JP6388480B2 - 炉壁の補修方法 - Google Patents

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本発明は、コークス炉の炭化室のような工業窯炉等の炉壁の補修方法に関し、具体的には、溶射材料中に含まれる金属粉末の酸化反応熱を利用して耐火性粉末を溶融し補修面(部位)に溶着させる、いわゆるテルミット反応等を利用した溶射によって、炉壁の補修を行う方法に関するものである。
工業窯炉や溶融金属用容器等は、その使用によって、内張りされた耐火物等に損傷が生ずる。このような損傷部位については、適宜、補修が施される。例えば、製鉄所のコークス炉は、建設してから20年以上のものが多く、特に、その炭化室の内壁は補修を繰り返しながら操業を継続している。
コークス炉の補修に際し操業を継続しながら補修する技術の一つとして、溶射による補修法(以下「溶射補修」とも言う)が知られている。この溶射補修法としては、プラズマ溶射法やレーザー溶射法、火炎溶射法等があるが、これらの溶射方法には、大掛かりな設備、装置が必要となるという問題がある。そのため、近年では、比較的簡易な装置で実施可能な、金属粉末の酸化発熱反応を利用した溶射方法が開発されている(例えば、特許文献1〜4)。
上記溶射方法は、金属粉末(燃焼剤)と耐火性粉末との混合物を酸素ガスで搬送して高熱の補修面(コークス炉炭化室の場合)に吹き付けることによって、混合物中の金属粉末が補修面からの受熱により酸化発熱反応(テルミット反応等)を起こさせて耐火性粉末を溶融し、補修面に付着させる技術である。
一般に、溶射は、溶射ノズルが付いたランスを人が直接操作する方法と機械により動作させる方法とに大別される。ランスを機械により動作させる方法としては、垂直移動や水平移動、これらを組み合わせた動作方法等が開示されている(例えば、特許文献5〜7)。
特開2006−098029号公報 特開2006−151771号公報 特開2009−120406号公報 特開2000−159579号公報 特開平7−126635号公報 特開2005−206727号公報 特開2006−63275号公報
溶射ノズルが付いたランスを機械的に動作させる方法については、溶射ノズルが付いたランスの方向を変える際に、ランスの減速や加速を伴うこととなる。例えば、自動車を製造する際の溶接等で利用されている産業用ロボットを使えば俊敏に動くので、この加速や減速は速い。しかし、コークス炉のような大きな炉を補修するには、10m以上のランスを動作させる必要があり、さらに高温下で使用されるため、冷却装置も付随していることから、ランスは必然的に大きく重くなる。そのため、ランスの俊敏な動作が困難になる。
コークス炉で使用される溶射機のランスの加速度−減速度は、一般に、最大でも0.1m/s程度である。耐火性粉末の吐出速度が一定の場合において、この加速度−減速度で溶射ノズルの方向が変わると、溶射ノズルが方向を変える部位付近とそれ以外の部位とでは、補修すべき部位に盛られる溶射被膜前記溶射ノズルに供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炉壁の補修方法。の厚みが異なったものとなる。このとき、溶射ノズルが方向を変える部位では、それ以外の部位よりも約2倍の量が盛られることになり、補修厚みが異なるという問題が生じる。
また、ランスの加速度−減速度が速くできるような場合でも、方向を変える際のランス走査速度が速いとランスの振動が大きくなり、意図した部位とは違う部位に溶射してしまう問題がある。さらに、これらの問題が無い場合でも、溶射ノズルが方向を変える端部では、溶射部と非溶射部とで炉壁に段差が生じやすい問題がある。そのため、コークス炉の場合、コークス押出し時にコークスが、溶射被膜が厚く盛られた部分に引っ掛かり、押し詰まりを起こすおそれがある。
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶射ノズルが方向を変える際の減速度や加速度が遅い場合でも溶射被膜の盛り過ぎを抑止することや、溶射部と非溶射部の段差を小さくすることができる、炉壁の補修方法を提案することにある。
