JP6425367B1 - ニッケル粉及びニッケルペースト - Google Patents

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Abstract

【課題】MLCCの内部電極材料として好適な、脱バインダ性に優れ、低極性溶媒、特にジヒドロターピニルアセテートへの濡れ性および分散性が改善されたニッケル粉およびニッケルペーストを提供する。
【解決手段】個数平均径が1μm以下、結晶子径dが40nmを超える球状ニッケル粉であって、フーリエ変換型赤外分光光度計で測定した際に1385cm−1における吸光度Iと1600cm−1における吸光度Iの比(I/I)が0.8以上、炭素濃度が0.05質量%以上2.0質量%以下であることを特徴とするニッケル粉。ここで、結晶子径dとは、(111)面についてX線回折測定を行い、シェラーの式(式2)を用いて計算したものであり、Kはシェラー定数、λは測定X線波長、βは半値幅、θは回折角である。
【数1】

Description

本発明は、電子部品などに使用される導電ペースト用途に適したニッケル粉に係り、特に積層セラミックコンデンサの内部電極用途の導電ペーストに用いて好適なニッケル粉に関する。
積層セラミックコンデンサ(以下、「MLCC」と略す)は、誘電体と導電体が交互に重なった電子部品であり、スマートフォンやタブレット端末といった電子機器に使用されている。
一般に、MLCCは、次のようにして製造される。すなわち、チタン酸バリウムなどのセラミック粉末を有機バインダと混合した誘電体ペーストをシート状に形成して誘電体グリーンシートを作製する。一方、内部電極用の金属微粉末および、その焼結挙動を制御するためのセラミックス(以下、「共材」と記す)を、有機溶剤、有機バインダ等の有機化合物と混合して内部電極ペーストを形成し、これを誘電体グリーンシート上に印刷し、乾燥する。この電極層を塗布した誘電体グリーンシートを積層後、加熱圧着して積層体を形成し、目的の形状に加工する。次いで、有機バインダ等の有機成分を除去するために弱酸化雰囲気中で積層体に加熱処理(以下、これを「脱バインダ処理」と記す)を施し、その後、還元雰囲気中で1300℃前後の温度で焼成する。最後に積層体の外側に外部電極を焼き付けてMLCCを得る。
近年、電子機器の小型化・高機能化に伴い、MLCCの小型化・大容量化が進んでおり、内部電極層の薄膜化が要請されている。内部電極用の金属微粉末は、粒径が数十nm〜数百nmである。また、従来、パラジウムなどの貴金属が使用されていたが、比較的安価なニッケルなどの卑金属の使用が増えている。
MLCCの内部電極用ニッケル粉は、例えば塩化ニッケルガスと水素ガスを接触させる気相反応法により、平均粒径が1μm以下で結晶性の高い球状ニッケル微粉を優れた生産性で合成できる。
一方、内部電極を薄膜化するため、ニッケル粉を小粒径化すると、ニッケル粉の比表面積が増大することにより、ニッケル粉が液相中および気相中で凝集しやすくなる。ニッケル粉が内部電極ペースト中で凝集すると、ショートやデラミネーションによりMLCCの容量が低下するため問題となる。ここで、ショートとは、粗大粒子もしくは凝集したニッケル粉により、内部電極層の平坦性が失われ、内部電極層の凹凸部が誘電体層を貫通する構造欠陥をいう。また、デラミネーションとは、凝集したニッケル粉により共材との混合が不十分となり、内部電極層と誘電体層の熱収縮挙動が不一致となった結果、焼成時に内部電極層と誘電体層が剥離する構造欠陥である。したがって、構造欠陥が少なく、小型・大容量のMLCCを作製するため、内部電極ペースト中での分散性の良いニッケル粉が要請されている。
内部電極ペースト中でのニッケル粉の分散性を向上させるためには、低極性溶媒に対する濡れ性を向上させることが重要である。低極性溶媒とは、HLBが2.5以下の溶媒をいい、例えば、ヘキサン、トルエン、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテートなどが挙げられる。また、下記式1は、ウォッシュバーン(WASHBURN)の式と呼ばれ、溶媒中への粒子の分散速度に関する理論式である。ここで、vは分散速度、ηは溶媒粘度、Lは細孔長さ、rは細孔半径、γは溶媒の表面張力、θは接触角、ΔPは分散圧力である。この式が示すように、分散速度は、濡れ性(第1項)と、分散圧力(第2項)の和で決まる。すなわち、いかなる粒子と溶媒も、高い分散圧力を印加すれば分散可能である一方で、濡れ性が高ければ、分散圧力が小さくとも分散可能であることを示している。
Figure 0006425367
