JP6374226B2 - リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池 - Google Patents

リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法に関する。また、本発明は、前記製造方法によって得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池に関する。
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の携帯型電子機器に広く用いられている。リチウムイオン二次電池用の正極活物質には、LiCoO、LiNiO、LiNi0.8Co0.2、LiMn等の、リチウムと遷移金属等との複合酸化物(以下、リチウム含有複合酸化物ともいう。)が用いられている。
近年、携帯型電子機器や車載用のリチウムイオン二次電池として小型化・軽量化が求められている。そのため、リチウムイオン二次電池には、単位質量あたりの放電容量(以下、単に「放電容量」という。)、充放電効率等の電池特性のさらなる向上が望まれている。
放電容量を向上させるために、正極活物質として、たとえばLi1.2Ni0.175Co0.10Mn0.525のような、遷移金属元素に対するLi比が高いリチウム含有複合酸化物(以下、「Liリッチ系正極材料」ともいう。)を用いることが提案されている(例えば特許文献1)。
Liリッチ系正極材料は、たとえば、炭酸塩共沈法により得られる共沈化合物(遷移金属元素を含有する炭酸化合物)を炭酸リチウム等のリチウム化合物と混合し焼成することで得られる。
しかし、従来の技術で製造したLiリッチ系正極材料は、これを用いて得られるリチウムイオン二次電池の初期の放電容量および初期の充放電効率が必ずしも充分とはいえず、改善が望まれる。
特表2012−511809号公報
本発明は、リチウムイオン二次電池の初期の放電容量と充放電効率を向上できる正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記製造方法によって得られるリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
本発明は、[1]〜[10]の構成を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を提供する。
[1]NiおよびCoのいずれか一方または両方と、MnとLiとを含み、Liのモル量がNi、CoおよびMnの総モル量に対して1.2倍超である複合酸化物(I)を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、
下記化合物(A)と下記化合物(B)とを混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を、酸素含有雰囲気下にて450〜700℃で焼成する第1の焼成工程と、
前記第1の焼成工程で得られた焼成物を、酸素含有雰囲気下にて750〜1000℃で焼成することにより前記複合酸化物(I)を得る第2の焼成工程とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
化合物(A):水を分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定される体積基準のD50径が3〜15μmであり、D90径が40μm未満であり、NiおよびCoのいずれか一方または両方とMnとを含む炭酸化合物。
化合物(B):2−プロパノールを分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定される体積基準のD50径が3〜15μmであり、D90径が40μm未満である炭酸リチウム。
[2]前記化合物(B)のD50径が4〜11μmであり、D90径が25μm未満である、[1]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[3]前記化合物(B)のD50径が前記化合物(A)のD50径以下である、[1]または[2]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[4]前記複合酸化物(I)が、下記一般式(I−1)で表される、[1]〜[3]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
LiNiCoMnMe …(I−1)
ただし、Meは、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mg、Mo、Ru、Nb、VおよびWからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、1.2<a<1.6、0.5≦z≦0.8、x+y+z=1、0≦b≦0.1、2.1<p<2.7である。
[5]前記化合物(A)が、下記一般式(A−1)で表される、[1]〜[4]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
NiCoMnMeCO …(A−1)
ただし、Meは、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mg、Mo、Ru、Nb、VおよびWからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、0.5≦z≦0.8、x+y+z=1、0≦b≦0.1である。
[6]前記一般式(A−1)におけるx、y、zがそれぞれ、0.19≦x≦0.22、0.14≦y≦0.18、0.62≦z≦0.67である、[5]に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[7]前記複合酸化物(I)の表面に、Alを含む酸化物を存在させる工程をさらに有する、[1]〜[6]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[8]前記複合酸化物(I)の表面に、SO 2−、PO 3−、およびFからなる群から選ばれる少なくとも1種の陰イオンとLiとを含む化合物を存在させる工程をさらに有する、[1]〜[7]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[9]前記混合工程において、前記化合物(A)と前記化合物(B)とを混合する際に水を添加する、[1]〜[8]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
[10][1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池用正極活物質と、バインダーとを含むリチウムイオン二次電池用正極。
[11][10]に記載のリチウムイオン二次電池用正極と、負極と、非水電解質とを含むリチウムイオン二次電池。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法によれば、リチウムイオン二次電池の初期の放電容量(以下、初期放電容量ともいう。)および初期の充放電効率(以下、初期効率ともいう。)を向上できる正極活物質を製造できる。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極によれば、リチウムイオン二次電池の初期放電容量および初期効率を向上できる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、初期放電容量および初期効率に優れる。
[実施例]中、例1〜4で製造した正極活物質を用いたリチウム二次電池の初期特性評価で得られた放電曲線を示すグラフである。
本発明において、元素記号(例えば、「Li」)は元素を示し、特に言及の無い限り、その元素の単体の物質(例えば、金属)を示すものではない。
本発明において、複合酸化物の元素の比率は、初回充電(活性化処理ともいう。)前の正極活物質における値である。
本発明において、D50径とは、体積基準で求めた粒度分布の全体積を100%とした累積体積分布曲線において、累積体積が50%となる点の粒子径を意味する。また、D10径、D90径、D99径はそれぞれ、前記累積体積分布曲線において、累積体積が10%、90%、99%となる点の粒子径を意味する。粒度分布は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定した頻度分布および累積体積分布曲線で求められる。粒子径の測定は、測定対象の粉末を所定の分散媒中に超音波処理などで充分に分散させて粒度分布を測定する(たとえば、HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置Partica LA−950VII、などを用いる)ことで行なわれる。