本発明に係る炉壁の補修方法は、前記課題を解決するために開発されたものであって、溶射ノズルの位置を機械により動作させるとともに、溶射材料として金属粉末と耐火性粉末との混合物を用いると共に、その溶射材料を溶射ノズルから炉壁の補修部位に吹き付ける際に、耐火性粉末を金属粉末の酸化反応熱で溶融させて補修部位に溶着させる反応方式を利用した溶射による炉壁の補修方法において、前記混合物を補修部位に対し前記溶射ノズルから吹き付けて溶着させるために用いるガスの酸素濃度を調整することにより、前記補修部位に盛られる溶射被膜の厚みを調整することを特徴とするものである。
なお、前記のように構成される本発明に係る炉壁の補修方法においては、
(1)前記酸素濃度の調整は、酸素ガス中に、空気、窒素およびアルゴンから選ばれる1種以上の希釈ガスを添加して前記酸素濃度を下げること、
(2)前記酸素濃度を40%以上100%未満とすること、
(3)溶射ノズルの動作方向が変わる際に、前記酸素濃度の引き下げを行うこと、
(4)前記ガスと混合物とを、1次酸素中に、2次酸素と空気、窒素およびアルゴンから選ばれる1種以上のガスとを調節弁を使って適正混合比に制御し、所定の比率に混合された混合ガスを加え、その後、前記混合物を混合した後、前記溶射ノズルに供給すること、
(5)前記ガスと混合物とを、1次酸素中に前記混合物を混合し、その後、2次酸素と空気、窒素およびアルゴンから選ばれる1種以上のガスとを調節弁を使って適正混合比に制御し、所定の比率に混合された混合ガスを加えた後、前記溶射ノズルに供給すること、
がより好ましい解決手段となるものと考えられる。
本発明によれば、溶射材料中に含有させる金属粉末の酸化反応熱(テルミット反応熱等)で耐火性粉末を溶融させて、これを補修面(部位)に吹き付け溶着させる炉壁の補修方法において、酸素濃度を酸素100%未満に下げる調整を行うことにより、補修面の特定部位に盛られる溶射被膜の厚みを主として薄くすることができる。従って、補修範囲に応じて溶射ノズルの位置が動作するパスを機械により動作させて、特に厚盛りになりやすい部位である溶射ノズルが方向を変える際に、酸素濃度を酸素100%より下げる調整を行うことにより、溶射被膜の盛り過ぎの抑止や、溶射部と非溶射部の段差を小さくすることができ、均一な補修部位が得られる。
(a)、(b)は、それぞれ、本発明の炉壁の補修方法において酸素濃度を下げたガスを調節する装置構成の一例を示す図である。 表1のデータに基づき酸素濃度と溶射被膜厚みとの関係を示すグラフである。 表1の条件で溶射した際の溶射パスの一例を示す図である。 図5の溶射被膜を作製した際の溶射パスを示す図である。 図4の溶射パスにより作製した溶射被膜を側面から見て溶射被膜の厚みを観察した写真である。
図1(a)、(b)は、ぞれぞれ、本発明に係る炉壁の補修方法において、溶射ガンに溶射ガスとして供給する搬送ガスの酸素濃度を調整する装置構成の一例を示す図である。図1(a)、(b)に示す例では、まず、放射用溶射材料として金属粉末と耐火性粉末との混合物を用い、この溶射材料を溶射ノズルまで管路を介して酸素濃度を下げたガスにより搬送する。その後、得られたガスを利用して、溶射用混合物を溶射ノズルから炉壁の補修面(部位)に向けて吹き付けることで、炉壁の補修を行っている。
図1(a)に示す例では、ガスと混合物とを、1次酸素中に、2次酸素と空気、窒素およびアルゴンから選ばれる1種以上のガスとを調節弁を使って適正混合比に制御し、所定の比率に混合された混合ガスを加え、その後、混合物を混合した後、溶射ノズルに供給している。本例では、材料タンク前において2次酸素等で希釈するために酸素濃度の低下のみで材料吐出速度の低下はほとんど生じない。
図1(b)に示す例では、ガスと混合物とを、1次酸素中に混合物を混合し、その後、2次酸素と空気、窒素およびアルゴンから選ばれる1種以上のガスとを調節弁を使って適正混合比に制御し、所定の比率に混合された混合ガスを加えた後、溶射ノズルに供給している。本例では、材料タンク後において2次酸素等で希釈するために酸素濃度の低下及び材料吐出速度の低下の両方が生じる。
図1(a)、(b)に示すいずれの例においても、100%の1次酸素ガスは、2次酸素と空気、窒素およびアルゴンから選ばれる1種以上のガスとを調節弁を使って適正混合比に制御し、所定の比率に混合された混合ガスとの混合により、ガスの酸素濃度が100%よりも所望の程度下げることができる。
