以下に本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
本発明の電子写真感光体に用いられる正孔輸送物質は、炭素原子、水素原子およびハロゲン原子のみ、もしくは、炭素原子、水素原子、酸素原子およびハロゲン原子のみからなる特定の化合物から構成される。
従来の電子写真感光体に用いる正孔輸送物質としては、感光層中での正孔の注入および輸送を効率的に起こすためにアミン化合物、特に芳香族アミン化合物が最も多く用いられてきた。
アミン化合物の正孔輸送物質は、正孔注入および輸送性能には優れているが、酸化などの劣化を受けやすいという傾向がある。特に、電子写真装置内で使用される際、電子写真感光体表面への帯電の過程で生成したオゾン、窒素酸化物などの酸化性ガスなどの作用により、電子写真感光体表面が酸化などの劣化を受けやすくなると考えられている。
さらに、オゾンや窒素酸化物などの酸化性ガスの作用により、感光体表面が酸化などの劣化を受け、それにより表面部材の極性基が増加すると考えられる。それがさらに放電生成物を感光体表面に付着させやすくなるものと考えられる。その結果生じた、極性基や放電生成物の付着が、高温高湿環境と合わさって、感光体表面の抵抗低下を起こさせ、画像流れが発生すると考えられている。
このような背景に鑑み酸化劣化などを起こしにくい化合物の正孔輸送材料への応用展開の可能性を検討してきた。すなわち、炭素原子、水素原子およびハロゲン原子のみ、もしくは、炭素原子、水素原子、酸素原子およびハロゲン原子のみからなる化合物であり、かつ電子写真感光体に使用した時にも良好な正孔輸送特性を有する化合物である。アミノ基などの特定の置換基の助けを借りずに、十分な正孔輸送機能を発現するためには、特定の構造を有することが必要となる。
本発明者らは、鋭意検討の結果、上述の本発明の正孔輸送物質を表面層に用いることで、耐摩耗性、電気特性を満足し、さらに画像流れを抑制する効果を見出した。この理由としては、本発明の正孔輸送物質は、アリールアミン構造を有していない、すなわちアミン性窒素原子を有していないため、化学的変化の受けやすさがアリールアミン化合物より低減されているからであると考えている。
本発明の正孔輸送物質の正孔輸送性構造は、正孔輸送性の観点から、24個以上のsp2炭素原子を含む共役構造を有し、共役構造中に12個以上のsp2炭素原子を含む多環構造を有する。好ましくは、sp2炭素原子を28個以上有する共役構造が好ましい。共役構造とは、sp2炭素原子が連続して結合する構造を意味する。共役構造は分子内の電子を非局在化させ、分子内および分子間での電荷の移動および授受を行いやすくする性質を有する。
正孔輸送物質の分子構造として、分子中に共役二重結合系が一定の広がりを有し、電子が非局在化する構造であることが必要である。さらに、正孔の授受を効率的に行い、遷移的な状態でのカチオンの安定性を増すように、特定の平面性を有する多環構造を多く有することが必要と考えられる。
共役構造は、長く連なっていることが好ましく、本発明の共役構造は、少なくとも24個のsp2炭素原子が連続して連なる構造を含む共役構造を有する。より好ましくは28個以上のsp2炭素原子が連続して連なる構造を含む共役構造であり、さらに好ましくは、36個以上のsp2炭素原子を含む共役構造である。
一方で、sp2炭素原子の個数が多すぎると、膜形成能、周辺材料との相溶性、膜強度など電子写真感光体特性に関わる問題が生じる場合がある。よって、正孔輸送物質1分子中のsp2炭素原子の数は120個以下が好ましく、さらに60個以下が好適な範囲である。
かつ、本発明の正孔輸送物質は、分子内の共役構造中に多環構造を有することが要件である。本発明で述べる多環構造とは、ベンゼン環のような環状構造が2個以上隣接する構造を意味する。正孔輸送物質が含有する少なくとも1個の多環構造を形成する炭素原子におけるsp2炭素原子の個数は、12個以上である。よりよい正孔輸送機能を発現するためには、sp2炭素原子の個数は、14個以上であることが好ましく、16個以上がより好ましい。
多環構造を形成するsp2炭素原子は、多すぎると膜形成能、周辺材料との相溶性が低下し、感光体の形成に問題が生じる場合が有る。また、sp2炭素原子の個数が多すぎると、共役系が長くなり過ぎ、光吸収スペクトルが長波長になる。よって、多環構造を形成するsp2炭素原子の個数は、20個以下が好ましく、18個以下がより好ましい。
多環構造を形成する環構造に関しては、共役構造が平面的に広がることが好適である。よって、平面構造を形成するためには、好ましくは、多環構造が5員環または6員環のみから構成されることが好ましい。多環構造を形成する環構造の数は、2環以上が必須であるが、正孔輸送機能をより好適にするためには3環以上がより好ましい。
多環構造も製膜性、分子のフレキシビリティーの観点から6環以下が好ましく、5環以下がより好ましい。すなわち、3環もしくは4環から構成される多環構造が特に好適である。
本発明の正孔輸送物質は、上記多環構造を部分構造として少なくとも1単位以上有する構造からなる。正孔輸送機能を適切に発現させるという観点から、多環構造を2単位以上有することが好ましく、3単位以上有することがより好ましい。また、これら多環構造は多環構造同士が1つの単結合で直接結合している構造を有することが好ましい。
また、多環構造が多すぎても、前述のsp2炭素原子数が多すぎる弊害と同じ問題を生じる場合がある。正孔輸送物質1分子中の多環構造は10単位以下が好ましく、さらには4単位以下が良い。
また、本発明の正孔輸送物質が良好な正孔輸送性を発現するためには、正孔輸送物質の分子中における全炭素原子数に対するsp2炭素原子数の割合が、55個数%以上であることが好ましい。sp2炭素原子の比率が55個数%より小さくなると、正孔輸送機能に直接的に関与しない置換基などの電荷輸送阻害作用により、十分な正孔輸送特性を得られなくなる。より好ましくは、sp2炭素原子が65個数%以上である。
一方では、長くsp2炭素原子が連続した共役系を有し平面性が高い化合物は、分子同士の過度なスタック性や結晶性が高くなり、製膜時および製膜後における膜欠陥や、周辺材料との相溶性に問題が発生する場合が多い。
一般的には、その問題を解決するために、結晶性を阻害する作用を有し、電荷輸送機能に直接関与しないアルキル基などのsp3炭素原子を多く導入する必要性があった。その結果、sp3炭素原子比率が高くなり過ぎる傾向があった。
本発明の正孔輸送物質は、高い正孔輸送特性を確保するために、正孔輸送物質中のsp2炭素原子の個数比率が一定程度以上含有することが必要である。しかし一方では、sp3炭素原子は、分子中に適度な存在比率で存在することで製膜時の相溶性を改善させ、電荷輸送機能を向上させ、正孔輸送物質のエネルギーレベルを調整することに貢献する。
