスジフェニルホスフィノプロパン)ニッケル、ジブロモ(1,1’−ジフェニルビスホスフィノフェロセン)ニッケル、ジメチルビスジフェニルホスフィンニッケル、ジメチル(1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)ニッケル、メチル(1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)ニッケルテトラフルオロボレート、(2−ジフェニルホスフィノ−1−フェニルエチレンオキシ)フェニルピリジンニッケル、ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム、ジクロロジベンゾニトリルパラジウム、ジクロロジアセトニトリルパラジウム、ジクロロ(1,2−ビスジフェニルホスフィノエタン)パラジウム、ビストリフェニルホスフィンパラジウムビステトラフルオロボレート、ビス(2,2’−ビピリジン)メチル鉄テトラフルオロボレートエーテラート等が挙げられる。
ハフニウム系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]ハフニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、[(N−メチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、[(N−フェニルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、[(N−ベンジルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(η5−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]ハフニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、[(N−メチルアミド)(η5−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイル]ハフニウムジメチル、[(N−メチルアミド)(η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、[(N−t−ブチルアミド)(η5−インデニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル、[(N−ベンジルアミド)(η5−インデニル)ジメチルシラン]ハフニウムジメチル等が挙げられる。
本実施形態において用いられる環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物の具体例としては、さらに、上に挙げた各ジルコニウム系化合物及びチタン系化合物の名称の「ジメチル」の部分(これは、各化合物の名称末尾の部分、すなわち「ジルコニウム」又は「チタニウム」という部分の直後に現れているものであり、前記式9中のXの部分に対応する名称である)を、「ジクロル」、「ジブロム」、「ジヨード」、「ジエチル」、「ジブチル」、「ジフェニル」、「ジベンジル」、「2−(N,N−ジメチルアミノ)ベンジル」、「2−ブテン−1,4−ジイル」、「s−トランス−η4−1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン」、「s−トランス−η−3−メチル−1,3−ペンタジエン」、「s−トランス−η−1,4−ジベンジル−1,3−ブタジエン」、「s−トランス−η−2,4−ヘキサジエン」、「s−トランス−η−1,3−ペンタジエン」、「s−トランス−η−1,4−ジトリル−1,3−ブタジエン」、「s−トランス−η−1,4−ビス(トリメチルシリル)−1,3−ブタジエン」、「s−シス−η−1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン」、「s−シス−η−3−メチル−1,3−ペンタジエン」、「s−シス−η−1,4−ジベンジル−1,3−ブタジエン」、「s−シス−η−2,4−ヘキサジエン」、「s−シス−η−1,3−ペンタジエン」、「s−シス−η−1,4−ジトリル−1,3−ブタジエン」、「s−シス−η−1,4−ビス(トリメチルシリル)−1,3−ブタジエン」等の任意のものに替えてできる名称を持つ化合物も挙げられる。
本実施形態において用いられる環状η結合性アニオン配位子を有する遷移金属化合物は、一般に公知の方法で合成できる。本実施形態においてこれら遷移金属化合物は単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
次に本実施形態において用いられるb)遷移金属化合物と反応して触媒活性を発現する錯体を形成可能な活性化剤(以下、単に「活性化剤」ともいう。)について説明する。
本実施形態における活性化剤として例えば、以下の式10で定義される化合物が挙げられる。
[L−H]d+[M d− ・・・式10
(式中、[L−H]d+はプロトン供与性のブレンステッド酸を表し、但し、Lは中性のルイス塩基を表し、dは1〜7の整数であり;[M d−は両立性の非配位性アニオンを表し、ここで、Mは、周期表第5族〜第15族のいずれかに属する金属又はメタロイドを表し、Qは、各々独立して、ヒドリド、ハライド、炭素数2〜20のジヒドロカルビルアミド基、炭素数1〜30のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1〜30の炭化水素基、及び炭素数1〜40の置換された炭化水素基からなる群より選ばれ、ここで、ハライドであるQの数は1以下であり、mは1〜7の整数であり、pは2〜14の整数であり、dは上で定義した通りであり、p−m=dである。)