<リチウムイオン二次電池用正極活物質>
本発明の製造方法(以下、本製造方法という。)で得られるリチウムイオン二次電池用の正極活物質は、NiおよびCoのいずれか一方または両方と、Mnと、Liとを含み、Liのモル量がNi、CoおよびMnの総モル量に対して1.2倍超である複合酸化物(I)を有する。
正極活物質は、複合酸化物(I)と、複合酸化物(I)以外の化合物(以下、異種化合物という。)とを有することが好ましい。異種化合物は、複合酸化物(I)の表面に存在することがより好ましい。異種化合物が、複合酸化物(I)の表面に存在する正極活物質を使用すると、リチウムイオン二次電池のサイクル特性(充放電を繰り返した後に電池の放電容量が低下しない特性)またはレート特性(高い放電レートで放電した際に電池の放電容量が低下しない特性)を向上できる。
(複合酸化物(I))
複合酸化物(I)は、NiおよびCoのいずれか一方または両方と、Mnと、Liとを含む。複合酸化物(I)中の、Ni、CoおよびMnの合計モル量(M)に対するLiのモル量の比(以下、Li/M比ともいう)は1.2超である。複合酸化物(I)に含まれる金属元素含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)測定により、算出できる。正極活物質のLi/M比は、リチウムイオン二次電池の初期放電容量に与える影響が大きい。複合酸化物(I)のLi/M比が1.2超であれば、正極活物質のLi/Mが高くなり、リチウムイオン二次電池の初期放電容量を十分高くできる。
複合酸化物(I)は、NiおよびCoのうち、少なくともNiを含むことが好ましく、NiおよびCoの両方を含むことが特に好ましい。
複合酸化物(I)は、Li、Ni、CoおよびMn以外の金属元素(以下、他の金属元素Meという。)を含んでいてもよい。他の金属元素Meとしては、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mg、Mo、Ru、Nb、V、W等が挙げられる。また、複合酸化物(I)は一部の酸素(O)がフッ素(F)に置換されてもよい。
複合酸化物(I)の組成としては、公知の種々の組成を採用できる。
複合酸化物(I)は、下記一般式(I−1)で表されることが好ましい。式(I−1)で表される化合物は、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くできる。
LiNiCoMnMe …(I−1)
ただし、Meは、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mg、Mo、Ru、Nb、VおよびWからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、1.2<a<1.6、0.5≦z≦0.8、x+y+z=1、0≦b≦0.1、2.1<p<2.7である。
一般式(I−1)において、aは、リチウムイオン二次電池の容量を高くできる点で、1.3≦a≦1.55であることが好ましく、1.35≦a≦1.50であることが特に好ましい。
xは、リチウムイオン二次電池の容量を高くできる点で、0.15≦x≦0.4であることが好ましく、0.19≦x≦0.22であることが特に好ましい。
yは、リチウムイオン二次電池の容量を高くできる点で、0≦y≦0.25であることが好ましく、0.14≦y≦0.18であることが特に好ましい。
zは、リチウムイオン二次電池のレート特性とサイクル特性を高める点で0.56≦z≦0.76であることが好ましく、0.62≦z≦0.67であることが特に好ましい。
bは、0≦b≦0.05であることが好ましい。
qは、0≦q≦0.05であることが好ましい。
複合酸化物(I)としては、Li1.45Ni0.193Co0.150Mn0.6572.45、Li1.41Ni0.193Co0.150Mn0.6572.41、Li1.28Ni0.33Co0.04Mn0.632.28、Li1.50Ni0.25Mn0.752.50、Li1.50Ni0.225Co0.05Mn0.7252.50、Li1.50Ni0.20Co0.10Mn0.702.50、Li1.50Ni0.167Co0.167Mn0.6662.50、Li1.40Ni0.30Mn0.702.40、Li1.50Ni0.27Co0.06Mn0.672.40、Li1.40Ni0.24Co0.12Mn0.642.40、Li1.30Ni0.35Mn0.652.30、Li1.30Ni0.28Co0.14Mn0.582.30、Li1.22Ni0.39Mn0.612.22、Li1.22Ni0.363Co0.062Mn0.5852.22、が好ましく、Li1.45Ni0.193Co0.150Mn0.6572.45が特に好ましい。
複合酸化物(I)は、XRD(X線源:CuKα)測定において、層状岩塩型結晶構造(空間群R−3m)に帰属されるピークを有することが好ましい。また、層状LiMnOの結晶構造に帰属されるピークを有することがより好ましい。層状LiMnOに帰属されるピークは、XRDスペクトルにおいて、2θ=20〜25°の範囲に観察される。
複合酸化物(I)は粒子状であることが好ましい。
複合酸化物(I)は、水を分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定される体積基準のD50径が、2.5〜14μmであることが好ましく、3.5〜10μmであることがより好ましく、4.5〜9.5μmであることが特に好ましい。複合酸化物(I)のD50径が前記範囲の下限値以上であると、正極活物質の充填性が良好となり、電極密度を充分に高くでき、リチウムイオン二次電池の放電容量が向上する。複合酸化物(I)のD50径が前記範囲の上限値以下であると、正極集電体上(正極表面)に形成される正極活物質層の平坦性が充分に高く、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。
複合酸化物(I)は比表面積が、1〜12m/gであることが好ましく、2〜10m/gであることがより好ましく、3〜8m/gであることが特に好ましい。複合酸化物(I)の比表面積が前記範囲の下限値以上であると、リチウムイオン二次電池の放電容量とレート特性が向上する。複合酸化物(I)の比表面積が前記範囲の上限値以下であると、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。
比表面積は、窒素ガスを使用し、吸着BET(Brunauer、Emmet、Teller)法で測定した値である。
(異種化合物)
正極活物質に含まれる異種化合物としては、Alを含む酸化物(以下、化合物(II)という)、SO 2−、PO 3−、およびFからなる群から選ばれる少なくとも1種の陰イオンとLiとを含む化合物(以下、化合物(III)という)等が挙げられる。
[化合物(II)]
化合物(II)としては、Alの陽イオンの酸化物が好ましく、Alが特に好ましい。
化合物(II)は、複合酸化物(I)の表面に存在することが好ましい。複合酸化物(I)の表面に化合物(II)が存在する正極活物質をリチウムイオン二次電池に使用すると、複合酸化物(I)と電解液との接触頻度が減少する。これにより、複合酸化物(I)の表面から電解液にMn等の遷移金属元素が溶出し難くなり、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上しやすくなる。
化合物(II)は、複合酸化物(I)の表面全体にわたって存在してもよく、部分的に存在してもよい。リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上しやすい点で、化合物(II)は、複合酸化物(I)の表面全体にわたって均一に存在することがより好ましい。
化合物(II)は、結晶性であっても非晶質であってもよく、Mn等の遷移金属元素の電解液への溶出を抑制し、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を高める観点から、非晶質が好ましい。化合物(II)が非晶質とは、XRD測定において、化合物(II)に帰属されるピークが観察されないことをいう。化合物(II)が非晶質であることで前記効果が得られる理由は明確ではないが、化合物(II)が非晶質であることで、複合酸化物(I)の表面に均一に存在しやすくなることが要因と考えられる。
