[延伸フィルム]
本発明の延伸フィルムは、セルロース誘導体(A)、9,9−位にアリール基を有するフルオレン化合物(B)及び平均繊維径1μm以下のセルロースナノファイバー(C)を含む組成物で形成されている。
(A)セルロース誘導体
セルロース誘導体としては、特に制限されず、種々のセルロース誘導体、例えば、セルロースエステル、セルロースカーバメート(例えば、セルロースフェニルカーバメートなど)、セルロースエーテルなどが使用できる。
セルロースエステルとしては、例えば、セルロースジアセテート(DAC)、セルローストリアセテート(TAC)などのセルロースアセテート;セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどのセルロースC3−5アシレート;セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートブチレート(CAB)などのセルロースアセテートC3−5アシレートなどのセルロースアシレートなどが挙げられる。
また、セルロースエーテルとしては、アルキルセルロース(例えば、メチルセルロース、エチルセルロースなどのC1−4アルキルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)などのヒドロキシC2−4アルキルセルロースなど)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシC2−4アルキルC1−4アルキルセルロースなど)、カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)など)、アルキル−カルボキシアルキルセルロース(メチルカルボキシメチルセルロースなど)、これらの誘導体[例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのCMC塩(アルカリ金属塩など)など]などが挙げられる。
セルロース誘導体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのセルロース誘導体のうち、セルロースエステル、セルロースエーテルなどが好ましく、セルロースアシレートなどのセルロースエステル、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートC3−4アシレートなどが特に好ましい。より具体的には、逆波長分散性を向上できる点から、セルロースジアシレート(特にセルロースジアセテート)を好適に用いることができる。
すなわち、セルロース誘導体は、セルロースジアセテートを含むのが好ましい。セルロース誘導体は、セルロースジアセテートのみで構成してもよく、セルロースジアセテートと他のセルロース誘導体(セルロースジアセテート以外のセルロース誘導体)と組み合わせてもよい。他のセルロース誘導体と組み合わせる場合、セルロースジアセテートの割合は、セルロース誘導体全体に対して、例えば、30重量%以上(例えば40〜99.9重量%)、好ましくは50重量%以上(例えば60〜99.5重量%)、さらに好ましくは70重量%以上(例えば80〜99重量%)であってもよい。
(B)9,9−位にアリール基を有するフルオレン化合物
9,9−位にアリール基を有するフルオレン化合物(B)は、逆波長分散性を向上できるとともに、前記セルロース誘導体(A)の可塑剤としても機能する。すなわち、フルオレン化合物(B)は、セルロース誘導体との間の化学的相互作用のためか、セルロースエステルなどのセルロース誘導体の溶融成形プロセスを可能にする。しかも、フルオレン化合物の割合が多くても、ブリードアウトを防止又は抑制することができるとともに、比較的少量でも、セルロース誘導体(A)を効果的に可塑化可能である。
特に、本発明では、フルオレン化合物(B)により、セルロース誘導体組成物(又はフィルム)の延伸性が著しく改善される。すなわち、従来延伸性に乏しかったセルロース誘導体フィルムを所望の延伸倍率で延伸でき、諸特性を改善又は向上できる。そのため、本発明では、フルオレン化合物(B)の使用により、組成物において、流動性(溶融流動性)、耐水性、表面硬さなどの諸特性を改善できる。
さらに、フルオレン化合物(B)は、各種化合物との相溶性に優れるため、レタデーション上昇剤、波長分散調整剤などの第三成分との組み合わせが可能であり、これにより、任意のレタデーション制御が可能となる他、より高度な光学特性の付与が可能となる。
このようなフルオレン化合物は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物であればよく、例えば、前記式(1)で表されるフルオレン化合物であってもよい。
前記式(1)において、環Zで表されるアレーン環として、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられ、多環式アレーン環には、縮合多環式アレーン環(縮合多環式炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合芳香族炭化水素環)などが含まれる。
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン(例えば、ナフタレンなどの縮合二環式C10−16アレーン)環、縮合三環式アレーン(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられ、特に、ナフタレン環が好ましい。
環集合アレーン環としては、ビアレーン環、例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環(1−フェニルナフタレン環、2−フェニルナフタレン環など)などのビC6−12アレーン環、テルアレーン環、例えば、テルフェニレン環などのテルC6−12アレーン環などが例示できる。好ましい環集合アレーン環としては、ビC6−10アレーン環、特にビフェニル環などが挙げられる。
フルオレンの9位に置換する2つの環Zは、異なっていてもよく、同一であってもよいが、通常、同一の環である場合が多い。環Zのうち、ベンゼン環、ナフタレン環(特にベンゼン環)などが好ましい。
なお、フルオレンの9位に置換する環Zの置換位置は、特に限定されない。例えば、環Zがナフタレン環の場合、フルオレンの9位に置換する環Zに対応する基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
X1で表されるヘテロ原子含有官能基としては、ヘテロ原子として、酸素、イオウ及び窒素原子から選択された少なくとも一種を有する官能基などが例示できる。このような官能基に含まれるヘテロ原子の数は、特に制限されないが、通常、1〜3個、好ましくは1又は2個であってもよい。
前記官能基としては、例えば、基−[(OR3)m1−Y1](式中、Y1はヒドロキシル基、グリシジルオキシ基、アミノ基、N置換アミノ基又はメルカプト基であり、R3はアルキレン基、m1は0以上の整数である)、基−(CH2)m2−COOR4(式中、R4は水素原子又はアルキル基であり、m2は0以上の整数である)などが挙げられる。
