JP6380014B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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Description

本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
たとえば特許文献1に記載されるように、電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)は、車両の操舵機構にモータのトルクを付与することにより運転者のステアリング操作を補助する。EPSは少なくとも操舵トルクに応じた適切なアシスト力を発生させるためにモータ電流のフィードバック制御を行う。すなわち、EPSは少なくとも操舵トルクに基づき演算されるアシスト電流指令値とモータ電流検出値との差が小さくなるようにPWMデューティの調節を通じてモータ印加電圧を調節する。
EPSにはより高い安全性が要求されるところ、引用文献1のEPSではつぎのような構成を採用している。すなわち、EPSは操舵トルクとアシスト電流指令値の方向が一致するときには定められた上限値または下限値でアシスト電流指令値を制限するのに対し、操舵トルクとアシスト電流指令値の方向が反対になるときにはアシスト制御演算に異常が生じたと判定してアシスト電流指令値を「0」に制限する。
特開2010−155598号公報([0037]、図3、図6)
ところが、特許文献1のEPSではつぎのような懸念がある。すなわち、特許文献1のEPSは操舵トルクが小さい範囲(0を中心とする正負の一定範囲)であるときにはアシスト電流指令値を「0」に制限することができない。一般に、アシスト電流指令値は操舵トルクに基づく基礎成分にステアリングの挙動を調整するための補償量を重畳して生成されるが、この補償量は操舵トルクの方向と一致しない場合がある。操舵トルクが大きい場合、補償量が操舵トルクの方向に一致しなくても、補償量は基礎成分によって相殺されるためアシスト電流指令値自体は操舵トルクの方向と一致する。したがって、アシスト電流指令値と操舵トルクの方向の不一致はアシスト制御演算の異常とみなすことができる。しかし、操舵トルクが小さい範囲では基礎成分が小さくなり、アシスト電流指令値に占める補償量の割合が大きくなるため、アシスト制御演算が正常であってもアシスト電流指令値と操舵トルクの方向が一致しない場合がある。このような場合にアシスト電流指令値を「0」に制限してしまうとステアリングの挙動を調整できなくなるおそれがある。そこで特許文献1のEPSは、操舵トルクが小さい範囲であるときにはアシスト電流指令値を「0」に制限せず、補償量が制限されない余裕を持たせた範囲内でアシスト電流指令値を制限している。このため、何らかの原因で異常なアシスト電流指令値が誤って演算されたとしても、操舵トルクが小さい領域においてはアシスト電流指令値の制限が甘いため、意図しないアシスト力が操舵機構に付与され、場合によってはセルフアシストが発生するおそれがある。
本発明の目的は、操舵系に対してより適切なアシスト力を付与することができる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
上記目的を達成し得る電動パワーステアリング装置は、ステアリングの操舵状態を示す複数種の状態量に基づきアシスト制御量を演算し当該アシスト制御量に基づき車両の操舵系に付与するアシスト力の発生源であるモータを制御する制御装置を備えている。前記制御装置は前記アシスト制御量の演算に使用する各状態量に応じて前記アシスト制御量の変化範囲を制限する制限値を前記状態量ごとに個別に設定し、これら制限値を使用して前記アシスト制御量の値を制限する。
この構成によれば、アシスト制御量の制限値はアシスト制御量の演算に使用される各状態量に対して個別に設定される。何らかの原因によって異常値を示すアシスト制御量が演算された場合であれ、各制限値が使用されてアシスト制御量の変化範囲が制限されることにより操舵系に意図しないアシスト力が付与されることが抑制される。また、アシスト制御量の制限値がアシスト制御量の演算に使用される各状態量に対して個別に設定されるため、他の状態量に基づく制御に対する影響を考慮する必要がなく、アシスト制御量に対してより緻密で厳密な制限処理を施すことが可能となる。
また、上記の構成を前提として、前記制御装置は、上位制御装置によって前記アシスト制御量を変化させるために生成される指令値を取り込み、当該取り込まれる指令値が反映された前記アシスト制御量に基づく前記モータの制御を実行する際、前記指令値を加味して前記制限値を設定する。
この構成によれば、上位制御装置により生成される指令値が反映されることによりアシスト制御量は当初に演算される値とは異なる値に変化する。このため、アシスト制御量に対する制限値についても前記指令値を加味して設定することが好ましい。前記指令値を加味することにより、前記指令値が反映されたアシスト制御量に適した制限値が設定される。したがって、指令値が反映されたアシスト制御量が、誤って制限されることなどもなく、当該アシスト制御量をより適切に制限することが可能となる。
上記の電動パワーステアリング装置において、つぎのような構成を採用してもよい。すなわち、上位制御装置では前記指令値としてトルク指令値が生成されることもある。この場合、前記制御装置は、前記トルク指令値を電流量に変換する第1の変換部を有することが好ましい。そのうえで、前記制御装置は、当該第1の変換部により変換される電流量を前記演算されるアシスト制御量に加える一方、前記複数種の状態量の一である操舵トルクに応じた個別の制限値を設定する際、当該操舵トルクに前記トルク指令値を加算した値を使用することが望ましい。
この構成によれば、外部からの指令値であるトルク指令値が反映されたアシスト制御量を、より適切に制限することが可能となる。
上記の電動パワーステアリング装置において、前記制御装置は、前記アシスト制御量の基礎成分および当該基礎成分に対する少なくとも一の補償量を演算してこれら基礎成分および補償量を重畳することにより前記アシスト制御量を演算するようにしてもよい。この構成を前提とするとき、上位制御装置では前記指令値として、前記補償量に乗算されるゲインが生成されることもある。この場合、前記制御装置は、前記ゲインが乗算される補償量を演算する際の基礎となる状態量に基づき設定される個別の制限値に対して、前記ゲインを乗算することが好ましい。
この構成によれば、外部からの指令値である、補償量に対するゲインが反映されたアシスト制御量を、より適切に制限することが可能となる。
上記の電動パワーステアリング装置において、前記制御装置は、前記状態量ごとに個別に設定される複数の制限値を重畳することにより前記アシスト制御量に対する最終的な制限値を生成し、当該最終的な制限値を使用して前記アシスト制御量の値を制限するようにしてもよい。この構成を前提とするとき、上位制御装置では前記指令値として、前記演算されるアシスト制御量に加算される付加電流指令値が生成されることもある。この場合、前記制御装置は、前記付加電流指令値を前記最終的な制限値に加算することが好ましい。
この構成によれば、外部からの指令値である付加電流指令値が反映されたアシスト制御量を、より適切に制限することが可能となる。
上記の電動パワーステアリング装置において、つぎのような構成を採用してもよい。すなわち、上位制御装置では前記指令値として、ステアリング角度指令値が生成されることもある。この場合、前記制御装置は、前記ステアリング角度指令値を電流量に変換する第2の変換部を有することが好ましい。そのうえで、前記制御装置は、当該第2の変換部により変換される電流量を前記演算されるアシスト制御量に加える一方、前記複数種の状態量の一である操舵角に応じた個別の制限値を設定する際、当該操舵角に前記ステアリング角度指令値を加算した値を使用することが望ましい。