実用性の高い有機電子写真感光体を構成するためには、適度な結着樹脂に相溶するような構造を持つことが重要である。特に、sp3炭素原子を適度に有する事で電荷輸送層などを形成するための結着樹脂などとの相溶性が改善される場合がある。
従って、sp3炭素原子数の割合は、適度な範囲にすることが好ましい。正孔輸送機能を阻害しないために、正孔輸送物質の分子中における全炭素原子数に対するsp3炭素原子数の割合は、45個数%以下であることが好ましい。さらには、sp3炭素原子数の割合は、35個数%以下であることが好ましく、15個数%以上30個数%以下であることがより好ましい。
また、同様に正孔輸送物質が適度な相溶性を有するためにも、適度なハロゲン原子を有することが必要である。含有するハロゲン原子の個数は、適度な範囲であることが好ましい。正孔輸送物質の分子を構成する全炭素数に対する、ハロゲン原子個数/炭素原子個数の比率が、0.005以上0.2以下が好ましく、0.01以上0.1以下がより好ましい。
本発明の正孔輸送物質が有するハロゲン原子は、置換基としてのフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
また、ハロゲン置換アルキル基、ハロゲン置換アルコキシ基、ハロゲン置換アラルキル基、ハロゲン置換アリール基としてハロゲン原子を有することができる。フッ化アルキル基を有することが好ましい。
本発明の正孔輸送物質は、具体的には下記式(1)で示される化合物である。
上記式(1)中、R1〜R6は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアラルキル基、または、置換もしくは無置換のアリール基である。R7は、置換もしくは無置換のアレーンから6個の水素原子を除いた基である。前記置換基は、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、ハロゲン原子、およびハロゲン化アルキル基から選択される基である。nは1〜10の整数である。nが2〜10のときは、上記式(1)中の下記式(2)で示される部分構造は、同一でも異なってもよい。
以下、前記式(1)で示される本発明の正孔輸送物質を説明する。R1〜R6およびR7が有する置換基などは以下に示すとおりである。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、4−メチル−2−ペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、シクロヘキシル基、1−メチルヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘプチル基、n−オクチル基、シクロオクチル基、tert−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、2−プロピルペンチル基、n−ノニル基、2,2−ジメチルヘプチル基、2,6−ジメチル−4−ヘプチル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、1−メチルデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、1−ヘキシルヘプチル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−エイコシル基などが挙げられる。
上記アルキル基が、置換基としてハロゲン原子を有しても良く、ハロゲン置換アルキル基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3,3,3,2,2−ペンタフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基、2,2,2−トリフルオロ−1,1−ジメチルエチル基、2,2,2−トリフルオロ−1,1−ビス(トリフルオロメチル)エチル基、4,4,4−トリフルオロブチル基、5,5,5−トリフルオロペンチル基、6,6,6−トリフルオロヘキシル基、6,6,6,5,5−ペンタフルオロヘキシル基、6,6,6,5,5,4,4−ヘプタフルオロヘキシル基、6,6,6,5,5,4,4,3,3−ノナフルオロヘキシル基など、
クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、ペンタクロロエチル基、3,3,3−トリクロロプロピル基、3,3,3,2,2−ペンタクロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロ−2−クロロプロパンなど、ヘプタクロロプロピル基、2,2,2−トリクロロ−1,1−ジメチルエチル基、2,2,2−トリクロロ−1,1−ビス(トリフルオロメチル)エチル基、4,4,4−トリクロロブチル基、5,5,5−トリクロロペンチル基、6,6,6−トリクロロヘキシル基など、
ブロモメチル基、ジブロモメチル基、トリブロモメチル基、2−ヨードエチル基、3−ヨードプロピル基、4−ヨードブチル基などが挙げられる。
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
上記アルコキシ基が、置換基としてハロゲン原子を有しても良く、ハロゲン置換アルコキシ基としては、フルオロメチルオキシ基、ジフルオロメチルオキシ基、トリフルオロメチルオキシ基、2−フルオロエチルオキシ基、2,2−ジフルオロエチルオキシ基、2,2,2−トリフルオロエチルオキシ基、ペンタフルオロエチルオキシ基、3,3,3−トリフルオロプロピルオキシ基、4,4,4−トリフルオロブチルオキシ基、5,5,5−トリフルオロペンチルオキシ基、5,5,5,4,4−ペンタフルオロペンチルオキシ基などが挙げられる。
アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基、アントラセニルメチル基、フェナントレニルメチル基、ピレニルメチル基、フルフリル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基、4−エチルベンジル基、4−イソプロピルベンジル基、4−tert−ブチルベンジル基、4−n−ヘキシルベンジル基、4−n−ノニルベンジル基、3,4−ジメチルベンジル基、3−メトキシベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−エトキシベンジル基、4−n−ブチルオキシベンジル基、4−n−ヘキシルオキシベンジル基、4−n−ノニルオキシベンジル基などが挙げられる。