非配位性アニオンとしては、特に限定されないが、具体的には、テトラキスフェニルボレート、トリ(p−トリル)(フェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(フェニル)ボレート、トリス(2,4−ジメチルフェニル)(ヒドフェニル)ボレート、トリス(3,5−ジメチルフェニル)(フェニル)ボレート、トリス(3,5−ジ−トリフルオリメチルフェニル)(フェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(シクロヘキシル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(ナフチル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニル(ヒドロキシフェニル)ボレート、ジフェニル−ジ(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリフェニル(2,4−ジヒドロキシフェニル)ボレート、トリ(p−トリル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(2,4−ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(3,5−ジメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(3,5−ジ−トリフルオリメチルフェニル)(ヒドロキシフェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(2−ヒドロキシエチル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシブチル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシ−シクロヘキシル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−(4’−ヒドロキシフェニル)フェニル)ボレート、トリス(ペンタフルオロフェニル)(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)ボレート等が挙げられる。
他の好ましい非配位性アニオンの例としては、上記例示のボレートのヒドロキシ基がNHR基で置き換えられたボレートが挙げられる。ここで、Rは好ましくは、メチル基、エチル基又はtert−ブチル基である。
また、プロトン付与性のブレンステッド酸としては、特に限定されないが、具体的には、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリ(n−ブチル)アンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム及びトリ(n−オクチル)アンモニウム等のトリアルキル基置換型アンモニウムカチオン;N,N−ジメチルアニリニウム、N,N−ジエチルアニリニウム、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウム、N,N−ジメチルベンジルアニリニウム等のN,N−ジアルキルアニリニウムカチオン;ジ−(i−プロピル)アンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウム等のジアルキルアンモニウムカチオン;トリフェニルフォスフォニウム、トリ(メチルフェニル)フォスフォニウム、トリ(ジメチルフェニル)フォスフォニウム等のトリアリールフォスフォニウムカチオン;又はジメチルスルフォニウム、ジエチルフルフォニウム、ジフェニルスルフォニウム等が挙げられる。
また本実施形態において、活性化剤として、次の式11で表されるユニットを有する有機金属オキシ化合物も用いることができる。
Figure 0006437591
(ここで、Mは周期律表第13族〜第15族の金属又はメタロイドであり、R14は各々独立に炭素数1〜12の炭化水素基又は置換炭化水素基であり、nは金属Mの価数であり、mは2以上の整数である。)
本実施形態の活性化剤の好ましい例は、例えば次式12で示されるユニットを含む有機アルミニウムオキシ化合物である。
Figure 0006437591
(ここで、R15は炭素数1〜8のアルキル基であり、mは2〜60の整数である。)
本実施形態の活性化剤のより好ましい例は、例えば次式13で示されるユニットを含むメチルアルモキサンである。
Figure 0006437591
(ここで、mは2〜60の整数である。)
本実施形態においては、活性化剤成分を単独で使用してもよいし組み合わせて使用してもよい。
本実施形態において、これらの触媒成分は、固体成分に担持して担持型触媒としても用いることができる。このような固体成分としては、特に限定されないが、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン又はスチレンジビニルベンゼンのコポリマー等の多孔質高分子材料;シリカ、アルミナ、マグネシア、塩化マグネシウム、ジルコニア、チタニア、酸化硼素、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化バリウム、五酸化バナジウム、酸化クロム及び酸化トリウム等の周期律表第2、3、4、13及び14族元素の無機固体材料、及びそれらの混合物;並びにそれらの複酸化物から選ばれる少なくとも1種の無機固体材料が挙げられる。
シリカの複合酸化物としては、特に限定されないが、具体的には、シリカマグネシア、シリカアルミナ等のようなシリカと、周期律表第2族又は第13族元素との複合酸化物が挙げられる。また本実施形態では、上記2つの触媒成分の他に、必要に応じて有機アルミニウム化合物を触媒成分として用いることができる。本実施形態において用いることができる有機アルミニウム化合物とは、例えば次式14で表される化合物である。
Figure 0006437591
(ここで、R16は炭素数1〜12までのアルキル基、炭素数6〜20のアリール基であり、Xはハロゲン、水素又はアルコキシル基であり、アルキル基は直鎖状、分岐状又は環状であり、nは1〜3の整数である。)
