<第1の実施の形態>
以下、操舵制御装置を電動パワーステアリング装置のECU(電子制御装置)に具体化した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置10は、運転者のステアリング操作に基づいて転舵輪を転舵させる操舵機構20、運転者のステアリング操作を補助する操舵補助機構30、および操舵補助機構30の作動を制御するECU(電子制御装置)40を備えている。
操舵機構20は、運転者により操作されるステアリングホイール21、およびステアリングホイール21と一体回転するステアリングシャフト22を備えている。ステアリングシャフト22は、ステアリングホイール21の中心に連結されたコラムシャフト22a、コラムシャフト22aの下端部に連結されたインターミディエイトシャフト22b、およびインターミディエイトシャフト22bの下端部に連結されたピニオンシャフト22cからなる。ピニオンシャフト22cの下端部は、ピニオンシャフト22cに交わる方向へ延びるラック軸23(正確にはラック歯が形成された部分23a)に噛合されている。したがって、ステアリングシャフト22の回転運動は、ピニオンシャフト22cおよびラック軸23からなるラックアンドピニオン機構24によりラック軸23の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラック軸23の両端にそれぞれ連結されたタイロッド25を介して左右の転舵輪26,26にそれぞれ伝達されることにより、これら転舵輪26,26の転舵角θtaが変更される。
操舵補助機構30は、操舵補助力の発生源であるモータ31を備えている。モータ31としては、ブラシレスモータなどが採用される。モータ31は、減速機構32を介してコラムシャフト22aに連結されている。減速機構32はモータ31の回転を減速し、当該減速した回転力をコラムシャフト22aに伝達する。すなわち、ステアリングシャフト22にモータのトルクが操舵補助力(アシスト力)として付与されることにより、運転者のステアリング操作が補助される。
ECU40は、車両に設けられる各種のセンサの検出結果を運転者の要求、走行状態および操舵状態を示す情報(状態量)として取得し、これら取得される各種の情報に応じてモータ31を制御する。各種のセンサとしては、たとえば車速センサ51、ステアリングセンサ52、トルクセンサ53および回転角センサ54が挙げられる。車速センサ51は車速(車両の走行速度)Vを検出する。ステアリングセンサ52はコラムシャフト22aに設けられている。ステアリングセンサ52は、ステアリングホイール21の相対的な角度変化量である操舵角θsを検出する相対角センサである。トルクセンサ53はコラムシャフト22aに設けられて操舵トルクτを検出する。回転角センサ54はモータ31に設けられてモータ31の回転角θmを検出する。ECU40は車速V、操舵角θs、操舵トルクτおよび回転角θmに基づき目標アシスト力を演算し、当該目標アシスト力を操舵補助機構30に発生させるための駆動電力をモータ31に供給する。
<ECUのハードウェア構成>
図2に示すように、ECU40は駆動回路(インバータ回路)41およびマイクロコンピュータ42を備えている。
駆動回路41は、マイクロコンピュータ42により生成されるモータ制御信号Sc(PWM駆動信号)に基づいて、バッテリなどの直流電源から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。当該変換された三相交流電力は各相の給電経路43を介してモータ31に供給される。各相の給電経路43には電流センサ44が設けられている。これら電流センサ44は各相の給電経路43に生ずる実際の電流値Imを検出する。なお、図2では、説明の便宜上、各相の給電経路43および各相の電流センサ44をそれぞれ1つにまとめて図示する。
マイクロコンピュータ42は、車速センサ51、ステアリングセンサ52、トルクセンサ53、回転角センサ54および電流センサ44の検出結果をそれぞれ定められたサンプリング周期で取り込む。マイクロコンピュータ42はこれら取り込まれる検出結果、すなわち車速V、操舵角θs、操舵トルクτ、回転角θmおよび実際の電流値Imに基づきモータ制御信号Scを生成する。
<マイクロコンピュータ>
つぎに、マイクロコンピュータの機能的な構成を説明する。マイクロコンピュータ42は、図示しない記憶装置に格納された制御プログラムを実行することによって実現される各種の演算処理部を有している。
図2に示すように、マイクロコンピュータ42は、各種の演算処理部として電流指令値演算部61およびモータ制御信号生成部62を備えている。電流指令値演算部61は、操舵トルクτ、車速V、操舵角θsおよび回転角θmに基づき電流指令値I*を演算する。電流指令値I*はモータ31に供給するべき電流を示す指令値である。正確には、電流指令値I*は、d/q座標系におけるq軸電流指令値およびd軸電流指令値を含む。ただし、本例においてd軸電流指令値は零に設定される。d/q座標系は、モータ31の回転角θmに従う回転座標である。モータ制御信号生成部62は、回転角θmを使用してモータ31の三相の電流値Imを二相のベクトル成分、すなわちd/q座標系におけるd軸電流値およびq軸電流値に変換する。そして、モータ制御信号生成部62は、d軸電流値とd軸電流指令値との偏差、およびq軸電流値とq軸電流指令値との偏差をそれぞれ求め、これら偏差を解消するようにモータ制御信号Scを生成する。
<電流指令値演算部>
つぎに、電流指令値演算部の機能的な構成の概要を説明する。
図2に示すように、電流指令値演算部61は2つの微分器71a,71bを有している。微分器71aは操舵トルクτを時間で微分することにより操舵トルク微分値dτを演算する。微分器71bはモータ31の回転角θmを時間で微分することにより操舵速度(操舵角速度)ωsを演算する。
また、電流指令値演算部61は、第1のアシスト制御部72、上下限リミット演算部73、第1のガード処理部74、第2のアシスト制御部75、第2のガード処理部76、加算器77、バックアップ制御部78および切替部79を有している。
第1のアシスト制御部72は、操舵トルクτ、車速V、操舵速度ωsおよび操舵トルク微分値dτに基づき第1のアシスト制御量Ias1 *を演算する。第1のアシスト制御量Ias1 *は、電流指令値I*を演算する際の基礎となる。
上下限リミット演算部73は、第1のアシスト制御部72において使用される各種の信号、ここでは操舵トルクτ、操舵トルク微分値dτおよび操舵速度ωsに基づき第1のアシスト制御量Ias1 *に対する制限値として上限値IUL *および下限値ILL *を演算する。上限値IUL *および下限値ILL *は第1のアシスト制御量Ias1 *に対する最終的な制限値となる。
第1のガード処理部74は、上下限リミット演算部73により演算される上限値IUL *および下限値ILL *に基づき第1のアシスト制御量Ias1 *の制限処理を実行する。すなわち、第1のガード処理部74は第1のアシスト制御量Ias1 *の値ならびに上限値IUL *および下限値ILL *を比較する。第1のガード処理部74は、第1のアシスト制御量Ias1 *が上限値IUL *を超える場合には第1のアシスト制御量Ias1 *を上限値IUL *に制限し、第1のアシスト制御量Ias1 *が下限値ILL *を下回る場合には第1のアシスト制御量Ias1 *を下限値ILL *に制限する。また、第1のガード処理部74は、第1のアシスト制御量Ias1 *が制限されているかどうかを示す制限状態信号Sgrdを生成する。第1のガード処理部74は、第1のアシスト制御量Ias1 *(制限前または制限後の第1のアシスト制御量Ias1 *)、および制限状態信号Sgrdをそれぞれ切替部79へ供給する。
第2のアシスト制御部75は、操舵トルクτ、車速V、操舵速度ωsおよび操舵角θsに基づき第2のアシスト制御量Ias2 *の基礎成分である補償量In *を演算する。この補償量In *は、より優れた操舵感を実現するために、本来的には第1のアシスト制御量Ias1 *を演算する基礎成分とされるものである。
第2のガード処理部76は、定められた上限値Ithおよび下限値−Ithに基づき、第2のアシスト制御部75により演算された補償量In *に対する制限処理を実行する。上限値Ithは正の値、下限値−Ithは負の値である。また、第2のガード処理部76は、定められた変化量制限値δIに基づき、単位時間当たりの補償量In *の変化量を制限する変化量制限処理を実行する。上限値Ith、下限値−Ithおよび変化量制限値δIは、マイクロコンピュータ42の図示しない記憶装置に格納されている。第2のガード処理部76は、補償量In *(制限前または制限後の補償量In *)に基づき第2のアシスト制御量Ias2 *を演算する。第2のアシスト制御量Ias2 *は、電流指令値I*を演算する際の基礎となる。
加算器77は、第1のガード処理部74を経た後の第1のアシスト制御量Ias1 *に、第2のガード処理部76によって演算される第2のアシスト制御量Ias2 *を加算することにより、最終的なアシスト制御量Ias *を生成する。
バックアップ制御部78は、バックアップ用のアシスト制御量Iasbk *の演算機能を有している。バックアップ制御部78は、操舵トルクτおよび操舵速度ωsに基づきバックアップ用のアシスト制御量Iasbk *を演算する。このバックアップ用のアシスト制御量Iasbk *は、第1のアシスト制御量Ias1 *あるいは第2のアシスト制御量Ias2 *が制限される異常な状態が発生した場合に実行されるアシストバックアップ制御に使用される。なお、バックアップ用のアシスト制御量Iasbk *は、第1のアシスト制御量Ias1 *よりも簡易的に演算されるものであってもよい。
切替部79は、加算器77によって生成される最終的なアシスト制御量Ias *およびバックアップ制御部78により生成されるバックアップ用のアシスト制御量Iasbk *をそれぞれ取り込む。切替部79は、これら最終的なアシスト制御量Ias *およびバックアップ用のアシスト制御量Iasbk *のいずれか一を電流指令値I*の演算基礎として使用する。