基−[(OR3)m1−Y1]において、Y1のN置換アミノ基としては、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ基などのN−モノアルキルアミノ基(N−モノC1−4アルキルアミノ基など)、ヒドロキシエチルアミノ基などのN−モノヒドロキシアルキルアミノ基(N−モノヒドロキシC1−4アルキルアミノ基など)などが挙げられる。
アルキレン基R3には、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が含まれ、直鎖状アルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのC2−6アルキレン基(好ましくは直鎖状C2−4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状C2−3アルキレン基、特にエチレン基)が例示でき、分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、プロピレン基、1,2−ブタンジイル基、1,3−ブタンジイル基などの分岐鎖状C3−6アルキレン基(好ましくは分岐鎖状C3−4アルキレン基、特にプロピレン基)などが挙げられる。
オキシアルキレン基(OR3)の繰り返し数(平均付加モル数)を示すm1は、0又は1以上の整数(例えば0〜15、好ましくは0〜10程度)の範囲から選択でき、例えば、0〜8(例えば1〜8)、好ましくは0〜5(例えば1〜5)、さらに好ましくは0〜4(例えば1〜4)、特に0〜3(例えば1〜3)程度であってもよく、通常、0〜2(例えば0又は1)であってもよい。なお、m1が2以上である場合、アルキレン基R3の種類は、同一又は異なっていてもよい。また、アルキレン基R3の種類は、同一の又は異なる環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
基−(CH2)m2−COOR4において、R4で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基が例示できる。好ましいアルキル基は、C1−4アルキル基、特にC1−2アルキル基である。メチレン基の繰り返し数(平均付加モル数)を示すm2は0又は1以上の整数(例えば1〜6、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2程度)であってもよい。m2は、通常、0又は1〜2であってもよい。
これらのうち、X1で表されるヘテロ原子含有官能基は、基−[(OR3)m1−OH](式中、R3はアルキレン基、m1は0以上の整数である)が好ましく、基−[(OR3)m1−OH](式中、R3はエチレン基などのC2−3アルキレン基、m1は0以上の整数である)が特に好ましい。
前記式(1)において、環Zに置換した基X1の個数を示すn1は、0以上であり、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1又は2(特に1)であってもよい。なお、置換数n1は、それぞれの環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
基X1は、環Zの適当な位置に置換でき、例えば、環Zがベンゼン環である場合には、フェニル基の2−,3−,4−位(特に、3−位及び/又は4−位)に置換している場合が多く、環Zがナフタレン環である場合には、ナフチル基の5〜8−位のいずれかに置換している場合が多く、例えば、フルオレンの9−位に対してナフタレン環の1−位又は2−位が置換し(1−ナフチル又は2−ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5−位、2,6−位などの関係(特にn1が1である場合、2,6−位の関係)で基X1が置換している場合が多い。また、n1が2以上である場合、置換位置は、特に限定されない。また、環集合アレーン環Zにおいて、基Xの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9−位に結合したアレーン環及び/又はこのアレーン環に隣接するアレーン環に置換していてもよい。例えば、ビフェニル環Zの3−位又は4−位がフルオレンの9−位に結合していてもよく、ビフェニル環Zの4−位がフルオレンの9−位に結合しているとき、基X1の置換位置は、2−,3−,2’−,3’−,4’−位のいずれであってもよく、通常、2−,3’−,4’−位、好ましくは2−,4’−位(特に、2−位)に置換していてもよい。
前記式(1)において、置換基R2としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基など)、アリール基[フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル(トリル)基、ジメチルフェニル(キシリル)基など)、ビフェニル基、ナフチル基などのC6−12アリール基]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基など)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC1−10アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(例えば、チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基など)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基など)、アシル基(例えば、アセチル基などのC1−6アシル基など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など)、ニトロ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジC1−4アルキルアミノ基など)、ジアルキルカルボニルアミノ基(例えば、ジアセチルアミノ基などのジC1−4アルキル−カルボニルアミノ基など)などが例示できる。
これらの置換基R2のうち、代表的には、ハロゲン原子、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基)、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。好ましい置換基R2としては、アルコキシ基(メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基など)、特に、アルキル基(特に、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基)が好ましい。なお、置換基R2がアリール基であるとき、置換基R2は、環Zとともに、前記環集合アレーン環を形成してもよい。置換基R2の種類は、同一の又は異なる環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