この構成によれば、外部からの指令値であるステアリング角度指令値が反映されたアシスト制御量を、より適切に制限することが可能となる。
本発明の電動パワーステアリング装置によれば、操舵系に対してより適切なアシスト力を付与することができる。
第1の実施の形態における電動パワーステアリング装置の概略構成図。 第1の実施の形態における電動パワーステアリング装置の制御ブロック図。 第1の実施の形態におけるアシスト制御部の制御ブロック図。 第1の実施の形態における上下限リミット演算部の制御ブロック図。 第1の実施の形態における操舵トルクと制限値との関係を示すマップ。 第1の実施の形態における操舵トルクの微分値と制限値との関係を示すマップ。 第1の実施の形態における操舵角と制限値との関係を示すマップ。 第1の実施の形態における操舵速度と制限値との関係を示すマップ。 第1の実施の形態における操舵角加速度と制限値との関係を示すマップ。 第1の実施の形態におけるアシスト制御量(電流指令値)の変化を示すグラフ。 1の実施の形態における要求トルクとアシスト制御量に対する制限値との関係を示すグラフ。 第1の実施の形態における車両協調制御時の操舵トルクと制限値との関係を示すマップ。 第2の実施の形態における電流指令値演算部の制御ブロック図。 第2の実施の形態におけるアシスト制御部の制御ブロック図。 第2の実施の形態における上下限リミット演算部の制御ブロック図。 第3の実施の形態における電流指令値演算部の制御ブロック図。 第2の実施の形態における車両協調制御時の制限値を示すグラフ。 第4の実施の形態における電流指令値演算部の制御ブロック図。 第4の実施の形態における上下限リミット演算部の制御ブロック図。 第4の実施の形態における車両協調制御時の操舵角と制限値との関係を示すマップ。
<第1の実施の形態>
以下、電動パワーステアリング装置の第1の実施の形態を説明する。
<EPSの概要>
図1に示すように、電動パワーステアリング装置10は、運転者のステアリング操作に基づいて転舵輪を転舵させる操舵機構20、運転者のステアリング操作を補助する操舵補助機構30、および操舵補助機構30の作動を制御するECU(電子制御装置)40を備えている。
操舵機構20は、運転者により操作されるステアリングホイール21、およびステアリングホイール21と一体回転するステアリングシャフト22を備えている。ステアリングシャフト22は、ステアリングホイール21の中心に連結されたコラムシャフト22a、コラムシャフト22aの下端部に連結されたインターミディエイトシャフト22b、およびインターミディエイトシャフト22bの下端部に連結されたピニオンシャフト22cからなる。ピニオンシャフト22cの下端部は、ピニオンシャフト22cに交わる方向へ延びるラック軸23(正確にはラック歯が形成された部分23a)に噛合されている。したがって、ステアリングシャフト22の回転運動は、ピニオンシャフト22cおよびラック軸23からなるラックアンドピニオン機構24によりラック軸23の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラック軸23の両端にそれぞれ連結されたタイロッド25を介して左右の転舵輪26,26にそれぞれ伝達されることにより、これら転舵輪26,26の転舵角θtaが変更される。
操舵補助機構30は、操舵補助力の発生源であるモータ31を備えている。モータ31としては、ブラシレスモータなどが採用される。モータ31は、減速機構32を介してコラムシャフト22aに連結されている。減速機構32はモータ31の回転を減速し、当該減速した回転力をコラムシャフト22aに伝達する。すなわち、ステアリングシャフト22にモータのトルクが操舵補助力(アシスト力)として付与されることにより、運転者のステアリング操作が補助される。
ECU40は、車両に設けられる各種のセンサの検出結果を運転者の要求あるいは走行状態を示す情報として取得し、これら取得される各種の情報に応じてモータ31を制御する。
各種のセンサとしては、たとえば車速センサ51、ステアリングセンサ52、トルクセンサ53および回転角センサ54がある。車速センサ51は車速(車両の走行速度)Vを検出する。ステアリングセンサ52は磁気式の回転角センサであってコラムシャフト22aに設けられて操舵角θsを検出する。トルクセンサ53はコラムシャフト22aに設けられて操舵トルクτを検出する。回転角センサ54はモータ31に設けられてモータ31の回転角θmを検出する。
ECU40は車速V、操舵角θs、操舵トルクτおよび回転角θmに基づき目標アシスト力を演算し、当該目標アシスト力を操舵補助機構30に発生させるための駆動電力をモータ31に供給する。
ここで、車両においては、ECU40と他の車載システムのECU56との協調制御が行われることもある。協調制御とは、複数種の車載システムのECUが互いに連携して車両の動きを制御する技術をいう。また、車両においては、運転手の操舵をサポートすることで、車線に沿った走行を支援するレーンキーピングアシスト制御が行われることもある。車両には、たとえば各種の車載システムのECUを統括制御する上位ECU55が搭載される。上位ECU55は、その時々の車両の状態に基づき最適な制御方法を求め、その求められる制御方法に応じて各ECUに対して個別の制御を指令する。上位ECU55は、たとえば緊急時の回避操作を促す操舵補助を行ったり、車両に働く異常な回転モーメントを打ち消したりするための補正トルク指令値τをECU40に対する指令値として生成する。ECU40は、上位ECU55からの指令を加味してモータ31を制御する。
<ECUの構成>
つぎに、ECUのハードウェア構成を説明する。
図2に示すように、ECU40は駆動回路(インバータ回路)41およびマイクロコンピュータ42を備えている。
駆動回路41は、マイクロコンピュータ42により生成されるモータ制御信号Sc(PWM駆動信号)に基づいて、バッテリなどの直流電源から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。当該変換された三相交流電力は各相の給電経路43を介してモータ31に供給される。各相の給電経路43には電流センサ44が設けられている。これら電流センサ44は各相の給電経路43に生ずる実際の電流値Imを検出する。なお、図2では、説明の便宜上、各相の給電経路43および各相の電流センサ44をそれぞれ1つにまとめて図示する。
マイクロコンピュータ42は、車速センサ51、ステアリングセンサ52、トルクセンサ53、回転角センサ54および電流センサ44の検出結果をそれぞれ定められたサンプリング周期で取り込む。マイクロコンピュータ42はこれら取り込まれる検出結果、すなわち車速V、操舵角θs、操舵トルクτ、回転角θmおよび実際の電流値Imに基づきモータ制御信号Scを生成する。
<マイクロコンピュータ>
つぎに、マイクロコンピュータの機能的な構成を説明する。
マイクロコンピュータ42は、図示しない記憶装置に格納された制御プログラムを実行することによって実現される各種の演算処理部を有している。
図2に示すように、マイクロコンピュータ42は、これら演算処理部として電流指令値演算部61およびモータ制御信号生成部62を備えている。電流指令値演算部61は、操舵トルクτ、車速Vおよび操舵角θsに基づき電流指令値Iを演算する。電流指令値Iはモータ31に供給するべき電流を示す指令値である。正確には、電流指令値Iは、d/q座標系におけるq軸電流指令値およびd軸電流指令値を含む。本実施形態においてd軸電流指令値は零に設定されている。d/q座標系は、モータ31の回転角θmに従う回転座標である。モータ制御信号生成部62は、回転角θmを使用してモータ31の三相の電流値Imを二相のベクトル成分、すなわちd/q座標系におけるd軸電流値およびq軸電流値に変換する。そして、モータ制御信号生成部62は、d軸電流値とd軸電流指令値との偏差、およびq軸電流値とq軸電流指令値との偏差をそれぞれ求め、これら偏差を解消するようにモータ制御信号Scを生成する。
