JP2005076074A - チタン化合物被覆ニッケル粉末およびこれを用いた導電ペースト - Google Patents

チタン化合物被覆ニッケル粉末およびこれを用いた導電ペースト Download PDF

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Abstract

【課題】 デラミネーションの発生を防止することのできる導電ペースト用に適したチタン化合物被覆ニッケル粉末、およびこれを用いた導電ペーストを提供する。
【解決手段】 ニッケル粉末にペルオクソチタン酸を接触させて、ニッケル粉末表面にチタン化合物を被覆する。

Description

本発明は、ニッケル粉末の表面にチタン化合物を被覆させたチタン化合物被覆ニッケル粉末に係り、特に導電ペーストとして用られ、なかでも積層セラミックコンデンサの内部電極に用いられる、焼結特性や分散性に優れたチタン化合物被覆ニッケル粉末に関する。
従来、銀、パラジウム、白金または金などの貴金属粉末、あるいはニッケル、コバルト、鉄、モリブデンまたはタングステンなどの卑金属粉末は、電子材料用の導電ペーストとして、特に積層セラミックコンデンサの内部電極用として用いられている。一般に積層セラミックコンデンサは、誘電体セラミック層と内部電極として使用される金属層とが交互に重なり、これらの層と誘電体セラミック層の両端に内部電極と接続した外部電極とから構成されている。
ここで誘電体として用いられるセラミックとしては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化イットリウムなどの誘電率の高い材料を主成分とするものが挙げられる。これに対し、内部電極として用いられる金属としては、前述した貴金属粉末や卑金属が挙げられるが、最近はより安価な電子材料が要求されているため、後者の卑金属を利用した積層セラミックコンデンサの開発が盛んに行われており、特にニッケル粉末が代表的である。
また、積層セラミックコンデンサの一般的な製造方法としては、チタン酸バリウム等の誘電体粉末を有機バインダと混合し懸濁させ、ドクターブレード法によりシート状に成形して誘電体グリーンシートを作成する。一方、内部電極とする金属粉末を有機溶剤、可塑剤、有機バインダ等の有機化合物と混合し、金属粉末ペーストを形成して、これを上記グリーンシート上にスクリーン印刷法で印刷する。その後乾燥、積層および圧着を順次行い、加熱処理にて有機成分を除去した後、1300℃前後またはそれ以上の温度で焼成する。その後両端に外部電極を焼き付けて、積層セラミックコンデンサを得る。
上記積層セラミックコンデンサの製造工程においては、誘電体グリーンシートに金属ペーストを印刷し、積層および圧着を行った後、加熱処理にて有機成分を蒸発除去するが、この加熱処理は通常大気中で250〜400℃で行われる。このように、酸化雰囲気中で加熱処理を行うため、金属粉末は酸化し、それにより金属粉末の体積が膨張する。さらにこの有機成分除去のための加熱処理の後、さらに高温に加熱し焼結するが、この焼結は水素ガス雰囲気等の還元性雰囲気で行う。これにより、一旦酸化した金属粉末は還元されるため、体積の収縮が起きる。
このように、積層セラミックコンデンサを製造する工程において、酸化還元反応により金属粉末に膨張・収縮による体積変化が生じる。一方、誘電体自身も焼結により体積変化が生じるが、誘電体と金属粉末という異なった物質を同時に焼結するため、焼結過程でのそれぞれの物質の膨張・収縮の体積変化などの焼結挙動が異なる。このため、金属ペースト層に歪みが生じ、結果としてクラックまたは剥離などデラミネーションといわれる層状構造の破壊が起きるという問題があった。具体的には、例えばチタン酸バリウムを主成分とする誘電体は、1000℃以上、通常1200〜1300℃で焼結が始まるのに対し、内部電極に用いられる金属粉末の焼結は、それよりも低い温度、例えばニッケル粉末の場合、通常400〜500℃で始まる。このような焼結挙動として焼結開始温度の違いがデラミネーション発生の一つの大きな要因となっている。
