図1は圧縮着火式内燃機関の運転制御用パラメータを自動適合するための自動適合装置全体を示している。なお、この場合、内燃機関は火花点火式内燃機関であってもよい。
図1を参照すると、1は機関本体、2は各気筒3の燃焼室内に向けて燃料を噴射するための電気制御式燃料噴射弁、4は吸気マニホルド、5は排気マニホルド、6は排気ターボチャージャを夫々示す。吸気マニホルド4は排気ターボチャージャ6の吸気コンプレッサ6aの出口部に連結され、吸気コンプレッサ6aの入口部は吸気ダクト7を介してエアクリーナ8に連結される。吸気ダクト7内にはステップモータのようなアクチュエータ9により駆動される吸気絞り弁10が配置される。
一方、排気マニホルド5は排気ターボチャージャ6の排気タービン6bの入口部に連結され、排気タービン6bの出口部は排気管12に連結される。吸気マニホルド4と排気マニホルド5とは排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路13を介して互いに連結され、EGR通路13内にはステップモータのようなアクチュエータ14により駆動されるEGR制御弁15が配置されている。
一方、燃料噴射弁2は燃料供給管16を介して燃料リザーバ、いわゆるコモンレール17に連結される。このコモンレール17内へは電気制御式の吐出量可変な燃料ポンプ18から燃料が供給され、コモンレール17内に供給された燃料は各燃料供給管16を介して燃料噴射弁2に供給される。コモンレール17にはコモンレール17内の燃料圧を検出するための燃料圧センサ19が取付けられ、燃料圧センサ19の出力信号に基づいてコモンレール17内の燃料圧が目標燃料圧となるように燃料ポンプ18の吐出量が制御される。
内燃機関の運転を制御するための電子制御装置20はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス21によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)22、RAM(ランダムアクセスメモリ)23、CPU(マイクロプロセッサ)24、および入出力ポート25を具備する。入出力ポート25には燃料圧センサ19等の種々のセンサの出力信号が夫々対応するAD変換器26を介して入力される。また、アクセルペダル28にはアクセルペダル28の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ29が接続され、この負荷センサ29の出力信号が対応するAD変換器26を介して入出力ポート25に入力される。クランク角センサ30は例えば機関が15°クランク角回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスが入出力ポート25に入力される。
一方、入出力ポート25は対応する駆動回路27を介して燃料噴射弁2、スロットル弁用アクチュエータ9、EGR制御弁用アクチュエータ14および燃料ポンプ18に接続される。また、排気タービン6bのディフェーザ部にはアクチュエータ31によって駆動される多数のベーンノズル32からなる可変ノズル機構が配置されており、入出力ポート25は対応する駆動回路27を介してアクチュエータ31に接続される。
図1に示されるように適合作用を行うための電子制御ユニット40が設けられており、内燃機関の出力軸は動力計41に連結されている。この動力計41は電子制御ユニット40に接続されており、電子制御ユニット40によって制御される。また、排気ガス中のNOX 量、スモーク濃度、パティキュレート量、HC量、CO量等の排気成分の分析計42と、内燃機関が消費する燃料の燃費計43と、内燃機関が発生する燃焼騒音を検出する騒音計44とが設けられており、これら排気成分分析計42、燃費計42、騒音計44の出力信号は電子制御ユニット40に入力される。また、空調器や温調器45は電子制御ユニット40の出力信号によって制御される。更に、電子制御ユニット40と電子制御ユニット20の入出力ポート25とは双方向性バス46を介して互いに接続されている。
次に図2に示す自動適合ルーチンに沿って本発明による自動適合方法について説明する。
図2を参照するとまず初めにステップ100において車両諸元等が入力される。この車両諸元等の入力処理ルーチンが図3に示されている。次いでステップ200では適合を行う複数の運転状態が決定される。この適合運転状態決定処理ルーチンが図4に示されている。次いでステップ300において適合を行う個々の運転状態に対して夫々複数の機関運転制御用パラメータの初期値が決定される。このパラメータ初期値決定処理ルーチンが図6に示されている。なお、本発明では機関運転制御用パラメータとして、メイン噴射時期、パイロット噴射時期、パイロット噴射量、コモンレール圧、EGR制御弁の開度、吸気絞り弁の開度、ターボチャージャの可変ノズルの開度の全て又はそれらのうちの一部が採用されている。
次いでステップ400において複数の出力値の適合目標値が決定される。この適合目標値決定処理ルーチンが図7に示されている。なお、本発明では出力値としてエミッション、燃焼騒音、燃費の全て又はそれらのうちの一部採用されており、また、エミッションとしては排気ガス中のNOX 量、スモーク濃度又はパティキュレート量、HC量、CO量の全て又はそれらのうちの一部が採用されている。また、適合目標値についてみると、本発明ではこれら出力値のうちNOX 量、パティキュレート量、HC量、CO量、燃費の適合目標値はエミッションを評価するための走行モードで走行したときの積算値である総量目標値とされており、残りの出力値、即ち燃焼騒音、スモーク濃度の適合目標値は各適合運転状態における目標値とされている。また、総量目標値が定められているNOX 量、パティキュレート量、HC量、CO量、燃費についても各適合運転状態における適合目標値が合わせて設定されている。
次いでステップ500では、適合目標値を超過した出力値を減少させるための複数のパラメータの操作順序と操作方向が決定され、これらパラメータが決定された操作順序に従い決定された操作方向に順次操作されてパラメータの適合が行われる。このパラメータ適合処理ルーチンが図9および図10に示されている。次いでステップ600では適合が完了したか否か、即ち再適合が必要であるか否かが判別される。適合が完了したと判断されたときには自動適合ルーチンを完了する。これに対して再適合が必要であると判断されたときにはステップ700に進んで適合目標値が補正される。この適合目標値補正処理ルーチンが図11に示されている。
次に図2から図11を参照しつつ各処理ルーチンについて順次説明する。
図3に示される車両諸元等の入力処理ルーチンでは適合を行う運転状態を決定するに当り、車両諸元、エンジン諸元その他適合に必要な情報が入力される。
即ち、まず初めにステップ101ではタイヤの径、変速機のギヤ比、ディファレンシャルギヤのギヤ比等の車両諸元が入力される。次いでステップ102では排気量等のエンジン諸元が入力される。次いでステップ103では出力値の開発目標値やエミッションを評価するための走行モード(以下単に走行モードという)等の仕向けが入力される。次いでステップ104では適合の種類、即ちエンジン単体における定常運転時の適合なのか、エンジン単体における過渡運転時の適合なのか、実車両における定常運転時の適合なのか、実車両における過渡運転時の適合なのかが入力される。