前記アラルキル基が有するアルキレン部位が置換基としてハロゲン原子を有する場合、例えば、フルオロメチルフェニル基、ジフルオロメチルフェニル基、2,2−ジフルオロ−2−フェニルエチル基、2,2,1,1−テトラフルオロ−2−フェニルエチル基、3,3−ジフルオロ−3−フェニルプロピル基、4,4−ジフルオロ−4−フェニルブチル基などが挙げられる。また、上記フッ素原子をそれぞれ塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子に置換した基、上記フェニル基を他のアリール基に置換した基を有してもよい。その他として上記に列挙された、置換基としてハロゲン原子を有するアルキル基群より得られる2価の基などが挙げられる。前記アラルキル基が有するアリール基は、可能な位置にフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン置換基を有してもよく、上記のハロゲン化アルキル基を有してもよい。
アリール基としては、フェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基、フルオレニル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオランテニル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、テトラセンから誘導される1価の基、クリセンから誘導される1価の基、ペンタセンから誘導される1価の基、アセナフテンから誘導される1価の基、アセナフチレニル基、ペリレンから誘導される1価の基、コラニュレンから誘導される1価の基、コロネンから誘導される1価の基などが挙げられる。さらに、アリール基は、これら共役構造を有する多環構造が直接、または共役二重結合基を介して連なった構造の化合物であってもよい。
前記アリール基は、可能な位置にフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン置換基を有してもよく、上記のハロゲン化アルキル基を有してもよい。
式(1)のR7は、置換もしくは無置換のアレーンから6個の水素原子を除いた基を示す。R7中のアレーンの構造としては、ベンゼン構造をはじめとしてさらに複数の環が連なった構造のアレーンを適用することができる。それらアレーン構造の中でも上記でも述べたとおり共役構造を有し、平面構造を有する多環構造が好適である。当該アレーンの構造としては、ベンゼン構造、ナフタレン構造、フルオレン構造、アントラセン構造、フェナントレン構造、フルオランテン構造、ピレン構造、トリフェニレン構造、テトラセン構造、クリセン構造、ペンタセン構造、アセナフテン構造、アセナフチレン構造、ペリレン構造、コラニュレン構造、コロネン構造などが良好である。さらに、これらアレーン同士が直接、または共役二重結合基を介して連なった構造でもよい。これらの中でも、特にフルオレン構造、アントラセン構造、フェナントレン構造、フルオランテン構造、ピレン構造が好適である。前記アレーンも、可能な位置にフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン置換基を有してもよく、上記のハロゲン化アルキル基を有してもよい。
式(1)のnは、1〜10の整数を表す。正孔輸送性の観点からは、共役系が広がっていることが好ましく、nは適度な範囲であることが好ましい。具体的には、nは1以上6以下が好ましく、さらには2以上4以下の範囲が好ましい。
また、nが2以上の場合、R7が連なった構造をとる。このとき、R7のアレーン構造はアレーン構造同士で直接結合していてもよいし、炭素原子を介して結合していてもよい。アレーン構造同士で直接結合していることが好ましい。
本発明の正孔輸送物質の分子量は、以下の条件により、適度な範囲に有るべきである。分子量の下限においては、共役構造のつながりの長さを確保し、必要な平面構造を構築するために、最低限の炭素数を満たした上で分子構造をなす必要がある。本発明の正孔輸送物質の分子量は、300以上が好ましく、さらに良好な正孔輸送機能を発現するために、400以上がより好ましい。
正孔輸送物質の分子量はむやみに大きくすると、製膜性や溶解性を確保するためにsp3炭素原子などを多く導入する必要が出てくる。よって本発明の正孔輸送物質の分子量の上限としては、正孔輸送機能を阻害するsp3炭素原子などを必要以上に増やさずに、製膜性、相溶性、溶解性、製膜後の膜物性を確保するために、3000以下が好ましく、2000以下がより好ましい。
本発明の正孔輸送物質は、酸素原子を含有してもよい。酸素原子は、正孔輸送物質の周辺材料や感光層中での相溶性や製膜性を向上させる効果をもたらす。
正孔輸送物質中に酸素原子が存在する場合、特に、sp3酸素原子として共役構造をなす炭素原子と直接結合して存在することが好ましい。共役系に結合したsp3酸素原子は、その電子供与性により、正孔輸送物質全体のエネルギーレベルを適度に調整することができる。
一方で、正孔輸送物質中に酸素原子が多く存在し過ぎると、正孔の移動度を低下させ正孔輸送機能を低下させる要因となる。酸素原子の含有比率は適度な範囲にすることが推奨される。本発明の正孔輸送物質中において、酸素原子数と炭素原子数を合せた原子数に対する酸素原子数の比率として、20個数%以下が好ましく、10個数%以下がより好ましい。
本発明の正孔輸送物質を含有する感光層、特に正孔輸送層または保護層などは主に塗布プロセスで製膜される。本発明の正孔輸送物質はポリマー材料ではなく、重合性官能基などを有さないため、それ単体での製膜には不向きである。感光体製膜の際には、感光体と外部部材の摩擦などに対する耐久性を高いレベルで実現する意味でも、結着樹脂を併せて含有することが好ましい。感光体表面層が結着樹脂を含有しない場合、感光体の耐摩耗性が著しく低下したり、正孔輸送機能が良好で無くなるなどの弊害が発生し、実用的でなくなる場合が多い。
この結着樹脂は正孔輸送機能を有さない樹脂が好ましく、さらにはポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種類の樹脂であることがより好ましい。特に、感光体の膜強度、耐久性を向上させるために、芳香族ポリカーボネート樹脂および芳香族ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。本発明の正孔輸送物質は、酸化性物質や酸性物質などによって引き起こされる劣化に対して耐性が高い。よって、本発明の正孔輸送物質は、電子写真感光体の表面層に用いられることが好ましい。電子写真感光体の劣化の多くは、表面層側から被る帯電生成物などにより引き起こされるためである。