一次粒子の平均粒径が1μm以下で、ペースト中での分散性に優れたニッケルナノ粒子の合成に関して、例えばカルボン酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を調製する第一の工程と、前記混合物を加熱してニッケル錯体を生成させた錯化反応液を得る第二の工程と、前記錯化反応液にマイクロ波を照射して200℃以上の温度で加熱し、ニッケルナノ粒子スラリーを得る第三の工程と、を有し、前記第三の工程において、前記錯化反応液中に、価数が3以上の多価カルボン酸を存在させた状態で加熱を行うニッケルナノ粒子の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1で挙げられている多価カルボン酸で処理したニッケル粉は、低極性溶媒中での分散性は改善されているが、低極性溶媒への濡れ性については何ら言及されていない。このため、弱い分散処理を加えた場合に、優れた分散性を示すか不明である。
さらに、特許文献1で挙げられている多価カルボン酸で処理したニッケル粉は、炭素含有率が高い。MLCCの内部電極として用いられる金属粉は、脱バインダ工程において有機物を除去する必要があるが、高い炭素含有率と分解温度の高い有機物を含む金属粉では、脱バインダ処理で有機物を除去しきれず、続く焼成工程で残留有機物がガスとなり、結果的に構造欠陥の原因となる恐れがある。
特開2011−214143公報
本発明は、上記従来技術の問題点を鑑み、MLCCの内部電極材料として好適な、脱バインダ性に優れ、低極性溶媒、特にジヒドロターピニルアセテートへの濡れ性および分散性が改善されたニッケル粉およびニッケルペーストを提供することを目的とする。
本発明のニッケル粉は、個数平均径が1μm以下、結晶子径dが40nmを超える球状ニッケル粉であって、フーリエ変換型赤外分光光度計で測定した際に1385cm−1における吸光度Iと1600cm−1における吸光度Iの比(I/I)が0.8以上であり、炭素濃度が0.05質量%以上、2.0質量%以下であることを特徴とする。
本発明においては、不活性雰囲気下300℃で熱処理を行った際の炭素濃度の減少率が50%以上であり、ジヒドロターピニルアセテートと混合した際、ニッケル粉の表面積あたりのジヒドロターピニルアセテートの添加量が0.02g・m−2以下でペースト状になることを好ましい態様とする。
本発明のニッケル粉によれば、低極性溶媒、特にジヒドロターピニルアセテートに対する濡れ性及び分散性を改善することができるため、MLCC用導電ペーストとして用いた際、凝集粒子の発生を抑制することができ、MLCCの製造工程中において脱バインダ性にも優れる。これにより、ショートやデラミネーションの少ないMLCCの製造に寄与することができる。
実施例1〜4および比較例1〜3で得られたニッケル粉の、1385cm−1における吸光度Iと1600cm−1における吸光度Iの比(I/I)を比較したグラフである。
[ニッケル粉]
本発明のニッケル粉には、種々の製造方法によって製造されたニッケル粉とニッケルを主成分とするニッケル合金粉が含まれる。ニッケル合金粉としてはニッケルに耐酸化性等の付与や電気伝導率向上のためクロム、珪素、ホウ素、リンや希土類元素、貴金属元素等が添加された合金粉がある。
本発明のニッケル粉の個数平均粒径は、1μm以下である。好ましくは、個数平均粒径は0.4μm以下、より好ましくは0.25μm以下である。本発明のニッケル粉の個数平均粒径の下限は、特に制限されるものではないが、通常のニッケル粉の生産コストや用途の観点から0.01μm以上であることが好ましい。
また、本発明のニッケル粉の結晶子径は40nmより大きい。本発明の結晶子径dとは、(111)面について、X線回折測定を行い、シェラーの式(式2)を用いて計算したものである。ここで、Kはシェラー定数、λは測定X線波長、βは半値幅、θは回折角である。結晶子径dが高いことにより、MLCCの製造工程において、良好な焼結性となる。
Figure 0006425367
本発明のニッケル粉の個数平均粒径は、走査電子顕微鏡によりニッケル粉の一次粒子の写真を撮影し、その写真から画像解析ソフトを使用して、粒子500個以上の粒径を測定し、得られたニッケル粉の粒度分布より、その個数平均粒径を算出したものである。このとき、粒径は粒子を包み込む最小円の直径である。
本発明のニッケル粉の形状は球状が好ましい。本発明の球状とは、アスペクト比が1.2以下、円形度係数が0.675以上であることをいう。アスペクト比は、粒子を包み込む最小楕円の長径と短径の比である。また、円形度係数とは、粒子を囲む最小楕円の面積をS、周囲長をLとしたとき、4πS・L−2で定義される値である。ニッケルの形状が球状であることにより、MLCCの内部電極に加工した際に充填率が高くなるとともに平坦性が良好となり、クラックとデラミネーションを抑制できる。
本発明のニッケル粉は、フーリエ変換型赤外分光光度計で測定した際に1385cm−1における吸光度Iと1600cm−1における吸光度Iの比(I/I)が0.8以上であり、炭素濃度が0.05質量%以上2.0質量%以下である。I/Iを0.8以上とし、炭素濃度をこの範囲とすることで、脱バインダ性、低極性溶媒への濡れ性に優れたニッケル粉を得ることができる。炭素濃度は、より好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下、更に好ましくは0.2質量%以上0.8質量%以下である。