複合酸化物(I)の表面に化合物(II)が存在していることは、透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法分析(TEM−EDX)、X線マイクロアナライザ分析法(EPMA)、X線光電子分光法(XPS)等により評価できる。
正極活物質の断面を切り出した後、EPMAやTEM−EDXによりAlの元素マッピングを行うことで、化合物(II)の分布状態を評価できる。EPMAでは、正極活物質における二次粒子の表面に近い一次粒子だけでなく、二次粒子の内部にある一次粒子にも化合物(II)が存在していることを確認できる。TEM−EDXでは、Alが一次粒子の表面に存在するかどうかを確認できる。
化合物(II)の化学状態は正極活物質のXPSで評価できる。例えば、XPSでAl(2p)のピークが73.6eV〜74.4eVの範囲であればAlを含む酸化物が存在していることを確認できる。
正極活物質に化合物(II)を含む場合、正極活物質に含まれるNi、CoおよびMnの合計モル量(M)に対するAlのモル量の比(以下、Al/M比ともいう)は、0.005〜0.06が好ましく、0.01〜0.05がより好ましく、0.015〜0.04が特に好ましい。Al/M比が前記範囲内である正極活物質は、リチウムイオン二次電池のレート特性およびサイクル特性を向上できる。
複合酸化物(I)の表面に存在する化合物(II)に含まれるAlの量(モル)は、正極活物質を酸に溶解し、高周波誘導結合プラズマ(ICP)測定を行うことによって測定される。なお、ICP測定によって前記Alの量を求めることができない場合には、複合酸化物(I)の表面に化合物(II)を存在させる際に用いる材料(例えば、水溶液(II)中のAlの量に基づいて前記Alの量を算出する。
[化合物(III)]
化合物(III)は、SO 2−、PO 3−、およびFからなる群から選ばれる少なくとも1種の陰イオン(以下、陰イオン(A)ともいう。)とLiとを含む化合物である。
化合物(III)としては、LiSO、LiPO、およびLiFが好ましい。これらの中で、リチウムイオン二次電池のサイクル特性に優れることから、LiFが特に好ましい。
化合物(III)は、複合酸化物(I)の表面に存在することが好ましい。複合酸化物(I)の表面に化合物(III)が存在する正極活物質は、リチウムイオン二次電池の初期効率を向上できる。複合酸化物(I)の表面に存在し、組成比に対して過剰量のLi(遊離Liともいう)を化合物(III)の陰イオン(A)により固定化することで、充放電に使われるLiが複合酸化物内を拡散しやすくなるためと考えられる。
化合物(III)は、複合酸化物(I)の表面全体にわたって存在してもよく、部分的に存在してもよい。化合物(III)は、複合酸化物(I)の表面に部分的に存在することがより好ましい。
複合酸化物(I)の表面に存在する化合物(III)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
複合酸化物(I)の表面に化合物(III)が存在していることは、TEM−EDX、EPMA、XPSやXRD測定により評価する。
正極活物質の断面を切り出した後、EPMAやTEM−EDXによりS、PおよびFの元素マッピングを行うことで、化合物(III)の分布状態を評価する。
化合物(III)の化学状態はXPSやXRDで評価できる。例えば、正極活物質をXPSで分析し、F(1s)のピークが684.6eV〜685.4eVであればLiF、P(2p)のピークが132.4eV〜133.4eVの範囲であればLiPO、が存在すると判断することができる。XRD測定ではLiPO、またはLiSOに帰属されるピークの有無によってそれぞれの化合物の存在を判断することができる。
正極活物質が、複合酸化物(I)の表面に化合物(III)を存在させたものである場合、正極活物質に含まれる化合物(III)由来の陰イオン(A)の量は、下式(1)で求められる、陰イオン(A)の相対量(Xa)が0.001〜0.1となる量であることが好ましい。相対量(Xa)が、0.001以上であると、リチウムイオン二次電池の充放電効率が向上しやすく、0.1以下であると不純物生成により、リチウムイオン二次電池の容量低下が起きにくい。相対量(Xa)は、0.003〜0.07がより好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。
相対量(Xa)は、複合酸化物(I)に含まれるアルカリ金属元素の合計モル量に対する、化合物(III)に含まれるSO 2−、PO 3−およびFの各陰イオン(A)のモル量の比に、それぞれの陰イオン(A)の価数の絶対値を乗じた値である。なお、式(1)に示すとおり、正極活物質に2種以上の陰イオン(A1)、(A2)…が含まれる場合には、相対量(Xa)は、正極活物質に含まれるすべての陰イオンの相対量の合計値である。すなわち、各陰イオンについて、「陰イオン(A1)の相対量」、「陰イオン(A2)の相対量」…を求め、これらの合計が上記した範囲にあること意味する。
陰イオン(A)の相対量(Xa)=Σ(f×v)/f・・・(1)
:化合物(III)に含まれる各陰イオン(A)のモル量
:各陰イオン(A)の価数
:正極活物質に含まれるアルカリ金属元素の合計モル量
正極活物質に含まれる化合物(III)由来の陰イオン(A)の量(モル)は、蛍光X線分析により測定する。なお、蛍光X線分析によって陰イオン(A)の量を求めることができない場合には、複合酸化物(I)の表面に化合物(III)を存在させる際に用いる材料(たとえば水溶液(III))中の前記の元素の量に基づいて前記の元素の量を算出する。
<リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法>
本製造方法は、NiおよびCoのいずれか一方または両方と、Mnと、Liとを含み、Li/M比が1.2超である複合酸化物(I)を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、
下記化合物(A)と下記化合物(B)とを混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を、酸素含有雰囲気下にて450〜700℃で焼成する第1の焼成工程と、
前記第1の焼成工程で得られた焼成物を、酸素含有雰囲気下にて750〜1000℃で焼成することにより前記複合酸化物(I)を得る第2の焼成工程とを有する。
化合物(A):水を分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定される体積基準のD50径が3〜15μmであり、D90径が40μm未満であり、NiおよびCoのいずれか一方または両方とMnとを含む炭酸化合物。
化合物(B):2−プロパノールを分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定される体積基準のD50径が3〜15μmであり、D90径が40μm未満である炭酸リチウム。
(化合物(A))
化合物(A)は、NiおよびCoのいずれか一方または両方とMnとを含む炭酸化合物である。
化合物(A)のNi、CoおよびMnのモル比は、複合酸化物(I)のNi、CoおよびMnのモル比と同じであることが好ましい。たとえば、一般式(I−1)で表される複合酸化物(I)を製造する場合、化合物(A)は、下記一般式(A−1)で表されることが好ましい。
NiCoMnMeCO …(A−1)
ただし、Meは、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mg、Mo、Ru、Nb、VおよびWからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、0.5≦z≦0.8、x+y+z=1、0≦b≦0.1である。
一般式(A−1)におけるx、y、z、bの好ましい範囲は、前記一般式(I−1)におけるx、y、z、bの好ましい範囲と同様である。
化合物(A)は、水を分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定される体積基準のD50径が3〜15μmであり、D90径が40μm未満である。化合物(A)のD50径は4〜11μmが好ましく、5〜10μmが特に好ましい。化合物(A)のD90径は30μm未満が好ましく、25μm未満が特に好ましい。