また、切替部79は第1のガード処理部74により生成される制限状態信号Sgrdに基づき第1のアシスト制御量Ias1 *が制限されているかどうかを判定する。切替部79は、第1のアシスト制御量Ias1 *の制限状態が一定期間だけ継続したかどうかに基づき、最終的なアシスト制御量Ias *およびバックアップ用のアシスト制御量Iasbk *のどちらを使用するのかを決定する。切替部79は、第1のアシスト制御量Ias1 *の制限状態が一定期間だけ継続している旨判定されるとき、第1のアシスト制御量Ias1 *に代えて、バックアップ用のアシスト制御量Iasbk *を使用する。これに対し、切替部79は、第1のアシスト制御量Ias1 *の制限状態が一定期間だけ継続していない旨判定されるとき、第1のアシスト制御量Ias1 *を継続して使用する。
<第1のアシスト制御部>
つぎに、第1のアシスト制御部72について詳細に説明する。
図3に示すように、第1のアシスト制御部72は、基本アシスト制御部81、システム安定化制御部82、外乱制御部83、トルク微分制御部84およびダンピング制御部85、および加算器86を備えている。
基本アシスト制御部81は、操舵トルクτおよび車速Vに基づき基本アシスト制御量I1 *を演算する。基本アシスト制御量I1 *は、操舵トルクτおよび車速Vに応じた適切な大きさの目標アシスト力を発生させるための基礎成分(電流値)である。基本アシスト制御部81は、たとえばマイクロコンピュータ42の図示しない記憶装置に格納されるアシスト特性マップを使用して基本アシスト制御量I1 *を演算する。アシスト特性マップは操舵トルクτおよび車速Vに基づき基本アシスト制御量I1 *を演算するための車速感応型の三次元マップであって、操舵トルクτ(絶対値)が大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きな値(絶対値)の基本アシスト制御量I1 *が算出されるように設定されている。なお、車速Vを加味することなく基本アシスト制御量I1 *を演算する構成を採用してもよい。
システム安定化制御部82、外乱制御部83、トルク微分制御部84およびダンピング制御部85は、より優れた操舵感を実現するために基本アシスト制御量I1 *に対する各種の補償制御を実行する。具体的には、つぎの通りである。
システム安定化制御部82は、操舵トルク微分値dτおよび車速Vに基づき、アシスト量に応じて変化する共振特性を抑えるための補償量I2 *(電流値)を演算する。補償量I2 *を使用して基本アシスト制御量I1 *を補正することにより、電動パワーステアリング装置10の制御系全体の安定化が図られる。
外乱制御部83は、逆入力振動成分を操舵トルク微分値dτとして検出し、当該検出される操舵トルク微分値dτおよび車速Vに基づき逆入力振動などの外乱を補償するための補償量I3 *(電流値)を演算する。補償量I3 *を使用して基本アシスト制御量I1 *を補正することにより、ブレーキ操作に伴い発生するブレーキ振動などの外乱が抑制される。補償量I3 *に応じて逆入力振動を打ち消す方向へ向けたアシスト力が発生されるからである。
トルク微分制御部84は、操舵トルク微分値dτおよび車速Vに基づき操舵トルク変化に対するアシスト力付与の応答性を高めるための補償量I4 *(電流値)を演算する。補償量I4 *を使用して基本アシスト制御量I1 *を補正することにより、操舵トルク変化に対するアシスト力付与の応答遅れが抑えられる。このため、ステアリングホイール21の切り始めに生じる引っ掛かり感、あるいはステアリングホイール21の切り終わりに生じる流れ感などが抑えられる。
ダンピング制御部85は、操舵速度ωsおよび車速Vに基づき操舵機構20が有する粘性を補償するための補償量I5 *(電流値)を演算する。補償量I5 *を使用して基本アシスト制御量I1 *を補正することにより、たとえばステアリングホイール21に伝わる小刻みな振動などが低減される。
加算器86は、基本アシスト制御量I1 *に対する補正処理として、基本アシスト制御量I1 *に補償量I2 *、補償量I3 *、補償量I4 *および補償量I5 *を加算することにより、第1のアシスト制御量Ias1 *を生成する。
<上下限リミット演算部>
つぎに、上下限リミット演算部73について詳細に説明する。
図4に示すように、上下限リミット演算部73は上限値演算部90および下限値演算部100を備えている。
上限値演算部90は、操舵トルク感応リミッタ91、操舵トルク微分値感応リミッタ92、操舵速度感応リミッタ93および加算器94を有している。操舵トルク感応リミッタ91は、操舵トルクτに応じて第1のアシスト制御量Ias1 *に対する上限値IUL1 *を演算する。操舵トルク微分値感応リミッタ92は、操舵トルク微分値dτに応じて第1のアシスト制御量Ias1 *に対する上限値IUL2 *を演算する。操舵速度感応リミッタ93は、操舵速度ωsに応じて第1のアシスト制御量Ias1 *に対する上限値IUL3 *を演算する。加算器94は、3つの上限値IUL1 *〜IUL3 *を足し算することにより、第1のアシスト制御量Ias1 *に対する上限値IUL *を生成する。
下限値演算部100は、操舵トルク感応リミッタ101、操舵トルク微分値感応リミッタ102、操舵速度感応リミッタ103および加算器104を有している。操舵トルク感応リミッタ101は、操舵トルクτに応じて第1のアシスト制御量Ias1 *に対する下限値ILL1 *を演算する。操舵トルク微分値感応リミッタ102は、操舵トルク微分値dτに応じて第1のアシスト制御量Ias1 *に対する下限値ILL2 *を演算する。操舵速度感応リミッタ103は、操舵速度ωsに応じて第1のアシスト制御量Ias1 *に対する下限値ILL3 *を演算する。加算器104は、3つの下限値ILL1 *〜ILL3 *を足し算することにより、第1のアシスト制御量Ias1 *に対する下限値ILL *を生成する。
<上下限リミットマップ>
上限値演算部90および下限値演算部100は、それぞれ第1〜第3のリミットマップM1〜M3を使用して各上限値IUL1 *〜IUL3 *および各下限値ILL1 *〜ILL3 *を演算する。第1〜第3のリミットマップM1〜M3はマイクロコンピュータ42の図示しない記憶装置に格納されている。第1〜第3のリミットマップM1〜M3は、それぞれ運転者のステアリング操作に応じて演算される第1のアシスト制御量Ias1 *は許容し、それ以外の何らかの原因による異常値を示す第1のアシスト制御量Ias1 *は許容しないという観点に基づき設定されている。
図5に示すように、第1のリミットマップM1は、横軸を操舵トルクτ、縦軸を第1のアシスト制御量Ias1 *とするマップであって、操舵トルクτと第1のアシスト制御量Ias1 *に対する上限値IUL1 *との関係、および操舵トルクτと第1のアシスト制御量Ias1 *に対する下限値ILL1 *との関係をそれぞれ規定する。操舵トルク感応リミッタ91,101はそれぞれ第1のリミットマップM1を使用して操舵トルクτに応じた上限値IUL1 *および下限値ILL1 *を演算する。
第1のリミットマップM1は、操舵トルクτと同じ方向(正負の符号)の第1のアシスト制御量Ias1 *は許容し、操舵トルクτと異なる方向の第1のアシスト制御量Ias1 *は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵トルクτが正の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の上限値IUL1 *は操舵トルクτの増大に伴い正の方向へ増加し、所定値を境として正の一定値に維持される。また、操舵トルクτが正の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の下限値ILL1 *は「0」に維持される。一方、操舵トルクτが負の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の上限値IUL1 *は「0」に維持される。また、操舵トルクτが負の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の下限値ILL1 *は操舵トルクτの絶対値が増大するほど負の方向へ増加し、所定値を境として負の一定値に維持される。
図6に示すように、第2のリミットマップM2は、横軸を操舵トルク微分値dτ、縦軸を第1のアシスト制御量Ias1 *とするマップである。第2のリミットマップM2は、操舵トルク微分値dτと第1のアシスト制御量Ias1 *に対する上限値IUL2 *との関係、および操舵トルク微分値dτと第1のアシスト制御量Ias1 *に対する下限値ILL2 *との関係をそれぞれ規定する。操舵トルク微分値感応リミッタ92,102はそれぞれ第2のリミットマップM2を使用して操舵トルク微分値dτに応じた上限値IUL2 *および下限値ILL2 *を演算する。
第2のリミットマップM2は、操舵トルク微分値dτと同じ方向(正負の符号)の第1のアシスト制御量Ias1 *は許容し、操舵トルク微分値dτと異なる方向の第1のアシスト制御量Ias1 *は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵トルク微分値dτが正の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の上限値IUL2 *は操舵トルク微分値dτの増大に伴い正の方向へ増加し、所定値を境として正の一定値に維持される。また、操舵トルク微分値dτが正の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の下限値ILL2 *は「0」に維持される。一方、操舵トルク微分値dτが負の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の上限値IUL2 *は「0」に維持される。また、操舵トルク微分値dτが負の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の下限値ILL2 *は操舵トルク微分値dτの絶対値が増大するほど負の方向へ増加し、所定値を境として負の一定値に維持される。