本発明の正孔輸送物質は、積層型電子写真感光体に用いても、単層型電子写真感光体に用いてもよい。積層型感光体であって、正孔輸送層が表面側に位置する場合に、本発明の正孔輸送物質を正孔輸送層に使用する。
正孔輸送層がさらに2層以上を積層して形成される場合、少なくとも表面層に位置する正孔輸送層に、本発明の正孔輸送物質を含有することが必要である。
単層型感光体に用いる場合は、本発明の正孔輸送物質を電荷発生材料と一緒に感光層に使用することができる。
電子写真感光体の表面層が含有する全正孔輸送物質に対する、本発明の正孔輸送物質の含有比率(質量比)は、表面の劣化と材料構成の関係から多い方が好ましい。当該含有質量比が50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、さらに80質量%以上100質量%以下であることが好ましく、またさらに90質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
本発明の正孔輸送物質が応用される電子写真感光体は、一般的な感光体と同様の膜厚範囲で使用すればよい。感光層の総膜厚は、5μmから50μmの範囲に有ればよい。さらに、感光層の膜厚が30μm以下であることが好ましい。単層型感光体の場合も同様の膜厚範囲である。
(電子写真感光体)
次に、本発明の電子写真感光体の全体的な構成について説明する。
本発明における電子写真感光体の好ましい構成の概略が図1に示される。図1に示される電子写真感光体においては、支持体111上に、下引き層112、電荷発生層113、正孔輸送層114を形成した構成である。この場合、少なくとも正孔輸送層114に本発明の正孔輸送物質を含有していればよい。
本発明における電子写真感光体の好ましい他の構成の概略が図2に示される。図2に示される電子写真感光体においては、支持体121上に、下引き層122、電荷発生層123、正孔輸送層124、表面層125を形成した構成である。表面層125に本発明の正孔輸送物質を含有していればよい。さらにこの層構成の場合、正孔輸送層124には本発明の正孔輸送物質を用いてもよいし、一般的な公知の芳香族アミン化合物などの正孔輸送物質を用いてもよい。
本発明の電子写真感光体の好ましいさらに他の構成の概略が図3に示される。図3に示される電子写真感光体においては、支持体131上に、下引き層132、電荷発生機能と正孔輸送機能をあわせ持つ単層感光層133を形成した構成の単層型感光体の例である。この場合、少なくとも単層感光層133に本発明の正孔輸送物質を含有していればよい。
本発明で用いられる支持体としては、導電性を有する材料からなる、導電性支持体であることが好ましい。支持体の材質としては、例えば、鉄、銅、金、銀、アルミニウム、亜鉛、チタン、鉛、ニッケル、スズ、アンチモン、インジウム、クロム、アルミニウム合金、ステンレス鋼などの金属または合金が挙げられる。また、アルミニウム、アルミニウム合金、酸化インジウム−酸化スズ合金などを真空蒸着によって形成した被膜を有する金属製支持体や樹脂製支持体を用いることもできる。また、カーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子、銀粒子などの導電性粒子をプラスチックや紙に含浸してなる支持体や、導電性樹脂を含有する支持体を用いることもできる。支持体の形状としては、円筒状、ベルト状、シート状または板状などが挙げられるが、円筒状が最も一般的である。
支持体の表面は、レーザー光の散乱による干渉縞の抑制を目的として、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理などを施してもよい。
支持体と、後述の下引き層または電荷発生層との間には、レーザーなどの散乱による干渉縞の抑制や、支持体の傷の被覆を目的として、導電層を設けてもよい。
導電層は、カーボンブラック、導電性顔料、抵抗調節顔料などを結着樹脂とともに分散処理することによって得られる導電層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。導電層用塗布液には、加熱、紫外線照射、放射線照射などにより硬化重合する化合物を添加してもよい。導電性顔料や抵抗調節顔料を分散させてなる導電層は、その表面が粗面化される傾向にある。
導電層用塗布液の溶剤としては、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。導電層の膜厚は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、さらには0.5μm以上40μm以下であることがより好ましく、さらには1μm以上30μm以下であることがより好ましい。
導電層に用いられる結着樹脂としては、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレンなどのビニル化合物の重合体および共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂およびイソシアネート樹脂が挙げられる。
導電性顔料および抵抗調節顔料としては、アルミニウム、亜鉛、銅、クロム、ニッケル、銀、ステンレス鋼などの金属(合金)の粒子や、これらをプラスチックの粒子の表面に蒸着したものが挙げられる。また、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化ビスマス、スズをドープした酸化インジウム、アンチモンやタンタルをドープした酸化スズなどの金属酸化物の粒子でもよい。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合は、単に混合するだけでもよいし、固溶体や融着の形にしてもよい。
支持体または導電層と電荷発生層との間には、電荷発生層の接着性改良、塗工性改良、支持体からの正孔注入性改良、電荷発生層の電気的破壊に対する保護などを目的として、バリア機能や接着機能を有する下引き層(中間層)を設けてもよい。
下引き層は、結着樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる下引き層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。
