JP6385168B2 - 中空粒子の製造方法 - Google Patents

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本発明は、断熱材料や遮熱材として有用な酸化物中空粒子の製造方法に関する。
東日本大震災を契機に、省エネルギー化に対する関心が高まり、断熱性、遮熱性等の部材の熱特性を改善するフィラー材に注目が集まっている。このうち、中空粒子は、粒子内部に空隙が存在するため、緻密な粒子に比べ、軽量性、断熱・遮熱性、遮音性、光散乱性などの特性が優れることから、断熱・遮熱材フィラー、遮音フィラー、反射材フィラーとして、広く普及している。
中空粒子の製造法としては、気相合成法、溶液合成法や噴霧熱分解法などが知られている。特に噴霧熱分解法は、他の方法に比べて、製造装置がシンプルであり、連続的に粒子を製造できる観点から量産性、コストパフォーマンスに優れるため注目されている製造法である。この噴霧熱分解法の製造プロセスは、無機塩が溶けている水溶液を超音波や圧縮空気を利用してミスト化(液滴化)し、このミストをキャリアガスによって熱分解炉に供給する製造法である(特許文献1)。この従来の噴霧熱分解炉は、炉内温度が乾燥ゾーンと熱分解ゾーンと二つの温度域で構成されている。
特開2011−98867号公報
従来の噴霧熱分解法により製造される中空粒子は、乾燥ゾーンで液滴中の溶媒が蒸発し、粒子表面に無機塩が析出し、噴霧ミストが緻密に収縮する前に、熱分解ゾーンで粒子表面の無機塩を熱分解して酸化物粒子が生成することにより得られる中空粒子である。しかし、この噴霧熱分解法で合成される中空粒子は、乾燥ゾーンで溶媒を除去する際に数μm〜数nmの溶媒の抜け孔が形成され、この孔は熱分解においても閉塞することがないため、中空粒子の表面を形成する外殻が多孔質状となる。このため、先に述べた用途に応じて、例えば樹脂などにフィラー材として添加すると、外殻表面の孔から樹脂などが粒子内部に侵入し、断熱性などの中空粒子の特性を発揮しないケースがあった。また、中空粒子を形成する外殻に孔が存在することから粒子強度も低くなり、フィラー材としての効果を発揮するに至らないケースが多かった。
従って、本発明の課題は、外殻に孔が存在せず、粒子強度も高い酸化物中空粒子を安価かつ大量に製造することができる方法を提供することにある。
そこで本発明者は、外殻に孔を生じない酸化物中空粒子の製造方法について種々検討した結果、噴霧熱分解法において、乾燥工程及び熱分解工程に加えて、さらに中空粒子の外殻を溶融して外殻の孔を閉塞させる工程を追加することにより、外殻に孔が存在せず、粒子強度も高い酸化物中空粒子を安価かつ大量に製造できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔2〕を提供するものである。
〔1〕噴霧熱分解法により平均粒子径0.5〜20μmの酸化物中空粒子の製造方法であって、酸化物を構成する元素を含有する溶液の噴霧液滴から溶媒を除去する乾燥工程、乾燥された粒子を熱分解して酸化物中空粒子を形成する工程、及び形成された酸化物中空粒子の表面を溶融する工程の3段階加熱工程を有することを特徴とする酸化物中空粒子の製造方法。
〔2〕前記乾燥工程の温度が室温〜600℃、前記酸化物中空粒子形成工程の温度が150〜1000℃、前記溶融工程の温度が600℃以上である〔1〕に記載の酸化物中空粒子の製造方法。
本発明の酸化物中空粒子の製造方法を用いれば、酸化物中空粒子の外殻に孔がなく、粒子強度の高い、フィラー材として有用な酸化物中空粒子が連続的かつ大量に安定して製造できる。
乾燥ゾーン、熱分解ゾーン及び溶融ゾーンを有する本発明の酸化物中空粒子製造装置の概略図である。