化合物(A)のD50径が3〜15μmであり、D90径が40μm未満であると、複合酸化物(I)のD50径が2.5〜14μmの範囲内となりやすい。また、化合物(A)のD50径が15μm以下であり、D90径が40μm未満であると、混合工程において、化合物(B)と均一に混合しやすい。化合物(A)のD50径が3μm以上であると、取り扱い性が良好である。
化合物(A)は比表面積が、50〜250m/gであることが好ましく、80〜220m/gであることがより好ましく、100〜200m/gであることが特に好ましい。化合物(A)の比表面積が前記範囲であると複合酸化物(I)の比表面積を好ましい範囲に制御しやすい。
化合物(A)の比表面積は、複合酸化物(I)と同様の方法で測定できる。
化合物(A)は、炭酸塩共沈法により製造することが好ましい。炭酸塩共沈法とは、遷移金属元素を含む金属塩の水溶液と、炭酸イオン源を含む水溶液とを混合し、溶液中で共沈反応させ、遷移金属元素を含む炭酸塩(共沈物)を析出させる方法である。炭酸塩共沈法では、多孔質で比表面積が高い共沈物が得られ、この共沈物を化合物(A)として使用すれば、高い放電容量を示す正極活物質が得られる。
化合物(A)のD50径は、共沈反応により析出させる化合物(A)の組成に大きな影響を受けるが、例えば、撹拌条件、反応温度、金属塩水溶液の濃度と添加速度、反応時間等を調整することにより、化合物(A)のD50径を所定の値にできる。撹拌は単位体積あたりの撹拌動力が大きいほど炭酸塩の凝集が抑制されてD50径が小さくなる傾向がある。反応温度が高いほど炭酸塩の凝集が促進されてD50径が大きくなる傾向がある。金属塩水溶液濃度が高いほど、また添加速度が速いほど短時間でD50径が大きくなる傾向がある。反応時間を短くすると、D50径が小さくなる傾向がある。化合物(A)のD50を3〜15μmにできる一例としては、実施例に記載の方法が挙げられる。
遷移金属元素を含む金属塩としては、遷移金属元素の硝酸塩、酢酸塩、塩化物塩、硫酸塩等が挙げられる。材料コストが比較的安価で優れた電池特性が得られることから、遷移金属元素の硫酸塩が好ましく、Niの硫酸塩、Coの硫酸塩およびMnの硫酸塩からなる硫酸塩がより好ましい。
Niの硫酸塩としては、例えば、硫酸ニッケル(II)・六水和物、硫酸ニッケル(II)・七水和物、硫酸ニッケル(II)アンモニウム・六水和物などが挙げられる。
Coの硫酸塩としては、例えば、硫酸コバルト(II)・七水和物、硫酸コバルト(II)アンモニウム・六水和物などが挙げられる。
Mnの硫酸塩としては、例えば、硫酸マンガン(II)・五水和物、硫酸マンガン(II)アンモニウム・六水和物などが挙げられる。
反応溶液には必要に応じて、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mg、Mo、Ru、Nb、VおよびWからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む金属塩を加えてもよい。該金属塩としては、これらの金属の硝酸塩、酢酸塩、塩化物塩、硫酸塩等が挙げられる。
炭酸イオン源としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸水素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。炭酸イオン源は、反応溶液のpHを調整する役割も果たす。炭酸塩共沈法において、反応溶液のpHは、7〜9で特定のpHに一定に保持することが好ましい。
反応溶液には、遷移金属元素を含む金属塩の溶解度を調整するために、アンモニア水溶液または硫酸アンモニウム水溶液を加えてもよい。
炭酸塩共沈法により析出させた共沈物は、反応溶液から、ろ過、沈降分離、または遠心分離により分離することが好ましい。ろ過または遠心分離には、加圧ろ過機、減圧ろ過機、遠心分級機、フィルタープレス、スクリュープレス、回転型脱水機等が使用できる。
共沈物を反応溶液から分離した後、共沈物を洗浄する工程を実施することが好ましい。洗浄により、共沈物に付着しているNaなどの不純物イオンを除去できる。共沈物の洗浄方法としては、例えば、ろ過とイオン交換水への分散を繰り返す方法等が挙げられる。
(化合物(B))
化合物(B)は、2−プロパノールを分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定される体積基準のD50径が3〜15μmであり、D90径が40μm未満の炭酸リチウムである。化合物(B)のD50径は4〜11μmが好ましく、5〜10μmが特に好ましい。化合物(B)のD90径は25μm未満が好ましく、20μm未満が特に好ましい。
化合物(B)のD50径が15μm以下であると、化合物(B)と化合物(A)との反応性が高くなる。化合物(B)のD90径が40μm以下であると、化合物(B)と化合物(A)が反応する際に局所的にLi濃度の高い部分が生成しにくく、組成が均一な複合酸化物(I)が得られやすい。化合物(B)のD50径が15μm以下であり、D90径が40μm未満であることで、得られる正極活物質を有するリチウムイオン二次電池の初期放電容量や初期効率が向上する。
本製造方法においては、リチウムイオン二次電池の初期放電容量や初期効率がより優れる点から、化合物(B)のD50径が化合物(A)のD50径以下であることが好ましく、化合物(B)のD50径が化合物(A)のD50径より小さいことがより好ましい。化合物(B)のD50径が化合物(A)のD50径以下であると、化合物(A)と化合物(B)を混合した場合に化合物(A)の周囲を覆うように化合物(B)が存在するため、焼成時に反応性が向上すると考えられる。
(混合工程)
本製造方法の混合工程では、化合物(A)と化合物(B)とを混合する。
混合工程における、化合物(A)と化合物(B)との混合割合は、化合物(A)に含まれるNi、CoおよびMnの合計モル量に対する化合物(B)に含まれるLiのモル量の比(混合比)が1.2超となる割合であることが好ましい。混合比は、1.2〜1.6がより好ましく、1.3〜1.55がさらに好ましく、1.35〜1.50が特に好ましい。混合比が前記の範囲内であれば、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くできる。
化合物(A)と化合物(B)とを混合する方法は、例えば、ロッキングミキサ、ナウタミキサ、スパイラルミキサ、カッターミル、Vミキサなどを使用する方法などが挙げられる。
混合工程において、化合物(A)と化合物(B)とを混合する際に水を添加することが好ましい。これにより、化合物(A)と化合物(B)とをより均一に混合できる。その結果、得られた正極活物質の電池特性、特に初期特性が向上する。
水の添加量は、化合物(A)と化合物(B)との合計質量に対して0.15〜15質量%が好ましく、0.3〜12質量%がより好ましい。
(第1の焼成工程、第2の焼成工程)
本製造方法は、混合工程で得られた混合物を、酸素含有雰囲気下にて450〜700℃の温度で焼成する第1の焼成工程と、第1の焼成工程で得られた焼成物を、酸素含有雰囲気下にて750〜1000℃の温度で焼成する第2の焼成工程を行う。
比較的低温での第1の焼成工程の後、高温での第2の焼成を行うことで得られる正極活物質は、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くでき、サイクル特性を向上できる。この理由は、以下のように考えられる。第1の焼成工程では、化合物(A)と化合物(B)とが反応して複合酸化物となる。次に、第2の焼成工程でこの複合酸化物の結晶性が向上し、複合酸化物(I)が得られる。反応の工程と、結晶性の向上の工程とを分けることにより、複合酸化物(I)中のLiの分散状態が均一となる。その結果、複合酸化物(I)を含む正極活物質を有するリチウムイオン二次電池は、電池特性が向上すると考えられる。
第1の焼成工程における焼成温度は、450〜700℃であり、500〜650℃が好ましく、500〜600℃が特に好ましい。第1の焼成工程における焼成時間は、2〜12時間が好ましく、4〜10時間がより好ましい。
第2の焼成工程における焼成温度は、750〜1000℃であり、800〜950℃が好ましく、850〜930℃が特に好ましい。第2の焼成工程における焼成時間は、4〜24時間が好ましく、6〜20時間がより好ましい。
第1の焼成工程および第2の焼成工程はそれぞれ、電気炉、連続焼成炉、ロータリーキルン等の焼成装置を使用して行うことができる。
