以下、タイミングチェーン摩耗量推定装置について、図を参照しながら説明する。尚、以下の説明は、タイミングチェーン摩耗量推定装置の例示である。図1は、タイミングチェーン摩耗量推定装置10(図4参照)が適用されるエンジンシステム1を例示している。図3は、エンジンシステム1の構成を示すブロック図である。
(エンジンシステムの全体構成)
エンジンシステム1は、火花点火式内燃機関として構成されたエンジン2を備えている。エンジン2は、ターボ過給機付きエンジンである。エンジン2は、図示は省略するが、自動車における前部のエンジンルーム内で、いわゆる横置きに搭載される。エンジン2は縦置きであってもよい。エンジン2の出力軸であるクランクシャフト21は、図示を省略する変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン2の出力を駆動輪に伝達することによって、自動車が走行する。変速機は、この例では、後述の通り、前進6速である。変速機の段数は、6速に限らない。
エンジン2は、シリンダブロック22と、シリンダブロック22の上に載置されるシリンダヘッド23と、を備えている。シリンダブロック22の内部には、複数の気筒24が設けられている。この例では、エンジン2は、4つの気筒24を有する。4つの気筒24は、図1における紙面に垂直な方向に並んで配置されている。尚、エンジン2が有する気筒24の数、及び、気筒24の配列は、特定の数及び配列に限定されない。
シリンダブロック22の下側には、エンジンオイルを貯留するオイルパン29が取り付けられている。シリンダブロック22によって、クランクシャフト21を収容するクランクケース26が区画される。エンジン2は、クランクシャフト21の回転数、つまりエンジン2の回転数を検知するクランク角センサ211を有している。
クランクシャフト21は、一部の図示を省略するコネクティングロッド271を介してピストン27に連結されている。ピストン27は、各気筒24内に往復動可能に内挿されている。ピストン27と、シリンダヘッド23と、気筒24とは、燃焼室28を区画形成する。
シリンダヘッド23には、気筒24毎に吸気ポート231が形成されている。吸気ポート231は、燃焼室28に連通する。吸気ポート231には、燃焼室28と吸気ポート231との間を遮断可能な吸気バルブ31が配設されている。吸気バルブ31は、吸気動弁機構32によって駆動される。吸気バルブ31は、所定のタイミングで吸気ポート231を開閉する。
シリンダヘッド23にはまた、気筒24毎に排気ポート232が形成されている。排気ポート232は、燃焼室28に連通する。排気ポート232には、燃焼室28と排気ポート232との間を遮断可能な排気バルブ33が配設されている。排気バルブ33は、排気動弁機構34によって駆動される。排気バルブ33は、所定のタイミングで排気ポート232を開閉する。
吸気動弁機構32及び排気動弁機構34はそれぞれ、図2に示すように、シリンダヘッド23に並んで配置された吸気カムシャフト321及び排気カムシャフト341を有する。これらのカムシャフト321、341は、タイミングチェーン210を介してクランクシャフト21に駆動連結される。タイミングチェーン210は、吸気カムシャフト321に固定されたスプロケット322、排気カムシャフト341に固定されたスプロケット342、及び、クランクシャフト21に固定されたスプロケット220に巻きかけられている。
図14に示すように、タイミングチェーン210は、ローラ間隔Pで配設された複数のローラ210a…210aを有する周知の無端チェーンであり、前記複数のローラ210a…210aは、図14においては仮想的に示すスプロケット322、342、220の外周部に形成された歯部t…tと噛み合い可能に構成されている。ローラ210a…210aの軸方向両端には、タイミングチェーン210を構成する外側プレート210b及び内側プレート210cが配設され、外側プレート210b及び内側プレート210cを貫通するピン210dによって、ローラ210a…210aは支持される。外側プレート210b及び内側プレート210cには、ピン穴部210eが設けられており、ピン穴部210eは、ピン210dを回転可能に支持する。ピン210dとピン穴部210eとの摺動摩擦による摩耗を抑制するために、エンジンオイルが潤滑油として供給されている。エンジンオイルが劣化すると、ピン210dとピン穴部210eとの間の潤滑油膜が維持されにくくなり、ピン穴部210eが拡大してチェーン長さが伸びることとなる。
吸気カムシャフト321及び排気カムシャフト341はそれぞれ、クランクシャフト21の回転に連動して回転する。タイミングチェーン210の緩み側(図2における紙面左側であり、クランクシャフト21と排気カムシャフト341との間)には、テンショナアーム221を介して、タイミングチェーン210の緩み側に張力を付与する油圧オートテンショナ222が、エンジン2に取り付けられている。また、タイミングチェーン210の張り側(図2における紙面右側であり、クランクシャフト21と吸気カムシャフト321との間)には、タイミングチェーン210を案内するチェーンガイド223が、エンジン2に取り付けられている。後述するタイミングチェーン210の摩耗による伸びは、油圧オートテンショナ222により吸収される。