置換基R2の係数pは、環Zの種類などに応じて適宜選択でき、例えば、0〜8程度の整数であってもよく、0〜4の整数、好ましくは0〜3(例えば、0〜2)の整数、さらに好ましくは0又は1であってもよい。特に、pが1である場合、環Zがベンゼン環、ナフタレン環又はビフェニル環、置換基R2がメチル基であってもよい。
置換基R1として、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基)、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)などが挙げられる。
これらの置換基R1のうち、直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基(特に、メチル基などのC1−3アルキル基)、カルボキシル基又はC1−2アルコキシ−カルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子が好ましい。置換数kは0〜4(例えば、0〜3)の整数、好ましくは0〜2の整数(例えば、0又は1)、特に0である。なお、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよく、kが2以上である場合、置換基R1の種類は互いに同一又は異なっていてもよく、フルオレン環の2つのベンゼン環に置換する置換基R1の種類は同一又は異なっていてもよい。また、置換基R1の置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2−位乃至7−位(2−位、3−位及び/又は7−位など)であってもよい。
好ましいフルオレン化合物(B)としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジヒドロキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(4−フェニル−3−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−10アリール−ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシ−C6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス[3−メチル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシ−C6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス[4−フェニル−3−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(C6−10アリール−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシ−C6−10アリール)フルオレンなどが挙げられる。これらのフルオレン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
フルオレン化合物(B)の割合は、セルロース誘導体(A)100重量部に対して、例えば1〜100重量部(例えば2〜50重量部)、好ましくは3〜40重量部(例えば5〜30重量部)、さらに好ましくは6〜20重量部(特に8〜15重量部)程度である。フルオレン化合物(B)の割合が少なすぎると、延伸性及び延伸フィルムの逆波長分散性が低下し、多すぎると、逆波長分散性が低下する。
(C)平均繊維径1μm以下のセルロースナノファイバー
セルロースナノファイバー(C)は、前記セルロース誘導体(A)及び前記フルオレン化合物(B)と組み合わせることにより、延伸フィルムの逆波長分散性を維持しつつ、位相差を向上できる。
セルロースナノファイバーを構成するセルロースとしては、リグニン、ヘミセルロースなどの非セルロース成分の含有量が少ないパルプ、例えば、植物由来のセルロース原料{例えば、木材[例えば、針葉樹(マツ、モミ、トウヒ、ツガ、スギなど)、広葉樹(ブナ、カバ、ポプラ、カエデなど)など]、草本類[麻類(麻、亜麻、マニラ麻、ラミーなど)、ワラ、バガス、ミツマタなど]、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、竹、サトウキビなど}、動物由来のセルロース原料(ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース原料(ナタデココに含まれるセルロースなど)などから製造されたパルプなどが例示できる。これらのセルロースは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのセルロースのうち、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなど)、種子毛繊維のパルプ(例えば、コットンリンターパルプ)由来のセルロースなどが好ましい。なお、パルプは、パルプ材を機械的に処理した機械パルプであってもよいが、非セルロース成分の含有量が少ないことからパルプ材を化学的に処理した化学パルプが好ましい。
セルロース(又はセルロース繊維)と非セルロース成分との総量に対するセルロースの割合(含有量)は、例えば、70重量%以上(例えば、75〜100重量%)、好ましくは80重量%以上(例えば、85〜100重量%)、さらに好ましくは90重量%以上(例えば、95〜100重量%)程度であってもよい。
これらのうち、セルロースナノファイバーは、前記例示のパルプ(例えば、化学パルプ)などを微細化(ミクロフィブリル化)したセルロースナノファイバーが好ましい。
(修飾セルロースナノファイバー)
セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー(C1)と、反応性基及び9,9−位にアリール基を有するフルオレン化合物(C2)とが結合した修飾セルロースナノファイバーであってもよい。前記フルオレン化合物(C2)は、前記式(1)で表される化合物のうち、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基などの反応性基を有するフルオレン化合物などが挙げられ、セルロースナノファイバーとの反応性などの点から、前記式(2)で表される化合物が好ましい。
前記式(2)で表される化合物には、X2が基−[(OR3)m1−Y2]で表される化合物のうち、Y2がヒドロキシル基である化合物、Y2がグリシジルオキシ基である化合物、X2が基−(CH2)m2−COOR4である化合物が含まれる。
修飾セルロース(又は変性セルロース、セルロース誘導体)ナノファイバーの化学修飾(又は結合)の形態は、特に限定されず、通常、セルロースナノファイバー(C1)のヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基とフルオレン化合物(C2)のヒドロキシル基とのエーテル結合及び/又はエステル結合、セルロースナノファイバー(C1)のヒドロキシル基とフルオレン化合物(C2)のカルボキシル基とのエステル結合、セルロースナノファイバー(C1)のヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基とフルオレン化合物(C2)のグリシジル基とのエーテル結合及び/又はエステル結合であってもよい。なお、セルロースのカルボキシル基はパルプなどの製造過程で形成される場合がある。