この場合、エンジン単体における定常運転又は過渡運転、或いは実車両における定常運転又は過渡運転の少くとも一つについて適合が行われた場合には適合されたパラメータ値に基づいて残りの運転に適したパラメータの値が求められる。
次いでステップ105では自動車の使用される環境が寒冷地であるとか高地であるとか言った試験環境が入力される。試験環境の入力が完了すると図2のステップ200に進んで適合を行う運転状態が決定される。
適合運転状態決定処理ルーチンを示す図4を参照すると、まず初めにステップ201において適合すべきパラメータのマップが読み込まれる。即ち、図1に示される電子制御ユニット40内にはデータベースが格納されており、ステップ201ではこのデータベースから適合すべきパラメータに適したマップが読み込まれる。本発明による実施例ではこのマップは図5に示されるように横軸に機関回転数N、縦軸に燃料噴射量Qをとったマップからなり、適合を行う各運転状態はマップ上の点(図5において黒丸)として定められる。即ち、適合を行う各運転状態は機関回転数Nと燃料噴射量Qから定まる点となる。
なお、この場合マップとして横軸に機関回転数N、縦軸に出力トルクをとったマップを用いることもできる。
次いでステップ202ではデータベースに基づいてマップのきざみ、即ちマップ上における点の間隔が決定される。次いでステップ203ではデータベースに基づいて適合を行うべき燃料噴射量Qと機関回転数Nの範囲が決定される。なお、入力された車両諸元から走行モードで使用される燃料噴射量および機関回転数を算出し、この算出結果に基づいて適合を行うべき燃料噴射量と機関回転数の範囲を決定することもできる。適合を行うべき燃料噴射量と機関回転数の範囲が決定されると図2のステップ300に進んでパラメータ初期値が決定される。
パラメータ初期値決定処理ルーチンを示す図6を参照すると、まず初めにステップ301において適合すべきパラメータの初期値が決定される。ここで、適合すべきパラメータは、前述したようにメイン噴射時期、パイロット噴射時期、パイロット噴射量、コモンレール圧、EGR制御弁の開度、吸気絞り弁の開度、ターボチャージャの可変ノズルの開度の全て又はそれらのうちの一部である。また、データベースには適合すべきエンジンの諸元に対応する諸元を有する既存のエンジンのパラメータの適合平均値が予め記憶されている。ステップ301ではこの適合平均値がパラメータの初期値として用いられる。
次いでステップ302ではパラメータの探索範囲が設定される。本発明による実施例では、データベースに適合すべきエンジンの諸元に対応する諸元を有する既存のエンジンの適合値が予め記憶されており、適合するためのパラメータの探索範囲は既存のエンジンの適合平均値を中心とする標準偏差の範囲とされる。適合範囲が設定されると図2のステップ400に進んで適合目標値が決定される。
次に図7を参照しつつ適合目標値決定処理ルーチンについて説明する。
前述したように適合作用の対象となる適合すべき出力値はエミッション、燃焼騒音、燃費の全て又はそれらのうちの一部であり、エミッションは排気ガス中のNOX 量、スモーク濃度又はパティキュレート量、HC量、CO量の全て又はそれらのうちの一部である。一方、出力値の適合目標値についてみると、前述したようにこれら出力値のうちNOX 量、パティキュレート量、HC量、CO量、燃費の適合目標値は走行モードで走行したときの積算値である総量目標値であり、残りの出力値、即ち燃焼騒音、スモーク濃度の適合目標値は各適合運転状態における目標値である。また、総量目標値が定められているNOX 量、パティキュレート量、HC量、CO量、燃費についても各適合運転状態における適合目標値が合わせて設定されている。
さて、図7の示す適合目標値決定ルーチンではまず初めにステップ401において総量目標値をもたない出力値、即ち燃焼騒音、スモーク濃度の適合目標値が決定される。本発明による実施例ではデータベースに適合すべきエンジンの諸元に対応する諸元を有する既存のエンジンの適合値が予め記憶されており、総量目標値をもたない燃焼騒音、スモーク濃度の適合目標値は既存のエンジンの適合平均値とされる。なお、この場合総量目標値をもたない出力値の適合目標値として任意に定めた値を用いることもできる。
次いでステップ402では総量目標値をもつ出力値、即ちNOX 量、パティキュレート量、HC量、CO量、燃費の各運転状態毎の適合目標値が決定される。具体的に言うと本発明による実施例では総量目標値として予め目標とする開発目標値が設定されており、走行モードで走行したときの出力値の積算値がこの予め定められた開発目標値以下となるように各運転状態における出力値の適合目標値が決定される。以下この適合目標値の求め方について順を追って説明する。
本発明においては適合目標値の求め方に対して汎用性をもたせるために、適合すべきエンジンの諸元に対応する諸元を有する既存のエンジンにおいて走行モードで走行したときの単位時間単位エンジン出力当りの平均出力値に対する、各運転状態における単位時間単位エンジン出力当りの出力値の割合が各運転状態毎に予め記憶されている。そして、この割合を利用して出力値の適合目標値を求めるために、走行モードで走行したときの出力値の積算値が開発目標値となるときの単位時間単位エンジン出力当りの平均目標値を算出し、この平均目標値および対応する上述の割合から各運転状態における出力値の適合目標値を算出するようにしている。
このことについてNOX 量の適合目標値を求める場合を例にとって具体的に説明する。図8(A)のX1 は、適合すべきエンジンの諸元に対応する諸元を有する既存のエンジン(単に既存エンジンという)において走行モードで走行したときの単位時間単位エンジン出力当りの平均排出NOX 量(g/kwh )を示しており、図8(A)のX2 は各運転状態における単位時間単位エンジン出力当りの排出NOX 量(g/kwh )を表わしている。一方、図8(A)の縦軸K1は(各運転状態における排出NOX 量X2 )/(平均排出NOX 量X1 )、即ち平均排出NOX 量X1 に対する各運転状態における排出NOX 量X2 の割合を示しており、図8(A)の横軸は燃料噴射量Qを示している。図8(A)からわかるように割合K1は燃料噴射量Qに応じて大きく変化する。この割合K1は燃料噴射量Qばかりでなく機関回転数Nの関数でもあり、従って既存エンジンにおける割合K1は図8(B)に示すようなマップの形で回転数Nおよび燃料噴射量Qの関数として予めデータベースに格納されている。
エンジンの諸元が対応している場合にはエンジンが異なっても同じような割合K1となる。従って割合K1を利用すると平均排出NOX 量X1 を与えれば各運転状態におけるNOX 排出量X2 、即ち適合目標値を定めることができる。ただし、割合K1は既存エンジンをベースとして求められているので割合K1を利用して得られた適合目標値はエンジン毎に修正が必要となる。
次にこの割合K1を利用して適合すべきエンジンでの各運転状態における適合目標値を求める方法について説明する。