上記のようなデラミネーション発生の問題を解決する手段として種々の方法が提案されている。例えば、ニッケル粉末の焼結温度を向上させる手段として、ニッケル粉末表面にチタンを主とする酸化物や有機化合物を被覆させる方法が提案されており、例えば、金属ニッケル微粒子表面に、原子番号が12〜56および82の範囲内で周期表の2〜14族に属する金属元素の少なくとも1種を含む酸化物および複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種が固着している複合ニッケル微粉末が開示されている(特許文献1参照)。また、ニッケル粉末の粒子表面をチタンを含む有機化合物で被覆する、積層セラミックコンデンサ用ニッケル粉末の焼結性制御方法が開示されている(特許文献2参照)。さらに、ニッケル超微粉の表面にTiOを骨格として含む有機複合皮膜を形成させたニッケル超微粉が開示されている(特許文献3参照。)。
特開2000−282102号公報(特許請求の範囲) 特開2001−59101号公報(特許請求の範囲) 特開2001−355003号公報(特許請求の範囲)
しかしながら、各特許文献1〜3に記載されている従来技術は、焼結挙動に関する種々の改善がなされているものであるが、上記したデラミネーションを防止する技術としては必ずしも十分なものではない。また、上記各特許文献は、ニッケル粉末の表面を酸化物で被覆する工程が煩雑であることや、高価な有機チタン化合物を用いることなどコスト面においても改善の余地が残されている。前述したように、近年安価な電子材料が求められており、ニッケルを代表とする卑金属を内部電極とした積層セラミックコンデンサが開発されているが、積層セラミックコンデンサを製造する際のデラミネーションを防止できるニッケル粉末またニッケル粉末の導電ペーストのさらなる開発が要請されていた。
本発明は、上記要請に鑑みてなされたものであり、積層セラミックコンデンサの製造工程において、加熱処理した際、酸化還元反応による体積変化または重量変化が少ないだけでなく、焼結開始温度が従来のニッケル粉末に比べてより高く、すなわち焼結開始温度が積層セラミックコンデンサを製造する際に用いる誘電体の焼結開始温度により近く、結果としてデラミネーションの発生を防止することのできるチタン化合物被覆ニッケル粉末、およびこれを用いた導電ペーストを提供することを目的としている。
本発明者らは、デラミネーションの発生防止について鋭意研究を重ねた結果、上記各特許文献に記載された技術に内在する問題、すなわち、デラミネーションを十分に防止できる安価な卑金属であるニッケル粉末を見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明のチタン化合物被覆ニッケル粉末は、ニッケル粉末にペルオクソチタン酸を接触させて、ニッケル粉末表面にチタン化合物を被覆させたことを特徴としている。
本発明のチタン化合物被覆ニッケル粉末によれば、積層セラミックコンデンサの製造工程において、ニッケル粉末の腐食を防止することを前提として、ニッケル粉末に腐食性がなく水溶液ではほぼ中性領域のペルオクソチタン酸を接触させて、加熱処理した際、酸化還元反応による体積変化または重量変化を少なくすることができる。また、焼結開始温度を従来のニッケル粉末に比べてより高くし、すなわち焼結開始温度を積層セラミックコンデンサを製造する際に用いる誘電体の焼結開始温度により近くすることができ、結果としてデラミネーションの発生を防止することができる。
このようなチタン化合物被覆ニッケル粉末においては、上記ニッケル粉末の平均粒径が1μm以下であることが望ましいが、この平均粒径を0.05〜1μmとするとより好ましく、0.1〜0.5μmとするとさらに好ましい。
また、このようなチタン化合物被覆ニッケル粉末においては、ニッケル粉末表面に被覆されたチタン化合物層の平均厚さが5nm以上であることが望ましいが、この平均厚さを10〜20nmとするとより好ましく、10〜15nmとするとさらに好ましい。なお、このチタン化合物被膜は、ニッケル粉末表面上に層を成すものであるが、必ずしもニッケル表面全体に被覆する連続層を形成していなくてもよく、チタン化合物が点在していてもよい。しかしながら、積層セラミックコンデンサの電極を形成する際の焼結特性を向上させるためには、ニッケル粉末表面全体に均一に被覆されていることが望ましい。
