JP6384098B2 - チップソー用炭窒化チタン基サーメット - Google Patents
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そして、このようなチップ材には、耐摩耗性、耐欠損性、耐衝撃性、耐溶着性等が求められている。
近年、一段と高能率の切断が求められるようになってきたことから、超硬合金に比べ、耐酸化性と耐摩耗性とに優れるサーメットがチップ材料として使用されるようになってきているが、チップソーの使用寿命の延命化を図るためには、チップ材としてのサーメットの耐摩耗性を低下させることなく、耐欠損性のより一層の向上を図ることが必要である。
「(1) 硬質相と結合相とからなるチップソー用TiCN基サーメットにおいて、
(a)上記硬質相成分は、47〜60質量%のTiCNと、15〜30質量%のWCと、5〜13質量%のNbCからなり、
(b)上記結合相成分は、5〜18質量%のCoからなり、
(c)上記チップソー用TiCN基サーメットは、硬質相を構成する結晶粒の平均粒径が0.5〜1.0μmの微細結晶粒からなる均一微細組織を有することを特徴とするチップソー用TiCN基サーメット。
(2)上記結合相成分として、10質量%以下のNiをさらに含有することを特徴とする前記(1)に記載のチップソー用TiCN基サーメット。
(3) 上記硬質相成分として、7質量%以下のMo2Cをさらに含有することを特徴とする前記(1)、(2)に記載のチップソー用TiCN基サーメット。
(4) 上記微細結晶粒からなる均一微細組織は、硬質相を構成する結晶粒が0.085μm以下である正規分布を示すことを特徴とするチップソー用TiCN基サーメット。」
に特徴を有するものである。
なお、この発明のチップソー用TiCN基サーメットにおいては、硬質相を形成する成分元素であるW、Nbは、サーメット中でWとC、NbとCがそれぞれ1:1の原子比で炭化物を形成しているものとして、WC量およびNbC量の炭化物換算値で定めた。
また、Mo2Cについても同様に、サーメット中に含有されるMoが、サーメット中でMo:Cが2:1の原子比でMo2Cという炭化物を形成しているものとして、炭化物換算値でMo2C量を定めた。
この発明のチップソー用TiCN基サーメットにおける主要成分であるTiCNは、焼結時に硬質相を形成して、サーメットの硬さを向上させ、もって、耐摩耗性向上に寄与するとともに耐溶着性を向上させる作用があるが、その含有割合が47質量%未満では、所望の硬さ(HRA:90以上)を確保することができず、一方、その含有割合が60質量%を超えると、サーメットの強度が急激に低下し、金属管・棒等の切断加工に供した場合、欠損が発生し易くなり、その結果、使用寿命が短命となる。
したがって、この発明では、TiCNの含有割合を47〜60質量%と定めた。
チップソー用TiCN基サーメット中に含有されるWCは、靭性を高めると共に熱伝導率を向上させ、耐欠損性を高める作用を有するが、その含有割合が15質量%未満ではその効果が少なく、一方、その含有割合が30質量%を超えると、結合相中のW成分の含有割合が高くなりすぎて、結合相自体の高温強度が急激に低下し、これが原因で欠損が発生し易くなることから、この発明では、WCの含有割合を15〜30質量%と定めた。
チップソー用TiCN基サーメット中のNbCは、WCと同様に、焼結時に結合相形成成分であるCoおよびNi成分中に固溶し、冷却時に析出して硬質相を形成し、また、硬質相としてTiと固溶体を形成し、TiCN基サーメットの高温での耐摩耗性を向上させる作用を有するが、その含有割合が5質量%未満では高温耐摩耗性向上効果が十分ではなく、一方、その含有割合が13質量%を超えると硬質相中の含有割合が高くなりすぎ、硬質相の硬さ低下の原因となることから、その含有割合は5〜13質量%と定めた。
Mo2Cは、チップソー用TiCN基サーメット中の硬質相成分として必要に応じ含有させることができ、これによって、硬質相を形成するとともに、その一部は結合相中へ固溶して固溶強化作用を示し、さらに、組織の一層の微細化が図られ、靭性、耐欠損性が向上する。
しかし、その含有割合が7質量%を超える場合には、高温での耐摩耗性の低下を招くため、Mo2Cの含有割合は7質量%以下とすることが必要である。
チップソー用TiCN基サーメット中のCoは、焼結性を向上させ、結合相を形成し、強度を向上させる作用があるが、その含有割合が5質量%未満では、焼結性が不十分となり、一方、その含有割合が18質量%を超えると、耐摩耗性が低下傾向を示すようになることから、Coの含有割合は、5〜18質量%と定めた。