<電流指令値演算部>
つぎに、電流指令値演算部について詳細に説明する。
図2に示すように、電流指令値演算部61は、アシスト制御部71、上下限リミット演算部72および上下限ガード処理部73を有している。また、電流指令値演算部61は3つの微分器74,75,76を有している。微分器74は操舵角θsを微分することにより操舵速度(操舵角速度)ωsを演算する。微分器75は前段の微分器74により算出される操舵速度ωsをさらに微分することにより操舵角加速度αsを演算する。微分器76は操舵トルクτを時間で微分することにより操舵トルク微分値dτを演算する。
アシスト制御部71は、操舵トルクτ、車速V、操舵角θs、操舵速度ωs、操舵角加速度αsおよび操舵トルク微分値dτに基づきアシスト制御量Ias を演算する。アシスト制御量Ias は、これら各種の状態量に応じた適切な大きさの目標アシスト力を発生させるためにモータ31へ供給する電流量の値(電流値)である。
ここで、電流指令値演算部61は、変換部77および加算器78を有している。上位ECU55により補正トルク指令値τが生成されるとき、変換部77は補正トルク指令値τを電流量Iτ に変換する。加算器78は、アシスト制御部71により生成されるアシスト制御量Ias に変換部77により変換される電流量Iτ を加算することにより、最終的なアシスト制御量Ias を生成する。
上下限リミット演算部72は、アシスト制御部71において使用される各種の信号、ここでは操舵トルクτ、操舵角θs、操舵トルク微分値dτ、操舵速度ωsおよび操舵角加速度αsを取り込む。また、上位ECU55により補正トルク指令値τが生成されるとき、上下限リミット演算部72は補正トルク指令値τを取り込む。上下限リミット演算部72は、これら取り込まれる信号(τ,θs,dτ,ωs,αs,τ)に基づきアシスト制御量Ias に対する制限値として上限値IUL および下限値ILL を演算する。上限値IUL および下限値ILL はアシスト制御量Ias に対する最終的な制限値となる。
上下限ガード処理部73は、上下限リミット演算部72により演算される上限値IUL および下限値ILL に基づきアシスト制御量Ias の制限処理を実行する。すなわち、上下限ガード処理部73はアシスト制御量Ias の値ならびに上限値IUL および下限値ILL を比較する。上下限ガード処理部73は、アシスト制御量Ias が上限値IUL を超える場合にはアシスト制御量Ias を上限値IUL に制限し、下限値ILL を下回る場合にはアシスト制御量Ias を下限値ILL に制限する。当該制限処理が施されたアシスト制御量Ias が最終的な電流指令値Iとなる。なお、アシスト制御量Ias が上限値IUL と下限値ILL との範囲内であるときには、アシスト制御部71により演算されるアシスト制御量Ias がそのまま最終的な電流指令値Iとなる。
<アシスト制御部>
つぎに、アシスト制御部71について詳細に説明する。
図3に示すように、アシスト制御部71は基本アシスト制御部81、補償制御部82および加算器83を備えている。
基本アシスト制御部81は操舵トルクτおよび車速Vに基づき基本アシスト制御量I を演算する。基本アシスト制御量I は、操舵トルクτおよび車速Vに応じた適切な大きさの目標アシスト力を発生させるための基礎成分(電流値)である。基本アシスト制御部81はたとえばマイクロコンピュータ42の図示しない記憶装置に格納されるアシスト特性マップを使用して基本アシスト制御量I を演算する。アシスト特性マップは操舵トルクτおよび車速Vに基づき基本アシスト制御量I を演算するための車速感応型の三次元マップであって、操舵トルクτ(絶対値)が大きいほど、また車速Vが小さいほど大きな値(絶対値)の基本アシスト制御量I が算出されるように設定されている。
補償制御部82は、より優れた操舵感を実現するために基本アシスト制御量I に対する各種の補償制御を実行する。
補償制御部82は、たとえば慣性補償制御部84、ステアリング戻し制御部85、トルク微分制御部86およびダンピング制御部87を備えている。
慣性補償制御部84は、操舵角加速度αsおよび車速Vに基づきモータ31の慣性を補償するための補償量I (電流値)を演算する。補償量I を使用して基本アシスト制御量I を補正することにより、ステアリングホイール21の切り始め時における引っ掛かり感(追従遅れ)および切り終わり時の流れ感(オーバーシュート)が低減される。
ステアリング戻し制御部85は、操舵トルクτ、車速V、操舵角θsおよび操舵速度ωsに基づきステアリングホイール21の戻り特性を補償するための補償量I (電流値)を演算する。補償量I を使用して基本アシスト制御量I を補正することにより、路面反力によるセルフアライニングトルクの過不足が補償される。補償量I に応じてステアリングホイール21を中立位置に戻す方向へ向けたアシスト力が発生されるからである。
トルク微分制御部86は、逆入力振動成分を操舵トルク微分値dτとして検出し、当該検出される操舵トルク微分値dτに基づき逆入力振動などの外乱を補償するための補償量I (電流値)を演算する。補償量I を使用して基本アシスト制御量I を補正することにより、ブレーキ操作に伴い発生するブレーキ振動などの外乱が抑制される。補償量I に応じて逆入力振動を打ち消す方向へ向けたアシスト力が発生されるからである。
ダンピング制御部87は、操舵速度ωsおよび車速Vに基づき操舵系が有する粘性を補償するための補償量I (電流値)を演算する。補償量I を使用して基本アシスト制御量I を補正することにより、たとえばステアリングホイール21に伝わる小刻みな振動などが低減される。
加算器83は基本アシスト制御量I に対する補正処理として補償量I 、補償量I 、補償量I および補償量I を加算することによりアシスト制御量Ias を生成する。
<上下限リミット演算部>
つぎに、上下限リミット演算部72について詳細に説明する。
図4に示すように、上下限リミット演算部72は上限値演算部90および下限値演算部100を備えている。上位ECU55により補正トルク指令値τが生成されるとき、上限値演算部90および下限値演算部100はそれぞれ補正トルク指令値τを取り込む。
<上限値演算部>
上限値演算部90は、操舵トルク感応リミッタ91、操舵トルク微分値感応リミッタ92、操舵角感応リミッタ93、操舵角速度感応リミッタ94および操舵角加速度感応リミッタ95を有している。また、上限値演算部90は、2つの加算器96,97を有している。
加算器97は、上位ECU55により生成される補正トルク指令値τを操舵トルクτに加算する。上位ECU55により補正トルク指令値τが生成されないとき、トルクセンサ53を通じて検出される操舵トルクτがそのまま最終的な操舵トルクτとして使用される。上位ECU55により補正トルク指令値τが生成されるとき、補正トルク指令値τが加算された操舵トルクτが最終的な操舵トルクτとして使用される。