さらに、本発明のニッケル粉は、表面を親水親油バランス値(HLB)が11以下、分解温度が300℃以下のモノカルボン酸で被覆されていることを好ましい。特に、モノカルボン酸は、優れた脱バインダ性、優れた低極性溶媒への濡れ性、優れた分散性の観点から、好ましくはHLBが1以上、11以下、より好ましくはHLBが5以上、8以下のモノカルボン酸(R−COOH)である。モノカルボン酸のRの分子構造は、鎖式もしくは環式いずれでも良い。具体的には、直鎖状または分岐状アルキル基、ビニル基、アリル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基が挙げられる。
HLBが11以下のモノカルボン酸としては、例えば、ブタン酸(HLB=10.2)、ペンタン酸(HLB=8.8)、ヘキサン酸(HLB=7.7)、ヘプタン酸(HLB=6.9)、オクタン酸(HLB=6.2)、ノナン酸(HLB=5.7)、デカン酸(HLB=5.2)、安息香酸(HLB=7.4)、シクロヘキサンカルボン酸(HLB=7.0)、p−トルイル酸(HLB=6.6)のうち、少なくとも1つから選択されるモノカルボン酸が挙げられる。作業性を考えると、好ましくはデカン酸、安息香酸である。
また、本発明のニッケル粉は、ナトリウム濃度が0.001質量%以下、カルシウム濃度が0.001質量%以下であることを好ましい。ナトリウムおよびカルシウムは、MLCCの誘電体材料と反応してMLCCの容量を低下させるなどの問題があるため、含まれないことが望ましい。ナトリウムおよびカルシウムの有無は、例えば誘導結合プラズマ質量分析により確認できる。
また、本発明のニッケル粉は、硫黄を0.01質量%〜5.0質量%含有していても良い。硫黄濃度をこの範囲とすることで、焼結挙動を改善することができる。ニッケル粉中の硫黄濃度は、好ましくは0.01質量%〜1.0質量%、より好ましくは0.02質量%〜0.2質量%である。特に、ニッケルの表面が硫黄または硫酸基で被覆されていることが好ましい。
上記の構成とすることにより、本発明のニッケル粉は、ニッケル粉とジヒドロターピニルアセテートを混合した際、ニッケル粉の表面積(m−2)あたりのジヒドロターピニルアセテートの添加量(g)が0.02g・m以下でペースト状になる低極性溶媒へ優れたニッケル粉とすることができる。ペースト状の評価方法は、具体的には、あらかじめ比表面積を測定した試料1gをガラス板の上に敷き、スポイトでジヒドロターピニルアセテート(日本テルペン化学株式会社製、純度95%、HLB=0)を滴下してからパレットナイフでよく混練することを繰り返し、ペースト状になるまでに要したジヒドロターピニルアセテートの添加量を求め、ニッケル粉の表面積あたりのジヒドロターピニルアセテートの添加量を求める。ここで、ペースト状とは、試料の載ったガラス板を垂直に傾けて10秒間保持した際、試料の95%以上がガラス板に付着したままの状態を保つことをいう。また、比表面積は、試料を200℃にて30min脱気処理を行った後、BET法にて測定した比表面積である。
また、本発明のニッケル粉は、ジヒドロターピニルアセテート中でレーザー回折式湿式粒度分布測定した際の累積体積頻度で75%となる粒子径が2.3μm以下の低極性溶媒への分散性に優れたニッケル粉でもある。レーザー回折式湿式粒度分布測定で得られる粒度分布は、電子顕微鏡により観察された一次粒子の粒度分布よりも大きな値を示す。これはレーザー回折式湿式粒度分布測定ではジヒドロターピニルアセテート中で凝集した凝集体の粒度分布を測定するためである。レーザー回折式湿式粒度分布測定方法は、具体的には、試料0.2gをビーカーに秤量し、ジヒドロターピニルアセテート20mlを加えた後、超音波洗浄槽(アズワン株式会社製、USK−1A)にて5min分散処理を行う。一方、レーザー回折式湿式粒度分布測定機(ベックマン・コールター株式会社製、LS−230)のフローセル内をジヒドロターピニルアセテートで満たし、試料の分散処理の後、試料をレーザー回折式粒度分布測定機に導入して、粒度分布を測定する。
さらに、本発明のニッケル粉は、不活性雰囲気下300℃で熱処理を行った際の炭素濃度の減少率が50%以上と脱バインダ性に優れたニッケル粉とすることができる。炭素濃度の減少率の測定方法は、具体的には、試料約2gをアルミナ板に載せ、タンマン管式雰囲気電気炉(株式会社モトヤマ製、SUPER BURN SLT2035D)に入れ、炉内にアルゴンガスを1.0L/min流しながら、昇降温速度2℃/min,最高温度300℃、最高温度での保持時間1hの熱処理を行い、熱処理前後の炭素濃度の減少率((1―熱処理前の炭素濃度/熱処理後の炭素濃度)×100%)が50%以上であることをいう。
[ニッケル粉の製造方法]