第1の焼成工程および第2の焼成工程はそれぞれ、酸素含有雰囲気下で行う。これにより、化合物(A)中の遷移金属元素が充分に酸化され、結晶性が高くなりやすい。第1および第2の焼成工程は、大気雰囲気下で行うことが好ましく、空気を供給しながら行うことが特に好ましい。
(表面処理工程)
本製造方法は、第2の焼成工程で得られた複合酸化物(I)の表面に異種化合物を存在させる工程(表面処理工程)をさらに有することが好ましい。表面処理工程を経て得られる正極活物質は、リチウムイオン二次電池のサイクル特性またはレート特性をさらに向上できる。
表面処理工程としては、複合酸化物(I)の表面に化合物(II)および/または化合物(III)を存在させる工程であることが好ましい。例えば下記の表面処理工程1および/または表面処理工程2を行う工程であることが好ましい。
表面処理工程1:前記複合酸化物(I)の表面に、化合物(II)を存在させる工程。
表面処理工程2:前記複合酸化物(I)の表面に、化合物(III)を存在させる工程。
表面処理工程において、複合酸化物(I)の表面に化合物(II)および/または化合物(III)を存在させる方法としては、粉体混合法、気相法、スプレーコート法、浸漬法等が挙げられる。
粉体混合法では、化合物(II)および/または化合物(III)と複合酸化物(I)とを混合した後に、300〜600℃の温度で加熱する方法が好ましい。
気相法では、化合物(II)および/または化合物(III)を気化し、該化合物を複合酸化物(I)の表面に接触し、反応させることで、複合酸化物(I)の表面に化合物(II)および/または化合物(III)を存在させることができる。気相法では、必要に応じ接触後に、100〜600℃の温度で加熱してもよい。接触時の気圧は大気圧でもよく、加圧されていてもよく、減圧されていてもよい。
スプレーコート法では、Alの陽イオンを含む溶液(溶液(II)という。)および/または陰イオン(A)(SO 2−、PO 3−、およびFからなる群から選ばれる少なくとも1種の陰イオン)を含む溶液(溶液(III)という。)を複合酸化物(I)に噴霧した後、加熱することで、複合酸化物(I)の表面に化合物(II)および/または化合物(III)を存在させることができる。
浸漬法では、溶液(II)および/または溶液(III)の中に複合酸化物(I)を浸漬し、乾燥またはろ過した後に加熱することで、複合酸化物(I)の表面に化合物(II)および/または化合物(III)を存在させることができる。
上記した表面処理方法のなかでも、接触後にろ過または蒸発により溶媒を除去する工程が不要でありプロセスが簡便な点、複合酸化物(I)の表面に化合物(II)および/または化合物(III)を均一に形成しやすい点から、スプレーコート法または浸漬法がより好ましく、スプレーコート法が特に好ましい。
スプレーコート法または浸漬法による表面処理工程において、溶液(II)および溶液(III)と複合酸化物(I)とを接触させる態様としては、複合酸化物(I)に、溶液(II)と溶液(III)とを別々に接触させる態様と、複合酸化物(I)に溶液(II)および溶液(III)を同時に接触させる態様とが挙げられる。
溶液(II)と溶液(III)とを別々に接触させる態様としては、以下3つの態様が挙げられる。複合酸化物(I)に溶液(II)を接触させた後、複合酸化物(I)に溶液(III)を接触させる態様。複合酸化物(I)に溶液(III)を接触させた後、複合酸化物(I)に溶液(II)を接触させる態様。複合酸化物(I)に一方の溶液と他方の溶液を交互に複数回ずつ接触させる態様。
溶液(II)および溶液(III)を同時に接触させる態様としては、複合酸化物(I)に、溶液(II)および溶液(III)を同時に接触させる態様、溶液(II)および溶液(III)を予め混合して混合液とした後、混合液と複合酸化物(I)とを接触させる態様等が挙げられる。
複合酸化物(I)に、溶液(II)および溶液(III)を同時に接触させる場合、Alの陽イオンと陰イオン(A)との反応が進みやすいことから、複合酸化物(I)に溶液(II)を接触させた後に、溶液(III)を接触させる順番とすることが特に好ましい。
スプレーコート法または浸漬法による表面処理工程は、溶液(II)および/または溶液(III)と複合酸化物(I)とを接触させた後に加熱する工程を有する。
表面処理工程における加熱は、複合酸化物(I)と全ての溶液とを接触させた後に行ってもよく、複合酸化物(I)と各々の溶液とを接触させた後にその都度行ってもよい。生産性の点から、加熱は、複合酸化物(I)と全ての溶液とを接触させた後に行うことがより好ましい。
[溶液(II)]
溶液(II)は、Alの陽イオンを含む溶液である。溶液(II)は、水溶液中でAlの陽イオンを生じさせる水溶性化合物(1)を溶媒に溶解させたものであることが好ましい。
本明細書において、25℃の蒸留水への溶解度(飽和溶液100gに溶けている溶質の質量[g])が2超であることを水溶性という。
溶液(II)に含まれる水溶性化合物(1)の例としては、Alの硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機塩、酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、ギ酸塩、乳酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩等の有機塩または有機錯体、アンミン錯体等が挙げられる。なかでも、熱により分解しやすく、水への溶解性が高いことから、硝酸塩、有機酸塩、有機錯体、アンミン錯体が特に好ましい。
溶液(II)には、前記化合物(1)の溶解性を損なわない範囲で、水溶性アルコールおよび/またはポリオールを含有してもよい。
水溶性アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールが挙げられる。ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、グリセリンが挙げられる。
化合物(1)の溶解性を損なわない範囲とは、溶媒の全質量に対して、水溶性アルコールおよびポリオールの合計質量が0〜20%をいう。
溶液(II)には、化合物(1)の溶解度を調整するために、pH調整剤を含有させてもよい。pH調整剤としては、後の工程で加熱された時に揮発または分解するものが好ましい。例えば、酢酸、クエン酸、乳酸、ギ酸、マレイン酸、シュウ酸などの有機酸、またはアンモニアが好ましい。このように、揮発または分解するpH調整剤を用いると、不純物が残留しにくいため、良好な電池特性が得られやすい。
溶液(II)中の化合物(1)の含有量は、溶液(II)の全質量に対して、Al換算で0.5〜30%が好ましく、2〜20%が特に好ましい。
化合物(1)が0.5%以上であれば、後の工程で加熱により溶媒を除去しやすいため、好ましい。また、30%以下であれば、溶液(II)の粘度が適切な範囲になり、複合酸化物(I)と溶液(II)とを均一に接触させやすい点で好ましい。
溶液(II)を複合酸化物(I)に接触させる際、複合酸化物(I)中のNi、CoおよびMnの合計モル量に対する、溶液(II)中のAlのモル量の比(接触比)は0.005〜0.06が好ましい。接触比がこの範囲にあれば、Al/M比を所望の範囲とできるため、得られた正極活物質はリチウムイオン二次電池のレート特性とサイクル特性を向上できる。接触比は、0.01〜0.05の範囲内がより好ましく、0.015〜0.04の範囲内が特に好ましい。
[溶液(III)]
溶液(III)は、陰イオン(A)(SO 2−、PO 3−、およびFからなる群から選ばれる少なくとも1種の陰イオン)を含む溶液である。
水溶液(III)は、水溶液中で解離して陰イオンを生成させる水溶性化合物(2)を溶解させたものであることが好ましい。
化合物(2)としては、たとえば、HSO、HPO、HF等の酸、またはこれらのアンモニウム塩、アミン塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。これらの中でも、取り扱い性や安全性の点で、酸よりも塩を用いることが好ましい。また、加熱する際に分解して除去される点で、アンモニウム塩が特に好ましい。具体的には(NHSO、(NH)HSO、(NHPO、(NHHPO、(NH)HPO、NHF等が好ましい。
溶液(III)には、溶液(II)と同様に水溶性アルコールおよびポリオールの一方または両方や、pH調整剤を含有させてもよい。また、その含有量も、溶液(II)の場合と同様である。