(Y2がヒドロキシル基である化合物)
前記式(2)で表される化合物において、X2が基−[(OR3)m1−Y2]で表される化合物のうち、Y2がヒドロキシル基である化合物は、フルオレン化合物(B)において、前記式(1)で表される化合物として例示された化合物を利用できる。好ましい化合物も、前記式(1)で表される化合物と同様である。
(Y2がグリシジルオキシ基である化合物)
X2が基−[(OR3)m1−Y2]で表される化合物のうち、Y2がグリシジルオキシ基である化合物において、環Z、基R1、基R2、基R3は、前記式(1)で表される化合物と同様の環及び基を例示でき、好ましい環及び基の種類、置換基の数、繰り返し数も前記式(1)で表される化合物と同様である。
具体的なフルオレン化合物としては、9,9−ビス(グリシジルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(5−グリシジルオキシ−1−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(6−グリシジルオキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(4−(2−グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−グリシジルオキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(5−(2−グリシジルオキシエトキシ)−1−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(6−(2−グリシジルオキシエトキシ)−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(アルキル−グリシジルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−メチル−4−グリシジルオキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(アルキル−グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−メチル−4−(2−グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(アリール−グリシジルオキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(4−フェニル−3−グリシジルオキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−10アリール−グリシジルオキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(アリール−グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(4−フェニル−3−(2−グリシジルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−10アリール−グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ)アリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3,4−ジ(グリシジルオキシ)フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ)C6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ(ポリ)アルコキシ)アリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3,4−ジ(2−グリシジルオキシエトキシ))フェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジ(グリシジルオキシ(ポリ)C2−4アルコキシ)C6−10アリール)フルオレンなどが例示できる。これらのフルオレン化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
(X2が基−(CH2)m2−COOR4である化合物)
前記式(2)で表される化合物において、X2が基−(CH2)m2−COOR4で表される化合物も、前記式(1)で表される化合物として例示された化合物を利用できる。
具体的なフルオレン化合物としては、9,9−ビス(カルボキシアリール)フルオレン、例えば、9,9−ビス(3−カルボキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(5−カルボキシ−1−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(6−カルボキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(カルボキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(カルボキシアルキル−アリール)フルオレン化合物、例えば、9,9−ビス(4−(カルボキシメチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−カルボキシエチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−(カルボキシメチル)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(5−(カルボキシメチル)−1−ナフチル)フルオレン、9,9−ビス(6−(カルボキシメチル)−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(カルボキシC1−6アルキルC6−10アリール)フルオレンなどが例示できる。これらのフルオレン化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
(修飾セルロースナノファイバーの製造方法)
修飾セルロースナノファイバーは、所定の触媒の存在下、原料セルロース(例えば、セルロースナノファイバー)とフルオレン化合物(C2)とを反応させて得られる。
原料セルロースの割合は、フルオレン化合物(C2)の反応性基に応じて選択できるが、例えば、フルオレン化合物(C2)100重量部に対して、0.1〜500重量部(例えば1〜300重量部)程度の範囲から選択でき、例えば5〜200重量部(特に10〜150重量部)程度であってもよい。