本発明のニッケル粉は、例えば、気相法や液相法など既知の方法で製造することができる。特に塩化ニッケルガスと還元性ガスとを接触させることによりニッケル粉を生成する気相還元法、あるいは熱分解性のニッケル化合物を噴霧して熱分解する噴霧熱分解法は、生成する金属微粉末の粒径を容易に制御することができ、さらに球状の粒子を効率よく製造することができるという点において好ましい。特に、塩化ニッケルガスを還元性ガスと接触させることによる気相還元法は、生成するニッケル粉の粒径を精密に制御でき、さらに粗大粒子の発生を防止できる点から好ましい。
気相還元法においては、気化させた塩化ニッケルのガスと水素等の還元性ガスとを反応させる。この場合に固体の塩化ニッケルを加熱し蒸発させて塩化ニッケルガスを生成してもよい。しかしながら、塩化ニッケルの酸化または吸湿防止、およびエネルギー効率を考慮すると、金属ニッケルに塩素ガスを接触させて塩化ニッケルガスを連続的に発生させ、この塩化ニッケルガスを還元工程に直接供給し、次いで還元性ガスと接触させ塩化ニッケルガスを連続的に還元してニッケル微粉末を製造する方法が有利である。気相還元法は、結晶子径dが40nmを超えるニッケル粉を高い収率で得ることができる。
ニッケルを主成分とする合金粉末の製造方法に使用される場合の塩化ニッケルガス以外の金属塩化物ガスは、三塩化珪素(III)ガス、四塩化珪素(IV)ガス、モノシランガス、塩化銅(I)ガス、塩化銅(II)ガス、塩化銀ガス、塩化モリブデンガス(III)ガス、塩化モリブデン(V)ガス、塩化鉄(II)ガス、塩化鉄(III)ガス、塩化クロム(III)ガス、塩化クロム(VI)ガス、塩化タングステン(II)ガス、塩化タングステン(III)ガス、塩化タングステン(IV)ガス、塩化タングステン(V)ガス、塩化タングステン(VI)ガス、塩化タンタル(III)ガス、塩化タンタル(V)ガス、塩化コバルトガス、塩化レニウム(III)ガス、塩化レニウム(IV)ガス、塩化レニウム(V)ガス、ジボランガス、ホスフィンガス等及びこれらの混合ガスが挙げられる。
また還元性ガスには、水素ガス、硫化水素ガス、アンモニアガス、一酸化炭素ガス、メタンガスおよびこれらの混合ガスが挙げられる。特に好ましくは、水素ガス、硫化水素ガス、アンモニアガス、およびこれらの混合ガスである。
気相還元反応によるニッケル粉の製造過程では、塩化ニッケルガスと還元性ガスとが接触した瞬間にニッケル原子が生成し、ニッケル原子どうしが衝突・凝集することによってニッケル粒子が生成し、成長する。そして、還元工程での塩化ニッケルガスの分圧や温度等の条件によって、生成するニッケル粉の粒径が決まる。上記のようなニッケル粉の製造方法によれば、塩素ガスの供給量に応じた量の塩化ニッケルガスが発生するから、塩素ガスの供給量を制御することで還元工程へ供給する塩化ニッケルガスの量を調整することができ、これによって生成するニッケル粉の粒径を制御することができる。
さらに、塩化ニッケルガスは、塩素ガスと金属との反応で発生するから、固体塩化ニッケルの加熱蒸発により塩化ニッケルガスを発生させる方法とは異なり、キャリアガスの使用を少なくすることができるばかりでなく、製造条件によっては使用しないことも可能である。したがって、気相還元反応の方が、キャリアガスの使用量低減とそれに伴う加熱エネルギーの低減により、製造コストの削減を図ることができる。
また、塩化工程で発生した塩化ニッケルガスに不活性ガスを混合することにより、還元工程における塩化ニッケルガスの分圧を制御することができる。このように、塩素ガスの供給量もしくは還元工程に供給する塩化ニッケルガスの分圧を制御することにより、ニッケル粉の粒径を制御することができ、粒径のばらつきを抑えることができるとともに、粒径を任意に設定することができる。
例えば、出発原料である塩化ニッケルは、純度は99.5%以上の粒状、塊状、板状等の金属ニッケルを、まず塩素ガスと反応させて塩化ニッケルガスを生成させる。その際の温度は、反応を十分進めるために800℃以上とし、かつニッケルの融点である1453℃以下とする。反応速度と塩化炉の耐久性を考慮すると、実用的には900℃〜1100℃の範囲が好ましい。
次いで、この塩化ニッケルガスを還元工程に直接供給し、水素ガス等の還元性ガスと接触反応させる。その際に、塩化ニッケルガスを適宜アルゴン、窒素等の不活性ガスで希釈して塩化ニッケルガスの分圧を制御することができる。塩化ニッケルガスの分圧を制御することにより、還元部で生成する金属粉末の粒度分布等の品質を制御することができる。これにより生成する金属粉末の品質を任意に設定できるとともに、品質を安定させることができる。還元反応の温度は反応完結に十分な温度以上であればよく、ニッケルの融点以下が好ましく、経済性を考慮すると900℃〜1100℃が実用的である。
このように還元反応を行なったニッケル粉を生成したら、生成したニッケル粉を冷却する。冷却の際、生成したニッケルの一次粒子同士の凝集による二次粒子の生成を防止して所望の粒径のニッケル粉を得るために、窒素ガス等の不活性ガスを吹き込むことにより、還元反応を終えた1000℃付近のガス流を400〜800℃程度までに急速冷却することが望ましい。その後、生成したニッケル粉を、例えばバグフィルター等により分離、回収する。