ここで有機アルミニウム化合物は、上記式14で表される化合物の混合物であっても構わない。本実施形態において用いることができる有機アルミニウム化合物としては、例えば上記式で、R16がメチル基、エチル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、トリル基等が挙げられ、またXとしては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、クロル等が挙げられる。
本実施形態において用いることができる有機アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム等、或いはこれらの有機アルミニウムとメチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール等のアルコール類との反応生成物、例えばジメチルメトキシアルミニウム、ジエチルエトキシアルミニウム、ジブチルブトキシアルミニウム等が挙げられる。
[ポリエチレンパウダーの製造方法]
本実施形態のポリエチレンパウダーの製造方法におけるポリエチレンの重合法としては、懸濁重合法或いは気相重合法により、エチレン、又はエチレンを含む単量体を(共)重合させる方法が挙げられる。このなかでも、重合熱を効率的に除熱できる懸濁重合法が好ましい。懸濁重合法においては、媒体として不活性炭化水素媒体を用いることができ、さらにオレフィン自身を溶媒として用いることもできる。
かかる不活性炭化水素媒体としては、特に限定されないが、具体的には、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;エチルクロライド、クロルベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;又はこれらの混合物等を挙げることができる。
ポリエチレンパウダーの製造方法における重合温度は、通常、30℃以上100℃以下である。当該重合温度は、40℃以上が好ましく、より好ましくは50℃以上であり、また、95℃以下が好ましく、より好ましくは90℃以下である。重合温度が30℃以上であることにより、工業的により効率的な製造ができる傾向にある。一方、重合温度が100℃以下であることにより、連続的により安定した運転ができる傾向にある。
ポリエチレンパウダーの製造方法における重合圧力は、通常、常圧以上2MPa以下である。当該重合圧力は、0.1MPa以上が好ましく、より好ましくは0.12MPa以上であり、また、1.5MPa以下が好ましく、より好ましくは1.0MPa以下である。重合圧力が常圧以上であることにより、工業的により効率的な製造ができる傾向にあり、重合圧力が2MPa以下であることにより、触媒導入時の急重合反応による部分的な発熱を抑制することができ、ポリエチレンを安定的に生産できる傾向にある。
重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法において行なうことができるが、連続式で重合することが好ましい。エチレンガス、溶媒、触媒等を連続的に重合系内に供給し、生成したポリエチレンと共に連続的に排出することで、急激なエチレンの反応による部分的な高温状態を抑制することが可能となり、重合系内がより安定化する。系内が均一な状態でエチレンが反応すると、ポリマー鎖中に分岐や二重結合等が生成されることが抑制され、ポリエチレンの低分子量化や架橋が起こりにくくなるため、ポリエチレンパウダーの溶融、又は溶解時に残存する未溶融物が減少し、着色が抑えられ、機械的物性が低下するといった問題も生じにくくなる。よって、重合系内がより均一となる連続式が好ましい。
また、重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行なうことも可能である。さらに、例えば、西独国特許出願公開第3127133号明細書に記載されているように、得られるポリエチレンの極限粘度は、重合系に水素を存在させるか、又は重合温度を変化させることによって調節することもできる。重合系内に連鎖移動剤として水素を添加することにより、極限粘度を適切な範囲で制御することが可能である。重合系内に水素を添加する場合、水素のモル分率は、0mol%以上30mol%以下であることが好ましく、0mol%以上25mol%以下であることがより好ましく、0mol%以上20mol%以下であることがさらに好ましい。なお、本実施形態では、上記のような各成分以外にもポリエチレンの製造に有用な他の公知の成分を含むことができる。
ポリエチレンを重合する際には、重合反応器へのポリマー付着を抑制するため、The Associated Octel Company社製(代理店丸和物産)のStadis450等の静電気防止剤を使用することも可能である。Stadis450は、不活性炭化水素媒体に希釈したものをポンプ等により重合反応器に添加することもできる。この際の添加量は、単位時間当たりのポリエチレンの生産量に対して、0.10ppm以上20ppm以下の範囲で添加することが好ましく、0.20ppm以上10ppm以下の範囲で添加することがより好ましい。
本実施形態に係るポリエチレンパウダーは、上述の通り、ポリエチレンパウダーの空気通気量2mm/s時の流動エネルギーが、無通気時の流動エネルギーの50%以下であることを特徴としている。そして、流動エネルギーをこのように特定範囲にする効果的な方法としては、平均粒径、粒子径300μm以下の粒子の含有量、及び/又は圧縮度を、特定範囲とすること等が挙げられる。
[添加剤]
本実施形態のポリエチレンパウダーには、必要に応じて、スリップ剤、中和剤、酸化防止剤、耐光安定剤、帯電防止剤、顔料等の添加剤を添加することができる。