操舵トルク感応リミッタ91は、操舵トルクτに応じてアシスト制御量Ias に対する上限値IUL1 を演算する。上位ECU55により補正トルク指令値τが生成されるときには、補正トルク指令値τが加算された操舵トルクτに応じた上限値IUL1 が演算される。操舵トルク微分値感応リミッタ92は、操舵トルク微分値dτに応じてアシスト制御量Ias に対する上限値IUL2 を演算する。操舵角感応リミッタ93は、操舵角θsに応じてアシスト制御量Ias に対する上限値IUL3 を演算する。操舵角速度感応リミッタ94は、操舵速度ωsに応じてアシスト制御量Ias に対する上限値IUL4 を演算する。操舵角加速度感応リミッタ95は、操舵角加速度αsに応じてアシスト制御量Ias に対する上限値IUL5 を演算する。
加算器96は5つの上限値IUL1 〜IUL5 を足し算することによりアシスト制御量Ias に対する上限値IUL を生成する。
上位ECU55により補正トルク指令値τが生成されるとき、操舵トルク感応リミッタ91により生成される上限値IUL1 には、上位ECU55からの指令である補正トルク指令値τが加味されている。このため、加算器96により生成される最終的な上限値IUL も上位ECU55からの指令が反映された値となる。
<下限値演算部>
下限値演算部100は、操舵トルク感応リミッタ101、操舵トルク微分値感応リミッタ102、操舵角感応リミッタ103、操舵角速度感応リミッタ104および操舵角加速度感応リミッタ105を有している。また、下限値演算部100は、2つの加算器106,107を有している。
加算器107は、上限値演算部90の加算器97と同様に、上位ECU55により生成される補正トルク指令値τを操舵トルクτに加算する。
操舵トルク感応リミッタ101は、操舵トルクτに応じてアシスト制御量Ias に対する下限値ILL1 を演算する。上位ECU55により補正トルク指令値τが生成されるときには、補正トルク指令値τが加算された操舵トルクτに応じた下限値ILL1 が演算される。操舵トルク微分値感応リミッタ102は、操舵トルク微分値dτに応じてアシスト制御量Ias に対する下限値ILL2 を演算する。操舵角感応リミッタ103は、操舵角θsに応じてアシスト制御量Ias に対する下限値ILL3 を演算する。操舵角速度感応リミッタ104は、操舵速度ωsに応じてアシスト制御量Ias に対する下限値ILL4 を演算する。操舵角加速度感応リミッタ105は、操舵角加速度αsに応じてアシスト制御量Ias に対する下限値ILL5 を演算する。
加算器106は5つの下限値ILL1 〜ILL5 を足し算することによりアシスト制御量Ias に対する下限値ILL を生成する。
上位ECU55により補正トルク指令値τが生成されるとき、操舵トルク感応リミッタ101により生成される下限値ILL2 には、上位ECU55からの指令である補正トルク指令値τが加味されている。このため、加算器106により生成される最終的な下限値ILL も上位ECU55からの指令が反映された値となる。
<上下限リミットマップ>
上限値演算部90および下限値演算部100は、それぞれ第1〜第5のリミットマップM1〜M5を使用して各上限値IUL1 〜IUL5 および各下限値ILL1 〜ILL5 を演算する。第1〜第5のリミットマップM1〜M5はマイクロコンピュータ42の図示しない記憶装置に格納されている。第1〜第5のリミットマップM1〜M5は、それぞれ運転者のステアリング操作に応じて演算されるアシスト制御量Ias は許容し、それ以外の何らかの原因による異常なアシスト制御量Ias は許容しないという観点に基づき設定される。
図5に示すように、第1のリミットマップM1は、横軸を操舵トルクτ、縦軸をアシスト制御量Ias とするマップであって、操舵トルクτとアシスト制御量Ias に対する上限値IUL1 との関係、および操舵トルクτとアシスト制御量Ias に対する下限値ILL1 との関係をそれぞれ規定する。操舵トルク感応リミッタ91,101はそれぞれ第1のリミットマップM1を使用して操舵トルクτに応じた上限値IUL1 および下限値ILL1 を演算する。
第1のリミットマップM1は、操舵トルクτと同じ方向(正負の符号)のアシスト制御量Ias は許容し、操舵トルクτと異なる方向のアシスト制御量Ias は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵トルクτが正の値である場合、アシスト制御量Ias の上限値IUL1 は操舵トルクτの増大に伴い正の方向へ増加し、所定値を境として正の一定値に維持される。また、操舵トルクτが正の値である場合、アシスト制御量Ias の下限値ILL1 は「0」に維持される。一方、操舵トルクτが負の値である場合、アシスト制御量Ias の上限値IUL1 は「0」に維持される。また、操舵トルクτが負の値である場合、アシスト制御量Ias の下限値ILL1 は操舵トルクτの絶対値が増大するほど負の方向へ増加し、所定値を境として負の一定値に維持される。
図6に示すように、第2のリミットマップM2は、横軸を操舵トルク微分値dτ、縦軸をアシスト制御量Ias とするマップであって、操舵トルク微分値dτとアシスト制御量Ias に対する上限値IUL2 との関係、および操舵トルク微分値dτとアシスト制御量Ias に対する下限値ILL2 との関係をそれぞれ規定する。操舵トルク微分値感応リミッタ92,102はそれぞれ第2のリミットマップM2を使用して操舵トルク微分値dτに応じた上限値IUL2 および下限値ILL2 を演算する。
第2のリミットマップM2は、操舵トルク微分値dτと同じ方向(正負の符号)のアシスト制御量Ias は許容し、操舵トルク微分値dτと異なる方向のアシスト制御量Ias は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵トルク微分値dτが正の値である場合、アシスト制御量Ias の上限値IUL2 は操舵トルク微分値dτの増大に伴い正の方向へ増加し、所定値を境として正の一定値に維持される。また、操舵トルク微分値dτが正の値である場合、アシスト制御量Ias の下限値ILL2 は「0」に維持される。一方、操舵トルク微分値dτが負の値である場合、アシスト制御量Ias の上限値IUL2 は「0」に維持される。また、操舵トルク微分値dτが負の値である場合、アシスト制御量Ias の下限値ILL2 は操舵トルク微分値dτの絶対値が増大するほど負の方向へ増加し、所定値を境として負の一定値に維持される。
図7に示すように、第3のリミットマップM3は、横軸を操舵角θs、縦軸をアシスト制御量Ias とするマップであって、操舵角θsとアシスト制御量Ias に対する上限値IUL3 との関係、および操舵角θsとアシスト制御量Ias に対する下限値ILL3 との関係をそれぞれ規定する。操舵角感応リミッタ93,103はそれぞれ第3のリミットマップM3を使用して操舵角θsに応じた上限値IUL3 および下限値ILL3 を演算する。
第3のリミットマップM3は、操舵角θsと反対方向(正負の符号)のアシスト制御量Ias は許容し、操舵角θsと同じ方向のアシスト制御量Ias は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵角θsが正の値である場合、アシスト制御量Ias の上限値IUL3 は「0」に維持される。また、操舵角θsが正の値である場合、アシスト制御量Ias の下限値ILL3 は操舵角θsの増大に伴い負の方向へ増加する。一方、操舵角θsが負の値である場合、アシスト制御量Ias の上限値IUL3 は操舵角θsの絶対値が増大するほど正の方向へ増加する。また、操舵角θsが負の値である場合、アシスト制御量Ias の下限値ILL3 は「0」に維持される。
図8に示すように、第4のリミットマップM4は、横軸を操舵速度ωs、縦軸をアシスト制御量Ias とするマップであって、操舵速度ωsとアシスト制御量Ias に対する上限値IUL4 との関係、および操舵速度ωsとアシスト制御量Ias に対する下限値ILL4 との関係をそれぞれ規定する。操舵角速度感応リミッタ94,104はそれぞれ第4のリミットマップM4を使用して操舵速度ωsに応じた上限値IUL4 および下限値ILL4 を演算する。