また、本発明のチタン化合物被覆ニッケル粉末は、ニッケル粉末にチタン化合物を被覆する前に、前処理として、ニッケル粉末を複素環状系化合物により表面処理を施すことを特徴としている。複素環状系化合物で表面処理することにより、ニッケル粉末の耐食性がより良好となり、さらにチタン化合物がニッケル粉末全体に均一に被覆できるようになり、積層セラミックコンデンサの電極を形成する際の焼結特性をより向上させることができる。複素環状系化合物としては、イミダゾールまたはその誘導体、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体等から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
さらに、このようなチタン化合物被覆ニッケル粉末中のチタン化合物含有量は、ニッケル粉末に対してチタン含有量が500ppm%以上であることが望ましいが、このチタン含有量を1000〜50000ppm%とするとより好ましく、5000〜15000ppmとするとさらに好ましい。また、チタン化合物被覆ニッケル粉末のBETによる比表面積は、1〜20m/gであることが望ましい。
次に、本発明の導電ペーストは、上記したようなチタン化合物被覆ニッケル粉末からなることを特徴としている。本発明の導電ペーストは、上記したようなチタン化合物被覆ニッケル粉末の特性、すなわちデラミネーションの十分な防止特性を有するため、積層セラミックコンデンサの内部電極等の使用に好適である。
以上説明したように、本発明のチタン化合物被覆ニッケル粉末は、焼結開始温度をより高温域に移行させることができ、また焼結時における金属微粉末の収縮率を減少させ、さらにはペーストを形成した際の分散性に富むことから、内部電極層と誘電体層との間に発生するデラミネーションや凝集粒子によるショートを抑制することができる。よって、本発明は、電子部品等に使用される導電ペーストに好適なチタン化合物被覆ニッケル粉末を提供することができる点で有望である。
以下に、本発明の実施形態を説明する。
本発明のチタン化合物被覆ニッケル粉末は、ニッケル粉末を複素環状系化合物により表面処理した後、ペルオクソチタン酸により処理する。ここで、用いられるニッケル粉末は、平均粒径が1.0μm以下、好ましくは0.05〜1μmであり、さらに好ましくは0.1〜0.5μmの範囲の微粒子である。また、ニッケル粉末のBETによる比表面積は、1〜20m/gであることが好ましい。さらに、ニッケル粉末の粒子形状は、球状であることが焼結特性や分散性を向上させるために望ましい。
上記のニッケル粉末は気相法や液相法など公知の方法により製造することができるが、特に塩化ニッケルガスと還元性ガスとを接触させることによりニッケル粉末を生成する気相還元法、または熱分解性のニッケル化合物を噴霧して熱分解する噴霧熱分解法が、生成するニッケル粉末の粒子径を容易に制御することができ、さらに球状の粒子を効率よく製造することができるという点において好ましい方法である。
気相還元法においては、一般的には気化させた塩化ニッケルのガスと水素等の還元性ガスとを反応させるが、固体の塩化ニッケルを加熱し蒸発させて塩化ニッケルガスを生成してもよい。しかしながら、塩化ニッケルの酸化または吸湿防止やエネルギー効率を考慮すると、金属ニッケルに塩素ガスを接触させて塩化ニッケルガスを連続的に発生させ、この塩化ニッケルガスを還元工程に直接供給し、次いで還元性ガスと接触させ塩化ニッケルガスを連続的に還元してニッケル粉末を製造する方法が好ましい。
このような気相還元反応によるニッケル粉末の製造過程では、塩化ニッケルガスと還元性ガスとが接触した瞬間にニッケルが単体として生成し、ニッケル原子同士が衝突・凝集することによって超微粒子が生成し、順次成長してゆく。そして、還元工程での塩化ニッケルガスの分圧や温度等の条件によって、生成されるニッケル粉末の粒径が決定される。上記のようなニッケル粉末の製造方法によれば、塩素ガスの供給量に応じた量の塩化ニッケルガスが発生することから、塩素ガスの供給量を制御することで還元工程へ供給する塩化ニッケルガスの量を調整することができ、これによって生成するニッケル粉末の粒径を制御することができる。さらに、塩化ニッケルガスは、塩素ガスと金属ニッケルとの反応で発生することから、固体塩化ニッケルの加熱蒸発により塩化ニッケルガスを発生させる方法と異なり、キャリアガスの使用を少なくすることができるばかりでなく、製造条件によってはキャリアガスを使用しないことも可能である。したがって、気相還元反応の方が、キャリアガスの使用量低減とそれに伴う加熱エネルギーの低減により、製造コストの低減を図ることができる。