スリップ剤又は中和剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、アルコールの脂肪酸エステル、ワックス、高級脂肪酸アマイド、シリコーン油、ロジン等が挙げられる。スリップ剤又は中和剤の含有量は、特に限定されないが、5000ppm以下であり、好ましくは4000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下である。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、フェノール系化合物、若しくはフェノールリン酸系化合物が好ましい。具体的には、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(ジブチルヒドロキシトルエン)、n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス(メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒサロキシハイドロシンナメート))メタン等のフェノール系酸化防止剤;6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン等のフェノールリン系酸化防止剤;テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスフォナイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−t−ブチルフェニルフォスファイト)等のリン系酸化防止剤が挙げられる。
本実施形態に係るポリエチレンパウダーの酸化防止剤量としては、100ppm以上5000ppm以下であり、100ppm以上4000ppm以下であることが好ましく、100ppm以上3000ppm以下がより好ましい。酸化防止剤が100ppm以上であることにより、ポリエチレンの劣化が抑制されて、脆化や変色、機械的物性の低下等が起こりにくくなり、長期安定性により優れるものとなる。また、酸化防止剤が5000ppm以下であることにより、酸化防止剤自身、及び酸化防止剤の変性体による着色、又は、酸化防止剤と金属成分の反応による着色を抑制することができる。
耐光安定剤としては、特に限定されないが、例えば、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系耐光安定剤;ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]等のヒンダードアミン系耐光安定剤が挙げられる。耐光安定剤の含有量は、特に限定されないが、5000ppm以下であり、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下である。
帯電防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アルミノケイ酸塩、カオリン、クレー、天然シリカ、合成シリカ、シリケート類、タルク、珪藻土等や、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
ポリエチレンパウダーに含まれる有機系添加剤の含有量は、テトラヒドロフラン(THF)を用いてソックスレー抽出により6時間抽出し、抽出液を液体クロマトグラフィーにより分離、定量することにより求めることができる。また、無機系添加剤の含有量は、電気炉でポリエチレン樹脂を燃焼させ、その灰分重量より定量することができる。
[成形物]
本実施の形態のポリエチレンパウダーは、種々の方法により加工することができる。また、該ポリエチレンパウダーを用いて得られる成形物は種々の用途に用いることができる。成形物としては、限定されるものではないが、例えば、二次電池セパレーター用微多孔膜、中でも、リチイムイオン二次電池セパレーター用微多孔膜、焼結体、高強度繊維、ゲル紡糸等として好適である。微多孔膜の製造方法としては、溶剤を用いた湿式法において、Tダイを備え付けた押出し機にて、押出し、延伸、抽出、乾燥を経る加工方法が挙げられる。
また高分子量のポリエチレンの特性である耐摩耗性、高摺動性、高強度、高衝撃性などの優れた特徴を活かし、ポリエチレンパウダーを焼結して得られる成形物、フィルターや粉塵トラップ材等にも使用できる。
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
〔測定方法及び条件〕
実施例及び比較例のポリエチレンパウダーの物性を下記の方法で測定した。
(1)粘度平均分子量(Mv)
1)ポリエチレンパウダー10mgを秤量し、試験管に投入した。
2)試験管に20mLのデカリン(デカヒドロナフタレン)を投入した。
3)150℃で2時間攪拌してポリエチレンを溶解させた。
4)その溶液を135℃の恒温槽で、ウベローデタイプの粘度計を用いて、標線間の落下時間(ts)を測定した。
5)同様に、ポリエチレンパウダー5mgの場合についても標線間の落下時間(ts)を測定した。
6)ブランクとしてポリエチレンを入れていない、デカリンのみの落下時間(tb)を測定した。
7)以下の式に従って求めたポリエチレンパウダーの還元粘度(ηsp/C)をそれぞれプロットして濃度(C)とポリエチレンパウダーの還元粘度(ηsp/C)の直線式を導き、ポリエチレンパウダーの濃度を0に外挿して、極限粘度(η)を求めた。
ηsp/C=(ts/tb−1)/0.1
8)この極限粘度(η)から以下の式に従い、粘度平均分子量(Mv)を求めた。
Mv=(5.34×104)×[η]1.49
(2)密度
1)ポリエチレンパウダー180gを200mm×200mm×厚み4mmの金型に投入した。
2)設定温度200℃のプレス機で、10kg/cmで5分間予熱し、3回脱泡操作を行い、150kg/cmで15分間プレスした。
3)冷却プレスにて金型を室温まで冷却した。
4)得られたプレスシートから、2cm×2cm×厚み4mmの切片を切り出した。
5)JIS K7112に準拠した密度勾配管を使用して、成形体の密度を測定し、得られた値をパウダーの密度とした。