溶液(III)中の化合物(2)の含有量は、上記式(1)で求められる相対量(Xa)が0.001〜0.1となる量に調整することが好ましい。これにより、得られる正極活物質は、リチウムイオン二次電池の充放電効率を向上できる。相対量(Xa)は、0.003〜0.07がより好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。
スプレーコート法または浸漬法において、溶液(II)および/または溶液(III)と接触させた後の複合酸化物(I)を加熱する。この加熱により、溶液(II)および/または溶液(III)に含まれる水および有機成分等の揮発性の不純物が除去され、複合酸化物(I)の表面の一部または全部に化合物(II)および/または化合物(III)が存在する正極活物質が得られる。
加熱は、酸素含有雰囲気下で行うことが好ましい。加熱温度は、250〜700℃が好ましく、350〜600℃がより好ましい。加熱温度が250℃以上であると、複合酸化物(I)の表面に化合物(II)および/または化合物(III)が得られる。また、複合酸化物(I)に、残留水分等の揮発性の不純物が少なくなることからリチウムイオン二次電池のサイクル特性の低下が抑制できる。
また、化合物(II)を非晶質とする場合、加熱温度は250℃〜550℃が好ましく、350〜500℃がより好ましい。加熱温度が550℃以下であると、化合物(II)が結晶化しにくくなる。
加熱時間は、0.1〜24時間が好ましく、0.5〜18時間がより好ましく、1〜12時間が特に好ましい。加熱時間が上記範囲であると、複合酸化物(I)の表面に化合物(II)および/または化合物(III)が良好に形成されやすい。
加熱時の圧力は特に限定されず、常圧または加圧が好ましく、常圧が特に好ましい。
<リチウムイオン二次電池用正極>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極(以下、本正極という。)は、前述の製造方法によって製造された正極活物質と、バインダーとを含む。
本正極の構成としては、正極活物質として本製造方法により製造された正極活物質を用いる以外は従来の正極と同様であってよい。たとえば、前記の正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極活物質層が、正極集電体上(正極表面)に形成されてなるものが挙げられる。
本正極は、たとえば、前記の正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極活物質層を正極集電体上に形成することにより製造できる。
正極活物質層を形成する工程は、公知の手法を用いて行うことができる。たとえば、正極活物質、導電材およびバインダーを、媒体に溶解もしくは分散させてスラリーを得る、または正極活物質、導電材およびバインダーを、媒体と混練して混練物を得る。次いで、前記スラリーを正極集電体上(正極表面)に塗工する、または前記混練物を正極集電体上(正極表面)に圧延する。これにより正極活物質層を形成できる。
導電材としては、アセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック等が挙げられる。導電材は、1種でもよく2種以上を使用してもよい。
バインダーとしては、フッ素系樹脂、ポリオレフィン、不飽和結合を有する重合体、アクリル酸系重合体等が挙げられる。フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。不飽和結合を有する重合体としては、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等が挙げられる。
正極集電体としては、アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔が挙げられる。
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池(以下、本電池という。)は、本正極と、負極と、非水電解質とを含む。
本電池の構成としては、本正極を用いる以外は、従来のリチウムイオン二次電池と同様であってよい。
本電池は、典型的には、セパレータをさらに含む。
負極は、負極集電体上に、負極活物質を含有する負極活物質層が形成されてなる。
負極は、たとえば、負極活物質と有機溶媒とを混練することによってスラリーを調製し、調製したスラリーを負極集電体に塗布、乾燥、プレスすることによって製造できる。
負極集電体としては、たとえばニッケル箔、銅箔等の金属箔を用いることができる。
負極活物質としては、比較的低い電位でリチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料であればよく、たとえば、リチウム金属、リチウム合金、炭素材料、周期表14または15族の金属を主体とする酸化物、炭素化合物、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタン、炭化ホウ素化合物等を用いることができる。
負極活物質に使用する炭素材料としては、たとえば、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭、カーボンブラック類などが挙げられる。前記コークス類としては、ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークスなどが挙げられる。有機高分子化合物焼成体としては、フェノール樹脂、フラン樹脂などを適当な温度で焼成し炭素化したものが挙げられる。
周期表14族の金属としては、例えば、Si、Sn等が挙げられる。なかでも、周期表14族の金属としては、Siが好ましい。
その他に負極活物質として用いることができる材料としては酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズ等の酸化物やLi2.6Co0.4N等の窒化物が挙げられる。
非水電解質としては、たとえば、有機溶媒に電解質塩を溶解させた非水電解液、無機固体電解質、電解質塩を混合または溶解させた固体状もしくはゲル状の高分子電解質等が挙げられる。
電解質塩は、リチウムイオン二次電池に使用されている公知のものが使用でき、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、CFSOLi、LiCl、LiBr等が挙げられる。
有機溶媒としては、非水電解液用の有機溶媒として公知のものを採用できる。たとえば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステル等が挙げられる。なかでも、電圧安定性の点からは、有機溶媒としては、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類が好ましい。有機溶媒は、1種でもよく、2種以上で使用してもよい。
無機固体電解質としては、窒化リチウム、ヨウ化リチウムなどが挙げられる。
電解質塩を混合又は溶解させた固体状の高分子電解質に用いられる高分子化合物としては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、およびこれらの誘導体、混合物、並びに複合体等が挙げられる。
電解質塩を混合又は溶解させたゲル状の高分子電解質に用いられる高分子化合物としては、フッ素系高分子化合物、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリルの共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドの共重合体などが挙げられる。フッ素系高分子化合物としては、ポリ(ビニリデンフルオロライド)、ポリ(ビニリデンフルオロライド−co−ヘキサフルオロプロピレン)などが挙げられる。
ゲル状電解質のマトリックスとしては、酸化還元反応に対する安定性の観点から、フッ素系高分子化合物が好ましい。
セパレータとしては、例えば、ポリエチレンとポリプロピレンを代表とする微多孔性ポリオレフィンフイルム、ポリフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなるフィルムが挙げられる。
リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、コイン型、シート状(フィルム状)、折り畳み状、巻回型有底円筒型、ボタン型等の形状を、用途に応じて適宜選択できる。