また、気相還元反応によるニッケル粉末の製造過程では、塩化工程で発生した塩化ニッケルガスに不活性ガスを混合することにより、還元工程における塩化ニッケルガスの分圧を制御することができる。このように、塩素ガスの供給量または還元工程に供給する塩化ニッケルガスの分圧を制御することにより、ニッケル粉末の粒径を制御することができ、よってニッケル粉末の粒径を安定させることができるとともに、粒径を任意に設定することができる。
上記のような気相還元法によるニッケル粉末の製造条件は、平均粒径が1μm以下になるように任意に設定する。例えば、出発原料である金属ニッケルの粒径は約5〜20mmの粒状、塊状、板状等が好ましい。また、その純度は概して99.5%以上が好ましい。
このような好適な金属ニッケルを、まず塩素ガスと反応させて塩化ニッケルガスを生成する際の温度は、反応を十分促進させるために800℃以上とし、かつニッケルの融点である1453℃以下とする。反応速度および塩化炉の耐久性を考慮すると、実用的には900℃〜1100℃の範囲が好ましい。次いで、この塩化ニッケルガスを還元工程に直接供給し、水素ガス等の還元性ガスと接触反応させる。この際には、窒素やアルゴン等の不活性ガスを、塩化ニッケルガスに対し1〜30モル%混合し、この混合ガスを還元工程に導入することができる。また、塩化ニッケルガスとともにまたは独立に塩素ガスを還元工程に供給することもできる。このように、塩素ガスを還元工程に供給することによって、塩化ニッケルガスの分圧が調整でき、生成するニッケル粉末の粒径を制御することが可能となる。還元反応の温度は、反応完結に十分な温度以上であればよいが、固体状のニッケル粉末を生成する方が、取扱いが容易であるので、ニッケルの融点以下が好ましく、さらに経済性を考慮すると900℃〜1100℃が実用的である。
このように還元反応を行い、ニッケル粉末を生成させた後、生成ニッケル粉末を冷却する。冷却の際には、生成したニッケルの一次粒子同士の凝集による二次粒子の生成を防止して所望の粒径のニッケル粉末を得ることが重要である。このため、還元反応を終えた1000℃付近のガス流を400〜800℃程度まで窒素ガス等の不活性ガスを吹き込むことにより急速冷却させることが望ましい。その後、生成したニッケル粉末を、例えばバグフィルター等により分離、回収する。回収したニッケル粉末表面に付着している塩素分などの不純物を除去するために純水で洗浄し、その後必要に応じて乾燥する。
ここで、噴霧熱分解法によるニッケル粉末の製造方法では、熱分解性のニッケル化合物を原料とする。具体的な原料としては、ニッケルの硝酸塩、硫酸鉛、オキシ硝酸塩、オキシ硫酸鉛、塩化物、アンモニウム錯体、リン酸塩、カルボン酸塩またはアルコキシ化合物などの少なくとも1種が挙げられる。このニッケル化合物を含む溶液を噴霧して、微細な液滴を生成する。この際の溶媒としては、水、アルコール、アセトンまたはエーテルなどが用いられる。また、噴霧方法は、超音波または二重ジェットノズルなどの噴霧方法を採用することができる。このようにして微細な液滴とし、高温で加熱しニッケル化合物を熱分解して、ニッケル粉末を生成する。このときの加熱温度は、使用される特定のニッケル化合物が熱分解する温度以上とし、好ましくはニッケルの融点付近とする。このようにして得られたニッケル粉末表面に付着している不純物を除去するため純粋で洗浄し、その後必要に応じて乾燥する。
一方、液相法によるニッケル粉末の製造方法では、硫酸ニッケル、塩化ニッケルまたはニッケル錯体を含むニッケル水溶液を、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物中に添加するなどして接触させてニッケル水酸化物を生成し、次いでヒドラジンなどの還元剤でニッケル水酸化物を還元しニッケル粉末を得る。このようにして得られたニッケル粉末表面に付着している不純物を除去するため純粋で洗浄し、その後必要に応じて乾燥する。このように生成したニッケル粉末は、均一な粒子を得るために解砕処理する。