噴霧熱分解法によるニッケル粉の製造方法では、熱分解性のニッケル化合物を原料とする。具体的には、硝酸塩、硫酸塩、オキシ硝酸塩、オキシ硫酸塩、塩化物、アンモニウム錯体、リン酸塩、カルボン酸塩、アルコキシ化合物などの1種または2種以上が含まれる。このニッケル化合物を含む溶液を噴霧して、微細な液滴を作る。このときの溶媒としては、水、アルコール、アセトン、エーテル等が用いられる。また、噴霧の方法は、超音波または二重ジェットノズル等の噴霧方法により行う。このようにして微細な液滴とし、高温で加熱して金属化合物を熱分解し、ニッケル粉を生成する。このときの加熱温度は、使用される特定のニッケル化合物が熱分解する温度以上であり、好ましくは金属の融点付近である。
液相法によるニッケル粉の製造方法では、硫酸ニッケル、塩化ニッケルあるいはニッケル錯体を含むニッケル水溶液を、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物中に添加するなどして接触させてニッケル水酸化物を生成し、次いでヒドラジンなどの還元剤でニッケル水酸化物を還元し金属ニッケル粉を得る。このようにして生成した金属ニッケル粉は、均一な粒子を得るために必要に応じて解砕処理を行う。
以上の方法で得られたニッケル粉は、残留する原料を除去するため、液相中に分散させ、洗浄を行うことが好ましい。たとえば、以上の方法で得られたニッケル粉を、pHや温度を制御した特定の条件で炭酸水溶液中に懸濁させて処理を行う。炭酸水溶液で処理することにより、ニッケル粉の表面に付着している塩素などの不純物が十分に除去されるとともに、ニッケル粉の表面に存在する水酸化ニッケルなどの水酸化物や粒子同士の摩擦などにより表面から離間して形成された微粒子が除去されるため、表面に均一な酸化ニッケルの被膜を形成することができる。炭酸水溶液での処理方法としては、ニッケル粉と炭酸水溶液を混合する方法、あるいはニッケル粉を純水で一旦洗浄した後の水スラリー中に炭酸ガスを吹き込むか、あるいはニッケル粉を純水で一旦洗浄した後の水スラリー中に炭酸水溶液を添加して処理することもできる。
本発明のニッケル粉に硫黄を含有させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば以下の方法を採用することができる。
(1)上記還元反応中に硫黄含有ガスを添加する方法
(2)ニッケル粉を硫黄含有ガスと接触処理する方法
(3)ニッケル粉と固体の硫黄含有化合物を乾式で混合する方法
(4)ニッケル粉を液相中に分散させたスラリー中に硫黄含有化合物溶液を添加する方法
(5)ニッケル粉を液相中に分散させたスラリー中に硫黄含有ガスをバブリングする方法
特に、硫黄含有量を精密に制御できる点や硫黄を均一に添加できる観点から(1)および(4)の方法が好ましい。(1)、(2)、(5)の方法において使用される硫黄含有ガスは、特に限定されるものではなく、硫黄蒸気、二酸化硫黄ガス、硫化水素ガス等、還元工程の温度下において気体であるガスをそのまま、あるいは希釈して使用することができる。この中でも常温で気体であり流量の制御が容易な点や不純物の混入のおそれの低い点から二酸化硫黄ガス、および硫化水素ガスが有利である。
前述の洗浄工程および硫黄添加工程の後、ニッケル粉スラリーを乾燥する。乾燥方法は特に限定されるものではなく、既知の方法を使用することができる。具体的には高温のガスと接触させ乾燥する気流乾燥、加熱乾燥、真空乾燥などが挙げられる。このうち、気流乾燥は粒子同士の衝突による硫黄含有層の破壊がないため好ましい。
さらに、このようにして得られたニッケル粉は、上述した親水親油バランス値(HLB)が11以下のモノカルボン酸を含有する溶液に浸漬後、撹拌する。
親水親油バランス値(HLB)が11以下のモノカルボン酸を含有する溶液の溶媒は、純水、エタノールもしくは工業用アルコールもしくはこれらの混合物のうち少なくとも1つから選択される溶媒を用いることができる。特に、ニッケル粉の分散しやすさ、経済性の観点から、純水を使用することが望ましい。親水親油バランス値(HLB)が11以下のモノカルボン酸は上述したものと同様である。
このとき、溶媒に溶解させる上記モノカルボン酸の量は、後に添加するニッケル粉の粒径や所望する分散性にもよるが、個数平均粒径が100nm程度のニッケル粉の場合、ニッケル粉に対し0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜2質量%が好ましい。ニッケル粉の低極性溶媒に対する濡れ性および分散性の改善効果が十分に得られ、乾燥後の炭素濃度を低くすることができることから、この範囲が好ましい。
また、溶媒の量は、分散のし易さ、経済性の観点から、ニッケル粉の濃度が20〜50質量%となるように調整することが好ましい。