第4のリミットマップM4は、操舵速度ωsと反対方向(正負の符号)のアシスト制御量Ias は許容し、操舵速度ωsと同じ方向のアシスト制御量Ias は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵速度ωsが正の値である場合、アシスト制御量Ias の上限値IUL4 は「0」に維持される。また、操舵速度ωsが正の値である場合、アシスト制御量Ias の下限値ILL4 は操舵速度ωsの増大に伴い負の方向へ増加し、所定値を境として負の一定値に維持される。一方、操舵速度ωsが負の値である場合、アシスト制御量Ias の上限値IUL4 は操舵速度ωsの絶対値が増大するほど正の方向へ増加し、所定値を境として正の一定値に維持される。また、操舵速度ωsが負の値である場合、アシスト制御量Ias の下限値ILL4 は「0」に維持される。
図9に示すように、第5のリミットマップM5は、横軸を操舵角加速度αs、縦軸をアシスト制御量Ias とするマップであって、操舵角加速度αsとアシスト制御量Ias に対する上限値IUL5 との関係、および操舵角加速度αsとアシスト制御量Ias に対する下限値ILL5 との関係をそれぞれ規定する。操舵角加速度感応リミッタ95,105はそれぞれ第5のリミットマップM5を使用して操舵角加速度αsに応じた上限値IUL5 および下限値ILL5 を演算する。
第5のリミットマップM5は、操舵角加速度αsと反対方向(正負の符号)のアシスト制御量Ias は許容し、操舵角加速度αsと同じ方向のアシスト制御量Ias は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵角加速度αsが正の値である場合、アシスト制御量Ias の上限値IUL5 は「0」に維持される。また、操舵角加速度αsが正の値である場合、アシスト制御量Ias の下限値ILL5 は操舵角加速度αsの増大に伴い負の方向へ増加し、所定値を境として負の一定値に維持される。一方、操舵角加速度αsが負の値である場合、アシスト制御量Ias の上限値IUL5 は操舵角加速度αsの絶対値が増大するほど正の方向へ増加し、所定値を境として正の一定値に維持される。また、操舵角加速度αsが負の値である場合、アシスト制御量Ias の下限値ILL5 は「0」に維持される。
<電動パワーステアリング装置の作用>
つぎに、電動パワーステアリング装置の基本的な作用を説明する。
アシスト制御量Ias に対する制限値(上限値および下限値)がアシスト制御量Ias を演算する際に使用する各信号、ここでは操舵状態を示す状態量である操舵トルクτ、操舵トルク微分値dτ、操舵角θs、操舵速度ωsおよび操舵角加速度αsに対して個別に設定される。マイクロコンピュータ42は、アシスト制御量Ias に基づき最終的な電流指令値Iを演算するに際して、各信号の値に応じてアシスト制御量Ias の変化範囲を制限するための制限値を信号毎に設定し、これら制限値を合算した値をアシスト制御量Ias に対する最終的な制限値として設定する。ちなみに、信号毎の制限値、ひいては最終的な制限値は運転者のステアリング操作に応じて演算される通常のアシスト制御量Ias は許容し、何らかの原因に起因する異常なアシスト制御量Ias は制限する観点で設定される。マイクロコンピュータ42は、たとえば運転者の操舵入力に対するトルク微分制御およびステアリング戻し制御などの各種補償制御による補償量は許容する一方、各補償量の値を超える異常出力あるいは誤出力などは制限する。
マイクロコンピュータ42は、アシスト制御量Ias が最終的な上限値IUL および下限値ILL により定められる制限範囲を超えるとき、上限値IUL を超えるアシスト制御量Ias あるいは下限値ILL を下回るアシスト制御量Ias が最終的な電流指令値Iとしてモータ制御信号生成部62に供給されないように制限する。最終的な上限値IUL および下限値ILL には信号毎に設定された個別の制限値(上限値および下限値)が反映されている。すなわち、異常な値を示すアシスト制御量Ias が演算される場合であれ、当該異常なアシスト制御量Ias の値は最終的な制限値によって各信号値に応じた適切な値に制限される。そして、当該適切なアシスト制御量Ias が最終的な電流指令値Iとしてモータ制御信号生成部62に供給されることにより適切なアシスト力が操舵系に付与される。異常なアシスト制御量Ias が最終的な電流指令値Iとしてモータ制御信号生成部62に供給されることが抑制されるため、操舵系に対して意図しないアシスト力が付与されることが抑制される。たとえばいわゆるセルフステアなどの発生も抑制される。
また、アシスト制御量Ias を演算する際に使用する各信号に基づきアシスト制御量Ias に対する適切な制限値が個別に設定される。このため、たとえば基本アシスト制御量I を演算する際に使用される信号である操舵トルクτのみに基づいてアシスト制御量Ias の制限値を設定する場合に比べて、アシスト制御量Ias に対してより緻密な制限処理が行われる。アシスト制御量Ias の制限値の設定において、各種の補償量I ,I ,I に対する影響を考慮する必要もない。
ここで、アシスト制御量Ias の異常が続く限り継続してアシスト制御量Ias を制限することも可能ではあるものの、より安全性を高める観点から、つぎのようにしてもよい。
図10のグラフに示すように、アシスト制御量Ias の値がたとえば下限値ILL を下回るとき(時刻TL0)、アシスト制御量Ias の値は下限値ILL で制限される。マイクロコンピュータ42は当該制限される状態が一定期間ΔTだけ継続したとき(時刻TL1)、下限値ILL を「0」に向けて漸減させる(以下、「漸減処理」という。)。そして下限値ILL が「0」に至るタイミング(時刻TL2)でアシスト制御量Ias の値は「0」になる。その結果、操舵系に対するアシスト力の付与が停止される。当該漸減処理は、異常な状態が一定期間ΔTだけ継続したときにはアシスト力の付与を停止することが好ましいという観点に基づき行われる。アシスト制御量Ias の値は徐々に小さくなるのでアシストを停止させる際、操舵感に急激な変化が発生することはない。なお、アシスト制御量Ias の値が上限値IUL を超える場合についても同様である。すなわち、マイクロコンピュータ42はアシスト制御量Ias の制限状態が一定期間ΔTだけ継続したとき、上限値IUL を「0」に向けて漸減させる。
当該漸減処理は上限値IUL および下限値ILL の演算処理とは無関係に強制的に行われるものである。マイクロコンピュータ42は、当該漸減処理の実行中において、アシスト制御量Ias の値が上限値IUL と下限値ILL との間の正常範囲内の値に復帰したとき、漸減処理の実行を停止するようにしてもよい。これにより、強制的に「0」に向けて漸減させた上限値IUL または下限値ILL は本来の値に復帰する。
<協調制御の実行時>
つぎに、上位ECUによる協調制御が実行されるときの電動パワーステアリング装置の作用を説明する。
たとえば車両を緊急回避させる必要があるとき、上位ECU55は車両の緊急回避を促すために必要とされる車載システムに対する指令を生成する。上位ECU55は、緊急回避のための操舵を促すために、ECU40に対する指令としてたとえば補正トルク指令値τを生成する。補正トルク指令値τは、アシスト力を増大させる、換言すれば操舵トルクτを低減させる観点に基づき設定される。ECU40は、アシスト制御部71により生成されるアシスト制御量Ias に補正トルク指令値τに応じた電流量Iτ を加算することにより、最終的なアシスト制御量Ias を生成する。この最終的なアシスト制御量Ias には、上位ECU55からの指令である補正トルク指令値τが反映されているため、モータ31は補正トルク指令値τに基づく補正トルクが反映されたアシストトルク(アシスト力)を発生する。当該アシストトルクが操舵機構20に付与されることにより、回避操舵が促される。