チップソー用TiCN基サーメット中のNiは、焼結時にCoとともに結合相を形成して、結合相の耐熱性を向上させ、もって耐摩耗性向上に寄与するが、その含有割合が10質量%を超えると結合相の高温強度が低下し、欠損が発生し易くなることから、Niの含有割合は、10質量%以下と定めた。
この発明のチップソー用TiCN基サーメットは、例えば、以下の方法で作製することができる。
まず、所定粒径の粉末を所定の配合組成となるように配合して原料粉末を作成し、
(イ)これを、室温から1380〜1420℃まで10Pa以下の真空雰囲気中にて1〜10℃/分の速度で昇温し、
(ロ)該温度範囲(1380〜1420℃)にて、130Paの窒素雰囲気中で20〜40分保持し、
(ハ)ついで、該温度範囲(1380〜1420℃)から所定の焼結温度(1460〜1540℃)までを、1.5〜2.5℃/分の速度で昇温し、
(ニ)該焼結温度(1460〜1540℃)にて、130Paの窒素雰囲気中で80〜120分保持し、
(ホ)ついで、上記焼結温度(1460〜1540℃)から750℃へと、10Pa以下の真空雰囲気中にて2〜3℃/分の冷却速度で冷却し、
(ヘ)750℃から室温までを10Pa以下の真空雰囲気中にて炉冷する。
上記(イ)〜(ヘ)の工程によって、本発明のチップソー用TiCN基サーメットを作製することができる。
このようにして作製した本発明のチップソー用TiCN基サーメットは、硬質相を構成する結晶粒の平均粒径が0.5〜1.0μmの微細結晶粒からなり、しかも、硬質相を構成する結晶粒の粒径分布は、中央値が0.7〜0.95μm、標準偏差が0.085μm以下である正規分布を示す。さらに、このような均一かつ微細組織を有する本発明のチップソー用TiCN基サーメットは、熱伝導率が高い(17W/m・K以上)ことから、高熱を発生する高能率切断加工において、長期間にわたってすぐれた耐欠損性を発揮する。
なお、従来の焼結条件(前記本発明の焼結条件において、工程(ロ),(ホ)を除いた焼結条件にほぼ相当する。)により得られるチップソー用TiCN基サーメットの硬質相を構成する結晶粒の平均粒径は1μmを超えるものであり、或いは、平均粒径が1μm以下であっても、粒径の正規分布における中央値が大きく(例えば、0.95μm超)、標準偏差の値も大きく(例えば、0.1μm超)、本発明のチップソー用TiCN基サーメットのような均一かつ微細組織は得られない。
さらに、本発明のチップソー用TiCN基サーメットは、各成分の組成を特定範囲に限定するとともに、上記の焼結条件で作製することによって、高硬度(HRA90.0以上)を示すことから、耐摩耗性にもすぐれている。
この発明のチップソー用TiCN基サーメットは、その作製に際し、前記のような特定の条件で焼結することによって、サーメットの組織を、硬質相を構成する結晶粒の平均粒径が0.5〜1.0μm(好ましくは、0.7〜0.94μm)の微細結晶粒からなり、かつ、結晶粒の粒径分布は、中央値が0.7〜0.95μm(好ましくは、0.73〜0.93μm)、標準偏差が0.085μm以下(好ましくは、0.062〜0.082μm)である正規分布を示すような均一かつ微細な組織とすることができる。
そして、サーメットに形成された上記均一微細組織が、切断加工時の亀裂の発生・進展を抑制し、さらに、サーメット自体の熱伝導性が優れていることから、この発明のチップソー用TiCN基サーメットの耐欠損性の向上が図られる。
なお、平均粒径の測定は、より具体的には、以下のように行うことができる。
即ち、サーメットの任意の断面についての走査型電子顕微鏡(倍率4000倍)像を求め、該画像の測定範囲20μmについて、硬質相および結合相の個数をカウントし、硬質相の個数をNcc(個),結合相の個数をNbc(個)とした場合に、
Liner Intercept 計算式:
Lwc=L/((Ncc+1)+(Nbc/2))、 [但し、L=20(μm)]
dwc=4/π×Lwc
を用いて、硬質相の粒径dwc(μm)を求める。
ついで、上記測定を合計10ラインで行い、これらから得た値を平均して、平均粒径を算出することができる。
すなわち、
(イ)室温から1380〜1420℃まで10Pa以下の真空雰囲気中にて1〜10℃/分の速度で昇温し、
(ロ)該温度範囲(1380〜1420℃)にて、130Paの窒素雰囲気中で20〜40分保持し、
(ハ)ついで、該温度範囲(1380〜1420℃)から所定の焼結温度(1460〜1540℃)までを、1.5〜2.5℃/分の速度で昇温し、
(ニ)該焼結温度(1460〜1540℃)にて、130Paの窒素雰囲気中で80〜120分保持し、
(ホ)ついで、上記焼結温度(1460〜1540℃)から750℃へと、10Pa以下の真空雰囲気中にて2〜3℃/分の冷却速度で冷却し、
(ヘ)750℃から室温までを10Pa以下の真空雰囲気中にて炉冷する。