触媒もフルオレン化合物(C2)の反応性基に応じて選択でき、反応性基がヒドロキシル基の場合、酸触媒を利用してもよい。酸触媒としては、ブレンステッド酸、例えば、硫酸、塩酸、リン酸などの無機酸、p−トルエンスルホン酸などの有機酸、固体酸[例えば、ヘテロポリ酸(タングステン系ヘテロポリ酸、モリブデン系ヘテロポリ酸など)、陽イオン交換樹脂(スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂、スルホン酸基を有する含フッ素陽イオン交換樹脂、カルボン酸基を有する弱酸性陽イオン交換樹脂など)]などが挙げられる。これらの酸触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
反応性基がグリシジル基の場合、塩基触媒を利用してもよい。塩基触媒は、無機塩基及び有機塩基のいずれであってもよく、無機塩基としては、例えば、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ金属炭酸塩などが例示できる。有機塩基としては、三級アミン類、例えば、トリアルキルアミン(トリメチルアミン、トリエチルアミンなど)、アルカノールアミン(トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなど)、複素環式アミン(モルホリンなど)、ヘキサメチレンテトラミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)などが挙げられる。これらの塩基触媒も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
反応性基がカルボキシル基の場合、エステル化触媒を利用できる。エステル化触媒としては、前記酸触媒の他、金属アルコキシド(アルミニウムエトキシド、チタニウムアルコキシドなど)、有機スズ化合物、ルイス酸(例えば、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化亜鉛など)などが挙げられる。これらのエステル化触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
触媒の使用量は、触媒の種類に応じて選択できるが、原料セルロース100重量部に対して、例えば、0.01〜100重量部程度の範囲から適当に選択でき、通常、0.01〜20重量部(例えば0.1〜18重量部)、好ましくは0.5〜18重量部(例えば1〜17重量部)、さらに好ましくは3〜15重量部(特に5〜15重量部)程度であってもよい。
反応は有機溶媒の非存在下で行ってもよいが、通常、有機溶媒の存在下で行われる。この有機溶媒は原料セルロースに含浸していてもよいが、原料セルロースを有機溶媒に分散させた分散系で反応させる場合が多い。原料セルロースを有機溶媒に分散させた分散系で、原料セルロース(特にナノファイバー)と前記フルオレン化合物(C2)とを反応させると、均一に反応させることができる。このような方法で得られた修飾セルロースナノファイバーは、取り扱い性及び分散性が高い。
原料セルロースがセルロース繊維である場合、セルロース繊維(特に、ミクロフィブリル化した繊維、平均繊維径がナノメータサイズのナノ繊維)を乾燥すると、繊維が絡み合って再分散できなくなる場合がある。そのため、通常、セルロース繊維は水含浸又は水分散液として市販されている場合が多い。このような水分散液では、水分散液の水を有機溶媒に置換する慣用の溶媒置換法、例えば、セルロース繊維の水分散液に水溶性溶媒を添加混合し、セルロース繊維を分離し(又は溶媒を除去し)た後、さらに有機溶媒を添加混合する操作を繰り返す方法などにより、セルロース繊維が有機溶媒に分散した分散液を調製できる。なお、沸点が水よりも高い水溶性有機溶媒を用いる場合、水を蒸留(共沸蒸留を含む)により除去することにより溶媒置換できる。
水溶性有機溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのC1−4アルカノールなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、ケトン類(アセトンなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのC2−4アルカンジオール)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ)、カルビトール類(エチルカルビトールなど)、カーボネート類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
なお、水溶性有機溶媒を用いて溶媒置換したセルロース含有分散液において、水溶性有機溶媒は、上記と同様にして、非水溶性有機溶媒に溶媒置換することもできる。非水溶性有機溶媒としては、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、ニトリル類(ベンゾニトリルなど)、セロソルブアセテート類、カルビトールアセテート類、炭化水素類(ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、トルエンなどの芳香族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエチレンなど)などが例示できる。これらの非水溶性有機溶媒も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの有機溶媒のうち、非プロトン性溶媒、特に非プロトン性極性溶媒(例えば、エーテル類、ケトン類、アミド類、スルホキシド類など)が好ましい。
有機溶媒(例えば、非プロトン性極性溶媒)の溶解度パラメーター(SP値、(cal/cm)2)は8〜15(例えば、8.5〜15)程度であってもよく、通常、9〜14.5(例えば、10〜14.5)程度であってもよい。
分散液中の原料セルロース(特にセルロース繊維)の固形分濃度は、例えば、0.01〜30重量%(例えば、0.1〜20重量%)、好ましくは1〜15重量%、さらに好ましくは3〜12重量%(例えば、5〜10重量%)程度であってもよい。固形分濃度が低すぎると、反応効率が低下する虞がある。
反応は、減圧下で行ってもよいが、通常、加圧下又は常圧下で行う場合が多い。反応温度は、溶媒の沸点などにより適宜選択でき、例えば、50〜200℃(例えば、70〜170℃)、好ましくは80〜150℃(例えば、100〜130℃)程度であってもよい。なお、反応は溶媒の還流下で行ってもよい。また、反応時間は、特に限定されず、例えば、10分〜48時間(例えば、30分〜24時間)程度である。さらに、反応は、空気中又は不活性ガス(窒素、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気下、攪拌しながら行うことができる。
なお、反応は、反応系を撹拌しながら行ってもよく、セルロースに機械的剪断力を作用させながら行い、セルロースを微細化した修飾セルロースを得てもよい。さらに、反応終了後に解繊して修飾セルロースを微細化してもよい。なお、微細化工程では、修飾セルロースをナノファイバーに微細化してもよい。