以上のようにして得られたニッケル粉末を複素環状系化合物により処理した後ペルオクソチタン酸により処理し、ニッケル粉末表面上にチタン化合物を被覆させる。本発明のチタン化合物被覆ニッケル粉末の製造においては、ニッケル粉末を炭酸水溶液で予め処理しておくことが望ましい。炭酸水溶液で処理することにより、ニッケル表面に付着している塩素などの不純物が十分に除去されるとともに、ニッケル粉末表面に存在する水酸化ニッケルなどの水酸化物や粒子同士の摩擦などにより表面から剥離して形成された微粒子が除去され、均一な酸化ニッケルの被膜を形成することができ、結果として均一なチタン化合物層を形成することができる。また、複素環状系化合物により処理することにより、ニッケル粉末の耐食性が向上し、さらにペルオクソチタン酸がニッケル粉末全体を均一に被覆することが可能となる。複素環状系化合物としては、イミダゾールまたはその誘導体、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体等から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。具体的には、イミダゾールまたはその誘導帯として、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、イミダゾリニウムベタイン等を挙げることができる。
このような複素環状系化合物による処理は、複素環状系化合物の水溶液にニッケル粉末を浸漬させることにより実施することができる。複素環状系化合物の量比は、ニッケル粉末表面に複素環状系化合物の皮膜が均一に形成される量を添加すればよく、ニッケル粉末1kg当りに使用する複素環状系化合物は0.0001〜100g,好ましくは0.01〜10gである。また、ニッケル粉末を複素環状系水溶液により処理する際の温度は0〜80℃、好ましくは20〜50℃の範囲である。
用いられるペルオクソチタン酸はペルオキシチタン酸または過酸化チタンともいわれ、その構造はHTiO,Ti(OOH)(OH)またはTiO・2HOで表される。ペルオクソチタン酸は、通常、黄色、黄褐色または赤褐色の透明粘性水溶液(ゾル溶液)で取り扱われ、水溶液の場合、そのpHは5〜8でありほぼ中性領域にある。ペルオクソチタン酸は市販されているものを使用することができ、例えば「PTA−85」、「PTA−170」(いずれも(株)田中転写製のペルオクソチタン酸水溶液)が挙げられる。また、公知の方法によって調製することも可能であり、例えば、四塩化チタン水溶液をアンモニア水で加水分解し、水酸化チタンを含むスラリーを生成し、これを洗浄した後、過酸化水素を加えてペルオキシチタン酸水溶液を得ることができる。なお、以上の説明では、ニッケル粉末へのペルオクソチタン酸による処理は、各製造方法で得られたニッケル粉末を純水で洗浄し乾燥したニッケル粉末に行っているが、ペルオクソチタン酸による処理は、ニッケル粉末を純水で洗浄する際、または洗浄の後乾燥する前に行ってもよい。
このようにして得られたペルオクソチタン酸を用いて処理を行うに際し、通常ペルオクソチタン酸水溶液を用いるが、これに例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類を溶媒として用いることもできる。具体的なペルオクソチタン酸による処理方法としては、(1)ペルオクソチタン酸水溶液中にニッケル粉末を添加して、ニッケル粉末を懸濁させ処理を行う方法、(2)ニッケル粉末の水懸濁液中にペルオクソチタン酸を添加して処理を行う方法、または(3)ニッケル粉末にペルオクソチタン酸水溶液を噴霧させ接触処理する方法などが挙げられる。
上記のように処理を施した後、ニッケル表面にチタン化合物層を形成させ被覆させる。その具体的な方法としては、(1)ペルオクソチタン酸を含むニッケル粉末懸濁液の水などの溶媒を加熱または減圧下で加熱して除去し、ニッケル表面にチタン化合物を析出させる方法、(2)ペルオクソチタン酸を含むニッケル粉末懸濁液を熱処理して、ニッケル粉末表面上にチタン化合物を析出させる方法、(3)ペルオクソチタン酸を含むニッケル粉末懸濁液をスプレードライなどにより高温の気流中で処理し、ニッケル表面にチタン化合物を析出させる方法、または(4)ニッケル粉末にペルオクソチタン酸水溶液を噴霧させ接触処理するにあたり、高温下で噴霧させ、接触と同時にニッケル表面にチタン化合物を析出させる方法などが挙げられる。
上記のようにペルオクソチタン酸をニッケル粉末と接触させ、その後熱処理や溶媒を除去することによりチタン化合物を析出させチタン化合物層を形成させる際の温度は、通常室温から300℃とすることができるが、20〜60℃とするとより好ましく、40〜50℃とするとさらに好ましい。