撹拌の際は、溶媒中でニッケル粒子がよく分散するように湿式分散機を用い、0℃を超え70℃未満の温度域において、1分間から10時間、好ましくは30分から1時間、撹拌することが好ましい。その後、ニッケル粉スラリーを乾燥し、本発明のニッケル粉を得る。
乾燥方法は、洗浄工程後、または洗浄工程及び硫黄添加工程後の、乾燥工程と同様である。乾燥工程は、特に限定されるものではなく、既知の方法を使用することができる。具体的には高温のガスと接触させ乾燥する気流乾燥、加熱乾燥、真空乾燥などが挙げられる。このうち、気流乾燥は粒子どうしの衝突による硫黄含有層の破壊がないため好ましい。また、必要に応じてジェットミルなどによる解砕処理を加えても良い。
そして、本発明のニッケル粉は、例えば、ターピネオール等の溶媒、必要に応じて、エチルセルロース等の有機バインダ、分散剤、及び塗布しようとするセラミックスの未焼成粉を加え、3本ロールで混練するといった公知の方法で、容易に、高特性のニッケルペーストを製造することができる。溶媒としては、アルコール、アセトン、プロパノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、エーテル、石油エーテル、ミネラルスピリット、その他のパラフィン系炭化水素溶剤、あるいは、ブチルカルビトール、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート、ジヒドロカルビルアセテート、カルビルアセテート、ターピニルアセテート、リナリールアセテート等のアセテート系や、ジヒドロターピニルプロピオネート、ジヒドロカルビルプロピオネート、イソボニルプロピオネートなどのプロピオネート系溶剤、エチルセロソルブやブチルセロソルブなどのセロソルブ類、芳香族類、ジエチルフタレートなどが挙げられる。
また、有機バインダとしては、樹脂結合剤が好ましく、例えばエチルセルロース、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、アルキッド樹脂等が挙げられる。
分散剤としては、周知の適宜のものを用い得るが、例えば、ビニル系ポリマー、ポリカルボン酸アミン塩、ポリカルボン酸系等を用いることができる。
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
実施例と比較例の試料作製条件を表1にまとめた。
Figure 0006425367
評価方法は下記の通りである。
(1)一次粒子径
電界放出走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジー製、S−4700)で試料を観察し、視野一面を粒子が占める二次電子像を適当な倍率で撮影した。その後、粒子500個以上について画像解析を行い、粒子を囲む最小円の直径から粒度分布を計算した。また、平均アスペクト比と平均円形度係数から、粒子の形状を評価した。
(2)結晶子径
X線回折測定装置(PANalytycal製、X’pert−MPD/PRO−MPD 発散スリット0.5°、受光スリットなし)にて、CuKα線(波長λ=1.5418Å)を使用し、管電圧45kV、管電流40mA、ステップ角度0.02°、走査速度0.04°/sの条件で、回折角2θ=43.5〜45.5°についてX線回折測定を行った。付属の解析ソフト(X‘pert High Score)により(111面)に対応する44.5°付近のピーク位置θを検出するとともに半値幅Bを測定し、シェラー定数K=0.9としてシェラーの式を用いて結晶子径を計算した。
(3)比表面積
比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製、マルチソーブ16)を使用し、前処理として、秤量した試料を入れた測定セルをマントルヒータ内に挿入し、200℃にて30分脱気処理を行った後、室温まで放冷した。次に、測定セルに混合ガス(N:30%、He:70%)を流し、セル部を液体窒素で冷却して試料表面にNを吸着させた後、セル部を常温に戻して吸着したNを脱離させ、その脱離過程での吸着ガス量を熱伝導度検出器により測定し、試料のBET比表面積を算出した。
(4)不純物濃度
試料0.1gをふっ化水素酸および硝酸で分解した後、内標準元素の溶液を添加して定容した。その後、誘導結合プラズマ質量分析(エスアイアイナノテクノロジー株式会社製、SPQ9700)に導入し、ナトリウム濃度とカルシウム濃度を定量した。
(5)有機物の吸着状態
フーリエ変換型赤外分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、Nicolet 6700)にて赤外吸収スペクトルを測定した後、付属の解析ソフトを用いてベースラインを補正し、1385cm−1における吸光度Iと1600cm−1における吸光度Iの比(I/I)を調べた。1600cm−1付近にはカルボン酸陰イオンのC=O逆対称伸縮に帰属される赤外吸光のピークが観測されることから、I/Iの高い試料ではカルボン酸系化合物を含むことが示唆される。