図7に示すように、第3のリミットマップM3は、横軸を操舵速度ωs、縦軸を第1のアシスト制御量Ias1 *とするマップであって、操舵速度ωsと第1のアシスト制御量Ias1 *に対する上限値IUL3 *との関係、および操舵速度ωsと第1のアシスト制御量Ias1 *に対する下限値ILL3 *との関係をそれぞれ規定する。操舵速度感応リミッタ93,103はそれぞれ第3のリミットマップM3を使用して操舵速度ωsに応じた上限値IUL3 *および下限値ILL3 *を演算する。
第3のリミットマップM3は、操舵速度ωsと反対方向(正負の符号)の第1のアシスト制御量Ias1 *は許容し、操舵速度ωsと同じ方向の第1のアシスト制御量Ias1 *は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、操舵速度ωsが正の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の上限値IUL3 *は「0」に維持される。また、操舵速度ωsが正の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の下限値ILL3 *は操舵速度ωsの増大に伴い負の方向へ増加し、所定値を境として負の一定値に維持される。一方、操舵速度ωsが負の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の上限値IUL3 *は操舵速度ωsの絶対値が増大するほど正の方向へ増加し、所定値を境として正の一定値に維持される。また、操舵速度ωsが負の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の下限値ILL3 *は「0」に維持される。
<第2のアシスト制御部>
つぎに、第2のアシスト制御部75について詳細に説明する。
図8に示すように、第2のアシスト制御部75は、ハンドル戻り性制御部111、ハンドル戻り速度制御部112、およびハンドル戻し制御部113を備えている。これらハンドル戻り性制御部111、ハンドル戻り速度制御部112、およびハンドル戻し制御部113は、より優れた操舵感(特に、優れたハンドル戻り特性)を実現するために、第1のアシスト制御量Ias1 *に対する各種の補償制御を実行する。具体的には、つぎの通りである。
ハンドル戻り性制御部111は、操舵トルクτ、車速Vおよび操舵速度ωsに基づき、ステアリングホイール21の戻り方を調整するための補償量I6 *を演算する。補償量I6 *を使用して第1のアシスト制御量Ias1 *を補正することにより、たとえばステアリングホイール21の中立位置へ向けた戻り具合の左右差が抑制される。なお、ハンドル戻り速度制御部112は、車速Vを加味することなく補償量I6 *を演算するようにしてもよい。
ハンドル戻り速度制御部112は、操舵角θs、車速Vおよび操舵速度ωsに基づき、ステアリングホイール21の戻り速度を調整するための補償量I7 *を演算する。補償量I7 *を使用して第1のアシスト制御量Ias1 *を補正することにより、ステアリングホイール21は操舵角θsに応じた戻り速度で中立位置に復帰する。なお、ステアリング戻し速度制御部112は、操舵トルクτを加味して補償量I7 *を演算するようにしてもよい。
ハンドル戻し制御部113は、操舵角θs、車速Vおよび操舵速度ωsに基づき、ステアリングホイール21の戻り方を調整するための補償量I8 *を演算する。補償量I8 *を使用して第1のアシスト制御量Ias1 *を補正することにより、補償量I8 *に応じてステアリングホイール21を中立位置に戻す方向へ向けたアシスト力が発生される。たとえば路面反力によるセルフアライニングトルクの不足が補償されることにより、ステアリングホイール21が中立位置に戻りきらない事象が抑制される。また、中立位置を基準とする微操舵時の操舵感触が改善される。
<第2のガード処理部>
つぎに、第2のガード処理部76について詳細に説明する。
図8に示すように、第2のガード処理部76は、第1のリミッタ121、第2のリミッタ122、第3のリミッタ123、および加算器124を有している。
第1のリミッタ121は、ハンドル戻り性制御部111により演算される補償量I6 *を定められたサンプリング周期で取り込み、当該取り込まれる補償量I6 *ならびに上限値Ithおよび下限値−Ithを比較する。第1のリミッタ121は、補償量I6 *の値が上限値Ithを正の方向へ超える場合には補償量I6 *を上限値Ithに制限し、補償量I6 *が下限値−Ithを負の方向へ超える場合には補償量I6 *を下限値−Ithに制限する。
ちなみに、上限値Ithおよび下限値−Ithは、それぞれ電動パワーステアリング装置10のECU40として要求される信頼性水準(信頼性要求水準)を確保する観点に基づき設定されている。上限値Ithおよび下限値−Ithは、信頼性要求水準を確保する観点から許容される補償量の最大の値(絶対値)に基づき設定される。同様に、変化量制限値δIも信頼性要求水準を確保する観点から許容される最大の変化量に基づき設定される。
図9のグラフに示されるように、たとえば時刻t1における補償量I6 *の値が下限値−Ithを負の方向へ超える値−It1であるとき、補償量I6 *の値は下限値−Ithに制限される。図示は割愛するが、補償量I6 *の値が上限値Ithを正の方向へ超える値であるとき、補償量I6 *の値は上限値Ithに制限される。
また、第1のリミッタ121は、変化量制限値δIに基づく変化量制限処理を実行する。すなわち、第1のリミッタ121は、今回の補償量I6 *と前回の補償量I6 *との差を演算し、当該演算される差の絶対値と変化量制限値δIとを比較する。第1のリミッタ121は、当該差の絶対値が変化量制限値δIを超える場合、前回の補償量I6 *に変化量制限値δIを足し算した値を今回の補償量I6 *として使用する。すなわち、補償量I6 *の単位時間当たりの変化量は最大でも変化量制限値δIに制限される。第1のリミッタ121は、当該差の絶対値が変化量制限値δIを超えない場合、今回の補償量I6 *をそのまま使用する。具体的には、つぎの通りである。ただし、ここでは変化量制限値δIが下限値−Ithの絶対値の1/2(本例では、上限値Ithの1/2でもある。)に設定されている場合を一例として挙げる。
図9のグラフに示されるように、ここでは、前回(時刻t2)の補償量I6 *の値が負の値−It2、今回(時刻t3)の補償量I6 *の値が正の値It3であって、それら値−It2,It3の絶対値がそれぞれ変化量制限値δIの1/2の値であるとする。この状況下においては、今回の値It3と前回の値−It2との差δI23の値は、変化量制限値δIの2倍の値となって、変化量制限値δIを超える。このため、補償量I6 *の前回の値−It2に変化量制限値δIを足し算した値である「0」が今回の補償量I6 *として使用される。
第2のリミッタ122および第3のリミッタ123は、補償量I7 *および補償量I8 *に対して、それぞれ第1のリミッタ121と同様の処理を行う。このため、第2のリミッタ122および第3のリミッタ123において実行される上限値Ithおよび下限値−Ithに基づく補償量I7 *,I8 *の制限処理、ならびに変化量制限値δIに基づく補償量I7 *,I8 *の単位時間当たりの変化量制限処理についての詳細な説明を割愛する。
加算器124は、第1〜第3のリミッタ121〜123を経た後の補償量I6 *,I7 *,I8 *を足し算することにより、第2のアシスト制御量Ias2*を生成する。
<制限機能の信頼性について>
つぎに、ECU40における異常値を示す各種の制御量に対する制限機能の信頼性について説明する。
自動車向けの機能安全性規格としてISO26262が存在する。ISO26262の対象には、車載電子システムのみならず、その構成要素である電子機器、電子制御装置およびソフトウェアなども含まれる。ISO26262では、電子制御されるシステムの機能に異常が発生したときの危険事象(ハザード)の評価結果から得られる3つの指標(過酷度、ハザードの発生頻度、回避可能性)に基づき、ハザードを評価する指標であるASIL(Automotive Safety Integrity Level:安全性要求レベル)を決定する。ASILには、危険度の低い方から順に「QM(Quality Management)、A、B、C、D」の5つのランクが定められている。「QM」とは、機能安全(許容できないリスクから免れるための安全機能や安全対策)を適用しなくてもよい通常の品質管理をいう。システムを設計する際には、システムがどのASILに相当するかを決定し、その決定したASILに応じた安全対策を施す必要がある。「QM<A<B<C<D」の順に高いレベルの安全対策が求められる。
したがって、電動パワーステアリング装置10についてもASILに応じた安全対策が必要とされることがある。電動パワーステアリング装置10は、車両の操舵という重要な役割を担うため、車両の構成要素のなかでも特に安全性あるいは信頼性が要求される。ECU40、ひいてはECU40による電子制御機能についてもASILに応じた安全対策の対象となる。もちろん、この電子制御機能には、異常値を示す第1のアシスト制御量Ias1 *および補償量In *に対する制限機能も含まれる。
<第2のガード処理部の技術的な意義>
ECU40による制限機能の信頼性を確保するためには、当該制限機能を実行する際に使用される各種の状態量の信頼性も確保されている必要がある。これはたとえば、ECU40として要求される信頼性水準(信頼性要求水準)が確保されていない状態量に対応したリミットマップに基づき制限値が演算された場合、当該演算される制限値は当然に信頼性要求水準を満たさない。