以上に示したチタン化合物被覆ニッケル粉末の製造工程では、ニッケル粉末に複素環状系化合物により表面処理した後、ペルオクソチタン酸を接触させている。これに対し、従来、ニッケルのような金属粉末上にチタン化合物被膜を形成する場合には、硫酸チタン水溶液を接触させ、その後水酸化ナトリウムで加水分解する方法や、アルコキシチタンやチタンのカップリング剤などの有機チタン化合物で処理する方法が用いられていた。しかしながら、これらの従来の手法は、チタン化合物中に硫酸根やナトリウムなどの不純物元素が混在するという欠点や、有機チタン化合物のごとき高価な原材料を用いなければならないという欠点があった。これに対して本発明では、上記したとおり、ニッケル粉末を複素環状系化合物により処理した後、ペルオクソチタン酸のニッケル粉末への接触を採用している。複素環状系化合物で処理されることにより、ニッケル粉末の耐食性は向上し、さらにペルオクソチタン酸の水溶液はほぼ中性領域にあるので、ニッケル粉末を腐食させることがない。また、ペルオクソチタン酸水溶液は電極を形成した際の不良の原因となるナトリウムなどの不純物元素を一切含まないため、純度の高いチタン化合物を被覆することができる。さらに、本発明では有機チタン化合物のような高価な原材料を用いることなくチタン化合物層を形成させることができる。
このように形成した本発明のチタン化合物被膜は均一であり、結果として本発明のチタン化合物被覆ニッケル粉末は、焼結特性、特に焼結温度が向上する。本発明のチタン化合物被覆ニッケル粉末のチタン化合物層を形成するチタン化合物は、上記のようにペルオクソチタン酸をニッケル粉末表面に接触させ、水などの溶媒をある程度除去した化合物であり、その除去の程度およびその後の加熱処理の温度によってその組成や結晶性が若干異なる。具体的には、水酸化チタン、含水酸化チタン、酸化チタンまたはこれらの混合物であり、接触後の溶媒除去の温度が上述したように300℃以下であれば非晶質またはアナターゼ型結晶、またはこれらの混合物である。本発明では、通常そのチタン化合物層が非晶質の酸化チタンであることが好ましい。また、チタン化合物層を形成させた後、100〜300℃で加熱処理を施し、チタン化合物層に含まれる吸着水などの水分や水酸基を除去した状態がさらに好ましく、その結果、ペーストにした際に分散性が向上し、焼結特性もさらに向上する。
さらに、本発明のチタン化合物被覆ニッケル粉末は、チタン化合物層を形成させる前にニッケル粉末の表面を予め界面活性剤で処理したり、ニッケル粉末表面にチタン化合物層を形成させる際に界面活性剤を存在させたり、またはチタン化合物層形成後に界面活性剤により処理することもできる。このように界面活性剤で処理することにより、より均一にチタン化合物相が形成され、さらにチタン化合物被覆ニッケル粉末をペーストにした際の分散性が向上する。
具体的な界面活性剤の処理方法を以下に挙げる。
1) ニッケル粉末を水溶媒などに分散させ懸濁液を形成し、これに界面活性剤および複素環状系化合物を添加して処理した後、ペルオクソチタン酸水溶液を添加して処理を行う。
2) 複素環状系化合物で処理したニッケル粉末を水溶媒などに分散させ懸濁液を形成し、これに界面活性剤を添加したペルオクソチタン酸水溶液を添加して処理を行う。
3) 界面活性剤を添加したペルオクソチタン酸水溶液中に、複素環状系化合物で処理したニッケル粉末を添加して処理を行う。
4) ペルオクソチタン酸を含む、複素環状系化合物で処理したニッケル粉末懸濁液に界面活性剤を添加し、その後加熱処理やスプレードライなどにより、ニッケル表面にチタン化合物を析出させる。
5) 複素環状系化合物で処理したニッケル粉末をペルオクソチタン酸で処理し、その表面にチタン化合物層を形成しチタン化合物被覆ニッケル粉末を形成した後、溶媒中で界面活性剤によりこのチタン化合物被覆ニッケル粉末を処理する。
上記に挙げた1)〜5)の界面活性剤の処理は単独で行ってもよくまた各処理方法を組み合わせて行ってもよい。界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤および反応性界面活性剤が挙げられ、これらを単独で使用することは勿論、2種以上を組み合わせで使用することもできる。