(3)流動エネルギー
粉体流動性分析装置パウダーレオメーターFT4(スペクトリス株式会社製)を使用した。
1)専用のスプリット容器(容量が260mlであり、容器の底板がメッシュ状の円筒形状容器)に粉体を53g充填した。
2)当該容器の下方から空気を通気させずに、ブレード(当該専用のスプリット容器に対応する付属のブレード)を、ブレードの先端の速度が100mm/sとなる回転速度で回転させながら、粉体中を上方から下方へ30mm/sの速度で移動させ、そのときの回転トルクと垂直荷重を測定した。測定した回転トルクと垂直荷重の積分値を無通気時の流動エネルギーとした。
3)ブレードを、ブレードの先端の速度が40mm/sとなる回転速度で2)とは逆方向に回転しながら、紛体中を下方から上方へ30mm/sの速度で上昇させ、元の位置まで戻した。その後、当該容器の下方(パウダー層の下部)から線速2mm/sで空気を送り込み、ブレードを、ブレードの先端の速度が100mm/sとなる回転速度で回転させながら(回転方向は2)と同じ)、粉体中を上方から下方へ30mm/sの速度で移動させた。このとき、2)と同様にして測定し、算出した流動エネルギーを空気通気量2mm/sの時の流動エネルギーとした。次いで、ブレードを、ブレードの先端の速度が40mm/sとなる回転速度で2)とは逆方向に回転しながら、紛体中を下方から上方へ30mm/sの速度で上昇させ、元の位置まで戻した。
4)3)と同様の操作を、パウダー層の下部から送り込む空気を線速4mm/sにして行い、このとき、2)と同様にして測定し、算出した流動エネルギーを空気通気量4mm/sの時の流動エネルギーとした。
(4)平均粒径
ポリエチレンパウダーの平均粒径は、JIS Z8801で規定された10種類の篩(目開き:710μm、500μm、425μm、355μm、300μm、212μm、150μm、106μm、75μm、53μm)を用いて、100gの粒子を分級した際に得られる各篩に残った粒子の重量を目開きの小さい側から積分した積分曲線において、50%の重量になる粒子径を平均粒子径とした。
(5)粒子径300μmを超える粒子の含有量
粒子径300μmを超える粒子の含有量は、上記(4)の平均粒径の測定において、全粒子(ポリエチレンパウダー)の重量に対する、目開き300μm以上の目開を有する篩上の粒子の重量の和、として求めた。
(6)圧縮度
ポリエチレンパウダーの圧縮度は、ホソカワミクロン株式会社製パウダテスタPT−Xを用いて測定したゆるめ嵩密度と固め嵩密度から以下の式で算出した。
圧縮度(%)=(固め嵩密度−ゆるめ嵩密度)/固め嵩密度X100
圧縮度は、ゆるめかさ密度(BD)と固めかさ密度(BD)を、パウダテスタ(R)PT−X(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて測定し、以下の式に従い求めた。
圧縮度(%)=(BD−BD)/BD×100
1)ゆるめかさ密度(BD)の測定
a.パウダテスタ付属の容量100cmのカップの重量を測定した。
b.パウダテスタに粉体をセットし、振動時間30秒、振幅1.5mm、周波数60Hzにて粉体を落下させ、容量100cmのカップへ充填させ、粉体がカップから溢れた所で粉体の落下を止めた。
c.bでカップから溢れた粉体を擦り切り、全体の重量を測定した。
d.cで測定した重量とaで測定した重量の差より、カップに充填された粉体の質量を計算し、1cmあたりの粉体の重量を求めてゆるめかさ密度とした。
2)固めかさ密度(BD)の測定
a.1)−cで重量測定した後、容器を180回タッピングした。
b.タッピング後の全体の重量を測定し、この重量と1)−aで測定した重量の差より、カップに残った粉体の質量を計算し、1cmあたりの粉体の重量を求めて固めかさ密度とした。
〔評価方法〕
実施例及び比較例のポリエチレンパウダーについて、下記の方法で評価した。
(7)排出重量バラつき(V
実施例及び比較例のポリエチレンパウダーについて、各ポリエチレンパウダーを、二軸スクリュータイプの溶融混練機ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製、型式:30C150型)付属のスクリューフィーダー(1軸タイプ)で搬送し排出された該パウダーを1サンプルにつき36秒間採取し、5秒間隔で合計5回採取した。それぞれのサンプルの質量を測定し、下記の式より5回の測定値の標本分散Vを算出した。このVを排出重量バラつきとし、以下の評価基準で評価した(ただし、標本をxi、標本の平均値をXとする)。
Figure 0006437591
(評価基準)
◎(非常に良い):排出重量バラつき(V)が0.1未満
○(問題無し) :排出重量バラつき(V)が0.1以上0.3未満
×(悪い) :排出重量バラつき(V)が0.3以上
排出重量バラつき(V)の評価が良いほど、ポリエチレンパウダーの規定量がスクリューにより安定的に搬送されていることを意味する。
(8)供給重量バラつき
ポリエチレンパウダーを、ホッパーに導入し、フィーダーにより二軸押出機へ供給した。また流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10−5/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。混合物を溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が70質量%となるように(即ちポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度200℃であり、スクリュー回転数240rpm、吐出量12kg/hrで行った。
続いて、溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1300μmのゲルシートを得た。このときT−ダイの上流側に、JIS Z8801規格に準拠した目開き150μmと、150μmのステンレス製平織スクリーンとを重ねて用い、その直近の樹脂圧力を圧力計にて計測した。