しかし、車両製造業者の仕様などによって、各種の状態量を検出するセンサの信頼性水準(ここでは、ASIL)が異なることがある。このため、各種のセンサにより検出される電気信号、すなわち状態量の中にはECU40による制限機能の信頼性水準を確保するために必要とされる信頼性水準に達していない状態量が存在するおそれがある。この場合、ECU40は、信頼性要求水準が満たされていない状態量に基づき、当該制限機能を実行せざるを得ない。
ECU40において、最終的なアシスト制御量Ias *の演算に使用される状態量としては、大きく操舵トルクτ、操舵角θs、操舵トルク微分値dτ、操舵速度ωsおよび車速Vが挙げられる。これら状態量の中でも、操舵トルクτ、操舵角θs、操舵トルク微分値dτおよび操舵速度ωsは、アシスト制御量Ias *の演算に大きな影響を及ぼす。車速Vは、操舵トルクτなどの他の状態量に比べれば、アシスト制御量Ias *の演算に対する影響は小さい。ちなみに、操舵トルク微分値dτは操舵トルクτに基づき演算される。操舵速度ωsはモータ31の回転角θmに基づき演算される。このため、操舵トルクτを検出するトルクセンサ53、操舵角θsを検出するステアリングセンサ52、およびモータ31の回転角θmを検出する回転角センサ54には、より高い信頼性水準が要求される。
ここでは、トルクセンサ53、ステアリングセンサ52、および回転角センサ54、ならびにこれらセンサによって検出される状態量(電気信号)である操舵トルクτ、操舵角θsおよび回転角θmのASILレベルは、たとえばつぎのように設定されている。すなわち、トルクセンサ53および回転角センサ54はそれぞれ「ASIL−D」、車速センサ51は「ASIL−B」または「ASIL−C」、ステアリングセンサ52は「ASIL−QM」である。したがって、操舵トルクτおよび回転角θmはそれぞれ「ASIL−D」、車速Vは「ASIL−B」または「ASIL−C」、操舵角θsは「ASIL−QM」である。操舵トルクτから求められる操舵トルク微分値dτ、および回転角θmから求められる操舵速度ωsは、それぞれ「ASIL−D」である。
トルクセンサ53および回転角センサ54は、たとえばセンサ回路の冗長化(二重化)などを通じて信頼性要求水準が満たされている。ステアリングセンサ52は、相対角センサであることや車両製造業者の仕様などに起因して「ASIL−A〜D」に対応できないこともある。
このため本例では、操舵角θsを使用して演算される補償量I6 *,I7 *,I8 *については、リミットマップによる制限処理を行わない。すなわち、操舵角θsを使用して補償量I6 *,I7 *,I8 *を演算するハンドル戻り性制御部111、ハンドル戻り速度制御部112およびハンドル戻し制御部113を含む第2のアシスト制御部75を、第1のアシスト制御部72とは独立して設けている。そのうえで、第1〜第3のリミッタ121〜123を有する第2のガード処理部76を設けることにより、異常値を示す各補償量I6 *,I7 *,I8 *を個別に制限する。第2のガード処理部76では、定められた上限値Ithおよび下限値−Ithを使用した単純な制限処理が行われる。ここで、上限値Ithおよび下限値−Ithは、それぞれ信頼性要求水準を満足する観点に基づき設定される一定値である。このため、第2のガード処理部76において実行される補償量I6 *,I7 *,I8 *に対する制限処理の信頼性水準が、操舵角θsの信頼性水準(ここでは、ASIL−QM)の影響を受けることはない。これは、補償量I6 *,I7 *,I8 *の急激な変化を抑えるための変化量制限値δIについても同様である。したがって、補償量I6 *,I7 *,I8 *に基づき演算される第2のアシスト制御量Ias2 *は信頼性要求水準を満足する。ひいては、第1のアシスト制御量Ias1 *と第2のアシスト制御量Ias2 *とが合算されることにより得られる最終的なアシスト制御量Ias *についても、信頼性要求水準を満足する。
<ECUの作用>
つぎに、前述のように構成したECU40の作用を説明する。
ECU40は、信頼性要求水準(ASIL−D)が担保されている信号(状態量)である操舵トルクτ、操舵トルク微分値dτおよび操舵速度ωsを使用して演算される第1のアシスト制御量Ias1 *については、その変化範囲を第1〜第3のリミットマップM1〜M3に基づき演算される最終的な制限値(IUL *,ILL *)を使用して制限する。より具体的には、ECU40は、第1のアシスト制御量Ias1 *を演算する際に使用する各信号(τ,dτ,ωs)の値に応じて第1のアシスト制御量Ias1 *の変化範囲を制限するための制限値を信号毎に個別に設定する。ECU40は、当該信号毎に設定される制限値を合算した値を第1のアシスト制御量Ias1 *に対する最終的な制限値(IUL *,ILL *)として設定する。
最終的な上限値IUL *および下限値ILL *には信号毎に設定された個別の制限値(上限値および下限値)が反映されている。すなわち、異常値を示す第1のアシスト制御量Ias1 *が演算される場合であれ、当該異常値を示す第1のアシスト制御量Ias1 *の値は最終的な制限値(IUL *,ILL *)によって各信号値に応じた適切な値に制限される。この適切な第1のアシスト制御量Ias1 *を使用して最終的なアシスト制御量Ias *、ひいては電流指令値I*が演算される。
信頼性要求水準(ASIL−D)が担保されている信号毎に制限値が個別に設定されるため、これら個別の制限値、ひいてはこれら個別の制限値を合算した最終的な制限値(IUL *,ILL *)についても信頼性要求水準を満足する。このため、異常値を示す第1のアシスト制御量Ias1 *に対する制限機能も信頼性要求水準を満たす。したがって、異常値を示す第1のアシスト制御量Ias1 *をより適切に制限することができる。ひいては、第1のアシスト制御量Ias1 *の信頼性水準を確保することができる。
これに対して、ECU40は、安全性(ASIL−A〜D)が担保されていない信号(状態量)である操舵角θsを使用して演算されるハンドル戻り特性に関する補償量In *(I6 *,I7 *,I8 *)については、補償量In *そのものの変化範囲を、上限値Ithおよび下限値−Ithを使用して制限する。また、ECU40は、補償量In *そのものの単位時間当たりの変化量を、変化量制限値δIを使用して制限する。
上限値Ithおよび下限値−Ithは、それぞれ信頼性要求水準を満足する観点に基づき設定される一定値である。このため、補償量I6 *,I7 *,I8 *に対する制限処理の信頼性水準が、操舵角θsの信頼性水準(ここでは、ASIL−QM)の影響を受けることはない。補償量I6 *,I7 *,I8 *の急激な変化を抑えるための変化量制限値δIについても同様である。このため、異常値を示す補償量In *は、操舵角θsの信頼性水準の影響を受けることなく、適切に制限される。したがって、補償量I6 *,I7 *,I8 *に基づき演算される第2のアシスト制御量Ias2 *の信頼性水準が確保される。
最終的なアシスト制御量Ias *は、信頼性要求水準を満たす第1のアシスト制御量Ias1 *と、同じく信頼性要求水準を満たす第2のアシスト制御量Ias2 *とが合算されることにより得られる。したがって、最終的なアシスト制御量Ias *についても操舵角θsの信頼性水準の影響を受けることはなく、当該アシスト制御量Ias *、ひいては当該アシスト制御量Ias *に基づき演算される電流指令値I*が信頼性要求水準を満足することは明らかである。
信頼性要求水準を満たす電流指令値I*がモータ制御信号生成部62に供給されることにより、より適切なアシスト力が操舵機構20に付与される。また、異常値を示す第1のアシスト制御量Ias1 *に対する制限機能、および異常値を示す補償量In *に対する制限機能がそれぞれ適切に発揮される。このため、異常値を示すアシスト制御量Ias *が演算されること、ひいては異常値を示す電流指令値I*が演算されることが抑制される。異常値を示す電流指令値I*がモータ制御信号生成部62に供給されることが抑制されるため、操舵機構20に対して意図しないアシスト力が付与されることも抑制される。
ちなみに、第1のアシスト制御量Ias1 *の制限状態が一定期間だけ継続したとき、当該第1のアシスト制御量Ias1 *を使用して演算される最終的なアシスト制御量Ias *に代えて、バックアップ用のアシスト制御量Iasbk *が使用される。このバックアップ用のアシスト制御量Iasbk *は、本来のアシスト制御量Ias *に比べて簡素な演算により求められるものであるものの、このアシスト制御量Iasbk *を使用して操舵アシストが継続される。演算が簡素である分、演算間違いなどのおそれも少ないため、第1のアシスト制御量Ias1 *などに異常が発生した際のバックアップには好適である。
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)信頼性要求水準(ASIL−D)を満足する状態量である操舵トルクτ、操舵トルク微分値dτおよび操舵速度ωsを使用して演算される第1のアシスト制御量Ias1 *の変化範囲は、第1〜第3のリミットマップM1〜M3に基づき演算される最終的な制限値(IUL *,ILL *)により制限される。また、信頼性要求水準(ASIL−A〜D)を満足しない状態量である操舵角θsを使用して演算される補償量In *(I6 *,I7 *,I8 *)の変化範囲は、定められた上限値Ithおよび下限値−Ithにより制限される。また、補償量In *の単位時間当たりの変化量は、定められた変化量制限値δIにより制限される。この構成を採用することにより、アシスト制御量Ias *、ひいては電流指令値I*を演算するために使用される複数種の状態量(τ,dτ,ωs,θs)に信頼性要求水準を満たさない状態量(θs)が含まれる場合であれ、第1のアシスト制御量Ias1 *に対する制限機能、および補償量In *に対する制限機能がそれぞれ適切に発揮される。