本発明の酸化物中空粒子の製造方法は、(1)酸化物を構成する元素を含有する溶液の噴霧液滴から溶媒を除去する乾燥工程(単に乾燥工程ともいう)、(2)乾燥された粒子を熱分解して酸化物中空粒子を形成する工程(単に熱分解工程ともいう)、及び(3)形成された酸化物中空粒子の表面を溶融する工程(単に溶融工程ともいう)の3段階加熱工程を有することを特徴とする。本発明の製造法は、一つの熱分解炉で実施するのが好ましく、当該熱分解炉は上記3段階加熱工程を行う、乾燥ゾーン、熱分解ゾーン及び溶融ゾーンを有する(図1)のが好ましい。
本発明方法では、噴霧ノズルから酸化物の合成元素を含有する溶液を噴霧する。
ここで、酸化物を構成する元素を含有する溶液としては、水等の溶媒に溶解する化合物であり、無機塩、金属アルコキシド等が挙げられる。より具体的には、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、アルミノケイ酸塩、アルミニウムアルコキシド、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等が挙げられる。また、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物を溶媒に分散した溶液、アルミニウム酸化物、ケイ素酸化物のゾル溶液も原料溶液として用いることができる。さらに、溶融温度、耐熱性、粒子強度を調整するために他の元素の原料を添加することもできる。また、これらの原料化合物から得られる酸化物としては、無機酸化物、例えば金属酸化物、アルミナ、シリカ、アルミニウムおよびケイ素からなる酸化物などが挙げられ、より具体的には、アルミナ、シリカ、アルミニウムおよびケイ素からなる酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、ジルコニウム酸化物、バリウム酸化物、セリウム酸化物、イットリウム酸化物などが挙げられ、これら酸化物を組み合わせた複合酸化物も挙げられる。
これらの酸化物を構成する元素の原料を溶解あるいは分散する溶媒としては、水及び有機溶媒が挙げられるが、環境への影響、製造コストの点から水が好ましい。
噴霧する溶液中の酸化物を構成する元素の原料濃度は、得られる酸化物中空粒子の密度、強度等を考慮し、0.01mol/L〜飽和濃度が好ましく、0.1mol/L〜0.5mol/Lがより好ましい。
前記溶液は、超音波式の噴霧装置で液滴を形成することが可能であるが、生産性の観点から、圧縮空気によって噴霧液滴とするのが好ましい。具体的には、2流体ノズルや4流体ノズルで噴霧するのが、粒子径の調整、生産性の点で好ましい。ここで2流体ノズルの方式には、空気と前記溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で空気と前記溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。
噴霧される液滴の平均粒子径は、ノズル径や空気の圧力によって調整することができ、0.5〜60μmが好ましく、1〜20μmがより好ましく、1〜15μmがさらに好ましい。
(1)乾燥工程は、前記溶液の噴霧液滴から溶媒を除去する乾燥工程であり、ここでは、噴霧液滴粒子から溶媒が蒸発し、液滴粒子表面に無機塩が析出し、粒子内部に空隙が形成される。この乾燥工程の温度は、用いる原料溶液の噴霧液滴から、溶媒が蒸発する温度であればよいが、乾燥工程で無機塩が析出する必要性から、室温〜600℃の範囲内であって0.1秒から1分程度で当該蒸発及び析出が生じる温度であるのが好ましい。より好ましくは100℃〜600℃であり、さらに好ましくは150℃〜500℃であり、さらに好ましくは150〜400℃である。
(2)熱分解工程は、乾燥された液滴および粒子を熱分解して酸化物中空粒子を形成する工程であり、ここでは、液滴および粒子表面の無機塩が熱分解および酸化されて酸化物中空粒子が生成する。この熱分解工程の温度は、前記熱分解および酸化反応が進行する温度であればよいが、熱分解工程で酸化反応が終了する必要性から、150℃〜1000℃が好ましい。また0.1秒〜1分程度で当該酸化反応が終了する温度が好ましく、具体的には、400℃〜900℃が好ましく、500℃〜900℃が好ましい。