吸気動弁機構32は、吸気バルブ31のリフト量及び吸気バルブ31の開弁期間を変更可能に構成されている。吸気動弁機構32は、公知の様々な構成を採用することが可能である。吸気動弁機構32は、図3に示すように、エンジン制御部7からの信号を受けて、吸気バルブ31のリフト量及び吸気バルブ31の開弁期間を変更する。
排気動弁機構34も、排気バルブ33のリフト量及び排気バルブ33の開弁期間を変更可能に構成されている。排気動弁機構34は、公知の様々な構成を採用することが可能である。排気動弁機構34は、図3に示すように、エンジン制御部7からの信号を受けて、排気バルブ33のリフト量及び排気バルブ33の開弁期間を変更する。
吸気ポート231には、吸気通路51が接続されている。吸気通路51は、気筒24に吸気を導く。吸気通路51には、スロットルバルブ511が介設している。スロットルバルブ511は、電気制御式である。図3に示すように、エンジン制御部7が出力した制御信号を受けたスロットルアクチュエータ512が、スロットルバルブ511の開度を調整する。
吸気通路51におけるスロットルバルブ511よりも上流には、ターボ過給機9のコンプレッサ91が配設されている。コンプレッサ91が作動することにより、吸気の過給を行う。スロットルバルブ511とコンプレッサ91との間には、コンプレッサ91により圧縮された空気を冷却するインタークーラ513が配設されている。
吸気通路51におけるスロットルバルブ511よりも下流には、サージタンク521と、サージタンク521の下流側で4つの気筒24のそれぞれに分岐される独立通路522とが設けられている。
吸気通路51において、コンプレッサ91よりも下流には、気筒24に導入する吸入空気量と、吸気の温度とを検出するエアフローセンサ50が配設されている。
排気ポート232には、排気通路53が接続されている。排気通路53には、ターボ過給機9のタービン92が配設されている。タービン92が排気ガス流により回転し、タービン92の回転により、タービン92と連結されたコンプレッサ91が作動する。
排気通路53には、排気ガスを、タービン92をバイパスして流すための排気バイパス通路531が設けられている。排気バイパス通路531には、ウエストゲートバルブ93が設けられている。ウエストゲートバルブ93は、排気バイパス通路531を流れる排気ガスの流量を調整する。ウエストゲートバルブ93の開度が大きいほど、排気バイパス通路531を流れる排気ガスの流量が増え、タービン92を流れる流量が少なくなる。
排気通路53において、タービン92よりも下流には、排気ガスを浄化するよう構成された、第1触媒装置81と第2触媒装置82とが配設されている。排気通路53にはまた、排気ガス中の酸素濃度を検知するための、2つのO2センサ83、84が介設している。各O2センサ83、84はそれぞれ、図3に示すように、エンジン制御部7に検知信号を出力する。
シリンダヘッド23には、気筒24毎に燃料噴射弁41が取り付けられている。燃料噴射弁41は、気筒24内に直接、燃料(ここでは、ガソリン、又は、ガソリンを含む燃料)を噴射するように構成されている。燃料噴射弁41の構成は、どのようなものであってみよいが、例えば多噴口型の燃料噴射弁としてもよい。図3に示すように、燃料噴射弁41は、エンジン制御部7からの燃料噴射パルスに従って、所定の量の燃料を、所定のタイミングで、気筒24内に噴射する。尚、図1の例では、燃料噴射弁41を、気筒24の吸気側の側部に取り付けている。気筒24内における燃料噴射弁4の取り付け位置は、図例の位置に限らない。
シリンダヘッド23にはまた、気筒24毎に、点火プラグ42が取り付けられている。点火プラグ42は、シリンダヘッド23の天井面において、電極が気筒24の軸心上となるように取り付けられている。点火プラグ42は、燃焼室28内で火花を発生させることによって、燃焼室28内の混合気に点火する。点火プラグ42は、図3に示すように、エンジン制御部7からの点火信号により、所望の点火タイミングで火花を発生させる。
エンジン2は、燃焼室28から漏れ出たブローバイガスを、吸気通路51に戻すため連通部64を有している。連通部64は、エンジン2のクランクケース26と、サージタンク521とを互いに連通させるホースによって構成される。連通部64は、クランクケース26内のブローバイガスを、サージタンク521に導入する。サージタンク521には、PCV(Positive Crankcase Ventilation)バルブ65が取り付けられている。連通部64は、PCVバルブ65に接続される。PCVバルブ65は、連通部64を流れるブローバイガスの流量を調整する。PCVバルブ65は、この構成例では、クランクケース26と吸気通路51との圧力差に応じて開度を変更する機械式に構成されている。尚、PCVバルブ65は、サージタンク521ではなく、エンジン2のシリンダブロック22の側面に設けるオイルセパレータ(図示省略)に取り付けるようにしてもよい。
エンジン2の冷却水通路には、冷却水温を検知する水温センサ20が取り付けられている。また、後述するように、エンジン制御部7には、ユーザにエンジンオイルの交換を促すために点灯するオイル交換ランプ71が接続されると共に、エンジンオイルの交換完了時に操作されるリセットスイッチ72が接続される。尚、リセットスイッチは、ハードウエアスイッチに限らず、各種の操作画面が表示されるタッチパネル式の表示装置において設けられるソフトウエアスイッチとして構成される場合もある。エンジン制御部7にはさらに、各種の情報を乗員に提供するための表示装置73が接続される。