下引き層に用いられる結着樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ−N−ビニルイミダゾール、ポリエチレンオキシド樹脂、エチルセルロース、エチレン−アクリル酸共重合体、カゼイン、ポリアミド樹脂、N−メトキシメチル化6ナイロン樹脂、共重合ナイロン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂あるいはポリエステル樹脂などが挙げられる。
下引き層には、さらに、金属酸化物粒子を含有させてもよく、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムを含有する粒子が挙げられる。また、金属酸化物粒子は、金属酸化物粒子の表面がシランカップリング剤などの表面処理剤で処理されている金属酸化物粒子であってもよい。
下引き層用塗布液に用いられる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、脂肪族ハロゲン化炭化水素系溶剤、芳香族化合物などの有機溶剤が挙げられる。下引き層の膜厚は、0.05μm以上30μm以下であることが好ましく、1μm以上25μm以下であることがより好ましい。下引き層には、さらに、有機樹脂微粒子、レベリング剤を含有させてもよい。
次に電荷発生層について説明する。電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂および溶剤とともに分散処理することによって得られた電荷発生層用塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。また、電荷発生層は、電荷発生物質の蒸着膜としてもよい。
電荷発生層に用いられる電荷発生物質としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、チアピリリウム塩、トリフェニルメタン色素、キナクリドン顔料、アズレニウム塩顔料、シアニン染料、アントアントロン顔料、ピラントロン顔料、キサンテン色素、キノンイミン色素、スチリル色素などが挙げられる。これら電荷発生物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。これら電荷発生物質の中でも、感度の観点から、フタロシアニン顔料やアゾ顔料が好ましく、特にはフタロシアニン顔料がより好ましい。
フタロシアニン顔料の中でも、特にオキシチタニウムフタロシアニンあるいはクロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニンが優れた電荷発生効率を示す。さらに、ヒドロキシガリウムフタロシアニンの中でも、感度の観点から、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角2θが7.4°±0.3°および28.2°±0.3°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶がより好ましい。
電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、例えば、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレンなどのビニル化合物の重合体や、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
電荷発生物質と、結着樹脂の質量比は、1:0.3〜1:4の範囲であることが好ましい。分散処理方法としては、例えば、ホモジナイザー、超音波分散、ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルなどを用いる方法が挙げられる。
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤は、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、脂肪族ハロゲン化炭化水素系溶剤、芳香族化合物などが挙げられる。
次に、正孔輸送層について説明する。正孔輸送層は、正孔輸送物質と結着樹脂とを溶剤に溶解させることによって得られる正孔輸送層用塗布液を塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。
正孔輸送層に用いられる正孔輸送物質として、正孔輸送層が表面層の場合、少なくとも表面層には本発明の正孔輸送物質を用いる。正孔輸送層として、公知の正孔輸送物質を合せて使用することもできる。公知の正孔輸送物質としては、カルバゾール化合物、ヒドラゾン化合物、N,N−ジアルキルアニリン化合物、ジフェニルアミン化合物、トリフェニルアミン化合物、トリフェニルメタン化合物、ピラゾリン化合物、スチリル化合物、スチルベン化合物などが挙げられる。
正孔輸送層に用いる結着樹脂としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。好ましくは、ポリカーボネート樹脂、またはポリエステル樹脂である。
正孔輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、脂肪族ハロゲン化炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
正孔輸送層の膜厚は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、3μm以上40μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。
本発明の電子写真感光体は、上記の感光層などとは別に表面層を設けてもよい。その場合、表面層に本発明の正孔輸送物質を含有する。表面層に本発明の正孔輸送物質を含有する場合、その下層の感光層には必ずしも本発明の正孔輸送物質を用いる必要はなく、公知の如何なる正孔輸送物質も用いることができる。
表面層に用いる結着樹脂としても、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。また、表面層には硬化型樹脂を含有することもできる。硬化型樹脂としては、硬化型フェノール樹脂、硬化型エポキシ樹脂、硬化型アクリル樹脂、硬化型メタクリル樹脂などを使用することができる。
表面層は、上記樹脂を有機溶剤に溶解させて得られる表面層用塗布液を塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を乾燥させることによって形成することができる。表面層の膜厚は、0.1μm以上30μm以下であることが好ましい。さらには、0.5μm以上15μm以下であることがより好ましい。表面層用塗布液に用いられる溶剤は、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、脂肪族ハロゲン化炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