まず初めに次式からモード走行したときの単位時間単位エンジン出力当りの平均排出NOX 量が算出される。
平均排出NOX 量(g/kwh )=(排出NOX 量の開発目標値(g/km)×モード走行距離(km))/モード走行したときのエンジン出力の時間積分値(kwh )
モード走行したときの単位距離当りの排出NOX の開発目標値(g/km)は仕向けに応じて予め設定されており、従って上式の分子はモード走行したときの目標とするNOX 排出量(g)を示している。上式ではこのNOX 排出量(g)をエンジン出力の時間積分値(kwh )で除算しており、従って上式は単位時間単位エンジン出力当りの平均排出NOX 量(g/kwh )を表わしていることになる。
次いで図8(B)に示される割合K1を修正係数K1として用い、次式から各運転状態における単位時間当りの排出NOX 量、即ち適合目標値が算出される。
排出NOX 量(g/h)=単位エンジン出力当りの平均排出NOX 量(g/kwh )×各運転状態におけるエンジン出力(kw)×修正係数K1
このようにして適合を行う各運転状態における単位時間当りの排出NOX 量(g/h)、即ち適合目標値が算出される。
次いでこの適合目標値でもってモード走行したときの排出NOX 量の総量が開発目標値を満たしているか否かがチェックされ、排出NOX 量の総量が開発目標値を超過しているときには適合目標値が補正される。一般的な表現を用いると、各運転状態における単位時間当りの出力値が算出された適合目標値になると仮定して走行モードで走行したときの出力値の積算値が算出され、この積算値が開発目標値を超過したときには積算値が開発目標値以下となるように各運転状態における出力値の適合目標値が補正される。
このことについてNOX 量の適合目標値を求める場合を例にとって具体的に説明すると、まず初めに適合すべき各運転状態における単位時間当りの排出NOX 量が算出された排出NOX 量(g/h)になると仮定して、次式によりモード走行したときに排出されるNOX の総量(g)が算出される。
NOX の総量(g)=単位時間単位エンジン出力当りの平均排出NOX 量(g/kwh )×(各運転状態におけるエンジン出力(kw)×修正係数K1)の時間積分値(kwh)
このNOX の総量が排出NOX 総量の開発目標値以下の場合には適合目標値は修正しない。これに対してNOX の総量が排出NOX 総量の開発目標値を超過した場合には次式に基づいて適合を行う各運転状態における単位時間当りの排出NOX 量(g/h)、即ち適合目標値を再度求め直す。
適合を行う各運転状態における単位時間当りの排出NOX 量(g/h)、即ち適合目標値=単位時間単位エンジン出力当りの平均排出NOX 量(g/kwh )×各運転状態におけるエンジン出力(kw)×修正係数K1×修正係数K2
ここで修正係数K2は次式で表わされる。
修正係数K2=(排出NOX 量の開発目標値(g/km)×モード走行距離(km))/上述のNOX の総量(g)
修正係数K2に関する上式において分子は排出NOX 総量の開発目標値を示しており、従ってこの修正係数K2を用いて算出された単位時間当りの排出NOX 量(g/h)、即ち適合目標値を積算してモード走行したときの排出NOX の総量を求めるとこの排出NOX の総量は排出NOX の総量の開発目標値に一致することになる。この場合、上式から求められた修正係数K2の値よりも少し小さな値を修正係数K2として用いると、単位時間当りの排出NOX 量(g/h)、即ち適合目標値を積算することによって得られるNOX の総量は排出NOX 総量の開発目標値よりも少くなる。このようにして適合を行う各運転状態におけるNOX 量の適合目標値が算出される。
総量目標値を有する他の出力値、即ちパティキュレート量、HC量、CO量、燃費の適合を行う各運転状態における適合目標値もNOX 量の適合目標値を求めた方法と同じ方法で求められる。総量目標値を有する全ての出力値について適合を行う各運転状態における適合目標値が算出されると図2のステップ500に進んでパラメータの適合作用が行われる。
次に図9に示すパラメータ適合処理ルーチンにおいて行われるパラメータの適合作用について説明する。
まず初めにステップ501では図2のステップ300において求められたパラメータ初期値を用いて適合を行う運転領域のうちの一つの運転領域において運転し、各出力値を計測する。このときに適合目標値を超過している出力値が存在するとステップ502において適合目標値に対する出力値の超過の度合に応じてパラメータの探索範囲が補正され、超過の度合が小さくなるほどパラメータの探索範囲が狭くされる。更にこのとき適合目標値を超過した出力値が存在する場合にはステップ503において超過した出力値を減少させるための複数のパラメータの操作順序と操作方向が決定される。
このように出力値が適合目標値を超過したときに操作すべきパラメータの操作順序および操作方向と出力値との関係が図12および図13に示されるように予め記憶されており、出力値が適合目標値を超過したときには図12および図13に示す関係に基づいてパラメータの操作順序と操作方向とが決定される。
まず初めに図12について説明すると、図12にはスモーク濃度、NOX 、HC、燃焼騒音を出力値とし、メイン噴射時期、メイン噴射とパイロット噴射との間隔を示すパイロット噴射間隔、パイロット噴射量、コモンレール圧、EGR制御弁を機関運転制御用パラメータとした例が示されている。図12は出力値のうちの一つが適合目標値を超過している場合を示しており、適合目標値を超過している出力値が出力値を示す欄において数字1で示されている。例えば図12の No.1ではスモーク濃度が適合目標値を超過している場合を示している。
一方、パラメータを示す欄において丸で囲まれた数字はパラメータの操作順序を示している。例えば図12の No.1では操作順序がEGR制御弁、メイン噴射時期、コモンレール圧、パイロット噴射間隔、パイロット噴射量とされている。この操作順序は、経験上から対応する出力値( No.1ではスモーク濃度)の低減に対して与える影響が大きいと考えられる順である。
また、パラメータを示す欄における文字はパラメータの操作方向を示している。例えば No.1におけるEGR制御弁は操作方向がEGR制御弁を閉弁する方向であることを示している。また、パラメータを示す欄において二つの文字が存在する場合はいずれの操作方向が出力値の低減に影響を与えるかがわからない場合とか、噴射時期によって操作方向が異なる場合である。例えば No.1におけるメイン噴射時期はスモーク濃度を低減するのに噴射時期を遅角する方がよいのか進角する方がよいのかわからない場合である。また、 No.3におけるメイン噴射時期は噴射時期がBTDC(圧縮上死点前)であれば遅角し、ATDC(圧縮上死点後)であれば進角すべきことを示している。
図13も図12と同様にスモーク濃度、NOX 、HC、燃焼騒音を出力値とし、メイン噴射時期、メイン噴射とパイロット噴射との間隔を示すパイロット噴射間隔、パイロット噴射量、コモンレール圧、EGR制御弁を機関運転制御用パラメータとした例を示している。この図13は複数の出力値が適合目標値を超過したときに適合目標値を超過した複数の出力値と、操作すべきパラメータの操作順序および操作方向との関係を示しており、操作すべきパラメータの操作順序および操作方向を出力値の悪化の順序に応じて変えるようにしている。