このような界面活性剤の中でも、特に、HLB(親水親油バランス)価が通常3〜20の非イオン性界面活性剤を用いることが好ましく、HLB価が10〜20の親水性の非イオン界面活性剤を用いることがさらに好ましい。具体的には、ノニルフェノールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルおよびそのリン酸塩またはこれらの混合物、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリンモノステアレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタンモノステアレート等のソルビタン脂肪酸エステルのうちの少なくとも1種を用いることが特に好ましい。さらに好ましい界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルおよびそのリン酸塩またはこれらの混合物が挙げられる。なお、ドデシルアミンなどのアルキルアミン類を用いることも好ましい。
上記のようにして得られたチタン化合物被覆ニッケル粉末は、導電ペーストまたは電極形成用ペーストに好適である。このようなチタン化合物被覆ニッケル粉末は、有機溶媒およびバインダと混錬してペーストに形成される。有機溶媒(有機ビヒクル)としては、従来の導体ペーストに用いられているものを使用すれば足り、例えば、エチルセルロース、エチレングリコール、トルエン、キシレン、ミネラルオイル、ブチルカルビトール、ターピネオール等の高沸点有機溶媒を用いることができる。バインダとしては有機または無機バインダを用いることができるが、エチルセルロースなどの高分子バインダを用いることが好ましい。
なお、必要に応じて鉛系ガラス、亜鉛系ガラスまたはケイ酸系ガラスなどのガラスフリットや、酸化マンガン、酸化マグネシウムまたは酸化ビスマなどの金属酸化物フィラなどを、ペーストを形成する際に混合してもよい。これらの添加物を混合することで、セラミックスなどの基材に塗布、焼結して電極を形成した際、基材との密着性に優れ、しかも伝導性の高い電極を形成することができ、また半田との濡れ性を向上させることができる。その他、フタル酸エステルやステアリン酸などの可塑剤や、分散剤などをペーストに添加することもできる。
以下、本発明を具体的な実施例により詳細に説明する。
以下に示す各実施例および比較例では、ニッケル粉末の平均粒径、酸化被膜厚み(チタン化合物層厚み)、酸素濃度、焼結開始温度、および収縮率を測定した。これらの測定事項について詳細に述べる。
(ニッケル粉末の平均粒径の測定)
電子顕微鏡によりニッケル粉末の写真を撮影し、その写真から金属粉末粒子200個の粒径を測定してその平均値を算出した。なお、粒径は粒子を包み込む最小円の直径とした。
(チタン含有量)
ニッケル粉末を硫酸に溶解し、未溶解分は硝酸に溶解したニッケル溶解液を、ICP発光分光装置(ICP−1500:セイコー製)を用いてチタン含有量を分析した。
(焼結開始温度)
金属ニッケル微粉末1g、樟脳3重量%、およびアセトン3重量%を混合し、内径5mm、高さ10mmの円柱状金属に充填し、面圧1トンの荷重をかけて試験ピースを作製した。この試験ピースの焼結開始温度の測定を、熱膨張収縮挙動測定装置(TMA−8310:株式会社リガク社製)を用いて、弱酸性雰囲気(1.5%水素−98.5%窒素混合ガス)雰囲気の下、昇温速度5℃/分の条件で行った。上記測定で得られた収縮率曲線にて、1%収縮した時点における温度をもって焼結開始温度とした。
(収縮率)
上記の焼結開始温度測定で得た収縮率曲線において、500℃まで昇温した時点における重量減少率をもって収縮率とした。
次に、各実施例および各比較例について述べる。
[実施例1]
(ニッケル粉末の調製)
金属ニッケル粉末製造装置の塩化炉内に、出発原料である平均粒径5mmの金属ニッケルショットを充填するとともに、炉内雰囲気温度を1100℃とした。次いで、塩化炉内に塩素ガスを供給し、金属ニッケルショットを塩化して塩化ニッケルガスを発生させ、その後この塩化ニッケルガスに、窒素ガスを供給して混合した。そして、塩化ニッケルガスと窒素ガスとの混合ガスを1000℃の炉内雰囲気温度とした還元炉に流速2.3m/秒(1000℃換算)で導入した。これと同時に、還元炉内に水素ガスを流速7Nl/分で供給して塩化ニッケルガスを還元し、ニッケル粉末を得た。さらに、還元工程にて生成したニッケル粉末に、窒素ガスを接触させ、ニッケル粉末を冷却した。その後、ニッケル粉末を分離回収し、湯洗洗浄し、ニッケル粉末スラリー中に炭酸ガスを吹き込んでpH5.5とし、常温下においてニッケル粉末を炭酸水溶液中で60分処理した。その後、ニッケル粉末スラリーを水洗して炭酸を除去した。