また、電子写真感光体の表面層となる層には、導電性粒子、シリコーンオイル、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン粒子などのフッ素原子含有樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素などの公知の粒子や潤滑剤を含有させてもよい。
本発明の電子写真感光体の各層には各種添加剤を添加することが出来る。添加剤としては、酸化防止剤や紫外線吸収剤などの劣化防止剤や、レベリング剤などの塗布性改良剤、フッ素原子含有樹脂粒子やアクリル樹脂粒子などの有機樹脂粒子、シリカ、酸化チタン、アルミナなどの無機粒子が挙げられる。
上記各層の塗布液を塗布する際には、例えば、浸漬塗布法、スプレー塗布法、リング塗布法、スピン塗布法、ローラー塗布法、マイヤーバー塗布法、ブレード塗布法のような公知の如何なる塗布方法も用いることができる。
次に、図4および図5に本発明の電子写真感光体を備えた電子写真装置およびプロセスカートリッジの構成の一例を示す。
図4において、全体は電子写真装置の一例を示している。出力されるメディアとしての転写紙11が、給紙トレイ13に保持され、給紙経路12を通じて二次転写手段14まで搬送される。二次転写工程の後は定着手段15により画像が定着されて、排紙部16から出力される。カラー印刷に用いる各色のプロセスカートリッジは、中間転写体10に沿って並置されている。図中、イエロー色、マゼンタ色、シアン色、ブラック色、それぞれの色に対応したイエロープロセスカートリッジ17、マゼンタプロセスカートリッジ18、シアンプロセスカートリッジ19、ブラックプロセスカートリッジ20を表す。
プロセスカートリッジは図5に詳しく示される。図5において、円筒状の電子写真感光体1は、中心軸を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。回転駆動される電子写真感光体1の周面は、帯電手段(一次帯電手段:帯電ローラーなど)2により、正または負の所定電位に均一に帯電される。帯電手段2に印加する電圧は、直流成分に交流成分を重畳した電圧、または直流成分のみの電圧のどちらでもよい。帯電された電子写真感光体1の周面は、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)から出力される、イメージ画像を描き出すための露光光(画像露光光)3を受ける。こうして電子写真感光体1の周面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成されていく。電子写真感光体1の周面に形成された静電潜像は、現像手段4の現像剤に含まれるトナーにより現像されてトナー像となる。電子写真感光体1の周面に形成担持されているトナー像が、転写手段(転写ローラーなど)5からの転写バイアスによって転写材(中間転写体など)6に順次転写されていく。トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、除電光照射手段(不図示)からの除電光など7により除電処理された後、クリーニング手段(クリーニングブレードなど)8によって転写残りの現像剤(トナー)などの除去を受けて清浄される。電子写真感光体1は、画像形成に繰り返し使用される。なお、除電光照射手段はクリーニング工程の先でも後でもよい。除電光照射手段およびクリーニング手段8は必要に応じて設けることができる。
プロセスカートリッジ9はこれらの手段などを一体に支持しカートリッジ化している状態を示す。例えば、上記の電子写真感光体1、帯電手段2、現像手段4およびクリーニング手段8などの構成要素のうち、複数のものを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に支持して構成してもよい。そして、このプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真装置の本体に対して着脱自在に構成してもよい。図5では、電子写真感光体1と、帯電手段2、現像手段4およびクリーニング手段8とを一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱自在なプロセスカートリッジ9としている。
次に、本発明の正孔輸送物質の好ましい例を示す。ただし、これらに限定されるものではない。
本発明に用いられる正孔輸送物質の代表的な合成例を以下に示す。
下記反応式〔1〕で示される反応により例示化合物No.47の合成を行った。三つ口フラスコに窒素導入管、冷却管、内温計などを装着した。トルエン350部、エタノール160部、10質量%の炭酸ナトリウム水溶液200部を混合し、窒素ガスバブリングを行いながらメカニカルスターラーを用いて30分以上室温で良く撹拌し、窒素置換を行った。さらに、フラスコ中に1−ボロン酸ピナコールエステル−7−tert−ブチルピレン(Mw=384.3)16.9部、9−メチル−9−トリフルオロメチル−2,7−ジヨードフルオレン(Mw=500.0)10.0部、およびテトラキストリフェニルフォスフィンパラジウム0.69部を投入し、さらに室温で良く撹拌し溶解と窒素置換を行った。
次に、フラスコを加熱して環流温度(約75℃)にしてスズキカップリング反応を行った。約4時間、環流条件下で反応した後、反応混合物を室温まで冷却した。分液ロートを用いて有機相と水相を分離し、得られた有機相をさらに水洗浄を行った。有機相を取り出し、無水硫酸マグネシウムを用いて脱水を行った。硫酸マグネシウムを除去後、有機相から有機溶媒を除去し、粗生成物を得た。
粗生成物に対し、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー精製を行った。トルエン/酢酸エチルの混合溶媒系で展開させ不純物を除去して、目的物(Mw=760.9)を収集した。得られた目的物をさらにトルエン/メタノール混合溶媒で再結晶を行い、濾取後真空乾燥を行い、目的物を得た(収量:12.5部、収率:82%)。
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
(実施例1)
外径30mm、長さ357.5mm、肉厚1mmのアルミニウムシリンダーを支持体(導電性支持体)とした。