この悪化の順序は出力値を示す欄に数字1および2で示されている。例えば図13の No.1はスモーク濃度およびNOX 量が適合目標値を超過しており、このときスモーク濃度の超過の程度がNOX 量の超過の程度よりも大きいことを示している。従ってこの場合にはスモーク濃度が悪化順序1となり、NOX が悪化順序2になる。
一方、図13においても図12と同様にパラメータを示す欄において丸で囲まれた数字はパラメータの操作順序を示しており、パラメータを示す欄における文字はパラメータの操作方向を示している。また、パラメータを示す欄において空欄は対応するパラメータを操作しないことを意味している。
さて、ステップ503において一つの運転状態におけるパラメータの操作順序および操作方向が図12又は図13に示す関係から決定されるとステップ504に進んで図12又は図13に示す関係に従ってパラメータの操作が開始される。例えばパラメータ初期値を用いて運転した結果、NOX 量が大巾に適合目標値を超過しており、燃焼騒音が少しばかり適合目標値を超過したとすると、即ち図13の No.9の状態であったとするとこのときメイン噴射時期がBTDCであればメイン噴射時期を遅角することから開始される。
次いでステップ505ではパラメータの操作回数又は適合に要した時間、即ち適合実施時間が算出される。次いでステップ506ではパラメータの操作回数或いは適合に要した時間が予め定められた設定値を超えたか否かが判別される。パラメータの操作回数或いは適合に要した時間が予め定められた設定値を超えたときには、再適合しない限り全ての出力値が適合目標値を満たすのは困難であると判断し、ステップ507に進んで総量目標値を有さない出力値の適合作用を優先させるべくパラメータの優先順位が変更される。例えば図13の No.9の状態においてNOX 量を適合目標値とするパラメータの探索に時間を要したとするとNOX 量を適合目標値とするパラメータの探索を中断し、燃焼騒音を適合目標値とするパラメータの探索を開始する。
一方、パラメータ506においてパラメータの操作回数或いは適合に要した時間が予め定められた設定値を超えていないと判断されたときにはステップ508に進んで評価関数の値が算出される。
即ち、一つのパラメータを操作すると全ての出力値は何らの影響を受け、このとき減少する出力値もあれば増大する出力値もあり、ほとんど変化しない出力値もある。従ってそのパラメータを操作することが適合作用を行う上で意味のあることであるか否かを評価する必要があり、そのためにはパラメータを操作したときの出力値の変化を評価することが必要となる。そこで本発明では、パラメータを操作したときの出力値の変化を評価する評価手段を具備しており、この評価手段による評価に従ってパラメータの適合作用を行うようにしている。
この評価手段としては種々の評価手段が考えられるが本発明による実施例では適合目標値に対する出力値の割合を表す評価関数を用い、この評価関数により出力値の変化を評価するようにしている。
本発明の実施例で用いられている評価関数は次のようなものである。
評価関数=排出NOX 量/適合目標値+スモーク濃度/適合目標値+排出HC量/適合目標値+燃焼騒音/適合目標値
この評価関数を用いると全ての出力値が適合目標値になると評価関数の値は4.0となる。また、排出NOX 量のみが適合目標値を超過しており、その他の出力値が適合目標値であるとすると評価関数の値は4.0以上となる。また、この評価関数を用いた場合、出力値が適合目標値よりも小さくなったときには目標を満たしているので出力値/適合目標値は1.0とされる。従ってこの評価関数を用いた場合にはパラメータを操作したときに評価関数の値が低下すれば出力値が適合目標値に向かっていることになり、評価関数の値が増大すれば出力値が適合目標値から離れる方向に向かっていることになる。従って或るパラメータを操作することが適合作用を行う上で意味があるか否かは評価関数の値の変化から判断できることになる。
ステップ508において評価関数の値が算出されるとステップ509に進んで適合目標値を超過している全ての出力値が適合目標値を満たしたか否かが判別される。適合目標値を超過している全ての出力値が適合目標値を満たしていない場合にはステップ510に進んで出力値が低下傾向にあるか否かが評価される。具体的に言うと評価関数の減少量が予め定められた規定値α以上であるか否かが判別される。出力値が低下傾向にあるとき、具体的に言うと評価関数の減少量が予め定められた規定値α以上であるときには、ひき続き同じパラメータが操作される。図13の No.9の状態のときにはメイン噴射時期の遅角作用がひき続き行われる。このようなパラメータの操作はステップ510において出力値が低下傾向にあると判断されている限り、失火が生じない範囲で行われる。
一方、ステップ510において出力値がほとんど変化しないと評価されたとき或いは出力値が上昇傾向にあると評価されたとき、具体的に言うと評価関数の減少量が予め定められた規定値α以下の場合、或いは評価関数の値が上昇した場合には、ステップ511に進んで全てのパラメータの操作が完了したか否かが判別される。全てのパラメータの操作が完了したときにはステップ513に進む。これに対して全てのパラメータの操作が完了していないときにはステップ512に進んで操作すべきパラメータが図12又は図13に示すパラメータの操作順序に従って次のパラメータに変更される。図13の No.9の状態のときには操作すべきパラメータがメイン噴射時期からEGR制御弁に変更され、次いでEGR制御弁の開弁操作が開始される。
一方、ステップ509において適合目標値を超過している全ての出力値が適合目標値を満たしていると判断されたときにはステップ513にジャンプし、パラメータの操作順位の変更作用が行われる。即ち、本発明による実施例では適合作用が行われていた運転状態においてパラメータを操作したときの評価関数の減少量を学習しており、その運転状態におけるパラメータの操作順序が評価関数の減少量の大きさの順に変更される。
次いでステップ514では全ての運転状態について適合作用が完了したか否かが判別される。全ての運転状態について適合作用が完了していないと判断されたときにはステップ515に進み、次に適合を行う運転状態についての適合作用に移る。これに対して全ての運転状態についての適合作用が完了したときにはステップ516に進み、総量目標値を有する出力値について、走行モードで走行したときの出力値の積算値を算出する。次いで図2のステップ600へ進む。
ステップ600では適合作用を再度行うか否かが判別される。図10のステップ516において算出された積算値が開発目標値を超過している場合又は開発目標値に対して余裕がある場合には再度適合作用を行うことが必要であると判断され、ステップ700に進んで適合目標値の補正処理が行われる。これに対してステップ516において算出された積算値が開発目標値を超過しておらず、しかも開発目標値に対して余裕がない場合には適合処理を完了する。