反応により生成した修飾セルロースは、慣用の方法(例えば、遠心分離、濾過、濃縮、抽出など)により分離精製してもよい。例えば、少なくとも前記フルオレン化合物を溶解可能な溶媒を反応混合物に添加し、上記遠心分離、濾過、抽出などの分離法(慣用の方法)で未反応フルオレン化合物を除去し、分離精製してもよい。なお、上記分離操作は複数回(例えば、2〜5回程度)行うことができる。さらに、分離精製した修飾セルロースを加熱下又は減圧下或いは常圧下で乾燥することにより、粉末状の形態を有する修飾セルロースを得ることができる。
なお、未反応フルオレン化合物を上記分離方法などにより繰り返し除去して精製した修飾セルロースナノファイバーを、ラマン分析などの方法により分析すると、セルロースナノファイバー(C1)に由来するピークとフルオレン化合物(C2)に由来するピークとが存在し、セルロースナノファイバー(C1)にフルオレン化合物(C2)が結合していることが確認できる。
このようにして得られた修飾セルロースナノファイバーは、未修飾のセルロースナノファイバーに比べて、有機溶媒に対する分散安定性が高い。そのため、修飾セルロースナノファイバーが有機溶媒に分散した分散液は、取り扱い性に優れ、塗膜の特性を向上できる。
(セルロースナノファイバーの特性)
セルロースナノファイバー(又は修飾セルロースナノファイバー)の平均繊維径は、例えば、2〜1000nm(例えば4〜700nm)、好ましくは5〜500nm(例えば7〜250nm)、さらに好ましくは10〜100nm(特に20〜50nm)程度であってもよい。
セルロースナノファイバー(又は修飾セルロースナノファイバー)の平均繊維長は、例えば0.01〜500μm(例えば0.05〜400μm)程度の範囲から選択でき、通常0.1〜300μm(例えば0.1〜200μm)、好ましくは0.2〜100μm(例えば0.3〜80μm)、さらに好ましくは0.5〜30μm(特に0.5〜10μm)程度であってもよい。
セルロースナノファイバー(又は修飾セルロースナノファイバー)の平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は、例えば5以上(例えば5〜10000程度)、好ましくは10以上(例えば10〜5000程度)、さらに好ましくは20以上(例えば20〜3000程度)、特に50以上(例えば50〜2000程度)であってもよく、100以上(例えば100〜1000程度)、さらには200以上(例えば200〜800程度)であってもよい。アスペクト比が小さすぎると、延伸フィルムの位相差が低下し、アスペクト比が大きすぎると、均一な分散が困難となり、繊維が分解(又は損傷)し易くなる虞がある。
なお、本発明では、セルロースナノファイバーの平均繊維径、平均繊維長及びアスペクト比は、走査型電子顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出してもよい。
セルロースナノファイバーのうち、修飾セルロースナノファイバーは、前記フルオレン化合物の修飾により疎水性が向上するためか、水分含有量が少ない。すなわち、水分含有量は、温度25℃、湿度60%の条件下、1昼夜放置したとき、0〜7重量%(例えば、0〜5重量%)、好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.3〜3重量%程度であってもよい。なお、本発明では、水分含有量は、近赤外線分析計などを用いて測定できる。
セルロースナノファイバー(又は修飾セルロースナノファイバー)の嵩密度(見掛密度)は、温度25℃、湿度60%の条件下において、JIS K7365−1999に準拠して測定したとき、例えば、0.01〜0.7g/ml、好ましくは0.05〜0.5g/ml、さらに好ましくは0.1〜0.3g/ml程度であってもよい。なお、嵩密度Pは、所定重量Wの修飾セルロースをメスシリンダーに入れて体積Vを測定し、式P=W/Vで算出できる。
セルロースナノファイバー(又は修飾セルロースナノファイバー)は、流動性が高く、安息角が、温度25℃、湿度60%の条件下において、JIS R9301−2−2に準拠して測定したとき、例えば20〜45°、好ましくは25〜40°、さらに好ましくは30〜35°程度であってもよい。流動性が大きすぎると、取り扱い性が低下し、逆に小さすぎると、分散性が低下する虞がある。
セルロースナノファイバー(又は修飾セルロースナノファイバー)は、粘稠な液体を形成することなく、ナノファイバーの形態を維持している。そのため、比較的分子量(又は重合度)が大きく、粘度平均重合度は、例えば、100〜10000、好ましくは200〜5000、より好ましくは300〜2000程度であってもよい。
粘度平均重合度は、TAPPI T230に記載の粘度法により測定できる。すなわち、セルロースナノファイバー(又は修飾セルロースナノファイバー)0.04gを精秤し、水10mLと1M銅エチレンジアミン水溶液10mLとを加え、5分間程攪拌してセルロースナノファイバーを溶解する。得られた溶液をウベローデ型粘度管に入れ、25℃下で流下速度を測定する。水10mLと1M銅エチレンジアミン水溶液10mLとの混合液をブランクとして測定する。これらの測定値に基づいて算出した固有粘度[η]を用い、木質科学実験マニュアルに記載の下記式に従って粘度平均重合度を算出できる。
粘度平均重合度=175×[η]
また、修飾セルロースの特性(例えば、低線膨張特性、強度、耐熱性など)を樹脂に有効に発現させるためには、結晶性の高い修飾セルロースが好ましい。前記のように、本発明の修飾セルロースはセルロースの結晶性を維持できるため、修飾セルロースの結晶化度は前記セルロースの数値をそのまま参照できる。例えば、修飾セルロースの結晶化度は、40〜95%(例えば、50〜85%)、好ましくは60〜95%(例えば、65〜85%)、さらに好ましくは70〜90%(例えば、75〜90%)程度であってもよく、通常、結晶化度が60%以上(例えば、75〜90%程度)であってもよい。結晶化度が小さすぎると、線膨張特性や強度などの特性を低下させる虞がある。なお、結晶化度は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
セルロースナノファイバー(又は修飾セルロースナノファイバー)は、位相差が大きく、且つ逆波長分散性を維持できる点から、結晶性は高い程好ましく、例えば、結晶化度が40〜100%(例えば50〜85%)、好ましくは60〜95%(例えば65〜85%)、さらに好ましくは70〜90%(特に75〜90%)程度であってもよく、通常、結晶化度が60%以上(例えば75〜95%程度)であってもよい。セルロースの結晶構造としては、例えば、I型、II型、III型、IV型などが例示でき、低線膨張特性及び弾性率などが高いI型結晶構造が好ましい。
セルロースナノファイバー(又は修飾セルロースナノファイバー)(C)の割合は、セルロース誘導体(A)及びフルオレン化合物(B)の合計100重量部に対して、例えば0.01〜10重量部(例えば0.05〜5重量部)、好ましくは0.1〜2重量部(例えば0.2〜1.5重量部)、さらに好ましくは0.3〜1重量部(特に0.4〜0.6重量部)程度である。セルロースナノファイバー(C)の割合が少なすぎると、延伸フィルムの位相差が低下し、多すぎると、フィルムの延伸性が低下する。