(3)溶融工程は、形成された酸化物中空粒子の表面を溶融する工程であり、酸化物中空粒子の表面を溶融し、表面に存在する孔を閉塞させる工程である。この溶融工程の温度は、酸化物中空粒子の表面が溶融する温度であればよいが、溶融工程で溶融により酸化物中空粒子表面の孔が閉塞する点から600℃以上が好ましい。また、0.1秒〜1分程度で酸化物中空粒子表面が溶融する点から、700℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、900℃以上がさらに好ましく、1000℃以上がさらに好ましい。なお、経済性の点から1500℃以下が好ましい。また、溶融温度が600〜1000℃と低い酸化物であれば、熱分解ゾーンと溶融ゾーンの加熱温度を同じにしてもよい。
また、溶融工程においては、加熱により酸化物中空粒子表面が溶融して孔が閉塞するが、さらに酸化物中空粒子表面の溶融成分をスプレーする操作を追加してもよい。ここで、追加でスプレーする酸化物中空粒子表面の溶融成分は、酸化物の溶融物であり、予め溶融してスプレーする。かかるスプレーにより、酸化物中空粒子表面に溶融物が付着し、孔の閉塞を促進させることができる。
溶融工程が終了した酸化物中空粒子は、表面の孔が閉塞されていることから外殻に孔がなく、粒子強度の高い酸化物中空粒子となっている。従って、溶融工程を行った酸化物中空粒子を冷却後回収すれば、目的の酸化物中空粒子が得られる。酸化物中空粒子の回収は、高性能サイクロン粉体回収機やバグフィルターを用いた粉体回収装置を用いることができる。また、酸化物中空粒子の回収にあたっては、フィルターを通過させることにより粒子径の調整をすることができる。
本発明における乾燥工程、熱分解工程及び溶融工程の加熱方式は、電気抵抗熱による輻射熱やガスバーナーによる火炎を熱源とした直接加熱、また熱風などの直接加熱が挙げられる。
本発明方法により得られる酸化物中空粒子の好ましい例としては、中空室を区画する殻を有する酸化物中空粒子であって、形状がほぼ球状(平均円形度0.85以上)、平均粒子径が0.5μm〜20μm、前記殻の厚みが500nm以下のものが挙げられる。
本発明方法で得られる酸化物中空粒子の平均粒子径は、0.5μm〜20μmであり、好ましくは1μm〜20μmであり、より好ましくは2μm〜15μmであり、さらに好ましくは2μm〜12μmであり、さらに好ましくは2μm〜10μmである。20μmを超える場合は一部が円形度の小さい球となることがあり、好ましくない。なお、平均粒子径の調整は、噴霧に使用する流体ノズルの直径および圧縮空気の圧力の調節によって行うことができる。ここで粒子径は、電子顕微鏡の解析によって測定でき、その平均は、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、例えばマイクロトラック(日機装株式会社製)などによって計算できる。
本発明方法で得られる酸化物中空粒子の粒子径分布(粒度分布)は、せまい程好ましく、粒子の80%以上が平均粒子径の±5.0μmにあるのが好ましく、粒子の80%以上が平均粒子径の±4.5μmにあるのがより好ましく、粒子の80%以上が平均粒子径の±4.0μmにあるのがさらに好ましい。
本発明方法で得られる酸化物中空粒子の殻の厚みは、2000nm以下であり、1〜500nmが好ましく、10〜300nmがより好ましく、50〜200nmがさらに好ましい。殻の厚みが2000nmを超えると、中空室が十分でなく、熱伝導率が十分に小さい粒子とならない。また、殻の厚みが小さすぎる場合には、粒子の強度が十分でない可能性がある。殻の厚みは透過型電子顕微鏡(TEM)像から測定できる。