次に図11を参照しつつ再適合処理について説明する。
まず初めにステップ701において適合を行った運転状態の中から全ての適合目標値を満たしている運転状態が抽出され、全ての適合目標値を満たしている運転状態における適合目標値のうちで総量目標値を満たしていない出力値の適合目標値が低くされる。
具体的に言うと例えば機関回転数Nと燃料噴射量Qから定まる各運転状態において全ての適合目標値を満たしている運転状態が抽出される(図14において○印で示す運転状態)。次いで図14の○印で示される運転状態における適合目標値うちで総量目標値を満たしていない出力値の適合目標値が低くされる。総量目標値を満たしていない出力値の適合目標値を低くするとその出力値の積算値が低下するので最終的には総量目標値を満たすようになる。
なお、この場合、適合目標値の低下の度合は走行モードにおいて使用される頻度に応じて運転状態毎に決定され、走行モードにおいて使用される頻度の高い運転状態ほど適合目標値の低下の度合が大きくされる。
次いでステップ702では総量目標値を有する出力値のうちで出力値の積算値が総量目標値に対して予め定められた設定値以上低い出力値、言い換えると余裕をもって総量目標値を満たしているか否かが判別される。
総量目標値を有する出力値の積算値が総量目標値より設定値以上低くない場合にはステップ500に進んで再びパラメータの適合作用が行われる。
これに対して、総量目標値を有する出力値の積算値が総量目標値より設定値以上低い場合にはステップ703に進んでその出力値、即ち余裕をもって総量目標値を満たしている出力値の各運転状態における適合目標値を増大させ、その出力値以外の出力について適合目標値を満たしていない運転状態を抽出して、その運転状態における適合目標値を低くする。具体的に言うと全ての適合目標値を満たしていない運転状態(図14において×印で示される)を抽出し、余裕をもって総量目標値を満たしている出力値以外の出力値の適合目標値のうちで全ての適合目標値を満たしていない運転状態における適合目標値を低くする。
このように余裕をもって総量目標値を満たしている出力値の各運転状態における適合目標値を増大させてももともと総量目標値に余裕があるために依然として総量目標値を満たす。これに対し余裕をもって総量目標値を満たしている出力値以外の出力値の適合目標値のうちで全ての適合目標値を満たしていない運転状態における適合目標値が低くされるので、最終的には全ての適合目標値を満たしていない運転状態において全ての出力値が適合目標値を満たすようになる。
なお、このとき全ての適合目標値を満たしている運転状態(図14において○印で示される)についてもそのうちで適合目標値に余裕がない運転状態については余裕をもって総量目標値を満たしている出力値以外の出力値の適合目標値を低くすることができる。
次に図15を参照しつつオンボートで自動適合するようにした自動車について説明する。
図15は自動車に搭載された機関本体1および電子制御ユニット20を示しており、この場合には適合を行うために車両制御用パラメータ(このパラメータは機関制御用パラメータも含む)を入力すると自動車の出力値を出力する車両モデルが使用されている。従ってこの場合、パラメータを操作したときの出力値は車両モデルを用いて算出した値が用いられる。その他の点については図2に示されるルーチンと同じルーチンを用いて適合作業が行われる。なお、この適合作業は工場出荷時又はバッテリ交換時に行うこともできるし車両走行中に行うこともできる。
なお、図15に示されるように排気成分の分析計42、燃費計43、燃焼騒音計44等を用いて車両の実際の出力値が計測されており、これら計測された出力値に基づいて車両モデルの修正が行われる。
また、図15に示されるように電子制御ユニット20の双方向性バス21にはCD−ROMのような交換可能な記憶媒体31を接続することができ、車両モデルをこの記録媒体31に記憶させることもできる。更に、コンピュータに本発明による自動適合方法を実現させるためのプログラムをこの記録媒体31に記憶させることもできる。
また、排気エミッション規制値や、排気エミッション規制に対する走行モードの異なる区域に移動するような場合には通信ステーションから発信される情報に基づいてこれらエミッション規制値や走行モードが自動的に切換えられることが好ましい。従って走行モードを通信手段によって外部から受信するように構成することもできる。
さて、これまで述べてきた実施例では図13に示されるように複数の出力値が適合目標値を超過した場合について適合目標値を超過した複数の出力値と、操作すべきパラメータの操作順序および操作方向との関係が予め定められており、出力値の悪化の順序に応じて操作すべきパラメータの操作順序および操作方向を決定するようにしている。しかしながら図12に示されるように一つの出力値が適合目標値を越えた場合についての出力値と、操作すべきパラメータの操作順序および操作方向との関係のみを予め求めておき、複数の出力値が適合目標値を超過した場合にはこの関係から操作すべきパラメータの操作順序および操作方法を決定することもできる。次にこのようにして操作すべきパラメータの操作順序および操作方法を決定するようにした実施例について図16から図21を参照しつつ説明する。
図16は代表的な2つの出力値、即ちスモーク濃度および排出NOX 量について操作すべきパラメータの操作順序および操作方向を示しており、この図16は図12と同様の表現形式でもって出力値のうちの一つが適合目標値を超過している場合を示している。なお、この実施例では図1或いは図15に示される内燃機関と異なる内燃機関が使用されており、従って各出力値に対して操作すべきパラメータ、パラメータの操作順序および操作方向は図16と図12で若干異なっている。
図17は図16に示されるパラメータの操作を操作順序に従って書き換えたものであり、従って図16と図17とは全く同じことを表している。
さて、図17を参照すると、スモーク濃度が悪化したときの操作順序1における操作はEGR制御弁の閉弁操作であり、操作順序2における操作はコモンレール圧の増大操作である。一方、NOX が悪化したときの操作順序1における操作はEGR制御弁の開弁操作であり、操作順序2における操作はコモンレール圧の減少操作である。この実施例ではスモーク濃度又はNOX のいずれか一方が悪化したときには図17に示す操作順序でもって対応する各パラメータが操作される。
これに対し、スモーク濃度とNOX とが共に悪化した場合には基本的には操作順序1において悪化の程度の高い出力値に対するパラメータから操作される。即ち、スモーク濃度の悪化の程度がNOX の悪化の程度よりも高いときには操作順序1においてスモーク濃度を低減するために最初にEGR制御弁の閉弁操作が行われ、次いでNOX を低減するためにEGR制御弁の開弁操作が行われる。
ところが図17からEGR制御弁を開弁するとスモーク濃度が増大する可能性があることがあり、EGR制御弁を閉弁するとNOX が増大する可能性があることがわかる。即ち、EGR制御弁を開閉するとスモーク濃度が減少すればNOX が増大し、NOX が増大すればスモーク濃度が増大する関係、即ちトレードオフ関係となる可能性がある。このようなトレードオフ関係があるとEGR制御弁の開閉操作を行ってもスモーク濃度およびNOX を同時に低減するのが不可能となる。そこでこの実施例ではまず初めにこのようなトレードオフ関係が生ずるか否かを判断するようにしている。