(他の添加剤)
組成物には、種々の添加剤、例えば、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、帯電防止剤、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、耐衝撃改良剤、流動性改良剤、補強材(充填剤など)、核剤、着色剤、滑剤、可塑剤、離型剤、色相改良剤、分散剤、抗菌剤、防腐剤などを含有していてもよい。これらの添加剤の割合は、セルロース誘導体(A)及びフルオレン化合物(B)の合計100重量部に対して、例えば0.01〜30重量部、好ましくは0.1〜20重量部、さらに好ましくは1〜10重量部程度である。
[延伸フィルムの製造方法]
セルロース誘導体(A)、フルオレン骨格を有するフルオレン化合物(B)及び平均繊維径1μm以下のセルロースナノファイバー(C)を含む組成物をフィルム状に成形するフィルム成形工程、得られたフィルムを延伸する延伸工程を含む製造方法により得られる。
(フィルム成形工程)
フィルム成形工程において、組成物をフィルム状に成形する方法としては、例えば、組成物を溶融混練して成形する溶融混練法、セルロース誘導体を溶解又は膨潤可能な溶媒を用いるキャスト法などが挙げられる。これらの方法のうち、生産性などの点から、キャスト法が好ましい。
キャスト法では、セルロース誘導体(A)を溶解又は膨潤可能な溶媒で組成物を溶解し、ドープをキャストしてフィルム状に成形してもよい。
溶媒としては、セルロース誘導体の種類に応じて適宜選択でき、例えば、環状エーテル類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素などを使用できる。環状エーテル類[例えば、環状モノエーテル類(フラン、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロフルフリルアルコール、ピラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピランなど)、環状ジエーテル(1,2−ジオキソラン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサンなど)、環状トリエーテル類(トリオキサンなど)など]、ケトン類(例えば、アセトンやメチルエチルケトンなどの脂肪族ケトンなど)、ハロゲン化炭化水素[例えば、ジクロロメタン、トリクロロメタン(クロロホルム)、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタンなどのハロアルカン、クロロベンゼンなど]などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらのうち、THFなどの環状モノエーテル、1,4−ジオキサンなどの環状ジエーテール、アセトンなどの脂肪族ケトン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素、環状ジエーテルとハロゲン化炭化水素との混合溶媒などが好ましい。特に、セルロース誘導体がセルロースジアセテートである場合、THFなどの環状モノエーテルや、アセトンなどの脂肪族ケトンであってもよい。なお、溶媒を含む組成物(溶液)において、各成分(非溶媒成分)の濃度は、例えば、1〜50重量%、好ましくは3〜40重量%、さらに好ましくは5〜30重量%(特に10〜20重量%)程度であってもよい。
(延伸工程)
延伸工程では、延伸処理により、複屈折(レタデーション値)の調整又は制御が可能となる。延伸処理は、加熱下で行ってもよい(熱延伸であってもよい)。熱延伸において、加熱温度(延伸温度)は、例えば、フィルムを構成する樹脂組成物又はセルロース誘導体のガラス転移温度以上の温度であって、融点未満の温度から選択してもよい。具体的な延伸温度は、セルロース誘導体の種類などに応じて選択でき、例えば、セルロース誘導体をセルロースアセテート(特にセルロースジアセテート)で構成する場合、延伸温度は、100〜220℃、好ましくは130〜210℃、さらに好ましくは150〜190℃程度であってもよい。
延伸速度は、例えば、10〜200%/分、好ましくは30〜180%/分、さらに好ましくは50〜150%/分(特に80〜120%/分)程度であってもよい。また、延伸速度は、例えば、10〜100mm/分、好ましくは20〜80mm/分、さらに好ましくは30〜50mm/分(特に35〜45mm/分)程度であってもよい。
延伸方法は、特に制限されず、自由端延伸法、固定端延伸法、テンター法などが利用でき、自由端延伸法が好適に利用される。さらに、二軸延伸であってもよいが、位相差を向上し易い点から、一軸延伸が好ましい。一軸延伸の場合、縦延伸又は横延伸のいずれであってもよい。
延伸倍率(又は配向度)は、フィルムに付与する複屈折の程度に応じて適宜選択できるが、例えば、1.5倍以上であってもよく、例えば1.6〜10倍(例えば1.7〜8倍)、好ましくは1.8〜5倍(例えば2〜4倍)、さらに好ましくは2〜3.5倍(特に2.2〜3倍)であってもよい。
本発明の延伸フィルムの厚み(平均厚み)は、例えば、1〜200μm、好ましくは5〜150μm、さらに好ましくは10〜120μm(例えば、20〜100μm)程度であってもよい。
本発明の延伸フィルムは、逆波長分散性を示し、波長570nmにおけるレタデーション値(R570)に対する波長400nmにおけるレタデーション値(R400)の比(R400/R570)は1未満であり、例えば、0.80〜0.99、好ましくは0.82〜0.98、さらに好ましくは0.83〜0.95(特に0.84〜0.90)程度である。
本発明の延伸フィルムは、逆波長分散性を示すにも拘わらず、位相差も高く、波長570nmにおけるレタデーション値(R570)は10nm以上であり、例えば10〜300nm、好ましくは30〜250nm、さらに好ましくは50〜200nm(特に80〜150nm)程度である。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、用いた原料の詳細は以下の通りであり、得られた修飾セルロースナノファイバー及び延伸フィルムの特性及び評価は以下のようにして測定した。
(用いた原料)
結晶性セルロース:旭化成ケミカルズ(株)製「セオラスST−100」
ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF):9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製「BPEF」
ジアセチルセルロース(DAC):(株)ダイセル製「LT−50」。
(修飾セルロースナノファイバーフルオレン修飾率)