次に、酸化亜鉛粒子(比表面積:19m2/g、粉体抵抗率:4.7×106Ω・cm)100部をトルエン500部と撹拌混合し、これにシランカップリング剤0.8部を添加し、6時間攪拌した。その後、トルエンを減圧留去して、130℃で6時間加熱乾燥し、表面処理された酸化亜鉛粒子を得た。シランカップリング剤として、信越化学工業(株)製のKBM602(化合物名:N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)を用いた。
次に、ポリビニルブチラール樹脂(重量平均分子量:40000、商品名:BM−1、積水化学工業(株)製)15部およびブロック化イソシアネート(商品名:スミジュール3175、住化バイエルウレタン(株)製)15部をメチルエチルケトン73.5部と1−ブタノール73.5部の混合溶液に溶解させた。この溶液に前記表面処理された酸化亜鉛粒子80.8部、および2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン(東京化成工業(株)製)0.8部を加え、これを直径0.8mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で23±3℃雰囲気下で3時間分散した。分散後、シリコーンオイル(商品名:SH28PA、東レダウコーニング(株)製)0.01部、架橋ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子(商品名:TECHPOLYMERSSX−103、積水化成品工業(株)製、平均一次粒径3.0μm)を5.6部加えて攪拌し、下引き層用塗布液を調製した。
この下引き層用塗布液を支持体上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を40分間160℃で乾燥させて、膜厚が18μmの下引き層を形成した。
次にCuKα特性X線回折のブラック角2θ±0.2°の7.4°および28.2°にピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)を用意した。このヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶20部、下記式(3)で示されるカリックスアレーン化合物0.2部、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)10部およびシクロヘキサノン600部を、直径1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で4時間分散した。その後、酢酸エチル700部を加えて電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を前記下引き層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を温度80℃で15分間加熱乾燥することにより、膜厚が0.17μmの電荷発生層を形成した。
次に、下記式(4)で示される正孔輸送物質80部、およびポリカーボネート樹脂(ユーピロンZ400、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)100部を、モノクロロベンゼン600部およびメチラール200部の混合溶媒中に溶解させることによって、正孔輸送層用塗布液を調製した。この正孔輸送層用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を温度110℃で60分間加熱乾燥することにより、膜厚が19μmの正孔輸送層を形成した。
次に、前記例示化合物No.9で示される化合物(本発明の正孔輸送物質)8部、ポリカーボネート樹脂(ユーピロンZ800、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)10部、モノクロロベンゼン440部およびテトラヒドロフラン440部を混合して良く撹拌した。これを、メンブレンフィルターで濾過を行い、保護層(表面層)用塗布液を調製した。
この保護層用塗布液を正孔輸送層上にスプレー塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を温度110℃のオーブンで30分間加熱乾燥を行い、膜厚4μmの保護層(表面層)を形成した。このようにして製造した電子写真感光体について、以下の評価を行った。
(電子写真感光体の評価)
電子写真感光体の初期の感度および残留電位評価は、感光体試験装置(ジェンテック(株)製、CYNTHIA59)を用いた。まず、23℃/50%RH環境下で、電子写真感光体の暗部電位(Vd)が−700(V)になるように帯電装置の条件を設定した。これに波長780nmの単色光を照射して−700(V)の電位を−200(V)まで下げるのに必要な光量を測定し、感度Δ500(μJ/cm2)とした。さらに、20(μJ/cm2)の光量を照射した場合の電子写真感光体の電位を残留電位Vr(−V)として測定した。
製造した電子写真感光体を、画像評価装置としての、キヤノン(株)製の電子写真複写機(商品名:iR−ADVC5051)の改造機のシアンステーションに装着し、以下のように評価を行った。
まず、23℃/50%RH環境下で、電子写真感光体の暗部電位(Vd)が−700(V)になるように帯電装置の条件を設定した。これに波長780nmのレーザー光を照射して−700(V)の電位を−200(V)まで下げるのに必要な光量を決定し、A4横の5%濃度画像の評価用チャートを連続で5000枚出力し、繰り返し画像形成を行った。上記電子写真装置の帯電工程の総放電電流量は300(μA)になるように改造して行った。
繰り返し画像形成終了後、画像評価装置から取り出した電子写真感光体を、速やかに上記と同じ感光体試験装置に装着し、感度および残留電位を測定し、繰り返し画像形成前後の電位変動を評価した。
次に、電子写真装置として、像露光レーザーパワー、帯電ローラーから支持体に流れる電流量(以下「総電流」とも表記する。)、帯電ローラーへの印加電圧の直流成分と交流成分をそれぞれ制御できるように調節および測定などができるように改造を施した装置を準備した。また、電子写真装置の本体に付随するヒーターの電源をOFFにして評価を行った。
この電子写真装置に用いるシアンカートリッジを用意し、これら電子写真装置、カートリッジ、および電子写真感光体を30℃/80%RHの環境下に24時間以上放置した。その後、電子写真感光体を画像形成評価用のシアンカートリッジに装着した。そして、A4サイズ普通紙でシアン単色の全面露光画像の出力を行い、紙上の濃度が分光濃度計(商品名:X−rite504、X−rite(株)製)にて1.45となるように像露光光量を設定した。