(2)第1のアシスト制御量Ias1 *と第2のアシスト制御量Ias2 *とを合算することにより最終的なアシスト制御量Ias *が生成される。この第1のアシスト制御量Ias1 *の制限状態が一定時間だけ継続したとき、本来のアシスト制御量Ias *に代えて、バックアップ用のアシスト制御量Iasbk *が使用される。制限された第1のアシスト制御量Ias1 *を継続して使用することも可能であるものの、車両仕様などによっては完全にバックアップ用のアシスト制御量Iasbk *に切り替えることが要求されることもある。当該要求に対して、本例のECU40は好適に応えることができる。また、簡素化された演算を通じて得られるバックアップ用のアシスト制御量Iasbk *のみを使用することにより、バックアップアシストを実行する際のマイクロコンピュータ42の演算負荷を抑えることが可能である。
(3)信頼性要求水準を満たしていない状態量である操舵角θsを使用して演算される補償量I6 *,I7 *,I8 *の変化範囲は、第1のリミッタ121、第2のリミッタ122および第3のリミッタ123によって個別に制限される。このため、補償量I6 *,I7 *,I8 *、ひいては第2のアシスト制御量Ias2 *に対してより緻密な制限処理を行うことができる。
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第2の実施の形態を説明する。本例は、第2のアシスト制御量の加算位置の点で第1の実施の形態と異なり、基本的には先の図1〜図9に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。
前述したように、第1のアシスト制御量Ias1 *の制限状態が一定時間だけ継続したとき、本来のアシスト制御量Ias *に代えて、バックアップ用のアシスト制御量Iasbk *のみを使用して操舵アシストが継続される。しかし、バックアップ用のアシスト制御量Iasbk *は、本来のアシスト制御量Ias *に比べて簡素な演算により求められるものである。このため、バックアップ用のアシスト制御量Iasbk *に基づく操舵アシストは、本来のアシスト制御量Ias *に基づく操舵アシストよりも、アシスト性能の点で劣る。そこで本例では、つぎの構成を採用している。
図10に示すように、加算器77は、電流指令値I*の演算経路における切替部79の後段、換言すれば切替部79とモータ制御信号生成部62との間に設けられている。このため、第2のアシスト制御量Ias2 *は、切替部79を経た後の第1のアシスト制御量Ias1 *に加算される。最終的に演算されるアシスト制御量Ias *の値は、第2のアシスト制御量Ias2 *を切替部79の前段で第1のアシスト制御量Ias1 *に加算する第1の実施の形態の場合と同じ値となる。
ただし、第1のアシスト制御量Ias1 *の制限状態が一定時間だけ継続したとき、切替部79は第1のアシスト制御量Ias1 *に代えて、バックアップ用のアシスト制御量Iasbk *を使用する。このため、最終的なアシスト制御量Ias *は、バックアップ用のアシスト制御量Iasbk *に第2のアシスト制御量Ias2 *が加算されることにより生成される。当該最終的なアシスト制御量Ias *に基づき電流指令値I*が演算される。
したがって、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態における(1),(3)の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(4)バックアップ用のアシスト制御量Iasbk *に第2のアシスト制御量Ias2 *が加算される分だけアシスト性能が向上する。特に、第2のアシスト制御量Ias2 *は、ハンドル戻し特性に関する各補償量In *(I6 *,I7 *,I8 *)が合算されたものであるため、バックアップアシストの実行時におけるハンドル戻し特性が向上する。したがって、バックアップアシストの実行時における操舵感を向上させることができる。
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第3の実施の形態を説明する。本例は、バックアップアシスト機能が割愛されている点で第1の実施の形態と異なり、基本的には先の図1〜図9に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。なお、本例は、第2の実施の形態にも適用することが可能である。
本例では、先の図2に示されるバックアップ制御部78および切替部79がそれぞれ割愛されている。このため、バックアップ用のアシスト制御量Iasbk *に基づく電流指令値I*が演算されることはなく、最終的なアシスト制御量Ias *に基づく電流指令値I*のみがモータ制御信号生成部62に供給される。また、ECU40にバックアップアシスト機能を持たせない場合、第1のガード処理部74は、第1のアシスト制御量Ias1 *が制限されているかどうかを示す制限状態信号Sgrdを生成する機能を有していなくてもよい。
第1のガード処理部74は、第1のアシスト制御量Ias1 *の値が上限値IUL *または下限値ILL *に制限される異常な状態が一定期間だけ継続したとき、第1のアシスト制御量Ias1 *の値を「0」に向けて漸減させる漸減処理を実行する。具体的には、つぎの通りである。
図11のグラフに示すように、第1のアシスト制御量Ias1 *の値がたとえば下限値ILL *を下回るとき(時刻TL0)、第1のアシスト制御量Ias1 *の値は下限値ILL *に制限される。第1のガード処理部74は、当該制限される状態が一定期間ΔTだけ継続したとき(時刻TL1)、下限値ILL *を「0」に向けて漸減させる。ここでは下限値ILL *が「0」に至るタイミング(時刻TL2)で第1のアシスト制御量Ias1 *の値は「0」になる。なお、第1のアシスト制御量Ias1 *の値が上限値IUL *を超える場合についても同様である。すなわち、第1のガード処理部74は第1のアシスト制御量Ias1 *の制限状態が一定期間ΔTだけ継続したとき、上限値IUL *を「0」に向けて漸減させる。ちなみに、当該漸減処理は上限値IUL *および下限値ILL *の演算処理とは無関係に強制的に行われるものである。
第1のアシスト制御量Ias1 *の値が「0」に至った場合、第2のアシスト制御量Ias2 *が最終的なアシスト制御量Ias *として残り、当該残ったわずかなアシスト制御量Ias *に基づき演算される電流指令値I*がモータ制御信号生成部62へ供給される。このため、わずかながらにも操舵アシストが継続される。
ここで、異常な状態が一定期間ΔTだけ継続したときにはアシスト力の付与を完全に停止することが要求される場合には、第1のガード処理部74と同様の漸減処理機能を第2のガード処理部76に持たせてもよい。この場合、第2のガード処理部76は、第1のガード処理部74により生成される制限状態信号Sgrdに基づき第1のアシスト制御量Ias1 *が制限されているかどうかを判定する。第2のガード処理部76は、第1のアシスト制御量Ias1 *の制限状態が一定期間だけ継続している旨判定されるとき、補償量In *に対する上限値Ithまたは下限値−Ithを、強制的に「0」に向けて漸減させる。
これにより、第1のアシスト制御量Ias1 *および第2のアシスト制御量Ias2 *を合算した最終的なアシスト制御量Ias *の値は徐々に減少し、やがて「0」に至る。操舵アシストを完全停止させる際、操舵機構20に付与されるアシスト力が徐々に弱まることにより、操舵感に急激な変化が発生することが抑制される。このため、安全性がより高められる。
なお、最終的なアシスト制御量Ias *に対する第2のアシスト制御量Ias2 *の寄与度(影響度)が低い場合、第2のガード処理部76は、第2のアシスト制御量Ias2 *を漸減させるのではなく一気に「0」に制限してもよいし、第2のアシスト制御量Ias2 *の出力自体を停止してもよい。
また、操舵アシストを継続することが優先される場合などにおいては、つぎのようにしてもよい。すなわち、第1のガード処理部74は、第1のアシスト制御量Ias1 *の異常が続く限り、継続して第1のアシスト制御量Ias1 *の値を上限値IUL *または下限値ILL *に制限する。第2のガード処理部76も補償量In *(I6 *,I7 *,I8 *)の異常が続く限り、継続して補償量In *の値を上限値Ithまたは下限値−Ithに制限する。第1のアシスト制御量Ias1 *および補償量In *に基づく第2のアシスト制御量Ias2 *の少なくとも一方が制限された状態であれ、最終的なアシスト制御量Ias *に基づき演算される電流指令値I*がモータ制御信号生成部62に継続して供給される。
したがって、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態における(1),(3)の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(5)バックアップ制御部78および切替部79がそれぞれ割愛される分だけ、マイクロコンピュータ42の構成を簡素化することができる。
<第4の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第4の実施の形態を説明する。本例も、基本的には先の図1〜図9に示される第1の実施の形態と同様の構成を備えている。本例は、第1〜第3の実施の形態のすべてに適用することが可能である。
近年では、電動パワーステアリング装置10に対する機能的な要求はますます多様化しつつある。マイクロコンピュータ42は、ステアリングの操舵状態あるいは車両の走行状態を示す種々の状態量を使用してアシスト制御量Ias *を演算するところ、製品仕様などによって、アシスト制御量Ias *を演算するために使用される状態量が異なることも想定される。たとえば、つぎの通りである。
図12に示すように、第1のアシスト制御部72は、車両挙動を示す状態量として、車載のヨーレートセンサ55を通じて検出されるヨーレートYRを取り込み、当該取り込まれるヨーレートYRを加味して第1のアシスト制御量Ias1 *を演算する。また、第1のアシスト制御部72はグリップロス判定機能を有している。第1のアシスト制御部72は、ヨーレートYRに基づきグリップロス(タイヤの路面グリップが失われる状態)の有無を判定し、その判定結果を「1(真)」および「0(偽)」のいずれかの値となるグリップロス判定フラグFgldとして保持する。第1のアシスト制御部72は、グリップロスが発生している旨判定されるときにはグリップロス判定フラグFgldとして「1」を保持し、グリップロスが発生していない旨判定されるときにはグリップロス判定フラグFgldとして「0」を保持する。