セルロースナノファイバーに対するフルオレン化合物の修飾率の定量はFT−Raman分析により行った。酢酸セルロース((株)ダイセル製)と既定量のフルオレン化合物とをテトラヒドロフラン(THF)に溶解して成膜し、ラマン顕微鏡((株)堀場ジョバン・イボン製「XploRA」)を使用してラマン分析を行った。芳香族環(1604cm−1)とセルロースの環内CH(1375cm−1)との吸収バンドの強度比(I1604/I1375)と、フルオレン化合物の濃度に基づき、検量線を作成した。すべてのサンプルは3回測定し、その結果を平均した。なお、フルオレン化合物として、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン(BPFG)を用いた。
(セルロース繊維の形状観察)
修飾セルロースの形状はFE−SEM(日本電子(株)製「JSM−6700F」、測定条件:20mA、60秒)を用いて観察した。なお、平均繊維径は、SEM写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出した。
(結晶化度)
得られた修飾セルロースナノファイバーの結晶化度は、参考文献:Textile Res. J. 29:786-794(1959)に基づき、XRD分析法(Segal法)により測定し、下記式により算出した。
結晶化度(%)=[(I200-IAM)/I200]×100%
[式中、I200はX線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、IAMはアモルファス部(002面と110面間の最低部、回折角2θ=18.5°)の回折強度である]。
(位相差、波長分散性の評価)
得られた延伸フィルムのレタデーション(位相差)については、高速レタデーション測定装置(大塚電子(株)製「RE−100」)にて測定を行った。また、波長分散性を評価する上で、400nm、570nmのレタデーション値を測定した(各波長でのレタデーション値をR400、R570とする)。尚、レタデーション値については、50μm厚みに換算した値とした。
(修飾セルロースナノファイバーの製造例)
結晶性セルロース15g、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)70g、非プロトン性極性溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)30gおよび23重量%の硫酸0.25gをアルゴン雰囲気下、180℃で30分間にて反応し修飾セルロースナノファイバー分散液を得た。
得られた分散液から遠心分離により分散媒(最初は水)を除去後、アセトンに置換する操作を3回繰り返し、修飾セルロースナノファイバーのアセトン分散液(固形分3重量%)を調製した。尚、得られたアセトン分散液は分散安定性が高く、一晩静置した後も分散状態を維持していた。修飾セルロースナノファイバー分散液中に含まれる修飾セルロースナノファイバーの平均繊維径は50nm、平均繊維長は1μmであった。
(実施例1)
アセトン56.7g中に、ジアセチルセルロース(DAC)8g、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)2gを溶解し、固形分量が15重量%のDAC/BPEF溶液を調製した。その後、このDAC/BPEF溶液に、製造例で調製した修飾セルロースナノファイバー分散液0.33gを加え、ホモジナイザーにて60分間処理を行い、得られた混合液を溶液キャストすることで、厚み100μmの修飾セルロースナノファイバーコンポジットフィルムを調製した(以下「BPEF20−CNC0.1」と称する)。そして、このフィルムを20mm×60mmの短冊状にカットし、チャック間距離を40mm、延伸温度を180℃、延伸速度を40mm/分(100%/分)の条件で、自由端一軸延伸を実施することで、延伸倍率が2.1倍、2.5倍の延伸フィルムを調製した。得られたフィルムのレタデーションを測定した結果を表1に示す。
(実施例2)
修飾セルロースナノファイバー分散液の添加量を1gとした以外は実施例1と同様の方法により、厚み100μmの修飾セルロースナノファイバーコンポジットフィルム(以下「BPEF20−CNC0.3」と称する)及び延伸倍率2.0倍、2.5倍の延伸フィルムを調製した。得られたフィルムのレタデーションを測定した結果を表2に示す。
(実施例3)
修飾セルロースナノファイバー分散液の添加量を1.67gとした以外は、実施例1と同様の方法により、厚み100μmの修飾セルロースナノファイバーコンポジットフィルム(以下「BPEF20−CNC0.5」と称する)及び延伸倍率が2.0倍、2.9倍の延伸フィルムを調製した。得られたフィルムのレタデーションを測定した結果を表3に示す。
(実施例4)
DACを9g、BPEFを1gとした以外は、実施例1と同様の方法により、厚み100μmの修飾セルロースナノファイバーコンポジットフィルム(以下「BPEF10−CNC0.1」と称する)及び延伸倍率が2.0倍、2.6倍の延伸フィルムを調製した。得られたフィルムのレタデーションを測定した結果を表4に示す。
(実施例5)
修飾セルロースナノファイバー分散液の添加量を1gとした以外は、実施例4と同様の方法により、厚み100μmの修飾セルロースナノファイバーコンポジットフィルム(以下「BPEF10−CNC0.3」と称する)及び延伸倍率が2.0倍、2.7倍の延伸フィルムを調製した。得られたフィルムのレタデーションを測定した結果を表5に示す。
(実施例6)
修飾セルロースナノファイバー分散液の添加量を1.67gとした以外は、実施例4と同様の方法により、厚み100μmの修飾セルロースナノファイバーコンポジットフィルム(以下「BPEF10−CNC0.5」と称する)及び延伸倍率が2.0倍、2.7倍の延伸フィルムを調製した。得られたフィルムのレタデーションを測定した結果を表6に示す。
なお、実施例1〜6で得られた延伸フィルムは、いずれも添加剤の凝集物などは観察されず、透明性の高いフィルムであった。
(比較例1)
修飾セルロースナノファイバー分散液を添加しないこと以外は、実施例1と同様の方法により、厚み100μmのフィルム(以下「BPEF20」と称する)及び延伸倍率が2.1倍、2.6倍の延伸フィルムを調製した。得られたフィルムのレタデーションを測定した結果を表7に示す。
また、実施例1〜3と比較例1の結果から、延伸倍率と位相差との相関関係を図1に示し、延伸倍率と逆波長分散性(R400/R570)の相関関係を図2を示す。図1及び2の結果より、修飾セルロースナノファイバーをDACとBPEFからなるフィルム中へ分散することで、逆波長分散特性を維持したまま、位相差を高められることが分かる。
(比較例2)
修飾セルロースナノファイバー分散液を添加しないこと以外は、実施例4と同様の方法により、厚み100μmの修飾セルロースナノファイバーコンポジットフィルム(以下「BPEF10」と称する)及び延伸倍率が1.9倍、2.9倍の延伸フィルムを調製した。得られたフィルムのレタデーションを測定した結果を表8に示す。
また、実施例4〜6と比較例2の結果から、延伸倍率と位相差との相関関係を図3に示し、延伸倍率と逆波長分散性(R400/R570)との相関関係を図4に示す。図3及び4の結果より、修飾セルロースナノファイバーをDACとBPEFからなるフィルム中へ分散することで、逆波長分散特性を維持したまま、位相差を高められることが分かる。