ここで、制限値(上限値IUL および下限値ILL )の取り扱いが懸念される。すなわち、上位ECU55からの指令を制限値にも反映させるべきかどうかである。結論としては、最終的なアシスト制御量Ias が上位ECU55からの指令である補正トルク指令値τを反映して生成される以上、当該アシスト制御量Ias に対する制限値についても補正トルク指令値τを反映させて生成することが好ましい。
上下限リミット演算部72において、上位ECU55からの指令が加味されることなく制限値が演算される構成を採用する場合、つぎのようなことが懸念される。
図11のグラフに示すように、たとえば操舵トルクτが第1の操舵トルクτ1であるときの制限値(絶対値)を第1の制限値Y1とする。また、操舵トルクτが第2の操舵トルクτ2であるときの制限値(絶対値)を第2の制限値Y2とする。ただし、第2の操舵トルクτ2は、第1の操舵トルクτ1よりも小さな値である。そして、上位ECU55により生成される補正トルク指令値τは、操舵トルクτを現状の第1の操舵トルクτ1から第2の操舵トルクτ2まで変化させるものであるとする。
こうした前提の下、第1の操舵トルクτ1に維持されている状態で上位ECU55により補正トルク指令値τが生成されるとき、瞬間的にはECU40により実行されるアシスト制御自体は不変である。また、上位ECU55は電動パワーステアリング装置10の状態と無関係に補正トルク指令値τを生成するものであって、しかもその補正トルク指令値τはアシスト制御部71により生成されるアシスト制御量Ias に対して外部から強制的に加算される。これに対して、上下限リミット演算部72は、瞬間的にはそれまでの操舵トルクτに応じて制限値を演算する。このため、強制的に補正トルク指令値τが加算されたアシスト制御量Ias の値が制限値を超えるおそれがある。
また、いわゆるシステムの慣性などに起因して、アシスト制御量Ias と制限値とは完全に連動しないこともあり得る。このため、アシスト制御部71により生成されるアシスト制御量Ias 自体は第1の操舵トルクτ1に対応する値Y3に、上下限リミット演算部72により生成される制限値は第2の操舵トルクτ2に対応する第2の制限値Y2になることも瞬間的にはあり得る。この場合、ECU40は正常なアシスト制御量Ias を生成されているにも関わらず、異常なアシスト制御量Ias が生成されている旨誤って検出されるおそれがある。
このような事象を解消するためには、図11のグラフに二点鎖線で示されるように、補正トルク指令値τが加算されることによるアシスト制御量Ias の増大分を許容するかたちで制限値を設定すればよい。
そこで本例では、上下限リミット演算部72は補正トルク指令値τを取り込み、この取り込まれる補正トルク指令値τを操舵トルクτに加算する。操舵トルク感応リミッタ91,101は、補正トルク指令値τが加算された操舵トルクτに応じて上限値IUL1 および下限値ILL1 をそれぞれ演算する。
図12に二点鎖線で示されるように、操舵トルク感応リミッタ91,101では、それぞれ操舵トルクτに対する本来の制限値(IUL1,ILL1 )を第1のリミットマップM1の横軸に沿って補正トルク指令値τの分だけオフセットさせるとともに、当該オフセットされた第1のリミットマップM1に基づき制限値が設定される。たとえば上位ECU55により生成される補正トルク指令値τが操舵トルクτを第1の操舵トルクτ1から第2の操舵トルクτ2(<τ1)まで変化させる旨示す指令である先の例の場合、図12中の左向きの矢印Xで示されるように、操舵トルクτに対する本来の制限値は、補正トルク指令値τの分だけ操舵トルクτが減少する方向へオフセットされる。補正トルク指令値τを加味して個別の制限値(IUL1,ILL1 )、ひいては最終的な制限値(IUL,ILL )が設定されることにより、補正トルク指令値τが反映されたアシスト制御量Ias を、より適切に制限することが可能となる。
<実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)アシスト制御量Ias の制限値はアシスト制御量Ias の演算に使用される各信号(各状態量)に対して個別に設定されるとともに、これら制限値を合算した値がアシスト制御量Ias に対する最終的な制限値として設定される。このため、何らかの原因によって異常値を示すアシスト制御量Ias が演算された場合であれ、当該異常なアシスト制御量Ias は最終的な制限値によって直接的に各信号値に応じた適切な値に制限される。適切な値に制限されたアシスト制御量Ias が最終的な電流指令値Iとしてモータ制御信号生成部62に供給されることにより意図せぬアシスト力が操舵系に付与されるのを的確に抑制することができる。
(2)上位ECU55により生成される補正トルク指令値τに対応する電流量Iτ をアシスト制御量Ias に加算するだけでなく、補正トルク指令値τを上下限リミット演算部72にも取り込む。上下限リミット演算部72では、操舵トルクτに補正トルク指令値τを加算した値を使用して、アシスト制御量Ias に対する制限値を演算する。このため、シンプルな構造を維持しつつ、上位ECU55による協調制御に応じたより適切な制限処理を実行することが可能となる。
<第2の実施の形態>
つぎに、電動パワーステアリング装置の第2の実施の形態を説明する。本例は、基本的には先の図1〜図12に示される第1の実施の形態と同様の構成を備えている。
上位ECU55からの指令には、各種の補償量に対する要求もある。たとえばダンピング(粘性)をもう少し増加させたい、あるいは減少させたいなど、車両の状況に応じて細かく指示されることが考えられる。上位ECU55は、現状の補償量に対する要求として、たとえばゲインを生成する。
図13に示すように、上位ECU55は補償制御用のゲインとして、たとえばトルクゲインGτ、戻し制御ゲインGθSおよびダンピングゲインGωsを生成する。これらトルクゲインGτ、戻し制御ゲインGθSおよびダンピングゲインGωsは、それぞれアシスト制御部71に取り込まれる。また、これらトルクゲインGτ、戻し制御ゲインGθSおよびダンピングゲインGωsは、それぞれ上下限リミット演算部72にも取り込まれる。
図14に示すように、アシスト制御部71は、3つの乗算器81a,85a,87aを有している。乗算器81aは、基本アシスト制御部81により算出される基本アシスト制御量I と、上位ECU55からのトルクゲインGτとを乗算することにより、最終的な基本アシスト制御量I を生成する。乗算器85aは、ステアリング戻し制御部85により算出される補償量I 、と上位ECU55からの戻し制御ゲインGθSとを乗算することにより、最終的な補償量I を生成する。乗算器87aは、ダンピング制御部87により算出される補償量I 、と上位ECU55からのダンピングゲインGωsとを乗算することにより、最終的な補償量I を生成する。
図15に示すように、トルクゲインGτ、戻し制御ゲインGθSおよびダンピングゲインGωsは、上限値演算部90および下限値演算部100にそれぞれ取り込まれる。
上限値演算部90は3つの乗算器91a,93a,94aを有している。乗算器91aは、操舵トルク感応リミッタ91により算出される上限値IUL1 と、上位ECU55からのトルクゲインGτとを乗算することにより、最終的な上限値IUL1 を生成する。乗算器93aは、操舵角感応リミッタ93により算出される上限値IUL3 と、上位ECU55からの戻し制御ゲインGθSとを乗算することにより、最終的な上限値IUL3 を生成する。乗算器94aは、操舵角速度感応リミッタ94により算出される上限値IUL4 と、上位ECU55からのダンピングゲインGωsとを乗算することにより、最終的な上限値IUL4 を生成する。