以下の判断基準に従って、二軸押出機へのフィードの安定性について評価した。すなわち、T−ダイでの押出しを開始して圧力が安定した後、圧力を1時間測定して、1分間で最も大きく圧力が変動した変動幅を測定して圧力の安定性を下記のように定義した。
◎:圧力の変動幅が0.1MPa未満である。
○:圧力の変動幅が0.1MPa以上0.5MPa未満である。
×:圧力の変動幅が0.5MPa以上である。
T−ダイでの圧力の安定性(圧力の変動幅が小さい)の評価が良いほど、ポリエチレンパウダーが、フィーダーにより二軸押出機へ規定量で安定的に供給(搬送)されているので、流動パラフィンと適切な比で溶融混練されていること、換言すればポリエチレンパウダーの供給重量バラつきが低いことを意味する。
(9)パウダー溶残り評価
50kgのポリエチレンパウダーを充填した容器に、下記の搬送ラインの一方側開口部をその開口部が当該充填容器の底から上方に5cmの場所に位置するよう差し込み、他方側開口部を充填容器の上方に設置した吸引式粉体輸送機(圧縮空気消費量0.5m/min)に接続した。当該搬送ラインは、1本1mで内径25mmのSUS製配管を6本、相互にフランジで接続したものであり、また、6本の配管は、充填容器の底側から1本目の配管を鉛直方向上方に、2本目の配管を鉛直方向上方に対して45度の傾斜に、3本目の配管を鉛直方向上方に、4本目の配管を水平方向に、5本目の配管を鉛直方向下方に、6本目の配管を水平になるように接続した。当該充填容器内のポリエチレンパウダーの搬送は、搬送ラインの配管のうち、充填容器の底側から1本目の配管以外の配管を80℃に加熱した状態で、ポリエチレンパウダーの全てを搬送した。
搬送後のポリエチレンパウダー100質量部に、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量部添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。得られたポリエチレン組成物を、窒素で置換を行った後に、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーを介して投入した。さらに流動パラフィン(松村石油(株)製P−350(商標))65部をサイドフィードで押出機に注入し、設定温度200℃、スクリュー回転数240rpmで混練した。溶融混練物を、350メッシュ相当のスクリーンを装着したグノイス社製ディスクフィルタータイプの連続スクリーン交換機内を通過させた後、T−ダイより吐出し、ロールでキャストすることにより、厚み1,190μmのゲル状シートを成形した。このゲル状シートを124℃で同時二軸延伸機を用いてMD倍率7.0倍、TD倍率6.4倍に延伸した後、この延伸フィルムをメチルエチルケトンに浸漬し、流動パラフィンを抽出除去して、その後乾燥させた。
製膜した微多孔膜中の未溶融ポリマー等に由来する0.5mm以上の欠点(光を当てて暗く見える部分)を目視により観測した。50m分のサンプルの全面の観測を行い、1m当りの平均欠点数を求め、下記の評価基準で評価した。なお、実施例・比較例のポリエチレンパウダーについて、上記の搬送ラインを用いた搬送時に、搬送ラインを加熱せずに搬送して同様に作製した微多孔膜には、上記の欠点が存在しなかった。
(評価基準)
◎(非常によい) …1個未満
○(問題なし) …1個以上3個未満
×(悪い) …3個以上
パウダー溶残り評価が良いほど、ポリエチレンパウダーが空気により滞留することなく搬送されているので、搬送時の熱による影響を最低限に抑えることができる、換言すれば通気時のポリエチレンパウダーの搬送性が良いことを意味する。
[参考例]触媒合成例
〔固体触媒成分[A]の調製〕
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブにヘキサン1,600mLを添加した。10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液800mLと1mol/Lの組成式AlMg(C11(OSiH)で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液800mLとを4時間かけて同時に添加した。添加後、ゆっくりと昇温し、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1600mL除去し、ヘキサン1,600mLで5回洗浄することにより、固体触媒成分[A]を調製した。この固体触媒成分[A]1g中に含まれるチタン量は3.05mmolであった。
〔固体触媒成分[B]の調製〕
(1)(B−1)担体の合成
充分に窒素置換された8Lステンレス製オートクレーブに2mol/Lのヒドロキシトリクロロシランのヘキサン溶液1,000mLを仕込み、65℃で攪拌しながら組成式AlMg(C11(OCで表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液2,550mL(マグネシウム2.68mol相当)を4時間かけて滴下し、さらに65℃で1時間攪拌しながら反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を除去し、1,800mLのヘキサンで4回洗浄した。この固体((B−1)担体)を分析した結果、固体1g当たりに含まれるマグネシウムが8.31mmolであった。
(2)固体触媒成分[B]の調製
上記(B−1)担体110gを含有するヘキサンスラリー1,970mLに10℃で攪拌しながら1mol/Lの四塩化チタンヘキサン溶液110mLと1mol/Lの組成式AlMg(C11(OSiH)で表される有機マグネシウム化合物のヘキサン溶液110mLとを同時に1時間かけて添加した。添加後、10℃で1時間反応を継続させた。反応終了後、上澄み液を1100mL除去し、ヘキサン1,100mLで2回洗浄することにより、固体触媒成分[B]を調製した。この固体触媒成分[B]1g中に含まれるチタン量は0.75mmolであった。