(ペルオクソチタン酸による処理およびチタン化合物被覆ニッケル粉末の調整)
上記のようにして得られたニッケル粉末スラリーに、ニッケル粉末1kgに対してイミダゾールが0.1gになるよう、常温で添加し、60分間攪拌処理した。ついで、ニッケル粉末スラリーにニッケル粉末に対して、チタンが500ppmになるようにチタン濃度が0.85重量%のペルオクソチタン酸水溶液を添加し、40℃で60分間攪拌処理した。その後120℃にて加熱し、水分を除去してニッケル表面にチタン化合物を被覆させ、チタン化合物被覆ニッケル粉末を得た。このチタン化合物被覆ニッケル粉末について焼結開始温度等の測定を行った。
[実施例2]
ペルオクソチタン酸による処理においてニッケル粉末に対して、チタンが1000ppmになるようにペルオクソチタン酸水溶液を添加した以外は実施例1と同様にしてチタン化合物被覆ニッケル粉末を得た。このチタン化合物被覆ニッケル粉末について焼結開始温度等の測定を行った。
[実施例3]
ペルオクソチタン酸による処理においてニッケル粉末に対して、チタンが5000ppmになるようにペルオクソチタン酸水溶液を添加した以外は実施例1と同様にしてチタン化合物被覆ニッケル粉末を得た。このチタン化合物被覆ニッケル粉末について焼結開始温度等の測定を行った。
[比較例1]
実施例1で得られたニッケル粉末スラリーを乾燥してニッケル粉末を得た。このニッケル粉末について焼結開始温度等の測定を行った。
[比較例2]
実施例1で得られたニッケル粉末スラリーに、イミダゾール等の複素環状系化合物による処理をせずに、ニッケル粉末に対してチタン分が500ppmに相当する硫酸チタンを添加し、その後、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを8に調整し、60℃で1時間攪拌した後、濾過し、乾燥してニッケル粉末を得た。このニッケル粉末表面には、チタン化合物が付着していたが、チタン化合物層は形成されていなかった。このニッケル粉末について焼結開始温度等の測定を行った。
[比較例3]
実施例1で得られたニッケル粉末スラリーを乾燥し、ニッケル粉末を得、このニッケル粉末をイソプロピルアルコールに添加し分散させ、次いでニッケル粉末に対してチタン分が500ppmに相当するテトラ−n−ブトキシチタネートを添加し、40℃で30分攪拌した。その後120℃にて加熱し、溶媒を除去してテトラ−n−ブトキシチタネートで処理したニッケル粉末を得た。このニッケル粉末について焼結開始温度等の測定を行った。以上に示した実施例1〜3および比較例1〜3の焼結開始温度等の測定結果を表1に示す。
Figure 2005076074
表1から明らかなように、本発明のチタン化合物被覆ニッケル微粉末(実施例1〜3)は、従来のニッケル微粉末(比較例1〜3)に比して、焼結開始温度も高く、収縮率は小さいものであることが確認された。

Claims (5)

  1. ニッケル粉末ににペルオクソチタン酸を接触させて、ニッケル粉末表面にチタン化合物を被覆させたことを特徴とするチタン化合物被覆ニッケル粉末。
  2. ニッケル粉末を複素管状系化合物により表面処理した後、ペルオクソチタン酸を接触させて、ニッケル粉末表面にチタン化合物を被覆させたことを特徴とするチタン化合物被覆ニッケル粉末。
  3. 前記ニッケル粉末の平均粒径が1μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のチタン化合物被覆ニッケル粉末。
  4. 前記複素環状系化合物がイミダゾールおよびその誘導体の少なくとも1種であることを特徴とする請求項2または3に記載のチタン化合物被覆ニッケル粉末。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のチタン化合物被覆ニッケル粉末からなる導電ペースト。
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