テルミット反応等を利用する溶射は、金属(以下、合金を含めて金属という)粉末、すなわち、酸化によって発熱するシリコン、鉄、アルミニウムなどの金属粉末と、シリカ、アルミナ、マグネシアなどの補修用の耐火性粉末とからなる補修用溶射材料粉末を、溶射ガンの仮動ガスである搬送ガスを介して補修すべき部位に向けて飛行(噴射)させる中で、テルミット反応等によって発熱−溶融させ、発生する溶滴を溶着部に付着(溶着)させるものである。ここで、使用する金属粉末や耐火性粉末は、補修対象となる耐火物の材質により異なるが、コークス炉の場合には、好ましくは、金属粉末としてはシリコンを用い、耐火性粉末としては珪石れんが粉等のシリカを用いる。シリコン、鉄などを酸化させるには、酸素ガスを用いることが最も効率が良い。
酸素濃度と溶射被膜の厚みとの関係は、図2に示すように酸素濃度と相関関係があり、酸素を希釈して酸素100%より低下させるために使用する希釈ガス種の影響は少ない。従って、酸素濃度を希釈(低下)させるためのガスは、価格や効率を考慮して決めればよく、これらの観点からは空気や窒素が好ましい。また、アルゴンでもよい。
酸素濃度は40%以上100%未満に希釈することが好ましい。その理由は、酸素濃度が100%未満でないと、溶射被膜の厚みを抑制する効果が小さいためである。また、溶射被膜の厚みは、酸素濃度40%で金属が燃焼しなくなり、図2から明らかなように、溶射被膜の厚みがゼロになる。したがって、酸素濃度を40%未満より少なくしても、その効果は酸素濃度40%のときと変わらない。
溶射ガンの操作に当たっては、補修範囲に応じて溶射ノズルの操作位置(パスの位置、回数)を設定し、特に溶射ノズルがパス方向を変える際に厚盛りになりやすいので、酸素濃度を下げる方向に調整する。即ち、酸素濃度100%の条件では、溶射ガンのパス速度を減速や加速することにより、端部における溶滴の盛り過ぎが生じて厚肉になるようなことをなくすことができ、溶射被膜の厚みを薄くする(端部を緩傾斜とする)ことができる。酸素濃度を下げるタイミングは特に限定しないが、溶射ノズル先端から吐出する搬送ガス中の酸素濃度の低下が、端部到達の100mm前から端部到達直前までとすることが目安となる。また、酸素濃度を上げ始めるのも、溶射ノズルが端部から離れ始めるときから100mm離れたときまでが目安となる。
なお、酸素の希釈ガスを混合する位置は特に規定しない。ただし、搬送ガス(1次酸素ガス)中の酸素を希釈する希釈ガスを混合してから、溶射ノズル先端までの距離やガス量によって、酸素濃度が低下したガスがノズルから吐出し始めるまでの時間が異なることとなる。即ち、溶射被膜の厚みが薄くなりはじめるまでの時間が異なる。従って、酸素を希釈する希釈ガスを混合しはじめる、また酸素を希釈する希釈ガスの混合をやめるタイミングについては、ノズル先端までの距離やガスの総量を考慮して最適になるように設定する必要がある。
以下の実施例で使用した補充用溶射材料は、金属粉末としてシリコンの粉末を使用し、耐火性粉末として珪石れんがの粉末を使用した。
<実施例1>
表1に本発明の実施例を示す。なお、表1に示す溶射条件は、図3に示す溶射パスとし、ランス速度は60mm/secで8層(4往復)盛った。図3に示す溶射パスは、溶射の幅を300mmとし、ある溶射と次の溶射とが16mmの間隔となるよう、連続して繰り返した。溶射被膜厚みは、中心部付近の厚みを5ヶ所測定し、その平均値を示した。また、表1中、1次酸素、2次酸素は、実施例では図1(a)の装置構成を用いたことにより、図1(a)に示す1次酸素、2次酸素のことを示す。各実施例は、酸素濃度100%の比較例と比べて、溶射被膜厚みが薄くなっていることがわかる。また、溶射被膜厚みは、ガス中の酸素濃度が低いほど薄い。
さらに、溶射ノズルの操作は、図4に示すようなパス設定とし、該溶射ノズルが方向を変える際に、酸素濃度を下げる場合と下げない場合とで比較した。図4に示す溶射パスは、奇数層および偶数層とも、溶射を空気を導入した間の150mm幅で行い、奇数層と偶数層とが16mmの間隔となるよう、繰り返した。溶射ノズルが方向を変える際の減速度と加速度は0.1m/Sとした。図4において、左側で溶射ノズルが方向を変える際には表1中実施例3の条件とし、それ以外では表1中比較例1の条件とした。なお、空気導入部からノズル先端までの距離は24m、容積は12Lである。これらの条件で作製した溶射被膜を側面から見た写真を図5に示す。比較例1の条件で溶射した酸素濃度100%の右端側は、溶射ノズルが方向を変える際の減速と加速の影響で盛り上がっているのに対して、実施例3の条件で溶射した酸素濃度71%の左端側は緩傾斜となっている。