〔担持型メタロセン触媒成分[C]の調製〕
平均粒子径が8μm、表面積が500m/g、粒子内細孔容積が2.1mL/gの球状シリカを、窒素雰囲気下、500℃で5時間焼成し、脱水した。脱水シリカの表面水酸基の量は、SiO 1gあたり1.85mmol/gであった。窒素雰囲気下、容量1.8Lのオートクレーブ内で、この脱水シリカ40gをヘキサン800mL中に分散させ、スラリーを得た。得られたスラリーを攪拌下50℃に保ちながらトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1mol/L)を80mL加え、その後2時間攪拌し、トリエチルアルミニウムとシリカの表面水酸基とを反応させ、トリエチルアルミニウム処理されたシリカと上澄み液とを含み、該トリエチルアルミニウム処理されたシリカの表面水酸基がトリエチルアルミニウムによりキャッピングされている成分[a]を得た。その後、得られた反応混合物中の上澄み液をデカンテーションによって除去することにより、上澄み液中の未反応のトリエチルアルミニウムを除去した。その後、ヘキサンを適量加え、トリエチルアルミニウム処理されたシリカのヘキサンスラリー880mLを得た。
一方、[(N−t−ブチルアミド)(テトラメチル−η5−シクロペンタジエニル)ジメチルシラン]チタニウム−1,3−ペンタジエン(以下、「チタニウム錯体」と記載する。)200mmolをアイソパーE[エクソンケミカル社(米国)製の炭化水素混合物の商品名]1,000mLに溶解し、予めトリエチルアルミニウムとジブチルマグネシウムより合成した式AlMg(C(n−C12の1mol/Lヘキサン溶液を20mL加え、さらにヘキサンを加えてチタニウム錯体濃度を0.1mol/Lに調整し、成分[b]を得た。
また、ビス(水素化タロウアルキル)メチルアンモニウム−トリス(ペンタフルオロフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)ボレート(以下、「ボレート」と記載する。)5.7gをトルエン50mLに添加して溶解し、ボレートの100mmol/Lトルエン溶液を得た。このボレートのトルエン溶液にエトキシジエチルアルミニウムの1mol/Lヘキサン溶液5mLを室温で加え、さらにヘキサンを加えて溶液中のボレート濃度が70mmol/Lとなるようにした。その後、室温で1時間攪拌し、ボレートを含む反応混合物を得た。
ボレートを含むこの反応混合物46mLを、上記で得られた成分[a]のスラリー800mLに15〜20℃で攪拌しながら加え、ボレートをシリカに担持した。こうして、ボレートを担持したシリカのスラリーが得られた。さらに上記で得られた成分[b]のうち32mLを加え、3時間攪拌し、チタニウム錯体とボレートとを反応させた。こうしてシリカと上澄み液とを含み、触媒活性種が該シリカ上に形成されている担持型メタロセン触媒[C](以下、固体触媒成分[C]ともいう)を得た。
その後、得られた反応混合物中の上澄み液をデカンテーションによって除去することにより、上澄み液中の未反応のトリエチルアルミニウムを除去した。
[実施例1]
ヘキサン、エチレン、水素、触媒を、攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器に連続的に供給した。尚、エチレンガスは目開き1μmの焼結フィルターを装着したエチレン導入管より細泡状となる状態で系内に導入した。重合圧力は0.5MPaであった。
重合温度はジャケット冷却と気化した溶媒等を冷却するコンデンサーを併用することにより83℃に保った。ヘキサンは40L/hrで重合器の底部から供給した。固体触媒成分[A]と、助触媒としてトリイソブチルアルミニウムを使用した。固体触媒成分[A]は15℃の温度で0.2g/hrの速度で重合器の液面と底部の中間から添加し、トリイソブチルアルミニウムは10mmol/hrの速度で重合器の液面と底部の中間から添加した。ポリエチレンの製造速度は10kg/hrであった。水素を、気相のエチレンに対する水素濃度が15mol%になるようにポンプで連続的に供給した。なお、水素は予め触媒と接触させるために触媒導入ラインから供給し、エチレンは重合器の底部から供給した。触媒活性は80,000g−PE/g−固体触媒成分[A]であった。重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に圧力0.05MPa、温度70℃のフラッシュドラムに抜き、未反応のエチレン及び水素を分離した。
次に、重合スラリーは、重合反応器のレベルが一定に保たれるように連続的に遠心分離機に送り、ポリマーとそれ以外の溶媒等を分離した。
分離されたポリエチレンパウダーは、85℃で窒素ブローしながら乾燥した。なお、この乾燥工程で、重合後のパウダーに対し、スチームを噴霧して、触媒及び助触媒の失活を実施した。得られたポリエチレンパウダーに対し、ステアリン酸カルシウム(大日化学社製、C60)を1,500ppm添加し、ヘンシェルミキサーを用いて、均一混合した。得られたポリエチレンパウダーを目開き425μmの篩を用いて、篩を通過しなかったものを除去することでポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1に示す。
[実施例2]
ポリエチレンパウダーに対し、ステアリン酸カルシウム(大日化学社製、C60)を添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作により、実施例2のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1に示す。
[実施例3]
重合工程において、重合温度を80℃、水素濃度を13mol%とした以外は、実施例1と同様の操作により、実施例3のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1に示す。
[実施例4]