このエンジンシステム1は、タイミングチェーン210の摩耗量を推定するタイミングチェーン摩耗量推定装置10を備えている(図4参照)。摩耗量推定装置の推定結果に基づいて、エンジンシステム1は、ユーザに対して、エンジンオイルの交換を行うことが好ましい時期を、事前に案内する。エンジンオイルの交換は、タイミングチェーン210の摩耗の進行に関連する。つまり、タイミングチェーン210を潤滑するエンジンオイルが劣化すると、タイミングチェーン210の摩耗が進行し、エンジン2の性能が低下する。そこで、タイミングチェーン210の摩耗量を推定し、摩耗の進行度合いを把握する。
また、タイミングチェーンの摩耗量の推定に並行して、エンジンオイルの劣化状態の判定も行う。エンジンオイルの劣化状態は、エンジンオイル中にススが混入すること、及び/又は、エンジンオイル中に燃料が混入することである。エンジンオイルの劣化状態に基づいて、適切なタイミングで、エンジンオイルの交換を、ユーザに促す。これによって、エンジンオイルが新しいものに交換されれば、タイミングチェーン210の摩耗の進行を抑制することができ、エンジン性能の低下を抑制することが可能になる。
尚、このエンジンシステム1において、PCVバルブ65を電子制御式のものとし、クランクケース26と吸気通路51との圧力差に関わらず、エンジン2の運転状態に基づいて、必要時には、エンジン制御部7が、PCVバルブ65の開度を大きくすることにより、クランクケース26内の換気を適切なタイミングで行うようにしてもよい。このようにすれば、エンジンオイルに燃料及びススが混入することを抑制することができる。
(タイミングチェーン摩耗量推定装置の構成)
図4は、タイミングチェーン摩耗量推定装置10の構成を示している。タイミングチェーン摩耗量推定装置10は、エンジン制御部7によって構成される。
タイミングチェーン摩耗量推定装置10は、タイミングチェーン210の摩耗量を推定する。タイミングチェーン摩耗量推定装置10は、タイミングチェーン摩耗量算出手段11と、タイミングチェーン摩耗量補正手段12と、を含んでいる。
タイミングチェーン摩耗量算出手段11は、エンジン2の運転状態、具体的には、エンジン2の負荷、及び、エンジン2の回転数に従って、下記の理論式(1)に基づいて、タイミングチェーンの摩耗量Q(つまり、タイミングチェーン210の伸び量(%))を算出する。
Q=2πr×(1/N1+1/N2)×ρ×VL×T …(1)
ここで、rは、タイミングチェーン210のピン210dの半径、N1、N2は、タイミングチェーン210が巻きかけられたスプロケットの歯数、ρは、面圧、Vは、タイミングチェーン210の速度、Lは、タイミングチェーン210の長さ、Tは、時間(例えばサンプリング時間)である。タイミングチェーン摩耗量算出手段11は、前記理論式(1)を用いて、サンプリング時間毎の、エンジン2の負荷及びエンジン2の回転数に基づくタイミングチェーン210の摩耗量を算出する。
エンジン回転数は、クランク角センサ211の検出信号に基づいて検出される。エンジン負荷は、この例では、アクセル開度センサ212、車速センサ214、変速機のギヤ段検出手段213の検出値に基づいて決定される(図3参照)。尚、エンジン負荷は、エアフローセンサ50によって検知される、気筒24内に導入される吸入空気量と吸気温度とにより推定してもよい。また、エンジン負荷は、例えば燃料噴射量に基づいて推定してもよい。
タイミングチェーン摩耗量補正手段12は、タイミングチェーン摩耗量算出手段11が算出した摩耗量を、エンジン2の運転状態と、エンジンオイルの劣化状態とに応じて補正する。タイミングチェーン摩耗量推定装置10は、タイミングチェーン摩耗量補正手段12が補正をした摩耗量を積算することによって、タイミングチェーン210の累積の摩耗量を算出する。
エンジンオイルの劣化状態は、オイル劣化状態推定手段100が推定する。以下、オイル劣化状態推定手段100の構成について、図5〜9を参照しながら詳細に説明をする。その後で、タイミングチェーン摩耗量補正手段12の構成について、説明をする。
(オイル劣化状態推定手段の構成)
オイル劣化状態推定手段100は、この例では、エンジンオイル中のススの混入量を、オイルの劣化状態の指標とする。オイル劣化状態推定手段100は、図5に示すように、スモーク発生量推定手段1001を備えている。スモーク発生量推定手段1001は、所定期間内(例えば0.1sec)にエンジン2の燃焼室28内で発生するスモーク量を推定演算する。オイル劣化状態推定手段100は、推定演算されたスモーク量を積算することによって、エンジンオイル中のススの混入量を推定する。前述したように、オイル劣化状態推定手段100は、前記タイミングチェーン摩耗量推定装置10によるタイミングチェーン210の摩耗量の推定に並行して、オイルの劣化状態を推定する。
オイル劣化状態推定手段100はまた、推定したエンジンオイル中のススの混入量に基づき、スス混入量が所定量に達したときに、オイル交換ランプ71を点灯させることで、ユーザに、エンジンオイルの交換を促す警告を行う。