ここでヨーレートセンサ55、ひいてはヨーレートセンサ55を通じて検出される実際のヨーレートYRについては、操舵角θsと同様に、安全性(ASIL−A〜D)が担保されないこともある。この場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の信頼性を確保するためには、実際のヨーレートYRについてもその信頼性を担保する必要がある。そこで、電流指令値演算部61にはつぎの構成が設けられている。
図12に示すように、電流指令値演算部61は、ヨーレート推定演算部131およびヨーレート正常判定部132を有している。
ヨーレート推定演算部131は、操舵角θsおよび車速Vに基づき推定ヨーレートYR*を演算する。
推定ヨーレートYR*は、次式(A)により表される。
YR*=V・δ/(l+K・V2)l …(A)
ただし、「V」は車速、「δ」はタイヤ角(rad)、「l」はホイールベース(m)、「K」はスタビリティファクタである。スタビリティファクタとは、操舵角θsを一定とする定常円旋回における車両の基本的な旋回特性を示す定数をいう。
ここで、タイヤ角δは次式(B)により表される。
δ=gr・θs …(B)
式(B)を式(A)に適用することにより次式(C)が得られる。ヨーレート推定演算部131は、式(C)を使用して推定ヨーレートYR*を演算する。
YR*=V・(gr・θs)/(l+K・V2)l …(C)
ただし、「gr」は、ラック軸23に設けられるラック歯の歯数とピニオンシャフト22cに設けられるピニオン歯の歯数との比であるギヤ比である。「θs」は操舵角である。
ヨーレート正常判定部132は、つぎの判定条件(D),(E)に基づき、ヨーレートセンサ55を通じて検出される実際のヨーレートYRが正常であるかどうかを判定する。
│YR*−YR│<YRth …(D)
Fgld=0 …(E)
ただし、「YR*」はヨーレート推定演算部131により演算される推定ヨーレート、「YR」はヨーレートセンサ55を通じて検出される実際のヨーレート、「YRth」はヨーレート判定しきい値である。ヨーレート判定しきい値YRthは、ヨーレートYRが正常な値であることを判定する際の基準値であって、実験などによって求められる。また、「Fgld」は第1のアシスト制御部72に保持されるグリップロス判定フラグである。
ヨーレート正常判定部132は、判定条件(D),(E)の両方が成立するとき、ヨーレートYRの値は正常である旨判定する。ヨーレート正常判定部132は、判定条件(D),(E)の少なくとも一方が成立しないとき、ヨーレートYRの値は異常である旨判定する。ヨーレート正常判定部132は、ヨーレートYRが正しいかどうかの判定結果に応じた値のゲインGを生成する。ヨーレート正常判定部132は、ヨーレートYRの値が正常である旨判定されるとき、ゲインGの値を「1」に設定する。ヨーレート正常判定部132は、ヨーレートYRの値が異常である旨判定されるとき、ゲインGの値を「0」に設定する。また、ヨーレート正常判定部132は、ヨーレートYRが正常であるか異常であるかを示す報知信号Scomを生成する。
なお、グリップロス判定フラグに基づく判定条件(E)を設定することにより、ヨーレートYRが正常かどうかを、より正確に判定することができる。これは、グリップロスに起因する横滑りなどの不安定な車両状態では、ヨーレートYRが正常であるかどうかを正確に判定できないからである。
図13に示すように、第1のアシスト制御部72は、制御部87およびグリップロス判定部88を有している。
制御部87は、ヨーレートセンサ55を通じて検出されるヨーレートYRに基づき基本アシスト制御量I1 *に対する適宜の補償量I9 *を生成する。制御部87による補償制御の内容は製品仕様などに応じて適宜に設定される。
グリップロス判定部88は、グリップロスが発生しているかどうかを判定する。グリップロス判定部88は、操舵トルクτ、電流センサ44を通じて検出される電流値Im(正確には、電流値Imに基づき演算されるモータトルク)および操舵速度ωsに基づき推定セルフアライニングトルクTeを演算する。また、グリップロス判定部88は、操舵角θsおよび車速Vに基づき基準セルフアライニングトルクTcを演算する。そして、グリップロス判定部88は、推定セルフアライニングトルクTeおよび基準セルフアライニングトルクTcを次式(F)に適用することによりグリップ度εを演算する。グリップ度εとは、車両前方の車輪(ここでは、転舵輪26)に対する横方向のグリップの程度を示すものである。
ε=Te/Tc …(F)
グリップロス判定部88は、グリップ度εとグリップ度判定しきい値εthとの比較を通じて、グリップロスが発生しているかどうかを判定する。
グリップロス判定部88は、グリップ度εの値がグリップ度判定しきい値εth以上であるとき(ε≧εth)、グリップロスは発生していない旨判定し、グリップロス判定フラグFgldを「0」にクリアする。これに対して、グリップロス判定部88は、グリップ度εの値がグリップ度判定しきい値εth未満であるとき(ε<εth)、グリップロスが発生している旨判定し、グリップロス判定フラグFgldを「1」にセットする。
なお、第1のアシスト制御部72は、グリップロス判定部88により演算されるグリップ度εに基づき第1のアシスト制御量Ias1 *を調節するようにしてもよい。たとえば、グリップ度εが設定値を下回ったとき、第1のアシスト制御量Ias1 *を急激に増大させる。設定値は横滑りが発生する蓋然性があるときのグリップ度εに基づき設定される。アシスト力が急激に増大することに伴いステアリングホイール21の操作に要する力が急激に小さくなることにより、運転者に横滑りなどが発生する蓋然性があることを認識させることが可能である。
図14に示すように、上下限リミット演算部73もヨーレートセンサ55を通じて検出される実際のヨーレートYRを取り込む。上下限リミット演算部73は、実際のヨーレートYRも加味して第1のアシスト制御量Ias1 *に対する制限値として上限値IUL *および下限値ILL *を演算する。
上下限リミット演算部73の上限値演算部90は、ヨーレート感応リミッタ95および乗算器96を有している。ヨーレート感応リミッタ95は、ヨーレートYRに応じて第1のアシスト制御量Ias1 *に対する上限値IUL4 *を演算する。乗算器96は、ヨーレート正常判定部132により設定されるゲインGと、ヨーレート感応リミッタ95により算出される上限値IUL4 *とを乗算することにより、最終的な上限値IUL4 *を生成する。たとえばゲインGの値が「0」であるとき、ヨーレートYRに対する最終的な上限値IUL4 *は「0」となる。また、ゲインGの値が「1」であるとき、ヨーレート感応リミッタ95により算出される上限値IUL4 *がそのままヨーレートYRに基づく最終的な上限値IUL4 *となる。加算器94は3つの上限値IUL1 *〜IUL3 *の他、さらに乗算器96による処理を経た後の上限値IUL4 *を足し算することにより第1のアシスト制御量Ias1 *に対する上限値IUL *を生成する。
上下限リミット演算部73の下限値演算部100は、ヨーレート感応リミッタ105および乗算器106を有している。ヨーレート感応リミッタ105は、ヨーレートYRに応じてアシスト制御量Ias *に対する下限値ILL4 *を演算する。乗算器106は、ヨーレート正常判定部132により設定されるゲインGと、ヨーレート感応リミッタ105により算出される下限値ILL4 *とを乗算することにより、最終的な下限値ILL4 *を生成する。たとえばゲインGの値が「0」であるとき、ヨーレートYRに対する最終的な下限値ILL4 *は「0」となる。ゲインGの値が「1」であるとき、ヨーレート感応リミッタ105により算出される下限値ILL4 *がそのままヨーレートYRに基づく最終的な下限値ILL4 *となる。加算器104は3つの下限値ILL1 *〜ILL3 *の他、さらに下限値ILL4 *を足し算することにより第1のアシスト制御量Ias1 *に対する下限値ILL *を生成する。
上限値演算部90および下限値演算部100は、それぞれ第4のリミットマップM4を使用して上限値IUL4 *および下限値ILL4 *を演算する。第4のリミットマップM4は、第1〜第3のリミットマップM1〜M3と同様に、マイクロコンピュータ42の図示しない記憶装置に格納される。第4のリミットマップM4も運転者のステアリングホイール21の操作に応じて演算される第1のアシスト制御量Ias1 *は許容し、それ以外の何らかの原因による異常な第1のアシスト制御量Ias1 *は許容しないという観点に基づき設定される。
図15に示すように、第4のリミットマップM4は、横軸をヨーレートYR、縦軸を第1のアシスト制御量Ias1 *とするマップであって、ヨーレートYRと第1のアシスト制御量Ias1 *に対する上限値IUL4 *との関係、およびヨーレートYRと第1のアシスト制御量Ias1 *に対する下限値ILL4 *との関係をそれぞれ規定する。ヨーレート感応リミッタ95,105はそれぞれ第4のリミットマップM4を使用してヨーレートYRに応じた上限値IUL4 *および下限値ILL4 *を演算する。
第4のリミットマップM4は、ヨーレートYRと反対方向(正負の符号)の第1のアシスト制御量Ias1 *は許容し、ヨーレートYRと同じ方向の第1のアシスト制御量Ias1 *は許容しない観点に基づき設定されることにより、つぎのような特性を有する。すなわち、ヨーレートYRが正の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の上限値IUL4 *は「0」に維持される。また、ヨーレートYRが正の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の下限値ILL4 *はヨーレートYRの増大に伴い負の方向へ増加する。一方、ヨーレートYRが負の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の上限値IUL4 *はヨーレートYRの絶対値が増大するほど正の方向へ増加する。また、ヨーレートYRが負の値である場合、第1のアシスト制御量Ias1 *の下限値ILL4 *は「0」に維持される。