重合工程において、重合温度79℃、重合圧力0.45MPaとし、固体触媒成分[A]の代わりに固体触媒成分[B]を用い、1−ブテンをエチレンに対して0.06mol%気相から導入した以外は実施例1と同様の操作により、実施例4のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1に示す。
[実施例5]
重合工程において、重合温度75℃、重合圧力0.40MPaとし、固体触媒成分[A]の代わりに固体触媒成分[B]を用い、1−ブテンをエチレンに対して0.11mol%気相から導入した以外は実施例1と同様の操作により、実施例5のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1に示す。
[実施例6]
重合工程において、重合温度75℃、重合圧力0.45MPaとした以外は実施例1と同様の操作により、実施例6のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1に示す。
[実施例7]
重合工程において、重合温度45℃、重合圧力0.30MPaとした以外は実施例1と同様の操作により、実施例7のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1に示す。
[比較例1]
ヘキサン、エチレン、水素、触媒を、攪拌装置が付いたベッセル型300L重合反応器に連続的に供給した。尚、エチレンガスは内径5cmのエチレン導入管より系内に導入した。重合圧力は0.5MPaであった。重合温度はジャケット冷却により83℃に保った。ヘキサンは40L/hrで重合器の底部から供給した。固体触媒成分[A]と、助触媒としてトリイソブチルアルミニウムを使用した。固体触媒成分[A]は30℃の温度で0.2g/hrの速度で重合器の底部から添加し、トリイソブチルアルミニウムは10mmol/hrの速度で重合器の底部から添加した。ポリエチレンの製造速度は9kg/hrであった。水素を、気相のエチレンに対する水素濃度が15mol%になるようにポンプで連続的に供給した。その後の工程は、実施例1と同様な操作により比較例1のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1に示す。
なお、比較例1のポリエチレンパウダーは、評価項目「排出重量バラつき(V)」「供給重量バラつき」の評価が「×」となったが、これは、比較例1のポリエチレンパウダーの無通気時の流動エネルギーが大きく流動性が低いため取扱い性が十分ではなく、フィーダーに装着のホッパー内のパウダーがフィーダー内のスクリューに送り込まれにくくなったものと考えられる。
[比較例2]
重合工程において、重合温度をジャケット冷却と気化した溶媒等を冷却するコンデンサーを併用することにより70℃に保ち、重合圧力0.45MPaとし、固体触媒成分[A]の代わりに固体触媒成分[C]を用い、トリイソブチルアルミニウムを5mmol/hrで導入し、水素濃度を3mol%とした以外は比較例1と同様の操作により、比較例2のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1に示す。比較例2のポリエチレンパウダーは、比較例1のポリエチレンパウダーと同様に、パウダーがフィーダー内部に適切に送り込まれなかったため、評価項目「排出重量バラつき(V)」「供給重量バラつき」の評価が「×」となったと考えられる。
[比較例3]
重合工程において、重合温度を79℃、重合圧力を0.9MPa、水素濃度を12mol%とし、固体触媒成分[A]を15℃の温度で供給した以外は、比較例1と同様の操作により、比較例3のポリエチレンパウダーを得た。得られたポリエチレンパウダーの物性を表1に示す。
Figure 0006437591
表1に示す結果から明らかなように、粘度平均分子量、密度、無通気時の流動エネルギーに対する空気通気量2mm/sの時の流動エネルギーを所定の範囲にした実施例1〜7は、それらを範囲外とした比較例1〜3と比較して、ポリエチレンパウダーの排出重量バラつき、供給重量バラつきを抑制しつつ、ポリエチレンパウダーを空気により滞留することなく搬送することができること、即ち、ポリエチレンパウダーを製造・加工する過程で採用され得る、空気搬送やスクリューを用いた搬送などいずれの搬送方法を用いた場合でも良好に搬送することができることが分かった。
本発明のポリエチレンパウダーによれば成形品の物性および外観に影響すること無く、安定的な搬送が可能なポリエチレンパウダー及びその成形物を提供することができる。

Claims (5)

  1. エチレンの単独重合体、又はエチレンと炭素数が3以上15以下のα−オレフィンとの共重合体であるポリエチレンパウダーであって、
    粘度平均分子量が10万以上1,000万以下であり、
    密度が920kg/m以上960kg/m以下であり、
    空気通気量2mm/sの時の流動エネルギーが、無通気時の流動エネルギーの50%以下であり、
    平均粒径が50μm以上300μm以下であり、
    粒子径300μmを超える粒子の含有量が、0.5質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする、ポリエチレンパウダー。
  2. 圧縮度が5.0%以上15.0%以下である、請求項1に記載のポリエチレンパウダー。
  3. 無通気時の流動エネルギーが50mJ以上250mJ以下である、請求項1又は2に記載のポリエチレンパウダー。
  4. 空気通気量4mm/sの時の流動エネルギーが、無通気時の流動エネルギーの20%以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載のポリエチレンパウダー。
  5. 請求項1〜のいずれか1項に記載のポリエチレンパウダーを用いて得られる成形物。
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