スモーク発生量推定手段1001は、スモーク量の推定演算を、エンジン回転数、エンジン負荷、及び燃焼室28の温度状態に基づいて行う。エンジン回転数、及び、エンジン負荷の検出は、前述した通りである。燃焼室温度は、この例では、エンジン2の冷却水温に基づく。つまり、水温センサ20の検出信号を利用する。冷却水温は、燃焼室温度に比例する。尚、燃焼室温度は、冷却水温に代えて、当該燃焼室温度と相関関係がある、エンジンオイルの温度や排気ガスの温度に基づいてもよい。また、燃焼室28の温度を、直接検出するようにしてもよい。
スモーク発生量推定手段1001は、2つの温度データマップを有している。図6は、2つの温度データマップを概念的に示している。温度データマップは、高水温H(つまり、第1温度パラメータ、例えば90℃)のときの第1温度データマップ101、及び、冷却水温が低水温L(つまり、第2温度パラメータ、例えば20℃)のときの第2温度データマップ102である。各データマップ101、102は、例えば実機において得られたデータに基づいて作成してもよい。また、シミュレーションによって得られたデータに基づいて作成してもよい。
図6に示す例では、各データマップ101、102は、エンジン回転数を「行」、エンジン負荷を「列」にしたマトリックス状である。各データマップ101、102は、エンジン回転数とエンジン負荷とからなるエンジンの各運転状態に対し、燃焼室28内で発生し得るスモーク量(lij及びhij、但し、i=1〜3、j=1〜3)を示している。各データマップ101、102において、エンジン回転数は、低回転、中回転、及び高回転の3つに分けられている。また、エンジン負荷は、低負荷、中負荷、及び高負荷の3つに分けられている。尚、エンジン2の回転数領域は、図例のように3つに分割することに限定されず、2つに分割してもよいし、4つ以上に分割してもよい。同様に、エンジン2の負荷領域も、図例のように3つに分割することに限定されず、2つに分割してもよいし、4つ以上に分割してもよい。
ここで、エンジン2の運転状態の変化に対する、スモーク量の変化の傾向について、図6及び図7を参照しながら説明をする。図6に示す第1温度データマップ101及び第2温度データマップ102における「多」「中」「少」はそれぞれ、スモーク量(lij及びhij)の程度を示している。尚、「少」には、スモーク量がゼロの場合も含まれる。
先ず、第1温度データマップ101に示す高水温時のスモークの発生傾向について説明をする。高水温時においては、エンジン負荷が低負荷及び中負荷のときには、エンジン回転数の高低にかかわらず、スモークの発生量は「少」になる。エンジン負荷が高負荷のとき(このエンジンは、過給機付きエンジンであるため、充填量が1.0以上となる高負荷時)には、エンジン回転数が低いとスモーク量が「中」になり、エンジン回転数が高いとスモーク量が「少」になる。エンジン負荷が高負荷のときには、燃料噴射量が多くなることで、低負荷や中負荷と比べてスモークが発生しやすくなる。ここで、エンジン回転数が低いと、燃焼室28内のガス流動が弱くなるため、燃焼が燃焼室28の壁面に付着しやすくなると共に、混合気の濃度が不均一になりやすい。エンジン回転数が高いと、燃焼室28内のガス流動が強くなるため、燃料が燃焼室28の壁面に付着し難くなる。一方、高水温時の高回転時には燃焼室28内の壁面温度も高くなるため、仮に燃料が壁面に付着しても、燃料が気化しやすい。さらに、ガス流動が強いため、混合気の濃度が均一になりやすい。そのため、高水温時でかつ、エンジン負荷が高負荷のときには、図6に示すように、エンジン回転数が低いほど、スモーク量が増える傾向になる。図7におけるh11、h12,h13は、図6におけるh11,h12、h13に対応する。但し、高水温時には、低水温時と比較して発生するスモーク量自体は少ない。
次に、第2温度データマップ102に示す低水温時のスモークの発生傾向について説明をする。低水温時には、高水温時と比較してスモーク量は多くなる。これは、低水温時には、燃焼室温度も低いため、燃料が気化し難いこと、及び、燃料が気化し難いため、エンジン制御部7で推定又は決定したエンジン負荷を得るために必要な気化燃料量が確保できるよう、燃料噴射量を高水温時の同一エンジン負荷での運転時よりも増量補正することに起因する。燃料噴射量を増量すると、燃料噴射弁41の、一回の燃焼に対する燃料噴射期間が長くなって、噴射期間の終盤に噴射した燃料が、燃焼室28の壁面等に付着しやすくなる。低水温時には、燃焼室28の壁面温度も低く、付着した燃料が気化し難いため、高水温時よりもスモーク量が増える。
低水温時においても、エンジン負荷が低負荷及び中負荷のときには、高負荷時に比べてスモーク量は相対的に少なくなる。また、エンジン負荷が低負荷のときに、エンジン回転数が低いとスモーク量が「中」になり、エンジン回転数が高いとスモーク量が「少」になる傾向は、前記と高温時と同様である。
一方で、低水温時におけるエンジン負荷が中負荷又は高負荷のときには、エンジン回転数の高低に対するスモーク量の発生傾向は、高水温時とは異なる。つまり、図6に示すように、エンジン回転数が相対的に低い低回転域(図7における左半分の領域)では、エンジン回転数が高くなるほど、スモーク量は減少する。尚、図7におけるl11、l12,l13は、図6におけるl11,l12、l13に対応する。前述したように、エンジン回転数が高くなるに従って、燃焼室28内のガス流動が強くなるため、燃料が燃焼室28の壁面に付着し難くなると共に、ガス流動が強いことで、混合気の濃度が均一になりやすいためである。