即ち、2つの出力値が悪化したとき、悪化した各出力値を夫々悪化項目Aおよび悪化項目Bと称すると、或るパラメータに対して悪化項目Aおよび悪化項目Bとがトレードオフ関係にある場合にはパラメータの値を変化させると悪化項目Aと悪化項目Bは図18(A)に示すような関係となり、悪化項目Aについて逆数をとると図18(B)に示すような関係となる。即ち、横軸を1/悪化項目Aとし、縦軸を悪化項目Bとすると両者の関係は傾斜した直線になる。
これに対して悪化項目Aと悪化項目Bとがトレードオフ関係になければ図18(C)において実線又は破線で示されるように両者の関係は水平線又は垂直線となる。このように1/悪化項目Aおよび悪化項目Bの関係から悪化項目Aと悪化項目Bとがトレードオフ関係にあるか否かを判断することができる。この場合、本発明による実施例では、複数の出力値が適合目標値を超過したときにそれら出力値のうちで悪化の程度が上位2つの出力値を抽出し、これら2つの出力値がトレードオフ関係となるか否かが判断される。
再び図17に戻ると、スモーク濃度および排出NOX 量が共に悪化したときの操作順序3における各出力値に対する操作対象は同一であり、操作方向も同一である。また、操作順序4から6についても同様である。従ってこれら操作順序3〜6においては対応するパラメータを操作したときにスモーク濃度および排出NOX 量はトレードオフ関係を生じないものと考えられる。
これに対し、操作順序1および2では前述したように対応するパラメータを操作するとスモーク濃度および排出NOX 量がトレードオフ関係になる可能性がある。スモーク濃度および排出NOX 量が図18(C)に示す関係を有すると判断されたとき、即ちスモーク濃度および排出NOX 量がトレードオフ関係を有さないと判断されたときには図17において操作順序に従いかつ悪化の度合の高い出力値を優先して各パラメータが操作される。
即ち、図17においてスモーク濃度の悪化の程度がNOX の悪化の程度よりも高いときには図19に示されるように最初にEGR制御弁の閉弁操作が行われ、次いでEGR制御弁の開弁操作が行われ、次いでコモンレール圧の増大操作が行われ、次いでコモンレール圧の減少操作が行われる。
このことを一般的に表現すると、共通のパラメータに対し出力値がトレードオフ関係とならないときには、操作順序が異なるパラメータについては操作順序の早いパラメータから、操作順序が同じパラメータについては悪化の程度の高い出力値に対するパラメータから順に操作される。
一方、スモーク濃度および排出NOX 量がEGR制御弁の開閉操作およびコモンレール圧の増大減少操作に対し図18(b)に示す関係を有すると判断されたとき、即ちスモーク濃度およびNOX がトレードオフ関係を有すると判断されたときには図17において操作順序1および2の操作は行われず、残りの操作順位3から6の操作について操作順序に従いかつ悪化の度合の高い出力値を優先して各パラメータが操作される。
即ち、図17においてスモーク濃度の悪化の程度がNOX の悪化の程度よりも高いときには図20に示されるように最初にパイロット噴射量の増量操作が行われ、次いでパイロット噴射量の減量操作が行われ、次いでパイロット噴射間隔の増大操作が行われ、次いでパイロット噴射間隔の減少操作が行われる。
このことを一般的に表現すると、共通のパラメータに対し出力値がトレードオフ関係となるときにはそのパラメータを操作しないようにし、その他のパラメータであって操作順序が異なるパラメータについては操作順序の早いパラメータから、操作順序が同じパラメータについては悪化の程度の高い出力値に対するパラメータから順に操作される。
図16から図20に示される実施例によるパラメータの操作順序および操作方向の決定は図9に示されるパラメータ適合ルーチンのステップ503において行われる。このパラメータの操作順序および操作方向の決定ルーチンが図21に示されている。
図21を参照すると、まず初めにステップ800において出力値が2項目以上悪化したか否かが判別される。出力値が2項目以上悪化していないときにはステップ807に進んで悪化している出力値に対し図17に示すような予め定められている操作ルールに従ってパラメータが操作される。これに対し、ステップ800において出力値が2項目以上悪化したと判断されたときにはステップ801に進んで悪化の程度が上位の2項目、即ち最も悪化している出力値と2番目に悪化している出力値が決定される。
次いでステップ802では図18(A)に示されるような操作すべきパラメータに対するこれら2つの出力値の関係を示すデータが収集される。このデータとしてこれまで蓄積しているデータを用いることもできるし、新たに収集したデータを用いることもできる。次いでステップ803では一方の出力値を縦軸として、他方の出力値の逆数を横軸としたときの両者の関係式、即ち図18(B)において直線で示されるような○印を通る近似式であるトレードオフ式が算出される。この近似式の求め方は種々のやり方があり、ここではその説明を省略する。
次いでステップ804ではトレードオフ式の傾きから図18(B)のようであるか或いは図18(C)のようであるか、即ちトレードオフ関係があるか否かが判別される。トレードオフ関係がないと判断されたときにはステップ806に進んで図19に示されるような操作ルールでもってパラメータが操作され、トレードオフ関係があると判断されたときにはステップ805に進んで図20に示されるような操作ルールでもってパラメータが操作される。
次に燃費を改善するようにした実施例について説明する。
燃料噴射時期を進角すると燃費が改善される。しかしながら燃料噴射時期を進角するとNOX が増大する。従って全ての出力値の適合が完了したときにNOX について余裕がない限り燃料噴射時期を進角することができない。従ってこの実施例では図2に示される自動適合ルーチンにより全ての出力値が適合目標値を満足し、このときNOX について余裕があるときに燃費の改善処理が行われる。
即ち、もう少し詳細に言うとこの実施例では、出力値がエミッション、燃焼騒音、燃費の全て又はそれらのうちの一部であり、エミッションが排気ガス中のNOX 量、スモーク濃度又はパティキュレート量、HC量、CO量の全て又はそれらのうちの一部であり、NOX 量の適合目標値はエミッションを評価するための走行モードで走行したときの積算値である総量目標値であり、全ての運転状態についての適合作用が完了したときには、走行モードで走行したときのNOX 量の積算値を算出し、算出されたNOX 量の積算値が総量目標値に対して余裕がある場合には燃費改善処理が行われる。この場合、本発明による実施例ではこの燃費改善処理は燃費改善すべき各運転状態におけるNOX の適合目標値を増大させかつ燃料噴射時期を進角させる処理からなる。
次に図22から図26を参照しつつ燃費改善処理について説明する。