本電池は、本正極、負極、非水電解質、セパレータ等を用いてリチウムイオン二次電池を構成することにより製造できる。リチウムイオン二次電池を構成する工程は公知の手法を用いて行うことができる。
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
後述する例1〜10のうち、例1〜3、5〜10は実施例であり、例4は比較例である。
各例で使用した炭酸リチウムのD10径、D50径、D90径、およびD99径を表1に示す。これら各径は、各炭酸リチウムを2−プロパノールに分散させて、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装社製、マイクロトラックMT3000II)で粒度分布を測定した値である。
また、後述する合成例1〜2で得た共沈物(A1)〜(A2)(遷移金属含有炭酸化合物)のD10径、D50径、D90径、およびD99径をあわせて表1に示す。これら各径は、各共沈物を水に分散させて、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装社製、マイクロトラックMT3000II)で粒度分布を測定した値である。
Figure 0006374226
<共沈化合物(遷移金属含有炭酸化合物)の合成>
(合成例1)
硫酸ニッケル(II)・六水和物、硫酸コバルト(II)・七水和物、硫酸マンガン(II)・五水和物を、Ni:Co:Mn=20:15:65(モル比)となるように、かつNi、CoおよびMnの合計濃度が1.5モル/Lとなるように蒸留水に溶解して原料溶液を得た。硫酸アンモニウムを濃度が0.75モル/Lとなるように蒸留水に溶解して硫酸アンモニウム水溶液を得た。炭酸ナトリウムを濃度が1.5モル/Lとなるように蒸留水に溶解して炭酸ナトリウム水溶液を得た。
次いで、2Lのバッフル付きガラス製反応槽に蒸留水を入れてマントルヒータで30℃に加熱し、反応槽内の溶液を2段傾斜パドル型の撹拌翼で、単位体積当たりの撹拌動力1.5kW/mで撹拌しながら、前記原料溶液を5.0g/分、硫酸アンモニウム水溶液を0.5g/分の速度で24時間かけて添加し、Ni、CoおよびMnを含む共沈物(遷移金属含有炭酸化合物)を析出させた。なお、原料溶液の添加中は、反応槽内のpHを8.0に保つように炭酸ナトリウム水溶液を添加した。また、反応槽内の液量が2Lを超えないように連続的に液の抜き出しを行った。
得られた共沈物に対して、加圧ろ過と蒸留水への分散を繰り返して洗浄を行い、不純物イオンを取り除いた。洗浄後の共沈物を120℃で15時間乾燥させた。
乾燥後、得られた共沈物(以下、共沈物(A1)という。)に含まれるNi、CoおよびMnの含有量を高周波誘導結合プラズマ(ICP)で測定した。その結果、Ni、CoおよびMnの含有量は、共沈物全体の質量に対して、9.6%、7.5%、30.7%であった(モル比でNi:Co:Mn=0.193:0.150:0.657)。
共沈物(A1)のD10径、D50径、D90径、およびD99径を測定した。結果を表1に示す。
(合成例2)
硫酸ニッケル(II)・六水和物、硫酸コバルト(II)・七水和物、硫酸マンガン(II)・五水和物を、Ni:Co:Mn=38.6:8.6:52.8(モル比)となるようにした以外は合成例1と同様にして共沈物(以下、共沈物(A2)という。)を得た。
共沈物(A2)に含まれるNi、CoおよびMnの含有量を高周波誘導結合プラズマ(ICP)で測定した。その結果、Ni、CoおよびMnの含有量は、共沈物全体の質量に対して、19.1%、4.3%、24.6%であった(モル比でNi:Co:Mn=0.385:0.086:0.529)。
共沈物(A2)のD10径、D50径、D90径、およびD99径を測定した。結果を表1に示す。
<複合酸化物の製造>
(例1)
共沈物(A1)と炭酸リチウム(B1)とを、共沈物(A1)に含まれるNi、CoおよびMnの合計モル量に対する炭酸リチウム(B1)に含まれるLiのモル量の比(混合比)が1.45となる比で混合した。
得られた混合物を、大気雰囲気下にて580℃で4時間焼成し、次いで大気雰囲気下にて850℃で12時間焼成した。これにより複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を例1の正極活物質とした。
なお、共沈物(A1)に含まれるNi、CoおよびMnの含有量、および炭酸リチウム(B1)の量から前記複合酸化物の組成を計算すると、Li1.45Ni0.193Co0.150Mn0.6572.45となった。
(例2〜4)
炭酸リチウム(B1)の代わりにそれぞれ炭酸リチウム(B2)、炭酸リチウム(B3)、炭酸リチウム(B4)を用いた以外は例1と同様にして、複合酸化物を得た。得られた複合酸化物をそれぞれ例2〜4の正極活物質とした。
<表面に異種化合物が存在する複合酸化物の製造>
(例5)
水溶液に対するAl含有量が、Al換算の質量比で8.8%の塩基性乳酸アルミニウム水溶液6.73gに、蒸留水3.27gを加えて混合し、乳酸アルミニウム水溶液を調製した。
例1で得られた複合酸化物10gを撹拌しながら、前記乳酸アルミニウム水溶液1.6gをスプレーコート法により噴霧して、複合酸化物と乳酸アルミニウム水溶液とを接触させた。これにより、複合酸化物と乳酸アルミニウム水溶液との混合物を得た。
得られた混合物を、大気雰囲気下にて80℃で4時間乾燥し、次いで大気雰囲気下にて450℃で5時間加熱した。これにより、複合酸化物粒子の表面の一部に化合物(II)が存在する粒子を得た。得られた粒子を例5の正極活物質とした。
正極活物質に含まれる化合物(II)中のAlを仕込み量から計算すると、複合酸化物(I)のNi、CoおよびMnの合計モル量に対する、Alのモル量の比(Al/M比)は、0.020であった。
正極活物質の粉末の断面を樹脂で包埋した後に薄辺化し、TEM−EDX分析を行ったところ、Alが正極活物質の内部ではなく表面に存在することが確認できた。
正極活物質の粉末のXPS測定を行ったところ、Al(2p)のピーク位置は73.8eVであり、Alのピークと同じであった。
(例6)
フッ化アンモニウム(NHF)1.61gに蒸留水8.39gを加えて混合し、フッ化アンモニウム水溶液を調製した。
例5と同様にして複合酸化物と乳酸アルミニウム水溶液との混合物を得た後、該混合物を撹拌しながら、フッ化アンモニウム水溶液をスプレーコート法により噴霧して、前記混合物とフッ化アンモニウム水溶液1.28gとを接触させた。これにより、複合酸化物と乳酸アルミニウム水溶液とフッ化アンモニウム水溶液との混合物を得た。
得られた混合物を、大気雰囲気下にて80℃で4時間乾燥し、次いで大気雰囲気下にて450℃で5時間加熱した。これにより、複合酸化物粒子の表面の一部にAlを含む化合物(II)およびFとLiを含む化合物(III)が存在する粒子を得た。得られた粒子を例6の正極活物質とした。
正極活物質に含まれる化合物(II)中のAlを仕込み量から計算すると、複合酸化物(I)のNi、CoおよびMnの合計モル量に対する、Alのモル量の比(Al/M比)は0.020であった。
正極活物質に含まれる化合物(III)中のFを仕込み量から計算すると、陰イオン(A)の相対量(Xa)は0.037であった。
正極活物質の粉末の断面を樹脂で包埋した後に薄辺化し、TEM−EDX分析を行ったところ、Alが正極活物質の内部ではなく表面に存在することが確認できた。
正極活物質の粉末のXPS測定を行ったところ、Al(2p)のピーク位置は73.8eVであり、Alのピークと同じであった。また、F(1s)のピーク位置は685.0eVであり、LiFのピークと同じであった。
(例7)
共沈物(A2)と炭酸リチウム(B1)とを、共沈物(A2)に含まれるNi、CoおよびMnの合計モル量に対する炭酸リチウム(B1)に含まれるLiのモル量の比(混合比)が1.145となる比で混合した。
得られた混合物を、大気雰囲気下にて580℃で4時間焼成し、次いで大気雰囲気下にて850℃で12時間焼成した。これにより複合酸化物を得た。得られた複合酸化物を例7の正極活物質とした。
なお、共沈物(A2)に含まれるNi、CoおよびMnの含有量、および炭酸リチウム(B1)の量から前記複合酸化物の組成を計算すると、Li1.145Ni0.385Co0.086Mn0.5292.145となった。
(例8〜10)
共沈物(A2)と炭酸リチウム(B1)とを混合する際に、水を添加すること以外は、例7と同様に行い複合酸化物を得た。水の添加量は、共沈物(A2)と炭酸リチウム(B1)の合計質量に対して、1質量%、5質量%、10質量%とした。それぞれ得られた複合酸化物を例8〜10の正極活物質とした。