これに対し、低水温時のエンジン回転数が相対的に高い高回転域(図7における右半分の領域)では、エンジン回転数が高くなるほど、スモーク量が増大する。これは、低水温でかつ、エンジン2の負荷が相対的に高いため、燃料噴射量が大幅に増えて、燃料の噴射期間(つまり、噴射に必要な実時間)が長くなることに加えて、エンジン2の回転数が高くなることで、クランク角変化に対する実時間が短くなり、噴射期間の終盤が、圧縮行程の遅い時期(例えば圧縮行程の後半)に相当し、噴射期間の終盤に噴射した燃料が燃焼室28の壁面に付着しやすくなるためである。高水温時であれば、燃焼室温度が高いので、壁面に付着しても気化しやすいが、低水温時であるため、壁面に付着した燃料は気化し難く、よって、スモークが発生しやすくなる。
従って、図7に示すように、低水温時の中高負荷時には、エンジン2の回転数の高低に対し、スモーク量の発生傾向が高水温時とは異なる特性になる。
スモーク発生量推定手段1001は、冷却水温が高水温H以上のときには、第1温度データマップ101を用いて、エンジン回転数と、エンジン負荷と、からスモーク量を推定演算する。つまり、第1温度データマップ101の数値(hij)をそのまま、スモーク量と推定する。また、スモーク発生量推定手段1001は、冷却水温が低水温L以下のときには、第2温度データマップ102を用いて、エンジン回転数と、エンジン負荷と、からスモーク量を推定演算する。つまり、第1温度データマップ101の数値(lij)をそのまま、スモーク量と推定する。
スモーク発生量推定手段1001は、冷却水温が低水温Lを超えかつ、高水温Hを下回るとき(例えば水温TW(図8参照))には、第1温度データマップ101と、第2温度データマップ102との両方を用いて、スモーク量を推定演算する。すなわち、エンジン回転数及びエンジン負荷に基づいて、第1温度データマップ101から、第1温度スモーク量(hij)を算出すると共に、第2温度データマップ102から、第2温度スモーク量(lij)を算出する。そうして、図8に示すように、第1温度スモーク量hijと、第2温度スモーク量lijとの線形補間によって、水温TWにおけるスモーク量mを推定演算する。
このように、冷却水温が低水温Lを超えかつ、高水温Hを下回るときに、線形補間を行うことにより、図7に一点鎖線で示すように、高負荷の高回転域においては、エンジン回転数の変化に対する、スモーク量の増大割合(つまり、図7の二次元平面における傾き)が、冷却水温が高くなるほど、小さくなる。
前述の通り、冷却水温が高水温Hのときには、高負荷の高回転域において、エンジン回転数が高くなると、低回転域よりもスモーク量が少なくなるのに対し、冷却水温が低水温Lのときには、高負荷の高回転域において、エンジン回転数が高くなると、燃料噴射期間の増大に対してピストンスピードも上昇するために、噴射期間の終盤に噴射された燃料が燃焼室壁面やピストン冠面に付着しやすくなることに加えて、噴射された燃料が気化し難い環境であるので、スモーク量が低回転域よりも多くなる。燃焼室28の温度が高まると、燃焼室28内に噴射された燃料が気化しやすくなると共に、同一エンジン負荷を得るために必要な燃料噴射量を高水温時よりも増量させる割合が少なくなる。そのため、スモーク量が少なくなる。その結果、冷却水温が高くなると、エンジン回転数の変化に対する、スモーク量の増大割合が小さくなる。
こうして、スモーク発生量推定手段1001は、所定期間内に発生するスモーク量を、その時のエンジン回転数、エンジン負荷及び冷却水温に基づいて、推定演算する。
図9は、スモーク発生量推定手段1001による、エンジンオイルの劣化診断に係るフローチャートを示している。このフローは、エンジン2が始動をすれば開始し、エンジン2が停止すれば終了する。エンジン2が運転している間は、所定期間で繰り返される。
先ず、ステップS1では、エンジン2の運転状態を読み込む。具体的には、図5に示すように、エンジン回転数、アクセル開度、車速、ギヤ段、及び、冷却水温を読み込む。
続くステップS2では、前述したように、冷却水温に応じて第1温度データマップ101、及び/又は、第2温度データマップ102を用い、エンジン2の運転状態に従って、所定期間内に発生するスモーク量を推定演算する。ステップS3では、推定演算したスモーク量を積算し、ステップS4で、積算したスモーク量が、予め設定した所定を超えたか否かを判定する。ステップS4の判定がNOのときには、ステップS1に戻り、所定期間内に発生するスモーク量の推定演算、及び、推定したスモーク量の積算を繰り返す。
一方、ステップS4の判定がYESのときにはステップS5に移行し、エンジンオイル中に混入したスス量が所定量を超えたとして、エンジンオイルの交換を、ユーザに対して促すために、オイル交換ランプ71を点灯する。
ステップS6では、オイル交換を行った後で行われるオイル交換リセット操作、つまり、リセットスイッチ72がオン操作されたか否かを判定する。リセット操作がないときには、ステップS6からステップS1に戻り、スモーク量の推定演算、及び、推定演算したスモーク量の積算を繰り返す。積算スモーク量が所定値を超えたままであるため、ステップS5において、オイル交換ランプ71は点灯したままになる。