(6)炭素濃度
試料0.5gをアルミナるつぼに入れ、高周波炉酸素気流中で燃焼させた。このとき、試料中の炭素から生成された二酸化炭素を、炭素・硫黄分析装置(株式会社堀場製作所製、EMIA−520SP)により分析し、炭素濃度を計算した。
(7)脱バインダ性
試料約2gをアルミナ板に載せ、タンマン管式雰囲気電気炉(株式会社モトヤマ製、SUPER BURN SLT2035D)に入れ、炉内にアルゴンガスを1.0L/min流しながら、昇降温速度2℃/min、最高温度300℃、最高温度での保持時間1hの熱処理を行い、上記方法にて炭素濃度を測定した。熱処理前後の炭素濃度を比較することにより、脱バインダ性を評価した。熱処理による炭素濃度の減少率((1−熱処理前の炭素濃度/熱処理後の炭素濃度)×100%)が50%以上ならば良(〇)、50%未満ならば不良(×)と評価した。
(8)低極性溶媒に対する濡れ性
あらかじめ比表面積を測定した試料1gをガラス板の上に敷き、スポイトでジヒドロターピニルアセテート(日本テルペン化学株式会社製、純度95%、HLB=0)を滴下してからパレットナイフでよく混練することを繰り返し、ペースト状になるまでに要したジヒドロターピニルアセテートの添加量を求めた。ここで、ペースト状とは、試料の載ったガラス板を垂直に傾けて10秒間保持した際、試料の95%以上がガラス板に付着したままの状態を保つことをいう。ニッケル粉の低極性溶媒に対する濡れ性が高いほど、ペースト状になるまでに要するジヒドロターピニルアセテートの添加量は少なくなる。ペースト状になるまでに要した、ニッケル粉の表面積あたりのジヒドロターピニルアセテートの添加量が0.02g・m−2以下の場合、良(〇)、0.02g・m−2を超えた場合、不良(×)と評価した。
(9)ペースト中での分散性
試料0.2gをビーカーに秤量し、ジヒドロターピニルアセテート20mlを加えた後、超音波洗浄槽(アズワン株式会社製、USK−1A)にて5min分散処理を行った。一方、レーザー回折式湿式粒度分布測定機(ベックマン・コールター株式会社製、LS−230)のフローセル内をジヒドロターピニルアセテートで満たした。試料の分散処理の後、試料をスポイトで適量採取し、レーザー回折式粒度分布測定機に導入して、粒度分布を測定した。このようにして得られる粒度分布は、電子顕微鏡により観察された一次粒子の粒度分布よりも大きな値を示すが、これはレーザー回折式湿式粒度分布測定では、ジヒドロターピニルアセテート中で粒子が凝集した凝集体の粒度分布を測定するためである。粒度分布のD25、D50、D75は、それぞれ累積体積頻度が25%、50%、75%となる粒子径を意味する。ペースト中での分散性が良好な試料ほど、凝集体の粒度は小さくなる。D75が2.3μm以下ならば良(〇)、2.3を超えれば不良(×)と評価した。
(実施例1)
塩化ニッケルと水素を反応させる気相反応法の後、純水中および炭酸水溶液中で洗浄を行い、乾燥、解砕させて、ニッケル粉を用意した。このニッケル粉について電子顕微鏡で評価したところ、個数平均粒径は110nm、平均アスペクト比は0.85、平均円形度係数は1.09の球状ニッケル粉であることが確認された。また、X線回折測定の結果から、結晶子径dは54.7nmであった。比表面積は6.42m・g−1であった。不純物濃度は、ナトリウム濃度が0.001質量%未満、カルシウム濃度が0.001質量%未満であった。
上記ニッケル粉に、安息香酸(関東化学株式会社製、特級、HLB=7.4)を、ニッケル粉に対する濃度が0.25質量%となるようにフラスコに秤量し、純水を加えて、攪拌機にて100rpm×30min撹拌した後、溶解させ、ニッケル粉分散液を調整した。
その後、フラスコの空隙に窒素ガスを約100ml/minで流しながら、フラスコの底部をオイルバスで100℃に加熱し、水分を揮発させた。室温まで冷却した後、ニッケル粉を回収し、250μmのナイロンメッシュで篩って試料とした。
(実施例2)
安息香酸の量を0.5質量%に変更した以外は実施例1と同様に試料を作製し、評価した。
(実施例3)
安息香酸の量を1質量%に変更した以外は実施例1と同様に試料を作製し、評価した。
(実施例4)
安息香酸をn−デカン酸(関東化学株式会社製、鹿1級、HLB=5.2)1質量%、純水をエタノール、オイルバスの加熱温度を80℃に変更した以外は実施例1と同様に試料を作製し、評価した。
(比較例1)
実施例1の安息香酸を酢酸(関東化学株式会社製、特級、HLB=15.0)1質量%に変更した以外は実施例1と同様に試料を作製し、評価した。
(比較例2)
実施例4のn−デカン酸を市販のポリカルボン酸系分散剤(クローダジャパン株式会社製、Hypermer KD−9、HLB<9)に変更した以外は実施例4と同様に試料を作製し、評価した。
(比較例3)
実施例1において用意した有機物を添加していないニッケル粉を実施例1と同様に評価した。