<正極体シートの製造>
例1〜10で得られた正極活物質と、アセチレンブラック(導電材)と、ポリフッ化ビニリデン(バインダー)を12質量%含む溶液(溶媒、N−メチルピロリドン)とを混合し、さらに、N−メチルピロリドンを添加してスラリーを調製した。このとき、正極活物質とアセチレンブラックとポリフッ化ビニリデンとは、質量比で80:10:10とした。
次いで、このスラリーを、厚さ20μmのアルミニウム箔(正極集電体)に、ドクターブレードを用いて片面塗工した。ドクターブレードのギャップは、圧延後のシート厚みが30μmとなるように調整した。これを120℃で乾燥した後、ロールプレス圧延を2回行い、正極体シートを作製した。
<リチウム二次電池の製造>
前記で得られた正極体シートを正極に用い、ステンレス鋼製簡易密閉セル型のリチウム二次電池をアルゴングローブボックス内で組み立てた。
なお、負極には、厚さ500μmの金属リチウム箔を用い、負極集電体には厚さ1mmのステンレス板を使用した。セパレータには厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用いた。電解液には、濃度1mol/dmのLiPF溶液を用いた。電解液の溶媒には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比で1:1の混合溶媒を用いた。
<リチウム二次電池の評価>
前記で得られたリチウム二次電池について、下記の手順で、初期特性(初期放電容量、初期効率)およびサイクル特性(サイクル維持率)を評価した。評価は25℃で行った。結果を表2に示す。
(初期特性)
正極活物質1gにつき20mAの負荷電流で4.6Vまで充電し、正極活物質1gにつき20mAの負荷電流で2.0Vまで放電した。このときの放電容量(mAh/g)および充放電効率(%)をそれぞれ初期放電容量および初期効率とした。このときの例1〜例4の放電曲線(縦軸:電圧(V)、横軸:容量(mAh/g))を図1に示す。
(サイクル特性)
正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.6Vまで充電し、正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で2.0Vまで高レート放電する充放電サイクルを50回繰り返した。このときの2サイクル目の放電容量と50サイクル目の放電容量とから、下記の式によりサイクル維持率(%)を求めた。
サイクル維持率=50サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量×100
Figure 0006374226
表2の例1〜4の結果に示すとおり、D50径が3〜15μm、D90径が40μm未満の炭酸リチウムを用いた例1〜3は、D50径が15μm超、D90径が40μm以上の炭酸リチウムを用いた例4よりも、初期放電容量と初期効率が高かった。
例1〜3の中では、炭酸リチウムのD50径が共沈物(A1)のD50径以下であった例1〜2で特に初期放電容量と初期効率が高かった。例1と例2とではほぼ同等の性能が得られていることから、複合酸化物(I)を合成する過程で共沈物(A1)と炭酸リチウムとが十分に均一に反応していると考えられる。
図1に示す例1〜4の放電曲線を比べると、3.4V以上の領域で放電曲線がほぼ重なっているのに対して、3.4V未満での放電曲線に差が見られた。
リチウム過剰系の層状正極材は3.4V未満の容量が大きいことが特徴である。3.4V未満での放電曲線に差が見られたことから、炭酸リチウムの粒子径がリチウム過剰系の層状正極材に特有の結晶構造に影響していると考えられる。
表2の例1と例5の結果より、複合酸化物(I)の表面に化合物(II)を存在させるとサイクル維持率が大幅に向上することが確認できた。
また、表2の例5と例6の結果より、複合酸化物(I)の表面に化合物(III)を存在させると、特に高い初期効率が得られることが確認できた。
例7〜10より、混合工程において少量の水を添加すると、初期効率が高くなることが分る。これは、添加した水の影響で、混合工程において共沈物と炭酸リチウムとが均一に混合され、その結果、焼成工程において反応が均一に進行し、初期効率の高い正極活物質が得られたためと考えられる。

Claims (9)

  1. NiおよびCoのいずれか一方または両方と、Mnと、Liとを含み、Liのモル量がNi、CoおよびMnの総モル量に対して1.2倍超である複合酸化物(I)を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、
    下記化合物(A)と下記化合物(B)とを混合する混合工程と、
    前記混合工程で得られた混合物を、酸素含有雰囲気下にて450〜700℃で焼成する第1の焼成工程と、
    前記第1の焼成工程で得られた焼成物を、酸素含有雰囲気下にて750〜1000℃で焼成することにより前記複合酸化物(I)を得る第2の焼成工程とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
    化合物(A):水を分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定される体積基準のD50径が3〜15μmであり、D90径が40μm未満であり、NiおよびCoのいずれか一方または両方とMnとを含む炭酸化合物。
    化合物(B):2−プロパノールを分散媒としてレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で測定される体積基準のD50径が3〜15μmであり、D90径が40μm未満である炭酸リチウム。
  2. 前記化合物(B)のD50径が4〜11μmであり、D90径が25μm未満である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  3. 前記化合物(B)のD50径が前記化合物(A)のD50径以下である、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  4. 前記複合酸化物(I)が、下記一般式(I−1)で表される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
    LiNiCoMnMe …(I−1)
    ただし、Meは、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mg、Mo、Ru、Nb、VおよびWからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、1.2<a<1.6、0.5≦z≦0.8、x+y+z=1、0≦b≦0.1、2.1<p<2.7である。
  5. 前記化合物(A)が、下記一般式(A−1)で表される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
    NiCoMnMeCO …(A−1)
    ただし、Meは、Cr、Fe、Al、Ti、Zr、Mg、Mo、Ru、Nb、VおよびWからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、0.5≦z≦0.8、x+y+z=1、0≦b≦0.1である。
  6. 前記一般式(A−1)におけるx、y、zがそれぞれ、0.19≦x≦0.22、0.14≦y≦0.18、0.62≦z≦0.67である、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  7. 前記複合酸化物(I)の表面に、Alを含む酸化物を存在させる工程をさらに有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  8. 前記複合酸化物(I)の表面に、SO 2−、PO 3−、およびFからなる群から選ばれる少なくとも1種の陰イオンとLiとを含む化合物を存在させる工程をさらに有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  9. 前記混合工程において、前記化合物(A)と前記化合物(B)とを混合する際に水を添加する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
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