画像再現性の評価は、電子写真感光体の帯電工程を総放電電流量が300(μA)になるように設定して行った。この設定で、画像濃度比率5%のテストチャートを用いて5000枚の繰り返し画像形成試験を行った。繰り返し画像形成後、この電子写真感光体をカートリッジごと電子写真装置から取り出し、同じ30℃/80%RHの環境下、暗所で24時間放置した。
その後、電子写真感光体を有するカートリッジを同様の電子写真装置に再度装着し、A4横の出力解像度600dpiの1ドット−1スペースの画像形成を行った。そして、その出力画像を目視し、以下の基準で画像流れが関与するA4全面の画像再現性を評価した。
評価ランクは以下の通りとした。
A:画像のドットを拡大観察した際にドットの乱れや飛び散りが無く(すなわち、画像流れが無く)、画像再現性が良好である。
B:画像のドットを拡大観察した際に一部にドットの乱れが見られるが、飛び散りは無い。
C:画像のドットを拡大観察した際に一部にドットの乱れや飛び散り、消失を生じている。
D:画像のドットを拡大観察した際に全体的にドットの乱れや飛び散り、消失を生じている。
E:画像のドットを拡大観察した際に画像上白ぬけが発生しており画像再現性が低い(全面的に画像流れが発生している)。
繰り返し画像形成による電位変動の評価結果と、高温高湿環境下における画像特性の評価結果を表1および表2に示す。
(実施例2〜11および実施例14)
実施例1の保護層に用いた正孔輸送物質を表1に示すように正孔輸送物質を変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、評価した。評価結果を表1および表2に示す。
(実施例12および実施例13)
実施例1の保護層に用いた正孔輸送物質を表1に示すように正孔輸送物質を変更し、正孔輸送物質の使用量を5部とした。それ以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、評価した。評価結果を表1および表2に示す。
(実施例15)
実施例14の保護層に用いた正孔輸送物質を例示化合物No.47で示される正孔輸送物質4部と、例示化合物No.3で示される正孔輸送物質4部とを混合して使用することに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、評価した。評価結果を表1および表2に示す。
(実施例16)
実施例14の保護層に用いた正孔輸送物質を例示化合物No.47で示される正孔輸送物質7.2部と、例示化合物No.49で示される正孔輸送物質0.8部とを混合して使用することに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、評価した。評価結果を表1および表2に示す。
(実施例17)
実施例14の保護層に用いた正孔輸送物質を例示化合物No.47で示される正孔輸送物質7.2部と下記式(5)で示される正孔輸送物質0.8部とを混合して使用することに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、評価した。評価結果を表1および表2に示す。
(実施例18)
実施例14の保護層に用いた正孔輸送物質を例示化合物No.47で示される正孔輸送物質6.4部と前記式(5)で示される正孔輸送物質1.6部とを混合して使用することに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、評価した。評価結果を表1および表2に示す。
(実施例19)
実施例14の保護層に用いた正孔輸送物質を例示化合物No.47で示される正孔輸送物質4部と前記式(5)で示される正孔輸送物質4部とを混合して使用することに変更した。それ以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、評価した。評価結果を表1および表2に示す。
(比較例1)
実施例1の保護層に用いた正孔輸送物質を下記式(6)で示される正孔輸送物質に変更した以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様に電子写真感光体の評価を行った。評価結果を表1および表2に示す。
(比較例2)
実施例1の保護層に用いた正孔輸送物質を下記式(7)で示される正孔輸送物質に変更した以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様に電子写真感光体の評価を行った。評価結果を表1および表2に示す。
(比較例3)
実施例1の保護層に用いた正孔輸送物質を下記式(8)で示される芳香族化合物に変更した以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様に電子写真感光体の評価を行った。評価結果を表1および表2に示す。
(比較例4)
実施例1の保護層に用いた正孔輸送物質を下記式(9)で示される芳香族化合物に変更した以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様に電子写真感光体の評価を行った。評価結果を表1および表2に示す。
以上の結果より、本発明の正孔輸送物質により構成されることにより、高温高湿条件下における画像流れなどの画像欠陥を効率的に抑制していることがわかる。
感光体の感度および残留電位の測定結果においては、実施例4、8、9、10および14が比較的良好な結果を示した。共役に関わるsp2炭素原子数が比較的多く、正孔輸送物質が適度な分子量の範囲であるためと考えている。実施例12および13の例は、正孔輸送物質の分子量が大きく、表面層全体に対しより低い含有量でも良好な特性を発現することが可能となっている。
実施例14と同じ正孔輸送物質およびアミン系正孔輸送物質との混合系表面層においては、本発明の正孔輸送物質が80質量%程度以上含有されている場合に、比較的良好な結果を示している。
比較例において、アミン系正孔輸送物質は初期の電子写真特性は優れているが、耐久使用により、画像流れが悪化していることがわかる。正孔輸送物質の種類によっては感度および残留電位の変動が大きくなっている。
本発明の正孔輸送物質と同様の元素組成で構成されている物質を用いた比較例3および比較例4の場合においては、添加した物質の分子中で共役系を構成するsp2炭素原子数が少なく、多環構造が1つのみであるため、十分な正孔輸送特性を示していない。感光体としての評価が不可能であった。