図22を参照すると、まず初めにステップ900において各運転状態におけるNOX の適合目標値の修正が行われる。このNOX 目標修正ルーチンは図23に示されている。次いでステップ920では燃費改善のための各運転状態におけるNOX の適合目標値が算出される。この燃費改善用NOX 目標算出ルーチンは図24に示されている。次いでステップ940では燃費改善処理が実行される。この燃費改善実行ルーチンが図26に示されている。
NOX 目標修正ルーチンを示す図23を参照すると、まず初めにステップ901において下記の条件を満たすパラメータの組合せが自動適合した際の履歴データ中から選択される。この場合、まず初めに下記の優先順位1を満たすパラメータの組合せが存在するか否かが判断され、優先順位1を満たすパラメータの組合せが存在する場合にはこのパラメータの組合せが採用すべきパラメータの組合せとして決定される。これに対し、優先順位1を満たすパラメータの組合せが存在しない場合には下記の優先順位2のパラメータの組合せが採用すべきパラメータの組合せとして決定される。
優先順位1:NOX の評価点(=排出NOX 量/適合目標値)、スモーク濃度の評価点(=スモーク濃度/適合目標値)、HCの評価点(=排出HC量/適合目標値)、燃焼騒音の評価点(=燃焼騒音/適合目標値)の全ての評価点が1.05以下でかつ評価点の合計、即ち評価関数が最小となるパラメータの組合せ。
優先順位2:評価点の合計、即ち評価関数が最小となるパラメータの組合せ。
ステップ901において採用すべきパラメータの組合せが決定されるとステップ902に進んでスモーク濃度および排出HC量が共に適合目標値を満足しているか否かが判別される。この場合、スモーク濃度の評価点および排出HC量の評価点が共に1.05以下のときにスモーク濃度および排出HC量が適合目標値を満足していると判断される。ステップ902においてスモーク濃度および排出HC量が共に適合目標値を満足していると判断されたときにはステップ903に進んでフラグがリセットされる。次いでステップ904に進む。
ステップ904ではスモーク濃度および排出HC量が共に適合目標値に対して余裕があるか否かが判断される。この場合、フラグがリセットされているときには、スモーク濃度の評価点および排出HC量の評価点が共に0.9以下のときに、フラグがセットされているときにはスモーク濃度の評価点および排出HC量の評価点が共に1.0以下のときにスモーク濃度および排出HC量は余裕があると判断される。
最初にステップ904に進んだときにはフラグはリセットされているのでスモーク濃度の評価点および排出HC量の評価点が共に0.9以下であるか否かによってスモーク濃度および排出HC量に余裕があるか否かが判別される。スモーク濃度の評価点および排出HC量の評価点が共に0.9以下でないときにはスモーク濃度および排出HC量は余裕がないと判断され、ステップ909に進む。ステップ909では採用すべきパラメータの最終的な組合せが決定される。この最終的な組合せの決定のしかたについては後述する。
一方、ステップ904においてスモーク濃度の評価点および排出HC量の評価点が共に0.9以下であると判断されたとき、即ちスモーク濃度および排出HC量が共に余裕があるときにはステップ905に進んでNOX の適合目標値が小さくされる。次いでステップ906では図9および図10に示されるパラメータの適合ルーチンと同様のやり方でもって排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量および燃焼騒音が夫々対応する目標適合値以下となるようなパラメータの組合せが探索される。
次いでステップ907ではパラメータの操作回数の合計が規定数以下であるか否かが判別される。パラメータの操作回数の合計が規定数以上のときにはステップ908に進んで適合が完了したか否かが判別される。ステップ907においてパラメータの操作回数の合計が規定数を越えたと判断されたとき、又はステップ908において適合することができなかったと判断されたときにはステップ909に進む。
これに対しステップ908において適合が完了したと判断されたときにはステップ910に進んでフラグがセットされ、次いでステップ904に戻る。このときにはスモーク濃度の評価点および排出HC量の評価点が共に1.0以下であるか否かによってスモーク濃度および排出HC量に余裕があるか否かが判別される。スモーク濃度の評価点および排出HC量の評価点が共に1.0以下であると判断されたとき、即ちスモーク濃度および排出HC量が共に余裕があるときにはステップ905に進んでNOX の適合目標値が更に小さくされる。次いでステップ906では再び排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量および燃焼騒音が夫々対応する目標適合値以下となるようなパラメータの組合せが探索される。
このようにしてスモーク濃度および排出HC量が余裕がある場合にはNOX の適合目標値が小さくされる。
一方、ステップ902においてスモーク濃度又は排出HC量が適合目標値を満足していないと判断されたときにはステップ911に進んでNOX の目標適合値および燃焼騒音の適合目標値が大きくされる。次いでステップ912では図9および図10に示されるパラメータの適合ルーチンと同様のやり方でもって排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量および燃焼騒音が夫々対応する目標適合値以下となるようなパラメータの組合せが探索される。
次いでステップ913ではパラメータの操作回数の合計が規定数以下であるか否かが判別される。パラメータの操作回数の合計が規定数以下のときにはステップ902に戻ってNOX の目標適合値の修正作業が続行され、パラメータの操作回数の合計が規定数を越えたと判断されたときにはステップ909に進む。
ステップ909では最終的なパラメータの組合せが決定される。この場合、まず初めに下記の優先順位1を満たすパラメータの組合せが存在するか否かが判断され、優先順位1を満たすパラメータの組合せが存在する場合にはこのパラメータの組合せが最終的に採用すべきパラメータの組合せとして決定される。これに対し、優先順位1を満たすパラメータの組合せが存在しない場合には下記の優先順位2のパラメータの組合せが最終的に採用すべきパラメータの組合せとして決定される。
優先順位1:スモーク濃度、排出HC量および燃焼騒音の全てが夫々対応する目標適合値を満足しかつ排出NOX 量の評価点が最小となるパラメータの組合せ。
優先順位2:スモーク濃度および排出HC量の双方が、夫々対応する目標適合値を満足しかつ排出NOX 量の評価点が最小となるパラメータの組合せ。
ステップ909において最終的なパラメータの組合せが決定されると図24に示される燃費改善用NOX 目標算出ルーチンに進む。なお、図23に示されるNOX 目標修正ルーチンは全ての適合運転状態に対する適合が完了した後に実行されるがこのNOX 目標修正ルーチンは各適合運転状態における適合が完了する毎に実行することもできる。