したがって、第4の実施の形態によれば、以下の作用および効果を得ることができる。
(6)ヨーレート正常判定部132によりヨーレートYRが正常である旨判定された場合、この信頼性が担保された正常なヨーレートYR、ひいては当該ヨーレートYRに基づきヨーレート感応リミッタ95,105により演算される制限値(IUL4 *,ILL4 *)が使用される。すなわち、正常なヨーレートYRに応じた上限値IUL4 *および下限値ILL4 *が第1のアシスト制御量Ias1 *に対する最終的な制限値である上限値IUL *および下限値ILL *に反映される。このため、ヨーレートYRに基づく補償量I9 *が加味される第1のアシスト制御量Ias1 *を適切に制限することができる。たとえば、本来制限されるべきではない正しい第1のアシスト制御量Ias1 *が最終的な制限値(IUL *,ILL *)により誤って制限される誤検出(誤制限)が発生すること、あるいは本来制限すべきである異常な第1のアシスト制御量Ias1 *が制限されない検出漏れが発生することが抑制される。
(7)これに対し、ヨーレート正常判定部132によりヨーレートYRが異常である旨判定された場合、ゲインGが「0」に設定されることにより、ヨーレート感応リミッタ95,105により演算される制限値(IUL4 *,ILL4 *)は、最終的にはいずれも「0」となる。すなわち、上下限リミット演算部73では、異常なヨーレートYRに基づく制限値(IUL4 *,ILL4 *)が加味されることなく、第1のアシスト制御量Ias1 *に対する最終的な制限値(IUL *,ILL *)が演算される。このため、異常なヨーレートYRに基づく制限値(上限値IUL4 *および下限値ILL4 *)が、上下限リミット演算部73による最終的な制限値(上限値IUL *および下限値ILL *)に影響を及ぼすことがない。
(8)また、ヨーレート正常判定部132は、ヨーレートYRが正常であるかどうかを示す報知信号Scomを生成する。第1のアシスト制御部72は、ヨーレート正常判定部132により生成される報知信号Scomを取り込み、当該取り込まれる報知信号ScomがヨーレートYRの異常を示すものであるとき、ヨーレートYRに基づく補償制御を停止する。具体的には、制御部87は、報知信号ScomがヨーレートYRの異常を示すものであるとき、基本アシスト制御量I1 *に対する補償量I9 *の演算を停止する。このとき、補償量I9 *の演算をいきなり停止するのではなく、補償量I9 *の値を「0」に向けて徐々に減少させるようにしてもよい。このようにすれば、異常なヨーレートYRに基づき制御部87により演算される補償量I9 *は「0」となる。このため、当該補償量I9 *が第1のアシスト制御量Ias1 *の演算に使用されることはない。したがって、第1のアシスト制御量Ias1 *の信頼性を担保することが可能である。
なお、ヨーレート正常判定部132によりヨーレートYRが異常である旨判定される場合、ヨーレートYRに基づく補償制御を停止するために、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、第1のアシスト制御部72は、ヨーレート正常判定部132において生成されるゲインGを取り込む。また、図13に二点鎖線で示されるように、第1のアシスト制御部72において、制御部87と加算器86との間の演算経路には乗算器89を設ける。乗算器89は、制御部87により演算される補償量I9 *とゲインGとを乗算する。ヨーレートYRの値が異常であるとき、ゲインGの値は「0」に設定されるため、補償量I9 *の値は最終的には「0」となる。このようにしても、異常なヨーレートYRに基づく補償量I9 *が第1のアシスト制御量Ias1 *の演算に使用されることはない。
また、製品仕様などによっては、第1のアシスト制御部72がグリップロス判定機能を有していないこともある。すなわち、第1のアシスト制御部72として、先の図13に示されるグリップロス判定部88が割愛された構成が採用されるため、グリップロス判定フラグFgldも生成されない。この場合、ヨーレート正常判定部132は、先の判定条件(D)にのみに基づきヨーレートYRの正常を判定してもよい。ヨーレート正常判定部132は、判定条件(D)が成立するときにはヨーレートYRの値は正常である旨判定し、判定条件(D)が成立しないときにはヨーレートYRの値は異常である旨判定する。
<第5の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第5の実施の形態を説明する。本例は、ヨーレート正常判定部132におけるゲインGの設定方法の点で第4の実施の形態と異なる。
ヨーレート正常判定部132は、ヨーレートYRが正しいかどうかの判定結果に応じてゲインGの値を「0」と「1」との間で切り替えるのではなく、ゲインマップMGを使用してゲインGを演算する。
図16のグラフに示すように、ゲインマップMGは、横軸を実際のヨーレートYRと推定ヨーレートYR*との差分値│ΔYR(=YR*−YR)│、縦軸をヨーレートYRに基づく制限値(IUL4 *,ILL4 *)に対するゲインGとするマップであって、差分値│ΔYR│とゲインGとの関係を規定する。ゲインマップMGは、つぎのような特性を有する。すなわち、差分値│ΔYR│が「0」から第1の設定値YR1に達するまでの間、ゲインGの値は「1」である。差分値│ΔYR│が第1の設定値YR1を超えた以降、第2の設定値YR2に達するまでの間、差分値│ΔYR│の増加に伴いゲインGの値は徐々に減少する。差分値│ΔYR│が第2の設定値YR2を超えた以降、ゲインGの値は「0」に維持される。なお、第1の設定値YR1は、実験などを通じて、ヨーレートYRの値が正常である蓋然性が高いと認められる値に基づき設定される。第2の設定値YR2は、実験などを通じて、ヨーレートYRの値が異常である蓋然性が高いと認められる値に基づき設定される。
したがって、第5の実施の形態によれば、以下の作用および効果を得ることができる。
(9)ヨーレート正常判定部132は、ゲインマップMGを使用することにより、差分値ΔYRに応じたゲインGを演算することができる。また、ヨーレート正常判定部132は、差分値│ΔYR│が第2の設定値YR2を超える値であるとき、ヨーレートYRの値が異常である旨判定することができる。さらに、差分値│ΔYR│が第1の設定値YR1を超え、かつ第2の設定値YR2以下の値であるとき、差分値│ΔYR│が大きくなるほど、より小さな値のゲインGが演算される。すなわち、ヨーレートYRの値が異常である蓋然性が高まるほど、ヨーレートYRに基づく制限値(IUL4 *,ILL4 *)はより小さな値となる。このため、ヨーレートYRに基づく制限値(IUL4 *,ILL4 *)の急変、ひいては上下限リミット演算部73により演算される最終的な制限値(IUL *,ILL *)の急変が抑制される。
なお、ヨーレートYRが異常であるときにヨーレートYRに基づく補償制御を停止するための構成として、先の図13に二点鎖線で示されるように、第1のアシスト制御部72に乗算器89を設ける構成を採用する場合、つぎのようにしてもよい。すなわち、乗算器89は、制御部87により演算される補償量I9 *と、ゲインマップMGを通じて算出されるゲインGとを乗算する。このようにすれば、ヨーレートYRの値が異常である蓋然性が高まるほどゲインGの値がより小さくなるため、このゲインGの減少に応じて、ヨーレートYRに基づく補償量I9 *の値は小さくなる。そして差分値│ΔYR│が第2の設定値YR2を超える値であるとき、ゲインGの値は「0」となるため、ヨーレートYRに基づく補償量I9 *の値も「0」となる。
このようにすれば、ヨーレートYRの異常の度合いに応じて、補償量I9 *の値を「0」に向けて徐々に減少させることができる。また、ヨーレートYRに基づく補償量I9 *の急変、ひいては第1のアシスト制御量Ias1 *の急変が抑制される。また、ヨーレートYRの異常の度合いが高まるほど、第1のアシスト制御量Ias1 *に対する補償量I9 *の寄与度がより小さくなるため、第1のアシスト制御量Ias1 *に対する異常なヨーレートYRに基づく補償量I9 *の影響を抑えることができる。
<第6の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第6の実施の形態を説明する。本例は、ヨーレートセンサ55を通じて検出されるヨーレートYRが異常であるとき、電流指令値演算部61により実行される処理の点で第4の実施の形態と異なる。
図17に示すように、第2のアシスト制御部75には、ハンドル戻り性制御部111、ハンドル戻り速度制御部112およびハンドル戻し制御部113に加え、制御部114が設けられている。制御部114は、第1のアシスト制御部72に設けられた制御部87と同様の演算機能を有している。制御部114は、ヨーレートセンサ55を通じて検出されるヨーレートYRに基づき基本アシスト制御量I1 *に対する補償量I9 *を生成する。制御部114は、ヨーレート正常判定部132により生成される報知信号Scomを取り込み、当該取り込まれる報知信号Scomに基づきヨーレートYRが正常であるのか異常であるのかを認識する。制御部114は、ヨーレートYRが正常である旨認識されるとき、基本アシスト制御量I1 *に対する補償量I9 *の演算を停止する。制御部114は、ヨーレートYRが異常である旨認識されるとき、基本アシスト制御量I1 *に対する補償量I9 *の演算を実行する。