また、下限値演算部100も3つの乗算器101a,103a,104aを有している。乗算器101aは、操舵トルク感応リミッタ101により算出される下限値ILL1 と、上位ECU55からのトルクゲインGτとを乗算することにより、最終的な下限値ILL1 を生成する。乗算器103aは、操舵角感応リミッタ103により算出される下限値ILL3 と、上位ECU55からの戻し制御ゲインGθSとを乗算することにより、最終的な下限値ILL3 を生成する。乗算器104aは、操舵角速度感応リミッタ104により算出される下限値ILL4 と、上位ECU55からのダンピングゲインGωsとを乗算することにより、最終的な下限値ILL4 を生成する。
なお、基本アシスト制御量I を演算する基礎となる信号は操舵トルクτである。このため、トルクゲインGτは操舵トルク感応リミッタ91,101の演算結果である上限値IUL1 および下限値ILL1 にそれぞれ掛け算することが好ましい。また、ステアリング戻し制御の基礎となる信号は操舵角θsである。このため、操舵角感応リミッタ93,103の演算結果である上限値IUL3 および下限値ILL3 にそれぞれ戻し制御ゲインGθSを掛け算することが好ましい。また、ダンピング制御の基礎となる信号は操舵速度ωsである。このため、ダンピングゲインGωsを操舵角速度感応リミッタ94,104の演算結果である上限値IUL4 および下限値ILL4 にそれぞれ掛け算することが好ましい。
このように、ゲイン(Gτ,GθS,Gωs)が乗算される補償量(I ,I ,I )を演算する際の基礎となる状態量(τ,θs,ωs)に基づき設定される個別の制限値(IUL1 ,IUL3 ,IUL4 ,ILL1 ,ILL3 ,ILL4 )に対して、ゲイン(Gτ,GθS,Gωs)を乗算することにより、つぎのような作用を奏する。すなわち、上下限リミット演算部72により生成される上限値IUL および下限値ILL は、それぞれ上位ECU55からの指令であるトルクゲインGτ、戻し制御ゲインGθSおよびダンピングゲインGωsが反映された値になる。したがって、トルクゲインGτ、戻し制御ゲインGθSおよびダンピングゲインGωsが反映されたアシスト制御量Ias に対して、より適切な制限処理を実行することが可能となる。
ちなみに、ゲイン(Gτ,GθS,Gωs)を上下限リミット演算部72に取り込まない構成を採用する場合、つぎのようなことが懸念される。
たとえば、上位ECU55からの指令によりダンピング制御の実行を停止させる場合を例に挙げる。この場合、上位ECU55によりたとえば0(零)倍のダンピングゲインGωsが生成される。ダンピング制御部87により生成される補償量I に当該ダンピングゲインGωs(=0)が乗算されることにより、当該補償量I の値は0(零)となる。このため、補償量I が加味されることなくアシスト制御量Ias が求められる。
これに対し、上下限リミット演算部72では、上位ECU55により0(零)倍のダンピングゲインGωsが生成されていることを認識することができない。このため、上下限リミット演算部72は、通常通り、操舵角速度感応リミッタ94,104により生成される制限値(IUL4 ,ILL4 )を加味して、アシスト制御量Ias に対する最終的な制限値(IUL ,ILL )を生成する。
このため、操舵角速度感応リミッタ94,104により生成される制限値が加味される分だけ、最終的な制限値と最終的なアシスト制御量Ias との乖離が大きくなる。すなわち、アシスト制御量Ias に対して、最終的な上限値IUL と下限値ILL とによる制限幅が無駄に広くなるおそれがある。そして、アシスト制御量Ias と制限値(IUL ,ILL )との乖離が大きくなるほど、異常なアシスト制御量Ias が生成されたときの電流偏差(これまでの正常なアシスト制御量と制限値との偏差)が大きくなる。当該電流偏差が大きくなるほどモータ31のトルク変動も大きくなる。
この点、本例では、上位ECU55によってたとえば0(零)倍のダンピングゲインGωsが生成される場合、当該ダンピングゲインGωs(=0)は上下限リミット演算部72に取り込まれるとともに、操舵角速度感応リミッタ94,104により算出される制限値(IUL4 ,ILL4 )に乗算される。その結果、当該制限値(IUL4 ,ILL4 )の値は0(零)となる。この制限値(IUL4 ,ILL4 )が加味されることなくアシスト制御量Ias に対する最終的な制限値(IUL ,ILL )が求められる。すなわち、上位ECU55からの指令に基づくアシスト制御量Ias の変化に応じて、適切な制限値(IUL ,ILL )が演算される。このため、アシスト制御量Ias と制限値(IUL ,ILL )との乖離が抑制される。ひいては異常なアシスト制御量Ias が生成されたときの電流偏差が抑えられるので、モータ31のトルク変動も抑制される。
したがって、第2の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(3)上位ECU55により生成されるアシスト制御部71の各制御部(81,85,87)に対するゲイン(Gτ,GθS,Gωs)は、アシスト制御部71だけでなく上下限リミット演算部72にも取り込まれる。これら取り込まれるゲインは、各制御部による制御の基となる信号(τ,θs,ωs)に対応する感応リミッタ(91,93,94,101,103,104)の演算結果に乗算される。これにより、最終的な制限値(IUL ,ILL )には、各ゲイン指令値が反映される。各ゲインが反映されたアシスト制御量Ias に対して、より適切な制限処理を実行することが可能となる。
<第3の実施の形態>
つぎに、電動パワーステアリング装置の第3の実施の形態を説明する。本例も、基本的には先の図1〜図12に示される第1の実施の形態と同様の構成を備えている。
図16に示すように、緊急操舵を補助する場合などにおいて、上位ECU55はモータ電流に対する要求として付加電流指令値Iad を生成することもある。この付加電流指令値Iad は電流指令値演算部61に取り込まれる。
電流指令値演算部61は、3つの加算器71a,72a,72bを有している。加算器71aは、アシスト制御部71により生成されるアシスト制御量Ias に付加電流指令値Iad を加算する。加算器72aは、上下限リミット演算部72により生成される上限値IUL に付加電流指令値Iad を加算する。加算器72bは、上下限リミット演算部72により生成される下限値ILL に付加電流指令値Iad を加算する。
図17のグラフに示すように、上下限ガード処理部73では、上下限リミット演算部72により演算される本来の制限値(IUL,ILL )に対して付加電流指令値Iad の分だけ増大された制限値(IUL+Iad ,ILL +Iad )が使用される。
したがって、第3の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(4)アシスト制御量Ias に加算される付加電流指令値Iad と同じだけ制限値(IUL,ILL )が増大される。このため、上限値IUL と下限値ILL とによる制限幅は、付加電流指令値Iad の加算の前後で変わらない。したがって、上位ECU55からの指令である付加電流指令値Iad に応じて、より適切な制限処理を実行することが可能となる。
<第4の実施の形態>
つぎに、電動パワーステアリング装置の第4の実施の形態を説明する。本例も、基本的には先の図1〜図12に示される第1の実施の形態と同様の構成を備えている。