上記(イ)〜(ヘ)の工程によって、表4に示す本発明サーメット1〜5を作製した。
また、参考のため、表4に示す成分組成の市販のチップソー用TiCN基サーメットを、従来例のチップソー用TiCN基サーメット(以下、「従来例サーメット」という)として使用した。
図1に、本発明サーメット1の断面について観察した走査型電子顕微鏡像(倍率:4000倍)を示し、図2に、従来例サーメットの断面について観察した走査型電子顕微鏡像(倍率:4000倍)を示す。
表4に、上記各サーメットの硬質相を構成する結晶粒の平均粒径値を示す。
また、図1(本発明サーメット1)と図2(従来例サーメット)の比較からも、本発明サーメットが均一微細組織構造を有していることが確認される。
表4に、上記各サーメットの硬質相を構成する結晶粒の粒径分布における中央値及び標準偏差値を示す。
次に、表4に示す本発明サーメット1〜5、比較例サーメット1〜5及び従来例サーメットについて、以下の条件で、切断評価試験1(高送り切断評価試験)を行い、欠損発生の有無、逃げ面摩耗幅を調査した。
なお、欠損発生の有無の調査は、サーメット両側面の刃先観察を行い、回転側別に欠損の大小、欠損発生数をカウントした。
チップソー形状:285×2.0×32×80z、
被削材:JIS・S35C、
被削材寸法:φ26、
回転数:135 rpm、
Fz:0.07 mm/刃、
表5の結果からも明らかなように、本発明サーメット1〜5は、長時間の切断(切断数:2390cut)を行った場合でも、逃げ面摩耗幅は0.02〜0.08mm程度であり、また、欠損合計数も5以下と非常にわずかであった。
これに対して、比較例サーメット1は、短時間の切断時間(切断数:239cut)で、摩耗量がまだわずかな段階で多数の欠損を発生したため、切断評価試験1(高送り切断評価試験)を継続することができなくなってしまった。それ以外の比較例サーメット2〜5については、逃げ面摩耗幅は0.02〜0.06mm程度であり、本発明サーメット1〜5と同程度の耐摩耗性を示したものの、いずれについても、多数の欠損発生が認められた。
また、従来例サーメットについては、切断評価試験1(高送り切断評価試験)において刃先にかかる負荷により、初期段階(切断数:86cut)で欠損が多数発生したため、切断評価試験1(高送り切断評価試験)を中止した。
表5の上記結果から、本発明サーメットと比較例サーメットは、同程度の耐摩耗性を有するが、本発明サーメットは、比較例サーメットに比し、極めて優れた耐欠損性を発揮することが分かる。
次に、切断時間による耐欠損性、耐摩耗性への影響を調べるために、送り量を通常の送り量(Fz:0.04 mm/刃)に変更して、本発明サーメット1、比較例サーメト1及び従来例サーメットについての切断評価試験2を実施した。
表6に、上記の切断評価試験2の結果を示す。
また、図4には、切断評価試験2(切断数:12,329cut)終了後の従来例サーメットの破面観察写真像(倍率:200倍)を示す。
図3の破面には、切断評価試験2によりもたらされた大きな破面変化はないが、図4では、刃先に大きな欠損が生じていることが分かる。
また、表6の結果及び図3、図4から、本発明サーメットの耐欠損性は、比較例サーメト1及び従来例サーメットのそれに比して、格段にすぐれていることが分かる。
Claims (4)
- 硬質相と結合相とからなるチップソー用TiCN基サーメットにおいて、
(a)上記硬質相成分は、47〜60質量%のTiCNと、15〜30質量%のWCと、5〜13質量%のNbCからなり、
(b)上記結合相成分は、5〜18質量%のCoからなり、
(c)上記チップソー用TiCN基サーメットは、硬質相を構成する結晶粒の平均粒径が0.5〜1.0μmの微細結晶粒からなる均一微細組織を有することを特徴とするチップソー用TiCN基サーメット。 - 上記結合相成分として、10質量%以下のNiをさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のチップソー用TiCN基サーメット。
- 上記硬質相成分として、7質量%以下のMo2Cをさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載のチップソー用TiCN基サーメット。
- 上記微細結晶粒からなる均一微細組織は、硬質相を構成する結晶粒の粒径分布が、中央値が0.7〜0.95μm、標準偏差が0.085μm以下である正規分布を示すことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のチップソー用TiCN基サーメット。
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