一方、リセット操作が行われれば、ステップS6からステップS7に移行し、積算スモーク量をリセットした上で、ステップS1にリターンする。この場合、積算スモーク量がゼロになるため、ステップS4の判定がNOとなり、オイル交換ランプ71が消灯される。
このように、スモーク発生量推定手段1001は、燃焼室28の温度状態を考慮して、発生するスモーク量を推定するため、スモーク量の推定精度を高めることが可能になる。
そして、精度よく推定演算したスモーク量を積算した積算値に基づいて、エンジンオイルの劣化状態を診断することにより、エンジンオイルの劣化状態の診断精度も高まる。その結果、エンジンオイルの交換を適切なタイミングでユーザに促すことが可能になる。このことにより、エンジン2の劣化を抑制することも可能になる。
尚、前記の構成では、第1温度データマップ101と、第2温度データマップ102との2つのデータマップを用いるようにしているが、3つ以上のデータマップを備え、それらを用いて、スモーク量を推定するようにしてもよい。
また、第1温度データマップ101のみを備えるようにし、冷却水温が高水温Hよりも低いときには、第1温度データマップ101のスモーク量(hij)に、エンジンの運転状態及び温度に対応する係数を掛けて増量することで、スモーク量の推定演算をしてもよい。
(タイミングチェーン摩耗量補正手段の構成)
タイミングチェーン摩耗量補正手段12は、前述したように、タイミングチェーン摩耗量算出手段11が算出した摩耗量を、エンジン2の運転状態と、前記オイル劣化状態推定手段100が推定をしたオイルの劣化状態とに応じて補正する。これは、エンジンオイルが劣化しているほど、タイミングチェーン210の摩耗が進行しやすいことと、エンジンオイルの劣化状態が同じであっても、エンジン2の運転状態に応じて、タイミングチェーン210の摩耗の進行に差が生じるという、本願発明者の知見に基づくものである。ここで、エンジン2の運転状態とは、エンジン2が、どの負荷域かつどの回転域で、どの程度(頻度又は割合)で運転したかに関係する。エンジン2の運転状態は、仮に自動車の走行距離は同じでも、自動車の使用環境や、運転者の運転傾向によって変わるものである。
先ず、エンジン2の運転状態に応じて、タイミングチェーン210の摩耗量の進行に差が生じる点について、図10を参照しながら説明をする。図10は、あるエンジン回転数(図例は1000rpm)における、エンジンオイルの劣化状態と、タイミングチェーン210の摩耗量との関係を示している。横軸は、前述した積算スモーク量Sであり、これは、エンジンオイル中のススの混入量、つまり、エンジンオイルの劣化状態に相当する。横軸の右に行くほど、エンジンオイルは劣化していることになる。また、縦軸は、タイミングチェーン210の摩耗量であり、縦軸の上に行くほど、摩耗量が増える。図10の各直線は、エンジンオイル中のススの混入量を固定した上で、エンジン2の回転数が、所定の回転数(つまり、図例では1000rpm)で一定かつ、変速機のギヤ段が、1速から6速の各ギヤ段で一定の状態でエンジン2を運転した場合の、タイミングチェーン210の摩耗量を測定した結果である。黒丸は1速、白四角は2速、黒三角は3速、白菱形は4速、バツ印は5速、白丸は6速をそれぞれ示す。
6本の直線は、いずれも右上がりである。つまり、図10は、エンジンオイルが劣化しているほど、タイミングチェーン210の摩耗量は増えることを示している。また、エンジンオイルの劣化状態が同じであるときに、6本の直線を相互に比較をすると、図10は、変速機のギヤ段が低速段すなわちエンジン回転数に対する減速比が小さいほど、タイミングチェーン210の摩耗量が増えることを示している。つまり、低速段であるほど、エンジン2のトルクが高くなってタイミングチェーン210の長さ方向に作用する負荷は高くなり、ピン210dとピン穴部210eとの間の潤滑油膜が相対的に薄くなる傾向となり、摩耗が進行しやすくなる。そのため、変速機が低速段であるほど、タイミングチェーン210の摩耗量が増えると考えられる。また、図示はしていないが、エンジン2の回転数が高いほど、タイミングチェーン210の速度が高くなり、単位時間あたりにピン210dとピン穴部210eに荷重が入力される回数が低回転時よりも増えるため、タイミングチェーン210の摩耗量は増える。
このように、エンジン2が、どの負荷域かつ、どの回転域で、どの程度運転をしたかというエンジン2の運転状態に応じて、タイミングチェーン210の摩耗の進行に差が生じる。また、エンジン2の運転状態に応じた、タイミングチェーン210の摩耗の進行は、エンジンオイルの劣化状態とも関係する。図10に示すように、所定の運転状態でエンジン2が運転をし続けたときの、エンジンオイルの劣化状態とタイミングチェーン210の摩耗量との間には相関がある、
そこで、タイミングチェーン摩耗量補正手段12は、図10に示される直線を、積算スモーク量Sを変数とする補正関数F(S)として設定し、この補正関数F(S)を用いて、タイミングチェーン摩耗量算出手段11が算出をした、タイミングチェーン210の摩耗量の補正を行う。補正関数F(S)は、ここでは一次関数(つまり、y=ax+b(a、bはそれぞれ定数))としている。尚、補正関数F(S)は、一次関数に限定されない。