図18に示すように、パーキングアシストシステムとの協調制御が実行される場合などにおいて、上位ECU55はステアリング角度指令値θを生成することもある。このステアリング角度指令値θは電流指令値演算部61に取り込まれる。
電流指令値演算部61は、先の加算器78に加え、変換部79を有している。変換部79はステアリング角度指令値θを電流量Iθ に変換する。加算器78は、アシスト制御部71により生成されるアシスト制御量Ias に変換部79により変換される電流量Iθ を加算することにより、最終的なアシスト制御量Ias を生成する。
図19に示すように、ステアリング角度指令値θは上限値演算部90および下限値演算部100にもそれぞれ取り込まれる。上限値演算部90は加算器93bを、下限値演算部100は加算器103bを有している。加算器93bは、上限値演算部90に取り込まれる操舵角θsにステアリング角度指令値θを加算する。加算器103bは、下限値演算部100に取り込まれる操舵角θsにステアリング角度指令値θを加算する。
操舵角感応リミッタ93,103は、それぞれステアリング角度指令値θが加算された操舵角θsに応じて、上限値IUL3 および下限値ILL3 をそれぞれ演算する。
図20に二点鎖線で示されるように、操舵トルク感応リミッタ91,101では、それぞれ操舵各θsに対する本来の制限値(IUL3,ILL3 )を第3のリミットマップM3の横軸に沿ってステアリング角度指令値θの分だけオフセットさせるとともに、当該オフセットされた第3のリミットマップM3に基づき制限値が設定される。
このため、最終的な制限値(IUL,ILL )もステアリング角度指令値θに基づく電流量Iθ が加算されたアシスト制御量Ias に対して、より適切な値となる。したがって、上位ECU55からの指令であるステアリング角度指令値θに応じて、より適切な制限処理を実行することが可能となる。
ちなみに、操舵角θsにステアリング角度指令値θを加算しない場合には、つぎのようなことが懸念される。すなわち、操舵角θsにのみ基づく制限値(IUL3,ILL3 )は本来のアシスト制御量Ias に対しては適切ではあるものの、ステアリング角度指令値θに基づく電流量Iθ が加算されたアシスト制御量Ias に対しては適切ではない。操舵角θsにのみ基づく制限値(IUL3,ILL3 )は、ステアリング角度指令値θが加味されていない制限値であるため、ステアリング角度指令値θに基づく電流量Iθ が加算されたアシスト制御量Ias に対しては、電流量Iθ の分だけ小さな値に設定される。協調制御を実行する観点から、電流量Iθ が加算されたアシスト制御量Ias は許容されることが好ましいところ、電流量Iθ の分だけ小さな値の制限値に制限されるおそれがある。ひいては、ステアリング角度指令値θに応じた角度だけステアリングホイールを回転させることが困難となるおそれもある。
この点、本例では、ステアリング角度指令値θが加算された操舵角θsに基づき制限値(IUL3 ,ILL3 )が設定されるので、最終的な制限値(IUL ,ILL )もアシスト制御量Ias に加算される電流量Iθ の分だけ大きな値に設定される。このため、電流量Iθ が加算されたアシスト制御量Ias は許容されやすくなる。ひいては、ステアリング角度指令値θに応じた角度だけステアリングホイールを回転させることも可能となる。上位ECU55との協調制御が好適に実行される。
したがって、第4の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(5)操舵角感応リミッタ93,103では、ステアリング角度指令値θを加味して適切な制限値(IUL3,ILL3 )が演算される。このため、最終的な制限値(IUL,ILL )もステアリング角度指令値θに基づく電流量Iθ が加算されたアシスト制御量Ias に対して、より適切な値となる。したがって、上位ECU55からの指令であるステアリング角度指令値θに応じて、より適切な制限処理を実行することが可能となる。
なお、指令値は上位ECU55でなく、他の車載システムのECU56から受け取るものでもよい。
10…電動パワーステアリング装置、20…操舵機構、31…モータ、40…ECU(制御装置)、55…上位ECU、56…他のECU、77…変換部(第1の変換部)、79…変換部(第2の変換部)。

Claims (5)

  1. ステアリングの操舵状態を示す複数種の状態量に基づき電流量であるアシスト制御量を演算し当該アシスト制御量に基づき車両の操舵系に付与するアシスト力の発生源であるモータを制御する制御装置を備え、
    前記制御装置は、前記アシスト制御量の演算に使用する各状態量に応じて前記アシスト制御量の変化範囲を制限する制限値を前記状態量ごとに個別に設定し、これら制限値を使用して前記アシスト制御量の値を制限する電動パワーステアリング装置であって、
    前記制御装置は、上位制御装置によって前記アシスト制御量を変化させるために生成される指令値を取り込み、前記指令値が反映された前記アシスト制御量に基づく前記モータの制御を実行する際、前記指令値を加味して前記制限値を設定する電動パワーステアリング装置。
  2. 請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
    前記指令値はトルク指令値であって、
    前記制御装置は、前記トルク指令値を電流量に変換する第1の変換部を有し、当該第1の変換部により変換される電流量を前記演算されるアシスト制御量に加える一方、
    前記複数種の状態量の一である操舵トルクに応じた個別の制限値を設定する際、当該操舵トルクに前記トルク指令値を加算した値を使用する電動パワーステアリング装置。
  3. 請求項1または請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、
    前記制御装置は、前記アシスト制御量の基礎成分および当該基礎成分に対する少なくとも一の補償量を演算してこれら基礎成分および補償量を重畳することにより前記アシスト制御量を演算することを前提とするとき、
    前記指令値は、前記補償量に乗算されるゲインであって、
    前記制御装置は、前記ゲインが乗算される補償量を演算する際の基礎となる状態量に基づき設定される個別の制限値に対して前記ゲインを乗算する電動パワーステアリング装置。
  4. 請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
    前記制御装置は、前記状態量ごとに個別に設定される複数の制限値を重畳することにより前記アシスト制御量に対する最終的な制限値を生成し、当該最終的な制限値を使用して前記アシスト制御量の値を制限することを前提とするとき、
    前記指令値は、前記演算されるアシスト制御量に加算される付加電流指令値であって、
    前記制御装置は、前記付加電流指令値を前記最終的な制限値に加算する電動パワーステアリング装置。
  5. 請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
    前記指令値は、ステアリング角度指令値であって、
    前記制御装置は、前記ステアリング角度指令値を電流量に変換する第2の変換部を有し、当該第2の変換部により変換される電流量を前記演算されるアシスト制御量に加える一方、
    前記複数種の状態量の一である操舵角に応じた個別の制限値を設定する際、当該操舵角に前記ステアリング角度指令値を加算した値を使用する電動パワーステアリング装置。
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