図24に示されるようにこのルーチンではまず初めに図23に示すルーチンにおいて最終的なパラメータの組合せが決定したときの排出NOX 量、即ちNOX 量の適合結果を用い、このNOX 量の適合結果でもって走行モードで走行したと仮定したときの排出NOX 量の積算値が算出される。次いでステップ922ではこの排出NOX 量の積層値がNOX の総量目標値を満足しているか否かが判別される。排出NOX 量の積算値がNOX の総量目標値を超過しているときには燃費改善処理を完了し、このときには燃費改善を行わない。これに対し排出NOX 量の積算値がNOX の総量目標値を満足しているときにはステップ923に進む。
ステップ923では図25に示されるようにNOX 量の適合目標値を修正する前の初期のNOX 量の適合目標値、即ち初期NOX 目標と、NOX 量の適合結果とが比較され、NOX 量の適合結果が初期NOX 目標を満足している運転状態が燃費改善を実施すべき燃費改善実施運転領域とされる。
次いでステップ924では次式に基いて燃費改善のためのNOX の適合目標値、即ち燃費改善用NOX 目標が算出される。
燃費改善用NOX 目標=NOX 適合値・修正係数
即ち、まず初めに燃費改善実施運転領域におけるNOX の適合結果、即ちNOX 適合値に1.0よりも大きい補正係数を乗算することによって燃費改善用NOX 目標が算出される。このときの燃費改善用NOX 目標が図25において曲線X1 で示されている。次いでこの燃費改善用NOX 目標X1 でもってモード走行したと仮定したときのNOX 量の積算値を算出し、このNOX 量の積算値がNOX の総量目標値を満足しているときには修正係数の値が更に増大される。このときの燃費改善用NOX 目標が図25において曲線X2 で示されている。このようにしてNOX 量の積算値がNOX の総量目標値を満足する範囲で最大の修正係数が求められ、この最大の修正係数を用いて最終的な燃費改善用NOX 目標が求められる。最終的な燃費改善用NOX 目標が求められると図26に示される燃費改善実行ルーチンに進む。
図26を参照するとこのルーチンではまず初めにステップ941において、燃費改善を実行すべきか否かが判別される。排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量および燃焼騒音が夫々対応する目標適合値を満足しており、かつ排出NOX 量が適合目標値に対して余裕があるときに燃費改善を実行すべきであると判断される。なお、ここで言うNOX の適合目標値は燃費改善用NOX 目標のことであり、前述した修正係数の値が大きいほど排出NOX 量は余裕があることになる。燃料改善を実行すべきではないときにはステップ950にジャンプし、燃料改善を実行すべきときにはステップ942に進む。
ステップ942では排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量および燃焼騒音が夫々対応する目標適合値を満足しているか否かが判別され、排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量および燃焼騒音が夫々対応する目標適合値を満足しているときにはステップ943に進んで燃費改善のための燃料噴射時期の進角操作が実行される。即ち、ステップ943では進角すべき噴射時期が予め定められた上限又は下限を越えているか否かが判別される。進角すべき噴射時期が上限又は下限を越えているときにはステップ950にジャンプし、進角すべき噴射時期が上限又は下限を越えていないときにはステップ944に進んで噴射時期が進角される。
次いでステップ945では燃費に対する評価関数(=現在の燃費/初期燃費)が算出される。次いでステップ946ではパラメータの操作回数の合計が規定数以下であるか否かが判別される。パラメータの操作回数の合計が規定数を越えたときにはステップ950に進み、パラメータの操作回数の合計が規定数を越えていないときにはステップ947に進んで評価関数に基づき燃費改善が行われたか否かが判別される。この実施例ではこれまでの評価関数の最小値よりも一定値以上評価関数の値が低下したときには燃費が改善されたと判断され、このときの評価関数の値が最小値とされる。
ステップ947において燃費が改善されたと判断されたときにはステップ951に進んでカウンタがクリアされ、ステップ942に戻る。ステップ942において排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量および燃焼騒音が夫々対応する目標適合値を満足していると判断されるとステップ943を経てステップ944に進み、燃料噴射時期が更に進角される。
このようにこの実施例では燃費改善処理、即ち噴射時期の進角作用が行われる毎に各出力値が適合目標値を満たしているか否かが判別され、各出力値が適合目標値を満たしている限り燃費改善処理が実行される。
一方、ステップ947において燃費が改善されていないと判断されたときにはステップ948に進んでカウンタのカウント値が1だけインクリメントされ、次いでステップ949では燃費未改善の状態が連続してA回以上生じたか否かが判別される。燃費未改善の状態が連続してA回以上生じていないときにはステップ943に戻って噴射時期が更に進角される。これに対し、燃費未改善の状態が連続してA回以上生じたときには燃費の改善処理を停止し、ステップ950に進む。
即ち、この実施例では燃費改善処理が行われる毎に燃費が改善されたか否かが判断され、燃費がほとんど改善されていないと予め定められた回数以上判断されたときには燃費改善処理が停止される。
一方、ステップ942において排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量又は燃焼騒音のいずれか一つが対応する目標適合値を満足していないときにはステップ952に進んで図9および図10に示されるパラメータの適合ルーチンと同様のやり方でもって排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量および燃焼騒音が夫々対応する目標適合値以下となるようなパラメータの組合せが探索される。
次いでステップ953ではパラメータの操作回数の合計が規定数以下であるか否かが判別される。パラメータの操作回数の合計が規定数を越えたときにはステップ950に進み、パラメータの操作回数の合計が規定数を越えないときにはステップ954に進んで排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量および燃焼騒音が夫々対応する目標適合値を満足しているか否かが判別される。排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量又は燃焼騒音のいずれか一つが夫々対応する目標適合値を満足していないときにはステップ950に進む。これに対し排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量および燃焼騒音が夫々対応する目標適合値を満足しているときにはステップ943を経由してステップ944に進み、噴射時期の進角作用が行われる。
ステップ950では排出NOX 量、スモーク濃度、排出HC量および燃焼騒音が夫々対応する目標適合値を満足しかつ燃費が最小となるパラメータの組合せが決定される。即ち、最良の燃費が得られるようにパラメータの自動適合が行われる。