補正関数F(S)はまた、前述したように、エンジン2の運転状態に関係する。そこで、タイミングチェーン摩耗量補正手段12は、エンジン2の回転数、及び、エンジン2の負荷により設定されるエンジン2の運転領域を、エンジン2の回転数の高低、及び、エンジン2の負荷の高低に従って、複数の区分運転領域に区分けし、各区分運転領域において、補正関数F(S)を設定する。図11は、各区分運転領域において設定された補正関数F(S)のマップのイメージを示している。図11は、エンジン2の運転領域の一部分(低回転低負荷の部分)を示している。図例では、エンジン2の回転数域を、〜N1、N1〜N2、N2〜N3に区分けしていると共に、エンジン2の負荷領域を、〜L1、L1〜L2、L2〜L3に区分けしている。エンジン2の回転数域は、等回転数間隔で区分けされ、エンジン2の負荷域も、等負荷間隔で区分けされる。
また、図例では、各区分運転領域において、変速機の変速段毎に、補正関数を設定している。ここでは、前進6速の変速機であるため、補正関数としては、F1(S)〜F6(S)の6つの補正関数が設定される。
タイミングチェーン摩耗量補正手段12は、タイミングチェーン摩耗量算出手段11が算出したタイミングチェーン210の摩耗量に、エンジン2の運転状態とエンジンオイルの劣化状態とにより、補正関数F(S)から定まる補正係数を乗算する。従って、タイミングチェーン摩耗量推定装置10は、以下の算出式(2)に従って、タイミングチェーン210の摩耗量Q’を算出することになる。
Q’=2πr×(1/N1+1/N2)×ρ×VL×T×F(S) …(2)
次に、図12に示すフローチャートを参照しながら、タイミングチェーン摩耗量推定装置10が行う、タイミングチェーン210の摩耗量の推定手順について説明をする。先ず、スタート後のステップS11では、イグニッションスイッチがオンであるか否かを判定する。例えば、運転者が自動車に乗車して、イグニッションスイッチをオンにすれば、ステップS11の判定は、YESとなる。ステップS11がYESのときには、ステップS12に移行する。
ステップS12では、アクセル開度、車速、エンジン回転数、及び変速機のギヤ段をそれぞれ読み出す。続くステップS13では、前述したスモーク発生量推定手段1001が積算したスモーク量Sを読み出す。また、ステップS14においては、エンジン負荷及びエンジン回転数に基づいて、運転しているエンジン2が、図11に示すマップにおける、どの区分運転領域にあるかを特定する。ステップS15では、特定をしたエンジン2の区分運転領域と、積算スモーク量Sとをそれぞれ記憶する。これは、サンプリング時間毎に行われ、エンジン2の区分運転領域と積算スモーク量Sとは、カウンター値として記憶される。カウンター値は、言い換えると、図11に示すマップにおいて区分けされた各区分運転領域において、エンジン2が運転された頻度(又は、後述のワンドライブにおける割合)に相当する。フローは、その後、リターンする。ステップS11においてイグニッションスイッチがオンであるときには、ステップS12〜ステップS15の各ステップが繰り返される。
運転者がイグニッションスイッチをオフにすれば、ステップS11の判定が、NOとなり、フローは、ステップS11からステップS16に移行する。これは、イグニッションスイッチのオンからオフまでの、いわゆるワンドライブが完了したことに相当する。
ステップS16では、ワンドライブ中に記憶していたカウンター値を読み出し、ステップS17では、読み出したカウンター値に基づいて、前記算出式(2)から、タイミングチェーン210の摩耗量を演算する。具体的には、図11に示すマップにおいて区分けされた各区分運転領域で設定されている補正関数F(S)及びエンジンオイルの劣化状態(積算スモーク量S)から決定される補正係数と、カウンター値に基づく、当該区分運転領域でエンジンが運転された頻度と、に基づいて、理論式(1)から算出されるタイミングチェーン210の摩耗量が補正される。頻度は、サンプリング時間との乗算によって、式(2)における時間Tに相当する。そして、区分運転領域毎に算出される、補正されたタイミングチェーン210の摩耗量を積算することにより、ワンドライブにおけるタイミングチェーン210の摩耗量を演算する。
ステップS18では、ステップS17において演算をした、ワンドライブにおけるタイミングチェーン210の摩耗量を記憶すると共に、前回のワンドライブ時までの、タイミングチェーン210の累積摩耗量に、今回のワンドライブにおける摩耗量を加える。ステップS19では、記憶していたカウンター値をクリアする。そして、ステップS20において、エンジンオイルの交換時期の目安を表示する。
このエンジンオイルの交換時期の目安は、タイミングチェーン210の摩耗量の進行状況に基づいて推定される。つまり、タイミングチェーン210は、自動車の走行距離が長くなるほど摩耗をするため、例えば図13に示すように、自動車の走行距離に対する、タイミングチェーン210の許容摩耗量が設定される。タイミングチェーン210の許容摩耗量(許容摩耗ライン)は、自動車の走行距離に比例する。図13における黒丸は、ワンドライブ毎に推定をしたタイミングチェーン210の摩耗量を例示している。