本発明方法で得られる酸化物中空粒子の熱伝導率は、0.005〜0.1W/m・Kが好ましく、0.005〜0.08W/m・Kがより好ましく、0.01〜0.06W/m・Kがさらに好ましい。この酸化物中空粒子は熱伝導率が小さいため、断熱材料、遮熱材料として優れている。ここで、熱伝導率は、迅速熱伝導率計QTM−500(京都電子工業社製)を用いた非定常熱線法により測定できる。
本発明方法で得られる酸化物中空粒子のかさ密度は、0.01〜0.3g/cm3であるのが好ましく、0.02〜0.3g/cm3であるのがより好ましく、0.03〜0.3g/cm3であるのがさらに好ましい。かさ密度は、JIS R 1628「ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法」の測定方法、パウダテスタ(ホソカワミクロン社製)などの粉体力学特性測定装置により測定できる。
本発明方法で得られる酸化物中空粒子の粒子強度は、0.3〜480(90%生存時)MPaであるのが好ましく、0.3〜320MPaであるのがより好ましく、0.3〜40MPaであるのがさらに好ましい。粒子強度は、ASTM D 3102-78に準拠した水銀圧入ポロシメーターにより測定できる。
本発明方法で得られる酸化物中空粒子の圧縮強度は、5〜800MPaであるのが好ましく、10〜700MPaであるのがより好ましく、30〜500MPaであるのがさらに好ましい。ここで圧縮強度は、微小圧縮試験機 MCT−510(株式会社島津製作所製)により測定できる。
次に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
実施例
図1に示す装置を用いてムライト中空粒子、及び非晶質アルミナ/シリカ系酸化物中空粒子を製造した。ムライト中空粒子の製造においては、硝酸アルミニウム、オルトケイ酸テトラエチルを溶解した0.2mol/L水溶液を用いた。非晶質アルミナ/シリカ系酸化物中空粒子の製造には、硝酸アルミニウム、オルトケイ酸テトラエチル、硝酸カルシウム4水和物、ホウ酸ナトリウムおよび硝酸マグネシウムを原料として用いた。原料溶液は、2流体ノズルを介してミスト状に噴霧し、乾燥ゾーン、熱分解ゾーン及び溶融ゾーンを通過させた。得られた酸化物中空粒子は、冷却後バグフィルターを用いて回収した。表1に、酸化物中空粒子の平均粒子径及びBET比表面積を示した。表2に、噴霧方式、各ゾーンの温度を示した。また、表2には、得られた酸化物中空粒子の外殻表面に孔が存在するか否かを、溶媒に浮遊するか否かで評価した。外殻表面に孔があれば、粒子は浮遊せずに沈む。浮遊性は、得られた酸化物中空粒子を溶媒と混合、静置させ、6時間後に浮遊性しているものは「○」、沈降しているものは「×」とした。
実験例7〜9は、溶融ゾーンの温度が、ムライト及び非晶質アルミナ/シリカ系酸化物が溶融できる温度(1000℃)より低かったため、外殻の孔が閉塞できなかった。これに対し、実験例1〜6は、溶融ゾーンの温度がムライト及び非晶質アルミナ/シリカ系酸化物の溶融温度(1000℃以上)だったため、外殻の孔が閉塞したことがわかる。
1:乾燥ゾーン
2:熱分解ゾーン
3:溶融ゾーン
4:噴霧ノズル
5:ポンプ
6:加熱装置
7:加熱炉内壁
8:加熱炉外壁

Claims (1)

  1. 噴霧熱分解法により平均粒子径0.5〜20μmの酸化物中空粒子の製造方法であって、
    酸化物を構成する元素を含有する溶液の噴霧液滴から溶媒を除去する乾燥工程、
    乾燥された粒子を熱分解して酸化物中空粒子を形成する熱分解工程、及び
    形成された酸化物中空粒子の表面を溶融する溶融工程
    の3段階加熱工程を有し、
    乾燥工程、熱分解工程及び溶融工程を、乾燥ゾーン、熱分解ゾーン及び溶融ゾーンを有する一つの熱分解炉でそれぞれ実施し、
    乾燥工程の温度が150〜500℃であり、
    熱分解工程の温度が500〜900℃であり、
    溶融工程の温度が1000〜1500℃である、
    酸化物中空粒子の製造方法。
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