また、第2のガード処理部76には、第1〜第3のリミッタ121〜123に加え、異常値を示す補償量I9 *を個別に制限する第4のリミッタ125が設けられている。第4のリミッタ125は、第1〜第3のリミッタ121〜123と同様の機能を有している。第4のリミッタ125は、制御部114により演算される補償量I9 *の値が上限値Ithを正の方向へ超える場合には補償量I9 *を上限値Ithに制限し、補償量I9 *が下限値−Ithを負の方向へ超える場合には補償量I9 *を下限値−Ithに制限する。上限値Ithおよび下限値−Ithは、それぞれ電動パワーステアリング装置10のECU40として要求される信頼性水準を確保する観点から許容される補償量I9 *の最大の値(絶対値)に基づき設定される。
さて、第1のアシスト制御部72における制御部87は、ヨーレート正常判定部132において生成される報知信号ScomがヨーレートYRの正常を示すものであるとき、基本アシスト制御量I1 *に対する補償量I9 *の演算を実行する。そして、この正常なヨーレートYRに基づく補償量I9 *を加味して第1のアシスト制御量Ias1 *が演算される。また、ヨーレート正常判定部132によってヨーレートYRが正常である旨判定されるとき、ゲインGの値が「1」に設定される。このため、何らかの原因により異常値を示す第1のアシスト制御量Ias1 *が演算されるとき、この第1のアシスト制御量Ias1 *は、正常なヨーレートYRに基づき第4のリミットマップM4を通じて演算される制限値(IUL4 *,ILL4 *)が反映された最終的な制限値(IUL *,ILL *)によって適切に制限される。
これに対し、制御部87は、ヨーレート正常判定部132において生成される報知信号ScomがヨーレートYRの異常を示すものであるとき、ヨーレートYRに基づく補償量I9 *の演算を停止する。このため、異常なヨーレートYRに基づく補償量I9 *が加味されることなく、第1のアシスト制御量Ias1 *が演算される。また、ヨーレート正常判定部132によってヨーレートYRが異常である旨判定されるとき、ゲインGの値が「0」に設定される。このゲインGがヨーレート感応リミッタ95,105により演算される上限値IUL4 *および下限値ILL4 *にそれぞれ乗算されることにより、最終的な上限値IUL4 *および下限値ILL4 *はいずれも「0」となる。このため、異常なヨーレートYRに基づく上限値IUL4 *および下限値ILL4 *が、上下限リミット演算部73により演算される最終的な上限値IUL *および下限値ILL *に影響を及ぼすことがない。
また、第2のアシスト制御部75における制御部114は、報知信号ScomがヨーレートYRの異常を示すものであるとき、当該ヨーレートYRに基づく補償量I9 *の演算を実行する。ここではヨーレートYRが異常であるため、このヨーレートYRに基づき演算される補償量I9 *も異常な値を示すおそれがあるところ、この異常な補償量I9 *は第4のリミッタ125により適切に制限される。異常な補償量I9 *に対する上限値Ithおよび下限値−Ithは、それぞれ電動パワーステアリング装置10のECU40として要求される信頼性水準を確保する観点から許容される補償量I9 *の最大の値(絶対値)に基づき設定される。このため、第4のリミッタ125において実行される補償量I9 *に対する制限処理の信頼性水準が、ヨーレートYRの信頼性水準(たとえば、ASIL−QM)の影響を受けることはない。したがって、補償量I9 *を加味して演算される第2のアシスト制御量Ias2 *は信頼性要求水準を満足する。ひいては、第1のアシスト制御量Ias1 *と第2のアシスト制御量Ias2 *とが合算されることにより得られる最終的なアシスト制御量Ias *についても、信頼性要求水準を満足する。
したがって、第6の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(10)安全性(ASIL−A〜D)が担保されないヨーレートYRに基づく補償量I9 *を演算する制御部87を第1のアシスト制御部72に設けた場合であれ、最終的なアシスト制御量Ias *の信頼性を担保することが可能である。
(11)ヨーレートYRが異常であるとき、第1のアシスト制御部72の制御部87により演算される補償量I9 *に代えて、第2のアシスト制御部75の制御部114により演算される補償量I9 *が使用される。この補償量I9 *は第4のリミッタ125により適切に制限される。ヨーレートYRが正常であれ異常であれ、ヨーレートYRに基づく補償量I9 *が最終的なアシスト制御量Ias *に加味されることにより、優れた操舵感が維持される。
ちなみに、操舵角θsに基づく補償制御についても、本例のヨーレートYRに基づく補償制御と同様に取り扱うことができる。すなわち、第1のアシスト制御部72にも、ハンドル戻り性制御部111、ハンドル戻り速度制御部112、およびハンドル戻し制御部113を設ける。また、上下限リミット演算部73には、操舵角θsに応じて第1のアシスト制御量Ias1 *に対する上限値および下限値を演算する感応リミッタを設ける。第2のアシスト制御部75は、図17に示される構成そのままである。また、電流指令値演算部61には、操舵角θsが正しいかどうかを判定する正常判定部(ヨーレート正常判定部132に相当する構成)を設ける。そして本例と同様に、操舵角θsが正常であるか異常であるかに基づき、第1のアシスト制御部72に設けられる各制御部(111〜113)により演算される補償量(I6 *〜I8 *)、および第2のアシスト制御部75に設けられる各制御部(111〜113)により演算される補償量(I6 *〜I8 *)を切り替えて使用する。
また、アシスト制御量Ias *を演算するために使用されることがある状態量のうち、信頼性要求水準が満たされていない状態量としては、操舵角θsおよびヨーレートYR以外にも、たとえば横加速度が存在する。横加速度とは、車両が旋回するとき進行方向(前後方向)に対する直交方向(左右方向)へ向けて作用する加速度をいう。横加速度は、たとえば車両に設けられる加速度センサを通じて検出される。この横加速度に基づく補償制御についても、本例のヨーレートYRに基づく補償制御と同様に取り扱うことができる。この場合、横加速度に基づく補償量を演算する制御部を第1のアシスト制御部72および第2のアシスト制御部75にそれぞれ設ける。また、電流指令値演算部61には、横加速度が正しいかどうかを判定する正常判定部(ヨーレート正常判定部132に相当する構成)を設ける。そのうえで、本例と同様に、横加速度が正常であるか異常であるかに基づき、第1のアシスト制御部72に設けられる制御部により演算される補償量、および第2のアシスト制御部75に設けられる制御部により演算される補償量を切り替えて使用する。
<他の実施の形態>
なお、各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1のアシスト制御部72および第2のアシスト制御部75において実行される補償制御の種類、および第1のアシスト制御部72および第2のアシスト制御部75において使用する信号は、車両あるいは電動パワーステアリング装置10の仕様などに応じて適宜変更される。ただし、第1〜第3の実施の形態においては、この場合であれ、要求される信頼性水準を満たしている信号は、第1のアシスト制御部72においてリミットマップによる制限処理を実行する。要求される信頼性水準を満たしていない信号は、第2のアシスト制御部75において上下限値(Ith,−Ith)による制限処理および変化量制限値(δI)による変化量制限処理を実行する。ただし、変化量制限処理機能は割愛してもよい。
・第2のアシスト制御部75は、ハンドル戻り速度制御部112を割愛して、ハンドル戻し性制御部111およびハンドル戻し制御部113のみから構成してもよい。また、第2のアシスト制御部75は、ハンドル戻り性制御部111を割愛して、ハンドル戻り速度制御部112およびハンドル戻し制御部113のみから構成してもよい。また、第2のアシスト制御部75は、ハンドル戻り速度制御部112およびハンドル戻し制御部113の少なくとも一のみを有していてもよい。さらに、ハンドル戻り性制御部111、ハンドル戻り速度制御部112およびハンドル戻し制御部113に加えて、他の補償制御部を加えてもよい。また、第6の実施の形態において、製品仕様などによって操舵角θsをアシスト制御量Ias *の演算に使用しない場合、操舵角θsに基づく補償量の演算機能部分である、ハンドル戻り性制御部111、ハンドル戻り速度制御部112、およびハンドル戻し制御部113を割愛してもよい。
・最終的なアシスト制御量Ias *に対する寄与度(影響度)が他の制御量または補償量に比べて低い補償量を演算する制御部は、第1のアシスト制御部72および第2のアシスト制御部75のどちらに設けてもよい。たとえば、第1〜第5の実施の形態では第1のアシスト制御部72の構成要素であったトルク微分制御部84を第2のアシスト制御部75の構成要素として設けてもよい。この場合、第2のガード処理部76には、トルク微分制御部84により演算される補償量I4 *の変化範囲を上限値Ithおよび下限値−Ithを使用して制限するリミッタを別途設ける。トルク微分制御部84により演算される補償量I4 *は、最終的なアシスト制御量Ias *全体に対する寄与度が低い。このため、トルク微分制御部84が第1のアシスト制御部72および第2のアシスト制御部75のどちらに設けられていても、信頼性水準に対する影響は特にない。
・各実施の形態における第1〜第4のリミットマップM1〜M4を、いわゆる車速感応型のマップとしてもよい。すなわち、第1〜第4のリミットマップM1〜M4は状態量(τ,dτ,ωs,YR)に応じた第1のアシスト制御量Ias1 *に対する制限値(上限値IUL1 *〜IUL4 *および下限値ILL1 *〜ILL4 *)を車速Vに応じて規定する。
・電動パワーステアリング装置には種種のタイプが存在する。ECU40は、ラック軸23にモータの動力を付与するタイプの電動パワーステアリング装置に適用してもよい。
・ECU40は、電動パワーステアリング装置10だけでなく、ステアバイワイヤシステムあるいは自動操舵システムなどにおいて、転舵輪を転舵させるアクチュエータの制御にも好適である。