前述したように、エンジンオイルの劣化状態、及び、エンジン2の運転状態に応じて、タイミングチェーン210の摩耗の進行状況は変化するため、タイミングチェーン210の摩耗量の推定値の推移から、図13に破線で示すように、タイミングチェーン210の摩耗の進行、つまり、走行距離に対するタイミングチェーン210の摩耗量の傾きを予測することができる。この傾きに基づいて、タイミングチェーン210の摩耗量が、許容摩耗ラインに到達するまでの残り走行距離を算出することが可能である。
タイミングチェーン摩耗量推定装置10は、残り走行距離推定手段13(図4参照)が算出した残り走行距離に基づいて、例えば、表示装置73に「オイル交換まで、残り○○km」といった表示を行う。こうして、オイル交換ランプ71が点灯する前に、ユーザは、オイル交換の時期の目安を知ることができる。
以上説明したように、ここに開示するエンジン2のタイミングチェーン210の摩耗量を推定するタイミングチェーン摩耗量推定装置10は、エンジンオイルの劣化状態と、エンジン2が運転を行った負荷域及び回転数域に係るエンジン2の運転状態とに基づいて、タイミングチェーン210の摩耗量を推定するよう構成されている。これにより、自動車の使用環境や、運転者の運転傾向を加味して、タイミングチェーン210の摩耗量を、精度よく、推定することが可能になる。
具体的に、タイミングチェーン摩耗量推定装置10は、タイミングチェーン摩耗量算出手段11と、タイミングチェーン摩耗量補正手段12と、を含み、タイミングチェーン摩耗量推定装置10は、エンジン2の運転領域を、複数の区分運転領域に区分けすると共に、当該区分運転領域毎に設定をした補正関数F(S)を用いて、
Q’=2πr×(1/N1+1/N2)×ρ×VL×T×F(S) …(2)
により、タイミングチェーン210の摩耗量を算出する(つまり、摩耗量の算出と補正とを行う)。
これにより、エンジンオイルの劣化状態と、エンジン2が運転を行った負荷域及び回転数域とを加味して、タイミングチェーン210の摩耗量を算出することができる。
タイミングチェーン210の摩耗量の推定に係る、エンジンオイルの劣化状態の推定として、エンジンオイル中に混入しているススの推定量を用いることにより、タイミングチェーン210の摩耗量の推定を精度よく行うことが可能になる。
また、推定をしたタイミングチェーン210の摩耗量に基づいて、タイミングチェーン210の摩耗量が許容量に到達するまでの、残り走行距離を推定し、ユーザに報知することで、ユーザビリティを向上させることができる。
尚、前記の構成では、ワンドライブの間のエンジン2の運転状態及び積算スモーク量Sをカウント及び記憶しておき、イグニッションキーをオフにしたときに、それを用いてタイミングチェーン210の摩耗量を算出しているが、これに限らず、自動車の走行中に、タイミングチェーン210の摩耗量を、逐次演算するようにしてもよい。
また、タイミングチェーン210の摩耗量の演算は、ワンドライブ毎に行うことに限らず、適宜のタイミングで行うようにしてもよい。
さらに、エンジンオイルの劣化状態は、エンジンオイル中に混入したスス量によって表すことに限定されない。例えば、オイル希釈を、エンジンオイルの劣化状態の指標として前述した補正関数F(S)に相当する補正関数を設定してもよいし、エンジンオイル中に混入したスス量と、オイル希釈との両方を、エンジンオイルの劣化状態の指標として、それに対応する補正関数を設定してもよい。
また、前記の構成では、エンジン2の運転領域を、等回転数間隔でかつ、等負荷間隔で、複数の区分運転領域に区分けしているが、区分運転領域の区分けは、不等回転数間隔で、又は、不等負荷間隔で、行ってもよい。例えば、エンジン2の回転数が低い領域では、エンジン2の回転数が高い領域よりも細かく、区分運転領域を区分けすると共に、エンジン2の負荷が低い領域では、エンジン2の負荷が高い領域よりも細かく、区分運転領域を区分けしてもよい。
対象となるエンジン2の排気量にもよるが、エンジン2の回転数が低い領域は、エンジン2の回転数が高い領域よりも、エンジン2が運転する頻度が高く、エンジン2の負荷が低い領域は、エンジン2の負荷が高い領域よりも、エンジン2が運転する頻度が高くなる。従って、エンジン2の回転数が低い領域では、エンジン2の回転数が高い領域よりも、区分運転領域の区分けを細かくすると共に、エンジン2の負荷が低い領域では、エンジン2の負荷が高い領域よりも、区分運転領域の区分けを細かくすると、エンジン2が運転する頻度が高い運転領域では、タイミングチェーン210の摩耗量の補正を、きめ細かく行うことが可能になる。これは、タイミングチェーン210の摩耗量の推定精度を、高める上で有利になる。
逆に、エンジン2が運転する頻度が低い運転領域では区分運転領域が粗くても、タイミングチェーン210の摩耗量の推定精度に影響がない。また、区分運転領域を粗くすることになり、補正関数F(S)を減らすことが可能になるため、タイミングチェーン210の摩耗量の推定演算に必要なメモリ量を節約することが可能になる。
また、前述した区分運転領域の区分けは、エンジン2の排気量や、最高出力等に応じて、適宜設定すればよい。例えば排気量が大きく、出力の高いエンジンは、区分運転領域の区分けを相対的に粗くし、排気量が小さく、出力の小さいエンジンは、区分運転領域の区分けを、相対的に細かくしてもよい。