<実施例2>
次に、本発明を実炉に適用して、その効果を調べた。溶射の範囲(補修部位)は窯によってやや異なるが、おおよそ奥行き1m×高さ3mである。溶射被膜の厚みは、溶射範囲の中心部付近が20mmになるように設定した。装置構成は図1(a)とし、酸素濃度の調整は40%から100%となるように空気を導入した。空気を導入した範囲は、図4と同様に、ノズルが折り返す150mm手前からノズルが折り返すまでである。また、溶射ノズルが方向を変える際の減速度と加速度は0.1m/sとした。
評価は、溶射前後での押出し電流値の変化とした。電流値は押出し時の最大値とし、溶射前10回の電流値の平均と溶射後10回の電流値の平均とを比較した。電流値は、溶射前の電流値の平均を100としたときの押出し電流指数で表した。押出し電流指数は、その値が小さいほど補修効果が大きいことになる。
表2に試験結果を示す。酸素濃度100%の比較例は、押出し電流指数が101であり、補修前後でほとんど変わらない。一方、空気を導入して酸素濃度を95%以下とした実施例では、押出し電流指数が小さくなり補修効果が見られる。特に、酸素濃度が90%以下の実施例ではその効果が大きい。
本発明の炉壁の補修方法によれば、補修部への溶射被膜の盛り過ぎを防止でき、溶射部と非溶射部との段差を小さくでき、コークス炉の炭化室のような工業窯炉や溶融金属用容器等の炉壁の溶射補修に好適に使用することができる。

Claims (6)

  1. 溶射ノズルの位置を機械により動作させるとともに、溶射材料として金属粉末と耐火性粉末との混合物を用いると共に、その溶射材料を溶射ノズルから炉壁の補修部位に吹き付ける際に、耐火性粉末を金属粉末の酸化反応熱で溶融させて補修部位に溶着させる反応方式を利用した溶射による炉壁の補修方法において、前記混合物を補修部位に対し前記溶射ノズルから吹き付けて溶着させるために用いるガスの酸素濃度を調整することにより、前記補修部位に盛られる溶射被膜の厚みを調整する方法であって、ガスの酸素濃度の調整に当たっては、前記混合物と前記ガスとを混合する場所での前記酸素濃度に対して、前記混合物と前記ガスとを混合する場所よりも前記溶射ノズル側であって、前記溶射ノズルの出口までの範囲であるいずれの場所においても前記酸素濃度を上げないことを特徴とする炉壁の補修方法。
  2. 前記酸素濃度の調整は、酸素ガス中に、空気、窒素およびアルゴンから選ばれる1種以上の希釈ガスを添加して前記酸素濃度を下げることを特徴とする請求項1に記載の炉壁の補修方法。
  3. 前記酸素濃度を40%以上100%未満とすることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の炉壁の補修方法。
  4. 溶射ノズルの動作方向が変わる際に、前記酸素濃度の引き下げを行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炉壁の補修方法。
  5. 前記ガスと混合物とを、1次酸素中に、2次酸素と空気、窒素およびアルゴンから選ばれる1種以上のガスとを調節弁を使って適正混合比に制御し、所定の比率に混合された混合ガスを加え、その後、前記混合物を混合した後、前記溶射ノズルに供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炉壁の補修方法。
  6. 前記ガスと混合物とを、1次酸素中に前記混合物を混合し、その後、2次酸素と空気、窒素およびアルゴンから選ばれる1種以上のガスとを調節弁を使って適正混合比に制御し、所定の比率に混合された混合ガスを加えた後、前記溶射ノズルに供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炉壁の補修方法。
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