実施例1〜4、比較例1〜3において得られた試料は、有機物の吸着状態、炭素濃度・脱バインダ性、低極性溶媒に対する濡れ性、ペースト中での分散性を評価した。図1に有機物の吸着状態の解析結果を、表2に炭素濃度、脱バインダ性、低極性溶媒に対する濡れ性、ペースト中での分散性の評価結果を示す。
Figure 0006425367
図1に示す赤外吸光スペクトルの解析結果より、有機物を添加した実施例1〜4および比較例1〜2では、有機物を添加していない比較例3に比べてI/Iが高く、0.8以上となっていることから、カルボン酸系の有機物が吸着していることが示唆される。
また、表2に示す炭素濃度の分析結果より、実施例1〜4および比較例1、3では、市販の分散剤を添加した比較例2と比べ、炭素濃度が低いことが分かる。さらに、熱処理による炭素濃度の減少率から、実施例1〜4および比較例1では、市販の分散剤を用いた比較例2よりも脱バインダ性に優れていることが分かる。実施例1〜4および比較例1では、添加した有機物の分子量および分解温度が低いことにより、脱バインダ性が優れていると考えられる。
低極性溶媒に対する濡れ性の評価結果では、HLBの高い酢酸を添加した比較例1および有機物を添加していない比較例3に比べ、HLBの低い有機物を添加した実施例1〜4および比較例2では、ペースト状になるまでに要した溶媒の添加量が少なくいことから、低極性溶媒への濡れ性が優れていることが分かる。HLBの低い有機物でニッケル粉を被覆することにより、濡れ性が改善されたものと考えられる。
ペースト中での分散性評価結果では、HLBの高い酢酸を添加した比較例1、および有機物を添加していない比較例3に比べ、HLBの低い有機物を添加した実施例1〜4および比較例2は、凝集体の粒度が小さく、D75が2.3μm以下となっていることから、ペースト中での分散性が優れていることが分かる。これは、実施例1〜4および比較例2では、低極性溶媒への濡れ性が改善されているため、一定の分散力を与えた場合に分散しやすくなったためと考えられる。
実施例1〜4は、添加した有機物が、分解温度と分子量の低いモノカルボン酸であるため、脱バインダ性が優れている。また、添加した有機物のHLBが低いことにより、低極性溶媒への濡れ性が改善され、ペースト中での分散性も改善されている。
比較例1では、添加した有機物が、分解温度と分子量の低いモノカルボン酸であるため、脱バインダ性が優れている。しかし、添加した有機物のHLBが高いことにより、低極性溶媒への濡れ性は不十分であり、その結果、ペースト中での分散性も不十分である。
比較例2では、添加した有機物のHLBが低いため、低極性溶媒への濡れ性とペースト中での分散性は改善されている。しかし、添加した有機物が分解温度と分子量の高いポリカルボン酸であるため、脱バインダ性は本発明に劣る。
比較例3では、有機物を添加していないため炭素濃度は低いが、ニッケル粉の表面が親水性の酸化ニッケルで覆われているため、低極性溶媒への濡れ性が低く、ペースト中での分散性が不良である。
本発明によれば、添加した有機物の分解温度と炭素濃度が低く、脱バインダ処理において有利であり、低極性溶媒、特にジヒドロターピニルアセテートに対する濡れ性および分散性が改善され、MLCCの製造に好適なニッケル粉およびニッケルペーストを提供することができる。

Claims (5)

  1. 個数平均径が1μm以下、結晶子径dが40nmを超える球状ニッケル粉であって、フーリエ変換型赤外分光光度計で測定した際に1385cm−1における吸光度Iと1600cm−1における吸光度Iの比(I/I)が0.8以上、炭素濃度が0.05質量%以上2.0質量%以下であり、表面を親水親油バランス値(HLB)が11以下、分解温度が300℃以下のモノカルボン酸で被覆されていることを特徴とするニッケル粉。
    ここで、結晶子径dとは、(111)面についてX線回折測定を行い、シェラーの式(式2)を用いて計算したものであり、Kはシェラー定数、λは測定X線波長、βは半値幅、θは回折角である。
    Figure 0006425367
  2. ナトリウム濃度が0.001質量%以下、カルシウム濃度が0.001質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉。
  3. アスペクト比が1.2以下、円形度係数が0.675以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のニッケル粉。
  4. 不活性雰囲気下300℃で熱処理を行った際の炭素濃度の減少率が50%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のニッケル粉。
  5. 請求項1〜4のいずれかのニッケル粉を含有することを特徴とするニッケルペースト。
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